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特許7501964ビスコース溶液を製造する方法、及びそれによって製造されたビスコース溶液、及びビスコース繊維を製造する方法
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  • 特許-ビスコース溶液を製造する方法、及びそれによって製造されたビスコース溶液、及びビスコース繊維を製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ビスコース溶液を製造する方法、及びそれによって製造されたビスコース溶液、及びビスコース繊維を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 9/00 20060101AFI20240611BHJP
   D01F 2/06 20060101ALI20240611BHJP
   D01F 2/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08B9/00
D01F2/06 Z
D01F2/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021548199
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2020054283
(87)【国際公開番号】W WO2020169632
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/075843
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】トン,チン フォン
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァシュ,ラズロ
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,フレデリック
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/047924(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 9/00
D01F 2/06
D01F 2/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリセルロースのキサントゲン酸化の前及び/又は最中にアルキルポリグリコシドを添加するステップを含む、ビスコース溶液を製造する方法であって、
アルキルポリグリコシドが、式(I):
R-O-(G 1 ) x -H (I)
(式中、
- Rは、3~20個の炭素原子、好ましくは5~18個の炭素、より好ましくは8~13個の炭素原子を有する分枝状アルキル、例えば、2-エチルヘキシル、2-プロピルヘプチル、2-ブチルオクチル、イソノニル、イソトリデシル、又は5-メチル-2-イソプロピル-ヘキシルであり、
- G 1 は、「還元糖」と呼ばれる単糖、典型的には式C 6 H 12 O 6 のヘキソース又は式C 5 H 10 O 5 のペントースの、H 2 O分子を除去することから生じる基であり、
- xは、平均値を表し、1.1~10、好ましくは1.1~4、好ましくは1.1~2、特に好ましくは1.15~1.9、より特に好ましくは1.2~1.5の範囲内の数である)
によって表される、方法
【請求項2】
アルキルポリグリコシドが、式(I-1):
【化1】
(式中、
- R1は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C4-アルキル基、又は水素であり、
- R2は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C6-アルキル基、又は水素であり、
- G1は、式(I)中の通りに定義され、
- xは、式(I)中の通りに定義され、
- 好ましくは、R1及びR2は同時には水素でなく、R1及びR2のうちの一方が水素の場合、R1及びR2のうちの他方は分枝状アルキル基である)
によって表される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R2が-CH2CH2-R3であり、式中、R3は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C4アルキル基又は水素であり、より好ましくは、R3はR1と等しい、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R1が、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、又はsec.-ブチルであり、好ましくはエチル又はn-プロピルである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
還元糖と呼ばれる単糖が、グルコース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、及びリボースからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
各G1がグルコース又はキシロースであり、G1の50~95モル%の範囲内がグルコースであり、5~50モル%がキシロースであり、好ましくは、G1の70~95モル%の範囲内がグルコースであり、5~30モル%がキシロースであり、より好ましくは、G1の72.5~87.5モル%の範囲内がグルコースであり、12.5~27.5モル%がキシロースである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
