(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】小型燃焼式ヒーター
(51)【国際特許分類】
F24C 3/14 20210101AFI20240611BHJP
F23D 11/00 20060101ALI20240611BHJP
F23D 11/02 20060101ALI20240611BHJP
F23D 11/44 20060101ALI20240611BHJP
F23D 11/26 20060101ALI20240611BHJP
F23C 9/08 20060101ALI20240611BHJP
F24D 15/02 20060101ALI20240611BHJP
F24H 1/00 20220101ALI20240611BHJP
F24C 3/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F24C3/14 U
F23D11/00 B
F23D11/02 B
F23D11/44 A
F23D11/26
F23C9/08 402
F24D15/02 Z
F24H1/00 Z
F24C3/08 W
(21)【出願番号】P 2021005045
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(72)【発明者】
【氏名】保田 高志
(72)【発明者】
【氏名】小林 直之
(72)【発明者】
【氏名】鳥岡 宜男
(72)【発明者】
【氏名】三宮 広之
【審査官】吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-065506(JP,A)
【文献】特開2002-317909(JP,A)
【文献】特開2004-224068(JP,A)
【文献】特開平04-084007(JP,A)
【文献】特開平10-009513(JP,A)
【文献】特開平11-311403(JP,A)
【文献】特開昭53-080024(JP,A)
【文献】実開昭54-138137(JP,U)
【文献】実開昭50-066221(JP,U)
【文献】国際公開第2015/068212(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 3/14
F23D 11/00
F23D 11/02
F23D 11/44
F23D 11/26
F23C 9/08
F24D 15/02
F24H 1/00
F24C 3/08
B60H 1/03
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロワーにより給気通路を通して供給される空気と、液体燃料を気化させて生成した気化燃料を混合させ、生成された混合気を燃焼室に導入して予混合燃焼させ、同燃焼室下流に設けた熱交換器にこの燃焼ガスを導いて冷却水を加熱する燃焼式ヒーターにおいて、
前記液体燃料は燃料通路に設けた燃料蒸発管において前記燃焼室の燃焼熱により気化され、
前記混合気は当量比が0.65~0.8の間の値となるよう前記空気と前記気化燃料の量がコントロールされ、かつ同混合気は前記燃焼室の前に設けた撹拌室において撹拌され、
前記燃焼室入口部に設けたバーナートップに構成された前記混合気吹出し用の複数の噴口の方向は同燃焼室で旋回流が発生するように構成され、かつ同燃焼室の上下流方向の長さが60mm以上150mm以下に設定されている、
ことを特徴とする燃焼式ヒーター。
【請求項2】
前記給気通路終端にベンチュリーを構成しかつ同ベンチュリー
に燃料ノズルを開口し、前記燃焼熱が無い始動時において、同ベンチュリー
で前記空気と前記液体燃料の混合が行われるよう構成した、
ことを特徴とする、請求項1に記載の燃焼式ヒーター。
【請求項3】
前記ベンチュリー出口部に前記撹拌室が構成され、同撹拌室の下流は多数の孔を有するミキシングプレートで仕切られている、
ことを特徴とする、請求項2に記載の燃焼式ヒーター。
【請求項4】
前記撹拌室壁には前記混合気が渦を構成するようガイド状突起部が設けられている、
ことを特徴とする、請求項3に記載の燃焼式ヒーター。
【請求項5】
前記噴口が規則正しく整列した同一形状の噴口であり、かつ前記バーナートップの中央の軸線を境に互いに逆方向を指向した噴口を配置、または前記バーナートップを軸対称に4つの部分に等分して隣り合った部分に互いに90°指向方向の異なる噴口を配置、または前記バーナートップの中央の軸線を境に互いに逆方向の旋回流が発生するような方向に指向した噴口を配置、
