IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ケミコン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-固体電解コンデンサ 図1
  • 特許-固体電解コンデンサ 図2
  • 特許-固体電解コンデンサ 図3
  • 特許-固体電解コンデンサ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/055 20060101AFI20240611BHJP
   H01G 9/14 20060101ALI20240611BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20240611BHJP
   H01G 9/048 20060101ALI20240611BHJP
   H01G 9/042 20060101ALI20240611BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20240611BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01G9/055 103
H01G9/14 Z
H01G9/15
H01G9/048 G
H01G9/042 500
H01G9/00 290D
H01G9/145
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024503410
(86)(22)【出願日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2023033684
【審査請求日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022148259
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】牧野 猛
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/125183(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/019468(WO,A1)
【文献】特開2019-068006(JP,A)
【文献】特開昭52-026466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/055
H01G 9/14
H01G 9/15
H01G 9/048
H01G 9/042
H01G 9/00
H01G 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属により成り、誘電体皮膜を有する陽極体と、
弁作用金属により成る陰極箔、及び前記陰極箔上に形成された導電層を含む陰極体と、
前記陽極体と前記陰極体との間に介在し、少なくとも前記導電層と接触する導電性高分子を含む電解質層と、
を備え、
前記陰極箔は、エッチングピットにより成るエッチング層と、箔表面に形成された誘電体皮膜とを有し、20μF/cm以上の箔容量を有し、
前記エッチングピットの一部又は全部は、深部に前記導電層が未接触の領域を有し、
前記導電層は、少なくとも前記陰極箔に接触する蒸着層であること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
弁作用金属により成り、誘電体皮膜を有する陽極体と、
弁作用金属により成る陰極箔、及び前記陰極箔上に形成された導電層を含む陰極体と、
前記陽極体と前記陰極体との間に介在し、少なくとも前記導電層と接触する導電性高分子を含む電解質層と、
を備え、
前記陰極箔は、エッチングピットにより成るエッチング層と、箔表面に形成された誘電体皮膜とを有し、20μF/cm以上の箔容量を有し、
前記導電層は、炭化チタンを含むこと、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記エッチングピットの一部又は全部は、深部に前記導電層が未接触の領域を有すること、
を特徴とする請求項記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記電解質層は、前記導電性高分子の溶液又は分散液内の前記導電性高分子が付着して形成されていること、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記電解質層は、電解液を含むこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記電解液は、当該電解液の溶媒全体に対して25wt%以上のエチレングリコールを含むこと、
を特徴とする請求項5記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記電解液は、溶媒がγ-ブチロラクトン及びスルホランの両方で組成されていること、
を特徴とする請求項5記載の固体電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質に導電性高分子を含み、誘電体皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て電荷の蓄電及び放電を行う固体電解コンデンサ及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。固体電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極体及び陰極体として備えている。陽極体の表面には誘電体皮膜が形成されている。陽極体と陰極体の間には電解質層が介在している。電解質層は、少なくとも陽極体の誘電体皮膜と密着し、真の陰極として機能している。
【0003】
固体電解質として導電性高分子が用いられる場合がある。導電性高分子を電解質として含む固体電解コンデンサは、小型、大容量、低等価直列抵抗であることに加えて、チップ化しやすく、表面実装に適している等の特質を備えている。そのため、導電性高分子を電解質として含む固体電解コンデンサは、電子機器の小型化、高機能化、低コスト化に欠かせない。近年は、導電性高分子として、誘電体皮膜との密着性に優れて静電容量を高めることができる、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)が多く用いられている。
【0004】
ここで、固体電解コンデンサを陽極体の静電容量と陰極体の静電容量とが直列したコンデンサと見做す。この場合、陰極体の静電容量を無限大に漸近させることで、固体電解コンデンサの静電容量は、陽極体の静電容量に等しくなり、固体電解コンデンサの静電容量を更に高めることができる。そこで、陰極箔の表面に金属窒化物を蒸着させることで、陰極箔の表面に金属窒化物層を形成し、金属窒化物と陰極箔の弁作用金属を導通させる技術案がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
尚、金属皮膜は微細な凹凸を形成して表面積を拡大でき、大きな静電容量を得ることができるため、陰極箔をエッチングする代わりに、陰極箔の表面に蒸着によって金属皮膜を形成する案は既に提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
もっとも、近年、電解質として導電性高分子と電解液を併用する固体電解コンデンサにおいて、エッチングピットと無機系導電層の両方を備える案も提案されている(例えば、特許文献3参照)。陰極箔のエッチングピットの内部に届くように無機系導電層を形成すると、無機系導電層の表面にも陰極箔の凹凸に倣った凹凸が発生する。無機系導電層の凸部は導電性高分子と接触して、電解液が入り込むのを抑制する。無機系導電層の凹部には電解液が染み込む。その結果、導電性高分子と無機系導電層との密着性低下の抑制と界面抵抗の増加抑制により、固体電解コンデンサのESRが下がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-114109号
