(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240611BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240611BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G06T7/00 130
G06T7/00 350C
G08G1/16 C
A61B3/113
(21)【出願番号】P 2020040999
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友二
【審査官】佐藤 実
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-009825(JP,A)
【文献】加藤大貴 他1名,Dilated-CNNを用いた顕著性マップの生成,第24回 画像センシングシンポジウム,画像センシング技術研究会,2018年06月13日,IS2-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
G08G 1/16
A61B 3/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体から外部を撮像した画像に基づいて、その画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性分布情報を取得する取得部と、
予め定めた規則に従って前記画像における基準視線位置を設定する視線位置設定部と、
前記視覚顕著性分布情報と前記
基準視線位置とに基づいて前記画像における視覚的注意の集中度を算出する視覚的注意集中度算出部と、
を備え
、
前記視覚的注意集中度算出部は、視覚顕著性分布情報を構成する各画素の値と、前記各画素の位置と前記基準視線位置の座標位置とのベクトル誤差と、に基づいて、前記視覚顕著性分布情報上に設定した前記基準視線位置の座標からの全画素の座標の前記ベクトル誤差と前記画素の値との関係を重みづけした上で合計したものの逆数により前記視覚的注意の集中度を算出する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記視覚的注意集中度の時間的変化に基づいて当該画像の示す地点におけるリスクに関する情報を出力する出力部を備えることを特徴とする請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記取得部は、
前記画像を写像処理可能な中間データに変換する入力部と、
前記中間データを写像データに変換する非線形写像部と、
前記写像データに基づき顕著性分布を示す顕著性推定情報を生成する出力部と、を備え、
前記非線形写像部は、前記中間データに対し特徴の抽出を行う特徴抽出部と、前記特徴抽出部で生成されたデータのアップサンプルを行うアップサンプル部と、を備える、
ことを特徴とする請求項1から
2のうちいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項4】
移動体から外部を撮像した画像に基づいて所定の情報処理を行う情報処理装置で実行される情報処理方法であって、
前記画像に基づいて、その画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性分布情報を取得する取得工程と、
予め定めた規則に従って前記画像における基準視線位置を設定する視線位置設定工程と、
前記視覚顕著性分布情報と前記
基準視線位置とに基づいて前記画像における視覚的注意の集中度を算出する視覚的注意集中度算出工程と、
を含
み、
前記視覚的注意集中度算出工程は、視覚顕著性分布情報を構成する各画素の値と、前記各画素の位置と前記基準視線位置の座標位置とのベクトル誤差と、に基づいて、前記視覚顕著性分布情報上に設定した前記基準視線位置の座標からの全画素の座標の前記ベクトル誤差と前記画素の値との関係を重みづけした上で合計したものの逆数により前記視覚的注意の集中度を算出する、
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の情報処理方法をコンピュータにより実行させることを特徴とする情報処理プログラム。
【請求項6】
請求項
5に記載の情報処理プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体から外部を撮像した画像に基づいて所定の処理を行う情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば交通事故の発生リスクが高い地点(事故リスク地点)の情報を運転者等に提供することで交通事故のリスクを低減するようなことが提案されている。この場合の事故リスク地点の設定は、交通量等の交通環境の物理的な属性や時刻や天候等の自然現象の依存した推測と、現実に事故が発生した地点と、の両面を考慮して行っていた。
【0003】
特許文献1には、走行環境がどの程度目が疲れやすい状況であるかを自車両の進行方向を撮像した画像から推定するために、自車両の進行方向における撮像画像を取得し、撮像画像中において、運転者が生理的に注視してしまう位置を推定し、撮像画像中において、運転者が自車両を運転する際に視認すべき位置を推定し、注視してしまう位置と視認すべき位置との位置関係に基づいて、視認負荷量を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載した方法を用いて抽出された視認負荷量に基づいて当該映像が表すシーンの安全やリスクに係る指標を算出することもできる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、画像内に含まれる標識や歩行者といった物体に視線が無意識に集中しやすいという文脈的な注意状態は反映できないため、実際の運転者の視認状態とのズレが生じる場合があり、算出精度の向上の余地がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題としては、精度良く安全やリスクに係る指標を算出することを特徴とすることが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、移動体から外部を撮像した画像に基づいて、その画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性分布情報を取得する取得部と、予め定めた規則に従って前記画像における基準視線位置を設定する視線位置設定部と、前記視覚顕著性分布情報と