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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】逆入力遮断クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
F16D41/08 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023537292
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2022047440
(87)【国際公開番号】W WO2023195203
(87)【国際公開日】2023-10-12
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022062585
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】土肥 永生
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/054763(WO,A1)
【文献】特許第6658965(JP,B2)
【文献】特開平7-167133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/08-41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被押圧面を有するハウジングと、
前記被押圧面よりも径方向内方に設けられる入力軸と、
前記被押圧面よりも前記径方向内方に設けられる出力軸と、
前記径方向において相対的に移動可能な一対の係合子であり、前記入力軸に面する第一係合部、前記出力軸に面する第二係合部、及び前記被押圧面に面する摺接部を各々が有する、前記一対の係合子と、
を備え、
前記入力軸に回転力が入力されると、前記一対の係合子は、前記入力軸と前記第一係合部との係合に基づいて、前記径方向内方に向かって互いに近づくように移動し、かつ前記第二係合部と前記出力軸との係合に基づいて、前記回転力を前記出力軸に伝達し、
前記出力軸に回転力が逆入力されると、前記一対の係合子は、前記出力軸と前記第二係合部との係合に基づいて、前記径方向外方に向かって互いに離間するように移動し、前記被押圧面と前記摺接部とが摩擦係合し、
前記入力軸、前記出力軸、及び前記ハウジングの少なくとも1つは、前記入力軸と前記ハウジングとの間の第一ベアリング機構及び前記出力軸と前記ハウジングとの間の第二ベアリング機構の少なくとも一方の転動体に接する軌道面を有し、
前記ハウジングは、
前記入力軸を回転可能に保持する第一ハウジングと、
前記出力軸を回転可能に保持する第二ハウジングと、
を有し、
前記第一ハウジングの内周面がインロー嵌合面とされ、
前記第二ハウジングの外周面が、前記第一ハウジングの内周面とインロー接合されるインロー嵌合面とされ、
記第二ハウジングは、内周面に前記被押圧面を有し、
前記第一ハウジングの前記インロー嵌合面は、軸方向において前記係合子の少なくとも一部と重なっている、
逆入力遮断クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆入力遮断クラッチに関する。
本願は、2022年4月4日に出願された日本国特願2022-62585号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源などの入力機構に接続される入力軸と、減速機などの出力機構に接続される出力軸と、を備え、入力軸から出力軸への回転力の伝達を許可するとともに出力軸から入力軸への回転力の伝達を遮断する逆入力遮断クラッチの構成が知られている。これらの逆入力遮断クラッチでは、逆入力遮断クラッチの性能を向上するための技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、出力軸の回転を防止することで出力軸からの逆入力を遮断するロック式の逆入力遮断クラッチの構成が開示されている。逆入力遮断クラッチは、互いに同軸に設けられた入力軸及び出力軸と、被押圧面を有する被押圧部材と、径方向に移動可能な一対の係合子と、を有する。特許文献1に記載の技術によれば、出力軸に回転力が逆入力されると、係合子と出力軸との係合に基づき係合子が被押圧面に近づく方向に移動して被押圧面と摩擦係合することにより、出力軸に逆入力された回転力を遮断できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第6658965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術にあっては、例えば入力軸と出力軸と被押圧部材とのそれぞれの同軸度が悪い場合、入力軸と係合子との間、或いは係合子と被押圧面との間の隙間が異なり、片当たりの発生等により性能が低下するおそれがある。
【0006】
例えば入力軸と被押圧部材との同軸度が悪い場合、それぞれの係合子と入力軸との間の隙間の大きさが異なる。このため、入力軸に回転力が入力された際、一方の係合子のみが先に入力軸と接触し、他方の係合子が入力軸と接触するまで一方の係合子にトルクが集中する。その結果、摩耗及び振動の発生や異物混入等により性能が低下するおそれがある。
また例えば出力軸と被押圧部材との同軸度が悪い場合、それぞれの係合子と被押圧部材との間の隙間の大きさが異なる。このため、出力軸に回転力が逆入力された際、一方の係合子のみが先に被押圧部材と接触し、他方の係合子が出力軸と接触するまでは押圧力が弱くなるためにロック機能が十分に作用しなくなる。その結果、ロックされるまでのタイムロスが生じるおそれがある。さらに、一方の係合子のみが出力軸に接触し、出力軸に曲げが発生することにより性能が低下するおそれがある。
【0007】
したがって、特許文献1に記載の従来技術にあっては、逆入力遮断クラッチの性能を向上する点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、同軸度を向上し、性能を安定させることができる逆入力遮断クラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係る逆入力遮断クラッチは、被押圧面を有するハウジングと、前記被押圧面よりも径方向内方に設けられる入力軸と、前記被押圧面よりも前記径方向内方に設けられる出力軸と、前記径方向において相対的に移動可能な一対の係合子であり、前記入力軸に面する第1係合部、前記出力軸に面する第2係合部、及び前記被押圧面に面する摺接部を各々が有する、前記一対の係合子と、を備え、前記入力軸に回転力が入力されると、前記一対の係合子は、前記入力軸と前記第1係合部との係合に基づいて、前記径方向内方に向かって互いに近づくように移動し、かつ前記第2係合部と前記出力軸との係合に基づいて、前記回転力を前記出力軸に伝達し、前記出力軸に回転力が逆入力されると、前記一対の係合子は、前記出力軸と前記第2係合部との係合に基づいて、前記径方向外方に向かって互いに離間するように移動し、前記被押圧面と前記摺接部とが摩擦係合し、前記入力軸、前記出力軸、及び前記ハウジングの少なくとも1つは、前記入力軸と前記ハウジングとの間の第一ベアリング機構及び前記出力軸と前記ハウジングとの間の第二ベアリング機構の少なくとも一方の転動体に接する軌道面を有し、前記ハウジングは、前記入力軸を回転可能に保持する第一ハウジングと、前記出力軸を回転可能に保持する第二ハウジングと、を有し、前記第一ハウジングの内周面がインロー嵌合面とされ、前記第二ハウジングの外周面が、前記第一ハウジングの内周面とインロー接合されるインロー嵌合面とされ、前記第二ハウジングは、内周面に前記被押圧面を有し、前記第二ハウジングの内周面に前記被押圧面が設けられ、前記第一ハウジングの前記インロー嵌合面は、軸方向において前記係合子の少なくとも一部と重なっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の逆入力遮断クラッチによれば、同軸度を向上し、性能を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
