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特許7501928二次元アモルファス炭素被膜並びに幹細胞の成長及び分化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】二次元アモルファス炭素被膜並びに幹細胞の成長及び分化方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/08 20060101AFI20240611BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20240611BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240611BHJP
【FI】
A61L31/08
C01B32/00
C12N5/071
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022117400
(22)【出願日】2022-07-22
(62)【分割の表示】P 2021166403の分割
【原出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2022132618
(43)【公開日】2022-09-08
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】62/463,112
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/546,680
(32)【優先日】2017-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バルバロス・オズユルマズ
(72)【発明者】
【氏名】カルロ・メンドーサ・オルフェオ
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリック・アンデルセン
(72)【発明者】
【氏名】ホンチー・チャン
(72)【発明者】
【氏名】チー・タット・トー
(72)【発明者】
【氏名】イニーゴ・マルティン-フェルナンデス
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0111180(US,A1)
【文献】特表2005-523050(JP,A)
【文献】特開2014-004166(JP,A)
【文献】特開2002-143185(JP,A)
【文献】PHYSICAL REVIEW LETTERS,2011年,Vol.106, Article No.105505,pp.1-4
【文献】J. APPL. POLYM. SCI.,2014年,Vol.131,Ariticle No.40427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
C01B 32/00-32/991
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非六角形炭素環及び六角形炭素環からなる原子構造を有する二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜であって、前記二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜が<1の結晶化度(C)を有し、0.2以下のsp3/sp2結合比を有し、かつ、均質であり、ここで、前記結晶化度(C)=六角形炭素環の数:(六角形炭素環の数+非六角形炭素環の数)であり、前記2DAC被膜がインプラント被膜である、二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜。
【請求項2】
前記二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜の前記結晶化度(C)が≦0.8である、請求項1に記載の二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜。
【請求項3】
前記二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜が0.01~1000Ω・cmの抵抗率を有する、請求項1に記載の二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜。
【請求項4】
前記インプラント被膜がインプラントの表面上に配置され、かつ、約60°の水滴接触角を形成する、請求項1に記載の二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜。
【請求項5】
前記インプラント被膜が約200J/m2以上の接着エネルギーでインプラントに付着する、請求項1に記載の二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜。
【請求項6】
前記非六角形炭素環が炭素4員環、炭素5員環、炭素7員環、炭素8員環及び炭素9員環よりなる群から選択される1つの形態である、請求項1に記載の二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜。
【請求項7】
550nm~650nmの波長で98%以上の透過度を有する、請求項1に記載の二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜。
【請求項8】
非六角形炭素環及び六角形炭素環からなる原子構造を有する二次元(2D)アモルファス炭素被膜であって、前記2Dアモルファス炭素被膜が<1の結晶化度(C)を有し、0.2以下のsp3/sp2結合比を有し、かつ、均質であり、ここで、晶化度(C)=六角形炭素環の数:(六角形炭素環の数+非六角形炭素環の数)である、2Dアモルファス炭素被膜。
【請求項9】
物品であって、
基材と、
前記基材の表面上に配置された二次元(2D)アモルファス炭素フィルムであって、前記二次元(2D)アモルファス炭素フィルムが<1の結晶化度(C)を有し0.2以下のsp3/sp2結合比を有し、かつ、均質であり、ここで、前記結晶化度(C)=六角形炭素環の数:(六角形炭素環の数+非六角形炭素環の数)である、2Dアモルファス炭素フィルム
を備える物品。
【請求項10】
前記2Dアモルファス炭素フィルムが配置される前記基材の前記表面と前記2Dアモルファス炭素フィルムとの接着エネルギーが≧200J/m2である、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
請求項9に記載の物品の形成方法であって、次の工程:
前駆体ガスを光分解によって分解して少なくとも1種の分解種を生成し;及び
前記基材の表面上の前記少なくとも1種の分解種から前記2Dアモルファス炭素フィルムを形成させること
を含み、前記前駆体ガスが前駆体として炭化水素を含む方法。
【請求項12】
前記2Dアモルファス炭素フィルムを形成させる前に前記基材を≦500℃の温度に加熱することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記2Dアモルファス炭素フィルムが実質的に前記基材の表面全体にわたる連続フィルムとして形成される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記2Dアモルファス炭素フィルムを前記基材の表面から分離して、自立型の2Dアモルファス炭素フィルムを得ることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記自立型の2Dアモルファス炭素フィルムを別の基材の表面に転写することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記2Dアモルファス炭素フィルムが、550nm~650nmの波長で98%以上の透過度を有する、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して、二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜及び物品、並びに幹細胞の成長及び分化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
