(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】免震装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 7/12 20060101AFI20240611BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240611BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240611BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F16F7/12
E04H9/02 331A
E04H9/02 331Z
F16F15/04 P
F16F15/04 A
F16F1/40
(21)【出願番号】P 2021002046
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】長井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】安永 亮
(72)【発明者】
【氏名】小板橋 裕一
(72)【発明者】
【氏名】大山 翔也
(72)【発明者】
【氏名】平井 健一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-009852(JP,A)
【文献】特開2003-206987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/12
E04H 9/02
F16F 15/04
F16F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
明確な降伏点を有さない非鉄金属によって振動エネルギー吸収部が形成されている免震装置の製造方法であって、
前記非鉄金属に加工硬化処理を施す、加工硬化処理工程を含んでな
り、
前記加工硬化処理工程が、前記振動エネルギー吸収部を前記免震装置の接続部に取付けた後に、該振動エネルギー吸収部に、所定の相対変位と繰返し回数の振動を付与することによって、前記非鉄金属の加工硬化を促進させる工程であって、
前記加工硬化処理工程において、初期加工硬化指数が0.5以上である前記非鉄金属に加工硬化処理を施すことによって、該非鉄金属の加工硬化処理後における処理後加工硬化指数を、0.05を超えて0.5未満の範囲に縮小させる、
免震装置の製造方法。
【請求項2】
明確な降伏点を有さない非鉄金属によって振動エネルギー吸収部が形成されている免震装置の製造方法であって、
前記非鉄金属に加工硬化処理を施す、加工硬化処理工程を含んでな
り、
前記加工硬化処理工程が、前記非鉄金属を、圧延加工又は引抜き加工する工程であって、
前記加工硬化処理工程において、初期加工硬化指数が0.5以上である前記非鉄金属に加工硬化処理を施すことによって、該非鉄金属の加工硬化処理後における処理後加工硬化指数を、0.05を超えて0.5未満の範囲に縮小させる、
免震装置の製造方法。
【請求項3】
前記加工硬化処理工程において、銅、銅合金、アルミニウム、又は、アルミニウム合金のうちの何れかである前記非鉄金属に加工硬化処理を施す、
請求項1又は2に記載の免震装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1から
3の何れかに記載の免震装置の製造方法であって、
前記振動エネルギー吸収部が、柱状の金属プラグであり、
接続部として、前記金属プラグの上下の端面にそれぞれ対向して積層されている一組の金属板からなるフランジを有し、
更に、複数の弾性材料層と剛性材料層とが交互に積層されてなる弾性体を有し、
前記金属プラグは、前記弾性体の内部に鉛直方向に形成された筒状の中空部内に配置されている、
金属プラグ入り積層ゴム型免震支承の製造方法。
【請求項5】
請求項1から
3の何れかに記載の免震装置の製造方法であって、
前記振動エネルギー吸収部が、湾曲部分を有するダンパー部材であって、
接続部として、建造物の上部構造体に接続される上部側のフランジと建造物の下部構造体に接続される下部側のフランジからなる一組のフランジを有し、
前記ダンパー部材が、前記上部側のフランジと前記下部側のフランジとの間に配置されてこれらを連結してなる、
