(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】山岳トンネルの更新方法及び覆工構造体
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20240611BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/10 A
E21D11/10 D
(21)【出願番号】P 2020157321
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂金 伸治
(72)【発明者】
【氏名】日下 敦
(72)【発明者】
【氏名】巽 義知
(72)【発明者】
【氏名】石村 利明
(72)【発明者】
【氏名】小出 孝明
(72)【発明者】
【氏名】秋好 賢治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雅信
(72)【発明者】
【氏名】磐田 吾郎
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-031599(JP,A)
【文献】特開2002-038891(JP,A)
【文献】特開2017-193885(JP,A)
【文献】特開2002-213194(JP,A)
【文献】特開2003-020898(JP,A)
【文献】特開平08-135383(JP,A)
【文献】特開2001-280059(JP,A)
【文献】特開2001-280089(JP,A)
【文献】特開2010-144377(JP,A)
【文献】特開2005-290810(JP,A)
【文献】特開2010-285844(JP,A)
【文献】特開2013-129985(JP,A)
【文献】特開昭64-006500(JP,A)
【文献】特開2016-037793(JP,A)
【文献】特開2013-203559(JP,A)
【文献】特開2009-179961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルにおける更新予定範囲の内壁面を被覆する既設覆工のうち、天端部と一方の側壁部及び他方の側壁部とを残して、
一方の肩部を撤去し、撤去跡に一方の肩部新設覆工を構築する第1の工程と、
他方の肩部を撤去し、撤去跡に他方の肩部新設覆工を構築する第2の工程と、
前記既設覆工の天端部における内壁面に天端部新設覆工を構築し、前記更新予定範囲の内壁面に覆工構造体を構築する第3の工程と、を備え、
前記覆工構造体は、前記天端部新設覆工と、前記一方の肩部新設覆工及び前記他方の肩部新設覆工と、前記既設覆工における前記一方の側壁部及び前記他方の側壁部とが、一体となるように構築することを特徴とする山岳トンネルの更新方法。
【請求項2】
請求項1に記載の山岳トンネルの更新方法であって、
前記更新予定範囲をトンネル軸線方向に複数の作業区画に区分けし、
1つ以上の作業区画を任意に選択し、選択した前記作業区画にて前記第1の工程を実施する作業を繰り返し、前記一方の肩部新設覆工を前記更新予定範囲に連続して構築したのち、
1つ以上の作業区画を任意に選択し、選択した前記作業区画にて前記第2の工程を実施する作業を繰り返し、前記他方の肩部新設覆工を前記更新予定範囲に連続して構築し、
前記更新予定範囲におけるトンネル軸線方向の、一方側から他方側に向けて順次前記第3の工程を実施し、前記一方の肩部新設覆工と前記他方の肩部新設覆工との間で前記天端部新設覆工を、前記更新予定範囲に連続して構築することを特徴とする山岳トンネルの更新方法。
【請求項3】
請求項1に記載の山岳トンネルの更新方法であって、
更新予定範囲におけるトンネル軸線方向の一方側から他方側に向けて、第1の工程を実施したのちに第2の工程を実施し、前記一方の肩部新設覆工と前記他方の肩部新設覆工を、前記更新予定範囲に連続して構築したのち、
前記更新予定範囲におけるトンネル軸線方向の、一方側から他方側に向けて順次前記第3の工程を実施し、前記一方の肩部新設覆工と前記他方の肩部新設覆工との間で前記天端部新設覆工を、前記更新予定範囲に連続して構築することを特徴とする山岳トンネルの更新方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の山岳トンネルの更新方法において、
前記天端部新設覆工、前記一方の肩部新設覆工及び前記他方の肩部新設覆工に各々、補強材を埋設された覆工コンクリートが備えられていることを特徴とする山岳トンネルの更新方法。
【請求項5】
山岳トンネルの内壁面に構築される覆工構造体であって、
既設覆工の側壁部と、
既設覆工の肩部を除去した跡に構築された肩部新設覆工と、
残置した天端部の内壁面に構築された天端部新設覆工と、