従来技術には、生物医学用途などの特定の目的を意図した被膜に好適な用途を開発し提供するための要望が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
第1の広い態様によれば、本発明は、二次元(2D)アモルファス炭素フィルムであって、前記2Dアモルファス炭素が≦0.8の結晶化度(C)を有するものを提供する。
【0004】
第2の広い態様によれば、本発明は、2次元(2D)アモルファス炭素フィルムであって、前記2Dアモルファス炭素フィルムが<1の結晶化度(C)を有し、sp3/sp2結合比が0.2以下であるものを提供する。
【0005】
第3の広い態様によれば、本発明は、基材と、前記基材の表面上に配置された二次元(2D)アモルファス炭素フィルムとを備える物品であって、前記2Dアモルファス炭素フィルムが≦0.8の結晶化度(C)を有するものを提供する。
【0006】
第4の広い態様によれば、本発明は、二次元(2D)アモルファス炭素フィルムの形成方法であって、次の工程:前駆体ガスを分解して少なくとも1種の分解種を生成し;及び基材の表面上の分解種から2Dアモルファス炭素フィルムを形成させることを含み、前記前駆体ガスが炭素含有ガスを含む方法を提供する。
【0007】
第5の広い態様によれば、本発明は、非六角形の炭素環及び六角形の炭素環からなる原子構造を有する二次元アモルファス炭素(2DAC)被膜であって、非六角形の環に対する六角形の環の比が1.0未満であるものを提供する。
【0008】
第6の広い態様によれば、本発明は、幹細胞を分化細胞に分化させる方法であって、基材の表面に二次元アモルファス炭素(2DAC)を被覆し;2DACが被覆された前記基材の前記表面上にシード層を配置し;及び2DACが被覆された前記基材の前記表面に幹細胞培地中の成長因子を吸着させることを含む方法を提供する。
【0009】
本願に含まれかつ本明細書の一部を構成する添付図面は、本発明の例示的な実施形態を示し、上記の一般的な説明及び以下の詳細な説明と共に、本発明の特徴を説明するのに役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る、連続性及び秩序性を示すランダムな六角形環を示す原子薄膜(グラフェンではない)の本願所定の複合材料を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る、六角形及び非六角形を示すアモルファスフィルムのTEM画像を示す。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る、原子間力顕微鏡(AFM)による窒化ホウ素上の本願所定の炭素フィルムの測定厚みを示す。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る、SiO2上のアモルファスフィルム及びナノ結晶グラフェンのラマンスペクトルを示す。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る、原子的に薄いアモルファス炭素(左)及びグラフェン(右)のTEM回折を示す。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る、本願所定の炭素フィルムの透過率を示す。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る、2Dアモルファスフィルムの機械的特性及び懸垂炭素フィルムの実証を示す。
図8図8は、本発明の一実施形態に係る、2Dアモルファス炭素の電気特性を示す。
図9図9は、本発明の一実施形態に係る、異なる基材上で成長した複合材料を示す。
図10図10は、本発明の一実施形態に係る、Cu上における2Dアモルファス炭素のX線光電子分光法(XPS)を示す。
図11図11は、本発明の一実施形態に係る、2DACについての水滴接触角及びXPSを示す。
図12図12は、本発明の一実施形態に係る、非被覆ガラスと2DAC被覆ガラスとのナノトポグラフィ差、及び2DAC被膜のラマンスペクトルを示す。
図13図13は、本発明の一実施形態に係る、2DAC被覆基材上の幹細胞における成長因子の取り込み増加メカニズムを示す。
図14図14は、本発明の一実施形態に係る、2DAC被覆基材及び非被覆基材上でのタンパク質取り込みの比較を示す。
図15図15は、本発明の一実施形態に係る、2DAC被覆ステントと被覆ステント基材との血液凝固防止の比較を示す。
図16図16は、本発明の一実施形態に係る、骨組織とインプラントの統合の比較を示す。2DAC被覆インプラントは、非被覆インプラントと比較して、宿主組織との統合がさらに良好になる。
図17図17は、本発明の一実施形態に係る、ベアガラス上の細胞と比較した、2DAC被覆ガラス上のLPS(リポ多糖)によってストレスを与えられた細胞における一酸化窒素(NO)及びTNFα産生についての比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
定義
用語の定義が一般的に使用される用語の意味から逸脱する場合、出願人は、特に示さない限り、以下に与える定義を使用するものとする。
【0012】
特に定義しない限り、ここで使用される全ての技術用語及び科学用語は、特許請求された主題が属する一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。本明細書において用語に複数の定義がある場合には、この節の定義が優先される。本明細書で言及される全ての特許、特許出願、刊行物並びに公開されたヌクレオチド及びアミノ酸配列(例えば、GenBankその他のデータベースで利用可能な配列)は、参照により援用される。URLその他の識別子やアドレスを参照する場合には、このような識別子を変更することができ、かつ、インターネット上の特定の情報を変更することができるが、インターネットを検索することで均等の情報を見出すことができる。これらに対する参照は、このような情報の利用可能性及び公衆への頒布を証明するものである。
【0013】
上記の一般的な説明及び以下の詳細な説明は、単なる例示及び説明であり、特許請求される主題を限定するものではないことを理解されたい。本願では、特に明記しない限り、単数形の使用には複数形も含まれる。明細書及び特許請求の範囲内で使用するときに、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数形を含むことに留意しなければならない。本願において、「又は」の使用は、特に明記しない限り、「及び/又は」を意味する。さらに、用語「含む(including)」並びに他の形態、例えば「含む(include)」、「含む(includes)」、「含まれる(included)」の使用は限定的ではない。
【0014】
本発明の目的上、用語「備える」、用語「有する」、用語「含む」、及びこれらの単語の変形は制限のないものであり、列挙された要素以外の追加要素が存在してよいことを意味する。
【0015】
本発明の目的上、「頂部」、「底部」、「上部」、「下部」、「上」、「下」、「左」、「右」、「水平」、「垂直」、「上方向」、「下方向」などの方向に関する用語は、単に、本発明の様々な実施形態を説明する際に便宜上使用されるにすぎない。本発明の実施形態は、様々な方法で方向付けることができる。例えば、図面に示されている図や装置をひっくり返したり、任意の方向に90度回転したり、逆にしたりすることができる。
【0016】
本発明の目的上、値又は特性は、値が、当該値、特性その他の因子を使用して数学的計算又は論理決定を実行することによって導出される場合には、特定の値、特性、条件の充足その他の因子に基づく。
【0017】
本発明の目的上、説明をさらに簡潔にするために、本明細書で与えられる定量的表現のいくつかは用語「約」では修飾されていないことに留意されたい。用語「約」が明示的に使用されるかどうかにかかわらず、本明細書で示される全ての量は、所定の実際値を指すことを意味し、また、当該所定値の実験条件及び/又は測定条件による近似値を含めて、当業者が合理的に推測するであろう当該所定値の近似値を指すことも意味する。
【0018】
