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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】酸化リチウムのアルジロダイト
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/00 20060101AFI20240611BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240611BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240611BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20240611BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240611BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240611BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240611BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20240611BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240611BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240611BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C01D15/00
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B1/10
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/86 B
H01M8/1016
H01M10/052
H01M10/0562
H01M12/08 K
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021515186
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019051990
(87)【国際公開番号】W WO2020061354
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】62/733,501
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/744,331
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519030084
【氏名又は名称】ブルー カレント、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルーペルト、ベンジャミン
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-134316(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106848391(CN,A)
【文献】特表2016-534493(JP,A)
【文献】特開2017-152352(JP,A)
【文献】特開2011-076792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/14
C01D 15/00
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 10/0562
H01M 12/08
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がLi(6-y)PS(1-y)(1+y)であり、ここで、Xはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間の数である
酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項2】
yが0.5から0.7の間である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項3】
y=0である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項4】
y=0.1である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項5】
y=0.2である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項6】
y=0.3である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項7】
y=0.4である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項8】
y=0.5である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項9】
y=0.6である、請求項1に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項10】
前記酸化リチウムのアルジロダイトは、固体状電池または燃料電池に組み込まれる、上記請求項1から9のいずれか一項に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項11】
前記酸化リチウムのアルジロダイトは、電解質に組み込まれているか、または電解質を形成する、請求項10に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項12】
前記酸化リチウムのアルジロダイトは、電極に組み込まれる、請求項10に記載の酸化リチウムのアルジロダイト。
【請求項13】
酸化リチウムのアルジロダイトを合成する方法であって、
化学量論量のLiOおよびLiXをLiPSに添加し、前記LiO、LiXおよびLiPSを反応させて、Xがハロゲン化物であり、yが0から0.8の間の数である、前記酸化リチウムのアルジロダイトLi(6-y)PS(1-y)(1+y)を形成すること
を含む、方法。
【請求項14】
