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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】空間効果を有する音響システム
(51)【国際特許分類】
   H04S 1/00 20060101AFI20240611BHJP
   H04S 3/00 20060101ALI20240611BHJP
   H04S 5/02 20060101ALI20240611BHJP
   H04R 5/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H04S1/00 200
H04S3/00 200
H04S5/02
H04R5/02 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021519640
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019077296
(87)【国際公開番号】W WO2020074553
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】1859338
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516257637
【氏名又は名称】デヴィアレ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ・ペトロフ
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-116471(JP,A)
【文献】実開昭55-087789(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00-7/00
H04R 5/09-5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響周波数を含むN個のチャンネル(S)から、音を拡散するように設計された音響システム(1、100、110、120、130、140)であって、Nは2以上であり、前記音響システム(1、100、110、120、130、140)が、
枠部(5)と、
互いに構造的に類似し、前記枠部(5)に取り付けられたM個のラウドスピーカー(HP)であって、Mが2以上である、ラウドスピーカー(HP)と、
M個のラウドスピーカー信号(SS)を各ラウドスピーカー(HP)に送信するように設計された処理ユニット(20)と、を含み、
前記ラウドスピーカー(HP)が実質的に垂直であるように意図された軸(Z)の周囲に、ある角度で配置され、2つの隣り合うラウドスピーカー(HP)が360°をMで割ったものに実質的に等しい角度(α)をなし、
前記処理ユニット(20)が、前記ラウドスピーカー信号(SS)を生成するように構成された分離器(28)を含み、
各ラウドスピーカー信号(SS)が、前記チャンネル(S)の少なくとも1つから得られた、所定の第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数が存在しないか、または低減された同じ共有バス成分(SSLF)を含み、
前記ラウドスピーカー信号(SS)の少なくとも2つがさらに、前記共有バス成分(SSLF)に加えて、前記第1の周波数(f1)よりも低い音響周波数が存在しないかまたは低減された特定の成分(SSj,MF)を含み、各特定の成分(SSj,MF)が、前記チャンネル(S)の少なくとも1つから得られ、
前記特定の成分(SSj,MF)の少なくとも2つが互いに異なり、
前記音響システム(1、100、110、120、130、140)がさらに、各チャンネル(S )から、一方では、前記第1の周波数(f1)よりも高い前記チャンネル(S )の前記音響周波数が存在しないかまたは低減された低周波数信号(S i,LF )を生成し、他方では、前記チャンネル(S )が前記第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数を含む場合、前記第1の周波数(f1)よりも低い前記チャンネル(S )の前記音響周波数が存在しないかまたは低減された少なくとも1つのその他の信号(S i,MF )を生成するように適合された周波数選択器(26)を含み、
前記共有バス成分(SS LF )が、前記低周波数信号(S i,LF )の合計と比例し、
前記特定の成分(SS j,MF )が前記その他の信号(S i,MF )から得られ、
前記周波数選択器(26)がさらに、所定の第2の周波数(f2)よりも高い音響周波数を含む各チャンネル(S )から、前記第2の周波数(f2)よりも低い前記チャンネル(S )の前記音響周波数が存在しないかまたは低減された高周波数信号(S i,HF )を抽出するように構成され、前記第2の周波数(f2)が前記第1の周波数(f1)よりも高く、前記周波数選択器(26)が、前記その他の信号(S i,MF )のそれぞれにおいて、前記第2の周波数(f2)よりも高い前記音響周波数が存在しないかまたは低減されるように構成され、
前記分離器(28)によって形成された前記ラウドスピーカー信号(SS )の少なくとも1つが、前記高周波数信号(S i,HF )の合計に比例する共有高周波数成分(SS HF )をさらに含み、前記共有高周波数成分(SS HF )が、前記共有バス成分(SS LF )に追加される
ことを特徴とする、音響システム(1、100、110、120、130、140)。
【請求項2】
前記第1の周波数(f1)が200Hz以上であり、500Hz以下である、請求項1に記載の音響システム(1、100、110、120、130、140)。
【請求項3】
前記特定の成分(SSj,MF)が、前記その他の信号(Si,MF)の少なくともいくつかの線形結合である、請求項1または2に記載の音響システム(1、100、110、120、130、140)。
【請求項4】
前記第2の周波数(f2)が1000Hz以上であり、10000Hz以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の音響システム(1、100、110、120、130、140)。
【請求項5】
前記音響システム(100)が、ステレオ音源(24)からの音を拡散するように設計され、前記チャンネル(S)が左側チャンネルL及び右側チャンネルRを含み、
前記ラウドスピーカー(HP)の数Mが2に等しく、前記ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP及び第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHPを含み、
前記分離器が、
SS=a*[1*LMF+SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1*RMF+SSLF+SSHF]であり、
ここで、SSLF=1/2*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/2*(LHF+RHF)であり、
