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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】切断ブレード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/12 20060101AFI20240611BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20240611BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20240611BHJP
   B24D 3/02 20060101ALI20240611BHJP
   B24D 3/06 20060101ALI20240611BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
B24D3/00 340
B24D3/00 320B
B24D5/00 P
B24D3/02 A
B24D3/06 A
H01L21/78 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021212272
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096473
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-10-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591107403
【氏名又は名称】株式会社リード
(74)【代理人】
【識別番号】100119404
【弁理士】
【氏名又は名称】林 直生樹
(74)【代理人】
【識別番号】100177769
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100188743
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】大石 佳史
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 真穂
(72)【発明者】
【氏名】中田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 陽介
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-142795(JP,A)
【文献】特開2020-069630(JP,A)
【文献】実開昭59-143650(JP,U)
【文献】特開昭63-169269(JP,A)
【文献】特開2003-053670(JP,A)
【文献】特開2006-263875(JP,A)
【文献】特開2016-005851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 5/12
B24D 3/00
B24D 5/00
B24D 3/02
B24D 3/06
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を分散させたボンド材の焼結体からなる切断ブレードであって、
前記切断ブレードは、薄板リング状をしていて、該切断ブレードの厚さ方向両側面の外周縁部に、深さが前記切断ブレードの厚さの1/2より浅い複数の凹溝が、該切断ブレードの半径方向の線分に対して傾斜するようにそれぞれ形成されており、
前記凹溝は、前記切断ブレードの外周面に開放する溝先端部と、該溝先端部の反対側の閉じた溝後端部とを有し、該凹溝が前記線分に対して傾斜する方向は、前記溝先端部側から溝後端部側に向けて次第に前記線分から切断ブレードの回転方向後方側に遠ざかる方向であることを特徴とする切断ブレード。
【請求項2】
前記凹溝の前記溝後端部の内面は凹曲面状をしていることを特徴とする請求項1に記載の切断ブレード。
【請求項3】
前記凹溝は、前記切断ブレードの回転方向前方側に位置する第1側壁と該切断ブレードの回転方向後方側に位置する第2側壁とを有し、前記第1側壁の長さは第2側壁の長さより長く、前記第1側壁及び第2側壁は、切断ブレードの回転方向後方側に向けて凸形に湾曲していることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の切断ブレード。
【請求項4】