図2図1のII-II線に沿う断面図。
図3】第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチの分解斜視図。
図4】第2実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
図5】第3実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
図6】第4実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
図7】第5実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
図8】第6実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
図9】第7実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
図10】第8実施形態に係る逆入力遮断クラッチの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明において、軸方向、径方向、および周方向とは、特に断らない限り、逆入力遮断クラッチ1の中心軸線Cの軸方向、径方向、および周方向をいう。
【0013】
(第1実施形態)
(逆入力遮断クラッチ)
図1は、第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチ1の断面図である。図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。図3は、第1実施形態に係る逆入力遮断クラッチ1の分解斜視図である。
図1から図3に示すように、逆入力遮断クラッチ1は、入力軸2と、出力軸3と、ハウジング4と、1対の係合子5と、複数のベアリング機構7,8と、を備える。逆入力遮断クラッチ1は、入力軸2に入力される回転力を出力軸3に伝達する。一方、逆入力遮断クラッチ1は、出力軸3に逆入力される回転力を遮断して入力軸2に伝達しない、またはその一部のみを入力軸2に伝達して残部を遮断する逆入力遮断機能を有する。
【0014】
(入力軸)
入力軸2は、不図示の電動モータなどの入力機構に接続される。入力軸2には、入力機構からの回転力が入力される。図1及び図3に示すように、本実施形態において、入力軸2は、入力軸本体21と、台座部22と、一対の腕部23と、を有する。入力軸本体21は、軸方向の入力機構側に設けられている。入力軸本体21は、中心軸線Cを中心とする円柱状(又は円筒状)に形成されている。以下の説明において、入力軸2のうち入力機構と接続される側を軸方向の第一側といい、その反対を軸方向の第二側という場合がある。
【0015】
台座部22は、入力軸本体21の軸方向の第二側の端部に設けられている。台座部22は、入力軸本体21と一体形成されている。台座部22は、入力軸本体21よりも大きな外径を有する円盤状に形成されている。
【0016】
腕部23は、軸方向において台座部22から入力軸本体21と反対側(つまり軸方向の第二側)に向かって延びている。腕部23は、台座部22と一体形成されている。図3に示すように、腕部23は、台座部22の径方向の両端に一対設けられている。よって腕部23は、入力軸本体21よりも径方向の外側にオフセットした位置に設けられている。図2に示すように、腕部23は、軸方向から見て、一辺が湾曲した台形状に形成されている。具体的に腕部23は、径方向の内側に面する平面部25と、径方向の外側に面する曲面部26と、平面部25及び曲面部26の端部同士を接続する2つの側面部27,27と、を有する。曲面部26は、中心軸線Cを中心とする円弧状に形成されている。
【0017】
腕部23は、後述する係合子5の数に応じて複数設けられる。本実施形態では、一対の係合子5が設けられることに応じて、一対の腕部23が設けられている。なお、腕部23の数は2個に限られず、係合子5の数に応じて、腕部23の数を1個とする、あるいは、3個以上としてもよい。
【0018】
(出力軸)
出力軸3は、不図示の減速機などの出力機構に接続され、回転力(回転トルク)を出力する。出力軸3は、入力軸2と同軸上に配置されている。図1及び図3に示すように、出力軸3は、出力軸本体31と、挿入部32と、を有する。出力軸本体31は、軸方向の出力機構側(軸方向の第二側)に設けられている。出力軸本体31は、中心軸線Cを中心とする円柱状(又は円筒状)に形成されている。
【0019】
挿入部32は、出力軸本体31の軸方向の第一側の端部から軸方向の第一側に向かって延びている。挿入部32は、出力軸本体31と一体形成されている。図1及び図2に示すように、挿入部32は、後述する一対の係合子5間に挿入される部分であり、入力軸2の一対の腕部23よりも径方向内側に配置されている。挿入部32は、出力軸本体31よりも外形が小さい扁平形状に形成されている。図2に示すように、挿入部32の外周面は、円弧状に形成された円弧面35と、短軸方向(図2の上下方向)の両側の側面36と、長軸方向(図2の左右方向)の両側のガイド面37と、を有する。
【0020】
円弧面35は、中心軸線Cを中心とする円弧状に形成されている。それぞれの側面36は、円弧面35の端部に接続され、挿入部32の短軸方向に対して直交する平坦面により構成されている。各側面36は、一対の係合子5にそれぞれ面している。ガイド面37は、側面36の両側に配置されており、両側の側面36の間でガイド面37が短軸方向に連続してそれぞれ1つの凸曲面となるように構成されている。具体的に、ガイド面37は、中心軸線Cを中心とする円弧状に形成されている。
【0021】
挿入部32の側面36及びガイド面37は、後述する係合子5の数に応じて複数設けられる。本実施形態では、一対の係合子5が設けられることに応じて、一対の側面36及びガイド面37が設けられている。なお、側面36の数は2個に限られず、係合子5の数に応じて、側面36の数を1個とする、あるいは、3個以上としてもよい。
【0022】
(ハウジング)