アルキルポリグリコシドが、パルプとアルカリの間で反応が起きてアルカリセルロースを形成する前若しくは最中に、又はその両方で、パルプ中に添加される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
アルキルポリグリコシドが、アルカリセルロースとCS2の間で反応が起きてセルロースキサントゲン酸塩を形成する前若しくは最中に、又はその両方で、アルカリセルロース中に添加される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アルキルポリグリコシドが、パルプの乾燥重量に対して、200~5000重量ppm、好ましくは200~2000重量ppm、より好ましくは500~1800重量ppm、特に好ましくは700~1500重量ppmの総量で添加される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のビスコース溶液を製造する方法を含む、ビスコース繊維を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスコース溶液を製造する方法、それによって製造されたビスコース溶液、及びビスコース繊維を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスコース繊維は、重要な種類の半合成繊維であり、通常、ビスコース法によって製造される。α-セルロースを含む天然セルロースは、パルプをアルカリ溶液に浸漬させることによってマーセル化してアルカリセルロースを形成し、次いでプレス、細断、及びエージングの後、二硫化炭素と反応させてセルロースキサントゲン酸塩を形成し、次いでそれを希アルカリ溶液で希釈することによって粘性溶液、すなわちビスコース溶液を得る。このビスコース溶液を、一連の事前紡糸処理の後に湿式紡糸及び一連の事後処理に供すると、ビスコース繊維が得られる。紡糸中にセルロースキサントゲン酸塩はセルロースに変化し、よってセルロースが再生される。
【0003】
通常のビスコース繊維は、良好な吸湿性及び良好な紡糸性を有し、染色が容易であるが、静電気を発生させにくい。短繊維は、純粋に紡糸することも、他の紡織繊維と混紡することもできる。布地は柔らかく、滑らかで、通気性があり、着心地が良く、染色後に色が鮮やかであり、色の定着が良好である。短フィラメントの布地は、下着、上着、及び様々な装飾品を作製するのに適している。このフィラメントの布地は軽くて薄く、衣服の他にキルト及び装飾用布地に織り込むことができる。
【0004】
界面活性剤は、ビスコース繊維の製造に極めて重要な役割を果たす。マーセル化のステップに界面活性剤が存在すると、セルロースのアルカリ溶液での湿潤を加速し、セルロース材料の膨潤度を増大させ、アルカリ溶液を低発泡性にし、ヘミセルロースの除去を促進し、マーセル化と後続のキサントゲン酸化の両方においてセルロース材料の反応性を増大させることができる。界面活性剤がアルカリセルロース中に存在すると、特に細断中において、アルカリセルロースの機械的分解を容易にすることによって、得られる製品の性質だけでなく細断それ自体にも影響を与え、それは、細断に必要とされるエネルギーの減少及びこのサイクルの継続時間の低減として示される。
【0005】
ビスコース繊維の製造に使用することができる良好な界面活性剤を提供することは、依然として課題である。界面活性剤は、一方では、高NaOH濃度を有する溶液と共存する極めて厳しい適用環境で使用され、他方では、界面活性剤の性能の要件は高く、極めて低い発泡性、耐アルカリ性、並びにセルロース材料の湿潤度及び膨潤度を短時間に向上させる能力が要求される。
【0006】
ビスコース繊維を製造する方法には、界面活性剤として非イオン性及び陽イオン性界面活性剤が選択されることが多い。例えば、米国特許第6,068,689号は、ビスコース溶液を製造するための非イオン性界面活性剤としてアルコール、フェノール、又はジオールから誘導されたエトキシル化界面活性剤を、及び陽イオン性界面活性剤としてエトキシル化モノ-又はジ脂肪族アミンを開示した。この特許はまた、前記界面活性剤によって、純度が上がり、粘度が下がり、ろ過性がより良好になり、それによって紡糸性がより良好になり得ることを開示した。Jesper Andreasson及びViktor Sundbergは、彼らの学士論文(「The influence of reactivity additives upon swelling and accessibility of further reaction of cellulose」、チャルマース工科大学、スウェーデン、2017)においてEO分布を最適化するために様々な化学物質を試験し、狭いEO範囲を有する界面活性剤が良好な性能を有することができることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、フェノールエトキシレートは、ビスコース繊維の業界において界面活性剤として主として広く使用されている。しかし、この界面活性剤は、セルロースパルプのマーセル化の最中にアルカリ条件下で低い溶解性を有するために、アルカリ溶液でのセルロースパルプの湿潤が低くなり、キサントゲン酸化の最中にCS2とのアルカリセルロースの反応性が低くなることが見出されている。
【0008】
よって、マーセル化の最中にセルロースの湿潤度及び膨潤度が低く、キサントゲン酸化の最中にアルカリセルロースとCS2との反応性が不十分であるという問題に直面することのない、ビスコース溶液を製造する方法が依然として必要とされている。さらに、凝集物及び/又は塊がはるかに少ないビスコース繊維をもたらすビスコース溶液を提供することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上の目的は、アルカリセルロースのキサントゲン酸化の前及び/又は最中にアルキルポリグリコシド(以下、略してAPG)を添加するステップを含む、ビスコース溶液を製造する方法によって達成することができることが見出された。