LFが前記左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFが前記左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFが前記左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFが前記右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFが前記右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFが前記右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aが比例係数であるように構成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の音響システム(100)。
【請求項6】
前記音響システム(110)が、ステレオ音源(24)からの音を拡散するように設計され、前記チャンネル(S)が左側チャンネルL及び右側チャンネルRを含み、
前記ラウドスピーカー(HP)の数Mが3に等しく、前記ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP及び第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHPを含み、
前記分離器(28)が、
SS=a*[1/2*(LMF+RMF)+SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*LMF +SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1/2*RMF +SSLF+SSHF]、
ここで、SSLF=1/3*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/3*(LHF+RHF)であり、
LFが前記左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFが前記左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFが前記左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFが前記右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFが前記右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFが前記右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aが比例係数であるように構成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の音響システム(110)。
【請求項7】
前記音響システム(120)が、5つのチャンネルSからS及び前記第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数を有さない1つのチャンネルSを有する音源(24)からの音を拡散するように設計され、
前記ラウドスピーカー(HP)の数Mが3であり、前記ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP及び第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHPを含み、
前記分離器(28)が、
SS=a*[1/3*S1,MF+1/3*S2,MF+1*S3,MF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[2/3*S1,MF+1*S4,MF +SSLF+SSHF]、及び
SS=a*[2/3*S2,MF+1*S5,MF +SSLF+SSHF]、
ここで、SSLF=1/3*(S1,LF+S2,LF+S3,LF+S4,LF+S5,LF+S5,LF+S6,LF)であり、
SSHF=1/3*(S1,HF+S2,HF+S3,HF+S4,HF+S5,HF+S5,LF)であり、
1,LFからS6,LFが、チャンネルSからSの低周波数信号であり、S6,LF=Sであり、
1,MFからS6,MFがチャンネルSからSのその他の信号であり、
1,HFからS6,HFがチャンネルSからSの高周波数信号であり、
aが比例係数であるように構成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の音響システム(120)。
【請求項8】
前記音響システム(130)が、ステレオ音源(24)からの音を拡散するように設計され、前記チャンネル(S)が左側チャンネルL及び右側チャンネルRを含み、
前記ラウドスピーカー(HP)の数Mが4に等しく、前記ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP、第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHP及び第4のラウドスピーカー信号SSを受信する第4のラウドスピーカーHPを含み、
前記分離器(28)が、
SS=a*[1/2*LMF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*RMF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*LMF+SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1/2*RMF+SSLF+SSHF]であり、
ここで、SSLF=1/4*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/4*(LHF+RHF)であり、
LFが前記左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFが前記左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFが前記左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFが前記右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFが前記右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFが前記右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aが比例係数であるように構成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の音響システム(130)。
【請求項9】
前記音響システム(140)が、5つのチャンネルSからS及び前記第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数を有さない1つのチャンネルSを有する音源(24)からの音を拡散するように設計され、
前記ラウドスピーカー(HP)の数Mが4に等しく、前記ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP、第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHP及び第4のラウドスピーカー信号SSを受信する第4のラウドスピーカーHPを含み、
前記分離器(28)が、
SS=a*[1*S3,MF+1/4*S1,MF+1/4*S2,MF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[3/4*S1,MF+1/2*S4,MF +SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*S4,MF+1/2*S5,MF +SSLF+SSHF]、及び