トンネル周方向に延材し、前記肩部新設覆工と前記天端部新設覆工の内部に埋設され、かつ両端が前記側壁部の上方にそれぞれ固着された補強材と、
を備えることを特徴とする山岳トンネルの覆工構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルの更新方法及び山岳トンネルの内壁面側に構築される覆工構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化した山岳トンネルの更新工事を実施する際、工事期間中であってもトンネル内の交通開放を要求される場合が多い。このため、一般にはトンネル内に車両の通行空間を設けるためのプロテクタを設置し、プロテクタとトンネル内壁面との間に形成された空間を作業エリアとして、更新工事を行う。
【0003】
例えば、特許文献1には、プロテクタを用いた既設2車線道路トンネルの覆工部の改築方法が開示されている。具体的には、既設の2車線道路トンネル内に1車線を確保可能なプロテクタを、トンネル軸線方向に移動自在に設置したうえで、プロテクタと覆工部との間に形成された空間を利用して、覆工部を改築している。
【0004】
特許文献1において、このような覆工部の改築にあたっては、既設の覆工コンクリートを解体する際に用いる切削機、切削屑を搬出する搬出装置、既設覆工を除去したトンネル内壁面への防水工を実施する際の作業台車、及び新設覆工の覆工コンクリートを打設する際に用いる覆工型枠等、工事に用いる設備をいずれもプロテクタに対して移動自在に配設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、プロテクタを利用して供用可能な車線を確保しつつ老朽化した山岳トンネルの更新工事を実施する場合、プロテクタには様々な設備が搭載されることから、これらの重機荷重に耐える構造が必要となる。また、プロテクタは、解体した覆工コンクリート塊や作業途中に発生する可能性のある周辺地山の落石等の衝撃荷重にも備える構造とすることが要求されるため、その構造を重厚なものとせざるを得ない。
【0007】
しかし、重厚なプロテクタは高価なだけでなく、既設の山岳トンネルではプロテクタの周囲に重機を利用して作業するための十分な空間を確保できない場合が多い。このような場合には、既設の覆工コンクリートの解体作業と併せて、トンネル断面を拡大するなど、作業工程が増大するため工期が長期化するとともに、工費が膨大となる。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、重厚なプロテクタを使用することなくトンネル内を供用しながら、山岳トンネルの更新工事を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の山岳トンネルの更新方法は、山岳トンネルにおける更新予定範囲の内壁面を被覆する既設覆工のうち、天端部と一方の側壁部及び他方の側壁部とを残して、一方の肩部を撤去し、撤去跡に一方の肩部新設覆工を構築する第1の工程と、他方の肩部を撤去し、撤去跡に他方の肩部新設覆工を構築する第2の工程と、前記既設覆工の天端部における内壁面に天端部新設覆工を構築し、前記更新予定範囲の内壁面に覆工構造体を構築する第3の工程と、を備え、前記覆工構造体は、前記天端部新設覆工と、前記一方の肩部新設覆工及び前記他方の肩部新設覆工と、前記既設覆工における前記一方の側壁部及び前記他方の側壁部とが、一体となるように構築することを特徴とする。
【0010】
本発明の山岳トンネルの更新方法によれば、既設覆工の天端部を撤去せず、新設覆工を構築する。これにより、天端部の既設覆工を撤去する際に必要となる切削機や搬送装置等を使用した作業を、トンネル中央で実施しなくてもよい。したがって、重厚なプロテクタを用いることなくトンネル内に作業エリアと供用エリアの両者を確保でき、交通開放を行いつつ、山岳トンネルの更新工事を実施することが可能となる。
【0011】
このように、現存のトンネル断面内に更新工事に必要な作業エリアを確保できることから、重厚なプロテクタを用いて更新工事を実施する場合に必要となっていた、作業エリアを確保するための周辺地山の掘削作業を省略できる。これにより、更新工事の作業性を大幅に向上することが可能となる。
【0012】
本発明の山岳トンネルの更新方法は、前記更新予定範囲をトンネル軸線方向に複数の作業区画に区分けし、1つ以上の作業区画を任意に選択し、選択した前記作業区画にて前記第1の工程を実施する作業を繰り返し、前記一方の肩部新設覆工を前記更新予定範囲に連続して構築したのち、1つ以上の作業区画を任意に選択し、選択した前記作業区画にて前記第2の工程を実施する作業を繰り返し、前記他方の肩部新設覆工を前記更新予定範囲に連続して構築し、前記更新予定範囲におけるトンネル軸線方向の、一方側から他方側に向けて順次前記第3の工程を実施し、前記一方の肩部新設覆工と前記他方の肩部新設覆工との間で前記天端部新設覆工を、前記更新予定範囲に連続して構築することを特徴とする。
