(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】転舵システム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240611BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240611BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20240611BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240611BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
H02P29/00
B62D113:00
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2020152992
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】仁田野 雅秀
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-104488(JP,A)
【文献】特開2020-069917(JP,A)
【文献】特開2009-207315(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
H02P 29/00
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムであって、
前記転舵軸と、
電動モータと、
前記電動モータの回転を前記転舵軸の移動に変換する変換装置と、
前記電動モータの0点位置からの回転角を取得するモータ回転角取得装置と、
前記転舵軸の中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量または前記中立位置からの移動量である移動量関連量を取得する移動量関連量取得装置と、
前記電動モータを制御する制御装置と
を含み、
前記移動量関連量取得装置が、前記転舵軸の中立位置からの移動量に基づいて前記電動モータの0点位置からの回転角を推定する回転角推定装置を含み、
前記制御装置が、前記モータ回転角取得装置によって取得された前記電動モータの前記0点位置からの回転角と、前記回転角推定装置によって推定された前記電動モータの前記0点位置からの回転角との差の絶対値から補正値を引いた値が前記異常判定しきい値より大きい場合に、前記変換装置が異常であるとする異常検出部を含み、
前記補正値を、当該転舵システムの温度が前記0点位置が取得される温度である設定温度より高い場合において、当該転舵システムの温度状態が安定した状態である安定状態にある場合に、前記温度状態が不安定な状態である不安定状態にある場合より、小さい値とする転舵システム。
【請求項2】
前記補正値を、当該転舵システムの温度が前記0点位置が取得される温度である設定温度より高い場合において、当該転舵システムの温度が高い場合は低い場合より、大きい値とする請求項1に記載の転舵システム。
【請求項3】
前記
異常検出部が、当該転舵システムが搭載された車両のメインスイッチがOFFからONに切り替わってからの経過時間が第1設定時間より短く、かつ、前記メインスイッチがOFFである時間が前記第1設定時間より長い第2設定時間より長い場合に、前記温度状態が安定状態にあるとして、前記変換装置の異常を検出する
安定時異常検出部を含む請求項
1または2に記載の転舵システム。
【請求項4】
当該転舵システムが、外気温度を検出する外気温度センサと、当該転舵システムの温度を検出するシステム温度センサとを含み、
前記
異常検出部が、前記外気温度センサによる検出値と前記システム温度センサによる検出値との差の絶対値が設定値より小さい場合に、当該転舵システムの前記温度状態が安定状態にあるとして、前記変換装置の異常を検出する
安定時異常検出部を含む請求項
1ないし3のいずれか1つに記載の転舵システム。
【請求項5】
前記異常検出部が、前記転舵軸の移動速度が設定速度より小さい場合に、前記異常を検出するものである請求項1ないし4のいずれか1つに記載の転舵システム。
【請求項6】
前記転舵軸が、ハウジングに軸線方向に相対移動可能に保持され、
前記回転角推定装置が、前記ハウジングに保持され、前記転舵軸に設けられたねじ部に螺合するピニオンと、前記ピニオンの0点位置からの回転角を取得するピニオン回転角取得装置とを含む請求項
