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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/26 20060101AFI20240611BHJP
   D21H 11/14 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
D21H17/26
D21H11/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020038660
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021139068
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 義弘
(72)【発明者】
【氏名】乙幡 隆範
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/180302(WO,A1)
【文献】特開2007-277795(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130968(WO,A1)
【文献】特開2000-027092(JP,A)
【文献】特開2008-291409(JP,A)
【文献】特開2008-088582(JP,A)
【文献】特開2002-194694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/14
D21H 17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプと、1%B型粘度が3,500mPa・s以上16,000mPa・s以下かつカルボキシメチル基置換度が0.65以上であるカルボキシメチルセルロースとを含有し、
前記パルプが、古紙パルプを50重量%以上含み、
前記パルプと前記カルボキシメチルセルロースの合計100重量%に対し、前記カルボキシメチルセルロースを0.5重量%以上10重量%以下含有し、
前記カルボキシメチルセルロースが内添されていることを特徴とする板紙。
【請求項2】
記パルプと前記カルボキシメチルセルロースの合計100重量%に対し、前記カルボキシメチルセルロースを1重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の板紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙に関する。
【背景技術】
【0002】
新聞、雑誌、段ボール、牛乳パック等は、リサイクルシステムが確立しており、回収された後に、古紙パルプとして再利用されている。近年、環境保護意識が高まっており、二酸化炭素排出量の削減に繋がる古紙パルプのさらなる利用増大が求められている。例えば、特許文献1には、全パルプに占める古紙パルプの配合率が70質量%以上である多層抄きされた板紙が提案されている。
【0003】
古紙パルプは、バージンパルプと比較して繊維長が短く、再利用が度重なることにより短繊維が更に多くなり、同時に叩解フリーネスについても低下する傾向にある。そのため、古紙パルプの配合率が高い紙は、強度が低下しやすくなるという問題がある。
原料パルプ、外添薬剤、内添薬剤等を調整することにより、紙の強度を向上させることができる。
紙の強度を向上させる内添薬剤としては、カチオン化デンプン、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)等が知られている。また、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCともいう)にも、紙の強度を向上させる作用があることが古くから知られている。しかし、PAM等と比較してその強度向上効果は小さく、ほとんど使用されていないのが実状である。
【0004】
【文献】特開2020-020065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、強度が向上した紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.パルプと、1%B型粘度が3mPa・s以上16,000mPa・s以下かつカルボキシメチル基置換度が0.65以上であるカルボキシメチルセルロースとを含有することを特徴とする紙。
2.前記パルプと前記カルボキシメチルセルロースの合計100重量%に対し、
前記カルボキシメチルセルロースを0.2重量%以上10重量%以下含有することを特徴とする1.に記載の紙。
3.前記パルプが、古紙パルプを50重量%以上含むことを特徴とする1.または2.に記載の紙。
【発明の効果】
【0007】
本発明の紙は、CMCを含まない以外の条件は同じである紙と比較して、強度が向上している。本発明の紙は、古紙パルプを多く配合しても強度に優れている。本発明の紙は、段ボール、段ボール用ライナ、中しん原紙、紙器用板紙、製函用の板紙、積層合紙用の板紙等に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、パルプと、1%B型粘度が3mPa・s以上16,000mPa・s以下かつカルボキシメチル基置換度が0.65以上であるカルボキシメチルセルロースとを含有する紙に関する。
【0009】
・パルプ