本発明の目的上、用語「接着強度」とは、開示された2DACフィルムとその成長基材との間の結合の強度をいう。これは、これら2つの材料間の接着エネルギーに直接依存し、J/m2で測定できる。
【0019】
本発明の目的上、用語「アモルファス」とは、明確な形態を欠く又は特定の形状を持たない又は無形であることをいう。非結晶性固体として、アモルファスとは、結晶に特徴的な長距離秩序を欠く固体をいう。
【0020】
本発明の目的上、用語「アモルファス炭素」とは、長距離結晶構造を持たない炭素をいう。
【0021】
本発明の目的上、用語「原子的に薄いアモルファス炭素」とは、平面において炭素原子の約1~5層からなるアモルファス炭素であって、主として炭素原子間にsp2結合があり、それによって層を形成するものをいう。なお、層は積み重ねられていてよく、この層の積み重ねは本発明の範囲内であるとみなされる。
【0022】
本発明の目的上、用語「炭素被膜」とは、基材上に堆積された炭素の層をいう。
【0023】
本発明の目的上、用語「接触角測定」とは、表面の疎水性を測定するための技術をいう。水滴の例示実施形態では、この角度は、表面から水-空気界面まで測定できる。この角度が小さいことは、その表面が水を引き付けやすくなることを意味し、この角度が大きいことは表面が水をはじくことを示唆する。このことは、所定の細胞には、成長のために親水性(小さな接触角)表面が好ましいため、本発明において重要である。
【0024】
本発明の目的上、用語「ダイヤモンド様炭素」とは、主として炭素原子間のsp3結合からなるアモルファス炭素をいう。
【0025】
本発明の目的上、用語「分化幹細胞」とは、非分化幹細胞を、機能的特徴を有する特定のタイプの細胞に指向するプロセスをいう。開示された実施形態では、化学的要因と基質誘発要因との組み合わせにより分化が生じる。
【0026】
本発明の目的上、用語「D/G比」とは、ラマンスペクトルにおけるD及びGピークの強度の比をいう。
【0027】
本発明の目的上、用語「グラフェン」とは、六方格子に配置された炭素原子の単一層からなる炭素の同素体(形態)をいう。これは、グラファイト、木炭、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの他の多くの炭素同素体の基本構造要素である。このものは、限りなく大きな芳香族分子、すなわち平坦な多環芳香族炭化水素のファミリーの究極的な場合であると考えることができる。グラフェンは、その強力な材料特性、熱及び電気を効率的に伝導する能力といった、通常にはない多数の特性があり、かつ、ほぼ透明である。
【0028】
本発明の目的上、用語「インプラント被膜」とは、生物医学的インプラントの表面の全体又は一部を覆う追加の層をいう。また、インプラントとは、心臓血管ステント又は整形外科インプラントをいう場合もあるが、これらの例示的なインプラントに限定されない。
【0029】
本発明の目的上、用語「有機発光ダイオード」(OLED)は、発光エレクトロルミネセント層が電流に応答して光を放出する有機化合物のフィルムである発光ダイオード(LED)である。この有機半導体の層は、2つの電極の間にある;典型的には、これらの電極の少なくとも1つは透明である。OLEDは、例えば、テレビ画面、コンピューターモニター、ポータブルシステム、例えば、携帯電話、ハンドヘルドゲームコンソール、携帯情報端末(PDA)及びハンドヘルドパーソナルコンピューターなどのデバイスにおいてデジタルディスプレイを作製するために使用される。
【0030】
本発明の目的上、用語「光分解」とは、分子の化学反応を誘発して、それよりも単純な粒子に分解するための1以上の光子の使用をいう。
【0031】
本発明の目的上、用語「プロトン輸送」とは、電気絶縁膜にわたるプロトンの輸送をいう。
【0032】
本発明の目的上、用語「ラマン分光法」とは、系内において振動モード、回転モード及び他の低周波モードを観察するために使用される分光技術をいう。ラマン分光法は、分子を同定できる構造的フィンガープリントを提供するために化学分野において一般的に使用される。これは、通常、可視域、近赤外域又は近紫外域のレーザーからの単色光の非弾性散乱又はラマン散乱に依拠する。レーザー光は、系内における分子振動、フォノンその他の励起と相互作用し、その結果、レーザー光子のエネルギーが上下にシフトする。エネルギーのシフトにより、当該系内の振動モードに関する情報が得られる。
【0033】
本発明の目的上、用語「ラマンスペクトル」とは、分子の回転振動状態に依存する周波数シフトの関数としての散乱強度の現象をいう。分子がラマン効果を示すためには、回転振動状態に対応する振動座標に関して、電気双極子-電気双極子の分極率に変化がなければならない。ラマン散乱の強度は、この分極率の変化に比例する。
【0034】
本発明の目的上、用語「sp3/sp2比」とは、2DACに見出される炭素結合のタイプをいう。sp2結合により、より高い成長因子結合が可能になる。
【0035】
本発明の目的上、用語「基材」とは、開示された二次元(2D)アモルファス炭素フィルムの構造的支持体をいう。選択された用途では、開示された実施形態は、例えば2DACフィルムを機械的に支持するための基材を与えるが、そうでなければ、2DACフィルムは損傷を受けることなくその機能を実行するには薄すぎる可能性がある。基材は、基材の表面上にある開示された2DAC又は2DACフィルムの成長のために使用される材料とみなすことができる。
【0036】
本発明の目的上、用語「血栓症」とは、循環系を通る血流を妨げる、血管内の血栓の形成をいう。
【0037】
本発明の目的上、用語「二次元(2D)アモルファス炭素フィルム」とは、例えば、低融解温度を有するものを含めた基材、非触媒性の基材、また金属、ガラス及び酸化物の表面を含めた基材上で直接成長できる原子的に薄いアモルファス炭素から最も薄いと考えられるアモルファス炭素(例えば、単一原子の厚み)をいう。他の基材上での成長は、開示された2DACフィルムが成長する低温のため可能になる。2DACフィルムの開示された実施形態は、本明細書に開示されるように、自立型フィルムとして又は基材上の被膜として提示できる。本発明の2DACフィルムはアモルファスであるが、炭素原子は平面において複数の隣接する炭素原子に結合して、その成長基材から脱離した場合であっても非常に安定な強いネットワークを形成する。また、炭素材料は、金属表面によく接着する特性も有するため、基材全体を完全に覆うことができる。また、本発明の2DAC薄膜の固有の薄さ及び高い強度は、破壊することなく金属基材の曲げに耐えることを可能にする。
【0038】
本発明の目的上、用語「二次元(2D)アモルファス炭素被膜」とは、基材上に直接成長及び/又は堆積された2DACフィルムをいう。また、開示された実施形態は、2DAC被膜が基材上に又は基材から転写される場合も包含することができる。
【0039】
説明
本発明は、様々な改変及び別の形態が可能であるが、その特定の実施形態は、図面に例示として示されており、かつ、以下で詳細に説明する。しかし、本発明を開示された特定の形態に限定することを意図するものではなく、逆に、本発明は、本発明の精神及び範囲内にある全ての改変物、均等物及び代替物を包含するものとする。
【0040】
開示された実施形態は、基材(金属、ガラス、酸化物)の頂部上にある原子的に薄い(単層)アモルファス炭素から構成される新規複合材料に関する。アモルファス炭素は、基材に非常によく付着し、その上で成長する。したがって、アモルファス炭素材料は独自の特性を与える。例えば、本発明のアモルファス炭素材料は、特定の目的のために被覆を必要とする基材を利用する用途に好適である。例示的な用途としては、生物医学的用途が挙げられるが、これに限定されない。
【0041】
本発明は、二次元(2D)アモルファス炭素(2DAC)と呼ばれる炭素の新規形態を提供する。開示された実施形態は、例えば、低い融解温度を有する金属基材、非触媒性の基材及びガラスや酸化物の表面を含めた基材上で直接成長することができる2DACのなかで可能な、最も薄いアモルファス炭素(例えば、単一原子の厚み)を提供する。選択された一実施形態では、単一の原子の厚さを有するものが好ましい材料であり、2DACについてさらに低い厚み制限を確立することができる。開示された実施形態は、数原子の厚みまでの範囲の厚み(例えば、10原子の厚み又は約3+nm)を含むことができる。本発明の2DACは、2次元(2D)アモルファス炭素フィルムとして提供できる。ただし、本発明の2DACの厚みが増すと、ここに開示されるような存在する可能性のある他のアモルファス炭素材料の厚みとは構造的に異なる(例えば、sp3対sp2比)ものとなることに留意することが重要である。
