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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】渦電流式ダンパ
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240611BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04H9/02 331Z
E04H9/02 351
F16F15/03 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020149789
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044253
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-296286(JP,A)
【文献】特開平03-047379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の柱及び梁による架構に所定形状のブレースとともに設けられ、当該構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、
前記ブレースは、上下方向に所定距離を隔てて配置された上梁及び下梁の一方に連結され、前記上梁及び下梁の他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有しており、
前記一対のブレース材の先端部に設けられ、前記上梁及び下梁の前記他方の長さ方向に沿って所定長さ延びる第1延設体と、
前記上梁及び下梁の前記他方と一体に設けられ、当該他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、前記第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向する第2延設体と、
前記第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられ、当該第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ当該第1延設体及び第2延設体の前記一方の長さ方向に沿って配置された複数の永久磁石と、
を備え、
前記第1延設体及び第2延設体の前記他方は、前記複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、前記第1延設体と前記第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されていることを特徴とする渦電流式ダンパ。
【請求項2】
構造物と地盤の間及び前記構造物の中層部の一方に設定される免震の空間である免震層に、所定形状の支持体とともに設けられ、前記免震層よりも下側の下層部から上側の上層部へ伝達される振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、
前記支持体は、互いに上下方向に所定距離を隔てて配置された前記上層部及び下層部の一方に連結され、前記上層部及び下層部の他方に向かって延びるように形成されており、
前記支持体の先端部に設けられ、水平に所定長さ延びる第1延設体と、
前記上層部及び下層部の前記他方と一体に設けられ、前記第1延設体の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、当該第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向する第2延設体と、
前記第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられ、当該第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ当該第1延設体及び第2延設体の前記一方の長さ方向に沿って配置された複数の永久磁石と、
を備え、
前記第1延設体及び第2延設体の前記他方は、前記複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、前記第1延設体と前記第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、
前記支持体は、前記上層部及び下層部の前記一方から前記他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有していることを特徴とする渦電流式ダンパ。
【請求項3】
前記複数の永久磁石は、隣り合う磁石の前記第1延設体及び第2延設体の前記他方に臨む磁極が互いに異なるように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項4】
前記第1延設体及び第2延設体の前記一方には、磁性材から成り、前記複数の永久磁石のうちの前記第1延設体及び第2延設体の前記一方の長さ方向の端部に配置された磁石である端部磁石に隣接し、当該端部磁石とでループ状の磁力線を生成するための磁性部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の渦電流式ダンパ。
【請求項5】
前記複数の永久磁石の、前記第1延設体及び第2延設体の前記他方に作用する磁力を調整することにより、前記抵抗力の大きさを調整する抵抗力調整機構を、さらに備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の渦電流式ダンパ。
【請求項6】
前記抵抗力調整機構は、
非磁性材から成り、前記第1延設体及び第2延設体の前記一方に取り付けられた前記複数の永久磁石と前記第1延設体及び第2延設体の前記他方との間に配置され、前記一方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、当該長さ方向に沿って移動自在に設けられたスライダと、
磁性材から成り、前記複数の永久磁石にそれぞれ対応するように配置され、当該対応する永久磁石との間、並びに前記第1延設体及び第2延設体の前記他方との間にそれぞれ間隔を隔てた状態で、前記スライダに保持された複数のポールピースと、
前記スライダを駆動するスライダ駆動機構と、
を有していることを特徴とする請求項5に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項7】
前記構造物に入力された振動の加速度を検出する加速度検出手段と、
前記検出された加速度に応じて、前記スライダ駆動機構を制御する制御部と、
をさらに備え、
