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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240611BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20240611BHJP
   H01L 21/425 20060101ALI20240611BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01L21/78 U
H01L21/78 L
H01L21/265 J
H01L21/425
H01L21/265 602A
H01L21/265 W
H01L21/02 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021016099
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022119097
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】永岡 達司
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-373868(JP,A)
【文献】特開平06-125001(JP,A)
【文献】特開2002-270543(JP,A)
【文献】特開2004-148438(JP,A)
【文献】特開2002-222777(JP,A)
【文献】特開2008-016694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/265
H01L 21/425
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
第1の元素と、前記第1の元素と結合しているとともに前記第1の元素よりも電気陰性度が1.5以上小さい第2の元素とを含有している化合物半導体により構成された基板(12)を準備する工程と、
前記基板の表面と裏面との間に電流を流す工程と、
前記基板の前記電流を流した領域を含むとともに前記基板の劈開面に沿って前記基板を分割する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項2】
前記基板に電流を流す工程では、前記基板にプローブ(16)を接触させ、前記基板と前記プローブの間に電流を流す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記領域の表面に電極(18)を形成する工程をさらに備えており、
前記基板に電流を流す前記工程では、前記電極を介して前記基板に電流を流す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記電極を形成する前記工程では、前記劈開面に沿って前記領域の前記表面に前記電極を形成する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記領域にドーパント又は前記化合物半導体とは異なる異種材料を導入することによって前記領域をその周囲の領域よりも高抵抗化する工程をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記領域にドーパント又は前記化合物半導体とは異なる異種材料を導入することによって前記領域をその周囲の領域よりも高熱抵抗化する工程をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記化合物半導体は、酸化物半導体であり、
前記第1の元素は、酸素である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記化合物半導体は、β-Gaにより構成されており、
前記劈開面が、β-Gaの(100)面及び/又は(001)面である、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