前記基準視線位置とに基づいて前記画像における視覚的注意の集中度を算出する視覚的注意集中度算出部と、を備え、前記視覚的注意集中度算出部は、視覚顕著性分布情報を構成する各画素の値と、前記各画素の位置と前記基準視線位置の座標位置とのベクトル誤差と、に基づいて、前記視覚顕著性分布情報上に設定した前記基準視線位置の座標からの全画素の座標の前記ベクトル誤差と前記画素の値との関係を重みづけした上で合計したものの逆数により前記視覚的注意の集中度を算出する、ことを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載の発明は、移動体から外部を撮像した画像に基づいて所定の情報処理を行う情報処理装置で実行される情報処理方法であって、前記画像に基づいて、その画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性分布情報を取得する取得工程と、予め定めた規則に従って前記画像における基準視線位置を設定する視線位置設定工程と、前記視覚顕著性分布情報と前記基準視線位置とに基づいて前記画像における視覚的注意の集中度を算出する視覚的注意集中度算出工程と、を含み、前記視覚的注意集中度算出工程は、視覚顕著性分布情報を構成する各画素の値と、前記各画素の位置と前記基準視線位置の座標位置とのベクトル誤差と、に基づいて、前記視覚顕著性分布情報上に設定した前記基準視線位置の座標からの全画素の座標の前記ベクトル誤差と前記画素の値との関係を重みづけした上で合計したものの逆数により前記視覚的注意の集中度を算出する、ことを特徴としている。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の情報処理方法をコンピュータにより実行さ
せることを特徴としている。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の情報処理プログラムを格納したことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施例にかかる情報処理装置の機能構成図である。
【
図2】
図1に示された視覚顕著性抽出手段の構成を例示するブロック図である。
【
図3】(a)は判定装置へ入力する画像を例示する図であり、(b)は(a)に対し推定される、視覚顕著性マップを例示する図である。
【
図4】
図1に示された視覚顕著性抽出手段の処理方法を例示するフローチャートである。
【
図5】非線形写像部の構成を詳しく例示する図である。
【
図7】(a)および(b)はそれぞれ、フィルタで行われる畳み込み処理の例を示す図である。
【
図8】(a)は、第1のプーリング部の処理を説明するための図であり、(b)は、第2のプーリング部の処理を説明するための図であり、(c)は、アンプーリング部の処理を説明するための図である。
【
図10】
図1に示された画像入力部に入力された画像と、その画像から取得された視覚顕著性マップの例である。
【
図11】視覚的注意集中度の時間的変化の例を示したグラフである。
【
図12】
図1に示された情報処理装置の動作のフローチャートである。
【
図13】本発明の第2の実施例にかかる情報処理装置が対象とする交差点の例を示した図である。
【
図14】
図13に示された交差点について理想視線を設定して視覚的注意集中度を算出した図である。
【
図15】
図14に示された視覚的注意集中度の時間的変化を示したグラフである。
【
図16】
図15に示された視覚的注意集中度について右左折時と直進時で比を算出した結果のグラフである。
【
図17】本発明の第2の実施例にかかる情報処理装置の動作のフローチャートである。
【
図18】第2の実施例の変形例が対象とするカーブの例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態にかかる情報処理装置を説明する。本発明の一実施形態にかかる情報処理装置は、取得部が、移動体から外部を撮像した画像に基づいて、その画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性分布情報を取得し、視線位置設定部が、予め定めた規則に従って画像における基準視線位置を設定する。そして、視覚的注意集中度算出部が、視覚顕著性分布情報と視線位置とに基づいて画像における視覚的注意の集中度を算出する。このようにすることにより、視覚顕著性分布情報を用いるため、画像内に含まれる標識や歩行者といった物体に視線が無意識に集中しやすいという文脈的な注意状態を反映することができる。したがって、精度良く安全やリスクに係る指標を算出することが可能となる。
【0013】
また、視覚的注意集中度算出部は、視覚顕著性分布情報を構成する各画素の値と、各画素の位置と基準視線位置の座標位置とのベクトル誤差と、に基づいて視覚的注意の集中度を算出してもよい。このようにすることにより、視覚顕著性が高い位置と基準視線位置との差に応じた値が視覚的注意の集中度として算出される。したがって、例えば、視覚顕著性が高い位置と基準視線位置との距離に応じて視覚的注意の集中度の値が変化するようにすることができる。
【0014】
また、視覚的注意の集中度の時間的変化に基づいて当該画像の示す地点におけるリスクに関する情報を出力する出力部を備えてもよい。このようにすることにより、例えば視覚的注意の集中度の時間的変化が大きい地点を事故リスク地点等として出力することが可能となる。
【0015】
また、取得部は、画像を写像処理可能な中間データに変換する入力部と、中間データを写像データに変換する非線形写像部と、写像データに基づき顕著性分布を示す顕著性推定情報を生成する出力部と、を備え、非線形写像部は、中間データに対し特徴の抽出を行う特徴抽出部と、特徴抽出部で生成されたデータのアップサンプルを行うアップサンプル部と、を備えてもよい。このようにすることにより、小さな計算コストで、視覚顕著性を推定することができる。また、このようにして推定した視覚顕著性は、文脈的な注意状態を反映したものとなる。
【0016】
また、本発明の一実施形態にかかる情報処理方法は、取得工程で、移動体から外部を撮像した画像に基づいて、その画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性分布情報を取得し、視線位置設定工程で、予め定めた規則に従って画像における基準視線位置を設定する。そして、視覚的注意集中度算出工程で、視覚顕著性分布情報と視線位置とに基づいて画像における視覚的注意の集中度を算出する。このようにすることにより、視覚顕著性分布情報を用いるため、画像内に含まれる標識や歩行者といった物体に視線が無意識に集中しやすいという文脈的な注意状態を反映することができる。したがって、精度良く安全やリスクに係る指標を算出することが可能となる。
