(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】高アミロースコムギ-III
(51)【国際特許分類】
A01H 6/46 20180101AFI20240611BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20240611BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240611BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20240611BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20240611BHJP
A23L 29/212 20160101ALI20240611BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240611BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240611BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240611BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
A01H6/46 ZNA
A01H5/10
A01H5/00 A
A01H1/00 A
A23L7/10 H
A23L29/212
A23L33/105
A23L33/10
A23L2/00 F
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019500330
(86)(22)【出願日】2017-07-04
(86)【国際出願番号】 AU2017050693
(87)【国際公開番号】W WO2018006126
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-07-01
(32)【優先日】2016-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590003283
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シングオ・リ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンイ・リ
(72)【発明者】
【氏名】アフメド・レジーナ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・アラン・ジョブリング
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-526690(JP,A)
【文献】特表2007-504803(JP,A)
【文献】特表2015-504301(JP,A)
【文献】特表2018-518973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
A01H 1/00 - 6/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Triticum aestivum種のコムギ穀粒であって、前記穀粒が、
i)前記穀粒がそのSSIIa-A遺伝子におけるヌル突然変異についてホモ接合体であり、そのSSIIa-B遺伝子におけるヌル突然変異についてホモ接合体であり、そのSSIIa-D遺伝子におけるヌル突然変異についてホモ接合体であ
る、そのSSIIa遺伝子の各々における突然変異
を含み、
ii)アミロース含有量とアミロペクチン含有量とを含む総澱粉含有量、
iii)重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて増加しており
、前記穀粒重量の3~12%である、フルクタン含有量、
iv)β-グルカン含有量、
v)アラビノキシラン含有量、
vi)セルロース含有量
を含み、前記穀粒が25~60mgの穀粒重量を有し、ヨウ素結合アッセイによって決定したときの前記アミロース含有量が重量基準で前記穀粒の総澱粉含有量の45~70%であり、重量基準での前記アミロペクチン含有量が前記野生型コムギ穀粒に比べて減少しており、前記β-グルカン含有量、前記アラビノキシラン含有量及び前記セルロース含有量の各々が重量基準で前記野生型コムギ穀粒に比べて増加しておりその結果として前記フルクタン含有量と前記β-グルカン含有量と前記アラビノキシラン含有量と前記セルロース含有量との総和が前記穀粒重量の15~30%である、前記穀粒。
【請求項2】
i)澱粉含有量が前記穀粒重量の30~70%であるという特徴、
ii)ヨウ素結合アッセイによって決定したときの前記アミロース含有量が前記穀粒の前記総澱粉含有量の45~65%であるという特徴、
iii)澱粉試料の枝切り後に蛍光活性化キャピラリー電気泳動(FACE)によって決定したときの前記澱粉含有量の鎖長分布において、野生型コムギ澱粉に比べてDP7~10の鎖長の割合が上昇しておりDP11~24の鎖長の割合が低下している、という特徴、
iv)前記フルクタン含有量の少なくとも50%がDP3~12であるように前記フルクタン含有量がDP3~12のフルクタンを含むという特徴、
v)前記フルクタン含有量が重量基準で前記野生型コムギ穀粒に比べて2~10倍増加しているという特徴、
vi)前記β-グルカン含有量が、絶対基準で1%もしくは2%増加している、及び/または重量基準で前記野生型コムギ穀粒に比べて2~7倍増加している、という特徴、
vii)前記β-グルカン含有量が前記穀粒重量の1~4%であるという特徴、
viii)前記アラビノキシラン含有量が絶対基準で1~5%増加しているという特徴、
ix)前記セルロース含有量が絶対基準で1~5%増加しているという特徴、
x)前記穀粒の発芽率が前記野生型コムギ穀粒に対し
て70%
~100%であるという特徴、
xi)前記穀粒が、播種された場合に雄性稔性及び雌性稔性のコムギ植物を生じさせる、という特徴
のうちの1つ以上または全てによってさらに特徴付けられる、請求項1に記載の穀粒。
【請求項3】
前記野生型コムギ穀粒におけるSSIIaタンパク質のレベルもしくは活性の5%未満である、または、SSIIa-Aタンパク質、SSIIa-Bタンパク質及びSSIIa-Dタンパク質のうちの1つ以上もしくは全てを欠く、SSIIaタンパク質のレベル及び/または活性
を前記穀粒が含む、請求項1または請求項2に記載の穀粒。
【請求項4】
各ヌル突然変異が、独立して、欠失突然変異、挿入突然変異、未成熟翻訳終止コドン、スプライス部位突然変異、及び非保存的アミノ酸置換突然変異からなる群から選択されるものであり
、前記穀粒が2つまたは3つのSSIIa遺伝子の各々における欠失突然変異を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の穀粒を実らせるかまたは前記穀粒から得られる、コムギ植物。
【請求項6】
請求項5に記載のコムギ植物であって、SSIIa-Aタンパク質、SSIIa-Bタンパク質及びSSIIa-Dタンパク質の全てを欠いている、前記コムギ植物。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の穀粒から生産される小麦粉
、または、請求項1から4のいずれか1項に記載の穀粒から生産されるコムギふすま。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1項に記載の穀粒から生産されるコムギ澱粉顆粒またはコムギ澱粉であって、前記澱粉顆粒または澱粉の総澱粉含有量に対する割合で表して重量基準で45~70%のアミロースを含み、野生型コムギ澱粉顆粒またはコムギ澱粉と比べたときに、低下した糊化ピーク温度によって特徴付けられる、前記コムギ澱粉顆粒またはコムギ澱粉。
【請求項9】
前記澱粉顆粒
がコムギGBSSIポリペプチドを含み、前記澱粉顆粒及び/または澱粉が、
a.免疫学的手段によって決定したときに、検出可能なSSIIaポリペプチドを有さないこと;
b.重量基準で少なくとも2%の耐性澱粉を含むこと;
c.前記澱粉が、低下したグリセミック指数(GI)によって特徴付けられること;
d.前記澱粉顆粒が、歪んだ形状を有すること;
e.偏光下で観察したときの前記澱粉顆粒の複屈折が低下していること;
f.前記澱粉が、減少した膨潤容積によって特徴付けられること;
g.前記澱粉における鎖長分布及び/または分岐頻度が変化していること;
h.前記澱粉が、低下したピーク粘度によって特徴付けられること;
i.澱粉ペースト化温度が低下していること;
j.サイズ排除クロマトグラフィーによって決定したときのアミロースのピーク分子量が低下していること;
k.澱粉結晶性が低下していること;ならびに
l.A型及び/またはB型澱粉の割合が低下している、及び/またはV型結晶性澱粉の割合が上昇していること
のうちの1つ以上によって特徴付けられ、各特性が、野生型コムギ澱粉顆粒またはコムギ澱粉と比べたときのものである、請求項8に記載のコムギ澱粉顆粒またはコムギ澱粉。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか1項に記載の穀粒、
請求項7に記載の小麦粉
、もしくはコムギふすま、または
請求項8もしくは請求項9に記載のコムギ澱粉顆粒もしくはコムギ澱粉
を
、乾燥重量基準で少なくとも10%のレベルで含む、食品原料。
【請求項11】
食品原料を乾燥重量基準で少なくとも10%のレベルで含む食品製品であって、前記食品原料が、
請求項1から4のいずれか1項に記載のコムギ穀粒、
請求項7に記載の小麦粉
、もしくはコムギふすま、または
請求項8もしくは請求項9に記載のコムギ澱粉顆粒もしくはコムギ澱粉
である、前記食品製品。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか1項に記載のコムギ穀粒、
請求項7に記載の小麦粉
、もしくはコムギふすま、または
請求項8もしくは請求項9に記載のコムギ澱粉顆粒もしくはコムギ澱粉
を重量表示で少なくとも10%のレベルで含み、かつ
アミロースのレベルが45%(w/w)未満であるコムギ穀粒またはそれから得られる小麦粉、全粒粉、澱粉顆粒もしくは澱粉
を含む、組成物。
【請求項13】
請求項1から4のいずれか1項に記載のコムギ穀粒を生産するプロセスであって、
請求項5または請求項6に記載のコムギ植物からコムギ穀粒を収穫すること、及び
場合によって、前記穀粒を加工して請求項10に記載の食品原料を生産すること
を含む、前記プロセス。
【請求項14】
食品を生産するプロセスであって、
(i)請求項10に記載の食品原料を別の食品原料に添加するステップ、及び
(ii)前記食品原料を混合してそれによって前記食品を生産するステップ
を含み、場合により、ステップ(i)に先立って、請求項1から4のいずれか1項に記載の穀粒を加工して前記食品原料を生産するステップ、または
ステップ(ii)からの混合食品原料を少なくとも100℃の温度で少なくとも10分間加熱するステップ
をさらに含む、プロセス。
【請求項15】
対象において、代謝健康、腸健康もしくは心血管健康のうちの1つ以上のパラメータを改善すること、または代謝、腸もしくは心血管疾患の重症度もしくは発生率を防止もしくは低減することに使用するための、請求項11に記載の食品製品。
【請求項16】
澱粉を生産するプロセスであって、
(i)請求項1から4のいずれか1項に記載のコムギ穀粒を得るステップ、及び
(ii)前記穀粒から澱粉を抽出してそれによって前記澱粉を生産するステップ
を含む、前記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年7月5日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2016902643号に基づく優先権を主張するものであり、参照によりその全開示を本明細書に援用する。
【0002】
分野
本明細書は、高アミロース澱粉を有する六倍体コムギ植物を得る方法、ならびに様々な食品及び非食品製品におけるそのような植物、特にそれから得られる穀粒または澱粉の用途について記載する。
【背景技術】
【0003】
本明細書におけるいかなる従来技術への言及も、いかなる国においてもこの従来技術が一般常識の一部を形成する、ということの認容または何らかの形態の示唆であるとはみなされず、そうみなされるべきでない。本願の全体を通して、括弧内に言及されているものを含めて様々な刊行物に対して言及がなされている。括弧内に言及されている刊行物の完全な引用は特許請求の範囲の直前の明細書の最後にアルファベット順で列挙されているのが認められ得る。言及されている全ての刊行物の開示は、これをもって参照によりそれらの全体が、本発明の属する技術分野の現状をより十分に説明するために本願に援用される。
【0004】
コムギ穀粒から生産される食品は、世界人口の食物キロジュールの少なくとも20%を供給し、ヒトの食事にタンパク質及び非澱粉性多糖類ならびにエネルギーの摂取量の大部分を提供している。澱粉はコムギ穀粒の主成分であり、広範な食品製品及び非食品製品に使用されている。澱粉の特質は様々であり、それらは特定の最終用途へのコムギ澱粉の適合性を決定付ける上で肝要な役割を果たす。この膨大な世界的消費にもかかわらず、また最終製品品質における澱粉機能性の重要さについての認識が高まっているにもかかわらず、コムギの遺伝的多様性及びそれが澱粉の特質に対して与える正確な影響についての研究は、他の商業的に重要な植物作物の研究に後れを取っている。
【0005】
炭水化物は成熟コムギ穀粒の約65~75%を占める(Stone and Morell,2009)。コムギ穀粒中の主な炭水化物は澱粉であり、それはアミロースとアミロペクチンとの2つのグルコースポリマーから構成されている。アミロースは、分岐を僅かに有するが本質的にはα-1,4結合したグルコース単位の直鎖状のポリマーであり、他方、アミロペクチンは比較的高度に分岐しており、α-1,4結合したグルコース単位の直鎖同士がα-1,6グルコシド単位の結合によって繋げられている。アミロペクチンに対するアミロースの比率は、(i)コムギ穀粒及びコムギ澱粉の健康上の利益ならびに(ii)コムギ澱粉を含む製品の最終品質の主要な決定因子であると思われる。
【0006】
健康のために次に重要なコムギ穀粒の決定因子は、食物繊維の一部を形成するものである穀粒中の非澱粉多糖類の量である。野生型コムギ穀粒は、重量表示で約1%のオリゴ糖、例えばラフィノース、約1%のフルクタン、ならびに約10%の細胞壁多糖類、主にはセルロース、アラビノキシラン及びβ-グルカンを有する(Stone and Morell,2009)。これらは、小腸では消化吸収されないが結腸まで送られてそこで細菌分解を受ける食物繊維の主成分を形成する。食物繊維は、血中のグルコース及びインスリンレベルならびに腸健康を調節する上で重要である。
【0007】
アミロースの相対量が増加した澱粉を有する禾穀類穀粒は、その健康上の利益ゆえに特に興味深い。増加したアミロースを含む食品は、食物繊維の一形態である耐性澱粉(RS)のレベルが高くなっていることが見出された。RSは、小腸で消化吸収されない、澱粉または部分消化された澱粉の製品である。耐性澱粉は、腸管健康の促進ならびに大腸癌、II型糖尿病、肥満、心疾患及び骨粗鬆症などの疾患の防御において重要な役割を有するとみなされることが多くなってきた。高アミロース澱粉は、腸健康を増進する手段としてトウモロコシ及びオオムギなどの特定禾穀類において食品用に開発された。耐性澱粉の有益な効果は、大腸への栄養素の供給によるものであり、そこで、発酵して短鎖脂肪酸を形成するエネルギー源が腸管内微生物叢に与えられる。これらの短鎖脂肪酸は、結腸細胞に栄養素を供給し、大腸による特定栄養素の取込みを強化し、結腸の生理活動を増進する。一般に、耐性澱粉または他の食物繊維が結腸に供給されない場合、結腸の代謝は比較的不活発になる。したがって、高アミロース製品は、繊維質の摂取量の増加をもたらす潜在能を有する。高アミロースコムギ穀粒またはその製品、例えば澱粉を摂取することのさらなる潜在的な健康上の利益としては、例えば、糖、インスリン及び脂質の血中レベルの調節の強化が挙げられる。さらにそのような食品は、飽満状態を増進し得、便通の改善、プロビオティック細菌の成長の増進、及び糞便中への胆汁酸排泄の強化をもたらし得る。
【0008】
大抵の加工済み澱粉質食品はRSをほとんど含有しない。野生型コムギの小麦粉と従来の配合組成及び焼成プロセスとを用いて作られたパンは、1%未満のRSを含有する。これに比べて、同じプロセス及び貯蔵条件を用いて焼成されたが穀粒における澱粉枝作り酵素活性の低下による高アミロースコムギの小麦粉を含有するパンは、RSのレベルが10倍も高かった(WO2006/069422)。豆類は、ヒトの食事においてRSに富む数少ない供給源の1つであるが、普通は5%未満のレベルのRSを含有する。したがって、成人が通常摂取する量(例えば200g/日)で高アミロースコムギのパンを摂取すると少なくとも5~12gのRSが容易に補給されるであろう。このように、高アミロースコムギ穀粒を食品製品に組み込むことは、ヒトの食物RS摂取に大幅に寄与する潜在能を有している。
【0009】
澱粉は、最初に、植物において葉などの光合成組織の葉緑体中で一時的澱粉の形態で合成される。これは次の暗期の間に動員されて、シンク器官への移出及びエネルギー代謝のためまたは種子もしくは塊茎などの器官における貯蔵のための炭素を供給する。澱粉の合成及び長期貯蔵は、禾穀類の胚乳などの貯蔵器官のアミロプラスト内で起こり、そこでは澱粉が直径100μm以下の半結晶性顆粒として蓄積される。顆粒はアミロース及びアミロペクチンを両方とも含有し、前者が天然澱粉顆粒において典型的には非晶性物質である一方、後者は直鎖グルコシド鎖の積重によって半結晶性になっている。顆粒はさらに、澱粉生合成に関与するタンパク質のうちのいくつかを含有する。
【0010】
胚乳における澱粉の合成には少なくとも4種類の酵素が関与する(
図1)。第1に、ADP-グルコースピロホスホリラーゼ(ADGP)はグルコース-1-リン酸及びATPからのADP-グルコースの合成を触媒する。第2に、様々な澱粉合成酵素(SS;EC2.4.1.21)はADP-グルコースから非還元末端へのグルコース残基のα-1,4結合による移動を触媒してα-グルカン鎖を伸長させる。第3に、澱粉枝作り酵素(SBE)はα-ポリグルカンに新たなα-1,6結合を形成する。最後に、澱粉枝切り酵素(DBE)はその後、完全には解明されていない機構によって分岐結合のうちのいくつかを除去する。
【0011】
高等植物における正常な澱粉顆粒合成に少なくともこれら4つの活性が必要とされることは明らかであるが、各酵素の多数のアイソフォームが高等植物の胚乳中にみられる。突然変異解析に基づいて、または遺伝子導入手法を用いた遺伝子発現レベルの改変によって、いくつかのアイソザイムに特有の役割が提唱されている(Abel et al.,1996、Jobling et al.,1999、Schwall et al.,2000)。しかしながら、各アイソザイムの寄与は、種によって著しく異なり、澱粉生合成に対する各アイソフォームの正確な寄与は未だに分かっていない。このことは六倍体のパンコムギ(Triticum aestivum)に特に当てはまり、それは、ゲノムA、B及びDを定義付ける3組の相同染色体を有する。六倍数性は、コムギの有用な変異型を研究及び開発する上での大きな障害とみなされてきた。事実、コムギの同祖遺伝子がどのように相互作用するのか、それらの発現がどのように調節されるのか、及び同祖遺伝子によって産生された異なるタンパク質が別々にまたは協力してどのように作用するのかについての知見は限られている。
【0012】
トウモロコシ、コメ及びコムギにおいて、酵素である澱粉合成酵素I(SSI)、澱粉合成酵素IIa(SSIIa)及び澱粉合成酵素IIIa(SSIIIa)は、おそらく他のSSと一緒に、アミロペクチン合成に関与する。例えば、コメでは、2個の顆粒結合型形態(GBSS)を含めた10個の異なる澱粉合成酵素が存在する。SSIIaに欠陥のあるコムギ、オオムギ及びコメの突然変異体が単離されているものの、3つの種は、SSIIaの喪失によって生じる表現型に対する異なる影響を示し、特に影響の程度が異なっている。SGP-1(SSIIa)タンパク質を完全に欠くssIIa突然変異コムギ植物は、A、B及びDゲノム特有の形態のSGP-1タンパク質を欠く系統を交配することによって生み出された(Yamamori et al.,2000)。ssIIa三重ヌル穀粒は、変形した澱粉顆粒を呈し、澱粉は、変化したアミロペクチン構造を有していた。澱粉のアミロース含有量は30~37%w/wであり、それは野生型のレベルと比べると約8%の増加であり、澱粉含有量はかなり減少していた(Yamamori et al.,2000)。ssIIa三重ヌル突然変異体からの澱粉は、対応する野生型穀粒からの澱粉に比べて低下した糊化温度を呈した。ssIIa三重ヌル穀粒は澱粉含有量が、野生型穀粒の場合の少なくとも60%w/wから、50%未満にまで減少した。ssIIa遺伝子突然変異体を組み合わせることによって澱粉中のアミロース含有量が45%より多いコムギが生み出される可能性があることは、Yamamori et al.,(2000)では示唆されておらず、実際、Yamamori et al.,はそれとは逆の教示をしている。このことは、コムギ品種Suncoと交配した三重ヌルssIIa突然変異体の澱粉において最大43.98%のアミロースを得たKonik-Rose et al.,(2007)によって実証された。
【0013】
オオムギでは、SSIIa遺伝子において化学的に誘導されたヌル突然変異は、アミロペクチンの合成を大幅に低減し、それによって穀粒澱粉に占めるアミロースの割合を65~70%w/wにまで引き上げた(WO02/37955-A1、Morell et al.,2003)。ジャポニカ米は、胚乳中のSSIIa酵素をインディカ米に比べて少なくするSSIIa突然変異を含むが、ジャポニカ穀粒澱粉中のアミロースのレベルはインディカ穀粒澱粉に比べて大して上昇しなかった。コメにおいてはSBEIIb遺伝子とSSIIIa遺伝子とにおける突然変異の組み合わせがアミロースの相対量に対してより大きな影響を与えた(Asai et al.,2014)。
【0014】
コムギ、オオムギ及びコメにおいてssIIaヌル突然変異の影響が異なるのは、これらのssIIa突然変異体の発達中の胚乳において澱粉顆粒の内と外とでSSIIaタンパク質の欠如が澱粉合成酵素I(SSI)及び澱粉枝作り酵素IIb(SBEIIb)の酵素の区分に与える多面的影響の程度が異なっているためであると考えられた(Luo et al.,2015)。さらに、翻訳後のSSI及びSBEIIbタンパク質のレベルに対する示差的影響は、残っているアミロペクチン構造に影響を与えていた可能性がある。これは、澱粉合成の分野においてある禾穀類種における観察結果を単純に別の禾穀類種に外挿することができないということの一例であった。
【0015】
トウモロコシ及びコメでは、SSIIa遺伝子ではなく、アミロースエクステンダー(ae)遺伝子としても知られる澱粉枝作り酵素IIbをコードするSBEIIb遺伝子における突然変異によって高アミロース表現型が作り出された(Boyer and Preiss,1981、Mizuno et al.,1993、Nishi et al.,2001)。これらのsbeIIb突然変異体では、澱粉含有量に対する割合で表したアミロース含有量は著しく向上し、残存アミロペクチンの分岐頻度は低下し、短鎖(DP17未満、特にDP8~12)の割合は低下した。さらには、澱粉の糊化温度が高くなった。トウモロコシにおいてアミロースレベルのさらなる上昇をもたらすために、SBEII活性がほぼ完全に不活性化されているとともに澱粉枝作り酵素I(SBEI)活性が低減された品種が生み出された(Sidebottom et al.,1998)。
【0016】
SBEIIbまたはSSIIa活性を低下させるのではなく単にSBEIIa活性を低下させるだけで、澱粉含有量に対する割合で表して少なくとも50%のアミロースを有するコムギが作り出された(Regina et al.,2006)。トウモロコシ及びコメとは対照的に、SBEIIbが低減されたコムギ自体はアミロース含有量の増加をもたらさなかった。国際公開第WO2005/001098号及び国際公開第WO2006/069422号には、胚乳におけるSBEIIa及びSBEIIb遺伝子のうちの片方または両方の発現を低減した外因性二本鎖RNAを含む遺伝子導入六倍体コムギについての記載がある。遺伝子導入系統からの穀粒はSBEIIa及び/またはSBEIIbタンパク質を低下したレベルで発現した。胚乳中のSBEIIaタンパク質の減少は、50%超に上昇した相対アミロースレベルに関連があったのに対し、SBEIIbタンパク質の欠如自体は、穀粒澱粉に占めるアミロースの割合を大して変化させるとは見受けられなかった。国際公開第WO2012/058730号及び第WO2013/063653号では、上昇したアミロースレベルを呈した、SBEIIa及びSBEIIbタンパク質の発現を実質的に欠く非遺伝子導入型のsbeIIa及び/またはsbeIIb三重ヌル突然変異体について報告されている。sbeIIa三重ヌル遺伝子型の穀粒は、sbeIIa遺伝子突然変異のうちの少なくとも1つが、遺伝子をまたいで隣接領域内にまで及ぶ欠失ではなく、点突然変異である、ということを条件として生存能を有していた。したがって、少なくとも50%のアミロースを有する高アミロースコムギを生み出すことが望まれる場合、パンコムギにおいて標的とされることになる遺伝子はSBEIIa遺伝子である。澱粉においてSBEII活性が低減されておりアミロースが(50%超に)増加しているコムギでは、フルクタンなどの非澱粉性多糖類のレベルは上昇しなかった(例えば、WO2010/006373)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】国際公開第WO2005/001098号
【文献】国際公開第WO2006/069422号
【文献】国際公開第WO2012/058730号
【文献】国際公開第WO2013/063653号
【文献】国際公開第WO2010/006373号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
当技術分野では改良された高アミロースコムギ植物及びそれを生産する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、予想外なことに、育種及び選抜によってコムギのA、B及びDゲノム上の3つのSSIIa遺伝子における突然変異を組み合わせることによって、アミロース含有量が穀粒の総澱粉含有量に対する重量百分率で表して少なくとも45%である六倍体コムギ穀粒を生み出すことができることを発見した。従来技術では45%のアミロースは達成可能でないと示唆されており、実際、ssIIa突然変異小麦のアミロースレベルは概して30~38%であった(Yamamori et al.,2000)。3つの突然変異のうちの少なくとも2つ、好ましくは3つ全ては、ヌル突然変異であった。SSIIaにおける機能喪失突然変異は劣性であるため、表現型は、突然変異がホモ接合状態にある場合にみられた。本発明者らはさらに、突然変異ssIIaコムギ穀粒が非澱粉性多糖類、特にβ-グルカン、フルクタン、アラビノキシラン及びセルロースを、それぞれ穀粒重量に対する百分率で表して、著しく上昇したレベルで有していることを発見した。これは、総繊維質含有量のかなりの増加ならびに関連するタンパク質含有量の増加及びその他の好ましい表現型をもたらした。
【0020】
したがって、第1の態様において、本発明は、Triticum aestivum種のコムギ穀粒を提供し、当該穀粒は、
i)穀粒がそのSSIIa-A遺伝子における突然変異についてホモ接合体であり、そのSSIIa-B遺伝子における突然変異についてホモ接合体であり、そのSSIIa-D遺伝子における突然変異についてホモ接合体であるような、そのSSIIa遺伝子の各々における突然変異
を含み、上記SSIIa遺伝子における突然変異のうち、少なくとも2つがヌル突然変異、好ましくは3つ全てがヌル突然変異であり、
ii)アミロース含有量とアミロペクチン含有量とを含む総澱粉含有量、
iii)重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて増加しており好ましくは穀粒重量の3~12%である、フルクタン含有量、
iv)β-グルカン含有量、
v)アラビノキシラン含有量、及び
vi)セルロース含有量
を含み、穀粒は25~60mgの穀粒重量を有し、ヨウ素結合アッセイによって決定したときのアミロース含有量は重量基準で穀粒の総澱粉含有量の45~70%であり、重量基準でのアミロペクチン含有量は野生型コムギ穀粒に比べて減少しており、β-グルカン含有量、アラビノキシラン含有量及びセルロース含有量の各々は重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて増加しており、その結果としてフルクタン含有量とβ-グルカン含有量とアラビノキシラン含有量とセルロース含有量との総和が穀粒重量の15~30%である。
本発明はさらに、この穀粒を実らせることができるかまたはそれから得られるコムギ植物、ならびにこの穀粒から生産される小麦粉、ふすま、コムギ澱粉顆粒及びコムギ澱粉などの製品を提供する。
【0021】
本発明はさらに、本発明の穀粒またはこの穀粒から生産される材料を含む、食品原料を提供する。また、これらの食品原料を含む食品製品、及び本発明の穀粒またはこの穀粒から生産される材料を含む組成物も提供される。食品原料は、粗挽き、挽き割り、半茹で、押潰し、精白、粉砕もしくは粉挽きされた穀粒またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。好ましい原料は小麦粉であり、最も好ましくは全粒粉または全粒粉のブレンド及び精白小麦粉である。これらの原料は、本発明のコムギ穀粒からの材料が組み込まれていることにより、野生型コムギからの対応する原料に比べて総繊維質レベルが上昇している。
【0022】
別の態様では、本発明は、本発明の穀粒を実らせることができるコムギ植物を生み出すプロセスを提供し、当該プロセスは、SSIIa-A、SSIIa-B及びSSIIa-Dからなる群から選択される1つ、2つまたは3つのSSIIa遺伝子の各々におけるヌル突然変異を各々が含んでいる2つの親コムギ植物を交配する、または上記ヌル突然変異のうちの1つもしくは2つを含んでいることが好ましい親植物に突然変異を起こさせる、ステップ(i)と;交配もしくは突然変異誘発から得られた植物もしくは穀粒またはそれから得られた子孫の植物もしくは穀粒に対して、植物または穀粒から得られるDNA、RNA、タンパク質、澱粉顆粒または澱粉を分析することによるスクリーニングを行う、ステップ(ii)と;ステップ(i)の親コムギ植物のうちの少なくとも1つに比べてSSIIa活性が低下している稔性コムギ植物を選抜する、ステップ(iii)とを含む。
【0023】
別の態様では、本発明は、代謝健康、腸健康もしくは心血管健康のうちの1つ以上のパラメータの改善を、それを必要とする対象においてもたらす、または糖尿病、腸疾患もしくは心血管疾患などの代謝疾患の重症度もしくは発生率を防止もしくは低減する、プロセスを提供し、その方法は、本発明の穀粒または食品製品を対象に提供することを含む。
【0024】
さらなる態様において、本発明は、
a)本発明のコムギ穀粒を含んでいるコムギ主茎を刈り取ること;
b)主茎の脱穀及び/または籾殻取りを行って穀粒を籾殻から分離すること;ならびに
c)ステップb)で分離された穀粒を篩分け及び/または選別し、篩分け及び/または選別された穀粒を大型箱に投入し、それによって大型箱入りコムギ穀粒を生産すること
を含む、大型箱入りコムギ穀粒を生産するプロセスを提供する。
【0025】
上記態様の各々の実施形態では、コムギ穀粒はさらに、以下の特徴のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられる。ヨウ素結合アッセイによって決定したときのアミロース含有量は、野生型コムギ穀粒に比べて例えば穀粒の総澱粉含有量の48~70%、好ましくは50~65%に増加している。実施形態では、アミロース含有量は50~70%、または約48%、約50%、約53%、約55%、約60%もしくは約65%である。穀粒の澱粉含有量は、野生型コムギ穀粒に比べて減少しており、例えば少なくとも25%である。実施形態では、本発明の穀粒の澱粉含有量は穀粒重量の30~70%、25~65%、25~60%、25~55%、25~50%、30~70%、30~65%、30~60%、30~55%、または30~50%である。さらなる実施形態では、澱粉含有量は、穀粒重量に対する百分率(w/w)で表して、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%または約65%である。一実施形態では、本発明の穀粒から得られる澱粉顆粒の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%または少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%は、歪んだ形状及び/または表面形態を示す。穀粒の澱粉は、少なくとも2%の耐性澱粉、好ましくは少なくとも3%の耐性澱粉、より好ましくは3~15%のRSまたは3~10%のRSを含む。澱粉は、示差走査熱量測定(DSC)によって容易に測定される糊化温度が低下していることによって特徴付けられ、例えば、DSC走査の最初のピークは野生型澱粉よりも2~8℃低い温度で起こる。実施形態では、穀粒のBG含有量は、β-グルカン含有量であり、野生型穀粒に比べて絶対基準で1%もしくは2%増加しており、及び/または重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて2~7倍増加している。実施形態では、BGレベルは、重量表示で穀粒の少なくとも1%または少なくとも2%、好ましくは1~4%または1~5%、好ましくは約2%、約3%、約4%、より好ましくは2~5%である。実施形態では、アラビノキシラン含有量が絶対基準で1~5%増加しており、及び/またはセルロース含有量が絶対基準で1~5%増加している。好ましい実施形態では、穀粒は(その発芽を防止するいかなる処理よりも前に)、発芽率が野生型コムギ穀粒に対して約70%~約100%であり、穀粒は、播種された場合に雄性稔性及び雌性稔性のコムギ植物を生じさせる。これらの表現型の各々は、コムギ植物において穀粒が発達している間におけるSSIIa活性の低減と関連があり、SSIIa遺伝子の突然変異の結果である。
【0026】
上記概要は、決して本発明の全ての実施形態の網羅的列挙であるとはみなされず、また、みなされるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】アミロース及びアミロペクチンについての、禾穀類穀粒における澱粉合成に関与する酵素の概略図である。
【
図2】コムギ系統C57のAゲノムにおけるコムギSSIIa-A遺伝子突然変異の図解遺伝子マップである。上部の線はSSIIa-A遺伝子のエクソンのマップを示す。下にあるのは、野生型チャイニーズスプリングから、ならびにエクソン1におけるATG翻訳開始コドンを含めた289ヌクレオチドの欠失と8ヌクレオチドの挿入とで正味の大きさが281ヌクレオチドである欠失を示している突然変異体C57からの、SSIIa-A遺伝子の領域のヌクレオチド配列である。プライマーJKSS2AP1F及びJKSS2AP2Rの位置が示されている。
【
図3】コムギ系統K79のBゲノムにおけるコムギSSIIa-B遺伝子突然変異の図解遺伝子マップである。上部の線はSSIIa-B遺伝子のエクソンのマップを示す。下にあるのは、野生型チャイニーズスプリング(CS)から、ならびにSSIIa-Bのエクソン8内への179ヌクレオチドの挿入を示している突然変異体K79からの、SSIIa-B遺伝子の領域のヌクレオチド配列である。プライマーJKSS2BP7F及びJLTSS2BPR1の位置が示されている。
【
図4】コムギ系統Turkey116のDゲノムにおけるコムギSSIIa-D遺伝子突然変異の図解遺伝子マップである。上部の線はSSIIa-D遺伝子のエクソンのマップを示す。下にあるのは、野生型チャイニーズスプリング(CS)から、ならびにSSIIa-Dのエクソン5とイントロン5との継ぎ目(イントロン5スプライス部位)をまたぐ63ヌクレオチドの欠失を示している突然変異体T116からの、SSIIa-D遺伝子の領域のヌクレオチド配列である。プライマーJTSS2D3F及びJTSS2D4Rの位置が示されている。
【
図5】Suncoの遺伝的背景を有する三重ヌルssIIa突然変異体を生み出すための、交配及び戻し交配プログラムの図解である。
【
図6】EGA Humeの遺伝的背景を有する三重ヌルssIIa突然変異体を生み出すための、交配及び戻し交配プログラムの図解である。
【
図7】Westoniaの遺伝的背景を有する三重ヌルssIIa突然変異体を生み出すための、交配及び戻し交配プログラムの図解である。
【
図8】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、上部パネルは平均穀粒重量(mg/穀粒)を示し、下部パネルは総脂質含有量(穀粒の%重量)を示す。
【
図9】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する三重ヌル突然変異体(abd)及びWT遺伝子型についての
図8中のデータの平均であり、標準偏差を示す。同じ文字(a、b、c)で示されているバーには統計学的有意差はないが、文字が異なっているバーには有意差がある。
【
図10】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、最上部パネルはアミロペクチン含有量(重量基準での澱粉含有量の%)を示し、中央パネルはアミロース含有量(ヨウ素結合法による、重量基準での澱粉含有量の%)を示し、下部パネルは総澱粉含有量(穀粒の%重量)を示す。
【
図11】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する三重ヌル突然変異体(abd)及びWT遺伝子型についての
図10中のデータの平均であり、標準偏差を示す。同じ文字(a、b、c)で示されているバーには統計学的有意差はないが、文字が異なっているバーには有意差がある。
【
図12】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、上部パネルは総繊維質含有量(重量基準での穀粒の%)を示し、下部パネルは総BG含有量(重量基準での穀粒の%)を示す。
【
図13】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する三重ヌル突然変異体(abd)及びWT遺伝子型についての
図12中のデータの平均であり、標準偏差を示す。同じ文字(a、b、c)で示されているバーには統計学的有意差はないが、文字が異なっているバーには有意差がある。
【
図14】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、最上部パネルはフルクタン含有量(重量基準での穀粒の%)を示し、中央パネルはアラビノキシラン含有量(重量基準での穀粒の%)を示し、下部パネルはセルロース含有量(重量基準での穀粒の%)を示す。
【
図15】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、上部パネルは平均穀粒重量(mg/穀粒)を示し、下部パネルは総脂質含有量(mg/穀粒)を示す。
【
図16】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する三重ヌル突然変異体(abd)及びWT遺伝子型についての
図15中のデータの平均であり、標準偏差を示す。同じ文字(a、b、c)で示されているバーには統計学的有意差はないが、文字が異なっているバーには有意差がある。
【
図17】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、最上部パネルはアミロペクチン含有量(mg/穀粒)を示し、中央パネルはアミロース含有量(mg/穀粒)を示し、下部パネルは総澱粉含有量(mg/穀粒)を示す。
【
図18】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する三重ヌル突然変異体(abd)及びWT遺伝子型についての
図17中のデータの平均であり、標準偏差を示す。同じ文字(a、b、c)で示されているバーには統計学的有意差はないが、文字が異なっているバーには有意差がある。
【
図19】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、上部パネルは総繊維質含有量(mg/穀粒)を示し、下部パネルは総BG含有量(mg/穀粒)を示す。
【
図20】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する三重ヌル突然変異体(abd)及びWT遺伝子型についての
図19中のデータの平均であり、標準偏差を示す。同じ文字(a、b、c)で示されているバーには統計学的有意差はないが、文字が異なっているバーには有意差がある。
【
図21】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する個々のコムギ系統の三重ヌルssIIa穀粒(abd)及び野生型SSIIa穀粒(WT)について、最上部パネルはフルクタン含有量(mg/穀粒)を示し、中央パネルはアラビノキシラン含有量(mg/穀粒)を示し、下部パネルはセルロース含有量(mg/穀粒)を示す。
【
図22】EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景を有する三重ヌル突然変異体(abd)及びWT遺伝子型についての
図21中のデータの平均であり、標準偏差を示す。同じ文字(a、b、c)で示されているバーには統計学的有意差はないが、文字が異なっているバーには有意差がある。
【
図23】Suncoの遺伝的背景を有する3つの選抜三重ヌルssIIa突然変異体(Sunco-abd)及び野生型(WT)の穀粒中の澱粉に対する百分率で表した耐性澱粉含有量である。3つの突然変異体には、互いに対する有意差がなかったが、WTに対する有意差はあった。
【
図24】5つの三重ssIIa突然変異系統からの枝切りされた澱粉の鎖長分布(CLD)プロファイルの、対応する野生型澱粉と比較したときの平均モル%差である。ssIIa突然変異体澱粉では、対応する野生型のそれに比べて短鎖(DP6~10)の頻度が上昇したが、中鎖(DP11~24)の頻度は低下した。
【
図25】三重ヌルssIIa突然変異体穀粒からの澱粉及び対応する野生型コムギ澱粉の、イソアミラーゼによる澱粉の枝切りの後でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)プロファイルである。記録曲線は、重合度(X軸)に応じた溶離画分の、正規化された屈折計率(RI)信号の分布を示す。最初に溶離してくるピーク(I)はアミロースであり、2番目(II)は長鎖アミロペクチンであり、ピークIIIは(枝切りされた)アミロペクチンである。黒い記録曲線はssIIa突然変異体澱粉についてのものであり、灰色の記録曲線は野生型澱粉についてのものであった。
【
図26】突然変異ssIIa(B22)及び野生型SSIIa(B70)コムギの成熟コムギ穀粒からの澱粉顆粒結合型タンパク質の免疫学的な特性評価である。特異抗血清との結合に基づいて、ウェスタンブロットの最上部のバンドはSSIIaと同定され、最上部から2番目のバンドはSBEIIaとSBEIIbとの混合物と同定され、70及び60kDaのバンドはSSI及びGBSSIであった。各バンドの同一性はラベルと矢印で示されている。種々のブロットに対して使用した抗体の同一性は各パネルの左または下にラベルで示されている。M:タンパク質分子量マーカー(kDa)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