前記制御部は、前記加速度が大きいほど、前記各永久磁石と対応する前記各ポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように、前記スライダ駆動機構を制御することを特徴とする請求項6に記載の渦電流式ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動を抑制するためのダンパに関し、特に、構造物の柱及び梁による架構や、構造物とそれを支持する基礎との間の免震層に、ブレースなどとともに設けられる渦電流式ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の架構にブレースとともに設けられるダンパとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このダンパは、架構の内側に設けられたV字形のブレース(以下、本明細書において「∨型ブレース」という)の下端部の接合部材に対し、左右両側及び下側の三方にダンパが取り付けられている。上記の∨型ブレースは、左右の柱と上側の梁との接合部から下方に傾斜して互いに接近するように延びる2つのブレース材を有しており、両ブレース材の下端部が、梁の長さ方向に沿って水平に延びる接合部材に接合されている。この接合部材の左右両側には、オイルダンパがそれぞれ設けられ、接合部材の下側には、慣性質量ダンパが設けられている。
【0003】
各オイルダンパは、その一端部が接合部材の端部に取り付けられるとともに、他端部が柱と下側の梁との接合部付近のダンパ取付治具に取り付けられている。これらの両オイルダンパ及び接合部材は、共通の水平軸線上に位置するように設置されている。一方、慣性質量ダンパは、所定の取付部材を介して、接合部材に回動可能な状態でピン接合されている。また、慣性質量ダンパは、梁の長さ方向に沿って延びるように配置され、両端部がリニアガイドを介して、下側の梁に対し、その長さ方向にスライド可能にかつ上下方向に不動な状態に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-44155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した∨型ブレースとともに架構に設けられる3つのダンパは、∨型ブレースの下端部の接合部材と、左右の柱及び下側の梁との間にそれぞれ連結されている。これらの連結をボルト止めによって行う場合、各ダンパ側の連結部と、接合部材、ダンパ取付治具及びリニアガイド側の連結部との間で、複数のボルト孔をそれぞれ合致させる必要があり、非常に高い精度が求められる。しかし、製造時における製造誤差や構造物のねじれなどが生じていると、各ダンパの取付けの際に、上記連結部のボルト孔などを適正に合致させることができず、その結果、各ダンパを適切に設置することができなくなったり、設置に手間がかかったりするおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造物の振動を抑制し得るダンパを、適切にかつ容易に設置することができる渦電流式ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の柱及び梁による架構に所定形状のブレースとともに設けられ、構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、ブレースは、上下方向に所定距離を隔てて配置された上梁及び下梁の一方に連結され、上梁及び下梁の他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有しており、一対のブレース材の先端部に設けられ、上梁及び下梁の他方の長さ方向に沿って所定長さ延びる第1延設体と、上梁及び下梁の他方と一体に設けられ、他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向する第2延設体と、第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられ、第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ第1延設体及び第2延設体の一方の長さ方向に沿って配置された複数の永久磁石と、を備え、第1延設体及び第2延設体の他方は、複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、第1延設体と第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、上梁及び下梁の一方に連結されかつ上梁及び下梁の他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有するブレースは、V字形のブレース(∨型ブレース)、又は逆V字形のブレース(以下、本明細書において「∧型ブレース」という)に構成されている。なお、以下の説明では、特に区別しない限り、∨型ブレースという場合には、∧型ブレースを含むものとする。
【0009】
一対のブレース材の先端部、すなわち両ブレース材が互いに接近する、∨型ブレースの頂部には、上梁及び下梁の前記他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるように、第1延設体が設けられている。また、上梁及び下梁の前記他方には、当該他方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向する第2延設体が設けられている。さらに、これらの第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられた複数の永久磁石が、第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ第1延設体及び第2延設体の一方の長さ方向に沿って配置されている。なお、本欄の以下の説明において、第1延設体及び第2延設体の一方、すなわち複数の永久磁石が取り付けられた延設体を適宜、「磁石側延設体」といい、第1延設体及び第2延設体の他方、すなわち複数の永久磁石が間隔を隔てて対向する延設体を適宜、「対向延設体」というものとする。
【0010】
そして、複数の永久磁石が対向する、第1延設体及び第2延設体の他方、すなわち対向延設体は、永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、第1延設体と第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されている。
【0011】
具体的には、地震などの振動による構造物の上梁と下梁の相対変位に伴い、第1延設体と第2延設体が相対的に移動すると、磁石側延設体が複数の永久磁石と一体に移動する。これにより、複数の永久磁石による磁場が変化することで、それらの永久磁石が対向する対向延設体の表面には、電磁誘導による渦電流が生じる。そして、この渦電流によるローレンツ力及びその反作用力が、第1延設体と第2延設体の相対移動を妨げる抵抗力として作用する。このように、本発明の渦電流式ダンパは、地震などによる構造物への振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、構造物の振動を減衰させることができる。