免震ダンパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置の製造方法に関する。更に詳しくは、振動エネルギーを吸収する塑性部材が、「明確な降伏点を持たない非鉄金属」で形成されている免震装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や橋梁等の建造物を地震等の振動による損傷から守るための構造体として、各種の免震装置が提案されている。この免震装置は、建造物の上部構造体と地盤側の基礎構造等の下部構造体との間に介入され、構造物の揺れを軽減する構造体であって、大きな水平変形能力を有するアイソレータ(支承材)と、振動エネルギーを吸収可能なダンパー(減衰材)とに大別される。
【0003】
一方、建造物自体に振動エネルギーを吸収可能な振動減衰材を設置する構造体については「制震装置」と称される場合がある。例えば、高層鉄筋コンクリート造りの重量の大きな高層建造物においては、各階にダンパー等の振動減衰材を設置することが一般的であり、鉄骨造の比較的軽い建造物においては最上階のみにダンパーを設置する例が多くみられる。
【0004】
本明細書においては、上記の「制振装置」も含めて、振動エネルギーを吸収可能な振動減衰材を備えることにより、建造物の揺れを軽減する構造体を、何れも「免震装置」と称するものとする。
【0005】
免震装置の具体例として、例えば、振動エネルギーを吸収する塑性部材として鉛を用い、これを、屈曲部を含んでなる形状に形成したダンパー部材を備える、免震ダンパー(特許文献1参照)や、或いは、積層ゴム体の内部の中空部分に柱状の鉛プラグが配置されている鉛プラグ入り積層ゴム型免震支承(特許文献2参照)を挙げることができる。
【0006】
上記の各種の免震装置において、塑性変形することによって振動エネルギーを吸収する上記のダンパー部材や金属プラグ等(これらを総称して「振動エネルギー吸収部」と言うものとする)を形成する金属材料として、従来は、柔らかい金属である鉛や錫が広く用いられてきた。ただし、これらの金属は、耐力が低く、一定の降伏荷重を発生させるために必要な塑性部材の断面積が大きいため、結果として免震装置の全体の大型化が余儀なくされ、装置の小型化が難しいという問題があった。
【0007】
「振動エネルギー吸収部」を形成する金属材料として、鉛や錫等よりも耐力の高い鋼を用いることも考えられるが、鋼は、鉛或いは錫等のより柔らかい金属によって構成される減衰材と比較して降伏変位が大きく、微小な揺れに対して十分な性能を発揮し得ない場合が多いという問題があった。
【0008】
そこで、これらの様々な問題を解決するための塑性部材の他の選択として、展延性に富む銅やアルミニウム等の非鉄金属を用いることが考えられる。
【0009】
しかしながら、上記の非鉄金属の多くは明確な降伏点を持たないため、載荷に伴い材料の耐力が増加し、これにより降伏荷重が増加するという現象がみられる。このため、各種の建造物への設置後において、必要とされる免震装置の性能を高精度で安定的に発揮させることが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-227898号公報
【文献】特開平9-105440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、振動エネルギーを吸収する塑性部材が明確な降伏点を持たない非鉄金属で形成されている免震装置において、必要とされる免震装置の性能を高精度で安定的に発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これに対して、本発明者らは、免震装置の振動エネルギー吸収部を構成する非鉄金属に適切な加工硬化処理を施すことによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 明確な降伏点を有さない非鉄金属によって振動エネルギー吸収部が形成されている免震装置の製造方法であって、前記非鉄金属に加工硬化処理を施す、加工硬化処理工程を含んでなる、免震装置の製造方法。
【0014】
(1)の発明によれば、免震装置において、振動エネルギーを吸収する塑性部材が明確な降伏点を持たない非鉄金属で形成されている場合であっても、必要とされる免震装置の性能を、高精度で安定的に発揮させることができる。
【0015】
(2) 前記加工硬化処理工程において、初期加工硬化指数が0.5以上である前記非鉄金属に加工硬化処理を施すことによって、該非鉄金属の加工硬化処理後における処理後加工硬化指数を、0.05を超えて0.5未満の範囲に縮小させる、(1)に記載の免震装置の製造方法。
