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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】高分解能走査顕微鏡のための方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/36 20060101AFI20240611BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20240611BHJP
   G01N 21/47 20060101ALI20240611BHJP
   G06T 3/4084 20240101ALI20240611BHJP
【FI】
G02B21/36
G02B21/00
G01N21/47 A
G06T3/4084
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020049319
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2020154314
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】10 2019 107 267.0
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】スタニスラフ カリーニン
(72)【発明者】
【氏名】ウォロジミール クドリャフツェフ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エグロフ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー コラロウ
(72)【発明者】
【氏名】イェルク エンゲル
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-240870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0196245(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 - 21/36
G01N 21/62 - 21/74
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/61
G06T 1/00 - 1/40
G06T 3/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(P)の高分解能走査顕微鏡のための方法であって、
前記試料(P)は、照明光(B)が前記試料(P)内または前記試料(P)上の位置に集光されて照明スポット(3)を形成するように、前記照明光(B)で照明され、
前記位置は、複数の検出素子(19)を有する領域検出器(13)上の回折像(15)に結像され、前記領域検出器(13)は、該領域検出器(13)の複数の検出素子(19)によって、前記回折像(15)の回折構造(16)を識別する空間分解能を有し、
前記試料(P)に対する位置を、前記照明スポット(3)の直径よりも小さい増分幅で異なる走査位置に変位させることによって、前記試料(P)は、複数の行および複数の列からなるグリッド内でライン毎に走査され、
前記領域検出器(13)が読み出され、前記試料(P)の画像が、前記領域検出器(13)のデータおよび前記データに割り当てられた複数の走査位置から生成され、前記画像は、撮像のための分解能限界を超えて増大された分解能を有する、前記方法において、
複数の予め計算された行raw画像は、記録された行ごとに計算され、
前記複数の予め計算された行raw画像が合成されてraw画像を形成し、デコンボリューションされて前記試料(P)の画像を生成し、
前記複数の行は、互いに相補的な複数のグループにまとめられ、予め計算されたグループraw画像は、前記複数の予め計算された行raw画像からグループ毎に合成され、前記試料(P)の画像は、前記複数の予め計算されたグループraw画像を合成してraw画像を形成し、デコンボリューションを実行することによって生成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記試料は、順方向及び逆方向において双方向に走査され、前記試料が順方向に走査される前記複数の行は、第1のグループにまとめられ、前記試料が逆方向に走査される複数の行は、第2のグループにまとめられることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
