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特許7502002真空ポンプの製造方法、真空ポンプおよび真空ポンプ用のステータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】真空ポンプの製造方法、真空ポンプおよび真空ポンプ用のステータ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
F04D19/04 F
F04D19/04 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019128798
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2021014800
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】大立 好伸
(72)【発明者】
【氏名】前島 靖
(72)【発明者】
【氏名】高阿田 勉
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145917(JP,A)
【文献】独国実用新案第000029715035(DE,U1)
【文献】特開2014-059953(JP,A)
【文献】特開2009-002233(JP,A)
【文献】特開2017-160853(JP,A)
【文献】特開2003-269365(JP,A)
【文献】実開昭59-073595(JP,U)
【文献】特開昭53-068411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口を有する第1ケーシングと、
排気口を有する第2ケーシングと、
少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、
前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、
前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、
前記シャフトを回転駆動する駆動部と、
前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプの製造方法であって、
金属板に切断加工を施すことにより、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を一体に形成するとともに、前記ステータの周方向における前記ステータ翼の端部であるステータ翼側端部を、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて直線状に形成するステップと、
前記金属板に曲げ加工を施すことにより、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度が前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線的に変化するように、前記ステータ翼を曲げるステップと、
前記ステータ翼の上流側に位置する前記ステータ翼側端部の上流側稜線を、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて線としつつ、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定となるように配置するステップと、を有し、
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする真空ポンプの製造方法。
【請求項2】
吸気口を有する第1ケーシングと、
排気口を有する第2ケーシングと、
少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、
前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、
前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、
前記シャフトを回転駆動する駆動部と、
前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプの製造方法であって、
金属板に切断加工を施すことにより、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を一体に形成するとともに、前記ステータの周方向における前記ステータ翼の端部であるステータ翼側端部を、内周側端から外周側端にかけて前記ステータ翼側端部が前記ステータ翼の前記内周リムに対する内側連結部の中心および前記外周リムに対する外側連結部の中心を通る傾斜中心線から離れる方向へ凹状となるように曲線状に形成するステップと、
前記金属板に曲げ加工を施すことにより、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度が前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて変化するように、前記ステータ翼を曲げるステップと、
前記ステータ翼の上流側に位置する前記ステータ翼側端部の上流側稜線を、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線としつつ、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定となるように配置するステップと、を有し、
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする真空ポンプの製造方法。
【請求項3】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の隅部の曲率半径は、0.2mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項4】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の前記ステータの周方向における長さは、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて大きくなることを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項5】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の前記ステータの周方向における長さは、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項6】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の前記ステータの周方向における長さは、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて小さくなることを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項7】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記外周リムに隣接するスリット穴の前記ステータの径方向における長さは、前記外周リムの前記径方向における長さよりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項8】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記内周リムに隣接するスリット穴の前記ステータの径方向における長さは、前記内周リムの前記径方向における長さよりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項9】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータの前記ステータ翼と前記外周リムとを連結する外側連結部の、前記ステータの径方向における長さは、前記外周リムの前記径方向における長さより小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項10】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータの前記ステータ翼と前記内周リムとを連結する内側連結部の、前記ステータの径方向における長さは、前記内周リムの前記径方向における長さより小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプの製造方法。