【0010】
したがって、本発明は、アルカリセルロースのキサントゲン酸化の前及び/又は最中にアルキルポリグリコシドを添加するステップを含む、ビスコース溶液を製造する方法、前述の方法によって得ることができるビスコース溶液、並びに前述のビスコース溶液を用いるか又は前述の方法を含むビスコース繊維を製造する方法を提供する。
【0011】
好ましい実施形態では、アルキルポリグリコシドは、式(I):
R-O-(G1)x-H (I)
(式中、
- Rは、3~20個の炭素原子、好ましくは5~18個の炭素、より好ましくは8~13個の炭素原子を有する分枝状アルキルであり、
- G1は、「還元糖」と呼ばれる単糖、典型的には式C6H12O6のヘキソース又は式C5H10O5のペントースの、H2O分子を除去することから生じる基であり、
- xは、平均値を表し、1.1~10、好ましくは1.1~4、より好ましくは1.1~2、特に好ましくは1.15~1.9、より特に好ましくは1.2~1.5の範囲内の数である)
によって表される。
【0012】
より好ましい実施形態では、アルキルポリグリコシドは、式(I-1):
【0013】
【化1】
(式中、
- R1は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C4-アルキル基、又は水素であり、
- R2は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C6-アルキル基、又は水素であり、
- G1は、式(I)中の通りに定義され、
- xは、式(I)中の通りに定義され
- 好ましくは、R1及びR2は同時には水素でなく、R1及びR2のうちの一方が水素の場合、R1及びR2のうちの他方は分枝状アルキル基である)
によって表される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例3で界面活性剤を用いずに調製されたビスコース溶液の顕微鏡写真を示す図である。
図2】実施例3で界面活性剤としてフェノールエトキシレートを用いて調製されたビスコース溶液の顕微鏡写真を示す図である。
図3】実施例3で界面活性剤として2-プロピルヘプチルAPGを用いて調製されたビスコース溶液の顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様では、アルカリセルロースのキサントゲン酸化の前及び/又は最中にアルキルポリグリコシドを添加するステップを含む、ビスコース溶液を製造する方法を提供する。
【0016】
ビスコース溶液の調製は、通常、パルプから出発する。パルプは、植物材料、例えば、木材、雑草から出発して製造される。通常、植物材料は、前記植物材料からセルロースを分離して溶解パルプを得るために、一連の処理に供される。そのような処理には、予備加水分解、蒸解、ファイン浮遊(fine drifting)、ファイン漂白(fine bleaching)、塩素化及び塩基処理、漂白、酸処理などが含まれる。貯蔵及び輸送の利便性のために、溶解パルプは、通常、乾燥させてパルプボードを形成する必要がある。
【0017】
通常はパルプボードの形態であるパルプは、アルカリ溶液への浸漬、プレス、及び細断に供されて、アルカリセルロースが得られる。アルカリ溶液へのパルプの浸漬は、マーセル化とも呼ばれる。前記マーセル化の最中に、セルロースは、アルカリセルロースに変換され、ヘミセルロースは溶解し、セルロースの重合度は部分的に減少する。前記プレスは、余分なアルカリ溶液を除去して、ブロックの形態のアルカリセルロースを得るためである。前記細断は、破砕によってアルカリセルロースブロックをほぐれたフロックに変えて、表面積を増加させるようにすることであり、これは後続のキサントゲン酸化に有益である。このようにして得られたアルカリセルロースは、比較的高い平均重合度を有しており、減少させることが必要である。次いで、細断から生じたアルカリセルロースは、キサントゲン酸化の前にエージングに供される。前記エージングの最中に、アルカリセルロースは酸化的開裂を受けるので、セルロースの平均重合度は減少する。エージングに続いて、アルカリセルロースは、キサントゲン酸化に供される。キサントゲン酸化は、ビスコース繊維を製造するのに不可欠な手順であり、キサントゲン酸化では、適切な平均重合度を有するアルカリセルロースをCS2と反応させてセルロースキサントゲン酸塩を形成し、それを希アルカリ溶液中に溶解させた後、ビスコース溶液を得る。セルロース繊維に紡糸するのに適したビスコース溶液を作製するために、前記ビスコース溶液を熟成し、脱気し、ろ過して紡糸液を得る必要がある。
【0018】
本発明者らは、APGをアルカリセルロースのキサントゲン酸化の前及び/又は最中に添加すると、アルカリセルロースとCS2の間の反応性を増大させてキサントゲン酸化を加速させることができ、その結果として、フェニルエトキシレートのような従来の界面活性剤を同様に添加した場合と比較して、得られたビスコース溶液及び次いでそれから紡糸して得られたビスコース繊維中の凝集物及び/又は塊の形成が顕著に減少することを見出した。
【0019】
本発明によって使用されるAPGは、一般的な非イオン性及び陰イオン性界面活性剤の特性を組み合わせた、包括的な性質を有する一種の非イオン性界面活性剤である。APGは一般に水に可溶性であり、一般的な有機溶媒に、より可溶性である。APGは、本質的に完全に生分解性であり、生分解が困難な代謝産物を形成せず、よって環境に対する新たな汚染が回避される。
【0020】
本発明との関連において、アルキルポリグリコシドは、式(I)