半導体装置の製造方法において、化合物半導体により構成された基板を分離及び結合させる様々な方法が提案されている。特許文献1には、半導体装置の製造方法において、酸化ガリウムを含有する基板を切断する方法が開示されている。この製造方法では、まず、基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光を走査することにより、基板の切断予定ラインに沿って、基板の他の領域よりも脆い改質領域を形成する。その後、ダイシングブレードによって切断予定ラインに沿って基板を切断する。この製造方法では、切断予定ラインに沿って形成された改質領域を切断するため、従来のダイシングと比較して、高速で基板を切断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-126838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の製造方法では、改質領域の幅がダイシングブレードの幅よりも広くなるように、基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光が照射される。したがって、ダイシングブレードによって基板を切断すると、切断面に改質領域が残存する。改質領域は、レーザ光によりダメージを受けているため、切断面が不均一となり、半導体装置の性能に影響する虞がある。本明細書では、化合物半導体により構成された基板の分割や結合を効率良く実行し、ダメージを抑制する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の第1の製造方法は、第1の元素と、前記第1の元素と結合しているとともに前記第1の元素よりも電気陰性度が1.5以上小さい第2の元素とを含有している化合物半導体により構成された基板(12)を準備する工程と、前記基板に電流を流す工程と、前記基板の前記電流を流した領域を含むとともに前記基板の劈開面に沿って前記基板を分割する工程と、を備える。
【0006】
なお、電気陰性度は、分子内の原子が電子を引き寄せる能力を示す値であり、本明細書では、ポーリング(Pauling)の電気陰性度を意味する。
【0007】
この製造方法では、第1の元素と、第1の元素と結合している第2の元素とを含有する化合物半導体により構成されている基板を準備する。ここで、第1の元素と第2の元素の電気陰性度の差が、1.5以上であると、第1の元素と第2の元素との間の結合が、イオン結合性を示すことが知られている。イオン結合性を示す化合物半導体では、電流が流れるときに生じた電荷が化合物半導体内部を移動することにより、結晶内部の極性が乱れ易い。また、電流が流れることにより熱応力が生じ、結晶構造が歪み易い。このように、イオン結合性を示す化合物半導体は、電流を流すことにより、その結晶構造が変化し易い。上記の製造方法では、この性質を利用して、イオン結合性を示す化合物半導体により構成された基板に対して電流を流すことにより、基板の劈開面に沿って基板を分割する。この製造方法によれば、分割された面に対するダメージを抑制しつつ、基板を効率良く分割することができる。
【0008】
本明細書が開示する半導体装置の第2の製造方法は、第1の基板(52)と第2の基板(54)を積層する工程と、前記第1の基板と前記第2の基板の間に電流を流すことによって、前記第1の基板と前記第2の基板を結合させる工程と、を備える。前記第1の基板と前記第2の基板が、化合物半導体により構成されており、前記化合物半導体が、第1の元素と、前記第1の元素と結合しているとともに前記第1の元素よりも電気陰性度が1.5以上小さい第2の元素とを含有している。
【0009】
この製造方法では、まず、第1の基板と第2の基板を積層する。第1の基板と前記第2の基板は、第1の元素と、第1の元素と結合しているとともに第1の元素よりも電気陰性度が1.5以上小さい第2の元素とを含有している化合物半導体により構成されている。上述したように、イオン結合性を示す化合物半導体は、電流が流れることにより、その結晶構造が乱れ易い。このため、第1の基板と第2の基板の間に電流を流すことにより、第1の基板と第2の基板の界面の結晶構造が乱れ、当該界面近傍が溶融する。その後、電流を停止すると、溶融した半導体材料が凝固する過程において、乱れた結晶構造が再度整列する。これにより、第1の基板と第2の基板を効率良く結合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の製造方法における半導体基板12の平面図。
図2】半導体基板12にドーパントを導入する工程を示す断面図。
図3】半導体基板12に電流を流す工程を示す断面図。
図4】半導体基板12が分割された状態を示す断面図。
図5】実施例2の製造方法において、半導体基板12に電極18を配置する工程を示す断面図。
図6】半導体基板12が分割された状態を示す断面図。
図7】変形例の製造方法において、半導体基板12の面方向に沿って分割する工程を示す断面図。
図8】実施例3の製造方法において、半導体基板52の表面にイオンを注入する工程を示す断面図。
図9】半導体基板52、54を積層する工程を示す断面図。
