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特許7501850タイヤのシミュレーション方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240611BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20240611BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240611BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240611BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G01M17/02
G06F30/10
G06F30/23
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020031511
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021133815
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】児玉 勇司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-037280(JP,A)
【文献】特開2019-096041(JP,A)
【文献】特開2018-096785(JP,A)
【文献】特開2008-249560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
G01M17/00-17/02
G06F30/10
30/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法であって、
コンピュータは、前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得し、
前記コンピュータは、前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接するときの前記タイヤの接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報から、前記ゴム摩擦情報を用いて前記接地面の各位置における摩擦係数を計算し、計算した前記摩擦係数を用いて前記タイヤのシミュレーションを行い、
前記ゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記粘弾性特性の情報を含むゴムモデルを、凹凸路面をモデル化した路面モデルに接地させて、前記ゴムモデルに与える負荷荷重と、前記ゴムモデルの、前記路面モデルに対して移動するときの滑り速度とを変更し、変更する度に前記路面モデルから前記ゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算することにより、作成される、ことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法であって、
コンピュータは、前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得し、
前記コンピュータは、前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接するときの前記タイヤの接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報を、前記シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって前記接地面の情報として取得し、取得した前記接地圧の情報及び前記滑り速度の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて、前記接地面全体における平均摩擦係数を計算し、前記平均摩擦係数を前記タイヤの前記路面に対する摩擦係数として用いて、前記タイヤの前記シミュレーションを行い、
前記ゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記粘弾性特性の情報を含むゴムモデルを、凹凸路面をモデル化した路面モデルに接地させて、前記ゴムモデルに与える負荷荷重と、前記ゴムモデルの、前記路面モデルに対して移動するときの滑り速度とを変更し、変更する度に前記路面モデルから前記ゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算することにより、作成される、ことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記シミュレーションを第1回目のシミュレーションとし、前記第1回目のシミュレーションの計算結果を用いてさらに前記接地面全体における平均摩擦係数を計算することにより、前記タイヤの前記シミュレーションを少なくとも2回以上行い、
N回目(Nは2以上の整数)の前記シミュレーションを行う際、(N-1)回目の前記シミュレーションで計算した前記接地面の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて前記接地面全体の平均摩擦係数を計算し、計算した前記接地面全体の平均摩擦係数を用いて、前記N回目のシミュレーションを行うこと、を少なくとも1回以上行う、請求項2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記ゴム摩擦情報は、前記タイヤの前記トレッドゴムの粘弾性特性に応じて定められている、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記ゴム摩擦情報を1回目のゴム摩擦情報とし、前記1回目のゴム摩擦情報を用いて、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化したゴムモデルにより、ゴム摩擦情報を少なくとも1回以上計算し、
計算するM回目(Mは2以上の整数)のゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記ゴムの粘弾性特性の情報を含むM回目のゴムモデルを、凹凸路面をモデル化したM回目の路面モデルに接地させて、前記M回目のゴムモデルに与える負荷荷重と、前記M回目のゴムモデルの、前記M回目の路面モデルに対する滑り速度とを変更し、変更する度に、前記M回目のゴムモデルが前記M回目の路面モデルに接する各位置に前記(M-1)回目のゴム摩擦情報を適用して計算される各位置における摩擦係数を用いて、前記M回目のゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算して前記M回目のゴムモデルと前記M回目の路面モデルとの間の摩擦係数を計算することにより、作成され、
前記シミュレーションでは、最後の回に計算したゴム摩擦情報が用いられる、請求項1~のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項6】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法であって、
コンピュータは、前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得し、
前記コンピュータは、前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接するときの前記タイヤの接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報から、前記ゴム摩擦情報を用いて前記接地面の各位置における摩擦係数を計算し、計算した前記摩擦係数を用いて前記タイヤのシミュレーションを行い、