2つのグループraw画像は、前記走査方向を切り替える際に生じる前記画像内の列位置の変位を補償するために相互に関連付けられ、前記変位は、前記関連付けに基づいて決定され、前記2つのグループraw画像における変位が補正されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
n行毎にだけ走査され、nは、2~8までの自然数であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記領域検出器(13)の前記複数の検出素子(19)は、光軸上に位置する中心検出素子群と、前記中心検出素子群をリング状に囲む少なくとも1つの追加検出素子群とを有する複数の検出素子群に分けられ、予め計算された個別raw画像は、前記検出素子群ごとに計算され、複数の予め計算された個別raw画像が合成されて前記行raw画像を形成することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の高分解能走査顕微鏡のための方法に関し、試料は、照明光で照明され、その結果、照明光は、試料内または試料上の位置で、好ましくは回折限界の照明スポットに集光される。次いで、この位置は、複数の画素を有する領域検出器上の回折像に結像され、照明スポットが回折限界である場合には、結像は回折限界である。領域検出器は、その複数の画素により、回折像の回折構造を識別する空間分解能を有する。次いで、試料に対する位置を、照明スポットの直径よりも小さい増分幅で異なる走査位置に変位させることによって、試料は、行および列からなるグリッド内でライン毎に(line-wise)走査される。特に、マルチプレックス記録(multiplex recordings)として知られているものの場合には、照明スポットは、1つの方向において、すなわち列の方向において回折限界よりも大きく、これは、複数の行が同時に走査され得ることを意味する。各走査位置において、画像が領域検出器によって記録される。すべての記録の後、領域検出器が読み取られる。次に、試料の画像が、領域検出器のデータおよび前記データに割り当てられた複数の走査位置から生成され、前記画像は、撮像のための分解能限界を超えて増大された分解能を有する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡の従来の実施形態は、レーザー走査顕微鏡(laser scanning microscopy : LSM)であり、共焦点検出構成を使用して、対物レンズの焦点面に位置する試料のその面のみを結像する。得られるのは光学断面であり、その厚さは共焦点ストップ(confocal stop)の大きさに依存する。試料の異なる深さで複数の光学断面を記録することによって、試料の三次元画像を生成することができ、この画像は、異なる光学断面からなる。したがって、LSMを使用して、より厚い試料を検査することもできる。
【0003】
原理的には、光学顕微鏡の光学分解能は、物理法則による回折限界である。以下の「高分解能(high-resolution)」という用語は、上記の回折限界を超える分解能を意味すると理解される。前記回折限界を克服するための様々な方法が、従来技術において知られている。これらの方法の1つは、例えば特許文献1に記載されているように、エアリースキャン(Airyscan)顕微鏡として知られている方法である。この文献は、図5に示され説明される実施形態において、試料の回折限界照明を領域検出器と組み合わせ、そこで使用される走査装置は、照明スポットで照明される位置の回折像が領域検出器上で静止するように具体化され、このような検出器の構成は「デスキャン(de-scanned)」とも呼ばれる。概して、ビーム経路を偏向させるスキャナ(scanner)は、この目的のために、試料と、照明装置および結像装置の結合点との間に配置される。このようなスキャナは、照明スポットと、照明スポットで照明される位置の結像の両方に作用し、その結果、スキャナ後の結像方向のビーム経路は静止している。そのようなスキャナの代替は、試料を移動させる可動試料ステージの使用である。その場合でも、回折像は、領域検出器上で静止している。特許文献1のコンセプトによれば、領域検出器は、回折像の構造の分解能を可能にする空間分解能を備えている。
【0004】