R-O-(G1)x-H (I)
(式中、
- Rは、3~20個の炭素原子、好ましくは5~18個の炭素、より好ましくは8~13個の炭素原子を有する分枝状アルキルであり、
- G1は、「還元糖」と呼ばれる単糖、典型的には式C6H12O6のヘキソース又は式C5H10O5のペントースの、H2O分子を除去することから生じる基であり、
- xは、平均値を表し、1.1~10、好ましくは1.1~4、より好ましくは1.1~2、特に好ましくは1.15~1.9、より特に好ましくは1.2~1.5の範囲内の数である)
によって表し得る。
【0021】
式(I)のアルキルポリグリコシドにおけるRの一例としては、2-エチルヘキシル、2-プロピルヘプチル、2-ブチルオクチル、イソノニル、イソトリデシル(isotrideyl)、又は5-メチル-2-イソプロピル-ヘキシルであり得る。式(I)のアルキルポリグリコシドにおけるG1を生じる還元糖の一例としては、ラムノース、グルコース、キシロース、及びアラビノースからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。式(I)のアルキルポリグリコシドにおいて、Rが2-エチルヘキシル、2-プロピルヘプチル、2-ブチルオクチル、イソノニル、イソトリデシル、又は5-メチル-2-イソプロピル-ヘキシルであり、G1が、ラムノース、グルコース、キシロース、アラビノース、又は任意のそれらの混合物のH2O分子を除去することから生じる基であることが好ましい。
【0022】
本発明の幾つかの好ましい実施形態では、アルキルポリグリコシドは、式(I-1)
【0023】
【化2】
(式中、
- R1は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C4-アルキル基、又は水素であり、
- R2は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C6-アルキル基、又は水素であり、
- G1は、式(I)中の通りに定義され、
- xは、式(I)中の通りに定義され
- 好ましくは、R1及びR2は同時には水素でなく、R1及びR2のうちの一方が水素の場合、R1及びR2のうちの他方は分枝状アルキル基である)
によって表し得る。
【0024】
式(I-1)において、R1は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C4アルキル基又は水素、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、又はsec.-ブチルであり、好ましくは、R1は、直鎖C1~C4アルキル基であり、さらにより好ましくは、R1は、エチル及びn-プロピルから選択される。
【0025】
好ましくは、式(I-1)において、R2は-CH2CH2-R3であり、式中、R3は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C4アルキル基又は水素であり、より好ましくは、R3はR1と等しい。
【0026】
式(I-1)において、可変要素が以下のように定義されることが特に好ましい:
R1は、直鎖状若しくは分枝状のC1~C4アルキル基又は水素であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、又はsec.-ブチルであり、好ましくは、R1は直鎖C1~C4アルキル基であり、さらにより好ましくはR1は、エチル及びn-プロピルから選択され、
R2は-CH2CH2-R3であり、式中、R3はR1と等しい。
【0027】
式(I)及び式(I-1)の両方において、G1は、「還元糖」と呼ばれる単糖のH2O分子を除去することから生じる基を表す。本発との関連において、還元糖は、アルドース及びケトースを含めた、還元性を有する糖を指す。意図される目的に適した、還元糖と呼ばれる前記単糖は、例えば、式C6H12O6のヘキソース及び式C5H10O5のペントース、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、リボースなどである。また、加水分解されて単糖を生じることができる多糖(higher sugars)又は置換されたサッカリドを使用することができ、これらのうち、デンプン、マルトース、サッカロース、ラクトース、マルトトリオース、メチル-、エチル-、又はブチル-グルコシドなどを使用することができる。
【0028】
幾つかの好ましい実施形態では、式(I)及び式(I-1)において、各G1はグルコース又はキシロースであり、ここで、G1の50~95モル%の範囲内がグルコースであり、5~50モル%がキシロースであり、好ましくは、G1の70~95モル%の範囲内がグルコースであり、5~30モル%がキシロースである。より好ましくは、各G1はグルコース又はキシロースであり、ここで、G1の72.5~87.5モル%の範囲内がグルコースであり、12.5~27.5モル%がキシロースである。
【0029】
式(I)及び式(I-1)の単一の分子において、1分子当たりに、例えば1つだけのG1部分又は最大15個のG1部分が存在してもよい。1つだけのG1基が含まれている式(I)及び式(I-1)の個々の分子において、前記G1は、好ましくは、グルコース又はキシロースのいずれかである。2つ以上のG1基が含まれている式(I)及び式(I-1)の個々の分子において、これらのG1基はすべて、好ましくはグルコース若しくはキシロース、又はグルコースとキシロースとの組み合わせであってもよい。
【0030】
