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特許7501934吸入器における投与量測定デバイスおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】吸入器における投与量測定デバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 15/00 20060101AFI20240611BHJP
   A61M 13/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A61M15/00 Z
A61M13/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022512759
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2020071222
(87)【国際公開番号】W WO2021037462
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P201930752
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】522070237
【氏名又は名称】イグンシェルト エセ.エレ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】カルボ フェルナンデス,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】エステバン ゴルゴジョ,イグナシオ
(72)【発明者】
【氏名】ラグナ ガラルサ,エドゥアルド
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/175579(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/167278(WO,A1)
【文献】特開2010-188166(JP,A)
【文献】特表2009-532189(JP,A)
【文献】特開2015-161609(JP,A)
【文献】特開平1-63817(JP,A)
【文献】特開昭63-246619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 15/00
A61M 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入空気(39)の通過のための排気導管(35)を備える吸入マウスピース(3;73)と、
前記吸入マウスピース(3;73)内部に一体化され、前記吸入マウスピース(3;73)の前記排気導管(35)内部の前記吸入空気(39)中の粉末密度の読み取り値を提供するように構成されている粉末センサ(4)と、
前記排気導管(35)内部の空気の圧力を測定するように構成されている気圧センサ(5)と、
制御ユニット(6)と、を備え、
前記制御ユニット(6)は、
前記排気導管(35)内部の前記空気の圧力を分析することによって前記吸入マウスピース(3;73)内に生成された吸入を検知し、
前記粉末センサ(4)の情報と前記気圧センサ(5)の圧力信号とを組み合わせた情報を使用して、検知された前記吸入における、前記排気導管(35)を通過する前記吸入空気(39)中に浮遊する固体粒子の投与量を計算するように構成され
ある期間に前記排気導管(35)を通過する固体粒子の前記投与量を計算するために、前記制御ユニットは、
前記粉末センサ(4)の前記読み取り値によって、当該期間の複数のサンプリング時点(t )における、前記排気導管(35)内部の固体粒子の密度を決定し、
前記気圧センサ(5)の前記圧力信号を用いて、前記複数のサンプリング時点(t )における、前記排気導管(35)を通過する気流を計算し、
前記複数のサンプリング時点(t )における、前記排気導管(35)を通過する固体粒子の質量流量を決定し、
当該期間における前記質量流量を積分するように構成されている、吸入器用投与量測定デバイス。
【請求項2】
前記制御ユニット(6)は、
前記気圧センサ(5)の前記圧力信号を用いて、前記吸入中の複数のサンプリング時点(t)における前記排気導管(35)を通過する気流(X)を計算し、
サンプリング時点(t)ごとに、対応する前記サンプリング時点(t)における前記気流(X)の値に応じた流量分配係数(K)を取得し、
前記流量分配係数に基づいて修正された前記排気導管(35)を通過する固体粒子の前記投与量から、前記吸入中の肺内に分配された薬剤の総投与量(Z)を推定するように構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記制御ユニット(6)は、
サンプリング時点(t)ごとに、サンプリング期間(p)中の前記排気導管を通過する固体粒子の投与量(Y)を計算し、
対応する前記サンプリング時点(t)における前記流量分配係数(K)によって修正された、前記排気導管を通過する固体粒子の前記投与量(Y)から、サンプリング時点(t)ごとの、肺内に分配された薬剤の投与量(Z)を推定し、
前記吸入に対応する前記サンプリング時点(t)における肺内に分配された薬剤の前記投与量(Z)を合計することによって、前記吸入における肺内に分配された薬剤の前記総投与量(Z)を計算するように構成されている、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記制御ユニット(6)は、
前記排気導管(35)内部の前記空気の圧力を分析することによって、前記吸入マウスピース(3;73)内に生成される複数の一連の吸入および呼出を含む吸入操作を検知し、
前記吸入に対応する前記サンプリング時点(t)における、肺内に分配された薬剤の前記投与量(Z)を合計し、前記呼出に対応する前記サンプリング期間(p)中の前記排気導管を通過する固体粒子の前記投与量(Y)を減算することによって、前記吸入操作において肺内に分配された薬剤の前記総投与量(Z)を計算するように構成されている、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記制御ユニット(6)は、
前記吸入中の少なくとも1回の医薬品の放出を検知し、
医薬品の放出ごとに、対応する前記医薬品の放出後のサンプリング時点(t)における前記流量分配係数(K)から、放出後流量分配係数(KPOST)を取得し、
対応する前記放出後流量分配係数(KPOST)によって修正された医薬品の放出ごとの前記排気導管を通過する固体粒子の投与量(Y)から、前記吸入中の肺内に分配された薬剤の前記総投与量(Z)を計算するように構成されている、請求項2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記制御ユニット(6)は、
医薬品の放出ごとに、医薬品の当該放出から医薬品の新たな放出まで、または前記排気導管(35)を通過する前記気流(X)が、所与の流量閾値(XMIN)未満になるまで測定された、放出後吸入の持続時間(TPOST)を取得し、
医薬品の放出ごとに、対応する前記放出後吸入の持続時間(TPOST)と、吸入閾値(TMIN)とを比較することによって、時間分配係数(C)を取得し、
対応する前記時間分配係数(C)によってさらに修正された、医薬品の放出ごとの前記排気導管を通過する固体粒子の前記投与量(Y)から、前記吸入中の肺内に分配される薬剤の前記総投与量(Z)を計算するように構成されている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記制御ユニット(6)は、
医薬品の放出ごとに、対応する前記医薬品の放出時に前記排気導管(35)を通過する放出前気流(X)を計算し、
医薬品の放出ごとに、対応する前記放出前気流(X)の値に応じた放出前流量分配係数(KPRE)を取得し、
対応する前記放出前流量分配係数(KPRE)によってさらに修正された、医薬品の放出ごとの前記排気導管を通過する固体粒子の前記投与量(Y)から、前記吸入中の肺内に分配される薬剤の前記総投与量(Z)を計算するように構成されている、請求項5または6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記吸入マウスピース(3;73)の外面に連結され、前記吸入マウスピース(3;73)とのユーザの口の接触を検知するように構成されている、少なくとも1つの存在センサ(45)を備え、