【0016】
(2)の発明によれば、振動エネルギーを吸収する塑性部材が明確な降伏点を持たない非鉄金属で形成されている場合であっても、必要とされる免震装置の性能を、より確実に、より正確に発揮させることができる。又、免震装置の性能の安定性と、繰返し耐久性を両立させることができる。
【0017】
(3) 前記加工硬化処理工程において、銅、銅合金、アルミニウム、又は、アルミニウム合金のうちの何れかである前記非鉄金属に前記加工硬化処理を施す、(1)又は(2)に記載の免震装置の製造方法。
【0018】
(3)の発明によれば、振動エネルギーを吸収する塑性部材が明確な降伏点を持たない非鉄金属であり、且つ、それらの中でも、展延性に富み、放熱性能又は軽量化の点においても有利な、銅やアルミニウム等で形成されている場合であっても、必要とされる免震装置の性能を、高精度で発揮させることができる。
【0019】
(4) 前記加工硬化処理工程が、前記振動エネルギー吸収部を前記免震装置の接続部に取付けた後に、該振動エネルギー吸収部に、所定の相対変位と繰返し回数の振動を付与することによって、前記非鉄金属の加工硬化を促進させる工程である、(1)から(3)の何れか記載の免震装置の製造方法。
【0020】
(4)の発明によれば、免震装置の組み立て作業が完成した後に、処理後加工硬化指数を最適化する工程とすることで、材料の時点で加工硬化の最適化がなされていないダンパー材料を、適切な加工硬化指数の範囲に調整することができる。
【0021】
(5) 前記加工硬化処理工程は、前記非鉄金属を、圧延加工又は引抜き加工する工程である、(1)から(3)の何れかに記載の免震装置の製造方法。
【0022】
(5)の発明によれば、免震装置の組み立て前の材料段階で、予め、処理後加工硬化指数を最適化する工程とすることで、組立後の最適化工程を不要とすることができる。
【0023】
(6) (1)から(5)の何れかに記載の免震装置の製造方法であって、前記振動エネルギー吸収部が、柱状の金属プラグであり、接続部として、前記金属プラグの上下の端面にそれぞれ対向して積層されている一組の金属板からなるフランジを有し、更に、複数の弾性材料層と剛性材料層とが交互に積層されてなる弾性体を有し、前記金属プラグは、前記弾性体の内部に鉛直方向に形成された筒状の中空部内に配置されている、金属プラグ入り積層ゴム型免震支承の製造方法。
【0024】
(6)の発明によれば、金属プラグ入り積層ゴム型免震支承において、(1)から(5)の何れかの発明の奏する上述の効果を享受することができる。
【0025】
(7) (1)から(5)の何れかに記載の免震装置の製造方法であって、前記振動エネルギー吸収部が、湾曲部分を有するダンパー部材であって、接続部として、建造物の上部構造体に接続される上部側のフランジと建造物の下部構造体に接続される下部側のフランジからなる一組のフランジを有し、前記ダンパー部材が、前記上部側のフランジと前記下部側のフランジとの間に配置されてこれらを連結してなる、免震ダンパーの製造方法。
【0026】
(7)の発明によれば、免震ダンパーにおいて、(1)から(5)の何れかの発明の奏する上述の特段の効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、振動エネルギーを吸収する塑性部材が明確な降伏点を持たない非鉄金属で形成されている免震装置において、必要とされる免震装置の性能を高精度で安定的に発揮させることを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】明確な降伏点を有さない非鉄金属によって振動エネルギー吸収部が形成されている免震装置における、非鉄金属の加工硬化の有無による、漸増載荷試験結果の差異を示すグラフ図(加工硬化処理無の例)である。
【
図2】明確な降伏点を有さない非鉄金属によって振動エネルギー吸収部が形成されている免震装置における、非鉄金属の加工硬化の有無による、漸増載荷試験結果の差異を示すグラフ図(加工硬化処理有の例)である。
【
図3】本発明の免震装置の一例である金属プラグ入り積層ゴム型免震支承の斜視図である。
【
図4】
図3の金属プラグ入り積層ゴム型免震支承の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の免震装置の他の一例である免震ダンパーの斜視図である。
【
図6】