配列リスト
配列番号1 コムギAゲノムによってコードされるSSIIa-Aポリペプチドのアミノ酸配列;受託番号:AAD53263,799aa。
【0029】
配列番号2 コムギのBゲノムによってコードされるSSIIa-Bポリペプチドのアミノ酸配列;受託番号:CAB96627,798aa。
【0030】
配列番号3 コムギDゲノムによってコードされるSSIIa-Dポリペプチドのアミノ酸配列;受託番号:BAE48800,799aa;Shimbata et al.,(2005)。
【0031】
配列番号4 コムギSSIIa-A遺伝子の完全長cDNAのヌクレオチド配列;2821ヌクレオチド;受託番号:AF155217;Li et al.,(1999);翻訳開始コドンヌクレオチド89~91、終止コドン2486~2488。
【0032】
配列番号5 コムギSSIIa-B遺伝子の完全長cDNAのヌクレオチド配列;2793ヌクレオチド;受託番号:AJ269504;Gao and Chibbar,(2000);翻訳開始コドンヌクレオチド135~137、終止コドン2529~2531。
【0033】
配列番号6 コムギSSIIa-D遺伝子の完全長cDNAのヌクレオチド配列;2846ヌクレオチド;受託番号:AJ269502;Gao and Chibbar,(2000);翻訳開始コドンヌクレオチド210~212、終止コドン2607~2609。ヌクレオチド201~384によってコードされる輸送ペプチド、成熟ペプチド385~2606。
【0034】
配列番号7 コムギのSSIIa-A遺伝子のヌクレオチド配列;受託番号:AB201445;6898nt(IWGSC:染色体7AS、Traes_7AS_53CAFB43A、52346437~52346905bp、52351676~52351931bp 逆方向鎖)。
【0035】
配列番号8 コムギのSSIIa-B遺伝子のヌクレオチド配列(受託番号:AB201446)(IWGSC:染色体7DS、Traes_7DS_E6C8AF743、3877787;1~396bp、5137~5419bp 順方向鎖)、6811nt。
【0036】
配列番号9 コムギのSSIIa-D遺伝子のヌクレオチド配列(受託番号:AB201447)(IWGSC:染色体7DS、Traes_7DS_E6C8AF743、3877787;1~396bp、5137~5419bp 順方向鎖)、6950nt。
【0037】
配列番号10 AゲノムにおいてコードされるコムギSSIIb-Aのアミノ酸配列、676aa、受託番号AK332724のヌクレオチド配列からの推測。
【0038】
配列番号11 DゲノムにおいてコードされるコムギSSIIb-Dのアミノ酸配列、674aa、受託番号ABY56824(EU333947との同一性が100%である)。
【0039】
配列番号12 Aゲノム上のコムギSSIIb-A遺伝子の完全長cDNAのヌクレオチド配列、受託番号:AK332724。2727nt(IWGSC:染色体6AL、Traes_6AL_AE01DC0EA、187,500,495~187,505,249bp 順方向鎖)。
【0040】
配列番号13 Bゲノム上のコムギSSIIb-Bの部分長cDNAのヌクレオチド配列、1282nt、IWGSC:染色体6DL、遺伝子:Traes_6BL_61D83E262、162,113,784~162,116,959bp 逆方向鎖)。
【0041】
配列番号14 Dゲノム上のコムギSSIIb-Dの完全長cDNAのヌクレオチド配列、2025nt(受託番号:EU333947)(IWGSC:染色体6DL、遺伝子:Traes_6DL_19F1042C7、147,049,693~147,051,708bp 逆方向鎖)。
【0042】
配列番号15~49 オリゴヌクレオチドプライマー。
【0043】
配列番号50~51 ペプチドのアミノ酸配列。
【0044】
詳細な説明
本明細書の全体を通して、文脈による別段の定めのない限り、「含む(comprise)」または変化形、例えば「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」という語は、述べられている要素もしくは数字または要素もしくは数字の群を包含するがしかし他の任意の要素もしくは数字または要素もしくは数字の群を排除しないということを含意することが理解されよう。「からなる」とは、「からなる」の語句の後に続くどのようなものも含みかつそれに限定されることを意味する。したがって、「からなる」の語句は、列挙されている要素が要求される、または必須であること、及び他の要素は何ら存在し得ないことを示す。「から本質的になる」とは、その語句の後に列挙されている任意の要素を含み、列挙されている要素について本開示中で明記されている活性または作用に干渉または寄与しない他の要素に限定される、という意味である。したがって、「から本質的になる」という用語は、列挙されている要素が必要とされている、または必須であるが、その他の要素は、任意のものではなく、列挙されている要素の活性または作用に影響を与えるか否かに応じて、存在し得るものでない、または存在し得ないものでない、ということを示す。
【0045】
本明細書中で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈による別段の規定が明白でない限り、複数形の態様を含み、その逆も同様である。それゆえ、例えば、「突然変異」への言及は、1回の突然変異だけでなく、2回以上の突然変異も含み、「植物」への言及は、1つの植物だけでなく、2つ以上の植物も含む、などである。
【0046】
本明細書中で使用する場合、数値または範囲に関係する「約」という用語は、指定された数値または範囲の±10%以内に入る数を包含することが意図される。
【0047】
本明細書中の各実施形態は、明示的に特段の定めをした場合を除き、他の各実施形態に準用されるべきものである。
【0048】
遺伝子及びその他の遺伝材料(例えば、mRNA、構築物など)は斜字体で表され、それらのタンパク質発現産物は、斜字体でない形式で表される。したがって、例えばSSIIaは、SSIIa(斜字体)の発現産物である。
【0049】
ヌクレオチド及びアミノ酸配列は、配列識別子番号(配列番号)によって言及される。配列番号は、配列識別子<400>1(配列番号1)、<400>2(配列番号2)などに数値的に対応している。配列リストは特許請求の範囲の後に提供されている。配列リスト中の配列番号を記載している一覧は図の凡例の後に提供されている。
【0050】
特段の定義がなされていない限り、本明細書中で使用する全ての科学技術用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法及び材料に類似する任意のそれらを本発明の実施または試験において用いてもよいが、好ましい方法及び材料が記載されている。
【0051】
本発明は、少なくとも45%(w/w)のアミロース含有量を有する、3つのSSIIa遺伝子の各々におけるヌル突然変異を含む六倍体コムギ穀粒を生み出すことができるという、本明細書に記載の実験において得られた驚くべき結果に一部基づく。これは、三重ヌルssIIa六倍体コムギ穀粒中のアミロースレベルが45%未満であったという他者が得た結果(Yamamori et al.,2000、Konik-Rose et al.,2007)に基づけば予想外なことであった。これに関して、アミロース含有量は、重量/重量基準での穀粒の総澱粉含有量に対する百分率として定義される。さらに、コムギ穀粒は、フルクタン、β-グルカン、アラビノキシラン及びセルロース含有量の増加に基づいて増加した総繊維質含有量を含めた他の望ましい特性を有し、それは、穀粒または穀粒から生産された製品を食品または餌として使用する場合に健康上の利益をもたらすものである。
【0052】
したがって、本発明の第1の態様では、Triticum aestivum種のコムギ穀粒が提供され、当該穀粒は、
i)穀粒がそのSSIIa-A遺伝子における突然変異についてホモ接合体であり、そのSSIIa-B遺伝子における突然変異についてホモ接合体であり、そのSSIIa-D遺伝子における突然変異についてホモ接合体であるような、そのSSIIa遺伝子の各々における突然変異
を含み、上記SSIIa遺伝子における突然変異のうちの少なくとも2つがヌル突然変異であり、
ii)アミロース含有量とアミロペクチン含有量とを含む総澱粉含有量、
iii)重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて増加しており好ましくは穀粒重量の3~12%である、フルクタン含有量、
iv)β-グルカン含有量、
v)アラビノキシラン含有量、及び
vi)セルロース含有量
を含み、穀粒は25~60mgの穀粒重量を有し、ヨウ素結合アッセイによって決定したときのアミロース含有量は重量基準で穀粒の総澱粉含有量の45~70%であり、重量基準でのアミロペクチン含有量は野生型コムギ穀粒に比べて減少しており、β-グルカン含有量、アラビノキシラン含有量及びセルロース含有量の各々は重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて増加しており、その結果としてフルクタン含有量とβ-グルカン含有量とアラビノキシラン含有量とセルロース含有量との総和が穀粒重量の15~30%である。
【0053】
本発明はさらに、この穀粒を実らせたかまたはこの穀粒から得られるコムギ植物、ならびにこの穀粒から生産される小麦粉及び/またはコムギ澱粉顆粒を提供する。
【0054】
本発明はさらに、本発明の穀粒またはこの穀粒から生産される材料を含む、食品原料を提供する。また、これらの食品原料を含む食品製品、及び本発明の穀粒またはこの穀粒から生産される材料を含む組成物も提供される。食品原料は、粗挽き、挽き割り、半茹で、押潰し、精白、粉砕もしくは粉挽きされた穀粒またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0055】
別の態様では、本発明は、本発明の穀粒を実らせるコムギ植物を生み出すプロセスを提供し、当該プロセスは、SSIIa-A、SSIIa-B及びSSIIa-Dからなる群から選択される1つ、2つまたは3つのSSIIa遺伝子の各々におけるヌル突然変異を各々が含んでいる2つの親コムギ植物を交配する、または上記ヌル突然変異を含んでいる親植物に突然変異を起こさせる、ステップ(i)と;交配もしくは突然変異誘発から得られた植物もしくは穀粒またはそれから得られた子孫の植物もしくは穀粒に対して、植物または穀粒から得られるDNA、RNA、タンパク質、澱粉顆粒または澱粉を分析することによるスクリーニングを行う、ステップ(ii)と;ステップ(i)の親コムギ植物のうちの少なくとも1つに比べてSSIIa活性が低下している稔性コムギ植物を選抜する、ステップ(iii)とを含む。
【0056】
別の態様では、本発明は、代謝健康、腸健康もしくは心血管健康のうちの1つ以上のパラメータの改善を、それを必要とする対象においてもたらす、または糖尿病、腸疾患もしくは心血管疾患などの代謝疾患の重症度もしくは発生率を防止もしくは低減する、プロセスを提供し、その方法は、本発明の穀粒または食品製品を対象に提供することを含む。
【0057】
本明細書中で使用する場合、「代謝健康の1つ以上のパラメータの改善」は、相対的な用語であり、野生型コムギを使用して生産された食品または飲料の等価な量での摂取と比べたときの改善を意味する。
【0058】
さらなる態様において、本発明は、
a)本発明のコムギ穀粒を含んでいるコムギ主茎を刈り取ること;
b)主茎の脱穀及び/または籾殻取りを行って穀粒を籾殻から分離すること;ならびに
c)ステップb)で分離された穀粒を篩分け及び/または選別し、篩分け及び/または選別された穀粒を大型箱に投入し、それによって大型箱入りコムギ穀粒を生産すること
を含む、大型箱入りコムギ穀粒を生産するプロセスを提供する。
【0059】
特定の実施形態では、本発明のコムギ穀粒は、以下:
i)澱粉含有量が穀粒重量の30~70%であるという特徴、
ii)ヨウ素結合アッセイによって決定したときのアミロース含有量が穀粒の総澱粉含有量の45~65%であるという特徴、
iii)澱粉試料の枝切り後に蛍光活性化キャピラリー電気泳動(FACE)によって決定したときの澱粉含有量の鎖長分布において、野生型コムギ澱粉に比べてDP7~10の鎖長の割合が上昇しておりDP11~24の鎖長の割合が低下している、という特徴、
iv)フルクタン含有量の少なくとも50%がDP3~12であるようにフルクタン含有量がDP3~12のフルクタンを含むという特徴、
v)フルクタン含有量が重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて2~10倍増加しているという特徴、
vi)β-グルカン含有量が、絶対基準で1%もしくは2%増加している、及び/または重量基準で野生型コムギ穀粒に比べて2~7倍増加している、という特徴、
vii)β-グルカン含有量が穀粒重量の1~4%であるという特徴、
viii)アラビノキシラン含有量が絶対基準で1~5%増加しているという特徴、
ix)セルロース含有量が絶対基準で1~5%増加しているという特徴、
x)穀粒の発芽率が野生型コムギ穀粒に対して約70%~約100%であるという特徴、
xi)穀粒が、播種された場合に雄性稔性及び雌性稔性のコムギ植物を生じさせる、という特徴
のうちの1つ以上または全てによってさらに特徴付けられる。
【0060】
穀粒はさらに、野生型コムギ穀粒におけるSSIIaタンパク質のレベルもしくは活性の5%未満である、または、SSIIa-Aタンパク質、SSIIa-Bタンパク質及びSSIIa-Dタンパク質のうちの1つ以上もしくは全てを欠く、SSIIaタンパク質のレベル及び/または活性を含み得る。穀粒はさらに、そのSSIIa-A遺伝子におけるヌル突然変異についてホモ接合体、そのSSIIa-B遺伝子におけるヌル突然変異についてホモ接合体、及びそのSSIIa-D遺伝子におけるヌル突然変異についてホモ接合体であり得る。各ヌル突然変異は、独立して、欠失突然変異、挿入突然変異、未成熟翻訳終止コドン、スプライス部位突然変異、及び非保存的アミノ酸置換突然変異からなる群から選択されるものであり得、好ましくは、穀粒は2つもしくは3つのSSIIa遺伝子の各々における欠失突然変異または当該遺伝子の完全な欠失を含む。
【0061】
特定の実施形態では、穀粒はさらに、澱粉合成ポリペプチドをコードする内在性遺伝子における機能喪失突然変異、または澱粉合成ポリペプチドをコードする内在性遺伝子の発現を低減するRNAをコードするキメラポリヌクレオチドをさらに含み、上記澱粉合成ポリペプチドは、SSI、SSIIIa及びSSIVからなる群から選択されるものであり、上記突然変異は、欠失突然変異、挿入突然変異、未成熟翻訳終止コドン、スプライス部位突然変異、及び非保存的アミノ酸置換突然変異からなる群から選択されるものである。好ましくは、突然変異のうちの少なくとも1つ、2つ以上または全てが、i)導入された突然変異であるか、ii)化学薬剤、生物学的薬剤もしくは照射などの突然変異誘発剤による突然変異誘発によって親コムギ植物もしくは種子において誘導されたものであるか、またはiii)植物ゲノムを改変するために導入されたものである。
【0062】
穀粒が重量基準で穀粒の総澱粉含有量の約60%のアミロース含有量を有すること、及び/または、穀粒が非遺伝子導入型であるか、またはSSIIa遺伝子及び/またはSBEIIa遺伝子の発現を低減するRNAをコードするいかなる外因性核酸も含んでいないことが、好ましい。
【0063】
SSIIaレベル及び/または活性は、発達中の胚乳におけるSSIIaレベル及び/または活性を検査することによって、または収穫された穀粒の中のSSIIaタンパク質の量を免疫学的手段などで検査することによって決定される。胚乳は、穀粒を与えた植物からのもの、あるいは子孫植物からのものであり得る。
【0064】
本発明の穀粒の澱粉顆粒及び/または穀粒の澱粉は、
(i)少なくとも2%の耐性澱粉を含むこと;
(ii)澱粉が、低下したグリセミック指数(GI)によって特徴付けられること;
(iii)澱粉顆粒が、歪んだ形状を有すること;
(iv)偏光下で観察したときの澱粉顆粒の複屈折が低下していること;
(v)澱粉が、減少した膨潤容積によって特徴付けられること;
(vi)澱粉における鎖長分布及び/または分岐頻度が変化していること;
(vii)澱粉が、低下した糊化ピーク温度によって特徴付けられること;
(viii)澱粉が、低下したピーク粘度によって特徴付けられること;
(ix)澱粉ペースト化温度が低下していること;
(x)サイズ排除クロマトグラフィーによって決定したときのアミロースのピーク分子量が低下していること;
(xi)澱粉結晶性が低下していること;ならびに
(xii)A型及び/またはB型澱粉の割合が低下している、及び/またはV型結晶性澱粉の割合が上昇していること
からなる群から選択される特性のうちの1つ以上によっても特徴付けられ得、各特性は、野生型コムギ澱粉顆粒または野生型コムギ澱粉と比べたときのものである。
【0065】
本発明の特定の実施形態では、穀粒は、それがもはや発芽できないように加工されている。そのような処理済み穀粒の例としては、加熱処理済み穀粒及び、粗挽き、挽き割り、半茹で、押潰し、精白、粉砕または粉挽きされた穀粒が挙げられる。あるいは、穀粒は、野生型コムギ穀粒に対して70~100%の率で発芽できる。
【0066】
本発明は明らかに、コムギ植物に含まれているときの上記の穀粒を包含する。本発明はさらに、本発明の穀粒を実らせるかまたは当該穀粒から得られる、コムギ植物を包含する。そのようなコムギ植物は、その胚乳におけるSSIIaタンパク質のレベル及び/または活性が野生型コムギ穀粒におけるSSIIaタンパク質のレベルもしくは活性の5%未満であるかまたはSSIIa-Aタンパク質、SSIIa-Bタンパク質及びSSIIa-Dタンパク質のうちの1つ以上もしくは全てを欠いていることによって、特徴付けられ得る。好ましくは、コムギ植物は雄性稔性及び雌性稔性である。
【0067】
本発明の穀粒から生産される小麦粉も包含される。一実施形態において、小麦粉は精白小麦粉である。小麦粉は、好ましくは、全粒粉または、精白小麦粉と全粒粉との例えば1:2~2:1の比のブレンドである。本発明はさらに、本発明の穀粒からのコムギふすまを提供する。これらの製品の各々は、コムギ穀粒の遺伝的組成(すなわちコムギ穀粒のDNA)を有するコムギ細胞を含む。
【0068】
穀粒から生産されるコムギ澱粉顆粒またはコムギ澱粉も本発明の一部である。当該コムギ澱粉顆粒またはコムギ澱粉は、典型的には、澱粉顆粒または澱粉の総澱粉含有量に対する割合で表してそれぞれ重量基準で45%、好ましくは約50%、約55%もしくは約60%のアミロースまたは45~70%のアミロースを含むものであり、澱粉顆粒は好ましくはコムギGBSSIポリペプチドを含む。澱粉顆粒及び/または澱粉はさらに、
a)免疫学的手段によって決定したときに、検出可能なSSIIaポリペプチドを有さないこと;
b)重量基準で少なくとも2%の耐性澱粉を含むこと;
c)澱粉が、低下したグリセミック指数(GI)によって特徴付けられること;
d)澱粉顆粒が、歪んだ形状を有すること;
e)偏光下で観察したときの澱粉顆粒の複屈折が低下していること;
f)澱粉が、減少した膨潤容積によって特徴付けられること;
g)澱粉における鎖長分布及び/または分岐頻度が変化していること;
h)澱粉が、低下した糊化ピーク温度によって特徴付けられること;
i)澱粉が、低下したピーク粘度によって特徴付けられること;
j)澱粉ペースト化温度が低下していること;
k)サイズ排除クロマトグラフィーによって決定したときのアミロースのピーク分子量が低下していること;
l)澱粉結晶性が低下していること;ならびに
m)A型及び/またはB型澱粉の割合が低下している、及び/またはV型結晶性澱粉の割合が上昇していること
のうちの1つ以上によって特徴付けられるものとなり、各特性は、野生型コムギ澱粉顆粒または澱粉と比べたときのものである。
【0069】
本発明はさらに、本発明の穀粒、小麦粉、好ましくは全粒粉、もしくはコムギふすま、またはコムギ澱粉顆粒もしくはコムギ澱粉を、好ましくは乾燥重量基準で少なくとも10%、好ましくは約20%~約80%のレベルで含む、食品原料を提供する。食品原料は、粗挽き、挽き割り、半茹で、押潰し、精白、粉砕もしくは粉挽きされた穀粒、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。さらに、食品原料は、好ましくは乾燥重量基準で少なくとも10%のレベルで、食品製品に組み込まれ得る。
【0070】
本発明はさらに、本発明のコムギ穀粒、小麦粉、好ましくは全粒粉、もしくはコムギふすま、またはコムギ澱粉顆粒もしくはコムギ澱粉を重量表示で少なくとも10%のレベルで含むか、あるいは、アミロースのレベルが45%(w/w)未満であるコムギ穀粒またはそれから得られる小麦粉、全粒粉、澱粉顆粒もしくは澱粉を含む、組成物を提供する。組成物は小麦粉のブレンドを含み得る。
【0071】
本発明はさらに、(i)本発明の食品原料を別の食品原料に添加するステップ、及び (ii)食品原料を混合してそれによって食品を生産するステップを含む、食品を生産するプロセスを提供する。プロセスはさらに、ステップ(i)に先立って、穀粒を加工して前記食品原料を生産するステップ、またはステップ(ii)からの混合食品原料を少なくとも100℃の温度で少なくとも10分間加熱するステップを伴い得る。
【0072】
本明細書中で使用する場合、「重量表示で」または「重量基準で」という用語は、物質を含んでいる材料または物品の重量に対する百分率で表したその物質の重量を指す。本明細書ではこれを「w/w」と略する。例えば、アミロース含有量は、総澱粉含有量の重量に対する百分率で表したアミロースの重量として定義される。
【0073】
コムギを含めた高等植物の胚乳における澱粉の合成は、
図1中に模式的に示されている4つの肝要なステップを触媒する一揃いの酵素によって行われる。第1に、ADP-グルコースピロホスホリラーゼ(EC2.7.7.27)が、G-1-P及びATPからADP-グルコースを合成することによって澱粉のモノマー前駆体を活性化させる。第2に、活性化されたグルコシル供与体であるADP-グルコースは澱粉合成酵素(EC2.4.1.24)によって既存のα-1,4結合の非還元末端へと移される。第3に、澱粉枝作り酵素は、α-1,4結合したグルカンの領域を切断し、続いて切断された鎖を受容体鎖へと移し、新しいα-1,6結合を形成することによって、分岐点を導入する。澱粉枝作り酵素は、α-1,6結合をα-ポリグルカンに導入することができる唯一の酵素であり、それゆえ、アミロペクチンの形成において重要な役割を果たす。第4に、澱粉枝切り酵素(EC2.4.4.18)が分岐結合のうちのいくつかを除去する。
【0074】
禾穀類の胚乳中にはADP-グルコースピロホスホリラーゼ(ADGP)のアイソフォームが2つ存在し、一方の形態はアミロプラスト中にあり、一方の形態は細胞質中にある。各形態は2つのサブユニット型から構成されている。トウモロコシのshrunken(sh2)及びbrittle(bt2)突然変異体はそれぞれ大及び小サブユニットに相当する。
【0075】
本明細書中で使用する場合、「澱粉合成酵素(SS)」という用語は、活性化されたグルコシル供与体であるADP-グルコースから既存のグルカン鎖の非還元末端へとグルコシル残基をα-1,4結合によって移す酵素(EC2.4.1.24)を指す。SS酵素活性は、Guan and Keeling(1998)によって記載されているように検査され得る。六倍体コムギT.aestivumにおける場合を含めて禾穀類の胚乳中には澱粉合成酵素の少なくとも5つのクラス、すなわち、澱粉顆粒の中にのみ局在しているかまたはそれに結合しているアイソフォームである顆粒結合型澱粉合成酵素(GBSS)、顆粒と可溶性部分とに区分されている2つの形態(SSI及びSSII)、専ら可溶性部分に位置する形態(SSIII)、及びここ最近になって見つかった第5の形態であるSSIVが認められる(
図1)。これらの各々は「澱粉合成酵素」という用語に含まれる。それらは、貯蔵澱粉が合成及び蓄積されているときであるコムギ植物の生育中に胚乳が発達している間は活性であるが、成熟(休眠)穀粒中では不活性状態で存在し得る。GBSSは、アミロース合成にとって必須であることが示されている。生化学的及び遺伝学的証拠に基づけば、SSI~IVの各々は主としてアミノペクチン合成に関与する。例えば、SSII及びSSIII遺伝子における突然変異は、アミロペクチン構造を変化させることが示された(Schondelmaier et al.,1992、Yamamori et al.,2000)。澱粉合成酵素は、そのアミノ酸配列に応じて、これらのクラスの既知メンバーとの相同性の程度に基づきこれら5クラスうちの1つに属するとして分類される。
【0076】
禾穀類においてはSSIIの少なくとも2つのサブクラス、SSIIa及びSSIIbが同定されており、但し、3つ目のサブクラスSSIIcはコメにおいて同定されたものであり(Ohdan et al.,2005)、コムギにおいて対応するSSIIc酵素をコードすると見受けられる遺伝子は、実施例2で記載されているように同定される。澱粉合成酵素IIa(SSIIa)は主に、ADP-グルコースから既存のα-1,4結合グルカン鎖の非還元末端へとグルコシル部分を移すことによって禾穀類の胚乳中のアミロペクチンの中程度の長さのグルカン鎖(DP12~24)の重合を触媒する(Fontaine et al.,1993)。SSIIaはそれによってアミロペクチンの短鎖(DP<10)を伸長する。コムギssIIa突然変異体では、DP6~11のグルカン鎖の頻度は上昇しており、DP11~25の鎖は頻度が低下ししている(Yamamori et al,2000)。SSIIの異なるクラスは、各クラスの型メンバーのアミノ酸配列との相同性によって、つまり系統学的解析によって区別される。異なるSSII酵素、ある場合においては、異なるコムギSSIIaアイソエンザイムは、以下に説明するようにポリペプチドのアミノ酸の数によって区別される。
【0077】
SSII、または具体的にはSSIIaをコードする遺伝子の発現のレベルは、転写産物レベルを評価すること、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析またはRT-PCR分析を行うことによって、評価され得る。好ましい方法では、穀粒または発達中の胚乳におけるSSIIaタンパク質の量は、穀粒/胚乳の抽出物中のタンパク質を電気泳動によってゲル上で分離し、その後、タンパク質をウェスタンブロッティングによって膜に転写し、続いて特異抗体を使用して膜上のタンパク質を定量的に検出すること(「ウェスタンブロット分析」)によって測定される。ゲル電気泳動及びイムノブロッティングの方法例は実施例1に記載されている。
【0078】
澱粉合成酵素I(SSI)は、禾穀類において単一のアイソフォームとして存在しているようである。コメでは、SSIは胚乳における総可溶性SS活性の約70%を占める(Fujita et al,2006)。SSIはDP6~15の短いグルカン鎖を優先的に合成し、最も短いアミロペクチン鎖を基質として好む。その重要な役割にもかかわらず、コメ胚乳におけるSSI酵素の完全な欠如は種子または澱粉顆粒の大きさ及び形状に影響を与えず、欠如しているSSI機能を他のSS酵素が補うことができることが示唆される。
【0079】
対照的に、SSIIIは、比較的長め、特にDP>30のアミロペクチンの鎖を生成し、中程度の長さのグルカン鎖を伸長する。ssIII突然変異体はアミロペクチンの中鎖の増加を呈する。胚乳で発現する多い方のSSIIIaと、少ない方の形態であるSSIIIbとの2つの形態が存在する。禾穀類穀粒におけるSSIVアイソフォームによるグルカン鎖長への寄与についてはほとんど知られていないが、それは大部分が葉において機能しているようである(Leterrier et al.,2008)。SSIVaとSSIVbとの2つのSSIV遺伝子は、コメにおいては登熟の間、比較的一定なレベルで植物全体にわたって発現し、よってそれらは植物全体において機能していると見受けられる。ArabidopsisのssIV突然変異体は葉内澱粉のレベルが低下していた。
【0080】
各澱粉合成酵素は、アミロプラスト内への移行中に切断されるN末端シグナルペプチドを有するポリペプチドとして発現する。
【0081】
本明細書中で使用する場合、「澱粉枝作り酵素」(SBE)は、グルコース残基の鎖間にα-1,6グリコシド結合を導入してそれによってアミロペクチンにα-1,6分岐点を導入する酵素(EC2.4.1.18)を意味する。植物では、SBEの2つの主なクラス、SBEI及びSBEIIが知られている。SBEIIは、禾穀類ではさらにSBEIIaとSBEIIbとの2種類に分類され得る(Hedman and Boyer,1982、Boyer and Preiss,1978、Mizuno et al.,1992、Sun et al.,1997)。いくつかの禾穀類ではSBEの別の形態も報告されており、コムギからの推定149kDaのSBEI、オオムギからの50/51kDaのSBEが報告されている。配列アラインメントは、ヌクレオチドとアミノ酸との両方のレベルにおける高度の配列類似性を明らかにし、SBEI、SBEIIa及びSBEIIbクラスへの分類を可能にする。SBEIIa及びSBEIIbのアミノ酸配列は概して互いに約80%の同一性を呈し、その大部分はポリペプチドの中央領域に集中している。
【0082】
SBEIとSBEIIaとSBEIIbとをそれらの発現パターンによって区別することもできるが、この発現パターンは種によって異なる。コムギ胚乳では、SBEI(Morell et al,1997)は可溶性部分にのみ見つかるが、SBEIIa及びSBEIIbは可溶性部分と澱粉顆粒結合部分との両方において見つかる(Rahman et al.,1995)。トウモロコシでは、SBEIIbが胚乳中の主たる形態である一方、SBEIIaは葉において比較的より強く発現し、植物全体にわたって発現するようである(Gao et al.,1997)。コメでは、胚乳中にSBEIIaとSBEIIbとがほぼ等しい量で認められる。しかしながら、遺伝子発現のタイミングにも違いがある。SBEIIaは、種子発達の初期段階において発現し、開花後3日目に検出され、葉において発現したが、SBEIIbは、開花後3日目に検出することができず、開花後7~10日目の発達中の種子に最も豊富に存在し、葉では発現しなかった。コムギ胚乳では、SBEIIaはSBEIIbよりも約3~4倍多く発現する。禾穀類の種が異なれば示されるSBEIIa及びSBEIIb発現は顕著に異なり、ある種において引き出された結論をすぐさま別の種に適用することはできない。特定の抗体を使用して酵素を区別することもあり得る。
【0083】
コムギの場合を含めて各SBE遺伝子のゲノム配列及びcDNA配列の評価がなされた。配列アラインメントは、ヌクレオチドとアミノ酸との両方のレベルにおける高度の配列類似性にとどまらず配列の差も明らかにし、SBEI、SBEIIa及びSBEIIbクラスへの分類を可能にする。コムギでは、明らかな遺伝子重複事象が各ゲノムのSBEI遺伝子の数を増加させた(Rahman et al.,1999)。A、B及びDゲノムからのSBEI遺伝子の最高発現形態における突然変異を組み合わせることによってコムギ胚乳のSBEI活性の97%超を消去することは、澱粉の構造または機能性に測定可能な影響を与えなかった(Regina et al.,2004)。対照的に、六倍体コムギにおいて遺伝子サイレンシング構築物によってSBEIIa発現を低減するとアミロースレベルが高くなり(>70%)、一方、SBEIIb発現を低減するがSBEIIa発現を低減しない対応する構築物が与える影響は最小限であった(Regina et al.,2006)。オオムギでは、胚乳におけるSBEIIaとSBEIIbとの両方の発現を低減する遺伝子サイレンシング構築物を使用して高アミロースオオムギ穀粒が生み出された(Regina et al.,2010)。トウモロコシでは、アミロースエクステンダー(ae)として知られるSBEIIb突然変異体は高アミロース表現型をもたらした。
【0084】
SBEIとSBEIIaとSBEIIbとの3つ全てのアイソフォームの活性を検出するための枝作り酵素の酵素活性アッセイは、Nishi et al.,2001の方法に以下のような若干の変更を加えたものに基づく。電気泳動の後にゲルを、10%のグリセロールを含有するpH7.0の50mMのHEPESで2回洗浄し、pH7.4の50mMのHEPESと、50mMのグルコース-1-リン酸と、2.5mMのAMPと、10%のグリセロールと、50Uのホスホリラーゼaと、1mMのDTTと、0.08%のマルトトリオースとからなる反応混合物中で16時間、室温でインキュベートする。バンドを0.2%(w/v)のI2と2%のKIとの溶液によって可視化する。SBEI、SBEIIa及びSBEIIbアイソフォームに特有の活性はこれらの電気泳動条件下で分離される。これは、抗SBEI、抗SBEIIa及び抗SBEIIb抗体を使用するイムノブロッティングによって確認される。各バンドの強度を測定するイムノブロットの濃度測定分析を行って各アイソフォームの酵素活性のレベルを決定する。
【0085】
澱粉枝作り酵素(SBE)活性は、酵素アッセイによって、例えばホスホリラーゼ刺激アッセイによって、測定され得る(Boyer and Preiss,1978)。このアッセイは、ホスホリラーゼAによるメタノール不溶性ポリマー(α-D-グルカン)中へのグルコース1-リン酸の組込みのSBEによる刺激を測定するものである。SBEのアイソフォーム同士は異なる基質特異性を示し、例えば、SBEIがアミロースの枝作りにおいてより高い活性を呈する一方、SBEIIa及びSBEIIbはアミロペクチンを基質としてより高い枝作り速度を示す。SBEIは、分岐の少ないポリグルカンを分岐させることによってDP>16の長めの鎖を優先的に生成するが、SBEIIアイソエンザイムは、DP<12の短めの鎖を生じさせる。アイソフォームは、移されるグルカン鎖の長さによっても区別され得る。
【0086】
禾穀類では枝切り酵素(DBE)の2つのクラス、すなわちイソアミラーゼ(ISA)及びプルラナーゼ(PUL)が知られている。ISAが主に植物グリコーゲン及びアミロペクチンを枝切りするのに対し、PULは、プルラン及びアミロペクチンに作用するが植物グリコーゲンには作用しない(Nakamura et al.,1996)。ISAの突然変異体はsugaryと呼称されており、短めのアミロペクチン鎖を生成し、それゆえISAは、アミロペクチンの過剰に分岐した鎖または不適切な枝を整理する役割を担っているようである。対照的に、PULは、澱粉合成においてだけでなく発芽中の穀粒における澱粉分解においても機能していると考えられる。
【0087】
発達中の六倍体コムギ胚乳は、A、B及びDゲノムの各々のSSIIa遺伝子からSSIIaを発現する。本明細書中で使用する場合、「Aゲノムから発現するSSIIa」すなわち「SSIIa-A」とは、アミノ酸配列が配列番号1で示されるかまたは配列番号1で示されるアミノ酸配列と少なくとも99%同一であるかもしくはそのような配列を含んでいる、ポリペプチドを意味する。配列番号1(Li et al.,1999、Genbank受託番号AAD53263)として提供されるアミノ酸配列は、本明細書では野生型SSIIa-Aポリペプチドの基準配列として用いられる。配列番号1のポリペプチドの長さは、配列番号1のアミノ酸置換突然変異体と同様に、799アミノ酸残基である。この酵素の酵素的に活性な変異型は、コムギ、例えば、アミノ酸配列が配列番号1と99.5%(795/799)同一である栽培品種Fielder(受託番号CAB96626.1参照)に存在しており(Gao and Chibbar,2000)、また、Triticum urartuからなどの、受託番号CUS28065.1及びCDI68213.1として提供されるTriticum aestivumの二倍体近縁種に存在している。そのような変異型は「SSIIa-A」に含まれる。SSIIa-Aは、同祖ポリペプチドであるSSIIa-B及びSSIIa-Dを含まない、というのも、それらのポリペプチドは配列番号1と約96%同一であるからである。
【0088】
本明細書中で使用する場合、「Bゲノムから発現するSSIIa」すなわち「SSIIa-B」とは、アミノ酸配列が配列番号2で示されるかまたは配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも99%同一であるかもしくはそのような配列を含んでいる、ポリペプチドを意味する。配列番号2(Genbank受託番号CAB99627.1)として提供されるアミノ酸配列は、コムギ品種FielderのBゲノムから発現する澱粉合成酵素IIaに対応し、本明細書ではそれを野生型SSIIa-Bポリペプチドの基準配列として用いる。配列番号2のポリペプチドの長さは、配列番号2のアミノ酸置換突然変異体と同様に、798アミノ酸である。この酵素の酵素的に活性な変異型はコムギに存在しており、そのような変異型は「SSIIa-B」に含まれる。SSIIa-Bは、同祖ポリペプチドであるSSIIa-A及びSSIIa-Dを含まない、というのも、それらのポリペプチドは配列番号2と約96%同一であるからである(Li et al.,1999)。
【0089】
本明細書中で使用する場合、「Dゲノムから発現するSSIIa」すなわち「SSIIa-D」とは、アミノ酸配列が配列番号3で示されるかまたは配列番号3で示されるアミノ酸配列と少なくとも99%同一であるかもしくはそのような配列を含んでいる、ポリペプチドを意味する。配列番号3(Genbank受託番号BAE48800、Shimbata et al.,2005)のアミノ酸配列は、コムギ栽培品種チャイニーズスプリングのDゲノムから発現するSSIIaに対応し、本明細書ではそれを野生型SSIIa-Dの基準配列として用いる。配列番号3のタンパク質の長さは799アミノ酸である。この酵素の酵素的に活性な変異型はコムギ、例えば、アミノ酸配列が配列番号3と99.9%(798/799)同一である栽培品種Fielder(受託番号CAB86618参照)に存在しており(Gao and Chibbar,2000)、また、六倍体コムギのDゲノムの始祖である可能性のある、受託番号CAB86618として提供されるAegilops tauschiiなどの、Triticum aestivumの二倍体近縁種に存在している。そのような変異型は「SSIIa-D」に含まれる。SSIIa-Dは、同祖ポリペプチドであるSSIIa-A及びSSIIa-Bを含まない、というのも、それらのポリペプチドは配列番号3と約96%同一であるからである。配列番号3として提供されるアミノ酸配列は、配列番号1及び配列番号2の各々と95.9%同一である。3つのアミノ酸配列のアラインメントは、タンパク質を区別するために、または変異型をSSIIa-A、SSIIa-BもしくはSSIIa-Dとして分類するために使用され得るアミノ酸差異を示す。
【0090】
これに関して、アミノ酸配列を比較して同一性百分率を例えばBlastpによって決定する場合には、完全長配列を比較せねばならず、配列内のギャップをアミノ酸差異として数に入れねばならない。
【0091】
本明細書中で使用する場合、「SSIIaポリペプチド」は、SSIIa-Aポリペプチド、SSIIa-BポリペプチドまたはSSIIa-Dポリペプチドを意味する。
【0092】
本明細書中で使用する場合、SSIIa-A、SSIIa-B及びSSIIa-Dポリペプチドの各々は、野生型または本質的に野生型の酵素活性を有するポリペプチドだけでなく、澱粉合成酵素の酵素活性が低下しているかまたはなくなっているポリペプチド変異型も含む。SSIIaポリペプチドの突然変異形態のアミノ酸配列と配列番号1、2及び3との比較は、それがSSIIa-A、-B及び-Dポリペプチドのうちのどれに由来するかを判定するために、ならびに突然変異形態を分類するために用いられる。例えば、突然変異体SSIIaポリペプチドは、そのアミノ酸配列が配列番号2及び配列番号3との場合に比べて配列番号1とのより密接な関係を有する、つまり、より高度な配列同一性を有するならば、突然変異体SSIIa-Aポリペプチドであるとみなされる。同様に、突然変異体SSIIaポリペプチドは、それが配列番号1または3との場合に比べて配列番号2とのより密接な関係を有するならば、突然変異体SSIIa-Bポリペプチドであり、また、突然変異体SSIIaポリペプチドは、それが配列番号1及び2との場合に比べて配列番号3とのより密接な関係を有するならば、突然変異体SSIIa-Dポリペプチドである。当業者であればそれによって突然変異体SSIIaポリペプチドを分類することができる。
【0093】
突然変異体SSIIaポリペプチドは、低下した澱粉合成酵素活性を有し得る(部分突然変異体)か、または澱粉合成酵素活性を欠く(ヌル突然変異体ポリペプチド)。突然変異SSIIa遺伝子は、発現してコムギ胚乳中にSSIIaポリペプチド、例えば切り詰められたポリペプチドを生成するものであり得るか、またはそれは発現せずポリペプチドを全く生成しないものであり得る。それはまた、発現して転写産物を生成するが翻訳産物は生成しないものであり得る。
【0094】
また、SSIIaタンパク質が、穀粒中、とりわけ一般的に商用に収穫される成熟穀粒中に存在し得るものの、穀粒中での生理学的状態ゆえに不活性または休眠状態にあり得る、ということは理解される。そのようなポリペプチドは、本明細書中で使用される「SSIIaポリペプチド」に含まれる。SSIIaポリペプチドは穀粒発達のごく一部の間だけ、特に、貯蔵澱粉が通常どおり蓄積されるときに発達している胚乳中で、酵素的に活性であり得るが、そうでなければ不活性状態にあり得る。そのようなSSIIaポリペプチドは、ウェスタンブロット分析などの免疫学的方法を用いて容易に検出及び定量され得る。
【0095】
したがって、SSIIa-Aポリペプチドについて言及するときに本明細書中で使用される「野生型」とは、アミノ酸配列が配列番号1で示されるポリペプチドまたは、天然にみられかつ配列番号1と本質的に同じ活性を有しアミノ酸配列が少なくとも99%同一である酵素的に活性な変異型を意味する。SSIIa-Bについて言及するときに本明細書中で使用される「野生型」とは、アミノ酸配列が配列番号2で示されるポリペプチドまたは、天然にみられかつ配列が配列番号2として提供されるポリペプチドと本質的に同じ活性を有しアミノ酸配列が少なくとも99%同一である酵素的に活性な変異型を意味する。SSIIa-Dについて言及するときに本明細書中で使用される「野生型」とは、アミノ酸配列が配列番号3で示されるポリペプチドまたは、天然にみられかつ配列が配列番号3として提供されるポリペプチドと本質的に同じ活性を有しアミノ酸配列が少なくとも99%同一である酵素的に活性な変異型を意味する。各々の場合において、野生型ポリペプチドは、澱粉合成酵素II活性を有し、本発明による改変がなされていない。
【0096】
野生型コムギは、SSIIポリペプチドの2つの他のクラス、すなわちSSIIb及びSSIIcポリペプチドを生成する。本明細書中で使用する場合、「Aゲノムから発現するSSIIb」すなわち「SSIIb-A」とは、アミノ酸配列が配列番号10で示されるかまたは配列番号10で示されるアミノ酸配列と少なくとも99%同一であるかもしくはそのような配列を含んでいる、ポリペプチドを意味する。配列番号10(Genbank受託番号AK332724のヌクレオチド配列から推測したもの)として提供されるアミノ酸配列は、本明細書では野生型SSIIb-Aポリペプチドの基準配列として用いられる。配列番号10のポリペプチドの長さは676アミノ酸残基である。この酵素の酵素的に活性な変異型は「SSIIb-A」に含まれる。SSIIb-Aは、配列番号8と約90%同一である同祖ポリペプチドSSIIb-Dを含まない。
