(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 43/40 20060101AFI20240611BHJP
A01N 57/20 20060101ALI20240611BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20240611BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20240611BHJP
【FI】
A01N43/40 101K
A01N57/20 J
A01P17/00
C02F1/50 510E
C02F1/50 520K
C02F1/50 532C
C02F1/50 532H
C02F1/50 532J
C02F1/50 532K
C02F1/50 540B
(21)【出願番号】P 2020197661
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅代
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-069427(JP,A)
【文献】特開2009-215271(JP,A)
【文献】特開2012-077065(JP,A)
【文献】特開2004-196670(JP,A)
【文献】特開2004-143061(JP,A)
【文献】特開平06-345790(JP,A)
【文献】特開2006-045155(JP,A)
【文献】特開2003-267807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/40
A01N 57/20
A01P 17/00
C02F 1/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、N,N-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)、および、トリス(3-ヒドロキシプロピル)n-ヘキサデシルホスホニウムクロライドの3種の薬剤成分から選ばれる1種以上の薬剤成分を含有することを特徴とする冷却水用貝類防除剤。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却水用貝類防除剤を循環冷却水に添加することを特徴とする冷却水の貝類防除方法。
【請求項3】
前記添加を、前記循環冷却水が循環する循環冷却水系に貝類の棲息が確認されたときに行うことを特徴とする請求項2に記載の冷却水の貝類防除方法。
【請求項4】
前記循環冷却水系が前記薬剤成分のいずれも含まない水処理剤により前記循環冷却水を処理している循環冷却水系であることを特徴とする請求項3に記載の冷却水の貝類防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却塔設備は、ビルまたは工場などの建屋内の空調や冷却などを主な目的として、冷却水を冷却塔で冷却して冷凍機へ供給、循環するための設備である。このような冷却塔設備の重要な構成要素の一つである冷却塔は、その内部において、塔頂部にファンを備えており、ファンの下方に散水板や散水パイプなどの散水手段、この散水手段の下方に充填材、そして、底部には下部水槽が配置されている。
【0003】
このような冷却塔を備えた冷却塔設備では、循環冷却水(以下、「冷却水」とも云う)は冷却塔の下部水槽から冷却水循環ポンプなどにより冷凍機などの熱交換器に供給され、その後熱交換器から冷却塔へ戻され、冷却塔内の散水手段から充填材に散水されて流下する。この流下の過程で、冷却水の一部が蒸発することで潜熱が奪われ、水温が下がった冷却水は、再度下部水槽に戻る。
【0004】
このような冷却塔設備の冷却水には細菌の繁殖によるスライムや藻類が発生しやすい。発生したスライムや藻類は熱交換器への付着による熱伝導率の低下(延いてはエネルギーロス)、下部水槽のストレーナや散水板の閉塞による運転停止などの障害を引き起こす。このような障害発生を阻止するために、殺菌剤としての薬剤成分として主としてイソチアゾリン化合物を含む水処理剤を冷却水に添加している。ここでイソチアゾリン化合物は微生物の繁殖およびスライムや藻類の発生を抑制する薬剤成分である。
【0005】
しかし、このようにイソチアゾリン化合物を含む水処理剤によりスライムや藻類の発生が抑制している冷却塔設備であっても、その冷却塔、特にその下部水槽にサカマキガイやモノアラガイ、ヒメモノアラガイなどの貝類が繁殖することがある。そして、これら貝類は下部水槽のストレーナを閉塞させて冷却機能を低下させる、貝殻の破片により冷却水循環ポンプを故障させるなどの障害を引き起こす。