前記ゴム摩擦情報を1回目のゴム摩擦情報とし、前記1回目のゴム摩擦情報を用いて、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化したゴムモデルにより、ゴム摩擦情報を少なくとも1回以上計算し、
計算するM回目(Mは2以上の整数)のゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記ゴムの粘弾性特性の情報を含むM回目のゴムモデルを、凹凸路面をモデル化したM回目の路面モデルに接地させて、前記M回目のゴムモデルに与える負荷荷重と、前記M回目のゴムモデルの、前記M回目の路面モデルに対する滑り速度とを変更し、変更する度に、前記M回目のゴムモデルが前記M回目の路面モデルに接する各位置に前記(M-1)回目のゴム摩擦情報を適用して計算される各位置における摩擦係数を用いて、前記M回目のゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算して前記M回目のゴムモデルと前記M回目の路面モデルとの間の摩擦係数を計算することにより、作成され、
前記シミュレーションでは、最後の回に計算したゴム摩擦情報が用いられる、ことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
【請求項7】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法であって、
コンピュータは、前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得し、
前記コンピュータは、前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接するときの前記タイヤの接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報を、前記シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって前記接地面の情報として取得し、取得した前記接地圧の情報及び前記滑り速度の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて、前記接地面全体における平均摩擦係数を計算し、前記平均摩擦係数を前記タイヤの前記路面に対する摩擦係数として用いて、前記タイヤの前記シミュレーションを行い、
前記ゴム摩擦情報を1回目のゴム摩擦情報とし、前記1回目のゴム摩擦情報を用いて、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化したゴムモデルにより、ゴム摩擦情報を少なくとも1回以上計算し、
計算するM回目(Mは2以上の整数)のゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記ゴムの粘弾性特性の情報を含むM回目のゴムモデルを、凹凸路面をモデル化したM回目の路面モデルに接地させて、前記M回目のゴムモデルに与える負荷荷重と、前記M回目のゴムモデルの、前記M回目の路面モデルに対する滑り速度とを変更し、変更する度に、前記M回目のゴムモデルが前記M回目の路面モデルに接する各位置に前記(M-1)回目のゴム摩擦情報を適用して計算される各位置における摩擦係数を用いて、前記M回目のゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算して前記M回目のゴムモデルと前記M回目の路面モデルとの間の摩擦係数を計算することにより、作成され、
前記シミュレーションでは、最後の回に計算したゴム摩擦情報が用いられる、ことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
【請求項8】
前記M回目のゴムモデルのモデル寸法は、前記(M-1)回目のゴムモデルのモデル寸法に比べて大きい、請求項5~7の何れか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項9】
前記ゴムモデル及び前記路面モデルは、
前記M回目のゴムモデルに与える負荷荷重は、前記(M-1)回目のゴムモデルに与える負荷荷重に比べて大きいこと、
前記M回目の路面モデルにおける表面凹凸の凹凸寸法は、前記(M-1)回目の路面モデルにおける表面凹凸の凹凸寸法に比べて大きいこと、及び
前記M回目の路面モデルにおける表面凹凸の周期は、前記(M-1)モデルにおける表面凹凸の周期に比べて長いこと、の少なくとも1つを満足する、請求項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項10】
前記路面は、実際の舗装路面の凹凸を再現したものである、請求項1~のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項11】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせるプログラムであって、
前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を前記コンピュータに取得させる手順と、
前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報から、前記ゴム摩擦情報を用いて前記コンピュータに前記接地面の各位置における摩擦係数を計算させ、計算した前記摩擦係数を用いて前記コンピュータに前記タイヤのシミュレーションを行わせる手順と、
を備え
前記ゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記粘弾性特性の情報を含むゴムモデルを、凹凸路面をモデル化した路面モデルに接地させて、前記ゴムモデルに与える負荷荷重と、前記ゴムモデルの、前記路面モデルに対して移動するときの滑り速度とを変更し、変更する度に前記路面モデルから前記ゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算することにより、作成される、ことを特徴とするプログラム。
【請求項12】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせるプログラムであって、
前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を前記コンピュータに取得させる手順と、
前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報を、前記シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって前記接地面の情報として前記コンピュータに取得させ、取得した前記接地圧の情報及び前記滑り速度の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて、前記接地面全体における平均摩擦係数を前記コンピュータに計算させ、前記平均摩擦係数を前記タイヤの前記路面に対する摩擦係数として用いて、前記コンピュータに前記タイヤの前記シミュレーションを行わせる手順と、
を備え
前記ゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記粘弾性特性の情報を含むゴムモデルを、凹凸路面をモデル化した路面モデルに接地させて、前記ゴムモデルに与える負荷荷重と、前記ゴムモデルの、前記路面モデルに対して移動するときの滑り速度とを変更し、変更する度に前記路面モデルから前記ゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算することにより、作成される、ことを特徴とするプログラム。
【請求項13】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせるプログラムであって、
前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を前記コンピュータに取得させる手順と、