SS=a*[3/4*S2,MF+1/2*S5,MF +SSLF+SSHF]、
ここで、SSLF=1/4*(S1,LF+S2,LF+S3,LF+S4,LF+S5,LF+S5,LF+S6,LF)であり、
SSHF=1/4*(S1,HF+S2,HF+S3,HF+S4,HF+S5,HF+S5,HF)であり、
1,LFからS6,LFが、チャンネルSからSの低周波数信号であり、S6,LF=Sであり、
1,MFからS6,MFが、チャンネルSからSのその他の信号であり、
1,HFからS6,HFが、チャンネルSからSの高周波数信号であり、
aが比例係数であるように構成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の音響システム(140)。
【請求項10】
前記分離器(28)によって形成された前記ラウドスピーカー信号(SS)の全てが、前記高周波数信号(Si、HF)の合計に比例する共有高周波数成分(SSHF)をさらに含み、前記共有高周波数成分(SSHF)が、前記共有バス成分(SSLF)に追加される、請求項1から9のいずれか一項に記載の音響システム(1、100、110、120、130、140)。
【請求項11】
音響周波数を含むN個のチャンネル(S)からの音を拡散するための方法であって、Nが2以上であり、前記方法が、以下の段階、
互いに構造的に類似し、同じ枠部(5)に取り付けられたM個のラウドスピーカー(HP)を提供する段階であって、Mが2以上であり、前記ラウドスピーカー(HP)が、実質的に垂直であることを意図された軸(Z)の周りにある角度で配置され、2つの連続するラウドスピーカー(HP)が、360°をMで割ったものに実質的に等しい角度(α)を形成する、ラウドスピーカー(HP)を提供する段階と、
処理ユニット(20)によって、M個のラウドスピーカー信号(SS)をそれぞれ前記ラウドスピーカー(HP)に送信する段階と、
前記処理ユニット(20)の分離器(28)によって、前記ラウドスピーカー信号(SS)を発生させる段階と、を含み、
生成された各ラウドスピーカー信号(SS)が、前記チャンネル(S)の少なくとも1つから得られ、所定の第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数が存在しないかまたは低減された共有バス成分(SSLF)を有し、
前記ラウドスピーカー信号(SS)の少なくとも2つが、前記共有バス成分(SSLF)に加えて、前記第1の周波数(f1)よりも低い音響周波数が存在しないかまたは低減された特定の成分(SSj,MF)をさらに含み、各特定の成分(SSj,MF)が前記チャンネル(S)の少なくとも1つから得られ、
前記特定の成分(SSj,MF)の少なくとも2つが互いに異なり、
前記方法がさらに、各チャンネル(S )から、一方では、前記第1の周波数(f1)よりも高い前記チャンネル(S )の前記音響周波数が存在しないかまたは低減された低周波数信号(S i,LF )を生成し、他方では、前記チャンネル(S )が前記第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数を含む場合、前記第1の周波数(f1)よりも低い前記チャンネル(S )の前記音響周波数が存在しないかまたは低減された少なくとも1つのその他の信号(S i,MF )を生成するように周波数を選択する段階であって、
前記共有バス成分(SS LF )が、前記低周波数信号(S i,LF )の合計と比例し、
前記特定の成分(SS j,MF )が前記その他の信号(S i,MF )から得られる、周波数を選択する段階と、
所定の第2の周波数(f2)よりも高い音響周波数を含む各チャンネル(S )から、前記第2の周波数(f2)よりも低い前記チャンネル(S )の前記音響周波数が存在しないかまたは低減された高周波数信号(S i,HF )を抽出する段階であって、前記第2の周波数(f2)が前記第1の周波数(f1)よりも高く、前記周波数の選択が、前記その他の信号(S i,MF )のそれぞれにおいて、前記第2の周波数(f2)よりも高い前記音響周波数が存在しないかまたは低減されるように構成され、前記分離器(28)によって形成された前記ラウドスピーカー信号(SS )の少なくとも1つが、前記高周波数信号(S i,HF )の合計に比例する共有高周波数成分(SS HF )をさらに含み、前記共有高周波数成分(SS HF )が、前記共有バス成分(SS LF )に追加される、抽出する段階と、を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響周波数を含む、N個のチャンネル(S)からの音響を拡散するために設計された音響システムに関し、Nは2以上であり、音響システムは、
-枠部と、
-互いに構造的に類似し、枠部に取り付けられたM個のラウドスピーカー(HP)であって、Mが2以上である、ラウドスピーカーと、
-M個のラウドスピーカー信号(SS)を各ラウドスピーカー(HP)に送信するように設計された処理ユニットと、を含む。
【0002】
本発明はまた、対応する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
既知の音響システムは、一般には聴取者に対して互いに対してほぼ平行に向けられた2つのラウドスピーカーによってそれぞれ拡散される、左側及び右側の2個のチャンネルからのステレオ音響、より一般的にはステレオと呼ばれる音響を拡散するために設計される。そのような技術は、例えば、聴取者がオーケストラの前にいるかのように音源の空間的分布を再構成することを目的とする。
【0004】
大なり小なり聴取者の周りに離隔されて分布された、より多数のチャンネル及び等しい数のラウドスピーカーからの音響を拡散することも知られている。5.1マルチチャンネル(「5.1サラウンドサウンド」)フォーマットは、以下の6つの音響チャンネルを有する。
-聴取者の前に配置された左側のラウドスピーカーによって拡散されることを意図された左側チャンネル(Leftを「L」と短縮)、
-聴取者の前に配置された右側のラウドスピーカーによって拡散されることを意図された右側チャンネル(Rightを「R」と短縮)、
-左側及び右側のラウドスピーカーの間に通常配置されたラウドスピーカーによって拡散される中央チャンネル(Centerを「C」と短縮)、
-聴取者の左後ろ側に配置されたラウドスピーカーから通常拡散される、左側サラウンドチャンネル(Surround Leftを「SL」と短縮)、
-聴取者の右側後ろのラウドスピーカーから拡散されるサラウンド右側チャンネル(Surround Rightを「SR」と短縮)、及び
-サブウーファーとして知られ、音響スペクトルのより低い周波数を拡散するように設計されたラウドスピーカーによって拡散される低周波数効果(Low Frequency Effect、「LSE」)チャンネル。
【0005】
2スピーカーステレオシステムは、その単純さが十分なものであり、評価されている。しかし、これらは奥行きに欠けることがある。実際、視聴者は、左右方向の音の出所を聞き分けることが可能であるが、垂直方向及びかなりの水平方向での聞き分けが全くまたはほとんどできず、奥行きを実体化することが全くまたはほとんどできない。そのため、このシステムは、例えばオーケストラの後方または前方からくる音を区別することはできない。
【0006】
