(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20240611BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 C
B60C11/03 300D
(21)【出願番号】P 2020022106
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019145111
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 哲二
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-264609(JP,A)
【文献】特開2019-006371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部の陸部に配置されるサイプを有し、
前記サイプは、前記陸部内で閉塞し且つ鉛直方向に沿った鉛直閉塞端と、サイプ深さ方向に直交する水平方向に沿った平坦底と、前記鉛直閉塞端に接続された第1曲面と、前記平坦底に接続された第2曲面と、前記第1曲面と前記第2曲面とを接続する少なくとも1つの凸曲面と、を有し、
前記第1曲面及び前記第2曲面は、タイヤ径方向内側且つ前記閉塞端側に凸となる形状であり、
前記少なくとも1つの凸曲面は、前記サイプの長さ方向に沿った断面においてタイヤ径方向外側且つサイプ中央側に向けて凸になる形状である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド部の陸部に配置されるサイプを有し、
前記サイプは、前記陸部内で閉塞する閉塞端と、サイプ深さ方向に直交する水平方向に沿った平坦底と、を有し、
前記閉塞端から前記平坦底に至る部位は、前記サイプの長さ方向に沿った断面においてタイヤ径方向外側且つサイプ中央側に向けて凸になる形状の凸曲面を有し、
前記サイプは、少なくとも1つの端部領域に形成された三次元サイプと、前記三次元サイプよりもサイプ中央側に形成された二次元サイプと、を有する、空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記三次元サイプが形成された少なくとも1つの前記端部領域は、前記閉塞端を含む、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
平面視において、前記サイプの長さ方向に沿った前記三次元サイプの合計長はサイプ全長に対して20%以上且つ80%以下である、請求項2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
トレッド部の陸部に配置されるサイプを有し、
前記サイプは、前記陸部内で閉塞
し且つ鉛直方向に沿った鉛直閉塞端と、サイプ深さ方向に直交する水平方向に沿った平坦底と、を有し、
前記
鉛直閉塞端から前記平坦底に至る部位は、前記サイプの長さ方向に沿った断面においてタイヤ径方向外側且つサイプ中央側に向けて凸になる形状の凸曲面を有し、
前記サイプは、
前記凸曲面を通り且つサイプ幅方向及び前記サイプ深さ方向に沿った断面において、前記凸曲面を含むサイプ底側部位と、前記サイプ底側部位よりも踏面側となる上方部位と、を有し、
前記断面において、前記サイプ底側部位のサイプ幅は、前記上方部位のサイプ幅よりも大きい、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッド部に形成される陸部には、耐摩耗性能、ウエット性能、又はスノー性能などの各種性能のうち所望の性能を向上するために、サイプが設けられることが多い。サイプの種類として、両端が陸部を区画する溝に開口しているオープンサイプと、少なくとも一端が陸部内で閉塞しているサイプとが知られている。
【0003】
一般に、トラックバスやSUV(Sport Utility Vehicle)に使用されるサイプは、トレッドが厚く、それに共に伴い、トレッド部に形成されたサイプの溝も深くなる。