従来のレーザー走査型顕微鏡では、ピンホールと検出器の組み合わせが用いられているが、この場合では、エアリースキャン検出器として知られているものが用いられ、これは多数の検出素子を有する領域検出器であり、例えば六角形で具体化され、ハニカム構造に配置され得る。ピンホール面の配置により、各検出素子自体が、個別の非常に小さなピンホールとして機能する。複数の検出素子の相対的な配置が既知であるため、1つのエアリーユニット(Airy unit)のピンホールを有するレーザー走査顕微鏡と比較して、記録された複数の強度値から回折限界よりも大きい分解能を有する高分解能画像を計算を用いて生成することが可能である。
【0005】
しかしながら、多数の個々の検出器(典型的なエアリースキャン検出器は、例えば、32個の個々の六角形検出素子からなる)は、特に、試料の全体像の取得における計算の複雑さを増大させる。したがって、より多くの信号が処理される必要がある。各走査位置
【0006】
【数1】
について、いくつかのH信号
【0007】
【数2】
が検出され、Hは検出素子の数に対応する。
【0008】
【数3】
は横方向の試料位置を示し、zは、軸方向の試料位置を示す。インデックスhは、対応する検出素子を示す。
【0009】
走査中、各検出素子は、前記信号
【0010】
【数4】
からなる試料のraw画像を取得する。複数のraw画像は互いに異なり、その差は、対応する検出素子によって検出された試料領域に対する照明スポットの横方向距離によって決定される。複数のraw画像は、対応する検出素子hの(PSFとも呼称される)点広がり関数(point spread function)
【0011】
【数5】
による実際の試料画像
【0012】
【数6】
の畳み込みによって数学的に記述される。
【0013】
【数7】
複数の点広がり関数
【0014】
【数8】
は、その特性によりシステムに知られている。これらは、複数のシステムパラメータから計算されるかまたは一度測定されて保存されることもできる。既知の従来技術では、すべての検出器の信号が顕微鏡の外部の評価ユニットに送信され、そこで、試料のオリジナルの画像
【0015】
【数9】
にできるだけ正確に対応する画像
【0016】
【数10】
が作成される。このことは、デコンボリューション(deconvolution)と、このようにデコンボリューションされた複数のraw画像のその後の合成によって達成され、プロセスのデコンボリューションと合成は、プロセスの技術的な方法で互いにマージされることができる。
【0017】
このことは、例えば、以前に公開されていない特許文献2の図3に示され、それに関連して説明されている。この出願の開示は、その全体が本明細書に組み込まれる。
試料を走査するとき、変位は照射スポットの直径よりも小さく、その結果、試料における複数の同じ位置が、異なる個々の検出器hによって記録される。このことは、試料の全体的な画像を生成するときに考慮する必要がある。結果として、断面zの試料の全体画像を生成するには、個々の検出素子hの信号を計算に含める必要があるだけでなく、それらを組み合わせて試料の面zの画像を形成する必要もある。例えば、32個の検出器が使用される場合、32個のrawデータセットが生成され、各rawデータセットは、検出素子hに対応する。前記rawデータセットはすべて同じサイズを有し、複数の画素の強度値の差は、互いに対するまたは基準素子として機能する中央検出素子に対する複数の検出素子の相対的横方向変位によって生じる。従って、中央検出素子に対する横方向変位は、rawデータ画像内の全ての画素について常に同じである。
【0018】
処理コスト(processing outlay)を削減するために、および「オンザフライ(on-the-fly)」で、すなわち、顕微鏡における記録中または記録直後であって、顕微鏡から制御および評価ユニット、典型的にはPCへのデータ送信前、またはrawデータを記憶することなく制御および評価ユニットへのデータ送信後に、一部の処理を既に実行するために、個々のraw画像データセット(各raw画像データセットは、領域検出器の1つの検出素子に対応する)が互いに横方向に、すなわち方向
【0019】
【数11】
に、実質的に変位shだけ異なるということを正確に使用することが可能である。
【0020】
このことは、より高い分解能を有する予め計算されたraw画像を生成するために使用される。(以下、sと呼称される)複数の変位は、点広がり関数
【0021】
【数12】
の関数であり、比較的低いコストで計算されることができる。複数のraw画像は変位sだけ後方にシフトされ(shifted back)、その後、特に各平面zに対して、他のものとは無関係に追加される。結果として予め計算されたraw画像
【0022】
【数13】
