(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置および三次元積層造形方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/362 20210101AFI20240611BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240611BHJP
B22F 12/44 20210101ALI20240611BHJP
B22F 10/366 20210101ALI20240611BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240611BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240611BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240611BHJP
【FI】
B22F10/362
B22F10/28
B22F12/44
B22F10/366
B33Y30/00
B33Y10/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2021117794
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蔦川 生璃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】台野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小岩 康三
(72)【発明者】
【氏名】金子 雄平
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅彦
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-544501(JP,A)
【文献】特開2021-041568(JP,A)
【文献】特開2020-157698(JP,A)
【文献】米国特許第08187521(US,B2)
【文献】特表2020-522613(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107755696(CN,A)
【文献】国際公開第2013/092994(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0095882(US,A1)
【文献】特表2017-515970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 10/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形プレートと、
前記造形プレート上に金属粉末を塗布して粉末層を形成する粉末塗布装置と、
前記粉末層に電子ビームを照射するビーム照射装置と、
前記粉末塗布装置および前記ビーム照射装置を制御する制御部と、
を備える三次元積層造形装置であって、
前記制御部は、前記粉末層を前記電子ビームの照射によって予熱する場合に、少なくとも予熱開始時に前記電子ビームのライン同士が重ならないように前記電子ビームのビームサイズおよび照射位置を設定するとともに、予熱開始から予熱終了までの間に前記電子ビームのビームサイズが徐々に大きくなるように前記ビーム照射装置を制御する
三次元積層造形装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記予熱開始から前記予熱終了までの間に
、前記ビームサイズの他に、前記電子ビームのビーム電流が徐々に大きくなるように前記ビーム照射装置を制御する
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記制御部は、積層方向で異なる位置に積層される第1の粉末層と第2の粉末層のうち、前記第1の粉末層を予熱するときに適用する前記電子ビームの照射位置と、前記第2の粉末層を予熱するときに適用する電子ビームの照射位置とを、前記積層方向と直交する方向にずらして設定する
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
造形プレートと、
前記造形プレート上に金属粉末を塗布して粉末層を形成する粉末塗布装置と、
前記粉末層に電子ビームを照射するビーム照射装置と、
前記粉末塗布装置および前記ビーム照射装置を制御する制御部と、
を備える三次元積層造形装置であって、
前記制御部は、前記粉末層を前記電子ビームの照射によって予熱する場合に、少なくとも予熱開始時に前記電子ビームのライン同士が重ならないように前記電子ビームのビームサイズおよび照射位置を設定するとともに、予熱開始から予熱終了までの間に前記電子ビームのビームサイズが徐々に大きくなるように前記ビーム照射装置を制御し、
さらに前記制御部は、少なくとも予熱終了時に前記電子ビームのライン同士が重なり合うように前記電子ビームのビームサイズおよび照射位置を設定する
三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記予熱開始から前記予熱終了までの間に、前記ビーム電流および前記ビームサイズの他に、前記電子ビームのスキャンスピードおよびスキャンエリアの少なくとも一方を変更するように前記ビーム照射装置を制御する
請求項2に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記粉末層を前記電子ビームの照射によって予熱する場合に、前記電子ビームの照射位置を第1の方向に間欠的に移動させるとともに、少なくとも予熱開始時に前記第1の方向と直交する第2の方向で前記電子ビームのスポットが重ならないように前記電子ビームのビーム径および照射位置を設定する
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2の方向における前記スポットの間隔を前記ビーム径以上に設定する
請求項6に記載の三次元積層造形装置。
【請求項8】
前記制御部は、少なくとも予熱開始時に前記第1の方向および前記第2の方向で前記電子ビームのスポットが重ならないように前記電子ビームのビーム径および照射位置を設定する
請求項6に記載の三次元積層造形装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1の方向における前記スポットの間隔を前記ビーム径以上に設定する
請求項8に記載の三次元積層造形装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記粉末層を前記電子ビームの照射によって予熱する場合に、前記電子ビームの照射位置を第1の方向に連続的に移動させるとともに、少なくとも予熱開始時に前記第1の方向と直交する第2の方向で前記電子ビームのライン同士が重ならないように前記電子ビームのビーム幅および照射位置を設定する
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記第2の方向における前記電子ビームの間隔を前記ビーム幅以上に設定する
請求項10に記載の三次元積層造形装置。
【請求項12】
造形プレート上に金属粉末を塗布して形成された粉末層を電子ビームの照射によって予熱する場合に、少なくとも予熱開始時に前記電子ビームのライン同士が重ならないように前記電子ビームのビームサイズおよび照射位置を設定するとともに、予熱開始から予熱終了までの間に前記電子ビームのビームサイズが徐々に大きくなるように前記電子ビームを制御する
三次元積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置および三次元積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、造形プレート上に層状に敷き詰められた金属粉末(粉末層)に電子ビームを照射して金属粉末を溶融および凝固させるとともに、凝固させた層を造形プレートの移動により順に積み上げて三次元の造形物を形成する三次元積層造形装置が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
