(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】骨固定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/90 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
A61B17/90
(21)【出願番号】P 2020107508
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】393024186
【氏名又は名称】株式会社ホムズ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅史
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0326541(US,A1)
【文献】特表2019-531835(JP,A)
【文献】特開2017-104968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/68 - 17/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物に対して接続可能に構成される接続構造と、前記接続構造に対する基準位置にあるときに前記目標物に向けて被案内部材を案内する正規の案内方向を備える案内構造とを
備える案内器具であって、前記接続構造と前記案内構造の間には、前記接続構造の側に設けられた第1の構造部に対して、前記案内構造の側に設けられた第2の構造部を、前記基準位置に位置決めし、所定の保持力で保持するとともに、前記保持力を越える既定の向きの外力を受けた場合に、前記保持力を解除して前記第1の構造部に対して前記第2の構造部を解放し、前記向きに移動可能とするように構成された外力逃し機構を
備える前記案内器具
と、
前記接続構造によって前記案内器具に接続される前記目標物と、
前記案内器具の前記案内構造によって案内される前記被案内部材と、
を具備する骨固定システム。
【請求項2】
前記外力逃し機構は、前記第2の構造部が前記目標物に接近する向きの前記外力を受けたときに、前記第1の構造部に対して前記第2の構造部を当該向きに解放し、移動可能とするように構成される、
請求項1に記載の
骨固定システム。
【請求項3】
前記外力逃し機構は、前記保持力を一旦解除し、前記第2の構造部を前記基準位置から前記既定の向きに移動させた後においても、前記第2の構造部が戻されると前記第2の構造部を前記基準位置において位置決めし、前記保持力で保持するように構成される、
請求項1又は2に記載の
骨固定システム。
【請求項4】
前記外力逃し機構は、所定の経路に沿って前記第1の構造部に対して前記第2の構造部を前記基準位置から前記既定の向きに離れるように案内するとともに前記経路に沿って逆向きに案内して前記第2の構造部を前記基準位置に復帰可能に構成する可動案内機構部を有する、
請求項1-3のいずれか一項に記載の
骨固定システム。
【請求項5】
前記可動案内機構部は、前記第1の構造部と前記第2の構造部との間に、前記経路に沿った摺動対面部を備える、
請求項4に記載の
骨固定システム。
【請求項6】
前記経路は、前記第1の構造部に設定された回動軸線の周りを回動する円弧状の経路である、
請求項4又は5に記載の
骨固定システム。
【請求項7】
前記可動案内機構部は、前記第1の構造部に対して前記回動軸線を中心に回動可能に接続されるとともに、前記第2の構造部に対して固定された回動アームを備える、
請求項6に記載の
骨固定システム。
【請求項8】
前記外力逃し機構は、前記第1の構造部に設けられた第1の係止部、前記第2の構造部に設けられ、前記第1の係止部に対して前記既定の向きと交差する方向に嵌合可能に構成された第2の係止部、及び、前記第1の係止部と前記第2の係止部を相互に嵌合する方向に付勢する付勢部材を備える位置決め保持機構部を有する、
請求項1-7のいずれか一項に記載の
骨固定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は案内器具及び骨固定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、整形外科の骨固定などの手術においては、骨を固定するための髄内釘、骨プレート、骨ねじなどといった各種のインプラント、或いは、これらのインプラントを導入する際に案内するために事前に導入されるガイドピン、並びに、ドリル、リーマ、骨切り具などの工具を案内するための各種の案内器具が用いられている。これらの案内器具は、インプラント、骨ねじ、ガイドピン、工具などの被案内部材をインプラントや骨などの目標物に対する所定の方位や位置に案内するために、目標物に対する接続構造と、当該接続構造から延在して被案内部材を目標物に向けて案内する案内構造と、を備える。
