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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】聴取補助装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20240611BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20240611BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20240611BHJP
   H04R 1/22 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H04R25/00 E
H04R1/00 317
H04R1/02 101Z
H04R1/22 310
H04R25/00 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020105712
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022000935
(43)【公開日】2022-01-04
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】514102869
【氏名又は名称】丸山 誠二
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 誠二
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-135583(JP,U)
【文献】特開2013-172373(JP,A)
【文献】特開2009-094986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00- 1/08
H04R 1/10
H04R 1/12- 1/14
H04R 1/20- 1/40
H04R 1/42- 1/46
H04R 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲音を示す音響信号を音に変換して出力するスピーカ、および聴取者の頭部または耳介における根元部分に装着されると共に前記スピーカの放音口を当該聴取者の耳穴に向けた状態で当該スピーカを当該耳穴から離間した所定位置に配置させる装着部を備えている聴取補助装置であって、
前記スピーカは、
背面側端部が閉塞し、かつ正面側端部が開口する筒状のエンクロージャと、
放音面が前記正面側端部から所定距離だけ奥まった位置に位置し、かつ当該正面側端部側に向く状態で前記エンクロージャの内部に収容されたスピーカ本体と、
前記放音口として機能する貫通孔が形成されると共に前記エンクロージャの前記正面側端部に装着されたキャップとを備えて構成され、
前記キャップは、底面が前記正面側端部と接触し、かつ上面が前記エンクロージャの外方に突出する円錐台状に形成され、かつ前記貫通孔は当該上面にのみ形成され
前記キャップの周縁部には伝導板が立設されると共に、当該伝導板の先端部が前記耳介の内部に進入して当該耳介における耳珠と対耳珠とに接触する聴取補助装置。
【請求項2】
前記貫通孔として小径貫通孔が複数形成されている請求項1記載の聴取補助装置。
【請求項3】
前記貫通孔として前記上面のほぼ全体に亘る大径貫通孔が1個形成され、
前記キャップには、前記大径貫通孔を覆うメッシュ部材が配設されている請求項1記載の聴取補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲音を示す音響信号を音に変換して放音口から出力するスピーカ、およびこのスピーカの放音口を聴取者の耳穴(外耳道の入り口)側に向けた状態でこのスピーカを耳穴から離間した所定位置に配置させる装着部を備えている聴取補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、下記の特許文献1,2に開示された聴取補助装置および耳近接スピーカ装置が公知となっている。このうちの特許文献1に開示の聴取補助装置では、スピーカは、エンクロージャ、スピーカユニット、スピーカカバー、連結ピン、音反射材および吸音材を備えて構成されている。この場合、エンクロージャは、前面が円形に開口し(前面が放音口として機能し)、背面側が閉塞する形状に構成されている。スピーカユニットは、音が出力される正面(放音面)側がエンクロージャの前面側に位置するように、エンクロージャの前面に取り付けられている。