【0013】
本発明の山岳トンネルの更新方法によれば、地山に対する更新工事の影響範囲等を適宜考慮しつつ作業区画を選択すれば、第1の工程及び第2の工程をそれぞれ、複数の作業区画で並行して同時進行することができる。これにより、更新予定範囲の全域がトンネル軸線方向の長大な範囲に及ぶ場合にも、交通開放を行いつつ更新工事全体の工期短縮を図ることが可能となる。
【0014】
また、本発明の山岳トンネルの更新方法は、更新予定範囲におけるトンネル軸線方向の一方側から他方側に向けて、第1の工程を実施したのちに第2の工程を実施し、前記一方の肩部新設覆工と前記他方の肩部新設覆工を、前記更新予定範囲に連続して構築したのち、前記更新予定範囲におけるトンネル軸線方向の、一方側から他方側に向けて順次前記第3の工程を実施し、前記一方の肩部新設覆工と前記他方の肩部新設覆工との間で前記天端部新設覆工を、前記更新予定範囲に連続して構築することを特徴とする。
【0015】
本発明の山岳トンネルの更新方法によれば、更新工事を実施するための作業エリアと車両の走行可能な供用エリアとの切り替え作業が、第1工程の終了後と第2工程の終了後の2回のみで済む。これにより、作業エリアと供用エリアの切り替えに係る煩雑な作業を低減でき、施工性を向上することができる。また、交通規制に係る周辺地域への影響を最小限に抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の山岳トンネルの更新方法は、前記天端部新設覆工、前記一方の肩部新設覆工及び前記他方の肩部新設覆工に各々、補強材を埋設された覆工コンクリートが備えられていることを特徴とする。
【0017】
本発明の山岳トンネルの覆工構造体は、山岳トンネルの内壁面に構築される覆工構造体であって、既設覆工の側壁部と、既設覆工の肩部を除去した跡に構築された肩部新設覆工と、残置した天端部の内壁面に構築された天端部新設覆工と、トンネル周方向に延材し、前記肩部新設覆工と前記天端部新設覆工の内部に埋設され、かつ両端が前記側壁部の上方にそれぞれ固着された補強材と、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の山岳トンネルの更新方法及び覆工構造体によれば、更新後の覆工構造体は、既設覆工の天端部を残しその内壁面に天端部新設覆工を構築するため、天端近傍が扁平となりアーチ効果を期待できない。しかし、天端部から肩部の範囲の覆工コンクリートに補強材を埋設することにより、アーチ構造を有する既設の覆工構造体と同等の耐力を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、既設覆工の天端部を撤去せず、新設覆工を構築するため、重厚なプロテクタを用いることなく、トンネル断面を左右に分離し、一方に作業エリアを設けるとともに他方に供用エリアを設けることで、交通開放を行いつつ、山岳トンネルの更新工事を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態における山岳トンネルの新設覆工(覆工構造体)概要を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新方法を示す図である(その1)。
【
図3】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新方法を示す図である(その2)。
【
図4】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新方法を示す図である(その3)。
【
図5】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新工事の施工手順を示す図である(その1)。
【
図6】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新工事の施工手順を示す図である(その2)。
【
図7】本発明の実施の形態における山岳トンネルの更新工事を実施する際のトンネル内の作業エリア及び作業区分を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新工事の他の施工手順を示す図である(その1)。
【
図9】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新工事の他の施工手順を示す図である(その2)。
【