【文献】特開昭59-167009号
【文献】国際公開2016/174806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1は、ESRと周波数との関係を示す対数グラフである。図1の点線で示す対数グラフに示すように、理想的には、自己共振周波数前の容量性領域でのESRは、周波数の上昇につれて緩やかに低下していく。このESRは、高周波数帯域になるほど、周波数に対する低下度合いが鈍化する。ESRと周波数との関係は自己共振周波数までに平坦化していく。
【0009】
しかしながら、陰極箔上に導電層が形成され、且つ電解質層の導電性高分子が導電層に付着していると、このESRと周波数との関係に変化が生じ、実線で示す対数グラフのように、コブ領域1が生じる。ESRは1kHz以上の周波数領域で、周波数に対する低下度合いが鈍化する。そして、自己共振周波数よりも遙かに低周波数の帯域で、ESRと周波数との関係が平坦に近くなる。この略平坦な領域が続いた後、ESRは、周波数に対する低下度合いが急峻化し、自己共振周波数までに再び周波数に対する低下度合いが鈍化して平坦化していく。
【0010】
この周波数に対するESRの低下度合いが一旦鈍化して、ESRと周波数との関係が平坦に近くなり、再度ESRの周波数に対する低下度合いが急峻化する領域がコブ領域1である。コブ領域1は、陰極箔上の導電層と導電性高分子の存在を前提に、様々な条件が付加されると顕著に現れる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、陰極箔上に導電層を形成した場合であっても、低ESRの固体電解コンデンサ及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、導電層と導電性高分子の接触により陰極体内に抵抗Rpが生じ、理論的には、この抵抗RpがESRと周波数との関係におけるコブ領域1を発生させ、1kHz以下を除き、100kHz帯域を含む容量性領域において、ESRを増加させているとの知見を得た。そして、本発明者らは、更なる鋭意研究の結果、抵抗Rpと並列の静電容量Cpを発生させることで、コブ領域1を減少させ、特に静電容量Cpを20μF/cm以上とすると、コブ領域1の減少が100kHz帯域に波及してESRが減少するとの知見を得た。
【0013】
そこで、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは、この知見に基づきなされたものであり、弁作用金属により成り、誘電体皮膜を有する陽極体と、弁作用金属により成る陰極箔、及び前記陰極箔上に形成された導電層を含む陰極体と、前記陽極体と前記陰極体との間に介在し、少なくとも前記導電層と接触する導電性高分子を含む電解質層と、を備え、前記陰極箔は、20μF/cm以上の箔容量を有する。
【0014】
前記陰極箔は、エッチングピットにより成るエッチング層と、箔表面に形成された誘電体皮膜と、を有するようにしてもよい。エッチング層による陰極箔の拡面倍率と誘電体皮膜の厚さにより、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上にすればよい。
【0015】
前記エッチングピットの一部又は全部は、深部に前記導電層が未接触の領域を有するようにしてもよい。導電層が未接触の領域では、代わりに導電性高分子と陰極箔とを接触させることができる。一方で、本発明者らの鋭意研究の結果、導電性高分子と陰極体の導電層が存在し、且つこの未接触の領域が存在すると、ESRと周波数との関係におけるコブ領域1が増長して顕著になることが確認された。そして、この未接触の領域が存在する場合に、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上にすると、コブ領域1の減少が100kHz帯域に有意に波及してESRが顕著に減少する。
【0016】
前記導電層は、少なくとも前記陰極箔に接触する蒸着層であるようにしてもよい。導電層を蒸着層にすることで、エッチングピットの一部又は全部の深部に、導電層と未接触の領域が発生し易くなる。
【0017】
前記導電層は、炭化チタンを含むようにしてもよい。炭化チタンを含む導電層と20μF/cm以上の箔容量を有する陰極箔の組み合わせは、大きくESRを減少させる。
【0018】
前記電解質層は、前記導電性高分子の溶液又は分散液内の前記導電性高分子が付着して形成されているようにしてもよい。本発明者らの鋭意研究の結果、導電性高分子と陰極体の導電層が存在し、且つ導電性高分子の溶液又は分散液を用いて導電性高分子を付着させると、ESRと周波数との関係におけるコブ領域1が増長して顕著になることが確認された。そして、この未接触の領域が存在する場合に、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上にすると、コブ領域1の減少が100kHz帯域に有意に波及してESRが明確に減少する。
【0019】
前記陰極箔は、250μF/cm以下の箔容量を有するようにしてもよい。また、500μF/cm以下の箔容量を生じさせるようなエッチング層の拡面倍率であれば、陰極箔の脆弱化によるESR増加がコブ領域1の減少効果を減殺してしまう虞が低減する。
【0020】
前記電解質層は、電解液を含むようにしてもよい。電解液が存在すると、電解液がない場合と比べてコブ領域1は小さく、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上にすることで、低ESRにし易くなる。
【0021】
前記電解液は、当該電解液の溶媒全体に対して25wt%以上のエチレングリコールを含むようにしてもよい。
【0022】
前記電解液は、溶媒がγ-ブチロラクトン及びスルホランの両方で組成されているようにしてもよい。
【0023】
また、上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属により成り、箔容量が20μF/cm以上の陰極箔上に導電層を形成して陰極体を形成する陰極体形成工程と、誘電体皮膜を有する陽極体と前記陰極体との間に、少なくとも前記導電層と接触する導電性高分子を含む電解質層を形成する電解質層形成工程と、を含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、導電層が形成された陰極体を備える固体電解コンデンサのESRを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ESRと周波数との関係を示す対数グラフである。
図2】陰極体の断面を示す模式図である。
図3】実施例2及び5のESRと周波数の関係の実測結果を示す対数グラフである。
図4】導電層がTiCの系列とTiNの系列に係る、陰極箔箔容量とESRとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る電極箔及び電解コンデンサの実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0027】
(全体構成)
固体電解コンデンサは、誘電体皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て、電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この固体電解コンデンサは、誘電体皮膜が表面に形成された陽極体及び陰極体を備えている。陽極体と陰極体とは対向配置されている。陽極体と陰極体の短絡阻止のため、陽極体と陰極体との間には、セパレータが介在する。陽極体と陰極体は、例えば帯状の箔形状を有し、セパレータを挟んで帯長手方向が丸まるように巻回される。