スピーカカバーは、エンクロージャの前面側の開口部分(放音口)を覆うように形成されると共に数多くの貫通孔が形成されたカバー部を備えている。また、このカバー部は、対応する図面(同文献1中の図4,5)に開示されているように、平板状に形成され、かつエンクロージャの開口部分の直径に対して十分に小さな小径貫通孔(貫通孔)がほぼ全域に亘って形成されて構成されている。また、このように構成されたスピーカは、装着部を構成する支持アームに連結ピンを介して回動自在に連結されている。また、装着部は、聴取者の頭部に装着可能であって、かつ頭部への装着状態において、連結されたスピーカを聴取者の耳穴の方向に向く状態で、耳穴から頭部の側方に離間した所定位置(耳穴の外部の所定位置)に配置させることが可能に構成されている。
【0003】
また、特許文献2に開示の耳近接スピーカ装置は、スピーカ部(上記の特許文献1におけるスピーカに相当する)および耳掛け部(上記の特許文献1における装着部に対応する)を備え、装着対象者(聴取者)の側頭部(耳元)に装着可能に構成されている。また、この耳近接スピーカ装置もまた、装着対象者(聴取者)の側頭部(耳元)に装着された状態において、耳掛け部は、連結されたスピーカ部を聴取者の耳穴の方向に向く状態で、耳穴から頭部の側方に離間した所定位置(耳穴の外部の所定位置)に配置させることが可能に構成されている。
【0004】
このスピーカ部は、耳掛け部の一端部に取り付けられたケーシング(上記の特許文献1におけるエンクロージャに相当する)内にスピーカ本体(上記の特許文献1におけるスピーカユニットに相当する)が収容されて構成されている。このスピーカ部においても、上記した特許文献1のスピーカと同様にして、対応する図面(同文献2中の図1)に開示されているように、ケーシングの開口部分は、上記した特許文献1のカバー部に相当する部材によって覆われており、このカバー部に相当する部材は、平板状に形成され、かつケーシングの開口部分の直径に対して十分に小さな小径貫通孔(貫通孔)がほぼ全域に亘って形成されて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-172373号公報(第7-8頁、第2-5図)
【文献】特許第6408243号公報(第5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した聴取補助装置および耳近接スピーカ装置では、エンクロージャやケーシング内に配設されたスピーカからの音が、エンクロージャやケーシングの開口部分(放音口)に取り付けられたカバー部によって邪魔されずに(カバー部の影響を受けることなく)、この開口部分からエンクロージャやケーシングの外部に出力されるように、複数の小径貫通孔がカバー部のほぼ全域に亘って形成されている。つまり、この聴取補助装置および耳近接スピーカ装置では、カバー部は、装置全体としての音圧レベルに関する周波数特性に影響を与えないように構成されている。
【0007】
したがって、上記した聴取補助装置および耳近接スピーカ装置では、聴取者にとって聞きやすい音を出力し得るように、カバー部以外の構成要素(スピーカユニット(スピーカ本体)およびエンクロージャ(ケーシング))によってこの周波数特性がチューニングされている。この場合、この聴取補助装置および耳近接スピーカ装置の主たる使用目的は、一般的な補聴器(音の出口を耳穴内に挿入する形式の補聴器)と同様にして、聴取者の周囲の音(周囲音)のうちの音声を聞き取りやすくすることである。このため、この聴取補助装置および耳近接スピーカ装置では、今までは、一般的な補聴器の周波数特性に倣って、音声周波数帯域(例えば、250Hz以上4kHz以下の周波数帯域)のうちの特に2kHz以上4kHz以下の特定周波数帯域での音圧レベルが、それ以外の周波数帯域の音圧レベルよりも高くなり、かつなるべくフラットになるような周波数特性にチューニングされている。
【0008】
これにより、この聴取補助装置および耳近接スピーカ装置の使用者からは、これら装置を使用することで、音声を含む周囲音の聞き取りが大幅に改善されたとの評価を得ているが、音声についてより一層明瞭に聞き取れるように改善して欲しいという要望も多く上がっている。
【0009】