図10】半導体基板52、54に電流を流す工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書が開示する技術要素を、以下に列記する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
【0012】
本明細書が開示する一例の製造方法では、基板に電流を流す工程では、前記基板にプローブを接触させ、前記基板と前記プローブの間に電流を流してもよい。
【0013】
このような構成では、基板に対してプローブを接触させる位置を調節することにより、基板に対して流れる電流の領域を制御することができるため、基板の劈開面に沿って基板を分割し易い。
【0014】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記領域の表面に電極を形成する工程をさらに備えていてもよい。前記基板に電流を流す前記工程では、前記電極を介して前記基板に電流を流してもよい。
【0015】
このような構成では、基板に対して電極を形成する位置を調節することにより、基板に対して流れる電流の領域を制御することができるため、基板の劈開面に沿って基板を分割し易い。
【0016】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記電極を形成する前記工程では、前記劈開面に沿って前記領域の前記表面に前記電極を形成してもよい。
【0017】
このような構成では、電極が劈開面に沿って基板の表面に形成される。このため、劈開面に沿って電流が流れ易く、劈開面に沿って局所的に応力を印加し易い。
【0018】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記領域にドーパント又は前記化合物半導体とは異なる異種材料を導入することによって前記領域をその周囲の領域よりも高抵抗化する工程をさらに備えてもよい。
【0019】
このような構成では、電流を流す領域にドーパントや異種材料を導入することにより、電流が流れる領域の抵抗がその周囲の領域よりも高くなる。このため、電流を流したときに、当該領域の温度がその周囲の領域よりも上昇し易く、当該領域に対して大きな熱応力を印加することができる。
【0020】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記領域にドーパント又は前記化合物半導体とは異なる異種材料を導入することによって前記領域をその周囲の領域よりも高熱抵抗化する工程をさらに備えてもよい。
【0021】
このような構成では、電流を流す領域にドーパントや異種材料を導入することにより、電流が流れる領域の熱抵抗がその周囲の領域よりも高くなる。このため、電流を流したときに、当該領域において熱が停滞し易く、周囲の領域よりも温度が上昇し易い。このため、当該領域に対して大きな熱応力を印加することができる。
【0022】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記化合物半導体は、酸化物半導体であってもよく、前記第1の元素は、酸素であってもよい。さらに、前記化合物半導体は、β-Gaにより構成されていてもよい。前記劈開面が、β-Gaの(100)面及び/又は(001)面であってもよい。
【0023】
β-Gaは、(100)面又は(001)面に沿って劈開が生じ易い。このため、β-Gaの(100)面又は(001)面に沿って基板を分割すると、基板を容易に分割することができる。
【0024】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記第1の基板と前記第2の基板を積層する前記工程よりも前に、前記第1の基板の表面にドーパント又は前記化合物半導体とは異なる異種材料を導入する工程をさらに備えてもよい。前記第1の基板と前記第2の基板を積層する前記工程では、前記第1の基板の前記表面上に前記第2の基板を積層してもよい。
【0025】
このような構成では、ドーパントや異種材料を導入することによって、第1の基板の表面の抵抗が高くなる。そして、高抵抗化された第1の基板の表面上に第2の基板を積層する。このため、第1の基板と第2の基板の間に電流を流したときに、第1の基板の第2の基板への接触面の2温度が上昇し易い。したがって、第1の基板と第2の基板の界面において、半導体材料が溶融し易く、第1の基板と第2の基板を効率良く結合させることができる。
【0026】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記第1の基板と前記第2の基板を結合させる工程よりも前に、前記第1の基板又は前記第2の基板をアニールすることによって前記第1の基板の表層部と前記第2の基板の表層部の少なくとも一方を高抵抗化させる工程、をさらに備えてもよい。
