(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】プレス加工解析ソフトの評価方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20240611BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240611BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240611BHJP
【FI】
B21D22/00
G06F30/10 100
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2020146678
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】福島 正彦
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-204490(JP,A)
【文献】国際公開第2020/153494(WO,A1)
【文献】特開2012-166251(JP,A)
【文献】特開2010-046684(JP,A)
【文献】特開平04-257974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00
G06F 30/10
G06F 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞りを伴うプレス加工の構造解析を行うことのできる複数のプレス加工解析ソフトを評価するための方法であって、
前記複数のプレス加工解析ソフトのうち一のプレス加工解析ソフトによりプレス素材に対する前記プレス加工の構造解析を行う第一解析工程と、
前記第一解析工程における前記プレス素材の周縁部の変位履歴を取得する変位履歴取得工程と、
前記取得した周縁部の変位履歴を用いて、前記複数のプレス加工解析ソフトのうち残りのプレス加工解析ソフトにより前記プレス素材に対する前記プレス加工の構造解析を行う第二解析工程と、
前記第一解析工程及び前記第二解析工程で得た解析結果と、実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較して、前記各プレス加工解析ソフトの評価を行う評価工程とを備えたプレス加工解析ソフトの評価方法。
【請求項2】
前記複数のプレス加工解析ソフトにより前記プレス素材に対する前記プレス加工の予備的な構造解析を行う予備解析工程と、
前記予備解析工程で得た解析結果と、前記実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較して、前記各プレス加工解析ソフトの予備評価を行う予備評価工程とをさらに備え、
前記複数のプレス加工解析ソフトのうち前記予備評価工程で最も高評価を得たプレス加工解析ソフトを前記一のプレス加工解析ソフトとして前記変位履歴取得工程を実施し、その他のプレス加工解析ソフトを前記残りのプレス加工解析ソフトとして前記第二解析工程と前記評価工程とを実施する請求項1に記載のプレス加工解析ソフトの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工解析ソフトの評価方法に関し、特に複数のプレス加工解析ソフトの信頼性を比較評価するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車部品の設計に際しては、CAEなどの構造解析が活用されている。例えば自動車用パネル部材などのプレス加工品の構造解析には、絞りを伴うプレス加工の構造解析が可能なプレス加工解析ソフトが用いられる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の部品の製造プロセスにおいては、当該部品の製図段階から実際の生産段階までの各工程に、社内の複数の部門又は複数の企業が関わっており、各々がCAEなどの解析ソフトを利用している。このような理由から、一つの部品の製造プロセスに対して複数の種類の解析ソフトが使用されているのが実情である。
【0005】
その一方で、上述した一連の製造プロセスにおいては、各工程で得た知見や判断などの技術情報を他の工程で活用したいといった要求がある。例えば一の工程における解析ソフトによるプレス成形の解析結果を他の工程に活かすためには、各工程で得た複数の解析結果の確からしさを同じ評価基準で評価する必要が生じる。
【0006】