図10】本発明の実施形態における山岳トンネルの更新工事の他の施工手順を示す図である(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、老朽化した山岳トンネルにおいて、重厚なプロテクタを用いることなく車両の通行を可能にしながら、更新工事を実施するものである。以下に、
図1~
図10を参照しつつ、山岳トンネルの更新方法及び覆工構造体について、その詳細を説明する。
【0022】
図1(a)で示すように、新設覆工20は、山岳トンネルの内壁面側に構築されている既設覆工10の一部を利用して構築した覆工構造体であり、天端部新設覆工20a、一方の肩部新設覆工20b、他方の肩部新設覆工20c、既設覆工10の一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fにより構成されている。
【0023】
なお、更新工事において既設覆工10は、
図2(a)で示すように、天端部10a、一方の肩部10b及び他方の肩部10c、一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fの、5つの部位よりなる構造体として取り扱う。
【0024】
天端部新設覆工20aは、
図1(a)で示すように、既設覆工10の天端部における内壁面に構築されており、一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cはそれぞれ、既設覆工10における一方の肩部10b及び他方の肩部10cの撤去跡に構築されている。
【0025】
天端部新設覆工20a、一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cは各々、補強鉄筋23が埋設された覆工コンクリート25を備えている。そして、各々に埋設されている補強鉄筋23どうしは、互いに継手26を介してトンネル周方向に連続するように配設されている。
【0026】
また、トンネル周方向に連続する補強鉄筋23の両端部はそれぞれ、既設覆工10の一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fにおける覆工コンクリートの上方に、あと施工アンカー27を利用して固着されている。
【0027】
このように、覆工構造体よりなる新設覆工20は、既設覆工10の天端部10aを残したまま構築することができる構造となっている。これにより、既設覆工10の天端部10aを撤去する際に必要となる切削機や搬送装置等を使用した作業を、トンネル中央で実施しなくてもよい。したがって、山岳トンネルの更新工事を交通開放を行いながら実施する際、一般に使用されている重厚なプロテクタを不要とすることができる。
【0028】
なお、重厚なプロテクタとは、更新工事に必要な切削機や掘削機等の重機やベルトコンベヤ等の搬送設備等を搭載もしくは支持可能であったり、既設覆工10の撤去作業時に発生する可能性のある周辺地山の落石等の衝撃荷重にも備える構造等を有するものをいう。
【0029】
≪≪山岳トンネルの更新方法≫≫
以下に、山岳トンネルの内壁面に構築された既設覆工10を新設覆工20に更新する山岳トンネルの更新方法について、
図2~
図4を参照しつつその詳細を説明する。
【0030】
≪前処理≫
山岳トンネル更新方法は、既設覆工10の天端部10a、一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fを残置して実施する方法である。したがって、
図2(a)で示すように、天端部10aと地山との間に空洞が生じている場合には、あらかじめ充填材12を充填する覆工背面空洞充填工を実施しておく。
【0031】
また、一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fは、ロックボルト11を打設して地山に固定しておく。なお、これらが、既設覆工10の一方の肩部10b及び他方の肩部10cを撤去しても倒壊する恐れがない場合には、必ずしもロックボルト11を打設しなくてもよい。
【0032】
≪第1の工程:一方の肩部新設覆工20bの構築≫
図2(a)で示すように、既設覆工10の天端部10aを支持可能な位置に、コンクリート塊等の飛散防止板31を備えた内部支保工30を設置し、トンネル内を左右に分離して、作業エリアE1と車両の走行可能な供用エリアE2を確保する。
【0033】
本実施の形態では、供用エリアE2で必要な道路幅員を確保するべく、内部支保工30をトンネル中心よりズレた位置に配置しているが、山岳トンネルの内空断面が十分広い場合には、内部支保工30をトンネル中心に配置すると良い。
【0034】