【0027】
このような構成では、第1の基板と第2の基板の界面に高抵抗化させた表層部が位置するようにこれらを接触させることで、この界面の抵抗を高くすることができる。このため、第1の基板と第2の基板の間に電流を流したときに、第1の基板と第2の基板の界面(すなわち、第1の基板と第2の基板の接触面)の温度が上昇し易い。したがって、当該界面において半導体材料が溶融し易く、第1の基板と第2の基板を効率良く結合させることができる。
【0028】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記第1の基板又は前記第2の基板を結合させる工程よりも前に、前記第1の基板と前記第2の基板をアニールすることによって前記第1の基板の表層部と前記第2の基板の表層部の少なくとも一方を高熱抵抗化させる工程、をさらに備えてもよい。
【0029】
このような構成では、第1の基板と第2の基板の界面に高熱抵抗化させた表層部が位置するようにこれらを接触させることで、この界面の熱抵抗を高くすることができる。このため、第1の基板と第2の基板の間に電流を流したときに、第1の基板と第2の基板の界面(すなわち、第1の基板と第2の基板が接触面)において熱が停滞し易く、当該界面の温度が上昇し易い。したがって、当該界面において半導体材料が溶融し易く、第1の基板と第2の基板を効率良く結合させることができる。
【0030】
本明細書が開示する一例の製造方法では、前記化合物半導体は、酸化物半導体であってもよく、前記第1の元素は、酸素であってもよい。さらに、前記化合物半導体は、β-Gaにより構成されていてもよい。
【0031】
(実施例1)
図面を参照して、実施例1の半導体装置10の製造方法について説明する。実施例1の製造方法では、図1に示すウェハ状の半導体基板12を用いて半導体装置10を製造する。実施例1の製造方法は、後述する特定の材料によって構成される半導体基板12を分割する工程を特徴とする。この製造方法は、当該特定の材料を採用した様々な半導体装置及びその半製品に対して、採用することができる。以下では、半導体基板12を分割する工程について主に説明し、他の製造工程については説明を省略する。
【0032】
図1に示す半導体基板12は、化合物半導体によって構成されている。具体的には、半導体基板12は、β-Gaによって構成されている。ただし、半導体基板12の材料はβ-Gaに限られない。半導体基板12の材料として、互いに結合する第1の元素と第2の元素を含有する化合物半導体であって、第1の元素と第2の元素の電気陰性度の差が1.5以上である化合物半導体を用いることができる。一般的に言うと、半導体基板12は、イオン結合性を有する材料により構成されていればよい。β-Gaにおいては、Oが第1の元素(電気陰性度=3.44)であり、Gaが第2の元素(電気陰性度=1.81)である。なお、半導体基板12を構成する化合物半導体は、第1の元素及び第2の元素とは異なる元素をさらに含有してもよい。例えば、半導体基板12を構成する他の化合物半導体としては、(Ga,Rh)、(Ga,Ir)、(Ga,Bi)、ZnGa等の酸化ガリウム系半導体や他の酸化物半導体が挙げられる。
【0033】
図1のX方向及びZ方向に沿う面がβ-Gaの(100)面であり、Y方向及びZ方向に沿う面がβ-Gaの(001)面であり、図1の紙面に沿う面(表面12aに沿う面)がβ-Gaの(010)面である。すなわち、Y方向が[100]方向であり、X方向が[001]方向であり、Z方向が[010]方向である。
【0034】
図1に示すように、半導体基板12は、半導体装置10がそれぞれ形成されている複数の素子領域30と、各素子領域30の周囲に設けられた分割予定領域32(後に切断される領域)を有している。各素子領域30は、X方向及びY方向に沿って格子状に配列されている。
【0035】
本製造方法では、まず、イオン注入によって半導体基板12の内部にドーパントを導入する。ここでは、図2に示すように、分割予定領域32に沿って選択的にドーパントを導入する。導入するドーパントは特に限定されないが、例えば、FeやVを採用することができる。これにより、図2に示すように、半導体基板12の内部にドーパントが導入された高抵抗領域34が形成される。高抵抗領域34は、ドーパントが導入されることによって、その周囲の領域(すなわち、素子領域30)よりも抵抗が高くなる。なお、図2以降の断面図においては、半導体基板12の内部構造の図示を省略している。
【0036】