特許文献1には、少なくとも一端(閉塞端)が陸部内で閉塞したサイプにおいて、サイプの閉塞端部領域が動きやすく、クラックが生じやすいため、サイプの閉塞端を含む端部領域の深さをサイプ中央側領域よりも浅くすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように端部領域とサイプ中央側領域とで異なる深さを有するサイプにおいて、タイヤ踏面が摩耗し、端部領域とサイプ中央側領域との境がタイヤ踏面となる中期段階では、タイヤ摩耗に伴って踏面におけるサイプが急激に短くなり、陸部剛性が急激に高くなり、路面への追従性が低下して、ドライバーに性能低下を感じさせるおそれがある。
【0006】
本開示の目的は、閉塞端を有するサイプにおいて摩耗による性能低下を抑制可能な空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の空気入りタイヤは、
トレッド部の陸部に配置されるサイプを有し、
前記サイプは、前記陸部内で閉塞する閉塞端と、サイプ中央側領域と、を有し、
前記閉塞端から前記サイプ中央側領域までの前記サイプの底は、前記サイプの長さ方向に沿った断面においてタイヤ径方向外側且つサイプ中央側に向けて凸になる形状の凸曲面を有する。
【0008】
タイヤ摩耗に伴ってサイプ長さが短くなってサイプを形成する壁面同士の接触面積が減少する。上記のように、閉塞端からサイプ中央側領域までのサイプの底に、タイヤ径方向外側且つサイプ中央側に向けて凸になる形状の凸曲面を有するので、摩耗によって凸曲面がタイヤ踏面となる段階において、サイプ長さが短くなること(サイプ長さの変化)が抑制され、サイプ壁面同士の接触面積の減少が抑制される。凸曲面によって、ゆるやかにサイプが短くなるとともに、サイプ壁面同士の接触面積が急激ではなくゆるやかに減少する。よって、凸曲面を有することで、タイヤ摩耗が進行してもサイプ壁面同士の接触面積の減少が抑制され、且つ、タイヤの性能(踏張り等)が、特許文献1に比べて抑制し、維持可能となる。すなわち、タイヤ摩耗過程において、サイプを形成する壁面同士の接触面積がゆるやかに変化し、タイヤの性能が長期に亘って維持される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線半断面図
【
図2】第1実施形態のトレッドパターンを示す平面図
【
図3】第1サイプの踏面の平面視の形状、サイプ長さ方向と深さ方向を通る断面形状、三次元サイプの屈曲形状、或る深さ位置におけるサイプ平面視の形状、および、閉塞端部を示す拡大断面図
【
図4A】
図3に示すサイプのB-B部位におけるサイプ幅に沿った縦断面図
【
図5】第2サイプの踏面の平面視の形状、サイプ長さ方向と深さ方向を通る断面形状、三次元サイプの屈曲形状、或る深さ位置におけるサイプ平面視の形状を示す図
【
図9】第2実施形態のトレッドパターンを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。図において、「CD」はタイヤ周方向を意味し、「WD」はタイヤ幅方向を意味し、「RD」はタイヤ径方向を意味する。各図は、タイヤ新品時の形状を示す。
【0011】
図1に示すように、空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、各々のビード部1からタイヤ径方向外側RD1に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側RD1端同士を連ねるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、硬質ゴムからなるビードフィラー1bとが配置されている。ビード部1は、リム8のビードシート8bに装着され、空気圧が正常(例えばJATMAで決められた空気圧)であれば、タイヤ内圧によりリムフランジ8aに適切にフィッティングし、タイヤがリム8に嵌合される。
【0012】
また、このタイヤは、一対のビード部1の間に架け渡されるように配され、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至るトロイド状のカーカス層4を備える。カーカス層4は、少なくとも一枚のカーカスプライにより構成され、その端部がビードコア1aを介して巻き上げられた状態で係止されている。カーカス層4の内周側には、空気圧を保持するためのインナーライナーゴム(図示せず)が配置されている。