1ないし5のいずれか1つ記載の転舵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムが記載されている。この転舵システムは、転舵軸と、電動モータと、電動モータの回転を転舵軸の移動に変換する変換装置と、電動モータの回転角を検出する回転角センサと、転舵軸の移動量を検出する移動量検出装置と、変換装置の異常を検出する異常検出部とを含む。異常検出部により、電動モータが作動させられた場合の、電動モータの回転角と転舵軸の移動量とが検出され、これら電動モータの回転角と転舵軸の移動量との関係が予め定められた関係から外れた場合に、変換装置が異常であると検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、転舵システムの改良を図ることであり、例えば、変換装置の異常の温度に起因する検出精度の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る転舵システムにおいては、温度の状態を考慮して変換装置の異常が検出される。例えば、温度の状態に基づいて異なる態様で変換装置の異常が検出されるようにしたり、温度が安定している状態である安定状態で変換装置の異常が検出されるようにしたりすること等ができる。このように温度の状態を考慮して変換装置の異常が検出されるようにすることにより、温度の状態を考慮しない場合に比較して、変換装置の異常の温度に起因する検出精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施例1に係る転舵システムを概念的に示す図である。
【
図2】上記転舵システムの変換装置の構成要素である小径プーリの歯とベルトの歯との噛み合わせの状態を示す図である。(2A)正常な状態における噛み合わせの状態を示す図であり、(2B)歯跳びが生じた場合の噛み合わせの状態を示す図である。
【
図3】上記変換装置が正常である場合の、電動モータの0点位置からの回転角と、転舵軸の中立位置からの移動量(ピニオンの0点位置からの回転角)との関係を概念的に示す図である。
【
図4】上記転舵システムにおいてモータ回転角センサによって検出された電動モータの回転角の変化と、ピニオン回転角センサによって検出されたピニオンの回転角の変化とを概念的に示す図である。(4A)転舵速度が速い場合。(4B)転舵速度が遅い場合。
【
図5】上記ステアリングECUの記憶部に記憶された異常検出プログラムを表すフローチャートである。
【
図6】上記記憶部に記憶された転舵制御プログラムを表すフローチャートである。
【
図7】上記記憶部に記憶された時間計測プログラムを表すフローチャートである。
【
図8】上記異常検出プログラムの一部を示すフローチャートである(S10)。
【
図9】上記異常検出プログラムの別の一部を示すフローチャートである(S18)。
【
図10】上記記憶部に記憶された角度偏差取得マップを概念的に示す図である。
【本発明の実施の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態である車両の車輪を転舵する転舵システムについて図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
図1に示すように、実施例1に係る転舵システムは、いわゆる、ステアバイワイヤ式のものであり、ハウジング8、車両の幅方向に伸びた転舵軸(ラックバーと称することができる)10、駆動源としての電動モータ14、電動モータ14の回転を転舵軸10の車両の幅方向(以下、転舵軸10の軸方向、または、単に軸線方向と称する場合がある。
図1において、軸線に符号Lを付した)の移動に変換する変換装置16等を備えた転舵装置20を含む。
【0009】
転舵軸10は、軸線方向の移動により車輪を転舵させる軸(バー)であり、ハウジング8に相対回転不能かつ軸線方向に相対移動可能に保持される。転舵軸10には、タイロッド23,24が連結されるとともに、図示しないナックルアームを介して車輪25,26が連結され、転舵軸10の軸線方向の移動により車輪25,26が転舵される。
【0010】
電動モータ14は、本体14hにおいてハウジング8に保持される。また、電動モータ14の出力軸(回転軸と称することもできる)12が転舵軸10と平行に伸びた状態にある。
【0011】
変換装置16は、本実施例においては、回転伝達部30、運動変換機構としてのねじ機構32等を含む。回転伝達部30は減速機の機能を備えたものであり、電動モータ14の出力軸12の回転速度を減速し、出力軸12のトルクを倍力してナット部材40に伝達するものである。回転伝達部30は、電動モータ14の出力軸12に一体的に回転可能に嵌合された小径プーリ38と、ナット部材40に一体的に回転可能に嵌合された大径プーリ44と、これら小径プーリ38と大径プーリ44とに掛け渡されたベルト46とを含む。
【0012】
大径プーリ44は、ハウジング8に、軸線Lの周りに回転可能にベアリング装置52を介して保持される。また、大径プーリ44の内周側にナット部材40が取り付けられる。小径プーリ38、大径プーリ44、ベルト46は、いずれも歯付きのものであり、歯同士の噛合により、小径プーリ38の回転が、ベルト46を介して、大径プーリ44に伝達され、ナット部材40に伝達される。
【0013】
ベアリング装置52は、本実施例においては、軸線方向に並んで設けられた2つのベアリング53,54と、ベアリング53,54の両側に位置する一対の皿ばね55,56とを含む。皿ばね55,56は、軸線方向に作用する力により弾性変形可能なものであり、ベアリング53,54の組付け誤差を吸収したり、転舵軸10の移動に伴って生じる音を低減したりする機能を有する。
【0014】
ねじ機構であるボールねじ機構32は、ナット部材40の回転を直線移動に変換して転舵軸10に出力するものである。ボールねじ機構32は、転舵軸10の外周部に形成された雄ねじ部28と、ナット部材40の内周部に形成された雌ねじ部48と、これらの間に介在させられた多数個のボール50とを含み、雌ねじ部48と雄ねじ部28とがボール50を介して螺合させられる。