【0012】
また、上記の渦電流式ダンパでは、複数の永久磁石を含む、第1延設体及び第2延設体の一方である磁石側延設体と、第1延設体及び第2延設体の他方である対向延設体とが、互いに分離した状態に構成されている。つまり、本発明の渦電流式ダンパでは、第1延設体をブレースの頂部に、第2延設体を上梁又は下梁にそれぞれ取り付ければよく、例えば、単一のダンパについて、その両端部などの2カ所を、架構側の固定部にそれぞれ取り付ける場合に比べて、渦電流式ダンパを適切かつ容易に取り付けることができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、構造物と地盤の間及び構造物の中層部の一方に設定される免震の空間である免震層に、所定形状の支持体とともに設けられ、免震層よりも下側の下層部から上側の上層部へ伝達される振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、支持体は、互いに上下方向に所定距離を隔てて配置された上層部及び下層部の一方に連結され、上層部及び下層部の他方に向かって延びるように形成されており、支持体の先端部に設けられ、水平に所定長さ延びる第1延設体と、上層部及び下層部の他方と一体に設けられ、第1延設体の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、第1延設体に対し上下方向に所定距離を隔てて対向する第2延設体と、第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられ、第1延設体及び第2延設体の他方に間隔を隔てて対向しかつ第1延設体及び第2延設体の一方の長さ方向に沿って配置された複数の永久磁石と、を備え、第1延設体及び第2延設体の他方は、複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、第1延設体と第2延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、支持体は、上層部及び下層部の一方から他方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材を有していることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、構造物と地盤の間及び構造物の中層部の一方に設定される免震の空間である免震層に、所定形状の支持体とともに渦電流式ダンパが設けられており、これらの支持体及び渦電流式ダンパにより、免震層よりも下側の下層部から上側の上層部へ伝達される振動が抑制される。上記の支持体は、互いに上下方向に所定距離を隔てて配置された上記の上層部及び下層部の一方に連結され、それらの他方に向かって延びるように形成されている。そして、支持体の先端部、並びに上層部及び下層部の一方にはそれぞれ、前述した請求項1と同様の第1延設体及び第2延設体が設けられている。また、請求項1と同様、第1延設体及び第2延設体の一方(磁石側延設体)には複数の永久磁石が取り付けられ、第1延設体及び第2延設体の他方(対向延設体)は、それらの延設体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されている。
【0015】
このように構成された渦電流式ダンパによれば、請求項1と同様の作用効果、すなわち、地震などによって、地盤から構造物への振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、構造物の振動を減衰させることができる。加えて、本発明の渦電流式ダンパの第1延設体を支持体の先端部に、第2延設体を上層部又は下層部にそれぞれ取り付ければよく、渦電流式ダンパを適切かつ容易に取り付けることができる。
また、上記の構成によれば、支持体として、一対のブレース材を有する∨型ブレースを用いることにより、その頂部に支持する第1延設体を、安定して支持することができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の渦電流式ダンパにおいて、複数の永久磁石は、隣り合う磁石の第1延設体及び第2延設体の他方に臨む磁極が互いに異なるように配置されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、第1延設体及び第2延設体の前記一方(磁石側延設体)に取り付けられた複数の永久磁石において、隣り合う磁石の第1延設体及び第2延設体の前記他方(対向延設体)に臨む磁極が互いに異なるように配置されることにより、隣り合う磁石と対向する対向延設体との間に、N極からS極に向かうループ状の磁力線が生じる。このような磁力線を有する磁界において、第1延設体及び第2延設体がそれらの長さ方向に相対移動することにより、対向延設体に渦電流が効率よく発生し、その渦電流によるローレンツ力を、第1延設体と第2延設体の相対移動を妨げる抵抗力として効果的に作用させることができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の渦電流式ダンパにおいて、第1延設体及び第2延設体の一方には、磁性材から成り、複数の永久磁石のうちの第1延設体及び第2延設体の一方の長さ方向の端部に配置された磁石である端部磁石に隣接し、端部磁石とでループ状の磁力線を生成するための磁性部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、第1延設体及び第2延設体の一方(磁石側延設体)において、複数の永久磁石のうちの磁石側延設体の長さ方向の端部に配置された磁石である端部磁石に隣接するように、磁性材から成る磁性部材が取り付けられている。これにより、端部磁石と磁性部材との間でループ状の磁力線が生成され、端部磁石の磁力が外部に漏れるのを抑制しながら、その磁力を、第1延設体及び第2延設体の他方(対向延設体)に安定して及ぼすことができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の渦電流式ダンパにおいて、複数の永久磁石の、第1延設体及び第2延設体の他方に作用する磁力を調整することにより、抵抗力の大きさを調整する抵抗力調整機構を、さらに備えていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、抵抗力調整機構により、複数の永久磁石の、第1延設体及び第2延設体の他方(対向延設体)に作用する磁力を調整し、それにより、前記抵抗力、すなわち、第1延設体と第2延設体が相対移動する際の移動を妨げる抵抗力の大きさを調整する。このように、上記抵抗力の大きさを調整できることにより、設置場所などに応じた所望の抵抗力を有する渦電流式ダンパを、適切に設置することができる。