【0017】
また、上述した情報処理方法を、コンピュータにより実行させている。このようにすることにより、コンピュータを用いて視覚顕著性を推測した視覚顕著性分布情報を用いるため、画像内に含まれる標識や歩行者といった物体に視線が無意識に集中しやすいという文脈的な注意状態を反映することができる。したがって、精度良く安全やリスクに係る指標を算出することが可能となる。
【0018】
また、上述した情報処理プログラムをコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納してもよい。このようにすることにより、当該プログラムを機器に組み込む以外に単体でも流通させることができ、バージョンアップ等も容易に行える。
【実施例1】
【0019】
本発明の第1の実施例にかかる情報処理装置を
図1~
図12を参照して説明する。本実施例にかかる情報処理装置は、例えば自動車等の移動体に設置されるに限らず、事業所等に設置されるサーバ装置等で構成してもよい。即ち、リアルタイムに解析する必要はなく、走行後等に解析を行ってもよい。
【0020】
図1に示したように、情報処理装置1は、画像入力部2と、視覚顕著性演算部3と、視線座標設定部4と、ベクトル誤差演算部5と、出力部6と、を備えている。
【0021】
画像入力部2は、例えばカメラなどで撮像された画像(例えば動画像)が入力され、その画像を画像データとして出力する。なお、入力された動画像は、例えばフレーム毎等の時系列に分解された画像データとして出力する。画像入力部2に入力される画像として静止画を入力してもよいが、時系列に沿った複数の静止画からなる画像群として入力するのが好ましい。
【0022】
画像入力部2に入力される画像は、例えば車両の進行方向が撮像された画像が挙げられる。つまり、移動体から外部を連続的に撮像した画像とする。この画像はいわゆるパノラマ画像や複数カメラを用いて取得した画像等の水平方向に180°や360°等進行方向以外が含まれる画像であってもよい。また、画像入力部2には入力されるのは、カメラで撮像された画像に限らず、ハードディスクドライブやメモリカード等の記録媒体から読み出した画像であってもよい。
【0023】
視覚顕著性演算部3は、画像入力部2から画像データが入力され、後述する視覚顕著性推定情報として視覚顕著性マップを出力する。即ち、視覚顕著性演算部3は、移動体から外部を撮像した画像に基づいて視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性マップ(視覚顕著性分布情報)を取得する取得部として機能する。
【0024】
図2は、視覚顕著性演算部3の構成を例示するブロック図である。本実施例に係る視覚顕著性演算部3は、入力部310、非線形写像部320、出力部330および記憶部390を備える。入力部310は、画像を写像処理可能な中間データに変換する。非線形写像部320は、中間データを写像データに変換する。出力部330は、写像データに基づき顕著性分布を示す顕著性推定情報を生成する。そして、非線形写像部320は、中間データに対し特徴の抽出を行う特徴抽出部321と、特徴抽出部321で生成されたデータのアップサンプルを行うアップサンプル部322とを備える。記憶部390は、画像入力部2から入力された画像データや後述するフィルタの係数等が保持されている。以下に詳しく説明する。
【0025】
図3(a)は、視覚顕著性演算部3へ入力する画像を例示する図であり、
図3(b)は、
図3(a)に対し推定される、視覚顕著性分布を示す画像を例示する図である。本実施例に係る視覚顕著性演算部3は、画像における各部分の視覚顕著性を推定する装置である。視覚顕著性とは例えば、目立ちやすさや視線の集まりやすさを意味する。具体的には視覚顕著性は、確率等で示される。ここで、確率の大小は、たとえばその画像を見た人の視線がその位置に向く確率の大小に対応する。
【0026】
図3(a)と
図3(b)とは、互いに位置が対応している。そして、
図3(a)において、視覚顕著性が高い位置ほど、
図3(b)において輝度が高く表示されている。
図3(b)のような視覚顕著性分布を示す画像は、出力部330が出力する視覚顕著性マップの一例である。本図の例において、視覚顕著性は、256階調の輝度値で可視化されている。出力部330が出力する視覚顕著性マップの例については詳しく後述する。
【0027】
図4は、本実施例に係る視覚顕著性演算部3の動作を例示するフローチャートである。
図4に示したフローチャートは、コンピュータによって実行される情報処理方法の一部であって、入力ステップS110、非線形写像ステップS120、および出力ステップS130を含む。入力ステップS110では、画像が写像処理可能な中間データに変換される。非線形写像ステップS120では、中間データが写像データに変換される。出力ステップS130では、写像データに基づき顕著性分布を示す視覚顕著性推定情報(視覚顕著性分布情報)が生成される。ここで、非線形写像ステップS120は、中間データに対し特徴の抽出を行う特徴抽出ステップS121と、特徴抽出ステップS121で生成されたデータのアップサンプルを行うアップサンプルステップS122とを含む。
【0028】
図2に戻り、視覚顕著性演算部3の各構成要素について説明する。入力ステップS110において入力部310は、画像を取得し、中間データに変換する。入力部310は、画像データを画像入力部2から取得する。そして入力部310は、取得した画像を中間データに変換する。中間データは非線形写像部320が受け付け可能なデータであれば特に限定されないが、たとえば高次元テンソルである。また、中間データはたとえば、取得した画像に対し輝度を正規化したデータ、または、取得した画像の各画素を、輝度の傾きに変換したデータである。入力ステップS110において入力部310は、さらに画像のノイズ除去や解像度変換等を行っても良い。
【0029】
非線形写像ステップS120において、非線形写像部320は入力部310から中間データを取得する。そして、非線形写像部320において中間データが写像データに変換される。ここで、写像データは例えば高次元テンソルである。非線形写像部320で中間データに施される写像処理は、たとえばパラメータ等により制御可能な写像処理であり、関数、汎関数、またはニューラルネットワークによる処理であることが好ましい。
【0030】
図5は、非線形写像部320の構成を詳しく例示する図であり、