前述の5.1チャンネルのようなより多くのチャンネルを有するシステムは奥行き効果を達成することができるが、聴取者の周囲に広げられた多数のラウドスピーカーの配置及び接続を必要とする。
【0007】
したがって、本発明の目的は前述したように音響システムであって、聴取者に対して音響の奥行きの印象を与える一方で単純かつ実施しやすい音響システムを提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明は、前述の音響システムに関し、ラウドスピーカー(HP)が実質的に垂直であるように意図された軸(Z)の周囲に、ある角度で配置され、2つの隣り合うラウドスピーカー(HP)が360°をMで割ったものに実質的に等しい角度をなし、処理ユニットが、ラウドスピーカー信号(SS)を生成するように構成された分離器を含み、各ラウドスピーカー信号(SS)が、チャンネル(S)の少なくとも1つから得られた、所定の第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数が存在しないか、または低減された共有バス成分(SSLF)を含み、ラウドスピーカー信号(SS)の少なくとも2つがさらに、共有バス成分(SSLF)に加えて、第1の周波数(f1)よりも低い音響周波数が存在しないかまたは低減された特定の成分(SSj,MF)を含み、各特定の成分(SSj,MF)が、チャンネル(S)の少なくとも1つから得られ、特定の成分(SSj,MF)の少なくとも2つが互いに異なる。
【0009】
特定の実施形態によれば、音響システムは、任意の技術的に可能な組み合わせの中からとられた以下の特徴の1つまたは複数を含む。
【0010】
第1の周波数(f1)が200Hz以上であり、500Hz以下である。
【0011】
音響システムは、各チャンネル(S)から、一方では、第1の周波数(f1)よりも高いチャンネル(S)の音響周波数が存在しないかまたは低減された低周波数信号(Si,LF)を生成し、他方では、チャンネル(S)が第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数を含む場合、第1の周波数(F1)よりも低いチャンネル(S)の音響周波数が存在しないかまたは低減された少なくとも1つのその他の信号(Si,MF)を生成するように設計された周波数選択器を含む。
【0012】
共有バス成分(SSLF)は、低周波数信号(Si,LF)の合計と比例する。
【0013】
特定の成分(SSj,MF)は、その他の信号(Si,MF)から得られる。
【0014】
特定の成分(SSj,MF)は、その他の信号(Si,MF)の少なくともいくつかの線形結合である。
【0015】
周波数選択器がさらに、所定の第2の周波数(f2)よりも高い音響周波数を含む各チャンネル(S)から、第2の周波数(f2)よりも低いチャンネル(S)の音響周波数が存在しないかまたは低減された高周波数信号(Si,HF)を抽出するように構成され、第2の周波数(f2)が第1の周波数(f1)よりも高く、周波数選択器が、その他の信号(Si,MF)のそれぞれにおいて、第2の周波数(f2)よりも高い音響周波数が存在しないかまたは低減されるように構成され、分離器によって形成されたラウドスピーカー信号(SS)の少なくとも1つ、好適には全てが、高周波数信号(Si,HF)の合計に比例する共有高周波数成分(SSHF)をさらに含み、共有高周波数成分(SSHF)が、共有バス成分(SSLF)に追加される。
【0016】
第2の周波数(f2)は1000Hz以上であり、10000Hz以下である。
【0017】
音響システムは、ステレオ音源からの音を拡散するように設計され、チャンネル(S)が左側チャンネルL及び右側チャンネルRを含み、ラウドスピーカー(HP)の数Mが2に等しく、ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP及び第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHPを含み、分離器が、
SS=a*[1*LMF+SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1*RMF+SSLF+SSHF]であるように構成される。
【0018】
ここで、SSLF=1/2*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/2*(LHF+RHF)であり、
LFが左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFが左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFが左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFが右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFが右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFが右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aが比例係数である。
【0019】
音響システムは、ステレオ音源からの音を拡散するように設計され、チャンネル(S)が左側チャンネルL及び右側チャンネルRを含み、ラウドスピーカー(HP)の数Mが3に等しく、ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP及び第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHPを含み、分離器(28)が、
SS=a*[1/2*(LMF+RMF)+SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*LMF +SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1/2*RMF +SSLF+SSHF]であるように構成される。
【0020】
ここで、SSLF=1/3*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/3*(LHF+RHF)であり、
LFが左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFが左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFが左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFが右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFが右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFが右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aが比例係数である。
【0021】
音響システムが、5つのチャンネル音源SからS及び第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数を有さない1つのチャンネルSからの音を拡散するように設計され、ラウドスピーカー(HP)の数Mが3に等しく、ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP及び第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHPを含み、