アルキルポリグリコシドは、通常、それぞれのサッカリドの重合度が異なる様々な化合物の混合物である。よって、xは、整数のG1基を有する式(I)又は式(I-1)の単一の分子を含むそれぞれの混合物の平均値を指し、よって整数とは限らない。xは、1.1~10、好ましくは1.1~4、より好ましくは1.1~2、特に好ましくは1.15~1.9、特に1.2~1.5の範囲内であってもよい。個々の分子において、整数のG1基のみが存在し得る。xは、高温ガスクロマトグラフィー(HT-GC)によって決定することが好ましい。個々の分子において、xは、例えば1又は2であってもよい。
【0031】
G1がヘキソース、例えばグルコースである2つ以上のG1基を有する式(I)及び式(I-1)の単一の分子において、単糖ユニット間のグリコシド結合は、アノマー構成(α-;β-)及び/又は結合の位置が異なっていてもよく、例えば、1,2-位又は1,3-位であってよく、好ましくは1,6-位又は1,4-位であってよい。
【0032】
本発明の一実施形態では、G1がグルコースから生じた基である場合、それは、グルコースの総百分率に対して0.1~0.5重量%のラムノースを含有してもよい。本発明の一実施形態では、G1がキシロースから生じた基である場合、それは、キシロースの総百分率に対して0.1~0.5重量%のアラビノースを含有してもよい。
【0033】
前記のように、アルキルポリグリコシドは、通常、それぞれのサッカリドの重合度が異なる様々な化合物の混合物である。式(I)及び式(I-1)において、xは、好ましくは高温ガスクロマトグラフィー(HTGC)(例えば400℃、K.Hillら、Alkyl Polyglycosides、VCH ヴァインハイム、ニューヨーク、バーゼル、ケンブリッジ、東京、1997、特に28頁以降による)又はHPLCによって決定されるサッカリドの分布に基づいて計算される、数平均値であることが理解されるべきである。HPLC法では、重合度はフローリー法によって決定してよい。HPLC及びHTGCによって得られた値が異なる場合、HTGCに基づく値が優先される。
【0034】
本発明の一実施形態では、APG界面活性剤は、式(I-1)の少なくとも1つの化合物及び少なくとも1つのその異性体を含む混合物で使用してもよい。
【0035】
異性体は、好ましくは、糖部分が本発明による式(I-1)におけるG1と同一であるがアルキル基が異なる化合物、よって-CH2CH(R1)(R2)、好ましくは-CH2CH(R1)CH2CH2R3、又はより好ましくは-CH2CH(R1)CH2CH2R1に対して異性体である化合物を指す。
【0036】
一実施形態では、本発明によって使用されるAPG界面活性剤は、
以下の定義の可変要素を有する式(I-1)の少なくとも1つの化合物(以降これを成分Aと呼ぶ):
G1及びxは、本発明による式(I-1)のそれぞれの化合物のそれぞれの可変要素と同一であり、
R1は、直鎖状又は分枝状のC1~C4アルキル基であり、
R2は、-CH2CH2-R1である;
並びに
以下の定義の可変要素を有する式(I-1)の少なくとも1つの化合物(以降これを成分Bと呼ぶ):
G1及びxは、本発明による式(I-1)のそれぞれの化合物のそれぞれの可変要素と同一であり、
R1は、-(CH2)2CH3又は-CH(CH3)2から選択され、
R2は、-(CH2)4CH3、-(CH2)2CH(CH3)2、-CH2CH(CH3)-CH2CH3、及びそれらの組み合わせから選択される;
を含む。
好ましくは、成分Bは化合物の混合物であってもよい。
【0037】
本発明によるある実施形態では、成分Bは、好ましくは、総APGに対して0.1~50重量%の範囲内、より好ましくは0.2~30重量%、特に好ましくは1~10重量%の範囲内で含まれ、残部は成分Aである。
【0038】
式(I-1)において-OCH2-CH(R1)(R2)という構造を与えるアルコール(CH3)2CH-(CH2)2-CH(イソ-C3H7)-CH2-OHの場合の異性体の例は、CH3-CH(CH3)-(CH2)2-CH(イソ-C3H7)-CH2-OHである。
【0039】
本発明によって使用されるAPGは、従来の方法によって合成することができる。式(I)の化合物を合成するために、通常、「還元糖」と呼ばれる1種以上の単糖、例えばグルコース及びキシロースから選択される1種以上、又はそれぞれの二糖若しくは多糖を、式R-OH(式中、Rは式(I)中の通りに定義される)のアルコールと、触媒の存在下で反応させる。式(I-1)の化合物を合成するために、通常、「還元糖」と呼ばれる1種以上の単糖、例えばグルコース及びキシロースから選択される1種以上、又はそれぞれの二糖若しくは多糖を、式(III)のアルコール
HO-CH2-CH(R1)(R2) (III)
(式中、R1及びR2は式(I-1)中の通りに定義される)と、
好ましくは式(III-1)のアルコール
R1CH2-CH2-CHR1-CH2-OH (III-1)
(式中、R1は式(I-1)中の通りに定義される)と、
触媒の存在下で反応させる。
【0040】
APGの合成を行うために、グルコース及びキシロースの混合物又はそれぞれの二糖若しくは多糖を、上で定義した通りの式(III)のアルコールと、とりわけ式(III-1)のアルコールと、触媒の存在下で反応させることが好ましい。
【0041】
「還元糖」と呼ばれる単糖の混合物、例えばグルコース及びキシロースの混合物、又はそれぞれの二糖若しくは多糖は、以降、糖の混合物とも呼ばれる。式(I)又は(I-1)の化合物における「還元糖」と呼ばれる単糖の比率は、糖の混合物における「還元糖」と呼ばれる単糖の比率に相当する。例えば、「還元糖」と呼ばれる単糖がグルコース及びキシロースである場合、式(I)又は(I-1)の化合物におけるグルコースとキシロースとの比率は、このとき、糖の混合物におけるグルコースとキシロースとの比率に相当する。
【0042】