【0006】
冷却塔設備に供給される補給水は一般に水道水や工業用水などが用いられるので、このような貝類の冷却塔設備への侵入は考えにくく、そして、実際に侵入するケースも決して多くはない。しかし一旦侵入してしまうとその駆除は非常に困難である。すなわち、下部水槽に棲息している成貝だけを機械的に集めて除去しても、器壁や底、あるいは、循環冷却水系にいるすべての幼生や稚貝、卵の除去は困難であり、除去されなかったこれら幼生や稚貝、卵により繁殖が再開する。
【0007】
また、化学的処理剤として酸化剤などを用いると熱交換器などで用いられる銅および銅合金に対して腐食性が高く、また、一般的に使用されるイソチアゾリン化合物などでは貝類の除去・抑制は困難であった。
【0008】
ここで、冷却塔設備にこれら貝類が侵入する経路としては次のようなものが考えられる。
すなわち、冷却塔の周辺の農業用水などの各種用水や河川、湖、沼など周辺環境の水の飛沫の中のこれら貝類の卵や幼生が風により冷却塔内に入り込む。冷却塔は通常、その塔頂部にあるファンにより側面に設けられたルーバなど吸入口から冷却水の冷却に用いる空気を取入れる構造となっている。このため強風時などにこのような飛沫水経由で冷却塔設備に貝類が侵入する可能性があると考えられる。
【0009】
その他、まれに水道水から原虫類が検出されるように、補給水として用いている水道水や工業用水を通じてこれら貝類の卵や幼生が冷却塔設備に侵入する可能性も考えられる。
【0010】
このように実際の侵入経路は不明であるが、結果として冷却塔設備内に侵入して繁殖したこれらの貝類を除去する方法として機械的な処理方法では実質的に効果が得られない。すなわち、成貝を充填材間のものを含めてすべて除去し、あるいは、死滅させても、卵や視認が困難な幼生や稚貝が残っているかぎり、再度繁殖する。
【0011】
このため現状の冷却設備用の一般的な水処理剤や機械的処理では防除できない貝類を冷却塔設備から障害を引き起こさずに防除可能とする冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2010-209034号公報
【文献】特開2012-036108号公報
【文献】特開平06-345790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記したような現状の冷却設備用の一般的な水処理剤や機械的処理では防除できない貝類を冷却塔設備から障害を引き起こさずに防除可能とする冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の冷却水用貝類防除剤は、上記課題を解決するため、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、N,N-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)、および、トリス(3-ヒドロキシプロピル)n-ヘキサデシルホスホニウムクロライドの3種の薬剤成分から選ばれる1種以上の薬剤成分を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の冷却水の貝類防除方法は、上記の冷却水用貝類防除剤を循環冷却水に添加する構成とすることができる。
【0016】
本発明の冷却水の貝類防除方法は、上記の冷却水の貝類防除方法の構成に加え、前記添加を、前記循環冷却水が循環する循環冷却水系に貝類の棲息が確認されたときに行う構成とすることができる。
【0017】
本発明の冷却水の貝類防除方法は、直上の冷却水の貝類防除方法の構成において、前記循環冷却水系が前記薬剤成分のいずれも含まない水処理剤により前記循環冷却水を処理している循環冷却水系である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の冷却水用貝類防除剤によれば、1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、N,N-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)、および、トリス(3-ヒドロキシプロピル)n-ヘキサデシルホスホニウムクロライドの3種の薬剤成分から選ばれる1種以上の薬剤成分を含有する構成により、現状の冷却設備用の一般的な水処理剤や機械的処理では防除できない貝類を冷却塔設備から障害を引き起こさずに防除可能となる。
【0019】