【0013】
トレッド部3におけるカーカス層4の外周には、たが効果によりカーカス層4を補強するベルト層5が配置されている。ベルト層5は、タイヤ周方向に対して所定角度で傾斜して延びるコードを有する2枚のベルトプライを有し、各プライはコードが互いに逆向き交差するように積層されている。ベルト層5の外周側には、ベルト補強層7が配され、更にその外周側表面には、トレッドパターンが形成されたトレッドゴムが配置されている。
【0014】
上述したゴム層等の原料ゴムとしては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用される。また、これらのゴムはカーボンブラックやシリカ等の充填材で補強されると共に、加硫剤、加硫促進剤、可塑剤、老化防止剤等が適宜配合される。
【0015】
図2は、本実施形態のタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図2に示すように、本実施形態のタイヤのトレッドには、複数の主溝30及び複数の横溝31が形成されている。主溝30及び横溝31により、タイヤ周方向に沿って複数のブロック陸部32が配列されている。複数の主溝30は、タイヤ幅方向WDの最も外側にある一対のショルダー主溝30aを有する。一対のショルダー主溝30aよりもタイヤ幅方向外側には、複数のショルダー陸部32aが形成されている。一対のショルダー主溝30aよりもタイヤ幅方向WD内側には、タイヤ周方向CDに延びるセンター側主溝30bが設けられている。一対のショルダー主溝30aよりもタイヤ幅方向WD内側には、複数の内側陸部32b,32cが形成されている。複数の内側陸部32bは、センター側主溝30bと横溝31とショルダー主溝30aによって区画されており、ショルダー主溝30aに隣接して、タイヤ周方向CDにブロック列を形成している。複数の内側陸部32cは、分岐して環状となるセンター側主溝30bによって区画されており、ショルダー主溝30aに隣接しない。センター側主溝30bは、タイヤ周方向CDに向かうにつれて、1本の溝が分岐して環状部を形成して再び合流して1本の溝となり、複数の環状部と、各々の環状部を接続する1本溝部とを有する。
【0016】
陸部32は、サイプ9を有する。サイプ9は、主溝30よりも浅く、幅が0.3mm以上且つ1.5mm以下の溝である。本実施形態では、
図2~
図3及び
図5~
図7に示すように、少なくとも5種類のサイプ9(第1サイプ9a、第2サイプ9b、第3サイプ9c、第1ショルダーサイプ9d、第2ショルダーサイプ9e)が設けられているが、これは例示であり、適宜変更や組み合わせが自由である。
【0017】
<第1サイプ9a>
図2及び
図3に示すように、ショルダー主溝30aに隣接する内側陸部32bには、第1サイプ9(9a)が形成されている。第1サイプ9(9a)は、第1端が陸部32b内で閉塞する閉塞端90であり、第2端が主溝30(センター側主溝30b)に開口する解放端91である。
図3は、サイプ9aの踏面33の平面視の形状、サイプ長さ方向LDと深さ方向を通る断面形状、三次元サイプ3Dの屈曲形状、或る深さ位置におけるサイプ平面視の形状、および、閉塞端部の拡大断面図を示す。第1サイプ9aは、
図3に示す平面視において、中央部に配置された2回折れ曲がる屈曲部92と、屈曲部92の両側に直線部93と、を有する。屈曲部92のサイプ深さは、屈曲部92のサイプ長さ方向LDの両側の部位のサイプ深さに比べて浅くなるブリッジ部96が屈曲部92に設けられている。屈曲部92が存在すれば、サイプ9の動きによって屈曲部92におけるサイプ壁面の衝突が生じやすいので、屈曲部92にクラックが発生しやすくなる。そこで、屈曲部92のサイプ深さを両側よりも浅いブリッジ部96を設けることで、屈曲部92の動きを抑制してクラックを抑制可能となる。
【0018】
第1サイプ9aは、水平方向(サイプ深さ方向DDに直交する方向)に沿った平坦底94を有する。サイプ長さ方向LD及びタイヤ径方向RDに沿った断面において平坦底94と閉塞端90とが複数の曲面95(95a、95b、95c)のみで屈曲点なく連続して接続されている。