本発明の一実施形態では、APGの合成は、対応する単糖、二糖、又は多糖の糖の混合物を出発物質として使用して実施される。例えば、グルコースは、結晶グルコース、グルコースシロップ、又はグルコースシロップとデンプン若しくはセルロースとの混合物から選択してもよい。重合体のグルコースは、二量体グルコースであっても、通常、アルコールR-OHでの変換の前に解重合を必要とする。しかしながら、グルコースの単糖を、水を含まずに、又は水和物として、例えば一水和物として、出発物質のうちの1つとして使用することが好ましい。キシロースを生成するための出発物質は、例えば、木材又はヘミセルロースであり得る。
【0043】
本発明の別の実施形態では、サッカリドの混合物は、バイオマス変換プロセス、例えば、バイオリファイナリープロセスの糖から選択され、そのプロセスでは、木材、バガス、麦わら、スイッチグラスなどのような供給原料が、加水分解開裂(解重合)によって単糖、例えば、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、又は前出の糖の混合物に変換される。
【0044】
APGの合成の一実施形態では、アルコールR-OH及び総サッカリドは、単糖1モル当たりアルコール1.5~10モルの範囲内、好ましくは単糖1モル当たりアルコール2.3~6モルの範囲内のモル比で選択され、単糖、二糖、又は多糖のモル数は、それぞれのG1基に基づいて算出される。
【0045】
触媒は、酸性触媒から選択することができる。好ましい酸性触媒は、強無機酸、特に硫酸、又は有機酸、例えば、スルホコハク酸又はスルホン酸、例えばパラ-トルエンスルホン酸から選択される。酸性触媒の他の例は、酸性イオン交換樹脂である。好ましくは、0.0005~0.02モルの範囲内の量の触媒が、糖1モル当たりに使用される。
【0046】
一実施形態では、APGの合成は、90~125℃、好ましくは92~110℃の範囲内の温度で行われる。
【0047】
本発明の一実施形態では、APGの合成は、2~15時間の範囲内の時間で実施される。
【0048】
APGの合成を行う最中に、例えば水の留去によって、反応中に形成された水を除去することが好ましい。本発明の一実施形態では、APGの合成中に形成された水は、Dean-Starkトラップを活用して除去される。この後者の実施形態は、アルコールROHと水とが低沸点の共沸混合物を形成する実施形態において特に好ましい。
【0049】
本発明の一実施形態では、APGの合成は、20mbar(20hPa)から最大で常圧までの範囲内の圧力で実施される。
【0050】
別の実施形態では、合成の最後に、未反応のアルコールR-OHは、例えばそれを留去することによって除去されることとなる。そのような除去は、酸性触媒を、例えば塩基、例えば水酸化ナトリウム又はMgOで中和した後に開始することができる。過剰なアルコールを留去するための温度は、アルコールR-OHに従って選択される。多くの場合、140~215℃の範囲内の温度が選択され、1mbar(1hPa)~500mbar(500hPa)の範囲内の圧力が選択される。
【0051】
一実施形態では、APGを合成する方法は、1つ以上の精製ステップを追加的に含む。可能な精製ステップは、漂白、例えば、過酸化物、例えば過酸化水素での漂白、吸着剤、例えばシリカゲル上でのろ過、及び炭での処理から選択することができる。
【0052】
本発明の目的のために、APGは、キサントゲン酸化の前及び/又は最中に添加される必要がある。APGを前記タイミングのいずれかで添加すると、アルカリセルロースとCS2の間の反応性を増大させ、キサントゲン酸化を加速させることができ、その結果として、フェニルエトキシレートのような従来の界面活性剤を同様に添加した場合と比較して、得られたビスコース溶液及び次いでそれから紡糸して得られたビスコース繊維中の凝集物及び/又は塊の形成が顕著に減少することが見出された。加えて、ビスコース溶液中の塊が顕著に低減すると、紡糸口金の目詰まりがはるかに少なくなるために紡糸性が向上することとなり、ビスコース繊維中の塊が顕著に低減すると、繊維を布地に織るときに繊維の加工性が向上することとなる。
【0053】
本発明との関連において、APGは、アルカリセルロースのキサントゲン酸化の前及び/又は最中に添加される。つまり、APGは、キサントゲン酸化反応がAPGの存在下で実施される限り、キサントゲン酸化反応が起きるまでの任意の時間に添加される。例えば、APGは、キサントゲン酸化反応がAPGの存在下で実施される限り、パルプ製造段階、マーセル化段階、及びキサントゲン酸化段階からなる群から選択される1つ以上の段階で添加してよい。
【0054】
パルプ製造の段階は、通常、木材、雑草などのような植物材料から出発し、乾燥パルプボードが得られるまでである。APGをパルプ製造の段階で添加する場合、APGを溶解パルプ中、とりわけ乾燥させてパルプボードを得る前の溶解パルプ中に添加してよく、若しくは溶解パルプを乾燥させることによって得られた乾燥パルプボード上に噴霧してもよく、又はその両方であってもよい。APGをこの段階で添加すると、マーセル化から生じるアルカリセルロース中及びキサントゲン酸化から生じるビスコース溶液中においてAPGが存在することを検出することができることが見出された。APGはおそらく、ビスコース溶液から調製された紡糸液においても検出することができるであろう。APGをパルプ製造段階の最中に添加すると、アルカリセルロースとCS2の間の反応性を増大させ、キサントゲン酸化を加速させるだけでなく、アルカリ溶液でのセルロースの湿潤を増大させ、マーセル化の最中のアルカリ溶液の発泡性を低減させることができる。
【0055】
