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特許7502031医療用マニピュレーターの可撓チューブ及び屈曲構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】医療用マニピュレーターの可撓チューブ及び屈曲構造体
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/30 20160101AFI20240611BHJP
   B25J 18/06 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A61B34/30
B25J18/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019548145
(86)(22)【出願日】2018-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2018036882
(87)【国際公開番号】W WO2019073859
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2017198853
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真平
(72)【発明者】
【氏名】保戸田 裕樹
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】近藤 利充
【審判官】安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0135204(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0004648(US,A1)
【文献】中国実用新案第206924097(CN,U)
【文献】米国特許第5203380(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B34/30
A61B17/29
B25J18/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用マニピュレーターの駆動ワイヤーをシャフト部の第1結合部に対して軸方向に通し前記駆動ワイヤーの先端部を把持ユニットの第2結合部に固定し前記駆動ワイヤーの操作に応じて屈曲する管状の可撓チューブであって、
前記軸方向で山部と谷部とが交互に位置する波形部を有し前記山部及び谷部の伸縮によって屈曲可能な波形管部と、
前記波形部に設けられ前記駆動ワイヤーを前記軸方向で通すための通し部と、
前記波形管部の両端部に一体に設けられ前記第1結合部及び第2結合部に別々に嵌合する端管部と、
を備え、
前記波形管部は三次曲線状に湾曲した前記軸方向の一側の腹部及び他側の腹部が径方向でオーバーラップするように結合されて前記山部及び谷部が楔状の断面形状である、
ことを特徴とする可撓チューブ。
【請求項2】
請求項1記載の可撓チューブであって、
前記通し部は、前記軸方向で隣接する前記波形管部の山部と谷部との間の腹部に設けられた挿通孔である、
ことを特徴とする可撓チューブ。
【請求項3】
請求項2記載の可撓チューブであって、
前記挿通孔は、前記山部での外径及び前記谷部での内径の中間部に位置する、
ことを特徴とする可撓チューブ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の可撓チューブを備えた屈曲構造体であって、
前記波形管部内に配置され前記波形管部よりも前記軸方向の剛性が高く且つ前記波形管部と共に屈曲可能な弾性部材を備えた、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【請求項5】
請求項4記載の屈曲構造体であって、
前記弾性部材は、前記波形管部の軸心部に位置するコイルばね、中実柱状体、又は中空筒状体である、
ことを特徴とする屈曲構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術ロボット等の医療用マニピュレーターの屈曲部に適用可能な可撓チューブ及び屈曲構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医療においては、手術の際に患者及び医師の双方の負担を軽減可能とするために、手術ロボットのロボット鉗子や手動鉗子等の医療用マニピュレーターが普及してきている。
【0003】