LiPSを合成することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記LiO、LiX、およびLiPSを、溶媒を使わずにボールミルで反応させる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記LiOとLiXを溶媒中で添加する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒を蒸発させることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒がエタノールである、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記酸化リチウムのアルジロダイトをアニールすることをさらに含む、請求項13から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
1または複数のポリマーを含む有機相と、
一般式がLi(6-y)PS(1-y)(1+y)であり、ここで、Xはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間の数である酸化リチウムのアルジロダイト
を含むリチウム伝導性無機相と、
を含む、電解質。
【請求項21】
前記1または複数のポリマーが疎水性ポリマーを含む、請求項20に記載の電解質。
【請求項22】
前記1または複数のポリマーがイオン伝導性ではない、請求項20または21に記載の電解質。
【請求項23】
前記ポリマーが、スチレン-エチレン-ブチレン‐スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)である、請求項20から22のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項24】
1または複数のポリマーが、可塑性セグメントと弾性セグメントからなるコポリマーを含む、請求項20から23のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項25】
膜が、0.5重量%-60重量%の間のポリマー、1重量%-40重量%の間のポリマー、または5重量%-30重量%の間のポリマーである、請求項20から24のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項26】
1または複数の溶媒、ポリマー、および一般式がLi (6-y) PS (1-y) (1+y) であり、ここで、Xはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間の数である、イオン伝導性酸化リチウムのアルジロダイト粒子を含む懸濁液、ペースト、または溶液
を含む、組成物。
【請求項27】
活性材料と、一般式がLi (6-y) PS (1-y) (1+y) であり、ここで、Xはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間の数である、酸化リチウムのアルジロダイトと、有機ポリマーとを含む、電極。
【発明の詳細な説明】
【参照による組み込み】
【0001】
PCTリクエストフォームは、本出願の一部として本明細書と同時に出願される。同時に出願されたPCTリクエストフォームに記載されているように、本出願が利益または優先権を主張する各出願は、そのすべてが、すべての目的のために、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
固体電解質は、二次電池について、液体電解質に対する様々な優位性を提供する。例えば、リチウムイオン電池において、無機固体電解質は、従来の液体有機電解質より可燃性が低いことがあり得る。また、固体電解質は、デンドライト形成に耐えることにより、リチウム金属電極の使用を容易にできる。固体電解質を使用する際の課題は、伝導率が低いことと、電気化学的安定性が低いことです。
【発明の概要】
【0003】
本開示の一態様は、酸化リチウムのアルジロダイトに関し、一般式が: Li(6-y)PS(1-y)(1+y)
ここで、Xはハロゲン化物、yは0から0.8の間の数である。 いくつかの実施形態において、yは0.5から0.7の間である。いくつかの実施形態において、yは0.55から0.65の間である。いくつかの実施形態において、yは0.3から0.5の間であり、例えば、0.35から0.45の間である。いくつかの実施形態において、yは、0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、および0.9のうちの約1つである。いくつかの実施形態において、酸化リチウムのアルジロダイトは、固体状電池や燃料電池に組み込まれる。いくつかの実施形態において、酸化リチウムのアルジロダイトは、電解質隔離板に組み込まれるか、または形成される。いくつかの実施形態において、酸化リチウムのアルジロダイトが電極に組み込まれる。
【0004】
本開示のもう一つの態様は、前記酸化リチウムのアルジロダイトを合成する方法であって、化学量論量のLiOおよびLiXをLiPSに添加し、前記LiO、LiXおよびLiPSを反応させて、Xがハロゲン化物であり、yが0から0.8の間の数である、前記酸化リチウムのアルジロダイトLi(6-y)PS(1-y)(1+y)を形成することを含む方法に関する。いくつかの実施形態において、LiPSを合成する方法をさらに含む。いくつかの実施形態において、LiO、LiX、およびLiPSは、溶媒を使わずにボールミルで反応する。いくつかの実施形態において、溶媒中にLiOとLiXを添加する。いくつかの実施形態において、前記方法は、溶媒を蒸発させることをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記溶媒はエタノールである。いくつかの実施形態において、本方法は、酸化リチウムのアルジロダイトをアニールすることをさらに含む。
【0005】
本開示のもう一つの態様は、1または複数のポリマーを含む有機相と、一般式がLi(6-y)PS(1-y)(1+y)であり、ここで、Xはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間の数である酸化リチウムのアルジロダイトを含むリチウム伝導性無機相と、を含む電解質膜を含む固体電解質組成物である。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは、疎水性ポリマーを含む。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは、イオン伝導性を有しない。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーは、スチレン‐エチレン‐ブチレン‐スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)を含む。いくつかの実施形態において、1または複数のポリマーが、可塑性セグメントと弾性セグメントからなるコポリマーを含む。いくつかの実施形態において、膜が0.5重量%-60重量%の間のポリマー、1重量%-40重量%の間のポリマー、または5重量%-30重量%の間のポリマーである。