マーセル化の段階は、パルプをアルカリでアルカリセルロースに変換する手順を指す。APGをマーセル化の前又は最中に添加する場合、APGをパルプとアルカリの間で反応が起きてアルカリセルロースを形成する前若しくは最中に、又はその両方で、パルプ中に添加してよい。APGをこの段階で添加すると、マーセル化から生じるアルカリセルロース中及びキサントゲン酸化から生じるビスコース溶液中においてAPGが存在することを検出することができることが見出された。APGはおそらく、ビスコース溶液から調製された紡糸液においても検出することができるであろう。この場合では、APGはアルカリ溶液に良好な溶解性を有し、アルカリ溶液でのパルプの湿潤を加速し、マーセル化の最中のアルカリ溶液の発泡性を低減させることができることが見出された。よって、APGは、パルプの内部へのアルカリ溶液の浸透を促進し、次いでアルカリセルロースを形成するセルロースとアルカリの間の反応を加速することができる。加えて、そして重要なことに、マーセル化の段階でAPGを添加すると、アルカリセルロースとCS2の間の反応性を増大させ、キサントゲン酸化を加速させることができる。
【0056】
キサントゲン酸化の段階は、アルカリセルロースをCS2で変換してセルロースキサントゲン酸塩にする手順を指す。APGをキサントゲン酸化の前及び/又は最中に添加する場合、APGをアルカリセルロースとCS2の間で反応が起きてセルロースキサントゲン酸塩を形成する前若しくは最中に、又はその両方で、アルカリセルロース中に添加してよい。APGをこの段階で添加すると、キサントゲン酸化から生じるビスコース溶液中において、そしておそらくビスコース溶液から調製された紡糸液中においても、APGが存在することを検出することができることが見出された。APGをキサントゲン酸化の段階で添加すると、アルカリセルロースとCS2の間の反応性を増大させ、キサントゲン酸化を加速させることができる。
【0057】
当然のことながら、キサントゲン酸化反応がAPGの存在下で実施されるようにAPGがキサントゲン酸化の前及び/又は最中に添加される限り、APGは、他のいかなる時点で添加してもよい。例えば、APGは、マーセル化後の細断の最中にアルカリセルロースブロック上に噴霧してもよく、細断から生じたほぐれたアルカリセルロースフロック上に噴霧してもよく、及び/又は細断後のエージングの最中のアルカリセルロースフロック中に添加してもよい。
【0058】
APGを添加する方式として、APGを液体材料中に混合してもよく、例えば溶解パルプに注いでもよく、又は固体材料上に噴霧してもよく、例えば乾燥パルプボード上に噴霧してもよい。
【0059】
好ましい実施形態では、APGは、マーセル化及びキサントゲン酸化の段階のいずれか又はその両方で添加される。より好ましい実施形態では、APGは、マーセル化段階の前又は最中に添加される。
【0060】
APGの総量は、通常、パルプの乾燥重量に対して、200~5000重量ppm、好ましくは200~2000重量ppm、より好ましくは500~1800、特に好ましくは700~1500重量ppmの量で添加される。例えば、APGがパルプ製造段階の前又は最中に添加される場合、パルプの乾燥重量は、本発明のパルプ製造から製造しようとするすべてのパルプの乾燥重量を意味しており、APGがマーセル化段階の前又は最中に添加される場合、パルプの乾燥重量は、本発明のマーセル化を行うのに使用されるすべてのパルプの乾燥重量を意味しており、APGがキサントゲン酸化段階の前又は最中に添加される場合、パルプの乾燥重量は、本発明のキサントゲン酸化の直前のマーセル化を行うのに使用されるすべてのパルプの乾燥重量を意味していることに留意されたい。
【0061】
本発明による方法では、界面活性剤としてアルキルポリグリコシドの他に、幾つかの他の界面活性剤を添加することも可能である。これらの界面活性剤は、US 6,068,689に提示されるものであってもよい(その開示は、本出願の一部として参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。界面活性剤は、6~24個の炭素原子、好ましくは6~14個の炭素原子の炭化水素基を有する非イオン性又は陽イオン性界面活性剤であってもよい。さらに、界面活性剤は、アルコール、フェノール、又はジオール化合物の非イオン性エトキシレート、例えばフェノールエトキシレートであってもよい。有利には、界面活性剤はまた、少なくとも1つの脂肪族第三級アンモニウム基を有する陽イオン性エトキシル化モノ-又はジ脂肪族モノアミンであってもよい。
【0062】
本発明の別の態様では、本発明によるビスコース溶液を製造する方法によって得ることができるビスコース溶液であって、アルカリ、α-セルロースを含み、界面活性剤としておそらくAPGを含有し得る、ビスコース溶液を提供する。前記アルカリとしては通常NaOHを指す。
【0063】
本発明の最終の態様では、本発明によるビスコース溶液を製造する方法を含むか、又は本発明によるビスコース溶液を使用する、ビスコース繊維を製造する方法を提供する。この方法によって製造されたこのビスコース繊維は、ビスコース溶液の製造に界面活性剤としてフェノールエトキシレートを使用した場合と比較して、はるかに少ない塊を有する。
【0064】
ビスコース溶液でのビスコース繊維の製造は従来通りである。通常、CS2でアルカリセルロースをキサントゲン酸化した後、得られたセルロースキサントゲン酸塩をアルカリの希釈溶液に溶解させてビスコース溶液を形成し、次いでそれを熟成、ろ過、及び消泡に供する。次に、得られたビスコース溶液を紡糸し、凝固浴に通してビスコース繊維を形成する。その後、形成されたビスコース繊維を一連の事後処理、例えば、水での洗浄、脱硫、酸洗い、オイリング、及び乾燥に供する。
【0065】
ビスコース繊維を製造する方法において、それは、本発明によるビスコース溶液を製造する方法を含むか、又は本発明によるビスコース溶液を製造する方法によって得ることができるビスコース溶液を出発物質として用いる。結果として、本発明によって製造されたビスコース繊維は、はるかに少ない塊を含み、よってセルロース繊維の品質を大幅に向上させ、布地に織られるときのセルロース繊維の加工性を向上させる。
【実施例
【0066】