図6は、中間層323の構成を例示する図である。上記した通り、非線形写像部320は、特徴抽出部321およびアップサンプル部322を備える。特徴抽出部321において特徴抽出ステップS121が行われ、アップサンプル部322においてアップサンプルステップS122が行われる。また、本図の例において、特徴抽出部321およびアップサンプル部322の少なくとも一方は、複数の中間層323を含むニューラルネットワークを含んで構成される。ニューラルネットワークにおいては、複数の中間層323が結合されている。
【0031】
特にニューラルネットワークは畳み込みニューラルネットワークであることが好ましい。具体的には、複数の中間層323のそれぞれは、一または二以上の畳み込み層324を含む。そして、畳み込み層324では、入力されたデータに対し複数のフィルタ325による畳み込みが行われ、複数のフィルタ325の出力に対し活性化処理が施される。
【0032】
図5の例において、特徴抽出部321は、複数の中間層323を含むニューラルネットワークを含んで構成され、複数の中間層323の間に第1のプーリング部326を備える。また、アップサンプル部322は、複数の中間層323を含むニューラルネットワークを含んで構成され、複数の中間層323の間にアンプーリング部328を備える。さらに、特徴抽出部321とアップサンプル部322とは、オーバーラッププーリングを行う第2のプーリング部327を介して互いに接続されている。
【0033】
なお、本図の例において各中間層323は、二以上の畳み込み層324からなる。ただし、少なくとも一部の中間層323は、一の畳み込み層324のみからなってもよい。互いに隣り合う中間層323は、第1のプーリング部326、第2のプーリング部327およびアンプーリング部328のいずれかで区切られる。ここで、中間層323に二以上の畳み込み層324が含まれる場合、それらの畳み込み層324におけるフィルタ325の数は互いに等しいことが好ましい。
【0034】
本図では、「A×B」と記された中間層323は、B個の畳み込み層324からなり、各畳み込み層324は、各チャネルに対しA個の畳み込みフィルタを含むことを意味している。このような中間層323を以下では「A×B中間層」とも呼ぶ。たとえば、64×2中間層323は、2個の畳み込み層324からなり、各畳み込み層324は、各チャネルに対し64個の畳み込みフィルタを含むことを意味している。
【0035】
本図の例において、特徴抽出部321は、64×2中間層323、128×2中間層323、256×3中間層323、および、512×3中間層323をこの順に含む。また、アップサンプル部322は、512×3中間層323、256×3中間層323、128×2中間層323、および64×2中間層323をこの順に含む。また、第2のプーリング部327は、2つの512×3中間層323を互いに接続している。なお、非線形写像部320を構成する中間層323の数は特に限定されず、たとえば画像データの画素数に応じて定めることができる。
【0036】
なお、本図は非線形写像部320の構成の一例であり、非線形写像部320は他の構成を有していても良い。たとえば、64×2中間層323の代わりに64×1中間層323が含まれても良い。中間層323に含まれる畳み込み層324の数が削減されることで、計算コストがより低減される可能性がある。また、たとえば、64×2中間層323の代わりに32×2中間層323が含まれても良い。中間層323のチャネル数が削減されることで、計算コストがより低減される可能性がある。さらに、中間層323における畳み込み層324の数とチャネル数との両方を削減しても良い。
【0037】
ここで、特徴抽出部321に含まれる複数の中間層323においては、第1のプーリング部326を経る毎にフィルタ325の数が増加することが好ましい。具体的には、第1の中間層323aと第2の中間層323bとが、第1のプーリング部326を介して互いに連続しており、第1の中間層323aの後段に第2の中間層323bが位置する。そして、第1の中間層323aは、各チャネルに対するフィルタ325の数がN1である畳み込み層324で構成されており、第2の中間層323bは、各チャネルに対するフィルタ
325の数がN2である畳み込み層324で構成されている。このとき、N2>N1が成り立つことが好ましい。また、N2=N1×2が成り立つことがより好ましい。
【0038】
また、アップサンプル部322に含まれる複数の中間層323においては、アンプーリング部328を経る毎にフィルタ325の数が減少することが好ましい。具体的には、第3の中間層323cと第4の中間層323dとが、アンプーリング部328を介して互いに連続しており、第3の中間層323cの後段に第4の中間層323dが位置する。そして、第3の中間層323cは、各チャネルに対するフィルタ325の数がN3である畳み込み層324で構成されており、第4の中間層323dは、各チャネルに対するフィルタ325の数がN4である畳み込み層324で構成されている。このとき、N4<N3が成り立つことが好ましい。また、N3=N4×2が成り立つことがより好ましい。
【0039】
特徴抽出部321では、入力部310から取得した中間データから勾配や形状など、複数の抽象度を持つ画像特徴を中間層323のチャネルとして抽出する。
図6は、64×2
中間層323の構成を例示している。本図を参照して、中間層323における処理を説明する。本図の例において、中間層323は第1の畳み込み層324aと第2の畳み込み層324bとで構成されており、各畳み込み層324は64個のフィルタ325を備える。第1の畳み込み層324aでは、中間層323に入力されたデータの各チャネルに対して、フィルタ325を用いた畳み込み処理が施される。たとえば入力部310へ入力された画像がRGB画像である場合、3つのチャネルh
0
i(i=1..3)のそれぞれに対して処理が施される。また、本図の例において、フィルタ325は64種の3×3フィルタであり、すなわち合計64×3種のフィルタである。畳み込み処理の結果、各チャネルiに対して、64個の結果h
0
i,j(i=1..3,j=1..64)が得られる。
【0040】
次に、複数のフィルタ325の出力に対し、活性化部329において活性化処理が行われる。具体的には、全チャネルの対応する結果jについて、対応する要素毎の総和に活性化処理が施される。この活性化処理により、64チャネルの結果h1
i(i=1..64
)、すなわち、第1の畳み込み層324aの出力が、画像特徴として得られる。活性化処理は特に限定されないが、双曲関数、シグモイド関数、および正規化線形関数の少なくともいずれかを用いる処理が好ましい。
【0041】
さらに、第1の畳み込み層324aの出力データを第2の畳み込み層324bの入力データとし、第2の畳み込み層324bにて第1の畳み込み層324aと同様の処理を行って、64チャネルの結果h2