【0097】
本明細書中で使用する場合、「Dゲノムから発現するSSIIb」すなわち「SSIIb-D」とは、アミノ酸配列が配列番号11で示されるかまたは配列番号11で示されるアミノ酸配列と少なくとも99%同一であるかもしくはそのような配列を含んでいる、ポリペプチドを意味する。配列番号11(Genbank受託番号ABY56824)として提供されるアミノ酸配列は、パンコムギのDゲノムから発現する澱粉合成酵素IIbに対応し、本明細書ではそれを野生型SSIIb-Dポリペプチドの基準配列として用いる。配列番号11のポリペプチドの長さは674アミノ酸である。この酵素の酵素的に活性な変異型は「SSIIb-D」に含まれる。SSIIb-Dは、配列番号11と約90%同一である同祖ポリペプチドSSIIb-Aを含まない。
【0098】
SSIIaホメオログとSSIIbホメオログはアミノ酸配列が71~79%同一であり、それゆえ、酵素活性が類似してはいるものの、ポリペプチドを容易に区別することができる。
【0099】
本明細書の実施例2で記載しているように、コムギSSIIc配列も同定され、容易にSSIIa配列と区別することができた。
【0100】
本明細書中で使用する場合、「SSIIa遺伝子」及び「コムギSSIIa遺伝子」などの用語は、他のコムギ品種に存在している相同ポリペプチドなどの野生型SSIIaポリペプチドを含めたSSIIaポリペプチドをコードする遺伝子、及び活性が低下しているか活性が検出不可能であるかのどちらかであるSSIIaポリペプチドをコードする突然変異形態の遺伝子、またはそれから突然変異によって派生する遺伝子を指す。SSIIa遺伝子としては、限定されないが例えば、表1中に列挙されSSIIa遺伝子として注記されているゲノム配列及びcDNA配列を含めた、クローニングされたコムギSSIIa遺伝子が挙げられる。SSIIa遺伝子という用語は、より具体的な、SSIIa-A、SSIIa-B及びSSIIa-Dポリペプチドをそれぞれコードする「SSIIa-A遺伝子」、「SSIIa-B遺伝子」及び「SSIIa-D遺伝子」という各用語、またはそのような遺伝子から派生する突然変異体を総合的に含む。本明細書中で使用される場合、SSIIa遺伝子は、いかなるポリペプチドも全くコードしないかまたは澱粉合成酵素活性を有さないポリペプチドをコードする突然変異形態を包含するが、その場合、突然変異形態は、当該遺伝子のヌル対立遺伝子に相当するものである。当該遺伝子の対立遺伝子には、遺伝子全体が欠失している場合を含めて遺伝子の少なくとも一部が欠失している突然変異対立遺伝子が含まれ、当該対立遺伝子も当該遺伝子のヌル対立遺伝子に相当する。
【0101】
「内在性SSIIa遺伝子」とは、野生型及び突然変異形態を含めたコムギゲノム中のその天然の位置にあるSSIIa遺伝子を指す。当技術分野では理解されることであるが、パンコムギなどの六倍体コムギが、A、B及びDゲノムと一般に呼ばれる3つのゲノムを含む一方、デュラムコムギなどの四倍体コムギは、A及びBゲノムと一般に呼ばれる2つのゲノムを含む。各ゲノムは、減数分裂中に細胞学的方法で観察され得る7対の染色体を含み、当技術分野でよく知られているようにこのように同定がなされる。六倍体コムギでは、内在性のSSIIa-A遺伝子、SSIIa-B遺伝子及びSSIIa-D遺伝子はそれぞれ染色体7A、7B及び7Dの短いアーム上に位置する。対照的に、「単離されたSSIIa遺伝子」及び「外因性SSIIa遺伝子」は、その天然の位置にない、例えば、コムギ植物から除去された、クローニングされた、合成された、ベクター中に含まれている、または細胞内で導入遺伝子の形態にある、SSIIa遺伝子、例えば遺伝子導入コムギ植物中の導入遺伝子を指す。これに関して、SSIIa遺伝子は、以下に記載されている具体的形態のいずれかであり得る。
【表1a】
【表1b】
【表1c】
【0102】
本明細書中で使用する場合、「コムギのAゲノム上のSSIIa遺伝子」すなわち「SSIIa-A遺伝子」とは、本明細書において定義されるSSIIa-Aポリペプチドをコードする、またはコムギ植物のSBEIIa-Aをコードするポリヌクレオチドに由来する、天然に存在するポリヌクレオチド、配列変異型または合成ポリヌクレオチドを含めた任意のポリヌクレオチドを意味し、それには、本質的に野生型SSIIa活性を有するSSIIa-Aポリペプチドをコードする「野生型SSIIa-A遺伝子(複数可)」、及び本質的な野生型SSIIa活性を有するSSIIa-Aポリペプチドはコードしないが識別可能に野生型SSIIa-A遺伝子に由来している「突然変異SSIIa-A遺伝子(複数可)」が含まれる。SSIIa遺伝子の突然変異形態のヌクレオチド配列と、一揃いの野生型SSIIa遺伝子との比較は、それがどのSSIIa遺伝子に由来するかを判定するために、及びそのようにしてそれを分類するために、用いられる。例えば、突然変異SSIIa遺伝子は、そのヌクレオチド配列が他のどのSSIIa遺伝子との場合に比べても野生型SSIIa-A遺伝子とのより密接な関係を有する、つまり、より高度な配列同一性を有するならば、突然変異SSIIa-A遺伝子であるとみなされる。突然変異SSIIa-A遺伝子は、澱粉合成酵素活性が低下したSSIIaポリペプチドをコードする(部分突然変異体)かまたは、澱粉合成酵素活性を欠くポリペプチドをコードするかもしくはタンパク質を全くコードしない(ヌル突然変異遺伝子)。SSIIa-A遺伝子に対応するcDNAの例示的なヌクレオチド配列は配列番号4(Genbank受託番号AF155217;Li et al.,1999)で示される。他の例示的なヌクレオチド配列は、受託番号AK330838(栽培品種チャイニーズスプリングからのSSIIa-A遺伝子からのcDNA、Kawaura et al.,2009)及び、栽培品種FielderからのSSIIa-A遺伝子からのcDNAを提供する受託番号AJ269503(Gao and Chibbar,2000)で提供される。
【0103】
本明細書中で使用する場合、「Bゲノム上のSSIIa遺伝子」すなわち「SSIIa-B遺伝子」、及び「Dゲノム上のSSIIa遺伝子」すなわち「SSIIa-D遺伝子」という用語は、前段落でのSSIIa-Aについての意味に対応する意味を有する。SSIIa-B遺伝子に対応するcDNAの例示的なヌクレオチド配列は配列番号5(Genbank受託番号AJ269504;Gao and Chibbar 2000)で示され、SSIIa-D遺伝子の場合は配列番号6(Genbank受託番号AJ269502;栽培品種Fielderからのもの、Gao and Chibbar,2000)で示される。本明細書では
図2~4において参照されるようにSSIIa遺伝子の一部の配列も示されている。
【0104】
本明細書中で使用する場合、「コムギのAゲノム上のSSIIb遺伝子」すなわち「SSIIb-A遺伝子」とは、本明細書において定義されるSSIIb-Aポリペプチドをコードする、またはコムギ植物のSSIIb-Aをコードするポリヌクレオチドに由来する、天然に存在するポリヌクレオチド、配列変異型または合成ポリヌクレオチドを含めた任意のポリヌクレオチドを意味し、それには、本質的に野生型SSIIb活性を有するSSIIb-Aポリペプチドをコードする「野生型SSIIb-A遺伝子(複数可)」、及び本質的に野生型活性を有するSSIIb-Aポリペプチドはコードしないが識別可能に野生型SSIIb-A遺伝子に由来している「突然変異SSIIb-A遺伝子(複数可)」が含まれる。SSIIb遺伝子の突然変異形態のヌクレオチド配列と、一揃いの野生型SSIIb遺伝子との比較は、それがどのSSIIb遺伝子に由来するかを判定するために、及びそのようにしてそれを分類するために、用いられる。例えば、突然変異SSIIb遺伝子は、そのヌクレオチド配列が他のどのSSIIb遺伝子との場合に比べても野生型SSIIb-A遺伝子とのより密接な関係を有する、つまり、より高度な配列同一性を有するならば、突然変異SSIIb-A遺伝子であるとみなされる。突然変異SSIIb-A遺伝子は、澱粉合成酵素活性が低下したSSIIbポリペプチドをコードする(部分突然変異体)かまたは、澱粉合成酵素活性を欠くポリペプチドをコードするかもしくはタンパク質を全くコードしない(ヌル突然変異遺伝子)。SSIIb-A遺伝子に対応するcDNAの例示的なヌクレオチド配列は配列番号12(Genbank受託番号AK332724)で示される。
【0105】
本明細書中で使用する場合、「Bゲノム上のSSIIa遺伝子」すなわち「SSIIa-B遺伝子」、及び「Dゲノム上のSSIIa遺伝子」すなわち「SSIIa-D遺伝子」という用語は、前段落でのSSIIa-Aについての意味に対応する意味を有する。SSIIa-B遺伝子に対応するcDNAの例示的なヌクレオチド配列は配列番号5(Genbank受託番号AJ269504;Gao and Chibbar 2000)で示され、SSIIa-D遺伝子の場合は配列番号6(Genbank受託番号AJ269502;栽培品種Fielderからのもの、Gao and Chibbar,2000)で示される。
【0106】
上で定義したSSIIa遺伝子には、関連する転写領域の発現を調節し転写領域の5’または3’である、プロモーター領域を含めた任意の調節配列、及び転写領域内のイントロンが含まれる。SSIIa遺伝子の例示的なヌクレオチド配列は配列番号7として提供され、これはコムギのAゲノムからのSSIIa-A遺伝子のヌクレオチド配列を提供するものであり、受託番号AB201445である。同様に、コムギの野生型SSIIa-B遺伝子のヌクレオチド配列は受託番号AB201446(IWGSC:染色体7DS、Traes_7DS_E6C8AF743、3877787:1~396bp、5137~5419bp 順方向鎖)として提供され、コムギのSSIIa-D遺伝子の場合は受託番号AB201447(IWGSC:染色体7DS、Traes_7DS_E6C8AF743、3877787:1~396bp、5137~5419bp 順方向鎖)として提供される。これら野生型遺伝子の各々は、コムギ栽培品種チャイニーズスプリングからのものであった(Shimbata et al.,2005)。
【0107】
種々のコムギ品種からのSSIIa遺伝子の配列に天然の多様性が存在することは理解されよう。当業者であれば同祖遺伝子を配列同一性に基づいて容易に認識できる。同祖の野生型SSIIa遺伝子のヌクレオチド配列同士及び野生型ポリペプチドのアミノ酸配列同士の配列同一性の度合いは95~96%である。
【0108】
対立遺伝子は、単一の遺伝子座にある遺伝子の変異型である。二倍体生物は染色体の組を2つ有する。六倍体コムギは、染色体の組が6つであり、各組には染色体が7本あり、A-、B-、及びD-ゲノムに寄与している3つの祖先二倍体植物の交雑によって生じたと考えられている。1対の染色体の各染色体は各遺伝子の1つのコピー(すなわち1つの対立遺伝子)を有する。遺伝子の両対立遺伝子が同じであるならば、生物はその対立遺伝子または遺伝子に関してホモ接合体である。遺伝子の2つの対立遺伝子が異なっているならば、生物はその遺伝子に関してヘテロ接合体である。遺伝子座における対立遺伝子間の相互作用は一般に、休眠型または劣性と表現される。コムギ植物または穀粒において、遺伝子の2つの対立遺伝子は、互いに同じ突然変異を有し得、よってその突然変異についてホモ接合型であると言われ、または2つの対立遺伝子は、互いに異なる突然変異を含み得、それらの突然変異についてヘテロ接合型であると言われる。遺伝子の異なる対立遺伝子または多数の遺伝子は、当技術分野で知られている方法を用いて組み合わされ得る。例えば、遺伝子について異なる対立遺伝子を有している2つの親コムギ植物を交配して、両対立遺伝子をヘテロ接合状態で含有する子孫(F1)が作り出され得、その後、子孫植物が自家受粉して、メンデル遺伝学に則って対立遺伝子の一方もしくは他方をホモ接合状態で含むかまたは両対立遺伝子をヘテロ接合状態で含むさらなる世代の植物(F2)が生じる。
【0109】
いかなる活性酵素もコードしない、またはその産生をもたらすことができない対立遺伝子は、ヌル対立遺伝子である。そのようなヌル対立遺伝子は、ポリペプチドをコードするものでも、コードしないものでもあり得、例えば、切り詰められたポリペプチド、または野生型SSIIaポリペプチドに比べてアミノ酸配列に不活性化変化を有するポリペプチドをコードするものであり得る。
【0110】
ヌル突然変異(複数可)に対する言及は、独立して欠失突然変異、挿入突然変異、スプライス部位突然変異、未成熟翻訳停止突然変異、及びフレームシフト突然変異、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるヌル突然変異を含む。一実施形態では、ヌル突然変異のうちの1つ以上が非保存的アミノ酸置換突然変異であるか、または1つのヌル突然変異が2つ以上の非保存的アミノ酸置換の組み合わせを有している。これに関して、非保存的アミノ酸置換は本明細書において定義されているとおりである。
【0111】
機能喪失突然変異は、遺伝子の対立遺伝子における部分的機能喪失突然変異、及び完全機能喪失突然変異(ヌル突然変異)を含むが、穀粒中のSSIIa酵素などの酵素のレベルまたは活性の低下につながる対立遺伝子の突然変異を意味する。対立遺伝子の突然変異とは、例えば、野生型活性もしくは低下した活性を有するタンパク質がより少なく翻訳されること、または野生型レベルもしくは低下したレベルでの転写に続いて酵素活性の低下した酵素が翻訳されること、または好ましくは、突然変異体の対立遺伝子が野生型に比べて低下した速度で転写されていかなる転写産物の活性も対応する野生型ポリペプチドより低いことを意味し得る。突然変異は、例えば、突然変異を含む遺伝子から転写されるRNAがないかもしくは少ないこと、または産生するポリペプチドの活性がないかもしくは野生型に比べて低いこと、好ましくはそれらの両方をもたらし得る。対立遺伝子からの例えばRT-PCRアッセイによって検出される転写産物がない場合、その結果は、対立遺伝子がヌル対立遺伝子であることを示唆している。
【0112】
「点突然変異」は、単一ヌクレオチドの欠失、置換または挿入を含めた単一ヌクレオチド塩基変化を指す。点突然変異はさらに、スプライス部位突然変異、未成熟翻訳停止突然変異、フレームシフト突然変異、またはその他の、タンパク質が突然変異の結果として産生されなくなるかもしくはタンパク質が少ない量で産生するかもしくは産生するタンパク質のSSII活性が低くなる機能喪失突然変異であり得る。遺伝子のタンパク質コード領域におけるフレームシフト突然変異は、コードされるポリペプチドの構造に対するその影響ゆえに、ヌル突然変異とみなされる。同様に、未成熟翻訳停止突然変異は、それが遺伝子のタンパク質コード領域のC末端に非常に近い所で起こっている場合を除いてヌル突然変異とみなされるが、当該場合においては酵素アッセイを用いてポリペプチドが酵素活性を有するか否かを判定することができる。いくつかの実施形態では、点突然変異は、保存的であるかまたは好ましくは非保存的であるアミノ酸置換をもたらす。
【0113】
「減少した」または「より低い」、ポリペプチドまたは酵素活性の量またはレベルは、対応する野生型対立遺伝子または遺伝子によってもたらされる量またはレベルに比べて量またはレベルが減少しているかまたはより低いことを意味する。典型的には、減少とは、野生型に比べて少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%または少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%または90%減少していることである。最も好ましい実施形態においては、例えば本明細書に記載のウェスタンブロットアッセイで、タンパク質、好ましくはSSIIa-A、SSIIa-B及びSSIIa-Dの各々が検出されない。
【0114】
「低減された」活性とは、野生型酵素、例えば、SSIIa、SSSIIaまたはその他の酵素に比べて低減されていることを意味する。
【0115】
タンパク質「活性」は、当技術分野で知られており本明細書において記載されている様々な手段で直接または間接的に測定され得るSS活性を指す。
【0116】
いくつかの実施形態では、SSIIaまたは他のポリペプチドの重量表示での量は、たとえ穀粒中のポリペプチドの数が野生型における場合と同じであったとしても減少しており、しかしながら各分子は野生型よりも低い活性を有する。例えば、産生するポリペプチドは、突然変異体のSSIIaタンパク質または他のタンパク質が未成熟翻訳停止シグナルのために切り詰められる場合に起こるように、野生型SSIIaタンパク質または他のタンパク質よりも短くなる。
【0117】
本明細書中で使用する場合、「SSIIa-A遺伝子の2つの同一対立遺伝子」とは、SSIIa-A遺伝子の2つの対立遺伝子が互いに同一である、つまり植物または穀粒がそれらの対立遺伝子またはその遺伝子についてホモ接合体であることを意味し、「SSIIa-B遺伝子の2つの同一対立遺伝子」とは、SSIIa-B遺伝子の2つの対立遺伝子が互いに同一であることを意味し、「SSIIa-D遺伝子の2つの同一対立遺伝子」とは、SSIIa-D遺伝子の2つの対立遺伝子が互いに同一であることを意味 する。
【0118】
本発明のコムギ植物は、突然変異誘発後に作り出され得、同定され得る。いくつかの実施形態では、コムギ植物は、非遺伝子導入型であり(それはいくつかの市場では望ましいことである)、またはそれは、SSIIa遺伝子の発現を低減するいかなる外因性核酸分子も含まない。別の実施形態では、コムギ植物は遺伝子導入型であり、例えばそれは、SSIIa遺伝子及び/またはSBEIIa遺伝子の発現を低減するもの以外の外因性核酸分子、例えば植物に殺虫剤耐性を付与するポリペプチドをコードする外因性核酸分子を含む。
【0119】
単一のSSIIa遺伝子に突然変異を有している突然変異コムギ植物は、植物の交配と、他のSSIIa遺伝子突然変異を有する子孫の選抜とによって組み合わされて本発明のコムギ植物を生み出すことができるものである場合、人工のもの、例えば核酸に対する部位特異的変異導入を行うことによるものか、突然変異誘発処理によって誘導されるものかのどちらかであり得、または天然に存在するもの、つまり天然源から単離されたものであってもよい。いくつかの実施形態では、祖先植物細胞、組織、種子または植物を突然変異誘発に供して単一または多数の突然変異、例えば、ヌクレオチド置換、欠失、挿入及び/またはコドン改変をもたらしてもよい。本発明の好ましいコムギ植物及び穀粒は、導入された少なくとも1つのSSIIa遺伝子突然変異、より好ましくは導入された2つ以上のSSIIa遺伝子突然変異を含み、天然源からの突然変異を含まないものであり得、つまり、植物中の全ての突然変異SSIIa対立遺伝子が、人工的手段または突然変異誘発処理によって得られたものである。本明細書中で使用する場合、「誘導された突然変異」または「導入された突然変異」は、化学物質、放射線または生物学に基づく突然変異誘発の結果であり得る人為的に誘導された遺伝的多様性であり、例えば、トランスポゾンもしくはT-DNA挿入、またはエンドヌクレアーゼ誘導突然変異である。
【0120】
突然変異誘発は、当技術分野でよく知られている化学的手段または放射線手段、例えば、種子のEMSもしくはアジ化ナトリウム(Zwar and Chandler,1995)処理、またはガンマ照射によって成し遂げることができる。化学的突然変異誘発は、欠失よりもヌクレオチド置換に有利に働く傾向にある。重イオンビーム(HIB)照射は、新しい植物栽培品種を作り出す突然変異育種に有効な技術として知られている。例えば、Hayashi et al.,2007及びKazama et al,2008を参照されたい。イオンビーム照射は、DNA損傷の量及びDNA欠失の大きさを決定付ける生物学的影響に関して線量(gy)とLET(線エネルギー付与、keV/um)との2つの物理的因子を有し、これらは突然変異誘発の所望の程度に応じて調節することができる。HIBは突然変異体の集まりを生成し、それらの多くは、特異的なSSIIa遺伝子における突然変異のスクリーニングがなされ得る欠失を含んでいる。同定される突然変異体は、突然変異を起こしたゲノムにおける非連鎖突然変異を除去する、したがってその影響を軽減するために、反復親としての非突然変異型コムギ植物と戻し交配され得る。
【0121】
突然変異体の単離は、突然変異を起こした植物または種子に対してスクリーニングを行うことによって成し遂げられ得る。例えば、突然変異を起こしたコムギ集団に対して、SSIIa遺伝子型の直接的なスクリーニング、またはSSIIa遺伝子の突然変異に起因する表現型をスクリーニングすることによる間接的なスクリーニングを行ってもよい。遺伝子型の直接的なスクリーニングは、好ましくは、SSIIa遺伝子における突然変異の存在を検査することを含み、これは、遺伝子のうちのいくつかが消去されている場合に予想される特異的SSIIaマーカーの非存在によって、PCRアッセイで、またはTILLINGのようにヘテロ二本鎖に基づくアッセイで観察され得る。スクリーニングは、候補突然変異体のプールに大抵基づくヌクレオチド配列決定に基づいていることが好ましい。表現型のスクリーニングは、ELISAまたは親和性クロマトグラフィーによって1つ以上のSSIIaポリペプチドの喪失またはその量の減少をスクリーニングするかまたは穀粒澱粉中の変化した澱粉表現型をスクリーニングすることを含み得る。六倍体コムギでは、スクリーニングは、SSIIa活性のうちの1つまたは2つを既に欠く遺伝子型、例えば3つのゲノムのうちの2つのSSIIa遺伝子が既に突然変異体であるコムギ植物において行われることが好ましく、そうすることで、機能活性をさらに欠く突然変異体が探索される。親和性クロマトグラフィーは、SSIIa-A、SSIIa-B及びSSIIa-Dポリペプチドを区別するために行われ得る。突然変異を起こした種子の大集団(数千種類または数万種類の種子)に対する高アミロース表現型のスクリーニングは、近赤外分光法(NIR)を用いて行われ得る。これらの手段により、高処理量スクリーニングは、容易に達成されることができ、数百種類の種子につきおよそ1つの頻度で突然変異体を単離することを可能にする。
【0122】
TILLING(ゲノムにおける誘導局所損傷の標的化)として知られるプロセスを用いれば、この方法によってコムギ植物または穀粒における突然変異のうちの1つ以上が生じ得るという点において本発明の植物及び種子を作り出すことができる。最初のステップでは、種子または花粉を化学物質または放射線の変異原で処理すること、及びその後に植物を突然変異が安定的に継承される世代、典型的にはホモ接合型突然変異体が同定され得るM2世代まで進めることによって、導入される突然変異、例えば新規な単一塩基対変化が植物集団において誘導される。DNAを抽出し、集団の全てのメンバーからの種子を貯蔵して、時を経て繰り返し入手することができる資源を作出する。TILLINGアッセイのために、PCRプライマーは、関心対象の単一の遺伝子標的を特異的に増幅するように設計される。次に、色素標識されたプライマーを使用して、多個体のプールされたDNAからPCR産物を増幅することができる。これらのPCR産物を変性させ、再アニーリングして、ミスマッチ塩基対を形成させる。ミスマッチすなわちヘテロ二本鎖は、天然に存在する一塩基多型(SNP)(つまり、集団からのいくつかの植物は同じ多型を保有している可能性がある)と、誘導されたSNP(つまり、ごく稀な個体植物は突然変異を呈する可能性がある)との両方を表す。ヘテロ二本鎖形成後、ミスマッチDNAを認識及び切断するCel Iなどのエンドヌクレアーゼ、または高分解能融解を、TILLING集団中の新規SNPの発見のために用いる。例えば、Botticella et al.,2011を参照されたい。
【0123】
この手法を用いれば、何千種類もの植物に対してスクリーニングを行って、任意の遺伝子またはゲノムの特定領域における単一塩基変化または小さい挿入もしくは欠失(1~30bp)を有する任意の個体を同定することができる。検査使用とするゲノム断片の大きさは0.3~1.6kbの範囲であり得る。8倍のプールを形成し、1アッセイあたり96レーンを使用して1.4kb断片を増幅することで、この組み合わせは、アッセイ1回につき、百万塩基対に達するゲノムDNAに対してスクリーニングを行うことを可能にし、TILLINGを高処理量技術にする。TILLINGについてはSlade and Knauf,2005及びHenikoff et al.,2004においてさらに記載されている。
【0124】
高処理量TILLING技術は、突然変異の効率的検出を可能にするのに加えて、天然の多型の検出のために理想的である。したがって、未知の相同DNAを既知配列とのヘテロ二本鎖形成によって調べることにより、多型部位の数及び位置が明らかになる。少なくとも一部の反復回数多型を含めて、ヌクレオチド変化と、小さい挿入及び欠失との両方が同定される。これはEcotillingと呼ばれている(Comai et al.,2004)。突然変異を起こした植物からのDNAのプールに対してではなく、生態型DNAのアレイの入ったプレートに対してスクリーニングが行われ得る。塩基対分解能及びバックグラウンドパターンがレーンにわたってほぼ一様であるゲル上で検出が行われるため、同一の大きさのバンドは一致し得、それゆえ突然変異が1回のステップで発見及び遺伝子型判定され得る。このように、突然変異遺伝子の配列決定は単純かつ効率的である。
【0125】
本明細書中で使用する場合、「生物学的薬剤」という用語は、部位指向的突然変異体を作り出すのに有用であり、内在性の修復機序を刺激するDNAの二本鎖分裂を誘導する酵素を含む。これらには、エンドヌクレアーゼ、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ、TALエフェクタータンパク質、トランスポゼース、部位指向性リコンビナーゼ、及び好ましくはCRISPRエンドヌクレアーゼが含まれる。例えば、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、ゲノム内の選択された遺伝子内での部位指向的切断を促進し、内在性または他の末端接合性の修復機序によって欠失または挿入が導入されてギャップが修復されることを可能にする。亜鉛フィンガーヌクレアーゼ技術についてはLe Provost et al.,2009に総説があり、また、Durai et al.,2005及びLiu et al.,2010も参照されたい。
【0126】
規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)は、塩基配列の短い反復を含有する原核生物DNAのセグメントである。各反復の後には、以前にバクテリオファージウイルスまたはプラスミドに曝露されたことに由来する「スペーサーDNA」の短いセグメントが続く。CRISPR/Casシステムは、プラスミド及びファージの中に存在するものなどの異質な遺伝要素に対する耐性を付与する原核生物免疫系であり、獲得免疫の一形態を提供するものである。CRISPRスペーサーは、真核生物におけるRNA干渉に類似する方法でこれらの外因性遺伝要素を認識及び切断する。CRISPRは、配列決定された細菌ゲノムのおよそ40%、及び配列決定された古細菌の90%に見つかる。
【0127】
Cas9ヌクレアーゼ及び適切なガイドRNAを細胞内に送達することにより、細胞のゲノムを所望の位置で切断することができ、既存の遺伝子を除去すること及び/または新しい遺伝子を追加することが可能になる。CRISPRは、様々な種においてゲノム編集及び遺伝子調節のために特異的エンドヌクレアーゼ酵素と協奏的に使用されてきた。CRISPRに関するさらなる情報はWO2013/188638、WO2014/093622及びDoudna et.al.,(2014)において見出すことができる。
【0128】
転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)は、DNAの特定配列を切断するように操作されることができる制限酵素である。それらは、TALエフェクターDNA結合ドメインをDNA開裂ドメイン(DNA鎖を切断するヌクレアーゼ)と融合させることによって作られる。転写活性化因子様エフェクター(TALE)は、事実上任意の所望のDNA配列に結合するように操作されることができるため、ヌクレアーゼと組み合わされるとDNAを特定位置で切断することができる。制限酵素は、遺伝子編集に使用するために、または操作型ヌクレアーゼによるゲノム編集として知られる技術であるin situでの遺伝子編集のために、細胞内へ導入され得る。亜鉛フィンガーヌクレアーゼ及びCRISPR/Cas9と並んでTALENはゲノム編集の分野において傑出したツールである。TALENに関するさらなる情報は、Boch(2011)、Juong et al.,(2013)及びSune et al.,(2013)において見出すことができる。
【0129】
同定された突然変異はその後、所望の遺伝的背景を有する植物に対して突然変異体を戻し交配すること、及び望まれない元々の親背景を交配によって除去するのに適切な回数の戻し交配を実施することによって、望ましい遺伝的背景の中に導入され得る。例えば本明細書の実施例3を参照されたい。
【0130】
いくつかの実施形態では、突然変異は、ヌル突然変異、例えば、ナンセンス突然変異、フレームシフト突然変異、欠失、挿入突然変異、遺伝子を完全に不活化するスプライス部位変異型である。ヌクレオチド挿入誘導体は、5’及び3’末端融合、ならびに単一または多数のヌクレオチドの配列内挿入を含む。
【0131】
挿入ヌクレオチド配列変異型は、1つ以上のヌクレオチドが、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、CRISPRヌクレアーゼまたは他の相同組換え方法で可能な所定部位において、あるいは結果として生じる産物に対する適切なスクリーニングを伴ってランダム挿入によって、ヌクレオチド配列内の部位に導入されているものである。
【0132】
欠失変異型は、配列からの1つ以上のヌクレオチドの除去によって特徴付けられる。一実施形態では、突然変異遺伝子は野生型遺伝子に比べてヌクレオチドの配列のたった1つの挿入または欠失しか有さない。欠失は、1つ以上のエクソンもしくはイントロン、エクソンとイントロンとの両方、イントロン-エクソン境界、プロモーターの一部、翻訳開始部位、または遺伝子全体までも含むほど十分に幅広いものであり得る。欠失は、A、BまたはDゲノム上のSSIIa遺伝子の少なくとも一部または全体、及び1つ以上の隣接遺伝子を含むほど十分遠くにまで延びるものであり得る。厳密な3の倍数でない個数のヌクレオチドを挿入または欠失する、遺伝子のタンパク質コード領域のエクソン内での挿入または欠失は、それゆえに翻訳中のリーディングフレームの変化を招くものであり、そのような挿入または欠失を含む突然変異遺伝子の活性をほぼ常に消滅させ、そのような突然変異がヌル突然変異である。厳密な3の倍数である個数のヌクレオチドを挿入または欠失する、遺伝子のタンパク質コード領域のエクソン内での挿入または欠失は、そのような挿入または欠失を含む遺伝子の活性を消滅させることも、消滅させないこともある。厳密な3の倍数であるヌクレオチド欠失の場合、欠失したヌクレオチドが高度に保存されたアミノ酸であるならば欠失はコードされたポリペプチドを不活化すると予想されよう。酵素アッセイまたは表現型アッセイを用いて、挿入または欠失突然変異がヌル突然変異であるか否かを判定することができる。
【0133】
置換ヌクレオチド変異型は、配列内の少なくとも1つのヌクレオチドが除去されて異なるヌクレオチドがその場所に挿入されているものである。いくつかの実施形態では、野生型遺伝子に比べて突然変異遺伝子において置換の影響を受けたヌクレオチドの数は、最大で10ヌクレオチド、より好ましくは最大で9、8、7、6、5、4、3もしくは2つまたは最も好ましくはたった1つのヌクレオチドである。置換は、コドンによって定義されるアミノ酸がヌクレオチド置換によって変化しないという点において「サイレント」であり得る。ヌクレオチド置換は、翻訳効率を低下させ得、それによって、影響を受けたSSIIa遺伝子の発現レベルを例えばmRNA安定性の低減によって低下させ得、またはエクソン-イントロンスプライス境界の近傍にある場合にはスプライシング効率を変化させ得る。SSIIa遺伝子の翻訳効率を変化させないサイレント置換は、遺伝子の活性を変化させるとは予想されず、それゆえ本明細書では非突然変異体とみなされ、つまりそのような遺伝子は活性変異型であり、「突然変異遺伝子」に包含されない。あるいは、ヌクレオチド置換(複数可)は、コードされるアミノ酸配列を変化させ得、それによって、特に保存アミノ酸が別の極めて異なるアミノ酸で置換される場合、つまり非保存的置換である場合に、コードされる酵素の活性を変化させ得る。保存的置換については表3を参照されたい。コムギSSIIaポリペプチド内の保存されたアミノ酸は、様々な種からのSSIIaアミノ酸配列のアラインメント、例えば、配列番号1とArabidopsis thalianaのSSIIとのアラインメントを行うこと、及びどのアミノ酸が共通しているかを決定することによって同定され得る。
【0134】
本明細書中で使用される「突然変異」という用語は、遺伝子の活性に影響を与えないサイレントヌクレオチド置換を含まず、したがって、遺伝子活性に影響を与える遺伝子配列変化だけを含む。「多型」という用語は、そのようなサイレントヌクレオチド置換を含めた、遺伝子のヌクレオチド配列の任意の変化を指す。スクリーニング方法は、まず多型のスクリーニングを行い、次に多型性変異型の群内で突然変異のスクリーニングを行うことを伴い得る。突然変異としては、例えば、遺伝子の全てまたは一部の欠失、遺伝子のエクソン内への挿入などの挿入、及びヌクレオチド置換、ならびにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0135】
本明細書中で名詞として使用される「植物(複数可)」及び「コムギ植物(複数可)」という用語は通常は植物全体を指すが、「植物」または「コムギ」が形容詞として使用される場合には当該用語は、植物またはコムギ植物の中に存在する、それから得られる、それに由来する、またはそれに関係する任意の物質、例えば、植物器官(例えば、葉、茎、根、花)、単細胞(例えば花粉)、種子または穀粒、植物細胞、例えば組織培養細胞、植物から生産された製品、例えば、「小麦粉」、「コムギ穀粒」、「コムギ澱粉」、「コムギ澱粉顆粒」などを指す。根及び芽が出ている小植物体及び発芽穀粒も「植物」の意味に含まれる。本明細書中で使用される「植物部分」という用語は、植物全体、好ましくはコムギ植物から得られる1つ以上の植物組織または器官を指す。本明細書中で使用される植物部分には、植物細胞が含まれる。植物部分としては、例えば、栄養構造体(例えば、葉鞘及び葉身を含めた葉、節間部を含めた茎)、根、ひこばえ、花器官/構造体、例えば穂状花序(穂または頭状花とも呼ばれる)、花粉、胚珠、種子(胚、胚乳及び種皮を含む)、植物組織(例えば、維管束組織、基本組織など)、細胞及びその子孫細胞が挙げられる。本明細書中で使用される「植物細胞」という用語は、植物から得られるかまたは植物中にある細胞を指し、植物は好ましくはコムギ植物であり、植物細胞としては、例えば、プロトプラスト、または植物に由来する他の細胞、配偶子を生む細胞、及び再生して植物全体になる細胞が挙げられる。植物細胞は培養細胞であってもよい。「植物組織」とは、植物中にあるかもしくは植物(「外植体」)から得られる分化組織または、未成熟もしくは成熟胚に由来する未分化組織、種子、根、芽、果実、花粉、及び培養植物細胞の様々な形態の集合体、例えばカルスを意味する。コムギ穀粒などの種子の中または種子からの植物組織は、種皮、胚乳、胚盤、糊粉層及び胚である。コムギ植物組織または器官及びコムギ細胞の各々は、それから得られるコムギ植物の遺伝材料(核酸)を含む。
【0136】
本明細書中で使用する場合、禾穀類とは、穀粒の可食成分のために栽培される、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、エンバク、ライムギ、コメ、モロコシ、ライコムギ、雑穀、ソバを含めた単子葉植物のPoaceae科またはGraminae科の植物または穀粒を意味する。好ましくは、禾穀類の植物または穀粒はコムギ植物または穀粒である。さらに好ましい実施形態では、本発明のコムギ細胞、植物もしくは穀粒またはそれらに由来する製品は、Triticum aestivum種のものである。
【0137】
本明細書中で使用する場合、「コムギ」という用語は、Triticum属の任意の種を指し、その祖先及び、他の種との交配によって作り出されるその子孫を含む。コムギには、42本の染色体から構成されるAABBDDのゲノム組織を有する「六倍体コムギ」、及び28本の染色体から構成されるAABBのゲノム組織を有する「四倍体コムギ」が含まれる。本発明の植物及び穀粒は六倍体種T.aestivumのものであり、デュラムコムギ、またはTriticum turgidumの亜種durumとも呼ばれる四倍体種T.durumは含まない。T.aestivumの二倍体祖先は、AゲノムについてはT.uartu、T.monococcum、またはT.boeoticumであると考えられ、BゲノムについてはAegilops speltoidesである考えられ、Dゲノムについては(Aegilops squarrosaまたはAegilops tauschiiとしても知られる)T.tauschiiであると考えられる。好ましくは、本発明のT.aestivum植物は、当業者に知られている適切な農学的特質を有し、商用生産に適したものである。最も好ましくは、コムギは、本明細書中で「パンコムギ」とも称されるTriticum aestivumの亜種aestivumである。
【0138】
本発明の態様は、本発明のコムギ穀粒を植付け及び収穫する方法、ならびに本発明の大型箱入りコムギ穀粒を生産する方法を提供する。例えば、地面を耕起及び/または他の特定の方法によって準備し、典型的には溝を掘って種子を筋蒔きすることによって種子を植え付ける。植物の成熟によって実った穀粒が散らばるのを防ぐために、コムギは、それが完熟する前に収穫され得るが、典型的には、植物が緑色の完全な消失を示したときに収穫される。収穫には、いくつかのステップがある:主茎の切取りまたは刈取り;穀粒を穂状花序、穎及び他の籾殻から分離するための脱穀及び籾殻取り;穀粒の篩分け及び選別;を典型的には複式収穫機で行い、その後、穀粒をトラックに投入する。いくつかの実施形態では、収穫したコムギ穀粒は、病害虫を除ける乾燥した十分に換気された建物に貯蔵され得る。いくつかの実施形態では、収穫したコムギ穀粒は大型箱または穀物倉庫で短期間貯蔵され得る。その後、コムギ穀粒は、穀物を乾燥させ販売時またはターミナルエレベータへの出荷時まで貯蔵する高層構造物であるカントリーエレベータへと運搬され得る。したがって、本発明の実施形態は、a)本明細書において定義されるコムギ穀粒を含んでいるコムギ主茎を刈り取ること;b)主茎の脱穀及び/または籾殻取りを行って穀粒を籾殻から分離すること;ならびにc)ステップb)で分離された穀粒を篩分け及び/または選別し、篩分け及び/または選別された穀粒を大型箱に投入し、それによって大型箱入りコムギ穀粒を生産することを含む、大型箱入りコムギ穀粒を生産するプロセスを提供する。
【0139】
本発明のコムギ植物及び穀粒には、食品または飼料のための用途以外の用途、例えば、研究または育種における用途がある。コムギなどの種子繁殖性作物では、植物が自家交配して所望の遺伝子についてホモ接合体である植物を生むことができ、または染色体相補体を倍加させるように発達中の胚細胞などの半数体組織を誘導してホモ接合体植物を作り出すことができる。本発明の近交系コムギ植物はそれにより、ホモ接合型である突然変異SSIIa対立遺伝子の組み合わせを含有する穀粒を実らせる。穀粒を栽培して、選択された表現型、例えば澱粉における高アミロース含有量などを有することになる植物を作り出すことができる。
【0140】
本発明のコムギ植物は、より望ましい遺伝的背景を含有する植物と交配されてもよく、それゆえ、本発明は、低減されたSSIIa形質を他の遺伝的背景に移入することを含む。本明細書中で使用する場合、「交配」または「交配する」は、ある植物の花の花粉を別の植物の花の柱頭に(人為的または自然に)付着させるプロセスを指す。初回交配の後、あまり望ましくない背景を除去するために適切な回数の戻し交配が行われ得る。本明細書中で記載されているような、SSIIa対立遺伝子特異的なPCRに基づくマーカーを使用して、対立遺伝子の所望の組み合わせを有する子孫の植物または穀粒がスクリーニングまたは同定され得、それによって育種プログラムにおいて対立遺伝子の存在が突き止められ得る。望まれる遺伝的背景には、商業的収穫高及びその他の特質、例えば農学的性能または非生物的ストレス耐性をもたらす遺伝子の適切な組み合わせが含まれ得る。遺伝的背景は、他の改変された澱粉生合成または修飾遺伝子、例えばSSIIIa遺伝子のヌル対立遺伝子または好都合なGBSS遺伝子の対立遺伝子も含んでいる場合がある。遺伝的背景は、1つ以上の導入遺伝子、例えば、グリホサートなどの除草剤に対する耐性を付与する遺伝子を含んでいてもよい。
【0141】
コムギ植物について望まれる遺伝的背景は、農学的収穫高及びその他の特質に関する留意点を含むであろう。そのような特質としては、例えば、それが冬型または春型のどちらを有することが望まれるのかということ、農学的性能、病害抵抗性、及び非生物的ストレス耐性が挙げられ得る。オーストラリアで使用する場合、本発明のコムギ植物の改変型澱粉形質をコムギ栽培品種、例えば、Baxter、Kennedy、Janz、Frame、Rosella、Cadoux、Diamondbirdまたは他の一般的に栽培されている品種と交配させる必要があることもある。他の栽培地域には他の品種が適するであろう。好ましくは、本発明のコムギ植物は、少なくともいくつかの栽培地域において、対応する野生型品種に対して少なくとも50%、より好ましくは、同じ条件下で栽培されるほぼ同じ遺伝的背景を有する野生型に対して少なくとも60%もしくは少なくとも70%、または少なくとも80%もしくは少なくとも90%の穀粒収穫高(トン/ヘクタール)をもたらす。一実施形態では、穀粒の収穫高は、同じ条件下で栽培されるほぼ同じ遺伝的背景を有する野生型品種に対して90%未満である。収穫高は、管理された圃場試験または、温室内、好ましくは圃場での模擬圃場試験において容易に測定することができる。
【0142】
マーカーアシスト選抜は、古典的育種プログラムにおいて反復親と戻し交配したときに得られるヘテロ接合体植物の、よく認知された選抜方法である。各戻し交配世代の植物の集団は、戻し交配集団中に通常1:1の比で存在する関心対象の遺伝子(複数可)についてヘテロ接合型となり、遺伝子に結合した分子マーカーを使用して遺伝子の2つの対立遺伝子を区別することができる。一方が突然変異体対立遺伝子に対するものであり、他方が野生型対立遺伝子に対するものである、2つのマーカーの存在を検査することができる。DNAを例えば若芽から抽出し、遺伝子移入される望ましい形質についての特異的マーカーで試験することにより、エネルギー及び資源をより数少ない植物に集中させつつ、さらなる戻し交配のための植物の早期選抜がなされる。コムギ植物の交配、コムギ植物の自家受粉またはマーカーアシスト選抜などの手順は標準的な手順であり、当技術分野でよく知られている。デュラムコムギなどの四倍体コムギから対立遺伝子を六倍体へ移すこと、またはその他の形態の交雑も、より難しいが当技術分野で既知である。
【0143】