したことを特徴とする請求項1ないし請求項4
の何れか一項に記載の燃焼式ヒーター。
【請求項6】
前記燃焼室下流部から既燃ガスを取込み、同既燃ガスをEGR通路により前記ベンチュリー
に導いて、ベンチュリー負圧を利用して同既燃ガスを前記混合気に混合させる、
ことを特徴とする請求項2ないし請求項
4の何れか一項、又は、請求項2ないし請求項4の何れか一項を引用する請求項5に記載の燃焼式ヒーター。
【請求項7】
前記EGR通路は冷却水通路に隣接させて配設し、前記既燃ガスを適度に冷却し、前記ベンチュリー内で前記混合気が自着火することを防止する、
ことを特徴とする請求項6に記載の燃焼式ヒーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体燃料を気化し空気と予混合して燃焼させるバーナーで熱交換器を介して水を加熱するヒーターで、車載可能な小型ヒーターに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来自動車用の内燃機関が発生する排熱は、車内ヒーターの熱源などに利用されてきた。しかし近年内燃機関の効率の向上に伴いこの排熱の割合が小さくなり、ヒーターの熱量が不足する、エンジンの暖気時間が長くなる、あるいはヒーターがなかなか立ち上がらないなどの問題が発生している。また寒冷地においては自動車の暖房は重要な機能の1つであり、暖房機能が不十分な場合、生死の問題につながる場合がある。
【0003】
このような背景から液体燃料を用いた車載可能な小型燃焼式ヒーターが実用化されている。例えば欧州のメーカーであるWebasto社、Eberspaecher社などは小型燃焼式ヒーターでエンジンの冷却水を加熱し、暖房能力を補助するシステムを寒冷地向けにメーカー完成車用及びアフターマーケット用として提供している。
【0004】
これら既存のシステムは燃焼式ヒーターを用いているためシステムの作動時は排気ガスを排出する。燃焼器単体としては自動車のエミッション規制は適用されないため、既存のシステムは排気ガスの浄化に対する優先順位が高くなく、排気ガスが十分に浄化されていない製品もある。
【0005】
小型燃焼式ヒーターシステムを自動車に装着して、暖房の補助の目的だけでなく始動時の冷却水の加熱を加速して燃費向上目的に使用したり、触媒の暖機を加速してエミッション改善を目的に使用したりするためには、小型燃焼式ヒーターの排気を含めた自動車排気システムの排気を各国の排気エミッション規制に適合させ得るよう十分に浄化しなければならない。そのためには小型燃焼式ヒーターシステム自体の排気ガスを十分に浄化する必要がある。
【0006】
また前述のメーカーなどが市場に普及させている小型燃焼式ヒーターシステムは金属メッシュから成る燃料気化装置を用いて燃料を気化させるため、システム始動時燃料気化装置を暖機するのに時間を要し、システムが十分な発熱能力を発揮する定常運転に達するまで2~3分を要し、運転状況に応じ変化する暖房要求に素早く対応できないという問題がある。
【0007】
また公開実用S54-138137には、
図12に示すように電磁ポンプ103で給送した燃料を気化器110にて昇温気化してバーナー107に噴出して燃焼させる燃焼装置で、電磁ポンプ103と気化器110の間の吐出側管106の途中に余熱管108を設け、熱交換器117を通った後の排気ガスで燃料を予熱する構成が開示されている。
【0008】
この構成によれば排気ガスで燃料を予熱するので、システムの素早い立ち上がりが期待できる。また熱交換器117通過後の排気ガス温度は200℃前後であることから、燃料が過熱して炭化することを防止できるということである。しかしこの出願は排気エンミッション規制が強化される以前に出願されたものであり、排気エンミッションについての記載がなく排気を浄化するという観点での工夫が盛り込まれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は自動車に装着して車室内暖房をはじめとする各種加熱手段に使用することのできる、排気エミッション性能に優れかつシステムの暖気時間が短く素早く発熱能力を発揮できる小型燃焼式ヒーターシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、ブロワーにより給気通路を通して供給される空気と、液体燃料を気化させて