ハウジング4は、図1及び図2に示すように、中空の円盤状で、図示しない他の部材に固定されて、その回転が拘束されている。ハウジング4は、入力軸2および出力軸3と同軸上に配置されている。ハウジング4は、入力軸2、出力軸3、及び一対の係合子5を収容している。本実施形態のハウジング4は、第一ハウジング41と、第二ハウジング42と、を有する。本実施形態の第一ハウジング41及び第二ハウジング42は、同じ材料により形成される。
【0023】
第一ハウジング41は、軸方向の第一側に配置されている。第一ハウジング41は、その内側に入力軸2を収容している。第一ハウジング41は、後述する第一ベアリング機構7を介して、入力軸2を中心軸線C回りに回転可能に保持している。
第二ハウジング42は、第一ハウジング41よりも軸方向の第二側に配置されている。第二ハウジング42は、その内側に出力軸3及び一対の係合子5を収容している。第二ハウジング42は、後述する第二ベアリング機構8を介して、出力軸3を中心軸線C回りに回転可能に保持している。第二ハウジング42の内周面には、中心軸線Cと同軸な被押圧面77が設けられる。被押圧面77の内側に係合子5が設けられる。
このように構成された第一ハウジング41と第二ハウジング42とは、詳しくは後述するように、インロー接合により互いに接合されている。
【0024】
具体的に、第一ハウジング41は、円筒部43と、フランジ部44と、端板部45と、を有する。円筒部43は、軸方向において入力軸2の入力軸本体21と対応する位置に設けられている。円筒部43の内周面は、入力軸2と同軸となるように形成されている。円筒部43の内周面に入力軸2が保持されている。円筒部43の内周面の一部は、後述する第一ベアリング機構7が設けられるベアリング受部47となっている。
【0025】
フランジ部44は、軸方向において入力軸2の腕部23と対応する位置に設けられている。フランジ部44は、円筒部43の軸方向の第二側の端部に接続され、円筒部43よりも軸方向の第二側に設けられている。フランジ部44の内径は、円筒部43の内径よりも大きい。フランジ部44の内周面は、入力軸2と同軸となるように形成されている。
フランジ部44は、軸方向の第二側の内周面に第一インロー嵌合面48を有する。第一インロー嵌合面48は、中心軸線Cを中心とする円筒面により構成されている。第一インロー嵌合面48は、後述する第二ハウジング42に設けられた第二インロー嵌合面78に対して、がたつきなく嵌合することが可能な内径寸法を有する。がたつきなく嵌合するとは、例えば製造時の寸法公差を許容する程度の隙間を有して互いに嵌合される場合を含む。第一インロー嵌合面48及び円筒部43のベアリング受部47は、同軸となるように形成されている。
【0026】
端板部45は、軸方向において円筒部43とフランジ部44との間に設けられている。端板部45は、中心軸線Cと直交する面に沿う円板状に形成されている。換言すれば、端板部45は、径方向に沿って延びることにより、径の異なる円筒部43とフランジ部44とを径方向に接続している。
【0027】
第二ハウジング42は、円筒状の小径筒部71と、円筒状の大径筒部72と、を有する。小径筒部71は、軸方向において出力軸3の出力軸本体31と対応する位置に設けられている。小径筒部71の内周面は、出力軸3と同軸となるように形成されている。小径筒部71の内周面に出力軸3が保持されている。小径筒部71の内周面の一部は、後述する第二ベアリング機構8が設けられるベアリング受部74となっている。また、図3に示すように、小径筒部71の軸方向の第二側の端面には、周方向に複数(本実施形態では8個)の締結穴75が形成されている。締結穴75は、深さ方向が軸方向と一致するように形成されている。締結穴75に挿入されるボルトにより、第二ハウジング42が他の部品に固定(接続)される。
【0028】
大径筒部72は、軸方向において出力軸3の挿入部32と対応する位置に設けられている。大径筒部72は、小径筒部71の軸方向の第一側の端部に接続され、小径筒部71よりも軸方向の第一側に設けられている。大径筒部72の内径は、小径筒部71の内径よりも大きい。大径筒部72の内周面は、出力軸3と同軸となるように形成されている。大径筒部72の内側には、出力軸3及び一対の係合子5が収容される。
【0029】
大径筒部72は、内周面に被押圧面77を有する。被押圧面77は、中心軸線Cを中心とする円筒面により構成されている。入力軸2及び出力軸3は、被押圧面77よりも径方向の内側に設けられている。大径筒部72は、軸方向の第一側の外周面に、第二インロー嵌合面78を有する。第二インロー嵌合面78は、中心軸線Cを中心とする円筒面により構成されている。第二インロー嵌合面78、被押圧面77、及び小径筒部71のベアリング受部74は、同軸となるように形成されている。
【0030】
上述の構成により、ハウジング4は、第一ハウジング41の第一インロー嵌合面48を、第二ハウジング42の第二インロー嵌合面78にがたつきなく嵌合させることによって組み立てられる。第一ハウジング41と第二ハウジング42が組み付けられた状態で、第二ハウジング42の大径筒部72の軸方向の第一側の端面は、第一ハウジング41の端板部45に当接している。
【0031】
また、第一ハウジング41の第一インロー嵌合面48とベアリング受部47とが互いに同軸に配置され、かつ、第二ハウジング42の第二インロー嵌合面78とベアリング受部74とが互いに同軸に配置されている。このため、第一インロー嵌合面48と第二インロー嵌合面78とをがたつきなく嵌合させたハウジング4の組立状態で、第一ハウジング41のベアリング受部47と第二ハウジング42のベアリング受部74とは、互いに同軸に配置される。
【0032】
(係合子)
図2及び図3に示すように、一対の係合子5は、半円形状に構成されており、ハウジング4の径方向内側に配置されている。一対の係合子5は、径方向において互いに近接離間するように移動可能に構成されている。一対の係合子5のそれぞれは、摺接面51(請求項の摺接部)と、底面52と、入力側係合部(請求項の第一係合部)53と、出力側係合部(請求項の第二係合部)54と、を有する。
【0033】
摺接面51は、被押圧面77に対して押し付けられる径方向外側の面であり、円弧状の凸面となっている。なお、摺接面51は、円弧状の凸面の一部に設けられてもよい。摺接面51は、逆入力遮断クラッチ1のロック状態(出力軸3からの逆入力が遮断された状態)において、被押圧面77に摺接する。なお、係合子5に関して径方向とは、図2の矢印Aで示した底面52に対して直角な方向をいい、図2に矢印Bで示した底面52に対して平行な方向を、係合子5に関して幅方向という場合がある。摺接面51の曲率半径は、被押圧面77の曲率半径以下となっている。摺接面51は、1個の係合子5に対して2個(2箇所)設けられ、楔効果により係合子5と被押圧面77間の摩擦係合力が大きくなるように形成されている。2個の摺接面51は、互いに係合子5の周方向に離間した位置に設けられている。なお、摺接面51は、係合子5の表面によって直接構成してもよいし、係合子5のその他の部分に比べて摩擦係数の大きい表面性状を有するように形成してもよい。例えば摺接面51は、係合子5に貼着や接着などにより固定した摩擦材によって構成してもよい。一対の係合子5の各摺接面51は、ハウジング4の径方向外側を向いている。
【0034】