こうして、供用エリアE2で交通開放を行いつつ、作業エリアE1に位置する既設覆工10について、一方の肩部10bを切削機や掘削機等の重機を利用して解体し、解体したコンクリート塊等をベルトコンベヤ等の搬送設備を利用して坑外へ搬出撤去する。
【0035】
一方の肩部10bの撤去跡は、既設の鋼製支保工13とともに地山が露出した状態となっているから、
図2(b)で示すように、一次覆工としてこれらを被覆するようにして吹付コンクリート21を吹き付ける。こののち、吹付コンクリート21を覆うようにして、ゴムやアスファルト等の防水材を吹付け、防水層22を形成する。
【0036】
また、既設覆工10の天端部10aには、一方の肩部10bの撤去跡に向けて突出するようにしてアンカー筋24を設置しておく。これらの作業はいずれも、例えば作業エリアE1に設置した組立足場32を利用するなどして実施することができる。
【0037】
次に、
図2(c)で示すように、同じく組立足場32を利用して一方の肩部10bの撤去跡に、補強鉄筋23を配設する。補強鉄筋23は、トンネル軸線方向に延在する複数の横筋とトンネル周方向に延在する複数の縦筋とを組み合わせた、鉄筋組立体に形成されている。そして、補強鉄筋23におけるトンネル周方向の両端部のうち、一方の端部近傍は、既設覆工10の天端部10aにおける内壁面に沿って延在するように配置する。
【0038】
また、他方の端部は、既設覆工10の一方の側壁部10eに固着する。固着するための手段はいずれでもよいが、例えば、一方の側壁部10eにおける補強鉄筋23と対向する位置に、ケミカルアンカー等のあと施工アンカー27を設け、これを利用して補強鉄筋23を一方の側壁部10eに固定すると良い。
【0039】
こののち、
図3(a)で示すように、補強鉄筋23を挟んで地山と対向する位置に肩部用型枠35を設置し、肩部用型枠35と地山(詳しくは、防水層22)との間に覆工コンクリート25を、既設覆工10の天端部10aと一方の側壁部10eとに打ち継ぐ態様で打設する。このとき、既設覆工10の天端部10aにおける内壁面に沿って配設した補強鉄筋23の一方の端部は、その先端部を覆工コンクリート25に埋設せず、突出させておく。
【0040】
図3(b)で示すように、打設した覆工コンクリート25を所定期間にわたり養生したのち、肩部用型枠35を撤去すると、既設覆工10における一方の肩部10bの撤去跡には、一方の肩部新設覆工20bが構築される。
【0041】
上述したように一方の肩部新設覆工20bは、覆工コンクリート25が既設覆工10の天端部10aと一方の側壁部10eとに打ち継ぐ態様で構築される。また、補強鉄筋23の他方の端部が既設覆工10の一方の側壁部10eに固着され、既設覆工10の天端部10aとの間にはアンカー筋24が配置されている。これにより、既設覆工10の一方の肩部10bを、一方の肩部新設覆工20bに更新しても、山岳トンネルの内壁面にはアーチが形成され、安定した状態となっている。
【0042】
したがって、第1の工程が終了したのちに第2の工程を実施する際、トンネル断面の左右に確保された作業エリアE1と供用エリアE2を切り替えるべく、一時的に内部支保工30を撤去することが可能となる。なお、作業エリアE1と供用エリアE2を切り替える際、内部支保工30と併せて、組立足場32を解体撤去しておく。
【0043】
≪第2の工程:他方の肩部新設覆工20cの構築≫
図3(c)で示すように、トンネル内の所定位置に再度、飛散防止板31を備えた内部支保工30を設置して、トンネル内の左右で作業エリアE1と供用エリアE2の切り替え作業を行う。これにより、既設覆工10における他方の肩部10c側に作業エリアE1が確保され、一方の肩部新設覆工20bを構築した側に供用エリアE2が確保される。なお、トンネル内の左右に設けた作業エリアE1と供用エリアE2の幅(トンネル周方向の長さ)が同じ大きさに設定されている場合には、内部支保工30を撤去せずに組立足場32のみ解体撤去すればよい。
【0044】
こののち、供用エリアE2で交通開放を行いつつ、作業エリアE1で、第1の工程と同様の手順により、既設覆工10における他方の肩部10cを撤去し、その撤去跡に他方の肩部新設覆工20cを構築する。
【0045】
このように、第1の工程及び第2の工程では、内部支保工30を利用して作業エリアE1と供用エリアE2を確保することで、交通開放しつつ、既設覆工10における一方の肩部10b及び他方の肩部10cを撤去し、一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cを構築することが可能となる。
【0046】