生成した気化燃料を混合させ、生成された混合気を燃焼室に導入して予混合燃焼させ、同燃焼室下流に設けた熱交換器にこの燃焼ガスを導いて冷却水を加熱する燃焼式ヒーターにおいて、前記液体燃料は燃料通路に設けた燃料蒸発管において前記燃焼室の燃焼熱により気化され、前記混合気は当量比が0.65~0.8の間の値となるよう前記空気と前記気化燃料の量がコントロールされ、かつ同混合気は前記燃焼室の前に設けた撹拌室において撹拌され、前記燃焼室入口部に設けたバーナートップに構成された前記混合気吹出し用の複数の噴口の方向は同燃焼室で旋回流が発生するように構成され、かつ同燃焼室の上下流方向の長さが60mm以上150mm以下に設定されている、ことを特徴とする。
【0012】
この請求項1の構成によれば、始動時を除いた温間時の定常状態においては、燃料が燃料通路に設けた燃料蒸発管が燃焼室の燃焼熱により気化され良好な混合気が生成されるので、良好な排気エミッション性能が得られる。
【0013】
また前述のように燃料が燃焼室の燃焼熱により気化されるので、一旦点火すると長い暖気時間を要することなく素早く定格の発熱能力を発揮することができる。
【0014】
また混合気が当量比(空気に対して,理論量の何倍の燃料が供給されたかを表す量で周知の物理量)0.65~0.8の間の任意の値となるよう空気と気化燃料の量がコントロールされ、混合気は燃焼前に撹拌室において十分撹拌されるので、良好な混合気を形成することができ、特にCОとHCの発生を抑制することができる。
【0015】
またバーナートップに構成された混合気吹出し用の複数の噴口の方向が燃焼室内で旋回流が発生するように構成され、かつ燃焼室の上下流方向の長さが十分に確保されており、燃焼室内に燃焼ガスを十分な時間滞留させることができるため、特にCOの発生を抑制することができる。
【0016】
請求項2に係る発明は請求項1に係る発明の構成に加え、前記給気通路終端にベンチュリーを構成しかつ同ベンチュリー部に燃料ノズルを開口し、前記燃焼熱が無い始動時において、同ベンチュリー部で前記空気と前記液体燃料の混合が行われるよう構成したことを特徴とする。
【0017】
この請求項2の構成によれば、燃焼熱が利用できないシステム始動時において、ベンチュリー部で空気と液体燃料の混合を行わせることができ、始動性の確保と始動時の排気エミッションの改善を行うことができる。
【0018】
請求項3に係る発明は請求項2に係る発明の構成に加え、前記ベンチュリー出口部に前記撹拌室を構成し、同撹拌室の下流を多数の孔を有するミキシングプレートで仕切ったことを特徴とする。
【0019】
この請求項3の構成によれば、ベンチュリーで空気と気化燃料の混合により混合気を形成し、その直後に撹拌室で混合気を撹拌し、下流に配設した多数の孔を有するミキシングプレート通過させ更に撹拌させるので、良好な混合気を生成することができる。
【0020】
請求項4に係る発明は請求項3に係る発明に加え、前記撹拌室壁には前記混合気が渦を構成するようガイド状突起部が設けられていることを特徴とする。
【0021】
請求項4の構成によれば、撹拌室壁に混合気が渦を構成するようガイド状突起部が設けられているので混合気の撹拌が促進され、更に良好な混合気が生成されて燃焼室に導入される。
【0022】
請求項5に係る発明は請求項1ないし請求項4に係る発明の構成に加え、前記噴口が規則正しく整列した同一形状の噴口であり、かつ前記バーナートップの中央の軸線を境に互いに逆方向を指向した噴口を配置、または前記バーナートップを軸対称に4つの部分に等分して隣り合った部分に互いに90°指向方向の異なる噴口を配置、または前記バーナートップの中央の軸線を境に互いに逆方向の旋回流が発生するような方向に指向した噴口を配置したことを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載されたような噴口の配列とすることにより、燃焼室内での燃焼流の渦の生成が促進され、燃焼室内での燃焼ガスの滞留時間を更に長くすることができるので、特にCOの発生を更に抑制することができる。
【0024】
請求項6に係る発明は請求項2ないし請求項5に記載の発明の構成に加え、前記燃焼室下流部から既燃ガスを取込み、同既燃ガスを既燃ガス通路により前記ベンチュリー部に導いて、ベンチュリー負圧を利用して同既燃ガスを前記混合気に混合させることを特徴とする。
【0025】