【0042】
他の基材上での成長は、開示された2DACフィルムが成長する低温のため可能になる。本発明の2DACフィルムはアモルファスであるが、炭素原子は平面において複数の隣接する炭素原子と結合して、その成長基材から脱離する場合(自立型)であっても強いネットワークを形成する。したがって、各炭素原子は複数の炭素原子に結合され、それによって高密度の結合(連結)が存在することになる。また、本発明の2DACは、金属表面に対して十分に接着する特性を有しており、それにより完全な被覆が確保される。本発明の2DAC薄膜の固有の薄さや高強度などの材料特性(例えば以下に開示)により、破損することなく金属基材の曲げに耐えることができる。
【0043】
開示された実施形態によれば、アモルファス炭素は、長距離構造秩序のない炭素の形態として定義できる。このものはいくつかの形で存在し、その形態に応じて、ダイヤモンド様炭素、ガラス状炭素、煤などの様々な名称で呼ばれる場合が多い。アモルファス炭素は、例えば、特に化学蒸着、スパッタ堆積及び陰極アーク堆積を含めたいくつかの技術によって生成できる。従来の用途では、アモルファス炭素は常に3次元(又はバルク)で存在していた。炭素の2次元等価形態はグラフェンである。ただし、グラフェンは結晶材料(単結晶又は多結晶)としてのみ存在する。グラフェンを合成するには高温が必要であり、ほとんどが銅上で成長する。本発明によれば、開示された実施形態は、はるかに低い温度で任意の基材上で成長するアモルファス炭素の連続的な二次元形態を創り出すことに成功した。本発明の2DACフィルムと基材との複合材料は、バルクアモルファス炭素とは大きく異なり、さらには単層グラフェンとも異なる特性を有する。
【0044】
図1は、開示された複合材料の概略図100を、基材の頂部表面上の炭素材料のTEM画像と共に示す。開示された物質の組成は、基材104(例えば、金属又はガラス、酸化物)上にある原子的に薄いアモルファス炭素102の新規複合材料である。
【0045】
本発明の複合材料とは、任意の基材の頂部上にある原子的に薄い2Dアモルファス炭素(2DAC)をいうことができる。開示された実施形態によれば、本発明の基材の頂部上にある開示された2DACフィルムは、その原子構造及びその特性に関して定義できる。
【0046】
原子構造についてのより詳細な検討及び定義を次のように提示することができる:図2は、本発明の一実施形態に係る、六角形及び非六角形を示すアモルファスフィルムのTEM画像を示す。図2の左上の画像は、六角形及び非六角形を含む本発明の2DACフィルムの高解像度TEM画像を示す。左上の画像のTEM画像の左下の図は、見やすくするために与えられている。六角形は緑色に着色され、非六角形は赤色又は青色に着色されている。右上のディスプレイは、明確な回折パターンのない環構造を示すFFTである。
【0047】
図2のTEM画像を参照すると、2DACフィルムは、その構造内に六角形と非六角形との環の混合物を有する単一原子の厚さの炭素フィルムである。環は互いに完全に結合しており、スケールが少なくともミクロン単位の大面積フィルムにおいて多角形のネットワークを形成する。非六角形に対する六角形の比率は、結晶化度(又は非晶質度)Cの尺度である。非六角形は、4、5、7、8、9員環の形態である。2Dアモルファスフィルムは、約8.0nm2の最小撮像面積で撮影して、C≦0.8を有する。図2のC値2は約0.65である。開示された実施形態は、0.5~0.8のC値範囲をサポートできる。これは、純粋な六角形ネットワークについてC=1であるグラフェンとは異なる。非六角形は、六角形のマトリクス内にランダムに配置でき、又は六角形のドメインの境界に沿って形成できる。ドメインは5nm以下でなければならない。画像の高速フーリエ変換(FFT)は、回折スポットを示してはならない(図2、右上)。2DACは基材から脱離して自立型になることができ、又は他の基材に転写することができる。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の2DACは、自立型2DACフィルムを得るために基材の表面から分離できる。図3は、窒化ホウ素(BN)上にある分離2DACフィルムの測定された厚み(即ち、高さ)をAFMによって示す。本発明に基づいて、次の特性が当てはまる:図3は、窒化ホウ素(BN)に転写された本発明の2DACフィルムのAFMを示す。本発明の2DACの厚みは約6Åであり、これは、1原子のみの厚みのグラフェンに匹敵する(BN上で測定したときに、厚みは3.3Å~10Åの範囲にある)。この厚みは、図1のTEM画像でも裏付けられる。さらに、フィルムは均質であることが分かる。図4は、SiO2上のアモルファスフィルム及び非結晶グラフェンのラマンスペクトル400を示す。分離フィルムのラマン分光法では、2Dピーク(~2700cm-1)は示されなかったが、その代わりに幅広いG(~1600cm-1)及びDピーク(~1350cm-1)が示された。D及びGピークの広がりは、以前に報告されたように1、通常、ナノ結晶グラフェンからアモルファスフィルムへの遷移を示す。DピークとGピークとの強度比から、ドメインサイズはおよそ1~5nmであると推定される1。ラマン分光法は、図2のTEM画像を大面積で表すための特性評価ツールとして機能する。
【0048】
図5は、本発明の一実施形態に係る、原子的に薄いアモルファス炭素(左)とグラフェン(右)とのTEM回折の比較500を与える。開示された分離フィルムの非晶質性に関するさらなる証拠はTEM回折により裏付けられており、結晶性を示す回折スポットが明確に見られるグラフェンとは対照的に、明確な回折スポットは検出されない。図7(上)の回折リングは、5nm未満のドメインサイズを示す。アモルファスフィルムの回折データは、図2のFFT画像と一致する。この場合、2DACフィルムは自立型である。
【0049】
図6を参照すると、グラフ600は、本発明の一実施形態に係る炭素フィルムの透明度を示す。光学的透明度は、550nmの光波長では~98%であり、波長の増加とともに透明度が増加する。したがって、選択された実施形態は、550nm以上の波長で98%以上の光透過度を与える。この場合も、単層でのグラフェンの透明度は可視波長(400nm~700nm)全体で最大97.7%であり、層の数が増えるにつれて減少するため、本発明の炭素フィルムはグラフェンとは異なる。特に、2DACフィルムの透明度は、グラフェンに見られるような短波長(<400nm)での急速な低下がない。
【0050】
懸垂フィルムの弾性率Eは200GPaを超え、バルクガラス状炭素よりも高い(E=60GPa)2。機械的破損前の極限応力は10%であり、報告された他のアモルファス炭素の極限応力よりもはるかに高い。図7は、原子間力顕微鏡(AFM)(例えば、Brukerモデル番号:MPP-11120)チップによる懸垂炭素フィルム及び極限応力の作用後の懸垂炭素フィルムの非圧入を示す。開示された2DACフィルムのアモルファス特性は、図7(下)の懸垂フィルムの崩壊を防ぐ。その代わりに、フィルムは極限応力レベルに対して柔軟な応答を示す。
【0051】
本発明の2DAC薄膜は、電気抵抗率が成長条件によって調整されるCの値に応じて0.01~1000Ω-cmの範囲と、高抵抗性である。図8は、2Dアモルファス炭素の電気的特性の概略図800であり、2DアモルファスフィルムのI-V曲線802及び特定のC値について測定された抵抗値のヒストグラム804を示す。比抵抗値を生成するために測定技術/方法が使用される。ヒストグラム804の各抵抗率データポイントを取得するために、I-V曲線802のデータからの概算内で比率が使用される。したがって、図8左の2Dアモルファス炭素の長さ:幅の比は1:100である。これに対して、グラフェンの抵抗値は約10-6Ω-cmであるが、バルクガラス状炭素(100%C-Csp2)の値は0.01~0.001Ω-cmである。
【0052】