本発明の冷却水の貝類防除方法は、上記の冷却水用貝類防除剤を循環冷却水に添加する構成により、冷却塔設備からの効果的な貝類の防除が可能となる。
【0020】
本発明の冷却水の貝類防除方法は、上記の冷却水の貝類防除方法の構成において、上記の添加を、循環冷却水が循環する循環冷却水系に貝類の棲息が確認されたときに行う構成により、冷却水用貝類防除剤の少ない使用量で貝類の防除を行うことができる。
【0021】
本発明の冷却水の貝類防除方法は、直上の冷却水の貝類防除方法の構成において、循環冷却水系が上記の薬剤成分のいずれも含まない水処理剤により循環冷却水を処理している循環冷却水系である構成により、スライムや藻類の発生防止、スケール付着防止などの水処理剤の効果を得ながら冷却水用貝類防除剤の少ない使用量で貝類の防除をも行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法について説明する。
【0023】
本発明において防除の対象とする貝類としては、冷却塔設備内に棲息する、または、冷却塔設備内で繁殖する貝類であればよく、特に制限はないが、たとえば淡水産の有肺類である貝類が挙げられる。
【0024】
本発明において防除抑制の対象とする貝類としてより具体的には、軟体動物門腹足綱基眼目のサカマキガイ科やモノアラガイ科に属する貝類が挙げられ、とりわけサカマキガイ、モノアラガイ、ヒメモノアラガイなどに対して本発明を有効に用いることができる。
【0025】
このような貝類、とりわけサカマキガイ、モノアラガイ、ヒメモノアラガイは、鰓がなく、外套膜を通して空気呼吸を行う(有肺類)が、溶存酸素がある間は生存し、また、小型軽量で、基本的には壁などに付着し生活しているが浮遊性もあり、さらに繁殖力が旺盛であるばかりか、雑食性であってスライムや藻などを食べて増殖し、しかも他の貝類に比べて水質汚濁にも強いという特徴があり、スライムや藻が発生しやすい冷却塔の下部水槽で繁殖しやすい。
【0026】
このような貝類は、上記したように、下部水槽内で繁殖し、下部水槽のストレーナを閉塞させて冷却機能を低下させる、貝殻の破片により冷却水循環ポンプを故障させるなどの障害を生じさせるが、本発明によれば、冷却塔内に棲息している上記貝類の駆除、および、繁殖の予防を可能とする。
【0027】
本発明における「防除」とは「繁殖の予防」および「駆除」を意味する。本発明において「駆除」とは薬剤成分の添加対象の冷却塔設備内に棲息している貝類(成貝)の95%以上(たとえば20匹中19匹あるいは20匹)を死滅させることである。また、繁殖の予防とは一定期間、たとえば1年を通じて貝類の繁殖を抑制することを意味し、たとえば冷却塔の下部水槽を定期的に、あるいは、不定期に観察し、その棲息が確認された場合、繁殖する前に駆除を行って一定期間、たとえば、1年間以上に亘り、繁殖していない状態を保つことを云う。ここで一定期間の最短期間として1年間と定めることは、一年が十分に長い期間であること、貝類が冷却塔設備に侵入できた条件(気温、湿度、風向き、強風などの季節条件)が次の1年間に再現する可能性が高いので、そのとき冷却塔設備への再度侵入する可能性が高く、繁殖の予防効果を確認するには適した期間と考えられることによる。
【0028】
本発明の冷却水用貝類防除剤は1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド(以下、「薬剤成分1」とも云う)、N,N-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)(以下、「薬剤成分2」とも云う)、および、トリス(3-ヒドロキシプロピル)n-ヘキサデシルホスホニウムクロライド(以下、「薬剤成分3」とも云う)の3種の薬剤成分から選ばれる1種以上の薬剤成分を含有する。なお、これら3種の薬剤成分1~3のうち、薬剤成分1が特に高い防除性能を得られるので好ましい。
【0029】
これら3種の薬剤成分1~3のうち、薬剤成分1は、たとえば、特許文献1で開放循環冷却水系などの微生物防除方法に用いる、安全性の高く取り扱いが容易な微生物防除剤の成分として記載されている。
【0030】
また、薬剤成分2は、たとえば、特許文献2で、水系で用いられる機器などの軟鋼や銅などの金属に対する腐食性を効果的に防ぎながら、レジオネラ属菌の殺菌と、耐性菌、耐性藻類の繁殖抑制を可能とする開放循環冷却水系の処理方法で用いることができる有機系殺菌剤の一つとして例示されている。
【0031】