ロボット鉗子や手動鉗子等の医療用マニピュレーターは、患者の小さな創から内視鏡カメラと共にアームを挿入し、医師が3Dモニターを通して術野を目で捉えながら、実際に鉗子を動かしている感覚で手術を行うことを可能とする。
【0004】
このような医療用マニピュレーターとしては、特許文献1のように、アームに屈曲部による関節機能を持たせることで、高い自由度を確保でき、より精緻な手術操作を可能とするものがある。
【0005】
この医療用マニピュレーターでは、アームの屈曲部にコイルスプリングを用い、内部を通る駆動ワイヤーを引くことによって、コイルスプリングを屈曲させるようになっている。
【0006】
こうした医療用マニピュレーターのアームは、患者の創を小さくして、精神的、肉体的な負担を軽減するために、小型化が望まれる。これに応じて、アームに用いられる屈曲部も、小型化が望まれている。
【0007】
しかし、特許文献1の技術では、屈曲部がコイルスプリングによって構成されているため、耐荷重及び屈曲性を確保する必要性から、小型化に限界があった。
【0008】
このような問題は、上記のようにロボット鉗子や手動鉗子等の医療用マニピュレーターだけでなく、内視鏡カメラ等の他の医療用マニピュレーターにおいても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-38075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、小型化を図りつつ耐荷重及び屈曲性を確保することに限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、小型化を図りつつ耐荷重及び屈曲性に優れたものとするために、医療用マニピュレーターの駆動ワイヤーをシャフト部の第1結合部に対して軸方向に通し前記駆動ワイヤーの先端部を把持ユニットの第2結合部に固定し前記駆動ワイヤーの操作に応じて屈曲する管状の可撓チューブであって、前記軸方向で山部と谷部とが交互に位置する波形部を有し前記山部及び谷部の伸縮によって屈曲可能な波形管部と、前記波形部に設けられ前記駆動ワイヤーを前記軸方向で通すための通し部と、前記波形管部の両端部に一体に設けられ前記第1結合部及び第2結合部に別々に嵌合する端管部とを備え、前記波形管部は三次曲線状に湾曲した前記軸方向の一側の腹部及び他側の腹部が径方向でオーバーラップするように結合されて前記山部及び谷部が楔状の断面形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、山部及び谷部の伸縮によって波形管部が屈曲するため、小型化を図りつつ耐荷重及び屈曲性に優れた可撓チューブを得ることが可能となる。
【0013】
しかも、本発明では、波形管部の山部と谷部とからなる波形部に設けられた通し部に駆動ワイヤーを通すことにより、波形管部を駆動ワイヤーのガイドとして利用することができ、駆動ワイヤーを適切な位置に保持し、安定且つ正確な屈曲動作を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】可撓チューブを有するロボット鉗子を示す斜視図である(実施例1)。
図2図1のロボット鉗子の正面図である(実施例1)。
図3図1のロボット鉗子の断面図である(実施例1)。
図4図1のロボット鉗子の一部を省略した斜視図である(実施例1)。
図5図1のロボット鉗子の一部を省略した側面図である(実施例1)。
図6図1のロボット鉗子の一部を省略した断面図である(実施例1)。
図7図1のロボット鉗子の可撓チューブの斜視図である(実施例1)。
図8図7の可撓チューブの正面図である(実施例1)。
図9】(A)は図7の可撓チューブの断面図であり、(B)は(A)のIX部拡大図である(実施例1)。
図10】屈曲時の可撓チューブの断面図である(実施例1)。
図11】(A)は可撓チューブの荷重と屈曲角度との関係を示すグラフ、(B)は屈曲の方向を示す概略図である(実施例1)。
図12】可撓チューブを示す斜視図である(実施例2)。
図13図12の可撓チューブの側面図である(実施例2)。
図14図12の可撓チューブの断面図である(実施例2)。
図15】屈曲構造体を用いたロボット鉗子を示す断面図である(実施例3)。
図16図15のロボット鉗子の一部を省略した斜視図である(実施例3)。
図17図15の屈曲構造体を示す断面図であり、(A)は平常時、(B)は屈曲時を示す(実施例3)。
図18】屈曲構造体の荷重と屈曲角度との関係を示すグラフである(実施例3)。
図19】屈曲構造体を用いたロボット鉗子の一部を省略した斜視図である(実施例4)。
図20図19のロボット鉗子の断面図である(実施例4)。
図21】変形例に係る弾性部材の平面図である(実施例4)。
図22】他の変形例に係る弾性部材の平面図である(実施例4)。