前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報から、前記ゴム摩擦情報を用いて前記コンピュータに前記接地面の各位置における摩擦係数を計算させ、計算した前記摩擦係数を用いて前記コンピュータに前記タイヤのシミュレーションを行わせる手順と、
を備え、
前記ゴム摩擦情報を1回目のゴム摩擦情報とし、前記1回目のゴム摩擦情報を用いて、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化したゴムモデルにより、ゴム摩擦情報を少なくとも1回以上計算し、
計算するM回目(Mは2以上の整数)のゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記ゴムの粘弾性特性の情報を含むM回目のゴムモデルを、凹凸路面をモデル化したM回目の路面モデルに接地させて、前記M回目のゴムモデルに与える負荷荷重と、前記M回目のゴムモデルの、前記M回目の路面モデルに対する滑り速度とを変更し、変更する度に、前記M回目のゴムモデルが前記M回目の路面モデルに接する各位置に前記(M-1)回目のゴム摩擦情報を適用して計算される各位置における摩擦係数を用いて、前記M回目のゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算して前記M回目のゴムモデルと前記M回目の路面モデルとの間の摩擦係数を計算することにより、作成され、
前記シミュレーションでは、最後の回に計算したゴム摩擦情報が用いられる、ことを特徴とするプログラム。
【請求項14】
タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせるプログラムであって、
前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を前記コンピュータに取得させる手順と、
前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報を、前記シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって前記接地面の情報として前記コンピュータに取得させ、取得した前記接地圧の情報及び前記滑り速度の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて、前記接地面全体における平均摩擦係数を前記コンピュータに計算させ、前記平均摩擦係数を前記タイヤの前記路面に対する摩擦係数として用いて、前記コンピュータに前記タイヤの前記シミュレーションを行わせる手順と、
を備え、
前記ゴム摩擦情報を1回目のゴム摩擦情報とし、前記1回目のゴム摩擦情報を用いて、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化したゴムモデルにより、ゴム摩擦情報を少なくとも1回以上計算し、
計算するM回目(Mは2以上の整数)のゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記ゴムの粘弾性特性の情報を含むM回目のゴムモデルを、凹凸路面をモデル化したM回目の路面モデルに接地させて、前記M回目のゴムモデルに与える負荷荷重と、前記M回目のゴムモデルの、前記M回目の路面モデルに対する滑り速度とを変更し、変更する度に、前記M回目のゴムモデルが前記M回目の路面モデルに接する各位置に前記(M-1)回目のゴム摩擦情報を適用して計算される各位置における摩擦係数を用いて、前記M回目のゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算して前記M回目のゴムモデルと前記M回目の路面モデルとの間の摩擦係数を計算することにより、作成され、
前記シミュレーションでは、最後の回に計算したゴム摩擦情報が用いられる、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法及びこのシミュレーション方法を行うプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
検討タイヤのタイヤ性能を、タイヤを試作することなく予測評価するために、タイヤのシミュレーションがコンピュータを用いて行われる。例えば、有限要素法を利用したシミュレーションが頻繁に行われる。
具体的には、検討タイヤを有限要素法によりモデル化したタイヤモデルに内圧充填処理をし、路面モデルに設定した負荷荷重で接地させる処理をし、さらに、タイヤモデルを転動させる処理を行う。この時、路面モデルとタイヤモデルの間には摩擦係数が付与される。これにより、検討タイヤの転がり抵抗、コーナリング特性、制駆動特性、あるいは、摩耗特性を予測評価することができる。
【0003】
このようなタイヤモデルを用いたシミュレーションにおいて、摩擦係数には、予め設定された値が与えられ場合が多い。例えば、タイヤ性能のシミュレーション方法において、タイヤ有限要素モデルの内圧、軸荷重、走行速度、スリップ角、キャンバー角の他に、タイヤ有限要素モデルと仮想路面との間の摩擦係数を含む走行条件を設定して走行シミュレーション処理が行われる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3431818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記シミュレーション方法によれば、コーナリング特性あるいは制駆動特性は、摩擦エネルギを予測評価することができる。
しかし、タイヤと路面との間の摩擦係数の値は、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定される場合が多く、トレッドゴムの種類が変化すると粘弾性特性も変わるため、計算結果が実測値と合うように摩擦係数の値を試行錯誤して再設定する必要がある。
このため、摩擦係数の値は、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定されることなく、トレッドゴムの粘弾性特性を利用して、タイヤと路面との間の摩擦係数の値を設定することが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータがタイヤのシミュレーションを行う際に、摩擦係数の値を、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定する必要がなく、ゴムの粘弾性特性を利用して摩擦係数の値を設定してシミュレーションを行うことができる、タイヤのシミュレーション方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法である。当該方法では、
コンピュータは、前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得し、
前記コンピュータは、前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接するときの前記タイヤの接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報から、前記ゴム摩擦情報を用いて前記接地面の各位置における摩擦係数を計算し、計算した前記摩擦係数を用いて前記タイヤのシミュレーションを行う。
【0008】
本発明の他の一態様も、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータが行うタイヤのシミュレーション方法である。当該方法では、
コンピュータは、前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得し、