【0015】
転舵軸10の軸線方向の変換装置16から離れた部分には、ねじ部60が設けられる一方、ハウジング8には、ねじ部60に螺合可能なピニオン62が保持される。ピニオン62は、転舵軸10のハウジング8に対する軸線方向の相対移動に伴って回転させられる。
本実施例においては、電動モータ14の回転に伴ってベルト46が移動させられ、それにより、ナット部材40が回転させられ、転舵軸10が軸線方向に移動させられる。また、転舵軸10のハウジング8に対する軸線方向の相対移動により、ピニオン62が回転させられる。そのため、ピニオン62の回転角に基づけば、転舵軸10の移動量を推定することができ、電動モータ14の回転角を推定することができる。この場合において、変換装置16が正常である場合には、電動モータ14の0点位置からの回転角とピニオン62の0点位置の回転角とが同じになるように、転舵システムの諸元が設定されている。
【0016】
本転舵システムには、コンピュータを主体とするステアリングECU70が設けられる。ステアリングECU70は、実行部70a、記憶部70b、入出力部70c等を備えたものである。入出力部70cには、運転者によって操作される操作部材72の操作状態を検出する操作状態検出装置74、車両の走行速度を検出する車速センサ76、周辺環境取得装置78、電動モータ14に流れる電流を検出する電流センサ79、電動モータ14の0点位置からの回転角を検出するモータ回転角センサ80、ピニオン62の0点位置からの回転角を検出するピニオン回転角センサ82、外気温度を検出する外気温度センサ84、電動モータ14に設けられ、電動モータ14の温度を検出するモータ温度センサ86、車両のメインスイッチ88等が接続されるとともに、報知装置90、電動モータ14等が接続される。
【0017】
操作部材72は、ステアリングホイールとすることができるが、その他、ジョイスティック、マウス状グリップ等とすることもできる。操作状態検出装置74は、操作部材72に加えられる操作力や操作量等を検出するものであり、操作力センサや操作量センサ等を含むものとすることができる。車速センサ76は、車両の走行速度を検出するものである。周辺環境取得装置78は、レーダ装置、カメラ等を含み、当該転舵システムが搭載された車両である自車両の周辺の物体等を検出し、その物体と自車両との相対位置関係を取得したり、区画線を認識して、自車両と区画線との間の距離を取得したりするものである。
【0018】
モータ回転角センサ80、ピニオン回転角センサ82は、本実施例においては、いずれも、絶対角センサであり、0点位置は、車両の出荷前の、転舵システムの温度が予め定められた設定温度(例えば、20℃)にある場合において、車輪25,26の転舵角が0である場合の電動モータ14の位置、ピニオン62の位置として設定される。換言すると、電動モータ14、ピニオン62が0点位置にある場合には、転舵軸10の位置が中立位置にあり、車輪25,26の転舵角が0であり、自車両は直進する。本実施例において、モータ回転角センサ80がモータ回転角取得装置に対応し、ピニオン回転角センサ82がピニオン回転角取得装置に対応する。
【0019】
また、ピニオン62は転舵軸10の軸線方向の移動に伴って回転させられるため、ピニオン62の0点位置からの回転角θpは、転舵軸10の中立位置からの移動量に1対1に対応する。そのため、ピニオン62の0点位置からの回転角θpは移動量関連量の一例であり、ピニオン回転角センサ82は移動量関連量取得装置の一例であると考えることができる。また、ピニオン62の0点位置からの回転角θpは車輪25,26の転舵角に対応し、ピニオン62の0点位置からの回転角θpの変化速度は転舵速度に対応する。そのため、本実施例においては、ピニオン62の0点位置からの回転角θpを、車輪25,26の転舵角と1対1に対応する値として採用し、ピニオン62の0点位置からの回転角の変化速度dθpを転舵軸10の移動速度、すなわち、転舵速度と1対1に対応する値として採用する。
【0020】
さらに、ピニオン62の0点位置からの回転角θpと電動モータ14の0点位置からの回転角θmとの間には予め定められた関係(例えば、同じである関係)が成立するため、ピニオン62の0点位置からの回転角θpに基づいて電動モータ14の0点位置からの回転角θmを推定することができる。そのため、移動量関連量取得装置は電動モータ14の回転角を推定する回転角推定装置であると考えることもできる。
以下、ピニオン62の0点位置からの回転角θp、電動モータ14の0点位置からの回転角θmを、単に、ピニオン62の回転角θpまたはピニオン回転角θp、電動モータ14の回転角θmまたはモータ回転角θmと称する場合がある。また、転舵軸10の中立位置からの移動量も、単に、転舵軸10の移動量と称する場合がある。
【0021】
外気温度センサ84は、外気温度を検出するものであり、モータ温度センサ86は、電動モータ14の内部の温度を検出するものである。モータ温度センサ86によれば、電動モータ14の発熱状態等が分かる。メインスイッチ88は、運転者等の操作により、自車両を始動させる場合等にONとされるスイッチである。報知装置90は、転舵システムの異常等を報知するものであるが、視覚的に報知するものであっても、聴覚的に報知するものであってもよく、ディスプレイ、光源、音声発生装置、ブザー等のうちの1つ以上を含むものとすることができる。