【0028】
陽極体の誘電体皮膜の少なくとも一部には、電解質層が密着し、陽極体と陰極体の間に介在している。電解質層には導電性高分子が含まれている。導電性高分子は、分子内ドーパントによりドーピングされた自己ドープ型の共役系高分子、又は外部ドーパント分子によりドーピングされた共役系高分子である。この導電性高分子が誘電体皮膜と陰極体の間に連なるように配置されることで、陽極体と誘電体皮膜と導電性高分子とによる陽極側の静電容量が生じる。
【0029】
(導電性高分子)
共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0030】
上記の共役系高分子の中でも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。
【0031】
特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンに置換基が付加されていてもよい。例えば、置換基として炭素数が1~5のアルキル基が付加されたアルキル化エチレンジオキシチオフェンが用いられてもよい。アルキル化エチレンジオキシチオフェンとしては、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、ブチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、2-アルキル-3,4-エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。
【0032】
ドーパント又は外部ドーパント分子は、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、もしくは電子を与えやすいドナーであり、これにより導電性高分子は高い導電性を発現する。ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。
【0033】
例えば、ドーパントとしては、ポリアニオン、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0034】
ポリアニオンは、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。具体的には、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0035】
(陰極体)
導電性高分子は陰極体にも接触する。ここで、陰極体は陰極箔と導電層を備えている。導電層は、陰極箔の片面又は両面に積層され、陰極体の最表層に位置する。導電性高分子と陰極体の導電層とが接触していると、陰極体側に抵抗Rpが発生する。この抵抗Rpは、これに限られないが、導電性高分子と導電層との接触抵抗、体積抵抗、導電層と陰極箔との接触抵抗であると推測される。陰極体の抵抗Rpは、ESRと周波数との関係におけるコブ領域1を発生させる。即ち、1kHz以下を除き、100kHz帯域を含む容量性領域において、ESRを増加させている。
【0036】
但し、この抵抗Rpと並列に静電容量Cpを発生させると、コブ領域1の膨らみを抑制することができる。そこで、陰極体側にも静電容量Cpを生じさせる。但し、陰極体側の静電容量Cpは無限大に漸近させず、固体電解コンデンサの静電容量は、陽極側と陰極側の合成容量となっている。
【0037】
陰極体に静電容量Cpを発生させるべく、陰極箔は、多数のピットによるエッチング層によって拡面化され、誘電体皮膜が形成されている。この陰極箔は、弁作用金属を延伸した長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、陰極体に関して99%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等が含まれていてもよい。
【0038】
エッチング層は、トンネル状のピット又は海綿状のピットにより成る。トンネル状のエッチングピットは、箔厚み方向に掘り込まれた孔である。トンネル状のピットで箔を貫通させてもよいし、箔の中心に未達の長さで形成されていてもよい。トンネル状のエッチングピットは、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流すことで形成される。トンネル状のエッチングピットは、更に、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流すことで拡径される。海綿状のエッチングピットによって、拡面層は、空間状に細かい空隙が連なり拡がったスポンジ状の層になる。この海綿状のエッチングピットは、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で交流電流を流すことで形成される。
【0039】
誘電体皮膜は、エッチング層の凹凸表面に形成されている。典型的には、誘電体皮膜は、拡面層の凹凸表層に形成される酸化皮膜であり、例えば陰極箔がアルミニウム製であれば、拡面層の凹凸表面を酸化させた酸化アルミニウム層である。誘電体皮膜を形成する化成処理では、化成液中で陰極箔に対して電圧を印加する。化成液は、ハロゲンイオン不在の溶液であり、例えば、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液である。
【0040】
または、誘電体皮膜は、陰極箔とは別の酸化物粒子であり、気相成膜法や液相成膜法を用いて、エッチング層の凹凸表面に成膜されるようにしてもよい。気相成膜法としては化学的気相法(CVD)や物理的気相法(PVD)が挙げられ、液相成膜法としてはめっきや塗工などが挙げられる。
【0041】
これにより、陰極箔は、20μF/cm以上の箔容量を有する。箔容量は、陰極箔が有する静電容量である。陰極箔の箔容量は、陰極箔から規定面積の試験片を2枚切り出し、この試験片2枚を対向させてガラス製の測定槽内の静電容量測定液に浸漬し、静電容量計を用いて計測した値の2倍値とした。例えば、規定面積は1cmとし、静電容量測定液は30℃のアジピン酸アンモニウム水溶液とし、静電容量計はLCRメータとし、測定条件として、交流振幅を0.5Vms及び測定周波数を120Hzとする。
【0042】
20μF/cm以上の箔容量のために、エッチング層による陰極箔の拡面率が調整され、また印加電圧によって誘電体皮膜の厚みを調整する。即ち、C=εS/dに従って、拡面倍率を上げることで表面積を大きくし、箔容量を増加させ、誘電体皮膜を薄くすることにより箔容量を増加させ、箔容量を20μF/cm以上に調整する。
【0043】
尚、誘電体皮膜の代わりに、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成される自然酸化皮膜を用いてよく、この場合は専ら拡面倍率により20μF/cm以上になるように調整する。
【0044】
陰極箔の箔容量が20μF/cm以上になると、コブ領域1の膨らみが減少していき、各周波数帯において固体電解コンデンサのESRが下がる。特に、陰極箔の箔容量が20μF/cm以上になると、100kHzにおけるESRが明確に減少することが確認されている。一方、陰極箔の箔容量が20μF/cm未満であるとコブ領域1の全体的な減少度合いは小さく、100kHz帯を含む高周波数帯域のESR減少率は低い。
【0045】