前記コンピュータは、前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接するときの前記タイヤの接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報を、前記シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって前記接地面の情報として取得し、取得した前記接地圧の情報及び前記滑り速度の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて、前記接地面全体における平均摩擦係数を計算し、前記平均摩擦係数を前記タイヤの前記路面に対する摩擦係数として用いて、前記タイヤの前記シミュレーションを行う。
【0009】
前記シミュレーションを第1回目のシミュレーションとし、前記第1回目のシミュレーションの計算結果を用いてさらに前記接地面全体における平均摩擦係数を計算することにより、前記タイヤの前記シミュレーションを少なくとも2回以上行い、
N回目(Nは2以上の整数)の前記シミュレーションを行う際、(N-1)回目の前記シミュレーションで計算した前記接地面の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて前記接地面全体の平均摩擦係数を計算し、計算した前記接地面全体の平均摩擦係数を用いて、前記N回目のシミュレーションを行うこと、を少なくとも1回以上行う、ことが好ましい。
【0010】
前記ゴム摩擦情報は、前記タイヤの前記トレッドゴムの粘弾性特性に応じて定められている、ことが好ましい。
【0011】
前記ゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記粘弾性特性の情報を含むゴムモデルを、凹凸路面をモデル化した路面モデルに接地させて、前記ゴムモデルに与える負荷荷重と、前記ゴムモデルの、前記路面モデルに対して移動するときの滑り速度とを変更し、変更する度に前記路面モデルから前記ゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算することにより、作成される、ことが好ましい。
【0012】
前記ゴム摩擦情報を1回目のゴム摩擦情報とし、前記1回目のゴム摩擦情報を用いて、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化したゴムモデルにより、ゴム摩擦情報を少なくとも1回以上計算し、
計算するM回目(Mは2以上の整数)のゴム摩擦情報は、前記トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、前記ゴムの粘弾性特性の情報を含むM回目のゴムモデルを、凹凸路面をモデル化したM回目の路面モデルに接地させて、前記M回目のゴムモ事前デルに与える負荷荷重と、前記M回目のゴムモデルの、前記M回目の路面モデルに対する滑り速度とを変更し、変更する度に、前記M回目のゴムモデルが前記M回目の路面モデルに接する各位置に前記(M-1)回目のゴム摩擦情報を適用して計算される各位置における摩擦係数を用いて、前記M回目のゴムモデル全体が受ける移動方向反力を摩擦力として計算して前記M回目のゴムモデルと前記M回目の路面モデルとの間の摩擦係数を計算することにより、作成され、
前記シミュレーションでは、最後の回に計算したゴム摩擦情報が用いられる、ことが好ましい。
【0013】
前記M回目のゴムモデルのモデル寸法は、前記(M-1)回目のゴムモデルのモデル寸法に比べて大きい、ことが好ましい。
【0014】
前記ゴムモデル及び前記路面モデルは、
前記M回目のゴムモデルに与える負荷荷重は、前記(M-1)回目のゴムモデルに与える負荷荷重に比べて大きいこと、
前記M回目の路面モデルにおける表面凹凸の凹凸寸法は、前記(M-1)回目の路面モデルにおける表面凹凸の凹凸寸法に比べて大きいこと、及び
前記M回目の路面モデルにおける表面凹凸の周期は、前記(M-1)モデルにおける表面凹凸の周期に比べて長いこと、の少なくとも1つを満足する、ことが好ましい。
【0015】
前記路面は、実際の舗装路面の凹凸を再現したものである、ことが好ましい。
【0016】
本発明の他の一態様は、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせるプログラムである。当該プログラムは、
前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を前記コンピュータに取得させる手順と、
前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報から、前記ゴム摩擦情報を用いて前記コンピュータに前記接地面の各位置における摩擦係数を計算させ、計算した前記摩擦係数を用いて前記コンピュータに前記タイヤのシミュレーションを行わせる手順と、
を備える。
【0017】
本発明の他の一態様も、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせるプログラムである。当該プログラムは、
前記タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの前記ゴムの接地圧、及び、前記ゴムが前記路面に対して滑り速度を持って滑るときの前記ゴムの滑り速度、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を前記コンピュータに取得させる手順と、
前記タイヤのシミュレーションを行うとき、前記タイヤが前記路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び前記接地面の各位置における前記路面に対する滑り速度の情報を、前記シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって前記接地面の情報として前記コンピュータに取得させ、取得した前記接地圧の情報及び前記滑り速度の情報から前記ゴム摩擦情報を用いて、前記接地面全体における平均摩擦係数を前記コンピュータに計算させ、前記平均摩擦係数を前記タイヤの前記路面に対する摩擦係数として用いて、前記コンピュータに前記タイヤの前記シミュレーションを行わせる手順と、
を備える。
【発明の効果】
【0018】
上述のタイヤのシミュレーション方法及びプログラムによれば、タイヤと路面との間の摩擦係数を用いてコンピュータがタイヤのシミュレーションを行う際に、摩擦係数の値を、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定する必要がなく、ゴムの粘弾性特性を利用して摩擦係数の値を設定してシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態のタイヤのシミュレーション方法を実施するタイヤシミュレーション装置の機能ブロック図である。
図2】(a)は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で得られるゴム摩擦情報の一例をグラフ化して示す図であり、(b)は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で用いるゴムモデルを路面モデルに滑らせた状態を説明する図である。
図3】一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で用いるタイヤモデル及び路面モデルの例を示す図である。
図4】一実施形態のタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
図5図4に示すステップST10~ST12の処理を詳細に説明する一例のフロー図である。
図6】一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で用いる平均摩擦係数の計算方法の一例を説明する図である。
図7】一実施形態のタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
図8】一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で用いるゴム摩擦情報の作成方法の一例を示す図である。