【0024】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の渦電流式ダンパにおいて、抵抗力調整機構は、非磁性材から成り、第1延設体及び第2延設体の一方に取り付けられた複数の永久磁石と第1延設体及び第2延設体の他方との間に配置され、一方の長さ方向に沿って所定長さ延びるとともに、長さ方向に沿って移動自在に設けられたスライダと、磁性材から成り、複数の永久磁石にそれぞれ対応するように配置され、対応する永久磁石との間、並びに第1延設体及び第2延設体の他方との間にそれぞれ間隔を隔てた状態で、スライダに保持された複数のポールピースと、スライダを駆動するスライダ駆動機構と、を有していることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、抵抗力調整機構が、上記のスライダ、複数のポールピース及びスライダ駆動機構を有している。各々が磁性材から成る複数のポールピースにおいて、対応する永久磁石との上下方向の重なり度合が大きい場合には、その永久磁石による磁束の大部分が、対応するポールピースを通って、第1延設体及び第2延設体の他方(対向延設体)に到達する。これにより、第1延設体と第2延設体の相対移動の際に、比較的大きな渦電流が発生し、その結果、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、それを妨げる比較的大きな抵抗力が作用する。
【0026】
一方、各ポールピースと対応する永久磁石との上下方向の重なり度合が小さい場合には、その永久磁石による磁束の一部が、対応するポールピースを通り、対向延設体に到達することなく、隣接する永久磁石との間につながり、いわゆる短絡を生じる。これにより、永久磁石の磁束のうち、対向延設体に到達する磁束が減少し、第1延設体と第2延設体の相対移動の際に発生する渦電流が小さくなる。その結果、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、それを妨げる抵抗力が低下する。
【0027】
以上のことから、スライダ駆動機構によって、スライダを駆動し、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合を調整することにより、第1延設体と第2延設体の相対移動の際に、その移動を妨げる抵抗力の大きさを容易に調整することができる。
【0028】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の渦電流式ダンパにおいて、構造物に入力された振動の加速度を検出する加速度検出手段と、検出された加速度に応じて、スライダ駆動機構を制御する制御部と、をさらに備え、制御部は、加速度が大きいほど、各永久磁石と対応する各ポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構を制御することを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、上記制御部は、構造物に入力された振動の加速度に応じ、その加速度が大きいほど、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構を制御する。これにより、例えば大きな地震により、構造物に入力される振動の加速度が大きい場合には、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が大きくなるように制御することで、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的大きな抵抗力を得ることができる。一方、小さな地震により、上記加速度が小さい場合には、各永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が小さくなるように制御することで、第1延設体と第2延設体の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的小さな抵抗力を得ることができる。以上のように、上記の加速度に応じて、適切な大きさの抵抗力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態による渦電流式ダンパを、これを設置した建物の一部の構造材とともに概略的に示す図であり、(a)は正面図、(b)はダンパ自体を拡大して示すとともに永久磁石によるループ状の磁力線を示す図、(c)は(b)のA-A線に沿う断面図である。
図2図1(a)に示す渦電流式ダンパの動作を説明するための説明図であり、(a)は動作前の状態、(b)は、磁石ホルダが右方に、対向延設体が左方に移動した状態、(c)は、磁石ホルダが左方に、対向延設体が右方に移動した状態を示す。
図3】本発明の第2実施形態による渦電流式ダンパを、これを適用した建物の一部の構造材とともに概略的に示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のB-B線に沿う断面図である。
図4図3(a)に示す渦電流式ダンパのダンパ自体を拡大して示すとともに永久磁石によるループ状の磁力線を示す図であり、(a)は、永久磁石と対応するポールピースとの上下方向の重なり度合が大きい状態、(b)は、上記の重なり度合が(a)よりも少ない状態、(c)は、上記の重なり度合が(b)よりも少ない状態を示す。
図5】ポールピースを保持するスライダの駆動制御を示すフローチャートである。
図6】本発明の第3実施形態による渦電流式ダンパを、建物と地盤の間の免震層に設置した状態を示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のC-C線に沿う断面図である。
図7図6に示す渦電流式ダンパ及びその周囲を拡大して示す図である。
図8】本発明の第4実施形態による渦電流式ダンパを示す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)のD-D線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による渦電流式ダンパを、これを設置した建物S(構造物)の一部の構造材とともに概略的に示している。同図(a)に示す建物Sは、例えば高層のビルであり、上下方向に延びる複数の柱(左柱PL及び右柱PRのみ図示)と、水平に延びる複数の梁(上梁BU及び下梁BDのみ図示)を井桁状に組み合わせたラーメン構造を有している。
【0032】
図1(a)に示すように、この渦電流式ダンパ1は、上記の左右の柱PL及びPRと、上下の梁BU及びBDとによって構成される架構の内側に、正面形状がV字状に形成された∨型ブレース2(支持体)とともに設けられている。∨型ブレース2は、上梁BUと左右の柱PL、PRとの2カ所の接合部分から下方に向かって互いに接近するように延びる一対のブレース材2a、2aを有しており、それらの下側の先端部に、渦電流式ダンパ1の後述する磁石ホルダ3が取り付けられている。各ブレース材2aは、H形鋼などから成り、上端部が上梁BUと左右の柱PL又はPRとの接合部分にボルト止めなどにより固定され、下端部が磁石ホルダ3の長さ方向の中央付近にボルト止めなどにより固定されている。なお、両ブレース材2a、2aは、それらの下部の所定部位において、水平に延びる補助リブ2bを介して連結されている。