陰極箔の箔容量が大きくなればなるほど、低い周波数レベルからコブ領域1が解消され始め、低い周波数レベルからESRが下がり始める。但し、陰極箔の箔容量は500μF/cm以下が好ましく、特に250μF/cm以下が好ましい。250μF/cmより低い箔容量で既にコブ領域1の膨らみは理想ESR曲線に近づいて是正されており、特に100kHz帯では十分なESR減少を果たしている。一方で、陰極箔の箔容量は500μF/cm超であると、表面積を高めるためにエッチング層を深くする必要があり、陰極箔の残芯部が薄くなる。残芯部は、エッチング層が及ばない領域である。残芯部が薄くなると、陰極箔の強度が低下する。陰極箔の強度低下により、陰極箔に亀裂やボイドが生じる虞があり、亀裂やボイドがコブ領域1の解消によるESR減少効果を減殺する。
【0046】
導電層は、このエッチング層及び誘電体皮膜が形成された陰極箔上に形成すればよい。導電層としては、陰極箔の誘電体皮膜よりも高導電性の無機物又は無機化合物を主として含有していればよい。この導電層は、複数層が積層されていてもよく、各層は異種の無機化合物を含む層であってもよい。導電層の厚みは50nm以上が好ましい。
【0047】
導電層に含まれる無機物又は無機化合物は、主として無機物又は無機化合物で組成されていればよく、例えばカーボンブラックのように、カルボキシル基のような有機系の官能基や混合物を含んでいてもよい。無機物又は無機化合物としては、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、これらの窒化物若しくは炭化物、炭化アルミニウム、炭素材、及びこれらの複合材又は混合材が挙げられる。炭素材としては、繊維状炭素、炭素粉末、又はこれらの混合である。
【0048】
炭素粉末は、例えば、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素等である。繊維状炭素は、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ等である。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが1層である単層カーボンナノチューブでも、2層以上のグラフェンシートが同軸状に丸まり、チューブ壁が多層をなす多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でもよい。
【0049】
導電層に含まれる無機化合物は、チタンの炭化物である炭化チタンが好ましい。炭化チタンを含む導電層を形成した場合、陰極箔の箔容量が20μF/cm未満であるとコブ領域1が寧ろ全体的に大きく膨らみ、固体電解コンデンサのESRが大きくなる。しかし、炭化チタンを含む導電層を形成した場合、陰極箔の箔容量が20μF/cm以上になると、一転してコブ領域1が良好に解消され、固体電解コンデンサのESRが大きく低下させる。
【0050】
導電層は、陰極箔に塗布、蒸着又は熱処理等によって付着させればよい。塗布方法は、無機物又は無機化合物、バインダー及び溶媒を含むスラリーをスラリーキャスト法、ドクターブレード法又はスプレー噴霧法等によって陰極箔に塗布及び乾燥させ、必要に応じてプレスにより陰極箔と導電層を密着させる。蒸着方法は、真空アーク蒸着、スパッタ蒸着又は電子ビーム蒸着が挙げられる。熱処理は、陰極箔の表面に無機物又は無機化合物の粉末を付着させ、焼結させる。
【0051】
真空アーク蒸着は、真空チャンバ内で材料源に電圧をかけて溶融及び蒸発させ、蒸発した材料源を反応ガスと反応させ、反応ガスと反応した材料源を陰極箔に成膜する。スパッタ蒸着は、ターゲットが配置され、反応ガスが充填された環境下でプラズマを発生させ、ターゲットから材料源を叩き出しつつ、叩き出した材料源を反応ガスと反応させ、反応ガスと反応した材料源を陰極箔に成膜する。電子ビーム蒸着は、真空チャンバ内で材料源に電子ビームを照射して溶融及び蒸発させ、蒸発した材料源を反応ガスと反応させ、反応ガスと反応した材料源を陰極箔に成膜する。
【0052】
図2は、陰極体の断面を示す模式図である。図2に示すように、導電層を形成する際、エッチング層のピット21の一部又は全部の深部に、導電層の領域である導電層領域31と接触しない領域、即ち未接触の領域である未接触領域22を発生させることが好ましい。ピット21には、未接触領域22にも陰極側誘電体皮膜33が形成されている。未接触領域22には、導電層領域31の代わりに導電性高分子の粒子が入り込み、導電性高分子の領域である導電性高分子領域32と陰極側誘電体皮膜33との接触も実現できる。
【0053】
そこで、導電性高分子や電解液がピット21内に浸入可能に、導電層領域31でピット21を塞がないように、導電層を形成することが好ましい。あるいは、導電層領域31でピット21の開口を塞いでいても、導電層領域31を通じて導電性高分子や電解液がピット21内に浸入可能な導電層とすることが好ましい。例えば、導電層を構成する無機物又は無機化合物の間の細孔が、導電性高分子又は電解質よりも大きくなるように、無機物又は無機化合物の粒径を大きくしたり、密度を調整する。
【0054】
一方で、導電層を有し、また導電性高分子を固体電解質層に含んでいる場合に、未接触領域22が設けられると、ESRと周波数との関係におけるコブ領域1が顕著になる。即ち、ESRの低下度合いの鈍化が著しく、ESRの平坦領域が長くなる。しかし、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上にすると、コブ領域1の解消も顕著になる。従って、未接触領域22を発生させた固体電解コンデンサは、箔容量が20μF/cm以上の陰極箔を備えることが好適な実施態様となる。
【0055】
未接触領域22を設ける方法としては、導電層を形成する際に蒸着方法をベースとすることが好ましい。但し、化学蒸着よりも物理蒸着を選択することが好ましく、物理蒸着を選択することで、無機物又は無機化合物の粒子がエッチング層の深部に届き難くなる。また、エッチング層は、海綿状のピット21により形成されることが好ましい。複雑な孔形状の海綿状のピット21であれば、無機物又は無機化合物の粒子がエッチング層の深部に更に届き難くなる。海綿状のピット21の径は、無機物又は無機化合物と同等又はこれよりも小さいことが好ましく、1μm以下が好ましい。さらに好ましくは、海綿状のピット21の径は、50~300nmである。これにより、無機物又は無機化合物が、海綿状のピットの最深部まで到達する可能性を更に低くできる。
【0056】
尚、エッチング層のピット21の一部又は全部に、深部に導電層領域31と未接触の領域である未接触領域22が作出できれば、一定の効果は得られ、導電層の形成方法は蒸着法に限られない。
【0057】
(製造方法)
このような固体電解コンデンサは次のように製造される。即ち、陽極体形成工程及び陰極体形成工程により陽極体と陰極体を各々作製する。帯箔状の陽極体と陰極体との間にセパレータを挟んで巻回し、陽極箔と陰極箔とセパレータで形成された円筒状の巻回体を作製する。電解質形成工程にて、巻回体内に導電性高分子を付着させることで、コンデンサ素子を形成する。コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに挿入し、外装ケースの開口端部を加締め加工により封口体で封止する。そして、エージング工程を経て、固体電解コンデンサの製造は完了する。
【0058】
導電性高分子の付着工程では、導電性高分子液を調整し、導電性高分子を巻回体に含浸することが好ましい。導電性高分子液を含浸する方法で導電性高分子を充填させた固体電解コンデンサは、ESRと周波数との関係におけるコブ領域1が顕著に発生する。そのため、箔容量が20μF/cm以上の陰極体を備えることが好適な実施態様となる。
【0059】
導電性高分子液は、導電性高分子の粒子又は粉末が分散又は溶解している。この導電性高分子液に巻回体を含浸させ、乾燥により溶媒を少なくとも一部揮発させることで、陽極体と陰極体に導電性高分子が付着する。
【0060】