図9】一実施形態のタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
図10図4に示す平均摩擦係数を用いて行うタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法について詳細に説明する。図1は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法を実施するタイヤシミュレーション装置10の機能ブロック図である。
【0021】
タイヤシミュレーション装置10は、CPU12、RAM14、及びROM16を備え、マウス・ディスプレイの入力操作デバイス18及びディスプレイ20が接続されたコンピュータで構成される。ROM16には、コンピュータプログラムが記憶されており、CPU12がこのコンピュータプログラムを呼び出して起動することにより、タイヤのシミュレーション方法を実施することができるように構成される。具体的には、コンピュータプログラムを起動することにより、ゴム摩擦情報作成部22、ゴムモデル計算部24、及びタイヤシミュレーション計算部26がソフトウェアモジュール28として形成される。したがって、ゴム摩擦情報作成部22、ゴムモデル計算部24、及びタイヤシミュレーション計算部26の動作は、実質的にCPU12が司る。
RAM14には、ゴム摩擦情報作成部22、ゴムモデル計算部24、及びタイヤシミュレーション計算部26で計算された演算結果及び計算途中データが一時的に記憶される。
【0022】
ゴム摩擦情報作成部22は、タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの接地圧、及び、タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムの路面に対して滑り速度を持って滑るときのゴムの滑り速度に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を作成し取得する部分である。
図2(a)は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で得られるゴム摩擦情報の一例をグラフ化して示す図である。横軸に滑り速度v及び接地圧pをとり、縦軸に摩擦係数μを採ってグラフ化している。摩擦係数μは、滑り速度v及び接地圧pに対して依存する。ゴム摩擦情報は、このような滑り速度vの値及び接地圧pの値と、摩擦係数μの値の関係が定められた情報である。言い換えると、滑り速度vの値及び接地圧pの値が入力されると、摩擦係数μを出力するものであり、また、滑り速度vの値及び接地圧pの値を用いて、ゴム摩擦情報を参照することにより、摩擦係数μを取得できる参照テーブルともいえる。
【0023】
このようなゴム摩擦情報は、予めゴムサンプルを路面上で滑らせることにより取得することができる。
ゴム摩擦情報は、ゴムの種類毎に記憶保持しており、ゴム種を入力操作デバイス18から入力することにより、ゴム摩擦情報作成部22は、ゴム摩擦情報を取得することができる。
また、ゴムの摩擦係数μは、ゴムの粘弾性特性に大きく依存するので、ゴムの粘弾特性を区分けして、区分けした粘弾性特性ごとにゴム摩擦情報を記憶保持しておき、ゴムの粘弾性特性を入力操作デバイス18から入力することにより、入力した粘弾性特性に対応したゴム摩擦情報が取得できるように構成しておくことも好ましい。すなわち、ゴム摩擦情報は、シミュレーションしようとするタイヤのトレッドゴムの粘弾性特性に応じて定められていることが好ましい。
また、ゴム摩擦情報は、予めゴムサンプルを路面上で滑らせることにより取得する場合に限らず、ゴムをモデル化したゴムモデルを用いて路面上をゴムが滑る動作を再現するゴムモデル計算により作成してもよい。
【0024】
図1に示すタイヤシミュレーション装置10では、ゴムをモデル化したゴムモデルを用いて路面上をゴムが滑る動作を再現するゴムモデル計算を行うことによりゴム摩擦情報作成部22はゴム摩擦情報を取得する。このため、タイヤシミュレーション装置10は、ゴムモデル計算部24を備える。
図2(b)は、ゴムモデルを路面モデルに滑らせた状態を説明する図である。図2(b)に示す例では、ゴムモデル計算を、有限要素法を用いて行う例である。有限要素法に代えて、有限体積法、差分法、境界要素法等の公知の手法を用いることができる。
図2(b)に示すように、ゴムモデル計算部24は、複数の要素で構成されたゴムモデル30を作成し、各要素に粘弾性特性を与えて、予め定めた負荷荷重wを与えて路面モデル40に接触させて、予め設定した滑り速度vを与えて路面モデル40に対してゴムモデル30を移動させる。路面モデル40の路面表面は、例えば、所定の振幅、周期で変動させる。このようなゴムモデル30を用いた計算は、Abaqus等のソフトウェアプログラムを用いて行うことができる。
【0025】
このとき、ゴムモデル30は、ゴムの粘弾性特性によってゴムモデル40の移動方向と反対側に、路面モデル40から移動方向反力Fを受ける。ゴムモデル計算部24は、この移動方向反力Fを摩擦力として計算する。この摩擦力Fを負荷荷重wで割ることにより摩擦係数を求めることができる。接地圧pは、負荷荷重wをゴムモデル30が路面モデル40と接触する面の面積で割ることにより求めることができる。
【0026】
すなわち、一実施形態によれば、ゴムモデル計算部24は、シミュレーションしようとするタイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、粘弾性特性の情報を含むゴムモデル30を、凹凸路面をモデル化した路面モデル40に接地させて、ゴムモデル30に与える負荷荷重wと、ゴムモデル30の、路面モデル40に対して移動するときの滑り速度vとを変更し、変更する度に路面モデル40からゴムモデル30全体が受ける移動方向反力Fを摩擦力として計算することにより、ゴム摩擦情報を作成する。
なお、ゴムモデル30は、例えば10mm以下のサイズのゴムをモデル化したミクロモデルであることが好ましい。この場合、負荷荷重wの値は、タイヤをモデル化したタイヤモデルが路面モデルと接する際の負荷荷重の値に比べて100分の1以下である。
【0027】
上記ゴムモデル30は、2次元モデルであってもよいし、図2(b)の紙面の奥行方向に所定の幅を有する3次元ゴムモデルであってもよい。また、ゴムモデル30の要素のサイズは、均一であることが好ましい。
ゴムモデル30が滑り速度vで移動するときの計算では、ゴムモデル30の移動方向前端の部分と後端の部分に端部の効果が出ず、ゴムが移動方向に連続して延びる長尺状のゴムをモデル化したものとして計算できるように、ゴムモデル30に周期境界条件を与えて計算することが好ましい。周期境界条件は、ゴムモデル30の移動方向前端の部分と後端の部分の形状を同じになるように形状の変形を拘束する条件である。ゴムモデル30の各要素に付与する粘弾性特性のパラメータは、例えば、Prony級数等で表した粘弾性モデルの値である。
路面モデル40における凹凸は、正弦波を用いた周期的な凹凸であり、そのときの凹凸を変化させてもよい。また、一実施形態によれば、路面モデル40における凹凸は、実際の路面表面の凹凸をフーリエ変換してゴムモデル30のサイズに対応したミクロスケールの正弦波振動の周期と振幅を用いてもよい。
【0028】
ゴムモデル計算部24は、滑り速度v及び負荷荷重wを種々変更して、種々の条件での摩擦係数μを計算する。路面モデル40を正弦波のように所定の周期で変動させている場合、滑り速度vは、単位時間当たりの移動距離が路面モデル40の上記周期の10~1000倍になるように変化させることが好ましい。