本発明は、かかる要請に対応すべくなされたものであり、周囲音に含まれる音声をより明瞭に聞き取り得る聴取補助装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成すべく、請求項1記載の聴取補助装置は、周囲音を示す音響信号を音に変換して出力するスピーカ、および聴取者の頭部または耳介における根元部分に装着されると共に前記スピーカの放音口を当該聴取者の耳穴に向けた状態で当該スピーカを当該耳穴から離間した所定位置に配置させる装着部を備えている聴取補助装置であって、前記スピーカは、背面側端部が閉塞し、かつ正面側端部が開口する筒状のエンクロージャと、放音面が前記正面側端部から所定距離だけ奥まった位置に位置し、かつ当該正面側端部側に向く状態で前記エンクロージャの内部に収容されたスピーカ本体と、前記放音口として機能する貫通孔が形成されると共に前記エンクロージャの前記正面側端部に装着されたキャップとを備えて構成され、前記キャップは、底面が前記正面側端部と接触し、かつ上面が前記エンクロージャの外方に突出する円錐台状に形成され、かつ前記貫通孔は当該上面にのみ形成され、前記キャップの周縁部には伝導板が立設されると共に、当該伝導板の先端部が前記耳介の内部に進入して当該耳介における耳珠と対耳珠とに接触する
【0011】
請求項2記載の聴取補助装置は、請求項1記載の聴取補助装置において、前記貫通孔として小径貫通孔が複数形成されている。
【0012】
請求項3記載の聴取補助装置は、請求項1記載の聴取補助装置において、前記貫通孔として前記上面のほぼ全体に亘る大径貫通孔が1個形成され、前記キャップには、前記大径貫通孔を覆うメッシュ部材が配設されている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の聴取補助装置によれば、スピーカの内部空間のうちのスピーカ本体の放音面の前方に位置する内部空間は、この放音面からエンクロージャの正面側端部までの間に形成される円柱状空間と、円錐台状に形成されたキャップによって形成される円錐台状空間(円柱状空間と連続する空間)とで構成されるため、その音圧レベルが2kHz以上4kHz以下の特定周波数帯域において、全体的にフラットに盛り上がるのではなく、この特定周波数帯域内の特定の周波数において特に盛り上がりつつ、特定周波数帯域全体としても盛り上がる周波数特性を実現することができる。これにより、このスピーカを備えた聴取補助装置によれば、特定周波数帯域がフラットになる周波数特性のスピーカと比較して、音声がより強調されて、周囲音に含まれる音声をより明瞭に聞き取ることができる。また、この聴取補助装置によれば、スピーカから放音された音が直接鼓膜に到来するのに加えて、伝導板を通して耳珠と対耳珠とに伝達された振動に起因して外耳道内に発生する気導音が鼓膜に到来するため、聴取者が音声を含む周囲音をより良好に聞き取ることができる。
【0015】
請求項2記載の聴取補助装置によれば、貫通孔が小径貫通孔として複数形成されているため、放音される音について必要かつ十分な量を確保しつつ、外部からスピーカ内部への異物(ゴミなど)の侵入を回避することができる。
【0016】
請求項3記載の聴取補助装置によれば、貫通孔として大径貫通孔が1個形成され、キャップにはこの大径貫通孔を覆うメッシュ部材が配設されているため、放音される音について必要かつ十分な量を確保しつつ、外部からスピーカ内部への異物(ゴミなど)の侵入を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】聴取補助装置1の外観斜視図である。
図2】スピーカ2の分解斜視図である。
図3図2における矢印側から見たスピーカ2の分解斜視図である。
図4】スピーカ2の図1におけるW-W線断面図である。
図5】スピーカ2の円柱状空間SP1および円錐台状空間SP2を説明するための図4についての模式図である。
図6】スピーカ2の音圧レベルについての周波数特性図である。
図7】スピーカ2についての所定位置を説明するための説明図である。
図8】スピーカ2の他の構造を説明するための断面図である。
図9】スピーカ2のキャップ13の他の構成を説明するための模式図である。
図10】スピーカ2のキャップ13の他の構成を説明するための模式図である。
図11】スピーカ2の他の構造を説明するための断面図である。
図12】伝導板41が設けられたスピーカ2の構造を説明するための斜視図である。
図13図12のスピーカ2を説明するための説明図である。
図14図12のスピーカ2における伝導板41と耳介54との接触状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、聴取補助装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0020】
最初に、聴取補助装置1の構成について、図面を参照して説明する。
【0021】
聴取補助装置1は、「聴取補助装置」の一例であって、図1に示すように、「スピーカ」の一例としてのスピーカ2,2、および「装着部」の一例としての装着部3を備え、後述するように装着部3によって聴取者の頭部に装着可能に構成されている。
【0022】