【0006】
本開示のもう一つの態様は、1または複数の溶媒、ポリマー、およびイオン伝導性酸化リチウムのアルジロダイト粒子を含む懸濁液、ペースト、または溶液を含む組成物である。本開示のもう一つの態様は、活性材料、酸化リチウムのアルジロダイト、および有機ポリマーを含む電極に関する。
【0007】
本開示のもう一つの態様は、A(6-y)PS(1-y)(1+y)であり、ここで、Aはアルカリ金属、Xはハロゲン化物、yは0から0.8の間(両端を含む)の数である式を有するアルカリ金属酸化物アルジロダイトである。また、アルカリ金属酸化物アルジロダイトの合成方法や、それらを含む組成物やデバイスも提供される。
【0008】
本開示のこれらの態様および他の態様は、図を参照して以下でさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】LiPSClの結晶構造を示す図である。
【0010】
図2】LiPSOClの結晶構造の一例を示す図である。
【0011】
図3】Li5.5PS0.5Cl1.5の結晶構造の一例を示す図である。
【0012】
図4】LiPSClのX線回折パターンと、LiPSOClとLi5.6PS0.6Cl1.4のX線回折パターンとを示す図である。
【0013】
図5】LiPSClとLiPSOClを相対湿度(RH)50%、温度75Fの環境下で空気にさらしたときのHS放出量を示す図である。
【0014】
図6A】酸化リチウムのアルジロダイトを含むセルの模式図の例を示す図である。
図6B】酸化リチウムのアルジロダイトを含むセルの模式図の例を示す図である。
図6C】酸化リチウムのアルジロダイトを含むセルの模式図の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書では、イオン伝導性および電気化学的安定性を有する固体材料が提供される。材料のいくつかの実施態様は、式Iに従っている。
【化I】
ここで、Xはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間(両端を含む)の数である。材料は、式IIとしても表される式Iの材料との共結晶である。
【化II】
ここで、Xはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間(両端を含む)の数である。いくつかの実施形態において、Xは、陰イオンが臭化物または塩化物であるように、臭素(Br)または塩素(Cl)である。混合ハロゲン化物系も提供され、式IIIで示される2つのハロゲン化物系の実施態様がある。
【化III】
ここで、XおよびXはハロゲン化物であり、yは0から0.8の間(両端を含む)の数である。および、u+z=1+y。
【0016】
また、これらの材料の製造方法や、これらの材料を含む電池および電池部品も提供される。はじめに
【0017】
アルジロダイトという鉱物(AgGeS)は、AgGeSと2当量のAgSの共結晶と考えることができる。この結晶では、陽イオンと陰イオンの両方を置換できるが、各イオンの全体的な空間配置は依然に同じように維持している。例えば、この鉱物種類の最初のリチウム含有例であるLiPSでは、PS 3-イオンは元の鉱物のGeS 4-が占めていた結晶学的位置に存在し、一方、S2-イオンは元の位置を維持し、Liイオンは元のAgイオンの位置を取っている。LiPS6¬では、元のAgGeSに比べて陽イオンの数が少ないため、いくつかの陽イオンサイトが空いている。このように、元のアルジロダイト鉱物の構造的類似体は、しばしばアルジロダイトとも呼ばれている。AgGeSおよびLiPS両方は、室温では斜方晶であるが、高温になると立方晶空間群に相転移することが発生する。さらに、1当量のLiSを1当量のLiClに置換すると、アルジロダイト構造を維持したまま、室温以下で斜方晶から立方晶への相転移を起こし、リチウムイオン伝導率が大幅に向上したLiPSClという材料が得られる。この素材も、陽イオンと陰イオンの全体的配置が変わらないため、一般的には「アルジロダイト」と呼ばれている。したがって、このような全体的構造も維持するさらなる置換は、アルジロダイトとも呼ばれてよい。
【0018】
硫化物系のリチウムアルジロダイト材料は高いLi移動度を示し、リチウム電池の材料として注目されている。この系統の代表的な材料は、LiPS、LiSおよびLiClの三元共晶であるLiPSClである。図1は、LiPSClの結晶構造を示す。
【0019】
この材料は地球上の豊富な元素を使用しており、高いリチウムイオン伝導率を有することができる。固体状リチウムイオン電解質の中での利点に関わらず、いくつかの欠点がまだある。結晶構造に硫化リチウムが含まれていることは、水分を吸着すると有毒で可燃性の硫化水素を放出する可能性があると意味している。さらに、これらの成分はすべて比較的地球上に豊富であるが、硫化リチウムは、他のリチウム塩を含む多くの他の電解質成分に比べて高価な材料である。また、硫化物は一般的にリチウム金属との濡れた状態での相互作用が弱い。表面の相互作用が弱いと、リチウム金属の蒸着が不均一になり、結果として、セル内の機械的ストレスが不均一になり、デンドライトが成長するため、リチウム金属アノード電池を構築する際に問題となる可能性がある。
【0020】
一般式Li(6-y)PS(1-y)(1+y)(LiPS*(1-y)LiO*(1+y)Xとも表される)を有し、Xがハロゲン化物アニオンであり、yが0から0.8の間(両端を含む)の数であるアルジロダイトが、本明細書で提供される。これらの材料は、酸化リチウムのアルジロダイトと呼ばれることがあり、前述のAgGeSと同じように、PS陰イオン、X陰イオン、酸化物陰イオンが規則的に配置され、その間にリチウム陽イオンがあるという全体的配置を有する。ハロゲン化物は、典型的にはClまたはBrであるが、ヨウ化物やフッ化物である場合もある。いくつかの実施形態において、yは0から0.6の間である。特定の実施形態では、yは0.3から0.5の間(両端を含む)であり、または0.35から0.45の間(両端を含む)である。特定の実施形態では、yは0.5から0.7の間(両端を含む)であり、または0.55から0.65の間(両端を含む)である。留意すべきことは、いくつかの実施形態において、アルジロダイト結晶構造を維持したまま、LiO部位の酸素原子がPS部位のS原子と場所を交換してもよい。特に記載のない限り、一般式Li(6-y)PS(1-y)(1+y)はこれらの実施形態を含む。
【0021】
図2および図3は、酸化リチウムのアルジロダイトの2つの結晶構造の例を示す。図2は、LiPSOCl(y=0)の構成例を示し、図3は、Li5.5PS0.5Cl1.5(y=0.5)の構成例を示す。
【0022】