前記制御ユニット(6)は、前記少なくとも1つの存在センサ(45)が前記吸入中にユーザの口の接触を検知するときに、検知された吸入を記録するように構成される、請求項1~7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記吸入マウスピース(73)は、吸入器(70)の一体化された部分である、請求項1~8のいずれか1項に記載の投与量測定デバイスを含む吸入器。
【請求項10】
前記吸入マウスピースは、吸入器用スペーシングチャンバの一体化された部分である、請求項1~8のいずれか1項に記載の投与量測定デバイスを含む吸入器用スペーシングチャンバ。
【請求項11】
気圧センサ(5)により、吸入マウスピース(3;73)の排気導管(35)内部の空気の圧力を測定するステップ(102)と、
前記排気導管(35)内部の前記空気の圧力を分析することによって、吸入を検知するステップ(104)と、
粉末センサ(4)により、前記吸入マウスピース(3;73)の前記排気導管(35)内部の吸入空気(39)中の粉末密度の読み取り値を得るステップ(106)と、
前記粉末センサ(4)の情報と前記気圧センサ(5)の情報とを組み合わせた情報を使用して、検知された前記吸入における、前記排気導管(35)を通過する前記吸入空気(39)中に浮遊する固体粒子の投与量を計算するステップ(108)と、を含み、
ある期間に前記排気導管(35)を通過する固体粒子の前記投与量の計算は、
前記粉末センサ(4)の前記読み取り値によって、当該期間の複数のサンプリング時点(t )における、前記排気導管(35)内部の固体粒子の密度を決定するステップ(110)と、
前記気圧センサ(5)の圧力信号を用いて、前記複数のサンプリング時点(t )における、前記排気導管(35)を通過する気流を計算するステップ(112)と、
前記複数のサンプリング時点(t )における、前記排気導管(35)を通過する固体粒子の質量流量を決定するステップ(114)と、
当該期間における前記質量流量を積分するステップ(116)と、を含む、吸入器における投与量測定方法。
【請求項12】
前記排気導管(35)内部において測定された前記空気の圧力を用いて、前記吸入中の複数のサンプリング時点(t)における、前記排気導管(35)を通過する気流(X)を計算するステップと、
サンプリング時点(t)ごとに、対応する前記サンプリング時点(t)における前記気流(X)の値に応じた流量分配係数(K)を取得するステップと、
前記流量分配係数に基づいて修正された前記排気導管(35)を通過する固体粒子の前記投与量から、前記吸入中の肺内に分配された薬剤の総投与量(Z)を推定するステップと、を含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
サンプリング時点(t)ごとに、サンプリング期間(p)中の前記排気導管を通過する固体粒子の投与量(Y)を計算するステップと、
対応する前記サンプリング時点(t)における前記流量分配係数(K)によって修正された、前記排気導管を通過する固体粒子の前記投与量(Y)から、サンプリング時点(t)ごとに、肺内に分配された薬剤の投与量(Z)を推定するステップと、
前記吸入に対応する前記サンプリング時点(t)における肺内に分配された薬剤の前記投与量(Z)を合計することによって、前記吸入における肺内に分配された薬剤の前記総投与量(Z)を計算するステップと、を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記排気導管(35)内部の前記空気の圧力を分析することによって、前記吸入マウスピース(3;73)内に生成される複数の一連の吸入および呼出を含む吸入操作を検知するステップと、
前記吸入に対応する前記サンプリング時点(t)における、肺内に分配された薬剤の前記投与量(Z)を合計し、前記呼出に対応する前記サンプリング期間(p)中の前記排気導管を通過する固体粒子の前記投与量(Y)を減算することによって、吸入操作において肺内に分配された薬剤の前記総投与量(Z)を計算するステップと、を含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
吸入中の医薬品の少なくとも1回の放出を検知するステップと、
医薬品の放出ごとに、対応する前記医薬品放出後のサンプリング時点(t)における前記流量分配係数(K)から、放出後流量分配係数(KPOST)を取得するステップと、
対応する前記放出後流量分配係数(KPOST)によって修正された医薬品の放出ごとに、前記排気導管を通過する固体粒子の投与量(Y)から、前記吸入中の肺内に分配された薬剤の前記総投与量(Z)を計算するステップと、を含む請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、バイオテクノロジーおよびスマートデバイスの分野に含まれる。本件においては、設計されたデバイスおよび方法は、エアロゾル化薬剤を使用する乾燥粉末吸入器、および加圧吸入器の使用を補完する。
【0002】
〔発明の背景〕
乾燥粉末吸入器は、吸入によって肺を通して粉末粒子の形態において、医薬品を患者に送達する医薬品である。加圧吸入器またはMDI(metered-dose inhaler:定量吸入器)は、エアロゾル中に医薬品を噴霧し、各吸入において常時一定である特定量の薬物を放出することによって、前記医薬品を被験者に送達する医薬品である。これにより薬物は、吸入された空気中に浮遊し、肺に到達する。これらの吸入器は、主に喘息および慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease(COPD))の治療に使用されているが、今日において、それらはより多くの病態に使用されるようになっている。
【0003】
現在学術文献によれば、喘息患者またはCOPD患者のうち、適切に治療法を遵守している患者は30%未満である。治療法を遵守することの欠如に加えて、これらのデバイスは使用が困難であることが知られているので、吸入技術の使用において過失が生じており、吸入技術を使用する患者の中で、正確に使用がなされている事例は10%だと推定されている。現在、これを評価するための有効なツールは存在しない。これら2つのデータを分析し、それらを相互に関連づけると、これらのデバイスを使用している患者のうち、標的臓器である肺において、担当医により処方された量の薬を受け取っている患者は3%未満である、と推定できる。
【0004】
この状況のために、遵守の欠如、および吸入技術の過失は、肺疾患の制御不良の最も主要な原因になっている。医師が治療を正しく実行するためには、患者が意図的に医薬品を服用しない計画グループを検知することが必要になった。しかしながら、非任意のミス、および当該技術における前述の過失という2つの非意図的なシナリオの発生を検知することも重要である。いったん非遵守の3つの原因が考慮され測定されれば、その後、疾患の管理、およびその真の影響に関する実際的な情報を得ることが可能になり始める。
【0005】
また、加圧MDIデバイスは市場に存在している最も安価な吸入器であり、世界規模において最も広く分配されており、高額なために先進国における使用により制限されている乾燥粉末吸入器とは異なることを指摘しておくことも、重要である。なお、加圧MDIデバイスと乾燥粉末吸入器との両方の総売り上げは、世界中の先進国において、ほぼ同等である。MDIデバイスは、患者が症状または再発を知覚するときに使用される救助薬剤の投与のために最も広く使用されることに対し、乾燥粉末吸入器は、維持治療のために最も広く使用される。したがって、これらの吸入器(乾燥粉末吸入器とMDIとの両方)を使用する技術、および遵守性の改善に有用になり得る技術を開発する可能性は、世界的な影響を有し、維持療法および救助療法の両方の評価に影響を及ぼす。
【0006】
本発明はこの課題を解決し、乾燥粉末吸入器および加圧吸入器の両方を用いて、非任意に引き起こされる吸入治療への遵守の欠如(非任意のミスおよび不十分な技術)を防止し、任意に引き起こされる遵守の欠如を前面に押し出すことを可能にする。救助薬剤の客観的測定を行うことにより、患者が自らの疾患をより良好に制御することになるので、吸入薬剤への遵守を最適化することによって、肺疾患の制御がより良好になる。これにより、救急室への訪問、および入院が減少することが見込まれ、さらに患者の日常活動への制限がなくなる、または緩和されることも見込まれる。
【0007】
吸入治療の正確なモニタリングにより、各患者に最良の吸入デバイスが処方され、それによって最適な治療の処方が可能になる。このように各患者に適したデバイスを正確に選択することにより、オーダーメイド医療を提供することが可能になり、標的臓器に到達しない薬剤の過量投与および過剰処方が回避できるため、治療上の有益性を増大させることなく有害作用を増大させ得る。
【0008】