図23】屈曲構造体を用いたロボット鉗子の一部を省略した斜視図である(実施例5)。
図24図23のロボット鉗子の断面図である(実施例5)。
図25図23の屈曲構造体に用いられている弾性部材の斜視図である(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
小型化を図りつつ耐荷重及び屈曲性に優れたものとするという目的を、軸方向で山部と谷部とが交互に位置する波形管部の波形部に対し、駆動ワイヤーを通すための通し部を形成した管状の可撓チューブにより実現した。
【0016】
通し部は、波形管部の周方向に複数設けられ、波形管部の軸心から放射方向への距離が一定であるのが好ましい。
【0017】
通し部は、軸方向で隣接する波形管部の山部と谷部との間の腹部にそれぞれ設けられた挿通孔としても良いが、山部又は谷部に設けられた挿通孔、切欠、或は凹部等とすることも可能である。
【0018】
挿通孔は、山部での外径及び谷部での内径の中間部に位置する構成としてもよい。
【0019】
さらに、可撓チューブ内に弾性部材を設けて屈曲構造体を構成してもよい。弾性部材は、波形管部内に配置され、波形管部よりも軸方向の剛性が高く且つ波形管部と共に屈曲可能な構成とする。
【0020】
弾性部材は、種々の形状を採用することが可能であり、例えば波形管部の軸心部に位置するコイルばね、中実柱状体、又は中空筒状体等としてもよい。
【実施例1】
【0021】
[ロボット鉗子の構造]
図1は、本発明の実施例1に係る可撓チューブを有するロボット鉗子を示す斜視図、図2は、同正面図、図3は、同断面図である。
【0022】
ロボット鉗子1は、医療用マニピュレーターである手術ロボットのロボットアーム先端を構成するものである。なお、ロボット鉗子1は、医療用マニピュレーターの一例である。
【0023】
なお、可撓チューブ3を適用可能な医療用マニピュレーターは、手術ロボットに取り付けるか否かに拘わらず、医師等が手で操作するものであって、屈曲動作を行う屈曲部を有すれば、特に限定されるものではない。
【0024】
従って、医療用マニピュレーターには、手術ロボットに取り付けない内視鏡カメラや手動鉗子等も含まれる。
【0025】
本実施例のロボット鉗子1は、シャフト部5、屈曲部7、把持ユニット9によって構成されている。
【0026】
シャフト部5は、例えば円筒形状に形成されている。シャフト部5内には、屈曲部7を駆動するための駆動ワイヤー11や把持ユニット9を駆動するためのプッシュプルケーブル13が通っている。シャフト部5の先端には、屈曲部7を介して把持ユニット9が設けられている。
【0027】
駆動ワイヤー11は、索状部材であればよく、特に限定されるものではないが、例えば撚り線、NiTi(ニッケルチタン)単線、ピアノ線、多関節ロッド、鎖、紐、糸、縄等とすることが可能である。
【0028】
屈曲部7は、本実施例の可撓チューブ3によって構成されている。屈曲部7(可撓チューブ3)は、駆動ワイヤー11及びプッシュプルケーブル13を軸方向に通し、駆動ワイヤー11の操作に応じて屈曲可能となっている。軸方向とは、可撓チューブ3の軸心に沿った方向を意味し、軸心に対して厳密に平行な方向である必要はなく、軸心に対して若干傾斜した方向も含む。
【0029】
なお、プッシュプルケーブル13は、屈曲部7(可撓チューブ3)の軸心部に設けられている。駆動ワイヤー11は、本実施例において周方向に90度毎に位置して4つ設けられており、それぞれがプッシュプルケーブル13に対して径方向外側に偏倚して配置されている。可撓チューブ3の詳細は後述する。なお、径方向とは、可撓チューブ3の放射方向を意味する。
【0030】
把持ユニット9は、屈曲部7の先端に取り付けられた基部9aに対し、一対の把持部9bが開閉可能に軸支されている。基部9aには、屈曲部7を通った駆動ワイヤー11が接続されている。
【0031】
従って、把持ユニット9は、駆動ワイヤー11の操作により、屈曲部7を屈曲させつつ把持部9bを所望の方向に指向させることが可能となっている。
【0032】
把持部9bには、その閉じ状態で軸方向に対して傾斜した溝部9cが設けられている。把持部9bの溝部9cには、可動片9dの突起部9eがスライド自在に係合している。可動片9dは、把持ユニット9の基部9aの貫通孔9f内に軸方向に移動可能に配置され、且つ屈曲部7を通ったプッシュプルケーブル13に接続されている。
【0033】
従って、把持部9bは、プッシュプルケーブル13の進退動作(プッシュプル動作)により、可動片9dが軸方向に移動して開閉するようになっている。なお、把持部9bを開閉させる把持ユニット9の駆動は、プッシュプルケーブル13に限らず、エアチューブや複数の駆動ケーブルを用いてもよい。