>6であるn員環を含む単層フィルムは、気体、イオン、液体又は7、8、9員環を通過するのに十分なサイズの他の種を選択的に通過させることができる膜である。特に、本発明の2DACフィルムは、室温で結晶性単層窒化ホウ素よりも10倍の効率でプロトンを通過できる3。本発明の2DACフィルムについて、膜を横切るプロトンの流れに対する抵抗率は、室温で1~10Ω-cm2である。
【0053】
図9は、本発明の一実施形態に係る、異なる基材上で成長した複合材料を示す。原子的に薄いアモルファス炭素が被覆されたチタン、ガラス、銅の写真を左に示す。右上には、被覆領域からのラマンスペクトルが示されており、基材にかかわらず同様に応答することを示す。最後に、右下には、チタンの頂部にある2DACフィルムのG/Dピーク比のラマンマップが示されている。本発明の複合材料(すなわち、本発明の2DAC及び基材)は、任意の金属(触媒又は非触媒)から作製でき、又はガラスや酸化物上に作製できる。したがって、開示された実施形態は、2DACが所望の基材材料のいずれかの上で直接成長できることを提供する。これは、銅などの触媒基材上でしか成長できず、他の全ての基材への転移が必要となるグラフェンとは異なる。したがって、厚みが1nmよりも薄く、依然として連続的であるとみなすことのできないアモルファス又はダイヤモンド状炭素の堆積方法と比較して、本発明の複合材料は、ホスト基材に強く結合する2次元アモルファス炭素の原子的に薄い(<1nm)連続層を含む。
【0054】
一般に、基材上のフィルムの接着力が低いと、そのフィルムの領域が基材から剥離する可能性があるため、基材の保護が不十分となる又はほとんどなくなる。したがって、本発明の実施形態は、基材の適用表面全体にわたって均一かつ強力な接着性を付与する改善されたフィルムを提供する。したがって、本発明の2DACフィルムは、好ましくは実質的に基材表面全体又は少なくとも適用表面にわたって連続フィルムとして形成される。例えば、容易に剥離され得る(例えば、接着力が10~100J/m2である)Cu中におけるグラフェンなどの従来の設計とは異なり、例えばCu上に配置された本発明の原子的に薄い2DACフィルムは、接着エネルギー>200J/m2の基材に非常によく接着する4。この例は、本発明の2DACフィルムとグラフェンとを区別するさらなる証拠を与える(Cu基材の例示的な実施形態が説明されているが、本発明の2DACを任意の基材に適用する実施形態を本発明の実施形態に従って適用できる。)。さらに、接着エネルギーは、例えばステンレス鋼、チタン、ガラス、ニッケル及びアルミニウム基材を含めて、本発明の2DACフィルムが成長する全ての基材材料において明らかである。なお、上記基材は例示であり、本発明の教示は、所望の任意の基材に適用できる。
【0055】
一般に、従来の材料及びプロセスによって任意の2D材料を材料に転写しようとすると、従来、例えば転写された材料に欠陥や亀裂が生じ、基材の被覆率も低下していた。これは、少なくとも部分的には、転写プロセスが一般に多くの機械的工程を採用し、従来のフィルム用途において亀裂や欠陥を誘発する化学物質を使用する可能性があるためである。しかしながら、本発明の2DACフィルムは、例えば成長基材から目的の基材に転写させる必要はない。本発明の2DACフィルムの接着特性の改善に加えて、本発明の2DACフィルムの強化された特性は、基材全体にわたって/基材上に直接一貫した完全な被覆を与え、かつ、これを確保する。少なくとも、本発明の2DACフィルムを転写させる必要がないため、これによって一貫性のある完全な被覆が得られる。
【0056】
このような信頼できる被覆を基材(カーボンなど)に対する接着のための優れた機械的特性と共に提供するように設計された本発明の2DACフィルムは、2DACフィルム及び複合材料の追加の物理的特性/要件を必要とする用途に非常に極めて好適でありかつ信頼できるものである。このような物理的特性は、本発明の2DACフィルム及び/又は複合材料が曲がる及び/又は伸長する能力を包含し得る。基材に対する本発明2DACの接着特性及び能力は、実際にこの通りであることを保証する。転写フィルムのように、基材に対する接着が不均一な場合には、フィルムの亀裂が接着不良の領域で形成され、不具合が起こりやすい原因になる。
【0057】
したがって、本発明の実施形態は、成長基材104全体を覆う頂部アモルファス炭素フィルム102を提供し(図9のラマンマップ)、これは、例えば、炭素被膜を必要とする用途に非常に有用になる。頂部アモルファス炭素フィルム102は、欠陥のない拡散バリアとしても機能することによって、下にある基材の酸化及び腐食を防ぐ。電気絶縁特性のため、本発明のアモルファス炭素フィルム102は、基材104の電解腐食を防ぐ。本発明の2DACの低い導電率は、最近の報告17で観察されたように、細胞の付着及び増殖に有益である。導電性基材上の細胞は、接着点を生じさせることなく静電相互作用を介して表面に接着する。接着点は細胞の増殖及び成長に重要であり、接着点の発達と細胞増殖には低導電率が好ましい。低導電率は、ラマン分光法のD/Gピーク強度及びsp3/sp2比を通して観察される、本発明の2DACのアモルファス性の結果である。
【0058】
これに対し、グラフェンは長期腐食を悪化させることが知られている5。グラフェンの転写により、表面に沿って亀裂や欠陥を生じさせることなく平坦な連続膜を生成することはほぼ不可能になる。本発明のアモルファス炭素フィルム102の材質は、基材104との複合材料であり、これにより、転写の必要性が排除されると共に、フィルム102の亀裂のリスクが排除される。
【0059】
本発明の2DACフィルムは、ガラス状炭素に類似したsp2結合炭素から構成される。ただし、その厚みは約1原子層厚(6Å)であり、報告された従来のアモルファス炭素構造よりも薄い。図10は、Cu上の2Dアモルファス炭素のX線光電子分光法(XPS)測定を示し、その際、ピーク位置はsp2又はsp3結合タイプを示すと共に、ピーク強度は各タイプの結合の割合を示す。C-Csp2とsp3結合の混合濃度も厚みを犠牲にすることなく可能であるが、C-Csp3の最大含有量は20%に設定される。本発明の2DACの薄い構造及び強力な接着力は、剥離の可能性が明らかな厚いフィルム6とは異なり、常に下にある基材を本質的に保護する。
【0060】
本発明の実施形態によれば、炭化水素を前駆体(CH4、C22など)として使用するレーザーベースの成長プロセスによって本発明の複合材料フィルムを生成する。水素ガス(H2)及びアルゴンガス(Ar)も前駆体と混合することができる。このプロセスでは、レーザーには2つの役割がある:(1)光分解と呼ばれるプロセスにおいて前駆体ガスを分解するエネルギー源;(2)局所的な熱源としての役割。上記の役割の一方又は両方によって本発明の2DACフィルムが製造されると仮定すると、最初のケースでは、基材104を通して室温にあると言うことができる。2番目のケースでは、レーザーは基材104を500℃まで加熱できる。典型的には、パルスエキシマUVレーザー(例えば193、248、308nm)を、使用する基材に応じて様々な成長時間で約50~1000mJ/cm2のフルエンスで基材上に又は基材に対して平行に向けることができる。本発明の複合材料を製造するための他の可能な組み合わせは、レーザー、プラズマ、及び/又は基材ヒーターの任意の組み合わせを利用することを含むことができる。ヒーターを使用して、基材104を500℃まで加熱することができる。プラズマ出力を1~100Wの範囲で使用することができる。炭化水素を前駆体として使用する典型的な組み合わせは次のとおりである:(i)レーザーのみ;(ii)レーザー+低出力プラズマ(5W);(iii)レーザー+低出力プラズマ(5W)+ヒーター(300℃~500℃);(iv)低電力プラズマ(5W)+500℃ヒーター;(v)高出力プラズマ(100W)のみ。
【0061】
本発明の実施形態によれば、本発明の2DAC及び2DAC複合材料の全体的な成長/堆積はチャンバー内で実行できる。加熱、プラズマ、ガス流量、及び圧力制御用のモジュールは、全て、制御された成長環境のためにチャンバー内で設定及び確立できる。一実施形態によれば、チャンバーのプロセス圧力は、10~1E-4mbarの範囲で確立できる。
【実施例
【0062】
実施例
例1
実施例の主題
本発明の2DACのプロセスパラメータとしては、次のものを挙げることができる:(i)プロセスガス:CH4(ii)チャンバー圧力:2.0E-2mbar;(iii)レーザーフルエンス:70mJ/cm2;(iv)成長時間:1分;(v)プラズマ出力:5W;(vi)基材:銅箔。