前記凹溝の幅と、該凹溝がブレード外周面から該ブレードの半径方向に起立する距離とが等しいことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の切断ブレード。
【請求項5】
前記切断ブレードの一方の側面の複数の凹溝及び他方の側面の複数の凹溝は、該切断ブレードの周方向にそれぞれ等間隔に配置されると共に、両側面の凹溝が切断ブレードの厚さ方向に重なり合わないよう互い違いの位置に配置されていることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の切断ブレード。
【請求項6】
前記切断ブレードは、該切断ブレードの外周面を含む環状の外周部と、該外周部に囲まれた環状の内周部とを有し、前記外周部と内周部とは異種のボンド材により形成され、前記内周部を形成するボンド材の硬度及び弾性率は、前記外周部を形成するボンド材の硬度及び弾性率より大きいことを特徴とする請求項1からの何れかに記載の切断ブレード。
【請求項7】
前記内周部の半径方向幅は、前記外周部の半径方向幅より大きく、前記凹溝は、前記外周部を斜めに横断して前記内周部まで達するように形成されていることを特徴とする請求項に記載の切断ブレード。
【請求項8】
前記ボンド材は、超硬合金、サーメット、高硬度金属間化合物の何れか1種からなることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の切断ブレード。
【請求項9】
ボンド材の粉末にダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を均等に分散させることにより焼成用粉末を製造する粉末製造工程、
焼成型の環状をした焼成室内に前記焼成用粉末を充填して焼成することにより、外径及び厚さが切断ブレードの外径及び厚さより大きく、内径が前記切断ブレードの内径より小さいリング状のブレード材を得る焼成工程、
前記ブレード材の外径、内径及び厚さを、切断ブレードの外径、内径及び厚さを目標サイズとして該目標サイズに近づけるように調整するサイズ調整工程、
サイズ調整したブレード材の両側面の外周縁部に、化学的又は機械的方法によって複数の凹溝を形成する凹溝形成工程、
凹溝を形成した前記ブレード材の外径、内径及び厚さを前記目標サイズに一致させる仕上げ工程、
を有することを特徴とする切断ブレードの製造方法。
【請求項10】
硬度及び弾性率が異なる2種類のボンド材の粉末にそれぞれダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を均等に分散させることにより、硬度及び弾性率の大きいボンド材からなる第1焼成用粉末と、硬度及び弾性率の小さいボンド材からなる第2焼成用粉末とを製造する粉末製造工程、
焼成型の環状をした焼成室内に、前記第2焼成用粉末を該焼成室の外周側にリング状に充填すると共に、前記第1焼成用粉末を前記第2焼成用粉末の内周側にリング状に充填して焼成することにより、外径及び厚さが切断ブレードの外径及び厚さより大きく、内径が前記切断ブレードの内径より小さいリング状のブレード材を得る焼成工程、
前記ブレード材の外径、内径及び厚さを、切断ブレードの外径、内径及び厚さを目標サイズとして該目標サイズに近づけるように調整するサイズ調整工程、
サイズ調整したブレード材の両側面の外周縁部に、化学的または機械的方法によって複数の凹溝を形成する凹溝形成工程、
凹溝を形成した前記ブレード材の外径、内径及び厚さを前記目標サイズに一致させる仕上げ工程、
を有することを特徴とする切断ブレードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂、セラミックス、ガラス、金属やそれらの複合材料に対して切断加工や溝入れ加工等を施すための切断ブレード及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂、セラミックス、ガラス、金属やそれらの複合材料に対して切断加工や溝入れ加工等を施すための切断ブレードは、例えば特許文献1や特許文献2あるいは特許文献3等に開示されているように公知である。この公知の切断ブレードは、薄板リング状をなしていて、その両側面の外周縁部に、該切断ブレードを厚さ方向に貫通しない複数の有底の凹溝を有しており、この凹溝により、切削部位へのクーラントの円滑な供給と、切削屑の凹溝を通じての外部への排出とを円滑化し、それにより切削抵抗を軽減して切れ味を維持するようにしている。
【0003】
ところが、前記公知の切断ブレードは、電鋳品であるため、柔軟性があり、切削加工時に切断ブレードが変形したり振動したりすることによって切れ曲がりが発生し、被加工材料を真っ直ぐ切削するのが難しいという問題があった。