図3の拡大図において各曲面と直線の接続箇所を丸で示している。複数の曲面95(95a、95b、95c)のうち、少なくとも1つの曲面は、タイヤ径方向外側RD1且つサイプ中央側LD2に向けて凸となる形状の凸曲面95aである。このように、凸曲面95aを設けることで、屈曲点がないので応力集中を避けることができる。更に、サイプの閉塞端部領域をサイプ中央側に比べて浅くして閉塞端のクラックの発生を抑制できる。更に、凸曲面95aによってサイプ内側に向けてサイプが急激に深くなる形状となるので、サイプの早期短化を抑制可能となる。
【0019】
ここで、「屈曲点なく連続して接続される」とは、曲面同士の接続であれば、曲面同士が接続される接続点における各々の曲面の接線同士が平行であることを意味し、直線と曲面の接続であれば、直線と曲面とが接続される接続点における曲面の接線と直線とが平行であることを意味する。
【0020】
具体的には、
図3におけるA-A断面の拡大図にて示すように、サイプ9は、閉塞端90である鉛直方向(サイプ深さ方向DD)に沿った鉛直閉塞端90と、鉛直閉塞端90に屈曲点なく連続して接続された第1曲面95bと、平坦底94に屈曲点なく連続して接続された第2曲面95cと、を有する。第1曲面95b及び第2曲面95cは、タイヤ径方向内側RD2且つ閉塞端側LD1に凸となる断面形状である。少なくとも1つの凸曲面95aは、第1曲面95bと第2曲面95cとを接続する。
図3の例では、凸曲面95aは1つであるが、これに限定されない。例えば、半径が異なる2以上の凸曲面を配置してもよい。凸曲面95a、第1曲面95b及び第2曲面95cによって、向きが異なる鉛直閉塞端90と平坦底94とを屈曲点なく連続して接続可能となる。
【0021】
サイプ9は、その全領域が二次元サイプで形成されていてもよいが、本実施形態では、サイプ9は、二次元サイプ2Dと三次元サイプ3Dとを有する。二次元サイプ2Dは、平面視におけるサイプ形状がサイプ深さ方向に変化しないサイプである。三次元サイプ3Dは、平面視におけるサイプ形状がサイプ深さ方向に変化するサイプである。
図3に示すように、サイプ9aは、少なくとも1つの端部領域Ar1[Ar2]に形成された三次元サイプ3Dと、三次元サイプ3Dよりもサイプ中央側領域Ar3に形成された二次元サイプ2Dと、を有する。すなわち、サイプ9は、サイプの長さ方向LDに沿って隣接する三次元サイプ3D及び二次元サイプ2Dを有する。サイプ9の端部領域Ar1、Ar2は動きやすいためクラックが発生しやすく、端部領域Ar1、Ar2に三次元サイプ3Dを配置することで変位が抑制されクラックを抑制できるからである。また、
図3に示すように、三次元サイプ3Dが形成された端部領域Ar1は閉塞端90を含むことが好ましい。閉塞端90を含む端部領域Ar1は、溝に解放された解放端91を含む端部領域Ar2に比べて動きやすく、クラックを招来しやすいからである。もちろん、解放端91を含む端部領域Ar2に三次元サイプ3Dが形成されていてもよい。
【0022】
図3では、三次元サイプ3Dは、双方の端部領域Ar1、Ar2に形成されているが、これに限定されず、一方の端部領域に三次元サイプ3Dが形成され、他方の端部領域に三次元サイプが形成されていなくてもよい。
【0023】
図3に示すように、平面視において、サイプ9aの長さ方向LDに沿った三次元サイプ3Dの合計長(Ar1+Ar2)はサイプ全長(Ar1+Ar2+Ar3)に対して20%以上且つ80%以下であることが好ましい。前記値が20%を下回ると、三次元サイプ3Dが陸部32の変位を抑制する効果が発揮されにくくクラック抑制が低減してしまう。前記値が80%を上回ると、陸部32の剛性が高くなりすぎて三次元サイプ3Dがクラックを抑制する効果が著しく低減してしまうからである。
【0024】
図4Aは、
図3に示すサイプ9aのB-B部位におけるサイプ幅に沿った縦断面図である。
図4Aに示すように、サイプ9(9a)は、凸曲面95aを含むサイプ底部位S1と、サイプ底部位S1よりも踏面33側となる上方部位S2と、を有する。
図4Aに示す例では、サイプ9aのサイプ幅は一定であるため、サイプ底部位S1におけるサイプ幅と、上方部位S2におけるサイプ幅は等しい。
【0025】
変形例として、