そして、他方の肩部新設覆工20cも、覆工コンクリート25が既設覆工10の天端部20aと他方の側壁部10fとに打ち継ぐ態様で構築される。また、補強鉄筋23の他方の端部が、既設覆工10の他方の側壁部10fに固着され、既設覆工10の天端部10aとの間にはアンカー筋24が配置されている。したがって、既設覆工10における一方の肩部10bを一方の肩部新設覆工20bに更新し、また、既設覆工10における他方の肩部10cを他方の肩部新設覆工20cに更新しても、山岳トンネルの内壁面にはアーチが形成され、安定した状態となっている。
【0047】
これにより、
図4(a)で示すように、第2の工程が終了したのちに第3の工程を実施する際、トンネル内に確保された作業エリアE1と供用エリアE2の位置を切り替えるべく、一時的に内部支保工30を撤去することが可能となる。
【0048】
≪第3の工程:天端部新設覆工20aの構築≫
一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cを構築したところで、トンネル内の内部支保工30を撤去する。
【0049】
こののち、
図4(b)で示すように、トンネル内の所定位置に簡易プロテクタ33を配置する。これにより、簡易プロテクタ33の内方には車両の走行可能な供用エリアE2が確保され、外方には作業エリアE1を確保することができる。
【0050】
簡易プロテクタ33は、その内方に車両を走行させることの可能な空間を確保できる形状を有していれば、その構造自体は簡略なもので良い。本実施の形態では、この簡易プロテクタ33に張出し足場34を設け、この張出し足場34を利用して天端部新設覆工20aを構築する。
【0051】
まず、
図4(b)で示すように、既設覆工10の天端部10aにおける内壁面に沿って、補強鉄筋23を配設する。天端部10aの内壁面側にはすでに、一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cの各々から突出した、補強鉄筋23の一方の端部が配設されている。そこで、これらと、天端部新設覆工20aを構成する補強鉄筋23の両端部とを継手26を介して連結する。
【0052】
こののち、
図4(c)で示すように、補強鉄筋23を挟んで既設覆工10の天端部10aと対向する位置に天端部型枠36を設置し、覆工コンクリート25を一方の肩部新設覆工20bと他方の肩部新設覆工20cとに打ち継ぐ態様で打設する。打設した覆工コンクリート25を所定期間にわたり養生したのち天端部型枠36を撤去すると、既設覆工10の天端部10aにおける内壁面側には、
図1(a)で示すような、天端部新設覆工20aが構築される。
【0053】
こうして、第3の工程では、簡易プロテクタ33を利用して作業エリアE1と供用エリアE2を確保することで、交通開放しつつ、天端部新設覆工20aを構築することができる。これにより、山岳トンネルの内壁面には、既設覆工10に代えて、既設覆工10の一部を利用した新設覆工20が構築される。
【0054】
上記のとおり、山岳トンネルの更新方法によれば、既設覆工10の天端部10a、一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fを残して、第1の工程で、既設覆工10における一方の肩部10bの撤去跡に一方の肩部新設覆工20bを構築し、第2の工程で、既設覆工10における他方の肩部10cの撤去跡に他方の肩部新設覆工20cを構築する。さらに、第3の工程では、既設覆工10の天端部10aを撤去せず、その内壁面に天端部新設覆工を構築する。このように、更新工事の期間中、既設覆工10の一部と新設覆工20の一部によるアーチが形成され、山岳トンネルの内壁面に安定した状態を保持できる。また、更新工事で撤去されることのない既設覆工10の天端部10aに設ける内部支保工30を利用してトンネル断面を左右に分離する、もしくは簡易プロテクタ33を採用し、現存のトンネル断面内に作業エリアE1と供用エリアE2を確保できる。これにより、重厚なプロテクタを使用することなく、交通開放を行いつつ山岳トンネルの更新工事を実施することが可能となる。
【0055】
したがって、重厚なプロテクタを用いる場合に必要となっていた、更新工事に必要な作業エリアE1を確保するための周辺地山の掘削作業を省略でき、更新工事の作業性を大幅に向上することが可能となる。
【0056】
また、新設覆工20は、既設覆工10の天端部10aにおける内壁面側に天端部新設覆工20aが構築されるため、天端近傍が扁平となりアーチ効果を期待できない。しかし、天端部から肩部の範囲の覆工コンクリート25に補強鉄筋23が埋設された覆工構造体として構築されるから、アーチ構造を有する既設覆工10と同等の耐力を確保することが可能となる。
【0057】
なお、既設トンネルより内空断面の拡大が必要な場合は、
図1(b)で示すように、既設路盤10dの盤下げを行って、新設路盤20dを低位置に構築してもよいし、一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cについて、薄肉化を図ってもよい。