各スピーカ2,2は、図1図4に示すように、エンクロージャ11、スピーカ本体(スピーカユニット)12およびキャップ13を備えて同一に構成されて、不図示の集音装置(音声を含む周囲音を検出すると共に、電気信号である音響信号に変換して出力する装置)から出力される音響信号を音に変換して出力する。
【0023】
また、スピーカ2は、背景技術において説明した特許文献1,2に開示されているスピーカやスピーカ部と同様にして、聴取者の頭部に装着された装着部3により、図7に示すように、聴取者51の耳穴52(外耳道53の入り口)の側方であって、耳穴52や耳介54から離間した所定位置(耳穴52の外部)に保持された状態において、耳穴52に向けて音を出力する。このため、スピーカ2は、聴取者51に対して必要十分な音量で音を出力し得る程度の大きさ(直径)のスピーカ本体12を収容可能なエンクロージャ11を備えつつ、聴取者51の邪魔にならない程度の外形に形成されている。本例では一例として、スピーカ2は、図1に示すように、全体の外形が、直径L1が約18~30mm程度で、かつ長さ(厚み)L2が約15~22mm程度のほぼ円筒体に形成されている。
【0024】
エンクロージャ11は、本例では一例として、スピーカ2の分解斜視図である図2,3、およびスピーカ2の断面図(図1のW-W線での断面図)である図4に示すように、円筒状の周壁11aおよび円板状の底壁11b(いずれも合成樹脂材料製)を備えて、その背面側端部(周壁11aの一方の端部)が閉塞し(具体的には、底壁11bによって閉塞され)、かつ正面側端部(周壁11aの他方の端部)が開口する筒体(本例では円筒体)に形成されている。なお、エンクロージャ11における正面側端部とは、エンクロージャ11に収容されたスピーカ本体12の後述する振動板12b(放音面でもある)側の端部をいい、エンクロージャ11における背面側端部とは、スピーカ本体12の後述する磁気回路12c側の端部をいうものとする。よって、エンクロージャ11における正面側端部とは、図2,4では、同図中の右側端部をいい、図3では、同図中の左側端部をいう。また、エンクロージャ11における背面側端部とは、図2,4では、同図中の左側端部をいい、図3では、同図中の右側端部をいう。
【0025】
また、周壁11aは、図2,4に示すように、正面側端部から中間部(周壁11aの長さ方向の中間部(中途部))にかけての第1領域AR1ではスピーカ本体12の直径(後述するフレーム12aの外径)とほぼ同等で、かつ均一な内径(スピーカ本体12を正面側端部から装着可能な内径)に形成されている。また、周壁11aは、この中間部から底壁11bの内底面にかけての第2領域AR2ではスピーカ本体12の直径よりも小径で、かつ均一な内径に形成されている。この構成により、周壁11aの内周面における上記の中間部(各領域AR1,AR2の境界部)には、エンクロージャ11内に収容されたスピーカ本体12をこの中間部に、スピーカ本体12の中心軸をエンクロージャ11の中心軸A(周壁11aの中心軸でもある)に一致させた状態で位置決めするための段差部11cが、周壁11aにおける第2領域AR2の部位によって形成されている。
【0026】
なお、この例では、段差部11cが、周壁11aの内周面に全周に亘って形成されているが、スピーカ本体12の位置決めのためには、必ずしも周壁11aの内周面に全周に亘って形成される必要は無い。例えば、図示はしないが、本例の構成に代えて、周壁11aの内径を正面側端部から底壁11bの内底面にかけて同一に形成し、かつ周壁11aの内周面における上記の中間部に相当する位置に、位置決め用の突起を周壁11aの周方向に沿って3個以上等間隔で配置するなど、種々の構成を採用することができる。
【0027】
スピーカ本体12は、本例では一例として、円筒状のフレーム12a、外縁部の全体がフレーム12aの一端側にエッジ(不図示)を介して連結された振動板12b、およびフレーム12aの他端側に配設されて振動板12bの中央部に連結されたボイスコイル(不図示)を駆動する磁気回路12cを備えたダイナミック型スピーカユニットで構成されている。なお、スピーカ本体12は、ダイナミック型に限定されるものではなく、コンデンサ型などの他の種々の形式のスピーカユニットを使用することができる。
【0028】
キャップ13は、本例では一例として、図2図4に示すように、円筒状部材13aおよび正面壁13b(いずれも合成樹脂材料製)を備えている。この場合、円筒状部材13aは、エンクロージャ11の周壁11aにおける第1領域AR1内にがたつきの少ない状態で挿入し得るように、その外径が、周壁11aにおける第1領域AR1の内径とほぼ同等で、かつ均一に形成されている。また、円筒状部材13aは、肉厚が均一に形成されることで、その内径も均一に形成されている。また、円筒状部材13aは、その長さがエンクロージャ11を構成する周壁11aの第1領域AR1の長さよりもフレーム12aの幅分だけ短く形成されている。