さらに薬剤成分3は、たとえば特許文献3で、冷却塔のように激しく撹拌される場合でも、泡立ちが少なく、かつ臭いの少ない殺菌殺藻剤として用いることが示されている。このように上記薬剤成分1~3は殺藻剤や殺菌剤として冷却塔設備に用いることができる薬剤成分である。しかしながら特許文献1~3にはこれら薬剤成分1~3が冷却塔設備に侵入し増殖する貝類に対する防除効果についての記載や示唆はない。
【0032】
本発明の冷却水用貝類防除剤は循環冷却水が循環している循環冷却水系に貝類の棲息が確認された場合に循環冷却水に添加する。すなわち、上記薬剤成分のいずれも含まない水処理剤では貝類の防除効果が得られないために、このような循環冷却水系に侵入した貝類が増殖し、上記のような様々な障害を引き起こすので、貝類が確認された場合に本発明の冷却水用貝類防除剤を循環冷却水に添加する。
【0033】
駆除処理を行う時間としては事前に検討して適宜決定するが、10分以上2時間以下、好ましくは15分以上1時間以下である。駆除処理時間が短すぎると十分な駆除効果が得られない恐れがあり、2時間を越えて処理を行っても、駆除効果は飽和してしまうので処時間を長くすることに見合う効果の向上は得られにくい。
【0034】
本発明の冷却水用貝類防除剤を貝類の駆除を目的に冷却水に添加する場合には、一般に耐薬剤性が幼生や稚貝に比べて高い成貝の駆除が必要となるため上記薬剤成分(複数の薬剤成分を併用する場合にはその和)の濃度が10mg/L(リットル)以上、好ましくは15mg/L以上、より好ましくは20mg/L以上、ただし、薬剤成分1(1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド)単独添加の場合には低濃度での添加で十分な駆除効果が得られるので5mg/L以上、好ましくは7mg/L以上、より好ましくは10mg/L以上となるように添加する。添加濃度が低いと十分な駆除ができず、処理終了後に再度繁殖する恐れがある。ここで、必要以上の濃度となるように添加しても添加量増加に引き合う効果上昇は得られにくく、かつ、処理コストの上昇を来たすので、上限値(貝類の駆除のみならず繁殖防止の場合も同様)としては通常、100mg/L以下、好ましくは70mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下とする。なお、本発明において、これら複数の下限値のうちの任意の下限値を選択し、上記の複数の上限値のうちの任意の上限値と組み合わせて濃度範囲とすることができる(以下、同じ)。
【0035】
本発明の貝類の防除剤を用いて冷却塔設備からの貝類の防除を行う際には、冷却水用貝類防除剤の添加作業中および防除処理中は冷却水循環ポンプを稼働させ、冷却水用貝類防除剤の薬剤成分を含有する冷却水をその循環経路、すなわち、循環冷却水水系全体に接触させて、冷却水の循環経路、特に充填材間に棲息する貝類の防除をも同時に行うことが高い防除性能が得られるので好ましい。なお、このような冷却水循環ポンプの稼働を伴う防除処理の間、冷却塔設備の運転、すなわち、冷却塔設備の熱交換器による冷媒の冷却を行うことも可能である。
【0036】
防除処理中に冷却塔設備の運転を行う場合には可能であればブローを一時的に停止して、冷却水中の薬剤濃度を一定に維持することが、少ない添加量で十分な防除効果が得られるので好ましい。なお、駆除処理終了後、上記の薬剤成分が添加された冷却水の強制排水による換水、とくに全換水は必ずしも必要はなく、ブローを再開しての冷却塔設備の運転により、冷却水中の薬剤成分は徐々に外部に排出される。なお、ブローを停止しながら防除処理時間を長くし過ぎた場合、上述のように処理時間の延長による駆除効果の向上は飽和して時間延長に見合う効果の向上は得られにくく、かつ、熱交換器などの機器にスケールが付着しやすくなり、冷却効率の低下が懸念される。このため、ブロー停止を伴う防除処理時間は、気温や空気の相対湿度による冷却水の蒸発量の影響にもよるが通常2時間以下とすることが好ましい。
【0037】
貝類の繁殖防止のために本発明の冷却水用貝類防除剤を冷却水に添加する場合には、駆除処理の処理条件よりも低い、一般に成貝よりも耐薬剤性の低い幼生や稚貝を死滅させる条件で行ってもよい。具体的には上記駆除条件に比べて、処理時間を短くしてもよく、薬剤成分の添加濃度を低くしてもよい。添加濃度を低くする場合には、駆除の場合の1/10~2/3(境界値含む)の添加濃度とすることができ、たとえば1mg/L以上、好ましくは3mg/L以上、より好ましくは5mg/L以上である。添加濃度が低すぎると十分な繁殖防止効果は得られない。また上限値としては、駆除における上限値と同じである。
【0038】