しかしながら、実際には、上述した理由から、各工程で異なる種類の解析ソフトが使用されている場合が少なくない。そのため、各解析ソフトで得られるプレス成形の解析結果、例えばプレス成形時におけるプレス素材の材料流入量に相応の差が生じる場合がある。このような場合には、プレス成形の過程それ自体に大きな差が生じるので、各ソフトの解析結果の確からしさについて同じ基準で評価することができず、各工程で得た技術情報を他の工程に活用できないといった問題がある。また、各々の解析結果の確からしさを適正に評価できない以上、各解析結果を信頼して利用することも難しい。
【0007】
よって、複数の解析ソフト間で上述のようにプレス成形中の材料流入量に無視できない大きさの差が生じたときに複数の解析ソフトの相対評価を行いたい場合には、以下のような作業を行う必要が生じる。具体的には、一方の解析ソフトによる解析で得たプレス素材の材料流入量の値を他方の解析ソフトによる解析で得られる材料流入量の値に合わせるために、一方の解析ソフトの境界条件を調整した上で再度解析を行って材料流入量につき他方の解析ソフトとの材料流入量の差を再評価する。そして、この工程を材料流入量の差が十分に小さくなるまで繰り返す、といった作業が必要となる。
【0008】
ここで、材料流入量を調整するための境界条件は複数あり、相互かつ複雑に関係している。そのため、材料流入量をプレス素材の全方位にわたって目的の量に調整することは極めて困難であり、上述した調整及び評価作業の繰り返し数が多くなる結果、工程数が嵩むといった問題がある。また、境界条件の取り扱いは解析ソフトごとに異なっており、材料流入量を調整する方法を標準化することは非常に難しいといった問題もある。
【0009】
以上の事情に鑑み、本明細書では、複数のプレス加工の構造解析ソフトによる解析結果の確からしさを同じ基準で効率よく評価可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決は、本発明に係るプレス加工解析ソフトの評価方法によって達成される。すなわち、この評価方法は、絞りを伴うプレス加工の構造解析を行うことのできる複数のプレス加工解析ソフトを評価するための方法であって、複数のプレス加工解析ソフトのうち一のプレス加工解析ソフトによりプレス素材に対するプレス加工の構造解析を行う第一解析工程と、第一解析工程におけるプレス素材の周縁部の変位履歴を取得する変位履歴取得工程と、取得した周縁部の変位履歴を用いて、複数のプレス加工解析ソフトのうち残りのプレス加工解析ソフトによりプレス素材に対するプレス加工の構造解析を行う第二解析工程と、第一解析工程及び第二解析工程で得た解析結果と、実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較して、各プレス加工解析ソフトの評価を行う評価工程とを備えた点をもって特徴付けられる。
【0011】
このように、本発明に係るプレス加工解析ソフトの評価方法では、プレス成形時におけるプレス素材の周縁部の変位履歴に着目した。すなわち、本発明では、複数のプレス加工解析ソフトのうち一のプレス加工解析ソフトによりプレス素材に対するプレス加工の構造解析を行って、その際のプレス素材の周縁部の変位履歴を取得し、取得した変位履歴を用いて、残りのプレス加工解析ソフトによるプレス加工の構造解析を行うようにした。このように一のプレス加工解析ソフトにより得たプレス素材の変位履歴を利用して残りの解析ソフトによるプレス加工の構造解析を行うことによって、残りのプレス加工解析ソフトによるプレス加工解析においてプレス成形プロセスと成形結果に大きな影響を及ぼし得るプレス素材の材料流入量を制御することができる。そのため、一のプレス加工解析ソフトと残りのプレス加工解析ソフトのそれぞれ一回の解析により材料流入量を合わせることができ、異なるプレス加工解析ソフトを同じ基準で比較評価することが可能となる。同じ基準での比較評価が可能になれば、何れの解析ソフトによる解析結果の信頼性が相対的に高いのかについて的確に判断できるので、例えば工程の前後において解析を通じて取得した知見などの技術情報を容易に共有(他の工程で活用)することができ、製造プロセスの効率化を図ることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係るプレス加工解析ソフトの評価方法においては、複数のプレス加工解析ソフトによりプレス素材に対するプレス加工の予備的な構造解析を行う予備解析工程と、予備解析工程で得た解析結果と、実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較して、各プレス加工解析ソフトの予備評価を行う予備評価工程とをさらに備え、複数のプレス加工解析ソフトのうち予備評価工程で最も高評価を得たプレス加工解析ソフトを一のプレス加工解析ソフトとして変位履歴取得工程を実施し、その他のプレス加工解析ソフトを残りのプレス加工解析ソフトとして第二解析工程と評価工程とを実施してもよい。
【0013】