分離器(28)が、
SS=a*[1/3*S1,MF+1/3*S2,MF+1*S3,MF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[2/3*S1,MF+1*S4,MF +SSLF+SSHF]、及び
SS=a*[2/3*S2,MF+1*S5,MF +SSLF+SSHF]であるように構成される。
【0022】
ここで、SSLF=1/3*(S1,LF+S2,LF+S3,LF+S4,LF+S5,LF+S5,LF+S6,LF)であり、
SSHF=1/3*(S1,HF+S2,HF+S3,HF+S4,HF+S5,HF+S5,LF)であり、
1,LFからS6,LFが、チャンネルSからSの低周波数信号であり、S6,LF=Sであり、
1,MFからS6,MFがチャンネルSからSのその他の信号であり、
1,HFからS6,HFがチャンネルSからSの高周波数信号であり、
aが比例係数である。
【0023】
音響システムが、ステレオ音源からの音を拡散するように設計され、チャンネル(S)が左側チャンネルL及び右側チャンネルRを含み、ラウドスピーカー(HP)の数Mが4に等しく、ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP、第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHP及び第4のラウドスピーカー信号SSを受信する第4のラウドスピーカーHPを含み、分離器デバイスが、
SS=a*[1/2*LMF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*RMF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*LMF+SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1/2*RMF+SSLF+SSHF]であるように構成される。
【0024】
ここで、SSLF=1/4*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/4*(LHF+RHF)であり、
LFが左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFが左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFが左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFが右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFが右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFが右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aが比例係数である。
【0025】
音響システムが、5つのチャンネル音源SからS及び第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数を有さない1つのチャンネルSからの音を拡散するように設計され、ラウドスピーカー(HP)の数Mが4に等しく、ラウドスピーカー(HP)が、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHP、第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHP及び第4のラウドスピーカー信号SSを受信する第4のラウドスピーカーHPを含み、分離器が、
SS=a*[1*S3,MF+1/4*S1,MF+1/4*S2,MF+SSLF+SSHF]、
SS=a*[3/4*S1,MF+1/2*S4,MF +SSLF+SSHF]、
SS=a*[1/2*S4,MF+1/2*S5,MF +SSLF+SSHF]、及び
SS=a*[3/4*S2,MF+1/2*S5,MF +SSLF+SSHF]であるように設計される。
【0026】
ここで、SSLF=1/4*(S1,LF+S2,LF+S3,LF+S4,LF+S5,LF+S5,LF+S6,LF)であり、
SSHF=1/4*(S1,HF+S2,HF+S3,HF+S4,HF+S5,HF+S5,HF)であり、
1,LFからS6,LFが、チャンネルSからSの低周波数信号であり、S6,LF=Sであり、
1,MFからS6,MFが、チャンネルSからSのその他の信号であり、
1,HFからS6,HFが、チャンネルSからSの高周波数信号であり、
aが比例係数である。
【0027】
本発明はまた、音響周波数を含むN個のチャンネル(S)からの音を拡散するための方法に関し、Nが2以上であり、方法が、以下の段階、
互いに構造的に類似し、同じ枠部に取り付けられたM個のラウドスピーカー(HP)を提供する段階であって、Mが2以上であり、ラウドスピーカー(HP)が、実質的に垂直であることを意図された軸(Z)の周りにある角度で配置され、2つの連続するラウドスピーカー(HP)が、360°をMで割ったものに実質的に等しい角度を形成する、ラウドスピーカー(HP)を提供する段階と、
処理ユニットによって、M個のラウドスピーカー信号(SS)をそれぞれラウドスピーカー(HP)に送信する段階と、
処理ユニットの分離器(28)によって、ラウドスピーカー信号(SS)を発生させる段階と、を含み、
生成された各ラウドスピーカー信号(SS)が、チャンネル(S)の少なくとも1つから得られ、所定の第1の周波数(f1)よりも高い音響周波数が存在しないかまたは低減された同じ共有バス成分(SSLF)を有し、
ラウドスピーカー信号(SS)の少なくとも2つが、共有バス成分(SSLF)に加えて、第1の周波数(f1)よりも低い音響周波数が存在しないかまたは低減された特定の成分(SSj,MF)をさらに含み、各特定の成分(SSj,MF)がチャンネル(S)の少なくとも1つから得られ、特定の成分(SSj,MF)の少なくとも2つが互いに異なる。
【0028】
本発明は、例としてのみ与えられ、添付した図面を参照してなされる以下の説明からより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に従う音響システムの一般的な概略図である。
図2図1に示された音響システムの周波数選択器の概略図である。
図3図1に示された音響システムの分離器の概略図である。
図4】2個のチャンネル及び2個のラウドスピーカーを有する本発明の第1の実施形態に従う、音響システムを示す概略的な上面図である。
図5】3個のラウドスピーカー及び2個のチャンネルを有する本発明の第2の実施形態に従う音響システムの概略的な上面図である。
図6】3個のラウドスピーカー及び6個のチャンネルを有する本発明の第3の実施形態に従う音響システムの概略的な上面図である。
図7】4個のラウドスピーカー及び2個のチャンネルを有する本発明の第4の実施形態に従う音響システムの概略的な上面図である。
図8】4個のラウドスピーカー及び6個のチャンネルを有する本発明の第5の実施形態に従う音響システムの概略的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1から3を参照して、本発明に従う音響システム1が説明される。音響システム1は、音響チャンネルSからの音響を拡散するために設計され、iは1からNの間の整数であり、Nはチャンネルの数であり、2以上である。音響システム1は、枠部5と、互いに構造的に類似し、枠部5に取り付けられたM個のラウドスピーカーHPと、M個のラウドスピーカー信号SSを各ラウドスピーカーHPに送信するように設計された処理電子機器10と、を含み、jは1からMの間の整数である。