この材料群は、様々な実施態様に応じて、以下のような1または複数の利点を提供してよい。この材料は、一部の硫黄をより軽い元素である酸素に置き換えるため、最終的な電気化学的デバイスにおいて、重量エネルギー密度の面でわずかに有利になる可能性がある。さらに、硫化リチウムを酸化リチウムという材料に置き換える程度で、より安価に製造することができる。S2-陰イオンが存在しないため、その材料が大気中の水分またはバルク水と接触しても、直ちに有毒な硫化水素が発生するリスクはない。(PS 3-陰イオンは最終的に硫化水素とPO 3-に分解されるが、これは非常にゆっくりとした過程であり、一般的には危険とはみなされない)。
【0023】
いくつかの実施形態において、酸化リチウムのアルジロダイトを使用することで、デンドライト形成のリスクを低減する。これは、LiPSClを含む多くの硫化物系リチウムイオン伝導体と比較して、酸化リチウム成分がリチウム金属とより良好な表面相互作用を与え、リチウム金属蒸着の均一性を高めるためと考えてよい。合成
【0024】
また、本明細書に記載の酸化リチウムのアルジロダイトの製造方法も提供される。その方法は、LiPSにLiOとLiXを添加することを含む。いくつかの実施形態において、この方法は、まずLiPSを製造し、次にLiOおよびLiX(例えば、LiCl)を添加することを含む。これは、前駆体化合物を混合して機械化学的反応を起こさせる硫黄系アルジロダイトの製造とは異なることに留意すべきである。例えば、LiS、PおよびLiClを高エネルギーのボールミルで混合すると、LiPSClが生成できる。しかし、同じ条件でLiS、LiO、PおよびLiClを所望の比率で混合した場合、LiSとLiOがPとの反応で競合するため、酸素の多くがP-O結合の形成に関与することになる。その結果、構成体にLiSが残り、結果として、水分との接触でHSの形成が引き起こされる可能性がある。
【0025】
いくつかの実施形態において、この方法は、例えば、ボールミルでLiSとPを反応させることによって、LiPSを固体状で製造することを含む。酸化物成分とハロゲン化物成分は、さらにボーリングミルで添加してもよい。代替的に、酸化物成分とハロゲン化物成分をエタノールなどの極性プロトン性溶媒中に添加し、その後溶媒を蒸発させてよい。いくつかの実施形態において、この方法は、プロピオン酸エチルなどの極性非プロトン性溶媒中でのLiPSの溶液合成を含む。その後、上述のように酸化物成分とハロゲン化物成分を添加してよい。
【0026】
酸化リチウムのアルジロダイトを合成した後、伝導性を高めるためにアニールしてよい。アニールは、溶融温度に近い温度で行うことができる。 合成例LiPSOCl
【0027】
アルゴン雰囲気下で、100mLのジルコニアカップに、3.568gのLiPSガラス(事前にLiSとPを一緒にボールミルで粉砕して製造したもの)、0.592gのLi2O、0.840gのLiClおよび100gの10mm球状ジルコニア粉砕メディアを入れた。カップを密閉封止し、内容物をPulverisette5ボールミルで200rpm、30分間かけて粉砕および混合した。同じミルを使って、400rpmで20時間、1時間ごとに方向を逆転しながら、ステップの間に休むことなく粉砕して、アルジロダイトを形成した。粉砕後、カップをアルゴン雰囲気に戻し、新たに形成されたアルジロダイトをカップ壁から削り取る。この材料と元のジルコニア系メディアはカップに戻され、再び密閉される。アルジロダイトを200rpmで10分間粉砕する。カップは再びアルゴン雰囲気に戻され、材料が削り出され、最後にシーブスタックを通過し、25μmのシーブを通過した画分が回収される。作ったままの伝導性を測定し、サンプルをアルゴン雰囲気下で500℃×5時間のアニールを行う。Li5.6PS0.6Cl1.4
【0028】
アルゴン雰囲気下で、100mLのジルコニアカップに、3.499gのLiPSガラス(事前にLiSとPを一緒にボールミルで粉砕して製造したもの)、0.348gのLiO、1.153gのLiClおよび100gの10mm球状ジルコニア粉砕メディアを入れた。カップを密閉封止し、内容物をPulverisette5ボールミルで200rpm、30分間かけて粉砕および混合した。同じミルで、400rpmで20時間、1時間ごとに方向を逆転しながら、ステップの間に休むことなく粉砕して、アルジロダイトを形成する。粉砕後、カップをアルゴン雰囲気に戻し、新たに形成されたアルジロダイトをカップの壁から削り取る。この材料と元のジルコニア系メディアはカップに戻され、再び密閉される。アルジロダイトを200rpmで10分間粉砕する。カップは再びアルゴン雰囲気に戻され、材料が削り出され、最後にシーブスタックを通過し、25μmのシーブを通過した画分が回収される。作ったままの伝導性を測定し、サンプルに対してアルゴン雰囲気下で500℃×5時間のアニールを行う。
【0029】
LiPSOClアルジロダイトの作ったままの伝導性は0.42mS/cmと測定され、アニール後には1.33mS/cmまで上昇した。Li5.6PS0.6Cl1.4アルジロダイトの作ったままの伝導性は1.54mS/cmと測定され、アニール後には3.80mS/cmにまで上昇した。ラマンスペクトルでは、(予想通り)構造中にLiPSが存在しており、P-O結合が形成されている様子は見られないことが示されている。この伝導率は、参照材料であるLiPSClの伝導率(作成時:1.00mS/cm、アニール後:3.87mS/cm)と同等である。
【0030】
図4は、LiPSClのX線回折パターンと、LiPSOClとLi5.6PS0.6Cl1.4のX線回折パターンを示す。星印の付いたピークは、アルジロダイト構造に関連している。2つの酸素含有材料(LiPSOClとLi5.6PS0.6Cl1.4)は、アルジロダイト構造によく一致している。これらの材料には、参照サンプルのLiPSClと同様に、アルジロダイト構造と一致しない小さなピークがいくつかあり、小さな結晶性不純物の存在を示している。
【0031】
図5は、LiPSClとLiPSOClを相対湿度(RH)50%、温度75Fの環境下で空気にさらしたときのHS放出量を示す。酸化物含有アルジロダイトで生成したHSのピーク濃度は、基準となるアルジロダイトLiPSClの3分の1であり、統合されたHS総放出量は基準の49%である。 アルカリ金属酸化物アルジロダイト酸化リチウムのアルジロダイトについて説明したが、他のアルカリ金属のアルジロダイトも本明細書で提供する。酸化ナトリウムのアルジロダイトおよび酸化カリウムのアルジロダイトが含まれる。したがって、本明細書では、式IVに従った組成物も提供される。
【化IV】
ここで、Aはアルカリ金属、Xはハロゲン化物、およびyは0から0.8の間(両端を含む)の数字である。材料は、式Vとしても表される式Iの材料との共結晶である。
【化V】
ここで、Aはアルカリ金属、Xはハロゲン化物、およびyは0から0.8の間(両端を含む)の数字である。いくつかの実施形態において、Xは、陰イオンが臭化物または塩化物であるように、臭素(Br)または塩素(Cl)である。混合ハロゲン化物系も提供され、式VIで示される2つのハロゲン化物系の実施態様がある。
【化VI】
