(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】トランスミッション構造
(51)【国際特許分類】
F16H 47/04 20060101AFI20240611BHJP
F16H 61/47 20100101ALI20240611BHJP
【FI】
F16H47/04 D
F16H47/04 A
F16H61/47
(21)【出願番号】P 2019204624
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】小和田 七洋
(72)【発明者】
【氏名】岩木 浩二
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-007819(JP,A)
【文献】特開平11-108152(JP,A)
【文献】特開昭50-136571(JP,A)
【文献】特開平08-282311(JP,A)
【文献】特開2000-130558(JP,A)
【文献】特開2003-104075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 47/04
F16H 61/40-6/478
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、
前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、
第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、
人為操作可能な変速操作部材と、
前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、
前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、
前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、
前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、
前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、
前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記
ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、
前記制御装置は、
前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記ポンプ本体が前記前進側ポンプ切替容量に固定されるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記モータ側出力調整部材を作動させ、
前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項2】
作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、
前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、
第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、
人為操作可能な変速操作部材と、
前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、
前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、
前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、
前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、
前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、
前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記
ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、
前記制御装置は、
前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記変速操作部材の前進側増速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を前進側ポンプ切替容量の側から第2ポンプ容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の前進側増速作動と前記モータ本体の容量を低速モータ容量の側から高速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の増速作動とを同期して実行させ、且つ、前記変速操作部材の前進側減速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を第2ポンプ容量の側から前進側ポンプ切替容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の前進側減速作動と前記モータ本体の容量を高速モータ容量の側から低速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の減速作動とを同期して実行させ、
前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項3】
前記ポンプ切替容量は前記中立容量とされていることを特徴とする請求項2に記載のトランスミッション構造。
【請求項4】
作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、
前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、
第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、
人為操作可能な変速操作部材と、
前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、
前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、
前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、
前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、
前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、
前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記
ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、
前記制御装置は、
前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が低速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が低速モータ容量から高速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記モータ本体が高速モータ容量とされた状態において車速を前進側切替速に維持できる前進側ポンプ調整容量に前記ポンプ本体の容量がなるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記モータ本体が高速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が高速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が高速モータ容量から低速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記ポンプ本体の容量が前進側ポンプ調整容量から前進側ポンプ切替容量に変更するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項5】
前記前進側ポンプ切替容量は第2ポンプ容量とされていることを特徴とする請求項1又は4に記載のトランスミッション構造。
【請求項6】
前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、前記車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が後進側切替速を越えると、前記ポンプ本体が前記後進側ポンプ切替容量に固定されるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記モータ側出力調整部材を作動させることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項7】