【0031】
本発明において、Mは2以上である。図1に示された例において、Mは3に等しい。
【0032】
図5及び6に示された特定の実施形態によれば、Mは3に等しい。
【0033】
それぞれ図7及び8に示された特定の実施形態によれば、Mは4に等しい。
【0034】
変形例(図示されない)において、Mは厳密に4より大きい。
【0035】
枠部5は、有利にはラウドスピーカーHP、HP、HPが取り付けられたボックス画定開口部12を形成する。枠部5は、実質的に垂直なZ軸に沿ってみた場合に、例えば円形の形状を有する。
【0036】
ラウドスピーカーHPは、Z軸に対して遠心的に音を拡散するように取り付けられる。ラウドスピーカーHPは、D軸、すなわち本例においてはD1、D2、D3を画定する。ラウドスピーカーHPは、2つの連続するラウドスピーカーのD軸が、360°をMで割ったものに実質的に等しい角度α、すなわち、図示された例では120°をなすように配置される。
【0037】
ラウドスピーカーHPは、構造的に互いに類似している。
【0038】
例えば、ラウドスピーカーHPは、Z軸から同じ距離E1に配置される。有利には、ラウドスピーカーHPによって形成されたアセンブリーは、有利には1m未満の直径E2を有する球14内にフィットする。
【0039】
処理電子機器10は、N個のチャンネルSからM個のラウドスピーカー信号SSを準備するように設計された処理ユニット20を含む。図示された例において、処理電子機器10は、携帯電話、パーソナルコンピューターまたはインターネットソースなどのデジタル信号SNの音源24に接続されるように設計されたコネクター22と、デジタル信号SNをS個のチャンネルに変換するためのコンバーター25と、を含む。
【0040】
変形例において、音源24がS個のチャンネルを直接送達する場合には、コンバーター25は存在しない。
【0041】
処理電子機器10は、有利には枠部5内に配置される(図1では明確さのために外側に示されているが)。
【0042】
変形例(図示されない)において、処理電子機器10は、例えばコンパクトディスクに記録された音声ファイルのためのプレイヤー(図示されない)を含む。
【0043】
さらに別の変形例において、処理電子機器10は、読み出され、コンバーター25によってアナログ信号に変換可能である音声ファイルを格納するメモリーを含む。
【0044】
処理ユニット20は、各チャンネルSから信号を抽出するように適合された任意選択的な周波数選択器26及び、抽出された信号からラウドスピーカー信号SSを形成するように構成された分離器28を含む。
【0045】
図2に示されるように、周波数選択器26は、各チャンネルSから、所定の第1の周波数f1より上のチャンネルSiの音響周波数が低減される低周波数信号Si,LFと、第1の周波数f1より下のチャンネルSの音響周波数が低減される少なくとも1つの別の信号Si,MFとを抽出するように設計される。チャンネルSが第1の周波数f1よりも高い音響周波数を含むことを意味しない場合、他の信号Si,MFは、後述のように抽出されない。
【0046】
第1の周波数f1は、例えば、200Hz以上であり、500Hz以下である。
【0047】
有利には、周波数選択器26はまた、第2の周波数f2より下のチャンネルSの音響周波数が低減される高周波数信号Si,HFを抽出するようにも設計され、第2の周波数f2は第1の周波数f1よりも高い。他の信号Si,MFのそれぞれにおいて、第2の周波数f2よりも高い音響周波数も低減されるように、周波数選択器26が適合される。
【0048】
音響周波数f2は例えば、1000Hz、好適には3000Hzよりも高く、10000Hz、好適には4000Hzよりも低い。
【0049】
例えば、各チャンネルSに関して、周波数選択器26は、低周波数信号Si,LFを抽出するためのカットオフ周波数f1を有するローパスフィルター30と、他の信号Si,MFを抽出するカットオフ周波数f1及びf2を有するバンドパスフィルター32と、最後に、高周波数信号Si,HFを得るカットオフ周波数f2を有するハイパスフィルター34と、を含む。
【0050】
図示されない変形例によれば、高周波数信号Si,HFは抽出されない。この場合、周波数選択器26は、バンドパスフィルター32の代わりにハイパスフィルターを含み、ハイパスフィルターはカットオフ周波数f1を有する。また、この場合、ハイパスフィルター34は存在しないか、または使用されない。
【0051】
低周波数信号Si,LFにおいて、ローパスフィルター30が有効であるほど、周波数f1よりも高い音響周波数が低減される。
【0052】
同様に、他方のSi,MF信号において、バンドパスフィルター32が有効であるほど、f1の下であってf2の上である音響周波数が低減され、高周波数Si,HF信号では、ハイパスフィルター34が有効であるほど、周波数f2より下の音響周波数が低減される。
【0053】
図3を参照すると、分離器28は、低周波数信号S1,LFからSN,LFまで合計し、共有バス成分SSLFを得るために設計された第1の加算デバイス36及び、共有バス成分SSLFに係数GLFを乗じるための乗算器38を含む。
【0054】
分離器28はまた、各ラウドスピーカーHPにおいて、他の信号S1,MFからSN,MFに、それぞれ係数G1,j,MFからGN,j,MFを乗じるためのN個の乗算器401,jから40N,j及び、得られた乗算された信号を合計して特定の成分SSj,MFを得るための第2の加算デバイス42を含む。
【0055】
有利には、分離器28は、可能性のある高周波数信号S1,HFからSN,HFまでを合計するための第3の加算デバイス44及び、合計に係数GHFを乗じて共有高周波成分SSHFを得るための乗算器46を含む。
【0056】
最後に、分離器28は、各ラウドスピーカーHPにおいて、共有バス成分SSLF、特定の成分SSj、MF及び共有高周波成分SSHFを合計してラウドスピーカー信号SSを得るための第4の加算デバイス48を含む。
【0057】
音響システム1の動作は、その構造から容易に推定され、そのため以下に簡単に説明され、次いで図4から8を参照して特定の実施形態が説明される。
【0058】
音源24は、コネクター22に接続され、変換器25によって受け取られたデジタル信号SNをコネクター22に送信する。これは、デジタル信号SNをN個のチャンネルSに変換する。
【0059】
図2に見られるように、チャンネルSのそれぞれに関して、ローパスフィルター30は、周波数f1よりも高い音響周波数をフィルタリングし、低周波数信号Si,LFが得られる。同様に、バンドパスフィルター32は、周波数f1より低い音響周波数及び周波数f2より高い音響周波数をフィルタリングし、その他の信号Si,MFが得られる。
【0060】
最後に、ハイパスフィルター34は、周波数f2より低い音響周波数をフィルタリングして、高周波数信号Si,HFが得られる。
【0061】
低周波数信号Si,LF、その他の信号Si,MF及び高周波数信号Si,HFは分離器28に送られ、分離器28はそれらの線形結合を行ってラウドスピーカー信号SSを形成する。
【0062】
共有バス成分SSLFはその名称が意味するように、全てのラウドスピーカーに共通であり、GLF*(S1,LF+...+SN,LF)の値を有する。
【0063】
