(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】といし測定手段及びそれを用いたドレス実施システムと研削盤
(51)【国際特許分類】
B24B 49/18 20060101AFI20240611BHJP
B24B 49/08 20060101ALI20240611BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240611BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20240611BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20240611BHJP
B24B 53/12 20060101ALI20240611BHJP
B24B 47/22 20060101ALI20240611BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B24B49/18
B24B49/08
B24B49/10
B24B5/04
B24B53/00 A
B24B53/12 Z
B24B47/22
B23Q17/22 D
B23Q17/22 Z
(21)【出願番号】P 2023068345
(22)【出願日】2023-04-19
【審査請求日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 4年 4月20日 シギヤ精機製作所のショールームにてデモンストレーションの実施 令和 4年 5月12日 シギヤ精機製作所のショールームにてデモンストレーションの実施 令和 4年11月 8日 JIMTOF2022にて展示 令和 4年 9月29日 ツールエンジニア2022年10月号、42~45頁に掲載 令和 4年10月28日 ツールエンジニア2022年11月号、16~17頁に掲載 令和 5年 2月25日 機械技術2023年3月号、35~39頁に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】593127027
【氏名又は名称】株式会社シギヤ精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 智明
(72)【発明者】
【氏名】永尾 公壮
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-014462(JP,A)
【文献】特開平10-206141(JP,A)
【文献】特開平07-256542(JP,A)
【文献】特開2001-038619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00 - 53/14
B24B 47/22 - 47/25
B24B 49/18
B23Q 17/22 - 17/24
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削盤に用いるといし測定手段であって、
研削盤に装着しているといしの研削面の位置を測定する非接触式の第1センサと、
前記といしの研削面の位置を測定し、前記第1センサよりも測定距離が短く、かつ測定精度の高い非接触式の第2センサとを備え、
前記第1センサと前記第2センサとにより、2段階で前記といしの研削面の位置を測定可能にし
、
前記第1センサ及び前記第2センサの各センサの検出面との対向部と、前記といしのドレスに用いるドレッサが本体と一体になっていることを特徴とするといし測定手段。
【請求項2】
研削盤に用いるといしのドレスを実施するためのドレス実施システムであって、
前記研削盤は、前記といしとワークとが相対的に移動可能であり、
前記ドレスを行うドレッサと、
といし測定手段と、
制御手段とを備えており、
前記相対的な移動により、前記といしと前記ワークとの対向距離が調整される方向をX軸方向、前記X軸方向と直交する方向をZ軸方向とすると、
前記といし測定手段は、
前記といしとの間で、相対的にX軸方向及びZ軸方向に移動可能であり、
研削盤に装着しているといしの研削面の位置を測定する非接触式の第1センサと、
前記といしの研削面の位置を測定し、前記第1センサよりも測定距離が短く、かつ測定精度の高い非接触式の第2センサとを備え、
前記第1センサと前記第2センサとにより、2段階で前記といしの研削面の位置を測定可能にしたものであり、
前記制御手段は、
前記といしに対向させた前記第1センサで、前記といしの研削面の位置を測定した後、前記といしに対向させた前記第2センサで、前記といしの研削面の位置を測定し、