また、前記凹溝は、切断ブレードの半径方向に真っ直ぐ延在するように形成されているため、被加工材料の切削時に、切削屑が該凹溝内に溜まって排出されにくく、その結果、切削抵抗が増大して切れ味の低下や切断ブレードの損傷につながり易いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-154423号公報
【文献】特開2013-244546号公報
【文献】特開2014-221511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の技術的課題は、厚さ方向の両側面に凹溝を有する切断ブレードにおいて、該切断ブレードの剛性を高めて切れ曲がりをなくすと共に、凹溝による切削屑の排出性を高めて切削抵抗を軽減することにより、切れ味の低下や切断ブレードの破損等を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明によれば、ダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を分散させたボンド材の焼結体からなる切断ブレードが提供される。この切断ブレードは、薄板リング状をしていて、該切断ブレードの厚さ方向両側面の外周縁部に、深さが前記切断ブレードの厚さの1/2より浅い複数の凹溝が、該切断ブレードの半径方向の線分に対して傾斜するようにそれぞれ形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明において、前記凹溝は、前記切断ブレードの外周面に開放する溝先端部と、該溝先端部の反対側の閉じた溝後端部とを有し、該凹溝が前記線分に対して傾斜する方向は、前記溝先端部側から溝後端部側に向けて次第に前記線分から切断ブレードの回転方向後方側に遠ざかる方向であることが望ましい。
この場合、前記凹溝の前記溝後端部の内面は凹曲面状をしていても良い。
【0008】
本発明において、前記凹溝は、前記切断ブレードの回転方向前方側に位置する第1側壁と該切断ブレードの回転方向後方側に位置する第2側壁とを有し、前記第1側壁の長さは第2側壁の長さより長く、前記第1側壁及び第2側壁は、切断ブレードの回転方向後方側に向けて凸形に湾曲していても良い。
また、前記凹溝の幅と、該凹溝がブレード外周面から該ブレードの半径方向に起立する距離とが等しいことが望ましい。
【0009】
本発明において、前記切断ブレードの一方の側面の複数の凹溝及び他方の側面の複数の凹溝は、該切断ブレードの周方向にそれぞれ等間隔に配置されると共に、両側面の凹溝が切断ブレードの厚さ方向に重なり合わないよう互い違いの位置に配置されていることが望ましい。
【0010】
また、本発明において、前記切断ブレードは、該切断ブレードの外周面を含む環状の外周部と、該外周部に囲まれた環状の内周部とを有し、前記外周部と内周部とは異種のボンド材により形成され、前記内周部を形成するボンド材の硬度及び弾性率は、前記外周部を形成するボンド材の硬度及び弾性率より大きくても構わない。
【0011】
本発明において、前記内周部の半径方向幅は、前記外周部の半径方向幅より大きく、前記凹溝は、前記外周部を斜めに横断して前記内周部まで達するように形成されていることが望ましい。
【0012】
本発明において、前記ボンド材は、超硬合金、サーメット、高硬度金属間化合物の何れか1種からなる。
【0013】
また、本発明の切断ブレードの製造方法は、ボンド材の粉末にダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を均等に分散させることにより焼成用粉末を製造する粉末製造工程、焼成型の環状をした焼成室内に前記焼成用粉末を充填して焼成することにより、外径及び厚さが前記切断ブレード1の外径及び厚さより大きく、内径が前記切断ブレード1の内径より小さいリング状のブレード材を得る焼成工程、前記ブレード材の外径、内径及び厚さを、切断ブレードの外径、内径及び厚さを目標サイズとして該目標サイズに近づけるように調整するサイズ調整工程、サイズ調整したブレード材の両側面の外周縁部に、化学的又は機械的方法によって複数の凹溝を形成する凹溝形成工程、凹溝を形成した前記ブレード材の外径、内径及び厚さを前記目標サイズに一致させる仕上げ工程を有する。
【0014】