底面52は、摺接面51より径方向の内側に設けられている。底面52は、詳しくは後述する係合子5の出力側係合部54とともに、半円形状の係合子5の直線部分を形成している。底面52は、出力側係合部54が形成された部分以外において平坦面状に形成された部分である。一対の係合子5の底面52は、径方向において互いに対向している。一対の底面52同士は、係合子5のロック解除状態(入力軸2から出力軸3への回転力の伝達が許容された状態)において隙間を介して対向するように形成されている。
一対の係合子5をハウジング4の径方向内側に配置した状態で、被押圧面77と摺接面51との間、および、一対の底面52同士の間の少なくとも一方に隙間が存在するように、被押圧面77の内径寸法と係合子5の径方向寸法が設定されている。本実施形態において、底面52の径方向(矢印A方向)に沿う高さは、出力軸3の挿入部32における短軸寸法の1/2よりも少しだけ小さくなっている。
【0035】
入力側係合部53は、係合子5の径方向中間部を軸方向に貫通する孔である。入力側係合部53は、幅方向に長い半円形状の長孔である。入力側係合部53には、入力軸2の腕部23が係合する。入力側係合部53は、入力軸2の腕部23を緩く挿入できる大きさを有している。具体的に、入力側係合部53の内側に入力軸2の腕部23を挿入した状態で、腕部23と入力側係合部53の内面との間には、係合子5の幅方向及び径方向にそれぞれ隙間が存在する。よって、腕部23は、入力側係合部53(係合子5)に対し、入力軸2の回転方向への変位が可能であり、入力側係合部53は、腕部23に対し、係合子5の径方向への変位が可能である。
【0036】
出力側係合部54は、半円形状に形成された係合子5の直線部分のうち、幅方向中央部から幅方向の中間部までに至る部分である。出力側係合部54は、入力側係合部53よりも径方向の内側に設けられている。出力側係合部54は、係合子5の幅方向Bにおいて底面52よりも内側に設けられている。出力側係合部54には、出力軸3の挿入部32が係合する。出力側係合部54は、その内側に出力軸3の挿入部32の短軸方向の両端部をがたつきなく配置できる大きさ及び形状となっている。具体的に、出力側係合部54は、矢印B方向に沿う開口幅が、出力軸3の挿入部32の長軸方向の寸法よりも大きくなっている。出力側係合部54の矢印B方向に沿う開口幅は、出力軸3の挿入部32の長軸方向の寸法と同等となるように形成されてもよい。
【0037】
逆入力遮断クラッチ1が組み立てられた状態において、入力軸2の腕部23は、一対の係合子5のそれぞれの入力側係合部53に軸方向に挿入され、かつ、出力軸3の挿入部32は、一対の係合子5の出力側係合部54同士の間に軸方向に挿入される。すなわち、一対の係合子5は、それぞれの出力側係合部54により、出力部材の挿入部32を径方向外側から挟むように配置される。
【0038】
なお、図3に示すように、一対の係合子5の間には、板金性の弾性部材11が設けられてもよい。弾性部材11は、係合子5と出力軸3との間に弾性的に挟持されて配置されている。弾性部材11は、係合子5を径方向の外側、すなわち被押圧面77側へ向かって常に付勢している。また、係合子5の軸方向の両側に、端板13を設けてもよい。これらの端板13は、例えば軸方向における各部材の位置決めを行うための部品や、係合子5と出力軸3及び入力軸2との接触を防止して摩耗を抑制するための部品等として機能する。加えて、各部品の軸方向の位置決めを行うためのCリング12等を別途設けてもよい。
【0039】
図1に示すように、第一ハウジング41、第二ハウジング42及び係合子5が組み付けられた状態で、第一ハウジング41の第一インロー嵌合面48は、軸方向において係合子5の少なくとも一部と重なっている。具体的に、第一ハウジング41のフランジ部44における軸方向の第二側の端部は、係合子5における軸方向の第一側の端部よりも軸方向の第二側に位置している。換言すれば、第一ハウジング41の第一インロー嵌合面48は、係合子5に対して軸方向に掛かり代を有するように形成されている。本実施形態において、第一ハウジング41の第一インロー嵌合面48は、軸方向において長さWだけ係合子5と重なっている。
【0040】
(複数のベアリング機構)
図1に示すように、複数のベアリング機構は、第一ベアリング機構7と、第二ベアリング機構8と、を有する。本実施形態において、第一ベアリング機構7及び第二ベアリング機構8は、いずれも玉軸受である。
【0041】
第一ベアリング機構7は、入力軸2と第一ハウジング41との間に設けられ、第一ハウジング41に対して入力軸2を回転可能に保持する。第一ベアリング機構7は、軸回りを転動する玉(請求項の転動体)60と、外輪61と、外輪61に形成された外輪軌道溝63と、入力軸2と一体形成された内輪軌道溝67と、を有する。内輪軌道溝67は、請求項における軌道面の一例である。外輪61の外周面は、第一ハウジング41における円筒部43のベアリング受部47に隙間等により取り付けられている。外輪61の内周面には、玉60が転動するための外輪軌道溝63が形成されている。入力軸2の外周面には、玉60に接し、玉60が転動するための内輪軌道溝67が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構7は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。なお、玉60と玉60との間を保持する保持器14が設けられてもよい。なお、第一ベアリング機構7は、外輪61を変形させることなく玉60を組んで構成された玉バレ仕様となっていてもよい。
【0042】
第二ベアリング機構8は、出力軸3と第二ハウジング42との間に設けられ、第二ハウジング42に対して出力軸3を回転可能に保持する。第二ベアリング機構8は、軸回りを転動する玉(請求項の転動体)80と、外輪81と、外輪81に形成された外輪軌道溝83と、出力軸3と一体形成された内輪軌道溝87と、を有する。内輪軌道溝87は、請求項における軌道面の一例である。外輪81の外周面は、第二ハウジング42における小径筒部71のベアリング受部74に隙間等により取り付けられている。外輪81の内周面には、玉80が転動するための外輪軌道溝83が形成されている。出力軸3の外周面には、玉80が接し、玉80が転動するための内輪軌道溝87が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構8は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。なお、玉80と玉80との間を保持する保持器15が設けられてもよい。なお、第一ベアリング機構7と同様、本実施形態の第二ベアリング機構8は、外輪81を変形させることなく玉80を組んで構成された玉バレ仕様となっていてもよい。
【0043】
(逆入力遮断クラッチの動作)
次に、本実施形態の逆入力遮断クラッチ1の動作について説明する。
まず、入力軸2に入力機構から回転力が入力された場合について説明する。入力軸2に回転力が入力されると、図2に示すように、入力側係合部53の内側で、入力軸2の腕部23が中心軸線Cを中心として入力軸2の回転方向(図2に示す例では、反時計方向)に回転する。すると、腕部23における平面部25と側面部27との間の角部(図2のポイントP1参照)が入力側係合部53の内面を径方向の内側に向けて押圧し、一対の係合子5を、被押圧面77から離れる方向(すなわち径方向)にそれぞれ移動させる。つまり、一対の係合子5は、入力側係合部53を介して入力軸2からの回転力が作用することにより、径方向の内側に向かって互いに近接するように移動する。具体的に、図2の上側に位置する係合子5を下方に移動させ、図2の下側に位置する係合子5を上方に移動させる。これにより、一対の係合子5の底面52が互いに近づく方向に移動し、一対の出力側係合部54が出力軸3の挿入部32を径方向の両側から挟持する。