は、回折に基づいて可能な場合よりも高い分解能をすでに有し、シェパードの和(Sheppard sum)と呼称される。
【0023】
【数14】
この予め計算されたraw画像は、ユーザのために表示されることもできるが、さらなる処理ステップで除去しなければならないアーチファクトを含む可能性もある。
【0024】
例えば、試料が順方向及び逆方向に行及び列のグリッドの形態でライン毎に双方向に走査される場合、スキャナの駆動機構に関連する技術的な理由により、順方向及び逆方向の記録された画像の行は、走査方向に沿って僅かにオフセットされる。このオフセットは、相互に関連付けられる必要がある相互に重なり合う複数のデータ領域に基づいて決定され得る。このことは、すべてのraw画像データセットを制御および評価ユニットに送信する必要がある。変位としても知られるオフセットが決定された後、複数のraw画像データセットは、複数の変位によって修正され得る。続いて、予め計算されたraw画像は、個々のraw画像データセットから再びシェパードの和として決定され、続いて、任意選択的にストライプ状アーチファクトも除去される(デストライピング(destriping))。最終的に、点広がり関数によるデコンボリューション
【0025】
【数15】
(空間ドメインでのコンボリューションはフーリエドメインでの乗算に対応するため、これは、フーリエドメインでの計算によって有利に行われる)も実行され、試料の画像が得られる。ノイズを抑制するためにウィーナーフィルタ(Wiener filter)を考慮することを含む計算の詳細については、特許文献2を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】欧州特許出願公開第2317362号明細書
【文献】独国出願番号第102017122858.6号
【発明の概要】
【0027】
最初に全体像のraw画像が生成されなければならず、次に、全てのrawデータが補正されなければならず、その後、全体の予め計算されたraw画像が再び生成されるため、双方向走査のために生じるこれらのアーチファクトの補正には時間がかかる。このことは、顕微鏡から制御および評価デバイスへの大量のデータの送信およびその処理を必要とし、画像の表示までのプロセスを著しく遅くする可能性がある。
【0028】
したがって、本発明の目的は、記録を高速化し、特に、双方向走査による上述のアーチファクトの補正に関する処理を高速化し、かつ必要なデータ量を低減することである。
この課題は、導入部に記載されたタイプの方法において達成され、試料はライン毎に走査され、記録された行毎に、複数の予め計算された行raw画像が計算され、複数の予め計算された行raw画像が組み合わされ、デコンボリューションされて(deconvolved)試料の画像を生成する。
【0029】
複数の予め計算された行raw画像は、好ましくは、各行の記録直後、すなわち、次の行が走査されている間に計算される。先行技術とは対照的に、複数の行および列を有する完全な複数のデータセットは、その後、各検出素子に対して生成されないが、複数の行は、互いに分離して考慮され、これは、次のステップ、予めの計算、すなわち、画像の複数の座標におけるシェパードの和の形成が、任意の所望の数の個々のステップにおいて原理的に分解されることができる線形演算であるため、原理的に可能である。完全な複数のデータセットの形成およびその後のライン毎の事前計算も言うまでもなく同様に可能である。また、最初に複数の行を記録して評価ユニットに送信し、そこでライン手法(line-wise fashion)で計算することも可能である。
【0030】
複数の予め計算された行raw画像は、デコンボリューションの前に様々な方法で合成されることができる。最も単純なケースでは、全ての行raw画像は、さらなる中間ステップなしに合成され、すなわち、画素毎の和は、全ての予め計算された行raw画像から形成され、そのようにして、試料のraw画像が生成され、これはプレビュー画像としても使用されることができる。この手順は、例えば、走査が一方向のみに、すなわち一定方向に行われる場合、またはライン毎のマルチトラッキングの場合に有利である。「ライン毎のマルチトラッキング(line-wise multitracking)」とも呼称される記録方法では、試料は、例えば、緑色レーザーで順方向に走査され(トラック1)、赤色レーザーで逆方向に走査される(トラック2)。
【0031】