【0033】
渦電流式ダンパ1は、下梁BDの長さ方向(図1(a)の左右方向)に沿って水平に所定長さ延びる磁石ホルダ3(第1延設体)と、下梁BDの長さ方向に沿って水平に所定長さ延びるとともに、上記磁石ホルダ3に対し上下方向に所定距離を隔てて対向し、下梁BD上に固定された対向延設体4(第2延設体)と、磁石ホルダ3の下面に取り付けられ、対向延設体4の上面に所定間隔を隔てて対向する複数(本実施形態では6つ)の永久磁石(以下、単に「磁石」という)5及び磁極ブロック6(磁性部材)とを備えている。
【0034】
磁石ホルダ3は、磁性材(例えば炭素鋼や鋳鉄)から成り、前述したように、比較的長い所定長さを有するとともに、長さ方向の中央部が∨型ブレース2の下端部にボルトなどによって固定されている。なお,図1(c)では、図示の便宜上、磁石ホルダ3の横断面を矩形状で示しているが、下面が水平で複数の磁石5を取り付け可能であれば、種々の形状の横断面を有するもの(例えばH形鋼など)を採用することが可能である。
【0035】
対向延設体4は、導電性を有する材料、例えば炭素鋼や鋳鉄などの強磁性を有する金属から成り、磁石ホルダ3とほぼ同じ長さ寸法を有している。また、対向延設体4は、磁石ホルダ3に対し、上下方向に所定距離を隔てて平行に延びるように配置されており、下端部において、長さ方向に沿って延びかつ前後方向(図1(a)の表裏方向、同図(c)の左右方向)に突出するフランジ部において、下梁BD上にボルト止めされている。この対向延設体4の材料については、上述した炭素鋼や鋳鉄以外に、例えばステンレス鋼やアルミニウム、銅、それらの合金など、弱磁性材や非磁性材の金属を採用することも可能である。なお、図1では、図示の便宜上、対向延設体4の横断面をほぼ矩形状で示しているが、上面が水平で、各磁石5と所定間隔を隔てた状態に構成されていれば、種々の形状の横断面を有するもの(例えばH形鋼など)を採用することが可能である。
【0036】
各磁石5は、平面形状が矩形状で所定サイズを有するブロック状に形成されており、上半部と下半部で磁極(N極及びS極)が異なるように構成されている。また、隣り合う磁石5、5では、下方の対向延設体4に臨む磁極が互いに異なるように配置されている。一方、各磁極ブロック6は、鉄などの磁性材から成り、磁石5と同様の形状及びサイズを有するブロック状に形成されている。これらの磁石5及び磁極ブロック6は、磁石ホルダ3の長さ方向に沿って、互いに所定間隔を隔てた状態で一列に配置されており、対向延設体4に対し上下方向に所定間隔を隔てて対向した状態で、磁石ホルダ3の下面に、接着やボルト止めなどによって取り付けられている。なお、以下の説明では、一列に配置された複数の磁石5をまとめて適宜、「磁石列5」というものとする。
【0037】
上記の磁極ブロック6は、磁石列5の左右両端部の磁石である端部磁石5a、5aにそれぞれ隣接するように配置されている。これにより、後述するように、端部磁石5aと磁極ブロック6との間で、その端部磁石5aによるループ状の磁力線が生成される。
【0038】
なお、図示は省略するが、渦電流式ダンパ1には、その周囲を覆った状態で、下梁BDに取り付けられるカバーが設けられている。このようなカバーにより、ゴミや埃などが対向延設体4と磁石5及び磁極ブロック6との間に侵入するのを防止することができる。また、上記カバーを、磁気をシールド可能な材料で構成することにより、各磁石5の磁気が外部に漏れるのを防止することができる。
【0039】
以上のように構成された渦電流式ダンパ1において、磁石ホルダ3の下面に取り付けられた磁石列5では、図1(b)に示すように、各磁石5のN極から出た磁力線は、上側の磁石ホルダ3と下側の対向延設体4との間において、隣り合う2つの磁石5、5を通り、元の磁石5のS極に戻るように、ループ状に生成される。
【0040】
また、磁石列5の左右に配置された2つの磁極ブロック6、6では、隣接する端部磁石5aとの間で、その端部磁石5aによる磁力線がループ状に生成される。上記のような磁極ブロック6を設けることにより、端部磁石5aの磁力が外部に漏れるのを抑制しながら、その磁力を対向延設体4に安定して及ぼすことができる。
【0041】
次に、以上のように構成された渦電流式ダンパ1の動作について説明する。図2(a)は、渦電流式ダンパ1の動作前の状態を示している。同図(a)に示す状態から、地震や風により、上梁BUと下梁BDの間で、それらの長さ方向に相対変位が生じると、それに伴い、例えば同図(b)に示すように、∨型ブレース2を介して上梁BUに連結された磁石ホルダ3が右方に移動する一方、下梁BDと一体に対向延設体4が左方に移動する。この場合、磁石ホルダ3が、磁石列5と一体に対向延設体4に対して移動することにより、磁石列5による磁場が変化し、それにより、対向延設体4の上面には、電磁誘導による渦電流が生じる。そして、その渦電流によるローレンツ力及びその反作用力が、磁石ホルダ3及び対向延設体4に対し、両者の相対移動を妨げる抵抗力として作用する。
【0042】
また、図2(a)に示す状態から、上記とは逆に、同図(c)に示すように、磁石ホルダ3が左方に移動する一方、対向延設体4が右方に移動する場合も、磁石列5による磁場が変化することで、対向延設体4の上面に電磁誘導による渦電流が生じる。そして、その渦電流によるローレンツ力及びその反作用力が、磁石ホルダ3及び対向延設体4に対し、両者の相対移動を妨げる抵抗力として作用する。
【0043】
以上詳述したように、本実施形態の渦電流式ダンパ1によれば、地震などによる建物Sへの振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、建物Sの振動を減衰させることができる。
【0044】
また、上述した渦電流式ダンパ1では、複数の磁石5を含む磁石ホルダ3と対向延設体4とが、互いに分離した状態に構成されている。つまり、本実施形態の渦電流式ダンパ1では、磁石ホルダ3を∨型ブレース2の下端部に、対向延設体4を下梁BDにそれぞれ取り付ければよく、例えば単一のダンパについて、その両端部などの2カ所を、架構側の固定部にそれぞれ取り付ける場合に比べて、渦電流式ダンパ1を適切かつ容易に取り付けることができる。
【0045】
次に、図3図5を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の渦電流式ダンパ1Aにおいて、第1実施形態と同様の構成部品については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。
【0046】
この渦電流式ダンパ1Aには、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動を妨げる抵抗力を調整するための抵抗力調整機構11と、この抵抗力調整機構11の駆動に利用される電力を発電する発電装置12が設けられている。
【0047】
抵抗力調整機構11は、磁石列5と対向延設体4との間に配置され、磁石ホルダ3の長さ方向に沿って所定長さ延び、その長さ方向に沿って移動自在のスライダ14と、このスライダ14に取り付けられ、複数の磁石5にそれぞれ対応する複数(本実施形態では6つ)のポールピース15と、スライダ14を駆動するスライダ駆動機構16とを備えている。