以下の実施例によって、本発明をさらに説明し、例示する。
【0067】
比較例に用いるフェノールエトキシレートは、Akzo NobelからBerol Visco 388という商品名で市販されている。
【0068】
本発明の実施例に使用するAPGは、「オキソアルコール」である2-プロピルヘプタノール(すなわち、C4アルケンをヒドロホルミル化(「オキソ合成」)し、続いて生じたアルデヒドを水素化することから製造されたことを意味する)を、グルコースとキシロースとの混合物と、EP-2998331 B1の実施例に記載される混合物(A.2)を調製する正確な手順に従って反応させることによって調製した。最終的に得られた生成物は、xが1.28であり、各G1がグルコース又はキシロースである式(I)のAPGに相当しており、ここで、77.2モル%がグルコースであり、22.8モル%がキシロースであった。この生成物は、2-PH APG(2-プロピルヘプチルAPG)と呼ぶ。
【0069】
[実施例1]
溶解性試験
13.6重量%のNaOH水溶液100gに、0.3gの界面活性剤を添加した。生じた混合物を700rpmの速度で1時間、周囲温度で撹拌し、次いで30分間放置した。生じた混合物を目視で観察した。その結果を表1に要約する。
【0070】
【表1】
【0071】
[実施例2]
湿潤試験又は浸透力試験
この試験は、中国工業規格HG/T 2575-94(界面活性剤-浸漬による浸透力の決定)に基づく方法に従って室温(22℃±1)で実施する。
【0072】
界面活性剤を蒸留水に溶解させることによって、0.3重量%の界面活性剤溶液を調製した。800mlの界面活性剤溶液を1000mlのビーカーに入れた。直径35mm及び重量0.38~0.39gの円形の綿カンバスである標準綿布片を界面活性剤溶液の表面の中心点に置き、同時にストップウォッチをスタートさせた。界面活性剤溶液は、布地片に徐々に浸透することとなる。標準的な綿布片が界面活性剤溶液中に沈み始めた瞬間にストップウォッチを止め、時間を記録する。測定した時間を浸透時間と呼ぶ。各界面活性剤について試験を10回繰り返し、前記10回の測定値の平均を試験結果として報告した。異なる温度での本発明の実施例及び比較例の浸透時間を表2に示した。浸透時間が短いほど、浸透性能又は湿潤が良好であることを示している。
【0073】
【表2】
【0074】
表2から、室温及び60℃の温度の両方において、2-PH APGはフェノールエトキシレートよりはるかに良好な水への湿潤性を有することがわかる。
【0075】
[実施例3]
反応性性能試験
セルロースパルプを特定の量の水酸化ナトリウム及び二硫化炭素と順に化学反応させて、セルロースキサントゲン酸塩を形成する。同じ体積のセルロースキサントゲン酸塩溶液がフィルターの穴を通過する時間差を測定した。
【0076】
14.40gのパルプ試料(絶対乾燥重量)を電動ミキサーを備えた500mlのジャーに入れ、その中にNaOH水溶液(20℃で13.7wt%)361mlを添加した。試料を混合し、3000r/分の回転速度で5分間撹拌してペースト状の材料を得た。9mLのCS2をジャー内に添加し、次いでそれをクロージャーキャップでしっかりと封止した。ジャーを振動器上に置き、ジャーの軸に沿って15分間振動させ、次いでキサントゲン酸化反応をキサントゲン酸化ボックス(xanthation box)(DK-98-12、Changzhou Huapuda Company Ltd.から市販されている)内で、15r/分の回転速度で4時間実施した。
【0077】
このようにして得られた全部のセルロースキサントゲン酸塩溶液、すなわちビスコース溶液を、10000穴/cm2のステンレス鋼メッシュを備えた清潔で乾燥したステンレス鋼のチューブに入れた。ろ過したビスコース溶液をメスシリンダー内に収集し、合計25ml~50ml(T1)及び125ml~150ml(T2)を収集するろ過時間をそれぞれ測定した。試験を複数回繰り返し、平均値を試験結果として報告した。時間差(T2-T1)が短いほど、反応性性能が良好であることを示す。試験結果を以下の表3に要約した。
【0078】
【表3】
【0079】
表3から、2-プロピルヘプチルAPGは、フェノールエトキシレートよりも、アルカリセルロースとCS2の間の反応性を向上させることができたことがわかる。2-プロピルヘプチルAPGの用量を上げるほど、はるかに高いアルカリセルロースとCS2の間の反応性をもたらしやすい。
【0080】
[実施例4]
発泡性試験
1000mLのメスフラスコ内で界面活性剤1gを1wt% NaOH水溶液200mLと混合し、次いでそれを1000mlの印まで1wt% NaOH水溶液で満たし、栓で閉じた。慎重に振盪することによって、界面活性剤を均一に分散させた。このようにして得られた液体を、次いでSita社から市販されている「R-2000」タイプの泡試験装置内に入れた。泡生成試験を以下のパラメーターで行った:
【0081】
【表4】
【0082】
試験結果を以下の表4に要約した。
【0083】
【表5】
【0084】
この結果は、2-プロピルヘプチルAPGは、フェノールエトキシレートよりも、NaOH水溶液中ではるかに低い発泡性を有することを示している。
【0085】
[実施例5]
顕微鏡試験
実施例3で得られたそれぞれのビスコース溶液のデジタル顕微鏡による顕微鏡画像を図1、2、及び3に示した。倍率は200である。
【0086】
図1、2、及び3から、フェノールエトキシレートを界面活性剤として使用すると、界面活性剤を用いずに得られたビスコース溶液よりも凝集物及び/又は塊が少ないビスコース溶液がもたらされ、2-PH APGを界面活性剤として使用すると、同様の条件下でフェノールエトキシレートの界面活性剤を用いて得られたビスコース溶液よりもさらにはるかに少ない凝集物及び/又は塊を有するビスコース溶液がもたらされることがわかる。
図1
図2
図3