請求項6に記載のように燃焼室下流部から既燃ガスを取込み、ベンチュリー効果を利用して同既燃ガスを前記混合気に混合させることにより、多量の既燃ガスを再循環させることができ、火炎の最高温度を低減して主にNOxの低減を行うことができる。
【0026】
請求項7に係る発明は請求項6に記載の発明の構成に加え、前記既燃ガス通路は冷却水通路に隣接させて配設し、前記既燃ガスを適度に冷却し、前記ベンチュリー内で前記混合気が自着火することを防止する、ことを特徴とする。
【0027】
請求項7に記載のように既燃ガス通路を冷却水通路に隣接させて配設し、既燃ガスを適度に冷却することにより、燃焼室に至る前に意図せずベンチュリー近傍で前記混合気が自着火し異常燃焼によりシステムが破損することなどを防止できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、排気エミッション性能に優れ、かつ暖気時間が短く素早く発熱能力を発揮できる小型燃焼式ヒーターシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態における小型燃焼式ヒーターの外観図である。
【
図2】本発明の一実施形態における小型燃焼式ヒーターの垂直断面図である。
【
図3】小型燃焼式ヒーターの燃焼室上部の水平断面図である。
【
図4】小型燃焼式ヒーター上部の給気通路のベンチュリー部及び燃料ノズル近傍を表した垂直断面図である。
【
図5】小型燃焼式ヒーター上部の燃料通路及び燃料蒸発管を表した垂直断面図である。
【
図6】ミキシングプレート及び撹拌室を燃焼室方向から見た図である。
【
図7】撹拌室の水平断面を燃焼室方向から見た図である。
【
図8】(A)、(B)、(C)は、3つのタイプのバーナートップの平面図である。
【
図9】小型燃焼式ヒーターの燃焼室の垂直断面図である。
【
図10】(A)、(B)、(C)は、小型燃焼式ヒーターの排気エミッション性能を表したグラフである。
【
図11】(A)、(B)は開発品(本発明の小型燃焼式ヒーター)と市場品(他社製の小型燃焼式ヒーター)の水加熱量の立ち上がり性能および排気エミッションの立ち上がり性能の比較を示す。
【
図12】公開実用S54-138137に記載の燃焼装置を表した図である。
【符号の説明】
【0030】
1 小型燃焼式ヒーター
2 ブロワー
3 燃焼室ヘッド
4 燃焼室ブロック
5 熱交換器ホルダー
11 給気通路
12 撹拌室
13 燃焼室
14 熱交換器
15 冷却水通路
16 ベンチュリー
17 燃料ノズル
18 燃料通路
19 燃料蒸発管
20 点火ヒーター
21 ミキシングプレート
22 ガイド状突起部
23 バーナートップ
24 噴口
30 排気通路
31 容積部
32 燃焼室壁
35 EGR通路
36 冷却水入口
37 冷却水出口
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態における小型燃焼式ヒーターの外観を示した図である。また
図2は小型燃焼式ヒーターの垂直方向の断面図である。なお本小型燃焼式ヒーター1は、車載時において現状の図示した姿勢が求められるものではないが、便宜上図示した姿勢を基に垂直方向、水平方向を指示することとする。
【0033】
(本発明の小型燃焼式ヒーターの構成)
まず
図1から
図7を参照しながら本発明の小型燃焼式ヒーターの構成の説明を行う。
図1に示すようにブロワー2の作用により空気が給気通路11を通して供給される。給気通路11はブロワー2を出ると
図4に示すように燃焼室ヘッド3内に形成された給気通路につながり、終端部でベンチュリー16を構成している。
【0034】
ベンチュリー16部には燃料ノズル17が開口している。ベンチュリー16終端部は
図7に示すように燃焼室ヘッド3内に設けた撹拌室12に開口している。
図6に示すように撹拌室12の下部はパンチング状に多数の孔の開いたミキシングプレート21で仕切られており、
図4に示すようにその下部には多数の噴口24が形成されたバーナートップ23配置され、燃焼室13へとつながっている。燃焼室13は周囲を燃焼室ブロック4で囲われ、燃焼室ブロック4の壁面内には冷却水通路15が構成されている。
【0035】
