(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】建築物
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
(21)【出願番号】P 2021007052
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】土佐内 優介
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-023370(JP,B1)
【文献】特開平04-277223(JP,A)
【文献】特開2012-140826(JP,A)
【文献】特開2017-101534(JP,A)
【文献】特開2015-048643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00-27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力に抵抗する張り出し部材が、地盤内にあって建物の備える地下部から側方へ張り出して
おり、
前記建物の周囲にソイルセメント柱列式連続壁があり、
前記張り出し部材が前記ソイルセメント柱列式連続壁を貫通して、前記地下部と
該ソイルセメント柱列式連続壁が一体とさ
れ、該張り出し部材における該ソイルセメント柱列式連続壁よりも外側へ張り出す張り出し領域が地盤内に埋設され、該張り出し領域に土被り分の土砂重量が載荷されていることを特徴とする、建築物。
【請求項2】
前記張り出し部材は、鉄筋コンクリート部材、鉄骨部材、鉄骨鉄筋コンクリート部材、コンクリート充填鋼管部材のいずれか一種であり、
前記建物は、鉄筋コンクリート造建物、鉄骨鉄筋コンクリート造建物、鉄骨造建物、階層に応じて鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造と鉄骨造のうちの異なる構造を備えるハイブリッド造建物、のいずれか一種であり、
前記張り出し部材と前記建物が接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の建築物。
【請求項3】
前記張り出し部材が、円筒状もしくは角筒状の鋼管と、前記鋼管の内部に充填されているコンクリートとを有する、前記コンクリート充填鋼管部材であることを特徴とする、請求項2に記載の建築物。
【請求項4】
前記建物のうち、少なくとも、前記鉄骨部材、前記鉄骨鉄筋コンクリート部材、もしくはコンクリート充填鋼管部材と接続される前記地下部は、前記鉄筋コンクリート造もしくは前記鉄骨鉄筋コンクリート造であり、
前記鋼管の周面には、前記鋼管の端部から建物側に張り出す定着筋が設けられており、
前記定着筋が前記地下部に定着されていることを特徴とする、請求項3に記載の建築物。
【請求項5】
前記張り出し部材が、前記地下部を構成する基礎梁、中段梁、もしくは側壁に接続されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建築物。
【請求項6】
前記建物が杭基礎を備えていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば塔状比の高い建築物においては、地震時の水平荷重を受けた際に生じる転倒モーメントに起因する浮き上がり力が基礎に生じ易い。この浮き上がり力を許容する基礎構造においては、基礎を構成する基礎梁に補強が必要となり、一般に不経済な施工が余儀なくされる。そのため、通常は、上記浮き上がり力を許容しない基礎構造が適用される。
【0003】
上記浮き上がり力を許容しない基礎構造の最たる例として、杭基礎が挙げられる。杭基礎を適用することにより、杭の自重や杭の周面と地盤との間の周面摩擦力等が上記浮き上がり力に対する抵抗力となる。
【0004】
ところで、建築物を支持する地盤が十分な支持力を備えた比較的硬質な地盤である場合、直接基礎が採用されることが一般的であるが、硬質地盤に対して例えば上記塔状比の高い建築物が施工される場合、支持力の観点からは不要な杭が、地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力に抵抗する手段として施工されることとなり、これも不経済な施工と言わざるを得ない。
【0005】
従って、地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力を許容しない基礎構造として、杭基礎に代わる基礎構造を備えた建築物が切望されている。
【0006】