しかしながら、特に好ましい構成では、複数の行は、互いに相補的な複数のグループにまとめられる。各グループについて、予め計算されたグループraw画像は、複数の予め計算された行raw画像から構成され、すなわち、グループraw画像の各行raw画像が正しい行位置に挿入されるように注意しなければならないことを除いて、それ以上の計算はここでは行われない。任意選択的には、各グループraw画像に影響を与える複数の予め計算されたグループraw画像に対して補正を行うことも可能である。プレビュー画像は、全てのグループraw画像の画素毎の和を形成することによって生成され得る。複数の行は相互に相補的なグループにまとめられるので、各行は、複数のグループraw画像のうちの1つに1回だけ現れる。試料の画像は、最終的には、複数の予め計算されたグループraw画像を合成してraw画像を形成し(さらなる補正なしで、これはプレビュー画像である)、デコンボリューションを実行することによって生成され、すなわち、複数の予め計算された行raw画像は、複数のグループraw画像の形成の中間段階を経てここで合成される。複数のグループraw画像の合成は、典型的には、複数のグループraw画像の画素毎の和と、全ての検出素子の対応する加算した点広がり関数によるその後のデコンボリューションとからなる。複数の行を互いに相補的なグループにまとめることにより、行のグループ全体にさまざまな補正または修正を適用することができる。例えば、位置又は輝度又は信号強度に関する補正は、行間にオフセット又は外乱(disturbance)が生じるべき場合に適用されることができる。同様に、信号の周期的外乱を補正することも可能である。
【0032】
試料が双方向に、すなわち、順方向および逆方向に走査される場合に、特定の利点が生じる。その場合、試料が順方向に走査される複数の行は第1のグループにまとめられ、試料が逆方向に走査される行、すなわち逆方向に走査されるときに生成される画像に対応する複数の行は第2のグループにまとめられる。次いで、2つのグループraw画像は、該2つのグループraw画像において、スキャナによって生じるオフセットを除いて一致する別個の構造に基づいて互いに相互に関連付けられ、スキャナの前記オフセットに基づいて、順方向の走査と逆方向の走査との間の画像内の複数の列位置の相対的な変位を決定する。次に、この変位は、スキャナによるオフセットを補償するために、前記グループraw画像のうちの1つにまたは部分的に両方に、例えばそれぞれの場合においてその半分に適用される。最も単純なケースでは、このことは全ての素子に等しく適用される演算、すなわち、グループraw画像内の全ての画素に適用される演算である。ただし、状況によっては、行の位置(x座標)に応じて相関が適用されることもできる。相関は、例えば、2つのグループraw画像の両方に存在し、かつ2つのグループraw画像の中で支配的である特定の構造を、画像中のそれらの位置に関して分析することによってもたらされ、そこから変位を決定することができる。
【0033】
次いで、前記グループraw画像において変位が補正され、次いで、このように補正されたグループraw画像が、前と同様に、画素毎の加算によって合成されて、raw画像が形成され、デコンボリューションされる。プレビュー画像は、2つの予め計算されたグループraw画像の単純な画素毎の加算によって生成されることができる。このようにデータを補正することにより、演算時間を短縮することができるとともに、必要なデータ量を削減することができ、2つの予め計算されたグループraw画像のみが、顕微鏡からそれに接続された評価ユニットに送信されて、変位を計算する等の更なる処理を行うことができる。
【0034】
走査がマルチプレックスモード(multiplex mode)として知られているもので実行される場合、すなわち、全ての行が走査されるのではなく、n番目の行毎に実行される場合に、この方法は特に適しており、nは、2つの端点を含む2~8の自然数であることが好ましい。10のようなnのより高い値も可能であり、nは「ラインステップ(line step)」と呼称されるものを示す。結果として得られる複数のデータセットは、それぞれの場合において、試料の後の画像と正確に同数の列を含むが、それに対応してより少ない行を含み、これは、データセット(ここではその全体が格納されていない)が、完成した画像のデータセットよりも半分~7/8だけ小さいことを意味する。複数の画像は、複数の行が省略される方向に圧縮される。ただし、補間は必要ない。検出素子間の距離は、結像面の2つの行間の距離にほぼ対応する。したがって、領域検出器は、原則として、同時に複数の行を検出する。マルチプレックスモードでは、「ラインステップ」が「8」である場合、領域検出器の中心にある中央の検出素子が、たとえば1行目および9行目などを検出する。次の素子は、およそ2行目および10行目を検出する。個々の検出素子の圧縮画像のシェパードの和が形成されると、すべての行が含まれる。