図4Bに示すように、サイプ底部位S1のサイプ幅が、上方部位S2のサイプ幅よりも大きくすることが好ましい。サイプ底部位S1がいわゆるフラスコ状となる。この構成によれば、サイプ底部位S1のサイプ幅が大きいので、応力分散でき、サイプ底のクラックを抑制可能となる。
【0026】
<第2サイプ9b>
図2及び
図5に示すように、ショルダー主溝30aに隣接する内側陸部32bには、第2サイプ9(9b)が形成されている。
図5に示すように、第2サイプ9は、第1端が閉塞端90であり、第2端が解放端91である。第2サイプ9bは、平面視において、二回折れ曲がる屈曲部92がない、直線部93のみで形成されている。第2サイプ9bが、閉塞端90を含む端部領域Ar1に凸曲面95aを有する点は、第1サイプ9aと同じである。第2サイプ9bは、閉塞端90を含む端部領域Ar1に三次元サイプ3Dを有し、サイプ中央側領域Ar3に二次元サイプ2Dを有する。第2サイプ9bは、一方の端部領域Ar1に三次元サイプ3Dが形成され、他方の端部領域Ar2に三次元サイプが形成されていない。平面視において、サイプの長さ方向LDに沿った三次元サイプ3Dの合計長(Ar1)はサイプ全長(Ar1+Ar2+Ar3)に対して20%以上且つ80%以下であることが好ましい。
【0027】
<第3サイプ9c>
図2に示すように、ショルダー主溝30aに隣接しない内側陸部32cに形成される第3サイプ9cは、二次元サイプ2Dのみを有し、三次元サイプ3Dが形成されていない。複数の内側陸部32b,32cのうち、ショルダー主溝30aに隣接しない内側陸部32cは、タイヤ赤道CLに近いため、動きにくく摩耗しやすい。そこで、内側陸部32cに三次元サイプ3Dが形成されず二次元サイプ2Dが形成されることで、陸部が動きやすくなる。一方、ショルダー主溝30aに隣接する内側陸部32bには、三次元サイプ3Dを有するサイプが形成される。これにより、ショルダー部に作用する負荷が大きいため、負荷が大きい内側陸部32bの剛性を三次元サイプ3Dで確保可能となる。
【0028】
<第1ショルダーサイプ9d>
図2に示すように、ショルダー陸部32aには、第1ショルダーサイプ9dが形成されている。
図6に示すように、第1ショルダーサイプ9dは、第1端が閉塞端90であり、第2端が解放端91である。第1ショルダーサイプ9dは、平面視において、二回折れ曲がる屈曲部92がない、直線部93のみで形成されている。第1ショルダーサイプ9dは、閉塞端90を含む端部領域Ar1に凸曲面95aを有する点は、第1サイプ9aと同じである。第1ショルダーサイプ9dは、解放端91を含む端部領域Ar2に三次元サイプ3Dを有し、サイプ中央側領域Ar3に二次元サイプ2Dを有する。第1ショルダーサイプ9dは、一方の端部領域Ar2に三次元サイプ3Dが形成され、他方の端部領域Ar1に三次元サイプが形成されていない。すなわち、第1ショルダーサイプ9dは、ショルダー主溝30a側に三次元サイプ3Dが形成され、タイヤ幅方向外側WD1が二次元サイプ2Dで形成されている。平面視において、サイプの長さ方向LDに沿った三次元サイプ3Dの合計長(Ar2)はサイプ全長(Ar1+Ar2+Ar3)に対して20%以上且つ80%以下であることが好ましい。
【0029】
また、
図6に示すように、平面視においてサイプ9dの端同士の直線部93の距離、又は、サイプの端と屈曲部92の間の直線部93の距離が、7mm以上であれば、直線部93にブリッジ部96を設けることが好ましい。直線部93の距離が7mm以上になれば、サイプ9が動きやすくなり、接地時にサイプ9がとじやすくなる。ブリッジ部96を設けることで接地時のサイプ9の開き具合を適度に確保可能となるからである。
【0030】
<第2ショルダーサイプ9e>
図2に示すように、ショルダー陸部32aには、第2ショルダーサイプ9eが形成されている。
図7に示すように、第2ショルダーサイプ9eは、第1端が閉塞端90であり、第2端が閉塞端90である。第2ショルダーサイプ9eは、平面視において、中央部に配置された2回折れ曲がる屈曲部92と、屈曲部92の両側に直線部93と、を有する。第2ショルダーサイプ9eは、閉塞端90を含む端部領域Ar2に三次元サイプ3Dを有し、サイプ中央側領域Ar3に二次元サイプ2Dを有する。第2ショルダーサイプ9eは、一方の端部領域Ar2に三次元サイプ3Dが形成され、他方の端部領域Ar1に三次元サイプが形成されていない。すなわち、第2ショルダーサイプ9eは、ショルダー主溝30a側に三次元サイプ3Dが形成され、タイヤ幅方向外側WD1が二次元サイプ2Dで形成されている。平面視において、サイプの長さ方向LDに沿った三次元サイプ3Dの合計長(Ar2)はサイプ全長(Ar1+Ar2+Ar3)に対して20%以上且つ80%以下であることが好ましい。屈曲部92に対応してブリッジ部96が設けられていることは、