前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、前記車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が後進側切替速を越えている際には、前記変速操作部材の後進側増速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を後進側ポンプ切替容量の側から第1ポンプ容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の後進側増速作動と前記モータ本体の容量を低速モータ容量の側から高速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の増速作動とを同期して実行させ、且つ、前記変速操作部材の後進側減速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を第1ポンプ容量の側から後進側ポンプ切替容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の後進側減速作動と前記モータ本体の容量を高速モータ容量の側から低速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の減速作動とを同期して実行させることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項8】
前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、
前記車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が低速側から後進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が低速モータ容量から高速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記モータ本体が高速モータ容量とされた状態において車速を後進側切替速に維持できる後進側ポンプ調整容量に前記ポンプ本体の容量がなるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が後進側切替速を越えている際には、前記モータ本体が高速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、
前記車速が高速側から後進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が高速モータ容量から低速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記ポンプ本体の容量が後進側ポンプ調整容量から後進側ポンプ切替容量に変更するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項9】
前記後進側ポンプ切替容量は第1ポンプ容量とされていることを特徴とする請求項6又は8に記載のトランスミッション構造。
【請求項10】
前記第3要素から作動的に入力される回転動力を多段変速する副変速機構を備えていることを特徴とする請求項1から9の何れかに記載のトランスミッション構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静油圧式無段変速機構(HST)及び遊星歯車機構を含む静油圧・機械式無段変速構造(HMT構造)を有するトランスミッション構造に関する。
【背景技術】
【0002】
HST及び遊星歯車機構によって形成されたHMT構造を含むトランスミッション構造は、例えば、特許文献1に記載されており、コンバインやトラクタ等の作業車輌の走行系伝動経路に好適に利用されている。
【0003】
図7に、前記特許文献1に記載の従来のトランスミッション構造500が適用された作業車輌の伝動模式図を示す。
図7に示されるように、前記トランスミッション構造500は、HST510及び遊星歯車機構530を有している。
【0004】
前記HST510は、前記作業車輌の駆動源210から作動的に回転動力を入力するポンプ軸512と、前記ポンプ軸512に支持されたポンプ本体514と、前記ポンプ本体514の容量を無段階に変化させるポンプ側出力調整部材520と、HST出力を出力するモータ軸516と、前記モータ軸516に支持され且つ前記ポンプ本体514に流体接続されたモータ本体518とを有しており、前記モータ本体518は固定容量とされた状態で、前記ポンプ側出力調整部材520によって前記ポンプ本体514の容量を変化させることにより、前記ポンプ軸512の回転速度に対して前記モータ軸516の回転速度を無段変速させ得るように構成されている。
【0005】
前記遊星歯車機構530は、サンギヤ532と、前記サンギヤ532と噛合する遊星ギヤ534と、前記遊星ギヤ534と噛合するインターナルギヤ536と、前記遊星ギヤ534を軸線回り回転自在に支持し且つ前記遊星ギヤ534の前記サンギヤ532回りの公転に連動して前記サンギヤ532と同一軸線回りに回転するキャリヤ538とを有しており、前記サンギヤ532、前記キャリヤ538及び前記インターナルギヤ536が遊星3要素を形成している。
【0006】
図7に示されるように、前記従来のトランスミッション構造500においては、前記インターナルギヤ536に前記駆動源210からの基準回転動力が作動的に入力され、前記サンギヤ532に前記モータ軸516からのHST出力が作動的に入力され、基準回転動力及びHST出力を合成した合成回転動力が前記キャリヤ538から出力されている。
【0007】
ところで、前記作業車輌は、仕様に応じて、必要最大牽引力及び必要最高速が定められており、前記トランスミッション構造は、この必要最大牽引力及び必要最高速をカバーすることが求められる。
【0008】
図8に、前記従来のトランスミッション構造500が適用された作業車輌の一例における必要最大牽引力Tmax及び必要最高速SmaxとHST容量(HSTポンプ容量)との関係を示す。
【0009】
ここで、前記従来のトランスミッション構造500においては、前記HST510は前記モータ本体518の容量は固定とされ、前記ポンプ本体514の容量だけが可変とされており、前記ポンプ本体514の容量を変化させることによってHST出力の回転速度を変化させるようになっている。
【0010】
しかしながら、HST出力の回転速度の変速幅だけで、必要最大牽引力Tmax及び必要最高車速Smaxの範囲をカバーすることは困難である。
【0011】
そこで、
図7に示すように、前記従来のトランスミッション構造500は、前記遊星歯車機構530から出力される合成回転動力を多段変速して、駆動輪220へ向けて出力する副変速機構570を備え、且つ、前記副変速機構570の変速段数を3段とすることによって、必要最大牽引力Tmax及び必要最高速Smaxをカバーするように構成されている。
なお、
図7中の符号550は前後進切換機構である。
【0012】
図9(a)~(c)に、前記従来のトランスミッション構造500が適用された作業車輌において、前記副変速機構570が、それぞれ、低速段伝動状態、中速段伝動状態及び高速段伝動状態とされた際に、現出可能な車速及び牽引力とHST容量(HSTポンプ容量)との関係を示す。
【0013】
図8及び
図9(a)~(c)に示すように、
図7の例においては、前記副変速機構570に設けた第1速段(低速段)、第2速段(中速段)及び第3速段(高速段)の3段の変速段によって、必要最大牽引力Tmax及び必要最高車速Smaxの範囲をカバーしている。
【0014】
また、前記従来のトランスミッション構造は、前記HST510及び前記遊星歯車機構530とは別に前記前後進切換機構550を備えており、前記前後進切換機構550によって前記作業車輌の前進方向回転動力及び後進方向回転動力の出力切換を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記目的を達成する為に、本発明の第1態様は、作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、人為操作可能な変速操作部材と、前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記ポンプ本体が前記前進側ポンプ切替容量に固定されるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記モータ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させるトランスミッション構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成する為に、本発明の第2態様は、作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、人為操作可能な変速操作部材と、前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記変速操作部材の前進側増速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を前進側ポンプ切替容量の側から第2ポンプ容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の前進側増速作動と前記モータ本体の容量を低速モータ容量の側から高速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の増速作動とを同期して実行させ、且つ、前記変速操作部材の前進側減速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を第2ポンプ容量の側から前進側ポンプ切替容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の前進側減速作動と前記モータ本体の容量を高速モータ容量の側から低速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の減速作動とを同期して実行させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0018】