【0035】
言うまでもなく、領域検出器の複数の画素が、光軸上に位置する中心検出素子群と、中心検出素子群を囲む少なくとも1つのさらなる検出素子群とを有する複数の検出素子群に分けられる場合、前述の手順は、特許文献2に最初に記載の方法と組み合わせることができる。次いで、予め計算された行raw画像が複数の検出素子群の各々について計算され、この複数の行raw画像は、軸z方向の分解能を低下させないように前述のように組み合わされる。
【0036】
なお、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、上述した特徴及び後述する特徴は、特定の組み合わせだけでなく、他の組み合わせや単独でも用いることができる。
本発明は、例えば、本発明に不可欠な特徴も開示する添付の図面を参照して、以下により詳細に説明される。これらの例示的な実施形態は、単に例示的なものであり、限定的なものとして解釈されるべきではない。例として、多数の要素または構成要素を有する例示的な実施形態の説明は、これらの要素または構成要素のすべてが具体化に必要であることを意味すると解釈されるべきではない。むしろ、他の例示的な実施形態は、代替の要素および構成要素、より少ない要素または構成要素、または追加の要素または構成要素を含むこともできる。異なる例示的な実施形態の要素または構成要素は、別段の記載がない限り、互いに組み合わせることができる。例示的な実施形態の1つについて説明した修正または変形は、他の例示的な実施形態にも適用可能である。重複を避けるために、異なる図の同じ要素または対応する要素は同じ参照符号で示され、複数回説明されない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】高分解能顕微鏡検査用の顕微鏡の概略図を示す。
図2a-2c】図1の顕微鏡用検出器の検出素子を示す。
図3】8行ごとにのみ検出される複数の圧縮データセットを示す。
図4】試料の場合の画像決定の中間ステップを示す。
図5】試料の最終画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、高分解能、すなわち、特許文献1等から知られているような、いわゆるエアリースキャン(Airyscans)の原理に従って回折限界を超える分解能を有する共焦点顕微鏡1を概略的に示す。それは、照明スポット3において試料Pを照明する光源2を有する。照明光Bは、ビーム整形手段4およびミラー5を介してビームスプリッタ6に導かれる。ビームスプリッタ6は、照明光Bをできるだけ多く反射してスキャナ7に導くように構成されている。照明光Bは、スキャナ7からさらにビーム整形光学ユニット8,9を介して対物レンズ10に導かれる。対物レンズ10は、照明光Bを試料P上に集光して照明スポット3を形成する。
【0039】
照明スポット3内の試料Pによって生成された検出光Dは、対物レンズ10によって収集され、照明光Bとは逆の経路でビームスプリッタ6に導かれる。ビームスプリッタ6は、検出光Dのうち可能な限り多くの部分を透過するように構成されている。ビームスプリッタ6を透過した検出光Dは、さらにフィルタ11およびビーム整形光学ユニット12を介して領域検出器13に送られる。領域検出器13は、ピンホール面(pinhole plane)として知られているものに配置され、検出光Dを検出し、そこから複数の電気信号を生成し、それらを複数の導体14を介して制御および評価デバイスC、例えばコンピュータに送る。このようにして、回折構造16が示すように、回折限界の回折像15が記録される。
【0040】
試料Pの画像を得るために、照射スポット3は、スキャナ7を用いて試料P上を位置毎に移動される。このようにして得られた位置毎の試料信号から、例えばモニタに表示可能な試料の画像が制御および評価デバイスCによって合成される。ここでは、スキャナ7は、横方向、すなわち対物レンズ10の光軸に垂直な面において広がる二次元画像を記録することができる。三次元画像記録では、試料Pに対する対物レンズ10の距離17を変化させて、距離17ごとに試料Pの二次元画像を記録する。制御及び評価デバイスCは、取得した複数の信号を合成して3次元画像を形成することができる。
【0041】
図2a-2cは、共焦点顕微鏡の複数の検出器を模式的に示す。図2aは、単一の検出面18を有する従来の検出器を示す。高分解能を達成するために、共焦点顕微鏡1の領域検出器13は、図2bに示されるように、複数の検出素子または複数の画素19を有する。ここに例として示す構成は、32個の検出素子19を有する。