図3と同じである。
【0031】
<変形例>
図2に示すトレッドパターンには設けていないが、
図8に示すサイプ9fを設けてもよい。
図8に示す例では、平面視におけるサイプ9fの形状はストレート形状である。サイプ9fの端は、閉塞端90でもよいし、解放端91でもよい。サイプ9fにおけるサイプ長さ方向LDのサイプ中央側領域Ar3に三次元サイプ3Dが形成され、サイプ長さ方向LDの両端部領域Ar1、Ar2に二次元サイプ2Dが形成されている。このサイプによれば、陸部32の剛性を確保可能となる。
【0032】
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。第2実施形態と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
図2に示す第1実施形態のセンター側主溝30bは、複数の環状部と、各々の環状部を接続する1本溝部とを有する。一方、
図9に示すように、第2実施形態のセンター側主溝30bは、1本の溝がタイヤ周方向CDに延びるだけで、環状部を形成していない。
図9に示すように、2本のセンター側主溝30bが配置され、センター側主溝30bによってショルダー主溝30aに隣接していない内側陸部32cが区画され、センター側主溝30b及びショルダー主溝30aによってショルダー主溝30aに隣接する内側陸部32bが区画されている。サイプ9の配置は、
図2と同じである。
【0033】
以上のように、第1又は第2実施形態の空気入りタイヤは、トレッド部3の陸部32に配置されるサイプ9を有し、
サイプ9は、陸部32内で閉塞する閉塞端90と、サイプ中央側領域Ar3と、を有し、
閉塞端90からサイプ中央側領域Ar3までのサイプ9の底は、サイプ9の長さ方向LDに沿った断面においてタイヤ径方向外側RD1且つサイプ中央側LD2に向けて凸になる形状の凸曲面95aを有することが好ましい。
【0034】
タイヤ摩耗に伴ってサイプ長さが短くなってサイプを形成する壁面同士の接触面積が減少する。上記のように、閉塞端90からサイプ中央側領域Ar3までのサイプの底に、タイヤ径方向外側RD1且つサイプ中央側LD2に向けて凸になる形状の凸曲面95aを有するので、摩耗によって凸曲面95aがタイヤ踏面となる摩耗段階において、サイプ長さが短くなること(サイプ長さの変化)が抑制され、サイプ壁面同士の接触面積の減少が抑制される。凸曲面95aによって、ゆるやかにサイプが短くなるとともに、サイプ壁面同士の接触面積が急激ではなくゆるやかに減少する。よって、凸曲面95aを有することで、タイヤ摩耗が進行してもサイプ壁面同士の接触面積の減少が抑制され、且つ、タイヤの性能(踏張り等)が、特許文献1に比べて抑制し、維持可能となる。すなわち、タイヤ摩耗過程において、サイプを形成する壁面同士の接触面積がゆるやかに変化し、タイヤの性能が長期に亘って維持される。
【0035】
図3に示す実施形態のように、閉塞端90と平坦底94とが複数の曲面95のみで屈曲点なく連続して接続されていることが好ましい。この構成であれば、屈曲点に応力が集中してクラックが発生することを抑制可能となる。
【0036】
図3に示す実施形態のように、サイプ9(9a)は、閉塞端90である鉛直方向に沿った鉛直閉塞端90と、鉛直閉塞端90に接続された第1曲面95bと、平坦底94に接続された第2曲面95cと、を有し、第1曲面95b及び第2曲面95cは、タイヤ径方向内側RD2且つ閉塞端側LD1に凸となる形状であり、少なくとも1つの凸曲面95aは、第1曲面95bと第2曲面95cとを接続することが好ましい。
【0037】
この構成によれば、向きが異なる鉛直閉塞端90と平坦底94とを、接続可能となり、クラック発生を抑制可能となる。
【0038】
図3、
図5、
図6又は