【0044】
これにより、出力軸3を、挿入部32の長軸方向が係合子5の底面と平行になるように回転させつつ、挿入部32と一対の出力側係合部54とをがたつきなく係合させる。よって、入力軸2に入力された回転力は、一対の係合子5を介して出力軸3に伝達され、出力軸3から出力される。
本実施形態の逆入力遮断クラッチ1は、入力軸2に回転力が入力されると、入力軸2の回転方向に関係なく、一対の係合子5を、被押圧面77から離れる方向にそれぞれ移動させる。そして、入力軸2の回転方向にかかわらず、入力軸2に入力された回転力を、一対の係合子5を介して、出力軸3に伝達する。
【0045】
次に、出力軸3に出力機構から回転力が逆入力された場合を説明する。出力軸3に回転力が逆入力されると、図2に示すように、出力軸3の挿入部32が、一対の出力側係合部54同士の内側で、出力軸3の回転方向(図2に示す例では、反時計方向)に回転する。すると、挿入部32における側面36及び側面36とガイド面37との間の角部(図2のポイントP2参照)が出力側係合部54を径方向の外側に向けて押圧し、一対の係合子5を被押圧面77に近づく方向にそれぞれ移動させる。つまり、一対の係合子5は、出力軸3と出力側係合部54との係合に基づいて、径方向の外側に向かって互いに離間するように移動する。具体的に、図2の上側に位置する係合子5を上方に移動させ、図2の下側に位置する係合子5を下方に移動させる。これにより、一対の係合子5のそれぞれの摺接面51を、ハウジング4の被押圧面77に対して押し付ける。このとき、摺接面51と被押圧面77とは、摺接面51の周方向に関する全範囲または少なくとも一部で摩擦係合する。
【0046】
この結果、出力軸3に逆入力された回転力が、不図示の他の部材に固定されたハウジング4に伝わることで完全に遮断されて入力軸2に伝達されないか、或いは、出力軸3に逆入力された回転力の一部のみが入力軸2に伝達され残部が遮断される。
【0047】
出力軸3に逆入力された回転力を完全に遮断して入力軸2に伝達されないようにするには、摺接面51が被押圧面77に対して摺動(相対回転)しないように、一対の係合子5を挿入部32とハウジング4との間で突っ張らせ、出力軸3をロックする。これに対し、出力軸3に逆入力された回転力のうちの一部のみが入力軸2に伝達され残部が遮断されるようにするには、摺接面51が被押圧面77に対して摺動するように、一対の係合子5を挿入部32とハウジング4との間で突っ張らせ、出力軸3を半ロックする。出力軸3が半ロックした状態でさらに出力軸3に回転力が逆入力されると、一対の係合子5が、出力軸3の挿入部32と出力側係合部54との係合に基づいて、摺接面51を被押圧面77に対して摺動させつつ、中心軸線Cを中心として回転する。一対の係合子5が回転すると、入力側係合部53の内面が入力軸2の腕部23の径方向内側の面を周方向(回転方向)に押圧して、入力軸2に回転力の一部が伝達される。
【0048】
本実施形態の逆入力遮断クラッチ1は、上述の動作が可能となるように、各構成部材間の隙間の大きさが調整されている。
例えば、出力軸3に回転力が逆入力されることによって係合子5の摺接面51が被押圧面77に接触した状態(ロック状態)において、入力軸2が中立位置に位置する。入力軸2の中立位置とは、腕部23の平面部25が入力側係合部53と平行となる位置である。換言すれば、腕部23の平面部25と入力側係合部53の内面との間に、出力軸3の挿入部32の角部(P2)が出力側係合部54を押圧することに基づいて摺接面51が被押圧面77に向けて押圧されることを許容する隙間が存在するようにしている。これにより、出力軸3に回転力が逆入力された場合に、係合子5が径方向の外側に移動するのを腕部23によって阻止されることがないようにしている。さらに、摺接面51が被押圧面77に接触した後も、摺接面51と被押圧面77との接触部に作用する面圧が、出力軸3に逆入力された回転力の大きさに応じて変化するようにすることで、出力軸3のロックまたは半ロックが適正に行われるようにしている。
【0049】
(作用、効果)
本実施形態の逆入力遮断クラッチ1によれば、ハウジング4と、入力軸2と、出力軸3と、一対の係合子5と、第一ベアリング機構7及び第二ベアリング機構8と、を有する。第一ベアリング機構7は、入力軸2と一体形成された内輪軌道溝67を有する。第二ベアリング機構8は、出力軸3と一体形成された内輪軌道溝87を有する。これにより、内輪を設ける場合と比較して、各ベアリング機構7,8における嵌め合い面が少なくなり、各ベアリング機構7,8を介して接続される部品同士の同軸度を向上できる。具体的に、本実施形態では、第一ベアリング機構7を有することにより、入力軸2とハウジング4との同軸度を向上できる。入力軸2とハウジング4との同軸度を向上することにより、一対の係合子5と入力軸2の腕部23との隙間を均等にし易くなる。これにより、一対の腕部23が係合子5に同じタイミングで押圧することが可能になり、一方の腕部23が係合子5に先に押圧すること等を抑制できる。よって、部品の摩耗や振動、異物混入等の発生を抑制し、逆入力遮断クラッチ1の性能を高めることができる。同様に、第二ベアリング機構8を有することにより、出力軸3とハウジング4との同軸度を向上できる。出力軸3とハウジング4との同軸度を向上することにより、一対の係合子5とハウジング4の被押圧面77との隙間を均等にし易くなる。よって、ロック機能の低下や出力軸3の曲げの発生を抑制し、逆入力遮断クラッチ1の性能を高めることができる。
したがって、同軸度を向上し、性能を安定させることができる逆入力遮断クラッチ1を提供できる。
【0050】
さらに、内輪として別部材を設ける必要が無いので、部品点数を削減し、焼き入れ工程をも削減できる。また、ワンチャック等の同一行程にて軌道溝の加工と入力軸2の腕部23(出力軸3の場合は挿入部32)の加工とを実施できるので、より各軸とハウジング4との同軸度を向上できる。
【0051】
ハウジング4は、第一ハウジング41と、第二ハウジング42と、を有し、第一ハウジング41と第二ハウジング42とがインロー接合される。インロー接合されることにより、第一ハウジング41と第二ハウジング42との同軸度を向上することができる。その結果、第一ハウジング41に取り付けられた入力軸2と、第二ハウジング42に取り付けられた出力軸3と、の同軸度をも向上できる。
【0052】
第一ハウジング41の内周面が第一インロー嵌合面48とされ、第二ハウジング42の外周面が第一インロー嵌合面48とインロー接合される第二インロー嵌合面78とされ、第二ハウジング42の内周面に被押圧面77が設けられる。ハウジング4(本実施形態では第二ハウジング42)の外周面をインロー嵌合面とすることにより、第二ハウジング42の開口部の径方向外側への開きを制限し、ハウジング4(第二ハウジング42)の変形を抑制できる。よって、同軸度を高い精度で保つことができる。さらに、第一ハウジング41と第二ハウジング42の2つのハウジングから成る簡素な構成により、被押圧面77の変形を抑制することができるので、変形による一対の係合子5の径方向外側への移動量の増加を抑制し、逆入力遮断クラッチ1の性能を安定させることができる。