【0003】
上記案内器具の典型的な例としては、特許文献1に開示された、髄内釘に接続されるターゲットデバイスがある。このターゲットデバイス1では、上記接続構造である連結端部2aに接続ボルト22により髄内釘7を連結し、上記案内構造である位置決め本体部3の案内孔38に上記被案内部材である案内スリーブ8を挿入し、締め付け手段32により案内スリーブ8を固定して用いる。この案内スリーブ8は、ガイドピン81、図示しないドリルやリーマ等の工具、スクリュウ82などの骨手術具を案内する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記案内器具においては、上記目標物に上記接続構造が接続された状態で、上記案内構造の案内孔に案内スリーブ、インプラント、ガイドピン、工具等の被案内部材を装着する際において、被案内部材の装着方向がずれるなどの原因により、上記案内部に過剰な力を加えてしまうことがある。このとき、その力は案内器具が固定されている上記目標物に対する接続構造に集中しやすいため、案内器具の当該接続構造、或いは、上記目標物の接続箇所を破壊してしまったり、破壊や損傷には至らなくても、外力により案内器具が撓んだり歪んだりする結果、案内不良(案内精度の低下)が生じてしまったりすることがある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題に対応するものであり、その課題は、案内器具の案内構造に過剰な外力が加わることによる不具合を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る案内器具は、目標物に対して接続可能に構成される接続構造と、前記接続構造に対する基準位置にあるときに前記目標物に向けて被案内部材を案内する正規の案内方向を備える案内構造と、を具備する案内器具であって、前記接続構造と前記案内構造の間には、前記接続構造の側に設けられた第1の構造部に対して、前記案内構造の側に設けられた第2の構造部を、前記基準位置に位置決めし、所定の保持力で保持するとともに、前記保持力を越える既定の向きの外力を受けた場合に、前記保持力を解除して前記第1の構造部に対して前記第2の構造部を解放し、前記向きに移動可能とするように構成された外力逃し機構を具備する。この場合に、前記外力逃し機構は、前記第2の構造部が前記目標物に接近する向きの前記外力を受けたときに、前記第1の構造部に対して前記第2の構造部を当該向きに解放し、移動可能とするように構成されることが望ましい。また、前記外力逃し機構は、前記保持力を一旦解除し、前記第2の構造部を前記基準位置から前記既定の向きに移動させた後においても、前記第2の構造部が戻されると前記第2の構造部を前記基準位置において位置決めし、前記保持力で保持するように構成されることが望ましい。
【0008】
本発明によれば、外力逃し機構によって、前記接続構造に対して前記案内構造が正規の案内方向を備えるように、基端側の第1の構造部に対して先端側の第2の構造部を基準位置に位置決めした状態で保持することにより、被案内部材に対する案内精度を確保しつつ、その保持力を越える既定の向きの外力が加わったときには、保持力が解除され、第1の構造部に対して第2の構造部が解放されて移動可能となるように構成される。これにより、上記既定の向きの外力を逃がすことができるため、上記保持力を適宜に設定することにより、上記外力による不具合を回避できる。特に、上記既定の向きの外力として、目標物に接近する向きの外力に対して第1の構造部に対して第2の構造部が同じ向きに移動可能に構成されることにより、手術中における案内構造に対する案内スリーブ、穿孔器具その他の工具などの装着時に生じうる外力に対処することができる。
【0009】
本発明において、前記外力逃し機構は、前記第1の構造部に設けられた第1の係止部、前記第2の構造部に設けられ、前記第1の係止部に対して前記既定の向きと交差する方向に嵌合可能に構成された第2の係止部、及び、前記第1の係止部と前記第2の係止部を相互に嵌合する方向に付勢する付勢部材を備える位置決め保持機構部を有することが好ましい。これによれば、位置決め保持機構部の第1の係止部と第2の係止部の間の嵌合と付勢部材による嵌合方向への付勢により前記保持力が与えられるとともに、当該保持力を越える嵌合方向と交差する向きの外力が与えられた場合には、上記保持力が確実に解除されるように構成できる。
【0010】
本発明において、前記外力逃し機構は、所定の経路に沿って前記第1の構造部に対して前記第2の構造部を前記基準位置から前記既定の向きに離れるように案内するとともに前記経路に沿って逆向きに案内して前記第2の構造部を前記基準位置に復帰可能に構成する可動案内機構部と、を有することが好ましい。これによれば、上記保持力が解除された状態では、上記可動案内機構部によって第1の構造部に対して第2の構造部が所定の経路に沿って正逆両方向に案内され、前記第2の構造部が前記基準位置に復帰可能に構成される。これにより、位置決め保持機構部の解放により外力を逃がした後においても、可動案内機構部により、第1の構造部と第2の構造部との位置関係を精密に維持できるので、第2構造部の基準位置や案内構造の正規の案内方向を確実に再現できる。