ここで、特許文献1には、地震時の水平荷重によって転倒モーメントが作用した際に、建物の一側が浮き上がるように構成した基礎構造に関し、浮き上がりの発生時に十分な減衰能力を発揮することができるようにした建物の基礎構造が提案されている。この建物の基礎構造は、支持杭の杭頭と、支持杭の杭頭で支持される建物上部構造とを縁切りして、地震による転倒モーメントが作用した際に建物上部構造が支持杭の杭頭から浮き上がり可能であるように構成されている。地盤に打設した摩擦杭の杭頭を建物上部構造に連結することにより、建物上部構造が浮き上がり復位する際に摩擦杭が地盤に対して長手方向に相対移動するようになっており、建物上部構造が浮き上がり復位する際に地盤と摩擦杭との間に働く周面摩擦が減衰力となって、建物上部構造の浮き上がり後の建物応答と復位時の着地速度とが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載される建物の基礎構造によれば、浮き上がりの発生時に十分な減衰能力を発揮することができる。しかしながら、特許文献1に記載される建物の基礎構造においても杭基礎を前提としていることから、上記する課題、すなわち、地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力を許容しない基礎構造として、杭基礎に代わる基礎構造を備えた建築物を提供するものではない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力を許容しない基礎構造として、杭基礎に代わる基礎構造を備えた建築物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による建築物の一態様は、
地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力に抵抗する張り出し部材が、地盤内にあって建物の備える地下部から側方へ張り出していることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力に抵抗する張り出し部材が、地盤内にあって建物の備える地下部から側方へ張り出していることにより、杭を不要にして経済性に優れた、浮き上がり力を許容しない基礎構造を形成することができる。ここで、「地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力」とは、例えば、設計地震動として設定される、所定のレベル2地震動等による水平荷重を建築物が受けた際に生じる転倒モーメントに起因する浮き上がり力を意味している。また、地盤内にあって建物の備える地下部から側方へ張り出している張り出し部材には、土被り分の土砂重量が載荷されていることから、浮き上がり力に対しては、実際には、張り出し部材の備えるせん断抵抗力(せん断耐力)と土被り分の土砂重量が浮き上がり力に対する抵抗力として作用する。
【0012】
例えば、平面視矩形の建物においては、地下部の例えば各側壁において、側方へ張り出す張り出し部材を1つもしくは複数備えている形態が挙げられ、平面視円形や楕円形の建物においては、地下部の例えば側壁の周方向に間隔を置いて複数の張り出し部材を備えている形態が挙げられる。尚、地盤が軟弱であって直接基礎では十分な支持力が得られない地盤上に建築物が構築される場合は、支持力を得るための杭が必要になることから、このような場合の杭を排除する趣旨ではない。しかしながら、このように地盤の強度との関係で支持杭を必要とする場合であっても、本態様によれば、張り出し部材と地盤の間の周面摩擦力等を考慮できるため、張り出し部材がない場合に比べて支持杭の杭長を可及的に短くできるといった効果が奏される。
【0013】
また、本発明による建築物の他の態様において、
前記張り出し部材は、鉄筋コンクリート部材、鉄骨部材、鉄骨鉄筋コンクリート部材、コンクリート充填鋼管部材のいずれか一種であり、
前記建物は、鉄筋コンクリート造建物、鉄骨鉄筋コンクリート造建物、鉄骨造建物、階層に応じて鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造と鉄骨造のうちの異なる構造を備えるハイブリッド造建物、のいずれか一種であり、
前記張り出し部材と前記建物が接続されていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、様々な構造仕様の張り出し部材と建物の組み合わせによる、杭を不要にして浮き上がり力を許容しない基礎構造を備えた建築物が提供できる。例えば、建物が鉄筋コンクリート造(RC(Reinforced Concrete)造)で、張り出し部材も鉄筋コンクリート部材である同種の組み合わせであってもよいし、建物がRC造で、張り出し部材が鉄骨部材(S(Steel)部材)である異種の組み合わせであってもよい。また、ハイブリッド造建物としては、例えば、基礎の底盤や基礎梁が鉄筋コンクリート造であり、地上部(1階からn階)が鉄骨造である構造等が挙げられる。