前記目的を達成する為に、本発明の第2態様は、作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、人為操作可能な変速操作部材と、前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記モータ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記変速操作部材の前進側増速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を前進側ポンプ切替容量の側から第2ポンプ容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の前進側増速作動と前記モータ本体の容量を低速モータ容量の側から高速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の増速作動とを同期して実行させ、且つ、前記変速操作部材の前進側減速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を第2ポンプ容量の側から前進側ポンプ切替容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の前進側減速作動と前記モータ本体の容量を高速モータ容量の側から低速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の減速作動とを同期して実行させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0019】
前記目的を達成する為に、本発明の第3態様は、作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、人為操作可能な変速操作部材と、前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が低速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が低速モータ容量から高速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記モータ本体が高速モータ容量とされた状態において車速を前進側切替速に維持できる前進側ポンプ調整容量に前記ポンプ本体の容量がなるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記モータ本体が高速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が高速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が高速モータ容量から低速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記ポンプ本体の容量が前進側ポンプ調整容量から前進側ポンプ切替容量に変更するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0020】
前記目的を達成する為に、本発明の第3態様は、作業車輌における走行系伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、前記作業車輌の駆動源から作動的に回転動力を入力するポンプ軸、前記ポンプ軸に支持されたポンプ本体、前記ポンプ本体の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材、モータ軸、前記モータ軸に支持され且つ前記ポンプ本体に流体接続されたモータ本体、並びに、前記モータ本体の容量を低速モータ容量及び前記低速モータ容量より小容量の高速モータ容量の間で変化させ得るモータ側出力調整部材を有するHSTと、第1~第3要素を有し、前記駆動源から前記第1要素に作動的に入力される基準回転動力及び前記モータ軸から前記第2要素に作動的に入力されるHST出力を合成して、合成回転動力を前記第3要素から出力する遊星歯車機構と、人為操作可能な変速操作部材と、前記作業車輌の車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、前記ポンプ本体の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサと、前記モータ本体の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサと、前記ポンプ側出力調整部材及び前記モータ側出力調整部材の作動制御を司る制御装置とを備え、前記ポンプ側出力調整部材は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段変更可能とされ、前記遊星歯車機構は、前記モータ本体が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素の出力がゼロ速となり、前記ポンプ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記モータ本体の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されており、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置に位置されると、前記モータ本体が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記ポンプ本体が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサによって検出される車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が低速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が低速モータ容量から高速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記モータ本体が高速モータ容量とされた状態において車速を前進側切替速に維持できる前進側ポンプ調整容量に前記ポンプ本体の容量がなるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記モータ本体が高速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が高速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が高速モータ容量から低速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記ポンプ本体の容量が前進側ポンプ調整容量から前進側ポンプ切替容量に変更するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0021】
前記第1及び第3態様において、好ましくは、前記前進側ポンプ切替容量は第2ポンプ容量とされる。
【0022】
本発明の種々の態様に係るトランスミッション構造において、好ましくは、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、前記車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が後進側切替速を越えると、前記ポンプ本体が前記後進側ポンプ切替容量に固定されるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記モータ側出力調整部材を作動させる。
【0023】
若しくは、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、前記車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が後進側切替速を越えている際には、前記変速操作部材の後進側増速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を後進側ポンプ切替容量の側から第1ポンプ容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の後進側増速作動と前記モータ本体の容量を低速モータ容量の側から高速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の増速作動とを同期して実行させ、且つ、前記変速操作部材の後進側減速操作に応じて、前記ポンプ本体の容量を第1ポンプ容量の側から後進側ポンプ切替容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の後進側減速作動と前記モータ本体の容量を高速モータ容量の側から低速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材の減速作動とを同期して実行させる。