ここで、Aはアルカリ金属であり、XおよびXはハロゲン化物であり、およびyは0から0.8の間(両端を含む)の数である。および、u+z=1+y。いくつかの実施形態において、Aは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、およびカリウム(K)から選択される。式Iは、AがLiである式IIの一例である。上記のように、一般式には、全体のアルジロダイト構造を維持したまま、酸素原子と硫黄原子の配置が交換される実施形態が含まれている。酸化ナトリウムのアルジロダイトと酸化カリウムのアルジロダイトは、酸化リチウムのアルジロダイトに関して上述したのと同様の方法で調製してよい。さらに、NaPSOClとNa5.6PS0.6Cl1.4の合成例を以下に示す。当業者であれば、他のアルカリ金属のアルジロダイトをどのように変更して合成するか理解できるだろう。 NaPSOCl
【0032】
アルゴン雰囲気下、100mLのジルコニアカップに3.273gのNaPSガラス(事前にNaSとPを一緒にボールミルで粉砕して製造したもの)、0.889gのNaO、0.838gのNaCl、100gの10mm球状ジルコニア粉砕メディアを入れる。カップを密閉封止し、内容物をPulverisette5ボールミルで200rpm、30分間かけて粉砕および混合する。同じミルで、400rpmで20時間、1時間ごとに方向を逆転しながら、ステップの間に休むことなく粉砕して、アルジロダイトを形成する。粉砕後、カップをアルゴン雰囲気に戻し、新たに形成されたアルジロダイトをカップ壁から削り取る。この材料と元のジルコニア系メディアはカップに戻され、再び密閉される。アルジロダイトを200rpmで10分間粉砕する。カップは再びアルゴン雰囲気に戻され、材料が削り出され、最後にシーブスタックを通過し、25μmのシーブを通過した画分が回収される。作ったままの伝導性を測定し、サンプルをアルゴン雰囲気下で、例えば、500℃×5時間のアニールを行う。 Na5.6PS0.6Cl1.4
【0033】
アルゴン雰囲気下、100mLのジルコニアカップに3.286gのNaPSガラス(事前にNaSとPを一緒にボールミルで粉砕して製造したもの)、0.536gのNaO、1.178gのNaCl、100gの10mm球状ジルコニア粉砕メディアを入れる。カップを密閉封止し、内容物をPulverisette5ボールミルで200rpm、30分間かけて粉砕および混合する。同じミルで、400rpmで20時間、1時間ごとに方向を逆転しながら、ステップの間に休むことなく粉砕して、アルジロダイトを形成する。粉砕後、カップをアルゴン雰囲気に戻し、新たに形成されたアルジロダイトをカップ壁から削り取る。この材料と元のジルコニア系メディアはカップに戻され、再び密閉される。アルジロダイトを200rpmで10分間粉砕する。カップは再びアルゴン雰囲気に戻され、材料が削り出され、最後にシーブスタックを通過し、25μmのシーブを通過した画分が回収される。作ったままの伝導性を測定し、サンプルをアルゴン雰囲気下で、例えば、450℃×5時間のアニールを行う。アルカリ金属酸化物アルジロダイトを含む複合物
【0034】
いくつかの実施形態において、酸化リチウムのアルジロダイトまたは他のアルカリ金属アルジロダイトを適合素材と混合して、複合固体イオン伝導体を形成してよい。適合素材は、例えば、米国特許第9,926,411号および第9,972,838号、ならびに本明細書に参照として組み込まれている米国特許出願第16/241,784号に記載されているような有機相であってよい。有機ポリマー相は、1または複数のポリマーを含んでいてよく、無機イオン伝導性粒子と化学的に適合する。いくつかの実施形態において、有機相は実質的にイオン伝導性を持たず、「非イオン伝導性」と呼ばれている。本明細書に記載されている非イオン伝導性ポリマーは、0.0001S/cm未満のイオン伝導性を有する。
【0035】
いくつかの実施形態において、有機相は、ポリマーバインダー、比較的高分子量のポリマーを含む。ポリマーバインダーは、少なくとも30kg/molの分子量を有し、少なくとも50kg/mol、または100kg/molであってもよい。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、非極性のバックボーンを有する。非極性ポリマーバインダーの例には、スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレンおよびブチレンを含む、ポリマーまたはコポリマーが含まれる。ポリスチレンブロックおよびゴムブロックを含むスチレンブロックコポリマーが使用され得て、ゴムブロックの例は、ポリブタジエン(PBD)およびポリイソプレン(PI)を含む。ゴムブロックは、水素化されても、されなくてもよい。ポリマーバインダーの具体例はスチレン-エチレン-ブチレン‐スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリスチレン(PSt)、PBD、ポリエチレン(PE)およびPIである。非極性ポリマーは、無機粒子をコーティングしないため、伝導性が低下することに導く可能性がある。
【0036】
SEBSのような大きな分子量のポリマーの加工性を向上させるために、小さな分子量のポリマーを使用して、例えば加工温度および圧力を下げてよい。これらは、例えば、50g/molから30kg/molの分子量を持つことができる。その例には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリブタジエン(PBD)およびポリスチレンが含まれる。いくつかの実施形態において、第1成分は環状オレフィンポリマー(COP)である。いくつかの実施形態において、第1成分は、シアノ、チオール、アミド、アミノ、スルホン酸、エポキシ、カルボキシル、または、ヒドロキシル基から選択される末端基を有するポリアルキル、多環芳香族またはポリシロキサンポリマーである。
【0037】
有機相のポリマー成分の主鎖やバックボーンは、無機相とは相互作用しない。バックボーンの例には、飽和または不飽和ポリアルキル、多環芳香族、および、ポリシロキサンが含まれ得る。無機相との相互作用が強すぎ得るバックボーンの例には、ポリアルコール、ポリ酸、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミン、およびポリアミドなどの、強い電子供与性基を有するものが含まれる。酸素または他の求核基の結合強度を低減する他の部位を有する分子が使用され得ることを理解されたい。特定の実施形態において、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)バックボーンの全フッ素置換された性質は、エーテル酸素の電子密度を非局在化して使用することを可能にする。
【0038】