最後に、この技術は呼吸器疾患に対する支出を制御し、低減するための土台である。喘息とCOPDに対する費用の70~80%は、検査を実行すること、診察における経過観察、薬剤の処方、救急治療室への訪問、および入院、によるものである。この技術は、単に処方された薬物が服用されることを改善し、および示すことによって、これらのすべての費用を削減し得る。これにより、これらの疾患のための費用を回避可能な因子から引き離して、必要かつ不可避な因子に向け、それを最適化することが可能になる。
【0009】
〔発明の説明〕
本発明は、各吸入において吸入器によって投与される固体粒子の投与量(ユーザの口に到達する投与量)を計算する能力を有する吸入器における、投与量測定のためのデバイス、および方法に関する。本発明は吸入治療への順守性を測定し、肺に実際に分配される吸入薬剤の量を推定することを可能にする。それによって、患者による吸入技術および吸入器の使用を評価することが、可能になる。
【0010】
当該デバイスは、乾燥粉末吸入器または加圧吸入器に連結され、前記吸入器の構造および形状に調整される。いったん連結されるとデバイスは、吸入器自体の投与量表示装置に示される投与量とは異なり得る、実際の吸入投与量の数をカウントすることを可能にする。さらにデバイスは、吸入技術の質を分析し、その内部において当該薬剤が所望の効果を生成する唯一の器官である肺に、どのくらいの量の薬剤が分配されるかを推定した後、吸入器によって投与される投与量を定量化する。
【0011】
吸入器用投与量測定デバイスは、以下を備える:
-吸入空気の通過のための排気導管を備える吸入マウスピース。
【0012】
-前記導管内部の空気中に浮遊する固体粒子の密度を測定するように構成されている粉体センサ。
【0013】
-前記排気導管内部の空気の圧力を測定するための気圧センサ。
【0014】
-前記排気導管内部の空気の圧力を分析する手段によって前記吸入マウスピース内に生成された吸入を検知し、前記粉末センサの情報と前記気圧センサの圧力信号とを組み合わせた情報を使用して、検知された吸入において前記排気導管を通過する前記吸入空気中に浮遊する固体粒子の投与量を計算するように構成されている、制御ユニット。
【0015】
吸入器における投与量測定方法は、以下のステップを含む:
-気圧センサにより、吸入マウスピースの排気導管内部の空気の圧力を測定するステップ。
【0016】
-前記排気導管内部の空気の圧力を分析することによって、吸入を検知するステップ。
【0017】
-粉末センサにより、前記排気導管内部の空気中に浮遊する固形粒子の密度を測定するステップ
-前記粉末センサの情報と前記気圧センサの情報とを組み合わせた情報を使用して、検知された吸入において前記排気導管を通過する吸入空気中に浮遊する固体粒子の投与量を計算するステップ
当該デバイスの機能の1つは、患者が口内に吸入器またはスペーシングチャンバ(spacing chamber)を有することを示すセンサを用いて、患者が吸入を実行することを確実にし、さらに、肺内の薬剤の実際の分配を予測することを可能にするために、吸入技術を分析し、したがって、各吸入において患者が受け取った薬物の実際の、および能動的な投与量を決定することを可能にすることである。
【0018】
一実施形態によれば、当該デバイスは、以下の要素を備える:
・電子要素および/またはモジュールを収容し、各吸入器またはスペーシングチャンバに適合される各デバイスに適合可能な、プラスチックケーシング。
【0019】
・吸入器またはスペーシングチャンバのマウスピースの解放された端に連結される吸入マウスピース。
【0020】
・マウスピースの外面に連結される圧力検知センサ、光検知センサまたはインピーダンス検知センサ。
【0021】
・異なる構成要素を管理しデータを記憶する、(例えばプリント基板に実装される)制御ユニット。
【0022】
・医薬品の放出される投与量、およびそれが放出される瞬間を測定する吸入マウスピース内に配置される、粉末センサ。
【0023】
・気圧センサ:吸入マウスピース内の気圧を測定するデジタル気圧計。ユーザの吸入によって生成される負圧の検知は、制御ユニットの起動信号として使用される。デバイスは吸気流をデジタル気圧計および/または粉末センサを介して検知される、薬物投与量の放出の瞬間とともに測定することによって、吸入技術を相関させることが可能である。
【0024】
・DC/DCコンバータ:残りの電子素子に必要な動作電圧を提供するための、電圧昇圧デバイスおよび/または電撃防止デバイス。
【0025】
・外部機器(スマートフォン、コンピュータなど)とのワイヤレス通信用Bluetooth(登録商標)マイクロモジュール。
【0026】
吸入を測定するために、当該デバイスは、吸入器の元来の排気口に続く吸入マウスピースに組み立てられた光学粉末センサからなる。このマウスピースは、ノズルジオメータを備え、赤外LEDと信号アンプ付きシリアル受信機とを組み立てる。当該信号アンプは、定期的(例えば10ミリ秒ごと)に出力電圧を確認することに基づいて、パルスパターンを生成する。この出力パターンは、デバイスのマザーボードにプログラムされたアルゴリズムによって解釈される。マウスピース内の圧力の、予め確立された変化がデジタル気圧計の信号を使用して検知されたときに、吸入の読み取りが起動される。粉末センサは、吸入マウスピースを介した医薬品の通過を測定し、制御ユニットが、放出された薬剤の量、放出された時間、およびこの薬剤の放出の持続時間を推定することを可能にする。
【0027】
吸入技術の解析を可能にするために、気圧センサは他の機能の中でも特に使用される。吸入を正しく実行するための技術は、吸入気流の強度と、吸入気流の強度と薬剤の放出との間の一時的な関係とに依存する。さらに、この検知された圧力信号は、他の電子部品の(例えば、粉末センサおよび制御ユニットを活性化するための)活性化信号として使用され、その後のエネルギー節約となる。デジタル気圧計は、ユーザが正しく吸入を行っているかどうかを識別し、肺にどれだけの量の薬剤が分配されているかを予測することを可能にする。
【0028】
当該デバイスは、ワイヤレス通信モジュールによって、好ましくはBluetooth(登録商標)またはIoT信号によって、モバイルデバイス(タブレット、スマートフォンなど)およびコンピュータなどの外部装置と接続することができる。前記装置にインストールされたソフトウェアアプリケーションを介して、場所、気候などの他の追加データに加えて、実行された吸入の履歴、および吸入された投与量の履歴を記録することが可能である。
【0029】
本発明のデバイスは、いつ吸入が起こったかを検知することができ、測定された吸入量が不十分である場合、(例えば、デバイスに接続された患者のスマートフォンのアプリを介して)患者に吸入技術の質が不十分であることを警告する。この警告は、特定の吸入を用いてのみならず、むしろ、治療の直近の数日間にわたって蓄積された吸入投与量を考慮することによって生成され得るものであり、それによって、技術単体を評価するだけではなく、治療を包括的かつ動的な実体として、評価する。これにより、アプリは吸入技術を改善するために、患者が医師、看護師、またはトレーナーを訪れることを推奨することが可能である。当該アプリは、患者に投与を忘れたことを思い出させ、医師が確立した吸入治療法への患者の遵守性を強化することもできる。実施された吸入の履歴、および医薬品の吸入量のモニタリングの履歴によって、医師は治療法が正しく行われているかどうかを定期的な点検の際に判断することが可能となり、また、患者による自発的な遵守性の欠如を見出すことさえも、可能となる(例えば検知された吸入と、吸入器の投与量表示装置とが一致せず、それらの間に大きな差異がある場合)。さらに、デバイスが捕捉した情報を用いることにより、医師は、遵守性、技術、そして薬剤の肺内分配を示すことができ、喘息の制御不良が、遵守性の不足または不十分な投与量によるものか否か、を鑑別することができ、それにより治療法が遵守されるように改善される。
【0030】
この技術が提供する別の新規な特徴は、吸入が実行される際に、存在センサ(マウスピースの外側部分に配置された圧力センサ、インピーダンスセンサ、または光センサ)によって、患者が自らの口をマウスピース上に正しく配置させていることを、認定することが可能なことである。したがって、患者が薬剤を受け入れていない吸入はカウントされないことになるため、このことは重要である。それゆえ、実際に吸入が行われていない場合に、吸入が行われているように偽装している可能性は、排除される。なぜなら、患者の中には薬剤を服用したように装い、実際には服用しなかった者もおり、そういった患者は投与量がモニターされていることを知ることにより、吸入によって作動されていないそれらのデバイスを、空気中に解放する可能性があるからである。口内へのデバイスの誤った配置、またはスペーシングチャンバとの不十分な連結に関連する吸入エラーも検知することができる。口またはスペーシングチャンバとの、この不十分な連結により、薬物の肺分配が有意に変化させられる。したがって、このような分配を検知することができることが、不可欠である。