【0022】
ステアリングECU70の記憶部70bには、
図5のフローチャートで表される異常検出プログラム、
図6のフローチャートで表される転舵制御プログラム、
図7のフローチャートで表される時間計測プログラム、
図10で表される角度偏差取得マップ等が記憶される。
【0023】
以上のように構成された転舵システムにおいて、操作部材72の操作状態、周辺環境取得装置78によって取得された自車両の周辺にある物体と自車両との相対位置関係等に基づき、車輪25,26の目標転舵角が取得され、実際の転舵角が目標転舵角に近づくように、電動モータ14が作動させられ、車輪25,26が転舵される。転舵制御プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ101(以下、単にS101と略称する。他のステップについても同様とする)において、操作状態検出装置74によって検出された操作部材72の操作状態を表す値、周辺環境取得装置78によって取得された周辺の物体等と自車両との相対位置関係等が取得される。S102において、これらに基づいて車輪25,26の目標転舵角、本実施例においては、車輪25,26の目標転舵角に対応する転舵軸10の目標移動量が取得される。S103において、ピニオン回転角θpに基づいて取得される実際の転舵軸10の移動量が目標移動量に近づくように、電動モータ14が作動させられる。それにより、転舵軸10が軸線方向に移動させられ、車輪25,26が転舵される。
【0024】
変換装置16が正常な場合、すなわち、
図2Aに示すように、ベルト46の緩みが小さく、小径プーリ38の歯とベルト46の歯とが正常に噛み合った状態(大径プーリ44の歯も同様であるが、
図2には、小径プーリ38とベルト46との噛み合いの状態を示す)にある場合には、電動モータ14の回転によりベルト46が移動し、ナット部材40が回転する。それにより、転舵軸10が移動させられ、車輪25,26が転舵される。そのため、
図3に示すように、電動モータ14の0点位置からの回転角θmと車輪25,26の転舵角とは1対1に対応し、電動モータ14の回転角θmが大きくなると転舵軸10の移動量が直線的に大きくなり、車輪25,26の転舵角が大きくなる。この状態において、電動モータ14の回転角θmとピニオン62の回転角θpとは同じになるはずである。
【0025】
しかし、ベルト46の緩みが大きくなると、例えば、
図2Bに示すように、小径プーリ38の歯とベルト46の歯とが正常に噛み合わず、小径プーリ38が回転しても、ベルト46が移動せず、ナット部材40が回転しないという現象、いわゆる、歯跳びが起きる場合がある。歯跳びとは、小径プーリ38の歯がベルト46の歯と噛み合うことなく、小径プーリ38がベルト46に対して相対的に回転することであり、小径プーリ38の歯がベルト46の歯を跳び越えることである。
小径プーリ38の歯が跳び越えたベルト46の歯の数である歯跳び数が大きくなると、たとえ、電動モータ14が0点位置にあっても、転舵軸10は中立位置から外れた位置にあり、車輪25,26が転舵された状態となる。
【0026】
そこで、本実施例においては、電動モータ14の回転角θmと、転舵軸10の実際の中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量であるピニオン62の回転角θpとの差Δθの絶対値を歯跳び数として取得し、歯跳び数が異常判定しきい値Δθthより大きい場合に、異常であると検出されるようにした。異常判定しきい値Δθthは、例えば、ベルト46が、メンテナンス(例えば、検査)が行われることが望ましい状態である場合の歯跳び数とすることができる。換言すると、ベルト46を交換する必要性は高くないが、ベルト46の緩みの状態をチェックしておいた方がよいと考えられる状態の歯跳び数とすることができる。
|θp-θm|>Δθth
【0027】
しかし、変換装置16が正常であり、歯跳び数が0であっても、ピニオン62の回転角θpと電動モータ14の回転角θmとが異なる場合がある。例えば、転舵システムの温度が20℃でない場合には、ハウジング8と転舵軸10との熱膨張係数の差等に起因して、ハウジング8に保持されたピニオン62が転舵軸10に対して相対的に移動させられ、ピニオン回転角θpがモータ回転角θmと異なる角度になるのである。本実施例においては、ハウジング8はアルミ合金により製造され、転舵軸10は鉄を含む材料により製造されたものであるが、アルミ合金の熱膨張係数は鉄のそれより大きい。そのため、ハウジング8の方が転舵軸10より軸線方向の長さの変化量が大きくなるのである。
【0028】
そこで、本実施例においては、歯跳び数が0である場合に生じるピニオン回転角θpとモータ回転角θmとの差である角度偏差θeを温度に基づいて推定して、角度偏差θeを考慮して異常検出が行われるようにした。
【0029】
また、温度に起因して生じる角度偏差θeと温度との関係が予め取得され、マップ化されて記憶されている。その一例を
図10に示す。
図10の実線は、ハウジング8と転舵軸10との熱膨張係数差等に起因する相対移動によって生じる角度偏差θeと温度との関係を表す第1マップAであり、一点鎖線は、転舵角10の熱膨張に起因するねじ部60のリードの変化に起因する角度偏差θeと温度との関係を表す第2マップBである。
【0030】