いくつかの実施形態において、可塑性コポリマーセグメントと弾性コポリマーセグメントの両方を有する疎水性ブロックコポリマーが使用される。例えば、SEBS、SBS、SIS、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、イソプレンゴム(IR)などのスチレン系ブロックコポリマーが挙げられる。
【0039】
いくつかの実施形態において、有機相は、実質的に非イオン伝導性であり、非イオン伝導性ポリマーの例には、PDMS、PBD、および、上記の他のポリマーが含まれる。LiIなどの塩を溶解または解離するためイオン伝導性であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのイオン伝導性ポリマーと異なり、非イオン伝導性ポリマーは、塩の存在下でもイオン伝導性でない。これは、塩を溶解しなければ、伝導する移動性イオンがないためである。いくつかの実施形態において、これらのうちの1つまたは別のイオン伝導性ポリマーを使用してよい。上記で言及され、参照により本明細書に組み込まれる、PNAS、第113巻、第1号、52~57(2016)、の「リチウムイオン電池のための柔軟なガラス-ポリマーハイブリッド単一イオン導電性電解質」に記載されるように、PFPEはイオン伝導性を有し、リチウムに対する単一イオン伝導体であり、いくつかの実施形態において使用されてよい。
【0040】
PEO、PPO、PAN、およびPMMAなどのイオン伝導性ポリマーは、追加の塩の存在の有無にかかわらず、いくつかの実施形態において使用されてよい。
【0041】
いくつかの実施態様において、ハイブリッド固体イオン伝導体は、無機粒子と混合した後にin situで重合される前駆体から形成される。重合は、粒子間接触を引き起こす加圧下で生じ得る。ひとたび重合したら、粒子がポリマーマトリックスにより固定された状態で、加えた圧力を取り除いてもよい。いくつかの実施態様においては、有機材料は、架橋ポリマーネットワークを含む。このネットワークが無機粒子を拘束し、動作中に粒子がずれるのを防いでよい。架橋ポリマーネットワークは、in-situで、すなわち、無機粒子をポリマーまたはポリマー前駆体と混合して複合体を形成した後に架橋することができる。in-situ架橋を含むポリマーのin-situでの重合は、米国特許第10,079,404号に記載されており、本明細書に参照として組み込まれている。
【0042】
本明細書に記載されている複合材料は、膜や、複合体膜を製造するために使用される懸濁液またはペーストを含む様々な形態をとってよい。様々な実施形態に従って、複合体は以下のいずれかを含んでよい:
1)アルジロダイトを含まないアルジロダイト前駆体;および有機ポリマー;
2)アルジロダイトの前駆体、アルジロダイト、および有機ポリマー;
3)実質的に前駆体を含まないアルジロダイト、および有機ポリマー。
【0043】
いくつかの実施形態において、複合物は本質的にこれらの構成要素で構成されている。他のいくつかの実施形態において、以下でさらに説明するように、追加成分が存在する場合がある。上に示したように、いくつかの実施形態において、複合物は固化した膜として提供される。特定の組成物およびこれまでの処理に応じて、固化した膜は、さらなる処理を行わずにデバイスに組み込むために準備された状態で提供されてもよく、または上述のように、アルジロダイトのin-situ処理のためにデバイスに準備された状態で提供されてもよい。後者の場合、自立した膜として提供されてもよく、または加工用のデバイスに組み込まれてもよい。
【0044】
ハイブリッド組成物におけるポリマーマトリックスの装填量はいくつかの実施形態において、比較的高くてよく、例えば、少なくとも2.5%-30%の重量である。様々な実施形態によると、0.5重量%-60重量%の間のポリマー、1重量%-40重量%の間のポリマー、または5重量%-30重量%の間のポリマーであってよい。この複合物は連続した膜を形成する。
【0045】
有機ポリマーは、一般的に上述のような非極性の疎水性ポリマーである。特定の実施形態において、重合および/または架橋のためにin situで処理されるポリマー前駆体(モノマー、オリゴマー、またはポリマー)であってもよい。このような処理は、アルジロダイトのin situ処理中に行ってもよく、その前にまたは後に行ってもよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、アルジロダイトおよび/またはその前駆体が、膜の40wt%から95.5wt%を占める。バランスは、いくつかの実施形態において、有機ポリマーであってよい。他の実施形態において、1または複数の追加成分が存在する。他の成分は、リチウムイオン塩、ナトリウムイオン塩、および、カリウムイオン塩を含むアルカリ金属イオン塩を含み得る。例には、LiPF6、LiTFSI、LiBETIなどが含まれる。いくつかの実施形態において、固体状組成物は、実質的に添加塩を含まない。「実質的に添加塩を含まない」とは、微量の塩しか含まないことを意味する。いくつかの実施形態において、塩が存在する場合、イオン伝導性に対して、0.05mS/cmまたは0.1mS/cmを超えて寄与しない。いくつかの実施形態において、固体状組成物は、1または複数の伝導性向上剤を含み得る。いくつかの実施形態において、電解質は、Alなどのセラミック充填剤を含む1または複数の充填材を含み得る。使用される場合、充填材は、特定の実施形態に応じて、イオン伝導体であっても、そうでなくてもよい。いくつかの実施形態において、複合材は、1または複数の分散剤を含み得る。さらに、いくつかの実施形態において、固体状組成物の有機相は、特定の適用に望ましい機械的性質を有する電解質の製造を容易にする、1または複数の追加の有機成分を含み得る。
【0047】
以下でさらに説明するいくつかの実施形態において、固体状組成物は、電極に組み込まれているか、または電極に組み込む準備ができており、電気化学的に活性材料と、任意に電子伝導性添加物とを含む。アルジロダイトを含む電極の構成要素や組成物の例を以下に示す。
【0048】
いくつかの実施形態において、電解質は、電極の表面に不動態化層を形成するために使用できる電極安定剤を含み得る。電極安定剤の例は、米国特許9,093,722号に記載されている。いくつかの実施形態において、電解質は、上述したような伝導性向上剤、充填剤、または有機成分を含んでよい。
【0049】
いくつかの実施形態において、複合体は懸濁液またはペーストとして提供される。このような場合、組成物には、後で蒸発させるための溶媒が含まれている。さらに、この組成物は、保存安定性のための1または複数の成分を含んでよい。このような化合物には、アクリル樹脂が含まれることができる。処理の準備ができたら、懸濁液またはペーストを必要に応じてキャストし、または基板上に散布して乾燥させてよい。次に、上述のようなin situ処理を行ってよい。
【0050】