また、本発明の別の切断ブレードの製造方法は、硬度及び弾性率が異なる2種類のボンド材の粉末にそれぞれダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を均等に分散させることにより、硬度及び弾性率の大きいボンド材からなる第1焼成用粉末と、硬度及び弾性率の小さいボンド材からなる第2焼成用粉末とを製造する粉末製造工程、焼成型の環状をした焼成室内に、前記第2焼成用粉末を該焼成室の外周側にリング状に充填すると共に、前記第1焼成用粉末を前記第2焼成用粉末の内周側にリング状に充填して焼成することにより、外径及び厚さが前記切断ブレード1の外径及び厚さより大きく、内径が前記切断ブレード1の内径より小さいリング状のブレード材を得る焼成工程、前記ブレード材の外径、内径及び厚さを、切断ブレードの外径、内径及び厚さを目標サイズとして該目標サイズに近づけるように調整するサイズ調整工程、サイズ調整したブレード材の両側面の外周縁部に、化学的または機械的方法によって複数の凹溝を形成する凹溝形成工程、凹溝を形成した前記ブレード材の外径、内径及び厚さを前記目標サイズに一致させる仕上げ工程を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の切断ブレードは、該切断ブレードの両側面に、該切断ブレードの半径方向の線分に対して傾斜する複数の凹溝を有することにより、切削時の切削屑の排出性が向上し、切削時の潤滑性が向上して摩擦熱の発生が抑えられるだけでなく、切削抵抗も軽減され、切れ味の低下や切断ブレードの破損等が防止される。また、前記ブレードは焼結体で形成されているため、電鋳品に比べて剛性が高く、切れ曲がりを生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る切断ブレードの第1実施形態の側面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3図2のIII-III線に沿った拡大断面図である。
図4】第1実施形態の切断ブレードを形成する前の焼成したブレード材の側面図である。
図5図4のブレード材の断面図である。
図6】本発明に係る切断ブレードの第2実施形態の側面図である。
図7図6の要部拡大図である。
図8】第2実施形態の切断ブレードを形成する前の焼成したブレード材の側面図である。
図9図8IX-IX線に沿ったブレード材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る切断ブレードの実施形態を図を参照しながら詳細に説明する。図1図3には、本発明に係る切断ブレード1の第1実施形態が示されている。この切断ブレード1は、超砥粒を均等に分散させたボンド材を焼成した焼結体からなるもので、厚さが0.1mm以下の薄板リング状をなしていて、中心に取付孔2を有し、この取付孔2内に切断装置の回転軸を挿入することにより該切断装置に取り付け、矢印X方向に回転させることにより、樹脂、セラミックス、ガラス、金属やそれらの複合材料等の被加工材料に対して切断加工や溝切り加工等を施すものである。図示した切断ブレード1のサイズは、その外径Φ1が54mm、内径(取付孔2の直径)Φ2が40mm,厚さtが0.05mmである。しかし、本発明の切断ブレード1はこのような寸法のものに限定されない。
【0018】
前記ボンド材は、超硬合金、サーメット、または高硬度金属間化合物の何れか一種からなり、また、前記超砥粒(不図示)は、ダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方からなっていて、ボンド材中に分散する該砥粒の一部は、切断ブレード1の外周面3及び左右の両側面4,5においてボンド材から外部に僅かに突出しており、この砥粒によって被加工材が切削される。なお、前記砥粒の粒径は、公知の切断ブレード1に使用されている砥粒の粒径と同様に4-60μm程度である。
【0019】
前記切断ブレード1の左右両側面4,5には、その外周縁部に、該切断ブレード1の厚さtより深さdの浅い有底状をした複数の凹溝6が、該切断ブレード1の半径方向の線分Sに対して傾斜する姿勢で、該切断ブレード1の円周方向に等間隔に形成されている。図1の実施形態では、前記切断ブレード1の両側面4,5にそれぞれ16個の凹溝6が形成され、切断ブレード1の一方の側面4の凹溝6と他方の側面5の凹溝6とは、該切断ブレード1の厚さ方向に互いに重なり合わないよう互い違いの位置に配置されている。
【0020】
前記凹溝6の深さdは、切断ブレード1の厚さtの半分より小さいことが好ましく、より好ましい深さdは、厚さtの4割程度である。従って、切断ブレード1の厚さtが0.05mmである場合、前記凹溝6の好ましい深さdは0.02mmということになる。
また、前記凹溝6は、切断ブレード1の外周面3から、前記取付孔2までは達しないような長さに形成されていて、前記切断ブレード1の外周面3に開放する溝先端部8と、該溝先端部8の反対側の閉じた溝後端部9とを有し、該溝後端部9の内面形状は、該凹溝6の後方側に向けて湾曲する凹曲面状をしている。