次いで、図3に示すように、プローブ16を半導体基板12の表面12aと裏面12bにそれぞれ接触させる。ここでは、各プローブ16は、分割予定領域32内で半導体基板12に対して接触させる。この工程では、図2に示すように、分割予定領域32内で、半導体基板12の表面12a及び裏面12bの1箇所のみにプローブ16を接触させてもよいし、分割予定領域32内の複数個所においてプローブ16を接触させてもよい。また、分割予定領域32以外の表面12a及び裏面12bにプローブ16を接触させてもよい。
【0037】
次いで、半導体基板12に接触させた各プローブ16を介して、半導体基板12に電流を流す。分割予定領域32内の高抵抗領域34にはドーパントが導入されているために、高抵抗領域34はその周囲と比較して抵抗が高い。このため、半導体基板12に電流を流すと、高抵抗領域34の温度が、その周囲の領域よりも高温まで上昇する。したがって、半導体基板12に対して電流を流すと、高抵抗領域34に大きな熱応力が印加される。また、半導体基板12がイオン結合性を示す化合物半導体により構成されているため、半導体基板12に電流が流れたときに、結晶内部の極性が乱れ易い。さらに、分割予定領域32は、β-Gaの(100)面及び(001)面に沿って設けられているので、劈開が生じ易い。以上の理由により、この工程において、半導体基板12に、例えば約800W/cmを超える電力を印加すると、図4に示すように、分割予定領域32に沿って半導体基板12を分割することができる。これにより、半導体基板12から複数の半導体装置10を個片化することができる。
【0038】
(実施例2)
実施例2の製造方法では、実施例1と比較して、半導体基板12に電流を流す方法が異なっている。実施例2の製造方法は、図2に示す工程までが実施例1と同様である。実施例2では、図2に示す工程の後に、図5に示すように、半導体基板12の表面12aに電極18を形成する。ここでは、半導体基板12の分割予定領域32の表面12aに沿って電極18を形成する。電極18は、例えば、半導体基板12にショットキー接触する電極とすることができる。なお、電極18は、半導体基板12の分割予定領域32の表面12a全体を覆うように形成してもよいし、分割予定領域32の表面12aに沿って間欠的に形成してもよい。
【0039】
次いで、半導体基板12の表面12aに配置した電極18を介して、半導体基板12に電流を流す。例えば、電極18と半導体基板12の裏面12bの間に電流を流すことができる。そして、半導体基板12に約800W/cmを超える電力を印加することによって、図6に示すように、実施例1と同様に、分割予定領域32に沿って半導体基板12を分割することができる。これにより、半導体基板12から複数の半導体装置10を個片化することができる。
【0040】
上述したように、実施例1及び2の製造方法では、半導体基板12に電流を流すことによって半導体基板12を容易に分割することができる。このため、例えば、半導体基板を分割するために従来採用されていたダイシングブレードによるダイシングの態様と比較して、短時間で半導体基板12を分割することができる。さらに、上述した実施例では、ダイシングブレードや、ダイシングの際に半導体基板の表面を保護するためのダイシングテープを必要とせず、低コストで半導体基板12を分割することができる。
【0041】
また、上述した実施例1及び2では、半導体基板12に電流を流すことにより、化合物半導体の劈開を利用して半導体基板12を分割するため、切断面にダメージが残存し難い。したがって、切断面が略均一となり、高い歩留まりで半導体装置10を製造することができる。
【0042】
なお、上述した実施例1及び2では、半導体基板12の全体がβ-Gaにより構成されていたが、分割予定領域32のみがβ-Gaにより構成されていてもよい。すなわち、分割予定領域32以外の領域(例えば、素子領域30等)が、O及びGa以外の元素を含有していてもよい。
【0043】
また、上述した実施例では、半導体基板12の表面12aと裏面12bとの間に電流を流したが、例えば、半導体基板12の表面12aの任意の位置に配置した2つ以上のプローブ又は2つ以上の電極18を利用して、半導体基板12の表面12a近傍(すなわち、表面12aの表層部分)のみに電流を流してもよい。同様に、半導体基板12の裏面12近傍のみに電流を流してもよい。
【0044】
また、上述した実施例1及び2では、ドーパントをイオン注入することによって高抵抗領域34を形成した。高抵抗領域34は、ドーパントをイオン注入して形成する態様に限られず、エピタキシャル成長によってドーパントを導入することにより形成してもよい。あるいは、分割予定領域32内の一部の領域に半導体基板12を構成する材料とは異なる異種材料を導入することによって、当該領域を高抵抗化してもよい。例えば、図2に示す工程に代えて、分割予定領域32に沿って表面12aからエッチングすることにより溝を形成し、当該溝内を異種材料(例えば、SiO等)で充填してもよい。このような構成では、半導体基板12の表面12aから所定深さ(すなわち、溝の深さ)まで達する高抵抗領域34を形成することができる。