i(i=1..64)、すなわち第2の畳み込み層324bの出力が、画像特徴として得られる。第2の畳み込み層324bの出力がこの64×2中間層323の出力データとなる。
【0042】
ここで、フィルタ325の構造は特に限定されないが、3×3の二次元フィルタであることが好ましい。また、各フィルタ325の係数は独立に設定可能である。本実施例において、各フィルタ325の係数は記憶部390に保持されており、非線形写像部320がそれを読み出して処理に用いることができる。ここで、複数のフィルタ325の係数は機械学習を用いて生成、修正された補正情報に基づいて定められてもよい。たとえば、補正情報は、複数のフィルタ325の係数を、複数の補正パラメータとして含む。非線形写像部320は、この補正情報をさらに用いて中間データを写像データに変換することができる。記憶部390は視覚顕著性演算部3に備えられていてもよいし、視覚顕著性演算部3の外部に設けられていてもよい。また、非線形写像部320は補正情報を、通信ネットワークを介して外部から取得しても良い。
【0043】
図7(a)および
図7(b)はそれぞれ、フィルタ325で行われる畳み込み処理の例を示す図である。
図7(a)および
図7(b)では、いずれも3×3畳み込みの例が示されている。
図7(a)の例は、最近接要素を用いた畳み込み処理である。
図7(b)の例は、距離が二以上の近接要素を用いた畳み込み処理である。なお、距離が三以上の近接要素を用いた畳み込み処理も可能である。フィルタ325は、距離が二以上の近接要素を用いた畳み込み処理を行うことが好ましい。より広範囲の特徴を抽出することができ、視覚顕著性の推定精度をさらに高めることができるからである。
【0044】
以上、64×2中間層323の動作について説明した。他の中間層323(128×2中間層323、256×3中間層323、および、512×3中間層323等)の動作についても、畳み込み層324の数およびチャネルの数を除いて、64×2中間層323の動作と同じである。また、特徴抽出部321における中間層323の動作も、アップサンプル部322における中間層323の動作も上記と同様である。
【0045】
図8(a)は、第1のプーリング部326の処理を説明するための図であり、
図8(b)は、第2のプーリング部327の処理を説明するための図であり、
図8(c)は、アンプーリング部328の処理を説明するための図である。
【0046】
特徴抽出部321において、中間層323から出力されたデータは、第1のプーリング部326においてチャネル毎にプーリング処理が施された後、次の中間層323に入力される。第1のプーリング部326ではたとえば、非オーバーラップのプーリング処理が行われる。
図8(a)では、各チャネルに含まれる要素群に対し、2×2の4つの要素30を1つの要素30に対応づける処理を示している。第1のプーリング部326ではこのような対応づけが全ての要素30に対し行われる。ここで、2×2の4つの要素30は互いに重ならないよう選択される。本例では、各チャネルの要素数が4分の1に縮小される。なお、第1のプーリング部326において要素数が縮小される限り、対応づける前後の要素30の数は特に限定されない。
【0047】
特徴抽出部321から出力されたデータは、第2のプーリング部327を介してアップサンプル部322に入力される。第2のプーリング部327では、特徴抽出部321からの出力データに対し、オーバーラッププーリングが施される。
図8(b)では、一部の要素30をオーバーラップさせながら、2×2の4つの要素30を1つの要素30に対応づける処理を示している。すなわち、繰り返される対応づけにおいて、ある対応づけにおける2×2の4つの要素30のうち一部が、次の対応づけにおける2×2の4つの要素30にも含まれる。本図のような第2のプーリング部327では要素数は縮小されない。なお、第2のプーリング部327において対応づける前後の要素30の数は特に限定されない。
【0048】
第1のプーリング部326および第2のプーリング部327で行われる各処理の方法は特に限定されないが、たとえば、4つの要素30の最大値を1つの要素30とする対応づけ(max pooling)や4つの要素30の平均値を1つの要素30とする対応づけ(average pooling)が挙げられる。
【0049】
第2のプーリング部327から出力されたデータは、アップサンプル部322における中間層323に入力される。そして、アップサンプル部322の中間層323からの出力データはアンプーリング部328においてチャネル毎にアンプーリング処理が施された後、次の中間層323に入力される。
図8(c)では、1つの要素30を複数の要素30に拡大する処理を示している。拡大の方法は特に限定されないが、1つの要素30を2×2の4つの要素30へ複製する方法が例として挙げられる。
【0050】
アップサンプル部322の最後の中間層323の出力データは写像データとして非線形写像部320から出力され、出力部330に入力される。出力ステップS130において出力部330は、非線形写像部320から取得したデータに対し、たとえば正規化や解像度変換等を行うことで視覚顕著性マップを生成し、出力する。視覚顕著性マップはたとえば、
図3(b)に例示したような視覚顕著性を輝度値で可視化した画像(画像データ)である。また、視覚顕著性マップはたとえば、ヒートマップのように視覚顕著性に応じて色分けされた画像であっても良いし、視覚顕著性が予め定められた基準より高い視覚顕著領域を、その他の位置とは識別可能にマーキングした画像であっても良い。さらに、視覚顕著性推定情報は画像等として示されたマップ情報に限定されず、視覚顕著領域を示す情報を列挙したテーブル等であっても良い。
【0051】
視線座標設定部4は、後述する理想視線を視覚顕著性マップ上に設定する。理想視線とは、障害物や自分以外の交通参加者がいないという理想的な交通環境下で自動車の運転者が進行方向に沿って向ける視線をいう。画像データや視覚顕著性マップ上では(x,y)座標として取り扱う。なお、本実施例では理想視線は固定値とするが、移動体の停止距離に影響する速度や道路の摩擦係数の関数として扱ってもよいし、設定された経路情報を利用して決定されてもよい。即ち、視線座標設定部4は、予め定めた規則に従って画像における理想視線(基準視線位置)を設定する視線位置設定部として機能する。
【0052】
