(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】セラミック複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/84 20060101AFI20240611BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20240611BHJP
B24C 5/06 20060101ALI20240611BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20240611BHJP
C04B 35/80 20060101ALI20240611BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C04B35/84
B24C1/00 C
B24C5/06 A
B24C11/00 B
B24C11/00 D
C04B35/80
C04B41/91 D
(21)【出願番号】P 2020098764
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 佑基
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172663(JP,A)
【文献】特表2008-531448(JP,A)
【文献】特開2000-219576(JP,A)
【文献】特開2016-088826(JP,A)
【文献】特開2007-030122(JP,A)
【文献】特開2008-246662(JP,A)
【文献】特開2004-299964(JP,A)
【文献】特開昭55-100271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80-35/84
C04B 41/91
B24C 11/00
B24C 1/00
B24C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック前駆体を含む溶液又はスラリーを、セラミック繊維を含む骨材の隙間に含浸させて含浸体を得る含浸工程と、
前記含浸体を硬化させた後、焼成して、前記骨材と、前記骨材の隙間に充填されたセラミックマトリックスと、を有する焼成体を得る焼成工程と、
前記焼成体の表面に、有機物からなる弾性体と、前記セラミック繊維と同一の化合物からなる砥粒と、を含有する複合粒子を衝突させ、前記焼成工程により前記焼成体の表面に形成されたセラミック前駆体の焼成物を除去する清浄化工程と、を有し、
前記清浄化工程は、羽根の回転を利用した遠心力により前記複合粒子を噴射する遠心式ブラスト機を用いることを特徴とするセラミック複合材の製造方法。
【請求項2】
前記セラミック繊維の表面に、化学気相含浸法により、前記セラミック繊維と同一の化合物からなる表面層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項3】
前記複合粒子の粒子径は、50μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項4】
前記弾性体は、ゴム、アクリル樹脂及びナイロン樹脂から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項5】
前記セラミック繊維は、SiC繊維であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のセラミック複合材の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックマトリックスは、SiCからなることを特徴とする請求項5に記載のセラミック複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック繊維により強化されたセラミック複合材の製造方法及びセラミック複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック材は、耐熱性、強度を備えているものの、弾性率が高いという特徴を有しているため、脆い素材である。そこで、セラミックよりなる母材(マトリックス)に、骨材としてセラミック繊維を複合させることにより、セラミックの母材の弱点である脆性を改良した種々のセラミック複合材が提案されている。
セラミック繊維により強化されたセラミック複合材は、耐熱性、強度、靱性を備えているので、様々な分野で利用されており、その高い耐熱性及び強度を利用して、例えば、高温、高速の流体の流体用整流部材として用いられている。