【0031】
また、デバイスにより治療法が守られていることをモニタリングできるため、意図的に医薬品を服用することを避ける患者は、主治医との定期的な点検の際に、彼らが医療上の助言に従わないことを自認するという不面目を避けるために、治療法を受けるように促される。患者が意図的に治療法を遵守していない状態を維持した場合、当該デバイスはこの状況を検知し、医師が過量投与したり、生物学的製品などの不必要な治療に患者を曝露させたりすることを防止することができる。
【0032】
本発明の別の態様はまた、投与量測定デバイスを含む吸入器、またはそういった吸入器用スペーシングチャンバに関し、吸入マウスピースは、吸入器の一体化された部分、または吸入器用スペーシングチャンバの一体化された部分である(例えば、製造過程中に一体化される)。
【0033】
それにより、本発明は、喘息および慢性閉塞性肺疾患などの疾患における吸入治療法への遵守性を改善することを可能にする。
【0034】
〔図面の簡単な説明〕
以下は、本発明をより良く理解する上で有用な一連の図面の、非常に簡単な説明である。当該一連の図面は、本発明の非限定的な実施例として提示される、当該発明の一実施形態に明確に関連する。
【0035】
図1は、本発明のデバイスを連結可能な、最新技術の一般的な吸入器を示す。
【0036】
図2A~2Eは、本発明の一実施形態による吸入器用投与量測定デバイスの、複数の視点からの図である。
【0037】
図3は、吸入器に連結された本発明に係る投与量測定デバイスを示す。
【0038】
図4Aおよび4Bは、吸入マウスピースの前部の、複数の視点からの図である。
【0039】
図5は、投与量測定デバイスの斜視図であり、吸入マウスピースの内部に取り付けられた粉末センサの構成要素を観察できる図である。
【0040】
図6は、投与量測定デバイスの電子部品、および外部モバイルデバイスとの、それらのワイヤレス接続のダイアグラムを示す。
【0041】
図7A、7Bおよび7Cは、それぞれ、吸入器のマウスピース内に粉末センサ、および気圧センサを製造中に組み込んだ吸入器の側面図(図7A)、正面図(図7B)および斜視図(図7B)を示す。
【0042】
図8は、図7の吸入器の電子部品、および外部モバイルデバイスとの、それらのワイヤレス接続のダイアグラムを示す。
【0043】
図9は、本発明に係る吸入器によって放出される投与量を測定するための、投与量測定方法のフローチャートを示す。
【0044】
図10は、吸入器によって放出される固体粒子の投与量の計算が、実施可能な実施形態に従って、どのように実行されるかを詳細に表したフローチャートを含む。
【0045】
図11Aおよび図11Bは、それぞれ、乾燥粉末吸入器において吸入中に生成される吸気のグラフ、および吸気流量に応じて肺内における薬剤の分配を推定するために使用されるグラフを描写している。
【0046】
図12Aは、加圧吸入器における吸入中に生成される吸気のグラフを示す。図12Bおよび12Cは、医薬品の放出後(図12B)および医薬品の放出前(図12C)の吸気流量に応じて、肺における薬剤の分配を推定するために使用されるグラフを示す。
【0047】
図13Aおよび13Bは、それぞれ、2回以上の医薬品の放出を伴う加圧吸入器の例、または医薬品の長期放出を伴う加圧吸入器の例を示す。
【0048】
図14は、スペーシングチャンバのマウスピースに取り付けられた投与量測定デバイスを組み込んだ、スペーシングチャンバを示す。
【0049】
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、乾燥粉末吸入器、加圧吸入器、またはスペーシングチャンバなどの吸入器用投与量測定デバイスに関する。図1は一例として、本発明のデバイス向けの最新技術の吸入器10を描写している。図1に描写されている吸入器10は、乾燥粉末吸入器、または加圧吸入器に対応し得る。
【0050】
ユーザによる乾燥粉末吸入器の通常の操作は、以下の工程を含む:
-当該吸入器から、カバー11を取り外すステップ。
【0051】
-投与量を充填するステップ。一部の装置においては、例えば吸入器を振盪し、吸入器の上部にあるボタン12を垂直位置にあるときに押すことによって、投与量を充填することができる。他の装置においては、投与量はハンドルを回転させるか、または被膜に穴を開けるなど、別の方法によって充填される。カバー11を取り外すと自動的に充填される、他の装置もある。
【0052】
-吸入器のマウスピース13を唇と歯の間に配置し、吸入された空気がマウスピースのオリフィス14を通って循環し、肺を満たすまで、力強く深く吸気するステップ。乾燥粉末吸入器においては、患者による吸気が、医薬品を運搬するための流れを生成する。
【0053】
ユーザによる加圧吸入器の通常の操作は、以下の工程を含む:
-吸入器11からカバーを取り外すステップ。
【0054】
-吸入器を振盪するステップ。
【0055】
-吸入器のマウスピース13を唇と歯の間に配置し、吸入器が垂直位置にあるときに吸入器の上部に位置するボタン12を押す数秒前に開始し、吸入された空気がマウスピースのオリフィス14を通って循環し、肺を満たすまで、連続的に吸入するステップ。
【0056】
ユーザによるスペーシングチャンバの通常の操作は、以下の工程を含む:
-加圧された吸入器を、吸入器に適合可能なスペーシングチャンバの端部に連結するステップ。
【0057】
-唇をチャンバの反対側の端部に連結するステップ。唇と歯との間にスペーシングチャンバのマウスピースを配置するステップ。
【0058】
-吸入器から薬剤を放出し、10回の通常の非強制吸気サイクルを実行するステップ。肺が満たされるまでの単回強制吸入も実施されてよい。
【0059】
図2A~2Eはそれぞれ、本発明の実施可能な実施形態による吸入器(乾燥粉末吸入器または加圧吸入器)用投与量測定デバイス1の斜視図、正面図、側面図、上面図および背面図を示す。投与量測定デバイス1は、一般的な乾燥粉末吸入器および加圧吸入器10(例えば、図1に描写されるもの)に連結されるように準備される。図3は、吸入器10にすでに連結された投与量測定デバイス1(この場合、ケーシング2の形状および固定手段のわずかな変化を伴う、別の実施可能な実施形態に対応するデバイス)を示す。
【0060】
吸入器用投与量測定デバイス1は図3の例に示すように、吸入器のマウスピース13の解放された端に、例えば加圧手段によって、または固定手段を用いて連結された吸入マウスピース3を備える。この吸入マウスピース3は吸入を実行する際に、少なくともその一端においてユーザの口と接触するものである。吸入された空気は、吸入マウスピース3の前部に設けられる第1空気通路オリフィス30を通ってユーザの口に流れる。前記第1吸入空気通路オリフィス30は、吸入器のマウスピース13に連結されると、吸入空気の循環を促進するように、吸入器のマウスピース13のオリフィス14と少なくとも部分的に(正面から見た際に)一致するようなサイズおよび位置を有することが好ましい。
【0061】
吸入マウスピース3は、図2および図3に示す例においては吸入器10のマウスピース13の解放された端に結合可能であるが、別の実施可能な実施形態においては、吸入マウスピース3は吸入器用スペーシングチャンバのマウスピースの解放された端に結合可能である。
【0062】
図4Aおよび図4Bはそれぞれ、吸入マウスピース3の前端部の斜視図および正面図をそれぞれ示し、これらの図においては、マウスピースの内側を詳細に見るために、前部カバー31が取り外されている。使用者によって吸入される空気39には、吸入器10から到来する医薬品の投与量が流れている。当該空気39は、吸入器のマウスピース13のオリフィス14を通って排気され、(吸入器のマウスピース13のオリフィス14と、少なくとも部分的に一致する)後方部分に設けられる第2オリフィス36を通って吸入マウスピース3の内側に入り、吸入マウスピース3の内側の導管35を通って循環し、吸入マウスピース3の前方部分に設けられる第1吸入空気通路オリフィス30を通って排気される。導管35を通って循環する全ての吸入空気39のオリフィス30の通過を保証するために、導管35は好ましくは第1オリフィス30と接触し、該第1オリフィス30は導管35の前端部、または同一もしくは異なる面積もしくは断面を有する導管35の延長として見なされ得る。実施可能な実施形態においては、導管35は非常に薄くてもよく、例えば前部カバー31の厚さおよび第1オリフィス30と一致してもよい。吸入マウスピース3の第1オリフィス30および第2オリフィス36は好ましくは円形であるが、他の形状を採用してもよい。同様に、吸入マウスピース3の導管35は好ましくは円形断面を有するが、他のタイプの断面(例えば、正方形)を採用してもよい。