前記相対的な移動により、前記第2センサによる測定時には、前記第2センサと前記といしとの対向距離を、前記第1センサによる測定時における前記第1センサと前記といしとの対向距離よりも短くすることを特徴とするドレス実施システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2センサによる前記といしの研削面の位置の測定に基づいて、前記ドレスの開始時における前記といし及び前記ドレッサの座標を設定し、前記座標の位置から前記ドレッサによりドレスを実施させ、ドレス実施後に、ワーク加工時の基準となる前記X軸の座標系の設定であるX軸座標系設定を行う請求項
2に記載のドレス実施システム。
【請求項4】
前記ドレスの開始時における座標の設定、前記ドレスの実施及び前記X軸座標系設定の3つの工程から任意の工程を選択でき、選択した任意の工程までを実施して終了させるようにした請求項3に記載のドレス実施システム。
【請求項5】
請求項
2から
4のいずれかに記載のドレス実施システムを備えた研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤に用いるといしについて、といしの研削面の位置の測定を、高精度かつ自動的に行うことができるといし測定手段及びそれを用いたドレス実施システムと研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
研削盤に用いるといしは、交換時等にドレッサにより、研削面の目直しや形直しを行うドレスが実施される。ドレス時のドレス座標の設定は、作業者が目視でといしとドレッサ接触させるティーチング作業により行うことができる。しかし、ティーチング作業は、といしとドレッサが接触するドレスポイントを目視するため、装置の中に身体が入り込む場合もあり安全面の懸念があった。また、人手による作業は時間がかかるだけでなく、といしとドレッサを衝突させないためには高い熟練度が求められていた。
【0003】
前記の問題は、ドレス時だけでなく、ワークの研削開始時においても同様である。このため近年では、非接触式のエアセンサを用いて、といし径を検出することにより、ティーチング作業を省いた自動化の試みが提案されている。例えば特許文献1、2に記載の自動研削装置においては、エアセンサの空気噴射ノズルからといしに向かって空気を吹き付けて、といし径を検出するようにしている。このことにより、作業者がティーチング作業を行うことなく研削加工を開始できることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-110893号公報
【文献】特開2018-34297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エアセンサは測定距離が短く、使用状態によるといし径の変化の大きい一般といしの測定には適していなかった。具体的には、一般といしを新たな一般といしに交換した場合、一般といしはといし径の変化が大きく、といし径が不明であるため、といしと空気噴射ノズルとの干渉を防ぐには、といしの初期位置は、といしの研削面が空気噴射ノズルから十分離れた位置に設定する必要があった。
【0006】
この場合、といしを空気噴射ノズルに近づける速度が速いと、といしの行き過ぎによる流れ込みにより、測定精度が低下する懸念があった。したがって、エアセンサで一般といしのといし径を検出するには、といしを十分離れた位置から、徐々に空気噴射ノズルに近づける必要があった。この方法では、測定完了までに非常に長い時間を要するので、エアセンサによるといし径の検出は、対象がCBNホイール等のといし径変化の小さい超砥粒ホイールに限られていた。
【0007】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、高精度ではあるが測定距離の短い非接触式のセンサによるといしの研削面の位置の検出を、一般といしにも適用可能としたといし測定手段及びそれを用いたドレス実施システムと研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のといし測定手段は、研削盤に用いるといし測定手段であって、研削盤に装着しているといしの研削面の位置を測定する非接触式の第1センサと、前記といしの研削面の位置を測定し、前記第1センサよりも測定距離が短く、かつ測定精度の高い非接触式の第2センサとを備え、前記第1センサと前記第2センサとにより、2段階で前記といしの研削面の位置を測定可能にしたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、高精度ではあるが測定距離の短い第2センサを有効に活用できる。具体的には、第1センサでといしの研削面の位置を測定した後は、といしの送り速度を高めて素早くといしを、第2センサのうち検出面(研削面)との対向部に近接し、かつ当該対向部に干渉しない位置まで送ることができる。この後は、第2センサを用いて、といしの研削面の位置を高精度に測定可能になる。すなわち、本発明のといし測定手段を用いれば、交換時のといしの径が不明であっても、といしと、第2センサのうち研削面との対向部との干渉を防止して、短時間でといしの研削面の位置を高精度に測定可能になる。このため、本発明は、使用状態による寸法変化の大きい一般といしのドレス実施の際にも適用可能となる。また、本発明はといし交換時だけではなく、大型機等の熱変形の大きな機械の場合は、コールドスタート時のドレス実施にも有効になる。