【0053】
第一ハウジング41の第一インロー嵌合面48は、軸方向において係合子5の少なくとも一部と重なっている。軸方向において第一インロー嵌合面48に係合子5との掛かり代を設けることにより、第二ハウジング42における被押圧面77の変形抑制効果をより高めることができる。
なお、上述の実施形態では、第一インロー嵌合面48が軸方向において係合子5の一部と重なる例について説明したが、これに限られない。第一インロー嵌合面48は、軸方向において係合子5の全体と重なるように設けられてもよい。すなわち、掛かり代の長さWが係合子5の厚みより大きくてもよい。同様に、第一インロー嵌合面48が少なくとも係合子5と軸方向において重なっていればよいため、例えば掛かり代の長さWが図1に示す長さより短くてもよい。但し、掛かり代が大きいほど被押圧面77の変形抑制効果を高めることができるため、掛かり代は大きいほど好ましい。
【0054】
上述の実施形態において、例えば第二ベアリング機構8が、内輪及び外輪を有するベアリング機構とされてもよい。つまり、第一ベアリング機構7の内輪軌道溝67だけが、入力軸2と一体形成されてもよい。同様に、第二ベアリング機構8の内輪軌道溝87だけが、出力軸3と一体形成されてもよい。
また、本実施形態では、各ベアリング機構7,8が外輪61,81のみを有し、かつ内輪軌道溝67,87が入力軸2又は出力軸3に一体形成される構成としたが、これに限られない。各ベアリング機構7,8が内輪のみを有し、かつ外輪軌道溝63,83が第一ハウジング41又は第二ハウジング42に一体形成される構成としてもよい。つまり、第一ベアリング機構7及び第二ベアリング機構8の少なくとも一方が、入力軸2、出力軸3、及びハウジング4のいずれかと一体形成された内輪軌道溝67,87及び外輪軌道溝63,83の少なくとも一方を有する構成であればよい。
【0055】
次に、本発明の第2から第8実施形態について説明する。以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。なお、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。第1から第8実施形態において示す各構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0056】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。図4は、第2実施形態に係る逆入力遮断クラッチ201の断面図である。本実施形態では、第一ベアリング機構207及び第二ベアリング機構208においてさらに外輪軌道溝263,283がハウジング4と一体化されている点で上述した第1実施形態と相違している。
【0057】
第2実施形態において、第一ベアリング機構207は、軸回りを転動する玉(請求項の転動体)260と、第一ハウジング41と一体形成された外輪軌道溝263と、入力軸2と一体形成された内輪軌道溝267と、を有する。外輪軌道溝263及び内輪軌道溝267は、請求項における軌道面の一例である。第一ハウジング41の内周面には、玉260が転動するための外輪軌道溝263が形成されている。入力軸2の外周面には、玉260が転動するための内輪軌道溝267が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構207は、内輪及び外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0058】
本実施形態の第一ベアリング機構207は、外輪61を変形させることなく玉260を組んで構成された玉バレ仕様となっている。ここで、通常の玉軸受では、外輪に外力を加えて外輪を楕円状に弾性変形させ、より多くの玉を詰め込むように形成される。これに対して玉バレ仕様では、外輪を変形させることなく玉を詰め込む。これにより玉バレ仕様では、外輪を変形させる通常の玉軸受と比較して詰め込む玉の数が減少するが、外輪を変形させずに玉を詰め込むことが可能となる。本実施形態では、玉軸受の外輪が第一ハウジング41と共用となっており第一ハウジング41を変形させることができない。このため、玉バレ仕様を採用することにより、第一ハウジング41を玉軸受の外輪とした場合であっても、玉軸受を形成することが可能となる。
【0059】
第二ベアリング機構208は、軸回りを転動する玉(請求項の転動体)280と、第二ハウジング42と一体形成された外輪軌道溝283と、出力軸3と一体形成された内輪軌道溝287と、を有する。外輪軌道溝283及び内輪軌道溝287は、請求項における軌道面の一例である。第二ハウジング42の内周面には、玉280が転動するための外輪軌道溝283が形成されている。出力軸3の外周面には、玉280が転動するための内輪軌道溝287が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構208は、内輪及び外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0060】
本実施形態の第二ハウジング42は、例えば同一行程で第二インロー嵌合面78、被押圧面77、及び外輪軌道溝283を加工することにより形成される。同様に、第一ハウジング41は、例えば同一行程で第一インロー嵌合面48及び外輪軌道溝263を加工することにより形成される。これにより、第二ハウジング42、出力軸3、第一ハウジング41、入力軸2、の同軸度をより向上させることが可能となる。
【0061】
第一ベアリング機構207及び第二ベアリング機構208は玉軸受であり、かつ玉バレ仕様となっている。これにより、外輪に相当するハウジング4を変形させることなく、上述したベアリング機構を実現できる。
【0062】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図5は、第3実施形態に係る逆入力遮断クラッチ301の断面図である。本実施形態では、各ベアリング機構307,308が円錐ころ軸受である点で上述した第1実施形態と相違している。なお第3実施形態以降では、転動体同士の間の保持器の図示を省略している。
【0063】
第3実施形態において、第一ベアリング機構307は、円錐ころ軸受である。第一ベアリング機構307は、軸回りを転動する円錐台形状のころ(請求項の転動体)360と、外輪361と、外輪361に形成された外輪軌道溝363と、入力軸2と一体形成された内輪軌道溝367と、を有する。内輪軌道溝367は、請求項における軌道面の一例である。外輪361の外周面は、第一ハウジング41における円筒部43のベアリング受部47に圧入等により取り付けられている。外輪361の内周面には、ころ360が転動するための外輪軌道溝363が形成されている。入力軸2の外周面には、ころ360が転動するための内輪軌道溝367が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構307は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0064】