【0003】
特に、骨材としてクロスやフィラメントワインディング体などの長繊維が使用されたセラミック複合材は、セラミック繊維の強度が十分に発揮されるため、高い強度を得ることができる。
一方、マトリックスとなるセラミックは多孔質な材料であるため、表面に凹凸が形成され、流体用整流部材として用いた場合に気流の乱れが発生する。また、セラミック複合材の表面の凹凸を低減することを目的として表面加工を行うと、表面のセラミック繊維が切断され、強度低下の原因となる。このため、強度及び凹凸の低減に関して、様々な工夫が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、中心軸を包囲する筒状部を有する流体用整流部材であって、筒状部は、内層のセラミック繊維層と最表層のセラミック繊維層とからなる支持材と、この支持材を覆うセラミックマトリックスと、からなり、最表層のセラミック繊維層は、中心軸に沿って配向しているセラミック繊維によって構成された流体用整流部材が記載されている。
上記特許文献1には、表面を加工することなく気流の抵抗となる凹凸を低減できるので、セラミック繊維を切断することがなく支持材の強度を充分に発揮することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の流体用整流部材は、最表層のセラミック繊維層が中心軸に沿って配向しており、その配向方向が限定されているため、セラミック繊維と交差する軸方向の強度が得られにくいという問題点がある。また、特に薄い素材においては、内層のセラミック繊維層の厚さも薄くなるため、セラミック繊維を用いることによる強度の効果を享受しにくい。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑み、セラミック繊維が切断されることによる強度の低下を防止することができ、平滑な表面を有するセラミック複合材を得ることができるセラミック複合材の製造方法及びセラミック複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、本発明に係る下記(1)のセラミック複合材の製造方法により達成される。
【0009】
(1) セラミック前駆体を含む溶液又はスラリーを、セラミック繊維を含む骨材の隙間に含浸させて含浸体を得る含浸工程と、
前記含浸体を硬化させた後、焼成して、前記骨材と、前記骨材の隙間に充填されたセラミックマトリックスと、を有する焼成体を得る焼成工程と、
前記焼成体の表面に、有機物からなる弾性体と、前記セラミック繊維と同一の化合物からなる砥粒と、を含有する複合粒子を衝突させ、前記焼成工程により前記焼成体の表面に形成されたセラミック前駆体の焼成物を除去する清浄化工程と、を有し、
前記清浄化工程は、羽根の回転を利用した遠心力により前記複合粒子を噴射する遠心式ブラスト機を用いることを特徴とするセラミック複合材の製造方法。
【0010】
本発明のセラミック複合材の製造方法によれば、弾性体と砥粒とからなる複合粒子を、羽根の回転によって遠心力を与えられる遠心式ブラスト機を用いて焼成体の表面に衝突させることにより、焼成体の表面を清浄化するため、複合粒子の焼成体表面への衝突速度にばらつきが発生することを抑制することができる。これにより、セラミック繊維にダメージを与えることなく、焼成体の表面の脆い部分、すなわち、セラミック前駆体の焼成物だけを選択的に除去することができ、円滑な表面のセラミック複合材を製造することができる。
【0011】
また、本発明に係るセラミック複合材の製造方法は、下記(2)~(6)であることが好ましい。
【0012】
(2) 前記セラミック繊維の表面に、化学気相含浸法により、前記セラミック繊維と同一の化合物からなる表面層が形成されていることを特徴とする(1)に記載のセラミック複合材の製造方法。
【0013】
気相成長法で得られたCVI法によるセラミックは、緻密で硬いので耐摩耗性が強く、骨材の表面の強度をより一層高めることができる。これにより、複合粒子の衝突からセラミック繊維の表面が保護され、セラミック繊維の折損を防止することができるため、焼成体の表面におけるセラミック前駆体の焼成物のみをより選択的に除去することができる。
【0014】
(3) 前記複合粒子の粒子径は、50μm以上1000μm以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のセラミック複合材の製造方法。
【0015】