【0029】
正面壁13bは、図4に示すように、外形が円錐台状(底面全体が開口する円錐台状)に形成されている。また、正面壁13bは、この底面側の外径が、本例では一例として、周壁11aの直径(スピーカ2全体としての直径L1でもある)と同等に形成されている。このため、正面壁13bのこの底面側の外径は、周壁11a内に挿入される円筒状部材13aよりも大径に形成されている。また、正面壁13bの中央部(円錐台の上面に相当する正面視形状が円形の部位)には、放音口(スピーカ本体12の振動板12bから出力される音をスピーカ2の外部に放出するための口)として機能する貫通孔13cが形成されている。本例では、この貫通孔13cは、正面壁13bの中央部の直径よりも小径な小径貫通孔として、この中央部にのみ複数形成されている。
【0030】
キャップ13は、図4に示すように、上記した構成の円筒状部材13aの一方の端部(同図中の右端部)に、正面壁13bの外周縁部が連結されて構成されている。このようにして一体化された円筒状部材13aおよび正面壁13bは、それぞれの中心軸が一致した状態となっている。
【0031】
次に、上記のエンクロージャ11、スピーカ本体12およびキャップ13を備えたスピーカ2の組み立てについて説明する。まず、図4に示すように、スピーカ本体12を磁気回路12c側からエンクロージャ11の周壁11a内に、フレーム12aが段差部11cと当接するまで挿入する。これにより、スピーカ本体12は、その中心軸がエンクロージャ11の中心軸Aに一致した状態でエンクロージャ11の中間部に装着される。つまり、スピーカ本体12は、振動板12b(放音面)がエンクロージャ11の正面側端部から所定距離L3(第1領域AR1の長さからフレーム12aの幅を差し引いた距離とほぼ同等の距離)だけ奥まった位置に位置し、かつ振動板12b(放音面)がこの正面側端部側に向く状態でエンクロージャ11の内部に収容される。
【0032】
次いで、図4に示すように、キャップ13の円筒状部材13aをその他方の端部(同図中の左端部)側からエンクロージャ11の周壁11a内に、正面壁13bの外周縁部が周壁11aの正面側端部に当接するまで挿入する。これにより、キャップ13がエンクロージャ11(周壁11a)の正面側端部に装着されて、スピーカ2の組み立てが完了する。
【0033】
この組み立て状態では、キャップ13の正面壁13bがキャップそのものとして機能して、エンクロージャ11(周壁11a)の正面側端部を覆う状態となる。また、キャップ13の円筒状部材13aは、その他方の端部が周壁11aの内周面に形成された段差部11cとの間でスピーカ本体12のフレーム12aをガタツキのない状態で挟持する状態となる。また、正面壁13bは、その外周縁部が周壁11aの正面側端部に当接した状態であることから、複数の貫通孔13cが形成された中央部を含む全体が、周壁11aの正面側端部(エンクロージャ11の正面側端部でもある)よりも外方(エンクロージャ11の外方)に突出した状態となっている。
【0034】
また、この組み立て状態では、図4を模式化した図5に示すように、スピーカ本体12がエンクロージャ11を構成する周壁11aの中間部に配置され(これにより、スピーカ本体12の振動板12b(放音面)がエンクロージャ11の正面側端部から所定距離L3だけ奥まった位置に位置し)、かつエンクロージャ11の正面側端部に接した状態で配置されたキャップ13の正面壁13b全体がこの正面側端部よりも外方に突出する構成により、スピーカ2の内部空間のうちのスピーカ本体12の振動板12b(放音面)の前方に位置する内部空間は、キャップ13を構成する円筒状部材13aの内部空間である円柱状空間SP1と、キャップ13を構成する正面壁13bの内部空間である円錐台状空間SP2(円柱状空間SP1と連続する空間)とで構成されている。
【0035】
本例のスピーカ2は、図6に示すように、その音圧レベルが2kHz以上4kHz以下の特定周波数帯域において、全体的にフラットに盛り上がるのではなく、この特定周波数帯域内の特定の周波数において特に盛り上がりつつ、特定周波数帯域全体としても盛り上がる(同図の例では、その一例として、特定の周波数としての3kHzで特に盛り上がりつつ(正のピークとなる状態で)、特定周波数帯域全体としても盛り上がる)周波数特性を備えている。
【0036】