図5の免震ダンパーの内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図7】本発明の免震装置の他の一例であって上記ダンパーとは形態が異なる免震ダンパーの立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。
【0030】
<免震装置及び免震装置の製造方法>
本発明の免震装置の製造方法(以下、単に、「免震装置の製造方法」とも言う)は、塑性変形時に振動エネルギーの吸収作用を発揮する振動エネルギー吸収部を有する免震装置であって、当該振動エネルギー吸収部が、明確な「降伏点を有さない非鉄金属」によって形成されている免震装置を製造する場合において、従来の製造方法に対する優位性を発揮する製造方法である。
【0031】
[免震装置]
「免震装置の製造方法」によって製造することができる免震装置の具体例として、
図3及び
図4に示す積層ゴム型免震支承、
図5及び
図6に示す免震ダンパー2、或いは、
図7に示す免震ダンパー3を挙げることができる。これらの各免震装置においては、
図3及び
図4に示す金属プラグ入り積層ゴム型免震支承1における柱状の金属プラグ11、
図5及び
図6に示す免震ダンパー2におけるダンパー部材21、及び、
図7に示す免震ダンパー3におけるU字型のダンパー部材31が、それぞれ、本発明の製造方法における「振動エネルギー吸収部」に該当する。但し、「免震装置の製造方法」の技術的範囲はこれらの各形態の免震装置の製造に限定されない。本発明の「免震装置の製造方法」は、「降伏点を有さない非鉄金属」を用いて形成した振動エネルギー吸収部を備える各種の免震装置の製造に広く適用な可能なプロセスである。
【0032】
尚、上記の「降伏点」とは、ある金属の「応力-ひずみ線」において、ひずみがある大きさを超えるときに、応力が、ひずみの増大に追随しなくなり、不連続な変化によって下降するようになる点のことを言い、この降伏点が明確な金属においては、通常、当該降伏点が弾性変形と塑性変形の境界点とされている。そして、本発明において用いられる金属材料として想定される「降伏点を有さない非鉄金属」とは、上記の「応力-ひずみ線」において、そのような降伏点が明確には存在しない非鉄金属のことを言い、換言すると、降伏点によって、弾性変形と塑性変形の境界点を規定することができない非鉄金属のことを言うものである。銅やアルミニウム等の面心立方金属の多くは「応力-ひずみ線」において、降伏点が存在しない金属、即ち、本明細書でいう「降伏点を有さない非鉄金属」である。
【0033】
そして、本発明において「振動エネルギー吸収部」を形成する金属材料として用いられる金属は、「降伏点を有さない非鉄金属」である。具体的には、銅、各種の銅合金、アルミニウム、各種のアルミニウム合金等を、本発明の製造方法において振動エネルギー吸収部を形成する金属材料として用いることができる。
【0034】
<免震装置の製造方法>
本発明の「免震装置の製造方法」は、従来、免震装置の製造においては、行われていなかった、非鉄金属に対する「加工硬化処理工程」を、必須の工程とするプロセスである。本発明の「免震装置の製造方法」は、上記工程を必須の工程とすることにより、「明確な降伏点を有さない非鉄金属」によって振動エネルギー吸収部が形成されている免震装置においては困難とされていた、免震装置の安定した性能の発現を実現したプロセスである。
【0035】
[加工硬化処理工程]
先ず、「加工硬化処理工程」によって調整可能な加工硬化指数(n値)とは、ある金属に係る応力-ひずみ関係式の、両対数グラフにおける勾配値のことを言う。つまり、このn値の大きさは、ある金属における、ひずみの増加に対する応力の増加率を示す数値でもある。一般に、金属材料を塑性変形させると、加工硬化とよばれる現象により、このn値が減少していく。
【0036】
本明細書においては、「免震装置の製造方法」において、振動エネルギー吸収部を形成する金属材料として、「加工硬化処理工程」に投入する前の段階における当該金属材量の加工硬化指数(n値)を「初期加工硬化指数」と称する。この値は、「JISZ2253:2011 薄板金属材料の加工硬化指数試験方法」による加工硬化指数(n値)と同義である。
【0037】
又、本明細書においては、「免震装置の製造方法」において「加工硬化処理工程」を経た後における振動エネルギー吸収部を形成する金属材料の、上記同様の定義による加工硬化指数(n値)を「処理後加工硬化指数」と称する。
【0038】
(漸増載荷試験)
ここで、
図1及び