導電性高分子は、電解重合又は化学重合によって生成される。化学重合では、導電性高分子の単量体ユニットとなるモノマーを含む溶液と酸化剤を混合して重合反応させる。酸化剤としては、ドーパントを放出する化合物であれば公知の何れでもよく、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等のペルオキソ二硫酸塩、などを使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用してもよい。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~200℃の範囲である。重合時間は、一般的には10分~30時間の範囲である。
【0061】
電解重合では、導電性高分子の単量体ユニットとなるモノマーと支持電解質とを混合して定電位法、定電流法又は電位掃引法により重合反応させる。支持電解質には、ボロジサリチル酸及びボロジサリチル酸塩からなる群から選択された少なくとも一種の化合物が含まれる。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩等のジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が例示される。
【0062】
定電位法による場合には、基準電極に対して1.0~1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、1~10000μA/cmの電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、基準電極に対して0~1.5Vの範囲を5~200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間は、一般的には10分~30時間の範囲である。
【0063】
電解重合及び化学重合において、モノマー及び酸化剤又は支持電解質を添加する溶媒は、所望量のモノマー及び支持電解質を溶解することができ、電解重合に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。例えば、溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
導電性高分子を生成した後、導電性高分子液は、電解重合又は化学重合後の溶液を限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換等によって精製し、残留モノマーや不純物を除去し、溶液に分散又は溶解させておくことで調製される。
【0065】
導電性高分子液の溶媒は、導電性高分子が分散又は溶解すればよく、水又は水と有機溶媒の混合物が好ましい。有機溶媒としては、極性溶媒、アルコール類、エステル類、炭化水素類、カーボネート化合物、エーテル化合物、鎖状エーテル類、複素環化合物、ニトリル化合物等が挙げられる。
【0066】
極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。炭化水素類としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等が挙げられる。エーテル化合物としては、ジオキサン、ジエチルエーテル等が挙げられる。鎖状エーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。複素環化合物としては、3-メチル-2-オキサゾリジノン等が挙げられる。ニトリル化合物としては、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
【0067】
導電性高分子液は、pHが調整され、また必要に応じて多価アルコール及び各種添加剤が加えられていてもよい。pH調整剤としては、例えばアンモニア水、水酸化ナトリウム、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。多価アルコールとしては、ソルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリオキシエチレングリセリン、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、又はこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。多価アルコールは、沸点が高いため、導電性高分子液を付着対象物に含浸させて乾燥させた後でも電解質層に残留し、電解コンデンサのESR低減や耐電圧向上効果が得られる。添加剤としては、例えば、有機バインダー、界面活性剤、分散剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0068】
乾燥工程により溶媒を除去する際、乾燥工程での温度環境は例えば40℃以上200℃以下であり、乾燥時間は例えば3分以上180分以下の範囲である。乾燥工程は複数回繰り返してもよい。減圧環境下で乾燥してもよく、例えば5kPa以上100kPa以下の圧力で減圧する。乾燥工程を予備乾燥と本乾燥の工程に分けてもよい。浸漬の他、導電性高分子溶液を滴下塗布又はスプレー塗布してもよい。
【0069】
尚、導電性高分子は、導電性高分子の単量体ユニットとなるモノマー及び酸化剤又は支持電解質の溶液中に巻回体を浸漬し、重合反応により生成することで、電解コンデンサ内に形成するようにしてもよい。
【0070】
電解質層には電解液を加えてもよい。電解質層は導電性高分子と電解液とから成り、電解液は誘電体皮膜と導電性高分子との間の空隙を埋めるように充填される。電解液は、溶媒に対して溶質を溶解し、また必要に応じて添加剤が添加された混合液である。電解液は溶質を含まずに溶媒のみであってもよく、溶媒および添加剤の混合液であってもよい。
【0071】
電解液の溶媒としては、プロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒が挙げられ、単独又は2種類以上が組み合わせられる。また、電解液の溶質としては、アニオン成分やカチオン成分が含まれる。溶質は、典型的には、有機酸の塩、無機酸の塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物の塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を別々に溶媒に添加してもよい。
【0072】
溶媒であるプロトン性の有機極性溶媒としては、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類などが挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリンなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0073】
溶媒である非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。スルホキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0074】
なかでも、溶媒はエチレングリコール、グリセリンが好ましい。エチレングリコール及びグリセリンにより、導電性高分子の高次構造の変化が起こり、初期のESR特性が良好であり、さらには高温特性も良好となる。特に、陰極箔のピット内の導電性高分子及び導電層付近の導電性高分子の高次構造の変化により、導電性高分子と導電層の密着性の向上と陰極箔の容量引出し効果が大きくなり、初期のESR特性が良好となる。エチレングリコールは、溶媒中25wt%以上であればなおよい。エチレングリコールが溶媒中25wt%以上を占めていれば、γ-ブチロラクトン又はスルホラン等の他の溶媒が含まれていてもよい。