前記複合粒子の粒子径が上記適切な範囲となるように選択されていると、複合粒子の焼成体の表面への衝突による衝撃でセラミック繊維が折損することを防止することができるとともに、複合粒子が空気抵抗を受けることによって、衝突エネルギーが減少することを防止することができる。
【0016】
(4) 前記弾性体は、ゴム、アクリル樹脂及びナイロン樹脂から選択された少なくとも1種であることを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載のセラミック複合材の製造方法。
【0017】
上記弾性体は、いずれも適度な弾性を有しているため、複合粒子の焼成体の表面への衝突エネルギーを分散させることができ、セラミック繊維の破損を防止することができる。
【0018】
(5) 前記セラミック繊維は、SiC繊維であることを特徴とする(1)~(4)のいずれか1つに記載のセラミック複合材の製造方法。
【0019】
SiC繊維は、セラミック繊維の中でも高い強度を有しているため、得られるセラミック複合材の強度を向上させることができる。また、SiC繊維は高い弾性率を有しているため、曲げに弱いが、本発明においては、遠心式ブラスト機を用いて、砥粒と弾性体とを含有する複合粒子を焼成体の表面に衝突させるため、SiC繊維を切断することなく連続繊維として残し、平滑な表面のセラミック複合材を得ることができる。
【0020】
(6) 前記セラミックマトリックスは、SiCからなることを特徴とする(5)に記載のセラミック複合材の製造方法。
【0021】
セラミック繊維及びセラミックマトリックスがともにSiCであると、高強度のセラミック複合材を得ることができる。また、SiCからなる繊維及びセラミックマトリックスは、ともに硬い材料であるとともに、高い弾性率を有しているが、本発明に係る製造方法を適用することにより、セラミック繊維を切断することなく平滑な表面のセラミック複合材を得ることができる。
【0022】
上記の目的は、本発明に係る下記(7)のセラミック複合材により達成される。
【0023】
(7) セラミック繊維を含む骨材と、前記骨材の隙間に充填されたセラミックマトリックスと、を有するセラミック複合材であって、
表面は、前記セラミック繊維からなる複数の凸部と、前記複数の凸部の間に形成された凹部と、からなり、
前記凹部の底面は前記セラミックマトリックスにより構成されていることを特徴とするセラミック複合材。
【0024】
表面がセラミック繊維からなる複数の凸部と、複数の凸部の間に形成される凹部と、からなり、凹部の底面はセラミックマトリックスにより構成されているものであると、セラミック繊維からなる凸部はなだらかな突形状であるため、気流の流れを妨げることはなく、また、表面の平滑性を阻害するセラミック前駆体の焼成物が存在しないため、高強度で平滑な表面を有するセラミック複合材とすることができる。
【0025】
また、本発明に係るセラミック複合材は、下記(8)~(10)であることが好ましい。
【0026】
(8) 前記セラミック繊維の表面に、前記セラミック繊維と同一の化合物からなり、化学気相含浸法による表面層が形成されていることを特徴とする(7)に記載のセラミック複合材。
【0027】
気相成長法で得られたCVI法によるセラミックは、緻密で硬く、耐摩耗性が強いため、骨材の表面の強度をより一層高めることができ、高い強度のセラミック複合材を得ることができる。
【0028】
(9) 前記セラミック繊維は、SiC繊維であることを特徴とする(7)又は(8)に記載のセラミック複合材。
【0029】
SiC繊維は、セラミック繊維の中でも高い強度を有しているため、より一層高い強度のセラミック複合材を得ることができる。
【0030】
(10) 前記セラミックマトリックスは、SiCからなることを特徴とする(9)に記載のセラミック複合材。
【0031】
セラミック繊維及びセラミックマトリックスがともにSiCであると、更に一層高い強度のセラミック複合材を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るセラミック複合材の製造方法によれば、弾性体と砥粒とからなる複合粒子を、羽根の回転によって遠心力を与えられる遠心式ブラスト機を用いて焼成体の表面に衝突させることにより、焼成体の表面を清浄化するため、複合粒子の焼成体表面への衝突速度にばらつきが発生することを抑制することができる。これにより、セラミック繊維にダメージを与えることなく、焼成体の表面の脆い部分、すなわち、セラミック前駆体の焼成物だけを選択的に除去することができ、円滑な表面のセラミック複合材を製造することができる。
【0033】