【0034】
[可撓チューブの構造]
図4は、図1のロボット鉗子1の一部を省略した斜視図、図5は、同側面図、図6は、同断面図である。図7は、可撓チューブ3の斜視図、図8は、同側面図である。また、図9(A)は図1の可撓チューブの断面図であり、図9(B)は(A)のIX部拡大図である。図10は、屈曲時の可撓チューブの断面図である。
【0035】
図1図10のように、可撓チューブ3は、ニッケル等の金属からなるベローズであり、管状に形成されている。なお、可撓チューブ3の材質は、要求される特性や製法等に応じて、適宜のものを採用すればよい。
【0036】
この可撓チューブ3は、ロボット鉗子1の屈曲部7として、シャフト部5に対し把持ユニット9を弾性的に支持する。本実施例において、可撓チューブ3は、端管部15と、波形管部17とで構成されている。
【0037】
端管部15は、可撓チューブ3の両端部に位置する円形リング状の部分である。端管部15は、それぞれロボット鉗子1のシャフト部5の先端側及び把持ユニット9の基部9a側に嵌合し、可撓チューブ3をロボット鉗子1側に取り付け可能とする。
【0038】
本実施例において、端管部15は、シャフト部5の先端及び把持ユニット9の基部9aに固定された第1結合部19及び第2結合部21に嵌合している。
【0039】
第1及び第2結合部19,21は、それぞれシャフト部5の先端及び把持ユニット9の基部9aの一部を構成するものであり、樹脂や金属等によって形成された円柱状となっている。
【0040】
第1結合部19には、貫通孔19aを介して駆動ワイヤー11が軸方向に挿通している。第2結合部21には、固定孔21a内に駆動ワイヤー11の先端部が固定されている。また、第1結合部19の軸心部には、ケーブル挿通孔19bが設けられ、プッシュプルケーブル13を挿通している。
【0041】
可撓チューブ3の端管部15間には、波形管部17が一体に設けられている。
【0042】
波形管部17は、端管部15から連続的に遷移した中空円管状形成されている。なお、波形管部17と端管部15とは、同一の板厚とし、或は異なる板厚とすることが可能である。また、波形管部17の山部17a、谷部17b、後述する腹部17c間において、板厚が変動してもよい。
【0043】
この波形管部17は、軸方向での径の変化によって山部17aと谷部17bとが軸方向で交互に位置する波形形状の波形部18を有し、山部17a及び谷部17bの伸縮によって屈曲可能となっている。
【0044】
なお、波形管部17は、角管等の管状であってもよい。ただし、後述するように異方性を抑制する関係上、角管の場合は、正方形、正六角形、正八角形等のように、波形管部17の軸心に対する点対称な平面形状を有するものが好ましい。
【0045】
波形部18の山部17a及び谷部17bは、それぞれ円弧状に湾曲した断面形状を有する。山部17aの外径は、一定であり、端管部15の外径と同一となっている。山部17a間のピッチ及び谷部17bの内径も一定である。ただし、山部17aの外径、山部17a間のピッチ、谷部17bの内径は、軸方向で変化させることも可能である。
【0046】
山部17a及び谷部17bの曲率半径は、本実施例において同一となっている。ただし、それら曲率半径は、異ならせることも可能である。
【0047】
隣接する山部17a及び谷部17b間は、径方向にフラットな腹部17cとなっている。この腹部17cには、通し部としての挿通孔17dが形成されている。これにより、本実施例では、波形部18に挿通孔17dが形成された構成となっている。なお、挿通孔17dは、湾曲形状の山部17a又は谷部17bに設けることも可能である。
【0048】
波形管部17の波形部18の波形形状は、特に限定されるものではなく、例えば山部17a、谷部17b、腹部17cの断面形状の設定により、全体として正弦波、三角波、矩形波、或はのこぎり波のような形状とすることも可能である。
【0049】
挿通孔17dは、各腹部17cにおいて波形管部の周方向に複数設けられている。本実施例では、駆動ワイヤー11が周方向に90度毎に4本設けられていることから、これに応じて挿通孔17dも各腹部17cの周方向に90度毎に4つ設けられている。ただし、挿通孔17dの数は、駆動ワイヤー11の本数に応じて変更することが可能である。
【0050】
軸方向に隣接する腹部17c間では、挿通孔17dが軸方向に連通し、これら連通する挿通孔17dにより駆動ワイヤー11を挿通する。この挿通により、可撓チューブ3は、駆動ワイヤー11を通し部として軸方向に通すと共に所定位置に保持するガイドとして機能する。
【0051】