【0075】
溶媒としてγ-ブチロラクトン又はスルホランを用いる場合、γ-ブチロラクトンのみで溶媒を組成したり、スルホランのみで溶媒を組成するよりも、γ-ブチロラクトンとスルホランで組成される溶媒とすることが好ましい。γ-ブチロラクトンのみで溶媒を組成したり、スルホランのみで溶媒を組成するよりも、γ-ブチロラクトンとスルホランの両方で組成される溶媒としたほうが、固体電解コンデンサのESRは低下する。
【0076】
溶質としてアニオン成分となる有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、t-ブチルアジピン酸、11-ビニル-8-オクタデセン二酸、レゾルシン酸、フロログルシン酸、没食子酸、ゲンチシン酸、プロトカテク酸、ピロカテク酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等のカルボン酸や、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。
【0077】
また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジアゼライン酸、ボロジ安息香酸、ボロジマレイン酸、ボロジ乳酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジ(2-ヒドロキシ)イソ酪酸、ボロジレゾルシン酸、ボロジメチルサリチル酸、ボロジナフトエ酸、ボロジマンデル酸及びボロジ(3-ヒドロキシ)プロピオン酸等が挙げられる。
【0078】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、例えばアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミン塩としては、一級アミン、二級アミン、三級アミンの塩が挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0079】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコールやポリオキシエチレングリセリンなどの多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンジルアルコールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤の添加量は特に限定されないが、固体電解コンデンサの特性を悪化させない程度に添加することが好ましく、例えば電解液30wt%以下である。
【0080】
以上の固体電解コンデンサにおいて、陽極体も弁作用金属を延伸した箔体であり、純度は99.9%以上が望ましい。陽極体の箔片面又は両面には拡面層が形成されている。拡面層は、エッチング層の他、弁作用金属の粉体を焼結した焼結層、又は弁作用金属の粒子を蒸着した蒸着層としてもよい。焼結及び蒸着の方法として、原子層堆積法や蒸着、粉末焼結積層造形法などが挙げられる。即ち、拡面層は、トンネル状のピット又は海綿状のピットの他、密集した粉体若しくは粒子間の空隙により成る多孔質構造としてもよい。陽極体の拡面層の凹凸表面には、化成処理、気相成膜法又は液相成膜法によって誘電体皮膜を形成する。
【0081】
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロース及びこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらの誘導体等のポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、並びにポリビニルアルコール樹脂等とすることができ、これらの樹脂が単独又は混合して用いることができる。但し、陽極体と陰極体との短絡を阻止し、また導電性高分子及び電解液を保持することができれば、セパレータを排除できる。
【0082】
固体電解コンデンサは、平板上の陽極体上に電解質層と陰極体と積層される積層型であってもよい。積層型では、外装を省略した平板型とするほか、例えば、コンデンサ素子をラミネートフィルムによって被覆し、又は耐熱性樹脂や絶縁樹脂などの樹脂をモールド、ディップコート若しくは印刷することで封止する。
【0083】
(作用効果)
理想的には、自己共振周波数前の容量性領域でのESRは、対数グラフにおいて、周波数の上昇につれて緩やかに低下していく。このESRは、高周波数帯域になるほど、周波数に対する低下度合いが鈍化する。ESRと周波数との関係は自己共振周波数までに平坦化していく。
【0084】
しかしながら、陰極箔上に導電層が形成され、且つ電解質層の導電性高分子が導電層に付着していると、このESRと周波数との関係に変化が生じ、コブ領域1が生じる。ESRは1kHz以上の周波数領域で、周波数に対する低下度合いが鈍化する。そして、自己共振周波数よりも遙かに低周波数の帯域で、ESRと周波数との関係が平坦に近くなる。この略平坦な領域が続いた後、ESRは、周波数に対する低下度合いが急峻化し、自己共振周波数までに再び周波数に対する低下度合いが鈍化して平坦化していく。
【0085】
この周波数に対するESRの低下度合いが一旦鈍化して、ESRと周波数との関係が平坦に近くなり、再度ESRの周波数に対する低下度合いが急峻化する領域がコブ領域1である。コブ領域1は、導電層とエッチングピットの一部又は全部の深部とが未接触の未接触領域22が存在すると、顕著に現われる。即ち、ESRの低下度合いの鈍化が著しく、ESRの平坦領域が長くなる。また、コブ領域1は、導電性高分子液を用いて導電性高分子の電解質層を形成すると、顕著に現われる。また、コブ領域1は、電解液を併用しない固体電解コンデンサにおいて顕著に現れる。
【0086】
次に、自己共振周波数前の容量性領域での陰極箔のインピーダンスの大きさ1/(2πfCp)[|Zp|]は、対数グラフにおいては、周波数に比例して低下する。そして、抵抗Rp>|Zp|になると、コブ領域1の発生により鈍化してしまったESRの低下度合いを大きくできる。即ち、コブ領域1を解消していくことができる。そして、自己共振周波数までのESRを全体的に下げることができる。
【0087】
インピーダンスの大きさ|Zp|=1/(2πfCp)であり、陰極箔の箔容量Cpを大きくすると、インピーダンスの大きさと周波数との関係を示す対数グラフは、インピーダンスの大きさ全体を小さくする方向に平行移動し、抵抗Rp>|Zp|になる周波数は低くなる。100kHzの周波数では、20μF/cm以上で、抵抗Rpと並列な陰極箔の箔容量CpによるESR低減効果が有意に現われる。
【実施例
【0088】
以下、実施例に基づいて固体電解コンデンサをさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0089】
(実施例1乃至5)
次の通り、実施例1乃至5、比較例1並びに参考例1及び2の固体電解コンデンサを作製した。
【0090】
陽極箔は、長尺に延伸され、110μmの厚みを有する帯状のアルミニウム箔とした。陽極箔は、交流エッチングにより拡面化された。陽極箔の拡面層の形成においては、塩酸を含む水溶液中でアルミニウム箔に交流電流を流すことで、海綿状のエッチングピットを形成した。陽極体には化成処理により箔の表面に誘電体皮膜を形成した。
【0091】
陰極箔は、長尺に延伸され、50μmの厚みを有する帯状のアルミニウム箔とした。陰極箔にも、各固体電解コンデンサに応じた10~250μF/cmの箔容量Cpを発生させるため、エッチング層を形成し、またエッチング層の凹凸面に誘電体皮膜を形成した。塩酸を含む水溶液中でアルミニウム箔に交流電流を流すことで、海綿状のエッチングピットにより成るエッチング層を形成した。各陰極箔には、導電層として炭化チタンTiCを積層した。TiCは真空アーク蒸着法により陰極箔上に110nmの厚みで積層させた。また、ピット21の深部に未接触領域22が発生するように、TiCを積層した。