【0063】
投与量測定デバイス1は、吸入マウスピース3の内側に一体化された粉末センサ4を備える。当該粉末センサ4は、吸入マウスピース3の導管35内の空気中に浮遊する固体粒子の存在を検知するように構成される。好ましくは、使用される粉末センサ4は、光学粉末センサである。当該光学粉末センサは、光学エミッタおよび光学レシーバを備える。光学エミッタは、好ましくは赤外線スペクトル(赤外線LEDまたはIRED)の発光ダイオードである。光学レシーバは、空気中に浮遊する粉末または固体粒子によって反射された赤外光を検知する光ダイオードまたは光トランジスタであってよい。粉末センサ4を読み取ることにより、吸気流中の粉末密度を計算することができる。
【0064】
投与量測定デバイス1はまた、吸入マウスピース3の外面上に設置された、1つまたは複数の存在センサ45を備えてもよく、当該存在センサ45を介して、制御ユニット6は、吸入マウスピースとユーザの口との接触を検知する。制御ユニット6は、全ての存在センサが起動されたときにのみ検知された吸入を記録し、吸入中にユーザの口の接触を検知する。
【0065】
図4および図5に示される実施形態によれば、粉末センサ4の光学エミッタ40は導管35の外側に位置し、導管35内に設けられた第1開口部37に隣接し、光学エミッタ40から到来する好ましくは赤外光のビームの通過を可能にする。同様に粉末センサ4の光学レシーバ41は、導管35内に設けられた第2開口部38に隣接して配置され、これにより、導管35を通って循環する吸入空気39内に浮遊する粉末または固体粒子(すなわち、吸入器10から到来する薬剤)によって反射された赤外線ビームを受光することができる。開口部(37、38)は好ましくは互いに向き合って導管35内に配置される(図面の例においては、開口部の中点において開口部に垂直なベクトルは導管35の前後軸の同一の点に集束されるため、より良く読み取れる)。
【0066】
投与量測定デバイス1はまた、吸入マウスピース3に一体化され、吸入マウスピース3の排気導管35内部の空気の圧力を測定するように構成された気圧センサ5を備える。
【0067】
一実施形態においては、吸入マウスピース3は、粉末センサ4を収容することに加えて、気圧センサ5も含むであろう、図4に描かれた前端部のみを備える。図2および図3に示される実施形態においては、吸入マウスピース3は、図4に描かれる前部に加えて、当該前部に連結される中空の下部32を備える。あるいは、前部および下部は、単一の部品で形成される。
【0068】
一実施形態によれば、気圧センサ5は吸入マウスピースの下部に収容され(図3に不連続線を用いて示されるように、例えば下部32に収容される)、当該吸入マウスピースの下部は中空であり、前記センサを収容することに加えて、投与量測定デバイス1のケーシング2内に収容された制御ユニット6と、粉末センサ4とを接続するための配線42が通過することを可能にする(この場合、粉末センサ4の配線42は、吸入マウスピース3の前部の第2オリフィス36を収容する後部プレート44の下方の開口部43を通過するだろう)。
【0069】
気圧センサ5は吸入マウスピース3内に収容され、導管35を循環する吸入空気39に接触する。例えば、粉末センサ4の光学エミッタ40および光学レシーバ41が収容される方法と同様に(図5)、実際の導管35に設けられた開口部に収容することができた。気圧センサ5が吸入マウスピース3の下部32に収容される図3の例において、導管35の内部を循環する空気の圧力を測定するために、導管35は下部32から切り離されてはならない。すなわち、気圧センサ5が収容される下部32と導管35とが、同じ気圧において空気接触していなければならない。この目的のために、導管35の一端または両端が解放されてよく、または導管35は、中空の下部32との空気接触を可能にするオリフィスを有してよい。図4の例においては、導管35の後端部は、吸入マウスピース3の後部プレート44に接していない。
【0070】
投与量測定デバイス1は、制御ユニット6(例えばマイクロコントローラによって実装された電子制御機能を有する回路またはハードウエア要素)を備える。当該制御ユニット6は、気圧センサ5の読み取り値を用いて吸入マウスピース3内部の空気の圧力を分析することによって、吸入器10内において生成された吸入を検知するように構成されている。吸入が検知されると、制御ユニット6は、粉末センサ4の読み取り値を用いて前記吸入において吸入マウスピース3を通過する空気中に浮遊する固体粒子の投与量を推定することを担う。
【0071】
制御ユニット6は、例えば下部32などの実際の吸入マウスピース3内に収容されてもよい。あるいは、制御ユニット6は図2および図3に示すように、吸入マウスピース3に取り付けられたケーシング2内に収容されてよい。この場合、吸入マウスピース3の内部からケーシング2の内部まで及ぶ配線42により、制御ユニット6は光学センサ40および気圧センサ5に接続されてよい。
【0072】
図2および図3に示すケーシング2は、吸入器10の本体15を受け入れる、および/または収容するために準備された基部20と、2つの側部(21、22)とを備える(本体15は吸入器の一部であり、マウスピース13またはボタン12を含まない)。吸入マウスピース3の下部32は、ケーシング2の基部20に接続され、吸入器13のマウスピースを少なくとも部分的に収容または支持することを可能にする形状を有する。これにより、吸入器10は垂直方向の挿入動作により、投与量測定デバイス1に容易に装着することが可能である。吸入器10の固定を容易にするために、投与量測定デバイス1は、ケーシング2内および/または吸入マウスピース3内に配置される固定手段を備えてよい。当該固定手段は、例えば、締め付け帯または締め付けゴムを導入するための吸入マウスピース3内に配置されたサイドリング33、または実際の吸入マウスピース3と一体の固定片34などがある。
【0073】
ケーシング2は単一の部品として製造されてよく、または互いに取り付けられた、複数の個々の部品から構成されてよい。ケーシング2の内部には異なる電子部品を収容してよく、このような部品の中に制御ユニット6がある。図6は、実施可能な実施形態に係る投与量測定デバイス1の電子部品に関するブロック図を描いている。ケーシング内に収容されたバッテリ7は、DC/DCコンバータ8(例えば、5Vブーストコンバータ)を介して制御ユニット6にエネルギーを供給し、当該制御ユニット6において一定、かつ決定された電圧レベルを確保する。制御ユニット6(または代替的に実際のバッテリ7)は、粉末センサ4および気圧センサ5に電力を供給する。バッテリ7は、好ましくは再充電可能バッテリであり、ケーシングの後部に位置する充電コネクタ25を介して充電することができる(図2E)。デバイスは、バッテリ充電回路を含んでよい。
【0074】
(例えばBluetooth(登録商標)モジュールまたはWi-Fi(登録商標)モジュールによって実装される)無線通信モジュール9は、制御ユニット6によって計算および/または編集された情報を送信するための制御ステーション(例えば、コンピュータ)またはモバイルデバイス50(例えば、スマートフォン)へのリモート接続を可能にする。例えば制御ユニット6は、Bluetooth(登録商標)モジュールを介してBluetooth(登録商標)によって接続されたモバイルデバイス50のアプリケーションに送信される吸入の履歴、および吸入された投与量の測定値を、内蔵メモリに記憶することができる。
【0075】
投与量測定デバイス1およびモバイルデバイス50アセンブリは、投与量測定システム60を形成してよい。当該投与量測定システム60において、投与量測定デバイス1は実行された吸入、および吸入された投与量の測定を実行し、モバイルデバイス50は前記データを監視し、確立された吸入治療法に遵守しているか否か、の情報を与える通知および/または警告52を送信することができる。当該通知および/または警告52は、モバイルデバイス50のディスプレイ上に表示される情報またはメッセージ、音声メッセージ、音響アラームまたは振動アラームなどを介して、モバイルデバイス50のユーザまたは患者に対して局所的に伝達されてよい。また、吸入治療法に遵守しているか否か、に関する情報は、リモートデバイスに伝達されてもよい。当該リモートデバイスは、例えば別のモバイルデバイスまたはインターネット接続を介したコンピュータであり、それによって他の人(患者の親族、医師、看護師など)が投与量測定デバイス1によって捕捉されたデータを入手し得る。