図7に示すように、サイプ9は、少なくとも1つの端部領域Ar1[Ar2]に形成された三次元サイプ3Dと、三次元サイプ3Dよりもサイプ中央側LD2に形成された二次元サイプ2Dと、を有することが好ましい。
【0039】
この構成によれば、動きやすいサイプ9の端部領域Ar1[Ar2]を三次元サイプ3Dで変形を抑制でき、クラックを防止可能となる。それでいて、サイプ中央側LD2には二次元サイプ2Dが配置されることで、サイプ9の全域に三次元サイプを設ける場合に比べて、陸部32の剛性が高くなり過ぎたり、低くなり過ぎたりすることを回避して、陸部32の剛性をバランスよく得ることが可能となる。
【0040】
図3、
図5又は
図7に示すように、三次元サイプ3Dが形成された少なくとも1つの端部領域Ar1[Ar2]は、閉塞端90を含むことが好ましい。
【0041】
この構成によれば、閉塞端90を含む端部領域Ar1[Ar2]に三次元サイプ3Dが形成されているので、クラックが発生しやすい閉塞端90を含む端部領域Ar1[Ar2]におけるサイプ変形を抑制でき、閉塞端90のクラックを抑制可能となる。
【0042】
第1又は第2実施形態のように、平面視において、サイプ9の長さ方向LDに沿った三次元サイプ3Dの合計長はサイプ全長に対して20%以上且つ80%以下であることが好ましい。
【0043】
サイプ全長に対して三次元サイプ3Dの合計長が20%未満であれば、三次元サイプ3Dによる変形抑制効果が薄れてしまう。逆に、サイプ全長に対して三次元サイプ3Dの合計長が80%を超えれば、三次元サイプ3Dによって陸部32の剛性が高くなりすぎてクラック抑制効果が低下してしまう。したがって、上記第1又は第2実施形態のような構成によれば、変形抑制効果と、クラック抑制効果とをバランスよく発揮させることが可能となる。
【0044】
図4Bに示す実施形態のように、サイプ9は、凸曲面95aを含むサイプ底部位S1と、サイプ底部位S1よりも踏面側となる上方部位S2と、を有し、サイプ幅方向に沿った断面において、サイプ底部位S1のサイプ幅は、上方部位S2のサイプ幅よりも大きいことが好ましい。
【0045】
この構成によれば、サイプ9において凸曲面95aを有する部位のサイプ底は、断面で見ればフラスコ状になり、三次元で見ればパイプ状になるため、更に応力を分散させることが可能となる。その結果、サイプ底のクラックを防止可能となる。
【0046】
第1又は第2実施形態のように、トレッド部3の陸部32に配置されるサイプ9を有し、サイプ9は、サイプ長さ方向LDに沿って隣接する三次元サイプ3D及び二次元サイプ2Dを有することが好ましい。
【0047】
この構成によれば、サイプ9は、サイプ長さ方向LDに沿って隣接する三次元サイプ3D及び二次元サイプ2Dを有するので、サイプ9の全域が二次元サイプ2Dである場合に比べて陸部剛性を確保でき、また、サイプ9の全域が三次元サイプ3Dである場合に比べて陸部剛性が高すぎることを回避でき、陸部剛性をバランスよく得ることが可能となる。
【0048】
図3、
図5、
図6又は
図7に示す実施形態のように、サイプ9は、2つの端部領域Ar1、Ar2を有し、2つの端部領域Ar1、Ar2のうち少なくとも1つの端部領域に三次元サイプ3Dが形成され、それ以外の領域に二次元サイプ2Dが形成されていることが好ましい。
【0049】
この構成によれば、陸部32の剛性を確保可能となる。また、サイプ9の動きやすい端部領域Ar1[Ar2]を三次元サイプ3Dで拘束するので、サイプ端部のクラックを抑制可能となる。なお、踏面33におけるサイプ9の平面視形状としては、直線部93のみの形状でもよいし、屈曲部92を有する形状のどちらでもよい。
【0050】
図3に示す実施形態のように、2つの端部領域Ar1、Ar2に三次元サイプ3Dが形成されていることが好ましい。
【0051】
この構成によれば、陸部32の剛性を確保可能となる。また、サイプ中央側LD2に三次元サイプ3Dが設けられている場合に比べて陸部32の剛性の上がり過ぎを防止でき、適度な陸部32の剛性を得ることが可能となる。冬用タイヤにおいては適度な陸部32の剛性によりスノー性能を向上させることが可能となる。また、サイプ中央側LD2の陸部32の剛性が高くなり過ぎないので、サイプ変形時にサイプ開口が完全につぶれずにサイプを確保可能となり、エッジ効果や除水効果が期待できる。