共有高周波数成分SSHFはその名称が意味するように、全てのラウドスピーカーHPに共通に共有され、GHF*(S1,HF+...+SN,HF)の値を有する。
【0064】
特定の成分SSj、MFは、各固有スピーカーに特有であり、G1,j,MF*S1,MF+...+GN,j,MF*SN,MFの値を有する。
【0065】
特定の成分SSj,MFの少なくとも2つは、互いに異なる。これによって、特に、定位効果が可能になる。
【0066】
ラウドスピーカーHPのそれぞれに関して、加算デバイス48は、共有バス成分SSLF、共有高周波成分SSHF及び特定の成分SSj,MFを合計してラウドスピーカー信号SSを得る。
【0067】
各ラウドスピーカー信号SSは、対応するラウドスピーカーHPに送信されて、音波に変換される。
【0068】
係数G1、j、MFからGN,j,MFは、各ラウドスピーカーに対して、中間周波数に関して実現される線形結合を定義する。係数G1、j、MFからGN,j,MFの値はそれぞれ、以下のいくつかの例に見られるように、各チャンネルの主拡散領域を決定する。
【0069】
変形例において、処理ユニット20は、周波数選択器26を含まない。この変形例は、S個のチャンネルが、共有バス成分SSLFに比例する信号並びに、その他のSi,MF信号及び任意の高周波数Si,HF信号に比例する信号を直接提供する場合に適している。
【0070】
前述の特性のために、特定の成分SSj,MFは少なくとも2つの、またはそれぞれのラウドスピーカーHPに特有であり、聴取者50には、知覚された音の横方向の広がりだけでなく、以下の例で示されるように奥行き効果ももたらされる。
【0071】
枠部5は非常に小型であり、組み立てが単純である。そのため、音響システム1は、聴取者に対して音の奥行きの印象を与えつつ、単純かつ実現が容易なままである。
【0072】
具体的に、ラウドスピーカーHPは同じ共有バス成分SSLFを受け取り、Z軸の周りの角度に規則的に配置されるため、ラウドスピーカーのそれぞれによるバス音波(f1よりも低い周波数)の拡散に関する機械的振動は、実質的にゼロである機械的な結果を有し、これは枠部5がテーブルまたは棚などの支持部上での振動によって動くことを防ぐ。
【0073】
特定の成分SSj,MFが周波数f1よりも高い平均音響周波数の範囲に位置するため、これらの周波数についてラウドスピーカーを区別することによって、枠部5の支持部に対する変位につながりうる機械的振動は発生しない。
【0074】
比較的高い周波数の音波(f2よりも高い周波数を有する)は、奥行きまたは横方向の広がり効果を発生する可能性が低いため、共有高周波数成分SSHFが全てのHPラウドスピーカーに共通であるという事実は、奥行き効果に影響を与えない。
【0075】
例における中間音波(周波数f1とf2との間)のみに関する区別された処理のために、奥行き効果が単純な方法で、低周波数(周波数f1よりも低い)の区別されない処理による機械的振動を制限することによって得られる。
【0076】
2つのラウドスピーカー及び2つのチャンネルの実施形態
図1及び4を参照して、本発明の第1の具体的な実施形態に従う音響システム100が説明される。音響システム100は、図1から3に示された音響システム1に類似しており、類似する要素は同じ参照符号を有し、再び説明されることはない。相違点及び特徴のみが、以下に詳細に説明される。
【0077】
音響システム100において、音源24はステレオ音源である。チャンネルSは、左側チャンネルL及び右側チャンネルRを有する。
【0078】
ラウドスピーカーの数Mは2に等しく、ラウドスピーカーHPは、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHP及び第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHPを含む。ラウドスピーカーHP及びHPは、Z軸に関して、互いに対して180°に取り付けられる。
【0079】
聴取者50は、軸D1、D2に対して90°に位置するのが最適である。
【0080】
分離器28は、次のように構成される。
SS=a*[1*LMF+SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1*RMF+SSLF+SSHF
ここで、SSLF=1/2*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/2*(LHF+RHF)であり、
LFは左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFは左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFは左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFは右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFは右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFは右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aは比例係数である。
【0081】
そのため、ラウドスピーカーHPは、中間周波数の音波LMFを主に方向D1に中心を有する領域102に拡散する。ラウドスピーカーHPは、中間周波数の音波RMFを主に方向D2に中心を有する領域104に拡散する。
【0082】
180°のラウドスピーカーの配置及び、MF範囲の周波数におけるそれらの区別は、2つのラウドスピーカーのみで音の奥行き効果を可能にする。奥行きは、図4から8では二重矢印Pで示される。
【0083】
3つのラウドスピーカー及び2つのチャンネルの実施形態
図1から5を参照して、本発明の第2の実施形態に従う音響システム110が説明される。音響システム110は、図1から3に示された音響システム1に類似している。相違点及び特徴のみが、以下に詳細に説明される。
【0084】
音響システム110において、音源24はやはりステレオ音源であり、左側のチャンネルL及び右側のチャンネルRを含むチャンネルSを有する。ラウドスピーカーHPの数Mは3つに等しく、ラウドスピーカーHPは、第1のラウドスピーカー信号SSを受信する第1のラウドスピーカーHPと、第2のラウドスピーカー信号SSを受信する第2のラウドスピーカーHPと、第3のラウドスピーカー信号SSを受信する第3のラウドスピーカーHPと、を含む。ラウドスピーカーHP、HP及びHPは、Z軸の周りに互いに対して120°に連続的に取り付けられる。
【0085】
聴取者50は、枠部5からD1軸の延長上に位置するのが最適である。
【0086】
分離器28は、以下のように構成される。
SS=a*[1/2*(LMF+RMF)+SSLF+SSHF
SS=a*[1/2*LMF +SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1/2*RMF +SSLF+SSHF
ここで、SSLF=1/3*(LLF+RLF)であり、SSHF=1/3*(LHF+RHF)であり、
LFは左側チャンネルLの低周波数信号であり、
MFは左側チャンネルLのその他の信号であり、
HFは左側チャンネルLの高周波数信号であり、
LFは右側チャンネルRの低周波数信号であり、
MFは右側チャンネルRのその他の信号であり、
HFは右側チャンネルRの高周波数信号であり、
aは比例係数である。
【0087】