【0058】
≪≪山岳トンネルの更新方法による更新工事の進行手順≫≫
上述した山岳トンネルの更新方法による更新工事は、トンネル軸線方向に設定された更新予定範囲Pに対して、片押し施工により進行してもよいし、歯抜け施工により進行してもよい。以下に、片押し施工と歯抜け施工による更新工事の施工手順を、
図5~
図10を参照しつつ説明する。
【0059】
≪片押し施工≫
山岳トンネルの更新方法による更新工事を片押し施工により実施する際には、
図5(a)で示すように、既設覆工10における一方の肩部10bを撤去したのち、
図5(b)で示すように、その撤去跡に一方の肩部新設覆工20bを構築する第1の工程を、更新予定範囲Pの全域に対して、トンネル軸線方向の一方側から他方側に向かって実施する。
【0060】
次に、
図6(a)で示すように、既設覆工10における他方の肩部10cを撤去したのち、その撤去跡に他方の肩部新設覆工20cを構築する第2の工程を、更新予定範囲Pの全域に対して、トンネル軸線方向の一方側から他方側に向かって実施する。
【0061】
こののち、既設覆工10における天端部10aの内壁面側に天端部新設覆工20aを構築する第3の工程を、
図6(b)で示すように、更新予定範囲Pの全域に対して、トンネル軸線方向の一方側から他方側に向かって実施する。このとき、施工に用いる簡易プロテクタ33は、例えば車輪を備えた自走式に構成し、天端部新設覆工20aの構築作業が進行するごとに、トンネル軸線方向にスライド移動させると良い。
【0062】
このような手順により、山岳トンネルに新設覆工20を構築すると、更新予定範囲Pの更新工事期間中、作業エリアE1と車両の走行可能な供用エリアE2との切り替え作業は、第1工程の終了後と第2工程の終了後の2回のみで済む。これにより、作業エリアE1と供用エリアE2の切り替えに係る煩雑な作業を低減でき、施工性を向上することができる。
【0063】
また、切り替え作業に伴う交通規制に係る周辺地域への影響を最小限に抑制することが可能となる。なお、作業エリアE1と供用エリアE2との切り替え作業は、山岳トンネルの更新方法で説明したとおりである。
【0064】
また、既設覆工10の天端部10aと地山との隙間への覆工背面空洞充填工や、既設覆工10における一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fへのロックボルト工といった前処理は、
図7(a)で示すように、第1の工程を実施する前に更新予定範囲Pの全域に対して施工しておく。この作業と併せて、飛散防止板31を備えた内部支保工30の設置作業も進行させておくと良い。
【0065】
≪歯抜け施工≫
山岳トンネルの更新方法による更新工事を歯抜け施工により実施する際には、あらかじめ
図7(b)で示すように、更新予定範囲Pをトンネル軸線方向に区分けし、複数の作業区画Sを設定する。そのうえで、複数の作業区画Sのうち1つ以上の作業区画Sを任意に選択し、選択した作業区画Sで第1の工程を実施する工程を繰り返し、更新予定範囲Pに連続して一方の肩部新設覆工20bを構築する。
【0066】
例えば、
図8(a)では、まず、更新予定範囲Pにおいて3つのおきに位置する6つの作業区画Sに対して、同時もしくは順次第1の工程を実施し、
図8(b)で示すように、一方の肩部新設覆工20bを構築する。
【0067】
次に、
図9(a)で示すように、施工を飛ばした3つの作業区画Sのうちの、中央に位置する作業区画Sに対して、同時もしくは順次第1の工程を実施し、
図9(b)で示すように、一方の肩部新設覆工20bを構築する。こののち、残った作業区画Sに対して同時もしくは順次第1の工程を実施することで、更新予定範囲Pに連続して一方の肩部新設覆工20bを構築する。
【0068】
同様の手順で、既設覆工10における他方の肩部10cを撤去したのち、その撤去跡に他方の肩部新設覆工20cを構築する第2の工程を実施し、更新予定範囲Pに連続して他方の肩部新設覆工20cを構築する。
【0069】
なお、作業区画Sは、トンネル軸線方向の長さをいずれに設定してもよいが、
図7(b)で示すように、少なくとも既設覆工10においてトンネル軸線方向に間隔をもって形成されている目地部Lが、隣り合う作業区画Sどうしの境界線と重ならないように調整し設定する。
【0070】
これにより、作業区画Sのトンネル軸線方向の長さが、目地部Lの配置間隔と同じ場合には、すべての作業区間Sに目地部Lが含まれる。一方、目地部Lの配置間隔より短い場合には、作業区間Sの範囲内に、目地部Lが含まれるものと含まれないものとが混在することとなる。この場合には、目地部Lを含む作業区画Sを優先して施工し、そののち目地部Lが含まれていない作業区間Sを施工すると良い。