第二ベアリング機構308は、円錐ころ軸受である。第二ベアリング機構308は、軸回りを転動する円錐台形状のころ(請求項の転動体)380と、外輪381と、外輪381に形成された外輪軌道溝383と、出力軸3と一体形成された内輪軌道溝387と、を有する。内輪軌道溝387は、請求項における軌道面の一例である。外輪381の外周面は、第二ハウジング42における小径筒部71のベアリング受部74に圧入等により取り付けられている。外輪381の内周面には、ころ380が転動するための外輪軌道溝383が形成されている。出力軸3の外周面には、ころ380が転動するための内輪軌道溝387が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構308は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0065】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。図6は、第4実施形態に係る逆入力遮断クラッチ401の断面図である。本実施形態では、外輪軌道溝463,483が入力軸2又は出力軸3と一体化されている点で上述した第3実施形態と相違している。
【0066】
第4実施形態において、第一ベアリング機構407は、円錐ころ軸受である。第一ベアリング機構407は、軸回りを転動する円錐台形状のころ(請求項の転動体)460と、第一ハウジング41と一体形成された外輪軌道溝463と、内輪465と、内輪465に形成された内輪軌道溝467と、を有する。外輪軌道溝463は、請求項における軌道面の一例である。第一ハウジング41の内周面には、ころ460が転動するための外輪軌道溝463が形成されている。内輪465の内周面は、入力軸2の外周面に圧入等により取り付けられている。内輪465の外周面には、ころ460が転動するための内輪軌道溝467が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構407は、外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0067】
第二ベアリング機構408は、円錐ころ軸受である。第二ベアリング機構408は、軸回りを転動する円錐台形状のころ(請求項の転動体)480と、第二ハウジング42と一体形成された外輪軌道溝483と、内輪485と、内輪485に形成された内輪軌道溝487と、を有する。外輪軌道溝483は、請求項における軌道面の一例である。第二ハウジング42の内周面には、ころ480が転動するための外輪軌道溝483が形成されている。内輪485の内周面は、出力軸3の外周面に圧入等により取り付けられている。内輪485の外周面には、ころ480が転動するための内輪軌道溝487が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構408は、外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0068】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。図7は、第5実施形態に係る逆入力遮断クラッチ501の断面図である。本実施形態では、第一ベアリング機構507及び第二ベアリング機構508においてさら内輪軌道溝563,583がハウジング4と一体化されている点で上述した第4実施形態と相違している。
【0069】
第5実施形態において、第一ベアリング機構507は、円錐ころ軸受である。第一ベアリング機構507は、軸回りを転動する円錐台形状のころ(請求項の転動体)560と、第一ハウジング41と一体形成された外輪軌道溝563と、入力軸2と一体形成された内輪軌道溝567と、を有する。外輪軌道溝563及び内輪軌道溝567は、請求項における軌道面の一例である。第一ハウジング41の内周面には、ころ560が転動するための外輪軌道溝563が形成されている。入力軸2の外周面には、ころ560が転動するための内輪軌道溝567が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構507は、内輪及び外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0070】
第二ベアリング機構508は、円錐ころ軸受である。第二ベアリング機構508は、軸回りを転動する円錐台形状のころ(請求項の転動体)580と、第二ハウジング42と一体形成された外輪軌道溝583と、出力軸3と一体形成された内輪軌道溝587と、を有する。外輪軌道溝583及び内輪軌道溝587は、請求項における軌道面の一例である。第二ハウジング42の内周面には、ころ580が転動するための外輪軌道溝583が形成されている。出力軸3の外周面には、ころ580が転動するための内輪軌道溝587が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構508は、内輪及び外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0071】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。図8は、第6実施形態に係る逆入力遮断クラッチ601の断面図である。本実施形態では、各ベアリング機構607,608が円筒ころ軸受である点で上述した第1実施形態と相違している。
【0072】
第6実施形態において、第一ベアリング機構607は、円筒ころ軸受である。第一ベアリング機構607は、軸回りを転動する円筒状のころ(請求項の転動体)660と、外輪661と、外輪661に形成された外輪軌道溝663と、入力軸2と一体形成された内輪軌道溝667と、を有する。内輪軌道溝667は、請求項における軌道面の一例である。外輪661の外周面は、第一ハウジング41における円筒部43のベアリング受部47に圧入等により取り付けられている。外輪661の内周面には、ころ660が転動するための外輪軌道溝663が形成されている。入力軸2の外周面には、ころ660が転動するための内輪軌道溝667が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構607は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0073】
第二ベアリング機構608は、円筒ころ軸受である。第二ベアリング機構608は、軸回りを転動する円筒状のころ(請求項の転動体)680と、外輪681と、外輪681に形成された外輪軌道溝683と、出力軸3と一体形成された内輪軌道溝687と、を有する。内輪軌道溝687は、請求項における軌道面の一例である。外輪681の外周面は、第二ハウジング42における小径筒部71のベアリング受部74に圧入等により取り付けられている。外輪681の内周面には、ころ680が転動するための外輪軌道溝683が形成されている。出力軸3の外周面には、ころ680が転動するための内輪軌道溝687が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構608は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0074】