【0048】
スライダ14は、非磁性材から成り、磁石ホルダ3よりも若干長く延びる板状に形成されている。また、スライダ14の前端部及び後端部は、磁石ホルダ3の下面の前端部及び後端部から垂下する垂下壁17、17(図3(b)参照)にそれぞれ、スライダ14の長さ方向(図3(a)の左右方向)にスライド自在の状態で係合している。さらに、スライダ14には、上方の複数の磁石5にそれぞれ対応する位置に、上下方向に貫通する複数の貫通孔が形成され、それらの貫通孔にポールピース15が嵌め込まれた状態で取り付けられている。なお、スライダ14は、非磁性材で構成されていればよく、例えば合成樹脂やステンレス、アルミニウム合金など、種々の材料を採用することが可能である。
【0049】
ポールピース15は、磁性材から成り、平面形状が矩形状で所定サイズのブロック状に形成され、前述した磁石5とほぼ同じサイズの横断面を有している。また、ポールピース15は、上側の磁石5との間、及び下側の対向延設体4との間にそれぞれ、所定間隔を隔てて配置されている。
【0050】
スライダ駆動機構16は、モータ16aと、このモータ16aによって駆動されるギヤ機構16bとを備えている。ギヤ機構16bは、複数のギヤなどで構成され、モータ16aから出力される回転運動を、スライダ14を駆動する直線運動に変換するように構成されている。なお、スライダ14と対向延設体4との間は、前後(図3(b)の左右)のカバー18、18によって覆われている。
【0051】
一方、発電装置12は、上述した渦電流式ダンパ1Aの磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動による直線運動を回転運動に変換し、その変換した回転運動によって発電する発電部21を備えている。
【0052】
図3(b)に示すように、発電部21は、磁石ホルダ3の長さ方向に沿って所定長さ延び、磁石ホルダ3の上面に固定されたラック22と、これに噛み合うピニオン23と、このピニオン23の回転に基づいて発電する発電機24と、上記のピニオン23及び発電機24を支持した状態で、それらを覆うとともに、下梁BDに取り付けられた支持カバー25とを備えている。なお、上記の支持カバー25は、下梁BDに代えて、対向延設体4に取り付けるようにすることも可能である。
【0053】
発電機24は、ロータ26と、その外周及び一方の端部(図3(b)の右端部)を囲むように設けられたステータ27とを備えている。ロータ26の外周面全体には、その周方向に沿って、複数(図3(b)では2つのみ図示)の永久磁石26aが設けられている。一方、ステータ27には、ロータ26の外周面全体の永久磁石26aに対向した状態で、複数(図3(b)では2つのみ図示)のコイル27aが周方向に沿って設けられている。
【0054】
上記のピニオン23及び発電機24のロータ26には、それらの中心部を貫通した状態で固定された共通の回転軸28が設けられている。この回転軸28は、その一端部(図3(b)の左端部)が支持カバー25に回転自在に支持されるとともに、他端部(図3(b)の右端部)が、支持カバー25、又はこれに固定された発電機24のステータ27に回転自在に支持されている。
【0055】
また、図3(a)に示すように、右梁PRには、前述した抵抗力調整機構11のスライダ駆動機構16を制御するための制御部29が取り付けられるとともに、上梁BUには、建物Sに入力される振動の大きさを表す加速度を検出するための加速度センサ30(加速度検出手段)が取り付けられている。なお、発電装置12によって発電された電力は、例えば支持カバー25内や制御部29付近に設けられたバッテリ(図示せず)に蓄電されるようになっている。
【0056】
制御部29は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。加速度センサ30で検出された加速度ACは、入力インターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。CPUは、検出された加速度ACに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに基づいて、スライダ駆動機構16を制御する。
【0057】
上記のように構成された発電装置12では、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に伴い、ラック22に噛み合うピニオン23が回転する。そして、このピニオン23と一体に発電機24のロータ26が回転し、ステータ27のコイル27aで発生した電力が、バッテリに出力される。そして、このバッテリに蓄電された電力は、抵抗力調整機構11の駆動源として利用される。
【0058】
図4は、渦電流式ダンパ1Aの抵抗力調整機構11におけるスライダ駆動機構16の動作、及び磁石5によるループ状の磁力線を示している。同図(a)は、スライダ駆動機構16におけるスライダ14が第1所定位置に位置する状態を示している。この第1所定位置では、各磁石5と対応するポールピース15が上下方向にほぼぴったりと重なり、その上下方向の重なり度合が大きくなっている。この場合には、同図(a)に示すように、各磁石5によるほぼ全ての磁力線(磁束)が、対応するポールピース15を通って、対向延設体4に到達する。これにより、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に、比較的大きな渦電流が発生し、その結果、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に対し、それを妨げる比較的大きな抵抗力が作用する。
【0059】
また、図4(b)は、スライダ14が第2所定位置に位置する状態を示している。この第2所定位置では、各磁石5と対応するポールピース15の重なり度合が、上述した同図(a)の第1所定位置の場合よりも小さくなっている。この場合には、同図(b)に示すように、各磁石5による磁束の一部が、対応するポールピース15を介して、隣接する磁石5に短絡した状態となる。これにより、各磁石5による磁束のうち、対応するポールピース15を通って対向延設体4に到達する磁束が少なくなる。その分、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に発生する渦電流が小さくなり、それに伴い、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動を妨げる抵抗力も小さくなる。
【0060】