パルプとしては、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、サルファイトパルプ(SP)等の木材の化学パルプ、グランドパルプ(GP)、リファイナグランドパルプ(RGP)、ストーングランドパルプ(SGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の木材の機械パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプ、古紙を原料とし、脱墨工程にて古紙に含まれるインキを除去した古紙パルプなど、公知のパルプを適宜配合して用いることができる。
【0010】
本発明の紙は、強度に優れているため、古紙パルプを多く配合することができ、パルプ全量に対して古紙パルプを50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことがさらに好ましく、90重量%以上、さらには100重量%とすることもできる。古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙等に印刷された古紙、および筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)等を使用することができる。
【0011】
・カルボキシメチルセルロース(CMC)
本発明は、1%B型粘度が3mPa・s以上16,000mPa・s以下かつカルボキシメチル基置換度(以下、DSともいう)が0.65以上であるCMCを使用する。
CMCの1%B型粘度が3mPa・s未満では、強度が向上しない場合があり、16,000mPa・sを超えると粘度が高くなりすぎて抄紙性が低下する場合がある。CMCの1%B型粘度は、50mPa・s以上10,000mPa・s以下であることが好ましく、90mPa・s以上7,000mPa・s以下であることがより好ましく、100mPa・s以上6,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。
CMCのDSが0.65未満では、強度が向上しない場合がある。CMCのDSの上限値は3である。CMCはアニオン性を有するため、後述するカチオン性定着剤を使用する場合は、カチオン性定着剤との凝集作用により紙の地合が悪化する場合がある。そのため、本発明で使用するCMCのDSは1.8以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましい。
【0012】
CMCの配合量は、CMCを配合していない紙と比較して強度が向上する範囲内であれば特に制限されないが、通常、パルプとCMCの合計100重量%に対してCMCを0.2重量%以上10重量%以下が好ましい。このCMCの配合量が0.2重量%未満では強度があまり向上しない場合があり、10重量%を超えても効果が飽和してそれ以上強度が向上しない場合があり、また、コストアップとなる。このCMCの配合量は、0.5重量%以上7重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以上5重量%以下であることがより好ましい。
【0013】
・カチオン性定着剤
本発明の紙は、カチオン性定着剤を含むことが好ましい。カチオン性定着剤を含むことにより、CMCを効果的にパルプに定着させることができる。カチオン性定着剤としては、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、カチオン化澱粉、カチオン性ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(ポリDADMAC)、ポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)、ポリエチレンイミン(PEI)等のカチオン性ポリマー等が挙げられる。
カチオン性定着剤の配合量は、その効果を発揮できる範囲内であれば特に制限されない。
【0014】
さらに、本発明の紙は、必要に応じて公知の填料、製紙用助剤を含むことができる。
填料としては、タルク、カオリン、焼成カオリン、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料等の公知の填料を使用することができる。
【0015】
製紙用助剤としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)等の各種の内添サイズ剤、ノニオン性、カチオン性、両性の各種歩留向上剤、濾水度向上剤、紙力向上剤、各種澱粉類、ポリアクリルアミド、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物及びこれらの誘導体あるいは変性物等、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等の塩基性アルミニウム化合物、水に易分解性のアルミナゾル等の水溶性アルミニウム化合物、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物、シリカゾル、消泡剤、着色染料、着色顔料、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が例示可能であり、必要に応じて適宜選択して使用可能である。
【0016】
本発明の紙の用途は特に制限されない。ただし、古紙パルプを多く含む場合は、異物混入のおそれがあるため、その用途は制限される場合がある。古紙パルプを含む場合は、段ボール、特に梱包用の段ボール用ライナ、中しん原紙、紙器用板紙、製函用の板紙、積層合紙用の板紙等として好適に用いることができる。