【0011】
本発明において、前記位置決め保持機構部は、前記第1の係止部と前記第2の係止部のうちの一方の嵌合形状が凹状で他方の嵌合形状が凸状に構成されることが望ましい。この場合にはさらに、凹状の前記一方の嵌合形状に対して前記目標物の側に隣接し、前記一方の嵌合形状に近づくに従って前記他方の嵌合形状に向けて接近する側に傾斜する傾斜面を備えることがさらに望ましい。また、凸状の前記他方の嵌合形状が、転動可能に軸支された転動部材(例えば、ローラ)であることがさらに望ましい。
【0012】
本発明において、前記可動案内機構部は、前記第1の構造部と前記第2の構造部との間に、前記経路に沿った摺動対面部を備えることが好ましい。これによれば、第1の構造部と前記第2の構造部との間に設けられた摺動対面部により、第1の構造部に対して第2の構造部がさらに確実かつ円滑に前記経路に沿って動作可能とされる。
【0013】
本発明において、前記経路は、前記第1の構造部に設定された回動軸線の周りを回動する円弧状の経路であることが好ましい。この場合において、前記可動案内機構部は、前記第1の構造部に対して前記回動軸線を中心に回動可能に接続されるとともに、前記第2の構造部に対して固定された回動アームを備えることが望ましい。これによれば、第2の構造部が回動アームを介して第1の構造部に設定された回動軸線の周りを回動するので、第1の構造部に対して第2の構造部を円弧状の上記経路の半径分だけスイングするように移動させることができる。したがって、これとは逆に第2の構造部に設定された回動軸線の周りを第1の構造部が回動する場合に比べて、第2の構造部に与えられた外力を逃がしやすくなる。この場合において、前記第1の構造部は、前記回動アームを収容するアーム収容部を内部に備えることがさらに望ましい。これによれば、回動アームが第1の構造部の内部に収容されるため、可動案内機構部の可動機構部分や案内機構部分の障害を回避できる。
【0014】
また、本発明の骨固定システムは、上記いずれかの案内器具と、前記接続構造によって前記案内器具に接続される目標物と、前記案内器具の前記案内構造によって案内される被案内部材と、を具備する。ここで、上記目標物は、骨釘、骨プレート、骨ねじなどのインプラント若しくは骨からなる。また、上記被案内部材は、案内スリーブやガイドピンなどの案内部材、骨ねじや骨ピンなどのインプラントその他の骨接合具、ドリルやリーマなどの工具である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、案内器具の案内構造に過剰な外力が加わっても、外力逃し機構によって、不具合を回避することのできる構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る案内器具又は骨固定システムの実施形態の全体構成を示す全体構成図である。
【
図2】同実施形態において第2の構造部が基準位置にあるときの案内部の構造を示す断面図である。
【
図3】同実施形態において第2の構造部が基準位置から移動したときの案内部の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、
図1を参照して、本発明に係る実施形態の全体構成について説明する。この実施形態の案内器具10は、髄内釘1に接続される接続構造を備えた接続部11と、この接続部11に連結されたアーム12と、このアーム12に連結された案内部13とを具備する。髄内釘1は、図示例では骨(大腿骨)Bの骨端部(図示例では遠位端)Baから髄腔内に挿入される骨釘である。髄内釘1は基端部1aから先端部1cに向けて形成される図示しない軸穴を備え、この軸穴は、上記基端部1aの内部に雌ねじを備える。基端部1aの近傍には近位側の複数の横断孔1bが設けられ、これらの横断孔1bは、図示しない骨ねじを挿通させることによって髄内釘1を骨端部Baに固定するために用いられる。先端部1cの近傍には、遠位側の複数の横断孔1dが設けられ、これらの横断孔1dにも図示しない骨ねじを挿通させることによって、髄内釘1の遠位側を骨Bに固定することができる。
【0018】
接続部11は、髄内釘1に対する接続構造11aを備える。この接続構造11aは、髄内釘1の基端部1aの雌ねじと螺合する雄ねじを備える図示しない接続ボルトを内蔵する。当該接続ボルトによる接続状態では、接続構造11aは、髄内釘1の基端部1aに対して、軸線方向と軸線周りの双方において固定される。なお、図示の接続部11は、髄内釘1に対してアーム12の方位を設定可能な回転状態と、当該方位を所定の方位(図示例では複数の方位のいずれか)に固定する固定状態とを切り替え可能に構成された方位設定機構15を有する。また、ナット16は、接続構造11aをアーム12の先端部12aに取り付けた状態に固定する。操作ハンドル17は、上記方位設定機構15を用いて接続部11に対するアーム12の方位を設定する際の作業等に使用する。
