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特許7501866フッ素原子含有ポリマーの分解方法、及びフッ素原子含有ポリマーの分解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】フッ素原子含有ポリマーの分解方法、及びフッ素原子含有ポリマーの分解装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/14 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
C08J11/14 CEW
C08J11/14 ZAB
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020054121
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155478
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】堀 久男
(72)【発明者】
【氏名】前田 大輔
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/031848(WO,A1)
【文献】特表2002-526562(JP,A)
【文献】特開平10-088146(JP,A)
【文献】特開2018-104578(JP,A)
【文献】特開2002-138057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、分解対象であるフッ素原子含有ポリマーを200℃以上の亜臨界水に接触させて前記ポリマーの分解物である黒色固体を生成させる工程を含み、この工程における前記塩基性化合物の濃度を0.5mol/L~6.0mol/Lとすることを特徴とするフッ素原子含有ポリマーの分解方法。
【請求項2】
前記亜臨界水の温度が250℃以上である請求項1記載のフッ素原子含有ポリマーの分解方法。
【請求項3】
前記塩基性化合物が水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムである請求項1又は2記載のフッ素原子含有ポリマーの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素原子含有ポリマーの分解方法、及びフッ素原子含有ポリマーの分解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素原子を含んだポリマーは、その化学的安定性や熱に対する耐久性の高さなどの特性が評価され、理化学医療機器を初めとして諸々の生活用品に至るまで様々な分野に応用されている。特に、最近では環境保護の観点から太陽電池パネルを用いた発電が盛んに行われ、その規模も家屋の屋根に設置する小規模なものからメガソーラーと呼ばれる大規模なものまで幅広く存在するが、太陽電池パネルを構成する素子を保護するためのバックシート等の材料は、耐候性等の観点からフッ素原子を含んだポリマーが用いられている。これらを初めとして、フッ素原子含有ポリマーが幅広く用いられているのは周知の通りである。
【0003】
その反面、これらのポリマーは、こうした化学的安定性や熱に対する耐久性の高さなどの裏返しとして、廃棄物処理の問題を抱えがちである。すなわち、これらのポリマーを焼却しようとすれば、共有結合の中で最強である炭素・フッ素結合の存在によりその分解には高温での処理が必要になるばかりでなく、焼却により発生するフッ化水素ガスによる焼却炉材の劣化を招くことになる。このため、これらのポリマーを廃棄処分しようとすれば埋め立て処理が必要となるが、廃棄物の最終処分場が逼迫している現状ではそれも問題である。したがって、フッ素原子含有ポリマーについての、焼却でもなく埋め立てでもない、新たな廃棄物処理法が求められている。
【0004】
そのような背景から、例えば非特許文献1には、過酸化水素の存在下、亜臨界水にフッ素原子含有ポリマーを接触させることにより、このポリマーを二酸化炭素とフッ化物イオンまで分解する処理方法が提案されている。このような処理法であれば、比較的穏和な条件でフッ素原子含有ポリマーを無機化することができるばかりか、その処理で生じたフッ化物イオンをカルシウムイオンと反応させることにより、あらゆるフッ素含有化合物の原料になるフッ化カルシウムを得ることができ、資源のリサイクル面からも優れるということができる。
【0005】
また、特許文献1には、酸化剤である過マンガン酸塩の存在下で200℃以上の亜臨界水中でフッ素原子含有ポリマーを処理することで、これを分解する方法が提案されている。この方法によれば、過酸化水素を酸化剤として亜臨界水でフッ素原子含有ポリマーを処理する場合に比べて、酸化剤の使用量を大幅に低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-104578号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hisao Hori et al., Ind. Eng. Chem. Res., 2015, 54, pp8650-8658
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、フッ素原子含有ポリマーの新しい分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物のような塩基性化合物の存在下、分解対象であるフッ素原子含有ポリマーを200℃以上の亜臨界水に接触させることによりフッ素原子含有ポリマーを分解できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、分解対象であるフッ素原子含有ポリマーを200℃以上の亜臨界水に接触させて上記ポリマーの分解物である黒色固体を生成させる工程を含み、この工程における上記塩基性化合物の濃度を0.5mol/L~6.0mol/Lとすることを特徴とするフッ素原子含有ポリマーの分解方法である。