ハウジング8や転舵軸10の温度は、外気温度センサ84によって検出される外気温度やモータ温度センサ86によって検出されるモータ温度等に基づいて推定される。実験やシミュレーション等により、ハウジング8の温度と転舵軸10の温度とはほぼ同じ温度であることが明らかである。そのため、例えば、電動モータ14の停止状態において、ハウジング8、転舵軸10の温度を外気温度やモータ温度と同じ温度であると推定することができ、電動モータ14の作動状態において、電動モータ14の温度(発熱状態)に基づいて、ハウジング8、転舵軸10の温度が同じ温度に推定することができる。
【0031】
本実施例において、ハウジング8や転舵軸10の温度を転舵システムの温度または転舵システムの内部の温度とすることができるが、モータ温度センサ86によって検出された電動モータ14の内部の温度Smoを転舵システムの内部の温度とすることもできる。
【0032】
異常検出は、転舵システム内の温度が安定した状態である安定状態にある場合に行われることが望ましい。温度の安定状態においては、角度偏差θeを精度よく推定することができるからである。温度の安定状態とは、転舵システムの温度の変化幅が設定幅以下であり、温度がほぼ一定である状態をいう。例えば、電動モータ14が長時間停止している場合、転舵システムの温度と外気温度との差が設定温度以下である場合等には、温度が安定状態にあると考えることができる。また、温度が安定状態にある場合には、車両が停止状態にあり、電動モータ14は停止状態にあるのが普通である。そのため、車両のメインスイッチ88がOFFからONに切り換えられからの経過時間が短い間は、温度が安定状態にあると考えられる。
【0033】
以上のことから、本実施例においては、メインスイッチ88がOFFからONに切り換わってからメインスイッチ88がONである時間であるON時間Tonが第1設定時間Ts1より短く、かつ、メインスイッチ88がOFFである時間であるOFF時間Toffが第2設定時間Ts2より長い場合と、外気温度センサ84によって検出された外気温度Soutとモータ温度センサ86によって検出されたモータ温度Smoとの差の絶対値が設定温度Sthより小さい場合との少なくとも一方の場合に、温度が安定状態にあると推定され、異常検出が行われる。
第1設定時間Ts1、第2設定時間Ts2は、OFF時間ToffがON時間Tonに対して十分に長く、温度が安定していると推定し得る時間に設定される。第1設定時間Ts1は、通常のイニシャルチェックが行われる間の時間としたり、それより長い時間としたりすること等ができる。
Ton<Ts1 Toff>Ts2
【0034】
OFF時間Toff、ON時間Tonは、時間計測プログラムの実行により取得される。
S201において、メインスイッチ88がONであるか否かが判定される。判定がYESである場合には、S202において、OFF時間Toffが0とされ、S203において、ON時間Tonがカウントされる。ON時間Tonは、メインスイッチ88が連続してONである時間が長くなるのに伴って長くなる。
S201の判定がNOである場合には、S204においてON時間Tが0にされ、S205においてOFF時間Toffがカウントされる。OFF時間Toffは、連続してメインスイッチ88がOFFである時間が長くなると長くなる。
【0035】
また、温度のしきい値Sthは、転舵システム内の温度(モータ温度)Smoがほぼ外気温度Soutにあるとみなし得る値に設定される。
|Sout-Smo|<Sth
【0036】
このように、温度が安定状態にある場合には、モータ温度Smoや外気温度Soutに基づいてハウジング8と転舵軸10との温度が推定され、推定された温度と第1マップAとに基づいて、第1角度偏差θe1が取得され、第1角度偏差θe1が角度偏差θeとされる。
θe=θe1
【0037】
しかし、温度が安定状態になくても、異常検出を行う必要性が高い場合がある。例えば、長時間、異常検出が行われていなかった場合は異常検出を行う必要性が高い場合に該当し、異常検出が行われる場合がある。この場合には、電動モータ14は制御状態にあり、車両が走行状態にある場合もある。電動モータ14が発熱した状態にあるため、モータ温度センサ86によって検出されたモータ温度Smoに基づいてハウジング8、転舵軸10の温度が推定される。そして、推定された温度と第1マップAとに基づいて取得された第1角度偏差θe1と、推定された温度と第2マップBとに基づいて取得された第2角度偏差θe2との和が角度偏差θeとされる。電動モータ14は制御された状態にあるため、第2角度偏差θe2を考慮する必要性があるのである。ピニオン62の軸線方向の熱による伸縮は小さいため、転舵軸10の軸線方向の伸縮が考慮されるのである。
θe=θe1+θe2
【0038】
また、本実施例に係る異常検出は、転舵速度、すなわち、転舵軸10の移動速度が設定移動速度より小さい場合に行われる。
図4に示すように、ピニオン回転角センサ82の検出周期は、モータ回転角センサ80の検出周期に対して長い。そのため、検出周期の違いに起因して、ピニオン62の回転角θpと電動モータ14の回転角θmとの差が大きくなる場合がある。また、
図4A,
図4Bに示すように、転舵速度が大きい場合は小さい場合よりピニオン62の回転角θpと電動モータ14の回転角θmとの差が大きくなる。
