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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/21 20060101AFI20240611BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20240611BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20240611BHJP
   H01J 37/153 20060101ALI20240611BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20240611BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01J37/21 Z
H01J37/244
H01J37/147 C
H01J37/147 A
H01J37/153 A
H01J37/153 B
H01J37/153 Z
H01L21/30 541F
H01L21/30 541Q
G03F7/20 504
G03F7/20 521
H01J37/147 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021042464
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142325
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和也
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-187980(JP,A)
【文献】特開2021-022479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを生成する光源と、前記荷電粒子ビームに対する光学系と、前記荷電粒子ビームに対するぼけ測定手段とを備え、
前記光学系は、前記荷電粒子ビームによって照射される被照射面に前記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備え、
前記光学系は、前記光源の像か、前記光学系内に配置され、前記荷電粒子ビームによって照射される開口板の開口の透過像か、または、前記光学系内に配置され、前記荷電粒子ビームによって照射される薄膜の透過像かを、前記少なくとも1段のレンズによって前記被照射面上に結び、
前記光学系は、さらに、前記被照射面の高さ位置に現れるデフォーカスを補正するフォーカス補正手段と、前記被照射面の高さ位置に現れる2回非点収差を補正する2回非点補正手段とを備え、
前記フォーカス補正手段は、前記デフォーカスを補正するための信号をフォーカス補正信号として与えられ、前記フォーカス補正信号に応じて前記デフォーカスを変化させ、
前記2回非点補正手段は、前記2回非点収差を補正するための信号を2回非点補正信号として与えられ、前記2回非点補正信号に応じて前記2回非点収差を変化させ、
前記ぼけ測定手段は、前記被照射面の高さ位置に現れる、前記荷電粒子ビームのぼけであって、前記デフォーカスおよび前記2回非点収差次第で大きさを変えるぼけを、測定する、
ように構成された荷電粒子ビーム装置であって、
前記2回非点補正信号の強度を増減しながら、前記ぼけ測定手段により、前記ぼけの大きさを、前記被照射面内の互いに直交する2方向の各々に沿って測定し、前記ぼけの前記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする前記2回非点補正信号の強度と、前記ぼけの前記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする前記2回非点補正信号の強度との差を、第一の差として決定し、前記第一の差により、前記デフォーカスを表すという、第一の方法か、
前記2回非点補正信号の強度を増減しながら、前記ぼけ測定手段により、前記ぼけの大きさを、前記被照射面内の互いに直交する2方向の各々に沿って測定し、前記ぼけの前記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする前記2回非点補正信号の強度と、前記ぼけの前記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする前記2回非点補正信号の強度との平均を、第一の平均として決定し、前記ぼけの前記2方向のうちのいずれか1方向の大きさを最小とする前記2回非点補正信号の強度と、前記第一の平均との差を、第二の差として決定し、前記第二の差により、前記デフォーカスを表すという、第二の方法か、
あるいは、前記2回非点補正信号の強度を増減しながら、前記ぼけ測定手段により、前記ぼけの大きさを、前記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、前記ぼけの前記単一の方向の大きさを最小とする前記2回非点補正信号の強度と、前記2回非点補正信号の強度を増減しながら前記ぼけの大きさを前記単一の方向に沿って測定する前における前記2回非点補正信号の強度との差を、第三の差として決定し、前記第三の差により、前記デフォーカスを表すという、第三の方法により、前記デフォーカスを取得する
ように構成されたことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記被照射面の高さ位置に、前記ぼけを測定するためのナイフエッジ状のぼけ測定媒体を備え、
さらに、前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することによって前記荷電粒子ビームに前記ぼけ測定媒体を走査せしめるための走査手段を備え、
前記ぼけ測定媒体と前記走査手段とを前記ぼけ測定手段として用い、
前記ぼけ測定手段による前記ぼけの測定は、前記走査手段によって前記ぼけ測定媒体を走査しながら、前記荷電粒子ビームの、前記ぼけ測定媒体に遮られなかった部分の電流、または、前記ぼけ測定媒体に遮られた部分の電流を検出し、該検出された電流の波形の鈍りに基づいて前記ぼけを評価することによる、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記2回非点補正信号は、互いに独立な2成分から構成され、
前記2回非点補正信号を構成する互いに独立な2成分が前記2回非点補正手段に与えられることにより、前記2回非点収差に、互いに線形独立な2成分からなる変化が与えられ、
前記2回非点補正信号を構成する互いに独立な2成分の各々を増減して取得される2通りの前記第一、前記第二、または前記第三の差のうち、零でない大きさを持つ、いずれか1通りの前記第一、前記第二、または前記第三の差により、前記デフォーカスが表される、
請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記零でない大きさを持つ、いずれか1通りの前記第一、前記第二、または前記第三の差は、前記2通りの前記第一、前記第二、または前記第三の差のうち、いずれか絶対値の小さくない方の1通りの前記第一、前記第二、または前記第三の差であり、
前記いずれか絶対値の小さくない方の1通りの前記第一、前記第二、または前記第三の差により、前記デフォーカスが表される、
請求項3に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記2回非点補正信号を構成する互いに独立な2成分のうちの1成分であって、前記デフォーカスを表すための前記1通りの前記第一、前記第二、または前記第三の差を呈する1成分を、第一の成分と称し、
前記第一の方法により、前記第一の成分の呈する前記第一の差を決定するか、前記第二の方法により、前記第一の成分の呈する前記第二の差を決定するか、または、前記第三の方法により、前記第一の成分の呈する前記第三の差を決定するかし、
前記デフォーカスを、前記第一の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差によって表し、
前記フォーカス補正信号の強度に所定の変化量を与え、前記第一の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差であって、前記フォーカス補正信号の強度に前記所定の変化量が与えられる前後における前記第一、前記第二、または前記第三の差と、前記所定の変化量とから、前記第一の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差の、前記フォーカス補正信号の強度に関する偏微分係数を、第一の偏微分係数として決定し、
前記第一の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差によって表された前記デフォーカスを、前記第一の偏微分係数により、前記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算する、
請求項3または請求項4に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
前記第一の偏微分係数を決定した後に、該決定された前記第一の偏微分係数の値を記憶し、
該決定された前記第一の偏微分係数の値を記憶した以降に、前記第一の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差によって表された前記デフォーカスの、前記フォーカス補正信号の強度の変化量への換算に、前記記憶された値の前記第一の偏微分係数を、繰り返し用いる、
請求項5に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
前記デフォーカスを前記第一の偏微分係数によって前記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算した後に、そうして前記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算された前記デフォーカスを、前記フォーカス補正信号の強度に前記所定の変化量が与えられる前における前記フォーカス補正信号の強度から減算し、該減算の結果に等しい強度の前記フォーカス補正信号を、前記フォーカス補正手段に与える、
請求項5または請求項6に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第二の差によって表す場合には、前記第一の平均に等しい強度の前記第一の成分を、前記2回非点補正手段に与え、
前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第一の差によって表す場合には、前記ぼけの前記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする前記第一の成分の強度と、前記ぼけの前記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする前記第一の成分の強度との平均を、前記第一の平均として決定し、前記第一の平均に等しい強度の前記第一の成分を、前記2回非点補正手段に与える、
請求項7記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第三の差によって表す場合には、
前記デフォーカスの取得のために前記第一の成分の強度を増減しながら前記ぼけの大きさを前記被照射面内の単一の方向に沿って測定する前に、前記ぼけの、前記単一の方向の大きさを最小とする前記第一の成分の強度と、前記ぼけの、前記被照射面内で前記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする前記第一の成分の強度との平均を、第二の平均として決定し、前記第二の平均に等しい強度の前記第一の成分を、前記2回非点補正手段に与えておく、
請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
前記2回非点補正信号を構成する互いに独立な2成分のうちの、前記第一の成分とは別の1成分を、第二の成分と称し、前記第二の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差を決定し、前記フォーカス補正信号の強度に、前記所定の変化量を、または前記所定の変化量とは別の所定の変化量を、与え、前記第二の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差であって、前記フォーカス補正信号の強度に前記所定の変化量または前記別の所定の変化量が与えられる前後における前記第一、前記第二、または前記第三の差と、前記所定の変化量または前記別の所定の変化量とから、前記第二の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差の、前記フォーカス補正信号の強度に関する偏微分係数を、第二の偏微分係数として決定し、
前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第一の差によって表す場合には、前記第二の成分の呈する前記第一の差を、前記第一の方法によって決定するとともに、前記第二の偏微分係数を、前記第二の成分の呈する前記第一の差から決定し、前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第二の差によって表す場合には、前記第二の成分の呈する前記第二の差を、前記第二の方法によって決定するとともに、前記第二の偏微分係数を、前記第二の成分の呈する前記第二の差から決定し、前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第三の差によって表す場合には、前記第二の成分の呈する前記第三の差を、前記第三の方法によって決定するとともに、前記第二の偏微分係数を、前記第二の成分の呈する前記第三の差から決定し、
前記デフォーカスを、前記第一の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差によって表した後であって、そうして表された前記デフォーカスを前記第一の偏微分係数によって前記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算した後に、そうして前記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算された前記デフォーカスを、さらに、前記第二の偏微分係数により、前記第二の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差に換算し、
前記ぼけの前記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする前記第二の成分の強度と、前記ぼけの前記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする前記第二の成分の強度との平均を、別の第一の平均として決定するか、または、前記ぼけの、前記単一の方向の大きさを最小とする前記第二の成分の強度と、前記ぼけの、前記被照射面内で前記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする前記第二の成分の強度との平均を、別の第二の平均として決定するかし、
前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第一の差によって表す場合には、前記ぼけの前記2方向のうちのいずれか1方向の大きさを最小とする前記第二の成分の強度と、前記第二の成分の呈する前記第一の差に換算された前記デフォーカスとから、前記別の第一の平均を決定するという、第四の方法により、前記別の第一の平均を決定し、
前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第二の差によって表す場合には、前記ぼけの前記2方向のうちのいずれか1方向の大きさを最小とする前記第二の成分の強度と、前記第二の成分の呈する前記第二の差に換算された前記デフォーカスとから、前記別の第一の平均を決定するという、第五の方法により、前記別の第一の平均を決定し、
前記デフォーカスを前記第一の成分の呈する前記第三の差によって表す場合には、前記ぼけの、前記単一の方向の大きさを最小、または、前記ぼけの、前記被照射面内で前記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする前記第二の成分の強度と、前記第二の成分の呈する前記第三の差に換算された前記デフォーカスとから、前記別の第二の平均を決定するという、第六の方法により、前記別の第二の平均を決定し、
前記決定された前記別の第一または前記別の第二の平均に等しい強度の前記第二の成分を、前記2回非点補正手段に与える、
請求項8または請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
前記第二の偏微分係数を決定した後に、該決定された前記第二の偏微分係数の値を記憶し、
該決定された前記第二の偏微分係数の値を記憶した以降に、前記第一の偏微分係数によって前記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算された前記デフォーカスの、前記第二の成分の呈する前記第一、前記第二、または前記第三の差への換算に、前記記憶された値の前記第二の偏微分係数を、繰り返し用いる、
請求項10に記載の荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結像機能を持つ荷電粒子ビーム装置に関する。そのような装置には、電子ビーム描画装置、電子ビーム3次元造形装置、走査型電子顕微鏡(SEM)、および透過型電子顕微鏡(TEM)が含まれる。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム装置とは、ある目的のために荷電粒子ビームを制御および利用する装置である。荷電粒子ビームは、電子ビームとイオンビームに大別される。
荷電粒子ビーム装置の中でも、結像機能を持ち、微細な描画、造形、および観察等を目的とする装置は、用いるビームの収差およびぼけが小さいことを要求される。電子ビーム描画装置、電子ビーム3次元造形装置、走査型電子顕微鏡、および透過型電子顕微鏡は、そのような装置の代表である。
【0003】
上記のような装置の一つとして、可変成形電子ビーム描画装置(特許文献1および非特許文献1を参照)を、以下に説明する。
【0004】
可変成形電子ビーム描画装置は、微細な描画を可能としつつ、かつ高い描画スループットを得ることを目的に生み出された電子ビーム描画装置である。可変成形電子ビーム描画装置は、主に、半導体デバイス製造用のフォトマスクの描画に用いられる。
可変成形電子ビーム描画装置は、上記目的のため、被描画材料(被露光材料)上における電子ビームの断面の形状および寸法を可変とし、その形状および寸法を、描画されるパターンに応じて制御する。ここで、被描画材料上における電子ビームの断面は、そのビームにより一度に露光される領域を決定する。
【0005】
可変成形電子ビーム描画装置で用いられる光学系の例を、図24に示す。図24においては、説明の便宜上、光学系構成要素(レンズ、偏向器、および開口類)がZ軸に沿って配置され、Z軸の正の向きに電子ビーム1が流れるものとする。この光学系におけるレンズおよび偏向器類は、磁界型および静電型のいずれであってもよいが、以降では、特に明示のない限り、それぞれ、磁界型および静電型であるものとする。
【0006】
上記光学系は、まず、図24に示すように、電子ビーム1を、照射レンズ2により収束するとともに、電子ビーム1により、第1の成形開口板3を照射する。ここで、電子ビーム1の供給源、即ち光源4としては、一般には、電子銃(図示せず)中に形成されるクロスオーバを想定すればよい。
上記照射の結果、第1の成形開口板3の下に、光源の像5が結ばれる。光源の像5の位置は、図24において、光源4の高さ位置に起点を持つ光線(破線)が交わる位置に一致する。上記光学系の生む光源の像(光源の像5、16、および19)は、いずれも、これら光線が交わる位置に結ばれる。
【0007】
上記光学系は、次に、第1の成形開口板3の開口の像を、成形レンズ6により、第2の成形開口板7に投影する。その像の位置は、図24において、第1の成形開口板3の高さ位置に起点を持つ光線(実線)が最初に交わる位置に一致する。上記光学系の生む成形開口板の開口の像(投影図形11を含む)は、いずれも、これら光線が交わる位置に結ばれる。
上記光学系は、そして、第1の成形開口板3の開口の像と第2の成形開口板7の開口との重なりによって生じる図形(論理積)の像を、縮小レンズ8と対物レンズ9により、材料10に投影する。即ち、材料10が露光される。材料10には、レジスト(感光材料)が塗布されている。
上記露光の結果、材料10上のレジストが感光する。即ち、投影図形11が材料10上のレジストに転写される。従って、投影図形11の形状、寸法、位置、および露光時間を制御することで、材料10に所望のパターンが描画できる。
【0008】
投影図形11の形状と寸法(二次元)の制御は、成形偏向器12による。成形偏向器12によって電子ビーム1が偏向されれば、上述の重なりによって生じる図形の形状と寸法が変わり、従って、投影図形11の形状と寸法も変わる。
【0009】
投影図形11の位置(二次元)の制御は、対物偏向器13と材料ステージ14との併用による。対物偏向器13の偏向可能領域、即ち偏向フィールド(正方形または長方形)には制限があるため、まず、材料ステージ14によって材料10を移動させることで、ステップの大きな位置決めが行われ、次に、対物偏向器13によって電子ビーム1を偏向することで、ステップの小さな位置決めが行われる。
上記偏向フィールドの制限は、対物偏向器13を駆動する電源(図示せず)の定格出力および対物偏向器13の偏向感度による。ここで、偏向感度とは、材料10の表面の高さ位置における、単位印加電圧当たりの偏向量を指す。
【0010】
対物偏向器13の偏向フィールドは、描画スループット(描画速度)の観点からは、大きい方がよい。これは、対物偏向器13の偏向フィールドを大きくすれば、その分だけ、材料ステージ14の移動および停止の回数が減ることによる。
ここで、材料ステージ14の移動および停止は、材料10への描画の間、無駄時間(材料10への描画に直接寄与しない時間)を生む。その移動および停止の回数は、対物偏向器13の偏向フィールドの面積の、材料10の面積に対する比に反比例する。
つまり、対物偏向器13の偏向フィールドを大きくし、そうして材料ステージ14の移動および停止の回数を減らせば、上記無駄時間が減り、その結果、描画スループットが向上する。
【0011】
対物偏向器13は、8極の静電偏向器(多極子)である。対物偏向器13の目的は電子ビーム1の二次元偏向であるから、対物偏向器13の極数は4極(X偏向用およびY偏向用に各々2極)としてもよい。しかし、その極数を4極とすると、対物偏向器13の中心からの半径に対し非線形な電位成分が新たに生じ、従って、その電位成分に由来する偏向収差が無視できなくなる。対物偏向器13の極数を8極とすることで、その電位成分が低減され、従って、その電位成分に由来する偏向収差が低減される。
【0012】
投影図形11の露光時間の制御は、ブランカー15による。ブランカー15が作動しない間は、電子ビーム1が材料10に入射し、材料10が露光されるが、ブランカー15が作動すると、電子ビーム1が途中で遮断され、材料10は露光されなくなる。従って、上記露光時間は、ブランカー15の作動が一旦解除されてからそれが再び開始されるまでの時間である。ここで、ブランカー15の作動によって電子ビーム1が遮断されるのは、その作動による電子ビーム1の偏向の結果、電子ビーム1がブランキング開口板17の非開口部に入射することによる。ブランカー15は、上述のような無駄時間中にも、電子ビーム1をこのように遮断する。
【0013】
可変成形電子ビーム描画装置の重要な性能指標は、描画スループット(描画速度)と描画精度である。これら性能指標に対する要求は、年々高くなっている。
【0014】
これら性能指標を同時に向上させることは可能だが、これら性能指標のうち、描画スループットを向上させると、描画精度が低下しがちとなる。即ち、描画スループットを向上させようとすると、描画精度向上の必要が増す。このことは、図24を用いれば、次のように説明できる。
上記性能指標のうち、描画スループットを向上させるには、材料10上における電子ビーム1の電流密度を高くする必要がある。(電子ビーム1の電流密度が高くなれば、それに反比例して投影図形11の露光時間が短くなる。)一方、描画精度を向上させるには、材料10上における電子ビーム1のぼけを小さくする必要がある。
ここで、描画精度とは、より具体的には、寸法精度である。可変成形電子ビーム描画装置の描画精度は、寸法精度と位置精度に大別される。これら描画精度のうち、前者には、主に電子ビーム1のぼけが関わり、後者には、主に電子ビーム1の位置ずれが関わる。
しかし、描画スループットを高くすべく、材料10上における電子ビーム1の電流密度を高くすると、材料10上における電子ビーム1のぼけが大きくなりがちとなる。これには、対物レンズ9および対物偏向器13の生む収差が関わる。
【0015】
このことから、上記光学系(図24を参照)においては、描画精度向上の一環として、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に起因しないデフォーカス(フォーカスずれ)および非点収差が定期的に測定され、そして補正される。そのデフォーカスおよび非点収差は、いずれも、ナイフエッジ法(例えば、特許文献2を参照)によって測定され、そして補正される。
ここで、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に起因しないデフォーカスおよび非点収差とは、それぞれ、対物偏向器13によって電子ビーム1が偏向されていない状態下で材料10上に現れるデフォーカスおよび2回非点収差であり、即ち、それぞれ、対物偏向器13の偏向フィールドの中央におけるデフォーカスおよび2回非点収差である。
以降では、そのようなデフォーカスおよび非点収差を、それぞれ、軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差と称す。本明細書では、軸上デフォーカスを、軸上2回非点収差などと同様に、収差として扱う。
【0016】
上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差は、より詳細には、それぞれ、電子ビーム1に含まれる各主光線周りの光線が材料10の表面(近軸像面)において各主光線に対して示すデフォーカスおよび2回非点収差である。これら収差は、投影図形11内の座標に依存せず、投影図形11内の全域に現れる。(同様のことは、後述する偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差にも当てはまる。)
ここで、電子ビーム1に含まれる主光線は、投影図形11内の像点の数(無数)だけ存在し、それら主光線は、全て、光源の像5、16、および19の各々の中心を通る。即ち、電子ビーム1に含まれる主光線は、光源の像5、16、および19の各々の高さ位置において1点に交わる。
補足すれば、投影図形11内には、投影図形11内の座標に依存するデフォーカスおよび2回非点収差も現れる。しかし、本明細書では、そのようなデフォーカスおよび2回非点収差は、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差(さらには、後述する偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差)に比して十分に小さく、従って無視できるものとする。
【0017】
上記光学系(図24を参照)においては、描画精度向上の一環として、さらに、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に起因する偏向収差が定期的に測定され、そして補正される。これら収差は、電子ビーム1が対物偏向器13によって偏向された状態で、ナイフエッジ法によって測定され、そして補正される。これら収差の測定および補正は、対物偏向器13の偏向フィールド内の複数の点において行われる。これら複数の点は、より具体的には、対物偏向器13の偏向フィールドをX方向およびY方向に幾つかに等分割または不等分割することで得られる格子点である。
ここで、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に起因する偏向収差とは、具体的には、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に伴って材料10の高さ位置に現れる偏向歪収差、偏向像面湾曲収差(対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に起因するデフォーカス)、偏向非点収差(対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に起因する非点収差)、偏向コマ収差、および偏向色収差である。これら収差のうち、偏向歪収差は電子ビーム1の位置ずれに寄与し、その他は電子ビーム1のぼけに寄与する。
ただし、これら偏向収差のうち、通常測定および補正されるのは、偏向歪収差、偏向像面湾曲収差、および偏向非点収差である。ここで、偏向非点収差とは、より具体的には、偏向2回非点収差である。以降では、偏向歪収差についての説明は、割愛する。
【0018】
上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差は、それぞれ、フォーカス補正電流、2回非点補正電圧、フォーカス補正電圧、および2回非点補正電圧に対する、電子ビーム1のぼけの曲線に基づいて測定され、そして補正される。
即ち、上記各収差(上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、または偏向2回非点収差)の測定および補正のため、上記各補正信号(フォーカス補正電流、2回非点補正電圧、フォーカス補正電圧、または2回非点補正電圧)に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得される。そして、そのために取得された各曲線から、電子ビーム1のぼけを最小とする各補正信号の値(強度)が決定され、そうして決定された値の各補正信号が、各レンズまたは補正器(対物レンズ9、下記静電型2回非点補正器、下記静電型フォーカス補正器、または下記静電型2回非点補正器)に入力される。
ここで、フォーカス補正電流とは、上記軸上デフォーカスの補正のために対物レンズ9(または縮小レンズ8)の励磁電流に加算される電流を指す。2回非点補正電圧とは、上記軸上2回非点収差および偏向2回非点収差の補正のために静電型2回非点補正器(図示せず)に入力される電圧を指す。フォーカス補正電圧とは、上記偏向像面湾曲収差の補正のために静電型フォーカス補正器(図示せず)に入力される電圧を指す。その静電型2回非点補正器および静電型フォーカス補正器は、例えば、対物偏向器13の高さ位置と同じ程度の高さ位置に設けられる。フォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧は、各々、1成分からなるが、2回非点補正電圧は、互いに独立な2成分からなる。
【0019】
フォーカス補正電流、2回非点補正電圧、およびフォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線は、それぞれ、フォーカス補正電流、2回非点補正電圧、およびフォーカス補正電圧を増減しながらナイフエッジ法によって電子ビーム1のぼけを測定することで、取得される。これら曲線は、より詳細には、そうして得られたぼけの複数の測定値に対する近似曲線である。これら曲線は、補正信号毎、およびその成分毎に、取得される。
【0020】
上記各収差(上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、または偏向2回非点収差)を上述の要領によって測定し、そして補正することは、上記各収差を零位法によって測定することに相当する。即ち、上記各収差の測定値および補正値は、電子ビーム1のぼけが最小となるとき、互いに釣り合う。ここで、上記各収差の測定値とは、上記各補正信号(フォーカス補正電流、2回非点補正電圧、フォーカス補正電圧、または2回非点補正電圧)に換算された上記各収差である。上記各収差の補正値とは、電子ビーム1のぼけを最小とする、上記各補正信号の値である。
上記各収差の測定値および補正値は、互いに大きさを同じくし、互いに符号を逆にする。この関係は、補正信号毎、およびその成分毎に、成立する。
【0021】
補足すれば、原理上、上記軸上デフォーカスは、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正の際に、上記偏向像面湾曲収差とともに測定および補正できる。即ち、上記軸上デフォーカスは、上記偏向像面湾曲収差の一部と見なせる。
しかし、実際にそのようにすると、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正の際に、一度に測定および補正すべき量(上記軸上デフォーカスと上記偏向像面湾曲収差との和)が大きくなる。その結果、フォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得できないという、好ましくない事態が発生しやすくなる。
ここで、フォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得できない事態とは、その曲線の谷の位置を確認するに足る幅だけフォーカス補正電圧を増減しようとすると、上記静電型フォーカス補正器に入力されるべきフォーカス補正電圧が、上記静電型フォーカス補正器に入力可能なフォーカス補正電圧の範囲から外れることを、指す。
同様のことは、上記軸上2回非点収差にも当てはまる。即ち、上記軸上2回非点収差は、上記偏向2回非点収差の測定および補正の際に、上記偏向2回非点収差とともに測定および補正できる。上記軸上2回非点収差を上記偏向2回非点収差とともに測定および補正すれば、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得できないという事態が発生しうる。
ただし、このような好ましくない事態は、上記軸上2回非点収差を上記偏向2回非点収差とともに測定および補正するときよりも、上記軸上デフォーカスを上記偏向像面湾曲収差とともに測定および補正するときに、より発生しやすい。これには、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差の持ちうる大きさが関わるとともに、上記静電型フォーカス補正器のフォーカス補正感度、および、上記静電型2回非点補正器の2回非点補正感度が関わる。ここで、フォーカス補正感度とは、単位フォーカス補正電圧当たりの、デフォーカスの補正量を指す。2回非点補正感度とは、単位2回非点補正電圧当たりの、2回非点収差の補正量を指す。
【0022】
以上の説明においては、上記軸上デフォーカスが対物レンズ9(磁界型レンズ)によって補正され、また、上記軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差がそれぞれ上記静電型2回非点補正器、静電型フォーカス補正器、および静電型2回非点補正器(いずれも、静電型補正器)によって補正されるものとした。これら収差の補正を磁界型レンズ(または磁界型補正器)によるべきか、あるいは静電型補正器によるべきかは、補正される収差の補正が静的補正か、あるいは動的補正かに、依存する。ここで重要となるのは、静電型補正器は一般に磁界型レンズおよび磁界型補正器よりも速く動作することである。(速く動作するとは、補正信号に対して、より速い応答を示すことを、意味する。)
上記光学系が上記軸上デフォーカスの補正を対物レンズ9によるのは、上記光学系においては、上記軸上デフォーカスの補正は静的補正であればよいことによる。同様のことは、上記軸上2回非点収差にも当てはまる。即ち、上記軸上2回非点収差の補正を、上記静電型2回非点補正器にではなく、磁界型2回非点補正器(図示せず)によってもよい。
上記光学系(図24を参照)が上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差の補正をそれぞれ上記静電型フォーカス補正器および静電型2回非点補正器によるのは、上記光学系においては、これら収差の補正は動的補正である必要があることによる。即ち、可変成形電子ビーム描画装置は、自身の描画スループットを高めるべく、このような偏向収差の補正を、偏向座標毎に、高速に行う必要がある。(偏向座標とは、対物偏向器13の偏向フィールド内の座標を指す。)
以降では、説明の便宜上、特に明示のない限り、上記軸上デフォーカスの補正を、先述の通り、対物レンズ9によるものとし、その一方で、上記軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の補正を、全て、対物偏向器13によるものとする。
ここで、上記軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の補正を全て対物偏向器13によるとは、対物偏向器13に上記静電型2回非点補正器を兼ねさせるべく、偏向電圧に2回非点補正電圧を重畳する(例えば、特許文献2を参照)とともに、対物偏向器13に上記静電型フォーカス補正器を兼ねさせるべく、偏向電圧にフォーカス補正電圧を重畳する(例えば、特許文献2を参照)ことを、意味する。(偏向電圧とは、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向のために対物偏向器13に入力される電圧を指す。)対物偏向器13に上記静電型2回非点補正器および静電型フォーカス補正器を兼ねさせれば、専用の非点補正器およびフォーカス補正器(即ち、上記静電型2回非点補正器および静電型フォーカス補正器)がいずれも不要になるだけでなく、それら補正器を駆動する電源(図示せず)も不要になる。
【0023】
補足すれば、対物偏向器13は、単体では、低いフォーカス補正感度しか持ちえない。上記偏向像面湾曲収差の補正に足る程度に高いフォーカス補正感度を対物偏向器13に持たせるには、対物偏向器13を磁界型レンズの磁界中に配置することが必要である。上記光学系(図24を参照)においてその磁界に相当するのは、対物レンズ9の磁界である。
対物偏向器13が対物レンズ9の磁界中に配置されれば、対物偏向器13へのフォーカス補正電圧の入力により、対物偏向器13内の電位が、周囲の電位より高く(または低く)なる。その結果、対物レンズ9の収束作用の強度が変わる。これは、対物偏向器13へのフォーカス補正電圧の入力の結果、対物レンズ9の磁界中における電子ビーム1の運動エネルギーが変わるからである。
対物偏向器13に関するこれらのことは、上記静電型フォーカス補正器にも当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】特開2007-67192号公報
【文献】特開2014-194982号公報
【非特許文献】
【0025】
【文献】K. Komagata, Y. Nakagawa, H. Takemura and N. Gotoh, Proc. SPIE, Vol.3096, pp.125-136, (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
上述の要領によって上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差を測定し、そして補正することには、次の2つの問題がある。
【0027】
第一に、上記軸上デフォーカスの測定および補正においては、フォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線の取得のため、長い時間が必要となる。これは、フォーカス補正電流に対する対物レンズ9の応答の遅さに起因する。その応答には、対物レンズ9の自己共振周波数が関わる。
【0028】
第二に、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正においては、対物偏向器13が静電型フォーカス補正器として動作しうる範囲が狭く、従って、上記偏向像面湾曲収差の測定可能な範囲が狭い。その測定可能な範囲が十分に広くなければ、先述のような好ましくない事態が発生しうる。即ち、上記偏向像面湾曲収差の測定の際に、フォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得できない事態が発生しうる。
ここで、対物偏向器13が静電型フォーカス補正器として動作しうる範囲とは、対物偏向器13がフォーカス補正電圧に応じてナイフエッジ(図示せず)上のデフォーカスを変化させうる範囲である。(ナイフエッジ上のデフォーカスとは、上記偏向像面湾曲収差と、対物偏向器13へのフォーカス補正電圧の入力に起因するデフォーカスとの合成による収差である。)この範囲には、静電型フォーカス補正器としての対物偏向器13のフォーカス補正感度が関わる。一方、上記偏向像面湾曲収差の測定可能な範囲とは、より具体的には、上記偏向像面湾曲収差が、先述のように零位法によって測定されうる範囲である。
【0029】
上記第一の問題は、上記軸上デフォーカスの測定および補正の回数(頻度)次第で、大きな問題となる。その測定および補正の回数が増えれば、その回数に比例するように、取得されるべき曲線の本数が増える。
上記回数が増えうるのは、例えば、材料10内に大きな高低差があり、それゆえ上記軸上デフォーカスが材料10内の領域毎に大きく異なるような場合(本発明の実施例9を参照)においてである。そのような場合においては、上記軸上デフォーカスの補正残差を材料10内の領域毎に低減すべく、材料10内における上記軸上デフォーカスの測定点数を増やす必要が生じる。即ち、その測定点数に比例するように、上記回数が増える。
【0030】
上記第一の問題において注意すべきは、上記曲線の取得において、フォーカス補正電流は、上記曲線1本当たり複数の離散的な値を与えられること、そして、それら値毎に、電子ビーム1のぼけが測定されることである。即ち、それら値の個数に等しい回数だけ、電子ビーム1のぼけが測定され、その測定のたびに、フォーカス補正電流の変化に対する、上記ナイフエッジ上のデフォーカスの整定を待つ必要がある。つまり、その回数分の、電子ビーム1のぼけの測定に要する正味の時間に加え、その回数分の、上記ナイフエッジ上のデフォーカスの整定のための待ち時間(無駄時間)が必要になる。さらには、それら時間が、上記曲線の本数分だけ必要になる。
【0031】