【0010】
前記本発明のといし測定手段においては、前記第1センサ及び前記第2センサの各センサの検出面との対向部と、前記といしのドレスに用いるドレッサが本体と一体になっていることが好ましい。この構成によれば、本体のうちドレッサに近い部位に、各センサの検出面との対向部を配置できるので、熱変形などがあっても、ドレッサと当該対向部との位置関係が変化しにくくなるようにすることができる。あわせて、本発明のといし測定手段の既存の装置への取り付けも容易になる。
【0011】
本発明のドレス実施システムは、研削盤に用いるといしのドレスを実施するためのドレス実施システムであって、前記研削盤は、前記といしとワークとが相対的に移動可能であり、前記ドレスを行うドレッサと、といし測定手段と、制御手段とを備えており、前記相対的な移動により、前記といしと前記ワークとの対向距離が調整される方向をX軸方向、前記X軸方向と直交する方向をZ軸方向とすると、前記といし測定手段は、前記といしとの間で、相対的にX軸方向及びZ軸方向に移動可能であり、研削盤に装着しているといしの研削面の位置を測定する非接触式の第1センサと、前記といしの研削面の位置を測定し、前記第1センサよりも測定距離が短く、かつ測定精度の高い非接触式の第2センサとを備え、前記第1センサと前記第2センサとにより、2段階で前記といしの研削面の位置を測定可能にしたものであり、前記制御手段は、前記といしに対向させた前記第1センサで、前記といしの研削面の位置を測定した後、前記といしに対向させた前記第2センサで、前記といしの研削面の位置を測定し、前記相対的な移動により、前記第2センサによる測定時には、前記第2センサと前記といしとの対向距離を、前記第1センサによる測定時における前記第1センサと前記といしとの対向距離よりも短くすることを特徴とする。
【0012】
本発明のドレス実施システムは、前記本発明のといし測定手段と同一構成のといし測定手段を備えているので、交換時のといしの径が不明であっても、といしと、第2センサのうち研削面との対向部との干渉を防止して、短時間でといしの研削面の位置を高精度に測定可能になる。
【0013】
前記本発明のドレス実施システムにおいては、前記制御手段は、前記第2センサによる前記といしの研削面の位置の測定に基づいて、前記ドレスの開始時における前記といし及び前記ドレッサの座標を設定し、前記座標の位置から前記ドレッサによりドレスを実施させ、ドレス実施後に、ワーク加工時の基準となる前記X軸の座標系の設定であるX軸座標系設定を行うことが好ましい。この構成によれば、ドレスの開始時の座標設定、ドレス、ワーク加工時の基準となるX軸座標系設定といった一連の工程を連続的に実施するので、作業時間の短縮化を図ることができる。
【0014】
また、前記ドレスの開始時における座標の設定、前記ドレスの実施及び前記X軸座標系設定の3つの工程から任意の工程を選択でき、選択した任意の工程までを実施して終了させるようにしていることが好ましい。このような工程選択を可能にしていることにより、作業者の作業に対する自由度が向上し、作業者のノウハウを生かした作業が可能になる。
【0015】
さらに、本発明の研削盤は、前記各本発明のドレス実施システムを備えているので、交換時のといしの径が不明であっても、といしと、第2センサのうち研削面との対向部との干渉を防止して、短時間でといしの研削面の位置を高精度に測定可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は前記のとおりであり、要約すれば、本発明のといし測定手段を用いれば、交換時のといしの径が不明であっても、といしと、第2センサのうち研削面との対向部との干渉を防止して、短時間でといしの研削面の位置を高精度に測定可能になり、本発明のといし測定手段を備えたドレス実施システムや研削盤においても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る研削盤の要部を示す外観斜視図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るといし測定手段の拡大斜視図。
【
図3】
図1に示した研削盤の要部の平面図にブロック図を追加した図。
【
図4】本発明の一実施形態において、初期設定から研削実施のためのX軸座標系設定までの工程を示したフローチャート。
【
図5】本発明の一実施形態において、といし交換時のといしと、といし測定手段及び主軸台との位置関係を示した平面図。
【
図6】本発明の一実施形態において、噴射口と研削面とが対向した状態を示した平面図。
【