【0045】
また、実施例1及び2では、ドーパントを導入することによって、高抵抗領域34を形成したが、ドーパントを導入することによって、周囲よりも熱抵抗が高い高熱抵抗領域を形成してもよい。なお、高熱抵抗領域は、上述した異種材料によって形成してもよい。高熱抵抗領域は、電流を流したときに、その周囲の領域よりも熱が停滞し易く、当該周囲の領域よりも温度が上昇し易い。このため、高熱抵抗領域を形成することによっても大きな熱応力を印加することができる。なお、上述した高抵抗領域34や高熱抵抗領域は、形成されなくてもよい。すなわち、本明細書に開示の技術において、ドーパント又は異種材料を導入する工程は備えなくてもよい。このような構成であっても、半導体基板12に電流を流すことによって、半導体基板12を劈開面に沿って分割することができる。
【0046】
また、実施例1及び2では、半導体基板12から半導体装置10を個片化するための工程について主に説明した。しかしながら、実施例1及び2に開示の技術は、例えば、半導体基板12を薄板化する工程に適用してもよい。例えば、図7に示すように、半導体基板12の表面12aから所望の深さに、ドーパントを選択的にイオン注入することにより高抵抗領域40を形成する。そして、半導体基板12の表面12a及び裏面12bにプローブ16を接触させ、プローブ16を介して半導体基板12に電流を流すことにより、高抵抗領域40に沿って半導体基板12を分離することができる。なお、高抵抗領域40に沿う面(すなわち、分離すべき面)をβ-Gaの(100)面又は(001)面とすることにより、より簡易に半導体基板12を分離することができる。これによって、半導体基板12を薄板化することができる。なお、高抵抗領域40の形成は、ドーパントをイオン注入する態様に限られない。例えば、半導体基板12を準備する工程において半導体基板12をエピタキシャル成長によって製造する際に、高抵抗領域40を形成すべき深さにドーパントを含む半導体材料をエピタキシャル成長させてもよい。また、異種材料によって高抵抗領域40を含む半導体基板12を製造してもよい。
【0047】
なお、実施例1及び2では、半導体基板12に約800W/cmを超える電力を印加することにより、半導体基板12を分割予定領域32に沿って分割した。この工程では、半導体基板12に印加する電力を上昇させる過程において、半導体基板12の分割予定領域32に沿って、半導体基板12の表面12aから半導体基板12の厚み方向に向かって溝が形成される。すなわち、本明細書に開示の技術は、半導体基板12の表面12aに溝を形成する技術としても有用である。
【0048】
(実施例3)
次に、実施例3の製造方法について説明する。実施例3の製造方法は、後述する特定の材料によって構成される2つの半導体基板52、54を結合する工程を特徴とする。実施例3の製造方法は、当該特定の材料を採用した様々な半導体装置及びその半製品に対して、採用することができる。以下では、半導体基板52、54を結合する工程について主に説明し、他の製造工程については説明を省略する。なお、半導体基板52、半導体基板54は、それぞれ「第1の基板」、「第2の基板」の一例である。
【0049】
半導体基板52、54は、実施例1及び2と同様の化合物半導体によって構成されている。すなわち、半導体基板52、54は、β-Gaによって構成されている。ただし、半導体基板52、54の材料はβ-Gaに限られない。半導体基板52、54の材料として、互いに結合する第1の元素と第2の元素を含有する化合物半導体であって、第1の元素と第2の元素の電気陰性度の差が1.5以上である化合物半導体を用いることができる。一般的に言うと、半導体基板12は、イオン結合性を有する材料により構成されていればよい。β-Gaにおいては、Oが第1の元素(電気陰性度=3.44)であり、Gaが第2の元素(電気陰性度=1.81)である。なお、半導体基板12を構成する化合物半導体は、第1の元素及び第2の元素とは異なる元素をさらに含有してもよい。例えば、半導体基板12を構成する他の化合物半導体としては、(Ga,Rh)、(Ga,Ir)、(Ga,Bi)、ZnGa等の酸化ガリウム系半導体や他の酸化物半導体が挙げられる。
【0050】