固体状組成物は、任意の適切な方法で調製し得、下に実験結果を参照して例示的処置を説明する。また、溶液処理法によって、均一な膜を調製できる。ある例示的方法では、超音波破砕機、ホモジナイザ、高速ミキサ、ロータリーミル、バーチカルミルおよび遊星ボールミルなどの実験室および/または工業的機器を使用してすべての成分を共に混合する。混合を改善し、凝集体および集合体を砕くことにより均質化を補助するように、混合メディアを添加してもよく、それによりピンホールおよび高表面粗度などの膜の欠陥を除去する。結果として得られた混合物は、ハイブリッド組成物および溶媒含有量に基づいて粘度が変化する均一に混合された懸濁液状である。流延するための基板は、異なる厚さおよび組成を有する可能性がある。例には、アルミニウム、銅、およびマイラー(登録商標)が含まれる。異なる工業的方法により、選択された基板上への懸濁液の流延を実現できる。いくつかの実施形態において、ローラー間でのカレンダ処理、垂直平坦プレスまたは等方性プレスなどの方法によって、機械的に膜を高密度化することで多孔度を低減(結果として、例えば、厚さが約50%まで変化)できる。高密度化プロセスに関わる圧力により、粒子は近接した粒子間接触を維持するように強いられる。例えば、1MPa~600MPa、または、1MPa~100MPaのオーダの外圧が加えられる。いくつかの実施形態において、カレンダロールにより印加される圧力が使用される。粒子間接触を実現するには十分であるが、押し型から未硬化ポリマーが追い出されるのを防げるほどの低い圧力を保持する。マトリックスを形成するように、架橋を含み得る重合が加圧下で生じ得る。いくつかの実施態様においては、熱エネルギーまたは紫外線の適用を使用して重合を開始する熱開始または光開始重合技法を使用する。イオン導電性無機粒子は、マトリックスに捕捉され、外圧が開放されても密着したままである。上述の方法で(ペレットまたは薄膜として)調製された複合物は、例えば、十分に確立されている方法によって、実際の固体状リチウム電池に組み込まれてよい。
【0051】
いくつかの実施形態において、膜は、溶液処理ではなく、乾燥処理される。例えば、膜を押し出してもよい。押し出しまたは他の乾燥処理は、特に、有機相の装填量がより高い時(例えば、有機相が少なくとも30重量%の実施形態において)に溶液処理の代替となり得る。デバイス
【0052】
アルカリ金属酸化物アルジロダイトは、電池および燃料電池など、イオン伝導体を使用するあらゆるデバイスに組み込んでよいが、これに限定されるものではない。例えば、リチウム電池では、酸化リチウムのアルジロダイトが電解質であってよく、または電解質に組み込まれてよい。同様に、酸化リチウムのアルジロダイトを電極に組み込んでもよい。いくつかの実施形態において、酸化リチウムのアルジロダイトは、デバイスで使用するために、押圧加工またはその他の方法で固体状イオン伝導体に形成されてよい。いくつかの実施形態において、酸化リチウムのアルジロダイトを適合素材と混合し、上述のような複合固体イオン伝導体を形成してよい。
【0053】
いくつかの実施形態において、複合固体組成物は、添加された塩を含まない。リチウム塩(例えば、LiPF6、LiTFSIなど)、カリウム塩、ナトリウム塩などは、イオン伝導体粒子同士の接触で必要ない場合がある。いくつかの実施形態において、固体組成物は、イオン伝導性無機粒子と有機ポリマーマトリックスから本質的に構成されている。しかし、代替的な実施形態では、1または複数の追加成分をハイブリッド固体組成物に加えてよい。
【0054】
電極組成物はさらに、電極活性材料を含み、任意選択で、伝導性添加物を含む。以下にカソード、アノードの組成物の例を示す。
【0055】
カソードの組成物については、以下の表に組成物の例を示す。
【表1】
【0056】
様々な実施形態によると、カソード活性材料は遷移金属酸化物であり、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン酸化物(LiMnCoMnO、またはNMC)が一例として挙げられる。NMCには、LiNi0.6Mn0.2Co0.2(NMC-622)、LiNi0.4Mn0.3Co0.3(NMC-4330)などを含み、様々な形態が使用されてよい。重量%の範囲の下限は、エネルギー密度によって設定されており、65重量%未満の活性材料を有する組成物は、エネルギー密度が低く、有用ではない可能性がある。
【0057】
任意の適切なアルジロダイトを使用してよい。Li5.6PS0.6Cl1.4は、高いイオン伝導性を維持し、硫化水素を抑制するアルジロダイトの一例である。アルジロダイトが10重量%未満の組成物は、低いLi伝導性を有する。
【0058】
電子伝導性添加剤は、NMCのように電子伝導性が低い活性材料に有効である。カーボンブラックはその添加剤の一例であるが、他のカーボンブラック、活性炭、炭素繊維、グラファイト、グラフェンおよびカーボンナノチューブ(CNT)を含む他の炭素系添加剤を使用してよい。1重量%以下では電子伝導性の改善が不十分な場合があり、5%以上ではエネルギー密度の低減や活性材料-アルジロダイトの接触の乱れを引き起す。
【0059】
任意の適切な有機相を使用してよい。特定の実施形態において、可塑性および弾性コポリマーセグメントの両方を有する疎水性ブロックコポリマーが使用される。例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、イソプレンゴム(IR)などのスチレン系ブロックコポリマーが挙げられる。1重量%以下では所望の機械的特性を得るのに十分ではない場合があるが、5%以上ではエネルギー密度の低減や活性材料-アルジロダイト-カーボンの接触の乱れを引き起す。
【0060】
アノードの組成物については、以下の表に組成物の例を示す。
【表2】
【0061】
グラファイトは、Siアノードの初期クーロン効率(ICE)を向上させるための二次活性材料として使用される。Siは、NMCや他のカソードのICEよりも低いICE(例えば、80%未満の場合もある)で、第1のサイクルで不可逆的な容量低下を引き起こす。グラファイトは、高い(例えば、90%超)ICEを持ち、能力をフルに発揮することができる。Siとグラファイトの両方を活性材料とするハイブリッドアノードでは、グラファイト含有量が増えるほどICEが高くなり、したがって、Si/グラファイトの比率を調整することでカソードのICEをアノードのICEと一致させることができ、第1のサイクルの不可逆的な容量低下を防ぐことができることになる。ICEは処理によって変化できるため、特定のアノードとその処理に応じて、比較的広い範囲のグラファイト含有量が可能である。さらに、グラファイトは電子伝導性を向上させ、アノードの高密度化に役立つ可能性がある。
【0062】
適切なアルジロダイトを使用してよい。Li5.6PS0.6Cl1.4は、高いイオン伝導性を維持し、硫化水素を抑制するアルジロダイトの一例である。アルジロダイトが10重量%未満の組成物は、低いLi伝導性を有する。
【0063】