上記第一の問題は、上記軸上デフォーカスの測定および補正を、静電型フォーカス補正器としての対物偏向器13によれば、解消されうる。
しかし、その代償として、上記軸上デフォーカスの測定可能な範囲が狭まり、目的の軸上デフォーカスが測定できなくなる可能性が高まる。これは、対物偏向器13が静電型フォーカス補正器として動作しうる範囲の狭さからである。
つまり、上記第一の問題は、上記ナイフエッジ上のデフォーカスを補正する手段の動作可能範囲と応答速度のトレードオフに関わる。
【0032】
上記第二の問題は、対物偏向器13の偏向フィールドの大きさ次第で、大きな問題となる。その偏向フィールドを大きくすれば、先述のように描画スループットは向上するものの、上記偏向像面湾曲収差の大きさの変化しうる範囲の幅が大きくなり、従って、対物偏向器13が静電型フォーカス補正器として動作しうる範囲の狭さが、大きな問題になりやすくなる。ここで、上記偏向像面湾曲収差の大きさの変化しうる範囲の幅とは、対物偏向器13の偏向フィールド内における、上記偏向像面湾曲収差の最大値と最小値の差を指す。(上記偏向像面湾曲収差の最大値と最小値は、それぞれ、投影図形11の高さ位置の最大値と最小値に相当する。)
【0033】
上記第二の問題において注意すべきは、上記偏向像面湾曲収差の大きさの変化しうる範囲の幅は、図24中の光学系構成要素の加工および組立誤差(特に、対物レンズ9および対物偏向器13の加工および組立誤差)と、電子ビーム1の、対物レンズ9および対物偏向器13に対するアライメントとに起因して増大しうることである。
ここで、上記偏向像面湾曲収差の大きさは、仮に対物偏向器13の偏向フィールドが円形であれば、軸対称に分布する。その分布の中心は、上記誤差およびアライメント次第で、対物偏向器13の偏向フィールドの中央からずれる。そのずれが大きくなれば、上記偏向像面湾曲収差の大きさの変化しうる範囲の幅も、大きくなる。
【0034】
上記第二の問題においてさらに注意すべきは、たとえ、上記偏向像面湾曲収差の大きさの変化しうる範囲の幅が、対物偏向器13が静電型フォーカス補正器として動作しうる範囲の幅以下であるという条件が成立しても、先述の事態(フォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得できない事態)が発生しうることである。これには、これら幅の大きさが関わるとともに、フォーカス補正電圧の初期値も関わる。
【0035】
上記第二の問題は、まず、フォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線の取得を、フォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線の取得に置き換え、次に、それら曲線から、電子ビーム1のぼけを最小とするフォーカス補正電流の値を決定し、さらに、その値のフォーカス補正電流をフォーカス補正電圧に換算することで、解消されうる。
しかし、その代償として、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正に要する時間が長くなる。ここで注意すべきは、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正においては、フォーカス補正信号(フォーカス補正電圧またはフォーカス補正電流)に対する電子ビーム1のぼけの曲線が、先述の格子点毎に取得されることである。即ち、取得されるべき曲線の本数が、先述の格子点の数に比例する。
つまり、上記第二の問題も、上記第一の問題と同様に、上記ナイフエッジ上のデフォーカスを補正する手段の動作可能範囲と応答速度のトレードオフに関わる。
【0036】
本発明は、上記第一および第二の問題に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、自身の生むデフォーカス(軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差のいずれかまたは両方)を、短時間で、かつ十分に大きな測定可能範囲を以って測定し、さらにそのデフォーカスを補正することが可能な荷電粒子ビーム装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビームを生成する光源と、その荷電粒子ビームに対する光学系と、その荷電粒子ビームに対するぼけ測定手段とを備える。
【0038】
上記光学系は、上記荷電粒子ビームによって照射される被照射面に上記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備える。
上記光学系は、上記光源の像か、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームによって照射される開口板の開口の透過像か、または、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームによって照射される薄膜の透過像かを、上記少なくとも1段のレンズによって上記被照射面上に結ぶ。
上記光学系は、さらに、上記被照射面の高さ位置に現れるデフォーカスを補正するフォーカス補正手段と、上記被照射面の高さ位置に現れる2回非点収差を補正する2回非点補正手段とを備える。
【0039】
上記フォーカス補正手段は、上記デフォーカスを補正するための信号をフォーカス補正信号として与えられ、その信号に応じて上記デフォーカスを変化させる。
上記2回非点補正手段は、上記2回非点収差を補正するための信号を2回非点補正信号として与えられ、その信号に応じて上記2回非点収差を変化させる。
上記ぼけ測定手段は、上記被照射面の高さ位置に現れる、上記荷電粒子ビームのぼけを測定する。そのぼけは、自身の大きさを、上記デフォーカスおよび2回非点収差次第で変える。
【0040】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、下記3つの方法(第一、第二、および第三の方法)のいずれかによって上記デフォーカスを取得するように構成されている。
第一の方法は、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向の各々に沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度との差を、第一の差として決定し、この差により、上記デフォーカスを表す。
第二の方法は、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向の各々に沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度との平均を、第一の平均として決定し、上記ぼけの上記2方向のうちのいずれか1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記第一の平均との差を、第二の差として決定し、この差により、上記デフォーカスを表す。
第三の方法は、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、上記ぼけのその単一の方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら上記ぼけの大きさをその単一の方向に沿って測定する前における上記2回非点補正信号の強度との差を、第三の差として決定し、この差により、上記デフォーカスを表す。
【発明の効果】
【0041】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、上述のように、上記第一、第二、または第三の方法により、上記被照射面の高さ位置に現れるデフォーカスを取得するように、構成されている。
これにより、上記被照射面の高さ位置に現れるデフォーカスを、短時間で、かつ十分な測定可能範囲を以って測定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の実施例1の装置(可変成形電子ビーム描画装置)の光学系、測定系、および制御系の構成を示す図である。
図2】実施例1において偏向電圧、歪補正電圧、フォーカス補正電圧、および2回非点補正電圧が従う電極電圧配分を示す図である。
図3図1中の投影図形の電流密度分布の例を示す図である。
図4】A 2回非点補正電圧V2Aに対する、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を示す図である。B 2回非点補正電圧V2Bに対する、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を示す図である。C、D V2AおよびV2Bがともに零のときにナイフエッジ上に表れている2回非点収差が零でない場合に取得される、V2A(またはV2B)に対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を示す図である。
図5】XY差Dとフォーカス補正電流I0Aとの関係、およびXY差Dとフォーカス補正電流I0Aとの関係の例を示す図である。
図6】実施例1の装置の生む軸上デフォーカスの測定および補正のルーチンを示す図である。
図7図6中のサブルーチン(XY差DAnの決定)の内容を示す図である。
図8図6中の別のサブルーチン(I0A0 (m)の決定)の内容を示す図である。
図9】実施例1の装置の生む軸上デフォーカスの、別の測定および補正のルーチンを示す図である。
図10】実施例1の装置の生む偏向像面湾曲収差の測定および補正のルーチンを示す図である。
図11図10中のサブルーチン(V0A0 (m)(x,y)の決定)の内容を示す図である。
図12図11中のサブルーチン(V0A0 (m)の決定)の内容を示す図である。
図13】デフォーカス図形Sの例を示す図である。
図14】2回非点収差図形Sの例を示す図である。
図15】A S≠0かつV2SB=0が成立するときにV2SAが作る収差図形S+Sの例を示す図である。B S≠0かつV2SA=0が成立するときにV2SBが作る収差図形S+Sの例を示す図である。
図16】A S≠0かつV2SB=0が成立するときにV2SAが作る収差図形S+Sの成す楕円が、X軸またはY軸に平行な長軸(または短軸)を有する様子を示す図である。B S≠0かつV2SA=0が成立するときにV2SBが作る収差図形S+Sの成す楕円が、X軸およびY軸に対してπ/4(45°)だけ回転している長軸(または短軸)を有する様子を示す図である。
図17】xおよびyが、それぞれ、収差図形S+SのX方向およびY方向の幅であることを示す図である。
図18】実施例2の装置(可変成形電子ビーム描画装置)が、図8の示すサブルーチン(I0A0 (m)の決定)の代わりに実行するサブルーチン(I0A0 (m)、V2A0 (m)、およびV2B0 (m)の決定)の内容を示す図である。
図19図18中のサブルーチン(XY差DA0 (m)、XY平均MA0 (m)、およびXY平均MB0 (m)の決定)の内容を示す図である。
図20】実施例2の装置が、図12の示すサブルーチン(V0A0 (m)の決定)の代わりに実行するサブルーチン(V0A0 (m)、V2A0 (m)、およびV2B0 (m)の決定)の内容を示す図である。
図21】実施例9の装置(可変成形電子ビーム描画装置)の測定系の構成を示す図である。
図22】実施例10の装置(スポット電子ビーム描画装置)の光学系の構成を示す図である。
図23】実施例12の装置(透過型電子顕微鏡)の光学系の構成を示す図である。
図24】可変成形電子ビーム描画装置で用いられる光学系の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の概要>
本発明は、自身の生むデフォーカスを、短時間で、かつ十分な測定可能範囲を以って測定し、さらにそのデフォーカスを補正することが可能な荷電粒子ビーム装置を提供することを、目的とする。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、上記目的のため、以下のように構成されている。
【0044】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビームを生成する光源と、その荷電粒子ビームに対する光学系およびぼけ測定手段とを備える。
【0045】
上記光学系は、上記荷電粒子ビームによって照射される被照射面に上記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備える。
上記光学系は、上記光源の像か、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームによって照射される開口板の開口の透過像か、または、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームによって照射される薄膜の透過像かを、上記少なくとも1段のレンズによって上記被照射面上に結ぶ。
上記光学系は、さらに、上記被照射面の高さ位置に現れるデフォーカスを補正するフォーカス補正手段と、上記被照射面の高さ位置に現れる2回非点収差を補正する2回非点補正手段とを備える。
【0046】
上記フォーカス補正手段は、上記デフォーカスを補正するための信号をフォーカス補正信号として与えられ、その信号に応じて上記デフォーカスを変化させる。
上記2回非点補正手段は、上記2回非点収差を補正するための信号を2回非点補正信号として与えられ、その信号に応じて上記2回非点収差を変化させる。
上記ぼけ測定手段は、上記被照射面の高さ位置に現れる、上記荷電粒子ビームのぼけを測定する。そのぼけは、自身の大きさを、上記デフォーカスおよび2回非点収差次第で変える。
【0047】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、下記3つの方法(第一、第二、および第三の方法)のいずれかによって上記デフォーカスを取得するように構成されている。
第一の方法は、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向の各々に沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度との差を、第一の差として決定し、この差により、上記デフォーカスを表す。
第二の方法は、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向の各々に沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度との平均を、第一の平均として決定し、上記ぼけの上記2方向のうちのいずれか1方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記第一の平均との差を、第二の差として決定し、この差により、上記デフォーカスを表す。
第三の方法は、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、上記ぼけのその単一の方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度と、上記2回非点補正信号の強度を増減しながら上記ぼけの大きさをその単一の方向に沿って測定する前における上記2回非点補正信号の強度との差を、第三の差として決定し、この差により、上記デフォーカスを表す。
【0048】
上記構成においては、上述のように、上記第一、第二、または第三の方法により、上記デフォーカスが取得される。これにより、上記デフォーカスを、短時間で、かつ十分な測定可能範囲を以って測定することができるようになる。
これは、上記構成においては、上記デフォーカスが、フォーカス補正信号に対する上記ぼけの測定結果にではなく、2回非点補正信号に対する上記ぼけの測定結果に基づいて測定されることによる。その測定には、上記2回非点補正手段の、上記2回非点補正信号に対する応答の速さと、上記2回非点補正手段が上記2回非点補正信号に応じて上記2回非点収差を変化させうる範囲の大きさとが、活かされている。
ここで、2回非点補正信号に対する上記ぼけの測定結果とは、2回非点補正信号の複数の強度値に対する、上記ぼけの上記各方向の大きさの測定値である。これら測定値は、これら測定値に対する近似曲線によって表せる。そのようにすれば、各近似曲線の谷の位置から、上記ぼけの各方向の大きさを最小とする上記2回非点補正信号の強度が、決定できる。
【0049】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記被照射面の高さ位置に、上記ぼけを測定するためのナイフエッジ状のぼけ測定媒体を備え、さらに、上記光源から上記被照射面までの間に、上記荷電粒子ビームを偏向することによって上記荷電粒子ビームに上記ぼけ測定媒体を走査せしめるための走査手段を備え、該備えられたぼけ測定媒体および走査手段を、上記ぼけ測定手段として用いるように、構成できる。
上記ぼけ測定手段による上記ぼけの測定は、より具体的には、上記走査手段によって上記ぼけ測定媒体を走査しながら、上記荷電粒子ビームの、上記ぼけ測定媒体に遮られなかった部分の電流、または、上記ぼけ測定媒体に遮られた部分の電流を検出し、該検出された電流の波形の鈍りに基づいて上記ぼけを評価することによる。
【0050】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記2回非点補正信号は互いに独立な2成分から構成されるものとしたうえで、上記2回非点補正信号を構成する互いに独立な2成分が上記2回非点補正手段に与えられることにより、上記2回非点収差に、互いに線形独立な2成分からなる変化が与えられるように、構成できる。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、そのうえで、上記2回非点補正信号を構成する互いに独立な2成分の各々を増減して取得される2通りの上記第一、第二、または第三の差のうち、零でない大きさを持つ、いずれか1通りの上記第一、第二、または第三の差により、上記デフォーカスが表されるように、構成できる。
上記構成により、上記デフォーカスが零でない大きさを持っているにもかかわらず上記デフォーカスが零と誤判定されるという好ましくない事態が、確実に防止される。もし上記構成によらなければ、そのような事態が、上記2回非点補正信号に起因して上記被照射面上に発生する2回非点収差の回転角次第、および、上記2方向または単一の方向次第で、発生しうる。(ここで、上記2回非点補正信号に起因して上記被照射面上に発生する2回非点収差は、上記2回非点収差に与えられる、互いに線形独立な2成分からなる変化に、相当する。)
【0051】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記零でない大きさを持つ、いずれか1通りの上記第一、第二、または第三の差は、上記2通りの上記第一、第二、または第三の差のうち、いずれか絶対値の小さくない方の1通りの上記第一、第二、または第三の差であり、上記いずれか絶対値の小さくない方の1通りの上記第一、第二、または第三の差により、上記デフォーカスが表されるように、構成できる。
この構成により、上記デフォーカスの測定精度の低下が防止される。
【0052】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記デフォーカスを表すための上記1通りの上記第一、第二、または第三の差を呈する1成分を、第一の成分と称し、上記第一の方法により、上記第一の成分の呈する上記第一の差を決定するか、上記第二の方法により、上記第一の成分の呈する上記第二の差を決定するか、または、上記第三の方法により、上記第一の成分の呈する上記第三の差を決定するかし、上記デフォーカスを、上記第一の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差によって表すように、構成できる。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、そのうえで、上記フォーカス補正信号の強度に所定の変化量を与え、上記第一の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差であって、上記フォーカス補正信号の強度に上記所定の変化量が与えられる前後における上記第一、第二、または第三の差と、上記所定の変化量とから、上記第一の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差の、上記フォーカス補正信号の強度に関する偏微分係数を、第一の偏微分係数として決定し、上記第一の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差によって表された上記デフォーカスを、上記第一の偏微分係数により、上記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算するように、構成できる。
上記構成により、上記デフォーカスが、上記フォーカス補正信号の強度の変化量として評価される。従って、以降、その変化量に基づいて上記デフォーカスを補正することができる。
【0053】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記第一の偏微分係数を決定した後に、該決定された上記第一の偏微分係数の値を記憶し、それ以降、上記第一の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差によって表された上記デフォーカスの、上記フォーカス補正信号の強度の変化量への換算に、上記記憶された値の上記第一の偏微分係数を、繰り返し用いるように、構成できる。
これにより、上記デフォーカスの測定のたび(上記換算のたび)に上記第一の偏微分係数を求め直す必要がなくなる。
【0054】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記デフォーカスを上記第一の偏微分係数によって上記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算した後に、そうして上記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算された上記デフォーカスを、上記フォーカス補正信号の強度に上記所定の変化量が与えられる前における上記フォーカス補正信号の強度から減算し、該減算の結果に等しい強度の上記フォーカス補正信号を、上記フォーカス補正手段に与えるように、構成できる。
これにより、上記デフォーカスが補正される。
【0055】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記デフォーカスを上記第一の成分の呈する上記第二の差によって表す場合には、上記第一の平均に等しい強度の上記第一の成分を、上記2回非点補正手段に与え、また、上記デフォーカスを上記第一の成分の呈する上記第一の差によって表す場合には、上記ぼけの上記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記第一の成分の強度と、上記ぼけの上記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記第一の成分の強度との平均を、上記第一の平均として決定し、その平均に等しい強度の上記第一の成分を、上記2回非点補正手段に与えるように、構成できる。
これにより、上記デフォーカスの取得を上記第一または第二の方法による場合に、上記デフォーカスが補正されるとともに、上記2回非点収差の、上記第一の成分によって補正可能な成分が、補正される。
上記構成においては、上記第一の成分に対する上記ぼけの測定結果が、上記第一または第二の差の決定にだけでなく、上記第一の平均の決定にも用いられる。ここで、上記第一の成分に対する上記ぼけの測定結果とは、上記第一の成分の複数の強度値に対する、上記ぼけの上記各方向の大きさの測定値である。
従って、上記構成においては、それら測定値を上記2回非点収差の測定および補正のために改めて取得する必要がなくなる。即ち、上記構成においては、その分だけ、上記2回非点収差の測定および補正に要する時間が、短くなる。
【0056】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記デフォーカスを上記第一の成分の呈する上記第三の差によって表す場合には、上記デフォーカスの取得のために上記第一の成分の強度を増減しながら上記ぼけの大きさを上記被照射面内の単一の方向に沿って測定する前に、上記ぼけの、上記単一の方向の大きさを最小とする上記第一の成分の強度と、上記ぼけの、上記被照射面内で上記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする上記第一の成分の強度との平均を、第二の平均として決定し、その平均に等しい強度の上記第一の成分を、上記2回非点補正手段に与えておくように、構成できる。
これにより、上記デフォーカスの取得を上記第三の方法による場合において、上記デフォーカスが測定される前に、上記2回非点収差の、上記第一の成分によって補正可能な成分が、補正される。
その結果、上記デフォーカスの取得を上記第三の方法による場合に、上記デフォーカスが、より高精度に測定され、従って、上記デフォーカスが、より高精度に補正される。
【0057】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記2回非点補正信号を構成する互いに独立な2成分のうちの、上記第一の成分とは別の1成分を、第二の成分と称し、上記第二の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差を決定し、上記フォーカス補正信号の強度に、上記所定の変化量を、または上記所定の変化量とは別の所定の変化量を、与え、上記第二の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差であって、上記フォーカス補正信号の強度に上記所定の変化量または別の所定の変化量が与えられる前後における上記第一、第二、または第三の差と、上記所定の変化量または別の所定の変化量とから、上記第二の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差の、上記フォーカス補正信号の強度に関する偏微分係数を、第二の偏微分係数として決定するように、構成でき、そのうえで、上記デフォーカスを、上記第一の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差によって表した後であって、そうして表された上記デフォーカスを上記第一の偏微分係数によって上記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算した後に、そうして上記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算された上記デフォーカスを、さらに、上記第二の偏微分係数により、上記第二の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差に換算するように、構成できる。
ただし、上記デフォーカスが上記第一の成分の呈する上記第一の差によって表される場合には、上記第二の成分の呈する上記第一の差が、上記第一の方法によって決定されるとともに、上記第二の偏微分係数が、上記第二の成分の呈する上記第一の差から決定される。上記デフォーカスが上記第一の成分の呈する上記第二の差によって表される場合には、上記第二の成分の呈する上記第二の差が、上記第二の方法によって決定されるとともに、上記第二の偏微分係数が、上記第二の成分の呈する上記第二の差から決定される。上記デフォーカスが上記第一の成分の呈する上記第三の差によって表される場合には、上記第二の成分の呈する上記第三の差が、上記第三の方法によって決定されるとともに、上記第二の偏微分係数が、上記第二の成分の呈する上記第三の差から決定される。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、そのうえで、上記ぼけの上記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記第二の成分の強度と、上記ぼけの上記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記第二の成分の強度との平均を、別の第一の平均として決定するか、または、上記ぼけの、上記単一の方向の大きさを最小とする上記第二の成分の強度と、上記ぼけの、上記被照射面内で上記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする上記第二の成分の強度との平均を、別の第二の平均として決定するかし、該決定された別の第一または別の第二の平均に等しい強度の上記第二の成分を、上記2回非点補正手段に与えるように、構成できる。
ただし、上記別の第一または別の第二の平均は、下記3つの方法(第四、第五、および第六の方法)のいずれかによって決定される。
第四の方法は、上記ぼけの上記2方向のうちのいずれか1方向の大きさを最小とする上記第二の成分の強度と、上記第二の成分の呈する上記第一の差に換算された上記デフォーカスとから、上記別の第一の平均を決定する。
第五の方法は、上記ぼけの上記2方向のうちのいずれか1方向の大きさを最小とする上記第二の成分の強度と、上記第二の成分の呈する上記第二の差に換算された上記デフォーカスとから、上記別の第一の平均を決定する。
第六の方法は、上記ぼけの、上記単一の方向の大きさを最小、または、上記ぼけの、上記被照射面内で上記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする上記第二の成分の強度と、上記第二の成分の呈する上記第三の差に換算された上記デフォーカスとから、上記別の第二の平均を決定する。
上記第四の方法は、上記デフォーカスが上記第一の成分の呈する上記第一の差によって表される場合に、用いられる。上記第五の方法は、上記デフォーカスが上記第一の成分の呈する上記第二の差によって表される場合に、用いられる。上記第六の方法は、上記デフォーカスが上記第一の成分の呈する上記第三の差によって表される場合に、用いられる。
上記構成により、上記デフォーカスが補正されるとともに、上記2回非点収差の、上記第一の成分によって補正可能な成分が補正されるのに加え、上記2回非点収差の、上記第二の成分によって補正可能な成分が補正される。
上記構成においては、上記別の第一または別の第二の平均が決定される際に、上記ぼけの大きさが、上記2方向にではなく、上記2方向のうちの1方向のみに、上記単一の方向のみに、または、上記被照射面内で上記単一の方向に直交する方向のみに沿って、測定される。即ち、上記構成においては、その分だけ、上記2回非点収差の測定および補正に要する時間が、短くなる。
【0058】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記第二の偏微分係数を決定した後に、該決定された上記第二の偏微分係数の値を記憶し、それ以降、上記第一の偏微分係数によって上記フォーカス補正信号の強度の変化量に換算された上記デフォーカスの、上記第二の成分の呈する上記第一、第二、または第三の差への換算に、上記記憶された値の上記第二の偏微分係数を、繰り返し用いるように、構成できる。
これにより、上記2回非点収差の測定および補正のたびに上記第二の偏微分係数を求め直す必要が、なくなる。
【0059】
本発明の荷電粒子ビーム装置は、結像機能を持つ各種の電子ビーム装置として構成されうる。そのような装置には、電子ビーム描画装置、電子ビーム3次元造形装置、走査型電子顕微鏡、および透過型電子顕微鏡が含まれる。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、また、結像機能を持つ各種のイオンビーム装置としても構成されうる。
【0060】
<2.実施例>
以下に、本発明の荷電粒子ビーム装置の具体的な実施例を説明する。
【0061】
(実施例1)
本発明の荷電粒子ビーム装置の基本的な実施例を、実施例1として、以下に説明する。
【0062】
本実施例では、本発明の荷電粒子ビーム装置が、可変成形電子ビーム描画装置として構成されている。本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)の構成を、図1に示す。図1には、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成が示されている。
【0063】
本実施例の装置の光学系は、図1に示すように、図24の光学系と、構成を同じくする。(図1および図24の光学系において、同じ構成要素には、同じ符号が付されている。)ただし、図1では、第2の成形開口板7よりも電子ビーム1の上流側の光学系構成要素が省略されている。
本実施例の装置の光学系におけるレンズおよび偏向器類は、磁界型および静電型のいずれであってもよいが、以降では、それぞれ、磁界型および静電型であるものとする。
これらレンズおよび偏向器類のうち、本実施例で重要となるのは、対物偏向器13である。対物偏向器13は、8極の静電偏向器である。対物偏向器13は、π/4(45°)間隔で8つに等分割された導電性かつ非磁性の中空円筒からなる。対物偏向器13の極数は、8極以外(例えば12極)であってもよいが、以降では、8極とする。
【0064】
本実施例の装置の測定系は、図1に示すように、ナイフエッジ20およびファラデーカップ21を備える。ナイフエッジ20およびファラデーカップ21は、図1に示すように、材料ステージ14上の、材料10とは別の領域に設けられている。ナイフエッジ20は、材料10と、表面の高さ位置を同じくする。
図1においては、便宜上、ナイフエッジ20が、単一のナイフエッジとして描かれているが、ナイフエッジ20は、ナイフエッジ20Xおよび20Y(いずれも図示せず)という2つのナイフエッジからなる。ナイフエッジ20Xおよび20Yは、それぞれ、Y軸およびX軸に平行なエッジを持ち、それぞれ、X方向およびY方向に走査される。従って、ナイフエッジ20により、投影図形11の位置、大きさ、およびエッジの鈍りの、X方向成分およびY方向成分が得られる。投影図形11の位置、大きさ、およびエッジの鈍りについては、後述する。
【0065】
補足すれば、ナイフエッジ20Xおよび20Yは、各々、電子反射体に置き換え可能である。(このことは、実施例2~実施例11にも当てはまる。)ここで、電子反射体とは、例えば、重金属製の細線である。
ただし、ナイフエッジ20Xおよび20Yが電子反射体に置き換えられる場合には、その電子反射体が、対物偏向器13によって電子ビーム1を偏向することで走査され、その電子反射体で反射される電子が、反射電子検出器(図示せず)で受けられ、そして、その反射電子検出器の出力信号に基づき、電子ビーム1のぼけが測定される。その反射電子検出器は、例えば、対物レンズ9の直下に設けられる。
【0066】
本実施例の装置の制御系は、図1に示すように、レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27、中央制御部28、および記憶部29からなる。レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27、および記憶部29は、いずれも、中央制御部28に接続されている。
【0067】
本実施例の装置は、自身の光学系(特に、対物偏向器13)と測定系を用いて、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。これらのこと自体は、図24の光学系にも当てはまる。
【0068】
本実施例の装置は、しかし、上記軸上デフォーカスの測定および補正を、フォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線とは別の曲線に基づかせ、さらに、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正を、フォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線とは別の曲線に基づかせる。
具体的には、本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスの測定および補正を、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせるとともに、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正も、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせる。即ち、本実施例の装置は、これら収差の測定の際に、フォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧のいずれでもなく、2回非点補正電圧を増減する。
【0069】
本実施例の装置は、そのための制御を含め、自身の光学系および測定系の制御を、上記制御系による。これらの制御は、中央制御部28により、中央制御部28以外の制御系構成要素を統合的に制御することによる。
【0070】
即ち、中央制御部28は、レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27を制御する。
中央制御部28は、さらに、これら制御系構成要素を用いた測定および補正に必要なデータ、具体的には、上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正するのに必要なデータを、記憶部29から読み込む。中央制御部28は、それらデータに基づいて必要な演算および制御を行うとともに、その結果として得られたデータを、記憶部29に書き込む。
【0071】
レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、およびファラデーカップ吸収電流信号処理部27は、次の制御を担う。
レンズ制御部24は、対物レンズ9を介して、ナイフエッジ20(または電子反射体)上のデフォーカスを制御する。対物偏向器制御部25は、対物偏向器13を介して、電子ビーム1の偏向を制御するとともに、ナイフエッジ20上のデフォーカスおよび2回非点収差を制御する。材料ステージ制御部26は、材料ステージ14を介して、材料10およびナイフエッジ20の位置を制御する。ファラデーカップ吸収電流信号処理部27は、ファラデーカップ吸収電流信号をアナログ・デジタル変換し、そうして得られた信号を中央制御部28に入力する。ファラデーカップ吸収電流信号については、後述する。
ここで、ナイフエッジ20上のデフォーカスとは、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差のいずれかまたは両方と、対物レンズ9へのフォーカス補正電流の入力および対物偏向器13へのフォーカス補正電圧の入力のいずれかまたは両方に起因するデフォーカスとの合成による収差を意味する。(従って、ナイフエッジ20上のデフォーカスは、フォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧のいずれかまたは両方の増減とともに、自身の大きさを変える。)ナイフエッジ20上の2回非点収差とは、上記軸上2回非点収差および偏向2回非点収差のいずれかまたは両方と、対物偏向器13への2回非点補正電圧の入力に起因する2回非点収差との合成による収差を意味する。(従って、ナイフエッジ20上の2回非点収差は、2回非点補正電圧の増減とともに、自身の大きさを変える。)
【0072】
レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、およびファラデーカップ吸収電流信号処理部27のうち、本実施例において重要となるのは、対物偏向器制御部25である。
対物偏向器制御部25は、対物偏向器13の電極に、所定の電極電圧配分に基づく電極電圧を印加する。ここで、所定の電極電圧配分とは、具体的には、偏向電圧、歪補正電圧、フォーカス補正電圧、および2回非点補正電圧が従う電極電圧配分である。
【0073】
本実施例において偏向電圧、歪補正電圧、フォーカス補正電圧、および2回非点補正電圧が従う電極電圧配分(特許文献2を参照)を、図2に示す。ここで、歪補正電圧とは、本実施例の装置の生む偏向歪収差の補正のために偏向電圧に加算される電圧を指す。ただし、これら電圧のうち、偏向電圧および歪補正電圧は、電極電圧配分を互いに同じくする。以降では、歪補正電圧の説明は省く。
図2において、8つの円弧は、対物偏向器13を構成する8つの電極を表し、8つの円弧の中の記号は、各々、偏向電圧、フォーカス補正電圧、および2回非点補正電圧のいずれかの電極電圧配分を記述する分布関数を表す。図2において、Z軸の正の向きは、紙面から手前の向きである。つまり、その向きに電子ビーム1が流れる。
【0074】
より詳細には、図2において、f1Aおよびf1Bは、偏向電圧の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表す。f0Aは、フォーカス補正電圧の電極電圧配分を記述する分布関数を表す。f2Aおよびf2Bは、2回非点補正電圧の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表す。これら分布関数は、いずれも、対物偏向器13の中心軸周りの角度の関数である。以降では、その角度をψとする。
角度ψは、8つの電極のうち紙面上で最も右に位置する電極の中心を自身の基準(即ち、零)とし、図2における反時計回りを自身の正の向きとする。その電極の角度位置は、偏向電圧の直交2成分の一方およびもう一方がそれぞれ材料10(およびナイフエッジ20)の高さ位置における電子ビーム1の位置をX方向およびY方向に変化させるように、決定される。これにより、f1Aおよびf1Bの回転角だけでなく、残りの分布関数の回転角も決定される。(ここで、偏向電圧の直交2成分の一方およびもう一方とは、具体的には、それぞれV1AおよびV1Bである。V1AおよびV1Bについては後述する。)
図2中の各円弧に添えられた数字は、f1A(ψ)およびf1B(ψ)、f0A(ψ)、そしてf2A(ψ)およびf2B(ψ)の各々の、各電極位置(電極中心の角度位置)における値を表す。ψは、各電極位置において、π/4(=2π/8)の整数倍に等しい。従って、各電極位置において、f1A(ψ)、f0A(ψ)、およびf2A(ψ)は、それぞれ、cosψ、1(=cos0)、およびcos2ψに一致し、f1B(ψ)およびf2B(ψ)は、それぞれ、sinψおよびsin2ψに一致する。即ち、これら分布関数のうち、f1A(ψ)とf1B(ψ)は、互いに線形独立であり、かつ互いに直交し、また、f2A(ψ)とf2B(ψ)も、互いに線形独立であり、かつ互いに直交する。ここで、これら分布関数が互いに直交するとは、これら分布関数の位相が互いにπ/2だけ異なることを、意味する。