【0015】
また、本発明による建築物の他の態様は、
前記張り出し部材が、円筒状もしくは角筒状の鋼管と、前記鋼管の内部に充填されているコンクリートとを有する、前記コンクリート充填鋼管部材であることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、張り出し部材が、円筒状もしくは角筒状の鋼管と、鋼管の内部に充填されているコンクリートとを有するコンクリート充填鋼管部材であることにより、張り出し部材のせん断抵抗力が極めて高くなり、従って、可及的に規模の小さな張り出し部材にて浮き上がり力に抵抗する所望のせん断抵抗力を得ることができる。
【0017】
また、本発明による建築物の他の態様は、
前記建物のうち、少なくとも、前記鉄骨部材、前記鉄骨鉄筋コンクリート部材、もしくはコンクリート充填鋼管部材と接続される前記地下部は、前記鉄筋コンクリート造もしくは前記鉄骨鉄筋コンクリート造であり、
前記鋼管の周面には、前記鋼管の端部から建物側に張り出す定着筋が設けられており、
前記定着筋が前記地下部に定着されていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、地下部が鉄筋コンクリート造もしくは鉄骨鉄筋コンクリート造のコンクリート構造体であり、鋼管の周面においてその端部から建物側に張り出す定着筋が設けられていて、定着筋が地下部に定着されていることにより、張り出し部材と地下部が高い接続強度で接続されている建築物となる。ここで、定着筋が地下部に定着されていることに加えて、張り出し部材を構成する鉄骨(鋼管を含む)が所定長だけ地下部に埋設されていることにより、張り出し部材と地下部をより一層高い接続強度で接続することができる。
【0019】
また、本発明による建築物の他の態様は、
前記張り出し部材が、前記地下部を構成する基礎梁、中段梁、もしくは側壁に接続されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、張り出し部材が地下部を構成する基礎梁、中段梁、もしくは側壁に接続されていることにより、地下部を構成する高強度の構造部材に対して張り出し部材を高い接続強度で接続することができる。
【0021】
また、本発明による建築物の他の態様は、
前記建物が杭基礎を備えていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、地盤が軟弱であって直接基礎では十分な支持力が得られない地盤上に建築物が構築される場合において、場所打ち杭や既製杭等の支持杭により、所定の支持力を保証することができる。ここで、本態様では、張り出し部材と地盤の間の周面摩擦力等が支持杭の先端支持力や周面摩擦力に付与されることから、張り出し部材のない場合に比べて、杭長を可及的に短くすることができ、場合によっては杭本数を低減することができる。
【0023】
また、本発明による建築物の他の態様は、
前記建物の周囲にソイルセメント柱列式連続壁があり、
前記張り出し部材が前記ソイルセメント柱列式連続壁を貫通して、前記地下部と前記ソイルセメント柱列式連続壁が一体とされていることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、建物の周囲に山留め壁としてソイルセメント柱列式連続壁が施工されている場合に、張り出し部材がソイルセメント柱列式連続壁を貫通して、建物とソイルセメント柱列式連続壁が一体とされていることにより、浮き上がり力に対してソイルセメント柱列式連続壁の周面摩擦力等を見込むことができ、浮き上がり力に対してより一層高い抵抗力を備えた建築物となる。ここで、建物とソイルセメント柱列式連続壁が張り出し部材を介して一体とされていることにより、ソイルセメント柱列式連続壁は建物の基礎の一部と見なすことができる。そのため、上記するように地盤が軟弱で、支持杭を要する場合においては、ソイルセメント柱列式連続壁が支持杭として機能することができ、この場合には、場所打ち杭や既製杭等の施工を不要にできる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の建築物によれば、地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力を許容しない基礎構造として、杭基礎に代わる基礎構造を備えた建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係る建築物の一例を示す図であって、建物を構成する地上部を正面図で示し、建物を構成する地下部を縦断面図で示す図である。
【
図2】
図1のII-II矢視図であって、地下部の基礎梁で切断した横断面図である。