所望の表現型特性を同定するには、突然変異ssIIa遺伝子または他の所望の遺伝子の組み合わせを含有するコムギ植物を対照植物と比較することが典型的である。突然変異ssIIa遺伝子に関連する表現型特性、例えば穀粒澱粉中アミロース含有量または総繊維質含有量または穀粒重量または収穫高を評価する場合には、試験する植物及び対照植物を栽培室、温室または好ましくは圃場条件において同条件(温度、土壌、水分供給、肥料供給、季節など)の下で栽培する。特定の表現型形質の同定及び対照との比較は、慣習的な統計学的解析及び採点法に基づく。遺伝子の発現または酵素活性は、発芽率、苗活力、例えば苗発生、植物形態、色、数、寸法、乾湿重量、登熟、地上部・地下部バイオマス比ならびに、栄養生長、結実、開花、穀粒着果及び休眠を含めた老齢化を通じた様々な生育段階のタイミング、速度及び持続期間、収穫指数、ならびにスクロース、グルコース、フルクトース及び澱粉のレベルと内在性澱粉レベルとを含む可溶性炭水化物含有量のうちの1つ以上を含めた、生育、発達及び収穫高のパラメータになぞらえられる。いくつかの実施形態では、本発明のコムギ植物は、同じ条件下で栽培したときの野生型植物と比較してこれらのパラメータのうちの1つ以上に50%未満、より好ましくは40%未満、30%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%未満または1%未満の差がある。好ましくは、本発明の植物または穀粒は、これらのパラメータのうちの1つ以上が野生型植物のそれとほぼ同じである。
【0144】
本明細書中で使用する場合、「連鎖した」または「遺伝的に連鎖した」という用語は、マーカー遺伝子座と別の遺伝子座とが染色体上で十分近くにあるためにそれらが例えばランダムではなく一緒に継承されることが減数分裂の50%より多いことを指す。この定義は、マーカー遺伝子座と別の遺伝子座とが同じ遺伝子の一部を形成している状況を含む。さらにこの定義は、関心対象の形質を担う多型をマーカー遺伝子座が含む状況を含み、この場合、多型は表現型と100%連鎖することになる。したがって、1世代あたりで遺伝子間に観察される組換え率(センチモルガン(cM)として算出される)は50未満であろう。本発明の特定の実施形態では、遺伝的に連鎖した遺伝子座同士の染色体上での離隔は45、35、25、15、10、5、4、3、2または1cM以下であり得る。好ましくは、マーカーの離隔は5cMまたは2cMであり、最も好ましくは本質的に0cMである。
【0145】
本明細書中で使用する場合、「他の遺伝的マーカー」は、本発明のコムギ植物の所望の形質に連鎖した任意の分子であり得る。そのようなマーカーは当業者によく知られており、病害抵抗性、収穫高、植物形態、穀粒質、他の休眠時形質、例えば穀粒色、種子中のジベレリン酸含有量、草丈、小麦粉色などの形質を決定付ける遺伝子に連鎖した分子マーカーを含む。そのような遺伝子の例は、黒さび病抵抗性遺伝子Sr2またはSr38、黄さび病抵抗性遺伝子Yr10またはYr17、線虫抵抗性遺伝子、例えばCre1及びCre3、生地強度を決定付けるグルテニン遺伝子座の対立遺伝子、例えば、Ax、Bx、Dx、Ay、By及びDy対立遺伝子、半矮性生育習性、よって耐倒伏性を決定付けるRht遺伝子である(Eagles et al.,2001、Langridge et al.,2001、Sharp et al.,2001)。
【0146】
本発明のコムギ植物、コムギ植物部分及びそれからの製品は、好ましくは、SSIIa遺伝子及び/またはSBEIIa遺伝子の発現を抑制する遺伝子について非遺伝子導入型であり、つまりそれらは、内在性SSIIa遺伝子の発現を低減するRNA分子をコードする導入遺伝子を含まず、但し、この実施形態においてそれらは、他の導入遺伝子、例えば、グリホサート耐性などの除草剤耐性遺伝子を含んでいてもよい。より好ましくは、コムギ植物、穀粒及びそれからの製品は、非遺伝子導入型であり、つまりそれらはいかなる導入遺伝子も含有せず、それはいくつかの市場では好ましいことである。そのような製品も本明細書では「非形質転換」製品として表現される。そのような非遺伝子導入型の植物及び穀粒は、例えば突然変異誘発後に生じた、本明細書に記載の多重突然変異SSIIa対立遺伝子を含む。
【0147】
本明細書中で使用される「遺伝子導入植物」及び「遺伝子導入コムギ植物」という用語は、同じ種、品種または栽培品種の野生型植物にはみられない遺伝的構築物(「導入遺伝子」)を含有する植物を指す。つまり、遺伝子導入植物(形質転換植物)は、形質転換前にそれらが含有していなかった遺伝材料を含有する。本明細書において言及される「導入遺伝子」または「遺伝子構築物」は、バイオテクノロジー分野における通常の意味を有し、組換えDNAまたはRNAの技術によって作り出された、または改変された、遺伝子配列を指す。導入遺伝子は、植物細胞内に存在する場合、人間によって植物細胞内または祖先細胞内に導入されたものである。導入遺伝子は、植物細胞または別の植物細胞または非植物源または合成配列から得られるかまたはそれに由来する遺伝子配列を含み得る。導入遺伝子は、当業者が認識するような任意の方法が用いられ得るものの、例えば形質転換などの人間による操作によって、植物中に導入されたものであることが典型的である。遺伝材料は典型的には植物のゲノム中に安定的に組み込まれる。導入された遺伝材料は、同種に天然に存在する配列、例えばアンチセンス配列または抑制性二本鎖RNAを発現する配列を、再構成された順序または異なるエレメント配置で含み得る。そのような配列を含有する植物は、本明細書において「遺伝子導入植物」に含まれる。本明細書において定義される遺伝子導入植物は、組換え技術を用いて遺伝的に改変された最初に形質転換及び再生された植物(T0植物)のあらゆる子孫を含み、この子孫は導入遺伝子を含んでいる。そのような子孫は、初代遺伝子導入植物の自家受粉、またはそのような植物と別の同種植物との交配によって得られ得る。一実施形態では、遺伝子導入植物は、それらの子孫が所望の表現型について分離しないよう、導入されたありとあらゆる遺伝子(導入遺伝子)についてホモ接合体である。遺伝子導入植物部分は、導入遺伝子を含む全部分及び上記植物の細胞、例えば、種子、培養組織、カルス及びプロトプラストを含む。
【0148】
「非遺伝子導入植物」、好ましくは非遺伝子導入コムギ植物とは、組換えDNA技術による遺伝材料の導入によって遺伝的に改変されていない植物のことである。植物または穀粒における、ZFN、CRISPR型ヌクレアーゼのTALエフェクターなどの部位特異的エンドヌクレアーゼによって、ならびにそれに続く植物細胞及びその子孫における非相同的末端接合修復によって生じる、遺伝子の一部の欠失の存在は、本明細書において「非遺伝子導入型」として含まれる。本明細書中で使用する場合、「子孫」は、コムギ植物からのあらゆる孫子を含み、直近世代及び次世代をどちらも含み、植物及び種子(穀粒)をどちらも含む。子孫は、自家受粉(「自殖」)後に得られる種子及び植物、ならびに2つの親植物同士の交配の結果として生じる穀粒及び植物、例えば、F1子孫(第1世代)、F1植物の自殖後の第2などの世代からのものであるF2、F3、F4などを含む。
【0149】
本明細書中で使用する場合、「対応する非遺伝子導入植物」という用語は、遺伝子導入植物に関してほとんどの特質が同じであるかまたは類似している、好ましくは同質遺伝子型または準同質遺伝子型の植物であるが、関心対象の導入遺伝子を含んでいない、植物を指す。好ましくは、対応する非遺伝子導入植物は、栽培品種もしくは品種が、関心対象の遺伝子導入植物の祖先、または構築物を欠く兄弟植物系統(しばしば「分離個体」と称される)、または「空ベクター」構築物で形質転換された同じ栽培品種もしくは品種と同じであり、非遺伝子導入植物であり得る。
【0150】
本明細書中で使用される場合、「野生型」は、本発明によって改変されていない、細胞、組織、植物または植物部分、好ましくは、Triticum aestivum植物、植物部分または穀粒を指す。そのような野生型植物または穀粒は、少なくともそのSSIIa遺伝子については野生型である。「対応する野生型」とは、当技術分野では容易に理解されるように、本発明の細胞、組織、植物、植物部分または植物製品との比較に適した野生型細胞、組織、植物、植物部分または植物製品を指す。一般に、対応する野生型は、本発明の植物または植物部分と遺伝的に類似している、好ましくは同質遺伝子型であるが、ssIIa遺伝子突然変異を有していない、コムギ植物または植物部分からのものである。野生型細胞、組織または植物は、当技術分野で知られており、遺伝子もしくはポリペプチド配列、特にSSIIa遺伝子配列、SSIIa遺伝子の発現レベル、または本明細書中で記載されているように改変された細胞、組織もしくは植物による形質改変の程度及び性質を比較する対照として使用され得る。本明細書中で使用する場合、「野生型コムギ穀粒」とは、突然変異が起こされていない対応する非遺伝子導入コムギ穀粒を意味する。本明細書中で使用される具体的な野生型コムギ穀粒としては、限定されないが例えば、Sunstate、Chara及びCadouxが挙げられる。Sunstateコムギ栽培品種についてはEllison et al.,(1994)に記載されている。
【0151】
形質転換植物における導入遺伝子の存在を判定するのに、いくつかあるうちのどの方法を採用してもよい。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して形質転換植物に固有の配列を増幅するとともに増幅産物をゲル電気泳動またはその他の方法で検出してもよい。DNAは、一般的な方法及び、形質転換植物と非形質転換植物とを区別するであろうプライマーを使用して行うPCR反応を用いて植物から抽出され得る。肯定的な形質転換を確認する代替方法は、当技術分野でよく知られているサザンブロットハイブリダイゼーションによるものである。形質転換されているコムギ植物の同定、つまり非形質転換型または野生型のコムギ植物との区別は、例えば、選抜マーカー遺伝子の存在によって付与されたそれらの表現型によって、または導入遺伝子がコードする酵素の発現を検出もしくは定量するイムノアッセイによって、または導入遺伝子が付与する他の任意の表現型によってもなされ得る。
【0152】
本発明の、好ましくはTriticum aestivum種の、コムギ植物は、数ある用途のなかでも人間用食品として、もしくは動物用飼料としての用途、または発酵もしくは産業用原材料生産、例えばエタノール生産のために主として栽培または収穫され得る。あるいは、青々としたコムギ植物の地上部が、圃場での放牧によって直接、あるいは収穫後に、動物用飼料としてそのまま使用され得る。藁及び籾殻も、飼料として、または非食用に使用され得る。本発明の植物は、好ましくは、食品生産、特に人間用の商用食品の生産にとって有用である。そのような食品生産は、小麦粉、生地、セモリナ、または穀粒からのその他の製品、例えば商用食品生産において原料にされる場合がある澱粉顆粒もしくは単離された澱粉を作ることを含む場合もある。
【0153】
本明細書中で使用する場合、「穀粒」という用語は、通常、植物の成熟した収穫された種子(穎果とも呼ばれる)を指すが、文脈によっては吸水後または発芽後の穀粒も指し得る。穀粒は、栽培者によってさらなる植物の栽培以外の目的のために生産された成熟穎果を含む。コムギなどの成熟禾穀類穀粒は通常、水分含有量が約18~20%より低く、典型的には水分が約8~10%である。本明細書中で使用する場合、「種子」という用語は、収穫された種子を含むが、開花後に植物中で発達しつつある種子、及び収穫前に植物中に含まれている成熟種子も含む。穀粒の構成部分には、外種皮(種皮)、果皮(果実の皮)、糊粉層、澱粉質の胚乳ならびに、胚盤、幼芽(芽)及び幼根(初生根)からなる胚(胚芽)が含まれる。外種皮と果皮と糊粉層とをまとめて一般に「ふすま」と呼び、これは粉砕によって穀粒から除去され得、これは胚芽も含み得る。胚盤は、発芽に関与する酵素のうちのいくつかを分泌する、及び発芽後の苗の生育のために胚乳中の澱粉の分解によって可溶性糖類を吸収する、領域である。澱粉質の胚乳を囲む糊粉層も発芽中に酵素を分泌する。
【0154】
本明細書中で使用する場合、「発芽」とは、吸水後の種皮からの根端(幼根)の発生を指す。幼根は大抵は最初に発生し、その後に幼芽が発生する。「発芽率」は、吸水後に一定期間、例えば7日間または10日間を経て発芽した種子の、集団に占める百分率を指す。発芽率は、当技術分野で知られている技術を用いて算出することができる。例えば、種子の集団、典型的には少なくとも100粒の穀粒を数日間にわたって毎日評価して経時的な発芽百分率を決定することができる。本発明の穀粒に関して、「実質的に同じである発芽率」という用語は、本明細書中で使用される場合、穀粒の発芽率が対応する野生型穀粒の少なくとも90%であることを意味する。一実施形態では、本発明の穀粒の発芽率は、野生型穀粒に対して約70%~約100%、好ましくは野生型穀粒に対して約90%~約100%である。発芽を測定する場合、本発明のコムギ穀粒及び対照として使用する野生型穀粒は、同じ条件下での栽培、及びほぼ同じ長さの時間にわたる同じ条件下での貯蔵がなされたものでなければならない。
【0155】
本発明はさらに、食品原料、例えば小麦粉、好ましくは全粒粉、ふすま、及び穀粒から生産されるその他の製品を提供する。これらは未加工のものであってもよいし、または例えば熱処理、分画もしくは漂白による加工がされていてもよい。
【0156】
本発明の穀粒は、当技術分野で知られている任意の技術を用いて食品原料または食品もしくは非食品製品を生産するために加工され得る。一実施形態では、食品原料は小麦粉、例えば全粒粉(全粒粉小麦粉)または精白小麦粉などである。本明細書中で使用する場合、「小麦粉」とは、粉砕されて粉末になった穀粒からの粉砕済み製品のことである。粉末は一般に、篩掛け、篩分け、遠心分離、または当技術分野で知られているその他の方法によって分画され、また、精製、熱処理及び/または漂白がさらに行われることがある。精製小麦粉すなわち「精白小麦粉」は、本明細書中で使用される場合、粉砕された粉末のふすま及び胚芽成分を少なくともいくらか除去することによって、粉砕された粉末のうち胚乳に由来する部分が全粒粉に比べて濃縮されている小麦粉を指す。米国食品医薬品局(FDA)は、小麦粉が精製小麦粉の分類に含められるためには特定粒径標準を満たすことを要求している。FDAによれば、精製小麦粉の粒径は、「212マイクロメートル(U.S.Wire70)」と呼ばれるワイヤ織布の穴より大きくない穴を有する布を98%以上が通過する小麦粉であると表現されている。
【0157】
本明細書中で使用する場合、「全粒粉」という用語は、全粒粉小麦粉または全粒小麦粉とも呼ばれるが、本質的に100%の穀粒から作られた、精製小麦粉の構成要素(精製小麦粉または精製小麦粉)と粗画分(超微細粉砕された粗画分)とを含む粉砕小麦粉である。粗画分は、ふすま及び胚芽のうちの少なくとも一方、典型的には両方を含む。胚芽は、穀粒穎果内に見つかる胚性植物であり、胚及び胚盤を含む。胚芽は、脂質、繊維質、ビタミン、タンパク質、ミネラル、及び植物栄養素、例えばフラボノイドを、穀粒の成熟胚乳中での場合よりも高いレベルで含む。ふすまは、果皮(果実の皮)及び外種皮(種皮)を含めたいくつかの細胞層を含み、さらに、顕著な量の脂質、繊維質、ビタミン、タンパク質、ミネラル、及び植物栄養素、例えばフラボノイドを有する。糊粉層は、厳密には成熟穀粒の胚乳の一部と考えられているが、ふすまと同じ多くの特質を呈し、それゆえ通常は粉砕及び/または篩掛けのプロセス中にふすま及び胚芽と共に除去される。糊粉層も、脂質、繊維質、ビタミン、タンパク質、ミネラル、及び植物栄養素、例えばフラボノイド及びフェルラ酸を含む。
【0158】
さらに、粗画分を精製小麦粉の構成要素とブレンドしてもよい。好ましくは、粗画分と精製小麦粉の構成要素とを均質にブレンドする。粗画分は精製小麦粉の構成要素と混合されて全粒粉を形成し得、こうして栄養価、繊維質含有量及び抗酸化能が精製小麦粉に比べて向上した全粒粉が提供され得る。例えば、粗画分または全粒粉を様々な量で使用してパン類中、スナック製品中及び食品製品中の精製小麦粉を置き換えてもよい。本発明の全粒粉(すなわち超微細粉砕された全粒小麦粉)は、消費者に対して自家製パン類製品用にそのまま市販されてもよい。例示的実施形態において、全粒粉は、重量表示で全粒粉の粒子の98%が直径212マイクロメートル未満であるような粒状化プロファイルを有する。
【0159】
さらなる実施形態では、全粒粉及び/または粗画分を安定化させるために、全粒粉及び/または粗画分のふすま及び胚芽の中に認められる酵素を不活性化させる。本発明は、「不活性化される」が、抑制される、変性する、などの意味でもあることを企図している。安定化は、ふすま及び胚芽層の中に認められる酵素を不活性化させるために蒸気、熱、放射線またはその他の処理を用いるプロセスである。安定化されていないと、ふすま及び胚芽の中に天然に存在する酵素は小麦粉中の化合物の変化を触媒し、それは小麦粉の調理上の特質及び貯蔵寿命に悪影響を与えることがある。不活性化された酵素は小麦粉中にみられる化合物の変化を触媒せず、それゆえ、安定化された小麦粉はその調理上の特質を保持し、貯蔵寿命がより長い。例えば、本発明は、粗画分を粉挽きするのに二流粉砕技術を実施し得る。粗画分を分離し、安定化させたならばすぐに粗画分を粉砕機、好ましくはギャップミルで粉挽きして、約500マイクロメートル以下の粒径分布を有する粗画分を形成する。篩分け後、500マイクロメートルより大きい粒径を有する粉挽きされたいかなる粗画分も、さらなる粉砕のためにプロセスに戻され得る。
【0160】
さらなる実施形態では、小麦粉、全粒粉または粗画分は、食品製品の成分であり得、例えば、食品生産の原料として使用され得る。食品製品は、例えば、ベーグル、ビスケット、パン、丸パン、クロワッサン、ダンプリング、マフィン、例えばイングリッシュマフィン、ピタパン、クイックブレッド、冷蔵または冷凍生地製品、生地、ベイクドビーンズ、ブリート、チリコンカーン、タコス、タマーリ、トルティーヤ、ポットパイ、インスタントシリアル、インスタント食品、詰め物、レンジ調理食品、ブラウニー、ケーキ、チーズケーキ、コーヒーケーキ、クッキー、デザート、ペーストリー、スイートロール、キャンディーバー、パイ生地、パイの詰め物、ベビーフード、プレミックス、衣用生地、パン粉、グレービーミックス、肉増量剤、肉代用品、混合調味料、スープミックス、グレービー、ルウ、サラダドレッシング、スープ、サワークリーム、麺、パスタ、ラーメン、炒麺、拌麺、アイスクリーム具材、アイスクリームバー、アイスクリームコーン、アイスクリームサンドイッチ、クラッカー、クルトン、ドーナツ、エッグロール、押出スナック、果物と穀物のバー、レンジ調理スナック製品、栄養バー、パンケーキ、半焼成パン類製品、プレッツェル、プリン、グラノーラ系製品、スナックチップ、スナック食品、混合スナック、ワッフル、ピザ生地、動物用食品、またはペットフードであり得る。
【0161】
他の実施形態では、小麦粉、全粒粉または粗画分は栄養補給剤の成分であり得る。例えば、栄養補給剤は、1つ以上の原料、典型的には例えば、ビタミン、ミネラル、脂質、例えばオメガ3脂肪酸、アミノ酸、酵素、抗酸化物質、例えばルテイン、ハーブ、スパイス、プロバイオティクス、抽出物、プレバイオティクス及び繊維質を含有する、食事に添加される製品であり得る。本発明の小麦粉、全粒粉または粗画分は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素及び繊維質を含む。例えば、粗画分は、濃密な量の食物繊維、ならびに健康な食事に必須なものである他の必須栄養素、例えば、ビタミンB群、セレン、クロム、マンガン、マグネシウム及び抗酸化物質を含有する。例えば、15グラムの本発明の粗画分は個人の繊維質の推奨一日摂取量の33%を供給する。さらに、個人の繊維質の推奨一日摂取量の20%を供給するのに必要とされるのはたった9グラムである。このように、粗画分は、個人の所要繊維質の摂取にとっての優れた補給源である。
【0162】
さらなる実施形態では、全粒粉または粗画分は、繊維質補給剤またはその成分であり得る。多くの今日の繊維質補給剤、例えば、オオバコ種子外皮、セルロース誘導体及び加水分解グアーガムは、それらの繊維質含有量以外の栄養価に限りがある。その上、多くの繊維質補給剤は食感が望ましくなく、風味が良くない。それゆえ、一実施形態では、本発明の食品原料は、コムギ穀粒以外のそのような供給源に由来する繊維質補給剤を欠く。コムギ穀粒の全粒粉または粗画分から作られた補給剤は、それらによって繊維質及びタンパク質ならびに抗酸化物質を供給する。繊維質補給剤は、限定されないが、即席飲料混合物、インスタント飲料、栄養バー、ウェハース、クッキー、クラッカー、小分けゼリー剤、カプセル、噛み菓子、チュアブル錠、及び丸剤の形態で供給され得る。一実施形態は、風味付けされたミルクセーキまたは麦芽乳系飲料の形態で繊維質補給剤を供給し、この実施形態は子供用繊維質補給剤として特に魅力的であり得る。
【0163】
別の実施形態では、粉砕及びブレンドのプロセスを用いて多種穀粒小麦粉または多種穀粒粗画分が作られ得る。例えば、ある種類の穀粒、例えば本発明の穀粒からのふすま及び胚芽を粉挽きし、別の種類のコムギまたはその他の禾穀類の粉挽き胚乳または全粒小麦粉とブレンドしてもよい。1つ以上の穀粒のふすま、胚芽、胚乳及び全粒小麦粉のうちの1つ以上の任意の組み合わせを混合することを本発明が包含することは企図される。この多種穀粒による手法は、あつらえの小麦粉を作ること、ならびにコムギなどの多種類の穀粒の質及び栄養含有量を活用して1つの小麦粉を作ることのために用いられ得る。
【0164】
本発明の小麦粉または全粒粉は、当技術分野で知られている任意の粉砕プロセスによって生産され得る。例示的実施形態は、穀粒の胚乳、ふすま及び胚芽を別個の流れに分離することなく単一の流れにおいて穀粒を粉挽きすることを含む。調質された清浄な穀粒を第1通過粉砕機、例えば、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、インパクトミル、ディスクミル、空気摩擦ミル、ギャップミルなどへ搬送する。粉挽きした後、穀粒は排出され、篩へ搬送される。粉挽きされた粒子を篩分けするための当技術分野で知られている任意の篩が使用され得る。篩のスクリーンを通過する材料は本発明の全粒小麦粉であり、さらなる加工は必要でない。スクリーン上に残る材料を第2画分と呼ぶ。第2画分はさらなる微粉化を必要とする。したがって、この第2画分は第2通過粉砕機へ搬送され得る。第2画分は、粉挽きされた後、第2篩へ搬送され得る。
【0165】
本発明の小麦粉、全粒粉、粗画分及び/または穀粒製品は、発酵、インスタント化、押出し、カプセル化、あぶり、焙焼などの数々の他のプロセスを経て改変または強化され得ることが企図される。本発明の小麦粉及び全粒粉は、それらから生産された食品製品と同様に、それらの由来であるコムギ穀粒のDNAを含めた遺伝材料を含む。例えば、Tilley(2004)及びBryan et al.,(1998)を参照されたい。
【0166】
本発明によって提供される麦芽乳系飲料は、出発材料の一部または全体として麦芽を使用することによって生産されるアルコール飲料(蒸留飲料を含む)及びノンアルコール飲料を含む。例としては、ビール、発泡酒(低麦芽ビール飲料)、ウィスキー、低アルコール麦芽系飲料(例えば、1%未満のアルコール分を含有する麦芽系飲料)、及びノンアルコール飲料が挙げられる。
【0167】
麦芽製造は、制御された浸漬及び発芽のプロセスの後に穀粒の乾燥を行うものである。この一連の事象は、死滅した胚乳細胞壁を主に解重合して穀粒栄養素を動員するプロセスである穀粒改変をもたらす多くの酵素の合成に重要である。その次の乾燥プロセスでは、化学的褐変反応によって香味及び色が生じる。麦芽の主な用途は飲料製品であるが、それは他の産業プロセスにおいても、例えばパン類製造産業での酵素源または食品産業での香味剤及び着色剤として、例えば麦芽もしくは麦芽粉または間接的に麦芽シロップなどとして、利用され得る。
【0168】
一実施形態では、本発明は、麦芽組成物を生産する方法に関する。方法は、
(i)本発明のコムギ穀粒を提供するステップ、
(ii)上記穀粒を浸漬するステップ、
(iii)浸漬した穀粒を所定条件下で発芽させるステップ、及び
(iv)上記発芽穀粒を乾燥させるステップ
を含むことが好ましい。
【0169】
麦芽は、本発明の穀粒のみを使用して調製してもよいし、または他の穀粒も含む混合物を使用して調製してもよい。麦芽は主としてビールの醸造に使用されるが、蒸留酒の生産にも使用される。醸造は、麦汁生産、主発酵及び二次発酵、ならびに後処理を含む。まず、麦芽を粉砕し、水中撹拌し、加熱する。この「マッシング」の間、麦芽製造中に活性化された酵素は穎果の澱粉を分解して発酵可能な糖にする。生産された麦汁を清澄化し、酵母を添加し、混合物を発酵させ、後処理を実施する。
【0170】
一般に、麦汁生産プロセスの第1ステップは、マッシング段階で水が穀粒粒子に到達し得るようにするための麦芽の粉砕であり、それは基本的には、基質の酵素的解重合を用いる麦芽製造の拡張である。マッシングの間、粉砕した麦芽は水などの液体画分と共にインキュベートされる。温度は一定に保たれるか(等温マッシング)、徐々に上昇させるかのどちらかである。どちらの場合においても、麦芽製造及びマッシングで生じた可溶性物質は上記液体画分中に抽出され、その後、濾過によって麦汁と、使用済み穀粒を指す残存固形粒子とに分離される。麦汁組成物は、本発明のコムギ穀粒またはその一部を1つ以上の適切な酵素、例えば酵素組成物または酵素混合物組成物、例えばUltrafloまたはCereflo(Novozymes)と共にインキュベートすることによっても調製され得る。麦汁組成物はまた、麦芽と麦芽になっていない植物またはその部分との混合物を使用して調製してもよく、場合によって上記調製中に1つ以上の適切な酵素を添加する。
【0171】
小麦粉または全粒粉の澱粉は、食品製品に組み込まれた場合、改変された消化特性を提供し、例えば食品原料は、野生型コムギ穀粒から生産された対応する食品原料に比べて増加した耐性澱粉、例えば、1~20%、2~18%、3~18%または5~15%の耐性澱粉を含み、また、低下したグリセミック指数(GI)、例えば、少なくとも5単位分、好ましくは5~25単位分の低下を含む。これは、増加した、例えば重量表示で食品原料の15~30%の総繊維質含有量と組み合わされ得る。
【0172】
炭水化物は、炭素、水素及び酸素から構成される1つ以上の糖単位を含む化合物であるが、炭水化物を構成している単糖単位の数及び組成によって分類され得る。これらには、多糖類(10より多い単糖単位)、オリゴ糖類(3~10単糖単位)、二糖類及び単糖類、例えば、グルコース、フルクトース、キシルロース及びアラビノースが含まれる。炭水化物は重量表示で成熟野生型コムギ穀粒の65%超を構成し、65~75%の澱粉及び約10%の細胞壁多糖、例えばセルロース、アラビノキシラン及びBGを含む。
【0173】
澱粉は、コムギなどの禾穀類を含めた大部分の植物において主要な貯蔵炭水化物である。本明細書において「澱粉」は、α-1,4結合及び全くないかあるいはいくつかのα-1,6結合によって重合したグルコピラノース単位から構成される多糖と定義される。澱粉は、アミロプラスト内で合成されて穀粒などの発達中の貯蔵器官内で顆粒中に形成及び貯蔵され、本明細書ではそれを「貯蔵澱粉」または「穀粒澱粉」または「穀粒の澱粉」と呼ぶ。Triticum aestivumを含めて禾穀類穀粒では、貯蔵澱粉の非常に多くの部分が胚乳中に澱粉顆粒として蓄積される。澱粉は、穀粒発達中、特に植物生育の登熟期にアミロプラスト内で合成及び蓄積され、澱粉顆粒と呼称される離散的な結晶構造を形成する。野生型Triticum aestivumでは、澱粉顆粒には大きさが2種類あり、つまり、大きい方の、直径10~40μmの楕円形の顆粒(A型顆粒)と、小さい方の、直径1~10μmの球形の顆粒(B型顆粒)とがある。
【0174】
澱粉の分子は、アミロース及びアミロペクチンとして知られる2つの成分画分に属するものとして分類され、それらは重合度(DP)及びポリマーにおけるα-1,4結合に対するα-1,6結合の比率に基づいて区別される。アミロースは、α-1,6結合によって他のα-1,4結合鎖に繋げられたグルカン鎖を有しないかあるいは僅かに有するものであり得る、ほぼ完全に直鎖であるα-1,4結合グルコシル鎖を含み、分子量は104~105ダルトンである。本明細書において「アミロース」という用語は、「真性アミロース」と呼称される本質的に直鎖であるα-1,4結合グルコシド(グルコピラノース)単位の分子と、時として「中間物質」または「アミロース様アミロペクチン」と呼称され、真性アミロースと同様にヨウ素測定アッセイにおけるヨウ素結合性物質であるとみられるアミロース様長鎖澱粉とを含むものとして定義される(Takeda et al.,1993、Fergason,1994)。真性アミロースにおいて直鎖分子は典型的には500~5000のDPを有し、1%未満のα-1,6結合を含有する。最近の研究では、アミロース中に約0.1%のα-1,6グルコシド分岐部位が起こり得ることが示されており、このため、それは「本質的に直鎖である」と表現される。これに関して、百分率(%)は、α-1,4グルコシド結合とα-1,6グルコシド結合との総和であるグルコシド結合の総数に対するα-1,6グルコシド結合の数を指す。顆粒結合型澱粉合成酵素(GBSS)は、アミロースの合成に関与する主な酵素である。
【0175】
アミロペクチンは、3~60個のグルコシル単位を有するα-1,4結合グルコシル鎖がα-1,6結合によって連結された、比較的高度に分岐したグルカンポリマーであり、その結果としてグルコシル結合の総数のおよそ4~6%はα-1,6結合である。それゆえ、アミロペクチンは、DPが5000~500,000に及ぶ、よりはるかに大きい分子であり、アミロースよりも高度に分岐している。アミロースは螺旋形配座を有し、分子量が約104~106ダルトンであるが、アミロペクチンは分子量が約107~108ダルトンである。これらの2種類の澱粉は、当技術分野でよく知られている方法によって、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーによって、またはヨウ素に対するそれらの異なる結合親和性によって、容易に区別または分離することができる。アミロースは、小腸内でα-アミラーゼによってアミロペクチンよりもゆっくりと消化され、後者はその高度な分岐構造のために酵素的加水分解の部位を多く有する。
【0176】
野生型Triticum aestivum穀粒からの澱粉は、ヨウ素法によって測定される場合、典型的には20~30%のアミロースと約70~80%のアミロペクチンとを含むのに対し、本発明の穀粒の澱粉は重量基準で約45%~約70%のアミロース含有量を有する。アミロース含有量は45~70%であり得、いくつかの実施形態では45~65%、または約50%、約55%、約60%もしくは約65%であり得る。穀粒はこのレベルが高ければ高いほど好ましい。本明細書において定義される澱粉に占めるアミロースの割合は、重量/重量(w/w)基準であり、つまり、アミロース画分とアミロペクチン画分とへのいかなる分画よりも前の澱粉に関して、穀粒から抽出することができる全澱粉の重量に対する百分率で表したアミロースの重量である。穀粒、小麦粉または本発明の他の製品に関して本明細書中で使用する場合、「澱粉に占めるアミロースの割合」及び「アミロース含有量」という用語は本質的に相互交換可能な用語である。アミロース含有量は、例えば90%(w/v)DMSOでのサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、コンカナバリンA法(Megazyme Int,Ireland)を含めた当技術分野で知られている任意の方法によって、または好ましくは例えば実施例1で記載しているようなヨウ素測定法によって決定され得る。HPLC法は澱粉の枝切りを伴うもの(Batey and Curtin,1996)、または枝切りを伴わないものであり得る。「真性アミロース」のみを検査するBatey and Curtin,1996のHPLC法などの方法が本明細書において定義されるアミロース含有量を低く見積る場合があることは理解されよう。HPLCまたはゲル浸透クロマトグラフィーなどの方法がアミロースとアミロペクチンとへの澱粉の分画に依拠している一方、ヨウ素測定法は、ヨウ素結合性の差に依拠しており、それゆえ分画を必要としない。
【0177】
穀粒重量とアミロース含有量とから、試験系統及び対照系統について穀粒1粒あたりのアミロース蓄積量を算出及び比較することができる。
【0178】
澱粉は、標準的方法、例えば、Schulman and Kammiovirta,1991の方法を用いてコムギ穀粒から容易に単離される。産業規模では、湿式及び乾式粉砕を用いることができる。澱粉顆粒の大きさは、小さい方のB顆粒からの大きい方のA顆粒の分離があり得る場合に澱粉加工産業において重要である。
【0179】
商用に栽培された野生型コムギは、栽培した栽培品種にいくぶん依存して穀粒中の澱粉含有量が通常55~75%の範囲内である。これに比べて本発明の穀粒は、約25%~約70%の澱粉含有量を有するため、ほとんどの実施形態ではその澱粉含有量が、対応する野生型穀粒に比べて減少している。実施形態では、本発明の穀粒の澱粉含有量は25~65%、25~60%、25~55%、25~50%、30~70%、30~65%、30~60%、30~55%または30~50%である。さらなる実施形態では、澱粉含有量は、穀粒重量に対する百分率(w/w)で表して約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%または約65%である。本発明の穀粒の澱粉含有量は、相対基準で、つまり対応する野生型穀粒の澱粉含有量に対して定義することもできる。実施形態では、澱粉含有量は、野生型穀粒の澱粉含有量に対して約50%~約90%、または50~80%、50~75%、50~70%、60~90%、もしくは60~80%である。澱粉含有量は、野生型穀粒の澱粉含有量に対して90~100%である場合もある。どの場合においても、比較は、植物を例えば圃場試験において同じ条件下で栽培することによってなされなければならない。
【0180】
本発明の小麦粉、澱粉顆粒及びふすまは、穀粒から、粉砕プロセス及び場合によってその後に伴う篩分けまたは篩掛けプロセスによって得られ得る。精製澱粉も、穀粒から、粉砕プロセス、例えば湿式粉砕プロセス、及びその後に伴う穀粒のタンパク質、油及び繊維質からの澱粉のさらなる分離によって得られ得る。本明細書中で使用する場合、「粉砕済み製品」という用語は、穀粒、好ましくは本発明のコムギ穀粒を粉挽きすることによって生産される製品を指し、小麦粉(例えば全粒粉)、ミドリング粉(セモリナ粉としても知られる)、ふすま(胚芽を含む)及び澱粉顆粒を含む。ミドリング粉は通常、粒状粒子の形態であり、穀粒からのふすま及び胚芽を含み、典型的には約18%のタンパク質、20~30%の澱粉、及び約5~6%の脂質を含む。粉砕プロセスからのこの画分は、精白小麦粉に比べて栄養素が比較的濃い。穀粒形状は、植物の商業的有用性に影響を与え得る特徴である、というのも、穀粒形状は、穀粒を粉砕できる簡単さ、あるいは困難さに影響を与え得るからである。粉砕収率は穀粒の商業的有用性にとって重要なパラメータである。本発明の穀粒の粉砕収率は、野生型穀粒に比べて少なくとも10%低下することがあるが、あるいは野生型穀粒とほぼ同じになることもある。
【0181】
別の態様では、本発明は、本発明の植物の穀粒から得られた澱粉顆粒または澱粉を提供する。顆粒の澱粉は、野生型コムギ澱粉顆粒に比べてアミロースの割合が増加しており、アミロペクチンの割合が減少している。粉砕プロセスの最初の製品は、澱粉顆粒を含む混合物または組成物、例えば小麦粉または全粒粉であり、したがって、本発明はそのような顆粒を包含する。野生型コムギからの澱粉顆粒は、数あるタンパク質のなかでもGBSS、SSI、SBEIIa及びSBEIIbを含めた澱粉顆粒結合型タンパク質を含んでおり、それゆえ、これらのタンパク質の存在によってコムギ澱粉顆粒は他の禾穀類の澱粉顆粒との区別が付く。対照的に、本発明のコムギ穀粒からの澱粉顆粒は、六倍体コムギのA、B及びDゲノムの各々によってコードされるGBSSポリペプチドを含めたコムギGBSSを含むが、SSIIaポリペプチドは減少しており、実際、いくつかの実施形態ではSSIIaポリペプチドを欠く。これらの澱粉顆粒はさらに、コムギのSSI、SBEIIa及びSBEIIbポリペプチドのうちの1つ以上または全てを、たとえこれらの酵素をコードする遺伝子についてコムギ穀粒が野生型であったとしても、低下したレベルで含み得る。本発明のコムギ穀粒からの澱粉顆粒は、光学顕微鏡下で観察した場合、歪んだ形状及び表面形態を有することが典型的であり、特にアミロース含有量が穀粒の全澱粉に対する百分率で表して少なくとも45%または少なくとも50%であるコムギ穀粒については実施例7を参照されたい。一実施形態では、本発明の穀粒から得られた澱粉顆粒のうち少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%または少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%は、歪んだ形状及び/または表面形態を示す。澱粉顆粒は、偏光下で観察したときの複屈折の喪失も示す。複屈折の入射角の決定については例えば本明細書の実施例7を参照されたい。例えば、澱粉顆粒の50%未満または25%未満が、野生型澱粉顆粒を偏光下で観察したときに観察される「マルタ十字」を示す。
【0182】
澱粉顆粒からの澱粉は、熱及び/または化学処理によって澱粉顆粒を破壊し分散させた後にタンパク質を除去することによって精製され得る。本発明の穀粒の澱粉、澱粉顆粒の澱粉、及び精製澱粉はさらに、以下の特性:
i)そのアミロース含有量が、重量基準で少なくとも45%(w/w)、好ましくは45~70%であるか、または全澱粉に対するアミロースの割合で表して少なくとも50%(w/w)、もしくは約60%(w/w)であること;
ii)少なくとも2%の耐性澱粉、好ましくは少なくとも3%の耐性澱粉を含むこと;
iii)澱粉が、低下したグリセミック指数(GI)によって特徴付けられること;
iv)澱粉顆粒が、歪んだ形状を有すること;
v)偏光下で観察したときの澱粉顆粒の複屈折が低下していること;
vi)澱粉が、減少した膨潤容積によって特徴付けられること;
vii)澱粉における鎖長分布及び/または分岐頻度が変化していること;
viii)澱粉が、低下した糊化ピーク温度によって特徴付けられること;
ix)澱粉が、低下したピーク粘度によって特徴付けられること;
x)澱粉ペースト化温度が低下していること;
xi)サイズ排除クロマトグラフィーによって決定したときのアミロースのピーク分子量が低下していること;
xii)澱粉結晶性が低下していること;ならびに
xiii)A型及び/またはB型澱粉の割合が低下している、及び/またはV型結晶性澱粉の割合が上昇していること
のうちの1つ以上または全てによって特徴付けられ得、各特性は野生型のコムギ澱粉顆粒または澱粉と比べたときのものである。
【0183】
本発明の小麦粉または澱粉はさらに、野生型の小麦粉または澱粉と比べたときの、加熱された過剰の水の中でのその膨潤容積によっても特徴付けられ得る。膨潤容積は、典型的には、澱粉または小麦粉を過剰の水と混合し、高温、典型的には90℃超に加熱することによって測定される。その後、試料を遠心分離によって回収し、沈降した材料の質量を試料の乾燥重量で割ったものとして膨潤容積が表される。低い膨潤特性は、食品調製物、特に水で処理された食品調製物の澱粉含有量を増加させるのが望まれる場合に有用である。本発明の小麦粉及び澱粉は、好ましくは、膨潤容積が減少しており、例えば、野生型コムギの小麦粉または澱粉に比べて30~70%減少している。
【0184】
変化したアミロペクチン構造の1つの尺度は澱粉の鎖長分布または重合度である。鎖長分布は、イソアミラーゼによる枝切りに続いて蛍光標識糖鎖電気泳動(FACE)を用いることによって決定され得る。本発明の澱粉のアミロペクチンは、鎖長分布が5~60の範囲、または対応する野生型植物からの澱粉の鎖長分布よりも大きいDP7~11などの小範囲にあり得、及び/または他のDP12~24などの小範囲における頻度が低減され得る。例えば本明細書の実施例7を参照されたい。より長い鎖長を有する澱粉もそれに相応して分岐頻度が低いであろう。本発明の穀粒の澱粉は、イソアミラーゼによるアミロペクチンの枝切り後に測定した場合に穀粒のアミロペクチンに含まれるDP4~12の鎖長画分の割合が野生型穀粒のアミロペクチンに比べて増加している、SBEIIa活性の低下したコムギ穀粒の澱粉(Regina et al.,2006)とは明確に異なっている。この差異はFACEによって容易に判定することができる。
【0185】
本発明の別の態様では、コムギ澱粉は、変化した糊化温度、好ましくは低下した糊化温度を有し、それは示差走査熱量測定(DSC)によって容易に測定される。糊化は、過剰の水の中で澱粉顆粒内に熱によって促される分子秩序の崩壊(破壊)であり、顆粒膨潤、結晶溶融、複屈折の喪失、粘度の発達、及び澱粉可溶化などの不可逆的特性変化が付随する。糊化温度は、残っているアミロペクチンの鎖長に応じて、野生型植物からの澱粉に比べて上昇するか低下するかのどちらかであり得る。トウモロコシのアミロースエクステンダー(ae)突然変異体からの高アミロース澱粉は、通常のトウモロコシより高い糊化温度を示した(Fuwa et al.,1999、Krueger et al.,1987)。
【0186】
糊化温度、特に、第1ピークの開始温度または第1ピークの頂部の温度は、DSCによって測定した場合、類似しているが改変されてはいない穀粒から抽出された澱粉に比べて、少なくとも3℃、好ましくは少なくとも5℃以上、またはより好ましくは少なくとも7℃低くなり得る。澱粉は、上昇したレベルで耐性澱粉を含み得るとともに、澱粉顆粒形態の変化を原因とし得る消化酵素への物理的到達不可能性と、澱粉関連脂質のかなりの存在と、変化した結晶性と、変化したアミロペクチン鎖長分布とからなる群のうちの1つ以上を含む固有の物理的特質によって示唆される変化した構造を有し得る。アミロースの割合が高いことは、澱粉を加熱してその後に冷却したときの耐性澱粉のレベルにも寄与する。
【0187】
本発明のコムギの澱粉構造は、野生型コムギ穀粒から単離された澱粉に比べて結晶化度が低下している、及び/または結晶性の種類が改変されている、という点においても異なっている。結晶性はX線結晶学によって調べるのが典型的である。低下した澱粉の結晶性はさらに、強化された感覚刺激特性に関連し、より滑らかな舌触りに寄与すると考えられる。
【0188】
本発明はさらに、含まれている食物繊維の量が、少なくとも上昇したRSのレベルによってだけでなくアラビノキシラン、β-グルカン及びフルクタンなどの他の食物繊維成分の上昇したレベルによっても増加している、穀粒からのコムギ穀粒、小麦粉、全粒粉、澱粉顆粒及び澱粉を提供する。本明細書中で使用する場合、「食物繊維」(DF)または「全食物繊維」(TDF)は、健常なヒト対象の小腸で消化されず大腸における生理学的利益を有する、食品中の炭水化物ポリマーの総和を意味する。本明細書中で使用する場合、DFは、「全繊維含有量」とは異なる(以下)。DFは、小腸で消化吸収されないが結腸まで送られてそこで細菌によって分解され得る。DFは、RS、非α-グルカンオリゴ糖及び非澱粉多糖(NSP)、例えば、アラビノキシラン、β-グルカン及びフルクタンを含む。DFは大抵、水に可溶な形態(水溶性繊維質)または水に可溶でない形態(不溶性繊維質)と、RSとに分割される。野生型コムギ穀粒中の食物繊維のうち最も健康増進性である画分は、AX成分を大抵含んでいる可溶性繊維質である、というのも、野生型澱粉にはRSが非常に少ないからである。対照的に、エンバク及びオオムギでは可溶性繊維質は大抵BGである。オーストラリア国立心臓基金は、心血管及び結腸の健康のためにDFを一日に30~35g摂取することを推奨している。コムギにおいて、食物繊維質含有量に影響を与える様々な候補遺伝子が同定されているが(Quraishi et al.,2011)、本発明の穀粒によって提供されるのと同じレベルのものはない。DFは、AOAC991.43(Megazyme)法によって測定され得る。
【0189】
本明細書中で使用する場合、「プレバイオティック」とは、(ヒトの消化酵素によって)消化されることができず、小腸を通過した後に結腸で1つまたは限られた数の細菌の成長及び/または活性を選択的に刺激することによって対象に有益な影響を与える、食品原料のことである。例えば、フルクタン及びBGは細菌活動以外によって消化されることができないが、特異的発酵によってヒト消化管内細菌の組成を変化させることができ、酢酸塩、プロピオン酸塩及び酪酸塩を含めた短鎖カルボン酸を生じさせることができる。