【0011】
(2)上記亜臨界水の温度は、250℃以上であることが好ましい。
【0012】
(3)上記塩基性化合物は、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フッ素原子含有ポリマーの新しい分解方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<フッ素原子含有ポリマーの分解方法>
以下、本発明のフッ素原子含有ポリマーの分解方法の一実施態様、及びフッ素原子含有ポリマーの分解装置の一実施形態について説明する。なお本発明は、以下の実施態様及び実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することが可能である。
【0016】
本発明のフッ素原子含有ポリマーの分解方法は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、分解対象であるフッ素原子含有ポリマーを200℃以上の亜臨界水に接触させる工程を含む。本工程を備えさえすれば本発明の効果を得ることができ、本発明の範囲に含まれることになる。その他の工程としては、分解反応の効率を高めるためにフッ素原子含有ポリマーを細かく裁断する前処理工程を挙げることができるが、このような前処理は必須ではない。前処理を行う場合、フッ素原子含有ポリマーが粉末状になるまで小粒径化させておくことが望ましい。
【0017】
本発明における分解対象のフッ素原子含有ポリマーは、分子中にフッ素原子を含むポリマーであり、分子中に1原子でもフッ素原子を含めば本発明の分解対象となる。フッ素原子含有ポリマーは、その高い耐薬品性、耐熱性、耐候性等の特性が評価され、産業や医療等を初めとしたあらゆる場面で応用されている。その反面、これらのポリマーは、こうした化学的安定性や熱に対する耐久性の高さなどの裏返しとして、廃棄物処理の問題を抱えがちである。本発明は、廃棄物となったこれらのポリマーを化学的に分解処理する方法を提供するものである。このようなフッ素原子含有ポリマーとしては、ホモポリマーでもコポリマーでもよく、そのようなものの例として、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等を挙げることができる。
【0018】
本発明では、塩基性化合物の存在下にて亜臨界水中でフッ素原子含有ポリマーを処理するが、このとき、塩基性化合物によりポリマー中からフッ化水素(HF)が引き抜かれることでポリマーの分解が生じると考えられる。このような機構によれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のように、水素原子の存在しないポリマーでは本発明による分解は困難と考えられる。したがって、水素原子の存在しないポリマーは、本発明の適用除外とされることが好ましい。なお、ETFEは、重合してポリマーを形成するときに、エチレンとテトラフルオロエチレンとが交互に重合することが知られており、必ずフッ素原子の隣に水素原子が存在することになる。したがって、本発明は、ETFEにも好ましく適用可能である。
【0019】
また、本発明では、上記のように、ポリマーからHFが引き抜かれることにより分解を生じると考えられ、ポリマーからフッ素原子は取り除かれるものの、ポリマーが二酸化炭素まで完全に分解されるものではない。しかしながら、廃棄処理の際に問題となるフッ素原子をポリマーから取り除くことは実現されるので、本発明においては、このような二酸化炭素まで完全に分解されない分解であっても、ポリマーの分解として扱う。なお、ポリマー鎖中において水素原子とフッ素原子が取り除かれた箇所には二重結合を生じると考えられ、処理の完了したポリマーは、二重結合を有する元素状炭素、すなわち黒鉛のような化学構造を有するものになると考えられる。実際に、本発明の処理を受けたポリマーは、処理後に黒色を呈する固体となることが確認されており、こうした考えを支持している。このように元素状炭素まで分解されたポリマーは、容易に燃焼させることができ、最終的には二酸化炭素まで分解させることができる。
【0020】
亜臨界水は、加圧されることにより、100℃を超え、臨界温度である374℃よりも低い温度範囲にある液体状態の水である。亜臨界水は、100℃以下の水とは物性面で異なる性質を備えており、特に200℃~300℃の範囲にある亜臨界水では、比誘電率が大きく低下して室温におけるメタノールやアセトンとほぼ同等の脂溶性を示したり、室温で10-14mol/Lだったイオン積が10-11mol/Lのオーダーとなって、水素イオン及び水酸化物イオンの濃度が室温の水よりも30倍高くなったりする。このため、特に200℃~300℃の亜臨界水では、室温の水とは異なる反応性を示すことが知られている。本発明では、200℃以上の亜臨界水が用いられ、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上の亜臨界水が用いられる。
【0021】
亜臨界水の調製に用いられる水としては特に限定されず、水道水、イオン交換水、蒸留水、井戸水等、どのようなものを用いてもよいが、共存する塩等の影響による副反応を抑制するとの観点からはイオン交換水や蒸留水が好ましく挙げられる。用いる水の量については、処理対象であるフッ素原子含有ポリマーが十分に浸る程度であればよいが、加圧のための密閉容器へ導入する水の量が極端に少ないと加熱後すべて水蒸気になり亜臨界水の状態にならないため注意が必要である。