なお、通し部としては、挿通孔17dに代えて、可撓チューブ3の本体部15の外周又は内周から径方向に凹状の切欠又は凹部とすることも可能である。従って、可撓チューブ3は、内周又は外周の凹部等の通し部に沿わせた状態で駆動ワイヤー11を軸方向に通すことも可能である。
【0052】
また、各挿通孔17dは、腹部17c上において山部17aの外径及び谷部17bの内径の中間部に位置する。ただし、挿通孔17dは、外径及び内径の中間部よりも径方向の内側又は外側に偏倚してもよい。また、各挿通孔17dの本体部15の軸心に対する径方向の距離は、可撓チューブ3の特性に応じて適宜設定することができ、例えば一定でなくても一定であってもよい。
【0053】
挿通孔17dの形状は、円形であり、径が駆動ワイヤー11の径よりも大きくなっている。この径の差は、可撓チューブ3が屈曲する際の山部17a及び谷部17bの伸縮を許容する。なお、挿通孔17dの形状は、円形に限られるものではなく、山部17a及び谷部17bの伸縮を許容できる限り、矩形等の他の形状としてもよい。
【0054】
[可撓チューブの動作]
屈曲部7としての可撓チューブ3は、医師がロボット鉗子1を操作する際、何れか一つの駆動ワイヤー11を引くことにより(図11(B)参照)、図10のように、シャフト部5側に位置する固定側に対して把持ユニット9側に位置する可動側が屈曲する。そして、いくつかの駆動ワイヤー11を組み合わせて引くことにより、360度全方位に屈曲させることが可能となる。
【0055】
何れか一つの駆動ワイヤー11を引いて屈曲させる際、可撓チューブ3は、中立軸に対する屈曲内側部分で山部17a及び谷部17bが圧縮されると共に屈曲外側部分を山部17a及び谷部17bが伸長される。
【0056】
つまり、屈曲内側部分で山部17a及び谷部17bは、軸方向の幅を縮めるように変形し、屈曲外側部分で山部17a及び谷部17bは、軸方向の幅を拡げるように変形する。
【0057】
このように変形することで、可撓チューブ3は、全体として屈曲することになる。かかる屈曲動作は、360度全方位において変形状態が変わらずに同様に行わせることができ、異方性が抑制される。
【0058】
また、屈曲時には、可撓チューブ3が挿通孔17dによって駆動ワイヤー11を挿通させて適切な位置に維持するため、医師の操作に応じて可撓チューブ3に安定且つ正確な屈曲動作を行わせることができる。
【0059】
しかも、駆動ワイヤー11は、可撓チューブ3の屈曲に応じて湾曲するが、このとき可撓チューブ3の屈曲に応じて傾斜するように変位する各腹部17cを挿通することで、操作の安定性を確保できる。
【0060】
[耐荷重性、屈曲性]
図11(A)は、実施例1に係る可撓チューブ3の荷重と屈曲角度との関係を示すグラフ、図11(B)は、屈曲の方向を示す概略図である。
【0061】
図11(A)では、図11(B)の何れかの駆動ワイヤー11を操作し、可撓チューブ3を屈曲角度が0度から90度となるまで駆動ワイヤー11側(図11(B)の0°、90°、180°、又は270°)に屈曲させたときの荷重をプロットしたものである。
【0062】
図11(A)のように、屈曲角度が0°から90°に至るまで屈曲角度の上昇に対する荷重の上昇の線形性を高くできており、耐荷重性及び曲げ性が優れたものとなっている。
【0063】
[実施例1の効果]
以上説明したように、本実施例の可撓チューブ3は、軸方向で山部17aと谷部17bとが交互に位置する波形部18を有し、山部17a及び谷部17bの伸縮によって屈曲可能な波形管部17と、波形部18に設けられ駆動ワイヤー11を軸方向で通すための通し部としての挿通孔17dとを備えている。
【0064】
従って、本実施例では、山部17a及び谷部17bの伸縮によって波形管部17が屈曲することで、屈曲角度と荷重との耐荷重性の線形性を高くすることができるため、小型化を図りつつ耐荷重及び屈曲性に優れた可撓チューブ3を得ることが可能となる。
【0065】
しかも、本実施例では、山部17a及び谷部17bの屈曲状態を屈曲方向に拘わらずほぼ同一にすることができ、屈曲に対する異方性も抑制できる。
【0066】
結果として、医師の操作に応じて可撓チューブ3に安定且つ正確な屈曲動作を行わせることができる。
【0067】
さらに、本実施例では、波形管部17の波形部18に駆動ワイヤー11を挿通することで、波形管部17を駆動ワイヤー11のガイドとして利用することができる。
【0068】
従って、本実施例では、駆動ワイヤー11を適切な位置に保持し、より安定且つ正確な屈曲動作を行わせることができる。
【0069】
また、管状の可撓チューブ3は、気密性が高いので、内部が汚染されることを抑制できる。
【0070】
また、管状の可撓チューブ3は、ねじり剛性に優れたものとすることもできる。
【0071】