また、本発明に係るセラミック複合材は、表面がセラミック繊維からなる複数の凸部と、複数の凸部の間に形成される凹部と、からなり、セラミック繊維からなる凸部はなだらかな突形状であるため、気流の流れを妨げることはなく、また、表面の平滑性を阻害するセラミック前駆体の焼成物10が存在しないため、高強度で平滑な表面を有するセラミック複合材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1(a)~
図1(d)は、本発明の実施形態に係るセラミック複合材の製造方法を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の実施形態に係る製造方法により製造されたセラミック複合材を模式的に示す上面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA-A線における断面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2(b)におけるB部を拡大して示す模式図であり、
図3(b)は
図3(a)を更に拡大して示す模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態において使用される遠心式ブラスト機の構造を示す模式図である。
【
図5】
図5は、エアブラスト機の構造を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例及び比較例におけるセラミック複合材の表面及び断面を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明者は、セラミック繊維を切断することなく、表面の凹凸を低減し、平滑化することができるセラミック複合材の製造方法を得るため、鋭意検討を行った。その結果、前駆体法により得られた焼成体の表面に、遠心式ブラスト機を用いて所定の複合粒子を衝突させることにより、セラミックマトリックス表面の平滑性を阻害する不要な焼成物のみを除去することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づくものであり、以下において本発明の実施形態に係るセラミック複合材の製造方法及びセラミック複合材について詳細に説明する。なお、前駆体法とは、焼成によって目的のセラミックを得ることができる材料を骨材に含浸させ、乾燥、焼成する方法をいう。
【0036】
[セラミック複合材の製造方法]
図1(a)~
図1(d)は、本発明の実施形態に係るセラミック複合材の製造方法を模式的に示す断面図である。また、
図2(a)は本発明の実施形態に係る製造方法により製造されたセラミック複合材を模式的に示す上面図であり、
図2(b)は
図2(a)のA-A線における断面図である。さらに、
図3(a)は
図2(b)におけるB部を拡大して示す模式図であり、
図3(b)は
図3(a)を更に拡大して示す模式図である。
なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0037】
図3(a)に示すように、骨材2は、セラミック繊維4を束ねたストランド5を、縦糸及び横糸として織り込むことにより織布6を形成し、得られた織布6を積層することにより構成されている。なお、本実施形態においては、SiCからなるセラミック繊維4を用いている。
【0038】
また、
図3(b)に示すように、セラミック繊維4の表面には、BN(窒化ホウ素)からなる中間層15が形成されており、更に中間層15の表面には、化学気相含浸法(CVI:Chemical Vapor Infiltration)により、SiCからなる表面層16が形成されている。
【0039】
このように、以下に示す含浸工程の前の段階で、セラミック繊維4の表面に表面層16が形成されていることにより、セラミック繊維4同士が接合されているとともに、骨材2が所望の形状に固定されている。
【0040】
<含浸工程>
図1(a)に示すように、セラミック前駆体1aを含む溶液又はスラリーに骨材2を含浸させて含浸体3を得る。セラミック前駆体1aを含む溶液又はスラリーとは、固体のセラミック前駆体が溶媒に溶解された溶液状、固体のセラミック前駆体と溶媒とが混合されたスラリー状、及び液体のセラミック前駆体が挙げられる。
なお、セラミック前駆体1aは、焼成後に、セラミック繊維4と同一の材質となるものであるか、又はセラミック繊維より柔らかい材質となるものであることが好ましい。
【0041】
<硬化工程>
次に、