【0024】
若しくは、前記制御装置は、前記変速操作部材がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、前記車速が、前記モータ本体が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、 前記車速が低速側から後進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が低速モータ容量から高速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記モータ本体が高速モータ容量とされた状態において車速を後進側切替速に維持できる後進側ポンプ調整容量に前記ポンプ本体の容量がなるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が後進側切替速を越えている際には、前記モータ本体が高速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材を作動させつつ、前記変速操作部材の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させ、前記車速が高速側から後進側切替速に到達した際には、前記モータ本体の容量が高速モータ容量から低速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材を作動させると同時に、前記ポンプ本体の容量が後進側ポンプ調整容量から後進側ポンプ切替容量に変更するように前記ポンプ側出力調整部材を作動させる。
【0025】
好ましくは、前記後進側ポンプ切替容量は第1ポンプ容量とされる。
【0026】
本発明に係るトランスミッション構造は、好ましくは、前記第3要素から作動的に入力される回転動力を多段変速する副変速機構を備え得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るトランスミッション構造によれば、前後進切換機構を備えることなく前進方向回転動力及び後進方向回転動力の出力切換を行うことができ、さらに、HST及び遊星歯車機構によって形成されるHMTの出力の変速可能範囲を急激な速度変化を招くことなく拡大することができる。
従って、例えば、多段式副変速機構を備える場合において、当該副変速機構の変速段数を、従来のトランスミッション構造においては必要であった変速段数から削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌の伝動模式図である。
【
図2】
図2は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造における制御装置の制御ブロック図である。
【
図3】
図3(a)及び(b)は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌における、車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体及びモータ本体の容量)との関係を表すグラフであり、それぞれ、前記トランスミッション構造に備えられた副変速機構の第1速段(低速段)係合時及び第2速段(高速段)係合時のグラフである。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、本発明の実施の形態2に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌における、車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体及びモータ本体の容量)との関係を表すグラフであり、それぞれ、前記トランスミッション構造に備えられた副変速機構の第1速段(低速段)係合時及び第2速段(高速段)係合時のグラフである。
【
図5】
図5(a)及び(b)は、本発明の実施の形態3に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌における、車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体及びモータ本体の容量)との関係を表すグラフであり、それぞれ、前記トランスミッション構造に備えられた副変速機構の第1速段(低速段)係合時及び第2速段(高速段)係合時のグラフである。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、本発明の実施の形態4に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌における、車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体及びモータ本体の容量)との関係を表すグラフであり、それぞれ、前記トランスミッション構造に備えられた副変速機構の第1速段(低速段)係合時及び第2速段(高速段)係合時のグラフである。
【
図7】
図7は、従来のトランスミッション構造が適用された作業車輌の伝動模式図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す従来のトランスミッション構造が適用された作業車輌の一例における、必要最大牽引力及び必要最高車速とHST容量(HSTポンプ容量)との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)~(c)は、それぞれ、前記従来のトランスミッション構造が適用された作業車輌における副変速機構が低速段伝動状態、中速段伝動状態及び高速段伝動状態とされた際に、現出可能な車速及び牽引力とHST容量(HSTポンプ容量)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施の形態1
以下、本発明に係るトランスミッション構造の一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施の形態に係るトランスミッション構造1が適用された作業車輌200の伝動模式図を示す。
【0030】
図1に示すように、前記作業車輌200は、駆動源210と、駆動輪220と、前記駆動源210から前記駆動輪220へ至る走行系伝動経路に介挿された前記トランスミッション構造1とを備えている。なお、
図1中の符号210aは前記駆動源210に含まれるフライホイールである。
【0031】
図1に示すように、前記トランスミッション構造1は、静油圧式無段変速機構(HST)10と、前記HST10と共働してHMT構造(静油圧・機械式無段変速構造)を形成する遊星歯車機構30とを備えている。
【0032】
前記HST10は、前記駆動源210からの回転動力を作動的に入力するポンプ軸12と、前記ポンプ軸12に支持されたポンプ本体14と、前記ポンプ本体14の容量を無段階に変化させ得るポンプ側出力調整部材20と、モータ軸16と、前記モータ軸16に支持され且つ前記ポンプ本体14に流体接続されたモータ本体18と、前記モータ本体18の容量を変化させ得るモータ側出力調整部材25とを備えている。
【0033】
なお、
図1に示すように、本実施の形態においては、前記駆動源210及び前記ポンプ軸12の間には入出力軸が同一軸線上に配置される形式の増速ギヤ列214が介挿されており、前記駆動源210の回転動力が前記増速ギヤ列214を介して前記ポンプ軸12の軸線方向一端側の第1端部に作動的に入力されている。
これに代えて、前記駆動源210と前記ポンプ軸12とを直接的に接続することも可能である。
【0034】
前記ポンプ本体14は、前記ポンプ軸12に軸線回り相対回転不能に支持されたポンプ側シリンダブロック(図示せず)と、前記ポンプ側シリンダブロックに軸線回り相対回転不能且つ軸線方向進退自在に収容されたポンプ側ピストン(図示せず)とを有する可変容積型のアキシャルピストン機械であり、前記ポンプ側ピストンの進退範囲に応じて容量が変化するように構成されている。ピストンポンプ方式には、斜板型、斜軸型、ラジアル型等、種々の形態をとり得る。
【0035】
前記ポンプ側出力調整部材20は、前記ポンプ本体の容量を、前記ポンプ軸の回転状態に拘わらず前記モータ軸の回転をゼロとさせる中立容量を挟んで、前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を正転方向に回転させる正転側及び前記ポンプ軸の回転方向に対して前記モータ軸を逆転方向に回転させる逆転側の一方の第1ポンプ容量と正転側及び逆転側の他方の第2ポンプ容量との間で無段階に変化させ得るように構成されており、前記トランスミッション構造1に備えられる制御装置100によって作動制御されるように構成されている。
【0036】
図2に、前記制御装置100の制御ブロック図を示す。
図2に示すように、前記ポンプ側出力調整部材20は、前記ポンプ軸12と直交するポンプ側揺動軸線上に配置されたポンプ側制御軸21aと、前記ポンプ側ピストンの自由端部に直接又は間接的に係合された状態で前記ポンプ側制御軸21aの軸線回りの回転に応じてポンプ側揺動軸線回りに揺動とされるように前記ポンプ側制御軸21aに作動連結され、前記ポンプ側揺動軸線回りの揺動位置に応じて前記ポンプ側ピストンの進退範囲を画するポンプ側可動斜板21bと、前記ポンプ側制御軸21aを軸線回り回転させるポンプ側アクチュエータ21cとを有している。
【0037】