そのため、ラウドスピーカーHP及びHPは、中間周波数音波LMFを、主に軸D1とD2との間の角度に延在する領域112及びその少し先の領域に拡散させる。ラウドスピーカーHP及びHPは、中間周波数音波RMFを、主に軸D1とD3との間の角度に延在する領域114及びその少し先の領域に拡散させる。
【0088】
120°にラウドスピーカーを配置すること及び、MF範囲の周波数の区別は、ただ3つのラウドスピーカー及び2つのチャンネルで音の奥行き効果を可能にする。
【0089】
3つのラウドスピーカー及び6つのチャンネルの実施形態
図1及び6を参照して、本発明の第3の実施形態に従う音響システム120が説明される。音響システム120は、図1から3に示された音響システム1と類似している。以下では相違点及び特徴のみが説明される。
【0090】
音響システム120において、音源24は、例えば、5つのチャンネルSからS及び、第1の周波数f1よりも高い音響周波数を有さないチャンネルSを有するドルビー5.1音源である。
【0091】
例えば、Sは左側のチャンネル、Sは右側のチャンネル、Sは中央のチャンネル、Sは左後方の側方サラウンド、Sは右後方の側方サラウンド、Sは低周波数効果チャンネルである。
【0092】
ラウドスピーカーHPの数Mは3に等しく、ラウドスピーカー及び聴取者50は、音響システム110の場合のように配置される。
【0093】
分離器28は、次のように構成される。
SS=a*[1/3*S1,MF+1/3*S2,MF+1*S3,MF+SSLF+SSHF
SS=a*[2/3*S1,MF+1*S4,MF +SSLF+SSHF]及び
SS=a*[2/3*S2,MF+1*S5,MF +SSLF+SSHF
ここで、SSLF=1/3*(S1,LF+S2,LF+S3,LF+S4,LF+S5,LF+S5,LF+S6,LF)であり、
SSHF=1/3*(S1,HF+S2,HF+S3,HF+S4,HF+S5,HF+S5,HF)であり、
1,LFからS6,LFはチャンネルSからSの低周波数信号であり、S6,LF=Sであり、
1,MFからS6,MFはチャンネルSからSのその他の信号であり、
1,HFからS6,HFはチャンネルSからSの高周波数信号であり、
aは比例係数である。
【0094】
そのため、MF周波数範囲に関して、左側のチャンネルSは主にL軸領域122に拡散され、右側のチャンネルSはR軸領域124に拡散され、中央のチャンネルSはD1軸領域126に拡散される。側方サラウンド及び左後方のS並びに側方サラウンド及び右後方のSは主にSL及びSR軸の各領域128、130に拡散される。低周波数効果のチャンネルは、区別には関連しない。
【0095】
120°にラウドスピーカーを配置すること及び、MF範囲の周波数における区別は、ただ3つのラウドスピーカーのみで音の奥行き効果を可能にする。
【0096】
4つのラウドスピーカー及び2つのチャンネルの実施形態
図1から図7を参照して、本発明の第4の実施形態に従う音響システム130が説明される。音響システム130は、図1から3に示された音響システム1に類似している。以下では、相違点及び特徴のみが詳細に説明される。
【0097】
音響システム130において、音源24は、音響システム120と同様である(6つのチャンネル)。
【0098】
ラウドスピーカーの数Mは4つに等しく、4つのラウドスピーカーHPは互いに対してZ軸の周りに90°に連続的に取り付けられる。聴取者50は、理想的には軸D1及びD2の2等分線に沿って配置される。
【0099】
分離器28は、以下のように構成される。
SS=a*[1/2*LMF+SSLF+SSHF
SS=a*[1/2*RMF+SSLF+SSHF
SS=a*[1/2*LMF+SSLF+SSHF]及び
SS=a*[1/2*RMF+SSLF+SSHF
ここで、SSLF=1/4*(LLF+RLF)であり、
SSHF=1/4*(LHF+RHF)であり、
LFは左側のチャンネルLの低周波数信号であり、
MFは左側のチャンネルLのその他の信号であり、
HFは左側のチャンネルLの高周波数信号であり、
LFは右側のチャンネルRの低周波数信号であり、
MFは右側のチャンネルRのその他の信号であり、
HFは右側のチャンネルRの高周波数信号であり、
aは比例係数である。
【0100】
したがって、ラウドスピーカーHP及びHPは、中間周波数音波LMFを主に軸D1にそった2つのローブを有する領域132に拡散し、ラウドスピーカーHP及びHPは中間周波数音波RMFを主に軸D2に沿った2つのローブを有する領域134に拡散する。
【0101】
90°にラウドスピーカーを配置すること及びMF範囲の周波数における区別は、4つのラウドスピーカー及び2つのチャンネルのみで音の奥行き効果を可能にする。
【0102】
4つのラウドスピーカー及び6つのチャンネルの実施形態
図1及び8を参照して、本発明の第5の実施形態に従う音響システム140が説明される。音響システム140は、図1から3に示された音響システム1に類似している。以下では、相違点及び特徴のみが詳細に説明される。
【0103】
音響システム140において、音源24は、前述の音響システム120に類似している(6チャンネルドルビー5.1)。
【0104】
ラウドスピーカーHPの数Mは4つに等しく、4つのラウドスピーカーHPはZ軸の周りに互いに対して90°に連続的に取り付けられる。聴取者50は、理想的にはD1軸に沿って配置される。
【0105】
分離器28は以下のように適合される。
SS=a*[1*S3,MF+1/4*S1,MF+1/4*S2,MF+SSLF+SSHF
SS=a*[3/4*S1,MF+1/2*S4,MF +SSLF+SSHF
SS=a*[1/2*S4,MF+1/2*S5,MF +SSLF+SSHF]及び
SS=a*[3/4*S2,MF+1/2*S5,MF +SSLF+SSHF
ここで、SSLF=1/4*(S1,LF+S2,LF+S3,LF+S4,LF+S5,LF+S5,LF+S6,LF)であり、
SSHF=1/4*(S1,HF+S2,HF+S3,HF+S4,HF+S5,HF+S5,HF)であり、
1,LFからS6,LFはチャンネルSからSまでの低周波数信号であり、S6,LF=Sであり、
1,MFからS6,MFはチャンネルSからSまでのその他の信号であり、
1,HFからS6,HFはチャンネルSからSまでの高周波数信号であり、
aは比例係数である。
【0106】
そのため、MF周波数範囲に関して、左側のチャンネルSは主にL軸領域122に拡散され、右側のチャンネルSはR軸領域124に拡散され、中央のチャンネルSはD1軸領域126に拡散される。側方サラウンド及び左後方S並びに側方サラウンド及び右後方Sは、主にSL及びSR軸領域128、130にそれぞれ拡散される。低周波数効果のチャンネルは、区別には関連しない。
【0107】
ラウドスピーカーを90°に配置すること及びMF範囲の周波数における区別は、4つのラウドスピーカーのみで音の奥行き効果を可能にする。
【符号の説明】
【0108】
1、100、110、120、130、140 音響システム
5 枠部
10 処理電子機器
12 ボックス画定開口部
20 処理ユニット
22 コネクター
24 音源
25 変換器
26 周波数選択器
28 分離器
30 ローパスフィルター
32 バンドパスフィルター
34 ハイパスフィルター
38 乗算器
401,j~40N,j 乗算器
42 第2の加算デバイス
44 第3の加算デバイス
46 乗算器
48 第4の加算デバイス
50 聴取者
HP ラウドスピーカー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8