いくつかの実施形態において、高表面積電子伝導性添加剤(例えば、カーボンブラック)を使用してよい。グラファイト(電子伝導性に優れているが表面積が小さい)に加えて、Siは電子伝導性が低いため、有効な添加剤になれる。しかし、Si合金の電子伝導性は適度に高くなれて、いくつかの実施形態において、添加剤を使用する必要がない。Super Cの代わりに、他の高表面積カーボン(カーボンブラック、活性炭、グラフェン、カーボンナノチューブ)を使用することもできる。
【0064】
任意の適切な有機相を使用してよい。 特定の実施形態において、可塑性コポリマーセグメントと弾性コポリマーセグメントの両方を有する疎水性ブロックコポリマーが使用される。例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、イソプレンゴム(IR)などのスチレン系ブロックコポリマーが挙げられる。1重量%以下では所望の機械的特性を得るのに十分ではない場合があるが、5%以上ではエネルギー密度の低減や活性材料-アルジロダイト-カーボンの接触の乱れを引き起す。
【0065】
本明細書では、アノードと、カソードと、アノードおよびカソードに動作可能に結合する上述のような柔軟な固体電解質組成物とを含むアルカリ金属電池およびアルカリ金属イオン電池が提供される。電池は、アノードおよびカソードを物理的に隔離するための隔離板を含み得る。これが固体電解質組成物になってよい。
【0066】
好適なアノードの例には、これに限定されるものではないが、リチウム金属、リチウム合金、ナトリウム金属、ナトリウム合金、グラファイトなどの炭素質材料、および、それらの組み合わせから形成されたアノードが含まれる。好適なカソードの例には、これに限定されるものではないが、遷移金属酸化物、ドープされた遷移金属酸化物、金属リン酸塩、金属硫化物、リン酸鉄リチウム、硫黄、および、それらの組み合わせから形成されたカソードが含まれる。いくつかの実施形態において、カソードは、硫黄カソードであり得る。
【0067】
リチウム・空気電池、ナトリウム・空気電池、または、カリウム・空気電池などのアルカリ金属・空気電池において、カソードは、酸素透過性(例えば、メソポーラスカーボン、多孔質アルミニウムなど)であり得て、任意選択でカソードは、カソードにおいて発生する、リチウムイオンおよび酸素との還元反応を促進するべく、その中に組み込まれた金属触媒(例えば、マンガン、コバルト、ルテニウム、白金もしくは銀の触媒、または、それらの組み合わせ)を含み得る。
【0068】
いくつかの実施形態において、リチウム金属アノードおよび硫黄含有カソードを含むリチウム‐硫黄セルが提供される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される固体状複合材電解質は、デンドライト形成を防止することによってリチウム金属アノードを使用可能にし、かつ、放電中にカソードで形成されるポリスルフィド中間体LiSnを溶解させないことによって硫黄カソードを使用可能にするという点で、独特である。
【0069】
また、アノードおよびカソードが互いに直接電気的に接触することを防止するべく、イオン流透過性の任意の好適な材料から形成された隔離板を含めることができる。しかしながら、本明細書に記載される電解質組成物は固体組成物なので、特に膜の形態であるとき、隔離板として機能できる。
【0070】
いくつかの実施形態において、固体電解質組成物は、サイクリング中のアルカリイオンのインターカレーションに依存するアルカリイオン電池のアノードとカソードの間の電解質として機能する。
【0071】
上述のように、いくつかの実施形態において、固体複合組成物は、電池の電極に組み込まれ得る。電解質は、上述のような柔軟な固体電解質、または、液体電解質を含む任意の他の適切な電解質であり得る。
【0072】
いくつかの実施形態において、電池は、電極/電解質二重層を含み、各層は、本明細書に記載のイオン伝導性固体状複合材料を組み込む。
【0073】
図6Aは、発明の特定の実施形態に係るセルの模式図の一例を示す。セルは、負電流コレクタ602、アノード604、電解質/セパレータ606、カソード608、および正電流コレクタ610を含む。負電流コレクタ602および正電流コレクタ610は、銅、鋼、金、プラチナ、アルミニウム、ニッケルなど、任意の適切な電子伝導性材料であってよい。いくつかの実施形態において、負電流コレクタ602は銅であり、正電流コレクタ610はアルミニウムである。電流コレクタは、シート、箔、メッシュ、または、発泡体などの、任意の適切な形態であり得る。様々な実施形態によれば、アノード604、カソード608、および電解質/セパレータ606のうちの1または複数は、上述したようなチオフィリック金属をドープしたアルジロダイトを含む固体状複合材である。いくつかの実施形態において、アノード604、カソード608、および電解質606のうちの2つ以上は、上述したように、チオフィリック金属がドープされたアルジロダイトを含む固体状複合材である。
【0074】
いくつかの実施形態において、電流コレクタは、対応する電極に埋め込むことができる多孔質体である。例えば、メッシュであってよい。上述のような疎水性ポリマーを含む電極は、箔状の電流コレクタにはあまり密着しなくてよいが、メッシュ状の電流コレクタであれば機械的な接触も良好である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載された2つの複合体膜をメッシュ電流コレクタに押し付けて、電極に埋め込み電流コレクタを形成してよい。
【0075】
図6Bは、発明の特定の実施形態に係る、組み立てられたリチウム金属セルの模式図の一例を示す。組み立てられたセルは、負電流コレクタ602、電解質/セパレータ606、カソード608、および正電流コレクタ610を含む。最初の充電でリチウム金属が生成され、負電流コレクタ602にプレートされてアノードを形成する。電解質606およびカソード608の1つまたは両方は、上述のように、複合材料であり得る。いくつかの実施形態において、カソード608および電解質606は共に、電極/電解質二重層を形成する。図6Cは、発明の特定の実施形態に係るにセルの模式図の一例を示す。セルは、負電流コレクタ602、アノード604、カソード/電解質二重層612および正電流コレクタ610を含む。二重層構造の各層には、アルジロダイトが含まれている場合がある。このような二重層構造は、例えば、電解質懸濁液を調製し、それを電極層上に堆積させることによって調製してよい。
【0076】
電池の成分はすべて、既知の技法に従ってアノードおよびカソードとの電気的接続を確立するために、外部のリード線または接点を有する好適な剛性または弾性容器に含まれ得る、または、包装され得る。
【0077】
上の説明において、および、特許請求の範囲において、数字範囲は、範囲の終点を含む。例えば、「yは0から0.8の間の数である」には、0と0.8が含まれる。同様に、波線で表される範囲は、範囲の終点を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C