本実施例では、挿通孔17dが山部17aと谷部17bとの間の腹部17cに設けられているので、可撓チューブ3の屈曲に応じて傾斜する腹部17cに駆動ワイヤー11を挿通させることができ、駆動ワイヤー11の操作の安定性を確保できる。
【実施例2】
【0072】
図12は、本発明の実施例2に係る可撓チューブを示す斜視図、図13は、同側面図、図14は、同断面図である。なお、実施例2では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0073】
本実施例の可撓チューブ3は、波形管部17の波形形状を変更したものである。
【0074】
すなわち、波形管部17の各山部17aは、軸方向の一側の腹部17ca及び他側の腹部17cbが結合した楔状の断面形状を有する。各谷部17bは、軸方向一側及び他側が山部17aとは逆になって、一側の腹部17cb及び他側の腹部17caが結合した楔状の断面形状を有する。
【0075】
腹部17ca及び17cbの断面形状は、ほぼ同一形状で三次曲線状に湾曲している。なお、腹部17cbは、腹部17caに対して傾斜させたものとなっている。
【0076】
この傾斜と湾曲形状とにより、腹部17cbの一部は、腹部17caの軸方向の長さの範囲内に位置している。つまり、腹部17cbの一部と腹部17caの一部とは径方向でオーバーラップしている。
【0077】
従って、本実施例の波形管部17は、全体としての長さを小さくすることができる。
【0078】
また、各腹部17caにおいて、内径側の一部と外径側の一部とが径方向においてオーバーラップしており、波形管部17は、その分、軸方向での長さが抑えられている。
【0079】
このため、本実施例では、波形管部17を軸方向で小型化を図ることができる。その他、本実施例でも、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例3】
【0080】
図15は、本発明の実施例3に係る可撓チューブを有する屈曲構造体を用いたロボット鉗子を示す断面図、図16は、図15のロボット鉗子の一部を省略した斜視図である。また、図17は、図15の屈曲構造体を示す断面図であり、図17(A)は平常時、図17(B)は屈曲時を示す。なお、実施例3では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0081】
本実施例では、実施例1の可撓チューブ3内に弾性部材23を配置することで、屈曲構造体25を構成した。
【0082】
弾性部材23は、金属製のコイルばね、特に密着コイルばねである。なお、密着コイルばねは、コイル相互間が自由状態で密着しているコイルばねを意味する。弾性部材23としては、自由状態でコイル相互間に隙間を有する非密着コイルばねを用いることも可能である。
【0083】
本実施例の弾性部材23は、コイルばねの素線の断面が円形となっている。ただし、コイルばねの素線の断面は、矩形や楕円等のように他の形状とすることも可能である。
【0084】
弾性部材23は、可撓チューブ3の軸心部に配置されており、内周側にプッシュプルケーブ13を挿通するケーブル挿通孔23aが区画されている。弾性部材23の外周は、可撓チューブ3の谷部17bに対して隙間を有している。
【0085】
軸方向において、弾性部材23は、少なくとも可撓チューブ3の波形管部17の全域にわたって伸び、圧縮に対する剛性が可撓チューブ3よりも高く設定されている。これにより、弾性部材23は、可撓チューブ3が軸方向に不用意に圧縮されることを抑制可能となっている。
【0086】
また、弾性部材23は、波形管部17に応じて屈曲可能であり、且つ屈曲方向の荷重特性に応じて可撓チューブ3の荷重特性を調整する機能を有する。
【0087】
図18は、実施例3及び比較例に係る屈曲構造体25の荷重と屈曲角度との関係を示すグラフである。
【0088】
比較例としては、実施例1の可撓チューブ3の荷重と屈曲角度との関係を示している。
【0089】
実施例3は、比較例と同様に、屈曲構造体25を屈曲角度が0度から90度となるまで屈曲させたときの荷重をプロットしたものである。
【0090】
実施例3は、屈曲角度が0°から90度に至るまで屈曲角度の上昇に対する荷重の上昇の線形性を維持しつつ、比較例に対して屈曲角度の全域にわたって荷重を高くすることができており、耐荷重性及び屈曲性が優れたものとなっている。
【0091】
以上説明したように、本実施例の屈曲構造体25は、可撓チューブ3の波形管部17内に配置され、波形管部17よりも軸方向の剛性が高く且つ波形管部17の屈曲に応じて屈曲可能な弾性部材23を備えている。
【0092】
従って、本実施例の屈曲構造体25は、可撓チューブ3が不用意に圧縮されることを抑制可能となっている。