ベクトル誤差演算部4は、視覚顕著性演算部3が出力した視覚顕著性マップ及び当該視覚顕著性マップや画像に対して視線座標設定部5が設定した理想視線に基づいてベクトル誤差を算出し、そのベクトル誤差に基づいて視覚的注意の集中度を示す後述の視覚的注意集中度Psを演算する。即ち、ベクトル誤差演算部4は、視覚顕著性分布情報と視線位置とに基づいて画像における視覚的注意の集中度を算出する視覚的注意集中度算出部として機能する。
【0053】
ここで、本実施例におけるベクトル誤差について
図9を参照して説明する。
図9は、視覚顕著性マップの例を示したものである。この視覚顕著性マップはH画素×V画素の256階調の輝度値で示されており、
図3と同様に視覚顕著性が高い画素ほど輝度が高く表示されている。
図9において、理想視線の座標(x,y)=(x
im,y
im)としたとき、視覚顕著性マップ内の任意の座標(k,m)の画素とのベクトル誤差を算出する。視覚顕著性マップにおいて輝度が高い座標と理想視線の座標とが離れている場合は、注視すべき位置と実際に注視し易い位置とが離れることを意味し、視覚的注意が散漫になり易い画像といえる。一方、輝度が高い座標と理想視線の座標とが近い場合は、注視すべき位置と実際に注視し易い位置とが近いことを意味し、注視すべき位置に視覚的注意が集中し易い画像といえる。
【0054】
次に、ベクトル誤差演算部4における視覚的注意集中度Psの算出方法について説明する。本実施例では、視覚的注意集中度Psは次の(1)式により算出される。
【数1】
【0055】
(1)式において、Vvcはピクセル深度(輝度値)、fwは重みづけ関数、derrはベクトル誤差を示している。この重みづけ関数は、例えばVvcの値を示す画素から理想視線の座標までの距離に基づいて重み設定される関数である。αは輝点1点の視覚顕著性マップ(リファレンスヒートマップ)における、輝点の座標と理想視線の座標が一致したときの視覚的注意集中度Psが1となるような係数である。
【0056】
即ち、ベクトル誤差演算部5(視覚的注意集中度算出部)は、視覚顕著性マップ(視覚顕著性分布情報)を構成する各画素の値と、各画素の位置と理想視線(基準視線位置)の座標位置とのベクトル誤差と、に基づいて視覚的注意の集中度を算出している。
【0057】
このようにして得られた視覚的注意集中度Psは、視覚顕著性マップ上に設定した理想視線の座標からの全画素の座標のベクトル誤差と輝度値の関係を重みづけした上で合計したものの逆数である。この視覚的注意集中度Psは、理想視線の座標から視覚顕著性マップの輝度が高い分布が離れていると低い値が算出される。即ち、視覚的注意集中度Psは、理想視線に対する集中度ともいえる。
【0058】
図10に画像入力部2に入力された画像と、その画像から取得された視覚顕著性マップの例を示す。
図10(a)は入力画像、(b)は視覚顕著性マップである。このような、
図10において、理想視線の座標を例えば前方を走行するトラック等の道路上に設定すると、その場合における視覚的注意集中度Psが算出される。
【0059】
出力部6は、ベクトル誤差演算部5で算出された視覚的注意集中度Psに基づいて当該視覚的注意集中度Psが算出された画像が示すシーンについてのリスクに関する情報を出力する。リスクに関する情報としては、例えば、視覚的注意集中度Psに所定の閾値を設け、算出された視覚的注意集中度Psが閾値以下の場合はリスクが高いシーンであるとの情報を出力する。例えば
図10で算出された視覚的注意集中度Psが閾値以下の場合はリスクが高いシーンであると判定し、リスク有(またはリスク高)といった情報を出力することができる。
【0060】
また、出力部6は、ベクトル誤差演算部5で算出された視覚的注意集中度Psの時間的変化に基づいてリスクに関する情報を出力してもよい。
図11に視覚的注意集中度Psの時間的変化の例を示す。
図11は、12秒間の動画像における視覚的注意集中度Psの変化を示している。
図11において、約6.5秒~約7秒の間で視覚的注意集中度Psが急激に変化している。これは、例えば自車両の前方に他車両が割り込んだ場合等である。
【0061】
図11に示したように、視覚的注意集中度Psの短時間当たりの変化率や変化値を予め定めた閾値と比較することによりリスクが高いシーンであると判定し、リスク有(またはリスク高)を示す情報を出力してもよい。また、例えば一旦下がった視覚的注意集中度Psが上がる等の変化のパターンによりリスクの有無(高低)を判定してもよい。
【0062】
次に、上述した構成の情報処理装置1における動作(情報処理方法)について、
図12のフローチャートを参照して説明する。また、このフローチャートを情報処理装置1として機能するコンピュータで実行されるプログラムとして構成することで情報処理プログラムとすることができる。また、この情報処理プログラムは、情報処理装置1が有するメモリ等に記憶するに限らず、メモリカードや光ディスク等の記憶媒体に格納してもよい。
【0063】
まず、画像入力部2が、入力された画像を画像データとして視覚顕著性演算部3に出力する(ステップS11)。本ステップでは、画像入力部2に入力された画像データを画像フレーム等の時系列に分解して視覚顕著性演算部3へ入力している。また、本ステップでノイズ除去や幾何学変換などの画像処理を施してもよい。
【0064】
次に、視覚顕著性演算部3が、視覚顕著性マップを取得する(ステップS12)。視覚顕著性マップは、視覚顕著性演算部3において、上述した方法により
図3(b)に示したような視覚顕著性マップを時系列に出力する。
【0065】
一方、ステップS12と並行して、視線座標設定部4が、理想視線の座標を設定する(ステップS13)。この座標は、上述したように前方注視等の固定位置とする。
【0066】
次に、ベクトル誤差演算部5が、視覚顕著性マップ及び理想視線から視覚的注意集中度Psを算出する(ステップS14)。即ち、上述したように、理想視線の座標と、視覚顕著性マップの座標とのベクトル誤差を算出し、そのベクトル誤差と、各画素の値と、に基づいて(1)式により視覚的注意集中度Psを算出する。
【0067】
次に、出力部6が、リスク情報を出力する(ステップS15)。本ステップでは、上述したように、算出された1つの視覚的注意集中度Psあるいは時間的変化に基づいてリスク情報を出力する。
【0068】
以上の説明から明らかなように、ステップS12が取得工程、ステップS13視線位置設定工程、ステップS14が視覚的注意集中度算出工程としてそれぞれ機能する。
【0069】
本実施例によれば、情報処理装置1は、視覚顕著性演算部3が、移動体から外部を撮像した画像に基づいて、その画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性マップを取得し、視線座標設定部4が、予め定めた固定位置に理想視線の座標を設定する。そして、ベクトル誤差演算部5が、視覚顕著性マップと理想視線とに基づいて画像における視覚的注意集中度Psを算出する。このようにすることにより、視覚顕著性マップを用いるため、画像内に含まれる標識や歩行者といった物体に視線が無意識に集中しやすいという文脈的な注意状態を反映することができる。したがって、精度良く安全やリスクに係る指標を算出することが可能となる。