そこで、本実施例においては、設定移動速度を、ピニオン回転角センサ82による検出値であるピニオン回転角θpと、モータ回転角センサ80による検出値であるモータ回転角θmとの差が大きくなり難い速度に設定される。また、転舵速度に対応するピニオン62の回転速度dθpが、設定移動速度に対応する設定速度dθpth以上の場合には、異常検出は行われず、設定速度dθpthより小さい場合に、転舵軸10の移動速度が設定速度より小さいとして、異常検出が行われるようにした。
【0039】
なお、イニシャルチェック中に異常検出が行われる場合には、転舵軸10の移動速度は設定移動速度より小さいのが普通であるが、本実施例においては、念のため、転舵軸10の移動速度が設定移動速度より小さいか否かの判定が行われる。
【0040】
また、車輪25,26の転舵角が設定転舵角より小さい状態で、異常検出が行われる。車輪25,26の転舵角が大きい場合は小さい場合に比較して外乱の影響が大きくなるからである。本実施例において、車輪25,26の転舵角に対応するピニオン回転角θpが設定転舵角に対応する設定角度θpth以上である場合には異常検出が行われず、ピニオン回転角θpが設定角度θpthより小さい場合に異常検出が行われるようにした。
【0041】
本実施例においては、
図5のフローチャートで表される異常検出プログラムが予め定められた設定時間毎に実行される。
S1において、メインスイッチ88がONであるか否かが判定される。メインスイッチ88がOFFである場合には、S2において、OFF時間Toffが読み込まれて、記憶される。OFF時間Toffは、随時更新される。
【0042】
メインスイッチ88がONである場合には、S3において、ON時Tonが読み込まれ、第1設定時間Ts1より短いか否かが判定される。S3の判定がYESである場合には、S4において、OFF時間Toffが読み込まれ、S5において、外気温度Sout,モータ温度Smoが読み込まれ、S6において、温度が安定状態にあるか否かが判定される。本実施例においては、ON時間Tonが第1設定時間Ts1より短く、かつ、OFF時間Toff間が第1設定時間Ts1に対して十分に長い第2設定時間Ts2より長い場合と、または、外気温度Soutとモータ温度Smoとの差の絶対値がしきい値Sthより小さい場合との少なくとも一方の場合に、温度が安定状態にあると判定される。
【0043】
S6の判定がYESである場合には、S7において、モータ回転角θm、ピニオン回転角θpが取得され、S8において、ピニオン62の回転角θpが設定角度θpthより小さいか否かが判定され、S9において、ピニオン62の回転速度dθpが設定速度dθpthより小さいか否かが判定される。S8,9の判定がいずれもYESである場合には、S10において、角度偏差θeが推定される。詳しくは、
図8のフローチャートに示すように、S21において、外気温度Soutやモータ温度Smoに基づいてハウジング8、転舵軸10の温度が推定され、S22において、第1マップAに従って第1角度偏差θe1が取得され、角度偏差θeが取得されるのである。
【0044】
次に、S11において、ピニオン回転角θpとモータ回転角θmとの差の絶対値から角度偏差θeを引いた値が、歯跳びの数として取得される。そして、S12において、歯跳びの数が第1異常しきい値Δθthより大きいか否かが判定される。S12の判定がYESである場合には、S13において、そのことが報知される。
【0045】
それに対して、S6の判定がNOである場合には、S14において、異常検出を行う必要性が高い否かが判定される。判定がYESである場合には、S15,16,17において、モータ回転角θm、ピニオン回転角θpが取得され、ピニオン62の回転角θpが設定角度θpthより小さいか否か、ピニオン62の回転速度dθpが設定速度dθpthより小さいか否かが判定される。この場合には、電動モータ14が作動している場合もあるため、ピニオン62の回転速度dθpが設定速度dθpthより大きい場合もあり、その場合には、異常検出は行われない。
【0046】
S16,17の判定がYESである場合には、S18において、角度偏差θeが取得される。
図9のフローチャートで表すように、S31において、モータ温度Smoに基づいてハウジング8の温度、転舵軸10の温度が推定される。電動モータ14は発熱しているため、ハウジング8や転舵軸10の温度は高くなる。S32において、推定された温度と、第1マップA,第2マップBとに基づいて第1角度偏差θe1、第2角度偏差θe2が取得され、これらの和が角度偏差θeとされる。そして、以下、S11~13が同様に実行される。
【0047】
このように、本実施例においては、温度の状態が考慮されるため、歯跳び数を精度よく取得することができる。また、歯跳び数を精度よく取得することができるため、ベルト46の交換の必要性が高い状態より早い、メンテナンスを行うことが望ましい状態に達したことを良好に検出することができ、車両の安全性の向上を図ることができる。
換言すると、ベルト46が、交換の必要性が高い状態に達した場合には、ピニオン回転角θpとモータ回転角θmとの差が十分に大きくなる。そのため、温度に起因する角度偏差θeを考慮しなくても、ピニオン回転角θpとモータ回転角θmとの差の絶対値Δθが上記実施例において用いた異常判定しきい値である第1異常判定しきい値より大きい第2異常判定しきい値より大きいか否かを精度よく判定することができ、ベルト46を交換する必要性が高い状態であることを良好に報知することができる。