【0022】
本発明では、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物が用いられる。既に述べたように、塩基性化合物は、フッ素原子含有ポリマーからHFを引き抜く反応を生じさせるために用いられる。
【0023】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられ、これらの中でも、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましく挙げられる。ここで、水酸化カリウムは、濃厚溶液において水酸化ナトリウムよりも活量が高く、塩基性が高いことが知られており、HFの引き抜き反応では高い活性が見込まれる。実際に、本発明において、水酸化カリウムを用いてフッ素原子含有ポリマーの分解を行うと、水酸化ナトリウムを用いた場合よりも活性が高いことが確認されている。このような観点からは、水酸化カリウムが最も好ましいといえる。
【0024】
アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0025】
昇温して亜臨界水とする前の水中における塩基性化合物の濃度としては、0.5M~6.0M程度が挙げられる。なお、当業者にとって周知なように、単位の「M」はmol/Lを意味する。昇温して亜臨界水とする前の水中における塩基性化合物の濃度として、より好ましくは1.0M~3.0Mが挙げられ、さらに好ましくは1.0M~2.0Mが挙げられる。
【0026】
次に、塩基性化合物を含んだ亜臨界水にフッ素原子含有ポリマーを接触させて分解を行う方法について説明する。処理対象であるフッ素原子含有ポリマーの量に応じたサイズの圧力容器に水、塩基性化合物、及び処理対象であるフッ素原子含有ポリマーを加え、圧力容器内部を加圧して密閉する。圧力容器内部を加圧するには、気体を封入すればよい。このような気体としては、空気、アルゴン、窒素等を挙げることができる。加圧の程度としては0.5MPa程度を挙げることができるが、特に限定されない。
【0027】
上記の過程を経た圧力容器を加熱して分解反応を開始させる。加熱の温度は200℃以上であるが、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。圧力容器自体が加熱手段を備える場合には、その加熱手段を用いて加熱すればよく、圧力容器自体が加熱手段を備えない場合には、圧力容器全体をオートクレーブやオーブン中で加熱すればよい。反応時間としては6時間~24時間程度を挙げることができる
【0028】
反応終了後の水中には、フッ素原子含有ポリマーに含まれていたフッ素原子がフッ化物イオンとなって含まれている。フッ化物イオンは、カルシウムイオンと反応させることにより、あらゆるフッ素化合物の原料となるフッ化カルシウムに転換させることができる。このため、本発明の方法を用いてフッ素原子含有ポリマーの廃棄物処理を行うことにより、資源の有効活用を行うことが可能になる。
【0029】
また、反応終了後の水中には、フッ化物イオンの他に、HFを引き抜かれたあとのポリマー分解物が含まれている。既に述べたように、この分解物は、二重結合を備えた元素状炭素と考えられ、多くの場合黒色を呈する。これは固体なので容易に分離することができ、フッ素原子が除かれているので焼却処分するのも容易である。
【0030】
<フッ素原子含有ポリマーの分解装置>
上記本発明のフッ素原子含有ポリマーの分解方法を実現することのできる装置も本発明の一つである。この装置は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、分解対象であるフッ素原子含有ポリマーを200℃以上の亜臨界水に接触させるための反応容器を備えることを特徴とする。
【0031】
本発明の装置は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物を含む水と、分解対処であるフッ素原子含有ポリマーとを圧力容器の内部に導入することができ、その内部を加圧状態で加熱することが可能である。その際の加熱温度は、200℃以上であり、好ましくは250℃以上であり、より好ましくは300℃以上である。圧力容器の内部には、その内容物を撹拌するための撹拌装置を備えることが望ましい。その他の事項については、上記フッ素原子含有ポリマーの分解方法で説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【実施例
【0032】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)含有樹脂シートの亜臨界水を用いた分解反応]
(参考例1)
PVDFを含む樹脂シート(燃焼イオンクロマトグラフィーで求めたフッ素原子含有率は37質量%である。)30.5mgと、200mM過マンガン酸カリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.5MPaまで加圧した後、250℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、4.7MPaである。なお、この樹脂シート30.5mg中に含まれるフッ素原子物質量は、30.5×10-3×0.37/18.998=5.94×10-4mol=594μmolである。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、570μmol(収率96%)だった。
【0034】
(実施例1)