【0019】
アーム部12は、上記先端部12aが配置される接続部11の軸線(髄内釘1の軸線とほぼ一致する。)上から離れて、所定の方位に向けて伸び、基端部12bにおいて案内部13と連結される。このアーム部12は、図示のように、案内器具10の全体をU字状に構成するために、湾曲した形状を備えることが好ましい。
【0020】
案内部13は、上記アーム部12の基端部12bと連結される主案内部材13Aと、この主案内部材13Aの末端部に着脱可能に連結される追加案内部材13Bとを有する。案内部13は、接続部11の上記軸線とほぼ並行して、延在方向Deに延在するように構成される。主案内部材13Aには、その末端側に案内構造13aが設けられ、この案内構造13aには複数の案内孔(図示せず)が設けられる。なお、主案内部材13Aでは、当該案内孔の案内方向を示す案内方向指標13a1が側面に設けられる。案内構造13aの複数の案内孔は、上記髄内釘1の近位側の複数の横断孔1bに対応する案内方向を備えている。ここで、上記案内孔は、対応する横断孔1bに図示しない骨ねじを挿通するための、ガイドピンの挿入、穿孔時におけるドリルやリーマの導入、骨ねじのねじ込みなどの作業に用いる図示しない案内スリーブ14を位置決めし、間接的にガイドピン、ドリルやリーマなどの工具、骨ねじ等を、髄内釘1(の横断孔1b)や骨Bに向けて案内する。図示例では複数の横断孔1bの貫通方位が相互に異なるため、異なる方位の横断孔1bに照準を合わせるためには、上記方位設定機構15によって髄内釘1に対する案内構造13aの方位を変更し、設定し直す必要がある。
【0021】
図2に示すように、追加案内部材13Bは、主案内部材13Aの末端部に設けられる連結穴13cに挿入されて保持される連結軸13dと、主案内部材13Aの末端部に設けられるガイド穴13eに挿入されて位置決めされるガイド軸13fとを有する。図示例では、ガイド軸13fは連結軸13dの両側に一対設けられる。これにより、連結時における主案内部材13Aと追加案内部材13Bの延在方向Deの軸周りの姿勢が固定される。また、追加案内部材13Bは、末端側に案内構造13bを備え、この案内構造13bは、複数の案内孔13g,13hを備えている。案内孔13g,13hの案内方向Dgを示す案内方向指標13b1が側面に設けられる。本明細書では、
図2に示すように、案内構造13bが案内器具10において正規の案内方向を備えるとき、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが基準位置にあるとする。
【0022】
追加案内部材13Bには、基端側に外力逃し機構13iが設けられる。この外力逃し機構13iは、基端側(主案内部材13Aの側、すなわち、接続構造11aの側)にある第1の構造部13Baと、末端側(主案内部材13Aとは反対側、すなわち、案内構造13bの側)にある第2の構造部13Bbとの間に構成される。外力逃し機構13iは、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbを基準位置(上記案内構造13bが正規の案内方向を備え、これによって本来の案内機能を奏することのできる位置)に位置決めし、この基準位置で既定の保持力で保持する位置決め保持機構部13jと、第2の構造部13Bbに対して上記保持力を越えた外力Fxが案内構造13bの案内方向Dgの髄内釘1に向かう向きに加えられれたときに、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbを上記向きに移動するように、厳密にいえば、上記向きに対応する可動方向の所定の向きに移動するように構成する可動案内機構部13kと、を有する。
【0023】
位置決め保持機構部13jは、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbを
図2に示す基準位置に位置決めする。位置決め保持機構部13jには、上記第1の構造部13Baに設けられた第1の係止部材131と、上記第2の構造部13Bbに設けられた第2の係止部材132とを有する。第1の係止部材131の先端には凹曲面からなる係止部(第1の係止部)131aが設けられる。この係止部131aが上記第2の係止部材132に向かうように、第1の係止部材131の姿勢が第1の構造部13Baに形成された支持部133によって支持されるとともに、そこに設けられるガイド手段により案内されている。図示例では、支持部133に形成される第1の係止部材131のガイド手段は、第1の係止部材131を支持する支持軸131xと、この支持軸131xが挿通し、ガイド方向に延長された形状の軸孔131yと、支持部133に穿設され、第1の係止部材131を直線状にガイドする態様で収容するガイド穴133aで構成される。このガイド穴133aにはカラー134が装着され、このカラー134(PEEKなどの低摩擦材料で構成される。)を介して第1の係止部材131が支持部133のガイド方向にスライド(摺動)可能に保持されている。上記ガイド方向は、第1の係止部材131と第2の係止部材132の嵌合方向に沿って後述する回動軸線13ixを通過する半径方向でもある嵌合軸線13jxに沿った方向である。
【0024】
第2の係止部材132は、第2の構造部13Bbに対して回動軸132xを中心に転動可能に取り付けられたローラ状の部材で構成される。第2の係止部材132には、その外周面で構成される凸曲面からなる被係止部(第2の係止部)132aが設けられる。この被係止部132aの凸曲面は、上記係止部131aの凹曲面に嵌合可能に構成されている。ここで、被係止部132aの凸曲面は、上記回動軸132xを中心とする円筒面であり、係止部131aの凹曲面は、その円筒面を受入れ可能な凹状の円筒面状の曲面部分となっている。図示例では、この凹曲面は、上記凸曲面の曲率に対応(一致)する曲率を備える。また、上記係止部131aと上記被係止部132aとが相互に嵌合する向き(上記嵌合軸線13jxに沿ったガイド方向)に第1の係止部材131と第2の係止部材132を付勢する付勢手段である付勢部材135を有する。図示例では、付勢部材135は、コイルばねなどの弾性体により構成される。第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが上記基準位置にあるとき、係止部131aが被係止部132aと嵌合して、第1の係止部材131と第2の係止部材132が相互に位置決めされる。これにより、案内構造13bは、案内器具10の正規の案内方向に設定され、髄内釘1の横断孔1dに向けた案内方向Dgを備えることになる。
【0025】
係止部131aと被係止部132aとの嵌合深さと、付勢部材135の付勢力とによって、第1の構造部13Baに対する第2の構造部13Bbの基準位置における保持力が定まる。この保持力は、追加案内部材13Bの第2の構造部13Bbに外力Fxが加わったときの上記基準位置を保持するための対抗力である。当該保持力は、接続部11や髄内釘1の破壊や損傷、或いは、案内器具10の撓みや歪みによる案内精度の低下を生じ得る外力Fxを逃がすことができるように、案内器具10ごとに、不具合の種類に対応した程度に設定されることが好ましい。また、上記第1の係止部材131には、上記係止部131aの髄内釘1の側(図示下側)において、上記係止部131aに隣接する傾斜面131bが設けられる。この傾斜面131bは、
図3に示すように、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが基準位置にない状態から第2の構造部13Bbを上記基準位置に戻そうとする際に、第2の係止部材132の被係止部132aが係止部131aに嵌合する直前において、被係止部132aを係止部131aに向けて案内する。このとき、被係止部132aが基準位置に近づくに従って、傾斜面131bの傾斜によって徐々に係止部131aが半径方向内側に向けて押し込まれ、最終的に上記嵌合深さに対応する半径方向の位置を越えて係止部131aが押し込まれた後に、被係止部132aとの嵌合状態に達すると、係止部131aが上記嵌合深さに対応する位置まで戻る。
【0026】
可動案内機構部13kは、第1の構造部13Baに対して回動軸線13ixを構成する回動軸136xに回動可能に軸支された回動アーム136と、この回動アーム136と第1の構造部13Baとの間に配置された圧縮ばね等の弾性体からなる付勢部材138とを有する。回動アーム136は、回動軸136xに軸支された基端部136aから先端部136bまで延在し、先端部136bが第2の構造部13Bbにボルト等のファスナーにより接続固定される。ここで、回動アーム136は、第1の構造部13Baに設けられたアーム収容部137内で、回動軸線13ixを中心に回動可能に配置される。アーム収容部137は、左右の側面部の間に設けられた回動アーム136が回動可能な空間であり、図示例では、第2の構造部13Bbが回動限界の角度位置(
図3参照)よりも基準位置の角度位置(
図2参照)に近い範囲内では、回動アーム136の全体を完全に収容できるように構成されている。また、アーム収容部137は、第1の構造部13Baにおいて、支持部133の背後(基端側、或いは、接続構造11aの側)に形成される。
【0027】