さらに、図4(c)は、スライダ14が第3所定位置に位置する状態を示している。この第3所定位置では、各磁石5と対応するポールピース15の重なり度合が上述した同図(b)の第2所定位置の場合よりも小さくなっている。この場合には、同図(c)に示すように、各磁石5による磁束の一部が、対応するポールピース15を介して、隣接する磁石5に、より一層多く短絡した状態となる。これにより、各磁石5による磁束のうち、対応するポールピース15を通って対向延設体4に到達する磁束がより一層少なくなる。その分、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に発生する渦電流が、より一層小さくなり、それに伴い、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動を妨げる抵抗力も、より一層小さくなる。
【0061】
図5は、加速度センサ30で検出された加速度ACに応じ、スライダ駆動機構16におけるスライダ14の駆動制御処理の一例を示している。なお、本処理は、所定時間ごとに繰り返し実行される。
【0062】
本処理では、まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、加速度ACが比較的小さい所定の小基準加速度AC_S以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、建物Sに入力される振動がほとんどなく、抵抗力調整機構11を作動させる必要がないとして、そのまま本処理を終了する。
【0063】
一方、ステップ1の判別結果がYESのときには、ステップ2に進み、加速度ACが上記小基準加速度AC_Sよりも大きい所定の中基準加速度AC_M以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのとき、すなわち、AC_S≦AC<AC_Mのときには、スライダ14の位置(以下、単に「スライダ位置SP」という)を、前述した図4(c)に示す第3所定位置P3に設定し(ステップ3)、本処理を終了する。なお、スライダ14がすでに第3所定位置SP3に位置しているときは、スライダ14をそのまま維持し、スライダ14が第3所定位置SP3以外に位置しているときには、スライダ14を第3所定位置SP3に移動させる。
【0064】
また、ステップ2の判別結果がYESのときには、ステップ4に進み、加速度ACが、上記中基準加速度AC_Mよりも大きい所定の大基準加速度AC_L以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのとき、すなわち、AC_M≦AC<AC_Lのときには、スライダ位置SPを、前述した図4(b)に示す第2所定位置SP2に設定し(ステップ5)、本処理を終了する。なお、スライダ14がすでに第2所定位置SP2に位置しているときには、スライダ14をそのまま維持し、スライダ14が第2所定位置SP2以外に位置しているときには、スライダ14を第2所定位置SP2に移動させる。
【0065】
一方、ステップ4の判別結果がYESのとき、すなわち、加速度ACが上記大基準加速度AC_L以上のときには、スライダ位置SPを、前述した図4(a)に示す第1所定位置SP1に設定し(ステップ6)、本処理を終了する。なお、スライダ14がすでに第1所定位置SP1に位置しているときには、スライダ14をそのまま維持し、スライダ14が第1所定位置SP1以外に位置しているときには、スライダ14を第1所定位置SP1に移動させる。
【0066】
上述した小基準加速度AC_S、中基準加速度AC_M及び大基準加速度AC_Lの具体例として、例えば周期が0.5~6秒の建物(制震建物及び免震建物を含む)の応答加速度(gal)は以下のとおりである。
小基準加速度AC_S:応答加速度≦5~11(震度0~3)
中基準加速度AC_M:5~11<応答加速度≦50~110(震度4~5)
大基準加速度AC_L:50~110<応答加速度(震度5強)
【0067】
以上詳述したように、本実施形態の渦電流式ダンパ1Aによれば、前述した第1実施形態と同様、地震などによる建物Sへの振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、建物Sの振動を減衰させることができる。
【0068】
また、渦電流式ダンパ1Aには、抵抗力調整機構11及び発電装置12が設けられており、この発電装置12により、建物Sの振動に伴う磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に、両者3及び4の相対移動による直線運動を回転運動に変換し、その変換した回転運動によって発電する。そして、発電された電力を駆動源として、抵抗力調整機構11を駆動する。このように、建物Sの振動を利用して得られた電力を用いて、抵抗力調整機構11を駆動することができる。また、抵抗力調整機構11において、スライダ駆動機構16によってスライダ14を駆動し、各磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合を調整することにより、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動の際に、その移動を妨げる抵抗力の大きさを容易に調整することができる。
【0069】
さらに、抵抗力調整機構11では、建物Sに入力された振動の加速度ACに応じ、その加速度ACが大きいほど、磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構16が制御される。これにより、例えば、大きな地震により、建物Sに入力される振動の加速度が大きい場合には、各磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合が大きくなるように、スライダ駆動機構16を制御することで、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的大きな抵抗力を得ることができる。一方、小さな地震により、上記加速度ACが小さい場合には、各磁石5と対応するポールピース15との上下方向の重なり度合が小さくなるように制御することで、磁石ホルダ3と対向延設体4の相対移動に対し、その移動を妨げる比較的小さな抵抗力を得ることができる。以上のように、上記の加速度ACに応じて、適切な大きさの抵抗力を得ることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、抵抗力調整機構11の駆動に発電装置12を用いたが、これに代えて、建物S内の電源コンセントを利用することも可能である。
【0071】
次に、図6及び図7を参照しながら、本発明の第3実施形態について説明する。なお、本実施形態の渦電流式ダンパ1Bにおいて、第1実施形態と同様の構成部品については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略するものとする。
【0072】
この渦電流式ダンパ1Bは、前述した第1実施形態の渦電流式ダンパ1とほぼ同じ構成を有しており、建物Sと地盤Gの間に設定される免震層Lに設置される点が、第1実施形態と異なっている。
【0073】