【0093】
このため、可撓チューブ3が不用意に圧縮されると、駆動ワイヤー11の操作に対する屈曲部7としての挙動が不安定になるおそれがあるが、本実施例では、そのような不安定な挙動を抑制できる。また、屈曲時にも経路長が変わらないため、把持ユニット9の動作が安定する。
【0094】
また、本実施例の屈曲構造体25は、弾性部材23の屈曲方向の荷重特性により、可撓チューブ3の荷重特性を調整することができる。
【0095】
その他、本実施例においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0096】
なお、弾性部材23は、実施例2に適用することも可能である。
【実施例4】
【0097】
図19は、本発明の実施例4に係る屈曲構造体を備えたロボット鉗子の一部を省略した斜視図、図20は、同断面図である。なお、実施例4では、実施例3と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0098】
本実施例の屈曲構造体3は、弾性部材23を中実柱状体としたものである。その他は、実施例3と同一構成である。
【0099】
弾性部材23は、ゴム等の弾性材料により中実柱状に形成されている。これにより、弾性部材23は、可撓チューブ3の本体部15よりも軸方向の剛性が高く且つ可撓チューブ3の屈曲に応じて屈曲可能な構成となっている。
【0100】
なお、本実施例では、中実柱状の弾性部材23が可撓チューブ3の軸心部に位置するため、プッシュプルケーブル13に代えて、複数の駆動ワイヤー等を採用して把持ユニット9を駆動するのが好ましい。
【0101】
図21は、変形例に係る弾性部材23を示す平面図、図22は、他の変形例に係る弾性部材23を示す平面図である。
【0102】
図21の変形例は、中実柱状の弾性部材23に対し、径方向で凹状の溝部23bを外周に設けたものである。溝部23bは、軸方向において弾性部材23に沿って設けられ、プッシュプルケーブル13に代えて採用される把持ユニット9を駆動するための駆動ワイヤー24をガイドする。
【0103】
なお、駆動ワイヤー24の数や配置は、把持ユニット9の構造に応じて適宜変更され、これに応じて、溝部23bの数や配置も適宜変更される。
【0104】
図22の変形例は、中実柱状の弾性部材23に対し、外周から軸心部付近へかけて径方向で凹状のスリット23cを設けたものである。スリット23cは、軸方向において弾性部材23に沿って設けられ、弾性部材23の軸心部でプッシュプルケーブル13をガイドする。
【0105】
なお、スリット23cは、二点鎖線で示すように、弾性部材23の外周から軸心部の手前までプッシュプルケーブル13の径よりもやや狭くし、軸心部でプッシュプルケーブル13と同径となるように構成してもよい。また、スリット23cは、弾性部材23の軸心部を越えて設けることも可能である。
【0106】
かかる実施例4並びに変形例でも、実施例3と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例5】
【0107】
図23は、本発明の実施例5に係る屈曲構造体を備えたロボット鉗子の一部を省略した斜視図、図24は、同断面図である。図25は、図24の屈曲構造体に用いられている弾性部材を示す斜視図である。なお、実施例5では、実施例3と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0108】
本実施例の屈曲構造体3は、弾性部材23を中空筒状体としたものである。その他は、実施例3と同一構成である。
【0109】
弾性部材23は、超弾性合金からなり、端筒部27a,27bと、リング部29と、チューブ結合部31a,31bと、チューブスリット33とで構成されている。なお、超弾性合金は、NiTi合金(ニッケルチタン合金)、ゴムメタル(登録商標)等のチタン系合金、Cu-Al-Mn合金(銅系合金)、Fe-Mn-Al系合金(鉄系合金)等とすることが可能である。
【0110】
端筒部27a,27bは、両端部に設けられたリング状である。これら端筒部27a,27b間には、複数のリング部29が位置している。
【0111】
複数のリング部29は、軸方向に等間隔で平行に連設されている。リング部29の軸方向の幅は、本実施例において一定である。ただし、リング部29の軸方向の幅は、シャフト部5側に位置する固定側から把持ユニット9側に位置する可動側に向けて漸次小さくすることも可能である。
【0112】
隣接するリング部21は、周方向の一部でチューブ結合部31a,31bによって結合されている。両端部のリング部29は、チューブ結合部31a,31bによって端筒部27a,27bに結合されている。