図7】本発明の一実施形態において、研削面を噴射口に近接させた状態を示した平面図。
【
図8】
図7の状態からといしが噴射口に向けて前進した状態を示した平面図。
【
図9】本発明の一実施形態において、ドレスを実施中の状態を示した平面図。
【
図10】本発明の一実施形態において、X軸座標系設定時におけるといしとワークとの関係を示す平面図。
【
図11】本発明の一実施形態において、工程選択画面の一例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る研削盤1の要部を示す外観斜視図を示している。
図1において、といし台2にといし3が搭載されており、といし3は研削面3bが露出した状態でといしカバー4で覆われている。テーブル5上に主軸台6と心押台7が搭載されている。主軸台6に設けた主軸センタ8と心押台7に設けた心押軸センタ9との間にワークW(
図3参照)が挟まれる。
【0019】
といし台2は、ワークWに向かう方向及びその逆方向であるX軸方向に移動可能である。X軸方向は、といし3とワークWとの対向距離が調整される方向であり、
図1に示した作業者側から見ると前後方向である。主軸台6及び心押台7はテーブル5と一体に、主軸センタ8及び心押軸センタ7の軸方向であるZ軸方向に移動可能である。Z軸方向は、X軸方向と直交する方向であり、
図1に示した作業者側から見ると左右方向である。この構成において、ワークWの研削は、といし台2をX軸方向に移動させて、回転中のといし3の研削面3bをワークWに当接させた状態で行い、テーブル5をZ軸方向に移動させることにより、研削対象面を変えることができる。
【0020】
図1において、研削盤1はといし測定手段10を備えている。といし測定手段10の本体11は支持体50を介してテーブル5に取り付けられており、テーブル5と一体にZ軸方向に移動可能である。
図2はといし測定手段10の拡大斜視図を示している。といし測定手段10は、本体11及びその内蔵部品で主要部を構成している。といし測定手段10の本体11は、ボルト15により支持体50(
図1参照)に取り付けられる。
【0021】
本体11の端面に非接触式の第1センサである超音波センサー30が取り付けられている。
図2は、センサカバー12を取り外した状態を図示しており、使用時には、センサカバー12は超音波センサー30を覆った状態でボルト13により本体11に取り付けられる。発振受信部31は、音波を発振し、対象物で反射した音波を受信する部分である。コネクタ32に電源供給やセンサ出力のためのケーブル(図示せず)が接続される。
【0022】
図2に示したように、といし測定手段10は、非接触式の第2センサであるエアセンサ20を備えている。エアセンサ20は、噴射口21、コネクタ22、エア流路23、エアホース24及びエアセンサ本体25で構成されている。噴射口21は、本体11の側面に形成されている。コネクタ22に接続したエアホース24を経てエア流路23に供給されたエアが噴射口21から噴出する。エアホース24はエアセンサ本体25に接続されており、エア入力コネクタ26に接続されたエアホース(図示せず)からのエアが供給される。エアセンサ本体25は、エア圧の検出部分であり、検出値は出力ケーブル27を経て制御手段60(
図3参照)に送られる。エアセンサ本体25の配置位置は、特に制限はないが、本実施形態では
図1に示したように、主軸台6の背面に配置している。
【0023】
超音波センサー30及びエアセンサ20は、といし3の研削面3bと各センサの検出面(研削面3b)との対向部との間の距離を測定するものであるが、詳細は後に説明するとおり、測定値に基づいて、といし3の研削面3bの位置を求めることができる。このため、本実施形態では、各センサによる測定のことを、といし3の研削面3bの位置の測定という。
【0024】
本体11からは、ドレッサ40が突出しており、ボルト14により本体11に固定されている。ドレッサ40は、といし3(
図1参照)の研削面3bの目直しや形直しであるドレスを行う工具である。
図2の例では、ドレッサ40は先端にダイヤモンドが埋め込まれたタイプであるが、他のタイプであってもよい。例えば本体11を大型化させて、ロータリドレッサを採用してもよい。
【0025】
図2に示したといし測定手段10は、本体11に超音波センサー30の発振受信部31(検出面との対向部)、エアセンサ20の噴射口21(検出面との対向部)及びドレッサ40の3つの手段が一体になったものである。この構成によれば、本体11のうちドレッサ40に近い部位に、各センサの検出面との対向部を配置できるので、熱変形などがあっても、ドレッサ40と当該対向部との位置関係が変化しにくくなるようにすることができる。あわせて、既存の装置への取り付けも容易になる。また、3つの手段が一体に移動する構成であれば他の構成であってもよく、例えば、テーブル5と一体の部材に3つの手段を取り付けたものであってもよく、研削盤1の構成部材に3つの手段を取り付けたものであってもよい。