前記ポンプ側アクチュエータ21cは、前記制御装置100によって作動制御可能な限り、例えば、電磁弁及び油圧シリンダを含む電気・油圧アクチュエータや、電動モータを含む電気アクチュエータ等、種々の形態をとり得る。
【0038】
前記ポンプ側可動斜板が前記ポンプ側揺動軸線回り一方側及び他方側の揺動端へ揺動された際に、それぞれ、前記ポンプ本体が第1ポンプ容量及び第2ポンプ容量を有する状態となる。
そして、前記ポンプ本体14の第1ポンプ容量は、例えば、前記ポンプ軸12の回転方向に対して前記モータ軸16を逆転方向へ回転させる逆転側の容量とされ、前記ポンプ本体14の第2ポンプ容量は、前記ポンプ軸12の回転方向に対して前記モータ軸16を正転方向に回転させる正転側の容量とされる。
【0039】
そして、前記ポンプ側可動斜板21bが前記ポンプ側揺動軸線回り中立位置に位置された際に、前記ポンプ本体14は中立容量(ゼロ容量)となり、前記ポンプ軸12が回転しているか否かに拘わらず、前記モータ軸16の回転がゼロとなる。
【0040】
前記モータ本体18は、前記モータ軸16に軸線回り相対回転不能に支持されたモータ側シリンダブロック(図示せず)と、前記モータ側シリンダブロックに軸線回り相対回転不能且つ軸線方向進退自在に収容されたモータ側ピストン(図示せず)とを有する可変容積型のアキシャルピストン機械であり、前記モータ側ピストンの進退範囲に応じて容量が変化するように構成されている。ピストンモータ方式には、斜板型、斜軸型、ラジアル型等、種々の形態をとり得る。
【0041】
前記モータ側出力調整部材25は、前記モータ本体18の容量を、所定の低速モータ容量(L)と、前記低速モータ容量よりも小容量とされた所定の高速モータ容量(H)との間で変化させ得るように構成されている。
【0042】
図2に示すように、前記モータ側出力調整部材25は、前記モータ軸16と直交するモータ側揺動軸線上に配置されたモータ側制御軸26aと、前記モータ側ピストンの自由端部に直接又は間接的に係合された状態で前記モータ側制御軸26aの軸線回りの回転に応じてモータ側揺動軸線回りに揺動とされるように前記モータ側制御軸26aに作動連結され、前記モータ側揺動軸線回りの揺動位置に応じて前記モータ側ピストンの進退範囲を画するモータ側可動斜板26bと、前記モータ側制御軸26aを軸線回り回転させるモータ側アクチュエータ26cとを有している。
【0043】
前記モータ側アクチュエータ26cは、前記制御装置100によって作動制御可能な限り、例えば、電磁弁及び油圧シリンダを含む電気・油圧アクチュエータや、電動モータを含む電気アクチュエータ等、種々の形態をとり得る。
【0044】
前記モータ本体18の容量が小容量になるに従って、前記ポンプ軸12に対する前記モータ軸16の回転速度が上昇する。
従って、前記モータ本体18が低速モータ容量(大容量)から高速モータ容量(小容量)へ容量変化されるに従って、前記モータ軸16の回転速度が上昇する。
【0045】
なお、
図1に示すように、前記ポンプ軸12の軸線方向他端側の第2端部は、前記作業車輌200に備えられるPTO軸280に作動連結されている。
【0046】
詳しくは、
図1に示すように、前記作業車輌200は、前記PTO軸280と、前記ポンプ軸12から前記PTO軸280へ至るPTO系伝動経路を形成するPTO伝動構造とを有している。
【0047】
本実施の形態においては、前記PTO伝動構造は、前記ポンプ軸12の軸線方向他端側の第2端部に軸線回り相対回転不能に連結されたPTO駆動軸260と、前記PTO駆動軸260に減速ギヤ列217を介して作動連結された第1PTO伝動軸261と、第2PTO伝動軸262と、前記第1PTO軸261から前記第2PTO軸262への動力伝達を係脱するPTOクラッチ機構265と、前記第2PTO伝動軸262の回転動力を多段変速して前記PTO軸280へ伝達可能なPTO変速機構270とを有している。
【0048】
図1に示すように、前記遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、前記サンギヤ32と噛合する遊星ギヤ34と、前記遊星ギヤ34と噛合するインターナルギヤ36と、前記遊星ギヤ34を軸線回り回転自在に支持し且つ前記遊星ギヤ34の前記サンギヤ32回りの公転に連動して前記サンギヤ32の軸線回りに回転するキャリヤ38とを有しており、前記サンギヤ32、前記キャリヤ38及び前記インターナルギヤ36が遊星3要素を形成している。
【0049】
前記遊星歯車機構30は、前記遊星3要素のうちの第1要素に前記駆動源210からの基準回転動力が作動的に入力され且つ第2要素に前記モータ軸16からのHST出力が作動的に入力されて、第3要素から基準回転動力及びHST出力を合成した合成回転動力を出力するものとされている。
【0050】
図1に示すように、本実施の形態においては、前記インターナルギヤ36が前記第1要素として作用し、前記サンギヤ32が前記第2要素として作用し、且つ、前記キャリヤ38が前記第3要素として作用している。
【0051】
詳しくは、前記第2要素として作用する前記サンギヤ32はサンギヤ軸32aに相対回転不能に支持されており、前記サンギヤ軸32aはギヤ列215を介して前記モータ軸16に作動連結されている。
【0052】
前記サンギヤ軸32aには筒状の伝動軸36aが相対回転自在に外挿されている。
前記伝動軸36aはギヤ列216を介して前記PTO駆動軸260に作動連結されている。
前記第1要素として作用する前記インターナルギヤ36は前記伝動軸36aに作動連結されており、前記ポンプ軸12、前記PTO駆動軸260、前記ギヤ列216及び前記伝動軸36aを介して前記駆動源210からの回転動力を入力するようになっている。
【0053】
前記サンギヤ軸32aには、前記伝動軸36aとは軸線方向に関し異なる位置において、筒状の遊星出力軸39が相対回転自在に外挿されており、前記第3要素として作用する前記キャリヤ38は前記遊星出力軸39に連結されている。
【0054】
図2に示すように、前記トランスミッション構造1は、さらに、人為操作可能な変速操作部材110と、前記作業車輌200の車速を直接又は間接的に検出する車速センサ120と、前記ポンプ本体14の容量を直接又は間接的に検出するポンプセンサ130と、前記モータ本体18の容量を直接又は間接的に検出するモータセンサ140とを備えている。
なお、
図2中の符号112は、前記変速操作部材110の操作状態(操作位置)を検出するセンサである。
【0055】
前記車速センサ120は、前記制御装置100が車速を認識し得る限り、前記遊星歯車機構30の第3要素から前記駆動輪220へ至る伝動経路の任意の回転部材の回転速度を検出するように構成され得る。
【0056】
前記ポンプセンサ130及び前記モータセンサ140は、それぞれ、前記制御装置100が前記ポンプ本体14及び前記モータ本体18の容量を認識し得る限り、種々の構成を取り得る。
【0057】
前記ポンプセンサ130は、例えば、前記ポンプ側アクチュエータ21cの作動状態を検出するセンサや前記ポンプ側制御軸21aの軸線回りの回転角度を検出するセンサとされ得る。
同様に、前記モータセンサ140は、例えば、前記モータ側アクチュエータ26cの作動状態を検出するセンサや前記モータ側制御軸26aの軸線回りの回転角度を検出するセンサとされ得る。
【0058】
図1に示すように、前記トランスミッション構造1は、作動的に入力される前記遊星歯車機構30の合成回転動力を多段変速して、前記駆動輪220へ向けて出力する副変速機構70を備えている。
本実施の形態においては、前記副変速機構70は、低速段となる第1速段及び高速段となる第2速段の2段階の変速を行うように構成されている。
【0059】
本実施の形態においては、前記副変速機構70は、前記遊星歯車機構30の第3要素から減速ギヤ列40を介して作動的に合成回転動力を入力する走行伝動軸45と前記走行伝動軸45より伝動方向下流側に配置された走行出力軸47との間で2段階の変速を行うように構成されている。
【0060】
詳しくは、
図1に示すように、前記副変速機構70は、所定の変速比で前記走行伝動軸45から前記走行出力軸47へ回転動力を伝達可能な第1速段ギヤ列71(1)と、前記所定変速比よりも高い変速比(前記走行出力軸47が高速回転する変速比)で前記走行伝動軸45から前記走行出力軸47へ回転動力を伝達可能な第2速段ギヤ列71(2)と、前記第1速段ギヤ列71(1)の動力伝達を係脱する第1速段クラッチ機構75(1)と、前記第2速段ギヤ列71(2)の動力伝達を係脱する第2速段クラッチ機構75(2)とを有している。
【0061】
本実施の形態においては、前記第1速段ギヤ列71(1)は、前記走行伝動軸45に支持された第1速段駆動ギヤ72(1)と、前記第1速段駆動ギヤ72(1)に噛合された状態で前記走行出力軸47に支持された第1速段従動ギヤ73(1)とを有している。
【0062】
前記第2速段ギヤ列71(2)は、前記走行伝動軸45に支持され、前記第1速段駆動ギヤ72(1)より大径とされた第2速段駆動ギヤ72(2)と、前記第2速段駆動ギヤ72(2)に噛合された状態で前記走行出力軸47に支持され、前記第1速段従動ギヤ73(1)より小径とされた第2速段従動ギヤ73(2)とを有している。
【0063】
前記第1速段及び第2速段駆動ギヤ72(1)、72(2)によって形成される駆動側ギヤ群、並びに、前記第1速段及び第2速段従動ギヤ73(1)、73(2)によって形成される従動側ギヤ群の一方は、対応する軸に相対回転不能に支持され、且つ、他方は対応する軸に相対回転自在に支持されている。
【0064】
その上で、前記第1速段及び第2速段クラッチ機構75(1)、75(2)は、対応する軸に相対回転自在に支持されたギヤを、当該対応する軸に係脱させるように構成されている。