こうして作成されるゴム摩耗情報は、後述するタイヤのシミュレーションの計算の際に用いる摩擦係数の計算に用いてもよいが、ゴム摩擦情報は、ミクロスケールのゴムモデル30とこのスケールに対応した路面表面の凹凸を持った路面モデル40を用いるので、より精度の高い摩擦係数及びシミュレーション結果を得るためには、ミクロスケールのゴムモデル30及び路面モデル40より大きなゴムモデル及び路面モデルを用いて、ゴム摩擦情報を再度作成してもよい。この場合、ゴムモデル計算で得られたゴムモデルと路面モデルとの間に生じる移動方向反力Fと与えた負荷荷重wとから摩擦係数μを計算することにより、より大きなスケールにおけるゴムモデルの摩擦係数μを算出するために用いるゴム摩擦情報を作成することが好ましい。このようにゴムモデルのサイズを徐々に大きくして、タイヤのシミュレーションに用いるトレッドゴムのスケールに対応したゴムモデルを用いて作成したゴム摩擦情報を作成することが好ましい。
【0029】
タイヤシミュレーション計算部26は、タイヤを再現したタイヤモデルと、路面を再現した路面モデルとを作成し、タイヤモデルにタイヤのゴムに対応する材料定数を与えて、内圧充填、接地、及び転動を再現した内圧充填処理、接地処理、及び転動処理を行ってシミュレーションを行う。図3は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で用いるタイヤモデル及び路面モデルの例を示す図である。タイヤモデル50を用いたシミュレーションでは、例えば有限要素法を用いたモデルを用いて上記シミュレーションを行うことが好ましい。有限要素法を用いたタイヤモデル50は、複数のソリッド要素及びシェル要素と複数の節点から構成され、各要素に材料定数を与えたものである。図3に示すタイヤモデル50は、3次元タイヤモデルである。
【0030】
タイヤシミュレーション計算部26は、シミュレーションにおいて、所定の内圧(例えば、230kPa)、所定の負荷荷重(例えば、4.5kN)、及びスリップ角0度の条件でタイヤモデル50が転動するときの転がり抵抗を計算して転がり抵抗の大小を評価し、あるいは、所定の負荷荷重及びスリップ角0度の条件でタイヤモデル50が転動するときのタイヤモデル50が路面モデル60から受ける滑り摩擦エネルギを計算して摩耗特性の優劣を評価し、あるいは、所定の負荷荷重及びスリップ角非0度、例えば1度の条件でタイヤモデル50が転動するときの横力を計算して、コーナリング特性の優劣を評価し、スリップ角0度及び回転方向の所定のスリップ率の条件でタイヤモデル50が転動するときの制動力あるいは駆動力を計算して制駆動特性の優劣を評価する。このような種々のシミュレーションを以下、単にシミュレーションという。なお、シミュレーションは、周知の方法で行われる。タイヤの転動を再現する転動処理は、時系列的に所定の時間刻み幅を設けて逐次シミュレーションの時間を前進させて行われる。
【0031】
上述のタイヤのシミュレーション方法では、タイヤモデル50のトレッドゴムが路面モデル60と接する各位置(各要素)に、摩擦係数μを付与してシミュレーションを行うが、タイヤモデル50が路面モデル60と接する接地面に対して一律に1つの平均摩擦係数を与えてシミュレーション計算をしてもよい。
【0032】
図4は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
ゴムモデル計算部24は、設定した負荷荷重wと、ゴムモデル30が路面モデル40に接する面積とを用いて得られる接地圧pの情報と、設定した滑り速度vとの入力を受ける(ステップST10)。これにより、ゴムモデル計算部24は、移動方向反力Fを摩擦力として計算し、ゴム摩擦情報作成部22は、摩擦係数μを算出する。負荷荷重wの情報と、滑り速度vを種々変更して、ゴムモデル計算部24が移動方向反力Fを計算する度に、ゴム摩擦情報作成部22は、摩擦係数μを算出する。これにより、ゴム摩擦情報作成部22は、ゴム摩擦情報を取得する(ステップST12)。
タイヤシミュレーション計算部26は、得られたゴム摩擦情報の入力を受け(ステップST14)、ゴム摩擦情報と、図3に示すようなタイヤモデル50及び路面モデル60と、を用いて、路面モデル60に接地するタイヤモデル50の各位置の接地圧及び滑り速度の情報を算出しながら、各位置の摩擦係数を算出しながら、タイヤのシミュレーションを行う(ステップST16)。
【0033】
図5は、図4に示すステップST10~ST12の処理を詳細に説明する一例のフロー図である。
ゴム摩擦情報作成部22は、トレッドゴムの粘弾性特性の入力を受ける(ステップST40)。粘弾性特性の入力は、例えば、入力操作デバイス18を通して操作者により行われる。
次に、ゴムモデル計算部24は、図2(b)に示すようなゴムモデル80を作成して、トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムのモデル化を行う(ステップST42)。
ゴムモデル計算部24は、ゴムモデル30を路面モデル40に接地させて(ステップST44)、その時、ゴムモデル30は、負荷荷重w及び滑り速度vの入力を受ける(ステップST46)。負荷荷重w及び滑り速度vの入力は、ゴム摩擦情報作成部22において、予め設定された値である。
次に、ゴムモデル計算部24は、路面モデル40からゴムモデル30全体が受ける移動方向反力Fを計算する。ゴム摩擦情報作成部22は、計算した移動方向反力Fを用いて摩擦係数μを算出する(ステップST48)。ゴム摩擦情報作成部22は、さらに、荷荷重w及び滑り速度vを種々変更し、その度に、ゴムモデル計算部24が移動方向反力Fを計算して、摩擦係数μを算出することにより、ゴム摩擦情報を取得する(ステップST12)。タイヤシミュレーション計算部26は、得られたゴム摩擦情報の入力を受ける(ステップST14)。
【0034】
このように、タイヤのシミュレーション方法では、タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときの接地圧p及び、ゴムが路面に対して滑り速度を持って滑るときのゴムの滑り速度に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報を取得する。タイヤのシミュレーションを行うとき、タイヤが路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び接地面の各位置における路面に対する滑り速度の情報から、ゴム摩擦情報を用いて接地面の各位置における摩擦係数μを計算し、計算した摩擦係数μを用いてタイヤのシミュレーションを行う。このため、摩擦係数μの値を、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定する必要はなく、ゴムの粘弾性特性を利用して摩擦係数μの値を設定してタイヤのシミュレーションを行うことができる。
【0035】
図6は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で用いる平均摩擦係数の計算方法の一例を説明する図である。
タイヤシミュレーション計算部26が、タイヤのシミュレーションを行うとき、タイヤが路面と接する接地面の各位置における接地圧の情報及び接地面の各位置における路面に対する滑り速度の情報を、シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって接地面の情報(接地圧の情報、滑り速度の情報)として取得する。タイヤシミュレーション計算部26は、さらにこの取得した接地圧pの情報及び滑り速度vの情報からゴム摩擦情報を用いて、接地面全体における平均摩擦係数の値を1つ計算し、この計算した1つの平均摩擦係数の値を、タイヤモデルに与えてシミュレーションを行う。
【0036】
図7は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
ゴムモデル計算部24は、設定した負荷荷重wと、ゴムモデル30が路面モデル40に接する面積とを用いて得られる接地圧pの情報と、設定した滑り速度vとの入力を受ける(ステップST10)。これにより、ゴムモデル計算部24は、移動方向反力Fを摩擦力として計算する。ゴム摩擦情報作成部22は、さらに、荷荷重w及び滑り速度vを種々変更し、その度に、ゴムモデル計算部24が移動方向反力Fを計算して、摩擦係数μを算出することにより、ゴム摩擦情報を取得する(ステップST12)。