【0075】
上記分布関数により、対物偏向器13の電極電圧の成分が表せ、これら成分により、対物偏向器13の電極電圧が表せる。ここで、対物偏向器13の電極電圧の成分とは、具体的には、偏向電圧、フォーカス補正電圧、および2回非点補正電圧に起因する電極電圧成分である。偏向電圧、フォーカス補正電圧、および2回非点補正電圧に起因する電極電圧成分をそれぞれV、V、およびV(いずれも実数)とし、さらに対物偏向器13の電極電圧をV(実数)とすれば、V、V、V、およびVは、それぞれ、ψの関数として、(1)~(4)式で表せる。
(ψ)=V1A1A(ψ)+V1B1B(ψ) (1)
(ψ)=V0A0A(ψ) (2)
(ψ)=V2A2A(ψ)+V2B2B(ψ) (3)
V(ψ)=V(ψ)+V(ψ)+V(ψ) (4)
(1)~(4)式において、V1AおよびV1B(いずれも実数)は、偏向電圧の直交2成分を表し、V0A(実数)は、フォーカス補正電圧を表し、V2AおよびV2B(いずれも実数)は、2回非点補正電圧の直交2成分を表す。V1AおよびV1B、V0A、そして、V2AおよびV2Bは、いずれも、図2において+1Vの電圧が印加されている電極の電圧に、相当する。これらは、いずれも、独立変数であり、独立に制御できる。以降では、特に必要のない限り、V1AおよびV1B、V0A、そして、V2AおよびV2Bを、それぞれ、単に、偏向電圧、フォーカス補正電圧、そして、2回非点補正電圧と称す。
【0076】
以降で、本実施例の装置が自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する要領を、説明する。
【0077】
本実施例の装置は、上記4つの収差のうち、まずは、自身の生む軸上デフォーカスを測定および補正する。本実施例の装置は、その軸上デフォーカスを、XY差によって表す。XY差については後述する。
【0078】
本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスの測定および補正のため、まず、ナイフエッジ20(およびファラデーカップ21)を材料ステージ14によって電子ビーム1の直下に移動させる。本実施例の装置は、そのうえで、2回非点補正電圧V2Aを増減しながら、ナイフエッジ20によって電子ビーム1のぼけを測定する。その間、V2Aに離散的な変化を与えることと、電子ビーム1によってナイフエッジ20を走査することが、交互に繰り返される。本実施例の装置は、さらに、V2Bを増減しながら、ナイフエッジ20によって電子ビーム1のぼけを測定する。その間、V2Bに離散的な変化を与えることと、電子ビーム1によってナイフエッジ20を走査することが、交互に繰り返される。
ここで、ナイフエッジ20は、そのエッジの方向(Y方向およびX方向)と垂直な方向に微小走査される。即ち、ナイフエッジ20Xおよび20Yの各々が微小走査される。ナイフエッジ20Xおよび20Yの微小走査の順序は問わない。
本実施例の装置は、これらナイフエッジの微小走査のため、偏向電圧V1AおよびV1Bの各々を微小変化させる。その結果、電子ビーム1が、対物偏向器13により、X方向およびY方向の各々に沿って微小偏向される。
【0079】
ナイフエッジ20が上述のように微小走査される間、本実施例の装置は、電子ビーム1がナイフエッジ20に遮られることによって変化する電子ビーム1の電流を、ファラデーカップ21で受ける。本実施例の装置は、そうすることで、目的の信号、即ち、ファラデーカップ吸収電流信号を取得する。
補足すれば、ファラデーカップ吸収電流信号が表すのは、電子ビーム1の、ナイフエッジ20により遮られなかった部分の電流である。もし可能なら、その電流の代わりに、ナイフエッジ20により遮られた部分の電流を検出してもよい。そのようにしても、ファラデーカップ吸収電流信号と同様の信号が得られる。ここで、ナイフエッジ20により遮られた部分の電流とは、即ち、ナイフエッジ20によって吸収された(または反射された)部分の電流である。
【0080】
ファラデーカップ吸収電流信号は、上述の要領によって取得された後、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27に入力され、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27によってアナログ・デジタル変換され、そして、中央制御部28に入力される。
ファラデーカップ吸収電流信号は、そして、中央制御部28によって解析される。ここで、中央制御部28は、ファラデーカップ吸収電流信号を位置XまたはY(あるいは時間)で微分し、その結果として得られる信号波形(微分波形)を評価する。
上記信号波形は、投影図形11の電流密度分布を表す。従って、上記信号波形から、投影図形11の位置、大きさ、およびエッジの鈍りが得られる。より詳細には、上記信号波形の立ち上がりおよび立ち下りのエッジの位置からは、投影図形11の位置が得られるとともに、投影図形11の大きさも得られ、上記信号波形の鈍りからは、投影図形11のエッジの鈍りが得られる。これら量のうち、上記軸上デフォーカスを測定および補正するに際して重要となるのは、投影図形11のエッジの鈍りである。
【0081】
上記信号波形の例を、図3に示す。図3において、実線および破線は、それぞれ、電子ビーム1のぼけが小さいとき、および大きいときの上記信号波形を例示する。即ち、その実線および破線は、それぞれ、電子ビーム1のぼけが小さいとき、および大きいときの、投影図形11の電流密度分布を例示する。
図3に示すように、電子ビーム1のぼけが大きくなれば、投影図形11のエッジの鈍りが大きくなる。(ここで、投影図形11のエッジの鈍りが大きくなるとは、投影図形11のエッジにおける電流密度分布の傾斜が緩やかとなることを意味する。)従って、投影図形11のエッジの鈍りは、電子ビーム1のぼけの大きさの指標となる。
【0082】
上記信号波形(微分波形)についての以上のことは、上記軸上デフォーカスの測定および補正にだけでなく、残りの3つの収差(上記軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差)の測定および補正にも、当てはまる。以降では、電子ビーム1のぼけの測定は、収差の違いによらず、上述の要領(ナイフエッジ20の微小走査、ファラデーカップ吸収電流の取得、および、上記信号波形の解析)によるものとする。
【0083】
本実施例の装置は、上記過程(2回非点補正電圧V2AまたはV2Bを増減しながらの、電子ビーム1のぼけの測定)の間、フォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧の値を、いずれも零に固定しておく。本実施例の装置は、その間におけるフォーカス補正条件およびフォーカス補正電流を、それぞれ第0のフォーカス補正条件および第0のフォーカス補正電流とする。以降では、フォーカス補正電流をI0Aで表すとともに、第n(n=0または1)のフォーカス補正電流をI0Anで表す。
ただし、本実施例の装置が上記過程の間にフォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧の値をいずれも零に固定しておくのは、本実施例の装置の組立直後に上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差のいずれもがまだ補正されておらず、従ってフォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧の値のいずれもが零である場合においてである。そうでない場合、即ち、フォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧のいずれかまたは両方が零でない値を持っている場合においては、上記過程の間、フォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧の各々の値を、上記軸上デフォーカスを測定する直前におけるそれらの各々の値に固定しておけばよい。即ち、第0のフォーカス補正電流は、零でない値を持ちうる。以降では、これにかかわらず、上記過程の間、フォーカス補正電流およびフォーカス補正電圧の値は、いずれも零に固定されるものとする。これを前提とすれば、I0A0は、零である。
【0084】
本実施例の装置は、上記過程において、上述のように電子ビーム1のぼけを測定することにより、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線と、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線とを取得する。これら曲線は、各々、上記過程において2回非点補正電圧の複数の値に対して得られたぼけの測定値に対する、近似曲線である。
本実施例の装置は、そして、これら曲線の谷の位置を決定する。即ち、これら曲線から、X方向のぼけを最小とするV2A、Y方向のぼけを最小とするV2A、X方向のぼけを最小とするV2B、および、Y方向のぼけを最小とするV2Bが、決定される。上記近似曲線を解析関数(例えば、双曲線)とすれば、これら曲線の谷の位置を解析的に決定することが可能である。
【0085】
上記過程においては、これら曲線の谷の位置の決定のため、2回非点補正電圧の増減の範囲に、これら曲線の各々の谷を確認するのに十分な幅を持たせる必要がある。
その幅は、本実施例の装置の組立直後、即ち、対物レンズ9および縮小レンズ8に最初に励磁電流を流す際に、大きくなりがちである。これは、その時点においては、対物レンズ9の励磁電流の適正値が確定していないことによる。
同様のことは、これらレンズの励磁電流を一旦切り、その後、これら電流の値を元に戻した場合にも生じうる。これには、これらレンズの磁性材料の磁気ヒステリシスが関わる。
【0086】
本実施例の装置は、2回非点補正電圧を上述のように増減する前における2回非点補正電圧V2AおよびV2Bの各々を、第0の2回非点発生電圧と定義し、X方向のぼけを最小とするV2AおよびV2Bの各々を、第1の2回非点発生電圧と定義し、Y方向のぼけを最小とするV2AおよびV2Bの各々を、第2の2回非点発生電圧と定義する。本実施例でこのように2回非点補正電圧に2回非点発生電圧という呼称を与えるのは、本発明では、ナイフエッジ20上のデフォーカスの測定のため、2回非点収差を積極的に発生させることによる。
【0087】
本実施例の装置は、さらに、第1の2回非点発生電圧と第2の2回非点発生電圧との差を、XY差と定義する。
XY差は、ナイフエッジ20上のデフォーカスの大きさの指標となる。即ち、XY差が零であれば、ナイフエッジ20上のデフォーカスも零であるが、XY差が零でない限り、そのデフォーカスは零ではなく、従って、本実施例の装置は、そのデフォーカスを低減する。
【0088】
本実施例の装置は、XY差を、フォーカス補正条件毎に定義する。以降では、第n(n=0または1)のフォーカス補正条件下におけるXY差を、第nのXY差と称す。本実施例の装置は、また、XY差を、2回非点発生電圧の成分毎に定義する。
より詳細には、本実施例の装置は、第n(n=0または1)のフォーカス補正条件下で、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を取得し、それら曲線から第1および第2の2回非点発生電圧を決定し、そして、これら電圧の差(XY差)を、第nのXY差のA成分と定義する。本実施例の装置は、さらに、同じフォーカス補正条件下で、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を取得し、それら曲線から第1および第2の2回非点発生電圧を決定し、そして、これら電圧の差(XY差)を、第nのXY差のB成分と定義する。
【0089】
XY差の説明のため、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を、図4Aに示すとともに、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を、図4Bに示す。図4Aおよび図4Bには、第0の2回非点発生電圧50、第1の2回非点発生電圧51、および第2の2回非点発生電圧52も示す。
図4Aおよび図4Bは、いずれも、V2AおよびV2Bがともに零のときにおけるナイフエッジ20上の2回非点収差は零であることを、前提とする。図4Aおよび図4Bは、また、それぞれ、V2BおよびV2Aが零であることを、前提とする。従って、図4Aにおいては、V2Aが零のときにナイフエッジ20上の2回非点収差が零になり、図4Bにおいては、V2Bが零のときにナイフエッジ20上の2回非点収差が零となる。図4Aおよび図4Bは、さらに、第0の2回非点発生電圧50が零であることを、前提とする。
【0090】
図4Aおよび図4Bにおいて、XY差は、X方向のぼけを表す曲線(実線)の谷の位置(第1の2回非点発生電圧51)と、Y方向のぼけを表す曲線(破線)の谷の位置(第2の2回非点発生電圧52)との差に相当する。もしXY差が零であれば、これらの谷の位置は、互いに一致する。図4Aおよび図4Bからは、XY差のA成分およびB成分がそれぞれ得られる。
【0091】
以降では、XY差のA成分およびB成分を、それぞれDおよびD(いずれも実数)と表し、第n(n=0または1)のXY差DおよびDを、それぞれDAnおよびDBnと表す。例えば、第0のXY差のA成分およびB成分は、それぞれDA0およびDB0と表される。以降では、また、D、D、およびI0Aを、それぞれ、DAn、DBn、およびI0An(いずれにおいてもn=0または1)の総称とする。
説明の便宜上、DおよびDAnの符号は、第2の2回非点発生電圧52の方が第1の2回非点発生電圧51よりも大きい場合に正とし、DおよびDBnの符号は、第1の2回非点発生電圧51の方が第2の2回非点発生電圧52よりも大きい場合に正とする。この規則に従えば、図4Aおよび図4Bからは、正の符号を持つDおよびDがそれぞれ得られる。
【0092】
図4Aおよび図4Bのいずれにおいても、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52は、互いに絶対値を同じくし、互いに符号を逆にしている。これは、図4Aおよび図4Bは、上述のように、いずれも、V2AおよびV2Bがともに零のときにおけるナイフエッジ20上の2回非点収差は零であることを前提とすることによる。
【0093】
上記前提は、常に成立するわけではない。即ち、V2AおよびV2Bがともに零のときにおけるナイフエッジ20上の2回非点収差が零でない場合が存在しうる。ここで、V2AおよびV2Bがともに零のときにおけるナイフエッジ20上の2回非点収差とは、本実施例の装置の生む軸上2回非点収差に、ほかならない。
上記軸上2回非点収差が零でない場合に取得される、V2A(またはV2B)に対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を、図4Cおよび図4Dに示す。図4Cには、第0の2回非点発生電圧50の値が零の場合におけるその関係を示す。図4Dには、第0の2回非点発生電圧50の値が零でない場合におけるその関係を示す。ここで、第0の2回非点発生電圧50の値が零でないことは、上記軸上2回非点収差がV2AおよびV2Bによって予め補正されていることに、相当する。
【0094】
上記軸上2回非点収差が零でない値を持てば、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52が、横軸方向にシフトする。ここで、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52は、互いに同じ向きに、同じ大きさだけシフトする。これは、上記軸上2回非点収差の作用である。その作用の結果、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52は、図4Cおよび図4Dに示すように、互いに絶対値を異にするようになる。
【0095】
上記軸上2回非点収差は、たとえこのように第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52をシフトさせたとしても、XY差(第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52との差)を変化させない。これは、これら電圧のシフトが、互いに向きを同じく、かつ、大きさを同じくすることの結果である。
このことは、上記シフトの大きさによらない。このことは、また、第0の2回非点発生電圧50の値にもよらない。即ち、このことは、もし上記軸上2回非点収差が、図4Dに示すように、V2AおよびV2Bによって予め補正されていたとしても、成立する。
【0096】
即ち、上記軸上2回非点収差は、第1の2回非点発生電圧51および第2の2回非点発生電圧52の決定誤差を生みうるが、これらの決定誤差は、上記シフトの大きさにも、第0の2回非点発生電圧50の値にもよらず、XY差が決定された時点で相殺される。本実施例の装置が第1の2回非点発生電圧51および第2の2回非点発生電圧52のいずれかではなく、これらの差(XY差)を求めるのは、このためである。
【0097】
本実施例の装置は、まず、第0のフォーカス補正条件下で第0のXY差DA0およびDB0を測定し、そうして測定されたDA0およびDB0を、第0のフォーカス補正電流I0A0とともに記憶する。ここで、DA0およびDB0は、各々、第0のフォーカス補正条件下における、ナイフエッジ20上のデフォーカスを表す。そのデフォーカスは、本実施例の装置の生む軸上デフォーカスに等しい。これは、本実施例では、先述のように、I0A0が零であることによる。即ち、DA0およびDB0は、各々、本実施例の装置の生む軸上デフォーカスを表す。
本実施例の装置は、次に、フォーカス補正電流I0Aに変化量を与えることにより、ナイフエッジ20上のデフォーカスを変化させ、その際のフォーカス補正条件およびフォーカス補正電流I0Aを、それぞれ、第1のフォーカス補正条件および第1のフォーカス補正電流I0A1とする。本実施例の装置は、そして、第1のフォーカス補正条件下で第1のXY差DA1およびDB1を測定し、そうして測定されたDA1およびDB1を、第1のフォーカス補正電流I0A1とともに記憶する。
【0098】
本実施例の装置は、次に、上記過程における、フォーカス補正電流I0Aの変化量とXY差DおよびDの変化量とから、DおよびDの、I0Aに関する偏微分係数を決定する。本実施例の装置は、そして、これら偏微分係数の値を記憶する。
これら偏微分係数は、単位フォーカス補正電流の生むXY差を表す。これら偏微分係数をdIAおよびdIB(いずれも実数)とすれば、dIAおよびdIBは、それぞれ(5)および(6)式で与えられる。
【0099】
【数1】
(5)および(6)式において、ΔI0A(=I0A1-I0A0)は、I0Aの変化量を表し、ΔD(=DA1-DA0)およびΔD(=DB1-DB0)は、それぞれDおよびDの変化量を表す。
補足すれば、(5)式におけるI0A1、I0A0、およびΔI0Aは、それぞれ、(6)式におけるI0A1、I0A0、およびΔI0Aと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0100】
係数dIAおよびdIBを用いれば、XY差DおよびDは、それぞれ(7)および(8)式で表せる。(7)および(8)式において、DOAおよびDOBは、いずれも定数である。
=DOA+dIA0A (7)
=DOB+dIB0A (8)
(7)および(8)式を図示すれば、(7)および(8)式は、例えば、図5に示す通りとなる。図5中の2本の直線(破線)は、DとI0Aとの関係を表す直線、および、DとI0Aとの関係を表す直線である。これら直線の前者および後者は、それぞれ、係数dIAおよびdIBに等しい勾配を持つ。
【0101】
本実施例の装置は、次に、DA0を零とすべく(9)式によってI0A0を更新するか、または、DB0を零とすべく(10)式によってI0A0を更新する。(9)および(10)式において、I0A0’は、DA0またはDB0を零とすべく更新されるI0A0を表す。
0A0’=I0A0-DA0/dIA=I0A0-ID0 (9)
0A0’=I0A0-DB0/dIB=I0A0-ID0 (10)
【0102】
(9)式は、(11)および(12)式から導ける。(10)式は、(13)および(14)式から導ける。
A0=DOA+dIA0A0 (11)
A0’=0=DOA+dIA0A0’ (12)
B0=DOB+dIB0A0 (13)
B0’=0=DOB+dIB0A0’ (14)
(11)式は、(7)式におけるDおよびI0Aを、それぞれDA0およびI0A0に置き換えて得られる式である。(12)式は、(11)式におけるDA0およびI0A0を、それぞれDA0’(=0)およびI0A0’に置き換えて得られる式である。DA0’は、I0A0’を対物レンズ9に入力して得られるDA0を表す。(13)式は、(8)式におけるDおよびI0Aを、それぞれDB0およびI0A0に置き換えて得られる式である。(14)式は、(13)式におけるDB0およびI0A0を、それぞれDB0’(=0)およびI0A0’に置き換えて得られる式である。DB0’は、I0A0’を対物レンズ9に入力して得られるDB0を表す。
【0103】
(9)および(10)式中のID0は、それぞれ(15)および(16)式で与えられる。(9)および(15)式中のID0は、フォーカス補正電流の変化量に換算されたXY差DA0を表す。(10)および(16)式中のID0は、フォーカス補正電流の変化量に換算されたXY差DB0を表す。(15)および(16)式は、本実施例の装置がXY差をフォーカス補正電流の変化量に換算することを、示している。その換算は、係数dIAまたはdIBによる。
D0=DA0/dIA (15)
D0=DB0/dIB (16)
ここで、ID0は、フォーカス補正電流の変化量に換算された上記軸上デフォーカスを、表しもする。これは、XY差DA0およびDB0が、先述のように、各々、上記軸上デフォーカスを表すことによる。
従って、(9)および(10)式は、本実施例の装置が、フォーカス補正電流の変化量に換算された上記軸上デフォーカスをI0A0から減算し、そうすることによってI0A0を更新(即ち、I0A0’を決定)することを、示している。
【0104】
上記軸上デフォーカスの測定値は、DA0またはDB0としてもよいが、ID0(=DA0/dIA=DB0/dIB)としてもよい。以降では、説明の便宜上、上記軸上デフォーカスの測定値は、ID0とする。
【0105】
上記軸上デフォーカスの測定値をID0とすれば、上記軸上デフォーカスの補正値は、-ID0(=I0A0’-I0A0=-DA0/dIA=-DB0/dIB)に等しい。即ち、上記軸上デフォーカスの測定値および補正値は、互いに大きさを同じくし、互いに符号を逆にする。
補足すれば、上記軸上デフォーカスの測定値ID0および補正値-ID0は、それぞれ、上記軸上デフォーカスを零位法によって測定することで得られる上記軸上デフォーカスの測定値および補正値に等しい。ここで、上記軸上デフォーカスを零位法によって測定するとは、上記軸上デフォーカスを、フォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づいて測定および補正することを、指す。その測定および補正の要領は、図24の光学系において同じ収差が測定および補正される要領に、同じである。
【0106】
0A0’は、(9)および(10)式のいずれか一方から決定すればよい。より具体的には、I0A0’は、(9)および(10)式のうち、零でないDA0またはDB0を含むいずれか一方から決定すればよい。即ち、本実施例の装置は、ナイフエッジ20上のデフォーカスを、DA0およびDB0のいずれか零でない一方によって表す。
本実施例では、後述するように、ナイフエッジ20上のデフォーカスが零でないときに、DおよびDのいずれか一方が零となることはあるが、DおよびDの両方が零となることはない。本実施例では、また、dIAおよびdIBのいずれか一方が零となることはあるが、dIAおよびdIBの両方が零となることはない。
ここで注意すべきは、もしDA0およびDB0の値が零か否かに無頓着にこれらのいずれか一方が評価されるならば、ナイフエッジ20上のデフォーカスが零でないときにそのデフォーカスが零と誤判定されるという、好ましくない事態が発生しうることである。その事態については後述する。
【0107】
0A0’は、より好適には、(17)式が成立する場合には(9)式から決定すればよく、また、(18)式が成立する場合には(10)式から決定すればよい。これは、測定精度の観点からである。
|DA0|≧|DB0| (17)
|DA0|<|DB0| (18)
即ち、本実施例の装置は、測定精度の観点から、ナイフエッジ20上のデフォーカスを、DおよびDのいずれか絶対値の小さくない一方によって表す。
補足すれば、(17)式が|DA0|=|DB0|の成立する場合を含んでいる一方で、(18)式がその場合を含んでいないのは、説明の便宜からである。|DA0|=|DB0|が成立すれば、I0A0’は、(9)および(10)式のいずれから決定してもよい。
【0108】
(17)式が成立すれば、(19)式が成立する。一方、(18)式が成立すれば、(20)式が成立する。即ち、ナイフエッジ20上のデフォーカスが零でない条件下では、(17)および(19)式が互いに同時に成立するか、あるいは、(18)および(20)式が互いに同時に成立する。これは、DA0、DB0、dIA、およびdIBが(21)式を満たすことによる。(21)式は、(9)および(10)式から導かれる。
|dIA|≧|dIB| (19)
|dIA|<|dIB| (20)
A0/DB0=dIA/dIB (21)
従って、I0A0’は、(19)式が成立する場合には(9)式から決定すればよく、(20)式が成立する場合には(10)式から決定すればよい。
【0109】
0A0’を(9)および(10)式のいずれから決定すべきかは、このように、|dIA|と|dIB|の間の大小関係から決まる。即ち、I0A0’を(9)および(10)式のいずれから決定すべきかは、dIAおよびdIBが求められた時点(あるいは、それ以前に、(5)式に代入されるDAn、および(6)式に代入されるDBnが、決定された時点)で決まる。
このことは、本実施例では、dIAおよびdIBの両方ではなく、dIAおよびdIBのいずれか一方を記憶すればよいことを意味する。ここで、dIAおよびdIBは、I0A、V0A、V2A、およびV2Bのいずれにも依存せず、従って不変である。
【0110】
このことは、また、I0A0’の決定の際に、2回非点補正電圧(2回非点発生電圧)に対する電子ビーム1のぼけの曲線として、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)と、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)との両方(合計2×2=4本)を取得する必要はないことを、意味する。
即ち、I0A0’の決定に要する曲線は、上記前者および後者のいずれか一方(合計2本)のみである。このことは、I0A0’の決定に要する時間を短くし、従って、上記軸上デフォーカスの測定および補正に要する時間を短くする。
ただし、dIAおよびdIBが最初に求められるまでは、(19)および(20)式のいずれが成立するかが確定しない。従って、dIAおよびdIBを最初に求める際には、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線と、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線との両方を取得する必要がある。
補足すれば、I0A0’の決定(即ち、I0A0の更新)に要する曲線の本数は、上記軸上デフォーカスの測定および補正をフォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせる場合においても、合計2本である。ここで、上記軸上デフォーカスの測定および補正をフォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせる場合とは、即ち、図24の光学系において、その光学系の生む軸上デフォーカスが測定および補正される場合に、等しい。合計2本とは、具体的には、I0A0に対する電子ビーム1のX方向のぼけの曲線1本と、I0A0に対する電子ビーム1のY方向のぼけの曲線1本である。
これは、ナイフエッジ上の軸上2回非点収差が零でない限り、これら曲線の谷の位置は互いに一致せず、従って、ナイフエッジ20上のデフォーカスを零とするには、I0A0’を、これら曲線の谷の位置のいずれか一方にではなく、これら曲線の谷の位置の平均に合わせる必要が生じることによる。ここで、それら曲線の谷の位置が互いに一致しないのは、ナイフエッジ上の軸上2回非点収差が、互いに高さを異にする2本の焦線を呈することによる。これら焦線の方向は、互いに直交する。
【0111】
本実施例の装置は、I0A0’を(9)または(10)式から決定し、そうして決定されたI0A0’を対物レンズ9に入力する。これにより、DA0およびDB0は零になる。このとき、ナイフエッジ20上のデフォーカスは零となる。即ち、上記軸上デフォーカスが補正される。
ここで注意すべきは、(9)または(10)式から決定されたI0A0’を対物レンズ9に入力することによって零になるのは、DA0およびDB0のいずれか一方ではなく、DA0およびDB0の両方であることである。これについては後述する。
【0112】
しかし、(9)または(10)式から得られるI0A0’を対物レンズ9に入力しても、XY差DA0およびDB0は完全には零にはならず、従って、ナイフエッジ20上のデフォーカスも完全には零にならない。即ち、上記軸上デフォーカスの補正残差が残る。これには、(9)式中のDA0およびdIAに含まれる誤差、または(10)式中のDB0およびdIBに含まれる誤差が関わるとともに、対物レンズ9の発生するデフォーカスの発生誤差が関わる。
【0113】
上記補正残差が問題となる場合には、上記補正残差の評価と低減を繰り返せばよい。その評価と低減は、具体的には、次のようにすればよい。
まず、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を再び取得し、そうして取得された曲線から、上記補正残差として、DA0’を決定する。次に、そうして決定されたDA0’を新たなDA0と見なし、それを(9)式に代入するとともに、その時点において対物レンズ9に入力されているI0Aを、I0A0として、(9)式に代入する。次に、そうすることで決定される新たなI0A0’を、対物レンズ9に入力する。
あるいは、まず、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を再び取得し、そうして取得された曲線から、上記補正残差として、DB0’を決定する。次に、そうして決定されたDB0’を新たなDB0と見なし、それを(10)式に代入するとともに、その時点において対物レンズ9に入力されているI0Aを、I0A0として、(10)式に代入する。次に、そうすることで決定される新たなI0A0’を、対物レンズ9に入力する。
上記曲線(V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線、またはV2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線)の取得から、上記新たなI0A0’の対物レンズ9への入力までの、一連の工程を繰り返せば、DA0およびDB0は零に近づき、従って、ナイフエッジ20上のデフォーカスは零に近づく。
補足すれば、このような補正残差の評価および低減は、上記軸上デフォーカスの測定および補正を、フォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせる場合にも、必要となる。ここで、上記軸上デフォーカスの補正残差は、上記軸上デフォーカスの補正値の過不足である。その過不足は、上記軸上デフォーカスの補正値が大きいほど、大きくなる。(同様のことは、上記偏向像面湾曲収差にも当てはまる。)
【0114】
上記一連の工程における新たなI0A0’の決定(即ち、I0A0の更新)は、(9a)または(10a)式による。
0A0 (m)=I0A0 (m-1)-DA0 (m-1)/dIA=I0A0 (m-1)-ID0 (m-1) (9a)
0A0 (m)=I0A0 (m-1)-DB0 (m-1)/dIB=I0A0 (m-1)-ID0 (m-1) (10a)
(9a)および(10a)式において、I0A0 (m)は、m(≧1)回目に更新されるI0A0を表す。DA0 (m-1)およびDB0 (m-1)は、I0A0 (m-1)を対物レンズ9に入力して得られるDA0およびDB0を、それぞれ表す。
(9a)および(10a)式において、m=1のとき、I0A0 (m)はI0A0’を表し、I0A0 (m-1)はI0A0を表す。即ち、(9a)および(10a)式は、それぞれ(9)および(10)式を一般化したものである。従って、以降では、特に明示のない限り、(9a)および(10a)式は、(9)および(10)式をそれぞれ兼ねる。
【0115】
(9a)および(10a)式中のID0 (m-1)は、それぞれ(15a)および(16a)式で与えられる。(9a)および(15a)式中のID0 (m-1)は、フォーカス補正電流の変化量に換算されたXY差DA0 (m-1)を、表す。(10a)および(16a)式中のID0 (m-1)は、フォーカス補正電流の変化量に換算されたXY差DB0 (m-1)を、表す。
D0 (m-1)=DA0 (m-1)/dIA (15a)
D0 (m-1)=DB0 (m-1)/dIB (16a)
ここで、ID0 (m-1)は、ナイフエッジ20上のデフォーカス(ただし、フォーカス補正電流の変化量に換算されたデフォーカス)を表しもする。これは、XY差DA0 (m-1)およびDB0 (m-1)が、いずれも、ナイフエッジ20上のデフォーカスを表すことによる。(ID0 (m-1)は、ナイフエッジ20上のデフォーカスの測定値でもある。)
【0116】
上記一連の工程が繰り返される間、係数dIAまたはdIBは、更新されることなく、繰り返し用いられる。より具体的には、先述の過程で決定および記憶されたdIAが、dIAによるDA0のID0への換算((15)および(15a)式を参照)のたびに、繰り返し用いられるか、または、先述の過程で決定および記憶されたdIBが、dIBによるDB0のID0への換算((16)および(16a)式を参照)のたびに、繰り返し用いられる。係数dIAまたはdIBのこのような繰り返しの使用は、これら係数が不変であることを前提としている。先述のように、これら係数は、フォーカス補正電流I0Aに依存せず、従って不変である。
厳密には、これら係数のフォーカス補正電流I0Aへの依存性は零ではなく、従って、その依存性に起因し、係数dIAおよびdIBは誤差を持ちうる。しかし、その誤差は問題とならない。たとえその誤差が零でなくても、上記一連の工程繰り返せば、上述のように、DA0およびDB0は零に近づき、従って、ナイフエッジ20上のデフォーカスは零に近づく。(同様のことは、係数dVAおよびdVBにも当てはまる。これら係数については後述する。)
【0117】
上記一連の工程は、(9a)式によってI0A0が更新される場合には、(22)式が成立するまで繰り返せばよく、(10a)式によってI0A0が更新される場合には、(23)式が成立するまで繰り返せばよい。
|DA0 (m)|<ε (22)
|DB0 (m)|<ε (23)
(22)および(23)式において、ε(>0)は、|DA0 (m)|および|DB0 (m)|に対する許容値を表す。即ち、|DA0 (m)|および|DB0 (m)|は、上記軸上デフォーカスの補正残差に相当する。
従って、(22)または(23)式の成立は、上記軸上デフォーカスの補正残差の十分な低減を意味する。DA0 (m)が(22)式を満たすか、またはDB0 (m)が(23)式を満たせば、それ以降、(9a)または(10a)式によるI0A0の更新(即ち、I0A0 (m+1)の決定)およびそうして更新されたI0A0の対物レンズ9への入力は、不要となる。(DA0 (m)またはDB0 (m)の、ID0 (m)への換算も不要となる。)同様のことは、残りの3つの収差(上記軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差)の補正残差にも当てはまる。これら収差の補正残差については、後述する。
【0118】
補足すれば、DA0 (m)およびDB0 (m)の大きさによっては、(22)および(23)式のうち、一方は成立するが、もう一方は成立しないことが、ありうる。
このことは、本実施例においてDA0およびDB0のいずれか絶対値の小さい一方が評価されることは避けるべきであることを、意味する。もし本実施例においてDA0およびDB0のいずれか絶対値の小さい一方が評価されるならば、実際にはナイフエッジ20上のデフォーカスが十分に低減されていないにもかかわらず、(22)および(23)式のいずれか一方の成立を以って、そのデフォーカスが十分に低減したとの誤判定が下されうる。
このような誤判定は、原理的には、許容値εの値を小さくすることによって防げる。しかし、実際には、そのようにすると、(22)または(23)式の成立(あるいは、不成立)が、DA0またはDB0の測定誤差に、より強く影響されるようになる。従って、本実施例においてDA0およびDB0のいずれか絶対値の小さい一方を評価するのは、結局、得策ではない。
【0119】
以上の要領によれば、上記軸上デフォーカスを、フォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線にではなく、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づいて測定および補正することができる。
上記軸上デフォーカスの測定および補正を、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせれば、それら曲線の取得に要する時間の短さから、上記軸上デフォーカスの測定および補正に要する時間が短くなる。それら曲線の取得に要する時間の短さは、静電型2回非点補正器としての対物偏向器13の、2回非点補正電圧に対する応答の速さに起因する。
【0120】
以上が、本実施例の装置の生む軸上デフォーカスの測定および補正についての説明である。その測定および補正のルーチンを、メインルーチン1として、図6に示す。
ただし、メインルーチン1と、その中のサブルーチン(サブルーチン1およびサブルーチン2)とは、いずれも、(19)式の成立を前提としている。即ち、これらメインルーチンおよびサブルーチンにおいては、係数dIAおよびdIBのうち、dIAのみが決定され、また、XY差DAnおよびDBnのうち、DAnのみが決定される。
【0121】
(メインルーチン1)
図6に示すように、メインルーチン1は、以下のステップからなる。
まず、ステップS1において、nを零に設定する(n=0)。
次に、ステップS2において、I0An(I0A0)を読み込み、それを対物レンズ9に入力する。(ここで、I0A0は、メインルーチン1の開始直前のフォーカス補正電流I0Aの値に等しい。従って、ステップS2においてI0A0を対物レンズ9に入力することは、結局、I0Aの値をI0A0に維持することに等しい。)
次に、ステップS3において、サブルーチン1(図7を参照)を実行し、XY差DAn(DA0)を決定する。
次に、ステップS4において、nを1に設定する(n=1)。
次に、ステップS5において、I0An(I0A1)を読み込み、それを対物レンズ9に入力する。
次に、ステップS6において、サブルーチン1(図7を参照)を実行し、XY差DAn(DA1)を決定する。
次に、ステップS7において、係数dIAを決定する。
次に、ステップS8において、サブルーチン2(図8を参照)を実行し、I0A0 (m)を決定する。そして、メインルーチン1を終了する。
【0122】
(サブルーチン1)
サブルーチン1は、図7に示すように、以下のステップからなる。
まず、ステップS11において、2回非点補正電圧V2Aを増減し、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定する。そうすることにより、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を取得する。
次に、ステップS12において、XY差DAn(ステップS23においては、DA0 (m))を決定する。そして、サブルーチン1を終了して、メインルーチン1(図6を参照)に戻る。(あるいは、サブルーチン1を終了して、サブルーチン2、メインルーチン2、およびサブルーチン4のいずれかに戻る。これらルーチンおよびサブルーチンについては、後述する。)
【0123】
(サブルーチン2)
サブルーチン2は、図8に示すように、以下のステップからなる。
まず、ステップS21において、nを0に設定する(n=0)とともに、mを0に設定する(m=0)。
次に、ステップS22において、I0A0 (m)を対物レンズ9に入力する。(I0A0 (m)は、m=0のとき、I0A0を表す。ここで、I0A0は、メインルーチン1またはメインルーチン1’の開始直前のフォーカス補正電流I0Aの値に等しい。メインルーチン1’については後述する。)
次に、ステップS23において、サブルーチン1(図7を参照)を実行し、XY差DAn (m)(DA0 (m))を決定する。ここで、DAn (m)は、I0A0 (m)を対物レンズ9に入力して得られるDAnを表す。(サブルーチン2がメインルーチン1から呼ばれる場合には、m=0のときにおけるステップS23を、ステップS3において決定されたXY差DA0を読み込むステップに、置き換えることができる。)
次に、ステップS24において、|DA0 (m)|<εが成立するかどうか判定する。それが成立する場合には、サブルーチン2を終了し、メインルーチン1(図6を参照)に戻る(あるいは、メインルーチン1’に戻る)。それが成立しない場合には、ステップS25に進む。
ステップS25においては、m+1をmに代入する(m=m+1)。そして、ステップS26に進む。
ステップS26においては、I0A0 (m)を決定する。そして、ステップS22に戻る。
【0124】
係数dIAが既知である場合には、ステップS1~ステップS7を、dIAを読み込むステップ(ステップS7’)に、置き換えることができる。そうすることによって簡略化したメインルーチン1を、メインルーチン1’として、図9に示す。
【0125】
(メインルーチン1’)
図9に示すように、メインルーチン1’は、以下のステップからなる。
まず、ステップS7’において、係数dIAを読み込む。
次に、ステップS8’において、サブルーチン2(図8を参照)を実行し、I0A0 (m)を決定する。そして、メインルーチン1’を終了する。
【0126】