図2のグラフは、振動吸収部として、何れも「降伏点を有さない非鉄金属」である銅からなり、
図7に示すような湾曲部分を有するダンパー部材を備える免震装置であって、同一形状、同一材質で構成され、加工硬化指数(n値)のみが異なる2機の「免震装置試験体」について、下記に示す同一の条件で「漸増載荷試験」を行った結果を示すグラフである。ここでいう「漸増載荷試験」とは、免震装置の上部構造と下部構造を、水平方向にある一定振幅だけ正側と負側に交番に相対変位させる交番載荷を、その振幅を段階的に増加させながら繰返し行う加振試験のことを言う。
【0039】
この「漸増載荷試験」における、上記の相対変位は、上部構造又は下部構造の一方の水平変位を制御することによって生じさせられ、上部構造又は下部構造の他方に作用する水平荷重が記録される。その試験速度はダンパーが適用される建物の動的特性(固有周期)や製品の力学的特性等を考慮し個別に設定されるが、通常は一定速度或いは一定周期となるよう制御される。
図1、
図2に示した試験の具体例においては、その設計上の水平変位量の最大値が150mmとなるよう設計された「免震装置試験体」について、その交番載荷における振幅を±12.5mm、±25mm、±50mm、±75mm、±100mm、±125mm、±150mmの7水準で段階的に増加させながら、一定速度2.5mm/secにて加振を行ったものである。そして、
図1、
図2は、それらの水平変位を横軸に取り、水平荷重を縦軸にプロットした結果をグラフとして示している。又、上部構造体と下部構造体は鉛直方向を除く2次元的な相対変位を受けるものであるため、
図7に示すような上記2次元的な水平変位に対して非対称性を持つ形状の免震装置については、特定の方向を指定した上で試験が実施される。
図1、
図2に示す試験においては何れも紙面に対して左右方向に上部構造と下部構造を相対変位させた結果である。
【0040】
図1は、完全焼きなまし状態の銅(同一種類の金属からなる材料の中でもn値が最大の値を取っている状態)を用いて振動吸収部を形成した免震装置を試験体とした場合の結果を示している。この試験体における振動吸収部の試験開始時のn値は、約0.5であった。同図においては、小振幅時(設置後初期段階に相当)には、降伏荷重が低く、その後徐々に増加し、最後にはある一定の範囲に収束していることが分かる。これは、免震装置が地震による揺れを繰返し受けると、ダンパーの付与する減衰量が増加していく事を意味し、免震装置の性能の安定性を保持する観点からは好ましくない事である。
【0041】
一方、
図2は、予め加工硬化処理を行い、振動吸収部の試験開始時のn値を約0.05とした試験体を用い、その他については、
図1に示す試験と同一条件で試験を行った場合の結果を示している。同図においては、累積変形量の増加に伴う降伏荷重の変化がほとんどないこと、つまり、免震装置の性能の安定性を保持する観点においては、
図1に示されている免震装置よりも優れたものであることが分かる。但し、一般に、金属材料は、加工硬化が進んでn値が小さくなると、材料の伸び能力は低下するため、繰返し耐久性が損なわれる傾向があることも知られている。実際に、
図2に示す試験体は
図1に示す試験体よりも相対的に小さい繰返し回数おいて破断している。
【0042】
以上より、銅等の明確な降伏点を持たない非鉄金属を用いて免震装置の振動吸収部を形成する場合、免震装置の性能の安定性と、繰返し耐久性を両立させるためには、n値には適切な範囲が存在することが分かる。
【0043】
そこで、「免震装置の製造方法」においては、明確な降伏点を持たない非鉄金属を、振動吸収部を形成する金属材料として用いる場合において、加工硬化処理工程を必須の工程とし、加工硬化処理後における「処理後加工硬化指数」を最適化することによって、免震装置の性能の安定性と、繰返し耐久性を両立させることができるようにした。
【0044】
この「免震装置の製造方法」は、初期加工硬化指数が0.5以上である非鉄金属を用いるときに、特に有効な製造方法である。この場合において、上記非鉄金属は、加工硬化処理工程を経ることによって、加工硬化処理後における処理後加工硬化指数を、0.05を超えて0.5未満の範囲に縮小させることによって、安定した免震装置の性能発現という上記効果を享受して、必要とされる免震装置の性能を、より確実に、より正確に発揮させることができる。
【0045】
「免震装置の製造方法」において必須の工程である、加工硬化処理工程は、具体的実施態様の一例として、振動エネルギー吸収部を免震装置の接続部に取付けた後に、振動エネルギー吸収部に、所定の相対変位と繰返し回数の振動を付与することによって、非鉄金属の加工硬化を促進させる工程として行うことができる。