図1(b)に示すように、セラミック前駆体1a及び骨材2を加熱することにより、セラミック前駆体1aを硬化させて、硬化体7を得る。この硬化工程は、後述する焼成工程において、セラミック前駆体1aを含む溶液又はスラリーが骨材2の外部に流出しないように、セラミック前駆体1aを一旦硬化させる工程である。
なお、セラミック前駆体1aを含む溶液又はスラリーが溶媒を含む場合には、加熱した際に、溶媒が気泡9aとなり、気泡9aとともにセラミック前駆体1aの一部が骨材2の外部に流出される。また、セラミック前駆体1aが液体状の場合には、加熱した際に低分子量成分や生成した分解物が気泡9aとなり、気泡9aとともに、セラミック前駆体1aの一部が骨材2の外部に流出される。
【0042】
<焼成工程>
次に、
図1(c)に示すように、硬化体7を焼成することにより、セラミック前駆体1aをセラミック化してセラミックマトリックス1bを形成し、これにより焼成体8を得る。このとき、上記硬化工程において、気泡9aとともに骨材2の外部に流出したセラミック前駆体1aが骨材2の表面に残存しているため、焼成工程により焼成されてセラミック前駆体の焼成物10が形成される。
【0043】
また、硬化したセラミック前駆体1aは焼成によりセラミック化する過程で収縮し、高密度化するため、焼成工程において更に細かい気孔9bが形成される。これにより、骨材2の内部及び表面には、セラミック繊維4及びSiCからなる表面層16と比較して、脆いセラミックマトリックス1b及びセラミック前駆体の焼成物10が形成される。
なお、焼成により形成されたセラミックマトリックス1bとセラミック前駆体の焼成物10とは同一物であるが、本願明細書では、骨材2の隙間に充填され、母材として機能するものをセラミックマトリックス1bとし、骨材2等の表面に形成され、セラミック複合材の表面の平滑性を阻害するものをセラミック前駆体の焼成物10としている。このセラミック前駆体の焼成物10は、目的とするセラミック複合材の表面の平滑性を阻害するため、次の清浄化工程において除去される。
【0044】
<清浄化工程>
次に、遠心式ブラスト機を用いて、焼成体8の表面に所定の複合粒子を衝突させ、セラミック前駆体の焼成物10を除去することにより、焼成体8の表面を清浄化し、セラミック複合材11が製造される。
本実施形態に係る製造方法により製造されたセラミック複合材11において、
図2(a)に示すように、セラミック繊維4の表面に、不要なセラミック前駆体の焼成物10が除去されている。したがって、
図2(b)に示すように、セラミック複合材11の表面は、セラミック繊維4からなる複数の凸部12と、この複数の凸部12の間に形成された凹部13とを有するものとなるが、セラミック繊維からなる凸部12はなだらかな突形状であるため、表面に不要なセラミック前駆体の焼成物10が残存する場合と比較して、平滑な表面となっている。
【0045】
図4は、本実施形態において使用される遠心式ブラスト機の構造を示す模式図である。遠心式ブラスト機20は、高速回転する複数枚のブレード(羽根)22と、ブレード22に複合粒子23を供給するノズル21とを有している。ブレード22に複合粒子23が供給されると、複合粒子23はブレード22の回転によって遠心力を与えられて、複合粒子23が焼成体8の表面に向かって噴射される。
【0046】
本実施形態においては、前駆体法を用いるため、セラミック前駆体1aを骨材2の内部まで浸透させることができ、骨材2の内部において緻密なセラミックマトリックス1bを得ることができる。
また、含浸体3の硬化工程においては、乾燥の際に気泡9aを外部に放出させる。このとき、溶媒又は分解ガスがセラミック前駆体1aとともに骨材2の外部に流出され、流出したセラミック前駆体1aは、その後の焼成工程においてセラミック前駆体の焼成物10となる。したがって、焼成体8の状態では、表面に焼成物10が付着しており、表面の平滑性を得ることができないが、本実施形態に係る製造方法によれば、セラミック前駆体の焼成物10のみを、遠心式ブラスト機20により除去することができるため、強度を低下させることなく平滑な表面を有するセラミック複合材11を得ることができる。
【0047】
一般的に、ブラスト機としては、遠心式ブラスト機と、エアブラスト機とがあるが、本発明においては遠心式ブラスト機を用いるものとする。遠心式ブラスト機を用いることによる本発明の効果を説明するため、エアブラスト機について以下に簡単に説明する。
【0048】
図5は、エアブラスト機の構造を示す模式図である。