【0021】
前記凹溝6が前記線分Sに対して傾斜する方向は、前記溝先端部8側から溝後端部9側に行くにしたがって次第に前記線分Sから切断ブレード1の回転方向後方側に向けて遠ざかる方向であり、このときの凹溝6の好ましい傾斜角度θは30-60度であり、より好ましい傾斜角度θは60度である。このように前記凹溝6は傾斜しているため、該凹溝6の前記溝先端部8は、切断ブレード1の外周面3にその円周方向に細長く開口し、その開口幅aは該凹溝6の幅Wより大きい。このため、被加工物の切削時に、該凹溝6内への切削屑の取り込み及び排出が円滑且つ確実に行われることになる。
【0022】
また、前記凹溝6は、前記切断ブレード1の回転方向前方側の第1側壁6a及び回転方向後方側の第2側壁6bとを有し、前記第1側壁6aの長さは第2側壁6bの長さより長い。これら第1側壁6a及び第2側壁6bは、凹溝6の溝先端部8側から溝後端部9側に向けて完全に真っ直ぐではなく、切断ブレード1の回転方向後方側に向けて僅かに凸形をなすように湾曲し、前記溝後端部9の凹曲面に滑らかに連なっている。
【0023】
前記凹溝6の幅Wと、該凹溝6が切断ブレード1外周面3から該切断ブレード1の半径方向に立ち上った距離(起立距離)Tとは、互いに等しく、それらの好ましい大きさは1-2mm程度である。前記起立距離Tは、前記切断ブレード1の一方の側面4に形成された全て(16個)の凹溝6の溝後端部9に接する仮想接円Cを考えたとき、この仮想接円Cの半径R0と切断ブレード1の半径Rとの差であるということができる。この起立距離Tは、前記切断ブレード1で被加工物を切削する際の切り込み深さよりも大きく設定されている。
【0024】
前記第1実施形態の切断ブレード1(外径54mm、内径40mm、厚さ0.05mm、凹溝6の深さ0.02mm)は、以下の工程(第1の製造方法)により製造することができる。
【0025】
先ず、超硬合金、サーメット、または高硬度金属間化合物の何れかからなるボンド材の粉末に、ダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を均等に分散させることにより焼成用粉末を製造する(粉末製造工程)。
【0026】
次に、焼成型の環状をした焼成室の内部に前記焼成用粉末を充填して焼成することにより、外径及び厚さが前記切断ブレード1の外径及び厚さより僅かに大きく、内径が前記切断ブレード1の内径より僅かに小さいリング状のブレード材1A(図4参照)を形成する(焼成工程)。このブレード材1Aのサイズは、図4及び図5に示すように、例えば外径Φ1が58.5mm、内径Φ2が39.5mm、厚さtが0.3mmである。
【0027】
続いて、前記ブレード材1Aに研磨や切削等の機械的加工を施すことにより、該ブレード材1Aのサイズ即ち外径、内径及び厚さを、切断ブレード1のサイズを目標サイズとしてその目標サイズに近づけるように調整する(サイズ調整工程)。サイズ調整後のブレード材1Aのサイズは、例えば外径Φ1が54.5mm、内径Φ2が39.5mm、厚さtが0.1mm程度である。
【0028】
次に、サイズ調整した前記ブレード材1Aの両側面4,5の外周縁部に、エッチング等による化学的方法、またはレーザー加工やブラスト加工等の機械的方法によって複数の凹溝6(図1参照)を形成する(凹溝形成工程)。このとき、必用に応じて、前記凹溝6を形成しない部分はマスクで覆うことにより、凹溝6を形成する部分だけを加工することができる。
【0029】
そして、前記凹溝6が形成された前記ブレード材1Aの外径Φ1、内径Φ2及び厚さtを、研磨や切削等によって前記目標サイズに仕上げる仕上げ工程を行うことにより、前記切断ブレード1を得ることができる。
なお、この仕上げ工程では、前記ブレード材1Aの厚さtが0.1mmから0,05mmに減少するため、前記凹溝6の最終的な深さdを0.02mmにするためには、前記凹溝形成工程で形成する凹溝6の深さは0.045mm程度としておくことが必要である。
【0030】
前記切断ブレード1は、取付孔2内に切断装置の回転軸を挿入することにより該切断装置に取り付け、樹脂、セラミックス、ガラス、金属やそれらの複合材料等の被加工材料に対して切断加工や溝入れ加工等を施すのに使用される。
【0031】