【請求項11】
吸気口を有する第1ケーシングと、
排気口を有する第2ケーシングと、
少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、
前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、
前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、
前記シャフトを回転駆動する駆動部と、
前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプであって、
前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、
前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、
前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線的に変化し
前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、
前記金属板に切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項12】
吸気口を有する第1ケーシングと、
排気口を有する第2ケーシングと、
少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、
前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、
前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、
前記シャフトを回転駆動する駆動部と、
前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプであって、
前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、
前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、
前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて変化し、
前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、
前記金属板に、前記ステータ翼側端部が前記ステータ翼の前記内周リムに対する内側連結部の中心および前記外周リムに対する外側連結部の中心を通る傾斜中心線から離れる方向へ凹状となる曲線状に形成されるように切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項13】
吸気口を有する第1ケーシングと、
排気口を有する第2ケーシングと、
少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、
前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、
前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、
前記シャフトを回転駆動する駆動部と、
前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプに用いられるステータであって、
前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、
前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、
前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線的に変化し
前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、
前記金属板に切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とするステータ。
【請求項14】
吸気口を有する第1ケーシングと、
排気口を有する第2ケーシングと、
少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、
前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、
前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、
前記シャフトを回転駆動する駆動部と、
前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプに用いられるステータであって、
前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、
前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、
前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて変化し、
前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、
前記金属板に、前記ステータ翼側端部が前記ステータ翼の前記内周リムに対する内側連結部の中心および前記外周リムに対する外側連結部の中心を通る傾斜中心線から離れる方向へ凹状となる曲線状に形成されるように切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とするステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプの製造方法、真空ポンプおよび真空ポンプ用のステータに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡、表面分析装置または微細加工装置等は、装置内の環境を高度の真空状態にすることが必要である。これらの装置の内部を高度の真空状態とするために、真空ポンプが用いられている。真空ポンプは、ロータ翼をステータ翼に対して相対的に回転させることで気体を外部へ排気して、上述した装置内を高真空に保持することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、板状のディスクに、打ち抜き加工を施して周方向に並ぶステータ翼を形成し、ステータ翼を立ち上げる曲げ加工によって、ステータ翼を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-348935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、ステータ翼が軸方向へ立ち上がる長さ(寸法Tに相当)が、ステータ翼の内周側と外周側で異なる。このため、軸方向に並ぶロータ翼とステータ翼との間の隙間が、内周側と第周側で異なる。