図5に示すように、ノズル31の中央付近には、ノズル31内に研磨剤粒子33が供給される供給口32が設けられている。また、ノズル31の後方は、不図示のコンプレッサー等に連結されている。したがって、ノズル31の後方から先端に向かって圧縮気体35が高速で送出されると、圧縮気体35とともに研磨剤粒子33がノズル31の先端から噴出され、例えば焼成体8等の対象物の表面を研磨する。
【0049】
このように構成されたエアブラスト機30は、圧縮気体35の気流を用いて研磨剤粒子33を加速するので、気流の流速分布に応じて研磨剤粒子33の速度にばらつきが発生する。具体的には、気流束36の中心部36aでは周囲の空気の影響を受けにくいため、中心部36aにおける研磨剤粒子33の速度が高速となり、衝撃力のある加工が可能である。一方、気流束36の周辺部36bでは周囲の空気の影響を受けて減速するため、周辺部36bにおける研磨剤粒子33の速度が低下し、十分な衝撃力を得ることができない。
このため、エアブラスト機30を用いて焼成体8の表面に研磨剤粒子33を噴射した場合には、速度が速く、衝撃力が大きい一部の研磨剤粒子33がセラミック繊維4にダメージを与えるため、得られるセラミック複合材の強度を低下させる。
【0050】
また、焼成体8の表面を平滑化する他の方法として、砥石や刃物を使った研削加工を用いる方法も挙げられるが、研削加工により焼成体8の表面を研削すると、セラミック繊維4の破断を生じさせるため、平滑な表面が得られにくく、強度の低下も生じさせる。
【0051】
本実施形態に係る製造方法によれば、遠心式ブラスト機20を用いるため、ブレード22の周速以上に複合粒子23が加速されず、速度分布を狭くすることができる。また、本実施形態によれば、上記焼成工程において、細かい気孔9bを多く有する脆いセラミックマトリックス1b及びセラミック前駆体の焼成物10が形成されている。このため、セラミックマトリックス1b及びセラミック前駆体の焼成物10は、セラミック繊維4及びSiCからなる表面層16と比較して摩耗しやすいものとなる。
したがって、遠心式ブラスト機20を用いることにより、柔軟性のあるセラミック繊維4にダメージを与えることなく表面に残し、セラミック前駆体の焼成物10だけを選択的に除去することができるため、製造されるセラミック複合材11の強度低下を防止することができる。
【0052】
上記清浄化工程において使用される複合粒子23について、更に詳細に説明する。
【0053】
(複合粒子)
複合粒子23は、有機物からなる弾性体と、セラミック繊維(SiC繊維)4と同一の化合物からなる砥粒と、を含有するものである。複合粒子23に有機物からなる弾性体が含有されていると、砥粒のみが焼成体8の表面に噴射される場合と比較して、複合粒子23の衝突エネルギーを低減することができ、セラミック繊維に与えられるダメージを減少させることができる。
【0054】
また、複合粒子23にセラミック繊維4と同一の化合物からなる砥粒が含有されていると、セラミック前駆体の焼成物10のみを選択的に効率的に除去することができる。更に、砥粒はセラミック繊維4と同一の材質であるので、最終的に得られるセラミック複合材11の表面に残留しても、異物にはならないという利点がある。
【0055】
なお、複合粒子23の粒子径が50μm以上であると、複合粒子23の空気抵抗による衝突エネルギーの減少を防止することができる。一方、複合粒子23の粒子径が1000μm以下であると、複合粒子23が焼成体8の表面に衝突した際におけるセラミック繊維4の破損を防止することができる。したがって、複合粒子23の粒子径は50μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0056】
有機物からなる弾性体としては、ゴム、アクリル樹脂及びナイロン樹脂から選択された少なくとも1種とすることが好ましい。ゴム、アクリル樹脂及びナイロン樹脂はいずれも適度な弾性を有しているため、複合粒子23の焼成体8の表面への衝突エネルギーを分散させることができ、セラミック繊維4の破損を防止することができる。
【0057】
続いて、本発明において使用することができるセラミック繊維4、骨材2の形態及びセラミック前駆体1a、並びに焼成工程により形成されるセラミックマトリックス1bについて、以下に説明する。
【0058】
(セラミック繊維)
本発明において、セラミック繊維4の種類としては、SiC繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維及びジルコニア繊維等を使用することができ、特に限定されないが、SiC繊維であることが好ましい。例えば、SiC繊維は、セラミック繊維の中でも高い強度を有しているため、得られるセラミック複合材11の強度を向上させることができる。なお、SiC繊維は高い弾性率を有しているため、曲げに弱く、従来の処理方法によって焼成体8の表面を清浄化しても、平滑な表面を得ることが極めて困難である。本発明においては、SiC繊維を使用した場合であっても、これを切削することなく連続繊維として残し、セラミック前駆体の焼成物10のみを選択的に除去することができるため、SiC繊維を好適に使用することができる。