タイヤシミュレーション計算部26は、得られたゴム摩擦情報を取得し(ステップST14)、ゴム摩擦情報と、タイヤのシミュレーションモデルと、を用いて、タイヤの事前シミュレーションを行う(ステップST20)を行う。この事前シミュレーションにより、タイヤシミュレーション計算部26は、新たな接地圧及び新たな滑り速度の情報を取得する(ステップST22)。さらに、タイヤシミュレーション計算部26は、接地面の各位置における摩擦係数を算出し(ステップST24)、接地面全体における平均摩擦係数の値を1つ計算する(ステップST26)。タイヤシミュレーション計算部26は、この計算した1つの平均摩擦係数の値と、図3に示すようなタイヤモデル50及び路面モデル60と、を用いて、タイヤのシミュレーションを行う(ステップST28)。
【0037】
なお、事前シミュレーションでは、例えば、有限要素法を用いてタイヤをモデル化したタイヤモデルを用いて、路面モデルに接地させることにより、図6に示すような接地圧の分布を計算することができる。したがって、この接地圧pの情報と滑り速度vの情報から、ゴム摩擦情報を用いて、平均摩擦係数の値を計算することができる。平均摩擦係数は、例えば、各要素における接地圧の値と滑り速度の値から各要素における摩擦係数μを求め、この摩擦係数μを接地面に該当する各要素の面積で重みづけ平均することにより得られる。
事前シミュレーションでは、事前シミュレーションに用いるタイヤのシミュレーションモデルは、図3に示すような、節点数及び要素数が多い詳細なモデルでなくてもよく、簡素なモデルであってもよい。この場合においても、摩擦係数μの値を、シミュレーションの計算結果が実測値に合うように設定する必要はなく、ゴムの粘弾性特性を利用して摩擦係数μの値を設定してタイヤのシミュレーションを行うことができる。このように、平均摩擦係数を計算するので、タイヤのシミュレーションを行う場合、計算時間を短くすることができ、計算の効率化が期待できる。
なお、滑り速度vの情報は得にくいことから、滑り速度vの情報は、タイヤの転動シミュレーションを概略の摩擦係数を与えて行うことによって得られる、路面に対する滑り速度の情報を用いてもよい。
【0038】
図8は、一実施形態のタイヤのシミュレーション方法で用いるゴム摩擦情報の作成方法の一例を示す図である。
図8に示すように、最初に用いる粘弾性特性を付与されたゴムモデル80は、きわめてスケールの小さいゴムモデルであり、例えば、横方向の寸法を0.05mm、縦方向の寸法を0.03mmとし、負荷荷重wを例えば0.01~1Nとし、滑り速度vを0.1~10mm/秒とし、路面モデル90の凹凸の振幅を0.001mmとする。ゴムモデル80は、例えば有限要素法で作成される。ゴム摩擦情報作成部22は、このようなゴムモデル80及び路面モデル90から計算される移動方向反力Fを設定した負荷荷重wで割ることにより摩擦係数μを計算する。移動方向反力Fの計算も、例えば有限要素法で行われる。ゴム摩擦情報作成部22は、さらに、負荷荷重w及び滑り速度vを種々変化させることにより、その度摩擦係数μを計算することにより、1回目ゴム摩擦擦情報を取得する。
【0039】
さらに、ゴムモデル計算部24は、上記ゴムモデル80及び路面モデル90に比べてスケールの大きい、粘弾性特性を付与されたゴムモデル80及び路面モデル90を作成して、負荷荷重w及び滑り速度vの値を負荷荷重w及び滑り速度vの値に比べて大きくした条件で計算し、ゴム摩擦情報作成部22は、摩擦係数μを求める。ゴムモデル80も、例えば有限要素法で作成される。このとき、ゴムモデル80が路面モデル90と接するときの各位置の接地圧pが計算される。この接地圧pの値と設定した滑り速度vの値から、1回目ゴム摩擦情報を用いて各位置における摩擦係数μを求める。
ゴムモデル計算部24は、求めたゴムモデル80の各位置における摩擦係数μをゴムモデル80に与えてゴムモデル80を路面モデル90に対して設定した滑り速度vで移動させて、移動方向反力Fを計算する。ゴム摩擦情報作成部22は、この移動方向反力Fを負荷荷重wで割ることにより、ゴムモデル80全体における摩擦係数μを求める。ゴムモデル80が路面モデル90と接するときの各位置の接地圧の計算及び移動方向反力Fの計算も、例えば有限要素法で行われる。この時に求まる摩擦係数μは、1回目ゴム摩擦情報から得られる摩擦係数μから変更される。これは、ゴムモデル80においてスケールが大きくなることによりゴムの粘弾性特性も変化することに起因する。ゴム摩擦情報作成部22は、負荷荷重w及び滑り速度vを種々変化させる度に摩擦係数μを計算することにより、2回目ゴム摩擦情報を取得する。2回目ゴム摩擦情報における圧力pは、負荷荷重wを、ゴムモデル80が路面モデル90に接する面の面積で割ることにより求められる。
さらに、ゴムモデル計算部22は、2回目ゴム摩擦情報を用いて、ゴムモデル80及び路面モデル90に比べてスケールの大きなゴムモデル80及び路面モデル90を作成し、ゴムモデル80及び路面モデル90を用いて、ゴムモデル80及び路面モデル90の計算と同様の計算を行うことにより、ゴム摩擦情報作成部22は、3回目ゴム摩擦情報を取得する。
【0040】
図9は、上述の実施形態のタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
ゴム摩擦情報作成部22は、トレッドゴムの粘弾性特性の入力を受ける(ステップST40)。粘弾性特性の入力は、例えば、入力操作デバイス18を通して操作者により行われる。
次に、ゴムモデル計算部24は、図8に示すようなゴムモデル80を作成して、トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムのモデル化を行う(ステップST42)。
ゴムモデル計算部24は、ゴムモデル80を路面モデル90に接地させて(ステップST44)、その時、ゴムモデル80は、負荷荷重w及び滑り速度vの入力を受ける(ステップST10)。負荷荷重w及び滑り速度vの入力は、ゴム摩擦情報作成部22において、予め設定された値である。
次に、ゴムモデル計算部24は、路面モデル90からゴムモデル80全体が受ける移動方向反力Fを計算することにより、ゴム摩擦情報作成部22は、摩擦係数μを算出する(ステップST48)。ゴム摩擦情報作成部22は、さらに、荷荷重w及び滑り速度vを種々変更し、その都度、ゴムモデル計算部24がモデルを用いて移動方向反力Fを計算することにより、摩擦係数μを算出し、これにより、ゴム摩擦情報を取得する(ステップST12)。
【0041】
ゴム摩擦情報作成部22は、さらに、ゴム摩擦情報の計算の繰り返し回数が所定の回数以下であるか否かを判定する(ステップST50)。ゴム摩擦情報の計算を繰り返す場合(yesの場合)、得られたゴム摩擦情報を、次に作成するゴムモデルに入力する(ステップST52)。次回作成するゴムモデル及び路面モデルは、図8に示すように、ゴムモデル80及び路面モデル90に比べて大きなスケールのゴムモデル80及び路面モデル90である。このゴムモデル80及び路面モデル90を用いて、ステップST10、ST48,ST12,ST50を行う。ゴム摩擦情報の計算の繰り返し回数が所定の回数になる場合(noの場合)、タイヤシミュレーション計算部26は、得られたゴム摩擦情報の入力を受け、タイヤモデルはゴム摩擦情報の入力を受ける(ステップST14)。
この後、図4に示すタイヤのシミュレーション(ステップST16)あるいは図7に示すタイヤの事前シミュレーション(ステップST20)に進む。
【0042】
このように、ゴムモデル及び路面モデルのスケールをミクロスケールから徐々にスケールアップして、ゴムモデルが、最終的にタイヤをモデル化したタイヤモデル50が備えるトレッドゴムのスケールに対応したゴムモデルになるまで、上記計算を繰り返し行う。最後の回のゴム摩擦情報が、タイヤモデルに付与される摩擦係数μを計算するためのゴム摩擦情報となる。
【0043】