ロータ翼とステータ翼との間の軸方向における隙間が大きい場合、ロータ翼とステータ翼との間で気体の逆流が生じ、排気性能が低下する要因となる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、真空ポンプの排気性能を向上できる真空ポンプの製造方法、真空ポンプおよび真空ポンプ用のステータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプの製造方法の一態様は、吸気口を有する第1ケーシングと、排気口を有する第2ケーシングと、少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、前記シャフトを回転駆動する駆動部と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプの製造方法であって、金属板に切断加工を施すことにより、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を一体に形成するとともに、前記ステータの周方向における前記ステータ翼の端部であるステータ翼側端部を、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて直線状に形成するステップと、前記金属板に曲げ加工を施すことにより、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度が前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線的に変化するように、前記ステータ翼を曲げるステップと、前記ステータ翼の上流側に位置する前記ステータ翼側端部の上流側稜線を、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて線としつつ、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定となるように配置するステップと、を有し、前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプの製造方法の他の態様は、吸気口を有する第1ケーシングと、排気口を有する第2ケーシングと、少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、前記シャフトを回転駆動する駆動部と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプの製造方法であって、金属板に切断加工を施すことにより、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を一体に形成するとともに、前記ステータの周方向における前記ステータ翼の端部であるステータ翼側端部を、内周側端から外周側端にかけて前記ステータ翼側端部が前記ステータ翼の前記内周リムに対する内側連結部の中心および前記外周リムに対する外側連結部の中心を通る傾斜中心線から離れる方向へ凹状となるように曲線状に形成するステップと、前記金属板に曲げ加工を施すことにより、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度が前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて変化するように、前記ステータ翼を曲げるステップと、前記ステータ翼の上流側に位置する前記ステータ翼側端部の上流側稜線を、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線としつつ、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定となるように配置するステップと、を有し、前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプの一態様は、吸気口を有する第1ケーシングと、排気口を有する第2ケーシングと、少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、前記シャフトを回転駆動する駆動部と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプであって、前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線的に変化し、前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、前記金属板に切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプの他の態様は、吸気口を有する第1ケーシングと、排気口を有する第2ケーシングと、少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、前記シャフトを回転駆動する駆動部と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプであって、前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて変化し、前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、前記金属板に、前記ステータ翼側端部が前記ステータ翼の前記内周リムに対する内側連結部の中心および前記外周リムに対する外側連結部の中心を通る傾斜中心線から離れる方向へ凹状となる曲線状に形成されるように切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプ用のステータの一態様は、吸気口を有する第1ケーシングと、排気口を有する第2ケーシングと、少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、前記シャフトを回転駆動する駆動部と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプに用いられるステータであって、前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線的に変化し、前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、前記金属板に切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプ用のステータの他の態様は、吸気口を有する第1ケーシングと、排気口を有する第2ケーシングと、少なくとも前記第1ケーシングおよび前記第2ケーシングによって密封される空間内に配置され、シャフトを有するロータと、前記ロータの外周面に固定または一体に形成された複数のロータ翼と、前記シャフトの軸方向において前記ロータ翼と交互に配置されたステータと、前記シャフトを回転駆動する駆動部と、前記シャフトを回転可能に支持する軸受と、を有する真空ポンプに用いられるステータであって、前記ステータは、前記ステータの外周側端に位置する外周リムと、前記ステータの内周側端に位置する内周リムと、前記外周リムおよび前記内周リムの間に位置する複数のステータ翼と、を有し、前記外周リム、前記内周リムおよび前記ステータ翼は金属板によって一体に形成されており、前記ステータ翼の前記外周リムに対する傾斜角度は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて変化し、前記ステータ翼の上流側に位置するステータ翼側端部の上流側稜線は、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて曲線であるとともに、当該上流側稜線と対向する前記ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して、前記軸方向における隙間が一定であり、前記金属板に、前記ステータ翼側端部が前記ステータ翼の前記内周リムに対する内側連結部の中心および前記外周リムに対する外側連結部の中心を通る傾斜中心線から離れる方向へ凹状となる曲線状に形成されるように切断加工によって形成される前記ステータ翼の間のスリット穴の延在方向と直交する方向の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成した真空ポンプの製造方法は、ステータ翼の上流側稜線を、ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して高い寸法精度で一定の隙間で配置できる。このため、気体の逆流を抑制して、真空ポンプの排気性能を向上できる。
【0014】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の幅は、前記金属板の板厚の0.2倍以上であ。これにより、スリット穴を形成する金型が薄くなり過ぎず、金型の破損を抑制できる。
【0015】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の隅部の曲率半径は、0.2mm以上であってもよい。これにより、隅部に応力が集中してステータに破損が生じることを抑制できる。