補足すれば、メインルーチン1またはメインルーチン1’を実行するのは、電子ビーム1を対物レンズ9の中心に対してアライメントした後とするのがよい。これは、電子ビーム1をそのようにアライメントすれば、ナイフエッジ20上に現れる総合的な収差(上記軸上デフォーカスを含む)が低減するためである。電子ビーム1のそのようなアライメントは、例えば、第二の成形開口板7と縮小レンズ8の間、または、縮小レンズ8と対物レンズ9の間に設けられたアライナ(図示せず)によれば、可能である。
上記アライメントにおいて、電子ビーム1が対物レンズ9の中心を通っているか否かは、電子ビーム1の加速電圧を増減、または対物レンズ9の励磁電流を増減し、その際の、材料10の高さ位置における電子ビーム1の位置の変化を見れば、分かる。その変化は、電子ビーム1が対物レンズ9の中心を通っていれば、零であるが、電子ビーム1が対物レンズ9の中心を通っていなければ、零でない。その変化は、ナイフエッジ法によって測定できる。
上記のようなアライメントおよび測定は、可変成形電子ビーム描画装置に限らず、一般の荷電粒子ビーム装置に対し、広く実施されている。
【0127】
本実施例の装置は、次に、自身の生む軸上2回非点収差を測定および補正する。その要領は、図24の光学系における同じ収差の測定および補正の要領に同じである。その詳細は、以下の通りである。
【0128】
本実施例の装置は、まず、V2Aを増減しながらナイフエッジ20によって電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定することで、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得する。補足すれば、これら曲線は先述の軸上デフォーカスの測定および補正の完了後に、間を置かずに取得されるため、これら曲線の取得のために改めてナイフエッジ20を材料ステージ14によって移動させる必要はない。
本実施例の装置は、次に、これら曲線から、V2Aに関するXY平均を決定し、そうして決定されたXY平均を、XY平均のA成分とする。ここで、XY平均とは、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52との平均を指す。
本実施例の装置は、そして、XY平均のA成分に基づいてV2Aを更新し、そうして更新されたV2Aを、対物偏向器13に入力する。これにより、上記軸上2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が、補正される。
本実施例の装置は、次に、V2Bを増減しながらナイフエッジ20によって電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定することで、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得する。
本実施例の装置は、次に、これら曲線から、V2Bに関するXY平均を決定し、そうして決定されたXY平均を、XY平均のB成分とする。
本実施例の装置は、そして、XY平均のB成分に基づいてV2Bを更新し、そうして更新されたV2Bを、対物偏向器13に入力する。これにより、上記軸上2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分が、補正される。
補足すれば、上記過程においては、XY平均のB成分の決定とV2Bの入力とが、XY平均のA成分の決定とV2Aの入力との後になされるが、これらの順序は互いに前後してもよい。
【0129】
上記過程におけるV2AおよびV2Bの更新は、それぞれ(24)および(25)式で表せる。
2A0’=MA0 (24)
2B0’=MB0 (25)
(24)および(25)式において、V2A0’およびV2B0’は、上記過程によって更新されるV2A0およびV2B0を、それぞれ表す。V2A0およびV2B0は、第0のフォーカス補正条件下におけるV2AおよびV2Bをそれぞれ表すが、より詳細には、上記曲線が取得される前におけるV2AおよびV2Bをそれぞれ表す。MA0およびMB0は、第0のフォーカス補正条件下におけるMおよびMをそれぞれ表すが、より詳細には、上記曲線から決定されるMおよびMをそれぞれ表す。MおよびMは、XY平均のA成分およびB成分をそれぞれ表す。
【0130】
ただし、(24)式で表されるV2A0’と(25)式で表されるV2B0’とを対物偏向器13に入力しても、上記軸上2回非点収差は、完全には零にならない。即ち、上記軸上2回非点収差の補正残差が残る。
【0131】
上記補正残差が問題となる場合には、上記補正残差の評価と低減を繰り返せばよい。即ち、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Aの対物偏向器13への入力までの、一連の工程、および、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Bの対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、繰り返せばよい。その間、V2AおよびV2Bは、それぞれ(24a)および(25a)式によって更新される。(24a)および(25a)式は、それぞれ(24)および(25)式を一般化したものである。以降では、特に明示のない限り、(24a)および(25a)式は、(24)および(25)式をそれぞれ兼ねる。
2A0 (m) =MA0 (m-1) (24a)
2B0 (m) =MB0 (m-1) (25a)
(24a)および(25a)式において、V2A0 (m)およびV2B0 (m)は、m(≧1)回目に更新されるV2A0およびV2B0を、それぞれ表す。MA0 (m-1)は、V2A0 (m-1)を対物偏向器13に入力した後に得られるMA0を、表す。MB0 (m-1)は、V2B0 (m-1)を対物偏向器13に入力した後に得られるMB0を、表す。
【0132】
上記一連の工程は、(26)および(27)式が成立するまで繰り返せばよい。即ち、|ΔMA0 (m)|および|ΔMB0 (m)|を、それぞれ(26)および(27)式が成立するまで低減すれば、上記軸上2回非点収差の補正が完了する。
|ΔMA0 (m)|<ε(26)
|ΔMB0 (m)|<ε(27)
(26)および(27)式において、ΔMA0 (m)およびΔMB0 (m)は、それぞれ、V2A0のm回目の更新によるMA0の変化量、および、V2B0のm回目の更新によるMB0の変化量を、表す。ε(>0)は、|ΔMA0 (m)|および|ΔMB0 (m)|に対する許容値を表す。即ち、|ΔMA0 (m)|および|ΔM (m)|は、上記軸上2回非点収差の補正残差に相当する。ΔMA0 (m)およびΔMB0 (m)は、(28)および(29)式でそれぞれ定義される。
ΔMA0 (m)=MA0 (m)-MA0 (m-1) (28)
ΔMB0 (m)=MB0 (m)-MB0 (m-1) (29)
【0133】
上記2つの一連の工程は、原理的には、別々に繰り返してよい。例えば、まず、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Aの対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(26)式が成立するまで更新し、次に、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Bの対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(27)式が成立するまで更新してよい。
しかし、実際には、そのように上記2つの一連の工程を繰り返すと、上記軸上2回非点収差の補正残差が問題となる可能性がある。即ち、(26)および(27)式が互いに同時に成立しなくなる可能性がある。
その原因は、V2Aがナイフエッジ20の高さ位置に発生する2回非点収差と、V2Bがその同じ高さ位置に発生する2回非点収差との間の、直交誤差である。この直交誤差は、上記偏向2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が補正される際に、上記偏向2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分を発生させるとともに、上記偏向2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分が補正される際に、上記偏向2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分を発生させる。
上記のことが問題になる場合には、上記2つの一連の工程を、交互に繰り返せばよい。そうすれば、たとえ上記直交誤差が零でなくても、上記偏向2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分と、上記偏向2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分とが、交互に、かつ徐々に小さくなり、その結果、(26)および(27)式が互いに同時に成立する。
【0134】
本実施例の装置は、次に、自身の生む偏向像面湾曲収差を測定および補正する。その要領は、以下の通りである。
【0135】
簡単に言えば、上記偏向像面湾曲収差を測定および補正することは、目的のデフォーカスを補正する手段の違い(対物偏向器13か、あるいは対物レンズ9か)除き、先述の軸上デフォーカスの測定および補正を、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点の各々において行うことに、同じである。
ここで、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点とは、その偏向フィールドをX方向およびY方向に等分割または不等分割することで得られる格子点である。その偏向フィールドの分割数を例えば4とすれば、そうして得られる格子点の数は、合計で25(=5×5)点となる。
【0136】
本実施例の装置は、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正のため、まず、最初に上記測定および補正が行われる格子点の座標にナイフエッジ20を移動させるとともに、その格子点上に電子ビーム1が入射するように、対物偏向器13によって電子ビーム1を偏向する。
本実施例の装置は、そのうえで、上記格子点(最初に上記測定および補正が行われる格子点)上で、V2Aを増減しながらナイフエッジ20によって電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定することで、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得し、これら曲線から、XY差DA0を決定する。
本実施例の装置は、あるいは、上記格子点で、V2Bを増減しながらナイフエッジ20によって電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定することで、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得し、これら曲線から、XY差DB0を決定する。
上記曲線を取得する際には、2回非点補正電圧を増減する範囲に、各曲線の谷を確認するのに十分な幅を持たせる必要がある。そのためには、上記偏向像面湾曲収差の、対物偏向器13の偏向フィールド内における分布を、予め、大まかにでも把握しておく必要がある。その分布は、図1の光学系に対する電子光学計算から、または、同じ光学系の使用実績から、予想できる。
【0137】
本実施例の装置は、次に、上記格子点上でXY差DA0またはDB0を零とすべく、フォーカス補正電圧V0Aを更新し、それを対物偏向器13に入力する。これにより、上記格子点上の上記偏向像面湾曲収差が補正される。ここで、DA0またはDB0は、より具体的には、DA0およびDB0のいずれか零でない一方であり、より好適には、DA0およびDB0のいずれか絶対値の小さくない一方である。(上記格子点上の上記偏向像面湾曲収差が補正されたときに零となるのは、DA0およびDB0の一方ではなく、DA0およびDB0の両方である。これについては後述する。)
フォーカス補正電圧V0A0の更新(即ち、V0A0’の決定)は、(30)または(31)式による。(30)式は、(9)式におけるI0A0、I0A0’、DA0、dIA、およびID0を、それぞれ、V0A0(x,y)、V0A0’(x,y)、DA0(x,y)、dVA、およびVD0(x,y)に置き換えて得られる式である。(31)式は、(10)式におけるI0A0、I0A0’、DB0、dIB、およびID0を、それぞれ、V0A0(x,y)、V0A0’(x,y)、DB0(x,y)、dVB、およびVD0(x,y)に置き換えて得られる式である。(30)および(31)式は、それぞれ、(32)および(33)式が成立する場合に用いられる。
0A0’(x,y)=V0A0(x,y)-DA0(x,y)/dVA
=V0A0(x,y)-VD0(x,y) (30)
0A0’(x,y)=V0A0(x,y)-DB0(x,y)/dVB
=V0A0(x,y)-VD0(x,y) (31)
|dVA|≧|dVB| (32)
|dVA|<|dVB| (33)
(30)および(31)式において、V0A0(x,y)は、偏向座標(x,y)に位置する格子点上のV0A0を表す。V0A0’(x,y)は、DA0(x,y)またはDB0(x,y)を零とすべく更新されるV0A0(x,y)を表す。V0A0は、第0のフォーカス補正電圧を表す。第0のフォーカス補正電圧とは、第0のフォーカス補正条件下におけるフォーカス補正電圧である。DA0(x,y)およびDB0(x,y)は、それぞれ、偏向座標(x,y)に位置する格子点上のDA0およびDB0を表す。dVAおよびdVBは、それぞれ、DおよびDの、V0Aに関する偏微分係数を表す。
【0138】
(30)および(31)式中のVD0(x,y)は、それぞれ(34)および(35)式で与えられる。(30)および(34)式中のVD0(x,y)は、フォーカス補正電圧の変化量に換算されたXY差DA0(x,y)を、表す。(31)および(35)式中のVD0(x,y)は、フォーカス補正電圧の変化量に換算されたXY差DB0(x,y)を、表す。(34)および(35)式は、本実施例の装置がXY差をフォーカス補正電圧の変化量に換算することを、示している。その換算は、係数dVAまたはdVBによる。
D0(x,y)=DA0(x,y)/dVA (34)
D0(x,y)=DB0(x,y)/dVB (35)
ここで、VD0(x,y)は、フォーカス補正電圧の変化量に換算された上記偏向像面湾曲収差を、表しもする。これは、XY差DA0(x,y)およびDB0(x,y)が、いずれも、上記偏向像面湾曲収差を表すことによる。
従って、(30)および(31)式は、本実施例の装置が、フォーカス補正電圧の変化量に換算された上記偏向像面湾曲収差をV0A0(x,y)から減算し、そうすることによってV0A0(x,y)を更新(即ち、V0A0’(x,y)を決定)することを、示している。
【0139】
D0(x,y)を上記偏向像面湾曲収差の測定値とすれば、上記偏向像面湾曲収差の補正値は、-VD0(x,y)(=V0A0’(x,y)-V0A0(x,y)=-DA0(x,y)/dVA=-DB0(x,y)/dVB)に等しい。即ち、上記偏向像面湾曲収差の測定値および補正値は、互いに大きさを同じくし、互いに符号を逆にする。以降では、説明の便宜上、このようにVD0(x,y)を上記偏向像面湾曲収差の測定値とする。
【0140】
本実施例の装置は、次に、上記格子点上で、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V0A0(x,y)の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、または、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V0A0(x,y)の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、繰り返す。これにより、上記格子点上の上記偏向像面湾曲収差の補正残差が低減する。
上記一連の工程が繰り返される間、V0A0(x,y)の更新は、(30a)または(31a)式による。(30a)および(31a)式は、それぞれ、(30)および(31)式を一般化したものである。以降では、特に明示のない限り、(30a)および(31a)式は、(30)および(31)式をそれぞれ兼ねる。
0A0 (m)(x,y)=V0A0 (m-1)(x,y)-DA0 (m-1)(x,y)/dVA
=V0A0 (m-1)(x,y)-VD0 (m-1)(x,y) (30a)
0A0 (m)(x,y)=V0A0 (m-1)(x,y)-DB0 (m-1)(x,y)/dVB
=V0A0 (m-1)(x,y)-VD0 (m-1)(x,y) (31a)
(30a)および(31a)式において、V0A0 (m)(x,y)は、m(≧1)回目に更新されるV0A0(x,y)を、表す。DA0 (m-1)(x,y)およびDB0 (m-1)(x,y)は、V0A0 (m-1)(x,y)を対物偏向器13に入力して得られるDA0(x,y)およびDB0(x,y)を、それぞれ表す。VD0 (m-1)(x,y)は、V0A0 (m-1)(x,y)を対物偏向器13に入力して得られるVD0(x,y)を、表す。(30a)および(31a)式中のVD0 (m-1)(x,y)は、それぞれ、(34a)および(35a)式で与えられる。
D0 (m-1)(x,y)=DA0 (m-1)(x,y)/dVA (34a)
D0 (m-1)(x,y)=DB0 (m-1)(x,y)/dVB (35a)
上記一連の工程は、上記格子点上で、(36)または(37)式が成立するまで繰り返される。(36)および(37)式において、εは、|DA0 (m)(x,y)|および|DB0 (m)(x,y)|に対する許容値を表す。即ち、|DA0 (m)(x,y)|および|DB0 (m)(x,y)|は、偏向座標(x,y)における上記偏向像面湾曲収差の補正残差に相当する。
|DA0 (m)(x,y)|<ε(36)
|DB0 (m)(x,y)|<ε(37)
【0141】
係数dVAおよびdVBの決定は、それぞれ、(38)および(39)式による。
【0142】
【数2】
(38)および(39)式において、DA1(x,y)、DB1(x,y)、およびV0A1(x,y)は、偏向座標(x,y)に位置する格子点上におけるDA1、DB1、およびV0A1を、それぞれ表す。V0A1は、第1のフォーカス補正電圧を表す。第1のフォーカス補正電圧とは、第1のフォーカス補正条件下におけるフォーカス補正電圧である。DAn(0,0)、DBn(0,0)、およびV0An(0,0)(いずれにおいてもn=0または1)は、対物偏向器13の偏向フィールドの中央におけるDAn(x,y)、DBn(x,y)、およびV0An(x,y)をそれぞれ表す。補足すれば、(38)式におけるV0A1(0,0)、V0A0(0,0)、およびΔV0Aは、それぞれ、(39)式におけるV0A1(0,0)、V0A0(0,0)、およびΔV0Aと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
本実施例の装置は、係数dVAを、dVAによるDA0(x,y)のVD0(x,y)への換算((34)および(34a)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdVAは、dVAによるDA0(x,y)のVD0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。本実施例の装置は、あるいは、係数dVBを、dVBによるDB0(x,y)のVD0(x,y)への換算((35)および(35a)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdVBは、dVBによるDB0(x,y)のVD0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。ここで、dVAおよびdVBは、それぞれ、(32)および(33)式が成立する場合に記憶される。
【0143】
補足すれば、係数dVAおよびdVBは、電子ビーム1を新たな格子点に入射させるたびに求め直してもよいが、それは必要ではない。即ち、偏向フィールドの中央において測定された係数dVAおよびdVBは、それ以外の偏向座標においても有効である。これは、対物偏向器13のフォーカス補正感度および2回非点補正感度は偏向座標に依存しないことによる。
厳密には、係数dVAおよびdVBの偏向座標への依存性は零ではなく、従って、その依存性に起因し、係数dVAおよびdVBは誤差を持ちうる。しかし、その誤差は問題とならない。たとえその誤差が零でなくても、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、(30a)式によって更新されたV0A0(x,y)の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、または、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、(31a)式によって更新されたV0A0(x,y)の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、上記格子点上で繰り返せば、DA0(x,y)およびDB0(x,y)は零に近づき、従って、上記格子点上で、ナイフエッジ20上のデフォーカスは零に近づく。
【0144】
本実施例の装置は、以降、上記と同様の測定および補正を、対物偏向器13の偏向フィールド内の残りの格子点に対して行う。これにより、対物偏向器13の偏向フィールド内の全ての格子点上のフォーカス補正電圧V0A0 (m)(x,y)が決定される。
【0145】
本実施例の装置は、その後、V0A0 (m)(x,y)に対する近似曲面を決定する。本実施例の装置は、以降、電子ビーム1を偏向座標(x,y)に向けて偏向する際に、その近似曲面から、偏向座標(x,y)に対応するフォーカス補正電圧V0Aを決定し、そのV0Aを、対物偏向器13に入力する。これにより、上記偏向像面湾曲収差が、対物偏向器13の偏向フィールド内の全域に渡って補正される。
【0146】
上記近似曲面は、偏向座標(二次元)に関する2次以上の関数である。以降では、上記近似曲面を、V0A0F(x,y)で表す。
【0147】
0A0F(x,y)の近似精度は、V0A0F(x,y)の次数とともに高くなる。ただし、V0A0F(x,y)を、より高次の関数とするには、その分だけ、偏向座標(x,y)とV0A0(x,y)との組の数を増やす必要が生じる。即ち、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点の数を増やす必要が生じる。より具体的には、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点の数を、V0A0F(x,y)を表す多項式の係数の個数以上とする必要がある。例えば、V0A0F(x,y)を、XおよびYに関する3次の関数とすれば、V0A0F(x,y)を表す多項式の係数の個数は、10個である。
【0148】
以上の要領によれば、上記偏向像面湾曲収差を、フォーカス補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線にではなく、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づいて測定および補正することができる。
上記偏向像面湾曲収差の測定および補正を、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせれば、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正に要する時間を長くすることなく、上記偏向像面湾曲収差の測定可能範囲を大きくすることができる。これは、静電型2回非点補正器としての対物偏向器13の、2回非点補正電圧に対する応答の速さと、静電型2回非点補正器としての対物偏向器13が2回非点補正電圧に応じてナイフエッジ20上の2回非点収差を変化させうる範囲の大きさとからである。
【0149】
静電型2回非点補正器としての対物偏向器13が2回非点補正電圧に応じてナイフエッジ20上の2回非点収差を変化させうる範囲の大きさには、静電型2回非点補正器としての対物偏向器13の2回非点補正感度が関わる。即ち、静電型2回非点補正器としての対物偏向器13の2回非点補正感度は、静電型フォーカス補正器としての対物偏向器13のフォーカス補正感度よりも高い。
これには、対物偏向器13のフォーカス補正感度および2回非点補正感度の、対物偏向器13の内径への依存性が関わる。より詳細には、静電型フォーカス補正器としての対物偏向器13のフォーカス補正感度は、対物偏向器13の内径に依存しないが、静電型2回非点補正器としての対物偏向器13の2回非点補正感度は、対物偏向器13の内径の2乗に反比例する。(これら補正感度の、対物偏向器13の内径への依存性は、対物偏向器13内の電位分布の、対物偏向器13の内径への依存性に由来する。)静電型2回非点補正器としての対物偏向器13の2回非点補正感度は、従って、対物偏向器13の内径を小さくすることにより、増強させられる。
【0150】
以上が、本実施例の装置の生む偏向像面湾曲収差の測定および補正についての説明である。その測定および補正のルーチンを、メインルーチン2として、図10に示す。
ただし、メインルーチン2と、その中のサブルーチン(サブルーチン3およびサブルーチン4)とは、いずれも、(32)式の成立を前提としている。即ち、これらメインルーチンおよびサブルーチンにおいては、係数dVAおよびdVBのうち、dVAのみが決定され、また、XY差DAnおよびDBn(いずれにおいてもn=0または1)のうち、DAnのみが決定される。
【0151】
(メインルーチン2)
図10に示すように、メインルーチン2は、以下のステップからなる。
まず、ステップS31において、nを零に設定する(n=0)。
次に、ステップS32において、V0An(V0A0)を読み込み、それを対物偏向器13に入力する。(ここで、V0A0は、メインルーチン2の開始直前の、対物偏向器13の偏向フィールド内の中央におけるフォーカス補正電圧V0Aの値に等しい。)
次に、ステップS33において、サブルーチン1(図7を参照)を実行し、XY差DAn(DA0)を決定する。(ここで、DAnは、対物偏向器13の偏向フィールドの中央に位置する格子点上で測定される。このことは、ステップS36にも当てはまる。)
次に、ステップS34において、nを1に設定する(n=1)。
次に、ステップS35において、V0An(V0A1)を読み込み、それを対物偏向器13に入力する。
次に、ステップS36において、サブルーチン1(図7を参照)を実行し、XY差DAn(DA1)を決定する。
次に、ステップS37において、係数dVAを決定する。(係数dVAが既知である場合には、ステップS31~ステップS37を、dVAを読み込むステップに置き換えることができる。)
次に、ステップS38において、サブルーチン3(図11を参照)を実行し、V0A0 (m)(x,y)を決定する。
次に、ステップS39において、近似曲面V0A0F(x,y)を決定する。そして、メインルーチン2を終了する。
【0152】
(サブルーチン3)
サブルーチン3は、図11に示すように、以下のステップからなる。ただし、以下の説明において、n1Aおよびn1Bは、それぞれV1AおよびV1Bに対するループ制御変数を表す。n1Amin(<0)およびn1Amax(>0)は、n1Aの最小値および最大値をそれぞれ表す(|n1Amin|=|n1Amax|)。n1Bmin(<0)およびn1Bmax(>0)は、n1Bの最小値および最大値をそれぞれ表す(|n1Bmin|=|n1Bmax|)。ΔV1AおよびΔV1Bは、それぞれV1AおよびV1Bの変化量を表す。
まず、ステップS41において、n1Aをn1Aminに設定する(n1A=n1Amin)とともに、n1Bをn1Bminに設定する(n1B=n1Bmin)。
次に、ステップS42において、V1B(=ΔV1B1B)を対物偏向器13に入力する。ここで、V1Bは、偏向座標(x,y)のy成分に比例する。
次に、ステップS43において、V1A(=ΔV1A1A)を対物偏向器13に入力する。ここで、V1Aは、偏向座標(x,y)のx成分に比例する。
次に、ステップS44において、サブルーチン4(図12を参照)を実行し、V0A0 (m)を決定する。
次に、ステップS45において、n1A<n1Amaxが成立するかどうか判定する。それが成立する場合には、ステップS46に進む。それが成立しない場合には、ステップS47に進む。
ステップS46においては、n1A+1をn1Aに代入する(n1A=n1A+1)。そして、ステップS43に戻る。
ステップS47においては、n1B<n1Bmaxが成立するかどうか判定する。それが成立する場合には、ステップS48に進む。それが成立しない場合には、サブルーチン3を終了し、メインルーチン2(図10を参照)に戻る。
ステップS48においては、n1B+1をn1Bに代入する(n1B=n1B+1)。そして、ステップS42に戻る。
補足すれば、ステップS42とステップS43は、互いに前後しても構わない。ただし、そうする際には、ステップS45およびS46と、ステップS47およびS48とを、互いに前後させる必要がある。
【0153】
(サブルーチン4)
サブルーチン4は、図12に示すように、サブルーチン2(図8を参照)とほぼ同じである。より詳細には、サブルーチン4は、サブルーチン2におけるステップS22およびステップS26を、それぞれステップS52およびステップS56に置き換えたものに、相当する。ステップS52においては、V0A0 (m)が対物偏向器13に入力される。ステップS56においては、V0A0 (m)が決定される。(V0A0 (m)は、m=0のとき、V0A0を表す。ここで、V0A0は、メインルーチン2の開始直前のフォーカス補正電圧V0Aの値に等しい。その値は、偏向座標(x,y)に依存する。)
補足すれば、サブルーチン4内ではフォーカス補正電圧は偏向座標(x,y)には無頓着に決定されるため、サブルーチン4内のフォーカス補正電圧の表記は、V0A0 (m)(x,y)ではなく、V0A0 (m)とした。同様のことは、サブルーチン7(図20を参照)にも当てはまる。
【0154】
本実施例の装置は、最後に、自身の生む偏向2回非点収差を測定および補正する。その偏向2回非点収差の測定および補正も、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点(先述のように、合計5×5=25点)上で行われる。
上記偏向2回非点収差の測定および補正の要領は、図24の光学系における同じ収差の測定および補正の要領に同じである。簡単に言えば、上記偏向2回非点収差を測定および補正することは、先述の軸上2回非点収差の測定および補正を上記格子点の各々において行うことに、同じである。その詳細は、以下の通りである。
【0155】
本実施例の装置は、上記偏向2回非点収差の測定および補正のため、まず、最初に上記測定および補正が行われる格子点の座標にナイフエッジ20を移動させるとともに、その格子点上に電子ビーム1が入射するように、対物偏向器13によって電子ビーム1を偏向する。
本実施例の装置は、そのうえで、上記格子点(最初に上記測定および補正が行われる格子点)上で、V2Aを増減しながらナイフエッジ20によって電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定することで、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得する。
本実施例の装置は、これら曲線からXY平均MA0を決定し、MA0に基づいてV2Aを更新し、そうして更新されたV2Aを、対物偏向器13に入力する。これにより、上記格子点上における、上記偏向2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が、補正される。
本実施例の装置は、次に、上記格子点上で、V2Bを増減しながらナイフエッジ20によって電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定することで、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得する。
本実施例の装置は、これら曲線からXY平均MB0を決定し、MB0に基づいてV2Bを更新し、そうして更新されたV2Bを、対物偏向器13に入力する。これにより、上記格子点上における、上記偏向2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分が、補正される。
補足すれば、上記過程においては、MB0の決定およびV2Bの入力が、MA0の決定およびV2Aの入力の後になされるが、これらの順序は互いに前後してもよい。
【0156】
上記過程におけるV2A0およびV2B0の更新は、それぞれ(40)および(41)式で表せる。
2A0’(x,y)=MA0(x,y) (40)
2B0’(x,y)=MB0(x,y) (41)
(40)および(41)式において、V2A0’(x,y)およびV2B0’(x,y)は、上記過程によって更新されるV2A0(x,y)およびV2B0(x,y)を、それぞれ表す。V2A0(x,y)およびV2B0(x,y)は、偏向座標(x,y)に位置する格子点上のV2A0およびV2B0を、それぞれ表す。MA0(x,y)およびMB0(x,y)は、偏向座標(x,y)に位置する格子点上のMA0およびMB0を、それぞれ表す。M(x,y)およびM(x,y)は、偏向座標(x,y)に位置する格子点上のMおよびMを、それぞれ表す。
【0157】
本実施例の装置は、次に、上記格子点上で、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Aの対物偏向器13への入力までの、一連の工程、および、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Bの対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、繰り返す。その間、V2AおよびV2Bは、それぞれ(40a)および(41a)式によって更新される。(40a)および(41a)式は、それぞれ、(40)および(41)式を一般化したものである。以降では、特に明示のない限り、(40a)および(41a)式は、(40)および(41)式をそれぞれ兼ねる。
2A0 (m)(x,y)=MA0 (m-1)(x,y) (40a)
2B0 (m)(x,y)=MB0 (m-1)(x,y) (41a)
(40a)および(41a)式において、V2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)は、m(≧1)回目に更新されるV2A0(x,y)およびV2B0(x,y)を、それぞれ表す。MA0 (m-1)(x,y)は、V2A0 (m-1)(x,y)を対物偏向器13に入力した後に得られるMA0(x,y)を、表す。MB0 (m-1)(x,y)は、V2B0 (m-1)(x,y)を対物偏向器13に入力した後に得られるMB0(x,y)を、表す。
上記一連の工程は、上記格子点上で、(42)および(43)式が成立するまで繰り返される。その結果、上記格子点上で、上記偏向2回非点収差の補正が完了する。
|ΔMA0 (m)(x,y)|<ε(42)
|ΔMB0 (m)(x,y)|<ε(43)
(42)および(43)式において、ΔMA0 (m)(x,y)およびΔMB0 (m)(x,y)は、それぞれ、V2A0(x,y)のm回目の更新によるMA0(x,y)の変化量、および、V2B0(x,y)のm回目の更新によるMB0(x,y)の変化量を、表す。ε(>0)は、|ΔMA0 (m)(x,y)|および|ΔMB0 (m)(x,y)|に対する許容値を表す。即ち、|ΔMA0 (m)(x,y)|および|ΔMB0 (m)(x,y)|は、偏向座標(x,y)における上記偏向2回非点収差の補正残差に相当する。ΔMA0 (m)(x,y)およびΔMB0 (m)(x,y)は、(44)および(45)式でそれぞれ定義される。
ΔMA0 (m)(x,y)=MA0 (m)(x,y)-MA0 (m-1)(x,y) (44)
ΔMB0 (m)(x,y)=MB0 (m)(x,y)-MB0 (m-1)(x,y) (45)
【0158】
上記2つの一連の工程は、原理的には、別々に繰り返してよい。例えば、まず、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Aの対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(42)式が成立するまで更新し、次に、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、V2Bの対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(43)式が成立するまで更新してよい。
しかし、上記2つの一連の工程は、実際には、交互に繰り返すのがよい。そうすれば、V2Aがナイフエッジ20の高さ位置に発生する2回非点収差と、V2Bがその同じ高さ位置に発生する2回非点収差との間の直交誤差の如何によらず、(42)および(43)式を、互いに同時に成立させることができる。
【0159】
本実施例の装置は、以降、上記と同様の測定および補正を、対物偏向器13の偏向フィールド内の残りの格子点に対して行う。これにより、対物偏向器13の偏向フィールド内の全ての格子点上の2回非点補正電圧V2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)が決定される。
【0160】
本実施例の装置は、その後、V2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)の各々に対する近似曲面を決定する。本実施例の装置は、以降、電子ビーム1を偏向座標(x,y)に向けて偏向する際に、V2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)に対する近似曲面から、偏向座標(x,y)に対応する2回非点補正電圧V2AおよびV2Bをそれぞれ決定し、そのV2AおよびV2Bを、ともに対物偏向器13に入力する。これにより、上記偏向2回非点収差が、対物偏向器13の偏向フィールド内の全域に渡って補正される。
【0161】
以降で、XY差の起源を説明するとともに、XY差がナイフエッジ20上のデフォーカスの大きさの指標となることの根拠を、示す。そのため、まずは、ナイフエッジ20上のデフォーカスおよび2回非点収差を表す収差図形を、示す。そして、これら収差を表す収差図形から、XY差を導く。
【0162】
まず、ナイフエッジ20上のデフォーカスを表す収差図形をデフォーカス図形S(複素数)とすれば、Sは、電子ビーム1の収束半角を用いて、(46)式で表せる。
(α,θ)=Fαexp(iθ) (46)
(46)式において、F(実数)は、上記デフォーカスに関する係数である。Fは、投影図形11の高さ位置の、ナイフエッジ20の高さ位置からのずれに相当する。αは、電子ビーム1の収束半角を表す。ここで、電子ビーム1の収束半角とは、電子ビーム1に含まれる各主光線周りの光線の収束半角を意味する。θは、電子ビーム1に含まれる各主光線周りの回転角を表す。αおよびθは、ともに、上記各主光線周りの光線の近軸軌道に関する角度である。ここで、近軸軌道とは、収差を含まない軌道である。
【0163】
係数Fは、(47)式で表せる。
F=F+a0A+b0A (47)
(47)式において、Fは、定数であり、V0AおよびI0Aがいずれも零である条件下におけるFを表す。aおよびbは、フォーカス補正電圧V0Aおよびフォーカス補正電流I0Aの生むデフォーカスに関する係数を、それぞれ表す。以降では、aおよびbを、デフォーカス係数と称す。
【0164】
デフォーカス図形S(α,θ)は、0≦θ<2πの範囲内の全てのθ、および0≦α≦αmaxの範囲内の全てのαに対して定義される。あるいは、それらの集合体がデフォーカス図形であると考えてもよい。ここで、αmaxは、αの最大値を表す。αmaxは、電子ビーム1の径によって決まる。θおよびαをそれぞれ0≦θ<2πおよび0≦α≦αmaxの範囲内で適宜変化させて得られるS(α,θ)の例を、図13に示す。
図13から分かるように、デフォーカス図形S(α,θ)は円形を成し、αを異にする複数のSの群は、中心を同じくする。即ち、そのSの群は、同心円を形成する。
上記同心円を構成する各円は、θが0から2πまで変化する間に、反時計回りに1回描かれる。これは、θが0から2πまで変化する間に、(46)式右辺が、反時計回りに1回転することによる。
【0165】
デフォーカス図形S(α,θ)の大きさは、(46)式から分かるように、係数Fに比例する。そのため、Fの絶対値が小さく(または大きく)なれば、デフォーカス図形Sは小さく(または大きく)なり、また、もしFが零となれば、デフォーカス図形Sは、αによらず、零になる。
【0166】
一方、ナイフエッジ20上の2回非点収差を表す収差図形を2回非点収差図形S(複素数)とすれば、Sは、(48)式で表せる。
(α,θ)=Tαexp(-iθ) (48)
(48)式において、T(複素数)は、上記2回非点収差に関する係数である。Tは、上記2回非点収差の呈する非点隔差(2本の焦線間の距離)の半分に等しい大きさを持つ。Tは、また、上記2回非点収差の形成する焦線の方向とともに変化する偏角を持つ。
【0167】
係数Tは、(49)式で表せる。
=TOC+a2C2C (49)
(49)式において、TOC(複素数)は、定数であり、V2C(複素数)が零である条件下におけるTを表す。a2C(複素数)は、V2Cの係数であり、定数である。V2Cは、2回非点補正電圧(2回非点発生電圧)を表す。
【0168】
2CおよびV2Cは、それぞれ(50)および(51)式で定義される。
2C=a2R+ia2I (50)
2C=V2A+iV2B (51)
(50)式において、a2Rおよびa2I(いずれも実数)は、a2Cの実部および虚部をそれぞれ表す。a2Cは、対物偏向器13のZ軸周りの回転角次第で実数(a2C=a2R、即ち、a2I=0)となる。以降では、a2C、a2R、およびa2Iを、2回非点収差係数と称す。
【0169】
2回非点収差図形S(α,θ)は、0≦θ<2πの範囲内の全てのθ、および0≦α≦αmaxの範囲内の全てのαに対して定義される。あるいは、それらの集合体が2回非点収差図形であると考えてもよい。θおよびαをそれぞれ0≦θ<2πおよび0≦α≦αmaxの範囲内で適宜変化させて得られるS(α,θ)の例を、図14に示す。
図14から分かるように、S(α,θ)はS(α,θ)と同様に円形を成し、αを異にする複数のSの群は、中心を同じくする。即ち、そのSの群は、同心円を形成する。