このように、評価対象となる全ての解析ソフトに対して予備的な解析を行うと共に、予備的な解析の結果に基づいて各プレス加工解析ソフトの予備評価を行うことによって、変位履歴を取得するのに最も適した一のプレス加工解析ソフトを選定することができる。よって、この方法によれば、各プレス加工解析ソフトによる解析結果の信頼性をさらに高めることができ、製造プロセスの更なる効率化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明に係るプレス加工解析ソフトの評価方法によれば、複数のプレス加工の構造解析ソフトによる解析結果の確からしさを同じ基準で効率よく評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプレス加工解析ソフトの評価方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】予備解析工程で実施された一のプレス加工解析ソフトによるプレス加工の構造解析により得られたプレス素材の変形態様を視覚的に表した図で、それぞれ(a)プレス加工前、(b)プレス加工中、(c)プレス加工後におけるプレス素材の斜視図である。
【
図3】予備解析工程で実施された他のプレス加工解析ソフトによるプレス加工の構造解析により得られたプレス素材の変形態様を視覚的に表した図で、それぞれ(a)プレス加工前、(b)プレス加工中、(c)プレス加工後におけるプレス素材の斜視図である。
【
図4】第二解析工程で実施された他のプレス加工解析ソフトによるプレス加工の構造解析により得られたプレス素材の変形態様を視覚的に表した図で、それぞれ(a)プレス加工前、(b)プレス加工中、(c)プレス加工後におけるプレス素材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るプレス加工解析ソフトの評価方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るプレス加工解析ソフトの評価方法の手順を示すフローチャートである。
図1に示すように、この評価方法は、複数のプレス加工解析ソフトによりプレス加工の予備的な構造解析を行う予備解析工程S1と、予備解析工程S1で得た解析結果に基づいて各プレス加工解析ソフトの予備評価を行う予備評価工程S2と、複数のプレス加工解析ソフトのうち一のプレス加工解析ソフトによるプレス加工の構造解析を行う第一解析工程S3と、第一解析工程S3におけるプレス素材の周縁部の変位履歴を取得する変位履歴取得工程S4と、取得した周縁部の変位履歴を用いて、複数のプレス加工解析ソフトのうち残りのプレス加工解析ソフトによりプレス素材に対するプレス加工の構造解析を行う第二解析工程S5と、第一解析工程S3及び第二解析工程S5で得た解析結果と、実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較して、各プレス加工解析ソフトの評価を行う評価工程S6とを備える。以下、各工程の詳細を順に説明する。
【0018】
(S1)予備解析工程S1
この工程S1では、本発明の評価対象となる複数のプレス加工解析ソフトにより、絞りを伴うプレス加工の予備的な構造解析を行う。具体的には、例えば
図2に示すようなプレス素材10の解析モデルを作製すると共に、このプレス素材10に対して所定のプレス加工を施すための加工装置であって例えばプレス素材10に接する部分(図示は省略)の解析モデルをそれぞれ作製する。そして、これら作製した解析モデルを用いて、各プレス加工解析ソフトにより絞りを伴う所定のプレス加工の構造解析を行う。ここで、何れのプレス加工解析ソフトについても、解析対象となるプレス素材10及び加工装置は同一であるが、解析モデルの作成態様や境界条件については任意に設定される。
【0019】
本実施形態に係るプレス加工では、プレス素材10は、所定の向きに材料流入を伴った変位を生じる。すなわち、上述したプレス加工に伴い、プレス素材10は、例えば
図2(a)に示す状態から、加工装置による所定の強制変位を受けて、プレス素材10の所定位置に絞り部11を形成する。この場合、プレス素材10は絞り部11に向けた材料流入を生じる。そのため、周縁部10aはプレス加工の進行に伴い絞り部11に向けて継続的に移動する(
図2(b)及び
図2(c)を参照)。
【0020】
上述したプレス加工の予備的な構造解析を各プレス加工解析ソフトにより行い、プレス加工解析ソフトの個数分の解析結果を得る。ここで得られる解析結果には、プレス素材10のプレス加工後の形状だけでなく、プレス加工中のプレス素材10の変位履歴、応力履歴、及びひずみ履歴が含まれてもよい。また、図示しないプレス型のプレス加工中の応力状態なども含まれてもよい。なお、ここでいうプレス素材10のプレス加工後の形状には、割れの発生の有無も含まれてもよい。