【0016】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の前記ステータの周方向における長さは、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて大きくなってもよい。これにより、ステータの周方向におけるステータ翼の長さを、ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて一定としやすくなる。このため、切断加工の後の曲げ加工によって、外周リムに対するステータ翼の傾斜角度を、内周側端から外周側端にかけて一定としつつ、ステータ翼の上流側稜線を、ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して隙間が一定となるように配置できる。
【0017】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の前記ステータの周方向における長さは、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて等しくてもよい。これにより、ステータの周方向におけるステータ翼の長さを、ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて大きくしやすくなる。このため、切断加工の後の曲げ加工によって、ステータ翼の外周リムに対する傾斜角度を、内周側端から外周側端にかけて変化させつつ、ステータ翼の上流側稜線を、ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して隙間が一定となるように配置できる。
【0018】
前記切断加工によって前記金属板に形成されるスリット穴の前記ステータの周方向における長さは、前記ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて小さくなってもよい。これにより、ステータの周方向におけるステータ翼の長さを、ステータ翼の内周側端から外周側端にかけて大きくしやすくなる。このため、切断加工の後の曲げ加工によって、ステータ翼の外周リムに対する傾斜角度を、内周側端から外周側端にかけて変化させつつ、ステータ翼の上流側稜線を、ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して隙間が一定となるように配置できる。また、スリット穴の周方向における長さが変化するため、スリット穴を形成する金型の全体が薄くなることを抑制でき、金型の破損を抑制できる。
【0019】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記外周リムに隣接するスリット穴の前記ステータの径方向における長さは、前記外周リムの前記径方向における長さよりも小さくてもよい。これにより、スリット穴を形成する切断加工において、スリット穴よりも径方向の外側に、金型によって挟持する部位を確保しやすい。このため、切断加工においてステータにスリット穴を適切に形成できる。
【0020】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記内周リムに隣接するスリット穴の前記ステータの径方向における長さは、前記内周リムの前記径方向における長さよりも小さくてもよい。これにより、スリット穴を形成する切断加工において、スリット穴よりも径方向の内側に、金型によって挟持する部位を確保しやすい。このため、切断加工においてステータにスリット穴を適切に形成できる。
【0021】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータの前記ステータ翼と前記外周リムとを連結する外側連結部の、前記ステータの径方向における長さは、前記外周リムの前記径方向における長さより小さくてもよい。これにより、スリット穴を形成する切断加工において、金型によって挟持する部位を確保しやすい。このため、切断加工においてステータにスリット穴を適切に形成できる。また、外側連結部が長くなり過ぎないため、ステータ翼の径方向の長さを確保しやすい。このため、真空ポンプの排気性能を高めることができる。
【0022】
前記切断加工によって前記金属板に形成される前記ステータの前記ステータ翼と前記内周リムとを連結する内側連結部の、前記ステータの径方向における長さは、前記内周リムの前記径方向における長さより小さくてもよい。これにより、スリット穴を形成する切断加工において、金型によって挟持する部位を確保しやすい。このため、切断加工においてステータにスリット穴を適切に形成できる。また、内側連結部が長くなり過ぎないため、ステータ翼の径方向の長さを確保しやすい。このため、真空ポンプの排気性能を高めることができる。
【0023】
上記のように構成した真空ポンプは、ステータ翼の上流側稜線が、ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して高い寸法精度で一定の隙間で配置される。このため、気体の逆流を抑制して、真空ポンプの排気性能を向上できる。
【0024】
上記のように構成した真空ポンプ用のステータは、真空ポンプに組み込むことで、ステータ翼の上流側稜線を、ロータ翼の下流側端部が配置される面に対して高い寸法精度で一定の隙間で配置できる。このため、気体の逆流を抑制して、真空ポンプの排気性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係る真空ポンプを示す断面図である。
図2】ステータを示す平面図である。
図3】ステータの一部を拡大した斜視図である。
図4】切断加工を行う前の金属板を示す平面図である。
図5】ステータの製造工程を説明するための図であり、(A)は切断加工後の平面図、(B)は曲げ加工後の平面図である。
図6】曲げ加工後のステータの一部を示す図であり、(A)は図5(B)の矢線Aから見た側面図、(B)は図5(B)の矢線Bから見た側面図、(C)は図5(B)の矢線Cから見た正面図である。
図7】ステータが組み込まれた真空ポンプにおけるステータ翼とロータ翼の配置を示す図である。
図8】第2実施形態に係る真空ポンプのステータの製造工程を示す図であり、(A)は切断加工後の平面図、(B)は曲げ加工後の平面図である。
図9】曲げ加工後のステータの一部を示す図であり、(A)は図8(B)の矢線Aから見た側面図、(B)は図8(B)の矢線Bから見た側面図、(C)は図8(B)の矢線Cから見た正面図である。
図10】第3実施形態に係る真空ポンプのステータの製造工程を示す図であり、(A)は切断加工後の平面図、(B)は曲げ加工後の平面図である。
図11】曲げ加工後のステータの一部を示す図であり、(A)は図10(B)の矢線Aから見た側面図、(B)は図10(B)の矢線Bから見た側面図、(C)は図10(B)の矢線Cから見た正面図である。
図12】第4実施形態に係る真空ポンプのステータの製造工程を示す図であり、(A)は切断加工後の平面図、(B)は曲げ加工後の平面図である。
図13】第4実施形態におけるステータの変形例の切断加工後を示す平面図であり、(A)は第1変形例、(B)は第2変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
<第1実施形態>
【0028】
本発明の第1実施形態に係る真空ポンプ1は、図1に示すように、ロータ翼32を備えたロータ30が高速回転することで、気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するターボ分子ポンプである。真空ポンプ1は、ガスを吸引して排気するための真空ポンプ本体2と、真空ポンプ本体2を制御する制御装置3とを有している。
【0029】
真空ポンプ本体2は、例えば半導体製造装置等のチャンバからガスを吸引して排気する。真空ポンプ本体2は、吸気口11が形成される円筒状の第1ケーシング10と、排気口21が形成される第2ケーシング20と、第2ケーシング20に固定されるステータコラム22と、静翼部40と、ネジ付きスペーサ90とを有している。さらに、真空ポンプ本体2は、回転するロータ30と、ロータ30を回転可能に支持する軸受と、ロータ30の変位を検出する変位センサと、ロータ30を回転駆動するモータ80(駆動部)とを有している。
【0030】