上記同心円を構成する各円は、θが0から2πまで変化する間に、時計回りに1回描かれる。これは、θが0から2πまで変化する間に、(48)式右辺が、時計回りに1回転することによる。S(α,θ)は、この点において、S(α,θ)と性質を異にする。
【0170】
2回非点収差図形S(α,θ)は、その大きさおよび回転角を、(48)および(49)式から分かるように、2回非点補正電圧V2C(=V2A+iV2B)に依存して変える。従って、Sの大きさおよび回転角は、V2Cによって制御できる。(ただし、Sは円形を成すから、その回転角は図14には表れない。)
【0171】
(46)および(48)式より、(52)式が得られる。(52)式は、デフォーカス図形Sと2回非点収差図形Sの合成による収差図形を表す。以降では、その収差図形を、収差図形S+Sと称す。
+S=Fαexp(iθ)+Tαexp(-iθ)(52)
(52)式右辺は、θの0から2πまでの変化とともに、楕円(場合によっては、円または線分)を成し、従って、θの0から2πまでの変化とともに、自身の半径を2回増減する。その楕円は、2回対称を成す。Sの表す収差が2回非点収差と称されるのは、このためである。
【0172】
上記楕円は、係数F、収束半角α、および2回非点収差係数a2Cが一定であっても、2回非点補正電圧V2C(=V2A+iV2B)次第で、自身の径(長径および短径)を変える。これを以下で説明する。
ただし、その説明のため、V2Cとは別の2回非点補正電圧を定義し、それをV2SC(複素数)とする。V2SCは、自身の零値を、T(=TOC+a2C2C)=0を満たすV2Cに一致させる。
【0173】
2SCを用いれば、(49)式は、(49a)式に書き改められる。即ち、V2SCが零のとき、Tは零になり、従って、ナイフエッジ20上の2回非点収差は零になる。
=a2C2SC (49a)
(49)および(49a)式から、(53)式が成立する。(53)式は、V2SCとV2Cとの関係を表す。V2SCは、(54)式で表せる。(54)式において、V2SAおよびV2SBは、それぞれ、V2SCの実部および虚部を表す。V2SAは、V2Aとの間に、(55)式で表される関係を持つ。V2SBは、V2Bとの間に、(56)式で表される関係を持つ。
2SC=V2C+TOC/a2C (53)
2SC=V2SA+iV2SB (54)
2SA=V2A+Re(TOC/a2C) (55)
2SB=V2B+Im(TOC/a2C) (56)
【0174】
(52)式の表すS+Sは、V2SB=0が成立するとき、(52a)式で表せ、また、V2SA=0が成立するとき、(52b)式で表せる。
+S={|a2C|V2SAαexp(-i2(θ-ζ/2))+Fα}exp(i(θ-ζ/2))exp(iζ/2) (52a)
+S={|a2C|V2SBαexp(-i2(θ-ζ/2-π/4))+Fα}exp(i(θ-ζ/2-π/4))exp(i(ζ/2+π/4)) (52b)
(52a)および(52b)式において、ζは、a2Cの偏角を表す。ζは、V2SAおよびV2SBのいずれにも依存しないが、対物偏向器13の回転角に依存するとともに、電子ビーム1中の主光線の軌道の、対物レンズ9の磁界による回転角に依存する。
【0175】
(52a)および(52b)式右辺の表す楕円は、いずれも、V2SAおよびV2SBの変化とともに、自身の径(長径および短径)を変えるが、自身の軸(長軸および短軸)の回転角は変えない。これは、第一に、(52a)および(52b)式右辺の表す楕円の回転角は、それぞれexp(iζ/2)およびexp(i(ζ/2+π/4))の作用によって決定されること、第二に、ζは、上述のように、V2SAおよびV2SBのいずれにも依存しないことによる。
【0176】
(52a)および(52b)式右辺の表す楕円の長軸(または短軸)の回転角は、具体的には、上記作用により、それぞれ、ζ/2およびζ/2+π/4である。即ち、V2SB=0が成立するときにV2SAが作る収差図形S+Sと、V2SA=0が成立するときにV2SBが作る収差図形S+Sは、互いの間に、それらの長軸(または短軸)の回転角の差として、π/4(45°)の差を呈する。
上記回転角の差π/4は、分布関数f2A(ψ)およびf2B(ψ)の回転角の差に等しい(図2を参照)。これら回転角の差は、f2A(ψ)が最大または最小となる角度位置と、f2B(ψ)が最大または最小となる角度位置との差に相当する。これら角度位置の差がπ/4であることは、f2A(ψ-π/4)がf2B(ψ)に一致することから確認できる。即ち、(52a)および(52b)式の表す収差図形S+Sには、(3)式の表す電極電圧V(ψ)が反映されている。ここで、f2A(ψ-π/4)およびf2B(ψ)は、各電極位置において、それぞれcos2(ψ-π/4)およびsin2ψに等しい。
補足すれば、(52a)および(52b)式右辺中の角度変数がθ-ζ/2、θ-ζ/2-π/4、またはその他であることは、上記楕円を変形または回転させない。これは、これら角度変数の如何によらず、これら角度変数の示す各値(0から2πまで)に対し、上記楕円上の各点の位置が決まることによる。別の見方によれば、θに加算値(例えば、ζ/2や、ζ/2-π/4)が加算されれば、その加算値は、上記楕円を変化または回転させることなく、自身の大きさに相当する量だけ、上記楕円上の各点に、上記楕円の外周上を移動せしめる。
【0177】
≠0かつV2SB=0が成立するときにV2SAが作る収差図形S+Sの例を、図15Aに示すとともに、S≠0かつV2SA=0が成立するときにV2SBが作る収差図形S+Sの例を、図15Bに示す。図15Aおよび図15Bは、それぞれ、収差図形S+Sが、V2SAおよびV2SB次第で自身の径(長径および短径)を変える様子を表す。ただし、図15Aおよび図15Bに示された収差図形S+Sは、いずれも、αを異にする複数の収差図形S+Sではなく、ある単一のαに関する収差図形S+Sである。
【0178】
ここで注意すべきは、収差図形S+Sの径が変われば、図15Aおよび図15Bから分かるように、収差図形S+SのX方向およびY方向の幅も変わることである。即ち、収差図形S+SのX方向およびY方向の幅は、いずれも、V2SAおよびV2SBに依存する。このことは、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけが、いずれも、V2SAおよびV2SBに依存して変化することを、意味する。
【0179】
その様子は、図4Aおよび図4Bに表れている。図4Aには、V2SB=0が成立するときにV2SAが作る収差図形S+SのX方向およびY方向の幅が、V2SAに依存する様子が、表れている。(図4Aは、先述のように、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を示す図である。図4Aには、V2SB=0が成立するときに電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけがV2SAに依存して変化する様子が、表れている。)図4Bには、V2SA=0が成立するときにV2SBが作る収差図形S+SのX方向およびY方向の幅が、V2SBに依存する様子が、表れている。(図4Bは、先述のように、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の例を示す図である。図4Bには、V2SA=0が成立するときに電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけがV2SBに依存して変化する様子が、表れている。)
ここで、V2SAおよびV2SBは、図4Aおよび図4BにおけるV2AおよびV2Bにそれぞれ対応する。V2AおよびV2Bがともに零のときにおけるナイフエッジ20上の2回非点収差が零のとき、V2SAおよびV2SBは、それぞれV2AおよびV2Bに等しい。
【0180】
ここでさらに注意すべきは、上記回転角の差がπ/4のもとでは、S≠0が成立するときにXY差DおよびDのいずれか一方が零となることはありうるが、S≠0が成立するときにXY差DおよびDの両方が零となることはありえないことである。即ち、ナイフエッジ20上のデフォーカスが零でない(S≠0)ときにそのデフォーカスが零と誤判定されるという好ましくない事態は、発生しえない。
【0181】
このことは、収差図形S+Sの回転角に着目すれば、次のように説明できる。
上記回転角の差がπ/4のもとで、S≠0が成立するときにXY差DおよびDのいずれか一方が零となることがありうるのは、例えば、図16Aおよび図16Bに示すように、S≠0かつV2SB=0が成立するときにV2SAが作る収差図形S+Sの成す楕円は、X軸またはY軸に平行な長軸(または短軸)を有する(図16Aを参照)が、S≠0かつV2SA=0が成立するときにV2SBが作る収差図形S+Sの成す楕円は、X軸およびY軸に対してπ/4(45°)だけ回転している長軸(または短軸)を有する(図16Bを参照)場合においてである。
上記場合に、S≠0かつV2SB=0が成立する条件下でV2SAが増減すれば、図16Aから分かるように、収差図形S+Sの成す楕円は、自身の径(長径および短径)を、X方向およびY方向に沿って変える。その結果、XY差が発生する。即ち、D≠0が成立する。
一方、上記場合に、S≠0かつV2SA=0が成立する条件下でV2SBが増減すれば、図16Bから分かるように、収差図形S+Sの成す楕円は、自身の径(長径および短径)を、X軸およびY軸に対してπ/4(45°)だけ回転した方向に沿って変える。その結果、XY差が発生しない。即ち、D=0が成立する。このことは、その楕円の形状および大きさの、いずれにもよらない。
およびDのいずれか一方(上記場合においては、D)がこのように零となるか否かは、収差図形S+Sの成す楕円の軸の方向(互いに直交する2方向)次第であるだけでなく、収差図形S+Sの幅が評価される方向(互いに直交する2方向)次第でもある。ここで、収差図形S+Sの幅が評価される方向は、電子ビーム1のぼけが測定される方向に相当する。それら方向は、即ち、ナイフエッジ20Xおよび20Yが電子ビーム1によって走査される方向である。(もしナイフエッジ20Xおよび20Yが走査される方向が変えられるのなら、それに応じて、ナイフエッジ20Xおよび20Yのエッジの方向も変えられる必要がある。)
【0182】
もし、S≠0が成立しているときにDおよびDの両方が零となることがあるならば、そのようなことが生じうるのは、例えば、上記回転角の差が、仮にπ/4ではなく、π/2であり、かつ、収差図形S+Sの長軸および短軸の各々が、収差図形S+Sの幅が評価される方向(互いに直交する2方向)に対してπ/4だけ回転している場合においてである。
しかし、上記回転角の差は現実にはπ/4であるから、そのような場合は、現実にはありえない。即ち、現実には、ナイフエッジ20上のデフォーカスが零でないときにそのデフォーカスが零と誤判定されるという好ましくない事態は、発生しえない。言い換えれば、本実施例においてDおよびDのいずれか零でない一方を決定することは、その好ましくない事態の発生を防ぐための十分条件である。
【0183】
補足すれば、収差図形S+Sの幅が評価される方向がX方向およびY方向であることは、上記事態の発生を防ぐための必要条件ではない。収差図形S+Sの幅が評価される方向は、例えば、X方向およびY方向に対してπ/4だけ回転していてもよい。
即ち、電子ビーム1のぼけが測定される方向は、X方向およびY方向に対してπ/4だけ回転していてもよい。(ただし、電子ビーム1のぼけが測定される方向をそのように回転させる場合には、ナイフエッジ20Xおよび20Yのエッジの方向を、それぞれ、Y方向およびX方向に対してπ/4だけ回転させる必要がある。)
言い換えれば、電子ビーム1のぼけが測定される方向を任意に定めるとともに、それら方向を改めてX方向およびY方向と定義することが、可能である。(このことは、実施例2~実施例12にも当てはまる。)
しかし、電子ビーム1のぼけが測定される方向が本来のX方向およびY方向であれば、ナイフエッジ20に、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転を補正するためのナイフエッジを兼ねさせられるという、利点が生じる。(ここで、対物偏向器13の偏向フィールドは、本来のX方向またはY方向に平行な辺からなる。)
【0184】
さらに補足すれば、上記回転角の差が正確にπ/4であることは、上記事態の発生を防ぐための必要条件ではない。従って、本実施例において、分布関数f2A(ψ)およびf2B(ψ)の回転角の差は、正確にπ/4でなくてもよい。即ち、f2A(ψ)およびf2B(ψ)は、互いに正確に直交しなくてもよい。(f2A(ψ)およびf2B(ψ)が先述のように各電極位置においてそれぞれcos2ψおよびsin2ψに等しければ、f2A(ψ)およびf2B(ψ)は、互いに直交する。)これは、先述のように、本実施例では、XY差DおよびDの両方ではなく、DおよびDのいずれか一方を決定すればよいことによる。ここで、DおよびDのいずれか一方とは、より具体的には、DおよびDのいずれか零でない一方であり、より好適には、DおよびDのいずれか絶対値の小さくない一方である。
2A(ψ)およびf2B(ψ)は、より具体的には、互いに線形独立であればよい。これらが互いに線形独立であれば、V2Aに起因する2回非点収差とV2Bに起因する2回非点収差も互いに線形独立となり、従って、ナイフエッジ20上に、互いに線形独立な2成分からなる2回非点収差を発生させることができる。(即ち、ナイフエッジ20上の2回非点収差に、互いに線形独立な2成分からなる変化を与えることができる。)そうすることは、本実施例においてDおよびDのいずれか零でない一方を、V2AおよびV2Bに起因する2回非点収差の回転角の如何にも、電子ビーム1のぼけが測定される方向の如何にもよらず、確実に取得するための、必要条件である。(このことは、実施例2~実施例12にも当てはまる。ただし、実施例3および実施例4では、DおよびDが、それぞれDhAおよびDhBに置き換えられる。)
【0185】
収差図形S+Sから、XY差DおよびDが導ける。より具体的には、収差図形S+Sから、XY差DおよびDと、係数Fおよび2回非点収差係数a2Cとの関係が、導ける。これを以下で説明する。
【0186】
(52)式から、S+Sの実部が得られる。S+Sの実部をxと置けば、xは、(57)式に示す通りである。
x=Re(S+S
=α{(F+Re(T))cosθ+Im(T)sinθ} (57)
【0187】
xは、θに依存する。θがxを最大または最小とするとき、(57)式をθで偏微分して得られる導関数は、零となる。その導関数は、(58)式に示す通りである。
【0188】
【数3】
(58)式で示される導関数が零となれば、(59)式が成立する。
(F+Re(T))sinθ-Im(T)cosθ=0(59)
(59)式を変形すれば、(60)式が得られる。
[{(F+Re(T))/P}sinθ-(Im(T)/P)cosθ]
=P(cosλ・sinθ+sinλ・cosθ)
=Psin(θ+λ)=0 (60)
(60)式より、(61)式が成立する。(61)式において、μは整数である。
θ=-λ+μπ (61)
以降では、(61)式を満たすθを、θμとする。即ち、(61a)式が成立する。
θμ=-λ+μπ (61a)
(60)式中のP、cosλ、およびsinλは、それぞれ、(62)、(63)、および(64)式で与えられる。
={(F+Re(T))+(Im(T))1/2 (62)
cosλ=(F+Re(T))/P(63)
sinλ=-Im(T)/P(64)
【0189】
θ=θμが成立するとき、xは、(57)および(61a)式より、(65)式に示す通りとなる。ただし、(65)式の導出に、cosθμ=cos(-λ+μπ)=+cosλまたは-cosλと、sinθμ=sin(-λ+μπ)=-sinλまたは+sinλとが成立することを用いた。
x=α{(F+Re(T))cosθμ+Im(T)sinθμ
=±α{(F+Re(T))+(Im(T))}/P
=±αP(65)
【0190】
(65)式は、xの最大値または最小値を表す。xの最大値と最小値の差をx(≧0)と置けば、xは、(66)式で与えられる。
=2αP (66)
は、図17に示すように、収差図形S+Sの成す楕円のX方向の幅に等しい。従って、xは、電子ビーム1のX方向のぼけに寄与する。
【0191】
は、V2Aに依存する。V2Aがxを最小とするとき、(66)式をV2Aで偏微分して得られる導関数は、零となる。その導関数は、(67)式に示す通りである。xは、また、V2Bに依存する。V2Bがxを最小とするとき、(66)式をV2Bで偏微分して得られる導関数は、零となる。その導関数は、(68)式に示す通りである。(67)および(68)式において、TORおよびTOIは、定数TOCの実部および虚部をそれぞれ表す。
【0192】
【数4】
即ち、V2Aがxを最小とするとき、(69)式が成立し、V2Bがxを最小とするとき、(70)式が成立する。ただし、(69)式においては、V2AがV2AXで表されており、(70)式においては、V2BがV2BXで表されている。V2AXおよびV2BXは、先述の定義(第0~第2の2回非点発生電圧の定義)から、いずれも、第1の2回非点発生電圧51に相当する。
2AX=-(a2R/|a2C)F-(a2ROR+a2IOI)/|a2C(69)
2BX=(a2I/|a2C)F+(a2IOR-a2ROI)/|a2C(70)
【0193】
(69)式から分かるように、V2AXはV2Bに依存せず、(70)式から分かるように、V2BXはV2Aに依存しない。このことは、V2AXおよびV2BXが、それぞれ、ナイフエッジ20上の2回非点収差の、V2BおよびV2Aに起因する成分に依存しないことを、意味する。ただし、このことは、V2AXを決定すべくV2Aを増減する間はV2Bを固定し、V2BXを決定すべくV2Bを増減する間はV2Aを固定することを、前提とする。ここで、V2Aを増減する間にV2Bを固定、および、V2Bを増減する間にV2Aを固定することは、それぞれ、(67)および(68)式の表す導関数が偏微分導関数であることに、対応する。
【0194】
(52)式からは、さらに、S+Sの虚部が得られる。S+Sの虚部をyと置けば、yは、(71)式に示す通りである。
y=Im(S+S
=α{(F-Re(T))sinθ+(Im(T))cosθ} (71)
【0195】
を求めた手法と同様の手法によりy(≧0)を求めれば、yは、(72)式に示す通りとなる。
=2αP (72)
ここで、yは、図17に示すように、収差図形S+Sの成す楕円のY方向の幅に等しい。従って、yは、電子ビーム1のY方向のぼけに寄与する。(72)式中のPは、(73)式で与えられる。
={(F-Re(T))+(Im(T))1/2 (73)
【0196】
は、V2Aに依存する。V2Aがyを最小とするとき、(72)式をV2Aで偏微分して得られる導関数は、零となる。その導関数は、(74)式に示す通りである。yは、また、V2Bに依存する。V2Bがyを最小とするとき、(72)式をV2Bで偏微分して得られる導関数は、零となる。その導関数は、(75)式に示す通りである。
【0197】
【数5】
即ち、V2Aがyを最小とするとき、(76)式が成立し、V2Bがyを最小とするとき、(77)式が成立する。ただし、(76)式においては、V2AがV2AYで表されており、(77)式においては、V2BがV2BYで表されている。V2AYおよびV2BYは、先述の定義(第0~第2の2回非点発生電圧の定義)から、いずれも、第2の2回非点発生電圧52に相当する。
2AY={a2R/|a2C}F-(a2ROR+a2IOI)/|a2C(76)
2BY=-{a2I/|a2C}F+(a2IOR-a2ROI)/|a2C(77)
【0198】
(76)式から分かるように、V2AYはV2Bに依存せず、(77)式から分かるように、V2BYはV2Aに依存しない。このことは、V2AYおよびV2BYは、それぞれ、ナイフエッジ20上の2回非点収差の、V2BおよびV2Aに起因する成分に依存しないことを、意味する。ただし、このことは、V2AYを決定すべくV2Aを増減する間はV2Bを固定し、V2BYを決定すべくV2Bを増減する間はV2Aを固定することを、前提とする。ここで、V2Aを増減する間にV2Bを固定、および、V2Bを増減する間にV2Aを固定することは、それぞれ、(74)および(75)式の表す導関数が偏微分導関数であることに、対応する。
【0199】
(69)、(70)、(76)、および(77)式から分かるように、a2RFが零でない限り、V2AXとV2AYは互いに異なり、また、a2IFが零でない限り、V2BXとV2BYは互いに異なる。ここで、a2Rおよびa2Iは、対物偏向器13が2回非点補正器として機能する以上、互いに同時には零にならない。
従って、本実施例においては、Fが零でない限り、V2AXとV2AYとの差、およびV2BXとV2BYとの差の、少なくとも1つが、零でない値を持つ。これが、XY差の起源である。即ち、Fが零でない限り、DおよびDが互いに同時に零になることはない。
【0200】
ここで注意すべきは、(69)、(70)、(76)、および(77)式から分かるように、V2AX、V2BX、V2AY、およびV2BYは、いずれも、αに依存しないことである。
即ち、V2AXおよびV2BXは、各々、全てのαに関する収差図形S+Sの成す楕円のX方向の大きさを最小とし、従って、各々、ナイフエッジ20Xによって測定される電子ビーム1のX方向のぼけを最小とする。V2AYおよびV2BYは、各々、全てのαに関する収差図形S+Sの成す楕円のY方向の大きさを最小とし、従って、各々、ナイフエッジ20Yによって測定される電子ビーム1のY方向のぼけを最小とする。
【0201】
(69)、(70)、(76)、および(77)式から、(78)および(79)式が得られる。(78)および(79)式は、それぞれ、XY差DおよびDを与える。ここで、D(XY差のA成分)およびD(XY差のB成分)は、先述の定義(第0~第2の2回非点発生電圧の定義)の通り、それぞれ、V2AXとV2AYとの差、および、V2BXとV2BYとの差である。(78)および(79)式において、DおよびDの符号は、先述の規則に従う。
=V2AY-V2AX=(2a2R/|a2C)F(78)
=V2BX-V2BY=(2a2I/|a2C)F(79)
【0202】
XY差DおよびDは、(78)および(79)式から分かるように、いずれも、TOCに依存しない。従って、XY差DおよびDは、本実施例の装置の生む軸上2回非点収差および偏向2回非点収差の如何によらず、各々、評価できる。ここで、TOCは、先述のように、V2Cが零である条件下におけるTであり、従って、本実施例の装置の生む軸上2回非点収差および偏向2回非点収差のいずれかまたは両方を特徴づける定数である。
XY差DおよびDは、また、(78)および(79)式から分かるように、いずれも、V2AにもV2Bにも依存しない。従って、XY差Dは、V2Aを増減する前にV2AおよびV2Bが各々いずれの値に設定されていたかによらずに評価でき、また、XY差Dは、V2Bを増減する前にV2AおよびV2Bが各々いずれの値に設定されていたかによらずに評価できる。ただし、このことは、Dを評価すべくV2Aを増減する間はV2Bを固定し、Dを評価すべくV2Bを増減する間はV2Aを固定することを、前提とする。
【0203】
(78)および(79)式の表すDおよびDは、形式的に、各々、2で除してもよい。DおよびDをそのように改めれば、(78)および(79)式は、それぞれ(78a)および(79a)式に示す通り、簡単になる。
=(a2R/|a2C)F (78a)
=(a2I/|a2C)F (79a)
【0204】
(78a)および(79a)式は、もし対物偏向器13のZ軸周りの回転角がa2C=a2R(即ち、a2I=0)を満たせば、それぞれ(78b)および(79b)式に示す通り、さらに簡単になる。
=(1/a2R)F (78b)
=0 (79b)
【0205】
(78)式と(5)および(47)式とから、(80)式が得られる。(79)式と(6)および(47)式とから、(81)式が得られる。
【0206】
【数6】
【0207】
(80)式から分かるように、係数dIAは、デフォーカス係数bと2回非点収差係数a2Cおよびa2Rとから決まる。(81)式から分かるように、係数dIBは、デフォーカス係数bと2回非点収差係数a2Cおよびa2Iとから決まる。ここで、デフォーカス係数bと2回非点収差係数a2C、a2R、およびa2Iは、I0A、V0A、V2A、およびV2Bのいずれにも依存せず、従って不変である。係数dIAおよびdIBが、I0A、V0A、V2A、およびV2Bのいずれにも依存せず、従って不変となるのは、このためである。
【0208】
同様のことは、係数dVAおよびdVBにも当てはまる。dVAとaとの関係は、(82)式によって表される。(82)式は、(78)式と(38)および(47)式とから得られる。dVBとaとの関係は、(83)式によって表される。(83)式は、(79)式と(39)および(47)式とから得られる。
【0209】
【数7】
(82)式から分かるように、dVAは、aとa2Cおよびa2Rとから決まり、また、(83)式から分かるように、dVBは、aとa2Cおよびa2Iとから決まる。そのため、dVAおよびdVBも、I0A、V0A、V2A、およびV2Bのいずれにも依存せず、従って不変である。
【0210】
(78)および(80)式と(15)式とから、(84)式が導出される。(84)式は、(79)および(81)式と(16)式とからも導出される。(84)式において、Iは、フォーカス補正電流の変化量に換算された係数Fであり、フォーカス補正電流の変化量に換算されたXY差DまたはDでもある。ただし、(84)式の導出の際、(15)式中のDA0および(16)式中のDB0が、DおよびDにそれぞれ読み替えられる。
=F/b(84)
(84)式が(78)および(80)式と(15)式とからも、(79)および(81)式と(16)式とからも導出されることは、XY差DおよびDはフォーカス補正電流の変化量に換算されれば互いに等しくなることを、意味する。
【0211】
(78)および(82)式と(34)式とから、(85)式が導出される。(85)式は、(79)および(83)式と(35)式とからも導出される。(85)式において、V(x,y)は、フォーカス補正電流の変化量に換算された係数F(x,y)であり、フォーカス補正電圧の変化量に換算されたXY差D(x,y)またはD(x,y)でもある。ここで、F(x,y)は、偏向座標(x,y)における係数Fを表す。ただし、(85)式の導出の際、(78)式中のDおよび(79)式中のDが、D(x,y)およびD(x,y)にそれぞれ読み替えられ、(34)および(35)式中のVD0(x,y)が、V(x,y)に読み換えられ、さらに、(34)式中のDA0(x,y)および(35)式中のDB0(x,y)が、D(x,y)およびD(x,y)にそれぞれ読み替えられる。以降では、F(x,y)とFとの区別は、特にしない。
(x,y)=F(x,y)/a(85)
(85)式が(78)および(82)式と(34)式とからも、(79)および(83)式と(35)式とからも導出されることは、XY差D(x,y)およびD(x,y)はフォーカス補正電圧の変化量に換算されれば互いに等しくなることを、意味する。
【0212】
(78)および(79)式からは、XY差DおよびDの各々が係数Fとの間に比例関係を持つことが、分かる。この比例関係こそが、XY差がナイフエッジ20上のデフォーカスの大きさの指標となることの、根拠である。
ここで注意すべきは、上記比例関係を司る比例係数が、2回非点収差係数a2C、a2R、およびa2Iの組み合わせのみによって決定されていることである。先述のように、これら収差係数は、I0A、V0A、V2A、およびV2Bのいずれにも依存せず、従って不変である。(上記比例関係を司る比例係数とは、例えば(78)式においては、2a2R/|a2Cである。)
【0213】
(78)および(79)式からは、また、XY差DおよびDは、係数Fが零でない限り、互いに同時には零にならないことが、分かる。これは、先述のように、2回非点収差係数a2Rおよびa2Iは、対物偏向器13が2回非点補正器として機能する以上、互いに同時には零にならないことによる。
同様のことは、係数dIA、dIB、dVA、およびdVBにも当てはまる。即ち、(80)~(83)式から分かるように、係数dIAおよびdIBは、互いに同時には零にならず、また、係数dVAおよびdVBは、互いに同時には零にならない。
【0214】
(78)および(79)式は、XY差DおよびDのいずれか零でない一方を零に低減すればナイフエッジ20上のデフォーカスの大きさが零となることを、保証する。このことは、たとえXY差DおよびDのいずれもが零でない大きさを持っていてもXY差DおよびDの両方を評価する必要はないことを、意味する。(本実施例では、DおよびDのいずれか零でない一方を評価すればよく、より好適には、DおよびDのいずれか絶対値の小さくない一方を評価すればよい。)
【0215】
(78)および(79)式が上記のことを保証するのは、第一に、XY差DおよびDのいずれか零でない一方を零に低減した結果として(86)または(87)式が成立すれば、(78)または(79)式から、(88)式が必ず成立すること、第二に、(88)式が成立すれば、(46)および(47)式から、(89)式が成立することによる。(88)および(89)式の成立は、収束半角αによらない。
=0 (86)
=0 (87)
F=0 (88)
=0 (89)
ここで、XY差DおよびDのいずれか零でない一方を零に低減したことによる、(86)または(87)式の成立は、(78)および(79)式から分かるように、a2Rおよびa2Iの少なくとも一方が零でないことと、Fが、零でない値から零に転じることとを、必要とする。即ち、XY差DおよびDのいずれか零でない一方が零に低減されれば、(88)式が必ず成立する。
【0216】
補足すれば、XY差DおよびDのいずれか零でない一方を零に低減したことによる、(86)または(87)式の成立は、実は、(86)および(87)式の両方の成立を意味する。これは、(86)または(87)式の成立によって(88)式が成立すれば、(78)および(79)式より、XY差DおよびDは、いずれも、零以外の大きさを持ちえないからである。
【0217】
さらに補足すれば、(78)、(79)、および(80)~(83)式より、dIAおよびdVAのいずれかまたは両方が零でない値を持てば、F≠0のときにDが零とならないことが保証され、また、dIBおよびdVBのいずれかまたは両方が零でない値を持てば、F≠0のときにDが零とならないことが保証される。
これは、(80)~(83)式から分かるように、dIAおよびdVAのいずれかまたは両方が零でなければ、a2Rも零でなく、また、dIBおよびdVBのいずれかまたは両方が零でなければ、a2Iも零でないことによる。
【0218】
(80)~(83)式からは、また、(19)式が成立するときは必ず(32)式が成立し、(20)式が成立するときは必ず(33)式が成立することが分かる。即ち、dIAおよびdIBの各々の値が確定した時点で、dVAおよびdVBのいずれの値を決定すればよいかが決まる。(同様に、(32)式が成立するときは必ず(19)式が成立し、(33)式が成立するときは必ず(20)式が成立する。即ち、dVAおよびdVBの各々の値が確定した時点で、dIAおよびdIBのいずれの値を決定すればよいかが決まる。)
【0219】
以上で説明したように、本実施例の装置は、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。
本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差の測定を、2回非点補正電圧(2回非点発生電圧)に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づかせることを特徴とする。より具体的には、本実施例の装置は、それら曲線から、X方向のぼけを最小とする2回非点補正電圧の値と、Y方向のぼけを最小とする2回非点補正電圧の値との差(XY差)を決定し、その差により、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差を表す。
上記特徴より、本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差を、短時間で、かつ十分な測定可能範囲を以って測定し、さらにその結果に基づいてこれら収差を補正することができる。
ここで重要となるのは、上記曲線の取得に、静電型2回非点補正器としての対物偏向器13の、2回非点補正電圧に対する応答の速さと、2回非点補正電圧に応じてナイフエッジ20上の2回非点収差を変化させうる範囲の大きさとが活かされることである。即ち、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差をXY差によって表せば、これら収差を、短時間で、かつ十分な測定可能範囲を以って測定することができる。
【0220】
補足すれば、本実施例では、上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の全てが測定され、そして補正されたが、目的次第では、これら収差の全てではなく、これら収差の幾つかを測定し、そして補正することもありうる。例えば、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差のいずれかまたは両方を測定し、そして補正するだけでもよい。あるいは、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよく、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよい。
【0221】
さらに補足すれば、本実施例では、上記曲線の取得の際に、ナイフエッジ20上への2回非点収差の発生を、2回非点補正器としての対物偏向器13によったが、これを、専用の静電型2回非点補正器(図示せず)によってもよい。
あるいは、これを、専用の磁界型2回非点補正器(図示せず)によってもよい。その場合には、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線の代わりに、2回非点補正電流(磁界型2回非点補正器に入力される補正信号)に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得される。即ち、2回非点補正電圧の代わりに、2回非点補正電流が増減される。(従って、その場合には、XY差DおよびDが、電圧の次元ではなく、電流の次元を持つ。)一般に、磁界型2回非点補正器は磁界型レンズよりも速く動作し、従って、2回非点補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線の取得に要する時間は、フォーカス補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線の取得に要する時間よりも、短い。
【0222】
さらに補足すれば、本実施例では、投影図形11は、成形開口板の開口の像(具体的には、第1の成形開口板3の開口の像と第2の成形開口板7の開口との重なりによって生じる図形の像)であったが、投影図形11は、ナイフエッジ20などの手段によって電子ビーム1のぼけが評価できる限り、電子ビーム1を透過する薄膜(例えば、特開平08-83741を参照)の像であってもよい。即ち、第1の成形開口板3および第2の成形開口板7のいずれかまたは両方を、そのような薄膜に置き換えてもよい。(このことは、実施例2~実施例9にも当てはまる。)
【0223】
(実施例2)
本発明の荷電粒子ビーム装置の別の実施例を、実施例2として、以下に説明する。本実施例でも、本発明の荷電粒子ビーム装置が、可変成形電子ビーム描画装置として構成されている。
【0224】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、実施例1の装置と、構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と同じである。
【0225】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差は、本実施例でも、XY差DまたはDによって表される。ここで、DまたはDは、より具体的には、DおよびDのいずれか零でない一方であり、より好適には、DおよびDのいずれか絶対値の小さくない一方である。
【0226】
本実施例の装置は、しかし、上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の測定のために取得する上記曲線の総本数を、実施例1の装置と異にする。その総本数は、実施例1においてよりも、本実施例において、少ない。
より具体的には、本実施例の装置は、まず、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差の測定に必要となる上記曲線の本数の合計を減らすべく、これら収差を、互いに組にして測定する。本実施例の装置は、さらに、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差の測定に必要となる上記曲線の本数の合計を減らすべく、これら収差を、互いに組にして測定する。
本実施例の装置は、そうすることで、上記4つの収差の測定および補正に要する総時間を、短くする。その詳細を以下に示す。
【0227】
本実施例の装置は、まず、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を測定し、そして補正する。本実施例の装置は、そのため、まず、ナイフエッジ20を材料ステージ14によって電子ビーム1の直下に移動させ、そのうえで、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得する。本実施例の装置は、そして、これら曲線から、第0のフォーカス補正条件下におけるXY差のA成分とXY平均のA成分との両方を決定する。即ち、DA0とMA0との両方が決定される。ただし、ここでは、(19)式の成立を前提としている。
【0228】
ここで、MA0は、(90)式で与えられる。(90)式において、V2AX0およびV2AY0は、第0のフォーカス補正条件下におけるV2AXおよびV2AYをそれぞれ表す。(90)式は、(69)および(76)式から導かれる。
A0=(V2AX0+V2AY0)/2=-(a2ROR+a2IOI)/|a2C(90)
(90)式から分かるように、MA0は、係数Fに依存しない。即ち、MA0は、ナイフエッジ20上のデフォーカスに依存しない。(MA0は、V2A0にもV2B0にも依存しない。)
【0229】
ここで重要となるのは、XY平均MA0が、DA0を決定するための、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)から決定されることである。
即ち、本実施例において、MA0の決定のために改めて取得しなければならない曲線の本数は、零である。その本数は、実施例1においては、2本であった。
【0230】
本実施例の装置は、次に、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線(合計1本)を取得する。本実施例の装置は、そして、第0のフォーカス補正条件下におけるXY平均のB成分を決定する。即ち、MB0が決定される。
B0は、(91)式で与えられる。(91)式は、(70)および(77)式から導かれる。
B0=(V2BX0+V2BY0)/2=(a2IOR-a2ROI)/|a2C(91)
(91)式から分かるように、MB0も、係数Fに依存しない。即ち、MB0も、ナイフエッジ20上のデフォーカスに依存しない。(MB0は、V2A0にもV2B0にも依存しない。)
【0231】
本実施例の装置は、(91)式に代入すべきV2BX0およびV2BY0のうち、一方は、V2Bに対する電子ビーム1のぼけの曲線から決定するが、もう一方は、(92)または(93)式から決定する。(92)および(93)式は、いずれも、(16)および(79)式から導出される。ただし、(92)および(93)式の導出の際、(79)式中のV2BX、V2BY、およびDが、それぞれ、V2BX0、V2BY0、およびDB0に読み替えられる。
2BY0=V2BX0-DB0=V2BX0-ID0IB (92)
2BX0=V2BY0+DB0=V2BY0+ID0IB (93)
【0232】
(92)および(93)式において、ID0は、上記軸上デフォーカスの測定値である。ID0は、(15)式から分かるように、係数dIAとXY差DA0から決定できる。(DA0は、MA0とともに、先に決定されている。)ID0IB(=DB0)は、係数dIBによってDB0に換算されたID0である((16)式を参照)。(ID0IBは、DB0に換算されたDA0でもある。これは、(15)式から分かるように、ID0は、係数dIAによってフォーカス補正電流の変化量に換算されたDA0であることによる。)
従って、(92)式は、第1の2回非点発生電圧51(V2BX0)と、XY差DB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値とから、第2の2回非点発生電圧52(V2BY0)が決定できることを、示している。(93)式は、第2の2回非点発生電圧52と、DB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値とから、第1の2回非点発生電圧51が決定できることを、示している。
係数dIAは、(5)式から決定できる。dIAは、dIAによるDA0のID0への換算((15)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdIAは、dIAによるDA0のID0への換算のたびに、繰り返し用いられる。係数dIBは、(6)式から決定できる。dIBは、dIBによるID0のDB0への換算((16)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdIBは、dIBによるID0のDB0への換算のたびに、繰り返し用いられる。
【0233】
(92)式を(91)式に代入すれば、(94)式が得られる。(93)式を(91)式に代入すれば、(95)式が得られる。即ち、XY平均MB0は、本実施例においては、(94)または(95)式から決定すればよい。
B0=V2BX0-DB0/2=V2BX0-ID0IB/2 (94)
B0=V2BY0+DB0/2=V2BY0+ID0IB/2 (95)
(94)式は、第1の2回非点発生電圧51(V2BX0)と、XY差DB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値とから、XY平均MB0が決定できることを、示している。(95)式は、第2の2回非点発生電圧52(V2BY0)と、DB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値とから、MB0が決定できることを、示している。
【0234】