このような音圧レベルについての周波数特性は、上記のような円柱状空間SP1および円錐台状空間SP2が形成されていることで実現できたことが実験によって確認された。また、本例のスピーカ2は、このような音圧レベルの周波数特性を備えたことで、特定周波数帯域がフラットになる周波数特性のときと比較して、音声がより強調されて、より明瞭に聞き取れるようになっていることが実験で確認された。
【0037】
また、音圧レベルが特に盛り上がる上記の特定の周波数については、円柱状空間SP1および円錐台状空間SP2の合計体積を変化させることでチューニングし得ること、具体的には、この合計体積を小さくすることで高周波側にシフトさせることができ、逆にこの合計体積を大きくすることで低周波側にシフトさせ得ることが実験で確認できた。また、この合計体積を変化させることで、上記の特定の周波数が上記の特定周波数帯域(2kHz以上4kHz以下)に含まれるものの互いに異なるスピーカ2を複数種類試作して、使用者に試用してもらうことで、聞き取りやすさを実際に確認してもらう実験を行った。この結果、特定の周波数が2.5kHz以上3.5kHz以下の周波数帯域内に含まれるスピーカ2(つまり、特定の周波数が3kHz近傍の周波数となるスピーカ2)が最も音声を聞き取りやすいことが確認された。本例のスピーカ2は、これらの実験の結果を踏まえて、音圧レベルが図6に示す周波数特性となるように、円柱状空間SP1および円錐台状空間SP2の各体積がチューニングされている。なお、上記の合計体積を変化させる方法には、円柱状空間SP1の体積のみを変化させる方法、円錐台状空間SP2の体積のみを変化させる方法、および円柱状空間SP1および円錐台状空間SP2の各体積を共に変化させる方法のうちのいずれを採用してもよい。
【0038】
装着部3は、本例では一例として、図1に示すように、弾性を有するアーチ状のバンド部21を備えて、聴取者の頭部に(具体的には、頭頂部から両側頭部にかけて)装着可能に構成されている。具体的には、装着部3は、このバンド部21に加えて、バンド部21の各先端部に連結されてこのバンド部21が頭部に装着された際にバンド部21の弾性力によって頭部の側頭部に押し付けられる一対の押付部22,22と、一端が対応する押付部22に連結されると共に他端に対応するスピーカ2が連結されてスピーカ2を上記の所定位置(耳穴52から離間し、かつスピーカ2の放音口(正面壁13bの中央部に形成された複数の貫通孔13c)が耳穴52側に向く位置)に支持する支持アーム23,23とを有している。
【0039】
なお、装着部3は、聴取者に装着された状態において、スピーカ2を上記の所定位置に支持し得るものであればよいため、図1に示す構成に限定されるものではない。例えば、背景技術で説明した特許文献1に開示されている構成(聴取者の頭部に後頭部から両側頭部にかけて装着されて、2つのスピーカ2を左右の各耳穴についての所定位置に支持する構成)や、特許文献2に開示されている構成(聴取者の耳介における根元部分に掛けられて、1つのスピーカ2をこの耳介の中央部分に位置する耳穴についての所定位置に支持する構成)を採用してもよいのは勿論である。
【0040】
このように、この聴取補助装置1では、スピーカ2に関して、振動板12b(放音面)がエンクロージャ11の正面側端部から所定距離L3だけ奥まった位置に位置し、かつ正面側端部側に向く状態でスピーカ本体12がエンクロージャ11の内部に収容され、またキャップ13が円錐台状に形成されて(円筒状部材13aの一方の端部に、円錐台状の正面壁13bの外周縁部が連結されて形成されて)、円筒状部材13aがエンクロージャ11内に挿入されて、正面壁13bの外周縁部(開口する底面の外周縁部)がエンクロージャ11の正面側端部と接触し、中央部に位置する上面(円錐台での上面)がエンクロージャ11の外方に突出し、かつ放音口として機能する貫通孔13cがこの上面にのみ形成される構成が採用されている。
【0041】
したがって、このスピーカ2によれば、スピーカ2の内部空間のうちのスピーカ本体12の振動板12b(放音面)の前方に位置する内部空間は、この振動板12bからエンクロージャ11の正面側端部までの間に形成される円柱状空間(本例では、キャップ13を構成する円筒状部材13aの内部空間である円柱状空間SP1)と、円錐台状に形成されたキャップ13によって形成される円錐台状空間(本例では、キャップ13を構成する円錐台状の正面壁13bの内部空間である円錐台状空間SP2。円柱状空間SP1と連続する空間)とで構成されるため、その音圧レベルが2kHz以上4kHz以下の特定周波数帯域において、全体的にフラットに盛り上がるのではなく、この特定周波数帯域内の特定の周波数において特に盛り上がりつつ、特定周波数帯域全体としても盛り上がる周波数特性(一例として図6に示す周波数特性)を実現することができる。これにより、このスピーカ2を備えた聴取補助装置1によれば、特定周波数帯域がフラットになる周波数特性のスピーカと比較して、音声がより強調されて、周囲音に含まれる音声をより明瞭に聞き取ることができる。