なお、効率的な繁殖防止のために、すでに貝類が繁殖している冷却塔設備の場合には、そのままの状態で、駆除処理よりも緩い処理条件で繁殖防止処理を行った場合、死滅せずに生存した成貝が残り、その成貝によって発生する幼生や稚貝の量が多いので、そのすべてを死滅させることが困難であり、かつ、効果が得られるまでの時間が長く、あるいは、必要な処理の繰り返し回数が多くなってしまう。このため、繁殖防止処理に先立ち駆除処理を行うことが好ましい。
【0039】
本発明の冷却水用貝類防除剤は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、冷却水設備で用いられるその他の水処理剤、たとえば、上記薬剤成分1~3以外の各種殺菌剤、スケール付着防止剤、銅や鉄の防食剤、分散剤、消泡剤などの他成分と混合して1液剤、あるいは2液以上からなる冷却水用貝類防除剤とし、あるいはこれら他成分を含む水処理剤と併用することができる。
【0040】
本発明の冷却水の貝類防除方法では薬剤成分1~3のいずれか1種以上と上記のようなその他の水処理剤とを組み合わせた冷却水用貝類防除剤を用いてもよく、あるいは薬剤成分1~3の1種以上を含む冷却水用貝類防除剤の冷却水への添加処理とその他の水処理剤の添加処理とを組み合わせてもよく、その添加順序も本発明の効果を損なわない限りにおいて適宜選択できる。
【0041】
本発明の冷却水の貝類防除方法で、好ましくは、貝類が確認された場合に本発明の貝類防除剤である1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、N,N-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)、および、トリス(3-ヒドロキシプロピル)n-ヘキサデシルホスホニウムクロライドの3種の薬剤成分から選ばれる1種以上の薬剤成分を含有する貝類防除剤を添加する処理を行い、より好ましくは薬剤成分1~3のいずれも含まない水処理剤で循環冷却水系を処理し、貝類が確認された場合にのみ本発明の貝類防除剤を添加する。貝類以外の微生物を防除する最適な殺菌成分などを含む水処理剤を選択し、貝類が発生した場合には本発明の貝類防除剤を用いることで最適なスライムや藻類の発生防止、スケール付着防止などの水処理剤の効果と貝類防除が可能となる。なお、貝類の棲息が確認されるとは稚貝の棲息が確認される場合も含まれ、確認はたとえば目視やカメラによる画像・映像の解析などによって行うことができる。
【0042】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0043】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法を適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の冷却水用貝類防除剤、および、冷却水の貝類防除方法の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである
【実施例】
【0044】
以下、本発明について実施例を示して説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1:ビーカースケールでのサカマキガイの基礎駆除実験>
静岡県内にある、冷却塔設備の冷却塔の下部水槽で繁殖しているサカマキガイを5月中旬に採取した。なお、サカマキガイの採取と同時に冷却水も採取した。なお、この冷却塔設備ではイソチアゾリン化合物である5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとの混合物(これら薬剤成分の重量比は10:3)を含む殺菌剤で水処理を行っていたが、サカマキガイの侵入および繁殖を防ぐことができなかった。
【0046】
実験はサカマキガイの採取当日に行った。まず、内容量が1000mLのガラス製サンプル瓶に、上記で採取した冷却水500mLとサカマキガイの成貝20匹ずつを入れ、10分後にそれらサカマキガイがすべて動いている(生きている)ことを確認した。その後、それぞれのサンプル瓶(透明ガラス製)に表1に種類および添加濃度を示した薬剤成分を添加し、ガラス棒を使って30秒間、軽く攪拌し、その後、サンプル瓶に蓋をした。なおこのときブランクとして薬剤成分を添加していない冷却水についてもコントロールとして調べた。なお、実験12~17は薬剤成分1~3のうちの2種の薬剤成分を組み合わせて用いた系であって、実験18~20は薬剤成分1~3のすべてを組み合わせた系であり、それぞれの薬剤成分の添加濃度は添加濃度の欄に示した。
【0047】
【表1】