【0026】
図3は、
図1に示した研削盤1の要部の平面図に、信号のやり取りを示すブロック図を追加した図である。図示の便宜のため、
図2に示したセンサカバー12の図示は省略している(
図5以降も同じ。)。制御手段60には、テーブル5の位置情報が入力され(信号線61)、あわせてといし3の中心軸3aの位置情報も入力される(信号線62)。また、制御手段60には、エアセンサ本体25の検出値と、超音波センサー30の検出値が入力される。
【0027】
制御手段60は、これらの位置情報及び検出値に基づいて、テーブル送りモータ70及びといし台送りモータ80の制御を行う。テーブル送りモータ70の制御により、テーブル5(
図1参照)と一体の主軸台6及び心押台7の位置制御が可能になる。この位置制御と同時に、といし測定手段10が位置制御され、主軸センタ8と心押軸センタ9との間に挟まれたワークWも位置制御される。
【0028】
研削盤1は、ワークWの加工だけでなく、詳細は後に説明するとおり、制御手段60の指令により、といし3の研削面3bのドレスを行い、ドレスの開始時におけるといし3又はドレッサ40の座標を設定し、この座標の位置からドレッサ40によりドレスを実施させ、ドレス実施後に、ワーク加工時の基準となるX軸の座標系の設定であるX軸座標系設定を行うことができる。したがって、研削盤1は、ドレス開始時における座標の設定、ドレスの実行及びX軸座標系の3つの工程を実行させるドレス実施システムを備えたものとしても認定可能である。
【0029】
図4は、本実施形態において、初期設定からワーク加工時の基準となるX軸座標設定までの工程を示したフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って、本実施形態について工程順に説明する。開始時には、必要な場合にのみ初期設定を行う(
図4のステップ100)。初期設定は、最初に1度実施しておけばよく、各センサが動くなどして位置関係が変わった場合に必要となる操作である。初期設定としては、ドレッサ40の座標設定、X軸座標系設定、エアセンサ20の校正及びセンサ基準位置設定が挙げられる。
【0030】
ドレッサ40の座標設定とは、ドレッサ40の先端位置の座標を設定することである。X軸座標系設定とは、ワーク中心の座標値を設定することである。エアセンサ20の校正とは、噴出するエアの圧力を距離として規定する作業のことである。この校正は、エアセンサ20の噴射口21と研削面3bとの間にシムを挟むことにより実施することができる。センサ基準位置設定は、超音波センサー30及びエアセンサ20による測定時に、各センサを研削面3bに対向させるときの各センサの位置を設定することである。
【0031】
初期設定が終わると、といし交換を行う(
図4のステップ101)。
図5はといし交換時のといし3と、といし測定手段10及び主軸台6との位置関係を示した平面図である。本図は、図示の便宜のためエアセンサ20(
図2参照)は、噴射口21のみを図示している(
図6以降も同じ)。本図に示したように、といし交換時には、といし3の中心軸3aは最後退位置にある。このため、といし3の研削面3bとドレッサ40の先端との間には十分な距離が確保されており、両者の干渉は起こらない。
【0032】
図5の状態では、初期設定に基づき、超音波センサー30はといし3の研削面3bと対向する位置にある。超音波センサー30の発振受信部31から音波が発振されており(矢印a)、といし3の研削面3bで反射された音波を発振受信部31で受信する。このことにより、発振受信部31と研削面3bとの間の距離s1が測定される(
図4のステップ102)。発振受信部31のX座標は固定値で既知であるため、距離s1の測定により、研削面3bのX座標が算出可能となる。また、既知の発振受信部31のX座標と、制御手段60(
図3)が認識している、といし3の中心軸3aのX座標により、中心軸3aと発振受信部31との間の距離d1も算出可能となる。距離d1の算出により、といし3の半径r1も算出可能となる。
【0033】
超音波センサー30による測定を終えると、テーブル5(
図1)と一体にといし測定手段10を、初期設定に基づいて、エアセンサ20の噴射口21が研削面3bに対向する位置まで移動させる(矢印b)。
図6は、噴射口21と研削面3bとが対向した状態を示している。この状態から、といし3を送り(矢印c)、
図7に示したように、といし3の研削面3bを噴射口21に近接させる(
図4のステップ103)。
【0034】
図7において、研削面3bと噴射口21との距離はs2である。距離s2は1mm程度であるが、図示の便宜のため誇張して図示している。