【0070】
また、ベクトル誤差演算部5は、視覚顕著性マップを構成する各画素の値と、各画素の位置と理想視線の座標位置とのベクトル誤差と、に基づいて視覚的注意集中度Psを算出している。このようにすることにより、視覚顕著性が高い位置と理想視線との差に応じた値が視覚的注意集中度Psとして算出される。したがって、例えば、視覚顕著性が高い位置と理想視線との距離に応じて視覚的注意集中度Psの値が変化するようにすることができる。
【0071】
また、視覚的注意集中度Psの時間的変化に基づいて当該画像の示す地点におけるリスク情報を出力する出力部6を備えている。このようにすることにより、例えば視覚的注意集中度Psの時間的変化が大きい地点を事故リスク地点等として出力することが可能となる。また、当該リスク情報は、視覚的注意集中度Psの時間的変化から、ヒヤリハットに係る情報として出力されてもよい。
【0072】
また、視覚顕著性演算部3は、画像を写像処理可能な中間データに変換する入力部310と、中間データを写像データに変換する非線形写像部320と、写像データに基づき顕著性分布を示す顕著性推定情報を生成する出力部330と、を備え、非線形写像部320は、中間データに対し特徴の抽出を行う特徴抽出部321と、特徴抽出部321で生成されたデータのアップサンプルを行うアップサンプル部322と、を備えている。このようにすることにより、小さな計算コストで、視覚顕著性を推定することができる。また、このようにして推定した視覚顕著性は、文脈的な注意状態を反映したものとなる。
【実施例2】
【0073】
次に、本発明の第2の実施例にかかるリスク情報出力装置を
図13~
図16を参照して説明する。なお、前述した第1の実施例と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0074】
本実施例は、ブロック構成等は
図1と同様である。つまり、情報処理装置1が本実施例にかかるリスク情報出力装置として機能する。画像入力部2から入力される画像は、交差点へ進入する画像であること、出力部6におけるリスクの判定方法等が異なる。
【0075】
本実施例におけるリスク情報が出力される対象となる交差点の例を
図13に示す。
図13は、四叉路(十字路)を構成する交差点である。この交差点において、A方向、B方向、C方向からそれぞれ進入する場合における交差点方向(進行方向)の画像をそれぞれ示す。つまり、
図13に示した画像は、A方向、B方向、C方向をそれぞれ交差点に進入する際の道路である進入路とした場合の画像である。
【0076】
図13に示した画像に対して、第1の実施例で説明したように視覚顕著性マップをそれぞれ取得する。そして、画像について、直進、右折、左折の各進行方向について理想視線を設定し、それぞれの理想視線について視覚的注意集中度Psを算出する(
図14)。つまり、交差点に進入後抜け出す道路となる退出路毎に、画像における理想視線(基準視線位置)をそれぞれ設定して、それぞれの理想視線に対する視覚的注意集中度Psをベクトル誤差演算部5が算出している。
【0077】
ここで、各進入路から交差点に進入する際の視覚的注意集中度Psの時間的変化を
図15に示す。このような時間的変化はベクトル誤差演算部5の算出結果に基づくものである。
図15のグラフは縦軸に視覚的注意集中度Ps、横軸に時間を示し、太線は直進、細線は左折、破線は右折の各進行方向に理想視線を設定した場合をそれぞれ示している。そして、
図15(a)はA方向から進入する場合、
図15(b)はB方向から進入する場合、
図15(c)はC方向から進入する場合をそれぞれ示している。
【0078】
図15によれば、交差点に接近する際には、視覚的注意集中度Psが低下する傾向にあるが、
図15(b)のように交差点の直近で急激に低下する場合もある。また、
図15によれば、直進するために前をまっすぐ見たと仮定したときの視覚的注意集中度Psよりも、右折や左折のために視線を左右いずれかに向けたと仮定したときの視覚的注意集中度Psが低い傾向となった。
【0079】
次に、
図15で算出された視覚的注意集中度Psの時間的変化を利用して右又は左方向の視覚的注意集中度Psと直進方向の視覚的注意集中度Psとの比を出力部6で算出する。算出した比の変化を
図16に示す。
図16のグラフは縦軸に比、横軸に時間を示し、太線は左折/直進比(L/C)、細線は右折/直進比(R/C)を示している。そして、
図16(a)はA方向から進入する場合、
図16(b)はB方向から進入する場合、
図16(c)はC方向から進入する場合をそれぞれ示している。例えば
図16(a)のI
ALはPS
LA(A方向左視覚的注意集中度)/PS
CA(A方向直進視覚的注意集中度)を示し、I
ARはPS
RA(A方向右視覚的注意集中度)/PS
CA(A方向直進視覚的注意集中度)を示している。
図16(b)のI
BL、I
BR、
図16(c)のI
CL、I
CRも進入方向が異なるのみで意味は同じである。
【0080】
図16によれば、I
ALやI
ARといった視覚的注意集中度の比が1より小さいときは、直進するために視線を運ぶときより右左折するときに視線を運ぶときの方が運転者の集中度(=視覚的注意集中度Ps)が落ちる交差点であることを表しているといえる。逆に比が1より大きいときは、直進するときの視線で運転者の集中度が落ちる交差点であることを表しているといえる。
【0081】
したがって、出力部6では、上記のような視覚的注意集中度Psの時間的変化や視覚的注意集中度Psの比に基づいて対象とする交差点のリスクの状態を判定して、判定結果をリスクに関する情報として出力することが可能となる。
【0082】
次に、本実施例にかかる情報処理装置1における動作(情報処理方法)について、
図17のフローチャートを参照して説明する。
【0083】
まず、画像入力部2が、入力された画像を画像データとして視覚顕著性演算部3に出力する(ステップS21)。本ステップでは、
図13のように、交差点の各進入路から交差点方向へ進入する画像を取得する。このとき、画像だけでなく位置情報や時刻情報も同時に取得するとよい。位置情報によってどの方向からの進入かが把握でき、時刻情報により朝昼夜等の時間帯ごとに分析が可能となることや交差点への進入速度を算出することも可能となる。
【0084】