【0042】
また、このスピーカ2を備えた聴取補助装置1によれば、キャップ13を構成する正面壁13bの中央部(円錐台での上面)にのみ貫通孔13cが小径貫通孔として複数形成されているため、放音される音について必要かつ十分な量を確保しつつ、外部からスピーカ2内部への異物(ゴミなど)の侵入を回避することができる。
【0043】
なお、キャップ13を構成する正面壁13bの中央部(円錐台での上面)にのみ形成する貫通孔13cについては、上記した構成(小径貫通孔として複数形成形成する構成)に限定されるものではない。例えば、図8に示すように、正面壁13bの中央部(円錐台での上面)に、1つの貫通孔13cをこの中央部(上面)のほぼ全体に亘る大径貫通孔として形成し、この貫通孔13cをメッシュ部材31(金属製であっても、樹脂製や布製であってもよい)で覆った構成を採用することもできる。この構成においても、放音される音について必要かつ十分な量を確保しつつ、外部からスピーカ2内部への異物(ゴミなど)の侵入を回避することができる。なお、同図に示すスピーカ2の構成要素について、上記した図4に示すスピーカ2の構成要素と同一のものについては、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0044】
また、キャップ13を構成する上記の正面壁13bでは、図5に示すように、側面視したときの外周縁部(円錐台での底面)から中央部(円錐台での上面)にかけての輪郭線OLが直線となる構成(つまり、正面壁13bが正確に円錐台となる構成)を採用したが、本願での「円錐台状」とは、この正確な円錐台の形状に限定されるものではなく、例えば、図9に示す正面壁13bや図10に示す正面壁13bのように、側面視したときの外周縁部(円錐台での底面)から中央部(円錐台での上面)にかけての輪郭線OLが曲線となる構成(つまり、正面壁13bが円錐台に近い形状となる構成)を含むものとする。なお、図9,10に示すスピーカ2の構成要素について、上記した図5に示すスピーカ2の構成要素と同一のものについては、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0045】
また、上記のスピーカ2の構成では、図4に示すように、円筒状部材13aの他方の端部(左端部)と段差部11cとの間でスピーカ本体12のフレーム12aを挟持するために、円筒状部材13aの長さを所定距離L3としていることから、円柱状空間SP1はキャップ13を構成する円筒状部材13aの内部空間で構成されているが、この構成に限定されるものではない。例えば、図11に示す構成のスピーカ2のように、振動板12b(放音面)がエンクロージャ11の正面側端部から所定距離L3だけ奥まった位置に位置する状態でスピーカ本体12を不図示の接着剤などでエンクロージャ11の内部に固定する構成では、円筒状部材13aの他方の端部(左端部)と段差部11cとの間でスピーカ本体12のフレーム12aを挟持する必要が無いことから、円筒状部材13aの長さを所定距離L3よりも短くすることができる。この構成のスピーカ2では、キャップ13を構成する円筒状部材13aは、キャップ13を構成する正面壁13bのエンクロージャ11の周壁11aへの位置決めが主たる機能となり、円柱状空間SP1は、主としてエンクロージャ11の周壁11aの内部空間で構成される。この構成のスピーカ2においても、円柱状空間SP1および円錐台状空間SP2を有する構成のため、図6に示すような周波数特性を実現することが可能である。
【0046】
また、上記の聴取補助装置1では、スピーカ2は、頭部の側頭部に押し付けられた押付部22を支点として、耳穴52から離間した所定位置に耳介54からも離間した状態(言い換えれば、耳介54から浮いた状態)となるように支持アーム23によって支持されている。このため、上記の聴取補助装置1では、スピーカ2から放音された音が耳穴52および外耳道53を通って直接鼓膜(図示せず)に到来することで、聴取者51が音声を含む周囲音を聞き取る構成となっているが、聴取補助装置1はこの構成に限定されるものではない。スピーカ2はスピーカ本体12の振動板12bが振動することで音を外部に放出する構成のため、振動板12を収容するスピーカ2のエンクロージャ11も、この外部に放出される音の周波数で振動している。そこで、エンクロージャ11のこの振動を利用して、聴取者51が音声を含む周囲音をより良好に聞き取れるようにする構成を採用することもできる。以下、この構成を採用した聴取補助装置1について、図12図14を参照して説明する。なお、この聴取補助装置1は、エンクロージャ11の振動を聴取者51の耳介54に伝達させる後述の伝導板41を備えている点で上記した聴取補助装置1と相違し、他の構成についてはほぼ同一である。したがって、同一の構成については同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0047】