図7のように、研削面3bが噴射口21に接近したことにより、距離s2はエアセンサ20の検出距離に近づいた距離になっている。本実施形態においては、前記のとおり超音波センサー30により、研削面3bのX座標を算出できることに加え、噴射口21のX座標は固定値で既知である。このことにより、距離s2が1mm程度になるといし3の目標移動位置のX座標が算出可能となる。このため、といし3の前進速度を高めて素早くといし3を目標位置に移動させることができる。距離s2は、超音波センサー30の測定誤差を考慮して余裕を持たせた距離にしておけば、研削面3bが本体11に干渉することを防止することができる。
【0035】
図7のように、研削面3bと噴射口21との距離がs2になった状態から、といし3を送りながら(矢印c)、エアセンサ20による研削面3bの位置測定を行う(
図4のステップ104)。
図7の状態では、エアセンサ20の噴射口21と研削面3bとが対向しているので、噴射口21からのエアを研削面3bに吹き付けることができる。研削面3bが噴射口21に近づくにつれて、エアセンサ20内の圧力が変化し、この変化をエアセンサ本体25(
図2参照)が検出し、噴射口21から研削面3bまでの距離が測定可能になる。
図7の状態からといし3を噴射口21に近づけていき、噴射口21から研削面3bまでの距離s2が短くなり、距離s2がエアセンサ20の測定可能範囲内(例えば0.5mm以内程度)に達すると、当該距離が測定可能になる。測定可能範囲内に達したことはエアセンサ本体25の信号値で判断可能である。
【0036】
図8は、
図7の状態からといし3が噴射口21に向けて前進した状態を示している。この状態の距離s3は、エアセンサ20の測定可能範囲内であり、エアセンサ20は距離s3を測定している。噴射口21のX座標は固定値で既知であるため、距離s3の測定により、研削面3bのX座標が算出可能となる。また、既知の噴射口21のX座標と、制御手段60(
図3)が認識しているといし3の中心軸3aのX座標により、中心軸3aと噴射口21との間の距離d3も算出可能となる。距離d3の算出により、といし3の半径r2も算出可能となる。
【0037】
エアセンサ20で求めた距離s3は精度が高く、距離s3から求めた研削面3bのX座標も精度が高く、距離s3から求めたといし3の半径r2も精度が高い。といし3が移動しても、中心軸3aのX座標に半径r2を加算すれば、研削面3bのX座標が算出可能となる。この場合、半径r2の精度が高いので、得られる研削面3bのX座標は精度の高いものとなる。
【0038】
一方、ドレッサ40の先端のX座標は初期設定時に入力され既知であるため、制御手段60は、予め設定した手順に基づいて、といし3についてドレス開始の基準となるX座標をドレス座標として設定し、あわせてドレッサ40のZ座標をドレス座標として設定する(
図4のステップ105)。ドレッサ40のZ座標については、別途設けたといし3の端面検出用のセンサの測定値から算出したものでもよいが、ドレッサ40をZ軸方向に移動させたときのエアセンサ20の測定値の変化を検出して算出したものでもよい。このようなZ座標の検出は、予め制御手段60に手順を設定しておけば、自動検出が可能である。
【0039】
以上、ドレス座標設定までの工程について説明したが、初期設定が行われ、かつ予め制御手段60に各種手順が設定されていれば、人手を要する部分はなく、ドレス座標設定は自動実施が可能になる。
【0040】
ドレス座標が設定されると、既知のドレッサ40の先端のX座標から、研削面3bがドレッサ40に当接するまでの移動量が算出できる。したがって、といし3を研削面3bがドレッサ40に当接する位置までX軸方向に移動させ、設定したドレッサ40のZ座標を起点として、ドレッサ40をZ軸方向に移動させると、ドレスを実施することができる(
図4のステップ106)。
図9はドレスを実施中の状態を示している。本図の状態では、ドレッサ40の先端が研削面3bに当接している。ドレスの実施は、予め制御手段60に各種手順が設定されていれば、人手を要する部分はなく、自動実施が可能になる。
【0041】
以上、といし交換からドレスの実施までの工程を説明したが、本実施形態は、測定距離の長い非接触式のセンサである超音波センサー30と、超音波センサー30よりも測定距離が短く、かつ測定精度の高い非接触式のエアセンサ20を用いて、2段階でといし3の研削面3bの位置を測定するというものである。この構成によれば、超音波センサー30でといし3の研削面3bの位置を測定した後は、といし3の送り速度を高めて素早くといし3を、エアセンサ20の噴射口21(検出面との対向部)に近接し、かつ噴射口21に干渉しない位置まで送ることができる。この後は、エアセンサ20を用いて、といし3の研削面3bの位置を高精度に測定可能になる。
【0042】
すなわち、本実施形態によれば、交換時のといし3の径が不明であっても、といし3とエアセンサ20の噴射口21(検出面との対向部)との干渉を防止して、短時間でといし3の研削面3bの位置を高精度に測定可能になる。このため、本実施形態は、使用状態による寸法変化の大きい一般といしのドレス実施の際にも適用可能となる。また、本実施形態はといし交換時だけではなく、大型機等の熱変形の大きな機械の場合は、コールドスタート時のドレス実施にも有効になる。