【0190】
一実施形態では、本発明のコムギ穀粒、小麦粉、澱粉顆粒及び澱粉は、改変された消化特性、例えば増加した耐性澱粉を提供する。本明細書中で使用する場合、「耐性澱粉」(RS)は、健常個体の小腸で吸収されないが大腸に進入する、澱粉及び澱粉消化製品を指す。これは、穀粒の全澱粉に対する百分率、または文脈によっては食品の総澱粉含有量に対する百分率によって定義される。したがって、耐性澱粉は、小腸で消化吸収される製品を除外する。したがって、RSは、本発明の食品原料(小麦粉など)または食品製品の食物繊維含有量の一部である。RSは5つのカテゴリーに分かれる:物理的到達不可澱粉(RSI)、例えば不完全粉砕穀粒内の、耐性澱粉顆粒(RSII)、例えばジャガイモ及び青バナナに僅かにみられるものなど、糊化澱粉が長い期間を掛けて冷却されたときに形成される老化澱粉(RSIII)、化学変性澱粉(RSIV)、例えばグリコシル残基の遊離ヒドロキシル基をエーテル化またはエステル化することによって形成するもの、ならびにアミロースまたはアミロペクチンの長い分岐鎖と脂質との複合体を形成することができる澱粉(RSV)(Birt et al.,2013)。RSIIIは特に、糊化後に再結晶化して老化澱粉を形成しがちな長めのアミロース鎖から形成される。増加したアミロース含有量を有する澱粉系食品中のRSは主として老化アミロースである(Hung et al.,2006)。本発明の穀粒の澱粉、澱粉顆粒、澱粉及びそれによる製品のRSが、対応する野生型製品に比べて増加しているのは、RSII及びRSV含有量の増加、ならびに澱粉が加熱されてその後に冷却されている場合での老化後のRSIIIのためであると考えられる。V-複合体結晶性によって測定される澱粉-脂質会合も耐性澱粉のレベルに寄与している可能性があり、本発明の穀粒中に増加した脂質含有量のおかげでRSV成分が増加している可能性がある。澱粉のうちのいくらかは、いくぶん消化に至り難いRSI型でもあり得る。
【0191】
食品原料中または食品中のRSレベルを測定するのにいくつかの方法が利用可能であり、どれも澱粉加水分解酵素を使用して消化性澱粉を最初に除去することに依拠している(Dupuis et al.,2014)。Prosky法(AOAC985.29)によるRS評価は、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ及びプロテアーゼによる消化の後での食物繊維の重量測定による決定を用いる(Prosky et al.,1985)。McCleary法(AOAC2009.01)は、AOACの正式な方法であり、商業的に入手可能である(Megazyme International,Ireland)。それはRSを測定する好ましい方法である(本明細書の実施例1を参照のこと)。このアッセイでは、非耐性澱粉を膵臓α-アミラーゼによる処理によって可溶化し、RSを回収して2MのKOHに溶かし、その後、アミログルコシダーゼでグルコースに加水分解し、測定する。
【0192】
実施形態では、澱粉は、重量基準で総澱粉含有量に対する百分率で表して2~20%、2~18%、3~18%、3~15%または5~15%の耐性澱粉を有する。実施形態では、RS含有量は、等価な量の野生型コムギ澱粉で作られた対応する食品原料または食品製品に比べて2~10倍増加している。実施形態では、RS含有量は、野生型に比べて約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍増加している。増加するRSの程度は、本発明の製品に対応する野生型製品をブレンドすることによって調節することができる。本発明の澱粉の変化した澱粉構造及びとりわけ高いアミロースレベルは、食品で摂取されるときのRSの増加をもたらす。RSは、腸内でのその発酵中に放出される代謝産物(Topping and Clifton,2001)、特にSCFAである酪酸塩、プロピオン酸塩及び酢酸塩に関連する有益な生理学的効果を有し、食後の血中グルコースレベルを低下させるのに有効である。
【0193】
本発明の穀粒、食品原料及びそれから生産される食品製品は、β-グルカン、セルロース、フルクタンまたはアラビノキシランが本発明の穀粒におけるこれらの成分のレベルの上昇に基づいて強化された組成物を食事に提供する、または生産するために、有益に使用することができる。禾穀類穀粒の細胞壁は、セルロース、キシログルカン、(ガラクツロン酸残渣中に豊富である)ペクチン、カロース(1,3-β-D-グルカン)、アラビノキシラン(アラビノ-1,4-β-D-キシラン、以後AX)及びBGなどの様々な多糖類ならびにリグニンなどのポリフェノール類からなる複雑な動的構造体である。イネ科植物及び他のいくつかの単子葉植物の細胞壁では、グルクロノアラビノキシラン及びBGが多くを占め、ペクチン多糖類、グルコマンナン及びキシログルカンのレベルは比較的低い(Carpita et al.,1993)。これらの多糖類は、多種多様な多糖合成酵素及びグリコシルトランスフェラーゼによって合成され、植物には少なくとも70個の遺伝子ファミリーが存在し、多くの場合、遺伝子ファミリーに多数のメンバーが存在する。
【0194】
本明細書中で使用する場合、「(1,3;1,4)-β-D-グルカン」という用語は、「β-グルカン」とも称され、本明細書では「BG」と略されるが、非置換でありかつ本質的に非分岐状であるβ-グルコピラノシルモノマーがいくつかの1,3-結合と共に大部分の1,4-結合によって共有結合している本質的に直鎖であるポリマーを指す。1,4-及び1,3-結合によって繋ぎ合わされたグルコピラノシル残基は、反復してはいないがランダムでもない並び方をしており、つまり1,4-及び1,3-結合は、ランダムには並んでいないがそれと同時に、規則的に反復する配列で並んでいるわけでもない(Fincher,2009a,2009b)。コムギBGでは、エンバク及びオオムギのBGと同様に、1,3-結合残基のうちのほとんど(約90%)は、2つまたは3つの1,4-結合残基の後に続いている。したがって、BGは、グルコピラノシル残基約28個分以下で、セロトリオシル単位(各々は3つのグルコピラノシル残基を有する)とセロテトロシル単位(各々は4つのグルコピラノシル残基を有する)とが主にβ-1,4結合している鎖と、約10%分だけより長くβ-1,4結合した1,4-結合グルコピラノシル残基4個~約10個からなるセロデキストリン単位とが、単一のβ-1,3結合によって繋がり合ったものであるとみなすことができる(Fincher and Stone,2004)。典型的には、BGポリマーは少なくとも1000個のグリコシル残基を有し、水性媒体中で拡張型配座をとる。四糖単位に対する三糖単位の比率(DP3/DP4比)は、種によって様々であり、したがって、種から得られるBGに特徴的である。異なる禾穀類から得られるBGはその溶解性が異なり、エンバクから得られるBGはコムギから得られるBGよりも溶解性が大きい。これは、BGポリマーのDP3対DP4比と関係があると考えられる。
【0195】
野生型コムギ穀粒では、BGレベルは胚乳よりも穀粒全体における方が高い(Henry,1985)。野生型コムギ穀粒全体のBGは重量基準で約0.6%であったのに比べ、オオムギでは約4.2%、エンバクでは3.9%、ライムギでは2.5%であった(Henry 1987)。野生型コムギ穀粒では、その範囲は重量表示で0.4~1.4%であった(Lazaridou et al.,2007)。コムギ穀粒のBGは典型的にはDP3/DP4比が3~4.5である(Lazaridou et al.,2007)。オオムギのBGは、血漿コレステロールの低下、グリセミック指数の低減、及び結腸癌のリスクの低減に関連しており、コムギのBGはこれらの効果に関連していない、というのも、コムギ穀粒のBGレベルはオオムギよりもはるかに低いからである。穀粒中のBGのレベルは通常、穀粒を全粒粉に粉砕してBGを例えば実施例1に記載の方法で検査することによって測定される。
【0196】
野生型コムギ穀粒では、フルクタンのレベルは重量表示で穀粒のたったの0.6~2.6%である。本明細書中で使用する場合、「フルクタン」という用語は、単一の末端グルコース単位に対して重合したフルクトシル残基を含むフルクトースのポリマーを意味する。フルクタンは、スクロースから合成され、それゆえに末端がグルコースになっている。フルクトース部分は互いにβ-1,2及び/またはβ-2,6結合によって繋がっており、鎖の端部にはグルコースが、スクロースからのフルクトシルの移動の繰り返しによって形成されてスクロースでみられるようなα-1,2結合によって繋がっていることがある。フルクタン合成に関与する酵素としては、例えば、ケトースを形成するスクロース-スクロースフルクトシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.99)、及び1-あるいは6-フルクタン-フルクタンフルクトシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.100)が挙げられる。重合度(DP)は3から数百まで変動するが、典型的には3~60であり、本発明の穀粒では大抵DP3~10である。この組成から考えてフルクタンは水への溶解性が高く、78%エタノール中で析出しない。フルクトシル残基間の結合は、フルクトシル残基がスクロース開始部分のフルクトシル残基に取り付けられ直鎖状分子(イヌリン)を形成するβ-1,2型のみであるか、β-2,6型(レバン)であるか、両方の結合型が分岐状フルクタン(グラミナン)に起こるかのいずれかである。グラミナンは、β-1,2分岐点と共にβ-2,6結合型フルクトース単位を含み、そのためにより複雑な構造体であるが、禾穀類にも存在し得、レバンと混ざり合っていることがある。本発明の穀粒におけるフルクタンのレベルは通常、穀粒を全粒粉に粉砕してフルクタンを例えば実施例1に記載の方法で検査することによって測定され、これはProsky and Hoebregs(1999)の方法に基づいている。方法はフルクタンの加水分解及びその後の遊離糖分の決定に依拠している。
【0197】
フルクタンは、食品原料としてヒトの健康に対する潜在的に有益な効果を有する非澱粉性炭水化物である(Tungland and Meyer,2002、Ritsema and Smeekens,2003)。ヒト消化酵素α-グルコシダーゼ、マルターゼ、イソマルターゼ及びスクラーゼは、フルクタン結合のβ配置のためにフルクタンを加水分解することができない。さらに、ヒト及び他の哺乳動物の小腸は、フルクタンを分解するエキソヒドロラーゼ酵素を欠き、それゆえ、食物フルクタンは小腸での消化を回避してそのまま大腸に到達する。しかしながら、そこにいる細菌は、フルクタンを発酵させることができ、したがってそれらを例えば成長及び短鎖脂肪酸(SCFA)産生のためのエネルギー源または炭素源として利用することができる。したがって、食物フルクタンは、結腸中のビフィズス菌などの有益な細菌の成長を刺激することができ、それは便秘及び病原性腸細菌による感染症などの腸疾患の防止に役立つ。さらに、食物フルクタンは食事からの栄養素、特にカルシウム及び鉄の吸収を強化するが、これはおそらく、SCFAが産生してそれが今度は腸管pHを下げてカルシウムの化学種形成及びそれゆえの溶解度を変化させるかまたは粘膜輸送経路に直接影響を及ぼすことによるものであり、それにより、骨の石灰化が向上し、鉄欠乏性貧血のリスクが低減される。さらに、高フルクタン食は糖尿病患者の健康を増進することができ、結腸癌の前兆である異常陰窩巣を抑制することによって結腸癌のリスクを低減することができる(Kaur and Gupta,2002)。さらに、フルクタンには甘味があり、低カロリー甘味料及び機能性食品原料として使用されることが多くなってきている。
【0198】
本発明の穀粒からの単離されたフルクタンの生産は、フルクタン生産の既存の方法、例えばチコリーからのイヌリンの抽出を伴う方法に比べてコスト効率が良い。フルクタンの大規模抽出は、穀粒を全粒粉小麦粉に粉砕すること及びその後に小麦粉からフルクタンを含めた全ての糖分を水中に抽出することによって成し遂げることができる。これは周囲温度で行われ得、その後に混合物が遠心分離または濾過され得る。その後、上澄みを約80℃に加熱し、遠心分離してタンパク質を除去し、その後、乾燥させる。あるいは、小麦粉の抽出を80%のエタノールによって行うことができ、これに続いて水/クロロホルム混合物を使用する相分離を行い、糖分及びフルクタンを含有する水相を乾燥させ、水中に再び溶解させることができる。どちらかの方法で調製した抽出物の中のスクロースはα-グルコシダーゼの添加によって酵素的に除去され得、その後、ヘキソース(単糖類)がゲル濾過によって除去されて様々な大きさのフルクタン画分が生成する。これによって、フルクタンが少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%または少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%であるフルクタンに富む画分が生成するであろう。
【0199】
小規模フルクタンアッセイの開発。禾穀類穀粒及びそれらから得られる食品製品のフルクタン含有量は、一般に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Huynh et al.,2008)または分光光度測定(McCleary et al.,2000、McCleary et al.,2013、Steegmans et al.,2004)を用いて測定される。分光光度測定に基づく正式なAOAC法999.03(AOAC,2000b)はK-FRUCHK及びK-FRUCキットとしてMegazyme International Limited(Bray,Ireland)から市販されている。これらの市販のキットは簡便であり、禾穀類穀粒のフルクタンレベルを測定し易い(Karppinen et al.,2003、Whelan et al.,2011)。K-FRUCHKアッセイでは、スクロースと低重合度(DP)マルトース系糖類をフルクトース及びグルコースに加水分解する。それらの濃度をヘキソキナーゼ/リン-グルコース異性化/グルコース6リン酸脱水素酵素(HK/PGI/G6PGH)系で分光光度計を使用して測定する。フルクタン加水分解後にフルクトースとグルコースとの合計濃度を再測定し、その後、2つの測定結果の差によってフルクタン含有量を決定する。K-FRUCアッセイでは、スクロース、マルトース、マルトデキストリン及び澱粉をフルクトース及びグルコースに加水分解し、それらを水素化ホウ素ナトリウムによって対応する糖アルコール(ソルビトール及びマンニトール)へとさらに還元する。フルクタン加水分解に由来するフルクトース及びグルコースを4-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(PAHBAH)と結合させて沸騰水槽内で発色させ、フルクタン含有量を計算するために分光光度計を使用してそれらの吸光度を読み取る。
【0200】
倍加半数体(DH)コムギ集団においてフルクタン含有量のスクリーニングを行うために、単純化された酵素的加水分解及びそれに続くHPLC分析が近年開発された(Huynh et al.,2008b)。数百~数千の系統を含む大きい育種集団におけるフルクタン含有量の正確で迅速な測定が必要とされている。しかしながら、禾穀類穀粒において用いられる現在のフルクタンアッセイはどれも効率が比較的低く、1日に作業者1人あたり約10個の試料を可能とし、各小麦粉試料を数グラムずつ必要とする。高処理量フルクタンアッセイを開発するために本発明者らは、実施例1で記載しているようにK-FRUCHK及びK-FRUCアッセイをプレート形式に縮小してこれを可能にした。
【0201】
アラビノキシランは、コムギ穀粒の細胞壁を含めた植物細胞壁にみられる別の多糖である。本発明の穀粒及び小麦粉におけるアラビノキシランのレベルは、対応する野生型穀粒及び小麦粉に比べて例えば重量基準で少なくとも1.5倍または少なくとも2倍増加している。レベルは1.5倍~3倍増加し得る。本明細書中で使用する場合、「アラビノキシラン」(AX)という用語は、1,4グリコシド結合によって繋がったβ-D-キシノピラノシル残基からなる直鎖状主鎖においてキシロピラノシル残基のうちのいくつかにO-2位、O-3位、及び/または両O-2,3位でα-L-アラビノフラノシル残基が付いているものを指す。キシロピラノシル残基は、O-2またはO-3において一置換であるもの、O-2,3において二置換であるもの、及び未置換であるもののうちのいずれか1つである。側枝は、アラビノース残基の他に、少量のキシロピラノース、ガラクトピラノース、α-D-グルクロン酸または4-O-メチル-α-D-グルクロン酸残基を含有し得る。禾穀類では、Ara/Xyl比は0.3から1.1まで変動し得る。外果皮、胚盤及び胚軸からのAXはアラビノースで比較的高度に置換されている一方、糊粉層または透明層のそれは置換が少ない。AXはさらに、キシロース残基のO-3に繋げられたアラビノース残基のO-5に対してエステル化されたヒドロケイ皮酸、フェルラ酸及びp-クマル酸を含み得る(Smith and Hartley,1983)。1,4-β-D-キシラン主鎖の生合成は、UDP-D-キシロースを基質として使用してキシロース単位をキシロオリゴ糖鎖の非還元末端へ移動させる、1,4-β-キシロシルトランスフェラーゼによって触媒される。
【0202】
禾穀類におけるAXの合成には、UDP-Xylを基質として使用するキシロトランスフェラーゼが関与し、複雑な四糖がプライマーとして関与し得る(Carpita et al.,2011)。アラビノキシランは、ごく僅かに水に可溶であり、それらの効率的抽出のためにアルカリ溶媒を必要とする。例えば、水酸化バリウムバリウムはAXを選択的に抽出することができる(Gruppen et al.,1992)。対照的に、水酸化ナトリウムはBG及びAXを両方とも抽出する。穀粒中のAXのレベルは通常、穀粒を全粒粉に粉砕してAXを例えば実施例1に記載の方法で検査することによって測定される。
【0203】
トウモロコシ、ライムギ及びコムギのAXを使用する試験は、盲腸発酵、SCFAの産生、血清コレステロールの低減、ならびに改善されたカルシウム及びマグネシウムの吸収に対して、肯定的効果を実証した(Hopkins et al.2003)。
【0204】
本明細書中で使用する場合、セルロースとは、主に植物の細胞壁にみられる、微小繊維を形成する約24~36本の(1-4)-β-D-グルカン鎖の結晶の並びを指す。それは、天然にみられる最も豊富なポリマーのうちの1つである。グルカン鎖は、原形質膜においてCesA遺伝子ファミリーのセルロース合成酵素によって形成され(Giddings et al.,1980)、その後、24~36本の鎖が集合して機能的な微小繊維になる。Arabidopsisは10個のCesA遺伝子を有し、そのうちの少なくとも3つは一次細胞壁形成中に共発現し、他の3つは二次細胞壁形成中に共発現し(Carpita et al.,2011)、それらの各々は、受容体グルカン鎖の非還元末端にグリコシル残基を追加してポリマーを伸長させる。CesA遺伝子は、他の多糖類の合成に関与する単子葉類及び双子葉類の両方のCsl遺伝子に関係している。例えば、禾穀類を含めたイネ科植物のみにみられるCslF及びCslH酵素はBGの合成に関与する。
【0205】
穀粒、食品原料、澱粉顆粒及び澱粉から作られる食品製品は、低下したグリセミック指数によって特徴付けられる。GIは、ヒト対象の食後の血中グルコースレベルに対する炭水化物に富む食品の影響についての単純なマーカーである。本明細書中で使用する場合、「グリセミック指数」または「GI」は、50gの炭水化物を含有する分量の試験食品を食べた後の血中グルコース濃度の曲線下面積を、等価な量のグルコースまたは白パンの中に存在する同量の炭水化物によって得られる増分面積で割ったものを意味する。したがって、GIは、澱粉を含む食品の消化及び消化生成物の取込みの速度に関係し、血中グルコース濃度の振れに対する試験食品の影響と白パンまたはグルコースの影響とを比較したものである。それにより、GIは食後の血清グルコース濃度に対する食品の影響の尺度となり、血中グルコース恒常性のためのインスリン要求量に関連付けられる。本発明の食品によって提供される1つの重要な特徴は、食品原料として同量の野生型コムギ、小麦粉、澱粉顆粒または澱粉で作った対応する食品に比べて低減されるGIである。さらに、本発明の食品は、食品原料として同じ量の野生型コムギを使用して作られた対応する食品に比べて最終消化のレベルが低減され得、結果として比較的低カロリーであり得る。低カロリー製品は、粉砕されたコムギ穀粒から生産された小麦粉を組み入れることに基づくものであってもよい。そのような食品は、満腹感をもたらし、腸健康を増進し、食後の血清グルコース及び脂質濃度を低減し、低カロリー食品製品を提供する、という効果を有し得る。
【0206】
本発明の澱粉または本発明の食品原料もしくは食品製品のGIは、本明細書の実施例9で記載されている試験管内アッセイを用いて容易に測定される。試験管内アッセイは、健常なヒトにおける摂取の際に起こる製品中の澱粉の消化を模擬しており、製品を摂取した後のヒト対象において測定されるGIを予測する。
【0207】
対象、特にヒトを処置する方法は、本明細書において定義される改変型コムギ穀粒、小麦粉、澱粉または食品もしくは飲料製品を対象に、腸健康または代謝指標のうちの1つ以上のレベルを向上させる単回以上の用量、量及び期間で投与するステップを含み得る。対応する非改変型コムギ澱粉もしくはコムギもしくはその製品の摂取と比べたときの指標の変化は、pH、SCFAのレベルの上昇、食後グルコースの高下などのいくつかの指標の場合のように24時間以内の期間内で起こり得、あるいは当該変化には、糞塊の増加もしくは便通の改善の場合のように数日を要し得、または酪酸塩による正常結腸細胞の増殖強化を測定する場合のようにおそらくより長い数週間もしくは数ヶ月程度を要し得る。改変型の澱粉または小麦または小麦製品の投与は生涯にわたって行われることが望ましい場合がある。しかしながら、改変型澱粉が比較的簡単に投与されることができるのであれば、処置されている個体による良好な服薬順守が見込まれる。
【0208】
投薬量は、処置または防止される症状によって様々であり得るが、ヒトに対して1日あたり本発明のコムギ穀粒または澱粉が少なくとも10g、より好ましくは1日あたり少なくとも15g、好ましくは1日あたり少なくとも20gまたは少なくとも30gであると予測される。1日あたり約100グラムより多い投与には、相当な量を供給する必要があり得、服薬順守を減じ得る。最も好ましくは、ヒトのための投薬量は、本発明のコムギ穀粒または本発明の小麦粉、全粒粉もしくは改変型澱粉を1日あたり10~100gであり、または成人に対して1日あたり20~100gである。
【0209】
改善された腸健康の指標は、
i)腸内容物のpHの低下、
ii)腸内容物の総SCFA濃度または総SCFA量の増加、
iii)腸内容物における1つ以上のSCFAの濃度または量の増加、
iv)糞塊の増加、
v)下痢を伴わない、腸または糞便の総水分量の増加、
vi)便通の改善、
vii)プロバイオティック細菌のうちの1つ以上の種の数または活性の増加、
viii)糞便中の胆汁酸排泄の増加、
ix)尿中の腐敗生成物のレベルの低下、
x)糞便中の腐敗生成物のレベルの低下、
xi)正常結腸細胞の増殖の増進、
xii)腸に炎症を起こしているかまたは腸に炎症を起こしがちである個体の腸における炎症の減少、
xiii)尿毒症患者における糞便中または大腸内の尿素、クレアチニン及びリン酸塩のいずれか1つのレベルの低下、及び
xiv)上記の任意の組み合わせ
を含み得るが、必ずしもそれらに限定されるわけではない。
【0210】
改善された代謝健康の指標は、
i)食後グルコースの高下の安定化、
ii)血糖応答の改善(減弱)、
iii)食後の血漿インスリン濃度の減少、
iv)血中脂質プロファイルの改善、
v)血漿LDLコレステロールの低下、
vi)尿毒症患者における血漿中の尿素、クレアチニン及びリン酸塩のうちの1つ以上のレベルの低下、
vii)血糖応答不全の改善、または
viii)上記の任意の組み合わせ
を含み得るが、必ずしもそれらに限定されるわけではない。
【0211】
腸内容物のpHは、少なくとも0.1単位、好ましくは少なくとも0.15または0.2単位だけ減少し得る。その他の腸健康または代謝健康の指標は、それぞれ少なくとも10%、好ましくは20%改善され得る。
【0212】
本発明の1つの利点は、それが際立った栄養上の利益のあるパンなどの食品を提供し、さらにそれが澱粉またはコムギ穀粒のその他の構成要素の収穫後の改変を必要とせずになされることである、ということは理解されよう。しかしながら、澱粉または穀粒の他の構成要素を改変することが望まれる場合があり、本発明はそのような改変された構成要素を包含する。改変の方法はよく知られており、従来の方法による澱粉または他の構成要素の抽出、及び耐性形態を増加させるような澱粉の改変を含む。澱粉は、熱及び/または水分による処理、物理的処理(例えばボールミル処理)、酵素的処理(例えばα-またはβ-アミラーゼ、プルラナーゼなどの使用)、化学加水分解(液体または気体試薬を使用する湿式または乾式)、酸化、二官能性試薬(例えば、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン)による架橋、またはカルボキシメチル化によって改変され得る。
【0213】
本発明はヒトの処置または予防に特に有用であり得るが、本発明を、ウシ、ヒツジ、ブタなどの農業用動物、イヌもしくはネコなどの家庭用動物、ウサギもしくは齧歯類、例えばマウス、ラット、ハムスターなどの実験用動物、またはウマなどの競技のために使用され得る動物を含むがそれらに限定されない非ヒト対象に適用することもできることは理解されるべきである。方法は特に、反芻しない哺乳動物、または単胃哺乳動物などの動物に対して適用可能であり得る。本発明は、他の農業用動物、例えば、ニワトリ、ガチョウ、アヒル、シチメンチョウもしくはウズラを含めた家禽、または魚に対しても適用可能であり得る。
【0214】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では概して互換可能に使用される。本明細書中で使用する「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語はまた、本明細書に記載の本発明のポリペプチドの変異型、突然変異体、改変物及び/または誘導体も含む。本明細書中で使用する場合、「実質的に精製されたポリペプチド」は、脂質、核酸、他のペプチド及び天然状態で関連のある他の分子から分離されているポリペプチドを指す。好ましくは、実質的に精製されたポリペプチドは、それに天然に関連付いている他の成分が少なくとも60%除去されており、より好ましくは少なくとも75%除去されており、より好ましくは少なくとも90%除去されている。「組換えポリペプチド」とは、組換え技術を用いて作られた、つまり、組換えポリヌクレオチドの細胞、好ましくは植物細胞、より好ましくはコムギ細胞における発現によって作られた、ポリペプチドを意味する。一実施形態では、ポリペプチドは、澱粉合成酵素の酵素活性、特にSSIIa活性を有し、本明細書に記載のSSIIaポリペプチドと少なくとも98%同一である。
【0215】
基準ポリペプチドと比較したときのポリペプチドの同一性%は、アミノ酸配列のアラインメントを行うための当技術分野で知られている任意のプログラムによって、例えば、ギャップ作成ペナルティ=5及びギャップ伸長ペナルティ=0.3でGAPプログラム(Needleman and Wunsch,1970,GCG program)によって、決定することができる。解析は、2つの配列を基準配列の完全長アミノ酸配列にわたって整列させる。例えば、基準配列が配列番号1に示すアミノ酸配列である場合、アラインメントは配列番号1の全長に沿って行われる。整列した配列の中のギャップは、欠けている各アミノ酸の非同一性の位置であるとみなされる。
【0216】
定義したポリペプチドに関して、同一性%数値が上記よりも高いことが、好ましい実施形態を包含する、ということは理解されよう。したがって、適用可能な場合、最低限の同一性%数値を考慮すればポリペプチドは、関係して指定された配列番号と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、よりいっそう好ましくは少なくとも99.9%同一であるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0217】
アミノ酸配列の欠失または挿入は大抵、約1~15残基、より好ましくは約1~10残基、典型的には約1~5連続残基に及ぶ。しかしながら、それらはポリペプチドの全長以下で15アミノ酸よりも広くてもよい。ポリペプチド配列は、対応する野生型配列または基準配列番号に比べて切り詰められていてもよい。例えば、ポリペプチドをコードするタンパク質コード領域が未成熟翻訳停止コドン(終止コドン)を有する場合、結果として生じるポリペプチドは、翻訳された場合、切り詰められているであろう。切り詰められる程度は、終止コドンの位置に依存し、野生型配列に比べてポリペプチドを少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%短くする。
【0218】
本発明の遺伝子のタンパク質コード領域は、スプライシング異常を招くスプライス部位突然変異の存在によって分断され得、オープンリーディングフレームが分断されるような改変されたRNA転写産物をもたらし得る。その場合、ポリペプチドのアミノ酸配列はスプライシング異常の地点まで、またはその地点よりも下流では、野生型と同一であり得、その後に野生型との違いがある。このようなポリペプチドの活性は大抵、切り詰められたポリペプチドと同様の影響を受けている。SSIIa遺伝子における終止コドン及びスプライス部位突然変異の例は本明細書の実施例11に記載されている。
【0219】
置換突然変異体は、ポリペプチド中の少なくとも1つのアミノ酸残基が取り除かれてその位置に異なる残基が挿入されている。ポリペプチドの活性の低減のための置換変異誘発の最大関心対象の部位は、活性部位(複数可)として同定される部位を含む。他の関心対象部位は、様々な系統または種から得られる特定残基が同一となる、つまり保存アミノ酸となる部位である。これらの位置は、生物学的活性にとって重要とである可能性がある。これらのアミノ酸、特に、同じく保存されている他の少なくとも3つのアミノ酸の連続配列の中にあるものは、SSIIa酵素活性などの機能を保持するためには比較的保存的な方法で置換されることが好ましく、または活性低減のためには非保存的な方法で置換されることが好ましい。保存的置換は表3中の「例示的な置換」の見出しの下に示されている。「非保存的アミノ酸置換」は、本明細書において、表3に列挙されているもの以外の置換として定義される(例示的な保存的置換)。SSIIaポリペプチドにおける非保存的置換は酵素の活性を低下させると予想され、多くは「部分的機能喪失突然変異SSIIa遺伝子」によってコードされるSSIIaに対応するであろう。
【表2】
【表3a】
【表3b】
【0220】
いくつかの実施形態では、本発明は、遺伝子活性、特にSSIIa遺伝子活性の改変、突然変異遺伝子の組み合わせ、ならびにキメラ遺伝子の構築及び使用を含む。本明細書中で使用する場合、「遺伝子」という用語は、タンパク質コード領域を含む、または細胞内で転写されるが翻訳されない、任意のデオキシリボヌクレオチド配列を含み、これに加えて、関連する非コード領域及び調節領域も含む。「遺伝子」という用語は、野生型遺伝子の突然変異形態も含み、この突然変異遺伝子は、プロモーター領域が欠失している場合には転写及び/または翻訳されないものであり得る。関連する非コード領域及び調節領域は、典型的にはタンパク質コード領域の5’末端と3’末端との両方に隣接して約2kbの距離にわたって両側に位置している。これに関して遺伝子は、所与の遺伝子に天然に関連付いている制御シグナル、例えば、プロモーター、エンハンサー、転写停止及び/またはポリアデニル化シグナル、あるいは異種制御シグナル(この場合、遺伝子は「キメラ遺伝子」と呼ばれる)を含む。タンパク質コード領域の5’に位置する、mRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列(5’-UTR)と呼ばれる。タンパク質コード領域の3’すなわち下流に位置する、mRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列(3’-UTR)と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、cDNAと、遺伝子のゲノム形態とを両方とも包含する。「cDNA」は、遺伝子のRNA転写産物のDNAコピーであり、本明細書中では「遺伝子に対応している」と表現される。例えば、配列番号4として示されるcDNAヌクレオチド配列は、配列番号7として野生型配列が示されているSSIIa-A遺伝子に対応している。「遺伝子」という用語は、本明細書に記載の本発明のタンパク質をコードする合成または融合分子を含む。遺伝子は普通、コムギゲノム中に二本鎖DNAとして存在する。キメラ遺伝子を、細胞内での染色体外維持または宿主ゲノム中への組込みに適したベクターに導入してもよい。本明細書中で使用する場合、遺伝子または遺伝子型を斜字体(例えばSSIIa(斜字体))で言及する一方、タンパク質、酵素または表現型を非斜字体(SSIIa)で言及する。
【0221】
本明細書中で使用する場合、「遺伝子型」という用語は、コムギ細胞、組織、植物、植物部分または植物産物の遺伝的構成を指す。遺伝的構成は、製品を与えるコムギ植物の遺伝的構成と同一であろう。本明細書中で使用する場合、「表現型」という用語は、植物の遺伝子型と植物が生育した環境との相互作用によって生じる、細胞、組織、植物、植物部分または植物製品の観察可能な1つの特質、または複数の特質の組を指す。
【0222】
コード領域を含有する遺伝子のゲノム形態またはクローンに、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される非コード配列が割り込んでいることがある。本明細書中で使用される「イントロン」とは、一次RNA転写産物の一部として転写されるが成熟mRNA分子には存在していない遺伝子のセグメントのことである。イントロンは核転写産物または一次転写産物から除去または「切り出し」され、よってイントロンは伝令RNA(mRNA)に存在していない。イントロンは、調節エレメント、例えばエンハンサーを含有し得る。本明細書中で使用される「エクソン」とは、成熟mRNAまたは(RNA分子が翻訳されない場合の)成熟RNA分子に存在しているRNA配列に対応するDNA領域を指す。mRNAは、翻訳中に、コードされているポリペプチドのアミノ酸の配列すなわち順序を指定するように機能する。
【0223】
本発明は様々なポリヌクレオチドに関する。本明細書中で使用する場合、「ポリヌクレオチド」または「核酸」または「核酸分子」は、DNAまたはRNAであり得るヌクレオチドのポリマーを意味し、例えば、cDNA、mRNA、tRNA、siRNA、shRNA、hpRNA、及び一本鎖DNAまたは二本鎖DNAを含む。それは、細胞、ゲノムまたは合成を起源とするDNAまたはRNAであり得る。好ましくは、ポリヌクレオチドは専ら細胞内で生じる場合のDNAまたはRNAである。ポリマーは、一本鎖、本質的には二本鎖、または部分的に二本鎖であり得る。部分的二本鎖RNA分子の例は、ヌクレオチド配列とその相補体との塩基対合によって形成される二本鎖ステムと、ヌクレオチド配列とその相補体とを共有結合的に繋ぎ合わせるループ配列とを含んでいる、ヘアピンRNA(hpRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)または自己相補的RNAである。塩基対合とは、本明細書中で使用される場合、RNA分子におけるG:U塩基対合を含めたヌクレオチド間の標準的な塩基対合を指す。「相補的」とは、2つのポリヌクレオチドがそれらの長さに沿って、または片方もしくは両方(完全に相補的)の全長に沿って塩基対合できることを意味する。
【0224】
「単離された」とは、天然状態において通常付随する成分が実質的または本質的に除去されている材料を意味する。本明細書中で使用する場合、「単離されたポリヌクレオチド」または「単離された核酸分子」は、天然状態において関連しているまたは繋がっている同じ種類のポリヌクレオチド配列から少なくとも部分的に分離された、好ましくは当該配列を実質的または本質的に含まない、ポリヌクレオチドを意味する。例えば、「単離されたポリヌクレオチド」は、天然に存在する状態においてそれに隣接している配列が除去された、またはそこから切り離されたポリヌクレオチド、例えば、通常隣接している配列が除去されたDNA断片を含む。好ましくは、単離されたポリヌクレオチドは、他成分、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質などが少なくとも90%除去されている。「組換えポリヌクレオチド」という用語は、本明細書中で使用される場合、核酸を操作して天然に通常みられない形態にすることによって試験管内で形成されたポリヌクレオチドを指す。例えば、組換えポリヌクレオチドは発現ベクターの形態であってもよい。一般に、そのような発現ベクターは、細胞内で転写されることになるヌクレオチド配列に機能可能に連結された、転写及び翻訳を調節する核酸を含む。
【0225】
本発明は、「プローブ」または「プライマー」として使用され得るオリゴヌクレオチドの用途に関する。本明細書中で使用する場合、「オリゴヌクレオチド」は、長さ50ヌクレオチド以下、好ましくは長さ15~50ヌクレオチドのポリヌクレオチドである。それらはRNA、DNA、またはどちらかの組み合わせもしくは誘導体であり得る。オリゴヌクレオチドは、典型的には、長さが10~30ヌクレオチド、一般的には15~25ヌクレオチドである比較的短い一本鎖分子であり、典型的には、SSIIa遺伝子またはSSIIa遺伝子に対応するcDNAと同一の、または相補的な、10~30または15~25ヌクレオチドから構成される。プローブとして、または増幅反応のプライマーとして使用される場合におけるそのようなオリゴヌクレオチドの最小の大きさは、オリゴヌクレオチドと標的核酸分子上の相補的配列との安定なハイブリッドの形成に必要とされる大きさである。プローブとして使用するポリヌクレオチドには、放射性同位体、酵素、ビオチン、蛍光分子または化学発光分子などの検出可能なラベルを結合させるのが典型的である。本発明のオリゴヌクレオチド及びプローブは、SSIIa遺伝子または、関心対象の形質、例えば改変型澱粉に関連のあるその他の遺伝子の、対立遺伝子を検出する方法において有用である。そのような方法は、核酸ハイブリダイゼーションを採用するものであり、多くの場合、例えば野生型または突然変異体の対立遺伝子の検出または同定のためのPCRにおいて使用するような適切なポリメラーゼによるオリゴヌクレオチドプライマー伸長を含む。好ましいオリゴヌクレオチド及びプローブは、本明細書において開示されるいずれかの配列、例えば配列番号15~49を含めた、コムギまたはその他の禾穀類からのSSIIa遺伝子配列とハイブリダイズする。好ましいオリゴヌクレオチド対は、1つ以上のイントロンまたはイントロンの一部にまたがる対であり、したがって、PCR反応でイントロン配列を増幅するために使用することができる。数々の例が本明細書の実施例で提供されている。
【0226】
「ポリヌクレオチド変異型」及び「変異型」のような用語は、基準ポリヌクレオチドとの実質的な配列同一性を呈し、基準配列と類似した機能またはそれと同じ活性での機能をすることができる、ポリヌクレオチドを指す。これらの用語はさらに、少なくとも1つのヌクレオチドの追加、欠失もしくは置換によって基準ポリヌクレオチドから区別される、または天然に存在する分子に比べて1つ以上の突然変異を有する、ポリヌクレオチドも包含する。したがって、「ポリヌクレオチド変異型」及び「変異型」という用語は、1つ以上のヌクレオチドが追加もしくは欠失された、または異なるヌクレオチドで置換された、ポリヌクレオチドを含む。これに関して、基準ポリヌクレオチドの生物学的機能または活性を保持する特定の改変、例えば、突然変異、追加、欠失及び置換を基準ポリヌクレオチドに対して行うことができることは当技術分野において十分に理解されている。したがって、これらの用語は、酵素活性もしくは他の調節活性を呈するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または選択的プローブもしくは他のハイブリダイゼーション剤として働くことができるポリヌクレオチドを包含する。「ポリヌクレオチド変異型」及び「変異型」という用語は、天然に存在する対立遺伝子変異型も含む。突然変異体は、天然に存在するもの(すなわち、天然源から単離されたもの)であるか、合成のもの(例えば、核酸に対して部位特異的変異導入を行うことによるもの)であるかのどちらかであり得る。好ましくは、酵素活性を有するポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチド変異型の長さは、野生型に対して少なくとも90%であり、遺伝子の全長以下である。
【0227】
本発明のオリゴヌクレオチドの変異型は、本明細書において定義される特定オリゴヌクレオチド分子の位置に近い位置で例えばコムギゲノムとハイブリダイズすることができる様々な大きさの分子を含む。例えば、変異型は、標的領域とのハイブリダイゼーションが依然として可能である限り、(例えば、1つ、2つ、3つまたは4つ以上の)追加ヌクレオチドを含んでいてもよいし、またはより少ないヌクレオチドを含んでいてもよい。さらに、標的領域とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの能力に影響を与えることなく少数のヌクレオチドが置換されていてもよい。加えて、本明細書において定義される特定オリゴヌクレオチドとハイブリダイズする植物ゲノム領域から近い所(例えば、限定されないが、50ヌクレオチド以内)でハイブリダイズする変異型が容易に設計され得る。
【0228】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに関して、「に対応する」または「に対応している」とは、(a)基準ポリヌクレオチドの少なくとも一部、好ましくはその全部(完全に相補的)と実質的に同一もしくは相補的であるヌクレオチド配列を有する、または(b)ポリペプチドのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列をコードする、ポリヌクレオチドを意味する。この語句は、基準ポリペプチドのアミノ酸の配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドも、その範囲に含む。2つ以上のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列関係性を表現するために使用される用語としては、例えば、「基準配列」、「配列同一性」、「配列同一性の百分率」、「実質的な同一性」及び「同一である」が挙げられ、当該用語は、指定される最小数のヌクレオチドもしくはアミノ酸残基に関して、または好ましくは全長に対して、定義される。「配列同一性」及び「同一性」という用語は、ヌクレオチドごとの基準またはアミノ酸ごとの基準で配列が比較窓全体にわたって同一である程度を指して本明細書中で交換可能に使用される。したがって、「配列同一性の百分率」は、比較窓全体にわたって最適にアラインメントされた2つの配列を比較し、両配列において同一である核酸塩基(例えば、A、T、C、G、U)または同一であるアミノ酸残基が現れる場所の数を決定して一致位置の数を得、一致位置の数を比較窓内の位置の総数(すなわち窓サイズ)で割り、その結果に100を掛けて配列同一性の百分率を得ることによって、算出される。