ここで重要となるのは、(94)および(95)式から(さらには、(91)~(93)式から)分かるように、dIBとID0が既知である限り、MB0が、V2BX0およびV2BY0のいずれか一方のみから決定できることである。即ち、ここで必要となる曲線は、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線(合計1本)である。
従って、本実施例において、MB0の決定のために改めて取得しなければならない曲線の本数は、1本である。その本数は、実施例1においては、2本であった。
【0235】
本実施例の装置は、次に、(9)式によってI0A0を更新し、そうして更新されたI0A0を対物レンズ9に入力するとともに、(24)式によってV2A0を更新し、そうして更新されたV2A0を対物偏向器13に入力する。本実施例の装置は、さらに、(25)式によってV2B0を更新し、そうして更新されたV2B0を対物偏向器13に入力する。
これにより、上記軸上デフォーカスが補正されるとともに、上記軸上2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が、補正される。さらに、上記軸上2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分も、補正される。
【0236】
上記過程において、(9)式によって更新されたI0A0を対物レンズ9に入力するのは、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線の取得の後とする必要がある。即ち、その曲線を取得するのは、I0A0’を対物レンズ9に入力する前とする必要がある。
これは、(95)式中のID0は、I0A0’が対物レンズ9に入力される前に決定されたものであり、従って、(94)式中のV2BX0および(95)式中のV2BY0も、I0A0’が対物レンズ9に入力される前に決定される必要があるためである。
一方、(24)式によって更新されたV2A0を対物偏向器13に入力するのは、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線の取得の前としても、その後としてもよい。
【0237】
本実施例の装置は、上記曲線(V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線と、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線)の取得から、I0A0の対物レンズ9への入力と、V2A0およびV2B0の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を繰り返す。その一連の工程は、(22)、(26)、および(27)式が成立するまで繰り返される。
ここで、I0A0、V2A0、およびV2B0の更新は、それぞれ、(9a)、(24a)、および(25a)式による。(24a)式中のMA0 (m-1)は、(90a)式で与えられる。(25a)式中のMB0 (m-1)は、(94a)または(95a)式で与えられる。(90a)、(94a)、および(95a)式は、それぞれ(90)、(94)、および(95)式を一般化したものである。
A0 (m-1)=(V2AX0 (m-1)+V2AY0 (m-1))/2 (90a)
B0 (m-1)=V2BX0 (m-1)-DB0 (m-1)/2
=V2BX0 (m-1)-ID0IB (m-1)/2 (94a)
B0 (m-1)=V2BY0 (m-1)+DB0 (m-1)/2
=V2BY0 (m-1)+ID0 (m-1)IB/2 (95a)
(90a)式において、V2AX0 (m-1)は、I0A0 (m-1)を対物レンズ9に入力するとともにV2A0 (m-1)およびV2B0 (m-1)を対物偏向器13に入力した後に得られるV2AX0を、表す。V2AY0 (m-1)は、I0A0 (m-1)を対物レンズ9に入力するとともにV2A0 (m-1)およびV2B0 (m-1)を対物偏向器13に入力した後に得られるV2AY0を、表す。(94a)式において、V2BX0 (m-1)は、I0A0 (m-1)を対物レンズ9に入力するとともにV2A0 (m-1)およびV2B0 (m-1)を対物偏向器13に入力した後に得られるV2BX0を、表す。(95a)式において、V2BY0 (m-1)は、I0A0 (m-1)を対物レンズ9に入力するとともにV2A0 (m-1)およびV2B0 (m-1)を対物偏向器13に入力した後に得られるV2BY0を、表す。
上記一連の工程が繰り返されれば、上記軸上デフォーカスの補正残差と、上記軸上2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分の補正残差と、上記軸上2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分の補正残差とが、低減する。
【0238】
以上が、本実施例の装置が自身の生む軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を測定し、そして補正する要領の説明である。これら収差の測定および補正は、メインルーチン1(図6を参照)またはメインルーチン1’(図9を参照)と同様のルーチンに従う。以降では、説明の便宜上、これら収差の測定および補正は、メインルーチン1またはメインルーチン1’に従うものとする。ただし、サブルーチン2(図8を参照)が、サブルーチン5に置き換えられる。
【0239】
サブルーチン5を、図18に示す。サブルーチン5と、その中のサブルーチン(サブルーチン6)とは、いずれも、(19)式の成立を前提としている。
【0240】
(サブルーチン5)
図18に示すように、サブルーチン5は、以下のステップからなる。
まず、ステップS61において、nを0に設定する(n=0)とともに、mを0に設定する(m=0)。
次に、ステップS62において、I0A0 (m)を対物レンズ9に入力する。(I0A0 (m)は、m=0のとき、I0A0を表す。ここで、I0A0は、メインルーチン1またはメインルーチン1’の開始直前のフォーカス補正電流I0Aの値に等しい。)
次に、ステップS63において、V2A0 (m)およびV2B0 (m)を対物偏向器13に入力する。(V2A0 (m)およびV2B0 (m)は、m=0のとき、それぞれV2A0およびV2B0を表す。ここで、V2A0およびV2B0は、メインルーチン1またはメインルーチン1’の開始直前の2回非点補正電圧V2AおよびV2Bの値にそれぞれ等しい。)
次に、ステップS64において、サブルーチン6(図19を参照)を実行し、XY差DA0 (m)と、XY平均MA0 (m)およびMB0 (m)とを決定する。
次に、ステップS65において、|DA0 (m)|<ε、|ΔMA0 (m)|<ε、かつ|ΔMB0 (m)|<εが成立するかどうか判定する。それが成立する場合には、サブルーチン5を終了し、メインルーチン1(図6を参照)またはメインルーチン1’(図9を参照)に戻る。それが成立しない場合には、ステップS66に進む。(ステップS65中のΔMA0 (m)およびΔMB0 (m)は、それぞれ(28)および(29)式で与えられる。m=0のとき、(28)式中のMA0 (m-1)および(29)式中のMB0 (m-1)は、それぞれV2A0およびV2B0を表す。)
ステップS66においては、m+1をmに代入する(m=m+1)。そして、ステップS67に進む。
ステップS67においては、I0A0 (m)、V2A0 (m)、およびV2B0 (m)を決定する。そして、ステップS62に戻る。
【0241】
(サブルーチン6)
サブルーチン6は、図19に示すように、以下のステップからなる。
まず、ステップS71において、2回非点補正電圧V2Aを増減し、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定する。そうすることにより、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を取得する。
次に、ステップS72において、XY差DA0(ステップS64においては、DA0 (m))とXY平均MA0(ステップS64においては、MA0 (m))を決定する。
次に、ステップS73において、2回非点補正電圧V2Bを増減し、電子ビーム1のX方向(またはY方向)のぼけを測定する。そうすることにより、V2Bに対する電子ビーム1のX方向(またはY方向)のぼけの曲線を取得する。
次に、ステップS74において、XY平均MB0(ステップS64においては、MB0 (m))を決定する。
そして、サブルーチン6を終了して、サブルーチン5(図18を参照)に戻る。
【0242】
本実施例の装置は、次に、上述の要領と同様の要領に基づき、自身の生む偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。そうすることは、簡単に言えば、目的の収差を補正する手段の違い(対物偏向器13か、あるいは、対物レンズ9と対物偏向器13か)を除き、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点の各々において測定し、そして補正することに、同じである。
【0243】
より詳細には、本実施例の装置は、まず、最初に上記測定および補正が行われる格子点の座標にナイフエッジ20を移動させるとともに、その格子点上に電子ビーム1が入射するように、対物偏向器13によって電子ビーム1を偏向する。
本実施例の装置は、次に、上記格子点上で、ナイフエッジ20により、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)を取得し、これら曲線から、第0のフォーカス補正条件下におけるXY差のA成分とXY平均のA成分との両方を決定する。即ち、DA0(x,y)とMA0(x,y)との両方が決定される。ただし、ここでは、(32)式の成立を前提としている。
本実施例の装置は、さらに、上記格子点上で、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線(合計1本)を取得し、その曲線から、第0のフォーカス補正条件下におけるXY平均のB成分を決定する。即ち、MB0(x,y)が決定される。
本実施例の装置は、そして、(30)式によってV0A0(x,y)を更新し、そうして更新されたV0A0(x,y)を対物偏向器13に入力するとともに、(40)式によってV2A0(x,y)を更新し、そうして更新されたV2A0(x,y)を対物偏向器13に入力する。本実施例の装置は、さらに、(41)式によってV2B0(x,y)を更新し、そうして更新されたV2B0(x,y)を対物偏向器13に入力する。
本実施例の装置は、上記曲線(V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線と、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線)の取得から、V0A0(x,y)、V2A0(x,y)、およびV2B0(x,y)の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を繰り返す。その一連の工程は、(36)、(42)、および(43)式が成立するまで、上記格子点上で繰り返される。ここで、V0A0(x,y)、V2A0(x,y)、およびV2B0(x,y)の更新は、それぞれ、(30a)、(40a)、および(41a)式による。
本実施例の装置は、以降、上記と同様の測定および補正を、上記偏向フィールド内の残りの格子点に対して行う。
本実施例の装置は、その後、上記偏向フィールド内の全格子点上のV0A0 (m)(x,y)から近似曲面V0A0F(x,y)を決定するとともに、上記偏向フィールド内の全格子点上のV2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)の各々から、これらの各々に対する近似曲面を決定する。
本実施例の装置は、以降、そうして決定された近似曲面に基づき、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を、対物偏向器13の偏向フィールド内の全域に渡って補正する。
【0244】
上記要領において、MA0(x,y)は、(96)式によって決定され、そして(40)式に代入される。MB0(x,y)は、(97)または(98)式によって決定され、そして(41)式に代入される。
A0(x,y)=(V2AX0(x,y)+V2AY0(x,y))/2 (96)
B0(x,y)=V2BX0(x,y)-VD0(x,y)dVB/2 (97)
B0(x,y)=V2BY0(x,y)+VD0(x,y)dVB/2 (98)
(96)~(98)式において、V2AX0(x,y)およびV2BX0(x,y)は、偏向座標(x,y)に位置する格子点上のV2AX0およびV2BX0(いずれも、第1の2回非点発生電圧51)を、それぞれ表す。V2AY0(x,y)およびV2BY0(x,y)は、偏向座標(x,y)に位置する格子点上のV2AY0およびV2BY0(いずれも、第2の2回非点発生電圧52)を、それぞれ表す。
(96)式は、(90)式中のMA0、V2AX0、およびV2AY0を、それぞれMA0(x,y)、V2AX0(x,y)、およびV2AY0(x,y)に置き換えて得られる式である。(97)式は、(99)および(100)式から導出される。(98)式は、(99)および(101)式から導出される。
B0(x,y)=(V2BX0(x,y)+V2BY0(x,y))/2 (99)
2BY0(x,y)=V2BX0(x,y)-DB0(x,y)
=V2BX0(x,y)-VD0(x,y)dVB (100)
2BX0(x,y)=V2BY0(x,y)+DB0(x,y)
=V2BY0(x,y)+VD0(x,y)dVB (101)
(99)式は、(91)式中のMB0、V2BX0、およびV2BY0を、それぞれMB0(x,y)、V2BX0(x,y)、およびV2BY0(x,y)に置き換えて得られる式である。(100)および(101)式は、いずれも、(35)および(79)式から導出される。ただし、(100)および(101)式の導出の際、(79)式中のD、V2BX、およびV2BYが、それぞれ、DB0(x,y)、V2BX0(x,y)、およびV2BY0(x,y)に読み替えられる。
【0245】
(97)、(98)、(100)、および(101)式において、VD0(x,y)は、上記偏向像面湾曲収差の測定値である。VD0(x,y)は、(34)式から分かるように、係数dVAとXY差DA0(x,y)から決定できる。(DA0(x,y)は、MA0(x,y)とともに、先に決定されている。)VD0(x,y)dVB(=DB0(x,y))は、係数dVBによってDB0(x,y)に換算されたVD0(x,y)である((35)式を参照)。(VD0(x,y)dVBは、DB0(x,y)に換算されたDA0(x,y)でもある。これは、(34)式から分かるように、VD0(x,y)は、係数dVAによってフォーカス補正電圧の変化量に換算されたDA0(x,y)であることによる。)
従って、(97)式は、第1の2回非点発生電圧51(V2BX0(x,y))と、XY差DB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値とから、XY平均MB0(x,y)が決定できることを、示している。(98)式は、第2の2回非点発生電圧52(V2BY0(x,y))と、DB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値とから、MB0(x,y)が決定できることを、示している。(100)式は、第1の2回非点発生電圧51と、DB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値とから、第2の2回非点発生電圧52が決定できることを、示している。(101)式は、第2の2回非点発生電圧52と、DB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値とから、第1の2回非点発生電圧51が決定できることを、示している。
係数dVAは、(38)式から決定できる。dVAは、dVAによるDA0(x,y)のVD0(x,y)への換算((34)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdVAは、dVAによるDA0(x,y)のVD0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。係数dVBは、(39)式から決定できる。dVBは、dVBによるVD0(x,y)のDB0(x,y)への換算((35)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdVBは、dVBによるVD0(x,y)のDB0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。
【0246】
(96)、(97)、および(98)式を一般化すれば、(96)、(97)、および(98)式は、それぞれ(96a)、(97a)、および(98a)式となる。(96a)式によって決定されるMA0(x,y)(m-1)は、(40a)式に代入される。(97a)または(98a)式によって決定されるMB0 (m-1)(x,y)は、(41a)式に代入される。
A0 (m-1)(x,y)
=(V2AX0 (m-1)(x,y)+V2AY0 (m-1)(x,y))/2 (96a)
B0 (m-1)(x,y)
=V2BX0 (m-1)(x,y)-VD0 (m-1)(x,y)dVB/2 (97a)
B0 (m-1)(x,y)
=V2BY0 (m-1)(x,y)+VD0 (m-1)(x,y)dVB/2 (98a)
(96a)式において、V2AX0 (m-1)(x,y)は、V0A0 (m-1)(x,y)、V2A0 (m-1)(x,y)、およびV2B0 (m-1)(x,y)の全てを対物偏向器13に入力した後に得られるV2AX0(x,y)を、表す。V2AY0 (m-1)(x,y)は、V0A0 (m-1)(x,y)、V2A0 (m-1)(x,y)、およびV2B0 (m-1)(x,y)の全てを対物偏向器13に入力した後に得られるV2AY0(x,y)を、表す。(97a)式において、V2BX0 (m-1)(x,y)は、V0A0 (m-1)(x,y)、V2A0 (m-1)(x,y)、およびV2B0 (m-1)(x,y)の全てを対物偏向器13に入力した後に得られるV2BX0(x,y)を、表す。(98a)式において、V2BY0 (m-1)(x,y)は、V0A0 (m-1)(x,y)、V2A0 (m-1)(x,y)、およびV2B0 (m-1)(x,y)の全てを対物偏向器13に入力した後に得られるV2BY0(x,y)を、表す。
【0247】
上記要領において重要となるのは、対物偏向器13の偏向フィールド内の各格子点において、XY平均MA0(x,y)が、XY差DA0(x,y)を決定するための、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)から決定され、さらに、XY平均MB0(x,y)が、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線(合計1本)から決定されることである。
即ち、本実施例において、上記各格子点上でMA0(x,y)およびMB0(x,y)の決定のために改めて取得しなければならない曲線の本数は、それぞれ、零および1本である。一方、実施例1においては、上記各格子点上でMA0(x,y)およびMB0(x,y)の決定のために改めて取得しなければならない曲線の本数は、各々、2本であった。
【0248】
ただし、上記要領において、(30a)式によって更新されたV0A0(x,y)を対物偏向器13に入力するのは、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線の取得の後とする必要がある。即ち、上記各格子点において、その曲線を取得するのは、V0A0 (m)(x,y)を対物偏向器13に入力する前とする必要がある。
これは、(97a)および(98a)式中のVD0 (m-1)(x,y)は、V0A0 (m)(x,y)が対物偏向器13に入力される前に決定されたものであり、従って、(97a)式中のV2BX0 (m-1)(x,y)および(98a)式中のV2BY0 (m-1)(x,y)も、V0A0 (m)(x,y)が対物偏向器13に入力される前に決定される必要があるためである。
【0249】
以上が、本実施例の装置が自身の生む偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する要領についての説明である。これら収差の測定および補正は、メインルーチン2(図10を参照)と同様のルーチンに従う。以降では、説明の便宜上、これら収差の測定および補正は、メインルーチン2に従うものとする。ただし、サブルーチン3(図11を参照)中のサブルーチン、即ちサブルーチン4(図12を参照)が、サブルーチン7に置き換えられる。さらに、ステップS39(近似曲面V0A0F(x,y)の決定)が、近似曲面V0A0F(x,y)と、2回非点補正電圧V2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)の各々に対する近似曲面とを決定するステップに、置き換えられる。
【0250】
サブルーチン7を、図20に示す。サブルーチン7と、その中のサブルーチン(サブルーチン6)とは、いずれも、(32)式の成立を前提としている。
【0251】
(サブルーチン7)
図20に示すように、サブルーチン7は、サブルーチン5(図18を参照)とほぼ同じである。より詳細には、サブルーチン7は、サブルーチン5におけるステップS62およびステップS67を、それぞれステップS82およびステップS87に置き換えたものに相当する。ステップS82においては、V0A0 (m)が対物偏向器13に入力される。ステップS87においては、V0A0 (m)、V2A0 (m)、およびV2B0 (m)が決定される。(ステップS82におけるV0A0 (m)は、m=0のとき、V0A0を表す。ここで、V0A0は、メインルーチン2の開始直前のフォーカス補正電圧V0Aの値に等しい。その値は、偏向座標(x,y)に依存する。ステップS83におけるV2A0 (m)およびV2B0 (m)は、m=0のとき、それぞれV2A0およびV2B0を表す。ここで、V2A0およびV2B0は、それぞれ、メインルーチン2の開始直前の2回非点補正電圧V2AおよびV2Bの値に等しい。それら値は、偏向座標(x,y)に依存する。ステップS85におけるΔMA0 (m)およびΔMB0 (m)は、それぞれΔMA0 (m)(x,y)およびΔMB0 (m)(x,y)を意味し、それぞれ(44)および(45)式で与えられる。(44)式中のMA0 (m-1)(x,y)および(45)式中のMB0 (m-1)(x,y)は、m=0のとき、それぞれV2A0(x,y)およびV2B0(x,y)を表す。)
【0252】
以上で説明したように、本実施例の装置は、実施例1の装置と同様に、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づいて測定し、そして補正する。
本実施例の装置は、ただし、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を、互いに組にして測定する。本実施例の装置は、さらに、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を、互いに組にして測定する。
より詳細には、本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差の測定のため、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)から、XY差DA0とXY平均MA0との両方を決定するとともに、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線(合計1本)から、XY平均MB0を決定する。本実施例の装置は、さらに、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差の測定のため、同様の要領により、対物偏向器13の偏向フィールド内の各格子点上で、XY差DA0(x,y)とXY平均MA0(x,y)とを決定するとともに、XY平均MB0(x,y)を決定する。
本実施例の装置は、そうすることで、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差の測定に必要となる上記曲線の本数の合計を減らすとともに、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差の測定に必要となる上記曲線の本数の合計を減らす。より具体的には、本実施例の装置は、XY平均MA0およびMB0の決定のために改めて取得しなければならない曲線の本数を減らすとともに、XY平均MA0(x,y)およびMB0(x,y)の決定のために改めて取得しなければならない曲線の本数を減らす。
そのため、本実施例では、上記4つの収差の測定および補正に要する曲線の総本数が少なくなり、従って、上記4つの収差の測定および補正に要する総時間が短くなる。
【0253】
補足すれば、本実施例では、上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の全てが測定され、そして補正されたが、目的次第では、必ずしもその必要はない。例えば、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよく、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよい。
【0254】
さらに補足すれば、本実施例では、MB0と、各格子点上のMB0(x,y)を、各々、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線(合計1本)から決定したが、これらは、各々、実施例1においてそうしたように、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線(合計2本)から決定してもよい。即ち、MB0および各格子点上のMB0(x,y)を、それぞれ(91)および(99)式から決定してもよい。
【0255】
(実施例3)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例3として、以下に説明する。
【0256】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、実施例1および実施例2の装置と、構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と同じである。
【0257】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1の装置と、動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
【0258】
本実施例の装置は、しかし、ナイフエッジ20上のデフォーカスの大きさを、XY差によってではなく、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差によって表す。(XY差は、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52との差である。XY平均は、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52との平均である。)
【0259】
第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差の、A成分およびB成分を、それぞれDhAおよびDhBとすれば、DhAおよびDhBは、それぞれ(102)および(103)式で表せる。
hA=M-V2AX (102)
hB=V2BX-M(103)
(102)式と(78)および(90)式とから、(104)式が導出でき、また、(103)式と(79)および(91)式とから、(105)式が導出できる。ただし、(104)式の導出の際には、(90)式中のMA0、V2AX0、およびV2AY0が、M、V2AX、およびV2AYにそれぞれ読み替えられる。(105)式の導出の際には、(91)式中のMB0、V2BX0、およびV2BY0が、M、V2BX、およびV2BYにそれぞれ読み替えられる。
hA=D/2 (104)
hB=D/2 (105)
【0260】
即ち、(102)および(104)式の表すDhAは、(78a)式の表すDに同じであり、また、(103)および(105)式の表すDhBは、(79a)式の表すDに同じである。この意味において、本実施例は、実質的に、実施例1と同じである。
【0261】
実施例1(および実施例2)においてDおよびDの両方を評価する必要がなかったのと同様に、本実施例においてDhAおよびDhBの両方を評価する必要はない。より具体的には、本実施例では、DhAおよびDhBのいずれか零でない一方を評価すればよく、より好適には、DhAおよびDhBのいずれか絶対値の小さくない一方を評価すればよい。即ち、本実施例では、ナイフエッジ20上のデフォーカスが、DhAおよびDhBのいずれか零でない一方で表され、より好適には、DhAおよびDhBのいずれか絶対値の小さくない一方で表される。
【0262】
hAおよびDhBは、上記軸上デフォーカスの測定においては、対物偏向器13の偏向フィールドの中央で決定され、また、上記偏向像面湾曲収差の測定においては、その偏向フィールド内の複数の格子点上で決定される。偏向座標(x,y)に位置する格子点上のDhAおよびDhBをそれぞれDhA(x,y)およびDhB(x,y)とすれば、DhA(x,y)およびDhB(x,y)は、それぞれ(106)および(107)式で表せる。DhA(x,y)およびDhB(x,y)は、また、それぞれ(108)および(109)式でも表せる。
hA(x,y)=M(x,y)-V2AX(x,y) (106)
hB(x,y)=V2BX(x,y)-M(x,y) (107)
hA(x,y)=D(x,y)/2 (108)
hB(x,y)=D(x,y)/2 (109)
【0263】
hAおよびDhBを零とするI0A0は、それぞれ(110)および(111)式によって決定される。DhA(x,y)およびDhB(x,y)を零とするV0A0(x,y)は、それぞれ(112)および(113)式によって決定される。(110)および(111)式は、それぞれ(114)および(115)式が成立する場合に用いられる。(112)および(113)式は、それぞれ(116)および(117)式が成立する場合に用いられる。
0A0’=I0A0-DhA0/dhIA=I0A0-ID0 (110)
0A0’=I0A0-DhB0/dhIB=I0A0-ID0 (111)
0A0’(x,y)=V0A0(x,y)-DhA0(x,y)/dhVA
=V0A0(x,y)-VD0(x,y) (112)
0A0’(x,y)=V0A0(x,y)-DhB0(x,y)/dhVB
=V0A0(x,y)-VD0(x,y) (113)
|dhIA|≧|dhIB| (114)
|dhIA|<|dhIB| (115)
|dhVA|≧|dhVB| (116)
|dhVA|<|dhVB| (117)
(110)式は、(9)式中のDA0およびdIAをそれぞれDhA0およびdhIAに置き換えて得られる式である。(111)式は、(10)式中のDB0およびdIBをそれぞれDhB0およびdhIBに置き換えて得られる式である。DhA0およびDhB0は、第0のフォーカス補正条件下におけるDhAおよびDhBをそれぞれ表す。(112)式は、(30)式中のDA0(x,y)およびdVAをそれぞれDhA0(x,y)およびdhVAに置き換えて得られる式である。(113)式は、(31)式中のDB0(x,y)およびdVBをそれぞれDhB0(x,y)およびdhVBに置き換えて得られる式である。DhA0(x,y)およびDhB0(x,y)は、第0のフォーカス補正条件下におけるDhA(x,y)およびDhB(x,y)をそれぞれ表す。
【0264】
(110)および(111)式中のID0は、フォーカス補正電流の変化量に換算されたDhA0およびDhB0をそれぞれ表し、(118)および(119)式でそれぞれ与えられる。(118)および(119)式は、本実施例の装置が、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差を、フォーカス補正電流の変化量に換算することを、示している。その換算は、係数dhIAまたはdhIBによる。
D0=DhA0/dhIA (118)
D0=DhB0/dhIB (119)
ここで、ID0は、フォーカス補正電流の変化量に換算された上記軸上デフォーカスを、表しもする。これは、DhA0およびDhB0が、いずれも、上記軸上デフォーカスを表すことによる。(ID0は、上記軸上デフォーカスの測定値でもある。)
従って、(110)および(111)式は、本実施例の装置が、フォーカス補正電流の変化量に換算された上記軸上デフォーカスをI0A0から減算し、そうすることによってI0A0を更新(即ち、I0A0’を決定)することを、示している。
(112)および(113)式中のVD0(x,y)は、フォーカス補正電圧の変化量に換算されたDhA0(x,y)およびDhB0(x,y)をそれぞれ表し、(120)および(121)式でそれぞれ与えられる。(120)および(121)式は、本実施例の装置が、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差を、フォーカス補正電圧の変化量に換算することを、示している。その換算は、係数dhVAまたはdhVBによる。
D0(x,y)=DhA0(x,y)/dhVA (120)
D0(x,y)=DhB0(x,y)/dhVB (121)
ここで、VD0(x,y)は、フォーカス補正電圧の変化量に換算された上記偏向像面湾曲収差を、表しもする。これは、DhA0(x,y)およびDhB0(x,y)が、いずれも、上記偏向像面湾曲収差を表すことによる。(VD0(x,y)は、上記偏向像面湾曲収差の測定値でもある。)
従って、(112)および(113)式は、本実施例の装置が、フォーカス補正電圧の変化量に換算された上記偏向像面湾曲収差をV0A0(x,y)から減算し、そうすることによってV0A0(x,y)を更新(即ち、V0A0’(x,y)を決定)することを、示している。
【0265】
係数dhIAおよびdhIBは、係数dIAおよびdIBと同様に、それぞれ(5)および(6)式から決定できる。係数dhVAおよびdhVBは、係数dVAおよびdVBと同様に、それぞれ(38)および(39)式から決定できる。ただし、dhIAの決定の際には、(5)式中のdIAおよびDAn(n=0または1)が、それぞれdhIAおよびDhAnに読み替えられる。dhIBの決定の際には、(6)式中のdIBおよびDBn(n=0または1)が、それぞれdhIBおよびDhBnに読み替えられる。dhVAの決定の際には、(38)式中のdVAおよびDAn(0,0)(n=0または1)が、それぞれdhVAおよびDhAn(0,0)に読み替えられる。dhVBの決定の際には、(39)式中のdVBおよびDBn(0,0)(n=0または1)が、それぞれdhVBおよびDhBn(0,0)に読み替えられる。
本実施例の装置は、係数dhIAを、dhIAによるDhA0のID0への換算((118)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhIAは、dhIAによるDhA0のID0への換算のたびに、繰り返し用いられる。本実施例の装置は、あるいは、係数dhIBを、dhIBによるDhB0のID0への換算((119)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhIBは、dhIBによるDhB0のID0への換算のたびに、繰り返し用いられる。ここで、dhIAおよびdhIBは、それぞれ、(114)および(115)式が成立する場合に記憶される。
本実施例の装置は、さらに、係数dhVAを、dhVAによるDhA0(x,y)のVD0(x,y)への換算((120)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhVAは、dhVAによるDhA0(x,y)のVD0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。本実施例の装置は、あるいは、係数dhVBを、dhVBによるDhB0(x,y)のVD0(x,y)への換算((121)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhVBは、dhVBによるDhB0(x,y)のVD0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。ここで、dhVAおよびdhVBは、それぞれ、(116)および(117)式が成立する場合に記憶される。
【0266】
係数dhIA、dhIB、dhVA、およびdhVBと、係数dIA、dIB、dVA、およびdVBとの間には、(122)~(125)式で表される関係がある。従って、係数dIA、dIB、dVA、およびdVBが既知であれば、係数dhIA、dhIB、dhVA、およびdhVBは、それぞれdIA、dIB、dVA、およびdVBから求められる。
hIA=dIA/2 (122)
hIB=dIB/2 (123)
hVA=dVA/2 (124)
hVB=dVB/2 (125)
【0267】
(110)~(113)、および(118)~(121)式を一般化すれば、(110)~(113)、および(118)~(121)式は、それぞれ、(110a)~(113a)、および(118a)~(121a)式となる。(110a)~(113a)、および(118a)~(121a)式は、特に明示のない限り、(110)~(113)、および(118)~(121)式をそれぞれ兼ねる。
0A0 (m) =I0A0 (m-1)-DhA0 (m-1)/dhIA=I0A0 (m-1)-ID0 (m-1) (110a)
0A0 (m) =I0A0 (m-1)-DhB0 (m-1)/dhIB=I0A0 (m-1)-ID0 (m-1) (111a)
0A0 (m)(x,y)=V0A0 (m-1)(x,y)-DhA0 (m-1)(x,y)/dhVA
=V0A0 (m-1)(x,y)-VD0 (m-1)(x,y) (112a)
0A0 (m)(x,y)=V0A0 (m-1)(x,y)-DhB0 (m-1)(x,y)/dhVB
=V0A0 (m-1)(x,y)-VD0 (m-1)(x,y) (113a)
D0 (m-1)=DhA0 (m-1)/dhIA (118a)
D0 (m-1)=DhB0 (m-1)/dhIB (119a)
D0 (m-1)(x,y)=DhA0 (m-1)(x,y)/dhVA (120a)
D0 (m-1)(x,y)=DhB0 (m-1)(x,y)/dhVB (121a)
【0268】
本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスの補正残差を低減すべく、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、(110a)式によって更新されたI0A0の対物レンズ9への入力までの、一連の工程を、(126)式が成立するまで繰り返す。本実施例の装置は、あるいは、同じ目的のため、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、(111a)式によって更新されたI0A0の対物レンズ9への入力までの、一連の工程を、(127)式が成立するまで繰り返す。
|DhA0 (m)|<ε/2 (126)
|DhB0 (m)|<ε/2 (127)
本実施例の装置は、さらに、上記偏向像面湾曲収差の補正残差を低減すべく、対物偏向器13の偏向フィールド内の各格子点上で、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、(112a)式によって更新されたV0A0(x,y)の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(128)式が成立するまで繰り返す。本実施例の装置は、あるいは、同じ目的のため、上記各格子点上で、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得から、(113a)式によって更新されたV0A0(x,y)の対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(129)式が成立するまで繰り返す。本実施例の装置は、その後、上記偏向フィールド内の全格子点上のV0A0 (m)(x,y)から近似曲面V0A0F(x,y)を決定し、以降、V0A0F(x,y)に基づき、上記偏向像面湾曲収差を、対物偏向器13の偏向フィールド内の全域に渡って補正する。
|DhA0 (m)(x,y)|<ε/2 (128)
|DhB0 (m)(x,y)|<ε/2 (129)
【0269】
本実施例の装置が上記軸上2回非点収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する要領は、実施例1の装置が同じ収差を測定し、そして補正する要領と、同じであってよい。即ち、XY平均の決定と、2回非点補正電圧の更新および入力とを、次の要領によってよい。(以降では、上記軸上2回非点収差および偏向2回非点収差の補正残差の低減についての説明と、上記偏向2回非点収差を補正する2回非点補正電圧V2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)に対する近似曲面についての説明とを、割愛する。)
まず、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MA0を決定するとともに、(24)式によってV2A0を更新し、そうして更新されたV2A0を対物偏向器13に入力する。さらに、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MB0を決定するとともに、(25)式によってV2B0を更新し、そうして更新されたV2B0を対物偏向器13に入力する。
これにより、上記軸上2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が補正され、さらに、上記軸上2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分が補正される。