図12,13に示すように、スピーカ2を構成するキャップ13の周縁部(キャップ13を構成する正面壁13bの外周縁部)には、伝導板41が立設されている。本例では一例として、伝導板41は、キャップ13側から平面視したときの形状が円弧形状で、キャップ13からの起立高さH(図13参照)がほぼ均一で、かつほぼ均一な厚みの平板体(つまり、キャップ13の周縁部に沿って湾曲する平板体)に、弾性変形可能なシリコンゴムなどの合成樹脂材料を用いて形成されている。また、伝導板41は、その先端部が後述するように耳介54の内部(詳細には、耳介54内の耳甲介腔57の内部)に進入する。このため、伝導板41の先端部における2つの角部は、本例では一例として、図12,13に示すように丸められて、進入の容易性と装着感の向上とが図られている。なお、この角部の丸めについては任意であり、丸めない構成を採用することもできる。また、伝導板41は、耳介54の内部(耳介54内の耳甲介腔57の内部)に進入した先端部が後述するように、耳甲介腔57の入り口部分に位置する耳珠55と対耳珠56とに同時に接触する(図14参照)。このため、伝導板41の長さL4(図12参照)は、耳珠55と対耳珠56との間の長さよりも長く形成されている。
【0048】
また、伝導板41をキャップ13の周縁部に上記のように立設させる構成としては、図示はしないが、キャップ13の周縁部に伝導板41の基部を直接固定する構成や、エンクロージャ11を構成する周壁11aの正面側端部に伝導板41の基部を直接固定する構成を採用することもできるが、本例では一例として、図12に示すように、キャップ13の周縁部や周壁11aの正面側端部の外径よりも若干小径な筒状の弾性体で構成されたバンド部材42に伝導板41の基部が一体的に取り付けられる構成を採用している。本例では、具体的には、伝導板41およびバンド部材42は、シリコンゴムを用いて一体成形されている。この構成により、本例では、バンド部材42を弾性変形させて、キャップ13の周縁部や周壁11aの正面側端部にバンド部材42を外嵌させることで、伝導板41はバンド部材42の弾性力によってキャップ13の周縁部に起立した状態で取り付けられる(キャップ13の周縁部に立設される)。なお、図示はしないが、キャップ13の周縁部や周壁11aの正面側端部の外周面にバンド部材42が嵌まり込む溝を設けて、この溝にバンド部材42を嵌め込む構成を採用することもできる。
【0049】
上記のように、スピーカ2を構成するキャップ13の周縁部に伝導板41が立設された聴取補助装置1では、聴取者の頭部への装着状態において、図13,14に示すように、聴取者51の耳穴52の側方であって、耳穴52や耳介54から離間した所定位置に保持されたスピーカ2に設けられた伝導板41は、同図において白抜きの矢印で示す方向に沿って、その先端部が耳介54の内部(詳細には、図14に示す耳甲介腔57の内部)に進入して、この先端部が、図14に示すように耳珠55と対耳珠56とに同時に接触する。
【0050】
これにより、この伝導板41を備えた聴取補助装置1では、振動板12bが振動することによってスピーカ2から放音された音が耳穴52および外耳道53を通って直接鼓膜(図示せず)に到来すると共に、振動板12bの振動がエンクロージャ11(またはエンクロージャ11とキャップ13)および伝導板41を通って聴取者51の耳珠55と対耳珠56とに(つまり、外耳道53の入口部周りの軟骨に)伝達される。この場合、耳珠55と対耳珠56とに伝達されている振動により、外耳道53の内壁が振動して、この内壁から外耳道53に気導音が発生し、この気導音が鼓膜に到来する。
【0051】
したがって、この伝導板41を備えた聴取補助装置1によれば、スピーカ2から放音された音が直接鼓膜に到来するのに加えて、伝導板41を通って耳珠55と対耳珠56とに伝達された振動に起因して外耳道53内に発生する上記の気導音が鼓膜に到来するため、聴取者51が音声を含む周囲音をより良好(明瞭)に聞き取ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 聴取補助装置
2 スピーカ
3 装着部
11 エンクロージャ
12 スピーカ本体
13 キャップ
13c 貫通孔(放音口)
41 伝導板
図1
図2
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