【0076】
代替的に、または追加的に、デバイスは、物理的に制御ユニット6に組み込むことができるメモリ16(EEPROM(登録商標)メモリ、フラッシュメモリ、マイクロSDカードなど)を備えてよい。メモリ16に記憶された情報は、ケーシング2の外側に位置する通信ポート24(例えば、USB、ミニUSBまたはマイクロUSBポート)を介してアクセス可能である。メモリカード(例えばマイクロSDカード)を使用して情報を記憶する場合、デバイスは例えばボタンを起動させることによって、メモリカードを直接的に検索することを可能にする。
【0077】
バッテリ7のエネルギー節約のために、制御ユニット6(例えば、マイクロコントローラ)は、エネルギー節約モードまたはスリープモードにおいて大半の時間、動作してよい。その場合は、制御ユニット6は、気圧センサ5から到来する圧力信号を使用して、マイクロコントローラをスリープモードから復帰させることが可能であり、スリープモードへと中断することも同様に可能である。例えば圧力信号が所与の閾値を超えると、制御ユニット6はスリープモードから復帰する(図6の信号17)。吸入マウスピース3が存在センサ45を組み込んでいる場合には、存在センサ45が起動された際に、スリープモードウェイクアップ信号(sleep mode wake-up signal)17を追加的に生成してよい。
【0078】
ユーザまたは患者が吸入を実行するとき、気圧センサ5が起動され、吸入圧力と大気圧との間の差圧を測定する。薬剤がデバイスの吸入マウスピース3を通過するとき、粉末センサ4は粒子の通過を検知し、吸引された気流における粉末密度の読み取り値を提供する。粉末センサ4の出力電圧のレベルは、使用される特定の粉末センサ4に応じたグラフまたは関数に従って、粉末密度を決定する。例えば、市販の粉末センサ4の3Vの出力は、0.4mg/mの粉末密度を示し得る。
【0079】
吸入マウスピース3の導管35を循環する吸入流量Qは、導管の断面Sを通過する流体の通過量Vに基づいて決定される。
【0080】
【数1】
吸引の通過量Vを決定する最重要な式は、以下の通りである:
【0081】
【数2】
Cを吐出係数とし、物質バランス定数β(値は0.2~0.75に含まれ、最初は0.4に設定され得る一次変数)を実験的に求め、膨張係数Yを次式により算出する:
【0082】
【数3】
断熱係数γは以下の変動範囲に基づいて、1.4の値を有すると仮定することができる:
【0083】
【数4】
上記の式において、Pは大気圧であり、Pは気圧センサ5によって読み取られる圧力であると仮定することができる。それによって気流の通過量V、およびそれに伴う流体の流量Qが特徴付けられる。
【0084】
(気圧センサ5の圧力信号を介して、吸気中に連続的に得られる)吸引流量(m/s)と(粉末センサ4の出力信号を介して各時点に得られる)粉末密度(mg/m)とを組み合わせて、各時点に導管35を循環する固体粒子の質量流量(mg/s)が決定される。吸入が持続する時間の間に前記質量流量を積分することによって、吸入される固体粒子の質量(mg)が得られ、使用される特定の各医薬品の活性成分と賦形剤との間の比率に応じて、患者が吸入した医薬品活性成分の投与量に、直接変換することができる。
【0085】
図7A、7Bおよび7Cは、製造中に吸入器のマウスピース73に既に取り付けられた粉末センサ4および気圧センサ5を組み込んだ(乾燥粉末または加圧)吸入器70の、様々な外観を描いている。したがってこの場合、吸入マウスピース73は、吸入器70の一体部分である。
【0086】
図8は、図6と均等な図を示しており、当該図において、投与量測定デバイス1は、基本的に図7の吸入器70と置き換えられている。モバイルデバイス50および吸入器70のアセンブリは、図6において説明したように、投与量測定システム80を形成してよい。
【0087】
図9は本発明に係る、乾燥粉末吸入器および加圧吸入器の両方によって放出される投与量を測定するための投与量測定方法100のフローチャートを描いている。投与量測定デバイス1(図2~6)または吸入器70(図7~8)によって実行される方法は、以下の工程を含む:
-吸入マウスピース(3;73)の排気導管35内の空気の圧力を測定するステップ102。マウスピースは、(吸入器10のマウスピース13の解放された端、または吸入器用のスペーシングチャンバのマウスピースの解放された端に連結される)投与量測定デバイス1の吸入マウスピース3、吸入器70のマウスピース73(例えば図7に示されるもの)、または吸入器用のスペーシングチャンバのマウスピースに対応してよい。
【0088】
-吸入マウスピース(3;73)の排気導管35内部の空気の圧力を分析することによって、吸入を検知するステップ104。吸入の始まりは、例えば(例えば所与の閾値よりも大きい)所与の範囲内の排気導管内部の空気圧を検知することによって、検知することができる。
【0089】
-吸入マウスピースの排気導管35内部の空気中に浮遊する固体粒子の密度を測定するステップ106。吸入マウスピースが1つまたは複数の存在センサ45を含む場合、本方法は、必要な事前条件として存在センサの起動を確認する工程105を含んでよい。それにより、空気中に浮遊する固体粒子の密度を測定する工程106は、全ての存在センサの吸入および起動が検知されたときにのみ実行される。
【0090】
-検知された吸入における、排気導管35を通過する吸入空気39中に浮遊する固体粒子の投与量を計算するステップ108。
【0091】
図10のダイアグラムは、投与量測定方法100の一実施形態に係る、吸入における排気導管35を通過する固体粒子の投与量の計算108を詳細に描いている。計算は特に、以下の工程を含む:
-粉末センサ4を読み取りによって、吸気中の排気導管35内部の固体粒子の密度を(例えば、g/mにおいて)決定するステップ110。
【0092】
-気圧センサ5の圧力信号を用いて、吸入中に排気導管35を通過する空気の体積流量を(例えば、m/sにおいて)計算するステップ112。
【0093】
-吸気中に排気導管35を通過する固体粒子の質量流量を(例えば、g/sにおいて)決定するステップ114。
【0094】
-吸入が継続するときの質量流量を積分し、吸入の際に排気導管35を通過する投与量を(例えば、gにおいて)得るステップ116。
【0095】
所与の期間に排気導管35を通過する固体粒子の投与量を計算するために、図10と同じプロセスが使用される。当該プロセスにおいては、固体粒子の密度、排気導管35を通過する気流、および質量流量が前記期間中に複数のサンプリング時点において計算され、質量流量は、前記期間中に排気導管を通過する固体粒子の投与量を得るための前記期間において積分される。考慮される期間は、気圧センサ5によって検知される吸入の時間であってよい。
【0096】
粉末センサ4と気圧センサ5とを組み合わせた情報を使用して、投与量測定デバイス1は、吸入時に排気導管35を通過する固体粒子の投与量を計算することができるだけでなく、吸入時に肺内に分配される薬剤の総投与量を推定することもできる。図11Aおよび12Aは、例として、乾燥粉末吸入器および加圧吸入器における吸入中に生成される吸気のグラフを、それぞれ描いている。両方のグラフは、吸気流量と、排気導管35を通過する薬剤質量とを含む。加圧吸入器(図12A)を用いて吸入を実行した場合、医薬品の放出の時点Pがあり、当該医薬品の放出の時点Pにおいて、吸入器が高圧において全投与量を突然(通常数ミリ秒において)放出するため、前記医薬品の放出の時点Pに、図12Aに示す圧力ピークが一時的に生じる。乾燥粉末吸入器(図11A)を用いて吸入を実行する場合、前記吸入器によって生成される前記の突然の圧力ピークは、存在しない。
【0097】
制御ユニット6は、異なるサンプリング時点tにおいて、吸気流量および薬剤量を計算する。図11Aおよび12Aは例示的に、わずか4つのサンプリング時点を表しているに過ぎない。しかしながら通常数秒間続く吸入の間、制御ユニットは、数千のサンプリングを実行することができる。連続するサンプリング時点(ti-1、t)の間の時間、すなわちサンプリング期間pは、好ましくはミリ秒のオーダー(例えば10ミリ秒ごと)であるか、またはマイクロ秒のオーダーでさえある。したがって、図11Aおよび12Aにおけるサンプリング期間pは、縮尺において表現されず、むしろ、それを詳しく見ることができるように大幅に拡大されている。
【0098】
図11Bおよび図12Bは、吸気流量に応じて肺内の薬剤の分配を推定するために使用されるグラフを示し、当該グラフは特に、対応するサンプリング時点tにおける気流Xの値に応じて流量分配係数Kを得るために使用される。一実施形態においては、制御ユニット6は、以下のように構成される:
-気圧センサ5の圧力信号を用いて、吸気中の複数のサンプリング時点tにおける排気導管35を通過する気流Xを計算する。
【0099】
-サンプリング時点tごとに、対応するサンプリング時点tにおける気流Xの値に応じた流量分配係数Kを取得する。
【0100】
-流量分配係数に基づいて修正された排気導管35を通過する固体粒子の投与量から、吸入中の肺内に分配される薬剤の総投与量Zを推定する。
【0101】
図11Bは、乾燥粉末吸入器内において吸入が行われる場合の、吸入流量に依存する肺内の薬剤の分配の推定グラフを示す。流量分配係数Kは縦軸に表す。一実施形態において、流量分配係数Kは気流X(l/s)に応じて、肺に到達すると推定される排気導管35を通過する粒子のパーセンテージである。より低い吸気流量Xに関しては、必要とされるインパルスの欠如のために、大量の粒子が肺に到達しないと推定される。同様に、吸気流量Xが非常に高い場合、多数の粒子が咽喉に衝突し、過剰なインパルスのために肺に到達しない可能性があると推定される。
【0102】
流量分配係数Kと気流量dとの比率は各吸入器の特性に大きく依存するが、これは各吸入器が異なる気流において動作し、より高い、またはより低い粒子分配比率を有する粒子ビームを有するからである。さらに、吸入を実行する被験者の特性も影響し得る(人種、体重、性別、身長などの因子が、考慮され得る)。医薬品の粒径も、前記比率を変更し得る。したがって、流量分配係数Kと気流量との間の比率は、例えば吸入器の正確な係数を得るために吸入を行う患者に対して生体内研究を実行することにより、吸入器の以前の研究に基づいて経験的に得られる。さらに人工知能アルゴリズムにより、(患者に対する実際の研究に基づいて、各個人から複数のパラメータを集めながら)吸入を実行する者の因子を考慮しなければならないか否か、を推定することができる。
【0103】
一実施形態においては、乾燥粉末吸入器における吸入の場合(図11Aおよび11B)、制御ユニット6は以下のように構成される:
-サンプリング時点tごとに、サンプリング期間pの間に排気導管を通過する固体粒子の投与量Yを計算する。
【0104】
-各サンプリング時点tにおける、肺内に分配される薬剤の投与量Zを、対応するサンプリング時点tにおける流量分配係数Kによって修正された、排気導管を通過する固体粒子の投与量Yから推測する。したがって、流量分配係数Kが排気導管35を通過して肺に到達すると推定されるパーセンテージである場合には、Z=K・Yの関係が保持される。
【0105】
-吸入に対応するサンプリング時点tにおける、肺内に分配される薬剤の投与量Zを合計することによって、吸入における肺内に分配される薬剤の総推定投与量Zを計算する。
【0106】
【数5】
吸入操作は、吸入マウスピース内において生成される、一連の複数の吸入および呼出を含み得る。したがって制御ユニット6は、排気導管35内部の空気の圧力を分析することによって、吸入マウスピース内において生成される一連の複数の吸入および呼気を含む吸入操作を検知し、吸入に対応するサンプリング時点tにおける肺内に分配される薬剤の投与量Zを合計し、呼気に対応するサンプリング期間p中に排気導管を通過する固体粒子の投与量Yを減算することによって、吸入操作において肺内に分配される薬剤の総推定投与量Zを計算するように、さらに構成されてよい。呼出の流量の方向は、吸入の方向と反対であり、前記粒子は肺に到達しないので、呼気中に排気導管を通過する固体粒子の投与量は、その結果割り引かれる。このタイプの測定は、スペーシングチャンバを使用して肺内の薬剤の分配を分析するときに使用可能である。
【0107】
図12Bは、加圧吸入器内において実行された吸入の、流量分配係数Kを求めるためのグラフを示す。すなわち、図12Bのグラフは、医薬品の対応する放出(医薬品の放出の時点P)後のサンプリング時点tにおける流量分配係数Kから、放出後流量分配係数KPOSTを得ることを可能にする。一実施形態によると、制御ユニット6は以下のように構成される:
-吸入中の少なくとも1回の医薬品の放出(医薬品の放出の時点P)を検知する。例えば、所与の閾値より大きいサンプリング期間p中に排気導管を通過する固体粒子の投与量Yを検知することによって、および/または所与の閾値より大きい排気導管35を通過する気流Xを検知することによって、医薬品の各放出は検知され得る。
【0108】
-医薬品の放出ごとに、対応する医薬品の放出後(すなわち、対応する医薬品の放出の時点Pの後)のサンプリング時点tにおける流量分配係数Kから、放出後流量分配係数KPOSTを得る。
【0109】
-対応する放出後流量分配係数KPOSTによって修正された、医薬品の放出ごとの排気導管を通過する固体粒子の投与量Yから、吸入中の肺内に分配される薬剤の総推定投与量Yを計算する。一実施形態においては、放出後流量分配係数KPOSTは、肺に到達すると推定される、排気導管35を通過する粒子のパーセンテージによって表される。(Z=KPOST・Y
一実施形態においては、放出後流量分配係数KPOSTは、流量分配係数Kを、より高い気流Xhighおよびより低い気流Xlowによって決定される許容流量範囲(Klow-Khigh)と比較することによって得られる。KhighとKlowとは、許容可能な流量範囲の境界となる。制御ユニット6は許容流量範囲(Klow-Khigh)に対する流量分配係数Kの偏差を検知し、当該検知した偏差の継続時間および/または強度から放出後流量分配係数KPOSTを得る。
【0110】
一実施形態においては、制御ユニット6は、さらに以下のように構成される:
-医薬品の放出ごとに、医薬品の当該放出から医薬品の新たな放出まで、または排気導管(35)を通過する気流(X)が所与の気流閾値(XMIN)未満になるまで測定された、放出後吸入の持続時間(TPOST)を得る。
【0111】
-対応する放出後吸入の持続時間TPOSTと、吸入閾値TMINとを比較することにより、薬品の放出ごとに時間分配係数Cを取得する。図12Bにおいて、TMINによってマークされた許容可能なタイムラインが、ロスが生じない最小限の吸入時間である(例えば、7秒間の吸入は許容可能な時間と見なされ得る)。
【0112】
-対応する時間分散係数Cによってさらに修正された、医薬品の放出ごとの排気導管を通過する固体粒子の投与量Yから、吸入中の肺内に分配される薬剤の総推定投与量Zを計算する。したがって、放出後流量分配係数KPOSTと時間分配係数Cとの両方が、肺に到達すると推測される、排気導管35を通る粒子へのパーセンテージ単位の寄与を表している場合、Z=KPOST・C・Yが成立するだろう。
【0113】
図12Cは医薬品の放出に先立つ時点(すなわち、医薬品の放出の時点Pの前)における気流速度の条件から、放出前流量分配係数KPREを得るためのグラフを示す。一実施形態においては、前記放出前の条件が、肺における医薬品の分配にも寄与すると考えられる。そのために、制御ユニット6は、好ましくは以下のように構成される:
-医薬品の放出ごとに、対応する医薬品の放出時に、好ましくは対応する医薬品の放出に先立つ時点に、排気導管35を通過する放出前気流Xを計算する。前記瞬間は、好ましくは医薬品の放出の時点Pの直前(または直後でも)のサンプリング時間tにおいて計算されるが、医薬品の放出の時点Pに近い別のサンプリング時間t、または医薬品の放出の時点Pに近い複数の異なるサンプリング時間tにおいて実行される複数の測定の平均が考慮され得る。
【0114】
-医薬品の放出ごとに、対応する放出前気流Xの値に応じた放出前流量分配係数KPREを得る。
【0115】
-対応する放出前流量分配係数KPREによってさらに修正された、医薬品の放出ごとの排気導管を通過する固体粒子の投与量Yから、吸入中の肺内に分配される薬剤の総推定投与量Zを計算する。したがって、放出後流量分配係数KPOSTと放出前流量分配係数KPREとの両方が、肺に到達すると推測される、排気導管35を通る粒子へのパーセンテージ単位の寄与を表していると考えられる場合、Z=KPOST・KPRE・Yが成立するだろう。さらに、時間分配係数Cを考慮すると、Zは、Z=KPOST・KPRE・C・Yのように計算される。
【0116】
したがって、最適な(放出後および放出前の)気流の条件と、最小吸入時間(TMIN)の条件とを満たさないものはすべて、補正係数(必ず1未満)を有し、すべての放出された薬剤の測定量Yは、最終的にどれくらいの量が肺に到達したかを推定するために乗算される。
【0117】