次に、上記一連の工程と同様の工程を、対物偏向器13の偏向フィールド内の各格子点上で行う。即ち、その各格子点上で、V2Aに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MA0(x,y)を決定するとともに、(40)式によってV2A0(x,y)を更新し、そうして更新されたV2A0(x,y)を対物偏向器13に入力する。その各格子点上では、さらに、V2Bに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MB0(x,y)を決定するとともに、(41)式によってV2B0(x,y)を更新し、そうして更新されたV2B0(x,y)を対物偏向器13に入力する。
これにより、上記各格子点上で、上記偏向2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が補正され、さらに、上記偏向2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分が補正される。
【0270】
ただし、本実施例においては、(102)式から分かるように、DhA0の決定にMA0が必要となり、また、(106)式から分かるように、DhA0(x,y)の決定にMA0(x,y)が必要となる。あるいは、(103)式から分かるように、DhB0の決定にMB0が必要となり、また、(106)式から分かるように、DhB0(x,y)の決定にMB0(x,y)が必要となる。
従って、本実施例においては、V2Aに対する電子ビーム1の2方向のぼけの曲線からDhA0が決定される際に、同じ曲線からMA0も決定され、また、上記各格子点上でV2Aに対する電子ビーム1の2方向のぼけの曲線からDhA0(x,y)が決定される際に、同じ曲線からMA0(x,y)も決定される。あるいは、V2Bに対する電子ビーム1の2方向のぼけの曲線からDhB0が決定される際に、同じ曲線からMB0も決定され、また、上記各格子点上でV2Bに対する電子ビーム1の2方向のぼけの曲線からDhB0(x,y)が決定される際に、同じ曲線からMB0(x,y)も決定される。
このようにしてDhA0およびMA0が決定されるとともにDhA0(x,y)およびMA0(x,y)が決定される、あるいは、DhB0およびMB0が決定されるとともにDhB0(x,y)およびMB0(x,y)が決定されることは、実施例2においてDA0およびMA0が決定されるとともにDA0(x,y)およびMA0(x,y)が決定されることと、本質的に同じである。
【0271】
XY平均MA0、MB0、MA0(x,y)、およびMB0(x,y)のうち、MB0およびMB0(x,y)は、次の要領によって決定してもよい。次の要領によってMB0およびMB0(x,y)が決定されることは、実施例2においてMB0およびMB0(x,y)が決定されることと、本質的に同じである。ただし、ここでは、(114)および(116)式の成立を前提としている。
まず、V2Bに対する電子ビーム1の1方向(X方向またはY方向)のぼけの曲線から、XY平均MB0を決定する。ここでは、MB0の決定の前にDhA0が決定されることが、前提となる。
次に、上記各格子点上で、V2Bに対する電子ビーム1の1方向(X方向またはY方向)のぼけの曲線から、XY平均MB0(x,y)を決定する。ここでは、MB0(x,y)の決定の前にDhA0(x,y)が決定されることが、前提となる。
【0272】
上記要領において、MB0は、(130)または(131)式から決定され、そして(25)式に代入される。MB0(x,y)は、(132)または(133)式から決定され、そして(41)式に代入される。(130)式は、(94)および(123)式から導かれる。(131)式は、(95)および(123)式から導かれる。(132)式は、(97)および(125)式から導かれる。(133)式は、(98)および(125)式から導かれる。
B0=V2BX0-ID0hIB (130)
B0=V2BY0+ID0hIB (131)
B0(x,y)=V2BX0(x,y)-VD0(x,y)dhVB (132)
B0(x,y)=V2BY0(x,y)+VD0(x,y)dhVB (133)
【0273】
(130)および(131)式において、ID0は、上記軸上デフォーカスの測定値である。ID0は、(118)式から分かるように、係数dhIAとDhA0とから決定できる。(DhA0は、MA0とともに、先に決定されている。)ID0hIB(=DhB0)は、係数dhIBによってDhB0に換算されたID0である((119)式を参照)。(ID0hIBは、DhB0に換算されたDhA0でもある。これは、(118)式から分かるように、ID0は、係数dhIAによってフォーカス補正電流の変化量に換算されたDhA0であることによる。)
(132)および(133)式において、VD0(x,y)は、上記偏向像面湾曲収差の測定値である。VD0(x,y)は、(120)式から分かるように、係数dhVAとDhA0(x,y)とから決定できる。(DhA0(x,y)は、MA0(x,y)とともに、先に決定されている。)VD0(x,y)dhVB(=DhB0(x,y))は、係数dhVBによってDhB0(x,y)に換算されたVD0(x,y)である((121)式を参照)。(VD0(x,y)dhVBは、DhB0(x,y)に換算されたDhA0(x,y)でもある。これは、(120)式から分かるように、VD0(x,y)は、係数dhVAよってフォーカス補正電圧の変化量に換算されたDhA0(x,y)であることによる。)
従って、(130)式は、第1の2回非点発生電圧51(V2BX0)と、DhB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値とから、XY平均MB0が決定できることを、示している。(131)式は、第2の2回非点発生電圧52(V2BY0)と、DhB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値とから、MB0が決定できることを、示している。(132)式は、第1の2回非点発生電圧51(V2BX0(x,y))と、DhB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値とから、XY平均MB0(x,y)が決定できることを、示している。(133)式は、第2の2回非点発生電圧52(V2BY0(x,y))と、DhB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値とから、MB0(x,y)が決定できることを、示している。
【0274】
係数dhIBは、dhIBによるID0のDhB0への換算((119)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdhIBは、dhIBによるID0のDhB0への換算のたびに、繰り返し用いられる。係数dhVBは、dhVBによるVD0(x,y)のDhB0(x,y)への換算((121)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdhVBは、dhVBによるVD0(x,y)のDhB0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。
【0275】
以上で説明したように、本実施例の装置は、実施例1の装置と同様に、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づいて測定し、そして補正する。
本実施例の装置は、ただし、自身の生む軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差の測定のため、XY差DまたはDの代わりに、DhAまたはDhBを決定し、DhAまたはDhBにより、ナイフエッジ20上のデフォーカスを表す。ここで、DhAおよびDhBは、いずれも、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差である。DhAおよびDhBは、あるいは、いずれも、第2の2回非点発生電圧52とXY平均との差としてもよい。
【0276】
補足すれば、本実施例では、上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の全てが測定され、そして補正されたが、目的次第では、必ずしもその必要はない。例えば、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差のいずれかまたは両方を測定し、そして補正するだけでもよい。あるいは、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよく、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよい。
【0277】
(実施例4)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例4として、以下に説明する。
【0278】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、実施例1~実施例3の装置と、構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と同じである。
【0279】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1の装置と、動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
【0280】
本実施例の装置は、しかし、ナイフエッジ20上のデフォーカスの大きさを、XY差(第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52との差)ではなく、第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差で表す。(第0の2回非点発生電圧50は、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のぼけの曲線を取得すべくV2Aを増減する前におけるV2Aを、または、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のぼけの曲線を取得すべくV2Bを増減する前におけるV2Bを、意味する。)
【0281】
このことから、本実施例の装置がナイフエッジ20上のデフォーカスの測定のために取得する曲線は、V2Aに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線、あるいは、V2Bに対する電子ビーム1のX方向またはY方向のぼけの曲線である。即ち、その測定のために一度に取得される曲線の本数は、合計1本である。
一方、実施例1の装置がナイフエッジ20上のデフォーカスの測定のために取得した曲線は、V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線、あるいは、V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線であった。即ち、その測定のために一度に取得された曲線の本数は、合計2本であった。
【0282】
補足すれば、第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差の取得のために電子ビーム1のぼけが測定される方向は、X方向またはY方向でなくてもよい。そのために電子ビーム1のぼけが測定される方向は、例えば、X方向またはY方向に対してπ/4だけ回転していてもよい。(ただし、電子ビーム1のぼけが測定される方向をそのように回転させる場合には、ナイフエッジ20Xおよび20Yのエッジの方向を、それぞれ、Y方向およびX方向に対してπ/4だけ回転させる必要がある。)
言い換えれば、電子ビーム1のぼけが測定される方向を任意に定めるとともに、その方向を改めてX方向またはY方向と定義することができる。
【0283】
第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差は、定義上、図4A図4Cから分かるように、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差に近い。ここで、XY平均は、第1の2回非点発生電圧51と第2の2回非点発生電圧52との平均である。第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差は、実施例3におけるDhAまたはDhBである。
従って、本実施例の装置が上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差を測定し、そして補正する要領は、実施例3の装置が同じ収差を測定し、そして補正する要領と、基本的に同じである。
以降では、第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差を、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差と同じく、DhAまたはDhBで表す。
【0284】
即ち、本実施例でも、ナイフエッジ20上のデフォーカス(上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差のいずれかまたは両方を含む)が、DhAまたはDhBで表される。ここで、DhAまたはDhBは、より具体的には、DhAおよびDhBのいずれか零でない一方であり、より好適には、DhAおよびDhBのいずれか絶対値の小さくない一方である。
より詳細には、本実施例の装置は、DhAを零とすべく、フォーカス補正電流I0A0を(110a)式によって更新するか、または、DhBを零とすべく、フォーカス補正電流I0A0を(111a)式によって更新する。その際、DhAまたはDhBは、それぞれ、係数dhIAまたはdhIBによってID0に換算される((118a)または(119a)式を参照)。
本実施例の装置は、係数dhIAを、dhIAによるDhA0のID0への換算((118a)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhIAは、dhIAによるDhA0のID0への換算のたびに、繰り返し用いられる。本実施例の装置は、あるいは、係数dhIBを、dhIBによるDhB0のID0への換算((119a)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhIBは、dhIBによるDhB0のID0への換算のたびに、繰り返し用いられる。ここで、dhIAおよびdhIBは、それぞれ、(114)および(115)式が成立する場合に記憶される。本実施例において係数dhIAおよびdhIBが決定される要領は、DhAおよびDhBの定義の違い(第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差か、あるいは、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差か)を除けば、実施例3においてdhIAおよびdhIBが決定される要領に、それぞれ同じである。
本実施例の装置は、さらに、DhA(x,y)を零とすべく、フォーカス補正電圧V0A0(x,y)を(112a)式によって更新するか、または、DhB(x,y)を零とすべく、フォーカス補正電圧V0A0(x,y)を(113a)式によって更新する。その際、DhA(x,y)またはDhB(x,y)は、それぞれ、係数dhVAまたはdhVBによってVD0(x,y)に換算される((120a)または(121a)式を参照)。
本実施例の装置は、係数dhVAを、dhVAによるDhA0(x,y)のVD0(x,y)への換算((120a)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhVAは、dhVAによるDhA0(x,y)のVD0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。本実施例の装置は、あるいは、係数dhVBを、dhVBによるDhB0(x,y)のVD0(x,y)への換算((121a)式を参照)に先立って決定し、記憶する。そうして記憶されたdhVBは、dhVBによるDhB0(x,y)のVD0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。ここで、dhVAおよびdhVBは、それぞれ、(116)および(117)式が成立する場合に記憶される。本実施例において係数dhVAおよびdhVBが決定される要領は、DhAおよびDhBの定義の違いを除けば、実施例3においてdhVAおよびdhVBが決定される要領に、それぞれ同じである。
【0285】
ただし、第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差は、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差とは、厳密には、異なる。より具体的には、これら差は、ナイフエッジ20上に現れている2回非点収差が零(T=0)のとき、互いに等しくなるが、その2回非点収差が大きくなるとともに、互いに乖離する。
従って、その2回非点収差が大きくなれば、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差の測定誤差が大きくなり、それとともに、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差の補正残差が大きくなる。
【0286】
このことから、本実施例では、上記補正残差を低減すべく、上記軸上デフォーカスの測定および補正の前に、上記軸上2回非点収差を測定および補正するとともに、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正の前に、上記偏向2回非点収差を測定および補正するのが、得策である。(以降では、上記軸上2回非点収差および偏向2回非点収差の補正残差の低減についての説明と、上記偏向2回非点収差を補正する2回非点補正電圧V2A0 (m)(x,y)およびV2B0 (m)(x,y)に対する近似曲面についての説明とを、割愛する。)
【0287】
ここでは、第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差を、第1の2回非点発生電圧51とXY平均との差に一致させることが、求められる。即ち、第0の2回非点発生電圧50をXY平均に一致させることが、求められる。より具体的には、(114)および(116)式の成立を前提とすれば、次の2つのことが求められる。
第一に、DhA0を決定すべくV2Aに対する電子ビーム1の1方向(X方向またはY方向)のぼけの曲線を取得する前に、上記軸上2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分を、測定および補正する。即ち、その曲線を取得する前に、XY平均MA0を決定するとともに、(24)式によってV2A0を更新し、そうして更新されたV2A0を対物偏向器13に入力する。上記軸上2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分を測定および補正するのは、DhA0を決定する前としても、その後としてもよい。
第二に、DhA0(x,y)を決定すべくV2Aに対する電子ビーム1の1方向(X方向またはY方向)のぼけの曲線を取得する前に、上記偏向2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分を、測定および補正する。即ち、その曲線を取得する前に、XY平均MA0(x,y)を決定するとともに、(40)式によってV2A0(x,y)を更新し、そうして更新されたV2A0(x,y)を対物偏向器13に入力する。この工程は、対物偏向器13の偏向フィールド内の各格子点上で行われる。上記偏向2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分を測定および補正するのは、DhA0(x,y)を決定する前としても、その後としてもよい。
【0288】
これらのことが踏まえられる限り、本実施例の装置が上記軸上2回非点収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する要領は、実施例1の装置が同じ収差を測定し、そして補正する要領と、同じであってよい。即ち、XY平均の決定と、2回非点補正電圧の更新および入力とを、次の要領によってよい。
まず、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MA0を決定するとともに、(24)式によってV2A0を更新し、そうして更新されたV2A0を対物偏向器13に入力する。さらに、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MB0を決定するとともに、(25)式によってV2B0を更新し、そうして更新されたV2B0を対物偏向器13に入力する。
これにより、上記軸上2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が補正され、さらに、上記軸上2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分が補正される。
次に、上記一連の工程と同様の工程を、対物偏向器13の偏向フィールド内の各格子点上で行う。即ち、その各格子点上で、V2Aに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MA0(x,y)を決定するとともに、(40)式によってV2A0(x,y)を更新し、そうして更新されたV2A0(x,y)を対物偏向器13に入力する。その各格子点上では、さらに、V2Bに対する電子ビーム1の2方向(X方向およびY方向)のぼけの曲線からXY平均MB0(x,y)を決定するとともに、(41)式によってV2B0(x,y)を更新し、そうして更新されたV2B0(x,y)を対物偏向器13に入力する。
これにより、上記各格子点上で、上記偏向2回非点収差の、V2Aによって補正可能な成分が補正され、さらに、上記偏向2回非点収差の、V2Bによって補正可能な成分が補正される。
【0289】
XY平均MA0、MB0、MA0(x,y)、およびMB0(x,y)のうち、MB0およびMB0(x,y)は、次の要領によって決定してもよい。次の要領によってMB0およびMB0(x,y)が決定されることは、実施例2においてMB0およびMB0(x,y)が決定されることと、本質的に同じである。ただし、ここでは、(114)および(116)式の成立を前提としている。
まず、V2Bに対する電子ビーム1の1方向(X方向またはY方向)のぼけの曲線から、XY平均MB0を決定する。ここでは、MB0の決定の前にDhA0が決定されることが、前提となる。
次に、上記各格子点上で、V2Bに対する電子ビーム1の1方向(X方向またはY方向)のぼけの曲線から、XY平均MB0(x,y)を決定する。ここでは、MB0(x,y)の決定の前にDhA0(x,y)が決定されることが、前提となる。
【0290】
上記要領において、XY平均MB0は、(130)または(131)式から決定される。即ち、MB0は、第1の2回非点発生電圧51(V2BX0)または第2の2回非点発生電圧52(V2BY0)と、DhB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値とから決定できる。ここで、DhB0に換算された上記軸上デフォーカスの測定値は、DhB0に換算されたDhA0でもある。(130)または(131)式から決定されるMB0は、(25)式に代入される。
XY平均MB0(x,y)は、(132)または(133)式から決定される。即ち、MB0(x,y)は、第1の2回非点発生電圧51(V2BX0(x,y))または第2の2回非点発生電圧52(V2BY0(x,y))と、DhB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値とから決定できる。ここで、DhB0(x,y)に換算された上記偏向像面湾曲収差の測定値は、DhB0(x,y)に換算されたDhA0(x,y)でもある。(132)または(133)式から決定されるMB0(x,y)は、(41)式に代入される。
(130)および(131)式中の係数dhIBは、dhIBによるID0のDhB0への換算((119)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdhIBは、dhIBによるID0のDhB0への換算のたびに、繰り返し用いられる。(132)および(133)式中の係数dhVBは、dhVBによるVD0(x,y)のDhB0(x,y)への換算((121)式を参照)に先立って決定され、記憶される。そうして記憶されたdhVBは、dhVBによるVD0(x,y)のDhB0(x,y)への換算のたびに、繰り返し用いられる。
【0291】
以上で説明したように、本実施例の装置は、実施例1の装置と同様に、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づいて測定し、そして補正する。
本実施例の装置は、ただし、自身の生む軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差の測定のため、DhAまたはDhBを決定し、DhAまたはDhBにより、ナイフエッジ20上のデフォーカスを表す。ここで、DhAおよびDhBは、いずれも、第1の2回非点発生電圧51と第0の2回非点発生電圧50との差である。DhAおよびDhBは、あるいは、いずれも、第2の2回非点発生電圧52と第0の2回非点発生電圧50との差としてもよい。
【0292】
補足すれば、本実施例では、上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の全てが測定され、そして補正されたが、目的次第では、必ずしもその必要はない。例えば、上記軸上デフォーカスおよび偏向像面湾曲収差のいずれかまたは両方を測定し、そして補正するだけでもよい。あるいは、上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよく、上記偏向像面湾曲収差および偏向2回非点収差を測定し、そして補正するだけでもよい。
【0293】
説明の便宜上、以降の実施例(実施例5~実施例12)では、DhAおよびDhBを、それぞれ、XY差DおよびDと、本質的に同じと見なす。より具体的には、以降の実施例では、DhAおよびDhBを、それぞれ、DおよびDに含める。以降の実施例では、さらに、係数dhIA、dhIB、dhVA、およびdhVBを、それぞれ、係数dIA、dIB、dVA、およびdVBに含める。
【0294】
(実施例5)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例5として、以下に説明する。
【0295】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、実施例1~実施例4の装置と構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と同じである。
【0296】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1~実施例4の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
【0297】
本実施例の装置は、しかし、XY差DまたはDの測定の際に、2回非点補正電圧V2AおよびV2Bの増減に伴って発生する副次的なデフォーカスを、それに見合う新たなデフォーカスを発生させることにより、打ち消す。本実施例の装置は、そうすることで、DまたはDの測定誤差を低減する。
【0298】
上記副次的なデフォーカスは、電子ビーム1に含まれる各主光線周りの電位0次成分に原因する。その電位0次成分は、対物偏向器13の中心軸周りの電位2次成分に由来する。
上記電位2次成分は、2回非点補正電圧に起因して対物偏向器13内に発生する電位成分であり、対物偏向器13内において均一である。従って、上記電位2次成分は、上記各主光線の、対物偏向器13の中心軸からの位置ずれに依存しない。
一方、上記電位0次成分は、上記電位2次成分の存在下で上記各主光線周りの電位を多項式展開して得られる低次の電位成分(特許文献2を参照)の一つ(より具体的には、最低次成分)である。これら低次の電位成分は、上記各主光線の、対物偏向器13の中心軸からの位置ずれに依存する。そのような位置ずれとして、本実施例で重要となるのは、上記各主光線に共通する位置ずれである。その位置ずれは、即ち、電子ビーム1に含まれる全主光線の、対物偏向器13の中心軸に対する、全体的な位置ずれである。
【0299】
XY差DまたはDの測定の際に上記副次的なデフォーカスが発生すれば、DまたはDによって表されるのは、目的のデフォーカスと上記副次的なデフォーカスとの和となる。ここで、目的のデフォーカスは、DまたはDの真の測定値に相当し、一方、上記副次的なデフォーカスは、DまたはDの測定誤差に相当する。
【0300】
上記副次的なデフォーカスの打ち消しは、特許文献2に記載の要領に類似の要領による。ここで、特許文献2に記載の要領に類似の要領とは、より具体的には、3回非点補正電圧の増減に伴って発生する副次的な2回非点収差を打ち消す要領における3非点補正電圧および2回非点補正電圧を、それぞれ2回非点補正電圧およびフォーカス補正電圧に置き換えたものに、相当する。
即ち、上記副次的なデフォーカスの打ち消しは、フォーカス補正電圧V0Aに、2回非点補正電圧V2AおよびV2Bの変化量の線形結合によって与えられる加算値を、加算することによる。その加算値は、係数ρ0A2Aと2回非点補正電圧V2Aの変化量との積と、係数ρ0A2Bと2回非点補正電圧V2Bの変化量との積との和である。その加算値がフォーカス補正電圧V0Aに加算されれば、上記新たなデフォーカスが発生し、それが上記副次的なデフォーカスを打ち消す。
ここで、係数ρ0A2Aは、2回非点補正電圧V2Aの増減に伴って発生する副次的なデフォーカスを打ち消すためのフォーカス補正電圧V0Aの、V2Aに関する偏微分係数である。係数ρ0A2Bは、2回非点補正電圧V2Bの増減に伴って発生する副次的なデフォーカスを打ち消すためのフォーカス補正電圧V0Aの、V2Bに関する偏微分係数である。
係数ρ0A2Aおよびρ0A2Bは、いずれも、偏向座標(x,y)に依存する。これは、上記電位0次成分が、上述のように、上記各主光線の、対物偏向器13の中心軸からの位置ずれに依存することによる。従って、ρ0A2Aおよびρ0A2Bは、上記偏向像面湾曲収差の測定の際には、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点毎に決定される必要がある。
【0301】
(実施例6)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例6として、以下に説明する。
【0302】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、実施例1~実施例4の装置と構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と同じである。
【0303】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1~実施例4の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
【0304】
本実施例の装置は、しかし、上記軸上デフォーカスの補正と上記偏向像面湾曲収差の補正との両方を、フォーカス補正電圧V0A0の更新およびV0A0の対物偏向器13への入力による。
これに対し、実施例1~実施例4の装置は、上記軸上デフォーカスの補正を、フォーカス補正電流I0A0の更新およびI0A0の対物レンズ9へ入力による一方で、上記偏向像面湾曲収差の補正を、フォーカス補正電圧V0A0の更新およびV0A0の対物偏向器13への入力によった。
【0305】
より具体的には、本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスの補正のため、(30a)または(31a)式によってV0A0 (m)(0,0)を更新し、そうして更新されたV0A0 (m)(0,0)を対物偏向器13に入力する。ここで、V0A0 (m)(0,0)は、対物偏向器13の偏向フィールドの中央において更新されるフォーカス補正電圧V0Aを、意味する。本実施例の装置は、さらに、上記偏向像面湾曲収差の補正のため、上記偏向フィールド内の各格子点上で、(30a)または(31a)式によってV0A0 (m)(x,y)を更新し、そうして更新されたV0A0 (m)(x,y)を対物偏向器13に入力する。(その後、上記偏向フィールド内の全格子点上のV0A0 (m)(x,y)から近似曲面V0A0F(x,y)が決定され、以降、V0A0F(x,y)に基づき、上記偏向像面湾曲収差が、上記偏向フィールド内の全域に渡って補正される。)
【0306】
従って、本実施例では、係数dVAまたはdVBを、上記軸上デフォーカスの測定および補正にも、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正にも用いることができる。
【0307】
ただし、上記軸上デフォーカスの補正をフォーカス補正電圧V0A0の更新およびV0A0の対物偏向器13への入力によることが許容されるのは、上記軸上デフォーカスの大きさが比較的小さい場合においてである。これは、静電型フォーカス補正器としての対物偏向器13のフォーカス補正感度が先述のように低いことによる。
ここで、上記軸上デフォーカスの大きさが比較的小さい場合とは、例えば、上記軸上デフォーカスがフォーカス補正電流I0A0の更新およびI0A0の対物レンズ9への入力によって補正された後に、上記軸上デフォーカスが小さな経時変化を呈するような場合である。
【0308】
補足すれば、原理的には、上記軸上デフォーカスの補正と上記偏向像面湾曲収差の補正の両方を、磁界型フォーカス補正器(図示せず)あるいは対物レンズ9によることも可能である。ここで、磁界型フォーカス補正器とは、簡単には、小型の弱い磁界型レンズである。さらには、上記軸上2回非点収差の補正と上記偏向2回非点収差の補正の両方を、磁界型2回非点補正器(図示せず)によることも、可能である。即ち、上記軸上デフォーカス、偏向像面湾曲収差、軸上2回非点収差、および偏向2回非点収差の補正を全て磁界型補正器によることが、可能である。ただし、一般に、磁界型補正器の動作は、静電型補正器の動作よりも遅い。
これら収差の補正を全て磁界型補正器による場合には、これら収差の測定の際に、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線の代わりに、2回非点補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線が取得される。即ち、2回非点補正電圧の代わりに、2回非点補正電流が増減される。従って、その場合には、XY差DおよびDが、電圧の次元ではなく、電流の次元を持つ。その場合には、さらに、そうして測定されたXY差DまたはDの、フォーカス補正電流I0Aに関する偏微分係数が、それぞれ係数dVAまたはdVBの代わりに、決定され、記憶され、そして繰り返し用いられる。
【0309】
(実施例7)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例7として、以下に説明する。
【0310】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、実施例1~実施例4の装置と構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と同じである。
【0311】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1~実施例4の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
【0312】
本実施例の装置は、しかし、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正を、次の要領による。
まず、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点の各々において、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のぼけの曲線を取得し、その曲線からXY差DA0を決定するとともに、(30)式によってV0A0(x,y)を更新(即ち、V0A0’(x,y)を決定)する。あるいは、上記格子点の各々において、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のぼけの曲線を取得し、その曲線からXY差DB0を決定するとともに、(31)式によってV0A0(x,y)を更新(即ち、V0A0’(x,y)を決定)する。
次に、上記格子点の全てにおけるV0A0(x,y)’から、近似曲面V0A0F(x,y)を決定する。
次に、そうして決定されたV0A0F(x,y)を、更新する。具体的には、V0A0F(x,y)のいずれの偏向座標(x,y)における値もフォーカス補正電圧V0Aの可変範囲に必ず収まるように、V0A0F(x,y)に、縦軸方向のシフトを与える。ここで、V0A0F(x,y)のいずれの偏向座標(x,y)における値もV0Aの可変範囲に収まるとは、V0A0F(x,y)の最大値および最小値が、それぞれ、V0Aの可変範囲の上限以下および下限以上であることを指す。ただし、ここでは、V0A0F(x,y)を、対物偏向器13の偏向フィールド内のみで定義される関数とする。
次に、上記シフトに起因して材料10(およびナイフエッジ20)の高さ位置に発生する新たなデフォーカスを、解消する。その解消は、フォーカス補正電流I0A0の更新と、それの対物レンズ9への入力とによる。その詳細は後述する。
次に、上記工程で更新されたV0A0F(x,y)に基づくフォーカス補正電圧V0Aが対物偏向器13に入力された状態下で、上記格子点の各々において、V2Aに対する電子ビーム1のぼけの曲線の取得から、(30a)式によって更新されたV0A0(x,y)の、対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(36)式が成立するまで繰り返す。あるいは、同じ状態下で、上記格子点の各々において、V2Bに対する電子ビーム1のぼけの曲線の取得から、(31a)式によって更新されたV0A0(x,y)の、対物偏向器13への入力までの、一連の工程を、(37)式が成立するまで繰り返す。
次に、上記格子点の全てにおけるV0A0 (m)(x,y)から、V0A0F(x,y)を決定する。即ち、V0A0F(x,y)が再び更新される。
以降、そうして更新されたV0A0F(x,y)に基づき、上記偏向像面湾曲収差を、対物偏向器13の偏向フィールド内の全域に渡って補正する。
【0313】
上述の要領においては、近似曲面V0A0F(x,y)に上記シフトが与えられることが、重要となる。もしV0A0F(x,y)に上記シフトが与えられなければ、V0A0F(x,y)の最大値と最小値の差がフォーカス補正電圧V0Aの可変範囲の幅以下であるという条件が満たされるにもかかわらず、V0A0F(x,y)の幾つかまたは全ての偏向座標(x,y)における値がV0Aの可変範囲から外れるという、好ましくない事態が発生しうる。これには、その差の大きさが関わるとともに、V0Aの初期値(即ち、V0A0(x,y))も関わる。
【0314】
上記シフトは、より具体的には、近似曲面V0A0F(x,y)の最大値からフォーカス補正電圧V0Aの可変範囲の上限までの余裕と、V0A0F(x,y)の最小値からV0Aの可変範囲の下限までの余裕とを互いに等しくするための、縦軸方向の、一様なシフトである。
このようなシフトをV0A0F(x,y)に与えるには、近似曲面V0A0F(x,y)の最大値と最小値の平均の、フォーカス補正電圧V0Aの可変範囲の上限と下限の平均からの差を、V0A0F(x,y)から減算すればよい。
【0315】
近似曲面V0A0F(x,y)には、あるいは、別様のシフトを与えてもよい。ここで、別様のシフトとは、例えば、V0A0F(x,y)の最大値または最小値を、フォーカス補正電圧V0Aの可変範囲の上限または下限にそれぞれ一致させるようなシフトである。
【0316】
上述した2例のようなシフトが近似曲面V0A0F(x,y)に与えられれば、V0A0F(x,y)の最大値と最小値の差がフォーカス補正電圧V0Aの可変範囲の幅以下であるという上記条件が満たされる限り、V0A0F(x,y)のいずれの偏向座標(x,y)における値も、必ず、V0Aの可変範囲に収まる。
【0317】
しかし、近似曲面V0A0F(x,y)に何らかのシフトが与えられれば、その大きさが零でない限り、上記新たなデフォーカスが生じる。即ち、上記新たなデフォーカスの解消が必要となる。
【0318】
上記新たなデフォーカスの解消は、次の2通りの要領のいずれかによる。
第一に、まず、上記新たなデフォーカスを、零位法によって測定する。即ち、フォーカス補正電流I0Aを増減しながらナイフエッジ20によって電子ビーム1のぼけを測定し、そのぼけを最小とするI0Aを決定する。次に、そうして決定されたI0Aを、I0A0の更新値として、対物レンズ9に入力する。
第二に、まず、2回非点補正電圧V2A(またはV2B)に対する電子ビーム1のぼけの曲線を取得し、その曲線からXY差DA0(またはDB0)を決定する。次に、(9a)(または(10a))式によってI0A0を更新し、そうして更新されたI0A0を対物レンズ9に入力する。
【0319】
補足すれば、V0A0F(x,y)の最大値と最小値の差がフォーカス補正電圧V0Aの可変範囲の幅よりも十分に大きい場合においては、(30)または(31)式によってV0A0(x,y)を更新(即ち、V0A0’(x,y)を決定)するとともにV0A0(x,y)’から近似曲面V0A0F(x,y)を決定する際に、V0A0F(x,y)の近似精度を高くする必要はない。即ち、その場合においては、V0A0F(x,y)の近似精度があまり高くなくても、上述の好ましくない事態の発生が、十分に防止されうる。
従って、上記場合においては、(30)式によってV0A0(x,y)を更新すべく2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のぼけの曲線を取得、または、(31)式によってV0A0(x,y)を更新すべく2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のぼけの曲線を取得する際に、上記格子点の数を少なくすることができる。上記格子点の数を少なくすれば、上記偏向像面湾曲収差の測定および補正に要する時間が短くなる。
上記格子点の数は、V0A0F(x,y)の次数および対称性に依存する。例えば、V0A0F(x,y)を、上記偏向フィールドの中央において最小値を持つ回転放物面に限定すれば、上記格子点の数は、最低2点とすればよい。それら2点は、具体的には、上記偏向フィールドの中央の1点および隅の1点とすればよい。