【0048】
しかし、ベルト46を直ちに交換する必要性は高くないが、ベルト46が緩み、メンテナンスを行うことが望ましい状態にある場合には、ピニオン回転角θpとモータ回転角θmとの差が歯跳びに起因した差であるのか、温度に起因した差であるのか区別が困難である場合がある。
それに対して、本実施例においては、温度に起因する角度偏差θeが考慮されるため、歯跳び数を精度よく取得することが可能となり、ベルト46が、メンテナンスを行うことが望ましい状態であることを良好に検出することができるのである。また、転舵速度や転舵角を考慮することによっても、より一層、歯跳び数を精度よく検出することが可能となる。
【0049】
上記実施例において、ステアリングECU70等により制御装置が構成され、そのうちの
図5のフローチャートで表される異常検出プログラムを記憶する部分、実行する部分等により異常検出部が構成され、そのうちの、S1~S13を記憶する部分、実行する部分等により安定時異常検出部が構成され、S14~18,11~13を記憶する部分、実行する部分等により不安定時異常検出部が構成される。
【0050】
なお、上記実施例においては、温度が不安定な状態であっても異常検出が行われたが、そのようにすることは不可欠ではなく、温度が安定した状態に限って、異常検出が行われるようにすることもできる。その場合には、S14~18のステップが不要となる。
【0051】
また、ピニオン角センサ82の代わりに、転舵軸10の移動量を検出可能なリニアセンサを設けることもでき、リニアセンサに基づいて電動モータ14の回転角を推定することができる。その他、転舵システムの構造は問わない等、本発明は、上記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0052】
8:ハウジング 10:転舵軸 14:電動モータ 16:変換装置 20:転舵装置 28:雄ねじ部 30:回転伝達装置 32:ねじ機構 38:小径プーリ 44:大径プーリ 46:ベルト 48:雌ねじ部 62:ピニオン 70:ステアリングECU 80:モータ回転角センサ 82:ピニオン回転角センサ 84:外気温度センサ 86:モータ温度センサ 88:メインスイッチ 90:報知装置
【特許請求可能な発明】
【0053】
(1) 転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムであって、
前記転舵軸と、
電動モータと、
前記電動モータの回転を前記転舵軸の移動に変換する変換装置と、
前記電動モータの0点位置からの回転角を取得するモータ回転角取得装置と、
前記転舵軸の中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量または前記中立位置からの移動量である移動量関連量を取得する移動量関連量取得装置と、
前記電動モータを制御する制御装置と
を含み、
前記制御装置が、前記モータ回転角取得装置によって取得された前記電動モータの前記0点位置からの回転角と、前記移動量関連量取得装置によって取得された前記移動量関連量とに基づいて、前記変換装置の異常を、当該転舵システムの温度状態に基づいて異なる態様で検出する異常検出部を含む転舵システム。
【0054】
温度状態は、温度の高低、温度の変化の大小等で表すことができる。
【0055】
モータ回転角取得装置は、電動モータの0点位置からの回転角である絶対回転角を検出するものとしたり、電動モータが回転した角度(前回検出時から今回検出時までの間に回転した角度)である相対回転角を検出する相対角センサを含み、相対角センサの検出値に基づいて0点位置からの回転角を取得するものとしたりすること等ができる。移動量関連量取得装置についても同様である。
【0056】
移動量関連量は、中立位置からの移動量である場合、中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量である場合がある。
【0057】
(2)前記異常検出部が、前記温度状態が安定した状態である安定状態にある場合に前記変換装置の異常を検出する安定時異常検出部と、前記温度状態が不安定な状態である不安定状態にある場合に前記安定時異常検出部とは異なる態様で前記変換装置の異常を検出する不安定時異常検出部とを含む(1)項に記載の転舵システム。
【0058】
(3)転舵軸の移動により車輪を転舵させる転舵システムであって、
前記転舵軸と、
電動モータと、
前記電動モータの回転を前記転舵軸の移動に変換する変換装置と、
前記電動モータの0点位置からの回転角を取得するモータ回転角取得装置と、
前記転舵軸の中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量または前記中立位置からの移動量である移動量関連量を取得する移動量関連量取得装置と、
前記電動モータを制御する制御装置と
を含み、
前記制御装置が、前記モータ回転角取得装置によって取得された前記電動モータの0点位置からの回転角と、前記移動量関連量取得装置によって取得された前記移動量関連量とに基づいて、前記変換装置の異常を当該転舵システムの温度が安定した状態である安定状態において検出する安定時異常検出部を含む転舵システム。
【0059】
(4)当該転舵システムが、時間計測装置を備え、