【0063】
例1の本発明の2DACフィルムの製造方法は、成長プロセス用の成長チャンバー内でメタン(CH4)を使用する。成長中におけるチャンバー内のガス圧は、全体を通して2E-2mbarに制御される。このガスは、5Wの電力で動作するプラズマ発生器の存在下にある。成長は、248nmエキシマレーザーが銅箔基材の表面にパルス周波数50Hzでフルエンス70mJ/cm2で照射されたときに始まる。レーザー露光時間(成長時間)は、基材上に連続的な2DAC被膜を得るために1分に設定される。この成長では、ステージヒーターを使用しない。本明細書に開示される複数のパラメーターは本発明の2DACの特性を制御及び/又は変更するために調節でき、前駆体としての炭化水素、前駆体混合物、光分解プロセス及び装置の調節、温度調整、基材温度調節、C値の変更、原子層数の変更、sp2対sp3比の変更、及び基材に対する接着力の変更が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明の実施形態の利点は、多種多様な用途で満たされ得る。所定の用途では、生物学的インプラントを使用して、例えば冠状動脈性心臓病、身体的外傷、虫歯などのいくつかの疾患を治療する。機能性生物学的インプラントの重要な部分は、周囲の組織との適合性である。インプラントの一般的な問題としては、宿主組織による拒絶反応、炎症、血栓症などを挙げることができる。金属インプラントを炭素皮膜で覆うと、このようなデバイスが生体適合性になり、それによって上記合併症の影響が軽減されることが示されている。従来技術の被膜を提供しようとすると、被膜の剥離及び/又は被膜自体の機械的破損を含めた様々な理由のため長期劣化が生じていた。これは、心臓ステントの血栓形成7などのいくつかの医学的問題のみならず、ステント及び骨インプラントの腐食及び機械的破損8につながる可能性がある。本発明に記載される複合材料は、金属、ガラス、セラミック及び/又はプラスチック104と原子的に薄い炭素フィルム102とから構成されることにより、基材材料を生体適合性にし、いくつかの生物医学用途に備えることができる。これらの生物医学的用途としては、ステント、ネジ、心臓弁、歯科インプラントなどの用途が挙げられる。従来技術の被膜の厚みは、ステントの曲げ中などの特定の生物医学的用途において応力の不一致を引き起こす。上記応力の不一致は、例えば生物医学装置の被膜に亀裂を生じさせ、被膜表面の被覆を不完全にする可能性がある。
【0065】
本発明の炭素フィルムは最小の厚みで構成されることにより、基材の金属表面が用途の適用寿命の間に一貫して完全に覆われることが確保される。例示的な一実施形態では、本発明の2DACの厚みは、約1原子層の厚みに設計することができる。本発明の炭素フィルム102は、例えば、ステンレス鋼及びチタン材料などの生物医学用途で既に使用されているものを含めたいくつかの基材104上で直接成長させることができる。成長は、例えばグラフェン合成よりもはるかに低い温度で行われるため、本発明の2DACは、ガラスやハードディスクのような高温に耐えられない他の基材104に直接成長させることができる9。本発明の2DACフィルム102は超強力であり、基材104に強く結合されており、曲げや伸張などの変形を必要とする場合がある用途に好適である。本発明の2DACフィルムの機械的特性が強力なのは、粒界がないためである。本発明の炭素フィルム102の絶縁特性は、腐食を促進するグラフェンとは異なり、基材104の電解腐食を防止する。TEM画像に見られるように、炭素フィルムの7、8及び9員環は、気体又はプロトン輸送の効率的な膜として有用である3
【0066】
炭素フィルム102及び基材104の本発明の実施形態は他の用途に使用できる。他の用途としては、生物医学技術、例えば、生体適合性のために炭素被膜を必要とする金属を使用することが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な実施形態としては、ステント、歯科用インプラント(例えば、歯)、整形外科用インプラントなどとして利用されることが挙げられる。インプラントの他に、本発明の実施形態は、幹細胞及び筋肉成長のための培養基質として使用できる。さらに別の実施形態では、本発明の炭素フィルム及び基材材料は、高密度ハードディスク用の極薄防食被膜として有用な場合がある。別の用途において、本発明の炭素フィルム及び基材材料は、効率的なガス膜として、又はプロトン輸送のために利用できる。本発明の被膜の制限は、用途自体の個別の性質、すなわち、金属が炭素被覆されているかどうかである。
【0067】
本発明の選択実施形態によれば、本発明の2DACは、例えば基材が成長には適していないため、本発明の2DACを転写する必要がある場合には、自立型のケースとして生成できる。しかしながら、本発明の利点は、本発明の2DACが基材上で直接成長することを提供する。例えば、転写プロセスについてグラフェンと比較した本発明の2DACフィルムの利点は、本発明の2DACフィルムが(グラフェンとは異なり)転写のための犠牲支持層を必要としないことである。グラフェンでは、転写中の亀裂や欠陥を防ぐためにフィルム層が必要であり、その後フィルム層を除去する必要がある。除去したとしても、犠牲層由来の完全には除去できない残留物が残る。本発明の2DACでは、犠牲層なしに、欠陥を誘発せず、残留物を処理したり、構造を損なったりすることなく転写を行うことができる。
【0068】
競合する方法としては、生体適合性が向上し、局所領域の治療に役立つことができる薬剤溶出性重合体被膜が挙げられる。例えば、本発明の2DACによってこれらの重合体の被覆量が増加すると、増加量の薬剤を保持することができるため、炭素被膜を上回る利点がある。
【0069】
上記のように、生物医学用途における本発明の炭素フィルム及び基材材料の重要な用途としては、幹細胞及び筋肉成長における用途が挙げられる。組織工学において幹細胞を使用することは、これらの細胞の治療及び再生の可能性のため、近年大きな関心を集めている。この可能性は、未分化状態での長期にわたる自己再生及び細胞の多能性、すなわち、いくつかの異なる系統に分化する能力の組み合わせにより生じる。幹細胞は、体内の全ての体細胞に分化できる。そのため、患者の骨髄から採取した細胞を使用して、損傷した組織及び臓器を治療及び再生することができる。
【0070】
幹細胞を未分化状態で成長させ維持することは、現在の最先端の方法では困難でかつ遅い手順である。さらに、現在の技術は、マウス胚性線維芽細胞層又はマウス腫瘍細胞(マトリゲル)によって分泌されたゼラチン状タンパク質混合物を利用し、それにより異種タンパク質を導入している。したがって、この手法は、異種汚染のリスクがあるため、治療努力には適していない。
【0071】
支持細胞上での幹細胞の成長は複雑な手順であり、臨床使用には不向きである。面倒な準備手順、高コスト、結果におけるバッチごとのばらつきが原因で複雑さになる。幹細胞は、支持層からの異種間汚染又はウイルス汚染の可能性があるため、臨床使用には適していない。
【0072】
特定の系統への関与は、細胞外マトリックス(ECM)の機械的剛性、化学成長因子、隣接細胞などの局所環境から生じるいくつかの因子に依存する10、11。幹細胞の結末を制御することは、臨床現場で幹細胞を使用するために到達する重要な目標である。生化学的インデューサーは細胞の系統を指向する経路を活性化できることが示されているが12、最近の研究では、細胞の機械的環境を単に変更し、それによって細胞のための合図を活性化して特定の系統にコミットすることが有望であることが示されている13、14、15
【0073】
さらに、幹細胞の分化及び成長は、生物活性基質の不足により阻害される場合が多い。
【0074】
最後に、BMP-2などの化学因子は、細胞培養中に3日ごとに投与する必要があるため、労働集約的であり、それによって材料費、細胞との相互作用、及び人件費が増加する。
【0075】
開示される発明の例示的な実施形態は、二次元アモルファス炭素(2DAC)生物活性基材被膜、並びに幹細胞を成長及び分化させる方法を提供する。
【0076】
開示される発明の例示的な実施形態は、非六角形炭素環及び六角形炭素環からなる原子構造を有する2DAC被膜を提供し、ここで、六角形環の非六角形環に対する比は0.8以下である。