参考例1で用いたのと同じ樹脂シート29.6mgと、1.0M水酸化ナトリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.5MPaまで加圧した後、250℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、4.5MPaである。なお、この樹脂シート30.5mg中に含まれるフッ素原子物質量は、577μmolである。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、565μmol(収率98%)だった。
【0035】
参考例1と実施例1とを比較すると、塩基性化合物を用いた本発明の方法は、酸化剤(過マンガン酸カリウム)を用いた方法(背景技術に記載した特許文献1記載の方法)と比べて、フッ化物イオン収率において遜色ない結果だった。
【0036】
[PVDF粉末の亜臨界水を用いた分解反応]
(実施例2)
試薬として市販されているPVDF粉末(フッ素原子含有率:60.7質量%)30.0mgと、1.0M水酸化ナトリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.5MPaまで加圧した後、250℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、4.5MPaである。なお、PVDF粉末30.0mg中に含まれるフッ素原子物質量は、959μmolである。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、858μmol(収率89%)だった。
【0037】
(実施例3)
1.0M水酸化ナトリウム水溶液に代えて、1.0M水酸化カリウム水溶液を用いたことを除いて、実施例2と同様の手順で実験を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、935μmol(収率97%)だった。
【0038】
実施例2と実施例3とを比較すると、水酸化カリウム水溶液を用いた実施例3は、水酸化ナトリウム水溶液を用いた実施例2よりも収率が高いことがわかる。
【0039】
[エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)の亜臨界水を用いた分解反応]
(実施例4)
試薬として市販されているETFEビーズ(フッ素原子含有率:54.6質量%)29.6mgと、1.0M水酸化ナトリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.5MPaまで加圧した後、250℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、4.4MPaである。なお、ETFEビーズ29.6mg中に含まれるフッ素原子物質量は、851μmolである。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、180μmol(収率21%)だった。
【0040】
(実施例5)
試薬として市販されているETFEビーズ(フッ素原子含有率:54.6質量%)30.0mgと、1.0M水酸化ナトリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.5MPaまで加圧した後、300℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、9.4MPaである。なお、ETFEビーズ30.0mg中に含まれるフッ素原子物質量は、862μmolである。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、868μmol(収率101%)だった。
【0041】
実施例4と実施例5とを対比すると、分解対象がETFEの場合、1.0M水酸化ナトリウム水溶液を用いて250℃で反応させた時の収率は21%だったが、反応温度を300℃に高めることで収率が大幅に改善されることがわかる。
【0042】
[ポリフッ化ビニル(PVF)含有樹脂シートの亜臨界水を用いた分解反応]
(実施例6)
PVFを含む樹脂シート(フッ素原子含有率:31質量%)29.6mgと、1.0M水酸化ナトリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.5MPaまで加圧した後、250℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、4.5MPaである。なお、PVF含有樹脂シート29.6mg中に含まれるフッ素原子物質量は、483μmolである。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、146μmol(収率30%)だった。
【0043】
(実施例7)
実施例6で用いたのと同じ樹脂シート29.6mgと、1.0M水酸化カリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.5MPaまで加圧した後、250℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、4.5MPaである。なお、PVF含有樹脂シート29.6mg中に含まれるフッ素原子物質量は、483μmolである。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオン物質量は、274μmol(収率57%)だった。
【0044】
実施例6と実施例7とを比較すると、水酸化カリウムを用いた実施例7は、水酸化ナトリウム水溶液を用いた実施例6よりも収率が高いことがわかる。
【0045】
以上、各実施例にて示されるように、本発明によれば、フッ素原子含有ポリマーを良好に分解可能であることが理解できる。