【0065】
本実施の形態においては、
図1に示すように、前記駆動側ギヤ群が対応する前記走行伝動軸45に相対回転自在に支持されており、従って、前記第1速段クラッチ機構75(1)は前記第1速段駆動ギヤ72(1)を前記走行伝動軸45に選択的に係脱させ得るように構成され、前記第2速段クラッチ機構75(2)は前記第2速段駆動ギヤ72(2)を前記走行伝動軸45に選択的に係脱させ得るように構成されている。
【0066】
本実施の形態においては、前記第1速段クラッチ機構75(1)及び前記第2速段クラッチ機構75(2)はドグクラッチ式とされている。
【0067】
詳しくは、前記第1速段クラッチ機構75(1)は、対応する軸(本実施の形態においては前記走行伝動軸45)に相対回転不能且つ軸線方向移動可能に支持された第1速段スライダと、前記第1速段駆動ギヤ72(1)の対向面に設けられた凹凸部の一方及び前記第1速段スライダの対向面に設けられた凹凸係合部の他方を含む第1速段凹凸部とを有している。
【0068】
前記第2速段クラッチ機構75(2)は、対応する軸(本実施の形態においては前記走行伝動軸45)に相対回転不能且つ軸線方向移動可能に支持された第2速段スライダと、前記第2速段駆動ギヤ72(2)の対向面に設けられた凹凸部の一方及び前記第2速段スライダの対向面に設けられた凹凸係合部の他方を含む第2速段凹凸部とを有している。
なお、本実施の形態においては、前記第1速段スライダ及び前記第2速段スライダは単一の共通スライダとされている。なお、上述したクラッチ機構75(1)75(2)はコンスタント・メッシュ(常時噛合)型であるが、これに限らず、スライディング・メッシュ(摺動噛合)型、シンクロ・メッシュ(等速噛合)型を用いてもよい。
【0069】
本実施の形態においては、
図2に示すように、前記副変速機構70は、人為操作可能な手動レバー形の副変速操作部材115の操作に応じて前記制御装置100によって作動制御されるように構成されている。
【0070】
即ち、前記副変速機構70には、前記第1速段スライダ及び前記第2速段スライダ(本実施の形態においては前記共通スライダ)を作動させる、電気・油圧アクチュエータ又は電気アクチュエータによって形成される副変速切換アクチュエータ(図示せず)が備えられる。
そして、前記制御装置100は、前記副変速操作部材115の操作状態(操作位置)を検出するセンサ117からの信号に基づき、前記副変速切換アクチュエータの作動制御を実行する。
【0071】
これに代えて、前記副変速操作部材115への人為操作に応じて機械リンクを介して前記副変速切換アクチュエータが作動されるようにも構成され得る。
前記機械リンクは、人為操作による前記副変速操作部材115の機械的動きを利用して、前記第1速段スライダ及び前記第2速段スライダ(本実施の形態においては前記共通スライダ)を作動させるように構成される。
なお、この場合においても、前記センサ117によって前記制御装置100が前記副変速操作部材115の操作状態(操作位置)を認識し得るように構成することも可能である。
【0072】
本実施の形態においては、前記作業車輌200は、前記駆動輪220として作用する一対の主駆動輪と、前記一対の主駆動輪をそれぞれ駆動する一対の主駆動車軸250と、ディファレンシャルギヤ機構300とを有しており、前記走行出力軸47の回転動力が前記ディファレンシャルギヤ機構300を介して前記一対の主駆動車軸250に差動伝達されている。
【0073】
なお、
図1中の符号255は、前記主駆動車軸250に選択的に制動力を付加する走行ブレーキ機構であり、符号310は、前記走行出力軸47からの回転動力によって前記一対の主駆動車軸250を強制的に同期駆動するデフロック機構である。
【0074】
以下、前記制御装置100による制御構造について説明する。
図3(a)及び(b)に、それぞれ、前記副変速機構70が第1速段及び第2速段に係合している状態での、車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体14及びモータ本体18の容量)との関係を示す。
なお、図中の符号SFmax及びSRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最高車速であり、TFmax及びTRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最大牽引力である。
【0075】
図3(a)及び(b)に示すように、本実施の形態においては、前記遊星歯車機構30は、前記モータ本体18が低速モータ容量とされた状態で前記ポンプ本体14が第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量とされた際に前記第3要素(本実施の形態においては前記キャリヤ38)の出力(即ち、車速)がゼロ速となり、且つ、前記ポンプ本体14の容量が遊星ゼロ出力容量から中立容量を経て第2ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が前進側に増速し、前記モータ本体18の容量が遊星ゼロ出力容量から第1ポンプ容量へ変化されるに従って前記第3要素の出力が後進側に増速するように、設定されている。
【0076】
本実施の形態においては、第1ポンプ容量は逆転側の容量とされ、且つ、第2ポンプ容量は正転側の容量とされており、従って、第1ポンプ容量及び中立容量の間の遊星ゼロ出力容量は、逆転側の所定容量(
図3(a)及び(b)においては-50%)とされている。
【0077】
図3(a)及び(b)に示すように、前記制御装置100は、前記変速操作部材110がゼロ速位置(停止位置)に位置されると、前記モータ本体18が低速モータ容量となるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記ポンプ本体14が遊星ゼロ出力容量となるように前記ポンプ側出力調整部材21を作動させて、前記遊星歯車機構30の第3要素の出力をゼロ速とさせる停止制御モードを実行する。
【0078】
また、前記制御装置100は、前記変速操作部材110がゼロ速位置から前進側へ操作されると、前記車速センサ120によって検出される車速が、前記モータ本体18が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体14が所定の前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記モータ本体18が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記変速操作部材110の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる前進側通常制御モードを実行する。
【0079】
なお、本実施の形態においては、
図3(a)及び(b)に示すように、第2ポンプ容量を前進側ポンプ切替容量に設定しており、これにより、前記ポンプ本体14の容量変化によって変速させ得る前記遊星歯車機構30の合成回転動力の速度範囲の拡大を図っているが、本発明は斯かる構成に限定されるものではなく、第2ポンプ容量の90%のポンプ容量等、任意のポンプ容量を前進側ポンプ切替容量として設定することができる。
【0080】
そして、前記制御装置100は、前記車速が前進側切替速を越えている際には、前記ポンプ本体14が前進側ポンプ切替容量に固定されるように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させつつ、前記変速操作部材110の前進側増速操作及び前進側減速操作に応じて車速が前進側に増速及び減速するように前記モータ側出力調整部材25を作動させる前進側高速制御モードを実行する。
【0081】
さらに、前記制御装置100は、前記変速操作部材110がゼロ速位置から後進側へ操作されると、前記モータ本体18が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記変速操作部材110の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる後進側制御モードを実行する。
【0082】
斯かる構成によれば、前後進切換機構を別途に備えること無く前進走行出力及び後進方向出力の切替を可能とすることができ、さらに、前進側通常制御モード及び前進側高速制御モードの切替時に車速変化が生じることを防止しつつ、前記HST10及び前記遊星歯車機構30によって形成されるHMT構造の前進用出力の変速可能範囲を拡げることができる。
【0083】
従って、従来のトランスミッション構造(
図7~
図9参照)においては、3段の変速段を有する副変速機構570を備えなければカバーできなかった必要最大牽引力Tmax及び必要最高速Smaxの範囲を、2段の変速段の前記副変速機構70を備えるだけでカバーすることができ、作業車輌200の伝動構造のコンパクト化及び低廉化を有効に図ることができる。
【0084】
なお、本実施の形態においては、前記車速センサ120は、前記副変速機構70によって多段変速された後の状態の回転動力(即ち、前記走行出力軸47又は前記走行出力軸47より伝動方向下流側の駆動車軸250等の回転部材)の速度を検出するように構成されており、従って、前記制御装置100は、前記前進側切替速として、前記副変速機構70が第1速段伝動状態及び第2速段伝動状態の際にそれぞれ用いる第1速段前進側切替速(
図3(a))及び第2速段前進側切替速(
図3(b))を有している。