【0052】
図3、
図5又は
図7に示す実施形態のように、サイプ9は、サイプ長さ方向LDの両端のうち少なくとも1つが閉塞端90であり、閉塞端90を含む端部領域Ar1[Ar2]には三次元サイプ3Dが形成されていることが好ましい。
【0053】
この構成によれば、閉塞端90は解放端91に比べて応力が集中しやすいため、クラック抑制効果を適切に発揮可能となる。
【0054】
図8に示す実施形態のように、サイプ9におけるサイプ長さ方向LDのサイプ中央側領域Ar3に三次元サイプ3Dが形成され、サイプ長さ方向LDの両端部領域Ar1、Ar2に二次元サイプ2Dが形成されていることが好ましい。
【0055】
この構成によれば、陸部32の剛性を確保可能となる。さらに、踏面33におけるサイプ9の平面視の形状が直線部93のみであれば、陸部32の剛性を確保する効果を適切に発揮させることが可能となる。
【0056】
第1又は第2実施形態のように、トレッド部3は、タイヤ周方向CDに延びる複数の主溝30を有する。複数の主溝30は、タイヤ幅方向WDの最も外側にある一対のショルダー主溝30aを有する。一対のショルダー主溝30aよりもタイヤ幅方向WDの内側には、複数の内側陸部32b,32cが形成されている。複数の内側陸部32b,32cのうちショルダー主溝30aに隣接しない陸部32cは、三次元サイプ3Dが形成されず二次元サイプ2Dが形成されており、複数の内側陸部32b,32cのうちショルダー主溝30aに隣接する陸部32bは、三次元サイプ3Dを含むサイプ9を有することが好ましい。
【0057】
複数の内側陸部32b,32cのうちショルダー主溝30aに隣接しない陸部32cは、タイヤ赤道CLに近いため、動きにくく摩耗しやすい。陸部32cに三次元サイプ3Dが形成されず二次元サイプ2Dが形成されることで、陸部32cが動きやすくなり、センター摩耗を抑制可能となる。それでいて、複数の内側陸部32b,32cのうちショルダー主溝30aに隣接する陸部32bは、ショルダー部に作用する負荷が大きいため、三次元サイプ3Dで剛性を確保可能となる。
【0058】
第1又は第2実施形態のように、トレッド部3は、タイヤ周方向CDに延びる複数の主溝30を有する。複数の主溝30は、タイヤ幅方向WDの最も外側にある一対のショルダー主溝30aを有する。一対のショルダー主溝30aよりもタイヤ幅方向外側WD1に、ショルダーサイプ9d、9eを有するショルダー陸部32aが形成されている。ショルダーサイプ9dは、ショルダー主溝30a側が三次元サイプ3Dで形成され、タイヤ幅方向外側WD1が二次元サイプ2Dで形成されていることが好ましい。
【0059】
ショルダーサイプ9d、9eは、ショルダー主溝30a側に作用する負荷が大きく且つショルダー主溝30aにより動きやすいため、ショルダーサイプ9d、9eのショルダー主溝30a側に三次元サイプ3Dを設けることでショルダー陸部32aの剛性を確保可能となる。一方、ショルダーサイプ9d、9eのタイヤ幅方向外側WD1は接地端に近く負荷が比較的小さいため、二次元サイプ2Dにすることで適度なショルダー陸部32aの剛性を実現可能となる。
【0060】
図3又は
図7に示すように、サイプ9は、平面視で二回折れ曲がる屈曲部92を有し、屈曲部92のサイプ深さは、屈曲部92のサイプ長さ方向LDの両側部位のサイプ深さに比べて浅いことが好ましい。
【0061】
屈曲部92が存在すれば、サイプ9の動きによって屈曲部92におけるサイプ壁面の衝突が生じやすいので、屈曲部92にクラックが発生しやすくなる。屈曲部92のサイプ深さを両側よりも浅くすることで、屈曲部92の動きを抑制してクラックを抑制可能となる。
【0062】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0063】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0064】
3 トレッド部
9、9a、9b、9c、9d、9e サイプ
90 鉛直閉塞端(閉塞端)
94 平坦底
95 曲面
95a 凸曲面
95b 第1曲面
95c 第2曲面
3D 三次元サイプ
2D 二次元サイプ
Ar1 端部領域
Ar2 端部領域
Ar3 サイプ中央側領域
S1 サイプ底部位
S2 上方部位