また、回動アーム136には、上記基端部136aと上記先端部136bとの間に、上記基端部136aの側に設けられる基端側アーム部136cと、上記先端部136bの側に設けられる先端側アーム部136dとを備える。基端側アーム部136cと先端側アーム部136dは、相互に交差する方向に延在し、回動アーム136をL字状に屈折(若しくは屈曲)させた形状としている。基端側アーム部136cは、第1の構造部13Baにおけるアーム収容部137に臨む基端側の内面部分137aに沿うように、アーム収容部137内の基端側領域を案内部13の延在方向Deと交差する方向に延在する。一方、先端側アーム部136dは、基端側アーム部136cの先端部分から屈折若しくは屈曲し、アーム収容部137内を案内部13の先端側に向けて延在する。先端側アーム部136dの先端は上記先端部136bであり、当該先端部136bがアーム収容部137内から第2の構造部13Bbの内部に挿入され、固定されている。上記のように回動アーム136をL字状に構成すると、係止部131aと被係止部132aの設置スペース(上記支持部133)を確保しつつ、第1の構造部13Ba内に回動アーム136の作動スペース(上記アーム収容部137)を確保できるなどの理由により、外力逃し機構13iの機能を実現しつつ、第1の構造部13Baをコンパクトに構成することができる。このため、第1の構造部13Baが大型化し、これにより手術者が第1の構造部13Baを支えることとなって外力Fxを接続構造11aの側に加えてしまい、外力逃し機構13iを設けたことが無駄になるといったことを防止できる。
【0028】
上記回動アーム136により、第1の構造部13Baに対して、第2の構造部13Bbが上記回動軸線13ixを中心に回動可能に構成される。このとき、第1の構造部13Baと第2の構造部13Bbの間には、回動軸線13ixを中心とした円弧に沿った面形状を備えた摺動対面部13iyが形成される。この摺動対面部13iyは、図示一点鎖線に沿って形成され、第1の構造部13Baの摺動面と、当該摺動面に沿って対面し、摺動する第2の構造部13Bbの摺動面とにより構成される。そして、回動軸線13ixを中心とした半径方向に沿って、上述の第1の係止部材131の係止部131aと第2の係止部材132の被係止部132aとの間の嵌合軸線13jxが設定される。
【0029】
基端側アーム部136cと上記内面部分137aには、相互に対面する表面位置に凹状の保持穴がそれぞれ形成され、これらの保持穴の間に圧縮コイルばね等の弾性体からなる付勢部材138が配置される。この付勢部材138は、上記回動アーム136を、上記回動軸線13ixを中心として
図2における反時計回りに回動させる向き(復帰の向き)に付勢する。
【0030】
先端側アーム部136dには取付孔136eが設けられ、この取付孔136eに位置決め部材139がねじ込まれている。取付孔136e及び位置決め部材139は、上記既定の向き、或いは、回動アーム136の回動の方向に沿って形成される。また、位置決め部材139の先端は円錐、角錐などの錘状に構成されている。この先端は、上記支持部133に形成された凹状の位置決め穴133bに嵌合するように構成される。図示例では、位置決め穴133bも円錐、角錐などの錘状の穴で構成される。
図2に示すように、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが基準位置にあるとき、位置決め部材139の先端は上記位置決め穴133bに嵌合し、第1の構造部13Baと第2の構造部13Bbの位置関係を精度よく保持し、正規の案内方向を備える案内構造13bの案内精度を確保する。
【0031】
先端側アーム部136dには、位置決め孔136fが設けられ、この位置決め孔136fは、第2の構造部13Bbが基準位置(
図2参照)にあるとき、
図1に示す第2の構造部13Bbの側面に形成された基準孔13Ba2と開口位置が一致するように構成される。これにより、第2の構造部13Bbが基準位置にあるときに、基準孔13Ba2と位置決め孔136fにガイドピンを挿通することで、第2の構造部13Bbを第1の構造部13Baに対する基準位置に固定することができる。図示例では、基準孔13Ba2は、第1の構造部13Baの上記アーム収容部137の(図示表裏)両側にある側面部のいずれにも形成されることが望ましい。このように第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbを基準位置に固定する手段(基準固定手段)を設けることは、上記保持力を越える外力Fxを与えてしまう可能性があるものの、手術中や製造工程時などの任意の場面において、外力逃し機構13iを作動させたくない場合に有用である。当該基準位置固定手段は、上記のように孔にピンを挿通させる方法に限定されるものではなく、例えば、上記外力逃し機構13iに内蔵されたロック機構などによって構成してもよい。
【0032】
第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが
図2に示す基準位置にあるとき、第2の構造部13Bbに対して髄内釘1とは反対側から髄内釘1の側に向けて外力Fxが加えられる場合がある。この外力Fxは、手術を行う者が
図1に示す案内スリーブ14を案内構造13bの案内孔に挿入しようとするとき、案内スリーブ14に図示しない穿孔器具やレンチ等の工具を装着しようとするときなどに加わる可能性がある。この外力Fxは、従来の案内器具であれば、髄内釘1の基端部1aや接続構造11aの破壊や損傷、或いは、各部の撓みや歪みに起因する案内精度の低下などの不具合の原因になっていた。本実施形態では、上記外力Fxが外力逃し機構13iの位置決め保持機構部13jの上記保持力を越えると、
図3に示すように、付勢部材135が圧縮されて第1の係止部材131が第2の係止部材132から嵌合軸線13jxに沿って退避し、係止部131aと被係止部132aとの嵌合が外れ、上記保持力が解除される。これにより、第2の構造部13Bbは、第1の構造部13Bbに対して、可動案内機構部13kの上記回動軸線13ixを中心とする上記摺動対面部13iyで示される円弧状の経路に沿って矢印Fyのように回動する。この外力逃し機構13iの作動により、手術者は、各部の破壊や損傷、或いは、案内精度の低下をもたらす各部の撓みや歪みなどの不具合を生じ得る外力Fxを加えてしまったことを知ることができる。このため、後述する復帰作業を行った後に、今度は外力Fxを与えないように注意して手術を行うことが可能になる。
【0033】
この第2の構造部13Bbの回動時には、上記回動アーム136が付勢部材138に抗して回動していく。本実施形態では、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが回動軸線13ixを中心に回動することによって外力Fxを逃がすようにしている。このようにすると、外力Fxにより回動アーム136が回動し、その回動により、外力Fxの向きとそれを受ける第2の構造部13Bbとの角度差が低下していくことから、徐々に外力Fxが第2の構造部13Bbに加わり難くなる。このため、外力Fxを少ないストロークでも確実に逃すことができる。
【0034】
ここで、第1の構造部13Baに対する第2の構造部13Bbの回動範囲は、最終的に回動アーム136の基端側アーム部136cがアーム収容部137の上記内面部分137aに当接することによって制限される。このとき、基端側アーム部136cから内面部分137aに与えられる力は、追加案内部材13B(案内部13)の延在方向De、換言すれば、先端側アーム部136dの延在方向に沿って与えられる。このため、上記外力Fxが上記回動範囲の制限位置でもなお大きく印加されるときでも、主案内部材13Aと追加案内部材13Bの連結部分や接続部11と髄内釘1の接続部分に対して、髄内釘1の軸線方向に対して交差する向きの負荷を与え難い。すなわち、本来は髄内釘1の軸線方向と交差する向きに与えられる外力Fxを、回動アーム136を介して第1の構造部13Baの内面部分137aに与えることにより、案内部13の延在方向Deに沿った圧縮力に変換することができることから、案内器具10や髄内釘1に与える負荷を低減できるという利点がある。特に、図示例のように、上記回動範囲の制限位置において、基端側アーム部136cの全長に近い範囲にわたり、内面部分137aと当接するように構成されているため、回動アーム136を安定した状態で強固に支持することができるので、可動案内機構部13kの変形や損傷を回避できる。
【0035】
上述のように、外力Fxが上記位置決め保持機構部13jの保持力を上回って係止部131aと被係止部132aとの嵌合が外れ、上記可動案内機構部13kにより第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが作動(回動)した後には、外力Fxが解除されれば、上記摺動対面部131iyに沿って第2の構造部13Bbをもとの基準位置に復帰させることができる。このとき、付勢部材138は第2の構造部13Bbに対して基準位置に戻す方向に付勢力を作用させるので、外力逃がし機構13iの作動後において、第2の構造部13Bbが回動軸線13ixを中心に振り子状に自由回転してしまったり、第2の構造部13Bbが急激に下方(大腿骨脚部側)へ回旋移動するといった急激な位置変化によって手術者の気が動転してしまったりすることを回避できる。また、第2の構造部13Bbを基準位置へ戻そうとする手術者等を多少助けることもできる。そして、第2の係止部材132の被係止部132aは、第1の係止部材131の係止部131aの上記傾斜面131bに当接しながら徐々に第1の係止部材131を付勢部材135に抗して半径方向内側へ押し込み、やがて、係止部131aに嵌合し、保持力を発生する。このとき、位置決め部材139も位置決め穴133bに嵌合することで、第1の構造部13Baと第2の構造部13Bbとのさらなる精密な位置決めが行われる。これにより、第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが基準位置に設定されるので、案内構造13bは正規の案内方向を備えることとなる。