前記安定時異常検出部が、当該転舵システムが搭載された車両のメインスイッチがOFFからONに切り替わってからの経過時間が第1設定時間より短く、かつ、前記メインスイッチがOFFである時間が前記第1設定時間より長い第2設定時間より長い場合に、前記温度が安定状態にあるとして、前記変換装置の異常を検出するものである(2)項または(3)項に記載の転舵システム。
【0060】
(5)当該転舵システムが、外気温度を検出する外気温度センサと、当該転舵システムの温度を検出するシステム温度センサとを含み、
前記安定時異常検出部が、前記外気温度センサによる検出値と前記システム温度センサによる検出値との差の絶対値が設定値より小さい場合に、当該転舵システムの前記温度が安定状態にあるとして、前記変換装置の異常を検出するものである(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の転舵システム。
【0061】
電動モータの温度を検出するモータ温度センサをシステム温度センサとすることができる。
【0062】
(6)前記異常検出部が、前記転舵軸の移動速度が設定速度より小さい場合に、前記異常を検出するものである(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の転舵システム。
【0063】
(7)前記異常検出部が、前記移動量関連量取得装置によって取得された前記移動量関連量が設定関連量より小さい状態で、前記変換装置の異常を検出するものである(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の転舵システム。
【0064】
(8)前記移動量関連量取得装置が、前記転舵軸の中立位置からの移動量に基づいて前記電動モータの0点位置からの回転角を推定する回転角推定装置を含み、
前記異常検出部が、前記回転角推定装置によって推定された前記電動モータの前記0点位置からの回転角と前記モータ回転角取得装置によって取得された前記電動モータの0点位置からの回転角との差の絶対値が予め定められた異常判定しきい値より大きい場合に、前記変換装置が異常であると検出するものである(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の転舵システム。
【0065】
システム内の温度が設定温度であり、かつ、変換装置が正常である場合には、推定された電動モータの0点位置からの回転角と、取得された電動モータの0点位置からの回転角とは同じになる。
【0066】
(9)前記異常検出部が、前記推定された前記電動モータの0点位置からの回転角と前記取得された前記電動モータの0点位置からの回転角との差の絶対値を、当該転舵システムの温度に基づいて補正し、補正後の値が前記異常判定しきい値より大きい場合に、前記変換装置が異常であるとするものである(8)項に記載の転舵システム。
【0067】
(10)前記異常判定しきい値が、前記変換装置が、メンテナンスを行うことが望ましいと考えられる状態であることを表す値とされ、
前記異常検出部が、前記差の絶対値が前記温度に基づいて補正された値が、前記異常判定しきい値である第1異常判定しきい値より大きい場合に、前記変換装置が、メンテナンスを行うことが望ましいと考えられる状態であると検出し、前記差の絶対値が、前記第1異常判定しきい値より大きい第2異常判定しきい値より大きい場合に、前記変換装置が、前記変換装置の複数の構成要素のうちの少なくとも1つを交換することが望ましいと考えられる状態であると検出するものである(9)項に記載の転舵システム。
【0068】
(11)前記転舵軸が、ハウジングに軸線方向に相対移動可能に保持され、
前記回転角推定装置が、前記ハウジングに保持され、前記転舵軸に設けられたねじ部に螺合するピニオンと、前記ピニオンの0点位置からの回転角を取得するピニオン回転角取得装置とを含む(8)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の転舵システム。
【0069】
ピニオン回転角取得装置についてもモータ回転角取得装置と同様であり、ピニオンの0点位置からの絶対回転角を検出するものであっても、ピニオンの相対回転角に基づいて絶対回転角を取得するものであってもよい。
【0070】
(12)転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムであって、
前記転舵軸と、
電動モータと、
前記電動モータの回転を前記転舵軸の移動に変換する変換装置と、
前記電動モータの0点位置からの回転角を取得すモータ回転角取得装置と、
前記転舵軸の中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量または前記中立位置からの移動量である移動量関連量を取得する移動量関連量取得装置と、
前記電動モータを制御する制御装置と
を含み、
前記制御装置が、前記モータ回転角取得装置によって取得された前記電動モータの回転角と、前記移動量関連量検出装置によって取得された前記移動量関連量とに基づいて前記変換装置の異常を前記転舵軸の移動速度が設定速度より小さい場合に検出する異常検出部を含む転舵システム。
本項に記載の転舵システムには、(1)項ないし(11)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。