【0059】
なお、上記実施形態においては、セラミック繊維4の表面に、BNからなる中間層15を介して、CVIによりSiCからなる表面層16が形成されたものを骨材2の材料として用いたが、セラミック繊維4のみであってもよい。CVI法により得られるセラミックは緻密で硬いので、耐摩耗性が強く、骨材の表面の強度をより一層高めることができる。その結果、複合粒子の衝突からセラミック繊維4の表面を保護することができ、セラミック繊維4の折損を防止することができる。したがって、CVI法によりセラミック繊維4と同一の化合物からなる表面層16が形成されていると、より選択的に、セラミック前駆体の焼成物10を除去することができる。
【0060】
また、セラミック繊維4と表面層16との間の中間層15は、セラミック繊維4と表面層16とが一体化することを防止する効果を有している。したがって、セラミック繊維4と表面層16とが一体化しにくい場合には、中間層15は特に必要としない。
【0061】
(骨材)
本発明において使用することができる骨材2の形態としては特に限定されず、種々の形態の骨材2を用いることができるが、連続したセラミック繊維4を用いたものであることが好ましい。連続したセラミック繊維4を用いた骨材2としては、例えば、複数本のセラミック繊維4を束ねて織ったクロス、セラミック繊維4を巻回したフィラメントワインディング体、セラミック繊維4を編み込んだブレーディング体などを利用することができる。連続したセラミック繊維4を用いたセラミック複合材11は、繊維が連続しているため、薄い素材であっても繊維の引き抜きが起こりにくく、高い強度を発揮することができる。
【0062】
(セラミック前駆体)
セラミック前駆体としては、種々の前駆体を使用することができる。炭素を得るための前駆体としては、例えば、ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂及びコプナ樹脂等を使用することができる。また、SiCを得るための前駆体としては、例えば、ポリカルボシラン及びその誘導体等を使用することができる。さらに、アルミナを得るための前駆体としては、例えば塩基性塩化アルミニウム、アルミナゾル等を使用することができる。
これらのセラミック前駆体と、上記骨材と組み合わせることにより、SiC/SiC複合材、C/C複合材、C/SiC複合材、SiC/C複合材、Al2O3/Al2O3複合材など様々なセラミック複合材に適用することができる。なお、「/」の前はセラミック繊維を示し、「/」の後はマトリックスを示している。
【0063】
(セラミックマトリックス)
本発明において使用されるセラミック繊維4と、焼成工程により得られるセラミックマトリックス1bがともにSiCからなるものであると、高強度のセラミック複合材11を得ることができるため、好ましい。なお、本発明によれば、セラミック繊維4とセラミックマトリックス1bとが同一の材料からなるものであっても、セラミックマトリックス1bにおける脆い部分、すなわち、セラミック前駆体の焼成物10のみを選択的に除去することができ、セラミック繊維4を切断することなく、円滑な表面のセラミック複合材を製造することができる。したがって、SiC繊維を含む骨材と、この骨材の隙間に充填されたSiCからなるセラミックマトリックスとを有する高強度のセラミック複合材11を製造する方法として、本発明を好適に使用することができる。
【0064】
[セラミック複合材]
本発明は、上記本発明に係るセラミック複合材の製造方法により得られるセラミック複合材にも関する。
本発明の実施形態に係るセラミック複合材について、
図2を参照して説明する。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、セラミック複合材11は、セラミック繊維4を含む骨材2と、骨材2の隙間に充填されたセラミックマトリックス1bとを有する。また、セラミック複合材11の表面は、セラミック繊維4からなる複数の凸部12と、複数の凸部12の間に形成される凹部13と、からなり、凹部13の底面はセラミックマトリックス1bにより構成されている。
【0065】