燃焼室13の下部には熱交換器14が配置され、周囲と下部は熱交換器ホルダー5で囲われている。熱交換器ホルダー5の内部は燃焼室ブロック4の冷却水通路15とつながっており、内部は冷却水で満たされている。この構成により燃焼室13内で燃焼が行われると、熱交換器14に構成された一次側通路に既燃ガスが導入され、既燃ガスの熱が二次側通路の冷却水へと伝えられる。熱交換器ホルダー5の下部には熱交換器14を通った既燃ガスが集められるための容積部31と、既燃ガスを排気系に導くための排気通路30が設けられている。冷却水通路15には熱交換器ホルダー5に冷却水入口36と燃焼室ブロック4に冷却水出口37とが設けられている。
【0036】
(本発明の小型燃焼式ヒーターの作動)
ブロワー2の作動により定量の空気が給気通路11に供給される。給気通路11を通って空気がベンチュリー16に導かれるが、ベンチュリー16部には燃料ノズル17が開口している。この構成により燃焼が行われていない始動時においてもベンチュリー効果で液体の状態の燃料が微粒化しながら混合気の形成が行われる。
【0037】
一旦点火ヒーター20により燃焼室13内の混合気に点火し燃焼が開始されると、
図5に示すように燃焼室内に配置した燃料蒸発管19が燃焼火炎の熱で加熱され、燃料蒸発管19内の液体燃料が気化される。よって定常状態ではベンチュリー16内で空気と気化燃料が混合するようになり良好な混合気が供給され、排気エミッション性能が改善される。
【0038】
図3は燃焼室13上部(入口部)を下から見た図面だが、燃焼室壁32とバーナートップ23に近接して燃料蒸発管17が配置されている。これは燃料通路18の一部を燃料蒸発管19として燃焼室13内に配置するよう構成したものである。この構成によれば燃料蒸発管19が適度に火炎によって加熱され、燃料蒸発管19の中を流れる液体燃料が気化される。燃料蒸発管19の長さは内部の燃料が気化するのに十分な熱を火炎から受けるよう調整されている。一方燃料蒸発管19は燃焼室内では比較的温度の低い燃焼室壁32近くに配置され、燃料蒸発管19の加熱により内部の燃料が炭化するのを防止している。
【0039】
また燃料が燃焼室の燃焼熱により気化されるので、一旦点火が行われると長い暖気時間を要することなく素早く定格の発熱能力を発揮することができる。
図11に本発明の小型燃焼式ヒーター(開発品)と他社製の小型燃焼式ヒーター(市場品)のシステム始動時の立ち上がり性能の実験による比較を示す。
図11の(A)がCO・NOxの排気エミッションの立ち上がり性能、(B)が発熱性能(水加熱量)の立ち上がり性能である。
【0040】
図11(A)に示すように本発明の小型燃焼式ヒーターでは始動して1分以内に定常状態に達し十分な発熱性能(水加熱量)を発揮しているのに対し、市場品においては定常状態に達するまで2~3分を要している。よって本発明の小型燃焼式ヒーターは環境変化に対応してより素早く発熱性能を発揮させる点で優れていることがわかる。
【0041】
また
図11(B)では定常状態に達した状態での排気エミッション性能において、本発明の小型燃焼式ヒーターは市場品に比較して、COレベルにおいてやや低く、またNOxレベルについては大幅に低くなっており、排気エミッション性能についても優れた性能を示していることがわかる。
【0042】
なお液体燃料としてはガソリン、軽油をはじめとして、各種アルコール燃料、灯油なども適用可能である。
【0043】
混合気は当量比0.65~0.8の間の任意の値となるよう空気と気化燃料の量がコントロールしている。その方法としては当量比と火炎温度の関係性を利用して、火炎温度センサー(測温抵抗体)の機能も兼ね備える点火ヒーター20でセンシングした値が目標値(目標電圧)になる様にフィードバックして燃料流量を制御する。
【0044】
この際火炎温度はシステムの吸気温、水温によって変化し当量比の振れが大きくなるので、測温抵抗体を用いた火炎温度センサーの目標出力電圧に、吸気温及び水温に比例した補正値を加えて当量比の振れ幅を抑制するようにしている。当量比0.65~0.8の間の任意の値となるよう高精度にコントロールすることにより、特に排気中のCОとNOxのトレードオフ関係を狙いの領域に収めることができ、要件を満足する良好な排気エミッション性能を安定的に得ることができる。
【0045】
次に混合気が撹拌室12に流入する。給気通路終端のベンチュリー16出口部には
図7に示すようにガイド状突起部22が形成され、撹拌室12はベンチュリー16の軸線を中心に対称な2つの略円形の容積部として構成されているため、壁に沿って2つの渦流が生成され、これらの構成により混合気が良好に撹拌される。
【0046】
更に