【0085】
これに代えて、前記車速センサ120が、前記副変速機構70によって多段変速される前の状態の回転動力(例えば、前記第3要素38、前記遊星出力軸39又は前記走行伝動軸45の回転動力)の回転速度を検出するように構成されている場合には、前記制御装置100は、前記副変速機構70の変速段係合状態の如何に関わらず、単一の前進側切替速を用いて作動制御を行うように構成される。
【0086】
本実施の形態においては、前記制御装置100は、前記後進側制御モードとして、下記後進側通常制御モード及び後進側高速制御モードを有しており、これにより、後進用出力についても、急激な速度変化を招くことなく、変速可能範囲の拡大を図っている。
【0087】
即ち、
図3(a)及び(b)に示すように、前記制御装置100は、前記変速操作部材110がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、前記車速が、前記モータ本体18が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体14が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体18が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記変速操作部材110の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる後進側通常制御モードを実行する。
【0088】
なお、本実施の形態においては、
図3(a)及び(b)に示すように、第1ポンプ容量を後進側ポンプ切替容量に設定しており、これにより、前記ポンプ本体14の容量変化によって変速させ得る前記遊星歯車機構30の合成回転動力の速度範囲の拡大を図っているが、本発明は斯かる構成に限定されるものではなく、第1ポンプ容量の90%(即ち、-90%)のポンプ容量等、任意のポンプ容量を後進側ポンプ切替容量として設定することができる。
【0089】
そして、前記制御装置100は、前記車速が後進側切替速を越えると、前記ポンプ本体14が前記後進側ポンプ切替容量に固定されるように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させつつ、前記変速操作部材110の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記モータ側出力調整部材25を作動させる後進側高速制御モードを実行する。
【0090】
なお、後進側切替速についても前進側切替速と同様に、前記車速センサ120が、前記副変速機構70によって多段変速される前の状態の回転動力(例えば、前記第3要素38、前記遊星出力軸39又は前記走行伝動軸45の回転動力)の回転速度を検出するように構成されている場合には、前記制御装置100は、前記副変速機構70の変速段係合状態の如何に関わらず、単一の後進側切替速を用いて作動制御を行うように構成される。
【0091】
実施の形態2
以下、本発明に係るトランスミッション構造の他の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図4(a)及び(b)に、本実施の形態に係るトランスミッション構造において前記副変速機構70が第1速段及び第2速段にそれぞれ係合している状態での車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体14及びモータ本体18の容量)との関係を示す。
なお、図中の符号SFmax及びSRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最高車速であり、TFmax及びTRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最大牽引力である。
また、本実施の形態に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌の伝動模式図は
図1と同様のものとなり、制御ブロック図は
図2と同様のものとなる。
【0092】
本実施の形態に係るトランスミッション構造は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造1に比して、前進側制御モードのみが変更されている。
【0093】
即ち、本実施の形態に係るトランスミッション構造の制御装置は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造1における前記制御装置100が実行する前記停止制御モード、前記後進側通常制御モード及び前記後進側高速制御モードと同一の制御モードを実行しつつ、前記制御装置100が実行する前進側制御モードとは異なる前進側制御モードを実行するように構成されている。
【0094】
図4(a)及び(b)に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造の制御装置が実行する前進側制御モードは、車速が前進側切替速以下の際に実行する前進側通常制御モードと、車速が前進側切替速を越えている際に実行する前進側高速制御モードとを有している。
【0095】
前記前進側通常制御モードは、前記実施の形態1における前記前進側通常制御モードと実質的に同一とされている。
但し、本実施の形態の前記前進側通常制御モードにおいては、前記前進側ポンプ切替容量は、遊星ゼロ出力容量及び第2ポンプ容量の間の容量に設定される。
【0096】
前記前進側高速制御モードは、前記変速操作部材110の前進側増速操作に応じて、前記ポンプ本体14の容量を前進側ポンプ切替容量の側から第2ポンプ容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材20の前進側増速作動と、前記モータ本体18の容量を低速モータ容量の側から高速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材25の増速作動とを同期して実行させ、且つ、前記変速操作部材110の前進側減速操作に応じて、前記ポンプ本体14の容量を第2ポンプ容量の側から前進側ポンプ切替容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材20の前進側減速作動と、前記モータ本体18の容量を高速モータ容量の側から低速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材25の減速作動とを同期して実行するように構成されている。
【0097】
斯かる構成の本実施の形態においても、前記実施の形態1におけると同様の効果を得ることができる。
【0098】
図4(a)及び(b)に示すように、本実施の形態においては、前記前進側ポンプ切替容量は、前記ポンプ軸12の回転状態に拘わらず前記モータ軸16の回転をゼロとさせる中立容量(ゼロ容量)とされている。
斯かる構成によれば、前進側通常制御モード及び前進側高速制御モードの切替を円滑に行うことができる。
【0099】
なお、前記前進側ポンプ切替容量は、遊星ゼロ出力容量及び第2ポンプ容量の間において、中立容量(ゼロ容量)以外の所望容量に設定することが可能である。
例えば、前記前進側ポンプ切替容量を中立容量及び第2ポンプ容量の間の正転側中間容量(例えば、+50%)に設定することも可能である。
【0100】
実施の形態3
以下、本発明に係るトランスミッション構造の他の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図5(a)及び(b)に、本実施の形態に係るトランスミッション構造において前記副変速機構70が第1速段及び第2速段にそれぞれ係合している状態での車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体14及びモータ本体18の容量)との関係を示す。
なお、図中の符号SFmax及びSRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最高車速であり、TFmax及びTRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最大牽引力である。
また、本実施の形態に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌の伝動模式図は
図1と同様のものとなり、制御ブロック図は
図2と同様のものとなる。
【0101】
本実施の形態に係るトランスミッション構造は、前記実施の形態2に係るトランスミッション構造に比して、前記後進側制御モードのみが変更されている。
【0102】
即ち、本実施の形態に係るトランスミッション構造の制御装置は、前記実施の形態2に係るトランスミッション構造における前記制御装置が実行する前記停止制御モード、前記前進側通常制御モード及び前記前進側高速制御モードと同一の制御モードを実行しつつ、前記実施の形態2の制御装置が実行する前記後進側制御モードとは異なる後進側制御モードを実行するように構成されている。
【0103】
図5(a)及び(b)に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造の制御装置が実行する後進側制御モードは、