【
図3】(a)、(b)、(c)はいずれも、張り出し部材の例を示す斜視図である。
【
図4】第2実施形態に係る建築物の一例を示す図であって、建物を構成する地上部を正面図で示し、建物を構成する地下部を縦断面図で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、各実施形態に係る建築物について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[第1実施形態に係る建築物]
はじめに、
図1乃至
図3を参照して、第1実施形態に係る建築物の一例について説明する。ここで、
図1は、第1実施形態に係る建築物の一例を示す図であって、建物を構成する地上部を正面図で示し、建物を構成する地下部を縦断面図で示す図であり、
図2は、
図1のII-II矢視図であって、地下部の基礎梁で切断した横断面図である。また、
図3(a)、(b)、(c)はいずれも、張り出し部材の例を示す斜視図である。
【0029】
図示する建築物50は、地盤Gの上方に立設する地上部11と、地盤G内に埋設される地下部12とを備える建物10と、地下部12から側方へ張り出している張り出し部材20とを有する。
【0030】
地上部11は、図示例のように塔状比が高く、地震時の水平荷重Hが作用した際に、転倒モーメントに起因する浮き上がり力Pが生じ易い高層建物もしくは超高層建物などである。
【0031】
一方、地下部12は、地上部11を支持する直接基礎として地盤Gに埋設されている。尚、図示例における地盤Gは、直接基礎にて建物10を支持できる支持力を有しており、本来的には支持杭を不要にできる地盤である。
【0032】
地下部12は、基礎梁15と、基礎梁15の内部にある底盤16と、側壁14と、天板13と、天板13を支持する基礎柱17と、中段梁18とを有する地下ピット19を備えている。
図2に示すように、基礎梁15は、複数の梁が平面視矩形枠状に組み付けられ、枠内が複数の梁により格子状に区画された構造を備えており、格子状の基礎梁15の内部に底盤16が設けられている。例えば、免震建物(地下免震建物)の場合は、地下ピット19において、基礎柱17等を免震装置が支持する。尚、地下部12の形態は、図示例以外の形態であってよく、地下ピットの代わりに地下階を構成する地下躯体を備えていてもよいし、地下ピットや地下階が中段梁を備えていない形態などであってもよい。
【0033】
また、地上部11と地下部12は、いずれも鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC(Steel Reinforced Concrete)造)、鉄骨造(S造)であってもよいし、例えば、地上部11がS造で地下部12がRC造のハイブリッド構造であってもよい。
【0034】
図1及び
図2に示すように、建築物50では、地下部12から側方の地盤G内へ複数の張り出し部材20が張り出している。
図2に示すように、図示例の建築物50(地下部12)の平面視形状は矩形であり、地下部12を構成する各基礎梁15から側方へ、複数(図示例は3基)の張り出し部材20が張り出している。
【0035】
張り出し部材20は、
図3(a)に示すように、円筒状の鋼管21と、鋼管21の内部に充填されているコンクリート22とを有するコンクリート充填鋼管部材により形成され、鋼管21の周面には、鋼管21の端部から建物側に張り出す複数の定着筋30が溶接等により取り付けられている。
【0036】
図1及び
図2に示すように、鋼管21の端部が基礎梁15に埋設され、さらに、各定着筋30が基礎梁15の内部に埋設されることにより、コンクリート充填鋼管部材20が地下部12に強固に固定される。尚、地下部12に対する張り出し部材20の端部や定着筋30の固定箇所(埋設箇所)は、地下部12の基礎梁15の他にも、側壁14及び中段梁18や天板13等、十分な定着領域を備えた様々な箇所であってよい。
【0037】
図1に示すように、例えばレベル2相当の設計地震動による水平荷重Hを建築物50が受けた際には、転倒モーメントに起因する大きな浮き上がり力Pが生じ得る。従来の建築物では、この浮き上がり力Pを許容しない構造を形成するべく、杭基礎を適用することにより、杭の自重や杭の周面と地盤との間の周面摩擦力等を上記浮き上がり力に対する抵抗力としている。しかしながら、図示例のように地盤Gが建築物50を支持するのに十分な支持力を備えている場合に、浮き上がり力に対抗する手段として杭基礎を適用することは極めて不経済である。
【0038】
そこで、建築物50では、作用する浮き上がり力Pに対して、地下部12から側方へ張り出す張り出し部材20の有するせん断抵抗力Sにて抵抗し、浮き上がりを抑制することにしている。より詳細には、張り出し部材20には、土被り分の土砂重量W(図示例は、有効範囲として45度程度斜め上方に広げた範囲の土砂重量としている)が載荷されていることから、張り出し部材20の有するせん断抵抗力Sと土砂重量Wが浮き上がり力Pに抵抗することになる。