このとき、前記切断ブレード1の両側面4,5に該切断ブレード1の回転方向後方に向けて傾斜する凹溝6が形成されているので、供給されたクーラントは、該凹溝6内に流入したあと、該凹溝6の傾斜に沿って該凹溝6内を速やかに流動し、切削部位に効率良く供給される。同時に、切削により発生する切削屑も、前記凹溝6内に円滑に取り込まれたあと、前記クーラントと共に該凹溝6内を溝後端部9側に向けて移動し、該溝後端部9側から外部に円滑かつ速やかに排出される。このため、切削時の潤滑性が向上して摩擦熱の発生が抑えられるだけでなく、切削屑の円滑且つ速やかな排出により切削抵抗も軽減され、切れ味の低下や切断ブレード1の破損等が防止される。また、前記ブレードは焼結体で形成されているため、電鋳品に比べて剛性が高く、切れ曲がりを生じにくい。
【0032】
本発明者らの行った切削実験によれば、凹溝6の幅W及び起立高さTが2mm、該凹溝6の傾斜角度θが30度、45度、60度である3種類の切断ブレード(第1実施形態のもの)と、凹溝が傾斜していない一般的な切断ブレードとを使用し、厚さ1.5mmのフェノール樹脂板を、ブレード回転数40,000r.p.m、加工速度100mm/secで切断したときの切削屑の排出性を比較すると、凹溝が傾斜する本発明の切削ブレードの切削屑の排出性の方が、凹溝が傾斜しない一般の切断ブレードより勝れており、特に、凹溝の傾斜角度が大きくなるほど良好になり、60度の場合に最も良好であることが確認された。
【0033】
図6図9には、本発明に係る切断ブレードの第2実施形態が示されている。この第2実施形態の切断ブレード10が第1実施形態の切断ブレード1と相違する点は、第1実施形態の切断ブレード1は、その全体が、超硬合金、サーメット、または高硬度金属間化合物の何れか1種類のボンド材により形成しているのに対し、第2実施形態の切断ブレード10は、硬度及び弾性率が異なる2種類のボンド材を使用し、外周面3を含むリング状の外周部11を、硬度及び弾性率の小さい軟質のボンド材で形成し、前記外周部11で囲まれたリング状の内周部12を、前記軟質のボンド材より硬度及び弾性率が大きい硬質のボンド材で形成していることである。
【0034】
この第2実施形態の切断ブレード10のサイズは、外径Φ1が54mm、内径Φ2が40mm、厚さtが0.05mm、内周部12の直径Φ3が53.4mmである。従って、前記外周部11の半径方向の幅は0.3mmである。
【0035】
前記第2実施形態の切断ブレード10の構成及び作用は、前記外周部11と内周部12とを有すること以外、前記第1実施形態の切断ブレード1の構成と実質的に同じである。そこで、両者の主要な同一構成部分に第1実施形態と同じ符号を付し、その構成及び作用についての詳細な説明は省略するものとする。
【0036】
前記切断ブレード10は、その大部分を占める内周部12が硬度及び弾性率が大きい硬質のボンド材で形成されていて、剛性が大きいため、被加工物の切削時に切れ曲がりが生じにくく、該被加工物を真っ直ぐ切削することができる。このため、加工品質が向上するとと共に、切断ブレード10の耐久性が高まる。
【0037】
次に前記切断ブレード10を製造するための第2の製造方法について説明する。この第2の製造方法は、基本的に前記第1実施形態の切断ブレード1を製造するための前記第1の製造方法と同じであるが、最初の粉末製造工程と2番目の焼成工程とにおいて該第1の製造方法と相違している。
【0038】
即ち、前記第2の製造方法の粉末製造工程においては、硬度及び弾性率が異なる2種類のボンド材の粉末を使用し、該2種類のボンド材の粉末にそれぞれダイヤモンド砥粒及びCBN砥粒の一方又は両方を均等に分散させることにより、硬度及び弾性率の大きいボンド材からなる第1焼成用粉末と、硬度及び弾性率の小さいボンド材からなる第2焼成用粉末とを製造する。
【0039】
そして、次の焼成工程では、焼成型の環状の焼成室内に、前記第2焼成用粉末を該焼成室の外周側にリング状に充填すると共に、前記第1焼成用粉末を前記焼成室の内周側にリング状に充填し、その状態で焼成する。
【0040】
これにより、図8及び図9に示すように、外周部11と内周部12とを有し、外径及び厚さが前記切断ブレード1の外径及び厚さより大きく、内径が前記切断ブレード1の内径より小さいリング状のブレード材10Aが形成される。
そして、そのブレード材10Aに対してサイズ調整工程、凹溝形成工程、及び仕上げ工程を順次施すことにより、図6に示すような前記切断ブレード10が得られる。
【符号の説明】
【0041】
1,10 切断ブレード
1A,10A ブレード材
3 外周面
4,5 側面
6 凹溝
6a 第1側壁
6b 第2側壁
8 溝先端部
9 溝後端部
X 回転方向
Φ1 外径
Φ2 内径
t 厚さ
d 深さ
w 幅
S 線分
T 起立距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9