【0229】
基準ポリヌクレオチドに対するポリヌクレオチドの同一性%は、この目的のために当技術分野で知られている任意のプログラム、例えば、ギャップ作成ペナルティ=5及びギャップ伸長ペナルティ=0.3でGAP(Needleman and Wunsch,1970,GCG program)などによって決定することができる。また、例えばAltschul et al.,1997によって開示されているような、BLASTファミリーのプログラムを参照してもよい。配列解析の詳しい記述は、Unit 19.3 of Ausubel et al.,1994-1998,Chapter 15に見出すことができる。特に定めのない限り、アラインメントは基準配列の全長に沿って行われる。
【0230】
ヌクレオチドまたはアミノ酸配列は、そのような配列の配列同一性が少なくとも98%、より詳しくは少なくとも約98.5%、極めて詳しくは約99%、特に約99.5%、より具体的には約99.8%である場合に「本質的に類似している」として示され、これには配列が同一である場合を含む。RNA配列がDNA配列と本質的に類似している、またはそれとのある度合いの配列同一性を有すると表現される場合に、DNA配列中のチミン(T)がRNA配列中のウラシル(U)と等しいとみなされることは明らかである。
【0231】
定義されたポリヌクレオチドに関して、同一性%数値が高いほど、好ましい実施形態が包含されるであろうということは理解されよう。したがって、適用可能な場合、最低限の同一性%数値を考慮すればポリヌクレオチドは、関係して指定された配列番号と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、より好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも94%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.1%、より好ましくは少なくとも99.2%、より好ましくは少なくとも99.3%、より好ましくは少なくとも99.4%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、よりいっそう好ましくは少なくとも99.9%同一であるポリヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0232】
いくつかの実施形態では、本発明は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに言及して2つのポリヌクレオチドの相補性の程度を定義する。本明細書中で使用される「ストリンジェンシー」とは、ハイブリダイゼーション中での温度及びイオン強度条件ならびに特定有機溶媒の有無を指す。ストリンジェンシーが高い程、標的ヌクレオチド配列と標識されたポリヌクレオチド配列との相補性の度合いが高い。「ストリンジェントな条件」は、高頻度の相補的塩基を有するヌクレオチド配列のみがハイブリダイズする温度及びイオン条件を指す。本明細書中で使用する場合、「低ストリンジェンシー、中ストリンジェンシー、高ストリンジェンシーまたは非常に高いストリンジェンシー条件の下でハイブリダイズする」という用語は、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件を表現する。ハイブリダイゼーション反応を実施するための手引きは、参照により本明細書に援用するCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1-6.3.6に見出すことができる。本明細書において言及される具体的なハイブリダイゼーション条件は以下のとおりである:1)約45℃で6Xの塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)の低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件とその後に続く50~55℃で0.2XのSSC、0.1%のSDSでの2回の洗浄;2)約45℃で6XのSSCの中ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件とその後に続く60℃で0.2XのSSC、0.1%のSDSでの1回以上の洗浄;3)約45℃で6XのSSCの高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件とその後に続く65℃で0.2XのSSC、0.1%のSDSでの1回以上の洗浄;ならびに4)非常に高いストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は65℃で0.5Mのリン酸ナトリウム、7%のSDSであり、その後に65℃で0.2XのSSC、1%のSDSでの1回以上の洗浄が続く。
【0233】
本明細書中で使用する場合、「キメラ遺伝子」または「遺伝子構築物」は、天然の場所にある天然の遺伝子ではない任意の遺伝子を指し、つまりそれは人為的に操作されたものであり、コムギゲノム中に組み込まれるキメラ遺伝子または遺伝子構築物を含む。キメラ遺伝子または遺伝子構築物は、天然において一緒に見つかることのない調節配列と転写配列すなわちタンパク質コード配列とを含むのが典型的である。したがって、キメラ遺伝子または遺伝子構築物は、異なる供給源に由来する調節配列及びコード配列、または同じ供給源に由来するが配置され方が天然にみられるそれとは異なっている調節配列及びコード配列を含み得る。「内在性」という用語は、本明細書では、改変されていない植物において研究下の植物、好ましくはコムギ植物と同じ発達段階で通常産生する物質、例えば澱粉またはSSIIaポリペプチドのSSIIa遺伝子を指して使用される。「内在性遺伝子」とは、生物のゲノム中の天然の場所にある天然の遺伝子、好ましくはコムギ植物のSSIIa遺伝子を指す。「外来ポリヌクレオチド」または「外因性ポリヌクレオチド」または「異種ポリヌクレオチド」などの用語は、細胞のゲノム、好ましくはコムギゲノムに実験操作によって導入されるが細胞内に天然には存在していない、任意の核酸を指す。これらは、天然に存在する遺伝子に比べて導入された遺伝子がいくらかの改変、例えば導入された突然変異または選抜マーカー遺伝子の存在を含んでいる限りにおいて、その細胞内にみられる遺伝子配列の改変形態を含む。外来または外因性遺伝子は、非天然の生物の中に挿入されている天然にみられる遺伝子、天然宿主内の新たな場所に導入された天然遺伝子、またはキメラ遺伝子もしくは遺伝子構築物であり得る。「遺伝的に改変された」という用語は、細胞に遺伝子を導入すること、細胞内の遺伝子を突然変異させること、及びゲノムの改変によって細胞内の遺伝子の調節を人為的に変更もしくは調整すること、またはこれらの行為がなされた生物もしくはその子孫もしくは穀粒などの部分を含む。
【0234】
本発明は、機能可能に連結されているかまたは繋げられている要素に関する。「機能可能に連結された」または「機能可能に繋げられた」などは、機能的関係性のあるポリヌクレオチド要素の繋がりを指す。典型的には、機能可能に連結された核酸配列は、連続的に繋がっており、2つのタンパク質コード領域を継ぎ合わせる必要がある場合には連続しておりかつリーディングフレーム内にある。コード配列は、RNAポリメラーゼが2つのコード領域を単一のRNAとして転写することになる場合には別のコード領域に「機能的に連結されている」ことになり、それは、翻訳された場合には両コード配列に由来するアミノ酸を有する単一ポリペプチドとして翻訳される。コード配列は、発現する配列が最終的に所望のタンパク質を産生するようにプロセシングされる限りにおいて、互いに連続している必要はない。
【0235】
本明細書中で使用する場合、「シス作用性配列」、「シス作用性エレメント」または「シス制御領域」または「調節領域」という用語、または類似する用語は、遺伝子配列の発現を調節するヌクレオチドの任意の配列を意味するものとして解釈されるべきである。これは、例えばコムギSSIIa遺伝子を調節する、天然の関連において天然に存在するシス作用性配列であってもよく、または、発現可能な遺伝子配列に対して適切に配置されている場合に発現を調節する遺伝子構築物中の配列であってもよい。そのようなシス調節領域は、転写レベルまたは転写後レベルでの遺伝子配列の発現のレベル及び/または細胞種特異性及び/または発達上の特異性を活性化、サイレンシング、強化、抑制あるいは変更することができ得る。例えば、遺伝子の5’リーダー(UTR)におけるイントロンの存在は、コムギなどの単子葉植物において遺伝子の発現を強化することが示されている(Tanaka et al.,1990)。別のタイプのシス作用性配列は、活性クロマチンドメインを核マトリックスに係留することによって遺伝子発現に影響を与え得るマトリックス接着領域(MAR)である。
【0236】
「ベクター」とは、核酸配列が中に挿入され得る核酸分子、好ましくは、プラスミドまたは植物ウイルスに由来するDNA分子を意味する。ベクターはさらに、細菌もしくは植物の適切な形質転換体を選抜するために使用することができる抗生物質耐性遺伝子などの選抜マーカー、または 原核生物もしくは真核生物(とくにコムギ)の細胞の形質転換を強化する配列、例えば、T-DNAもしくはP-DNA配列を含み得る。そのような耐性遺伝子及び配列の例は当業者によく知られている。
【0237】
「マーカー遺伝子」とは、マーカー遺伝子を発現する細胞に他とは異なる表現型を付与する、したがってそのような形質転換細胞とマーカーを有さず当技術分野でよく知られている細胞との区別を可能にする、遺伝子を意味する。「選抜マーカー遺伝子」は、選択剤(例えば、除草剤、抗生物質、放射線、熱もしくは未形質転換細胞を損傷させるその他の処理)に対する耐性に基づいて、または代謝可能な物質の存在下での成長の有利さに基づいて「選抜」されることができる形質を与える。植物形質転換体の選抜のための選抜マーカー遺伝子の例としては、限定されないが、ヒグロマイシンB耐性を与えるhyg遺伝子;例えばPotrykus et al.,1985によって記載されているような、カナマイシンなどに対する耐性を与えるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(npt)遺伝子;例えばEP-A-256223に記載されているような、グルタチオン由来の除草剤に対する耐性を与えるラット肝臓からのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ遺伝子;例えばWO87/05327で記載されているような、過剰発現時にホスフィノスリシンなどのグルタミン合成酵素阻害剤に対する耐性を与えるグルタミン合成酵素遺伝子;例えばEP-A-275957で記載されているような、選抜剤ホスフィノスリシンに対する耐性を与えるStreptomyces viridochromogenesからのアセチルトランスフェラーゼ遺伝子;例えばHinchee et al.,1988によって記載されているような、N-ホスホノメチルグリシンに対する耐性を与える5-エノールシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSPS);例えばWO91/02071で記載されているような、ビアラホスに対する耐性を与えるbar遺伝子;または、ブロモキシニルに対する耐性を与えるニトリラーゼ遺伝子、例えばKlebsiella ozaenaeからのbxn(Stalker et al.,1988)が挙げられる。スクリーニング可能な好ましいマーカーとしては、限定されないが例えば、様々な発色性基質に対するものであることが知られているβ-グルクロニダーゼ(GUS)酵素をコードするuidA遺伝子、発色性基質に対するものであることが知られている酵素をコードするβ-ガラクトシダーゼ遺伝子、カルシウム感受性生物発光検出において採用され得るものであるイクオリン遺伝子(Prasher et al.,1985)、緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP、Niedz et al.,1995)またはその変異型のうちの1つ、生物発光検出を可能にするものであるルシフェラーゼ(luc)遺伝子(Ow et al.,1986)、及びその他の当技術分野で知られているものが挙げられる。
【0238】
いくつかの実施形態では、酵素活性のレベルは、コムギ植物において酵素をコードする遺伝子の発現のレベルを低下させること、またはコムギ植物において酵素をコードするヌクレオチド配列の発現のレベルを上昇させることによって調整される。発現の増加は、強度の異なるプロモーターまたは、コード配列から発現する転写産物のレベルを制御することができるものである誘導性プロモーターを使用することによって転写レベルで達成ことができる。SSIIaなどの澱粉合成を下方制御する産物をもたらす遺伝子の発現を調整または強化する転写因子をコードする異種配列を導入してもよい。遺伝子の発現のレベルは、コード配列と、それに機能可能に連結されており細胞内で機能的である転写制御エレメントとを含む構築物の、細胞1個あたりのコピー数を変化させることによって調整され得る。あるいは、複数の形質転換体を選出して、導入遺伝子組込み部位の近傍にある内在性配列の影響に起因する導入遺伝子発現の好適なレベル及び/または特異性を有するものをスクリーニングしてもよい。導入遺伝子発現の好適なレベル及びパターンとは、コムギ植物においてアミロース含有量のかなりの増加をもたらす当該レベル及びパターンのことである。これは単純に、形質転換体を試験することによって検出され得る。
【0239】
遺伝子発現の低減は、コムギ植物に導入された「遺伝子サイレンシングキメラ遺伝子」の導入及び転写によっても達成され得る。遺伝子サイレンシングキメラ遺伝子は、好ましくは、コムギゲノム中、好ましくはコムギ核ゲノム中に安定的に導入され、結果としてそれは子孫に安定的に受け継がれる。本明細書中で使用する場合、「遺伝子サイレンシング効果」とは、植物が生育している間の種子発達中でのコムギ細胞、好ましくは胚乳細胞における標的核酸の発現の低減を指し、それは、サイレンシングRNAの導入によって達成することができる。好ましい実施形態では、1つ以上の内在性遺伝子、例えばSSIIa遺伝子以外の遺伝子、または好ましくは3つの内在性SSIIa遺伝子の発現を低減するRNA分子をコードする遺伝子サイレンシングキメラ遺伝子を導入する。そのような低減は、クロマチン再構成を経るプロモーター領域のメチル化による場合を含めた転写の低減、またはRNA分解を経る場合を含めたRNA分子の転写後修飾、またはそれらの両方の結果であり得る。遺伝子サイレンシングは、必ずしも標的核酸または遺伝子の発現の無効化として解釈されるべきではない。サイレンシングRNAの存在下での標的核酸の発現レベルがその非存在下での発現レベルよりも低いことで十分である。標的遺伝子の発現のレベルは、少なくとも約40%または少なくとも約45%または少なくとも約50%または少なくとも約55%または少なくとも約60%または少なくとも約65%または少なくとも約70%または少なくとも約75%または少なくとも約80%または少なくとも約85%または少なくとも約90%または少なくとも約95%だけ低減され得、または検出不可能なレベルにまで効果的に無効化され得る。
【0240】
アンチセンス技術を用いてコムギ細胞での遺伝子発現を低減してもよい。「アンチセンスRNA」という用語は、特定mRNA分子の少なくとも一部に対して相補的であり、mRNAをコードする遺伝子、好ましくはSSIIa遺伝子の発現を低減することができる、RNA分子を意味するものと解釈されるべきである。そのような低減は、配列依存的に起こることが典型的であり、核から原形質へのmRNA輸送、mRNA安定性、または翻訳阻害などの転写後事象に干渉することによって起こると考えられる。アンチセンス法の使用は当技術分野でよく知られている(例えば、Hartmann and Endres,1999を参照のこと)。
【0241】
本明細書中で使用する場合、「人為的に導入されたdsRNA分子」とは、好ましくはそのようなdsRNA分子をコードするキメラ遺伝子からの転写によってコムギ細胞内で合成される、二本鎖RNA(dsRNA)分子の導入を指す。RNA干渉(RNAi)は、コムギにおいても、遺伝子の発現を特異的に低減するためまたは特定タンパク質の産生を阻害するために特に有用である(例えば、Regina et al.,2006を参照のこと)。この技術は、関心対象の遺伝子のmRNAまたはその一部と本質的に同一である配列を含有するdsRNA分子と、その相補体とが存在してそれによってdsRNAを形成することに依拠する。簡便には、dsRNAは、宿主細胞内で単一のプロモーターから生じさせることができ、そこでセンス配列とアンチセンス配列とが転写されて、センス配列とアンチセンス配列とがハイブリダイズしてdsRNA領域を形成するとともに(SSIIa遺伝子との)関連のある配列または関連のない配列がループ構造を形成したヘアピンRNAを生成し、そうしてヘアピンRNAはステム・ループ構造を含む。本発明のための適切なdsRNA分子の設計及び製造は、特にWaterhouse et al.,1998、Smith et al.,2000、WO99/32619、WO99/53050、WO99/49029及びWO01/34815を考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0242】
dsRNAをコードするDNAは、典型的には、逆位反復配列として配置されたセンス配列とアンチセンス配列との両方を含む。好ましい実施形態では、センス及びアンチセンス配列は、RNAに転写されるときに切り出されるものであるイントロンを含む(または含まない)ことがあるスペーサー領域によって隔てられている。この配置は、遺伝子サイレンシングの効率をより高くすることが示された(Smith et al.,2000)。二本鎖領域は、1つあるいは2つのDNA領域から転写された1つまたは2つのRNA分子を含み得る。dsRNAは、概して相補的であり得るが完全に相補的である必要はない長いセンス及びアンチセンス領域を有する長いhpRNAとして分類され得る(典型的には約200bpより広い、例えば200~1000bp)。また、hpRNAは、約30~約42bpに及ぶ大きさの二本鎖部分を有するものの、94bpを大幅に超える長さでない、いくぶん小さいものであり得る(WO04/073390を参照のこと)。二本鎖RNA領域の存在は、二本鎖RNAだけでなく標的植物遺伝子(複数可)からの相同RNA転写産物も破壊する内在植物系からの応答を誘発すると考えられ、結果として標的遺伝子の活性を効率的に低減または除去する。
【0243】
ハイブリダイズするセンス及びアンチセンス配列の長さは各々、少なくとも19または少なくとも21連続ヌクレオチド、好ましくは少なくとも30または50ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも100、200、500または1000ヌクレオチドであるべきである。遺伝子転写産物全体に対応する完全長配列を使用してもよい。長さは100~2000ヌクレオチドであることが最も好ましい。標的転写産物とセンス及びアンチセンス配列との同一性の度合いは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは95~100%であるべきである。配列が長いほど、全体としての配列同一性の必要条件のストリンジェンシーは緩くなる。RNA分子は、当然ながら、分子を安定化させるように機能し得る非関連配列を含み得る。dsRNA形成性構築物を発現させるのに使用するプロモーターは、標的遺伝子を発現する細胞内で発現されるいかなる類のプロモーターであってもよく、好ましくは、コムギ植物の非穀粒組織に比べて発達中のコムギ穀粒の胚乳中で優先的に発現されるプロモーターであり得る。標的遺伝子が、胚乳中で選択的に発現するSSIIaまたはその他の遺伝子である場合、他の組織における標的遺伝子(複数可)の発現に影響を与えないように、葉または茎組織で発現しない胚乳特異的プロモーターであることが好ましい。
【0244】
本明細書中で使用する場合、「サイレンシングRNA」とは、標的遺伝子、好ましくはSSIIaから転写されるmRNAの領域に対して相補的である21~24連続ヌクレオチドを有するRNA分子のことである。21~24ヌクレオチドの配列は、好ましくは、mRNAの21~24連続ヌクレオチドの配列に対して完全に相補的である、つまりmRNAの領域の21~24ヌクレオチドの相補体と同一である。しかしながら、mRNAの領域中の5つ以下の不一致を有するmiRNA配列を使用してもよく(Palatnik et al.,2003)、塩基対合には1つまたは2つのG-U塩基対が含まれていてもよい。サイレンシングRNAの21~24ヌクレオチドのうちの全てがmRNAと塩基対合できるというわけでない場合には、サイレンシングRNAの21~24ヌクレオチドとmRNAの領域との間に不一致がたった1つまたは2つしか存在しないことが好ましい。miRNAに関して、多くて5つまでの何らかの不一致がmiRNAの3’末端に向かってみられることが好ましい。好ましい実施形態では、サイレンシングRNAの配列とその標的mRNAの配列との間には不一致が1つまたは2つしか存在しない。
【0245】
サイレンシングRNAは、本発明のキメラDNAによってコードされる長めのRNA分子に由来する。長めのRNA分子は、本明細書中では「前駆RNA」と呼ばれるが、コムギ細胞においてキメラDNAからの転写によって生じる最初の産物であり、相補的領域同士の分子内塩基対合によって形成される部分的二本鎖の特質を有する。前駆RNAは、「ダイサー(複数可)」と一般的に呼称される特殊なクラスのRNアーゼによってプロセシングされて、典型的には21~24ヌクレオチド長のサイレンシングRNAとなる。本明細書中で使用されるサイレンシングRNAは短鎖干渉RNA(siRNA)及びマイクロRNA(miRNA)を含み、これらの生合成には違いがある。siRNAは、二本鎖領域から突き出た不一致または非塩基対合ヌクレオチドを除けばあり得るG-U塩基対も含めて少なくとも21連続塩基対を有する、完全または部分的な二本鎖RNAに由来する。これらの二本鎖RNAは、本明細書において「ヘアピンRNA」と呼ばれる自己に対する折り返し及びステム・ループ構造の形成によって形成する1つの自己相補的転写産物から形成されるか、またはハイブリダイズして二本鎖RNA領域を形成する少なくとも部分的に相補的な2つの別個のRNAから形成されるかのどちらかである。miRNAは、完全には相補的でない相補的領域を含む長めの一本鎖転写産物のプロセシングによって産生し、それゆえに不完全に塩基対合した構造を形成し、それゆえ部分的二本鎖構造体中に不一致または非塩基対合ヌクレオチドを有する。塩基対合構造体はG-U塩基対を含むこともある。前駆RNAをプロセシングしてmiRNAを形成することは、特定配列を各々が有している1つ以上の別個の低分子RNA、miRNA(複数可)が優先的に蓄積することにつながる。それらが前駆RNAの一本の鎖、典型的には前駆RNAのアンチセンス鎖から得られるのに対し、長い相補的前駆RNAをプロセシングしてsiRNAを形成することは、配列が一様でないが多くの部分に対応しているsiRNAの集団を前駆体の両方の鎖から生じさせる。
【0246】
本発明のmiRNA前駆RNAは、本明細書中で「人工miRNA前駆体」とも呼ばれるが、典型的には、天然に存在する前駆体のmiRNA部分のヌクレオチド配列を標的mRNAの21~24ヌクレオチド領域に対して相補的、好ましくは完全に相補的となるように変化させること、及び塩基対合を維持すべく、miRNA配列に塩基対合しているmiRNA前駆体の、相補的領域のヌクレオチド配列を変化させることによって、天然に存在するmiRNA前駆体から得られる。miRNA前駆RNAの残部は未変化であってもよく、それゆえ天然に存在するmiRNA前駆体と同じ配列を有していてもよく、あるいはそれもヌクレオチド置換、ヌクレオチド挿入もしくは好ましくはヌクレオチド欠失またはそれらの任意の組み合わせによって配列が変化していてもよい。miRNA前駆RNAの残部は、ダイサー様1(DCL1)と呼ばれるダイサー酵素による構造認識に関与すると考えられ、したがって、構造の残部には変化があったとしてもほとんどないことが好ましい。例えば、全体構造に大きな変化を伴うことなく塩基対合ヌクレオチドを他の塩基対合ヌクレオチドで置換してもよい。本発明の人工miRNA前駆体を与える天然に存在するmiRNA前駆体は、コムギ、別の植物、例えば別の禾穀類植物、または非植物源からのものであり得る。そのような前駆RNAの例は、コメmi395前駆体、Arabidopsis mi159b前駆体、またはmi172前駆体である。人工miRNAの使用は、例えばAlvarez et al.,2006、Parizotto et al.,2004、Schwab et al.,2006で植物において実証されている。
【0247】
内在性遺伝子発現を下方制御するために用い得るもう1つの分子生物学的手法は、共抑制である。共抑制の機構は十分には理解されていないが、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)が関与していると考えられており、その点でアンチセンス抑制の多くの例と酷似している可能性がある。それは、遺伝子またはその断片の過剰のコピーをその発現のためのプロモーターに関して「センス配向」で植物に導入することを伴い、ここで、センス配向とは、本明細書中で使用される場合、標的遺伝子の配列に関して配列の転写及び翻訳(起こるならば)と同一の配向を指す。センス断片の大きさ、それと標的遺伝子領域との一致、及びそれと標的遺伝子との相同性の度合いは、上記アンチセンス配列のそれらと同様である。ある場合には、遺伝子配列のさらなるコピーが標的植物遺伝子の発現に干渉する。共抑制手法を実施する方法については、特許明細書WO97/20936及び欧州特許明細書0465572を参照されたい。
【0248】
遺伝子発現を低減するこれらの技術のいずれかを用いて協調的に複数の遺伝子の活性を低減することができる。例えば、遺伝子の共通の領域を標的とすることによって1つのRNA分子を関連遺伝子のファミリーに指向することができる。あるいは、1つのRNA分子の中に、異なる遺伝子を各領域が標的とする多数の領域を含むことによって、非関連遺伝子を標的としてもよい。これは、単一プロモーターの制御下で多数の領域を融合させることによって容易に行うことができる。
【0249】
核酸分子をコムギ細胞に導入するために数々の技術を利用することができ、それらは当業者によく知られている。本明細書中で使用される「形質転換」という用語は、外来または外因性核酸の導入による細胞、例えば細菌または植物、特にコムギ植物の遺伝子型の改変を意味する。「形質転換体」とは、そのようにして改変された生物を意味する。親植物の交配によるかまたは突然変異誘発によるコムギ植物へのDNAの導入自体は、形質転換には含まれない。核酸分子は、染色体外要素として複製され得るか、または好ましくは植物のゲノムの中に安定的に組み込まれる。「ゲノム」とは、受け継がれた細胞、植物または植物部分のゲノム相補体全体を意味し、染色体DNA、プラスチドDNA、ミトコンドリアDNA及び染色体外DNA分子を含む。一実施形態において、導入遺伝子は、六倍体コムギでは本明細書中でA、B及びD「ゲノム」と呼ばれるA、B及びDサブゲノムを含むコムギ核ゲノムに組み込まれる。
【0250】
稔性の遺伝子導入コムギ植物を生産するために最も一般的に用いられる方法は、2つのステップを含む:再生可能コムギ細胞内へのDNAの送達、及び試験管内での組織培養による植物再生。DNAを送達するためには、Agrobacterium tumefaciensまたは関連細菌を使用するT-DNA移入と、及び粒子衝突によるDNAの直接的導入との2つの方法が一般的に用いられる。但し、DNA配列をコムギまたはその他の禾穀類に組み込むために他の方法が用いられたことはある。許容できるレベルの核酸移入が達成される限り、特定の形質転換系を選択して核酸構築物を植物に導入することが本発明にとっての必須または限定事項ではないことは、当業者には明らかであろう。コムギのためのそのような技術は当技術分野でよく知られている。
【0251】
形質転換コムギ植物は、本発明に係る核酸構築物をレシピエント細胞に導入すること、ならびに本発明に係るポリヌクレオチドを含み発現する新規植物を栽培することによって生産することができる。細胞培養物中の形質転換細胞から新規植物を栽培するプロセスを本明細書では「再生」と呼ぶ。再生可能なコムギ細胞としては、例えば、成熟胚の細胞、分裂組織の細胞、例えば葉の基部の分裂組織細胞、または好ましくは開花から12~20日後に得られる未成熟胚の胚盤からの細胞、またはこれらのうちのいずれかに由来するカルスの細胞が挙げられる。再生したコムギ植物を回収するのに最も一般的に用いられる経路は、2,4-Dなどのオーキシン及び低レベルのサイトカイニンが補充されたMS-寒天などの培地を使用する体細胞胚形成であり、Sparks and Jones,2004を参照されたい。
【0252】
Agrobacteriumによって媒介されるコムギの形質転換は、Cheng et al.,1997、Weir et al.,2001、Kanna and Daggard,2003、またはWu et al.,2003の方法によって実施され得る。十分な毒性を有する任意のAgrobacterium株、好ましくは、LBA4404、AGL0もしくはAGL1(Lazo et al.,1991)、またはC58の変異型などの追加の毒性遺伝子機能を有する株を使用してもよい。また、Agrobacteriumに関係する細菌を使用してもよい。Agrobacteriumからレシピエントコムギ細胞へ移入させるDNA(T-DNA)は、移入させる核酸に隣接した野生型TiプラスミドのT-DNA領域の1つまたは2つの境界領域を含有する遺伝子構築物(キメラプラスミド)の中に含められる。遺伝子構築物は2つ以上のT-DNAを含有し得、例えば1つのT-DNAが関心対象の遺伝子を含有し、もう1つのT-DNAが選抜マーカー遺伝子を含有し、それによって、2つのT-DNAの独立した挿入と、関心対象の導入遺伝子から遠くに選抜マーカーを隔てる可能性とを提供する。T-DNAベクターは、当技術分野で知られている「スーパーバイナリー」プラスミドであることが好ましい。
【0253】
再生可能ないかなるコムギ種類を使用してもよく、品種Bob White、Fielder、Veery-5、Cadenza、及びFloridaについて好結果の報告がなされている。これらのより容易に再生することができる品種のうちの1つにおける形質転換事象は、優良品種を含めた他の任意のコムギ品種へ標準的な戻し交配によって移入され得る。Agrobacteriumの使用を伴う他の方法としては、例えば、Agrobacteriumと培養され単離されたプロトプラストと共培養;Agrobacteriumによる種子、頂端または分裂組織の形質転換;または植物内での植菌、例えばBechtold et al.,1993によって記載されているようなArabidopsisのフローラルディップ法が挙げられる。
【0254】
核酸構築物を植物細胞に導入するために一般的に用いられるもう1つの方法は、例えばKlein et al.,1987によって記載されているような、導入する核酸が小さいビーズまたは粒子の中かその表面上かのどちらかに入っている微粒子による高速遺伝子貫入(粒子撃ち込みまたは微小粒子撃ち込みとしても知られる)である。
【0255】
コムギの形質転換に使用するのに好ましい選抜マーカー遺伝子としては、例えば、除草剤グルホシネートアンモニウムを使用する選抜と併せて用いるStreptomyces hygroscopicus bar遺伝子もしくはpat遺伝子、抗生物質ヒグロマイシンと併せて用いるhpt遺伝子、またはカナマイシンもしくはG418と併せて用いるnptII遺伝子が挙げられる。あるいは、ホスホマンノース異性化酵素(PMI)をコードするmanA遺伝子などの正の選抜マーカーを、唯一のC源としての糖マンノース-6-リン酸塩と併せて使用してもよい。
【0256】
以下の非限定的な実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0257】
実施例1:材料及び方法
植物材料。各々がA、BまたはDゲノム上のSSIIa遺伝子に単一のヌル突然変異を含んでいる3つのコムギ品種は、Dr M Yamamori,National Institute of Agrobiological Resources,Tsukuba,Japanの好意により提供された。それらは、SSIIa-Aにヌル突然変異を含む、したがってSSIIa-Aポリペプチド(SGP-A1)を欠く、Chousen57(C57)と、SSIIa-Bにヌル突然変異を含む、したがってSSIIa-Bポリペプチド(SGP-B1)を欠く、Kanto79(K79)と、SSIIa-Dにヌル突然変異を含む、したがってSGP-D1ポリペプチドを欠く、Turkey116(T116)であった(Yamamori et al.,2000)。
【0258】
N7AT7D、N7BT7D及びN7DT7Bという名称(Sears and Miller,1985)の、相同群の7本の染色体のためのチャイニーズスプリング(CS)零染色体性/四染色体性系統は、Dr E.Lagudah(CSIRO Agriculture,Canberra,Australia)の好意により提供された。
【0259】
C57、K79、T116、3つのオーストラリアコムギ品種Sunco、EGA Hume及びWestoniaを含むコムギ植物をCSIRO Agriculture,Canberraにて温室内で自然光によって18℃(夜間)及び24℃(日中)で栽培した。各系統の成熟穀粒を収穫し、空気乾燥させて水分含有量をおよそ9%にした。特に明記しない限り、0.5mmメッシュスクリーンを備えたUdyサイクロンミル(Fort Collins,CO,USA)を使用して1系統あたり5gの乾燥穀粒を粉砕して全粒粉小麦粉を生成したか、またはBrabender Quadrumat Juniorミル(Brabender(登録商標)GmbH&Co.KG,Duisburg,Germany)を使用して精白小麦粉を得た。
【0260】
実施例12で記載する発達中の穀粒及び成熟穀粒の中のタンパク質及び澱粉の分析のために、突然変異体及び野生型コムギ植物(それぞれssIIa及びSSIIa)を、Konik-Rose et al.(2007)によって報告されている倍加半数体集団から得た。実施例12で記載しているように、RNA、可溶性タンパク質及び澱粉顆粒結合型タンパク質の分析のために、20~40個の発達中の胚乳を開花後日数(DPA)15日目にドライアイス上のチューブ内に採取し、-80℃で貯蔵した。穀粒におけるタンパク質及び澱粉の特性の分析のために、成熟した穀粒を温室栽培または圃場栽培植物から収穫した。
【0261】
コムギ植物のDNA分析。突然変異ssIIaまたは野生型SSIIa対立遺伝子の有無をゲノムDNA試料に対するPCRによって検出するために、植物から幼葉を収穫し、Fast DNAキット(BIO101システム、Q-BIO遺伝子)を使用してゲノムDNAを抽出した。マーカーアシスト育種のために、JKSS2AP1F(ヌクレオチド配列受託番号AB201445のヌクレオチド91とヌクレオチド113との間に位置する5’-TGCGTTTACCCCACAGAGCACA-3’(配列番号15)と、JKSS2AP2R(AB201445のヌクレオチド1225とヌクレオチド1246との間に位置する5’-TGCCAAAGGTCCGGAATCATGG-3’(配列番号16))とのプライマー対をAゲノムSSIIa遺伝子のために使用し(
図2);JKSS2BP7F(ヌクレオチド配列受託番号AB201446のヌクレオチド5978とヌクレオチド5995との間に位置する5’-GCGGACCAGGTTGTCGTC-3’(配列番号17))とJLTSS2BPR1(AB201446のヌクレオチド6313とヌクレオチド6335との間に位置する5’CTGGCTCACGATCCAGGGCATC-3’(配列番号18))とのプライマーをBゲノムSSIIa遺伝子のために使用し(
図3);JTSS2D3F(ヌクレオチド配列受託番号AB201447のヌクレオチド2369とヌクレオチド2392との間に位置する(5’-GTACCAAGGTATGGGGACTATGAA-3’(配列番号19)とJTSS2D4R(AB201447のヌクレオチド2774と2796ヌクレオチドとの間に位置する5’-GTTGGAGAGATACCTCAACAGC-3’(配列番号20))とのプライマーをコムギのDゲノムSSIIa遺伝子のために使用した(
図4)。
【0262】
PCR反応は50ngのゲノムDNA、1.5mMのMgCl2、0.125mMの各dNTP、10pmolのプライマー、0.5Mのグリシンベタイン、1μlのジメチルスルホキシド(DMSO)、及び1.5~3.5UのHot-star Taqポリメラーゼ(QIAGEN)を20μlの反応容積中に含んでいた。増幅反応は、HYBAID PCR Express(Integrated Sciences)を使用して、95℃で5分間の1サイクル及び、94℃で45秒間の融解と、52℃(Aゲノム)または60℃(B及びDゲノム)のアニーリング温度で30秒間と、72℃で2分30秒間の伸長との35サイクル、及びその後の72℃で10分間の1サイクルとそれに続く25℃への冷却によって行った。結果として生じるPCR断片を1%または2%のアガロースゲル上で分離し、エチジウム染色後に可視化した(UVitec)。他の標準的増幅では、アニーリング温度として59℃を用いたが、それ以外は、特に定めのない限り同じPCR条件を用いた。
【0263】
より大きい規模(9ml)での、凍結乾燥させて粉挽きした組織からの抽出(Stacey and Isaac,1994)によるDNAに対して、サザンブロットハイブリダイゼーション分析を実施した。DNA試料を0.2mg/mlに調節し、BamHI及びEcoRIなどの制限酵素で消化した。Stacey and Isaac,(1994)によって記載されているとおりに制限酵素による消化、ゲル電気泳動及び真空ブロッティングを行った。32P標識プローブをcDNAから産生させてハイブリダイゼーションにおいて使用し、サザンブロットを行った。配列のハイブリダイゼーションは、Jolly et al.(1996)の方法に従ってオートラジオグラフィーによって検出した。
【0264】
RNA抽出及び定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)。15DPAの胚乳からの全RNAは、NucleoSpin(登録商標)RNA Plantキット(Macherey-Nagel)を使用して抽出し、Nanodrop1000(Thermo Scientific)を使用して定量した。SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)を使用して、50μlの反応において50℃で0.5μgの量のRNA鋳型をcDNA合成のために使用した。RT-PCRプライマー(表4)を使用して58℃のアニーリング温度で10μlのqRT-PCR反応においてcDNA鋳型(100ng)を使用した。定量対照として、チューブリン遺伝子の3’末端にあるエクソンに位置している領域を増幅する一対のプライマーを使用した。増幅反応は、Rotor-Gene(商標)SYBR(登録商標)Green PCRキット(QIAGEN)を使用してRotor-Gene 6000(Corbett)内で行った。比較定量は、基準増幅としてのチューブリン遺伝子断片の増幅を用いてReal Time Rotary Analyzerソフトウェア(Corbett)で解析した。各試料についてqRT-PCR反応を3反復で実施した。
【表4】
【0265】
発達中の胚乳からの可溶性及び澱粉顆粒結合型タンパク質の単離。15DPAに収穫した発達中の種子からの発達中の胚乳を均質化し、予め冷やしておいた可溶性タンパク質抽出用緩衝液(0.25MのK2HPO4、pH7.5、0.05MのEDTA、20%のグリセロール、Sigmaプロテアーゼ阻害剤カクテル、及び0.5MのDTT)中に1.5μl/mgで懸濁させた。均質化物を4℃で15分間16,000gで遠心分離した。可溶性タンパク質を含有する上清を、Coomassie Plus Proteinアッセイ試薬(Bio-Rad)を使用するタンパク質濃度の推定のために使用した。所望により、分析前に試料を-20℃で貯蔵した。可溶性タンパク質調製物から取り置かれたペレットは、水による洗浄の後に直接プロテアーゼKで処理し、その後、澱粉を以下のとおりに精製した。澱粉顆粒結合型タンパク質は、Rahman et al.,(1995)に従いつつ若干の変更を加えて、精製澱粉から調製した。澱粉顆粒を、タンパク質変性抽出用緩衝液(50mMのトリス緩衝剤、pH6.8、10%のグリセロール、5%のSDS、5%のβ-メルカプトエタノール、及びブロモフェノールブルー)中で15μl/mg澱粉の比率で5~10分間煮沸した。13,000gで20分間遠心分離した後、上清をSDS-PAGE分析に使用した。
【0266】
成熟穀粒からの澱粉の単離及び澱粉顆粒結合型タンパク質の抽出。WIG-L-BUG Mixer MSD(USA)を使用して各植物からの全粒(100~150mg)をボールベアリング機で30秒間、30rpmの速度で粉挽きした。全粒粉製品をまず12.5mMのNaOHで処理し、0.5mmナイロン製篩で濾過し、水で3回洗浄し、その後、50mMのリン酸緩衝液1mL中で0.5mgのプロテアーゼKと共に37℃で2時間インキュベートした。5,000gでの遠心分離によって得られた澱粉ペレットを水で3回、懸濁させ、洗浄し、各洗浄の後に遠心分離に掛けることを行った。アセトンで洗浄した後、残存する澱粉を37℃で一晩風乾した。成熟穀粒澱粉からの澱粉顆粒結合型タンパク質の調製は、発達中の胚乳の澱粉について以前に記載したのと同様に行った。
【0267】
SDS-PAGE及びゲル染色。澱粉中のタンパク質含有量の定量のために、等しい量(4mg)の澱粉を澱粉顆粒結合型タンパク質の抽出のために使用した。各試料について、全タンパク質を含有する同体積の上清をNuPAGE Novex 4~12%Bis-Trisゲル(Life Technologies)に装填した。これにより、同量の澱粉からタンパク質結合パターンの変動を検出することが可能になった。全タンパク質を20μg含有する試料を可溶性タンパク質のために使用した。以前に記載されているように(Butardo et al.2012)、SDS-PAGEゲルを流して検出を行った。
【0268】
イムノブロッティング。以前の研究からのGBSSI、SSI、SSIIa、SBEIIa及びSBEIIbに対する抗血清を、それらの抗原供給源及び特異性も含めて表5に一覧として列挙する。上記と同じタンパク質標準を使用して以前に記載されているようにウェスタンブロッティング及び検出を行った(Butardo et al.2012)。
【表5】
【0269】
SDD-PAGEゲル及びイムノブロットのタンパク質バンドの定量。タンパク質の存在量を定量し、異なる遺伝子型同士で比較するために、5μLのMagicMark(商標)XPタンパク質ラダー(Invitrogen)の2つのタンパク質バンド(80kDa及び60kDa)を基準として使用した。タンパク質バンドを可視化した後、Quantity Oneソフトウェアパッケージを使用し、指定の方法(Bio-Rad)に従ってバンド強度解析のためにSDS-PAGEゲル及びイムノブロットを画像ファイルにスキャンした(Epson Perfection 2450 PHOTO;Epson America Inc.,CA,USA)。バンド80kDaをSBEIIa、SBEIIb及びSSIIaの定量に使用し、60kDaをSSI及びGBSSIの定量に使用した。
【0270】