【0039】
せん断抵抗力Sは、例えば、張り出し部材20における基礎梁15との境界付近(根元付近)において発揮され、鋼管21とコンクリート22の双方のせん断抵抗力の和として算定される。ここで、張り出し部材20の根元付近のせん断抵抗力を高めるべく、図示例のように同一断面の鋼管21に代えて、根元付近の厚みがテーパー状に厚くされた鋼管が適用されてもよい。
【0040】
また、
図1に示すように右方向の水平荷重が作用した際に生じる浮き上がり力Pに対して主として抵抗する張り出し部材20は、
図1の左側の基礎梁15から側方へ張り出す3基の張り出し部材20となる。従って、各張り出し部材20の負担する浮き上がり力はP/3となり、この負担分の浮き上がり力:P/3に対抗できるせん断抵抗力Sを張り出し部材20が備えるとともに、このせん断抵抗力Sにて抵抗する際に張り出し部材20が基礎梁15から引き抜けないように、定着筋30の本数と定着長が設計される。
【0041】
図3(a)に示す張り出し部材20の他にも、様々な形態の張り出し部材がある。例えば、
図3(b)に示す張り出し部材20Aは、鉄骨部材の一例であるH形鋼により形成され、H形鋼20Aのウェブと上下のフランジの端部に定着筋30が取り付けられている。
【0042】
また、
図3(c)に示す張り出し部材20Bは、鉄筋コンクリート部材により形成され、鉄筋コンクリート部材の端部から主筋が張り出して定着筋30を形成している。
【0043】
このように、建築物50によれば、地震時の転倒モーメントに起因する浮き上がり力Pを許容しない基礎構造として、杭基礎に代わる基礎構造を備えた建築物となることから、特に十分な支持力を備えた地盤Gに対しては、優れた経済性の下での施工が可能になる。
【0044】
尚、地盤Gが十分な支持力を有していない場合は、支持力を得る目的で杭基礎が適用され得るが、この場合でも、張り出し部材20が支持力の一部を負担できることから、支持杭の杭長を短くしたり、支持杭の本数を低減することが可能になる。
【0045】
[第2実施形態に係る建築物]
次に、
図4を参照して、第2実施形態に係る建築物の一例について説明する。ここで、
図4は、第2実施形態に係る建築物の一例を示す図であって、建物を構成する地上部を正面図で示し、建物を構成する地下部を縦断面図で示す図である。
【0046】
図示する建築物50Aは、地下部12の周囲にソイルセメント柱列式連続壁40があり、張り出し部材20がソイルセメント柱列式連続壁40を貫通して、地下部12とソイルセメント柱列式連続壁40が一体とされている形態である。
【0047】
ソイルセメント柱列式連続壁40は、地下部12を包囲するように、平面視円形のソイルセメントの一部が相互にラップするようにして全体としては平面視矩形枠状に造成され、各ソイルセメントの内部には例えばH形鋼により形成される芯材が埋設されてもよい。
【0048】
ソイルセメントは、地盤Gを掘削することにより発生する土砂と、多軸混練オーガー機等(図示せず)の先端から吐出されるセメントミルクを混合撹拌することにより造成され、芯材を備える場合は、硬化前のソイルセメントの内部に芯材が挿入されることにより構築される。
【0049】
図示例のソイルセメント柱列式連続壁40は、建物10を施工する際の山留め壁であることに加えて、建物10が施工された後は、張り出し部材20を介して建物10の地下部12に接続されることにより、建物10の基礎として機能する。
【0050】
建築物50Aでは、建物10とソイルセメント柱列式連続壁40が一体とされていることにより、作用する浮き上がり力Pに対して、張り出し部材20のせん断抵抗力Sや土被り分の土砂重量Wに加えて、ソイルセメント柱列式連続壁40の自重やソイルセメント柱列式連続壁40と地盤Gとの間の周面摩擦力Fを見込むことができる。そのため、浮き上がり力Pに対してより一層高い抵抗力を備えた建築物となる。
【0051】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0052】
10:建物
11:地上部
12:地下部
13:天板
14:側壁
15:基礎梁
16:底盤
17:基礎柱
18:中段梁
19:地下ピット
20:張り出し部材(コンクリート充填鋼管部材)
20A:張り出し部材(H形鋼、鉄骨部材)
20B:張り出し部材(鉄筋コンクリート部材)
21:鋼管
22:コンクリート
30:定着筋
40:ソイルセメント柱列式連続壁
50,50A:建築物
G:地盤
H:水平荷重
P:浮き上がり力
W:土砂重量
S:せん断抵抗力
F:周面摩擦力