これにより、投与量測定デバイス1は、加圧された吸入器における吸入の質をチェックすることが可能である。患者が放出後の吸入中に、許容可能な流量範囲内に留まる場合、基本補正係数が適用される。吸入時間が、それがあるべき時間よりも短い場合には、流量補正係数とは独立した、時間補正係数が適用される。吸入が許容可能な流量範囲内にない場合、吸入が前記範囲外にあった時間の量、および逸脱の程度がどのくらいであったか、が計算され、それによって、時間補正係数を修正することがない、流量補正係数が得られる。
【0118】
また、デバイスは放出前の効果(KPREで表される)と、放出後の効果(KPOSTとCとで表される)を個別に計算し、両方の結果を組み合わせることもできる。放出前の効果は、咽頭に衝突するために吸入されることが不可能な薬剤の量を考慮する。吸入後の効果は、吸入の質を測定し、利用可能な薬剤のうちのどのくらいが、実際に肺に到達するかを決定する。
【0119】
一例として、放出前気流が30リットル/分であると仮定すると、咽頭との衝突のために、送達された薬剤の80%のみが利用可能である。従って、100μgが送達された場合、80μgのみが吸入に利用可能である。時間補正(C)を有する放出後効果と、流量補正(KPOST)との計算は、元来の100μgに対してではなく、放出前の後において利用可能な80μgに対して実行される必要がある。ある吸入の流量が、常時(Xlow-Xhigh)の範囲内であり、持続時間が規定された最短時間(TMIN)に達する場合、薬剤の90%が肺に到達すると考えられ、すなわち肺には72μg蓄積することを意味する。吸入が完全でない場合は、時間補正係数Cまたは流量補正係数KPOSTを導入し、完全であると推定された場合の吸入に適用する必要がある。例えば、仮に吸入の質が必要とされるものよりも1秒短く、吸入が行われている時間の10%の間、流量が10%~20%、許容範囲よりも低い場合、時間に関連したロスは0.5秒間に対して追加の5%であり、流量に関連したロスは追加の15%としよう。
【0120】
これは、最終的な蓄積を70%(完全に行われたとしても10%失われ、5%の時間に関連したロス、15%の流量に関連したロス)にする。従って、元来の100μgが使用され、放出前流量のためにまず80μgの有効最大値まで減算され、そして、その70%のみが肺に到達するため、肺に到達する薬剤は54μgになるだろう。
【0121】
デバイスはまた、吸入マウスピースの外面に結合され、吸入マウスピースとユーザの口との接触を検知するように構成された、(少なくとも1つの圧力センサ、少なくとも1つの光センサ、少なくとも1つのインピーダンスセンサ、またはそれらの組合せによって実装される)少なくとも1つの存在センサを備えてよく、その結果、制御ユニット6はすべての存在センサが吸入中にユーザの口の接触を検知したときに、検知された吸入を記録する。仮に、全てではなく、一部の存在センサのみが作動される場合、薬剤が適切に分配されることを保証するのは不可能であり、したがって、患者がデバイスを口内に正しく配置したかどうか、または患者が何らかの薬剤を受け取ったかどうかを認知することが不可能であるため、薬剤の分配を推定することは不可能である。これにより、例えば吸入器がポケット内において運搬される場合など、誤った吸入または偶発的な排出がカウントされることを防ぐ。
【0122】
図13Aおよび13Bは、それぞれ、医薬品の複数の放出を伴うか、または医薬品の長期放出を伴う加圧吸入器の、特定の場合を示す。
【0123】
図13Aの例においては、ユーザの同一の吸入中に生じる医薬品の放出の時点Pが、複数ある。医薬品の投与量の計算は、単回放出について説明したものと同じであり(図12A)、医薬品の放出の各時点Pについて、吸入に先だった流量補正係数(KPREi)と、流量係数(KPOSTi)および時間係数(CTi)から計算された吸入後補正係数とが計算される。医薬品の各放出Pにおいて、吸入器によって放出される薬剤(すなわち、医薬品の各放出において排気導管を通過する固体粒子の投与量YTi)が測定されるが、それは、吸入器によって放出される薬剤が、各放出において同じではないかもしれないからである。医薬品の各放出について、肺に到達すると推定される投与量が計算されると、肺に分配される薬剤の総投与量Zが、各放出についての投与量の合計として得られる。
【0124】
したがって、図13Aの実施例によれば、医薬品が放出される4つの時点(P、P、P、P)がある。それぞれの放出Pにおける、肺に分配される薬剤の投与量Zは、以下のように計算される:
=KPOSTi・KPREi・CTi・YTi
【0125】
そして、肺に分配される薬剤の総投与量Zは、以下のように計算される:
【0126】
【数6】
医薬品の放出が時間的に延長された(すなわち、通常の数ミリ秒の代わりに数秒間生じる)加圧吸入器に対応する図13Bの例に関して、計算は通常の加圧吸入器と同じであるが、時点Pにおける医薬品の放出だけでなく、サンプリング期間p中に排気導管を通過する固体粒子の投与量Yが0になるまで、全てのサンプリング時点tにおいて測定される投与量も考慮する必要がある。
【0127】
前述のように、投与量測定デバイス1の吸入マウスピース3は、対応する固定手段を用いて、吸入器用のスペーシングチャンバのマウスピースの解放された端に連結可能であってよい。別の実施形態においては、吸入マウスピースは吸入器用のスペーシングチャンバの、一体化された部分である。図14は、製造中に粉末センサ4および気圧センサ5を組み込んだスペーシングチャンバ90を示しており、それらはスペーシングチャンバ90のマウスピース93内に設置されている。スペーシングチャンバ90は、さらに吸入器10に連結されている。スペーシングチャンバ90のマウスピース93に設置された粉体センサ4および気圧センサを介して、投与量測定デバイス1は、検知された吸入においてマウスピース93の排気導管を通過する固体粒子94の投与量を計算し、さらに、図11および図12において説明された、流量分配係数(K)および/または時間分配係数Cを考慮して、肺に有効に到達する量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
図1】本発明のデバイスを連結可能な、最新技術の一般的な吸入器を示す。
図2A】本発明の一実施形態による吸入器用投与量測定デバイスの、複数の視点からの図である。
図2B】本発明の一実施形態による吸入器用投与量測定デバイスの、複数の視点からの図である。
図2C】本発明の一実施形態による吸入器用投与量測定デバイスの、複数の視点からの図である。
図2D】本発明の一実施形態による吸入器用投与量測定デバイスの、複数の視点からの図である。
図2E】本発明の一実施形態による吸入器用投与量測定デバイスの、複数の視点からの図である。
図3】吸入器に連結された本発明に係る投与量測定デバイスを示す。
図4A】吸入マウスピースの前部の、複数の視点からの図である。
図4B】吸入マウスピースの前部の、複数の視点からの図である。
図5】投与量測定デバイスの斜視図であり、吸入マウスピースの内部に取り付けられた粉末センサの構成要素を観察できる図である。
図6】投与量測定デバイスの電子部品、および外部モバイルデバイスとの、それらのワイヤレス接続のダイアグラムを示す。
図7A】吸入器のマウスピース内に粉末センサ、および気圧センサを製造中に組み込んだ吸入器の側面図を示す。
図7B】吸入器のマウスピース内に粉末センサ、および気圧センサを製造中に組み込んだ吸入器の正面図を示す。
図7C】吸入器のマウスピース内に粉末センサ、および気圧センサを製造中に組み込んだ吸入器の斜視図を示す。
図8図7の吸入器の電子部品、および外部モバイルデバイスとの、それらのワイヤレス接続のダイアグラムを示す。
図9】本発明に係る吸入器によって放出される投与量を測定するための、投与量測定方法のフローチャートを示す。
図10】吸入器によって放出される固体粒子の投与量の計算が、実施可能な実施形態に従って、どのように実行されるかを詳細に表したフローチャートを含む。
図11A】乾燥粉末吸入器において吸入中に生成される吸気のグラフを描写している。
図11B】吸気流量に応じて肺内における薬剤の分配を推定するために使用されるグラフを描写している。
図12A】加圧吸入器における吸入中に生成される吸気のグラフを示す。
図12B】医薬品の放出後の吸気流量に応じて、肺における薬剤の分配を推定するために使用されるグラフを示す。
図12C】医薬品の放出前の吸気流量に応じて、肺における薬剤の分配を推定するために使用されるグラフを示す。
図13A】2回以上の医薬品の放出を伴う加圧吸入器の実施例を示す。
図13B】医薬品の長期放出を伴う加圧吸入器の実施例を示す。
図14】スペーシングチャンバのマウスピースに取り付けられた投与量測定デバイスを組み込んだ、スペーシングチャンバを示す。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14