ただし、表1中の薬剤成分は以下の通りである。
薬剤成分1:1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド
薬剤成分2:N,N-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)
薬剤成分3:トリス(3-ヒドロキシプロピル)n-ヘキサデシルホスホニウムクロライド
薬剤成分4:5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとの混合物(これら薬剤成分の重量比は10:3)
【0048】
これら薬剤成分を含む薬剤の添加30分後に各サンプル瓶内のサカマキガイを目視観察して、動いていなければ死んでいると判断し、死滅数(匹)を調べ、死滅率(死滅数(匹)÷20(実験開始前生存数(匹))×100%)を算出した。各死滅率(30分後死滅率)を表1に併せて示す。
【0049】
表1より、本発明の冷却水用貝類防除剤は、薬剤成分1~3単独添加系、2種混合添加系、および、3種混合添加系すべてで10mg/L程度の低濃度での添加でもサカマキガイを30分間ですべて死滅させており、高い駆除効果が得られること、特に薬剤成分1では単独で、より低い濃度(5mg/L)での添加でも高い駆除効果が得られることが判る。
【0050】
一方、従来の冷却塔用水処理剤のイソチアゾリン化合物である薬剤成分4では、十分な駆除性能を得ることができないことが判る。この結果から、このようなイソチアゾリン化合物の添加ではサカマキガイの冷却塔設備への侵入と繁殖とを阻めないことが裏付けられた。
【0051】
<実機でのサカマキガイの駆除実験:実施例2>
上記実施例1でサカマキガイを採取した冷却塔設備(冷凍能力:500冷凍トン、保有水量:9m3、1日に24時間運転)を用いて、5月下旬にサカマキガイの駆除実験を、上記の冷却塔設備の運転中にそのブローを一時的に停止して行った。なおイソチアゾリン化合物の影響を排除するために薬剤成分1添加の24時間前からイソチアゾリン化合物の冷却水への添加は中止している。
【0052】
ブローを停止した状態で運転を継続しながら薬剤成分1を7mg/Lの濃度となるように冷却水に添加した。添加の30分後に下部水槽のサカマキガイ成貝を採取し、その50匹について調べたところ、そのすべての死滅が確認された。このことから薬剤成分1(1,4-ビス(3,3’-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド)によりサカマキガイの駆除効果を得ることができることが確認された。なお、この試験終了後にはブローを再開した。
【0053】
<実機でのサカマキガイの繁殖予防実験:実施例3>
実施例2の駆除処理後、上記冷却塔設備の下部水槽を継続して観察していたところ10月初旬に少数のサカマキガイ成貝の棲息が観察された。このため繁殖予防処理を行った。
【0054】
すなわち、実施例2と同様に、ただし、薬剤成分1の代わりに薬剤成分2を濃度が7mg/Lとなるように冷却水に添加し、30分後に採取した下部水槽から採取したサカマキガイ10匹のすべての死滅が確認されたのちブローを再開して通常運転とした。その後1週間ごとに同様の処理を計3回繰り返した。その後は翌年の6月初旬までサカマキガイを含めた貝類の棲息は観察されなかった。このことにより、薬剤成分2(N,N-ヘキサメチレンビス(4-カルバモイル-1-デシルピリジニウムブロマイド)により、サカマキガイの繁殖予防効果が得られることが確認された。
【0055】
<他の冷却塔設備でのサカマキガイの駆除実験:実施例4>
上記実施例1および2でサカマキガイを採取した冷却塔設備とは別の、上記3種の薬剤成分いずれも含まずイソチアゾリン化合物を含む水処理剤で処理をしているにも関わらずサカマキガイが繁殖している、茨城県内の冷却塔設備(冷凍能力:80冷凍トン、保有水量:3m3、1日に24時間運転)を用いて、5月下旬に駆除実験を行った。なお、冷却塔設備の運転中にそのブローを一時的に停止させ、イソチアゾリン化合物の影響を排除するために薬剤成分3の添加の24時間前からイソチアゾリン化合物の冷却水への添加は中止している。
【0056】
ブローを停止した状態で運転を継続しながら薬剤成分3を14mg/Lの濃度となるように冷却水に添加した。添加の30分後に下部水槽のサカマキガイ成貝を採取し、その50匹について調べたところ、そのすべての死滅が確認された。このことから薬剤成分3(トリス(3-ヒドロキシプロピル)n-ヘキサデシルホスホニウムクロライド)によりサカマキガイの駆除効果が得られることが確認された。