第1ケーシング10は、真空ポンプ本体2の上部に位置し、上端に吸気口11が形成されている。第1ケーシング10は、その底部に配設された第2ケーシング20に対して、ボルト12により固定されている。
【0031】
ロータ30は、第1ケーシング10の内方に回転可能に配置されている。ロータ30は、シャフト35と、軸方向に多段のロータ翼32と、ロータ翼32よりも下流に配置される円筒部33とを有している。ロータ翼32は、ターボ分子ポンプを構成し、ガスを吸引排気するためのブレードである。各段の複数のロータ翼32は、周方向に放射状に並んでいる。
【0032】
ロータ30は、略円筒形状であり、内側にシャフト35が貫通固定されている。各々のロータ翼32は、排気ガスの分子を衝突によって下方向へ移送するために、シャフト35の軸方向に垂直な平面から所定の角度で傾斜して形成されている。ロータ翼32は、ロータ30の外周面に一体で形成されている。または、ロータ翼32は、ロータ30の外周面に固定されていてもよい。
【0033】
円筒部33は、ロータ翼32よりも下流に配置されて、円筒状に形成されている。この円筒部33は、ネジ付きスペーサ90の内周面に向かって張り出して形成されている。円筒部33は、ネジ付きスペーサ90の内周面と所定の隙間を隔てて近接している。
【0034】
シャフト35は、ロータ30の回転中心に配置される。シャフト35は、円柱状の主軸部36と、主軸部36の下部に配置される円板状のディスク37とを有している。主軸部36およびディスク37は、磁気によって吸引可能な高透磁率材(鉄等)により形成されている。主軸部36は、後述する上流側径方向電磁石61および下流側径方向電磁石62の磁力により、吸引されて位置を制御される。
【0035】
軸受は、例えば、いわゆる5軸制御の磁気軸受であり、シャフト35を浮上支持かつ位置制御する。軸受は、主軸部36の上流側を吸引する上流側径方向電磁石61と、主軸部36の下流側を吸引する下流側径方向電磁石62と、ディスク37を吸引する軸方向電磁石63A、63Bと、補助軸受65とを有している。補助軸受65は、ロータ30の軸振れが大きくなった際に主軸部36と接触して、ロータ30が固定子側に直接接触して破損することを抑制する。
【0036】
上流側径方向電磁石61は、回転軸と垂直な面で直交する2軸の各々において対をなして配置される4個の電磁石を有している。下流側径方向電磁石62は、回転軸と垂直な面で直交する2軸の各々において対をなして配置される4個の電磁石を有している。軸方向電磁石63A、63Bは、ディスク37を上下に挟んで配置されている。
【0037】
変位センサは、ロータ30の変位を検出するために、ステータコラム22に配置されている。変位センサは、上流側径方向センサ71と、下流側径方向センサ72と、軸方向センサ73とを有している。上流側径方向センサ71は、4個の上流側径方向電磁石61に近接かつ対応して配置される4個の非接触型のセンサである。上流側径方向センサ71は、シャフト35の主軸部36の上部の径方向変位を検出し、その変位信号を制御装置3に送信するように構成されている。上流側径方向センサ71として用いられるセンサの例としては、インダクタンス式センサや渦電流式センサなどがある。
【0038】
下流側径方向センサ72は、4個の下流側径方向電磁石62に近接かつ対応して配置される4個の非接触型のセンサである。下流側径方向センサ72は、主軸部36の下部の径方向変位を検出し、その変位信号を制御装置3に送信するように構成されている。下流側径方向センサ72として用いられるセンサの例としては、インダクタンス式センサや渦電流式センサなどがある。
【0039】
軸方向センサ73は、ディスク37の下方に配置される。軸方向センサ73は、シャフト35の軸方向変位を検出し、その変位信号を制御装置3に送信するように構成されている。
【0040】
制御装置3は、上流側径方向センサ71が検出した変位信号に基づき、PID調節機能を有する補償回路を介して上流側径方向電磁石61を励磁制御し、主軸部36の上流側の径方向位置を調整する。この調整は、回転軸と垂直な面で直交する2軸の各々において独立して行われる。
【0041】
また、制御装置3は、下流側径方向センサ72が検出した変位信号に基づき、PID調節機能を有する補償回路を介して下流側径方向電磁石62を励磁制御し、主軸部36の下流側の径方向位置を調整する。この調整は、回転軸と垂直な面で直交する2軸の各々において独立して行われる。
【0042】
さらに、制御装置3では、軸方向センサ73が検出した変位信号に基づき、軸方向電磁石63A、63Bを励磁制御する。このとき、軸方向電磁石63Aは、磁力によりディスク37を上方に吸引し、軸方向電磁石63Bは、ディスク37を下方に吸引する。このように、磁気軸受は、シャフト35に及ぼす磁力を適当に調節することで、シャフト35を磁気浮上させ、非接触で回転可能に支持することができる。
【0043】
モータ80は、回転子側に配置される複数の永久磁石である磁極81と、固定子側に配置されるモータ電磁石82とを有している。磁極81は、モータ電磁石82から、シャフト35を回転させるトルク成分を加えられる。これにより、ロータ30が回転駆動される。
【0044】
また、モータ80は、図示しない回転数センサ及びモータ温度センサが取り付けられている。回転数センサ及びモータ温度センサは、検出した結果を、検出信号として制御装置3へ送信する。制御装置3は、回転数センサ及びモータ温度センサから受信した信号を、シャフト35の回転の制御に利用する。
【0045】
静翼部40は、多段のステータ41と、各段のステータ41が挟持されるように段積みされた複数のステータ用スペーサ42とを有している。各々のステータ41は、複数のステータ翼43を有している。
【0046】
ステータ翼43は、ロータ翼32と同様に、シャフト35の軸方向に垂直な平面から所定の角度で傾斜して形成されている。ステータ翼43は、第1ケーシング10の内方に向けて、ロータ翼32の段と互い違いに配設されている。ステータ翼43の外周側の端部は、複数の段積みされたリング状のステータ用スペーサ42の間に挟まれて支持されている。ステータ用スペーサ42は、第1ケーシング10の内側に段積みされて配置される。ステータ用スペーサ42は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅等の金属、又はこれらの金属を成分として含む合金等の金属によって構成されている。
【0047】
ネジ付きスペーサ90は、ステータ用スペーサ42の下部と第2ケーシング20の間に配置されている。ネジ付きスペーサ90は、ロータ30の円筒状に配置される円筒部33と所定の隙間を隔てて近接している。ネジ付きスペーサ90の内周面には、螺旋状のネジ溝91が複数条形成されている。このネジ溝91の螺旋の方向は、ロータ30の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口21の方へ移送される方向である。ネジ付きスペーサ90および円筒部33は、ネジ溝ポンプを構成する。ネジ付きスペーサ90は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金等の金属によって構成される。
【0048】
第2ケーシング20は、真空ポンプ本体2の底部を構成する円盤状の部材である。第2ケーシング20は、ネジ付きスペーサ90の下部に、排気口21が形成されている。排気口21は、外部に連通されている。第2ケーシング20は、一般には鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属によって構成されている。第2ケーシング20は、真空ポンプ本体2を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も備えることが好ましい。したがって、第2ケーシング20の構成材料は、剛性があり、かつ熱伝導率が高い金属が好ましく、例えば鉄、アルミニウム、銅等を好適に使用できる。
【0049】
上述した真空ポンプ本体2は、シャフト35がモータ80により駆動されると、ロータ翼32および円筒部33が回転する。これにより、ロータ翼32とステータ翼43の作用により、吸気口11を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。
【0050】