【0021】
(S2)予備評価工程
この工程S2では、先の工程S1で得た複数(評価対象となるプレス加工解析ソフトの個数分)の解析結果に基づいて、各プレス加工解析ソフトの評価を行う。具体的には、各プレス加工解析ソフトにより得た解析結果と、実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較することにより、各プレス加工解析ソフトの確からしさを相対評価する。この際の評価基準は任意であるが、例えばプレス素材10のプレス加工後の形状の近似度、割れ等の発生の有無を基準に各プレス加工解析ソフトの確からしさを相対評価する。そして、評価した複数のプレス加工解析ソフトの中から最も評価の高い一のプレス加工解析ソフトを選定する。以下、この選定した一のプレス加工解析ソフトを「プレス加工解析ソフトA」と称する。また、残りのプレス加工解析ソフトを「プレス加工解析ソフトB…」と称する。
【0022】
(S3)第一解析工程
この工程S3では、先の工程S2で選定したプレス加工解析ソフトAを用いて、工程S1と同一の構造解析(本構造解析)を行う。本実施形態では、工程S1にて、プレス加工解析ソフトAによる構造解析を既に実施しているので、本工程は省略してもよい。
【0023】
(S4)変位履歴取得工程
この工程S4では、プレス加工解析ソフトAにより得た解析結果から、プレス加工時におけるプレス素材10の周縁部10aの変位履歴を取得する。ここで、周縁部10aの変位履歴には、例えば周縁部10aを構成する複数点の座標データであって、上記プレス加工時における所定時間ごとの座標データが含まれる。あるいは、周縁部10aを構成する複数点の座標を、上記プレス加工時間の関数で近似的に表したデータが含まれる。あるいは、上記プレス加工開始時を基準とした周縁部10a上の各点のプレス加工中の移動量(移動ベクトル)をデータ化したものが含まれる。何れにしても、本工程S4で、周縁部10aのプレス加工時における変位が時系列データとして出力できればよい。
【0024】
本実施形態では、プレス加工解析ソフトAの解析により得た周縁部10a上の節点Pi(i=1…m)の所定時刻tj(j=1…n)における座標データ[xAi(tj),yAi(tj),zAi(tj)]を取得する。例えば
図2(a)に示すように、プレス加工前の周縁部10a上の節点Piの座標データを[xAi(t1),yAi(t1),zAi(t1)]として節点Piの個数(ここではm個)だけ取得する。また、
図2(b)に示すように、プレス加工中の周縁部10aの節点Piの座標データを[xAi(tj),yAi(tj),zAi(tj)]として上記個数だけ取得する。また、
図2(c)に示すように、プレス加工後の周縁部10aの節点Piの座標データを[xAi(tn),yAi(tn),zAi(tn)]として上記個数だけ取得する。
【0025】
(S5)第二解析工程
この工程S5では、変位履歴取得工程S4で取得した周縁部10aの変位履歴を用いて、残りのプレス加工解析ソフトB…によりプレス素材10に対するプレス加工の構造解析(本構造解析)を行う。プレス加工解析ソフトBを例にとって具体的に説明すると、工程S4で出力した周縁部10aの変位履歴に関するデータ[xAi(tj),yAi(tj),zAi(tj)]を、プレス加工解析ソフトBの解析実施用ファイルに組み込み、当該変位履歴を反映した新たな解析実施用ファイルを生成する。そして、この新たな解析実施用ファイルを用いて、工程S1と同一の構造解析を実施する。ここで、予備解析工程S1でプレス加工解析ソフトBにより行われた構造解析では、
図3(a)~(c)に示すように、プレス素材10の周縁部10aの変位が、各座標データ[xBi(tj),yBi(tj),zBi(tj)]の変遷として取得される。これに対し、本工程S5でのプレス加工解析ソフトBによる構造解析では、
図4(a)~(c)に示すように、プレス加工解析ソフトAの解析により得たプレス素材10の周縁部10a変位履歴に準じた強制変位がプレス素材10の周縁部10aに付与され、この強制変位に基づいてプレス素材10に対するプレス加工の構造解析が実行される。これにより、プレス加工解析ソフトAによる構造解析で得られたプレス素材10の材料流入が、プレス加工解析ソフトBによる構造解析において再現される。
【0026】
(S6)評価工程
この工程S6では、第一解析工程S3及び第二解析工程S5で得た解析結果と、先の予備解析工程S1で得た複数(評価対象となるプレス加工解析ソフトの個数分)の解析結果に基づいて、各プレス加工解析ソフトA,B…の評価を行う。具体的には、各プレス加工解析ソフトA,B…により得た解析結果と、実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較することにより、各プレス加工解析ソフトA,B…の確からしさを相対評価する。この際の評価基準は任意であるが、例えば予備評価工程S2と同様、プレス素材10のプレス加工後の形状の近似度、割れ等の発生の有無を基準に各プレス加工解析ソフトA,B…の確からしさを相対評価する。