質量分析。クーマシーブルー染色したSDS-PAGEゲルから選択されたタンパク質バンドに対してゲル中でのタンパク質分解消化を行うことができる。イオントラップ型タンデムMSをButardo et al.(2012)によって記載されているように行うことができる。タンパク質は、ProteinLynx Global Server(Version1、Micromass)によって連続したMSをSwissProt/TREMBL内の登録事項と相関させることによって同定することができる(Colgrave et al.2013)。
【0271】
穀粒重量。植物が完全に黄化した時と解される、成熟時に、植物から穀粒を収穫した。頂部を収穫し、37℃で少なくとも2週間貯蔵して完全な乾燥を確保し、その後、さらなる貯蔵が必要な場合は室温で貯蔵し、その後、脱穀して成熟穀粒を得た。穀粒重量に依存する本明細書に記載のパラメータ及び穀粒重量自体を分析したのはこの穀粒またはそれから得られた全粒粉であった。各コムギ系統の穀粒重量は100粒の穀粒の総重量から決定した。穀粒の水分含有量はMPA FT-NIR分光器(BRUKER)で決定し、これは、成熟穀粒では重量基準で約9%であることが典型的であった。本明細書に記載の穀粒重量に依存するパラメータ、例えば澱粉含有量、BG含有量、フルクタン含有量などは、NIRによって測定しない場合には9%(w/w)の水分含有量を想定して、乾燥重量基準で算出した。
【0272】
コムギ穀粒脂質分析。約300mgの全粒粉の試料からの脂質全てをクロロホルム/メタノール/0.1MのKClの混合物(2:1:1の比、v/v/v)で抽出した。脂質試料を1Nのメタノール-HCl(Supelco、Bellefonte、PA)中で80℃で2時間インキュベートすることによって脂肪酸メチルエステル(FAME)を調製した。ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸(70:30:1、v/v/v)の溶媒混合物を使用して薄層クロマトグラフィー(TLC)(シリカゲル60、Merck,Germany)によって全脂質からTAG及び極性膜脂質のプールを分画し、個々の膜脂質クラスをTLCによってクロロホルム/メタノール/酢酸/水(90/15/10/3、v/v/v/v)の溶媒混合物を使用して分離した。脂質クラスの同定のために信頼性のある脂質標準を装填し、同じプレートの別個のレーンに流した。脂質の個々のクラスを含有するシリカバンドを使用して上記FAMEを調製し、内部標準として添加した既知量のヘプタデカノインのピーク面積に基づいて個々の脂肪酸を定量するために30mのBPX70カラム(SGE,Austin,TX,USA)を装備したガスクロマトグラフィーGC-FID7890A(Agilent Technologies,Palo Alto,CA,USA)によって分析した。
【0273】
澱粉抽出。特に定めのない限り、澱粉は、サイクロンミル機(Cyclote 1093,Tecator,Sweden)を使用して穀粒(10g)をまず全粒粉に粉挽きすることによって穀粒試料から抽出した。澱粉はプロテアーゼ抽出法(Morrison et al.,1984)によって全粒粉から単離し、常温で全粒粉1グラムあたり10mlの水を使用して残渣は除去しつつ水で洗浄した。その後、澱粉を凍結乾燥させ、分析のために重さを量った。澱粉はまた、Regina et al.,(2006)の方法を用いて発達中のコムギ穀粒から小規模に単離した。
【0274】
澱粉含有量。穀粒の総澱粉含有量は、Megazyme(Bray,Co Wicklow,Republic of Ireland)によって提供される全澱粉分析キット(K-TSTA)を使用してAACC法76.13によって検査し、重量基準で成熟未粉砕穀粒の重量に対する百分率として算出した。総穀粒重量から澱粉重量を差し引いて穀粒の総非澱粉含有量を得ることにより、総重量の減少が澱粉含有量の減少によるものであるか否かを判定した。
【0275】
アミロース含有量。特に定めのない限り、澱粉試料のアミロース含有量は、Morrison and Laignelet(1983)のヨウ素滴定(ヨウ素結合)法に以下のとおりに若干の改変を加えることによって3反復で決定した。蓋にゴム製ワッシャーを装着した2mlのネジ蓋式チューブにおよそ2mgの澱粉を正確に(公差0.1mgで)計量した。脂質を除去するために、85%(v/v)のメタノール1mlを澱粉と混合し、チューブを65℃の水槽内で1時間、時折渦流撹拌しながら加熱した。13,000gで5分間遠心分離した後、上清を丁寧に除去し、抽出ステップを繰り返した。その後、澱粉を65℃で1時間乾燥させ、澱粉2mgあたり1mlの尿素-ジメチルスルホキシド溶液(UDMSO;6Mの尿素1体積に対してジメチルスルホキシドを9体積)を使用してUDMSO中に溶解させた。混合物をすぐさま激しく渦流撹拌し、95℃の水槽内で澱粉の完全溶解のために時折渦流撹拌しながら1時間インキュベートした。澱粉-UDMSO溶液のアリコート(50μl)を、水1mlあたり2mgのヨウ素及び20mgのヨウ化カリウムを含有する20μlのI2-KI試薬で処理した。混合物を水で1mlにした。200μlをマイクロプレートへ移し、Emax Precisionマイクロプレートリーダー(Molecular Devices,USA)を使用して吸光度を読み取ることにより、620nmでの混合物の吸光度を測定した。0~100%のアミロースと100~0%のアミロペクチンとを含有する標準試料を、ジャガイモのアミロース(Sigma カタログ番号A-0512)及びジャガイモのアミロペクチン(Sigma、カタログ番号A-8515)から作り、試験試料の場合と同様に処理した。標準試料の吸光度から導出した回帰式を使用して、吸光度値からアミロース含有量(アミロース百分率)を決定した。
【0276】
澱粉試料のアミロース含有量はまた、明記されている場合には、以前に記載したように澱粉試料を枝切りすること及びその後にサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて測定することによって決定した(Butardo et al.2012、Castro et al.2005)。この方法により、アミロペクチンの枝切りによって生じる短鎖を長鎖アミロース鎖から分離し、相対量を決定した。溶出時間から分子量を推定するためにMark-Houwink-Sakaruda式で較正されるプルラン標準(Shodex P-82)を用いた。試料は3反復で調製及び分析した。
【0277】
また、枝切りされていない澱粉のアミロース/アミロペクチン比率の分析は、Case et al.,(1998)に従って行ってもよいし、またはBatey and Curtin,(1996)によって記載されているように枝切りされた澱粉を分離するために90%のDMSOを使用してHPLC法によって行ってもよい。
【0278】
耐性澱粉(RS)含有量。穀粒のRS含有量は、Megazyme(Bray,Co Wicklow,Republic of Ireland)によって提供されるRS分析キット(K-RSTARCH)を使用して3反復で決定し、重量基準で澱粉に対する百分率として算出した。RS分析キットで推奨されている100mgの試料の代わりに、この研究の各アッセイでは少なくした量(40mg)の全粒粉を15mlの蓋付き円錐底チューブ(カタログ番号:188271,Greiner bio-one)に入れて使用し、按分した量でキットからの溶液及び緩衝剤を使用した。0~20mg/mlのグルコースを含有する標準試料をグルコース(K-RSTARCHキット)から作り、試験試料の場合と同様に処理した。標準試料の吸光度から導出した回帰式を使用して、試験試料の重量基準でのRS含有量、及び非耐性澱粉含有量を吸光度値から決定した。そして、総澱粉含有量の重量に対する百分率で表したRSの重量としてRS含有量を算出した。
【0279】
パンなどの食品試料におけるRSのレベルも、WO2012/058730に記載されているように試験管内で測定され得る。その方法は、試料調製、及び普段食される食品の中の澱粉の試験管内での消化について記載している。方法は2つの部分に分かれる:まず、食品中の澱粉を模擬生理条件下で加水分解し;次に、副生成物を洗浄によって除去し、試料の均質化及び乾燥の後にRSを決定する。消化処理の最後に定量される澱粉は食品のRS含有量を表していた。
【0280】
β-グルカン(BG)。BGレベルは、Megazyme(Bray,Co,Wicklow,Republic of Ireland)によって提供されるキット(K-BGLU)を使用して3反復で決定した。
【0281】
フルクタン含有量。フルクタンの抽出及びアッセイは、以下のとおりに改変したMegazymeフルクタンキット(K-FRUC)アッセイ手順を用いて2mlチューブまたは96ウェルプレート(2mlウェル)で実施した。コムギ全粒粉(40mg)を1mlの水(80℃)と混合し、振盪(1200rpm)しながら80℃で30分間インキュベートした。室温に冷却した後、チューブを5分間遠心分離し、フルクタン及び他の糖類を含有する20μlの上清をフルクタンアッセイのために取り出した。K-FRUCキットからのスクロース、アミラーゼ及びマルターゼを含有する20μlの酵素液を添加すること、ならびに混合物を40℃で振盪(1000rpm)しながら30分間インキュベートすることによって、上清中のスクロース、マルトース、マルトデキストリン及び澱粉をグルコース及びフルクトースに加水分解した。その後、10mg/mlの水素化ホウ素アルカリ溶液20μlを添加すること及び40℃で振盪(1000rpm)しながら30分間インキュベートすることによって、試料中のグルコース及びフルクトースを還元した。この溶液中のフルクタンをフルクタナーゼ(1000rpmで振盪しながら40℃で30分間)でグルコースとフルクトースとに加水分解した。p-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(PAHBAH)を添加して98℃で6分間掛けて有色複合体を発色させた。試料を冷却した後、分光光度計を使用して410nmで有色複合体を測定し、吸光度値を、フルクタナーゼによる加水分解の後の試験試料の場合と同様に処理された0~0.27mg/mlのフルクトースについての検量線(Megazyme,K-FRUCキット)を使用してフルクタン含有量に換算した。標準試料の吸光度から導出した回帰式を使用して、吸光度値から試験試料のフルクタン含有量(フルクタン百分率)を決定した。
【0282】
プレート方式での小規模化フルクタンアッセイ。小型フルクタンアッセイのために、Megazymeキットの酵素液、緩衝剤及び試薬の量を全て10分の1に縮小し、反応を96ウェルプレートで行った。フルクタン含有量の高い試料のために20mgの全粒粉試料を使用し、またはフルクタンが約0.5~2%の低レベルである試料のためには40mgを使用した。小麦粉をエタノールで予め湿らすことはフルクタン抽出の場合には必要ではなかった-全粒粉はフルクタンの抽出前に渦流撹拌することによって熱水中に十分に分散した。フルクタン抽出には20分の抽出時間で十分であった。加水分解反応は蓋で密封された1.1mlの96ウェルプレートにおいて40℃で30分間、BioShake iQ及び96ウェルアダプター(Q Instruments,Jena,Germany)を使用して1,000rpmで振盪しながら実施した。改変型K-FRUCアッセイでは、フルクタン加水分解及びp-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド(PAHBAH)添加の後のプレートを蓋で密封し、水槽(WiseBath,Thermoline Scientific,Wetherill Park,NSW,Australia)を使用した100℃で6分間の発色のために特注のプレートホルダーにしっかりと固定した。Multiskan Spectrumプレートリーダー(Thermo Scientific,Finland)を使用して340nm(K-FRUCHKの場合)または410nm(K-FRUCの場合)での吸光度を読み取るために、加水分解した試料(250μl)を96ウェル平底マイクロタイタープレート(UV-Star(登録商標)マイクロプレートまたはPS-マイクロプレート、Greiner Bio-One,Germany)に移した。
【0283】
総アラビノキシラン(AX)。20mgの全粒粉試料を2mlネジ蓋式チューブに入れて使用してAXを測定した。各試料を0.5Mの硫酸1mlと混合し、渦流撹拌し、混合物を99℃で振盪(1000rpm)しながら30分間インキュベートした。その後、チューブを氷水中で5分間冷却した。チューブを10,000gで5分間遠心分離に掛け、各チューブからの上清(800μl)を96ウェルプレートに移した。所望により、これらのプレートをさらなる処理の前に-20℃で貯蔵した。希釈のために上清のアリコート100μlを別の96ウェルプレート(Greiner bio-one masterblock)に移し、900μlのMilli Q水を各ウェルに加えた。希釈した上清(100μl)をアッセイ用プレート(BioRad Titre tube Microtubes Racked、カタログ#223-9390)に移した。キシロース標準を作るために、2mg/mlの原液(Sigma、カタログ番号X-3877)を使用して30、50、75、100、150及び200μg/mlの濃度の100μlの標準液を作った。作って間もない0.5mlのフロログルシノール試薬(PGR、以下参照)を各ウェルに加えた。プレートを帯状MicroCap(National Scientific,TN3346-08C)で密封し、固定し、換気フード内で25分間100℃でインキュベートした。その後、プレートを反転させることによって試料をよく混合した。その後、200μlの試料を換気フード内でUV starプレートに移した。プレート用分光光度計、例えばThermo multiscanを使用して
510nm及び552nmで各試料の吸光度を測定した。
【0284】
各アッセイのためにフロログルシノール試薬(PGR)を換気フード内で新しく調製した。このために、2つの溶液を別々に作り、それから混合した。溶液1は、50mlチューブ内で0.6gのフロログルシノール(Sigma、カタログ番号7933)を2.4mlの無水エタノール中に数分間掛けて溶解させることによって作った。溶液2は、55mlの氷酢酸と、ゆっくりと酢酸に添加した1.1mlの濃塩酸(HCl)とを含んでいた。溶液1を250mlボトルに移した。その後、溶液1の残余が入っている50mlチューブを溶液2ですすいで全ての溶液1を定量的に移し、その後、全ての溶液2をボトル内で溶液1と混合した。最後に、0.6mlのグルコース溶液(Milli Q水中70mg/ml)を溶液1と溶液2との混合物に添加した。
【0285】
セルロース含有量。セルロースアッセイは、全粒粉50mgの試料を使用して2mlチューブまたは96ウェルプレート(2mlウェル)で実施した。全粒粉中のリグニン、ヘミセルロース及び可溶化澱粉は、600μlの酢酸硝酸試薬(80%酢酸:70%硝酸の10:1(v/v)混合物)を添加して混合物を99℃で振盪(1000rpm)しながら1時間インキュベートすることによって除去した。冷却後、試料を最高速度で5分間遠心分離し、上清を捨てた。各ペレットを1mlの水で洗浄し、最高速度で5分間遠心分離し、各々の上清を捨てた。各ペレット中の結晶セルロースを可溶化するために、各試料チューブに72%のH2SO4を1ml加えた。推定セルロース含有量及びセルロース標準に基づいて試料を希釈した。発色のために、100μlのアントロン試薬(72%H2SO4中0.2%のアントロン)を各試料チューブに加え、混合物を98℃で10分間インキュベートした。分光光度計を使用して620nmで、処理した試料の吸光度を読み取り、0~0.75mg/mlのセルロースを使用した検量線(Sigma:カタログ番号G-6413)を参照してセルロース含有量を算出した。
【0286】
鎖長分布分析。アミロペクチンの鎖長分布の決定は、Morell et al.,(1998)に従ってキャピラリー電気泳動ユニットを使用して、澱粉試料の枝切り後に蛍光活性化キャピラリー電気泳動(FACE)によって行った。試料は以前に記載されているように調製した(O’Shea and Morell,1996)。
【0287】
澱粉糊化。澱粉試料の糊化温度プロファイルをPyris 1 示差走査熱量測定器(Perkin Elmer,Norwalk CT,USA)で測定した。澱粉溶液の粘度は、Rapid-Visco-Analyser(RVA,Newport Scientific Pty Ltd,Warriewood,Sydney)で例えばBatey et al.,(1997)によって報告されている条件を用いて測定した。測定したパラメータは、ピーク粘度(高温ペースト最高粘度)、保持強度、最終粘度及びペースト化温度を含んでいた。小麦粉または澱粉の膨潤容積は、Konik-Rose et al.,(2001)の方法に従って決定した。水の取込みは、小麦粉または澱粉試料と水との所定温度での混合及びそれに続く糊化材料の回収を行う前及び後に、試料を計量することによって測定した。
【0288】
澱粉顆粒形態。澱粉顆粒形態は、顕微鏡観察によって調べた。精製澱粉顆粒の水中懸濁液を通常光と偏光との両方の下でLeica-DMR複合顕微鏡を使用して調べて、澱粉顆粒形態を決定した。Joel JSM 35C器械を使用して走査電子顕微鏡観察を行った。精製澱粉をスパッタリングによって金で被覆し、常温で15kVで走査した。
【0289】
胚乳におけるタンパク質発現の分析。胚乳におけるSBEI、SBEIIa及びSBEIIbタンパク質の特異的発現、詳しくはこれらのタンパク質の発現または累積のレベルを、ウェスタンブロット手順によって分析した。胚乳をあらゆる母体組織から切り離し、およそ0.2mgの試料を、5mMのEDTA、20%のグリセロール、5mMのDTT及び1mMのPefablocを含有するpH7.5の50mMのリン酸カリウム緩衝液(42mMのK2HPO4及び8mMのKH2PO4)600μlの中に均質化した。粉挽きされ試料を13,000gで10分間遠心分離に掛け、上清を分取し、使用時まで-80℃で冷凍した。総タンパク質の推定のために、0.25mg/mlのBSA標準の0、20、40、60、80及び100μlのアリコートを使用してBSA検量線を作成した。試料(3μl)を蒸留水で100μlにし、1mlのCoomassie Plus Protein試薬を各々に添加した。検量線からのBSAゼロの試料をブランクとして用いて5分後に595nmで吸光度を読み取り、試料中のタンパク質レベルを決定した。各胚乳からのタンパク質を全部で20μg含有する試料を、0.34MのTris-HCl(pH8.8)、アクリルアミド(8.0%)、過硫酸アンモニウム(0.06%)及びTEMED(0.1%)を含有する8%の非変性用ポリアクリルアミドゲルに流した。電気泳動に続いて、Morell et al.,1997に従ってタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、SBEIIa、SBEIIbまたはSBEI特異抗体(表5)と免疫反応させた。成熟コムギSBEIIaのN末端配列のアミノ酸配列AASPGKVLVPDGESDDL(配列番号49)を有する合成ペプチドを使用して、コムギSBEIIaタンパク質に対する抗血清(抗wBEIIa)を作り出した(Rahman et al.,2001)。N末端合成ペプチドAGGPSGEVMI(配列番号50)を使用してコムギSBEIIbに対する抗血清(抗wBEIIb)を同様にして作り出した(Regina et al.,(2005)。このペプチドは、成熟SBEIIbペプチドのN末端配列を表すと考えられ、さらに、オオムギSBEIIbタンパク質と同一であった(Sun et al.,1998)。N末端合成ペプチドVSAPRDYTMATAEDGV(配列番号51)を使用してコムギSBEIに対するポリクローナル抗体を同様にして合成した(Morell et al.,1997)。そのような抗血清は、標準的方法に従ってウサギを合成ペプチドで免役することによって得た。
【0290】
統計解析。Genstat for Windowsの第16版(VSN International Ltd,Herts,UK)を使用してアミロースデータの統計解析を行った。他のデータは、GraphPad Prism Version 5.01を使用する統計解析(t検定及びone-way ANOVAと共にテゥーキーのpost検定)に供した。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。統計的有意性はP<0.05及びP<0.01で定義した。
【0291】
実施例2.コムギのSSIIb及びSSIIc遺伝子のcDNA配列及びゲノムDNA配列の同定ならびにコードするポリペプチド及びSSIIaとの比較
コメのSSIIb及びSSIIc(Ohdan et al.,2005)に対応するコムギの澱粉合成酵素IIアイソザイム(SSIIb及びSSIIc)をコードする遺伝子を同定するため及びそれらをSSIIaと比較するために、コメからのcDNA配列、すなわち、SSIIaについては受託番号AF419099、SSIIbについてはAF395537、SSIIcについてはAF383878を使用してNCBIデータベースを検索した。コムギ相同体は以下のとおりに同定した。コムギSSIIa遺伝子については、コムギのSSIIa遺伝子に対応する3つの同祖cDNA配列を同定した。これらは受託番号がAゲノム上のSSIIa-AではAF155217(配列番号4)、Bゲノム上のSSIIa-BではAJ269504(配列番号5)、Dゲノム上のSSIIa-DではAJ269502(配列番号6)であった。これら3つの同祖cDNA配列に対応するゲノムDNAヌクレオチド配列を同定した:SSIIa-A遺伝子では受託番号AB201445(配列番号7)、SSIIa-B遺伝子ではAB201446(配列番号8)、SSIIa-D遺伝子ではAB201447(配列番号9)。IWGSCデータベースを検索して3つの対応する同祖遺伝子の位置はそれぞれ染色体7AS上(Traes_7AS_53CAFB43A、7A:52346437~52346905bp、逆方向鎖)、7BS上(IWGSC:染色体7BS、Traes_7BS_7BEAF5EC0、7B:31821573~31821749bp 順方向鎖)、及び7DS上(IWGSC:染色体7DS、Traes_7DS_E6C8AF743、IWGSC_CSS_7DS_scaff_3877787:1~396bp、5137~5419bp 順方向鎖)に同定された。アミノ酸配列は受託番号がそれぞれ、SSIIa-AではAAD53263、SSIIa-BではCAB96627、SSIIa-DポリペプチドではCAB86618であった。
【0292】
SSIIaアミノ酸と対応するヌクレオチド配列とを対にしてBLASTによって完全長配列にわたって比較したところ、どの比較でも同祖配列は95~96%同一であった。したがって、それらの互いとの区別は容易に付いた。
【0293】
コムギSSIIb遺伝子をコードする2つのcDNA配列はNCBIデータベースで同定され、それらは受託番号がAゲノムからのAK332724及びDゲノムからのEU333947であった。対応するゲノムDNA配列はNCBIデータベースでは同定されなかったが、IWGSCデータベースでゲノムDNA配列が見つかった。SSIIbをコードする3つの同祖ゲノムDNA、すなわち、染色体6AL上のSSIIb-A遺伝子(IWGSCによる相同性:染色体6AL、Traes_6AL_AE01DC0EA、6A:187503905bp~187505233bp、EnsemblPlantsウェブサイトでのBLAST検索により順方向鎖)(cDNA配列番号12)、染色体6BL上のSSIIb-B遺伝子(染色体6BL、遺伝子:Traes_6BL_61D83E262、6B:162116364~162116691bp、EnsemblPlantsウェブサイトでのBLAST検索により逆方向鎖)(cDNA配列番号13)、及び染色体6DL上のSSIIb-D遺伝子(IWGSCによる相同性:染色体6DL、遺伝子:Traes_6DL_19F1042C7、6D:147050072~147051031bp、EnsemblPlantsウェブサイトでのBLAST検索により逆方向鎖)(cDNA配列番号14)が同定された。EU333947から推測されるアミノ酸配列と100%同一であったあるアミノ酸配列(受託番号ABY56824、配列番号11)がNCBIデータベースで同定され、したがってそれはSSIIb-Dポリペプチド配列であった。完全長アミノ酸配列(配列番号10)は、DゲノムSSIIbからのABY56824との相同性が90%であるSSIIb-AポリペプチドのAK332724から推測した。SSIIb-Bポリペプチドのアミノ酸配列は、IWGSCからのDNA断片(Traes_6BL_61D83E262、6B:162116364~162116691bp、逆方向鎖)から推測した。完全長のSSIIb-A及びSSIIb-Dアミノ酸配列はおよそ90%同一であった。対にして比較すると、3つの対応するcDNAヌクレオチド配列は91~95%同一であった。SSIIaアミノ酸またはヌクレオチド配列と比較すると、SSIIb配列は対応するSSIIaパラログと71~79%同一であった。したがって、どのSSII配列も、アミノ酸かヌクレオチド配列かのどちらかからのSSIIaまたはSSIIbとして容易に同定することができた。
【0294】
コムギSSIIc遺伝子については、コムギ染色体1DL上に位置する遺伝子(IWGSCによる相同性:染色体1DL、遺伝子:Traes_1DL_F667ED844、IWGSC_CSS_1DL_scaff_2205619:1950~3041bp、EnsemblPlantsウェブサイトでのBLAST検索により順方向鎖)に対応するあるcDNA配列(受託番号EU307274)がNCBIデータベースで同定され、したがってこれはSSIIc-Dに対応していた。別のSSIIc遺伝子のcDNA配列はIWGSCデータベースの検索によって同定され、その遺伝子は染色体1AL上に位置していた(IWGSC:染色体1AL、遺伝子:Traes_1AL_729BF3204、1A:68687585~68688377、EnsemblPlantsウェブサイトでのBLAST検索により順方向鎖)。cDNA配列は受託番号EU307274のヌクレオチド1679~2469からの配列との同一性が98%であった。染色体1BLからの配列も同定され、それはSSIIc-Bの部分長cDNA配列であった(IWGSC:染色体1BL、遺伝子:Traes_1BL_447468BDE、1B:31475067~314776087bp、EnsemblPlantsウェブサイトでのBLAST検索により順方向鎖)。あるアミノ酸配列(受託番号ABY639)がNCBIデータベースで同定され、それは受託番号EU307274のcDNA配列から推測されたアミノ酸配列との同一性が100%であった。また、2つの部分長アミノ酸配列をA及びBゲノムからのSSIIのゲノムDNA断片のヌクレオチド配列から推測した。対にして比較すると、SSIIc配列は互いに98%近く同一であった。それらはSSIIa配列とは極めて異なっていた。
【0295】
SSIIa遺伝子及びSSIIaポリペプチド配列は、対応するSSIIb及びSSIIc配列とは容易に区別できることが結論付けられた。
【0296】
実施例3.マーカーアシスト育種のためのゲノム特異的DNAマーカー
異なるいくつかの遺伝的背景において、野生型植物と同質遺伝子型である三重ヌルssIIa突然変異植物を作り出すために、3つのコムギ系統C57(SSIIa-Aがヌル)、K79(SSIIa-Bがヌル)及びT116(SSIIa-Dがヌル)(Yamamori et al.,2000)を一連の交配、戻し交配及び交雑に使用した。各々劣性である突然変異を育種プログラムにおいて分子マーカーで検出及び探知するために、SSIIa遺伝子配列に基づいてゲノム特異的DNAマーカーを設計及び使用した。A、B及びDゲノム上のそれぞれC57、K79及びT116 SSIIa遺伝子の特異的突然変異はShimbata et al.,(2005)によって報告された。各突然変異は各々のSSIIa遺伝子内での欠失または挿入であり(
図2~4)、それゆえ、これらの突然変異は分子マーカーの設計に理想的であった。各突然変異部位の上流に順方向オリゴヌクレオチドプライマーを配置し、各突然変異部位の後ろに逆方向プライマーを配置することによって、各遺伝子のためのDNAマーカーを設計し、配列は実施例1「コムギ植物のDNA分析」に記載されている。
【0297】
これらのプライマーを使用して、野生型及びssIIaヌル突然変異植物からの各ゲノムに対して特異的であるDNA断片を増幅した。AゲノムSSIIa遺伝子については、1072bpの断片を野生型遺伝子から増幅し、778bpの断片をssIIa-Aヌル突然変異遺伝子から増幅した。BゲノムSSIIa遺伝子については、374bp断片を野生型遺伝子から増幅し、522bp断片をssIIa-Bヌル突然変異遺伝子から増幅した。DゲノムSSIIa遺伝子については、427bp断片を野生型遺伝子から増幅し、364bp断片をssIIa-Dヌル突然変異遺伝子から増幅した。これらのゲノム特異的断片は、電気泳動によってそれらの大きさから容易に区別が付き、したがって突然変異体及び野生型対立遺伝子を検出するための共優性DNAマーカーとして使用することができた。SSIIa遺伝子配列に基づく他の特異的プライマー対を設計して代替分子マーカーを得ることは簡単にできた。
【0298】
実施例4.種々の遺伝的背景を有する三重ヌルssIIa突然変異体の生成
異なるいくつかの遺伝的背景において、同質遺伝子型である三重ヌルssIIa突然変異植物を作り出すために、3つのコムギ系統C57(SSIIa-Aがヌル)、K79(SSIIa-Bがヌル)及びT116(SSIIa-Dがヌル)(Yamamori et al.,2000)の植物を
図5~7に模式的に示す一連の交配、戻し交配、交雑及び子孫選抜に使用した。実施例1に記載のDNAマーカーを各世代において子孫植物のスクリーニングのために使用して、反復親として使用したコムギ品種Sunco、EGA HumeまたはWestoniaのssIIaヌル突然変異体対立遺伝子及び対応する野生型対立遺伝子の区別を可能にした。まず、コムギ栽培品種Suncoの植物を雌植物として使用してC57、K79及びT116の植物をSunco植物と交配し、C57-Sunco F1、K79-Sunco F1及びT116-Sunco F1を生み出した。その後、Sunco背景の一重ヌル突然変異体と交配することにより、C57-K79-Sunco F1及びK79-T116-Sunco F1についての二重ヌルssIIa突然変異体を生み出し、続いて子孫を自殖して交配種からのF2植物を生み出した。DNAマーカーを使用して、2つのヌルssIIa突然変異体についてヘテロ接合体である子孫を選抜した。その後、これらの突然変異体を、反復親としてのSuncoとの3連続の戻し交配に使用して、2つのヌル突然変異を有するBC3ヘテロ接合体を生み出した。その後、BC3植物を交配し、子孫を自殖して、Suncoの遺伝的背景を有する三重ヌルssIIa突然変異体(C57-K79-T116-Sunco BC3 F2)を選抜した(
図5)。
【0299】
栽培品種EGA Hume、Sunco及びWestoniaの背景を有するssIIaヌル突然変異体及び野生型コムギ系統のBC3F8種子の生産。Sunco以外の2つの異なる遺伝的背景を有する植物及び穀粒を生み出すために、栽培品種EGA Hume及びWestoniaの植物との交配において、Suncoの二重突然変異体(C57-K79-Sunco F1またはF2、K79-T116-Sunco F1またはF2)を花粉ドナーとして使用する(
図6及び
図7)とともに、各世代にDNAマーカーを使用して子孫の突然変異体対立遺伝子を検出及び選抜した。選抜した二重突然変異体ssIIa子孫を、反復親としてのEGA HumeまたはWestoniaとの3連続の戻し交配に使用し、結果としてBC3植物を得た。二重突然変異体を交配及び自殖して466個のF2子孫を生じさせ、それらから合計21個の三重ヌルssIIa植物(「abd」遺伝子型と呼称する)を選抜した(
図6及び
図7)。466個の子孫には、野生型の一重ヌルssIIa及び二重ヌルssIIa遺伝子型、ならびに3つのSSIIa遺伝子のヘテロ接合体のあらゆる組み合わせが含まれていた。
【0300】
3つの遺伝的背景にまたがる21個の三重ヌル突然変異体の生産及び選抜に続いて、3世代の単粒系統法(SSD)を実施して、向上したホモ接合性を3つの遺伝的背景の各々において生じさせ、穀粒のBC3F3、BC3F4及びBC3F5世代をもたらした。BC3F5穀粒を3栽培世代でさらに増やして各系統のBC3F8世代の穀粒10~20gを生産した。
【0301】
また、三重野生型SSIIa分離個体(ABD遺伝子型)を交配種から生じさせ、対照系統として選抜した。世代ごとに各ゲノムについてssIIa突然変異体または野生型SSIIa対立遺伝子を選抜するために、各世代において3つ全てのゲノムのDNAマーカーを使用した。最終的に、EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景についてBC3F8世代の三重ヌル突然変異体ssIIa系統がそれぞれ4個、6個及び11個作り出され、EGA Hume、Sunco及びWestoniaの遺伝的背景について5つずつの野生型SSIIa BC3F8系統が作り出された。これらを同じ栽培条件下で同時に栽培し、植物成熟時に穀粒を収穫し、穀粒を水分含有量が約9%(重量基準)になるまで乾燥させた。これらの穀粒ロットを、以下に記載するように種子重量、澱粉含有量、アミロース含有量、総繊維質、脂質含有量などを含めた様々なパラメータについて分析した。
【0302】
実施例5.穀粒及び澱粉のパラメータの分析
穀粒重量。3つの遺伝的背景の三重ヌルssIIa突然変異体及び野生型穀粒の平均穀粒重量(穀粒1粒あたりのmg)は、各系統からの100粒の穀粒の重量を測定することによって算出した。穀粒1粒あたりの平均重量は、ssIIaヌル突然変異体では25~36mgの範囲であり、野生型系統では29~48mgの範囲であった(表6、
図8)。植物は理想的栽培条件とはほど遠い条件下で栽培したが、それが原因で野生型対照でさえ低重量となった。平均データを
図9に示す。野生型系統と比べて三重ヌル突然変異体ssIIa穀粒は穀粒重量がより小さく、その差はSuncoを含む各遺伝的背景において有意であった(P<0.05)(表7、
図9)。Sunco、EGA Hume及びWestoniaの突然変異体は穀粒重量がそれぞれ25%、15%及び30%低かった。これは、SSIIaが澱粉産生に関与する澱粉合成酵素をコードすること、及びSSIIaの突然変異体が澱粉を少なめに産生すると知られていること(Yamamoto et ao.,2000、Konik-Rose et al.,2007)を考慮すれば驚くべきことではなかった。
【0303】
Sunco及びWestonia突然変異体の穀粒重量に統計的有意差はなかった。EGA Hume突然変異体穀粒は、他の2つの遺伝的背景の三重ヌルssIIa突然変異体よりも有意に重い穀粒重量を有していた。
【0304】
脂質含有量。総脂肪酸含有量(脂質含有量)は、実施例1で記載されているとおりに測定した。個々の系統のデータを表5及び
図8に示す。三重ヌルssIIa突然変異系統は野生型に比べてTFA含有量が有意に増加していると分かった。詳細には、3つのSunco突然変異系統(JTSBC3F7_190、JTSBC3F7_287、JTSBC3F7_294)からの穀粒は、穀粒重量に対する百分率で表した脂質含有量が有意に増加していた。
【0305】
穀粒1粒あたりの基準で脂質含有量を算出した場合、突然変異系統は、脂質レベルが穀粒1粒あたりのmgで上昇を呈することが認められた(
図15及び
図16)。
【0306】
アミロース含有量。3つの遺伝的背景の三重ヌルssIIa突然変異体及び野生型穀粒中の澱粉に対する割合で表したアミロース含有量は、実施例1に記載のヨウ素結合アッセイによって測定した。データを表6及び
図10に示し、平均を表7及び
図11に示す(Sunco)。三重ヌル突然変異体のアミロース含有量は36.6~64%の範囲であり、野生型穀粒では22.6~31.0%の範囲であった。野生型穀粒に比べてヌルssIIa突然変異体は、総澱粉に対する割合で表したアミロース含有量がより大きく、その差は統計的に有意であった。Sunco、EGA Hume及びWestonia突然変異体穀粒は、対応する野生型に比べてアミロースのレベルがそれぞれ187%、135%及び165%であった。3つの遺伝的背景の三重ヌル突然変異体穀粒を比較すると、Sunco穀粒は他の2つのヌル突然変異体穀粒試料よりも有意に高い割合のアミロースを含有していた。EGA Hume突然変異体とWestonia突然変異体との間には統計的有意差はなかった。同様に、3つの野生型穀粒試料の間には統計的有意差がなかった。6つのSunco三重ヌル突然変異系統のうち3つから得られる穀粒は、穀粒中の澱粉に対する割合で表して61.6%、64%及び55.1%のアミロースを含有していた。これらの値は、六倍体コムギのssIIa突然変異体穀粒において以前にみられた値(Yamamoto et al.,2000、Konik-Rose et al.,2007)よりもはるかに高く、そのため本発明者らにとって予期せぬ驚くきであった。
【0307】
アミロース含有量を穀粒1粒あたりの基準(穀粒1粒あたりのmgアミロース)で算出した場合、突然変異系統は総じて穀粒1粒あたりのmgでのアミロースレベルの上昇を呈さず(
図17及び
図18)、むしろアミロペクチンレベルの低下を呈し、したがって総澱粉含有量の減少を呈した。本発明者らは、これが3つのSSIIa遺伝子の突然変異、したがって植物生育時に胚乳が発達する間のSSIIa酵素活性の喪失によるものであると結論付けた。
【0308】
澱粉含有量。3つの三重ヌルssIIa突然変異体及び3つの野生型系統の穀粒中の澱粉含有量は、実施例1で記載されているとおりに測定した。データを表6及び
図10に示し、平均を表7(Sunco)及び
図11に示す。澱粉含有量は三重ヌルssIIa突然変異体では30.4~70.0%の範囲であり、野生型穀粒では58.1~74.3%の範囲であった。野生型系統の澱粉含有量に比べてEGA Hume、Sunco及びWestonia突然変異体穀粒は、それらの対応する野生型系統よりも澱粉が平均でそれぞれ15%、28%及び18%少なかった。これらの差は統計的に有意であった(p<0.05)。Sunco突然変異体穀粒は、他の2つの遺伝的背景のssIIa突然変異体穀粒よりも有意に少ない澱粉を含有していた。EGA Hume突然変異体穀粒の澱粉含有量にはWestonia穀粒との有意な差がなかった。3つのSunco突然変異系統(JTSBC3F7_190、JTSBC3F7_287及びJTSBC3F7_294)からの穀粒は澱粉含有量が低く、それぞれ42.5%、34.8%及び30.4%であった。上記これらの系統はさらに、それらの澱粉に対する割合で表したアミロース含有量が最も高く、これらの系統においてアミロペクチン合成が最も低減されたことを示唆していた。穀粒1粒あたりのmg澱粉の基準で算出した場合、ssIIa突然変異体穀粒における澱粉含有量の減少は明らかであり(
図17及び
図18)、同じくSSIIa活性の喪失を原因としていた。
【0309】
β-グルカン含有量。三重ヌルssIIa突然変異体穀粒及び野生型穀粒のβ-グルカン(BG)含有量は、実施例1で記載されているとおりに測定した。データを穀粒全体に対する重量/重量百分率として表6及び
図12に示し、平均を表7(Sunco)及び
図13に示す。BG含有量は、三重ヌルssIIa突然変異体では1.3~3.3%の範囲であり、野生型穀粒では0.3~0.8%の範囲であった。野生型穀粒に比べて突然変異体EGA Hume、Sunco及びWestoniaはBGがそれぞれ144%、245%及び177%多かった。この約1.5~2.5倍の増加は本発明者らにとって驚くべきことであった、というのも、六倍体コムギにおいてそのような特徴は以前には報告されていなかったからである。Sunco突然変異体穀粒は、EGA Hume及びWestonia突然変異体穀粒に比べてBGが有意に多かった(p<0.05)。アミロースレベルが最も高かった3つのSunco突然変異系統(JTSBC3F7_190、JTSBC3F7_287及びJTSBC3F7_294)の穀粒は最も高い含有量のBGも含有しており、それぞれ2.5%、3.3%及び3.2%であった。これは、ssIIa突然変異体におけるアミロース含有量とBG含有量とのそれぞれ重量基準での相関を実証した。
【0310】
穀粒1粒あたりの基準で算出した場合、突然変異体穀粒はBGのレベルが有意に上昇していたことが認められた(
図19及び
図20)。本発明者らは、これが、二糖類または単糖類として穀粒中に入ってくる炭素が野生型に比べてアミロペクチンからBGへと転用されていることによるものであると考察した。
【0311】
フルクタン含有量。三重ヌルssIIa突然変異体穀粒及び野生型穀粒のフルクタン含有量は、実施例1で記載されているとおりに測定した。データを穀粒全体に対する重量/重量百分率として表6及び
図14に示し、Suncoについて平均を表7に示す。フルクタン含有量は、三重ヌルssIIa突然変異体では3.1~10.8%の範囲であり、野生型穀粒では0.7~1.5%の範囲であった。野生型穀粒に比べて、EGA Hume、Sunco及びWestonia突然変異体穀粒はフルクタンがそれぞれ242%、521%及び376%多かった。Sunco突然変異体穀粒は、EGA Hume及びWestonia突然変異体穀粒に比べてフルクタンが有意に多かった(P<0.05)。3つの高アミロースSunco突然変異系統(JTSBC3F7_190、JTSBC3F7_287及びJTSBC3F7_294)は最も高い含有量のフルクタンも含有しており、それぞれ7.7%、10.8%及び10.5%であった。重量基準でのそのようなレベルのフルクタンが六倍体コムギ穀粒において以前に報告されたことはなかった。これは、ssIIa突然変異体ではアミロースの増加及びBGの増加だけでなくフルクタンの増加も相関していることを実証した。
【0312】
穀粒1粒あたりの基準で算出した場合、突然変異体穀粒はフルクタンのレベルが有意に上昇していたことが認められた(
図21及び
図22)。本発明者らは、これが、胚乳の発達中に二糖類または単糖類として穀粒中に入ってくる炭素が野生型に比べてアミロペクチンからフルクタンへと転用されていることによるものであると考察した。
【0313】
アラビノキシラン含有量。三重ヌルssIIa突然変異体穀粒及び野生型穀粒のアラビノキシラン(AX)含有量は、実施例1で記載されているとおりに測定した。データを穀粒全体に対する重量/重量百分率として表6及び
図14に示し、Suncoについて平均を表7に示す。AX含有量は、三重ヌルssIIa突然変異体では6.7~8.8%の範囲であり、野生型穀粒では4.3~5.7%の範囲であった。野生型穀粒に比べて、EGA Hume、Sunco及びWestonia突然変異体穀粒はAXがそれぞれ35%、65%及び43%多かった。Sunco突然変異体穀粒は、EGA Hume及びWestonia突然変異体穀粒に比べてAXが有意に多かった(P<0.05)。3つの高アミロースSunco突然変異系統(JTSBC3F7_190、JTSBC3F7_287及びJTSBC3F7_294)は最も高い含有量のAXを含有しており、それぞれ8.7%、8.5%及び8.4%であった。これは、4つのパラメータ、すなわちアミロースの増加、BGの増加、フルクタンの増加及びAXの増加がssIIa突然変異体において相関していることを実証した。穀粒1粒あたりの基準でのアラビノキシラン含有量も有意に増加した(
図21及び
図22)。
【0314】
セルロース含有量。三重ヌルssIIa突然変異体穀粒及び野生型穀粒のセルロース含有量は、実施例1で記載されているとおりに測定した。データを穀粒全体に対する重量/重量百分率として表6及び