(第7実施形態)
本発明の第7実施形態について説明する。図9は、第7実施形態に係る逆入力遮断クラッチ701の断面図である。本実施形態では、各ベアリング機構707,708が針状ころ軸受(ニードルローラベアリング)である点で上述した第1実施形態と相違している。
【0075】
第7実施形態において、第一ベアリング機構707は、針状ころ軸受である。第一ベアリング機構707は、軸回りを転動する針状のころ(請求項の転動体)760と、外輪761と、外輪761に形成された外輪軌道溝763と、入力軸2と一体形成された内輪軌道面767と、を有する。内輪軌道面767は、請求項における軌道面の一例である。外輪761の外周面は、第一ハウジング41における円筒部43のベアリング受部47に圧入等により取り付けられている。外輪761の内周面には、ころ760が転動するための外輪軌道溝763が形成されている。入力軸2の外周面には、ころ760が転動するための内輪軌道面767が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構707は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。内輪軌道面767は、ころ760が転動する面であり、例えば入力軸2の他の外周面と面一に設けられてもよいし、コーティングや加工によりころ760が転動する部分の表面性状を変化させてもよい。
【0076】
第二ベアリング機構708は、針状ころ軸受である。第二ベアリング機構708は、軸回りを転動する針状のころ(請求項の転動体)780と、外輪781と、外輪781に形成された外輪軌道溝783と、出力軸3と一体形成された内輪軌道面787と、を有する。内輪軌道面787は、請求項における軌道面の一例である。外輪781の外周面は、第二ハウジング42における小径筒部71のベアリング受部74に圧入等により取り付けられている。外輪781の内周面には、ころ780が転動するための外輪軌道溝783が形成されている。出力軸3の外周面には、ころ780が転動するための内輪軌道面787が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構708は、内輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0077】
(第8実施形態)
本発明の第8実施形態について説明する。図10は、第8実施形態に係る逆入力遮断クラッチ801の断面図である。本実施形態では、第一ベアリング機構807及び第二ベアリング機構808においてさらに外輪軌道溝863,883がハウジング4と一体化されている点で上述した第7実施形態と相違している。
【0078】
第8実施形態において、第一ベアリング機構807は、針状ころ軸受である。第一ベアリング機構807は、軸回りを転動する針状のころ(請求項の転動体)860と、第一ハウジング41と一体形成された外輪軌道溝863と、入力軸2と一体形成された内輪軌道面867と、を有する。外輪軌道溝863及び内輪軌道面867は、請求項における軌道面の一例である。第一ハウジング41の内周面には、ころ860が転動するための外輪軌道溝863が形成されている。入力軸2の外周面には、ころ860が転動するための内輪軌道面867が形成されている。換言すれば、本実施形態の第一ベアリング機構807は、内輪及び外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0079】
第二ベアリング機構808は、針状ころ軸受である。第二ベアリング機構808は、軸回りを転動する針状のころ(請求項の転動体)880と、第二ハウジング42と一体形成された外輪軌道溝883と、出力軸3と一体形成された内輪軌道面887と、を有する。外輪軌道溝883及び内輪軌道面887は、請求項における軌道面の一例である。第二ハウジング42の内周面には、ころ880が転動するための外輪軌道溝883が形成されている。出力軸3の外周面には、ころ880が転動するための内輪軌道面887が形成されている。換言すれば、本実施形態の第二ベアリング機構808は、内輪及び外輪を構成する部材を別途有することなく形成されている。
【0080】
第2から第8実施形態によれば、様々な種類の軸受を本発明に適用することができる。よって、逆入力遮断クラッチ1,201,301,401,501,601,701,801の汎用性を向上できる。
【0081】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の第1実施形態では、入力軸2の入力軸本体21、台座部22及び腕部23が一体形成された構成について説明したが、これに限られない。入力軸2は、複数の部品を組み合わせることにより構成されてもよい。同様に、出力軸3の出力軸本体31及び挿入部32が別々の部材を組み合わせることにより形成されてもよい。
【0082】
上述の各実施形態では、逆入力遮断機構としてリンク構造を用いないリンクレス方式の逆入力遮断クラッチ1を例に説明したが、これに限られない。逆入力遮断機構として公知技術であるリンク機構を用いたリンク方式の逆入力遮断クラッチにおいて、上述したベアリング機構を採用してもよい。
入力軸本体21と腕部23とを別体で構成してもよい。
ベアリング機構7,8,207,208,307,308,407,408,507,508,607,608,707,708,807,808として、上述した軸受の他に例えば深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受、4点玉軸受、複列玉軸受等を適用してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1,201,301,401,501,601,701,801 逆入力遮断クラッチ
2 入力軸
3 出力軸
4 ハウジング
5 係合子
7,207,307,407,507,607,707,807 第一ベアリング機構
8,208,308,408,508,608,708,808 第二ベアリング機構
41 第一ハウジング
42 第二ハウジング
48 第一インロー嵌合面(インロー嵌合面)
51 摺接面(摺接部)
53 入力側係合部(第一係合部)
54 出力側係合部(第二係合部)
78 第二インロー嵌合面(インロー嵌合面)
60,80,260,280 玉(転動体)
360,380,460,480,560,580,660,680,760,780,860,880 ころ(転動体)
63,263,363,463,563,663,763,863 (第一ベアリング機構の)外輪軌道溝
67,267,367,467,567,667 (第一ベアリング機構の)内輪軌道溝
767,867 (第一ベアリング機構の)内輪軌道面
83,283,383,483,583,683,783,883 (第二ベアリング機構の)外輪軌道溝
87,287,387,487,587,687 (第二ベアリング機構の)内輪軌道溝
787,887 (第二ベアリング機構の)内輪軌道面
77 被押圧面
C 中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10