【0320】
(実施例8)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例8として、以下に説明する。
【0321】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、実施例1~実施例4の装置と構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と同じである。
【0322】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1~実施例4の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
【0323】
本実施例の装置は、そのうえで、フォーカス補正電圧V0Aに起因する偏向歪収差を補正する。その偏向歪収差は、フォーカス補正電圧の変化によって対物偏向器13の偏向感度が変化することに起因する。本実施例の装置は、その偏向歪収差を補正することにより、自身の描画精度(位置精度)を向上させる。
【0324】
ただし、本実施例の装置は、上記偏向歪収差の補正を、次の要領による。まず、上記偏向歪収差を、フォーカス補正電圧V0Aの分布関数から予測する。次に、そうして予測される上記偏向歪収差が打ち消されるように、歪補正電圧の値を、偏向座標毎に決定する。そして、そうして決定された値の偏歪補正電圧を、偏向座標に応じて対物偏向器13に入力する(偏向信号に加算する)。
上記偏向歪収差の補正をこのような要領によれば、フォーカス補正電圧V0Aが偏向座標に対して連続な分布関数で表されている場合と、V0Aが偏向座標に対して不連続な分布関数で表されている場合とのいずれにおいても、上記偏向歪収差の補正残差を小さくすることができる。
【0325】
ここで、フォーカス補正電圧V0Aが偏向座標に対して連続な分布関数で表されている場合とは、例えば、近似曲面V0A0F(x,y)が、偏向座標(x,y)に関する多項式(2次以上)で表される場合を、指す。そのような場合には、V0A0F(x,y)の値が、その多項式の係数と偏向座標(x,y)とから決定され、そうして決定された値のフォーカス補正電圧が、対物偏向器13に入力される。
一方、フォーカス補正電圧V0Aが偏向座標に対して不連続な分布関数で表されている場合とは、例えば、対物偏向器13の偏向フィールドが多数の区画(各々、数μm~数十μm角)に分割され、それら区画の各々にV0A0F(x,y)の値が離散値として割り当てられる場合を、指す。そのような場合には、偏向座標に応じて各区間の値が参照され、そうして参照された値のフォーカス補正電圧が、対物偏向器13に入力される。従って、そのような場合には、V0A0F(x,y)は、その本来の連続性の如何によらず、結局、偏向座標(x,y)に対し、離散的な(階段状の不連続な)関数となる。言い換えれば、V0A0F(x,y)が、偏向座標に関する高次成分を多く含む。
【0326】
フォーカス補正電圧V0Aが偏向座標に対して連続な分布関数で表されている場合においては、V0Aと同様に、上記偏向歪収差も、偏向座標に対して連続的に変化する。従って、その場合においては、上記偏向歪収差を、上記偏向フィールド内で、フォーカス補正電圧V0Aに起因しない偏向歪収差とともに零位法によって測定し、そうすることによって得られる歪補正電圧の値の分布に対して近似曲面を決定すれば、以降、その近似曲面から、偏向座標毎の歪補正電圧の値を、高精度に決定することができる。即ち、その近似曲面による歪補正電圧の値の近似の精度は高く、従って、上記偏向歪収差の補正残差は小さい。(上記偏向歪収差と同様に、フォーカス補正電圧V0Aに起因しない偏向歪収差も、偏向座標に対して連続的に変化する。従って、上記偏向歪収差の補正残差と同様に、フォーカス補正電圧V0Aに起因しない偏向歪収差の補正残差も、小さい。ただし、このことは、上記区画の各々に、フォーカス補正電圧以外の補正信号の値が離散値として割り当てられていないことを、前提とする。)
ここで、上記偏向歪収差を、フォーカス補正電圧V0Aに起因しない偏向歪収差とともに零位法によって測定するとは、フォーカス補正電圧V0A0F(x,y)が対物偏向器13に入力される条件下で、対物偏向器13の偏向フィールド内の格子点上の上記偏向歪収差をナイフエッジ20によって直接測定し、そうして測定された上記偏向歪収差が各格子点上で打ち消されるように各格子点上の歪補正電圧の値を決定することを、指す。ここでは、各格子点上で上記偏向歪収差の打ち消しが確認されることが重要である。即ち、各格子点上で上記偏向歪収差の補正残差が十分に小さくなるまで、上記偏向歪収差の測定が繰り返されることが、重要である。
【0327】
一方、フォーカス補正電圧V0Aが偏向座標に対して不連続な分布関数で表されている場合においては、V0Aと同様に、上記偏向歪収差も、偏向座標に対し、離散的に(不連続に)変化する。言い換えれば、上記偏向歪収差の分布関数が、偏向座標に関する高次成分を多く含む。(フォーカス補正電圧V0Aに起因しない偏向歪収差は、この場合においても、偏向座標に対して連続的に変化する。)
この場合においては、上記偏向歪収差を、上記偏向フィールド内で、フォーカス補正電圧V0Aに起因しない偏向歪収差とともに零位法によって測定し、そうすることによって得られる歪補正電圧の値の分布に対して近似曲面を決定するのは、得策ではない。これは、そのような近似曲面を決定した時点で、歪補正電圧の分布関数の持つべき高次成分が、失われることによる。即ち、その近似曲面による歪補正電圧の値の近似の精度は低く、従って、上記偏向歪収差の補正残差は大きい。
【0328】
フォーカス補正電圧V0Aが偏向座標に対して不連続な分布関数で表されている場合においては、まず、上記偏向歪収差をV0A0F(x,y)(またはV0A0 (m)(x,y))から予測し、次に、そうして予測される上記偏向歪収差が打ち消されるように、偏向座標毎の歪補正電圧の値を決定するのが、得策である。そうすれば、歪補正電圧の値に、V0A0F(x,y)(またはV0A0 (m)(x,y))の高次成分が忠実に反映されるようになり、従って、上記偏向歪収差の補正残差が小さくなる。
【0329】
本実施例の装置は、上記偏向歪収差の予測、および歪補正電圧の値の決定を、特許文献2に記載の要領に類似の要領による。ここで、特許文献2に記載の要領に類似の要領とは、より具体的には、n(≧2)回非点補正電圧に由来する偏向歪収差を打ち消す要領におけるn回非点補正電圧を、フォーカス補正電圧に置き換えたものに、相当する。
即ち、本実施例では、歪補正電圧のA成分に、係数ρ1A0Aと近似曲面V0A0F(x,y)との積を加算するとともに、歪補正電圧のB成分に、係数ρ1B0Aと近似曲面V0A0F(x,y)との積を加算すればよい。そうすれば、上記区画の各々にV0A0F(x,y)の値が離散値として割り当てられる場合において、歪補正電圧の値が、上記区画毎に決定される。
ここで、歪補正電圧のA成分およびB成分とは、それぞれ、偏向電圧V1AおよびV1Bに加算される歪補正電圧成分を意味する。係数ρ1A0Aおよびρ1B0Aは、それぞれ、フォーカス補正電圧V0Aに起因する偏向歪収差を打ち消す歪補正電圧のA成分およびB成分の、V0Aに関する偏微分係数である。
【0330】
ただし、上記要領(上記偏向歪収差の予測、および歪補正電圧の値の決定)によって上記偏向歪収差を補正すると、V0A0F(x,y)の絶対値が大きくなるにつれ、上記偏向歪収差の補正残差が大きくなる可能性がある。これは、上記要領においては、上記偏向歪収差の打ち消しが確認されないからである。
【0331】
このことが問題となる場合には、次のようにすればよい。
まず、フォーカス補正電圧V0A0F(x,y)を、偏向座標に関する低次成分(例えば、2次まで)と高次成分(例えば、3次以上)とに分け、その低次および高次成分を、それぞれV0A0FL(x,y)およびV0A0FH(x,y)とする。以降では、V0A0FL(x,y)の値は、V0A0FL(x,y)を表す多項式の係数と、偏向座標とから決定される一方で、V0A0FH(x,y)の値は、V0A0FH(x,y)の離散値が偏向座標に応じて参照されることによって決定されるものとする。ここで、V0A0FH(x,y)の離散値は、一旦、V0A0FH(x,y)の多項式の係数と偏向座標とから決定され、その後、上記区画の各々に割り当てられ、記憶され、そして参照されるものとする。
次に、V0A0FL(x,y)が偏向座標に応じて対物偏向器13に入力されるようにし、その状態下で対物偏向器13の偏向フィールド内に現れる偏向歪収差を、零位法によって測定し、そうすることによって得られる歪補正電圧の値の分布に対し、近似曲面を決定する。その状態下で対物偏向器13の偏向フィールド内に現れる偏向歪収差とは、即ち、V0A0FL(x,y)に起因する偏向歪収差と、V0A0FL(x,y)およびV0A0FH(x,y)のいずれにも起因しない偏向歪収差との和である。以降、電子ビーム1が偏向座標(x,y)に向けて偏向される際に、上記近似曲面から、偏向座標(x,y)に対応する歪補正電圧の値が決定され、そうして決定された値の歪補正電圧が、対物偏向器13に入力されるものとする。
そして、V0A0FL(x,y)およびV0A0FH(x,y)が偏向座標に応じて対物偏向器13に入力されるようにし、その状態下で上記偏向フィールド内に現れる偏向歪収差を、補正する。その状態下で上記偏向フィールド内に現れる偏向歪収差とは、即ち、V0A0FH(x,y)に起因する偏向歪収差である。(この時点では、V0A0FL(x,y)に起因する偏向歪収差と、V0A0FL(x,y)およびV0A0FH(x,y)のいずれにも起因しない偏向歪収差との和は、既に補正されている。)
0A0FH(x,y)に起因する偏向歪収差の補正は、V0A0FH(x,y)から予測される偏向歪収差が打ち消されるように、歪補正電圧の値を偏向座標毎に決定し、そして、そうして決定された値の偏歪補正電圧を、偏向座標に応じて対物偏向器13に入力することによる。即ち、歪補正電圧のA成分に、係数ρ1A0AとV0A0FH(x,y)との積が加算されるとともに、歪補正電圧のB成分に、係数ρ1B0AとV0A0FH(x,y)との積が加算される。
【0332】
このようにすれば、V0A0FL(x,y)に起因する偏向歪収差が、V0A0FL(x,y)およびV0A0FH(x,y)のいずれにも起因しない偏向歪収差とともに、高精度に補正され、さらに、V0A0FH(x,y)に起因する偏向歪収差も、高精度に補正される。即ち、上記偏向フィールド内の全ての偏向歪収差の補正残差が小さくなる。
ここで重要となるのは、|V0A0FH(x,y)|は|V0A0F(x,y)|よりも小さく、従って、V0A0FH(x,y)に起因する偏向歪収差の補正残差は、V0A0F(x,y)に起因する偏向歪収差の補正残差よりも、小さいことである。
【0333】
(実施例9)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例9として、以下に説明する。
【0334】
本実施例の装置(可変成形電子ビーム描画装置)は、基本的に、実施例1~実施例4の装置と構成を同じくする。即ち、本実施例の装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、それぞれ、実施例1の装置の光学系、測定系、および制御系の構成(図1を参照)と、基本的に同じである。
【0335】
ただし、本実施例の装置の測定系は、図21に示すように、ナイフエッジ20およびファラデーカップ21とは別のナイフエッジおよびファラデーカップとして、ナイフエッジ20’およびファラデーカップ21’を備える。本実施例の装置の測定系は、さらに、光学式の高さ検出器(図示せず、例えば特開平02-241021号公報を参照)を備える。本実施例の装置は、その高さ検出器により、電子ビーム1の入射する面の高さ位置を測定する。その高さ位置は、より具体的には、ナイフエッジ20、ナイフエッジ20’、および材料10の各々の表面上の、電子ビーム1が入射する領域の高さ位置である。
【0336】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1~実施例4の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
【0337】
本実施例の装置は、そのうえで、上記軸上デフォーカスを、材料10内の領域毎に補正する。言い換えれば、本実施例の装置は、上記軸上デフォーカスの補正残差を、材料10内の領域毎に低減する。
上記補正残差は、材料10の高さ位置がナイフエッジ20の高さ位置に一致しないことに起因する。ここで、材料10の高さ位置がナイフエッジ20の高さ位置に一致しないとは、具体的には、第一に、材料10内に高低差があること、第二に、材料10内に高低差は無いものの、材料10の高さ位置がナイフエッジ20の高さ位置に一致しないことを、意味する。
一方、実施例1~実施例4の装置は、上記軸上デフォーカスを材料10内の領域毎には補正しなかった。即ち、実施例1~実施例4では、材料10の高さ位置のナイフエッジ20の高さ位置からの差が零であったか、あるいは、たとえその差が零でなかったとしても、その差が度外視された。
【0338】
本実施例の装置は、さらに、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転を、材料10内の領域毎に補正する。その寸法誤差および回転も、上記補正残差と同様に、材料10の高さ位置がナイフエッジ20の高さ位置に一致しないことに、起因する。
【0339】
本実施例の装置が上記軸上デフォーカスと対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転とを材料10内の領域毎に補正する要領を、以下に説明する。
【0340】
本実施例の装置は、材料10への描画に先立ち、まず、ナイフエッジ20’を材料ステージ14によって電子ビーム1の直下に移動させ、そのうえで、上記高さ検出器により、ナイフエッジ20’の高さ位置を測定するとともに、ナイフエッジ20’により、ナイフエッジ20’上のデフォーカスを測定および補正する。そのデフォーカスの測定および補正は、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を取得し、(9a)式によってフォーカス補正電流I0A0を更新するか、または、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を取得し、(10a)式によってフォーカス補正電流I0A0を更新するかし、そうして更新されたI0A0を対物レンズ9に入力することによる。ここで重要となるのは、ナイフエッジ20と高さ位置を異にするナイフエッジ(具体的には、ナイフエッジ20’)上のデフォーカスが補正されることである。
本実施例の装置は、次に、ナイフエッジ20を材料ステージ14によって電子ビーム1の直下に移動させ、そのうえで、上記高さ検出器により、ナイフエッジ20の高さ位置を測定するとともに、ナイフエッジ20により、ナイフエッジ20上のデフォーカスを測定する。(この時点では、ナイフエッジ20上のデフォーカスは、補正されない。)そのデフォーカスの測定は、2回非点補正電圧V2Aに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線を取得し、それら曲線からXY差Dを決定するか、または、2回非点補正電圧V2Bに対する電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけの曲線の取得し、それら曲線からXY差Dを決定することによる。
ここでは、DおよびDの両方を決定する必要はなく、DおよびDのいずれか一方を決定すればよい。より具体的には、(19)(または(32))式が成立する場合には、Dを決定すればよく、(20)(または(33))式が成立する場合には、Dを決定すればよい。
【0341】
補足すれば、ナイフエッジ20’上のデフォーカスの補正は、原理上は、フォーカス補正電流I0A0の更新およびI0A0の対物レンズ9への入力と、フォーカス補正電圧V0A0の更新およびV0A0の対物偏向器13への入力との、いずれによっても可能である。このことは、以降の過程における、上記軸上デフォーカスの、材料10内の領域毎の補正にも、当てはまる。
しかし、本実施例では、これら補正は、いずれも、フォーカス補正電流I0A0の更新およびI0A0の対物レンズ9への入力によるものとする。
【0342】
本実施例の装置は、次に、DまたはDの、電子ビーム1の入射する面の高さ位置に関する偏微分係数を求める。これら偏微分係数は、上記過程で得られたXY差DまたはDと、ナイフエッジ20および20’の高さ位置とから求められる。ここでは、フォーカス補正電流I0Aの変化((9a)または(10a)式によるI0A0の更新)に起因する、XY差DおよびDの変化が、それぞれ、電子ビーム1の入射する面の高さ位置の変化に起因する、XY差DおよびDの変化と見なされる。
およびDの、電子ビーム1の入射する面の高さ位置に関する偏微分係数を、それぞれdzAおよびdzBとすれば、dzAおよびdzBは、それぞれ、(134)および(135)式で与えられる。
【0343】
【数8】
(134)および(135)式において、zは、電子ビーム1の入射する面の高さ位置を表す。zおよびzは、それぞれ、ナイフエッジ20および20’の高さ位置を表す。DA0およびDA1は、それぞれ、ナイフエッジ20および20’上で測定されるDを表す。DB0およびDB1は、それぞれ、ナイフエッジ20および20’上で測定されるDを表す。DA1およびDB1は、ナイフエッジ20’上のデフォーカスが補正されていれば、いずれも零となる。Δzは、zのzからの差であり、例えば、10μm程度の大きさを持つ。
ここでは、dzAおよびdzBの両方を求める必要はなく、dzAおよびdzBのいずれか一方を求めればよい。より具体的には、(19)式が成立する場合には、dzAを求めればよく、(20)式が成立する場合には、dzBを求めればよい。
【0344】
本実施例の装置は、次に、ナイフエッジ20および20’の各々の高さ位置における、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転を測定し、そして補正する。
具体的には、本実施例の装置は、まず、対物偏向器13によって電子ビーム1を対物偏向器13の偏向フィールドの境界上の点に向けて偏向した状態で、その点に対する電子ビーム1の位置ずれ(対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転)を、ナイフエッジ20によって測定および補正する。その際、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転の補正値が決定され、それら補正値が、偏向電圧に加算される。本実施例の装置は、次に、同様の測定および補正を、ナイフエッジ20’によって行う。ただし、各ナイフエッジ上でこれらの工程が行われる前に、各ナイフエッジ上のデフォーカスが測定され、そして補正される。
【0345】
本実施例の装置は、次に、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転の補正値の、高さ位置zに関する微分係数を求める。これら微分係数は、上記過程における、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転の補正値の変化量と、高さ位置zの変化量(即ち、Δz)とから、求められる。
補足すれば、これら微分係数には、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転の補正値の、高さ位置zによる変化だけでなく、それら補正値の、フォーカス補正電流I0Aによる変化も反映される。
【0346】
本実施例の装置は、次に、材料10内に、1点の基準点を設定する。その基準点は、例えば、材料10内の高さ位置の最大値と最小値の平均に相当する高さ位置を示す点としてもよいし、あるいは、より簡単に、材料10の中央に位置する点としてもよい。
【0347】
本実施例の装置は、次に、上記基準点を材料ステージ14によって電子ビーム1の直下に移動させ、そのうえで、上記高さ検出器により、上記基準点の高さ位置を測定する。本実施例の装置は、そして、その高さ位置の、ナイフエッジ20の高さ位置からの差を、上記基準点におけるXY差DA0またはDB0の目標値に換算する。
上記基準点におけるDA0またはDB0の目標値は、それぞれ(136)または(137)式で与えられる。(136)および(137)式において、DA0TおよびDB0Tは、それぞれ、上記基準点におけるDA0およびDB0の目標値を表す。zは、上記基準点の高さ位置を表す。DA0Tは、(19)式が成立する場合に決定すればよく、DB0Tは、(20)式が成立する場合に決定すればよい。
A0T=dzA(z-z) (136)
B0T=dzB(z-z) (137)
【0348】
本実施例の装置は、次に、ナイフエッジ20を材料ステージ14によって電子ビーム1の直下に移動させ、そのうえで、ナイフエッジ20上のXY差DA0またはDB0を測定する。本実施例の装置は、そして、(138)または(139)式により、I0A0を更新(即ち、I0A0 (m)を決定)する。その更新は、(140)または(141)式が成立するまで続けられる。
0A0 (m) =I0A0 (m-1)-(DA0 (m-1)-DA0T)/dIA (138)
0A0 (m) =I0A0 (m-1)-(DB0 (m-1)-DB0T)/dIB (139)
|DA0 (m)-DA0T|<ε(140)
|DB0 (m)-DB0T|<ε(141)
【0349】
即ち、本実施例の装置は、DA0 (m)がDA0Tに収束、またはDB0 (m)がDB0Tに収束するまで、I0A0を更新する。その更新は、(19)式が成立する場合には、(138)式によるが、(20)式が成立する場合には、(139)式による。ここで、DA0 (m)がDA0Tに収束、またはDB0 (m)がDB0Tに収束することは、上記基準点における上記軸上デフォーカスが補正されることに、相当する。
これに対し、実施例1~実施例4の装置は、I0A0を、(9a)または(10a)式によって更新した。その更新は、(22)または(23)式が成立するまで続けられた。言い換えれば、実施例1~実施例4においては、DA0TおよびDB0Tが零であった。
【0350】
本実施例の装置は、そして、材料10への描画を開始する。以降、本実施例の装置は、自身の生む軸上デフォーカスと、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転とを、材料10内の領域毎に補正する。ここで、材料10内の領域毎とは、より具体的には、対物偏向器13の偏向フィールド毎である。これらの補正の詳細を、以下に示す。
【0351】
本実施例の装置は、まず、材料10内の領域のうち、最初に高さ測定が行われる領域を、材料ステージ14により、電子ビーム1の直下に移動させ、その領域の高さ位置を、上記高さ検出器によって測定する。
この時点では、その領域への描画は、まだ開始されない。即ち、この時点では、電子ビーム1が、ブランカー15(図24を参照)によって遮断されている。
【0352】
本実施例の装置は、次に、上記領域(最初に高さ測定が行われる領域)における上記軸上デフォーカスを補正する。本実施例の装置は、そのため、(142)または(143)式により、上記領域におけるI0A0(x,y)を更新し、それを対物レンズ9に入力する。この時点でも、上記領域への描画は、まだ開始されない。
0A0’(x,y)=I0A0(x,y)+(dzA/dIA)Δz(x,y
=I0A0(x,y)+ID0(x,y) (142)
0A0’(x,y)=I0A0(x,y)+(dzB/dIB)Δz(x,y
=I0A0(x,y)+ID0(x,y) (143)
(142)および(143)式において、I0A0(x,y)は、材料内座標(x,y)におけるフォーカス補正電流I0A0を表す。材料内座標(x,y)は、材料10内の領域の座標であって、高さ測定が行われる領域の座標を表す。I0A0’(x,y)は、材料内座標(x,y)における上記軸上デフォーカスを零とすべく更新されるI0A0(x,y)を表す。本実施例の装置は、そうして更新される前のI0A0(x,y)を、上記基準点におけるI0A0に一致させておく。ここで、上記基準点におけるI0A0とは、(140)式が成立するまで(138)式によって更新されたI0A0、あるいは、(141)式が成立するまで(139)式によって更新されたI0A0である。Δz(x,y)は、材料内座標(x,y)における材料10の高さ位置の、上記基準点の高さ位置からの差を、表す。
【0353】
(142)および(143)式中のID0(x,y)は、それぞれ、(144)および(145)式で与えられる。(142)~(145)式中のID0(x,y)は、フォーカス補正電流の変化量に換算されたΔz(x,y)を、表す。(ID0(x,y)は、Δz(x,y)の測定値を表しもする。)
D0(x,y)=(dzA/dIA)Δz(x,y) (144)
D0(x,y)=(dzB/dIB)Δz(x,y) (145)
従って、(142)および(143)式は、本実施例の装置が、フォーカス補正電流の変化量に換算されたΔz(x,y)をI0A0(x,y)に加算し、そうすることによってI0A0(x,y)を更新(即ち、I0A0’(x,y)を決定)することを、示している。
【0354】
ただし、上記過程においては、材料10内の高低差は十分に小さい(即ち、|Δz(x,y)|は十分に小さい)と仮定する。その仮定下では、フォーカス補正電流に起因するデフォーカスの、フォーカス補正電流に対する非線形性および非再現性が、無視できる。即ち、その非線形性および非再現性に起因する、上記軸上デフォーカスの補正残差が、無視できる。その非線形性および非再現性には、対物レンズ9のレンズ強度の、対物レンズ9の励磁電流に対する非線形性と、対物レンズ9の磁性材料の磁気ヒステリシスとが、関わる。
【0355】
本実施例の装置は、次に、上記領域における、偏向電圧への加算値を、決定する。その加算値は、上記領域の高さ位置の、ナイフエッジ20の高さ位置からの差と、先述の微分係数(即ち、上記偏向フィールドの寸法誤差および回転の補正値の、高さ位置zに関する微分係数)とから、決定される。
上記加算値は、偏向座標(対物偏向器13の偏向フィールド内の座標)に応じて決定される。より具体的には、上記加算値は、偏向座標の一次関数に従って決定される(例えば、特開平01-077937号公報を参照)。
【0356】
本実施例の装置は、次に、上記領域(最初に高さ測定が行われる領域)への描画を開始する。本実施例の装置は、その描画の間、偏向電圧に、上記加算値を、偏向座標毎に加算する。
そうすれば、上記領域における、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転が、補正される。即ち、これらが補正された状態で、上記領域への描画が進行する。
【0357】
本実施例の装置は、以降、上記と同様の描画、測定、および補正を、材料10内の残りの領域に対して実施する。
そうすれば、本実施例の装置の生む軸上デフォーカスと、対物偏向器13の偏向フィールドの寸法誤差および回転とが、材料10内の領域毎(より具体的には、対物偏向器13の偏向フィールド毎)に補正されつつ、材料10への描画が進行する。
ただし、もし材料10内に高低差が無ければ、Δz(x,y)は零となり、従って、(142)または(143)式によるI0A0(x,y)の更新は不要となる。
【0358】
以上の説明では、材料10内の高低差は十分に小さい(即ち、|Δz(x,y)|は十分に小さい)と仮定したが、もし材料10内の高低差が大きければ、上記軸上デフォーカスの補正残差が無視できなくなることがありうる。これは、|Δz(x,y)|が大きければ、フォーカス補正電流に起因するデフォーカスの、フォーカス補正電流に対する非線形性および非再現性が、無視できなくなりうることによる。
上記のことが問題となる場合には、材料10上で生じうる|Δz(x,y)|の最大値を小さくすればよい。そうすれば、上記非線形性および非再現性の顕在化が抑制される。
そうするには、まず、材料10への描画の開始前に、材料10を複数の部分に適宜分割し、それら部分の各々に基準点を設け、次に、各基準点の高さを測定し、各基準点に対して目標値DA0TまたはDB0Tを決定すればよい。そして、材料10への描画の開始後に、上記部分毎に(138)または(139)式によってI0A0を更新するとともに、上記部分の各々の範囲内でΔz(x,y)を定義すればよい。
【0359】
(実施例10)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(スポット電子ビーム描画装置)を、実施例10として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の装置(スポット電子ビーム描画装置)の光学系の構成を、図22に示す。
【0360】
本実施例の装置は、実施例1~実施例9の装置(可変成形電子ビーム描画装置)と構成を同じくする。ただし、本実施例では、電子ビーム1を、可変成形ビームではなく、スポットビームとする。
【0361】
本実施例の装置において電子ビーム1をスポットビームにするには、簡単には、照射レンズ2、成形レンズ6、縮小レンズ8、および対物レンズ9の励磁電流を適宜調整することで、図22に示すように、光源の像16を、縮小レンズ8と対物レンズ9の間に結ぶとともに、光源の像19を、材料10(およびナイフエッジ20)の高さ位置に結べばよい。
その際には、第1の成形開口板3、第2の成形開口板7、および成形偏向器12(図24を参照)は、いずれも不要であるが、これら光学系構成要素のうち、第1の成形開口板3または第2の成形開口板7は、明るさ絞りとして有効利用できる。このことから、本実施例においては、これらの開口板の開口の形状は、円形としてよい。(一般には、これら開口板の開口の形状は、矩形である。)
【0362】
本実施例の装置は、基本的に、実施例1~実施例9の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。電子ビーム1のぼけの測定は、ナイフエッジ法による。
ただし、本実施例では、ナイフエッジ20(または、ナイフエッジ20および20’)が、可変成形ビームとしての電子ビーム1によってではなく、スポットビームとしての電子ビーム1によって走査される。
【0363】
(実施例11)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(走査型電子顕微鏡)を、実施例11として、以下に説明する。
【0364】
本実施例の装置(走査型電子顕微鏡)は、基本的に、実施例10の装置(スポット電子ビーム描画装置)と構成を同じくする。ただし、本実施例では、材料ステージ14(図22を参照)に、材料10ではなく、観察試料(図示せず)が載置される。
【0365】
本実施例の装置には、二次電子検出器(図示せず)または透過電子検出器(図示せず)が設けられる。これら検出器のうち、二次電子検出器は、上記観察試料よりも上方(電子ビーム1の上流側)に設けられる。一方、透過電子検出器は、上記観察試料よりも下方(電子ビーム1の下流側)に設けられる。
【0366】
本実施例の装置は、基本的に、実施例10の装置と動作を同じくする。即ち、本実施例の装置も、自身の生む軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差を測定し、そして補正する。これら収差の測定および補正は、いずれも、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。光源の像19は、材料10の高さ位置に結ばれる。
【0367】
本実施例の装置は、しかし、電子ビーム1を、材料10に対する描画にではなく、上記観察試料の観察に用いる。本実施例の装置は、その目的のため、電子ビーム1により、上記観察試料を走査する。
より具体的には、本実施例の装置は、走査型電子顕微鏡として動作する。さらに具体的には、本実施例の装置は、上記観察試料の走査の際に上記観察試料から生じる二次電子が、上記二次電子検出器によって検出されるならば、走査型電子顕微鏡(SEM)として動作する。本実施例の装置は、あるいは、その際に上記観察試料を透過する透過電子が、上記透過電子検出器によって検出されるならば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)として動作する。
【0368】
本実施例の装置は、電子ビーム1のぼけの測定を、ナイフエッジ法によるか、または、別の手法による。
【0369】
ここで、別の手法とは、具体的には、上記観察試料の走査によって得られる電子像(走査電子像)の画像解析(二次元フーリエ解析、例えば、特開平9-82257号公報、および特開平10-106469号公報を参照)、または、上記観察試料の走査によって得られる電子信号の信号解析(例えば、特開平7-153407号公報を参照)である。
【0370】
電子ビーム1のぼけの測定をこのような手法によれば、ナイフエッジの類(具体的には、ナイフエッジ20、ナイフエッジ20’、あるいは電子反射体)は不要となる。さらには、高さ検出器(実施例9を参照)の類も不要となる。(実施例9においては、電子ビーム1によって材料10が走査される際に、電子像および電子信号のいずれも取得されず、従って、材料10の高さ位置の測定に、先述の高さ検出器が必要となった。)
【0371】
上記2つの手法は、原理的に、直交2方向のぼけの大きさを測定可能とする。より詳細には、上記画像解析においては、上記電子像に表れるぼけの、任意の直交2方向の大きさが、フーリエ空間上で、その直交2方向の波数の小ささとして、互いに独立に評価できる。上記信号解析においては、上記観察試料を、任意の直交2方向の各々に沿って走査すれば、そうして得られる2つの電子信号から、上記観察試料上のぼけの、その直交2方向の大きさが、互いに独立に評価できる。
【0372】
従って、上記2つの手法は、上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の、いずれの測定および補正にも、応用できる。即ち、2回非点補正電圧を増減しながら上記電子像を取得し、そうして得られる上記電子像に対して上記画像解析を適用するか、または、2回非点補正電圧を増減しながら上記電子信号を取得し、そうして得られる上記電子信号に対して上記信号解析を適用するかすれば、2回非点補正電圧に対する電子ビーム1の直交2方向(または単一の方向)のぼけの曲線が取得できる。
そうして取得された曲線に基づいて上記軸上デフォーカス、軸上2回非点収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差が測定され、そして補正されることは、電子ビーム1のぼけを測定する手段の違い(上記観察試料の走査によって得られる電子像または電子信号の解析か、あるいは、ナイフエッジ20の走査によって得られるファラデーカップ吸収電流信号の解析か)を除けば、実施例1~実施例10において同じ収差が測定され、そして補正されることに、同じである。
【0373】
(実施例12)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(透過型電子顕微鏡)を、実施例12として、以下に説明する。
【0374】
本実施例の装置(透過型電子顕微鏡)の光学系の構成を、図23に示す。図23では、対物レンズ9よりも電子ビーム1の上流側の光学系構成要素が省略されている。
【0375】
本実施例の装置は、実施例11の装置(走査型電子顕微鏡)と、構成を部分的に同じくする。より具体的には、本実施例の装置は、実施例11の装置と、観察試料33よりも電子ビーム1の上流側の光学系の構成を同じくする。
本実施例の装置は、しかし、実施例11の装置とは異なり、観察試料33の下方(電子ビーム1の下流側)に光学系構成要素を備える。より具体的には、本実施例の装置は、図23に示すように、観察試料33の下方に、拡大光学系34および透過電子像検出器35を備える。ここで、観察試料33は、薄膜状の試料である。拡大光学系34は、図23から分かるように、対物レンズ9’と、拡大レンズ36および37とからなる。
本実施例の装置には、ナイフエッジの類(具体的には、ナイフエッジ20、ナイフエッジ20’、あるいは電子反射体)も、その走査に用いられる偏向器の類(具体的には、対物偏向器13)も、備えられない。本実施例の装置には、また、高さ検出器(実施例9を参照)の類も備えられない。
【0376】
拡大光学系34には、透過電子像検出器35上に形成される像(透過電子像)を明視野像または暗視野像とするための絞りとして、対物絞り38が設けられる。以降では、その像は明視野像とする。
対物絞り38の高さ位置は、透過電子像検出器35と光学的に共役でない高さ位置とする。より具体的には、対物絞り38の高さ位置は、対物レンズ9’の後方焦点面の高さ位置とするか、または、その焦点面よりも電子ビーム1の下流側で、その焦点面の高さ位置と光学的に共役な高さ位置とする。図23の光学系では、対物絞り38の高さ位置は、対物レンズ9’の後方焦点面の高さ位置としてある。
【0377】
拡大光学系34には、さらに、2回非点補正器30が設けられる。2回非点補正器30は、図23においては磁界型多極子(例えば8極子)であるが、これを静電型多極子としてもよい。
2回非点補正器30の高さ位置は、対物絞り38と同じ高さ位置(または、その付近)とするか、または、対物絞り38よりも電子ビーム1の下流側で、対物絞り38の高さ位置と光学的に共役な高さ位置とする。図23の光学系では、2回非点補正器30の高さ位置は、対物絞り38よりも電子ビーム1の下流側で、対物絞り38の高さ位置と光学的に共役な高さ位置としてある。
2回非点補正器30は、非点補正器制御部31に接続されている。非点補正器制御部31は、中央制御部28(図23には示さず)に接続されている。
【0378】
補足すれば、2回非点補正器30の高さ位置を、上記高さ位置(即ち、対物絞り38と同じ高さ位置、または、その高さ位置と光学的に共役な高さ位置)とするのは、2回非点補正器30による2回非点収差の発生とともに副次的に発生する歪収差を小さくするためである。その歪収差は、観察試料の像39(透過電子像)内の座標に依存する。
上記歪収差は、2回非点補正器30の高さ位置における、電子ビーム1に含まれる各主光線の、電子ビーム1の中心軸からの位置ずれに、原因する。これには、その各主光線周りの磁場分布が関わる。2回非点補正器30の高さ位置を上記高さ位置とすれば、電子ビーム1に含まれる全ての主光線が、2回非点補正器30の高さ位置において一点に交わり、従って、その位置ずれが最小になるとともに、上記歪収差も最小となる。
【0379】
本実施例の装置は、上記構成のもとで、透過型電子顕微鏡(TEM)として動作する。その動作は、以下の通りである。
【0380】
本実施例の装置は、まず、電子ビーム1により、観察試料33を照射する。ここで、本実施例の装置は、観察試料33に、平行ビームとしての電子ビーム1を当てるべく、光源の像19の高さ位置を、対物レンズ9の物側焦点面の高さ位置に一致させる。
本実施例の装置は、次に、観察試料33を透過した電子ビーム1を、拡大光学系34により、透過電子像検出器35まで伝送する。ここで、拡大光学系34は、観察試料の像39を、透過電子像検出器35(像面)上に結ぶ。
本実施例の装置は、そして、透過電子像検出器35により、観察試料の像39を、電子画像(電子データ)として取得する。
本実施例の装置は、さらに、透過電子像検出器35上のデフォーカスと2回非点収差を測定および補正する。これは、観察試料の像39の鮮明化のためである。
ここで、透過電子像検出器35上のデフォーカスおよび2回非点収差は、本実施例の装置の生む軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差であり、いずれも、観察試料33から透過電子像検出器35までの間で発生する。(補足すれば、本実施例の装置は、観察試料33の観察中に、電子ビーム1を偏向しない。そのため、本実施例の装置は、偏向像面湾曲収差および偏向2回非点補正収差のいずれも生まない。)
【0381】
上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差の測定は、2回非点補正電流に対する電子ビーム1のぼけの曲線に基づく。ただし、本実施例の装置は、それら曲線を、観察試料の像39から取得する。本実施例の装置は、その目的のため、2回非点補正電流を増減しながら透過電子像検出器35によって観察試料の像39を取得し、そうして取得された観察試料の像39に対し、先述の画像解析(実施例11を参照)を適用する。
【0382】
上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差の補正は、それぞれ、拡大レンズ37(または拡大レンズ36)および2回非点補正器30による。即ち、本実施例では、フォーカス補正電流および2回非点補正電流が、それぞれ、拡大レンズ37(または拡大レンズ36)および2回非点補正器30に入力される。
【0383】
上述の要領によって上記軸上デフォーカスおよび軸上2回非点収差が測定され、そして補正されることは、電子像の取得の際に増減される補正信号の違い(2回非点補正電流か、あるいは2回非点補正電圧か)、取得される電子像の違い(透過電子像か、あるいは走査電子像か)、および、これら収差の補正手段の違い(拡大レンズ37と2回非点補正器30か、あるいは、対物レンズ9と対物偏向器13か)を除けば、実施例11において同じ収差が先述の画像解析によって測定され、そして補正されることに、同じである。
【0384】
本発明は、上述した各実施例の構成を採りうるだけでなく、請求の範囲に規定された範囲内の任意の構成を採りうる。例えば、実施例1~実施例12において、電子ビーム1をイオンビーム(図示せず)に置き換えてもよい。ただしその際には、電子ビーム1を発生する電子銃(図示せず)が、所望のイオンビームを発生するイオンビーム源(図示せず)に置き換えられる。
【符号の説明】
【0385】
1 電子ビーム、2 照射レンズ、3 第1の成形開口板、4 光源、5,16,19 光源の像、6 成形レンズ、7 第2の成形開口板、8 縮小レンズ、9,9’ 対物レンズ、10 材料、11 投影図形、12 成形偏向器、13 対物偏向器、14 材料ステージ、15 ブランカー、17 ブランキング開口板、20,20’ ナイフエッジ、21 ファラデーカップ、24 レンズ制御部、25 対物偏向器制御部、26 材料ステージ制御部、27 ファラデーカップ吸収電流信号処理部、28 中央制御部、29 記憶部、30 2回非点補正器、31 非点補正器制御部、33 観察試料、34 拡大光学系、35 透過電子像検出器、36,37 拡大レンズ、38 対物絞り、39 観察試料の像、50 第0の2回非点発生電圧、51 第1の2回非点発生電圧、52 第2の2回非点発生電圧
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