図14に示し、Suncoについて平均を表7に示す。セルロース含有量は、三重ヌルssIIa突然変異体では2.6~4.6%の範囲であり、野生型穀粒では2.0~3.4%の範囲であった。野生型系統に比べて、突然変異体EGA Hume、Sunco及びWestoniaはセルロースがそれぞれ19%、43%及び29%多かった。3つのヌル突然変異体の間にセルロース含有量の有意差はなかった。3つの高アミロースSunco系統(JTSBC3F7_190、JTSBC3F7_287及びJTSBC3F7_294)は高い含有量のセルロースを含有しており、それぞれ4.3%、3.9%及び4.6%であった。セルロース含有量は穀粒1粒あたりの基準では有意に増加しなかった(
図21及び
図22)。
【0315】
総繊維質含有量。三重ヌルssIIa突然変異体穀粒及び野生型穀粒の総繊維質含有量は、β-グルカン(BG)、フルクタン、アラビノキシラン(AX)及びセルロースの(それぞれ穀粒重量に対する百分率で表した)含有量の総和として算出した。データを穀粒全体に対する重量/重量百分率として表6及び
図12に示し、平均を表7及び
図13に示す。穀粒の総繊維質含有量は、ヌルssIIa突然変異体では15.9~27.5%の範囲であり、野生型穀粒では8.5~10.4%の範囲であった。野生型穀粒に比べて、EGA Hume、Sunco及びWestoniaの突然変異体は総繊維質含有量がそれぞれ68%、125%及び88%多かった。Sunco突然変異体穀粒は、総繊維質がEGA Hume及びWestonia突然変異体穀粒よりも有意に多かった(P<0.05)。EGA Hume及びWestonia突然変異体穀粒の間に総繊維質含有量の有意差はなかった。3つの高アミロースSunco突然変異系統(JTSBC3F7_190、JTSBC3F7_287及びJTSBC3F7_294)は最も高い総繊維質含有量を含有しており、それぞれ23.2%、26.5%及び27.5%であった。総繊維質含有量は穀粒1粒あたりの基準でも有意に増加した(
図19及び
図20)。
【0316】
耐性澱粉(RS)含有量。Suncoの遺伝的背景を有する三重ヌルssIIa突然変異体及び野生型穀粒の澱粉に対する百分率で表したRS含有量は、実施例1に記載の市販の耐性澱粉分析キットを使用して測定した。データを表8に示し、平均を
図23に示す。RS含有量は、三重ヌル突然変異体では1.0~3.8%の範囲であり、野生型穀粒では0.4~0.8%の範囲であった。野生型穀粒に比べてssIIa突然変異体はRS含有量が約5倍多く、差は統計的に有意であった。Suncoの遺伝的背景を有する6つのSunco三重ヌル突然変異系統のうちの3つからの穀粒は、穀粒中の澱粉に対する百分率で表して3.8%、2.8%及び3.1%のRSを含有していた(
図23、上パネル)。穀粒1粒あたりのmgとして算出したRSのレベルも有意に上昇していた(
図23、下パネル)。
【0317】
論考。澱粉顆粒形態、アミロース含有量、アミロペクチン鎖長分布、結晶性及び澱粉糊化温度、RVA及び膨潤力(Yamamori et al.2000、Yamamori et al.2006、Konik-Rose et al.2007)を含めて多くの澱粉特性が三重ヌルssIIa六倍体コムギにおいて改変されることが以前に報告されている。本研究は、本発明者らが驚いたことに、いくつかの系統において45%を超えて増加した澱粉中アミロース含有量を含めた穀粒組成パラメータにssIIaヌル突然変異の遺伝的背景が影響を与えたことを発見した。商業的に栽培されているコムギ栽培品種を使用して、異なる遺伝的背景を有する3つの戻し交配集団を作り出し、ssIIaヌル突然変異のDNAマーカーを使用して遺伝子型を判定した。3つの育種集団の各々から、各遺伝的背景を有する4~11個の三重ヌルssIIa突然変異体系統及び5つの野生型系統を選抜し、分析した。
【0318】
各遺伝的背景を有する種子重量及び穀粒組成の分析によって、高アミロース、高繊維質、高AX及びBGならびに高フルクタンである3系統が同定された。これら3系統は、同じ遺伝的背景すなわちSuncoとの交配から得られたものである。約60%のアミロース、23%超の総繊維質及び7%超のフルクタンを含有するコムギ系統が同定及び選抜された。そのようなレベルは六倍体コムギにおいて以前に報告されたことはなく、本発明者らにとっては全く予期せぬことであった。増加は穀粒1粒あたりの基準でも認められた。これらの高アミロースssIIaヌル突然変異体は、増加したBG、AX及びセルロースも含有しており、これらのパラメータの相関が実証された。しかしながら、これら3つの突然変異系統は、アミロペクチン合成のかなりの減少に起因して澱粉含有量及び種子重量の減少も示した。
【表6a】
【表6b】
【表6c】
【表7】
【表8】
【0319】
実施例6.SSIIa突然変異と他の澱粉合成遺伝子突然変異または抑制性構築物との組み合わせ
実施例1に記載の3つのSSIIa遺伝子について三重ヌル突然変異体であるコムギ植物を、胚乳における澱粉枝作り酵素II(SBEII)活性が低減されたhp-SBEIIaと呼ぶヘアピンRNA構築物を含む植物(Regina et al.,2006)と交配した。hp-SBEIIa親植物は、穀粒澱粉において高アミロース表現型を示した(Regina et al.,2006)。F1植物を得て自殖させてF2子孫穀粒を実らせた。Konik-Rose et al.(2007)で記載されている、各プライマー対が特定ゲノムからのssIIa突然変異遺伝子に対して特異的である3つの異なるプライマー対を使用して、PCRによって288粒のF2穀粒のスクリーニングを行った。これにより、YDH7と呼称されるホモ接合体である1つの三重ヌルssIIa穀粒が同定され、これは、3つのSSIIa遺伝子の各々について野生型対立遺伝子を欠くものであった。YDH7のDNAのさらなる試験によって、3つの突然変異型ssIIa遺伝子に加えてhp-SBEIIa遺伝子構築物がこの穀粒中に存在していることが確認された。穀粒を発芽させて、本明細書中でYDH7系統と呼称される子孫の植物及び穀粒を生産した。
【0320】
同様にして、SSIIaに三重ヌル突然変異を含む植物を、Regina et al.,2004で記載されているsbeI三重ヌルコムギ系統の植物と交配する。コムギSBEI遺伝子のイントロン2領域から設計されたPCRに基づく制限増幅産物(CAPs)マーカーを使用して、F2の半分の種子から抽出したDNAに対して各SBEI遺伝子におけるヌル突然変異のスクリーニングを行う。マーカーは、DゲノムからのSBEI-D遺伝子から460bpのDNA断片、BゲノムからのSBEI-B遺伝子から390bpのDNA断片、及びAゲノムからのSBEI-A遺伝子から200bpのDNA断片を生成する。これらのSBEIゲノム特異的断片とは別に、このCAPSマーカーは、SBEI遺伝子に特異的でなくPCR反応の内部対照として役立つ250bpのDNA断片も生じさせる。野生型遺伝子から増幅されたSBEI特異的DNA断片を欠く穀粒が同定され、それらがsbeIについて三重ヌル突然変異体であることが示唆される。その後、これらの三重ヌル穀粒をPCRによってssIIaヌル突然変異の存在について試験する。これらの穀粒を播種して、ssIIaとsbeIとの突然変異の組み合わせを含有し各突然変異体対立遺伝子についてホモ接合体である植物及び穀粒を生産する。
【0321】
実施例7:澱粉顆粒及び澱粉特性の分析
三重突然変異体ssIIa穀粒から生産した全粒粉の中の澱粉顆粒を調べた。全粒粉から抽出した澱粉の特性も以下のとおりに分析した。これらの分析のために、A24、B22、B29、B63及びE24と呼称される5つのssIIa突然変異コムギ系統をKonik-Rose et al.(2007)の倍加半数体集団から選抜し、澱粉及び顆粒の特性について分析した。各系統及び対応する野生型系統からの穀粒試料(20g)を14%の水分含有量に調整した後、穀粒をQuadramat Jnr.ミル(Brabender,Cyrulla’s Instruments,Sydney,Australia)で粉砕して全粒粉にした。プロテアーゼ抽出法(Morrison et al.,1984)ならびにそれに続く水洗及び排水によって澱粉を全粒粉から単離した。
【0322】
澱粉顆粒形態及び複屈折の変化。全粒粉試料中の顆粒の澱粉顆粒形態及び偏光下でのその複屈折を調べた。走査電子顕微鏡法を用いて澱粉顆粒の径及び構造の全体的変化を同定した。野生型の顆粒に比べて、SSIIaを欠く胚乳からの澱粉顆粒は顕著な形態学的変化を呈した。それらは形状が非常に不規則であり、A顆粒(直径10μm超)の多くは形が鎌状であるようであった。対照的に、野生型全粒粉中のA澱粉顆粒及びB澱粉顆粒(直径10μm未満)はどちらも表面が滑らかであり、形が球状または楕円形であった。
【0323】
偏光下で顕微鏡観察を行ったところ、野生型澱粉顆粒は典型的に強い複屈折模様を示した。しかしながら、三重ヌルssIIa穀粒からの顆粒では複屈折の入射角が大幅に減少した。偏光下で視覚化した場合、突然変異体ssIIa穀粒からの澱粉顆粒の10%未満が複屈折性であった。対照的に、野生型澱粉顆粒のうち約94%は十分な複屈折を呈した。したがって、複屈折の喪失はSSIIaの欠如及び増加したアミロース含有量と相関していた。
【0324】
FACEによる澱粉の鎖長分布。イソアミラーゼで枝切りされた澱粉の鎖長分布を、実施例1で記載されているとおりに蛍光標識糖鎖電気泳動(FACE)によって決定した。この技術は、野生型澱粉と比べたときの改変型澱粉のDP1~50の範囲内の鎖長分布及び異なる長さの鎖の相対頻度についての高分解能な分析をもたらした。野生型澱粉の正規化鎖長分布を三重突然変異体ssIIa澱粉の正規化分布から差し引いたモル差プロット(
図24)からは、三重ヌルssIIa穀粒から得られる澱粉においてDP7~10の鎖長の割合が際立って増加したこと及びDP11~24の鎖長がかなり減少したことが認められた。また、DP26~36の鎖長が僅かに増加していた。
【0325】
アミロペクチン及びアミロースの分子量。突然変異体穀粒からの澱粉の分子量分布をイソアミラーゼによる枝切りの後にサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定した。イソアミラーゼ枝切り処理は、アミロペクチンのα-1,6結合の各々を切断して別個の鎖を遊離させるがアミロースはほとんどそのままで残し、したがってアミロース(最初に溶出する)とアミロペクチンからのグルカン鎖とを大きさに基づいて分離することを可能にする。
図25は、結果として得られた、枝切りされた澱粉についての重合度に応じたSEC記録曲線を示す。三重ヌルssIIa突然変異体穀粒の澱粉中のアミロースの相対量(最初のピーク)は野生型澱粉に比べてかなり増加し、アミロペクチンの量(ピークIII)は野生型に比べて大幅に減少した。三重ヌルssIIa突然変異体穀粒の澱粉中のアミロースの平均分子量は野生型澱粉中のアミロースのそれに比べて減少していると見受けられ、アミロースピーク位置が274kDaにあったのに対して野生型では330kDaにあった(
図25)。
【0326】
澱粉膨潤力(SSP)。糊化澱粉の澱粉膨潤力は、澱粉の糊化中の水の取込みを測定するKonik-Rose et al.,(2001)の小規模試験に倣って決定した。SSPの推定値は、野生型から得られた澱粉では11.79であったのに比べて、三重ヌルssIIa穀粒から得られた澱粉では顕著により低く、6.85の数値であった。
【0327】
澱粉ペースト化特性。澱粉ペースト粘度パラメータは、本質的にはRegina et al.,(2004)で記載されているとおりにRapid Visco Analyzer(RVA)を使用して決定した。RVAの温度プロファイルは以下の段階を含んでいた:60℃で2分間保持、6分掛けて95℃まで加熱、95℃で4分間保持、4分掛けて50℃まで冷却、そして50℃で4分間保持。結果は、ピーク及び最終粘度が三重ヌルssIIa穀粒(それぞれ105.5及び208.6)では野生型コムギ澱粉(それぞれ232.3及び350.6)に比べて顕著に低かったことを示した。
【0328】
澱粉糊化特性。澱粉の糊化特性は、Regina et al.,(2004)で記載されているとおりように示差走査熱量測定(DSC)を用いて試験した。DSCはPerkin Elmer Pyris 1示差走査熱量計で行った。澱粉及び水を予混合し、1:2の割合で予混合し、約50mgをDSCのパンに計量して密封し、一晩放置して平衡化した。1分につき10℃の加熱速度を用いて試験試料及び基準試料を30℃から130℃まで加熱した。データは機器に利用することができるソフトウェアを使用して解析した。結果は、三重ヌルssIIa穀粒からの澱粉の糊化終了温度(61.5℃)が対照(67.1℃)に比べて低かったことを明確に示した。糊化ピーク温度も三重ヌルssIIa澱粉(55.4℃)では対照澱粉(61.3℃)に比べてより低かった。したがって、三重ヌルssIIa穀粒からの澱粉は、顕著により低い糊化温度及び減少した糊化エンタルピーを有する。
【0329】
穀粒組成変化。SSIIa活性の喪失によって誘導された穀粒成分の変化を決定するために三重ヌルssIIaコムギ穀粒の大まかな組成を分析した。ssIIa全粒粉小麦粉のスクロースレベルは野生型コムギNB1のそれに比べて増加した。糖全体の含有量もssIIa突然変異体澱粉では野生型澱粉に比べてより高かった。ssIIa穀粒から、及びhp-SBEIIa遺伝子構築物(Regina et al.,2006)を含む別の穀粒からの全粒粉は、穀粒中タンパク質のレベルが19%超で増加していた一方、野生型全粒粉のレベルは11~13%の範囲であった。全食物繊維(TDF)は、野生型の値が11.0%であったのに比べてssIIa澱粉では19.2%のレベルでより高かった。他の穀粒成分、例えば、中性非澱粉性多糖類(NNSP)、総抗酸化物質及び総脂質のレベルは、ssIIa小麦粉では野生型コムギのそれに比べて比較的より高かった。NNSPは、野生型NB1では8.3%であったのに比べてssIIa突然変異体では最高値の13.8%を記録した。総澱粉含有量は、NB1及びYDH7では60%超であったのに比べてssIIa突然変異体穀粒では約53%であった。
【0330】
実施例8:パン及びその他の食品製品の生産
パン及び朝食用シリアルなどの食品製品は、改変型コムギ澱粉を食事に取り入れる効果的な方法である。高アミロースコムギをパン及び朝食用シリアルに容易に組み込むことができることを示すためならびに食品品質の保持を可能にする因子を調べるために、小麦粉の試料を作り、分析し、焼成実験または押出実験において使用した。30%と60%と100%との3つの添加レベルでYDH7小麦粉を使用して小規模のパン焼成を行い、hp-SBEIIa遺伝子構築物を含む穀粒及び野生型NB1からの小麦粉の焼成と比較した。YDH7またはhp-SBEIIaのどちらの小麦粉の添加レベルを増やしても、顕著にRSが増加し、GIが低下した。
【0331】
ssIIa突然変異コムギからの全粒粉から押出しされた朝食用シリアルを作り、野生型コムギからの対応する朝食用シリアルと比較した。朝食用シリアルは、三重ヌルssIIaコムギを使用した場合にはRSのレベル(4.3%)が野生型コムギ(1.3%)に比べて上昇した。押出プロセスの溶融温度を110℃から140℃に上げると、三重ヌルssIIaコムギを使用した場合にはRS含有量が僅かに減少した。結果はさらに、三重ヌルssIIaコムギからの全粒粉朝食用シリアルのHI(GI値を推定するための加水分解指数)値が72であり、野生型コムギのそれが82であったのに比べてより低くなったということを示した。
【0332】
大規模にssIIaコムギからパンを製造するために以下の方法を採用する。多量のコムギ穀粒を一晩掛けて水分含有量16.5%に調整し、その後、粉砕及び篩掛けして約150μmの最終平均粒径を達成する。粉砕した試料のタンパク質及び水分の含有量は、AACC法39-11(1999)に則って赤外線反射率(NIR)によって、またはAACC法44-15A(AACC5 1999)に則って空気乾燥機を使用するDumas法によって、決定する。
【0333】
微小Zアーム混合。小麦粉の最適吸水値は、例えば混合1回につき4gの試験小麦粉を使用して(Gras et al.,(2001)、Bekes et al.,(2002))、一定角速度で高速ブレード及び低速ブレードのシャフト速度をそれぞれ96rpm及び64rpmとしてZアームミキサーを使用して決定する。混合は約20分間行う。水を小麦粉に添加する前に、固形成分のみを混合することによってベースラインが自動的に30秒間記録される。水の添加は、自動給水ポンプを使用して1ステップで行う。以下のパラメータは個々の混合実験から平均をとることによって決定する:WA%-吸水性は500ブラベンダーユニット(BU)の生地硬さで決定する;生地形成時間(DDT):ピーク抵抗に至るまでの時間(秒)。
【0334】
ミキソグラム。改変型コムギの小麦粉の最適生地混合パラメータを決定するために、Zアームミキサーで決定される吸水性に対応する可変吸水性を有する試料を、生地総質量を一定に保ちながらミキソグラフで混合する。各小麦粉試料について以下のパラメータを記録する:MT-混合時間(秒);PR-ミキソグラフピーク抵抗(任意単位、AU);BWPR-ピーク抵抗時のバンド幅(任意単位、AU);RBD-抵抗崩壊(%);BWBD-バンド幅崩壊(%);TMBW-最大バンド幅に至るまでの時間(秒);及びMBW-最大バンド幅(任意単位、AU)。生地伸張性パラメータは以下のとおりに測定する:生地をミキソグラフでピーク生地形成になるまで混合する。配置の改変されたKieffer生地グルテン伸張具(Mann et al.,2003)を使用してTA.XT2i質感分析器で1cm/秒で伸長試験を行う。伸長試験用の生地試料(約1.0g/試験)をKieffer型入れ機で成形し、30℃及び90%RHで45分間置いた後、伸長試験を行う。データからExceed ExpertソフトウェアによってR_Max及びExt_Rmaxを決定する(Smewing,TX2 texture analyzer handbook,SMS Ltd:Surrey,UK,1995)。
【0335】
100%としての小麦粉14gに基づく例示的レシピは以下のとおりである:小麦粉100%、塩2%、ドライイースト1.5%、植物油2%及び改良剤(アスコルビン酸100ppm、真菌アミロース15ppm、キシラナーゼ40ppm、大豆粉0.3%、Goodman Fielder Pty Ltd,Australiaより入手)1.5%。水添加レベルは配合物全体として調節されるZアーム吸水値に基づく。小麦粉(14g)及びその他の原料をミキソグラフでピーク生地形成時間まで混合する。成型及び調理は40℃で85%RHでの2つの発酵ステップで行う。焼成はRotelオーブンで15分間190℃で行う。膨化体積(キャノーラ種子変位法で決定される)及び重量測定は、パン塊を棚で2時間冷ました後に行う。正味の水分損失は、経時的にパン塊を計量することによって測定する。
【0336】
小麦粉または全粒粉は、非改変型コムギまたは他のオオムギなどの禾穀類から得られる粉末または全粒粉とブレンドされて所望の生地及び製パンまたは栄養の質を提供し得る。例えば、栽培品種CharaまたはGlenleaからの小麦粉は高い生地強度を有するが、栽培品種Janzからのものは中程度の生地強度を有する。特に、小麦粉中の高及び低分子量のグルテニンサブユニットのレベルは生地強度との正の相関があり、存在する対立遺伝子の性質によってさらに影響を受ける。
【0337】
生地調製及び製パンについての上記方法に従って系統YDH7からの小麦粉を100%、60%及び30%の添加レベルで使用した。つまり、YDH7か対照小麦粉かのどちらかから得られる小麦粉100%または、重量表示で60%もしくは30%のYDH7小麦粉を焼成対照(B.extra)小麦粉とブレンドした。百分率は、パン配合物中の全小麦粉に対する百分率であった。非改変型コムギの小麦粉は野生型栽培品種NB1から得たものであった。穀粒試料をBrabender Quadramat Juniorミルで粉砕した。全ての小麦粉ブレンドは、それらの上記のようなZアームミキサーで決定した吸水性とミキソグラフで決定した最適混合時間とを有していた。これらの条件を用いて試験焼成パン塊を作製した。
【0338】
混合特性。野生型小麦粉(焼成対照、NB1)を専ら使用する対照試料を除いて、他の全ての小麦粉試料は、上昇した吸水値を示した。また、YDH7系統からの小麦粉の組込みレベルの上昇は最適ミキソグラフ混合時間の短縮につながった。吸水データと一致して、YDH7からの小麦粉を含むパンは全て、比膨化体積(膨化体積/膨化重量)の減少を示し、YDH7小麦粉の添加レベルの上昇と相関していた。
【0339】
これらの試験は、対照小麦粉試料とブレンドされた改変型ssIIaコムギの小麦粉を使用して、クラムの構造、質感及び外観を含めた商業的潜在能を有するパンを得ることができることを示した。さらに、高アミロースssIIaコムギは、好ましい遺伝的背景特質(例えば、好ましい高及び低分子量グルテニン)あるいは食品加工の改変、例えばグルテン、アスコルビン酸塩もしくは乳化剤などの改良剤の添加または異なる製パン方式(例えば、中種法製パン、発酵生地、混合穀粒、または全粒粉)の利用などと組み合わせて使用されて、腸健康及び代謝健康の改善のための特定の有用性及び栄養上の有効性を有する様々な製品を提供し得る。
【0340】
他の食品製品:黄色アルカリ麺(YAN)(100%の小麦粉、32%の水、1%のNa2CO3)は、標準的なBRI Research Noodle Manufacturing Method(AFL029)を用いてHobartミキサーで調製する。Otake製麺機のステンレス鋼製ローラーで麺帯を形成させる。麺帯を(30分間)休ませた後に小さくして麺線に切断する。麺の寸法は1.5×1.5mmである。
【0341】
即席麺(100%の小麦粉、32%の水、1%のNaCl及び0.2%のNa2CO3)は、標準的なBRI Research Noodle Manufacturing Method(AFL028)を用いてHobartミキサーで調製する。Otake製麺機のステンレス鋼製ローラーで麺帯を形成させる。麺帯を(5分間)休ませた後に小さくして麺線に切断する。麺の寸法は1.0×1.5×25mmである。麺線を3.5分間蒸煮し、その後、150℃の油で45秒間揚げる。
【0342】
中種法(S&D)パン。BRI Research中種法焼成は、2ステップのプロセスを伴う。最初のステップでは、全小麦粉のうちの一部を水、イースト及びイーストフードと混合することによってスポンジを作る。スポンジを4時間発酵させる。次のステップでは、残りの小麦粉、水及び他の原料にスポンジを混ぜ込んで生地を作る。プロセスのスポンジ段階は200gの小麦粉で作られ、4時間の発酵が与えられる。生地は、残りの100gの小麦粉及び他の原料と発酵したスポンジとを混合することによって調製される。
【0343】
パスタ-スパゲッティ。パスタ製造に用いる方法は、Sissons et al.,(2007)で記載されているとおりである。ssIIa改変型コムギ及び野生型コムギからの小麦粉に、Manildraセモリナを様々な百分率(試験試料:0、20、40、60、80、100%)で混合して、小規模パスタ調製のためのミックス小麦粉を得る。試料の水分を30%に補正する。所望の量の水を試料に添加し、手短に混合した後、さらに2分間混合するための50gのファリノグラフボウルへ移す。結果として生じるコーヒー豆大の屑に似た生地をステンレス鋼製チャンバへ移し、50℃で9分間、7000kPaの圧力下に置く。その後、一定速度でパスタを押し出し、およそ48cmの長さに切断する。湿温蔵庫を使用してパスタを乾燥させる。乾燥サイクルは、25℃の保持温度と、それに続く65℃までの45分間の昇温と、その後50℃で約13時間の期間と、それに続く冷却とを用いる。サイクルの間、湿度は制御される。乾燥パスタを後の試験のために7cm条に切断する。
【0344】
実施例9:食品試料のグリセミック指数(GI)の試験管内測定
食品試料のグリセミック指数(GI)を以下のとおりに試験管内で測定した。試験管内方法は、ヒト対象によって摂取された場合に食品試料に何が起こるかを模擬し、生体内でのGI測定を予測する。食品試料を家庭用フードプロセッサで均質化した。およそ50mgの炭水化物に相当する量の試料を120mlプラスチック製試料容器に計量し、α-アミラーゼを含まない100μlの炭酸塩緩衝液を添加した。炭酸塩緩衝液の添加からおよそ15~20秒後に5mlのペプシン溶液(使用当日に作ったpH2.0の0.02MのHCl65mlに65mgのペプシン(Sigma)を溶解させたもの)を添加し、混合物を37℃で30分間、70rpmの往復運動水槽内でインキュベートした。インキュベートに続いて試料を5mlのNaOH(0.02M)で中和し、pH6の0.2Mの25mlの酢酸緩衝液を添加した。その後、2mg/mLのパンクレアチン(α-アミラーゼ、Sigma)とAspergillus niger由来の28U/mLのアミログルコシダーゼ(AMG、Sigma)とを酢酸ナトリウム緩衝液(0.20Mの塩化カルシウムと0.49mMの塩化マグネシウムとを含有するpH6.0の0.2Mの酢酸ナトリウム緩衝液)に溶解させた5mlの酵素混合物を添加し、混合物を2~5分間インキュベートした。各フラスコから溶液1mlを1.5mlチューブへ移し、3000rpmで10分間遠心分離した。上清を新たなチューブへ移し、冷凍庫内で貯蔵した。各試料の残部をアルミニウム箔で覆い、容器を37℃で5時間、水槽内でインキュベートした。各フラスコからさらに溶液1mlを採取し、遠心分離し、上清を先程と同様に移した。上清は、吸光度が読み取られ得るときまで冷凍庫内で貯蔵された。
【0345】
全ての上清を解凍し、3000rpmで10分間遠心分離した。試料を必要に応じて希釈し(大抵10分の1希釈で十分である)、各試料から上清10μlを96ウェルのマイクロタイタープレートへ2反復または3反復で移した。グルコース(0mg、0.0625mg、0.125mg、0.25mg、0.5mg及び1.0mg)を使用して各マイクロタイタープレートについて検量線を作成した。20μlのグルコーストリンダー試薬(Microgenetics Diagnostics Pty Ltd,Lidcombe,NSW)を各ウェルに加え、プレートを室温でおよそ20分間インキュベートした。プレートリーダーを使用して505nmで各試料の吸光度を測定し、検量線を参照してグルコースの量を算出した。
【0346】
YDH7コムギ系統からの小麦粉を使用して焼成したパン塊、形質転換されていない野生型コムギから作ったパンならびに、組込みレベル60%及び30%でYDH7小麦粉を使用して残り40%または70%を野生型穀粒からの小麦粉とした2つの小麦粉のブレンドから作ったパンを、上記方法を用いてGIについて試験した。組み込むYDH7小麦粉を増やすと、試験管内試験によって測定されるGIは顕著に低下した。
【0347】
実施例10:高アミロースコムギの加工及び結果として生じるRSのレベル
押潰しまたはフレーク化されたYDH7コムギ由来の加工済み穀粒の耐性澱粉(RS)含有量を決定するために小規模試験を行った。技術は、穀粒の水分レベルを1時間掛けて25%に調整すること及びそれに続いて穀粒を蒸煮することを伴うものであった。蒸煮の後、小型ローラーを使用して穀粒をフレーク化した。次いでフレークをオーブンで35分間120℃で焙焼した。SSIIaが低減された高アミロースコムギ及び野生型対照コムギ(栽培品種Hartog)からのおよそ200gの試料に対して2つのローラー幅及び3つの蒸煮タイミングを用いた。試験したローラー幅は0.05mm及び0.15mmであった。試験した蒸煮タイミングは60分、45分及び35分であった。
【0348】
この試験は、対照に比べて高アミロースコムギではRSの量が明確にかなり増加していることを示した。加工条件もRSレベルに対していくらかの影響を与えるものと見受けられた。例えば高アミロース穀粒では、蒸煮時間の延長はRSのレベルの僅かな低下につながり、それは蒸煮中の澱粉糊化の増進に起因している可能性が最も高かった。蒸煮時間を最も長くした場合を除き、ローラー間隙が広いほどRSレベルが高かった。これは、穀粒をより狭い間隙で押し潰した場合に澱粉顆粒の剪断損傷が増加してRSレベルが僅かに低下することに起因していた可能性がある。Hartog対照においても、全体としてのRSレベルはよりはるかに低いものの、ローラー間隙が狭いほど高いRSレベルにつながった。高アミロースの結果とは対照的に、蒸煮時間の延長はより高いRSレベルにつながり、これは、蒸煮時間が長いと澱粉糊化が増進して次の加工及び冷却の間により多くの澱粉が老化することに起因している可能性がある。
【0349】
実施例11:さらなるssIIa突然変異の作出及び同定
重イオン衝突によるコムギの突然変異誘発。重イオン衝突(HIB)などによる放射線による突然変異誘発はコムギゲノムに欠失突然変異を実用的頻度で容易に生じさせる。突然変異を起こしたコムギ集団を、一般的に使用される商用品種であるコムギ品種Charaにおいてコムギ種子のHIBによって作出した。Riken Nishina Centre,Wako,Saitama,Japanにて行った突然変異誘発のために2つの重イオン源、すなわち炭素及びネオンを使用した。突然変異を起こした種子を温室内で播種してM1植物を得た。次いでこれらを自殖させてM2世代を生産した。各々が異なるM1植物からのものであるおよそ15,000個のM2植物の各々から、DNA試料を単離した。
【0350】
A、B及びDゲノム上の各SSIIa遺伝子の増幅断片を生成するゲノム特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用してPCRによって各DNAに対して個々に各SSIIa遺伝子の突然変異のスクリーニングを行う。そのような診断的PCRプライマーは、当業者であれば、3つのゲノムヌクレオチド配列(配列番号7、8及び9)を比較すること及び、1つのゲノム配列に特異的にアニーリングするが他の2つにはアニーリングしないか、または結果として生じる増幅断片が制限酵素消化によって差次的に切断されて3つのゲノムSSIIa遺伝子ごとに異なる大きさの断片を生じさせる、オリゴヌクレオチド配列を選出することによって、容易に設計することができる。野生型(突然変異が起こされていない)DNA試料に対する各PCR反応が、A、B及びDゲノム上のSSIIaゲノムの増幅領域に対応する3つの別個の増幅産物をもたらすのに対して、突然変異を起こしたM2DNA試料からのPCRでの断片のうちの1つが存在していないことは、ゲノムのうちの1つにおいて対応する領域が存在していないことを示唆し、つまり、ゲノムの少なくとも一部が欠失している突然変異体対立遺伝子の存在を示唆している。そのような突然変異体対立遺伝子は確実にヌル対立遺伝子であろう。SBEIIa-及びSBEIIb-遺伝子特異的なプライマーを使用してそのようにしてスクリーニングした場合、15,000個のM2植物は、SBEIIa及び/またはSBEIIb遺伝子についての欠失突然変異体である合計34個の突然変異体を同定し(WO2012/058730)、この突然変異を起こしたM2集団における関心対象の遺伝子の欠失突然変異の頻度が1000系統あたり約1系統であることを示していた。したがって、M2系統のスクリーニングは、SSIIa遺伝子の、または当該遺伝子の中の欠失突然変異を各々が有している約15個の突然変異体を同定する。A、B及びDゲノム上のSSIIa遺伝子は診断的PCR反応によって区別されるので、突然変異体対立遺伝子はどの増幅産物が存在していないかによってゲノムのうちの1つに帰属される。このようにして15,000個のM2植物の集団からSSIIa-A、SSIIa-B及びSSIIa-D遺伝子の各々について約5つの突然変異体が同定される。
【0351】
各突然変異体における染色体欠失の程度は、マイクロサテライトマッピングによって決定される。SSIIa遺伝子の染色体位置である染色体7A、7B及び7Dの短いアームに前もって対応付けられたマイクロサテライトマーカーをこれらの突然変異体で試験して各突然変異体における各マーカーの存否を判定する。反応における適切な増幅産物の生成に基づいて特異的な染色体マイクロサテライトマーカーの全てあるいはほとんどが保持されている突然変異植物は、欠失突然変異が比較的小さいと推察される。そのような突然変異体は、他の重要な遺伝子が突然変異によって影響を受ける可能性がより低いことを考慮すれば好ましいものである。
【0352】
突然変異体の交配。SSIIa遺伝子の、または当該遺伝子の中の小さめの欠失についてホモ接合体であるとマイクロサテライトマーカー分析によって判定された突然変異植物を、多数のゲノム上の突然変異ssIIa対立遺伝子を有する子孫の植物及び穀粒を作り出す交配のために選抜する。交配からのF1子孫植物を自殖させ、F2種子を得、そのSSIIa遺伝子型を分析した。そのような突然変異体もまた、SSIIa遺伝子に点突然変異を含んでいる突然変異体と交配して欠失と点ssIIa突然変異との組み合わせを有する三重遺伝子突然変異体を生み出すことができる。
【0353】
点突然変異。一塩基多型(SNP)を含めて点突然変異は、公的に入手できる突然変異誘発コムギ植物のライブラリーにおいて同定されることができる。そのようなライブラリーとしては、例えば、John Innes Centre,UKから入手できるものが挙げられる。コムギSSIIaヌクレオチド配列(Genbank受託番号AB201445)を使用してBLASTソフトウェアによってJohn Innes Centreコムギデータベースを調べ、3つのSSIIa遺伝子の各々にSNPを含んでいる系統を同定した。SNPを3つのクラスに分類した。第1グループは、遺伝子のタンパク質コード領域内に新規な終止コドンを含んでいる突然変異SSIIa遺伝子を有する突然変異体を含むものであった。これらの突然変異は、その遺伝子によってコードされるSSIIaタンパク質の翻訳の未成熟停止を招くことが予想された。未成熟停止突然変異は、ナンセンス突然変異または「終止コドン獲得突然変異」としても知られ、突然変異がタンパク質コード領域の3’末端の近傍にないことを条件としてほぼ常にヌル突然変異である(但し、近傍にあってもヌル突然変異になることはある)。突然変異体の第2グループは、SSIIa遺伝子のスプライス部位のヌクレオチド多型をスプライス供与部位かスプライス受容部位かのどちらかに有する系統を含むものであった。そのような突然変異は、SSIIa遺伝子からのRNA転写産物のスプライシング異常を招くこと及びmRNAに重大な影響を与えることが予想された。スプライス部位突然変異はヌル突然変異であることが非常に多い。第3グループは、コードされるSSIIaポリペプチドにおけるアミノ酸置換を生じさせる点突然変異をSSIIa遺伝子のうちの1つに含む突然変異体からなり、これらは「ミスセンス突然変異」と呼称される。コードされるタンパク質の構造に各ミスセンス突然変異が与える影響は、Blosum62及びPam250行列を使用して予測される。
【0354】
第1及び第2グループにおいて同定されたSSIIa遺伝子突然変異体を表9に列挙する。SSIIa-A遺伝子については、5個のナンセンス突然変異、2個のスプライス部位突然変異及び49個のミスセンス突然変異がデータベースから同定された。ナンセンス突然変異のうちの2つは、異なるプールにおいて同定されたが、同一のものであった。SSIIa-B遺伝子については、2個のナンセンス突然変異、7個のスプライス部位変異型及び22個のミスセンス突然変異が同定された。SSIIa-D遺伝子については、2個のスプライス突然変異及び49個のミスセンス突然変異が同定された。いくつかの突然変異体はSSIIa遺伝子に2つ以上の多型を有し、例えばイントロンの多型を有するもの及びタンパク質コード領域内の多型を有するものがいくつかあった。
【0355】
TILLINGによる突然変異の同定。WO2014/028980で記載されている方法を用いてアジ化ナトリウムによるコムギ栽培品種Sunstateの種子の変異誘発の後に突然変異型植物系統の集団を生育させた。5千個のM1植物を栽培して成熟させ、それらを自家受粉させた。各植物から別々にM2種子を収穫し、それによって5000系統の突然変異誘発集団が生み出された。各系統の植物からの葉の切片(約2cm)からDNAを抽出した。プレートリーダー(FLUOstar Omega,BMG LABTECH)を使用してコムギの葉のDNAを定量し、ロボット機(Corbett Life Science)を使用して10ng/μlに正規化した。TILLINGのために8つの植物のセットからのDNA試料を各96プレートウェルにまとめてプールした。例えば95℃で5分間の1サイクル、その後94℃で45秒間の溶融と60~62℃のアニーリング温度での30秒間と72℃で2分30秒間の伸長とを35サイクル、その後72℃で10分間の1サイクル、続いて25℃への冷却によって、PCR反応を行ってSSIIa遺伝子のセグメントを増幅した。PCR増幅の質を調べるために、結果として生じるPCR断片(5μl)を1%または2%のアガロースゲル上で分離し、エチジウム染色後に可視化した(UVitec)。
【0356】
PCR機器を使用して、99℃で5分間の1サイクル、70℃から開始して1サイクルごとに0.6℃下げて行う20秒間のアニーリングの70サイクル、続いて25℃への冷却によって、PCR断片と野生型RNA転写産物とのヘテロ二本鎖形成を行う。5μlのヘテロ二本鎖形成PCR産物と共に5μlの2x緩衝液混合物と0.5μlのCelI酵素とを使用してヘテロ二本鎖をCelI酵素で消化する。緩衝液混合物は、pH7.5の20mMのHEPESと、20mMのMgSO4と、20mMのKClと、0.004%のTriton X-100と、0.4μg/mlのBSAから構成される。集めた反応系を混合して45℃で15~30分間インキュベートする。その後、Mutation Discoveryキット(DNF-910-K1000T)に従ってDNA断片を分離するために、消化したDNA試料をDNA断片分析器(Advanced Analytical Technologies)に投入する。あるいは、10個一組にした増幅産物の集まりをPCR産物の正規化後にプールし、1フローセルあたり1DNAプールで配列決定する。配列データを解析して、ssIIa遺伝子多型を有する系統を選抜する。kaspar技術に基づいて各多型のためにSNPアッセイを設計し、各プールにおいて特定多型について陽性であるM1系統に対して遺伝子型判定を実施する。それによって各突然変異遺伝子を含有する個々の突然変異系統が同定され、突然変異SSIIa配列が確認される。
【0357】
単一のSSIIa遺伝子に点突然変異を含有する植物を、他の2つのSSIIa遺伝子に突然変異を含有する植物と交配して、三重ヌルssIIa突然変異体を作出する。
【表9a】
【表9b】
【0358】
実施例12:ssIIa突然変異体穀粒中のタンパク質の分析
ssIIa突然変異体における澱粉生合成遺伝子の発現。A24、B22、B29、B63及びE24と呼ぶ5つのssIIa突然変異コムギ系統をKonik-Rose et al.(2007)の倍加半数体集団から選抜し、澱粉生合成に関係するいくつかのmRNA及びタンパク質の含有量を以下のとおりに分析した。15DPAのssIIa突然変異コムギ植物の発達中の穀粒におけるmRNA発現のレベルを、実施例1に記載の定量的逆転写PCR(qRT-PCR)によって野生型と比較した。各試料におけるRNAの定量は、恒常的に発現するチューブリン遺伝子を参照することによって行った。qRT-PCRデータから、ホモ接合体である三重突然変異体ssIIa胚乳におけるssIIa mRNAのレベルが、対応する野生型穀粒の場合よりも有意に低く(p<0.01)、対応する野生型コムギ胚乳に対してたったの約8%のレベルであることが明らかになった。対照的に、突然変異体穀粒でのSSI、SBEIIa及びSBEIIb転写産物のレベルは、対応する野生型の発達中の穀粒でのそれとほぼ同じであった。これは、突然変異体胚乳におけるssIIa mRNAに対する特異的な影響を示唆していた。
【0359】
成熟穀粒の澱粉中の顆粒結合型タンパク質の存在量の分析。タンパク質ゲル上のタンパク質バンドの強度及びゲルに装填されたタンパク質試料の量を比較するために、成熟ssIIa突然変異体及びSSIIa野生型穀粒からの澱粉顆粒として1~4mgの澱粉を、澱粉顆粒結合型タンパク質の抽出のために使用した。タンパク質は、実施例1で記載されているとおりにタンパク質ゲル上で分離した。少なくとも60kDaの分子量を有する4つのタンパク質が野生型成熟穀粒の澱粉顆粒に結合していると認められた。ssIIa突然変異体穀粒では、GBSSIであると同定された単一のタンパク質がおよそ60kDaと認められた。タンパク質バンドを定量したとき、タンパク質バンド強度と、野生型穀粒からのSSIIa、SBEII及びSSIの各々ならびに突然変異体穀粒中のGBSSIのタンパク質抽出のために使用した澱粉の量との間には正の相関があった。澱粉顆粒の中のSSIIa、SBEII及びSSIタンパク質のレベルが低いため、以下に記載のさらなる分析では澱粉顆粒結合型タンパク質を抽出するために4mgの澱粉の量を選択した。
【0360】
野生型コムギ穀粒のタンパク質抽出物をゲル電気泳動に供し、Syproによって染色した場合、約60kDa以上の分子量を有する4つの澱粉顆粒結合型タンパク質が認められた。それらは、イムノブロット分析によってSSIIa(約88kDa)、SBEIIa及びSBEIIb(それぞれ約83kDa)、SSI(約75kDa)ならびにGBSSI(約60kDa)ポリペプチドと同定された。SBEIIa及びSBEIIbはゲル上のほぼ同じ位置に移動したが、Sypro染色によって判定される野生型澱粉顆粒の中のSBEIIbの存在量はSBEIIaよりもはるかに多かった。
【0361】
ssIIa突然変異コムギ澱粉顆粒からのタンパク質をゲル電気泳動によって分析した場合、SSIIa及びSBEIIaタンパク質は検出されなかった。SSI及びSBEIIbタンパク質は、Sypro染色によって検出されなかったがイムノブロット分析によって検出することができ、但し、それら存在量が非常に少なかったため正確な定量はできなかった(
図26)。
【0362】
可溶性ストロマ内及び発達中の胚乳の澱粉顆粒内の澱粉生合成酵素のタンパク質存在量の分析。成熟した突然変異体穀粒の澱粉顆粒内のSSI、SBEIIa及びSBEIIbの濃度が低いのは、突然変異体穀粒にSSIIaタンパク質が存在しない時に穀粒発達中の合成速度が低いためであるのか否かを判定するために、可溶性ストロマ画分及び発達中の胚乳の澱粉顆粒の中のSSI、SBEIIa及びSBEIIbタンパク質を15DPAに定量した。定量は免疫検出法によって行った。発達中の胚乳の可溶性タンパク質を分析したところ、ssIIa突然変異体穀粒には、同じ段階(15DPA)のSSIIa野生型の発達中の穀粒に比べてSBEIIb及びSSIがどちらも顕著に増加した量で存在していた。対照的に、SBEIIaのレベルはssIIa突然変異体及びSSIIa野生型穀粒において類似していた。アミロプラストの可溶性画分中にSBEIIaはSBEIIbよりも多く存在していた。澱粉顆粒の中のSSI、SBEIIa及びSBEIIbタンパク質のレベルの低下は、発現レベルが低いことによるのではなく、澱粉顆粒から遠いストロマの可溶性画分中への局在を示唆して澱粉顆粒における結合性の低下を反映していると結論付けられた。
【0363】
発達中の穀粒の中の澱粉顆粒結合型タンパク質を分析したところ、突然変異コムギssIIa穀粒ではSSIIaタンパク質はイムノブロット分析によって検出されなかった。SBEIIbのレベルは野生型に比べて約25%低下した。突然変異体ssIIaの澱粉顆粒の中のSSIのレベルも、野生型レベルのおよそ25%であった。澱粉顆粒結合型タンパク質の量の同様の減少パターンが成熟胚乳において認められた。しかしながら、澱粉基準では、発達中の胚乳の澱粉顆粒結合型タンパク質中の澱粉生合成酵素の濃度は、成熟穀粒胚乳においてより高い澱粉レベルの希釈効果の結果として、成熟穀粒におけるそれよりも高かった。
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