【0092】
陰極箔に対する交流エッチング処理では、塩酸を主たる電解質とする酸性水溶液に陰極箔を浸し、アルミニウム箔の両面を拡面化した。次いで、陰極箔に対する化成処理では、リン酸水溶液で交流エッチング処理の際に付着した塩素を除去した後、リン酸二水素アンモニウムの水溶液内で誘電体皮膜の厚みに対応する電圧を印加した。箔容量Cpは、理論式Cp=εS/dをベースとして、所望の値となるように、エッチング層の拡面倍率と誘電体皮膜の厚みの調整を繰り返して得た。
【0093】
セパレータを間に挟んで、陽極体と陰極体の帯向きを一致させて、両電極体を重ね合わせ、帯長手方向が丸まるように巻回し、巻回体とした。実施例1乃至5並びに比較例1においてセパレータは、マニラ麻系とした。参考例1及び2においてセパレータは特殊ナイロン繊維とした。作製した巻回体を、液温が90℃のリン酸二水素アンモニウム水溶液内で、電流密度2.5mA/cmの電流を通電し、56Vの化成電圧に到達させた後、15分間保持した。
【0094】
実施例1乃至5並びに比較例1の巻回体には、導電性高分子液を含浸することで、導電性高分子を付着させた。導電性高分子液は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)を水に分散させてある。PEDOT/PSSは、導電性高分子液全体に対して1.2wt%の割合で添加されている。導電性高分子液には、エチレングリコールが、導電性高分子液全体に対して10wt%の割合で添加されている。導電性高分子液は、室温及び減圧環境において、5分間、巻回体に含浸した。含浸工程は計2回行われた。各含浸工程の後は、150℃の温度環境下で30分静置することで、巻回体を乾燥させた。
【0095】
参考例1及び2の巻回体には、化学重合により導電性高分子を生成して付着させた。3,4-エチレンジオキシチオフェンのモノマーと、ドーパントを放出する酸化剤としてp-トルエンスルホン酸鉄(III)が添加された混合液に巻回体を浸漬し、重合反応させた。重合温度は150℃であり、重合時間は30分であった。
【0096】
実施例1乃至5並びに比較例1では、導電性高分子を付着させた巻回体に対して更に電解液を含浸した。電解液は、エチレングリコールに対してアゼライン酸アンモニウムを添加して調製した。参考例1及び参考例2の固体電解コンデンサは、電解液を併用しなかった。
【0097】
作製された各コンデンサ素子は、円筒ケースに収容し、円筒ケースの開口を封口体で封止した。各固体電解コンデンサに対して電圧を印加してエージング処理を施した。これにより、実施例1乃至5並びに比較例1として、定格電圧が35WVで定格容量が56μF、直径6.3mm及び高さ6.1mmの固体電解コンデンサが作製された。また参考例1及び2として、定格電圧が25WVで定格容量が47μFの固体電解コンデンサが作製された。
【0098】
(ESR測定)
実施例1乃至5、比較例1並びに参考例1及び2のESRの測定を測定した。ESRは、陽極体と陰極体にLCRメータの端子を接続し、測定条件として周囲温度を20℃、測定周波数を100kHzとして測定した。測定結果を以下の表1に示す。ESRの測定結果を、各陰極箔の箔容量と共に下表1に示す。尚、陰極箔から規定面積の試験片を2枚切り出し、この試験片2枚を対向させてガラス製の測定槽内の静電容量測定液に浸漬し、静電容量計を用いて計測した値の2倍値を各陰極箔の箔容量とした。規定面積は1cmとし、静電容量測定液は30℃のアジピン酸アンモニウム水溶液とし、静電容量計はLCRメータとし、測定条件として交流振幅を0.5Vms、測定周波数を120Hzとした。
【0099】
(表1)
【0100】
表1に示すように、実施例1乃至5の固体電解コンデンサのESRは、比較例1と比べて低く抑えられた。実施例1乃至5の固体電解コンデンサは、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上にしたものである。特に、陰極箔の箔容量が40μF/cm以上250μF/cm以下では、ESRが最低限まで低下した。また、実施例と参考例とを対比すると、導電性高分子液を用いて導電性高分子を付着させた固体電解コンデンサでは、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上にすることによるESR低減効果が顕著であることが確認された。
【0101】
(実施例6及び7)
次の通り、実施例6及び7の固体電解コンデンサを作製した。実施例6及び実施例7は、電解液を併用していない点で実施例1乃至5と異なる。電解液を併用していない点を除き、実施例6及び7の固体電解コンデンサは、実施例1と同一構成、同一組成であり、同一製法及び同一条件で作製された。実施例6の陰極箔の箔容量は150μF/cmとし、実施例7の箔容量は20μF/cmであった。
【0102】
(ESR測定)
実施例6及び7のESRの測定を測定した。ESRの測定方法及び測定条件は、実施例1と同一である。ESRの測定結果を、各陰極箔の箔容量と共に下表2に示す。
【0103】
(表2)
【0104】
表2に示すように、電解液が無い実施例6乃至7の固体電解コンデンサにおいても、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上の範囲で増加させていくことで、ESRが低下する方向に変化することが確認された。また、表1及び表2に示すように、電解液を併用すると、ESRが全体的に低くなることが確認された。
【0105】
(ESRと周波数との関係)
陰極箔の箔容量が150μF/cmの実施例2の固体電解コンデンサと、陰極箔の箔容量が20μF/cmの実施例5の固体電解コンデンサのESRを、測定周波数を100Hzから1000kHzまで変化させながら計測した。測定結果を図3に示す。図3は、陰極体がTiCの導電層を備え、導電性高分子液で導電性高分子を付着させ、電解液が併用され、陰極箔の箔容量が150μF/cm又は20μF/cmの固体電解コンデンサの周波数とESRとの関係示す対数グラフである。
【0106】
図3において、箔容量Cpが20[μF/cm]である実施例5が対数グラフG1で示され、箔容量Cpを150[μF/cm]である実施例2が対数グラフG2で示されている。
【0107】
図3に示すように、1kHz以上、100kHzを含む範囲にコブ領域1が発生している。このコブ領域1は、対数グラフG1よりも対数グラフG2で膨らみが解消されている。即ち、陰極箔の箔容量Cpが大きくなるほど、コブ領域1が解消され、ESRが減少していることが確認できる。
【0108】
また、陰極箔の箔容量Cpにより生じるインピーダンスの大きさ1/(2πfCp)[|Zp|]が対数グラフにおいて抵抗Rp>|Zp|になる周波数帯で、ESRはインピーダンスの大きさの変化に倣うように変化することが確認できる。そのため、コブ領域1の発生により鈍化してしまったESRの低下度合いが、インピーダンスの大きさに倣って大きく戻っていることが確認できる。即ち、コブ領域1を解消していく傾向が確認できる。
【0109】
そして、インピーダンスの大きさ|Zp|=1/(2πfCp)であり、陰極箔の箔容量Cpを大きくすれば、抵抗Rp>|Zp|になる周波数は低くなる。100kHzの周波数では、20μF/cm以上で、抵抗Rpと並列な陰極箔の箔容量CpによるESR低減効果が有意に現われていることが確認できる。
【0110】
(実施例8乃至12)
次の通り、実施例8乃至12並びに比較例2の固体電解コンデンサを作製した。実施例1乃至5は炭化チタンTiCを含む導電層を陰極箔上に積層したのに対し、実施例8乃至12並びに比較例2は、導電層に窒化チタンTiNを含む導電層を陰極箔に積層した点が異なる。導電層に含む無機化合物の種類を除き、実施例8乃至12の固体電解コンデンサは、実施例1乃至5と同一構成、同一組成であり、同一製法及び同一条件で作製された。