【0036】
本実施形態の第2の構造部13Bbの上記回動範囲は、
図1に示すように、患者の適応部位である骨B(図示例では大腿骨)に髄内釘1が挿入された場合において、当該髄内釘1に案内器具10が接続された状態で、第2の構造部13Bbが髄内釘1の側に移動したときに患者の表面S(図示例では大腿表面)に到達しない範囲に収まるように設定される。具体的には、
図3に示す第2の構造部13Bbの回動による移動量Lgが
図1に示す第2の構造部13Bbと表面Sとの距離Lsよりも小さくなるように設定されることが好ましい。
【0037】
再び
図1に戻って説明を行う。
図1に示すように、追加案内部材13Bの側面には、第1の構造部13Baの側面に表わされた第1の基準位置指標13Ba1と、第2の構造部13Bbの側面に表わされた第2の基準位置指標13Bb1とがスクリーン印刷等により設けられる。第1の構造部13Baに対して第2の構造部13Bbが
図2に示すように基準位置にあるとき、第1の基準位置指標13Ba1と第2の基準位置指標13Bb1は
図1に示すように相互に一致する方向に伸びるように配置され、相互に一体の指標を構成するようになっている。このように、追加案内部材13Bに表わされた指標の状態により基準位置にあるか否かを一目で認識できるようになっている。なお、これらの基準位置指標は、上記基準位置にあるか否かが判別できればよいので、図示例のように方向の一致や一体性が確保されている必要はない。
【0038】
また、追加案内部材13Bには、X線などの放射線によって視認可能な放射線マーカー13B2が設けられる。この放射線マーカー13B2は、追加案内部材13B(第2の構造部13Bb)の左右両側の側面上に設けられることにより、放射線透過装置の画像上において視認可能となるように構成されている。
図1中の部分平面図に示すように、一対の放射線マーカー13B2は、追加案内部材13Bの案内構造13bの左右両側に配置されるので、案内構造13bの案内方向Dgと、髄内釘1の横断孔1dの貫通方位とが一致していれば、髄内釘1が一対の放射線マーカー13B2の間に平行な姿勢で視認されることとなる。なお、この放射線マーカー13B2を使用するときには、追加案内部材13Bの少なくとも案内構造13b及びその周辺は、放射線透過性の材料によって構成される必要がある。
【0039】
なお、本発明の案内器具及び骨固定システムは、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、主案内部材13Aに対して着脱可能に構成された追加案内部材13Bに外力逃し機構13iを設けているが、これの代わりに、或いは、これとともに、同様の外力逃し機構13iを主案内部材13Aに設けてもよい。また、案内器具10としては、主案内部材13Aと追加案内部材13Bを着脱可能に備えたものに限らず、単独(一体)の案内部13を備えたものであってもよい。また、上記目的物は、上記髄内釘1に限らず、骨プレート、骨ねじ、骨ピンなどのインプラントや、骨自体であっても構わない。
【符号の説明】
【0040】
1…骨釘(髄内釘)、1a…基端部、1b…横断孔、1c…先端部、1d…横断孔、10…案内器具、11…接続部、11a…接続構造、12…アーム部、13…案内部、13A…主案内部材、13a…案内構造、13a1…案内方向指標、13c…連結穴、13e…ガイド穴、13B…追加案内部材、13Ba…第1の構造部、13Bb…第2の構造部、13b…案内構造、13g,13h…案内孔、13b1…案内方向指標、13Ba1…第1の基準位置指標、13Bb1…第2の基準位置指標、13Ba2…基準孔、13B2…放射線マーカー、13d…連結軸、13f…ガイド軸、13i…外力逃し機構、13ix…回動軸線、13iy…摺動対面部、13j…位置決め保持機構部、13jx…嵌合軸線、131…第1の係止部材、131a…係止部(第1の係止部)、131b…傾斜面、132…第2の係止部材、132a…被係止部(第2の係止部)、132x…回動軸、133…支持部、133a…ガイド穴、133b…位置決め穴、134…カラー、135…付勢部材、13k…可動案内機構部、136…回動アーム、136a…基端部、136b…先端部、136c…基端側アーム部、136d…先端側アーム部、136e…取付孔、136f…位置決め孔、137…アーム収容部、137a…基端側の内面部分、138…付勢部材、139…位置決め部材、14…案内スリーブ、15…方位設定機構、16…ナット、Fx…外力、Fy…回動、De…延在方向、Dg…案内方向、Lg…第2の構造部の移動量、Ls…基準位置の第2の構造部と患者の皮膚の表面との距離