本実施形態に係るセラミック複合材11の表面は、連続したセラミック繊維4からなる複数の凸部12と、この複数の凸部12の間に形成された凹部13からなるものとなり、表面の平滑性を阻害するセラミック前駆体の焼成物10が存在しない。具体的に、セラミック複合材11の表面は、セラミック繊維4が連続した繊維の状態で凸部12を形成するので、セラミック繊維からなる凸部はなだらかな突形状となり、気流の流れを妨げるようなセラミック前駆体の焼成物10が残存する場合と比較して、平滑な表面を得ることができる。
【0066】
なお、本発明に係るセラミック複合材においては、セラミック繊維の表面に、セラミック繊維と同一の化合物からなり、化学気相含浸法による表面層が形成されていることが好ましい。また、セラミック繊維は、SiC繊維であることが好ましく、セラミックマトリックスは、SiCからなることがより好ましい。
化学気相含浸法による表面層、SiC繊維及びSiCからなるセラミックマトリックスはいずれも高い強度を有しているため、高い強度を有するセラミック複合材とすることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、本実施形態に係るセラミック複合材の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
<実施例1>
SiC繊維を織り込むことにより得たクロス(織布)を8枚積層して骨材を形成し、この骨材にセラミック前駆体であるアリルハライドポリカルボシランを含浸させ、含浸体を得た。
その後、含浸体を200℃の温度で3時間、乾燥機中で保持することにより、セラミック前駆体を硬化させ、硬化体を得た。硬化体は、硬化の過程で分解ガス等の発生により内部から一部のセラミック前駆体が流出し、骨材の表面に付着した状態となっている。
【0069】
なお、骨材をセラミック前駆体に含浸させる前に、ホウ素系ガスを原料ガスとし、化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)用の炉を用いることにより、SiC繊維の表面にBNからなる中間層を形成した。更に、中間層が形成されたSiC繊維に対して、シラン系ガスと炭化水素ガスを原料ガスとし、CVIの条件にてSiC繊維間にSiCを浸透させることにより、中間層の表面にSiCからなる表面層を形成した。
【0070】
その後、得られた硬化体を焼成炉で焼成し、硬化したセラミック前駆体をセラミック化することにより、100×100×2mmの板状の焼成体を得た。なお、焼成体の表面には、セラミック前駆体の焼成物が付着していた。
その後、遠心式ブラスト機を用いて、得られた焼成体の表面に、SiCの砥粒(#3000)とゴムの核とからなり、篩を用いて平均粒子径が450μmの単分散粒子となるよう調整した複合粒子を衝突させることにより、焼成体の表面を清浄化し、セラミック複合材を得た。清浄化の時間は32分であった。
【0071】
<比較例1>
実施例1と同様にして焼成体を作成し、エアブラスト機を用いて、得られた焼成体の表面に、篩を用いて平均粒子径が200μmの単分散粒子となるよう調整した、モース硬度2のナイロン弾性体を衝突させることにより、焼成体の表面におけるセラミック前駆体の焼成物を除去し、セラミック複合材を得た。
【0072】
<比較例2>
実施例1と同様にして焼成体を作成し、ワイヤブラシを用いることにより、得られた焼成体の表面におけるセラミック前駆体の焼成物を除去し、セラミック複合材を得た。
【0073】
実施例及び比較例におけるセラミック複合材の外観図、表面の拡大図及び断面図を、
図6に示す。
【0074】
実施例1については、SiC繊維の破断がなく、連続した繊維の状態が保持されていた。また、SiC繊維が残存してなだらかな凸部を形成しており、気流の流れを妨げるようなセラミックマトリックス(セラミック前駆体の焼成物)が選択的に削られて、凹部が構成されていた。
【0075】
一方、比較例1は、実施例1に対して、砥粒を含まない弾性体を用いて清浄化しているにもかかわらず、エアブラスト機を使用しているため、SiC繊維に部分的に強い衝撃が加わり、連続した繊維に破損が生じ、その一部が切断された状態となった。
さらに、比較例2は、SiC繊維の表面の表面層が一部剥離し、SiC繊維に破断が生じ、連続した繊維が切断された状態となった。
【符号の説明】
【0076】
1a セラミック前駆体
1b セラミックマトリックス
2 骨材
3 含浸体
4 セラミック繊維
6 織布
7 硬化体
8 焼成体
10 セラミック前駆体の焼成物
11 セラミック複合材
15 中間層
16 表面層
20 遠心式ブラスト機
23 複合粒子
30 エアブラスト機