【0111】
実施例8の陰極箔の箔容量は250μF/cmとし、実施例9の陰極箔の箔容量は150μF/cmとし、実施例10の陰極箔の箔容量は50μF/cmとし、実施例11の陰極箔の箔容量は40μF/cmとし、実施例12の陰極箔の箔容量は20μF/cmとした。また、比較例2の陰極箔の箔容量は10μF/cmとした。
【0112】
(ESR測定)
実施例8乃至12並びに比較例2のESRの測定を測定した。ESRの測定方法及び測定条件は、実施例1と同一である。ESRの測定結果を、各陰極箔の箔容量と共に下表3に示す。また、図4のように、表3に基づき、導電層がTiCの系列とTiNの系列に分けて、横軸を陰極箔箔容量とし、縦軸をESRとするグラフを作成した。図4中、白抜きの丸印のプロットはTiCの系列であり、塗り潰しの丸印のプロットはTiN系列である。
【0113】
(表3)
【0114】
表3に示すように、導電層に含まれる無機化合物がTiNであっても、実施例8乃至12が示すように、陰極箔の箔容量を20μF/cm以上の範囲で増加させていくことで、固体電解コンデンサのESRが低下する方向に変化することが確認された。
【0115】
また、表3及び図4に示すように、導電層にTiCを含む実施例1乃至5並びに比較例1の系列は、導電層にTiNを含む実施例8乃至12並びに比較例2の系列と比べて、陰極箔の箔容量が20μF/cm未満ではESRが高いものの、陰極箔の箔容量が20μF/cm以上になるとESRは急峻に低下して、TiNの系列よりも良化することが確認された。これにより、導電層にTiNを含み、且つ陰極箔の箔容量が20μF/cm以上であると、固体電解コンデンサのESRは特に低下することが確認された。
【0116】
(実施例13乃至37)
実施例13乃至37並びに比較例3乃至7の固体電解コンデンサを作製した。実施例13乃至37並びに比較例3乃至7は、電解液の溶媒が実施例1乃至5並びに比較例1の系列と異なる。実施例1乃至5並びに比較例1は電解液の溶媒全量にエチレングリコールを用いた。
【0117】
これに対し、実施例13乃至17並びに比較例3は、25wt%のエチレングリコールと75wt%のγ-ブチロラクトンで溶媒は組成されている。実施例18乃至22並びに比較例4は、10wt%のエチレングリコールと90wt%のγ-ブチロラクトンで溶媒は組成されている。実施例23乃至27並びに比較例5は、電解液の全量にγ-ブチロラクトンを用いた。実施例28乃至32並びに比較例6は、50wt%のγ-ブチロラクトンと50wt%のスルホランで溶媒は組成されている。実施例33乃至37並びに比較例7は、電解液の溶媒全量にスルホランを用いた。
【0118】
実施例13乃至17並びに比較例3は、陰極箔の箔容量が異なる。実施例13の陰極箔の箔容量は250μF/cmとし、実施例14の陰極箔の箔容量は150μF/cmとし、実施例15の陰極箔の箔容量は50μF/cmとし、実施例16の陰極箔の箔容量は40μF/cmとし、実施例17の陰極箔の箔容量は20μF/cmとした。また、比較例3の陰極箔の箔容量は10μF/cmとした。
【0119】
実施例18乃至22並びに比較例4は、陰極箔の箔容量が異なる。実施例18の陰極箔の箔容量は250μF/cmとし、実施例19の陰極箔の箔容量は150μF/cmとし、実施例20の陰極箔の箔容量は50μF/cmとし、実施例21の陰極箔の箔容量は40μF/cmとし、実施例22の陰極箔の箔容量は20μF/cmとした。また、比較例4の陰極箔の箔容量は10μF/cmとした。
【0120】
実施例23乃至27並びに比較例5は、陰極箔の箔容量が異なる。実施例23の陰極箔の箔容量は250μF/cmとし、実施例24の陰極箔の箔容量は150μF/cmとし、実施例25の陰極箔の箔容量は50μF/cmとし、実施例26の陰極箔の箔容量は40μF/cmとし、実施例27の陰極箔の箔容量は20μF/cmとした。また、比較例5の陰極箔の箔容量は10μF/cmとした。
【0121】
実施例28乃至32並びに比較例6は、陰極箔の箔容量が異なる。実施例28の陰極箔の箔容量は250μF/cmとし、実施例29の陰極箔の箔容量は150μF/cmとし、実施例30の陰極箔の箔容量は50μF/cmとし、実施例31の陰極箔の箔容量は40μF/cmとし、実施例32の陰極箔の箔容量は20μF/cmとした。また、比較例6の陰極箔の箔容量は10μF/cmとした。
【0122】
実施例33乃至37並びに比較例7は、陰極箔の箔容量が異なる。実施例33の陰極箔の箔容量は250μF/cmとし、実施例34の陰極箔の箔容量は150μF/cmとし、実施例35の陰極箔の箔容量は50μF/cmとし、実施例36の陰極箔の箔容量は40μF/cmとし、実施例37の陰極箔の箔容量は20μF/cmとした。また、比較例7の陰極箔の箔容量は10μF/cmとした。
【0123】
電解液の溶媒の種類を除き、実施例13乃至37並びに比較例3乃至7の固体電解コンデンサは、実施例1と同一構成、同一組成であり、同一製法及び同一条件で作製された。
【0124】
(ESR測定)
実施例13乃至37並びに比較例3乃至7のESRの測定を測定した。ESRの測定方法及び測定条件は、実施例1と同一である。ESRの測定結果を、各陰極箔の箔容量と共に下表4乃至8に示す。表中、EGはエチレングリコールであり、BLはγ-ブチロラクトンであり、TMSはスルホランである。表中、溶媒種の後に続く括弧内の数値は、溶媒に占める重量パーセント濃度である。
【0125】
(表4)
【0126】
(表5)
【0127】
(表6)
【0128】
(表7)
【0129】
(表8)
【0130】
上表1及び表4が示すように、実施例1乃至5並びに実施例13乃至17では、陰極箔の箔容量が20μF/cmのときは、固体電解コンデンサのESRが0.033Ωになっており、50μF/cm以上になると、固体電解コンデンサのESRが0.024Ωになっている。これらESRは、上表1、表4乃至表8が示すように、実施例18乃至37における同等の陰極箔の箔容量と比べたとき、一段低くなっていることがわかる。
【0131】
実施例1乃至5並びに実施例13乃至17は、電解液の溶媒にエチレングリコールが25wt%以上含まれているものである。これより、電解液の溶媒全体に対して25wt%以上のエチレングリコールが含まれると、ESRがより良好となることが確認された。
【0132】
また、表6乃至8に示すように、実施例23乃至37を比較すると、実施例28乃至32は、陰極箔の各箔容量において、実施例23乃至27並びに実施例33乃至37に比べて、ESRが一段低くなっていることがわかる。
【0133】
実施例28乃至32は、電解液の溶媒がγ-ブチロラクトン及びスルホランの両方で組成されているものである。これより、γ-ブチロラクトンのみで溶媒を組成したり、スルホランのみで溶媒を組成するよりも、γ-ブチロラクトンとスルホランの両方で組成される溶媒としたほうが、固体電解コンデンサのESRは低下することが確認された。
【符号の説明】
【0134】
1 コブ領域
21 ピット
22 未接触領域
31 導電層領域
32 導電性高分子領域
33 陰極側誘電体皮膜
【要約】
陰極箔上に導電層を形成した場合であっても、低ESRの固体電解コンデンサを提供する。固体電解コンデンサは、誘電体皮膜を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と前記陰極体との間に介在する電解質層を備える。陰極体は、弁作用金属により成る陰極箔、及び陰極箔上に形成された導電層を含んでいる。電解質層は、導電性高分子を含み、少なくとも導電層と接触する。陰極箔は、20μF/cm以上の箔容量を有する。
図1
図2
図3
図4