図6に示すように、建物Sの底部には、平面形状が格子状に設けられた上部基礎梁FUと、その上部基礎梁FUの交差部から下方に突出する複数(図6(b)では12個)の上部基礎FSが一体に設けられている。一方、地盤Gには、上記の上部基礎梁FUに対応するように、下部基礎梁FDが格子状に設けられるとともに、複数の上部基礎FSに対応する位置に、上方に突出する複数の下部基礎FGが一体に設けられている。各下部基礎FGとそれに対応する上部基礎FSとの間には、免震装置32が設置されている。一方、下部基礎梁FDと上部基礎梁FUとの間には、複数(本実施形態では17個)の渦電流式ダンパ1Bが、それを支持する∨型ブレース2とともに設置されている。
【0074】
なお、詳細な説明は省略するが、免震装置32は、例えば鉛プラグや錫プラグを用いたプラグ入り積層ゴムなどで構成されている。また、この免震装置32は、建物Sの鉛直荷重を支持するとともに、地盤Gから入力される地震動に対して水平方向に変形可能であるとともに、元の位置に戻る復元機能を有している。
【0075】
図7に示すように、∨型ブレース2では、各ブレース材2aの上端部が、図示しない複数のアンカーボルトを介して、上部基礎梁FUに下方から固定され、両ブレース材2a、2aの下端部が、渦電流式ダンパ1Bの磁石ホルダ3の長さ方向の中央付近に固定されている。また、渦電流式ダンパ1Bの対向延設体4が、図示しない複数のアンカーボルトを介して、下部基礎梁FD上に上方から固定されている。
【0076】
以上のように、本実施形態の渦電流式ダンパ1Bによれば、前述した第1実施形態と同様の作用効果、すなわち、地震などによる建物Sへの振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、建物Sの振動を減衰させることができる。
【0077】
図8は、本発明の第4実施形態を示している。本実施形態は、上述した第3実施形態の∨型ブレース2に代えて、正面形状が矩形状の支持プレート34(支持体)を採用したものである。この支持プレート34は、鋼板などから成る上下対称の2つのプレート材(以下、上下のプレート材をそれぞれ「上側プレート材35」及び「下側プレート材36」という)を互いに上下に連結して構成されている。上側プレート材35は、正面形状が横長板状の本体部35aとその上端部に設けられたフランジ部35bとにより、縦断面がT字状に形成されている。そして、上側プレート材35は、フランジ部35bが図示しない複数のアンカーボルトを介して、上部基礎梁FUに下方から固定され、本体部35aの下端部が、下側プレート材36に連結されている。
【0078】
下側プレート材36は、上述した上側プレート材35の本体部35a及びフランジ部35bと同様に構成された本体部36a及びフランジ部36bを有している。この下側プレート材36では、フランジ部36bが本体部36aの下端部に設けられており、縦断面が逆T字状に形成されている。そして、上記の上側プレート材35の本体部35aの下端部と、下側プレート材36の本体部36aの上端部が、左右方向に延びる前後2枚の連結プレートで挟持された状態で、複数(本実施形態では18個)のボルト38及びナット39を介して、固定されており、これにより、上側プレート材35と下側プレート材36が強固に連結されている。
【0079】
また、本実施形態の渦電流式ダンパ1Cでは、支持プレート34の下端部、具体的には下側プレート材36のフランジ部36bが、前述した各渦電流式ダンパ1、1A及び1Bの磁石ホルダ3の役割を果たしている。すなわち、下側プレート材36のフランジ部36bの下面に、その長さ方向に沿って、複数の磁石5が間隔を隔てて配置されるとともに、両端の各端部磁石5aに隣接するように、磁極ブロック6が配置されている。
【0080】
また、下部基礎梁FD上には、対向延設体4が、図示しないアンカーボルトを介して固定されている。この対向延設体4は、前述した第1~第3実施形態と同様、各磁石5及び磁極ブロック6との間に間隔を隔てた状態で、下部基礎梁FDの長さ方向に沿って所定長さ延びるように配置されている。
【0081】
以上のように、本実施形態の渦電流式ダンパ1Cによれば、前述した第1及び第3実施形態と同様の作用効果、すなわち、地震などによる建物Sへの振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、建物Sの振動を減衰させることができる。また、本実施形態では、∨型ブレース2に代えて、正面形状が矩形状の支持プレート34を用いることにより、その支持プレート34の下端部を、磁石ホルダとして利用できるとともに、複数の磁石5及び磁極ブロック6を、所望の位置に安定して支持することができる。
【0082】
なお、本発明は、説明した各実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1~第4実施形態の渦電流式ダンパ1、1A、1B及び1Cでは、上下に配置された磁石ホルダ3(第4実施形態のフランジ部36bを含む)及び対向延設体4のうち、上側の磁石ホルダ3に複数の磁石5及び磁極ブロック6を取り付けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、磁石ホルダ3に代えて、下側の対向延設体4に、磁石5及び磁極ブロック6を取り付けることも可能である。
【0083】
また、第1~第3実施形態では、渦電流式ダンパ1、1A及び1Bを支持する支持体として、∨型ブレース2を採用したが、逆V字形の∧型ブレースを採用することも、もちろん可能である。この場合には、∧型ブレースの頂部(上端部)に、磁石ホルダ3及び対向延設体4の一方が連結され、上梁BUの下面に、磁石ホルダ3及び対向延設体4の他方が連結される。また、第3及び第4実施形態では、渦電流式ダンパ1B及び1Cを、建物Sと地盤Gの間に設定される免震層Lに設置した基礎免震建物を例示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、建物の中層部に免震層が設定される中間階免震建物に適用することも可能である。
【0084】
さらに、各実施形態で示した渦電流式ダンパ1、1A、1B及び1C、並びに∨型ブレース2の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 渦電流式ダンパ
1A 渦電流式ダンパ
1B 渦電流式ダンパ
1C 渦電流式ダンパ
2 ∨型ブレース(支持体)
2a ブレース材
3 磁石ホルダ(第1延設体)
4 対向延設体(第2延設体)
5 永久磁石
5a 端部磁石
6 磁極ブロック(磁性部材)
11 抵抗力調整機構
12 発電装置
14 スライダ
15 ポールピース
16 スライダ駆動機構
29 制御部
30 加速度センサ(加速度検出手段)
34 支持プレート(支持体)
S 建物(構造物)
PL 左柱
PR 右柱
BU 上梁
BD 下梁
AC 加速度
AC_S 小基準加速度
AC_M 中基準加速度
AC_L 大基準加速度
SP スライダ位置
P1 第1所定位置
P2 第2所定位置
P3 第3所定位置
FU 上部基礎梁
FD 下部基礎梁
FS 上部基礎
FG 下部基礎
L 免震層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8