本発明の紙の坪量は、特に制限されないが、例えば、10g/m以上900g/m以下とすることができる。坪量は、その用途に応じて選択することができ、例えば、単層紙として用いる場合は10g/m以上500g/m以下、より好ましくは30g/m以上300g/m以下の範囲で適宜設定することができる。また、2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、一層が上記範囲でもよいが、全層の合計を70g/m以上900g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボール用ライナとして用いる場合は、70g/m以上550g/m以下とすることができる。
【0017】
紙の製造(抄紙)方法、抄紙機の型式は特に限定されるものではなく、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、ギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマー(オントップフォーマー)等、及びこれらを組み合わせた抄き合わせの抄紙機等を用いた公知の製造(抄紙)方法、抄紙機が選択可能である。また、抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙層の表面にアルカリ性薬剤を塗布してもよい。
【0018】
抄紙した後に、必要に応じて表面処理剤を塗布して外添することができる。表面処理剤を塗布する場合、紙の要求される品質に応じて、水溶性高分子物質、表面サイズ剤などの公知の表面処理薬品を単独または適宜配合して使用することができる。
表面処理剤を塗布するサイズプレスの型式は特に限定はなく、ツーロールサイズプレス、ゲートロールコーター、シムサイザー等の公知の装置を適宜用いて表面処理剤を外添することができる。カレンダーは、バイパスしてもよく、通常の操業範囲内で処理してもよい。
【実施例
【0019】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で得られた紙は、以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
・坪量:JIS P 8223を参考に測定した。
・バルク厚さ:JIS P 8118及びJIS P 8223を参考に測定した。
・バルク密度:JIS P 8118及びJIS P 8223を参考に坪量とバルク厚さから求めた。
・比引張強さ:JIS P 8113及びJIS P 8223を参考に測定した。
・比破裂強さ:JIS P 8131に従い測定した。
【0020】
「実施例1」
パルプとして、段ボール由来の古紙パルプ88重量%と、雑誌由来の古紙パルプ12重量%の混合物(CSF370ml)を用いた。このパルプ99.5重量%と、CMC(日本製紙株式会社製、サンローズF600LC、1%B型粘度6000mPa・s、DS0.7)0.5重量%とを水で1%濃度となるように混合し、3000rpmで30分撹拌した。次いで、硫酸バンド1重量%、乾燥紙力増強剤0.15重量%、歩留向上剤70ppm、コロイダルシリカ100ppmを加えて撹拌し、紙料とした。
得られた紙料を固形分濃度で0.7%程度に希釈後、JIS P 8222を参考にシート形成およびプレス、乾燥し、手抄き紙を製造した。
【0021】
「実施例2」
パルプとCMCとの割合を、それぞれ99重量%、1重量%とした以外は、実施例1と同様にして紙を得た。
「実施例3」
パルプとCMCとの割合を、それぞれ98重量%、2重量%とした以外は、実施例1と同様にして紙を得た。
「実施例4」
パルプとCMCとの割合を、それぞれ96重量%、4重量%とした以外は、実施例1と同様にして紙を得た。
【0022】
「実施例5」
CMC(日本製紙株式会社製、サンローズF1400MC、1%B型粘度14000mPa・s、DS0.75)を用いた以外は、実施例1と同様にして紙を得た。
「実施例6」
パルプとCMCとの割合を、それぞれ99重量%、1重量%とした以外は、実施例5と同様にして紙を得た。
「実施例7」
パルプとCMCとの割合を、それぞれ98重量%、2重量%とした以外は、実施例5と同様にして紙を得た。
【0023】
「比較例1」
CMCを配合しない以外は、実施例1と同様にして紙を得た。
【0024】
「実施例8」
パルプとして、段ボール由来の古紙パルプ73重量%、雑誌由来の古紙パルプ20重量%、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)7重量%の混合物(CSF390ml)を用い、CMC(日本製紙株式会社製、サンローズA10SH、1%B型粘度100mPa・s、DS1.4)を用いた以外は、実施例4と同様にして紙を得た。
「実施例9」
CMC(日本製紙株式会社製、サンローズF10LC、1%B型粘度100mPa・s、DS0.7)を用いた以外は、実施例8と同様にして紙を得た。
「実施例10」
CMC(日本製紙株式会社製、サンローズF350HC、1%B型粘度3500mPa・s、DS0.9)を用いた以外は、実施例8と同様にして紙を得た。
「実施例11」
CMC(日本製紙株式会社製、サンローズF600LC、1%B型粘度6000mPa・s、DS0.7)を用いた以外は、実施例8と同様にして紙を得た。
【0025】
「比較例2」
CMCを配合しない以外は、実施例8と同様にして紙を得た。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明である実施例1~11で得た紙は、比較例1、2で得たCMCを含まない紙と比較して、比破裂強さ、比引張強さが向上した。本発明により、古紙パルプを用いた紙の強度が向上できることが確かめられた。