図6に示すように撹拌室12の下部はパンチング状に多数の孔の開いたミキシングプレート21で仕切られているため、この多数の孔を通過する際に更に混合が促進し良好な混合気が形成され、これにより主に排気中のCОとHCを低減することができる。
【0047】
次にバーナートップ23を経由して混合気が燃焼室13内に導入される。バーナートップ23は規則正しく整列した多数の噴口24を備えている。この配列した噴口24は燃焼室内で火炎が渦流を発生するように構成されている。また燃焼室内に突出するように点火ヒーター20が配設されており、システムの始動時に点火ヒーター20に通電が行われ、燃焼室13内に流入した混合気に点火し、以後はバーナートップ23を境に噴口24の数の火炎が燃焼室13内に発生する。
【0048】
バーナートップの噴口の配列例を
図8に示す。
図8(A)はバーナートップの中央の軸線を境に互いに逆方向を指向した噴口を配置したパターンである。この配列により噴口を経由して燃焼室内に流入した混合気は全体として単一の渦状の火炎を構成する。
【0049】
次に
図8(B)はバーナートップを軸対称に4つの部分に等分して隣り合った部分に互いに90°指向方向の異なる噴口を配置したパターンである。この配列の場合も噴口を経由して燃焼室内に流入した混合気は全体として単一の渦状の火炎を形成する。
【0050】
また
図8(C)はバーナートップの中央の軸線を境に互いに逆方向の旋回流が発生するような方向に指向した噴口を配置したパターンである。この配列の場合は噴口を経由して燃焼室内に流入した混合気は、全体として2つの逆方向の渦状の火炎を構成する。
【0051】
これらは渦状の火炎を構成するバーナートップ上の噴口の配列の例示であるが、噴口の配列を工夫することにより他の配列によっても渦状の火炎を構成することできる。
【0052】
次に燃焼室の高さと排気エミッション性能の関係を表したグラフを
図10に示す。NOxの排出性能を
図10(A)に、CОの排出性能を
図10(B)に、NOxとCОのトレードオフ性能を
図10(C)に示す。この実験では
図9に示す燃焼室高さHを60mm、90mm、120mmと変化させて排気エミッション性能を測定している。
【0053】
これらのグラフから燃焼室高さH(
図9)を高くするとCОの排出が抑えられ、NOxとCОのトレードオフ性能も改善していることがわかる。この理由は燃焼室高さHを高くすると既燃ガスが燃焼室内に滞留する時間が増加するため、十分な燃焼の時間を確保でき不完全燃焼により発生するCOが低減できるからである。
【0054】
よってCOを十分に低下させるため燃焼室高さHの下限として60mmは必要であり、また搭載性の面からめ燃焼室高さHの上限としては150mm程度である。
【0055】
また先に述べたバーナートップの噴口24の配列を工夫して渦状の火炎を形成することも、既燃ガスの燃焼室内の滞留時間を増加させCOの低減に寄与することができる。
【0056】
燃焼室13の下部に配置された熱交換器14の一次側ガス通路と燃焼室13が連通しており高温の既燃ガスは前記一次側ガス用通路に導入される。一方熱交換器14の二次側冷却水用通路は熱交換器外周部の冷却水通路15と連通し、またこの熱交換器外周の冷却水通路15は燃焼室13の壁面の冷却水通路とも連通しており、
図2に示すように熱交換器ホルダー5に設けた冷却水入口36と燃焼室ブロック4に設けた冷却水出口37の間で冷却水が循環するように構成されている。燃焼室13の壁面の冷却水通路の冷却水は適度に燃焼室を冷却しながら循環している。これらの構成により熱交換器14を介して既燃ガスから冷却水に熱が伝達される。
【0057】
なお熱交換器14の一次側ガス用通路は下部の容積部31で集合し、排気通路30につながっており既燃ガスは排気通路30に排出される。
【0058】
また
図9に示すように燃焼室13下部からEGR通路35をベンチュリー部に導き開口させて、既燃ガスを再循環させている。ベンチュリー部に開口させることによりベンチュリー効果を利用して多量の再循環を行うことが可能となっている。またEGR通路を冷却水通路15に隣接させて配設し、前記既燃ガスを適度に冷却することにより、ベンチュリー内で混合気が自着火し、装置の破損等に至ることを防止している。
【0059】
図10にEGR(排ガス再循環)を行った場合の排気エミッション性能に及ぼす効果を示す。
図10(A)、
図10(C)よりEGRを行った場合NOxが顕著に低下していることがわかる。この構成を用いてEGRを行わせることによりシステムの排気エミッション性能を大幅に向上させることができる。