【0077】
開示される発明の例示的な実施形態によれば、インプラントの2DACによる被膜は、生体適合性を高め、宿主組織の炎症を軽減することができる。
【0078】
開示される発明の例示的な実施形態によれば、基材を2DACで被覆することにより、細菌の増殖を防ぎ、インプラントの部位での細菌感染を低減することができる。
【0079】
開示される発明の例示的な実施形態は、基材の表面を2DACで被覆し、2DACが被覆された基材の表面に初期濃度の幹細胞を播種し、所望の濃度の幹細胞に達するまで、播種された幹細胞から追加の幹細胞を成長させることを含む、幹細胞の成長方法を提供する。
【0080】
一例では、幹細胞を、10%FBS、1%ペニシリン、1%非必須アミノ酸及び1%ピルビン酸ナトリウムを含む低グルコースダルベッコ変法イーグル培地中において10,000細胞/cm2の密度で本発明の2DAC被膜表面に播種する。細胞を37℃及び5%CO2で培養する。被膜は、2DAC上で直接成長しているということができる。このようにして、本発明の2DAC被膜表面上にインプラント被膜が確立される。所望の濃度に達するまで培地を3日ごとに交換する。本発明のいくつかの実施形態では、インプラントは、冠動脈ステント、歯科インプラント、整形外科インプラントなどとすることができる。
【0081】
播種された細胞は、他の細胞培養表面と比較して、本発明の2DAC表面上での回収率が高い。細胞は、他の基材又は標準的な組織培養基材と比較して、本発明の2DACに対する付着速度が高く、それによって支持の欠如により生じる細胞死が低減する。インプラント被膜は、インプラントの表面と接触角を形成してもよい。本発明のいくつかの実施形態では、2DAC表面の接触角は約30~65度であり、これは細胞増殖に最適である。
【0082】
開示された発明の例示的な実施形態は、基材の表面を2DACで被覆し、2DACが被覆された基材の表面に初期濃度の幹細胞を播種し、及び本発明の2DACが被覆された基材の表面に幹細胞培地中の成長因子を吸着させることを含む、幹細胞を分化細胞に分化させる方法を提供する。したがって、成長因子は、細胞の培養中に本発明の2DACの表面に自動的に吸着される。本発明の実施形態は、被覆されていない表面と比較して、成長因子が本発明の2DAC表面に高速で自動的に吸着されることを提供する。
【0083】
一例では、幹細胞は、デキサメタゾン、L-グルタミン、アスコルビン酸及びβ-グリセロリン酸を培地に添加することにより、骨形成系列に分化する。細胞を37℃及び5%CO2で培養する。培地を3日ごとに交換する。
【0084】
成長因子は、被覆されていない表面と比較して、本発明の2DAC表面に高速で吸着される。本発明の2DACにおけるsp2結合炭素原子の遊離パイ軌道は、骨形成因子であるデキサメタゾン及びβ-グリセロリン酸との結合を生じさせる。この吸着により、幹細胞への骨形成分化を促進する因子の利用可能性が高まり、細胞の取り込み及び分化が増加する。
【0085】
開示される発明の例示的な実施形態によれば、基材は、試験管内又は生体内での幹細胞の成長及び分化のための材料であることができる。
【0086】
開示される発明の例示的な実施形態によれば、本発明の2DACは、基材の生物活性を増強し、幹細胞の分化を加速する。
【0087】
開示される発明の例示的な実施形態は、宿主組織とインプラントとの生体適合性を高め、及び/又は宿主組織の炎症を低減する2DAC生物活性基材被膜を提供する。
【0088】
開示される発明の例示的な実施形態は、細菌の付着及び増殖を低減する2DAC抗菌被膜を提供する。
【0089】
開示される発明の例示的な実施形態は、異種細胞を含まない幹細胞の成長及び増殖を維持し、特定の系統への分化を加速する幹細胞を成長させる方法を提供する。
【0090】
開示される発明の例示実施形態は、幹細胞を未分化状態に維持する物品及び方法、幹細胞の特定の系統への分化を誘導する物品及び方法、並びに生物医学インプラント用被膜に関する。
【0091】
この物品は、Orefeo外による発明の名称「Layered composite material consisting atomically thin amorphous carbon on top of the substrate」の特許文献(この特許文献の内容全体及び開示は、引用によりその全体が本明細書で援用される)に記載されるように、任意の基材(金属、ガラス、プラスチック)上の本発明の2DAC被膜からなり、表面の全体を覆う。本発明の2DACは、0.8以下のC値を有する、非結晶構造における炭素原子の単一層である。このC値は、六角形環と非六角形環との比である。
【0092】
図11は、2DACについての接触角及びXPSを示す。
【0093】
図11を参照すると、2DACの接触角は、グラフェンについて報告されている90度の接触角よりも低い約60度である。
【0094】
sp3/sp2比とは、本発明の2DACに見出されるタイプの炭素結合をいう。sp2結合により、より高い成長因子結合が可能になる。図11における2DACについてのXPSから、sp3/sp2結合比が0.2以下であることが確認される。
【0095】
図12は、被覆されていないガラスと2DAC被覆ガラスとのナノ組織分布差を示す。図12を参照すると、本発明の被膜は、基材上に約1nmの粗さを生じ、それによって基材に対する細胞の相互作用が向上する。ラマンスペクトルから、約0.5~1のD/G比が明らかになり、2Dピークが存在しないことが示される。本発明の被膜と2Dピークの不在とに起因するこの比は、本発明の2DACとグラフェン及びダイヤモンド被膜の構造とを明確に区別するものである。
【0096】
例示的な実施形態は、幹細胞を次のようにニュートラルな状態で成長及び増殖させる方法を提供する。
【0097】
幹細胞を、2DACが被覆された表面に播種し、所望の濃度に達するまで標準的な幹細胞培地で培養する。この表面から細胞を脱離させ、細胞増殖のために複数の表面上で希釈することができる。細胞の成長速度は、線維芽細胞の支持層又はマトリゲルの成長速度と同等以上である。
【0098】
細胞はいかなる形態の分化も示さず、ニュートラルな未分化状態のままである。2DACのナノスケールの粗さ及び親水性により、ナノ結晶グラフェンで観察されるのと同様に、細胞は接着して広がることができる16
【0099】
例示的な実施形態は、次のように、幹細胞の所望の系統への分化を制御及び加速する方法を提供する。
【0100】
分化は、幹細胞培地に添加された成長因子によって誘導される。この成長因子が系統を決定する。例えば、骨形成分化の場合には、成長因子はデキサメタゾン及びβ-グリセロールリン酸からなると考えられる。成長因子は表面に容易に吸着され、標準的な組織培養プレート、ガラス又は金属基材よりも速い速度で細胞に送達される。アモルファス炭素の機械的特性は、細胞と基材との相互作用を強化し、それによって分化を強化する。
【0101】
上で概説したように、成長因子は、細胞の培養中に本発明の2DACの表面に自動的に吸着される。したがって、本発明の実施形態は、成長因子が、被覆されていない表面よりも速い速度で本発明の2DAC表面に自動的に吸着されることを提供する。図13は、2DAC被覆基材上の幹細胞における成長因子の取り込み増加メカニズムを示す。
【0102】
図14は、2DAC被覆基材と被覆されていない基材上でのタンパク質取り込みの比較を示す。図14は、タンパク質機能化非被覆チタン(左上)及び2DAC被覆チタン(右上)のAFM位相スキャンを示す。成長因子の吸着は、他の基材と比較して本発明の2DACで増強される(より低い)、すなわち、本発明の2DAC被覆表面上でのタンパク質取り込みは、被覆されていない基材と比較して著しく増強される。
【0103】
図4のAFM位相スキャンでは、左側の非被覆チタンにはタンパク質がないのに対し、右側の2DAC被覆チタンはタンパク質を容易に吸着することが示される。なお、チタンを例示したが、チタン合金、ステンレス鋼、金、銀、コバルト-クロム合金、ニオブタンタルなどの他の金属;酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウムなどのセラミック;及び他の材料の中でも、ポリエチレン、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレンなどの重合体を、本発明の教示から逸脱することなく利用することができる。