吸気口11から吸気された排気ガスは、ロータ翼32とステータ翼43によって、第2ケーシング20へ移送される。このとき、排気ガスがロータ翼32に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ80で発生した熱の伝導等により、ロータ翼32の温度は上昇する。しかしながら、この熱は輻射または排気ガスの気体分子等による伝導により、ステータ翼43側に伝達される。さらに、ステータ用スペーサ42は、外周部で互いに接合されている。このため、ステータ翼43がロータ翼32から受け取った熱や、排気ガスがステータ翼43に接触する際に生ずる摩擦熱等は、ステータ用スペーサ42を介して外部へ伝達される。
【0051】
また、第2ケーシング20に移送されてきた排気ガスは、ネジ付きスペーサ90のネジ溝91に案内されつつ排気口21へ移送される。
なお、本実施形態では、ネジ付きスペーサ90は円筒部33の外周に配置され、ネジ付きスペーサ90の内周面にネジ溝91が形成されている。しかしながら、これとは逆に、円筒部33の外周面にネジ溝が形成され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置されてもよい。
【0052】
また、吸気口11から吸引されたガスが、モータ80、下流側径方向電磁石62、下流側径方向センサ72、上流側径方向電磁石61、上流側径方向センサ71等で構成される電装部側に侵入することのないよう、電装部の外周囲は、ステータコラム22で覆われている。電装部を囲むステータコラム22内は、パージガスによって所定圧に保たれている。第2ケーシング20は、図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。この導入されたパージガスは、補助軸受65とシャフト35の間、モータ80の間、ステータコラム22とロータ翼32の間の隙間を通じて排気口21へ送出される。
【0053】
第2ケーシング20等の外周には、図示しないヒータや環状の水冷管23が巻着されている。また、第2ケーシング20には、図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)が埋め込まれている。そして、この温度センサの信号に基づき、第2ケーシング20の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つように、ヒータの加熱や水冷管23による冷却の制御が行われている。これにより、真空ポンプ本体2の内部に、プロセスガスが付着して堆積することを抑制する。
【0054】
プロセスガスは、反応性を高めるため高温の状態でチャンバに導入されることがある。これらのプロセスガスは、排気される際に冷却されてある温度になると固体となり、排気系に生成物を析出する場合がある。そして、この種のプロセスガスが真空ポンプ本体2内で低温となって固体状となり、真空ポンプ本体2の内部に付着して堆積する。
【0055】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(1×105[Pa]~1[Pa])かつ低温(約20[℃])において、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、真空ポンプ本体2の内部に堆積する。真空ポンプ本体2の内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプの流路を狭め、真空ポンプ本体2の性能を低下させる原因となる。例えば、前述した生成物は、排気口21付近の温度が低い部分、特に円筒部33及びネジ付きスペーサ90付近で凝固して付着しやすい。したがって、制御装置3は、温度センサの信号に基づき、第2ケーシング20の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つように、ヒータの加熱や水冷管23による冷却の制御を行う。これにより、真空ポンプ本体2の内部に、プロセスガスが付着して堆積することを抑制できる。
【0056】
少なくとも1つのステータ41は、図2に示すように、軸方向に並ぶロータ翼32の間に、径方向の外方から差し込んで配置できるように、リング形状を2分割して180度で形成される2つの分割ステータ41Aを有している。分割ステータ41Aは、1枚の金属板に、切断加工および曲げ加工を施すことで形成される。切断加工は、金型のダイおよびポンチを用いたせん断加工である。切断加工および曲げ加工は、別々に行われても、同時に行われてもよい。切断加工および曲げ加工は、順送型のプレス金型により、金属板を送りつつ連続して行われることが好ましい。分割ステータ41Aは、図2、3に示すように、内周側に位置する内周リム44と、外周側に位置する外周リム45と、内周リム44と外周リム45の間に配置される複数のステータ翼43と、ステータ翼43および内周リム44を接続する内側連結部46と、ステータ翼43および外周リム45を接続する外側連結部47とを有している。内側連結部46および外側連結部47は、ステータ41の周方向において、ステータ翼43よりも短く形成されている。周方向に並ぶステータ翼43の間には、切断加工により打ち抜かれたスリット穴48が形成されている。ステータ41を構成する金属板の材料は、アルミニウム等を好適に使用できる。スリット穴48は、外周リム45の内周側に周方向に延在する外側スリット48Aと、内周リム44の外周側に周方向に延在する内側スリット48Bと、外側スリット48Aおよび内側スリット48Bの間で延在する中央スリット48Cとを有している。中央スリット48Cは、ステータ41の周方向における外側スリット48Aの中央部と、ステータ41の周方向における内側スリット48Bの中央部とを連通させている。各々のスリットは、延在方向に長さを有し、延在方向と直交する方向に幅を有する。
【0057】
次に、ステータ41の製造工程について説明する。まず、図4に示すように、素材となる半リング形状の金属板を準備する。半リング形状の金属板は、切断加工により形成されてもよいが、加工方法は特に限定されない。次に、一点鎖線で示す部位を、金型を用いた切断加工により切断する。これにより、図5(A)に示すように、周方向に並ぶステータ翼43の間に、スリット穴48が形成される。スリット穴48は、外周リム45の内周側の端部である外端部49と、内周リム44の外周側の端部である内端部50と、周方向における外側連結部47の端部である2つの外側接続端部51と、周方向における内側連結部46の端部である2つの内側接続端部52と、ステータ翼43の端部である2つのステータ翼端部53とを有している。各々のステータ翼端部53は、ステータ翼43の外周側に位置するステータ翼外端部53Aと、ステータ翼43の内周側に位置するステータ翼内端部53Bと、ステータ翼外端部53Aおよびステータ翼内端部53Bの間で、ステータ41の径方向へ延在するステータ翼側端部53Cとを有している。スリット穴48の幅および/または長さは、好ましくは、金属板の板厚の0.2倍以上であり、より好ましくは0.5倍以上、さらに好ましくは0.7倍以上、さらに好ましくは1倍以上である。これにより、スリット穴48を切り抜く金型が薄くなり過ぎず、金型の破損を抑制できる。
【0058】
外端部49と外側接続端部51との間には、第1隅部C1が形成される。隅部とは、スリット穴48を構成する壁面が凹部を形成する部位である。外側接続端部51とステータ翼外端部53Aとの間には、第2隅部C2が形成される。ステータ翼内端部53Bと内側接続端部52との間には、第3隅部C3が形成される。内端部50と内側接続端部52との間には、第4隅部C4が形成される。第1隅部C1、第2隅部C2、第3隅部C3および第4隅部C4は、曲面で形成されることが好ましい。第1隅部C1、第2隅部C2、第3隅部C3および第4隅部C4の曲率半径は、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上である。これにより、各々の隅部に応力が集中してステータ41に破損が生じることを抑制できる。
【0059】
ステータ翼外端部53Aとステータ翼側端部53Cとの結合部には、第1角部E1が形成される。角部とは、スリット穴48を構成する壁面が凸部を形成する部位である。ステータ翼内端部53Bとステータ翼側端部53Cとの結合部には、第2角部E2が形成される。第1角部E1および第2角部E2は、曲率を有さない尖った角で形成されることが好ましい。これにより、ステータ翼外端部53Aとロータ翼32の間の隙間が大きくなることを抑制し、排気効率の低下を抑制できる。なお、第1角部E1および第2角部E2は、曲率半径を有して形成されてもよい。