・前記変速操作部材110がゼロ速位置から後進側へ操作された場合において、前記車速が、前記モータ本体18が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体14が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際には、前記モータ本体18が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記変速操作部材110の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる後進側通常制御モードと、
・前記車速が後進側切替速を越えている際には、前記変速操作部材110の後進側増速操作に応じて、前記ポンプ本体14の容量を後進側ポンプ切替容量の側から第1ポンプ容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材の後進側増速作動と、前記モータ本体18の容量を低速モータ容量の側から高速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材25の増速作動とを同期して実行させ、且つ、前記変速操作部材110の後進側減速操作に応じて、前記ポンプ本体14の容量を第1ポンプ容量の側から後進側ポンプ切替容量の側へ変化させる前記ポンプ側出力調整部材20の後進側減速作動と、前記モータ本体18の容量を高速モータ容量の側から低速モータ容量の側へ変化させる前記モータ側出力調整部材25の減速作動とを同期して実行させる後進側高速制御モードとを有するものとされている。
【0104】
斯かる構成の本実施の形態においても、前記実施の形態1及び2におけると同様の効果を得ることができる。
【0105】
なお、本実施の形態に係るトランスミッション構造において、前記変速操作部材110が前進側へ操作された際の前進側制御モードとして、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造1における前進側通常制御モード及び前進側高速制御モードを採用することも可能である。
【0106】
実施の形態4
以下、本発明に係るトランスミッション構造のさらに他の実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図6(a)及び(b)に、本実施の形態に係るトランスミッション構造において前記副変速機構70が第1速段及び第2速段にそれぞれ係合している状態での車速及び牽引力とHST容量(ポンプ本体及びモータ本体の容量)との関係を示す。
なお、図中の符号SFmax及びSRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最高車速であり、TFmax及びTRmaxは、それぞれ、前記作業車輌200に要求される前進側及び後進側の必要最大牽引力である。
また、本実施の形態に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌の伝動模式図は
図1と同様のものとなり、制御ブロック図は
図2と同様のものとなる。
【0107】
本実施の形態に係るトランスミッション構造は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造に比して、前記前進側制御モードのみが変更されている。
【0108】
即ち、本実施の形態に係るトランスミッション構造の制御装置は、前記実施の形態1に係るトランスミッション構造1における前記制御装置100が実行する前記停止制御モード、前記後進側通常制御モード及び前記後進側高速制御モードと同一の制御モードを実行しつつ、前記制御装置100が実行する前進側制御モードとは異なる前進側制御モードを実行するように構成されている。
【0109】
図6(a)及び(b)に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造の制御装置は、前記変速操作部材110がゼロ速位置から前進側へ操作されると、
・車速が、前記モータ本体18が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体14が前進側ポンプ切替容量とされた際に現出される前進側切替速以下の際には、前記実施の形態1の前進側通常制御モードと同一の前進側通常制御モードを実行し、
・車速が低速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体18の容量が低速モータ容量から高速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材25を作動させると同時に、前記モータ本体18が高速モータ容量とされた状態において車速を前進側切替速に維持できる前進側ポンプ調整容量に前記ポンプ本体14の容量がなるように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる前進側高速移行時切替制御モードを実行し、
・車速が前進側切替速を越えている際には、前記モータ本体18が高速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記変速操作部材110の増速操作に応じて、前記ポンプ容量をポンプ調整容量の側から第2ポンプ容量の側へ変更させることで車速を増速させるように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させ、且つ、前記変速操作部材110の減速操作に応じて、前記ポンプ容量を第2ポンプ容量の側からポンプ調整容量の側へ変更させることで車速を減速させるように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる前進側高速制御モードを実行し、
・車速が高速側から前進側切替速に到達した際には、前記モータ本体18の容量が高速モータ容量から低速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材25を作動させると同時に、前記ポンプ本体14の容量がポンプ調整容量からポンプ切替容量に変更するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる通常移行時切替制御モードを実行する。
【0110】
斯かる構成の本実施の形態においても、前記実施の形態1及び2におけると同様の効果を得ることができる。
【0111】
なお、本実施の形態においては、前記制御装置は、前記変速操作部材110が後進側へ操作された際には、前記実施の形態1及び2における後進側制御モードと同一の後進側制御モードを実行するように構成されているが、これに代えて、前記実施の形態3における後進側制御モードを実行するように構成されることも可能である。
【0112】
また、前記実施の形態1~4に係るトランスミッション構造において、後進側制御モードを、前記実施の形態4に係るトランスミッション構造の前進側制御モードと同様の制御モードに変更することも可能である。
【0113】
即ち、前記実施の形態1~4に係るトランスミッション構造において、前記変速操作部材110がゼロ速位置から後進側へ操作された場合に前記制御装置が実行する後進側制御モードを、
・前記車速が、前記モータ本体18が低速モータ容量とされ且つ前記ポンプ本体14が所定の後進側ポンプ切替容量とされた際に現出される後進側切替速以下の際に実行する後進側通常制御モードと、
・前記車速が低速側から後進側切替速に到達した際に実行する後進側高速移行時切替制御モードと、
・前記車速が後進側切替速を越えている際に実行する後進側高速制御モードと、
・前記車速が高速側から後進側切替速に到達した際に実行する後進側通常移行時制御モードと
を有するように変形することができる。
【0114】
前記後進側通常制御モードは、前記モータ本体18が低速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記変速操作部材110の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる。
【0115】
前記後進側高速移行時切替制御モードは、前記モータ本体18の容量が低速モータ容量から高速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材25を作動させると同時に、前記モータ本体18が高速モータ容量とされた状態において車速を後進側切替速に維持できる後進側ポンプ調整容量に前記ポンプ本体14の容量がなるように前記ポンプ側出力調整部材を作動させる。
【0116】
前記後進側高速制御モードは、前記モータ本体18が高速モータ容量に固定されるように前記モータ側出力調整部材25を作動させつつ、前記変速操作部材110の後進側増速操作及び後進側減速操作に応じて車速が後進側に増速及び減速するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる。
【0117】
前記後進側通常移行時制御モードは、前記モータ本体18の容量が高速モータ容量から低速モータ容量へ変化するように前記モータ側出力調整部材25を作動させると同時に、前記ポンプ本体14の容量が後進側ポンプ調整容量から後進側ポンプ切替容量に変更するように前記ポンプ側出力調整部材20を作動させる。
【符号の説明】
【0118】
1 トランスミッション構造
10 HST
12 ポンプ軸
14 ポンプ本体
16 モータ軸
18 モータ本体
20 ポンプ側出力調整部材
25 モータ側出力調整部材
30 遊星歯車機構
70 副変速機構
100 制御装置
110 変速操作部材
120 車速センサ
130 ポンプセンサ
140 モータセンサ
200 作業車輌
210 駆動源