まず、図8に示すように、イオン注入によって半導体基板52の表面52aにドーパントを導入する。ここでは、半導体基板52の表面52aの全体にドーパントを導入する。これにより、半導体基板52の表面52aに臨む範囲(表層部)にイオンが注入された高抵抗領域56を形成する。導入するドーパントは特に限定されないが、例えば、FeやVを採用することができる。次に、図9に示すように、半導体基板52の表面52a上に半導体基板54を積層する。
【0051】
次いで、積層した半導体基板52、54を酸素を含む雰囲気下でアニールする。酸素を含む雰囲気とは、元素として酸素を含む雰囲気を意味する。例えば、酸素(O)ガス等の雰囲気下で半導体基板52及び54をアニールする。これにより、半導体基板52と半導体基板54の界面55を高抵抗化させる。すなわち、この工程では、高抵抗領域56を含む半導体基板52、54の界面55近傍の領域の抵抗をより高くする。
【0052】
その後、半導体基板52と半導体基板54の間に電流を流す。具体的には、図9に示すように、半導体基板54の表面54aと、半導体基板52の裏面52bにプローブ59をそれぞれ接触させる。そして、プローブ59を介して、半導体基板52、54に電流を流す。半導体基板52の表面52aには高抵抗領域56が形成されている。さらに、アニールによって半導体基板52と半導体基板54の界面55近傍の抵抗が高くなっている。このため、半導体基板52及び54の積層体に電流を流すと、界面55近傍の温度が、その周囲の領域よりも高温まで上昇する。すると、界面55近傍において、半導体材料が溶融した溶融層60が生じ、溶融層60内の結晶構造が乱れる。その後、電流を停止すると、溶融層60が凝固する過程において、乱れた結晶構造が再度整列し、半導体基板52と半導体基板54を結合させることができる。以上の通り、実施例3の製造方法では、積層した半導体基板52、54に電流を流すことによって、半導体基板52、54を容易に結合させることができる。
【0053】
なお、実施例3では、半導体基板52、54の全体がβ-Gaにより構成されていたが、半導体基板52の表面52a近傍の領域、及び半導体基板54の裏面54b近傍の領域(すなわち、結合させる面に臨む範囲)のみがβ-Gaにより構成されていてもよい。
【0054】
また、実施例3では、ドーパントをイオン注入することによって高抵抗領域56を形成した。しかしながら、例えば、ドーパントを含む半導体材料を半導体基板52の表面52aにエピタキシャル成長させることにより、高抵抗領域56を形成してもよい。また、半導体基板52を構成する材料とは異なる異種材料(例えば、SiO等)を表面52aに形成することにより高抵抗領域56を形成してもよい。
【0055】
また、実施例3では、半導体基板52の表面52a近傍の表層部に高抵抗領域56を形成したが、半導体基板54の裏面54a近傍の表層部に高抵抗領域を形成してもよい。また、半導体基板52の表面52a近傍の表層部と半導体基板54の裏面54a近傍の表層部の両方に高抵抗領域56を形成してもよい。
【0056】
また、実施例3では、イオンを注入することによって、高抵抗領域56を形成したが、これに代えて、又は加えて、イオンを注入することによって、周囲よりも熱抵抗が高い高熱抵抗領域を形成してもよい。なお、高熱抵抗領域は、上述したドーパントや異種材料により形成してもよい。高熱抵抗領域は、電流を流したときに、その周囲の領域よりも熱が停滞し易く、当該周囲の領域よりも温度が上昇し易い。このため、高熱抵抗領域を形成することによっても大きな熱応力を印加することができる。高熱抵抗領域は、半導体基板52の表面52a近傍の表層部に形成してもよいし、半導体基板54の裏面54a近傍の表層部に形成してもよいし、これらの表層部の両方に形成してもよい。同様に、アニールすることにより界面55を高抵抗化させる工程に代えて、又は加えて、アニールすることにより、半導体基板52と半導体基板54の界面55を高熱抵抗化してもよい。なお、上述した高抵抗領域56や高熱抵抗領域は、形成されなくてもよい。すなわち、本明細書に開示の技術において、ドーパント又は異種材料を導入する工程は備えなくてもよい。また、アニールする工程についても備えていなくてもよい。このような構成であっても、半導体基板52、54の間に電流を流すことによって、半導体基板52、54を結合させることができる。
【0057】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0058】
10:半導体装置、12:半導体基板、12a:表面、12b:裏面、16:プローブ、18:電極、30:素子領域、32:分割予定領域、34、40:高抵抗領域、52、54:半導体基板、56:高抵抗領域、59:プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10