【0060】
各々のステータ翼43に配置される2つのステータ翼側端部53Cは、金属板の面外方向から見て直線で形成され、かつ平行である。金属板の面外方向から見て、周方向における内側連結部46の中心と、周方向における外側連結部47の中心とを通る傾斜中心線Xは、各々のステータ翼43の2つのステータ翼側端部53Cと平行である。傾斜中心線Xから、各々のステータ翼側端部53Cまでの距離L1は、一致しても異なってもよい。
【0061】
各々のスリット穴48は、隣接する2つのステータ翼43の間に位置する。したがって、各々のスリット穴48に形成される2つのステータ翼側端部53Cは、周方向に隣接する異なるステータ翼43のステータ翼側端部53Cである。各々のスリット穴48において、ステータ41の周方向における隣り合う2つのステータ翼側端部53Cの間の長さWは、ステータ翼43の内周側から外周側へ向かって大きくなっている。
【0062】
外周リム45に隣接するスリット穴48の、ステータ41の径方向における長さL3は、外周リム45の径方向における長さL2よりも小さいことが好ましい。このため、スリット穴48を形成する切断加工において、スリット穴48よりも径方向の外側に、金型によって挟持する部位を十分に確保できる。なお、金型によって挟持する部位を十分に確保できない場合、スリット穴48を形成することが困難な場合がある。このため、切断加工においてステータ41にスリット穴48(特に、外周リム45に隣接する外側スリット48A)を適切に形成できる。
【0063】
また、内周リム44に隣接するスリット穴48の、ステータ41の径方向における長さL4は、内周リム44の径方向における長さL5よりも小さいことが好ましい。このため、スリット穴48を形成する切断加工において、スリット穴48よりも径方向の内側に、金型によって挟持する部位を十分に確保できる。なお、金型によって挟持する部位を十分に確保できない場合、スリット穴48を形成することが困難な場合がある。このため、切断加工においてステータ41にスリット穴48(特に、内周リム44に隣接する内側スリット48B)を適切に形成できる。
【0064】
ステータ41の径方向における外側連結部47の長さL6は、外周リム45の径方向における長さL2より小さいことが好ましい。これにより、スリット穴48を形成する切断加工において、金型によって挟持する部位を十分に確保できる。このため、切断加工においてステータ41にスリット穴48を適切に形成できる。また、外側連結部47が長くなり過ぎないため、ステータ翼43の径方向の長さを十分に確保できる。このため、真空ポンプ1の排気性能を高めることができる。
【0065】
また、ステータ41の径方向における内側連結部46の長さL7は、内周リム44の径方向における長さL5より小さいことが好ましい。これにより、スリット穴48を形成する切断加工において、金型によって挟持する部位を十分に確保できる。このため、切断加工においてステータ41にスリット穴48を適切に形成できる。また、内側連結部46が長くなり過ぎないため、ステータ翼43の径方向の長さを十分に確保できる。このため、真空ポンプ1の排気性能を高めることができる。
【0066】
金属板にスリット穴48を形成した後、金型を用いた曲げ加工を金属板に施す。これにより、図5(B)、6に示すように、外側連結部47および内側連結部46が傾斜中心線Xを中心に捩じれて、ステータ翼43が外周リム45および内周リム44に対して傾斜する。ステータ翼43の外周リム45に対する傾斜角度θは、ステータ翼43の外周側から内周側にかけて一定である。なお、ステータ翼43の外側連結部47および内側連結部46に接続される部位における傾斜角度θは、外側連結部47および内側連結部46の捩れの影響を受けて、一定である傾斜角度θと多少異なってもよい。
【0067】
この後、ステータ41は、図7に示すように、真空ポンプ1に組み込まれる。ステータ翼43は、外周リム45に対して傾斜しているため、外周リム45よりも上流側に位置するステータ翼側端部53Cには、外周リム45が位置する面から遠い位置に上流側稜線54が形成される。稜線は、スリット穴48の壁面と、金属板の表面との境界に形成される。そして、上流側稜線54は、外周リム45および内周リム44から上流側へ一定の高さHで配置される。上流側稜線54は、上流側に対向するロータ翼32の下流側の端部が位置するロータ翼下側基準面P1に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、上流側稜線54の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32との間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。また、ステータ翼43が傾斜すると、外周リム45よりも下流側に位置するステータ翼側端部53Cには、外周リム45が位置する面から遠い位置に下流側稜線55が形成される。そして、下流側稜線55は、外周リム45および内周リム44から下流側へ一定の高さHで配置される。なお、上流側稜線54の高さHおよび下流側稜線55の高さHは、一致しても異なってもよい。下流側稜線55は、下流側に対向するロータ翼32の上流側の端部が位置するロータ翼上側基準面P2に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、下流側稜線55の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32との間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。
【0068】
<第2実施形態>
【0069】
第2実施形態に係る真空ポンプ1は、図8、9に示すように、ステータ41のスリット穴48およびステータ翼43の形状のみが、第1実施形態と異なる。第2実施形態では、金属板を切断加工する際に、図8(A)に示すように、スリット穴48の2つのステータ翼側端部53Cを、金属板の面外方向から見て、平行な直線となるように形成する。したがって、各々のスリット穴48において、ステータ41の周方向における隣り合う2つのステータ翼側端部53Cの間の長さWは、ステータ翼43の内周側から外周側へ向かって一定である。傾斜中心線Xから、ステータ翼側端部53Cまでの距離L1は、ステータ翼43の内周側から外周側へ向かって大きくなっている。
【0070】
金属板にスリット穴48を形成した後、金型を用いた曲げ加工を金属板に施す。これにより、図8(B)、9に示すように、外側連結部47および内側連結部46が傾斜中心線Xを中心に捩じれて、ステータ翼43が外周リム45および内周リム44に対して傾斜する。そして、ステータ翼側端部53Cの上流側稜線54は、外周リム45および内周リム44から上流側へ一定の高さHで配置される。そして、上流側稜線54は、曲線で形成される(図8(B)を参照)。ステータ41が真空ポンプ1に組み込まれると、上流側稜線54は、上流側に対向するロータ翼32の下流側の端部が位置するロータ翼下側基準面P1(図7を参照)に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、上流側稜線54の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32との間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。このようなステータ翼側端部53Cを形成するために、ステータ翼43の外周リム45に対する傾斜角度θは、ステータ翼43の外周側から内周側にかけて徐々に大きなっている。すなわち、傾斜中心線Xからステータ翼側端部53Cまでの距離が短い内周側の方が、傾斜角度θが大きくなる。したがって、図9に示すように、ステータ翼側端部53Cの内周側端における傾斜角θ1は、ステータ翼側端部53Cの外周側端における傾斜角θ2よりも大きい。この時の傾斜角度θとしては、径方向に対して一次関数の正比例や曲線的に変化することが考えられる。
【0071】