【0046】
或いは、上記の加工硬化処理工程は、振動エネルギー吸収部を形成するために用いる「降伏点を有さない非鉄金属」を、圧延加工又は引抜き加工する工程として行うこともできる。
【0047】
[金属プラグ入り積層ゴム型免震支承]
本発明に係る免震装置の実施形態の一例である金属プラグ入り積層ゴム型免震支承1について説明する。
図3及び
図4に示す金属プラグ入り積層ゴム型免震支承1は、建造物の下部構造体と上部構造体との間に設置されて振動エネルギーを吸収する免震装置である。この金属プラグ入り積層ゴム型免震支承1は、振動エネルギー吸収部として、柱状の金属プラグ11を有する。
図4に示す通り、金属プラグ11は、ゴム等からなる複数の弾性材料層121と、金属材料等からなる剛性材料層122とが交互に積層されてなる弾性体12の内部に鉛直方向に形成された筒状の中空部内に、中空部の内面に拘束される態様で配置されている。又、接続部として、金属プラグ11の上下の端面にそれぞれ対向して積層されている一組の金属板からなるフランジ13、14を有する。本発明に係る金属プラグ入り積層ゴム型免震支承1においては、金属プラグ11が、上述の本願発明の製造方法によって、加工硬化処理が施された非鉄金属によって形成されている。
【0048】
[免震ダンパー]
本発明の免震装置の好ましい実施形態の他の一例である免震ダンパー2について説明する。
図5及び
図6に示す免震ダンパー2も、建造物の下部構造体と上部構造体との間に設置されて振動エネルギーを吸収する免震装置である。この免震ダンパー2は、振動エネルギー吸収部として、ダンパー部材21を有する。
図5及び
図6に示す通り、ダンパー部材21は、下方から上方に向かって順に、下部傾斜部211、屈折部212、上部傾斜部213が連なって形成されており、屈折部212は、免震ダンパー2の中心軸より水平方向に突出して略「くの字」形状に屈折していて、下部側のフランジ24及び上部側のフランジ25は、ダンパー部材21の下面及び上面にそれぞれ当接して、接合層28を介して接合されている。本発明に係る免震ダンパー2においては、ダンパー部材21が、上述の本願発明の製造方法によって、加工硬化処理が施された非鉄金属によって形成されている。
【0049】
[免震ダンパー(他の形態)]
本発明の免震装置の好ましい更に異なる実施形態の他の一例であるU字型のダンパー部材を有する免震ダンパー3について説明する。
図7に示す免震ダンパー3も、免震ダンパー2と同様に、建造物の下部構造体と上部構造体との間に設置されて振動エネルギーを吸収する免震装置である。この免震ダンパー3は、振動エネルギー吸収部として、U字型の湾曲部分を有するダンパー部材31を有する。下部側のフランジ32及び上部側のフランジ33は、ダンパー部材31の下面及び上面にそれぞれ当接して、ボルト34、35によって接合されている。この接合は、上述した各種のメッキ層である接合層36を介した接合であってもよい。又、下部側のフランジ32及び上部側のフランジ33の構造体への接合はボルト38、39によることができる。又、U字型のダンパー部材31と、下部側のフランジ32及び上部側のフランジ33との間、及び、ボルト34等との間の部分等は、絶縁体37によって絶縁されていることが好ましい。尚、ボルトの周囲については、
図6に示すような絶縁スリーブ371を配置して絶縁することが好ましい。このような構成からなる、本発明に係る免震ダンパー3においても、ダンパー部材31が、上述の本願発明の製造方法によって、加工硬化処理が施された非鉄金属によって形成されている。
【符号の説明】
【0050】
1 金属プラグ入り積層ゴム型免震支承
11 金属プラグ(振動エネルギー吸収部)
111 絶縁体
12 弾性体
121 弾性材料層
122 剛性材料層
13 下部側のフランジ(接続部)
14 上部側のフランジ(接続部)
15、16、17、18 ボルト
2 免震ダンパー
21 ダンパー部材(振動エネルギー吸収部)
211 下部傾斜部
212 屈折部
213 上部傾斜部
24 下部側のフランジ(接続部)
25 上部側のフランジ(接続部)
26、27 ボルト
28 接合層
3 免震ダンパー(他の形態)
31 ダンパー部材(振動エネルギー吸収部)
32 下部側のフランジ(接続部)
33 上部側のフランジ(接続部)
34、35、38、39 ボルト
36 接合層
37 絶縁体
371 絶縁スリーブ