すなわち、図8に示す方法では、ゴム摩擦情報作成部22は、ゴム摩擦情報を1回目のゴム摩擦情報とし、1回目のゴム摩擦情報を用いて、トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化したゴムモデルにより、ゴム摩擦情報を少なくとも1回以上作成する。このとき、ゴムモデル計算部24は、トレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムをモデル化した、ゴムの粘弾性特性の情報を含むM回目(Mは2以上の整数)のゴムモデルを、凹凸路面をモデル化したM回目の路面モデルに接地させる。このとき、M回目のゴムモデルに与える負荷荷重wと、M回目のゴムモデル80の、M回目の路面モデル90に対する滑り速度vとを変更して、変更する度に、M回目のゴムモデルがM回目の路面モデルに接する各位置に、(M-1)回目のゴム摩擦情報を適用して計算される各位置における摩擦係数μを用いて、M回目のゴムモデル全体が受ける移動方向反力Fを摩擦力として計算する。これにより、ゴム摩擦情報作成部22は、M回目のゴムモデルとM回目の路面モデルとの間の摩擦係数(=移動方向反力F/負荷荷重w)を計算して、M回目のゴム摩擦情報を作成する。
タイヤシミュレーション計算部26は、最後の回に計算したゴム摩擦情報を用いて、タイヤモデル50の接地面の摩擦係数μをタイヤモデル50に与えて、シミュレーションを行う。
このように、ゴムモデルのサイズを徐々に大きくすることにより、ゴムモデルのサイズの拡大に対応してゴム摩擦情報も変化するので、タイヤのシミュレーションに用いるトレッドゴムの摩擦係数をより正確に用いることができる。
【0044】
したがって、一実施形態によれば、M回目のゴムモデルのモデル寸法は、(M-1)回目のゴムモデルのモデル寸法に比べて大きい、ことが好ましい。
また、一実施形態によれば、
・ゴムモデル及び路面モデルは、M回目のゴムモデルに与える負荷荷重は、(M-1)回目のゴムモデルに与える負荷荷重に比べて大きいこと、
・M回目の路面モデルにおける表面凹凸の凹凸寸法は、(M-1)回目の路面モデルにおける表面凹凸の凹凸寸法に比べて大きいこと、及び
・M回目の路面モデルにおける表面凹凸の周期は、(M-1)モデルにおける表面凹凸の周期に比べて長いこと、の少なくとも1つを満足することが好ましい。
【0045】
図10は、図6に示す平均摩擦係数を用いて行うタイヤのシミュレーション方法の一例のフローを示す図である。
図10に示すステップST10~ST28は、図7に示すステップST10~ST28の処理と同じであり、図10に示すフローでは、ステップST30が異なる。
すなわち、タイヤシミュレーション演算部26は、事前シミュレーションを所定の回数繰り返したか否かを判定する(ステップST30)。繰り返し回数が所定の回数以下である場合、ステップST22に戻る。このときに取得される新たな接地圧及び滑り速度の情報は、直前にステップST28で行ったタイヤのシミュレーションで得られた情報である。すなわち、ステップST26における平均摩擦係数の算出には、直前のステップST28で行ったタイヤのシミュレーションで得られた接地圧及び滑り速度の情報を用いる。
【0046】
ゴム摩擦情報作成部22は、ゴム摩擦情報と事前シミュレーションにより得られた接地圧の情報及び滑り速度の情報を用いて、1つの平均摩擦係数の計算を行う。タイヤシミュレーション計算部26は、計算した平均摩擦係数の値を、シミュレーションに用いるタイヤモデル50に与えてタイヤモデル50に設定した負荷荷重を付与して路面モデル60に接地させ、路面モデル60上で所定の回転速度で転動させて、タイヤのシミュレーションを行う。このシミュレーションで得られるタイヤモデル50の接地圧の情報及び滑り速度の情報を、ステップST22における新たな接地圧の情報及び新たな滑り速度の情報として用いて、ゴム摩擦情報作成部22は、再度1つの平均摩擦係数の値を計算する。
このように、図10に示す例では、平均摩擦係数の計算、タイヤのシミュレーション、及び接地圧の情報及び滑り速度の情報の計算を、計算の繰り返し回数が所定の数になるまでシミュレーションを繰り返すが、これに替えて、計算の度に変化するシミュレーションの計算結果の変化量、平均摩擦係数の値の変化量、接地圧の変化量、あるいは滑り速度の変化量が閾値以下に収束するまでシミュレーションを繰り返してもよい。
【0047】
すなわち、タイヤシミュレーション計算部26は、第1回目のシミュレーションを行い、この第1回目のシミュレーションの計算結果(接地圧の情報及び滑り速度の情報)を用いてさらに接地面全体における平均摩擦係数を計算することにより、タイヤのシミュレーションを少なくとも2回以上行う。このとき、タイヤシミュレーション計算部26は、N回目(Nは2以上の整数)のシミュレーションを行う際、(N-1)回目のシミュレーションで計算した接地面の情報からゴム摩擦情報を用いて接地面全体の平均摩擦係数を計算し、計算した接地面全体の平均摩擦係数を用いて、N回目のシミュレーションを行うこと、を少なくとも1回以上行う。これにより、シミュレーションの計算精度を高めることができる。
【0048】
なお、一実施形態によれば、路面モデル40に用いる路面は、実際の舗装路面の凹凸を再現したものであることが、実際の路面に対するゴム摩擦情報を取得することができ、タイヤのシミュレーションの精度を向上できることから好ましい。このような路面の凹凸は、レーザー変位計等を用いて実際の路面を計測することにより得ることができる。
【0049】
以上のタイヤのシミュレーション方法は、以下のプログラムをコンピュータに実行させることによりコンピュータに行わせることができる。
すなわち、プログラムの一実施形態によれば、
(a)タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときのゴムの接地圧p、及び、ゴムが路面に対して滑り速度vを持って滑るときのゴムの滑り速度v、に対する摩擦係数μの値の関係をマップ化したゴム摩擦情報をコンピュータに取得させる手順と、
(b)タイヤのシミュレーションを行うとき、タイヤが路面と接する接地面の各位置における接地圧pの情報及び接地面の各位置における路面に対する滑り速度vの情報から、ゴム摩擦情報を用いてコンピュータに接地面の各位置における摩擦係数μを計算させ、計算した摩擦係数μを用いてコンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせる手順と、を備える。
【0050】
また、プログラムの一実施形態によれば、
(c)タイヤのトレッドゴムと同じ粘弾性特性を有するゴムが路面と接するときのゴムの接地圧p、及び、ゴムが路面に対して滑り速度vを持って滑るときのゴムの滑り速度v、に対する摩擦係数の値の関係をマップ化したゴム摩擦情報をコンピュータに取得させる手順と、
(d)タイヤのシミュレーションを行うとき、タイヤが路面と接する接地面の各位置における接地圧pの情報及び接地面の各位置における路面に対する滑り速度vの情報を、シミュレーションに先立って行う事前シミュレーションによって接地面の情報としてコンピュータに取得させ、取得した接地圧pの情報及び滑り速度vの情報からゴム摩擦情報を用いて、接地面全体における平均摩擦係数をコンピュータに計算させ、平均摩擦係数をタイヤの路面に対する摩擦係数として用いて、コンピュータにタイヤのシミュレーションを行わせる手順と、を備える。
【0051】
以上、本発明のタイヤのシミュレーション方法及びこの方法をコンピュータに行わせるプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更してもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
10 タイヤシミュレーション装置
12 CPU
14 RAM
16 ROM
18 入力操作デバイス
20 ディスプレイ
22 ゴム摩擦情報作成部
24 ゴムモデル計算部
26 タイヤシミュレーション計算部
28 ソフトウェアモジュール
図1
図2
図3
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図10