また、ステータ翼側端部53Cの下流側稜線55は、外周リム45および内周リム44から下流側へ一定の高さHで配置される。そして、下流側稜線55は、曲線で形成される(図8(B)を参照)。下流側稜線55は、下流側に対向するロータ翼32の上流側の端部が位置するロータ翼上側基準面P2(図7を参照)に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、下流側稜線55の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32との間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。
【0072】
<第3実施形態>
【0073】
第3実施形態に係る真空ポンプ1は、図10、11に示すように、ステータ41のスリット穴48およびステータ翼43の形状のみが、第1実施形態と異なる。第3実施形態では、金属板を切断加工する際に、図10(A)に示すように、各々のスリット穴48において、ステータ41の周方向における隣り合う2つのステータ翼側端部53Cの間の長さWが、ステータ翼43の内周側から外周側へ向かって小さくなるように加工する。傾斜中心線Xから、ステータ翼側端部53Cまでの距離L1は、ステータ翼43の内周側から外周側へ向かって大きくなっている。
【0074】
金属板にスリット穴48を形成した後、金属板に金型を用いた曲げ加工を施す。これにより、図10(B)、11に示すように、外側連結部47および内側連結部46が傾斜中心線Xを中心に捩じれて、ステータ翼43が外周リム45および内周リム44に対して傾斜する。ステータ翼側端部53Cの上流側稜線54は、外周リム45および内周リム44から上流側へ一定の高さHで配置される。そして、上流側稜線54は、曲線で形成される(図10(B)を参照)。ステータ41が、真空ポンプ1に組み込まれると、上流側稜線54は、上流側に対向するロータ翼32の下流側の端部が位置するロータ翼下側基準面P1(図7を参照)に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、上流側稜線54の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32の間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。このようなステータ翼側端部53Cを形成するために、ステータ翼43の外周リム45に対する傾斜角度θは、ステータ翼43の外周側から内周側にかけて徐々に大きなっている。すなわち、傾斜中心線Xからステータ翼側端部53Cまでの距離が短い内周側の方が、傾斜角度θが大きくなる。したがって、図11に示すように、ステータ翼側端部53Cの内周側端における傾斜角θ1は、ステータ翼側端部53Cの外周側端における傾斜角θ2よりも大きい。この時の傾斜角度θとしては、径方向に対して一次関数の正比例や曲線的に変化することが考えられる。
【0075】
また、ステータ翼側端部53Cの下流側稜線55は、外周リム45および内周リム44から下流側へ一定の高さHで配置される。そして、下流側稜線55は、曲線で形成される(図10(B)を参照)。下流側稜線55は、下流側に対向するロータ翼32の上流側の端部が位置するロータ翼上側基準面P2(図7を参照)に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、下流側稜線55の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32の間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。
【0076】
<第4実施形態>
【0077】
第4実施形態に係る真空ポンプ1は、図12に示すように、ステータ41のスリット穴48およびステータ翼43の形状のみが、第1実施形態と異なる。第4実施形態では、金属板を切断加工する際に、図12(A)に示すように、スリット穴48の2つのステータ翼側端部53Cを、金属板の面外方向から見て、曲線となるように形成する。各々のスリット穴48において、ステータ41の周方向における隣り合う2つのステータ翼側端部53Cの間の長さWは、ステータ翼43の内周側から外周側へ向かって変化する。また、傾斜中心線Xから、ステータ翼側端部53Cまでの距離L1は、ステータ翼43の内周側から外周側へ向かって変化する。ステータ翼側端部53Cは、傾斜中心線Xから離れる方向へ凹状となる曲線である。なお、ステータ翼側端部53Cは、図13(A)に示す第4実施形態の第1変形例のように、傾斜中心線Xから離れる方向へ凸状となる曲線であってもよい。また、図13(B)に示す第4実施形態の第2変形例のように、スリット穴48を形成する2つのステータ翼側端部53Cのうちの一方が、傾斜中心線Xから離れる方向へ凹状となる曲線であって、他方が、傾斜中心線Xから離れる方向へ凸状となる曲線であってもよい。スリット穴48を形成する2つの曲線状のステータ翼側端部53Cは、平行であっても、平行でなくてもよい。
【0078】
第4実施形態において、図12(A)、13に示すように金属板にスリット穴48を形成した後、図12(B)に示すように、金属板に金型を用いた曲げ加工を施す。これにより、外側連結部47および内側連結部46が傾斜中心線Xを中心に捩じれて、ステータ翼43が外周リム45および内周リム44に対して傾斜する。ステータ翼側端部53Cの上流側稜線54は、外周リム45および内周リム44から上流側へ一定の高さHで配置される。そして、上流側稜線54は、曲線で形成される。なお、上流側稜線54の一部または全てが、直線で形成されることもあり得る。ステータ41が、真空ポンプ1に組み込まれると、上流側稜線54は、上流側に対向するロータ翼32の下流側の端部が位置するロータ翼下側基準面P1(図7を参照)に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、上流側稜線54の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32の間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。このようなステータ翼側端部53Cを形成するために、ステータ翼43の外周リム45に対する傾斜角度θは、ステータ翼43の外周側から内周側にかけて変化している。
【0079】
また、ステータ翼側端部53Cの下流側稜線55は、外周リム45および内周リム44から下流側へ一定の高さHで配置される。そして、下流側稜線55は、曲線で形成される。なお、下流側稜線55の一部または全てが、直線で形成されることもあり得る。下流側稜線55は、下流側に対向するロータ翼32の上流側の端部が位置するロータ翼上側基準面P2(図7を参照)に対して、軸方向へ一定の隙間Sで配置される。すなわち、下流側稜線55の全体が、ロータ翼32に対して高い寸法精度で適切な隙間Sで配置される。このため、ステータ翼43とロータ翼32の間でガスの逆流が生じ難くなり、真空ポンプ1の排気性能を向上できる。
【0080】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、軸受は、磁気軸受でなくてもよい。また、上述の実施形態では、ステータ翼43は、外周リム45よりも上流側に位置する部位と、下流側に位置する部位を有しているが、下流側に位置する部位を有さなくてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 真空ポンプ
2 真空ポンプ本体
10 第1ケーシング
11 吸気口
20 第2ケーシング
21 排気口
30 ロータ
32 ロータ翼
40 静翼部
41 ステータ
41A 分割ステータ
43 ステータ翼
44 内周リム
45 外周リム
46 内側連結部
47 外側連結部
48 スリット穴
49 外端部
50 内端部
51 外側接続端部
52 内側接続端部
53 ステータ翼端部
53A ステータ翼外端部
53B ステータ翼内端部
53C ステータ翼側端部
54 上流側稜線
55 下流側稜線
80 モータ(駆動部)
C1 第1隅部
C2 第2隅部
C3 第3隅部
C4 第4隅部
E1 第1角部
E2 第2角部
P1 ロータ翼下側基準面
P2 ロータ翼上側基準面
θ 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13