【0104】
生体適合性を高めかつ局所宿主組織と統合するために、インプラントを2DACで被覆できる。この生体適合性は、それ自体が宿主組織からの炎症反応の減少、露出した血管における血液凝固及び血小板活性化の減少、及び/又は被覆インプラント表面上の細胞の成長の増強を示し、それによって組織とインプラントとの間に強力な結合を形成する。
【0105】
図15は、心血管ステントインプラントの非被覆表面及び2DAC被覆表面を示す。非被覆心血管インプラントは、血小板の付着及び活性化を引き起こす可能性がある。活性化された血小板は凝固因子を増殖させ、血栓を形成させる。2DAC被膜は血小板の付着及び活性化を減少させ、これによって血栓症のリスクを低減する。
【0106】
図16は、2DAC被膜がインプラントと骨組織との統合をどのように改善することができるかを示す。2DAC被膜は、細胞付着を改善し、炎症を軽減し、付近の細胞の骨形成分化を促進する。これらの要因は、インプラントと骨組織との間のより強力で継続的な結合につながる。
【0107】
図17は、2DAC被覆ガラス上のLPS(リポ多糖)によりストレスを受けた細胞における一酸化窒素(NO)及びTNF-α産生について、ベアガラス上の細胞と比較して示す。
【0108】
NO及びTNF-αの両方は全身性炎症の指標である。図5に示す結果は、炎症が軽減されることを示す。
【0109】
成長基材として2DACを採用することにより、実施上の困難さと労働時間及びコストが削減され、汚染の懸念が排除される。
【0110】
本発明の2DACは、上で概説したように基材上で直接成長できる。アモルファス炭素の直接成長には、基材に対する高い接着強度(200J/m2以上の接着エネルギー)という利点がある。これに対し、化学蒸着(CVD)グラフェンは成長基材に転写する必要があり、約10J/m2の非常に低い接着力を有する。
【0111】
2DACの製造は、任意の基材上で直接大面積にまでスケールアップできる。本発明の2DACの成長は、500℃未満で実施でき、多くの生物医学的インプラント及び用途に適合させることができる。
【0112】
本発明のアモルファス炭素は、生体組織に毒性の問題を引き起こさず、FDAによって生物医学的インプラントとしてすでに承認されている。さらに、欧州では、いくつかの炭素被覆ステントが臨床使用のために推進されている:BioDiamond(登録商標)(Plasma Chem)、Carbostent(登録商標)(Sorin)、DiamondFlex(登録商標)(Phytis)及びDylyn(登録商標)(Bekaert)。したがって、2DACは、上記のように2DACが単なる炭素被膜とは異なる場合であっても、臨床環境での使用に好適である。
【0113】
本発明の多数の実施形態を詳細に説明してきたが、特許請求の範囲において規定される本発明の範囲から逸脱することなく改変及び変形が可能であることは明らかであろう。さらに、本発明の多くの実施形態を例示する本発明の全ての例は、非限定的な例として提供されるものであるため、このように例示された様々な態様を限定するものと解釈すべきではないことを理解すべきである。
【0114】
参考文献
次の参考文献は上で参照されており、参照により本明細書において援用する。
1. Ferrari, A.C. et al. “Interpretation of Raman spectra of disordered and amorphous carbon.” Physical Review B 61, 14095-14107 (2000).
2. Robertson, J. “Ultrathin carbon coatings for magnetic storage technology.” Thin Solid Films 383, 81-88 (2001).
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5. Schriver, M. et al. “Graphene as a Long-Term Metal Oxidation Barrier: Worse Than Nothing” ACS Nano 7, 5763-5768 (2013).
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9. Marcon, et. al. “The head-disk interface roadmap to an areal density of 4 Tbit/in2.” Advances in Tribology 2013, 1-8 (2013).
10. Discher, D. E., Mooney, D. J. & Zandstra, P. W. “Growth Factors, Matrices, and Forces Combine and Control Stem Cells.” Science 324, 1673-1677 (2009).
11. Spradling, A., Drummond-Barbosa, D. & Kai, T. “Stem cells find their niche.” Nature 414, 98-104 (2001).
12. Murry, C. E. & Keller, G. “Differentiation of Embryonic Stem Cells to Clinically Relevant Populations: Lessons from Embryonic Development.” Cell 132, 661-680 (2008).
13. Engler, A. J., Sen, S., Sweeney, H. L. & Discher, D. E. “Matrix Elasticity Directs Stem Cell Lineage Specification.” Cell 126, 677-689 (2006).
14. Dalby, M. J. et al. “The control of human mesenchymal cell differentiation using nanoscale symmetry and disorder.” Nature Materials 6, 997-1003 (2007).
15. Trappmann, B. et al. “Extracellular-matrix tethering regulates stem-cell fate.” Nature Materials 11, 642-649 (2012).
16. Lee, H. et al. “Establishment of feeder-free culture system for human induced pluripotent stem cell on DAS nanocrystalline graphene.” Scientific Reports 6, 20708 (2016).
17. Choi, W. J. et al. ”Effects of substrate conductivity on cell morphogenesis and proliferation using tailored, atomic layer deposition-grown ZnO thin films.” Scientific Reports 5, 9974 (2015).
【0115】
本願において引用される全ての文献、特許文献、雑誌記事及び他の資料は、参照により本明細書において援用される。
【0116】
本発明を特定の実施形態を参照して開示してきたが、特許請求の範囲において規定される本発明の範囲及び範囲から逸脱することなく、記載された実施形態に対する多数の修正、改変、及び変更が可能である。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されず、特許請求の範囲の用語によって定義される全範囲及びその均等範囲を有するものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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