【0043】
次に、X軸座標系設定(
図4のステップ107)について説明する。X軸座標系設定とは、ワーク加工時の基準となる座標系の設定である。より具体的には、X軸方向において、といし3の研削面3bとワーク中心との間の位置関係に係る座標系の設定のことである。
図10は、X軸座標系設定時におけるといし3とワークWとの関係を示す平面図である。ドレス実施後は、前記のドレス座標設定の要領で、改めてといし3の半径を算出し、これを半径r3とする。半径r3が分ると、ドレス座標設定時の座標系において、といし3の研削面3bのX座標が算出可能となる。X軸座標系は、このX座標を基準とした座標系である。X軸座標系設定は、予め制御手段60に各種手順が設定されていれば、人手を要する部分はなく、自動実施が可能になる。
【0044】
ドレス座標設定時の座標系において、主軸中心線6aの位置は固定値であり既知であり、X軸座標系に換算可能である。ワークWの直径の測定値を予め入力しておけば、X軸座標系におけるワークWの表面のX座標が算出可能となる。このX座標が分れば、研削面3bとワークWの表面との間の距離x1も算出可能になる。距離x1が、ワークWを研削するためのといし3の送り量であり、といし3をx1だけ、ワークWに向けて移動させればワークWの研削が可能になる。
【0045】
以上、ドレス座標設定、ドレス実施及びX軸座標系設定の各工程について説明したが、前記のとおり、初期設定が完了していれば、これらの3つの工程は連続して自動実施が可能である。初期設定後は、3つの工程を全て実行させてもよいが、選択した任意の工程で終了させるようにしてもよい。
図11に工程選択画面の一例を示している。
図11の各図において、説明の便宜のため、選択した工程に斜線を付している。
【0046】
図11(a)は、ドレス座標のみが選択されており、この場合はドレス座標設定の工程が終われば動作が終了する。
図11(b)は、ドレス座標及びドレスが選択されており、座標系は選択されていない。この場合は、ドレス実施の工程が終われば動作が終了する。
図11(c)は、ドレス座標、ドレス及び座標系の全てが選択されており、X軸座標系設定の工程が終われば動作が終了する。このような工程選択を可能にしたことにより、作業者の作業に対する自由度が向上し、作業者のノウハウを生かした作業が可能になる。例えば、ドレス座標を選択した場合は、ドレスは自動実施されないので、音を聞いたり、研削面3bを見る等の確認をしながらドレスの状況を把握して作業を進めることができる。また、ドレスを選択した場合は、座標系設定は自動実施されないので、ワークWとといし3を接触させてワーク径を入力したり、実際に少し切り込んだ際の寸法から正確に補正値を入力する等が可能になる。このため、精度良く加工するための設定が手動で可能になる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり、適宜変更したものであってもよい。前記実施形態は、といし台2がX軸方向の1方向に移動し、テーブル5がZ軸方向の1方向に移動する構成であったが、といし3とワークWとが相対的に移動可能な構成であればよい。例えば、といし台2がX軸方向及びZ軸方向の2方向に移動する構成であってもよく、テーブル5がX軸方向及びZ軸方向の2方向に移動する構成であってもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、第1センサが超音波センサー30、第2センサがエアセンサ20の例で説明したが、第2センサが第1センサよりも測定距離が短く、かつ測定精度が高いという関係であればよく、他のセンサでもよい。例えば、第1センサが光学式センサ、第2センサがレーザーという組み合わせであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 研削盤
3 といし
3b 研削面
11 本体
20 エアセンサ(第2センサ)
25 エアセンサ本体
21 噴射口
30 超音波センサ(第1センサ)
31 発振受信部
40 ドレッサ
60 制御手段
W ワーク
【要約】
【課題】高精度ではあるが測定距離の短い非接触式のセンサによるといしの研削面の位置の検出を、一般といしにも適用可能としたといし測定手段及びそれを用いたドレス実施システムと研削盤を提供する。
【解決手段】研削盤に用いるといし測定手段10であって、研削盤に装着しているといしの研削面の位置を測定する非接触式の第1センサ30と、といしの研削面の位置を測定し、第1センサ30よりも測定距離が短く、かつ測定精度の高い非接触式の第2センサ20とを備え、第1センサ30と第2センサ20とにより、2段階でといしの研削面の位置を測定可能にしている。このことにより、交換時のといしの径が不明であっても、といしと、第2センサ20のうち研削面との対向部との干渉を防止して、短時間でといしの研削面の位置を高精度に測定可能になる。
【選択図】
図2