次に、視覚顕著性演算部3が、視覚顕著性マップを取得する(ステップS22)。各進入路からの画像に基づいて視覚顕著性マップを取得する。一方、ステップS22と並行して、視線座標設定部4が、理想視線の座標を設定する(ステップS23)。ステップS23における理想視線は、
図14のように、各進行方向(退出路)に設定する。
【0085】
次に、ベクトル誤差演算部5が、視覚顕著性マップ及び理想視線から視覚的注意集中度Psを算出する(ステップS24)。本ステップでは、
図14に示したように理想視線が設定された退出路毎に視覚的注意集中度Psを算出する。また、視覚的注意集中度Psは、
図15に示したように時系列に算出する。
【0086】
次に、出力部6が、ステップS24で算出された視覚的注意集中度Psに基づいて当該交差点のリスクを判定する(ステップS25)。例えば、視覚的注意集中度Psが交差点の接近段階で急激に変化することが、複数方向からの進入路であった場合はリスク有(あるいはリスク高)の交差点と判定する。または、上述した比が交差点の接近段階で1より小さいことが複数方向からの進入路であった場合はリスク有(あるいはリスク高)の交差点と判定する。また、これらの条件の両方が成立した場合にリスク有(あるいはリスク高)の交差点と判定してもよい。さらには、上記条件を満たすのが複数回あった場合にリスク有(あるいはリスク高)の交差点と判定してもよい。複数回とは、同じ交差点について異なる時間に(あるいは異なる車両で)撮像された画像に基づいて本フローチャートを複数回実行したことをいう。
【0087】
そして、出力部6は、ステップS25の判定結果をリスク情報として出力する(ステップS26)。
【0088】
以上の説明から明らかなように、ステップS22が取得工程、ステップS23視線位置設定工程、ステップS24が視覚的注意集中度算出工程、ステップS25、S26が出力工程としてそれぞれ機能する。
【0089】
本実施例によれば、情報処理装置1は、視覚顕著性演算部3が、交差点に進入する際の道路である進入路毎の画像から、当該画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性マップを進入路毎に取得し、視線座標設定部4が、視覚顕著性マップについて、交差点に進入後抜け出す道路となる退出路毎に、画像における理想視線の座標をそれぞれ設定する。そして、ベクトル誤差演算部5、視覚顕著性マップと理想視線とに基づいて画像における退出路毎の視覚的注意集中度Psを算出して、出力部6が、退出路毎に算出された視覚的注意集中度Psに基づいて交差点におけるリスク情報を出力する。このようにすることにより、対象とする交差点についてリスクを評価してリスク情報を出力することができる。
【0090】
また、出力部6は、退出路のうち、直進する退出路の視覚的注意集中度Psと右折または左折する退出路の視覚的注意集中度Psとの比に基づいてリスク情報を出力している。このようにすることにより、直進する際と右左折する際でどちらに注意が向かい易いかを評価して、評価結果を出力することができる。
【0091】
また、出力部6は、視覚的注意集中度Psの時間的変化に基づいてリスク情報を出力してもよい。このようにすることにより、例えば視覚的注意集中度Psが急激に変化する場合等を検出してリスク情報を出力することができる。
【0092】
なお、第2の実施例において、例えば
図14では、A方向から交差点に進入する場合は、右折(B方向へ向かう)の視覚的注意集中度Psが低下する。B方向から交差点に進入する場合は、右左折(A方向又はC方向へ向かう)の視覚的注意集中度Psが低下する。C方向から交差点に進入する場合は、右折の視覚的注意集中度Psが低下する。
【0093】
この場合、例えばA方向から右折する経路と、B方向から左折する経路は、いずれも視覚的注意集中度Psが他の経路よりも低下する経路であり、さらに進入路と退出路とを入れ替えた場合に同じ経路となる。したがって、この交差点においては、この経路はリスク有(またはリスク高)といったリスクに関する情報を出力するようにしてもよい。
【0094】
また、第2の実施例は、交差点について説明したが、この考え方を道路上のカーブに適用することもできる。
図18を参照して説明する。
【0095】
図18は、カーブしている道路の例である。この道路は、D方向(図下側)から左カーブとして通行する場合と、E方向(図左側)から右カーブとして通行する場合がある。ここで、例えばD方向からカーブに進入する場合、道路の湾曲方向である左方向に理想視線を設定するだけでなく、道路が直進していたと仮定した場合の方向(D’方向)にも理想視線を設定し、それぞれ視覚的注意集中度Psを算出する。E方向からカーブに進入する場合も同様に、道路の湾曲方向である右方向に理想視線を設定するだけでなく、道路が直進していたと仮定した場合の方向(E’方向)にも理想視線を設定し、それぞれ視覚的注意集中度Psを算出する。
【0096】
そして、算出された視覚的注意集中度Psに基づいて交差点と同様に時系列の変化や比等に基づいてリスクを判定すればよい。
【0097】
なお、
図18のようにカーブの曲率が大きい場合は、直進方向のみでなく、カーブの湾曲方向と逆向きにも仮想的な理想視線を設定してもよい。
図18であれば、D方向から進入する場合であれば、D’方向だけでなくE’方向にも理想視線を設定して視覚的注意集中度Psを算出してもよい。つまり、カーブの湾曲方向と異なる方向に理想視線を設定すればよい。
【0098】
即ち、視覚顕著性演算部3が、道路上のカーブに進入する際の画像から、当該画像内における視覚顕著性の高低を推測して得られた視覚顕著性マップを取得し、視線座標設定部4が、視覚顕著性マップについて、カーブの湾曲方向及び湾曲方向と異なる方向に、画像における理想視線の座標をそれぞれ設定する。そして、ベクトル誤差演算部5が、視覚顕著性マップと理想視線とに基づいて画像における湾曲方向と湾曲方向と異なる方向の視覚的注意集中度Psを算出し、出力部6が、退出路毎に算出された視覚的注意集中度Psに基づいてカーブにおけるリスク情報を出力している。
【0099】
このようにすることにより、対象とするカーブについてリスクを評価してリスクに関する情報を出力することができる。
【0100】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の情報処理装置を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0101】
1 情報処理装置(リスク情報出力装置)
2 画像入力部
3 視覚顕著性演算部(取得部)
4 視線座標設定部(視線位置設定部)
5 ベクトル誤差演算部(視覚的注意集中度算出部)
6 出力部