【0042】
複数の検出素子19のサイズは、それらが領域検出器13で生成される回折像15よりも極めて小さくなるように選択される。同時に、検出素子19の数、つまり、領域検出器13の表面全体は、回折像15の検出光Dのかなりの部分を検出できるように選択される。複数の検出素子19は、この例では六角形またはハニカム形状(shape of honeycombs)で具体化され、これに対応して60°の角度を有するアフィングリッド(affine grid)を形成する。
【0043】
比較の理由から、図2aは、1つの検出素子と1つの検出面18のみを備えた検出器を示す。このような検出器は、典型的な分解能の共焦点顕微鏡に使用される。この場合の検出面18は、回折像15の大部分をカバーする。「典型的な分解能(typical resolution)」という用語は、ここでは、アッベの基準(Abbe criterion)が達成された分解能に適用されることを意味すると理解されるべきである。対照的に、増加した分解能を有する共焦点顕微鏡1では、照明および検出は、理論的に2倍の高分解能を達成することができるように一緒に作用する。実際には、分解能の限界に近い構造は非常に悪いコントラストでのみ伝導されるため、分解能の増加はわずかに低くなる。実際には、アッベの基準の最大約1.7倍の分解能が達成され得る。
【0044】
高分解能の共焦点顕微鏡1の領域検出器13は、各走査位置
【0045】
【数16】
について、検出素子19の数に対応する多数の検出信号
【0046】
【数17】
を取得する。
【0047】
【数18】
は、横方向の試料位置を示し、zは軸方向の試料位置を示し、インデックスhは各検出素子19を示す。
【0048】
領域検出器13は、個々の前記信号
【0049】
【数19】
からなる試料のraw画像信号を取得する。複数の個別のraw画像信号は互いに異なり、その差は、対応する検出素子19によって検出された試料領域に対する照明光スポット3の横方向距離によって決定される。複数のraw画像信号は、対応する検出素子hの点広がり関数PSF
【0050】
【数20】
による実際の試料画像
【0051】
【数21】
の畳み込みによって数学的に記述される。
【0052】
【数22】
これは、オリジナルの試料
【0053】
【数23】
に対応するすべての
【0054】
【数24】
から画像
【0055】
【数25】
をできるだけ正確に構成することを目的としている。これは、原理的には、例えば、ウィーナーフィルタまたは純粋なシェパードの和を考慮して、デコンボリューションによって達成され、デコンボリューション及び合成のプロセスは、プロセスの観点から互いに遷移することができ、この場合の評価は、評価ユニットCへのデータ転送が、顕微鏡内の蓄積されたデータ量と同様に、可能な限り低く維持されるようにする。さらに、他の方法が、帯域制限走査プロセスを修正するために使用されることができる。「ルーシー・リチャードソン・デコンボリューション(Lucy-Richardson deconvolution)」として知られているような反復法がその一例である。
【0056】
以下に説明する手順では、試料Pが、複数の行のグリッドにおいてラインごとに走査される。記録されたすべての行について、予め計算された行raw画像が、記録の直後または記録中に計算されることが好ましい。最後に、複数の予め計算された行raw画像が試料のraw画像に合成され、デコンボリューションされて、試料Pの画像を生成する。
【0057】
走査中、すべての検出素子19をオンにする必要はなく、代わりに、前記素子の選択を切り替えることができる。図2cには、合計18個の検出素子19のそのような選択が示されている。マルチプレックス記録では、この形状は、励起点広がり関数の照明プロファイル(illumination profile)にほぼ対応する。さらなる選択基準は、深さzでの分解能および/またはraw画像のストライプ状アーチファクト(stripe-shaped artifact)の回避である。以下に説明する例では、さらに、8行ごとのみが走査され、最終的な結果として、図3に例として示すように、圧縮された複数の画像のrawデータを提供し、複数のドットは、より多くの画像があること、特に複数の検出素子19が動的に使用されているのと同じ数である画像があることを示す。図3は、実際には、記録中に事前計算が既に行われているために、すなわち記録された行ごとに、これらのデータセットが生成されない場合、複数の行が記録において省略されることを示すだけである。しかしながら、複数のデータセットは、最初に記録され、そして以下にさらに説明されるように計算されることができる。記録されたrawデータは、後で削除されることができる。8行ごと(これは画像を参照する)ではなく、他の距離、特に試料が2行ごとに走査されるようなより短い距離が選択されることができる。同様に、試料の各行を走査することも可能である。