【0071】
こののち実施する第3の工程は、前述した片押し施工により実施する。つまり、更新予定範囲Pの全域に対して、トンネル軸線方向の一方側から他方側に向かって実施する。これにより、更新予定範囲Pの全域に対して、新設覆工20が構築される。
【0072】
こうすると、地山に対する更新工事の影響範囲等を適宜考慮しつつ作業区画Sを選択すれば、複数の作業区画Sで第1の工程及び第2の工程各々を、並行して同時進行することができる。これにより、更新予定範囲Pの全域が、トンネル軸線方向の長大な範囲に及ぶ場合にも、交通開放を行いつつ更新工事全体の工期短縮を図ることが可能となる。
【0073】
≪歯抜け施工:更新予定範囲Pが広域に及ぶ場合≫
また、更新予定範囲Pの全域がトンネル軸線方向の長大な範囲に及ぶ場合には、まず、更新予定範囲Pを複数の工事エリアに分割し、分割した工事エリア内を前述したような複数の作業区画Sに区分けする。そして、複数の工事エリアのうちトンネル軸線方向に連続しない1つ以上の工事エリアを適宜選択する。そのうで、選択した工事エリアごとに、前述した歯抜け施工の要領で、第1の工程と第2の工程を実施する。
【0074】
例えば、
図10(a)は、更新予定範囲Pを4つの工事エリア(A~D)に分割し、そのうちの1つおきに位置する2つの工事エリアA、Cに対して、前述したような歯抜け施工により、第1の工程を実施し終えた状態にあり、こののち、工事エリアB、Dに対して、同様の手順で第1工程を実施する。
【0075】
次に、
図10(b)は、更新予定範囲Pの全域に対して一方の肩部新設覆工20bを構築したのち、2つの工事エリアB、Dに対して、前述したような歯抜け施工により、第2の工程を実施し終えた状態にあり、こののち、工事エリアA、Cに対して、同様の手順で第2工程を実施する。
【0076】
そして、
図10(c)では、更新予定範囲Pの全域に対して一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cを構築したのち、第3の工程を前述した片押し施工により実施している。
【0077】
このように、工事エリア及び作業区画を適宜選択し更新工事を複数個所で同時進行することにより、更新予定範囲Pの全域がトンネル軸線方向の長大な範囲に及ぶ場合にも、交通開放を行いつつ工期短縮を図ることが可能となる。
【0078】
本発明の山岳トンネルの更新方法及び覆工構造体は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0079】
例えば、本実施の形態では、天端部新設覆工20a、一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cを構成する覆工コンクリート25に、補強材として補強鉄筋23を採用した。しかし、これに限定されるものではなく、例えば、炭素繊維シート等、一般にコンクリートの補強材として使用されているものであれば、いずれを採用してもよい。
【0080】
また、本実施の形態では、吹付コンクリート21を覆うようにして吹付材よりなる防水層22を形成したが、これに限定するものではない。例えば防水シートを採用する等、吹付コンクリート21と覆工コンクリート25との間に遮水層を形成できれば、防水層22として一般にトンネル施工で用いられているいずれの防水工を採用してもよい。
【0081】
さらに、本実施の形態では、覆工構造体を、既設覆工10における一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fを利用して構築し、これを新設覆工20としたが、これに限定されるものではない。これら既設覆工10における一方の側壁部10e及び他方の側壁部10fを撤去して、撤去跡に無筋の覆工コンクリート25を打設し、これらと天端部新設覆工20a、一方の肩部新設覆工20b及び他方の肩部新設覆工20cとにより、覆工構造体を構成してもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 既設覆工
10a 天端部
10b 一方の肩部
10c 他方の肩部
10d 既設路盤
10e 一方の側壁部
10f 他方の側壁部
11 ロックボルト
12 充填材
13 鋼製支保工
20 新設覆工(覆工構造体)
20a 天端部新設覆工
20b 一方の肩部新設覆工
20c 他方の肩部新設覆工
20d 新設路盤
21 吹付コンクリート
22 防水層
23 補強鉄筋(補強材)
24 アンカー筋
25 覆工コンクリート
26 継手
27 あと施工アンカー
30 内部支保工
31 飛散防止板
32 組立足場
33 簡易プロテクタ
34 張出し足場
35 肩部用型枠
36 天端部型枠
L 目地部
S 作業区画
P 更新予定範囲