【0113】
チューブ結合部31a,31bは、リング部29に一体に設けられ、軸方向で隣接するリング部29間を径方向で対向する周方向の二ヵ所で結合している。
【0114】
各リング部29において、軸方向の一側(基端側)に位置するチューブ結合部31a,31bと他側(先端側)に位置するチューブ結合部31a,31bは、周方向に180/N度ずれて配置されている。
【0115】
ここでのチューブ結合部31a,31bのずれは、チューブ結合部31a,31bの中心線間のずれをいう(以下、同じ。)。Nは、2以上の整数である。本実施例では、N=2であり、チューブ結合部31a,31bが90度ずれて配置されている。
【0116】
なお、チューブ結合部31a,31b間のずれは、60度等とすることも可能であるが、90度にするのが好ましい。これは、可撓チューブ3の屈曲に必要なリング部29の数を少なくでき、全体の長さをコンパクトにすることができるためである。
【0117】
各チューブ結合部31a,31bは、軸方向に伸びる矩形板状であり、リング部29に応じて僅かに曲率を有している。チューブ結合部31a,31bの周方向の幅は、本実施例において一定であるが、シャフト部5側に位置する固定側から把持ユニット9側に位置する可動側に向けて漸次小さくすることも可能である。
【0118】
チューブ結合部31a,31bの周方向の幅を可動側に向けて漸次小さくする場合は、最も大きいチューブ結合部31a,31bの周方向の幅よりもリング部29の軸方向の幅を小さくしてもよい。この場合において、最も小さいチューブ結合部31a,31bの周方向の幅とリング部29の軸方向の幅を同一にするのが好ましい。
【0119】
チューブ結合部31a,31bの軸方向の両端部は、円弧部35を介してリング部29に遷移する。これにより、チューブ結合部31a,31bとリング部29との間は、接線連続となっている。
【0120】
なお、リング部29の径方向において、チューブ結合部31a,31bとリング部29の間は、内及び外周がそれぞれが段差なく遷移している。ただし、チューブ結合部31a,31bをリング部29よりも厚肉又は薄肉にして段差を有するような形態とすることも可能である。
【0121】
チューブ結合部31a,31bは、中立軸を境に周方向の一側を圧縮して他側を伸長するように曲がることで可撓チューブ3の屈曲を可能とする。本実施例では、周方向に90度ずれたチューブ結合部31a,31bが曲がることにより、交差する異なる二方向への屈曲が可能となっている。
【0122】
各チューブ結合部31a,31bの周方向両側には、チューブ結合部31a,31bの曲げによる可撓チューブ3の屈曲を許容するチューブスリット33が設けられている。
【0123】
すなわち、チューブスリット33は、軸方向で隣接するリング部29間においてチューブ結合部31a,31bの周方向両側に区画されている。各チューブスリット33は、リング部29及びチューブ結合部31a,31bの形状に応じて、角の丸い矩形状となっている。
【0124】
かかる実施例5でも、実施例3と同様の作用効果を奏することができる。
【0125】
また、実施例5では、超弾性合金からなる弾性部材23が、複数のリング部29を軸線方向でチューブ結合部31a,31bによって結合して形成され、チューブ結合部31a,31bの曲がることによって屈曲が可能となっている構成により、小型化を図りつつ耐荷重及び屈曲性に優れたものとすることができる。
【0126】
この特性に基づいて、本実施例では、屈曲構造体5全体の特性を向上できる。
【0127】
また、弾性部材23は、リング部29間をチューブ結合部31a,31bによって結合する構成により、ねじり剛性に優れたものとすることができる。これにより、本実施例では、屈曲構造体5全体のねじれ剛性を向上することができる。
【符号の説明】
【0128】
1 ロボット鉗子(医療用マニピュレーター)
3 可撓チューブ
11 駆動ワイヤー
17 波形管部
17a 山部
17b 谷部
17c 腹部
17d 挿通孔
18 波形部
23 弾性部材
25 屈曲構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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図15
図16
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図18
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図21
図22
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