【0027】
以上述べたように、本実施形態に係るプレス加工解析ソフトの評価方法では、複数のプレス加工解析ソフトA,B…のうち一のプレス加工解析ソフトAによりプレス素材10に対するプレス加工の構造解析を行って、その際のプレス素材10の周縁部10aの変位履歴(ここでは座標データ[xAi(tj),yAi(tj),zAi(tj)])を取得し、取得した変位履歴を用いて、残りのプレス加工解析ソフトB…によるプレス加工の構造解析を行うようにした。このように一のプレス加工解析ソフトAにより得たプレス素材10の周縁部10aの変位履歴を利用して残りの解析ソフトB…によるプレス加工の構造解析を行うことによって、残りのプレス加工解析ソフトB…によるプレス加工解析においてプレス成形プロセスと成形結果に大きな影響を及ぼし得るプレス素材10の材料流入量を制御することができる。そのため、一のプレス加工解析ソフトAと残りのプレス加工解析ソフトB…のそれぞれ一回の解析により材料流入量を合わせることができ、異なるプレス加工解析ソフトA,B…を同じ基準で比較評価することが可能となる。同じ基準での比較評価が可能になれば、何れの解析ソフトA,B…による解析結果の信頼性が相対的に高いのかについて的確に判断できるので、例えば工程の前後において解析を通じて取得した知見などの技術情報を容易に共有(他の工程で活用)することができ、製造プロセスの効率化を図ることが可能となる。
【0028】
また、本実施形態では、複数のプレス加工解析ソフトA,B…によりプレス素材10に対するプレス加工の予備的な構造解析を行う予備解析工程S1と、予備解析工程S1で得た解析結果と、実際のプレス加工結果とをそれぞれ比較して、各プレス加工解析ソフトA,B…の予備評価を行う予備評価工程S2とをさらに設けて、複数のプレス加工解析ソフトA,B…のうち予備評価工程で最も高評価を得たプレス加工解析ソフトを一のプレス加工解析ソフトAとして変位履歴取得工程S4を実施し、その他のプレス加工解析ソフトを残りのプレス加工解析ソフトB…として第二解析工程S5と評価工程S6とを実施した。このように、評価対象となる全ての解析ソフトA,B…に対して予備解析を行うと共に、予備解析の結果に基づいて各プレス加工解析ソフトA,B…の評価を行うことによって、変位履歴を取得するのに最も適した一のプレス加工解析ソフトAを選定することができる。よって、この方法によれば、各プレス加工解析ソフトA,B…による解析結果の信頼性をさらに高めることができ、製造プロセスの更なる効率化を図ることが可能となる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係るプレス加工解析ソフトの評価方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0030】
例えば、上記実施形態では、複数のプレス加工解析ソフトA,B…によりプレス素材10に対するプレス加工の予備的な構造解析を行う予備解析工程S1と、予備解析工程S1で得た解析結果に基づいて各プレス加工解析ソフトA,B…の予備評価を行う予備評価工程S2とを実施する場合を例示したが、もちろん、これらの工程を省略することも可能である。例えば評価対象となる複数のプレス加工解析ソフトのうち、ある程度の確からしさが確認されているプレス加工解析ソフトを一のプレス加工解析ソフトとして、このプレス加工解析ソフトにつき第一解析工程S3及び変位履歴取得工程S4を実施してもよい。このようにすれば、相対的に確からしさに乏しいと思われるプレス加工解析ソフトについて最終的には不要となる予備解析工程S1を実施しなくて済むので、より効率よく一連の評価作業を実施することが可能となる。
【0031】
また、変位履歴取得工程S4に関し、上記実施形態では、解析モデルを構成する節点のうち、周縁部10a上の全ての節点Piの座標の時系列データを取得する場合を例示したが、もちろんこれには限られない。必要に応じて周縁部10a上の一部の節点Piの座標の時系列データを取得してもよい。あるいは周縁部10a上の節点Piに加えて、周縁部10a近傍の節点の座標の時系列データをさらに取得して、第二解析工程S5に利用してもよい。
【符号の説明】
【0032】
10 プレス素材
10a 周縁部
11 絞り部
A 一のプレス加工解析ソフト
B… 残りのプレス加工解析ソフト
Pi 節点
S1 予備解析工程
S2 予備評価工程
S3 第一解析工程
S4 変位履歴取得工程
S5 第二解析工程
S6 評価工程
tj 所定時刻