【0058】
検討した例では、複数の行は、複数の相互補完グループにさらにまとめられる。グループ毎に、予め計算されたグループraw画像は、複数の予め計算された行raw画像から合成され、試料Pの画像は、複数の予め計算されたグループraw画像を合成してraw画像を形成し、デコンボリューションを実行することによって生成される。この例では、試料は、双方向に、順方向と逆方向に交互に走査される。その場合、試料が順方向に走査される複数の行は、第1のグループにまとめられ、試料が逆方向に走査される複数の行は、第2のグループにまとめられる。その結果、行は、走査方向に基づいてグループに割り当てられる。この例のように、8行ごとにのみ考慮される場合、垂直方向の複数の走査領域のオーバーラップは発生しておらず、これは、複数の行raw画像が実際には互いに独立して考慮されることを意味する。代替的には、圧縮された複数の画像から完全な複数のデータセットを最初に記録し、次に前記データセットから複数のグループraw画像を計算することが可能である。いずれの方法においても、事前計算は、シェパードの和を形成することによって行われ、これは、特定の試料面zの試料Pの位置
【0059】
【数26】
に対して、
【0060】
【数27】
である。
【0061】
その結果、図4に示す2つのデータセットが得られ、左のデータセットは、例えば、順方向に走査された複数の行に対して得られ、右のデータセットは、逆方向に走査された相補的な複数の行に対して得られる。2つの画像の合成は、単純な画素毎の和としてraw画像を生成し、このraw画像は、さらなるステップを計画するためのプレビュー画像としてユーザに既に表示されることができる。順方向および逆方向において記録された複数の行についてのシェパードの和をそれぞれの場合において含む2つの予め計算されたグループraw画像は記憶され、一方、個々の行のrawデータまたは個々の圧縮されたデータセットのrawデータは直ちに削除されることができる。
【0062】
しかしながら、走査方向の切り換え時に発生する走査の技術に基づくオフセットのために、複数のアーチファクト、特に、順方向にサンプリングされた複数の行と逆方向にサンプリングされた複数の行との間の複数の行に沿った複数の変位を含むため、2つのグループraw画像の画素毎の付加的な重ね合わせ(superposition)から生成された試料のraw画像は、試料の実際の画像にまだ対応していない。この複数の変位は、2つのグループraw画像に基づいて決定され、その目的のためにそれらは相互に関連付けられる。この相関、すなわち、スキャナの実際の位置と期待される位置との差に基づいて、x方向の変位、すなわち行に沿った変位が決定され得る。変位が決定されると、2つのグループraw画像は、例えば、それぞれの場合における2つのデータセットを、計算された補正の半分だけ互いに反対方向に変位させることによって補正され得る。原則として、1つのデータセットのみの変位も可能であるが、歪み、または(補正の時間的変化を伴って)その変化は画像内で可視のままである。これらのステップは、典型的には、2つの予め計算されたグループraw画像が顕微鏡からPCに転送された後に、PC上で実行される。2つのグループraw画像は、補正後に合成されて、すなわち追加される画素毎でさらなる計算動作なしに試料のraw画像を形成する。続いて、raw画像はデコンボリューションされて図5に示す試料Pの画像を生成する。これは、たとえば、以前に公開されていない特許文献2に記載されている方法で行われる。
【0063】
前述の手順により、より少ないデータが生成され、複数の画像の計算が簡易化され、rawデータの記録から補正画像の生成および表示までのプロセスが加速される。
【符号の説明】
【0064】
1 共焦点顕微鏡
2 光源
3 照明スポット
4 ビーム整形器
5 ミラー
6 ビームスプリッタ
7 スキャナ
8,9 ビーム整形光学ユニット
10 対物レンズ
11 フィルタ
12 ビーム整形光学ユニット
13 領域検出器
14 導体
15 回折像
16 回折構造
17 距離
18 検出面
19 検出素子
B 照明光
C 制御及び評価ユニット
D 検出光
P 試料
図1
図2a-2c】
図3
図4
図5