この種の三次元積層造形装置では、電子ビームの照射によって個々の粉末粒子が帯電し、粉末同士がクーロン斥力によって煙状に飛散する現象が発生することがある。この現象はスモークと呼ばれ、スモークが発生すると造形作業を続けることが難しくなる。このため、三次元積層造形装置では粉末層を予熱することによってスモークの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の三次元積層造形装置では、粉末層に照射される電子ビームのライン同士重なり合う予熱パターンを採用し、この予熱パターンに従って粉末層に電子ビームを照射することにより、粉末層を予熱している。このため、予熱時に粉末粒子に電荷が蓄積されやすく、スモーク発生のリスクが高くなっていた。また、仮に電子ビームのライン同士が重ならないような予熱パターンを採用すると、金属粉末が局所的に加熱されるため、粉末層の温度が不均一になってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、スモーク発生のリスクを低減するとともに、粉末層の温度分布を均一にすることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る三次元積層造形装置は、造形プレートと、造形プレート上に金属粉末を塗布して粉末層を形成する粉末塗布装置と、粉末層に電子ビームを照射するビーム照射装置と、粉末塗布装置およびビーム照射装置を制御する制御部と、を備える。制御部は、粉末層を電子ビームの照射によって予熱する場合に、少なくとも予熱開始時に電子ビームのライン同士が重ならないように電子ビームのビームサイズおよび照射位置を設定するとともに、予熱開始から予熱終了までの間に電子ビームのビームサイズが徐々に大きくなるようにビーム照射装置を制御する。
【0008】
本発明に係る三次元積層造形方法は、造形プレート上に金属粉末を塗布して形成された粉末層を電子ビームの照射によって予熱する場合に、少なくとも予熱開始時に電子ビームのライン同士が重ならないように電子ビームのビームサイズおよび照射位置を設定するとともに、予熱開始から予熱終了までの間に電子ビームのビームサイズが徐々に大きくなるように電子ビームを制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スモーク発生のリスクを低減するとともに、粉末層の温度分布を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の処理動作の手順を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第1実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の第1実施形態における第3段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の第1実施形態における第4段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の第2実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態における第3段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図11】本発明の第2実施形態における第4段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図12】本発明の第3実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図13】本発明の第3実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図14】本発明の第4実施形態においてM層目の粉末層に対する電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図15】本発明の第4実施形態においてM+1層目の粉末層に対する電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図16】本発明の第5実施形態における電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図17】本発明の第6実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図18】本発明の第6実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図19】本発明の第6実施形態における第3段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【
図20】本発明の第6実施形態における第4段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の構成を概略的に示す側面図である。以降の説明では、三次元積層造形装置の各部の形状や位置関係などを明確にするために、
図1の左右方向をX方向、
図1の奥行き方向をY方向、
図1の上下方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、互いに直交する方向である。また、X方向およびY方向は水平方向に平行な方向であり、Z方向は鉛直方向に平行な方向である。
【0013】
図1に示すように、三次元積層造形装置10は、真空チャンバー12と、ビーム照射装置14と、粉末塗布装置16と、造形テーブル18と、造形ボックス20と、回収ボックス21と、造形プレート22と、インナーベース24と、プレート移動装置26と、を備えている。
【0014】
真空チャンバー12は、図示しない真空ポンプによってチャンバー内の空気を排気することにより、真空状態を作り出すためのチャンバーである。
【0015】
ビーム照射装置14は、荷電粒子ビームのひとつである電子ビーム15を照射する装置である。ビーム照射装置14は、電子ビーム15の発生源となる電子銃141と、電子銃141が発生した電子ビーム15を集束させる集束レンズ142と、集束レンズ142で集束させた電子ビーム15を偏向する偏向レンズ143と、を有している。
【0016】
集束レンズ142は集束コイルを用いて構成され、集束コイルが発生する磁界によって電子ビーム15を集束させる。また、偏向レンズ143は偏向コイルを用いて構成され、偏向コイルが発生する磁界によって電子ビーム15を偏向する。
【0017】
粉末塗布装置16は、造形物38の原材料となる金属粉末32を造形プレート22上に塗布して粉末層32aを形成する装置である。粉末塗布装置16は、ホッパー16aと、粉末投下器16bと、スキージ16cとを有している。ホッパー16aは、金属粉末を貯蔵するための容器である。粉末投下器16bは、ホッパー16aに貯蔵されている金属粉末を造形テーブル18上に投下する機器である。スキージ16cは、造形プレート22上を水平方向に移動して金属粉末32を敷き詰める。スキージ16cは、Y方向に長い長尺状の部材である。スキージ16cは、造形テーブル18の全面に金属粉末32を敷き詰めるために、X方向に移動可能に設けられている。
【0018】
造形テーブル18は、真空チャンバー12の内部に水平に配置されている。造形テーブル18は、粉末塗布装置16よりも下方に配置されている。造形テーブル18の中央部は開口している。造形テーブル18の開口形状は、平面視円形または平面視角形(たとえば、平面視四角形)である。
【0019】
造形ボックス20は、造形用の空間を形成するボックスである。造形ボックス20の上端部は、造形テーブル18の開口縁に接続されている。造形ボックス20の下端部は、真空チャンバー12の底壁に接続されている。
【0020】
回収ボックス21は、粉末塗布装置16によって造形テーブル18上に供給された金属粉末32のうち、必要以上に供給された金属粉末32を回収するボックスである。回収ボックス21は、X方向の一方と他方に1個ずつ設けられている。
【0021】
造形プレート22は、金属粉末32を用いて造形物38を形成するためのプレートである。造形物38は、造形プレート22上に積層して成形される。造形プレート22は、造形テーブル18の開口形状に合わせて平面視円形または平面視角形に形成される。造形プレート22は、電気的に浮いた状態とならないよう、アース線34によってインナーベース24に接続(接地)されている。インナーベース24は、GND(グランド)電位に保持されている。造形プレート22およびインナーベース24の上には金属粉末32が敷き詰められる。
【0022】
インナーベース24は、上下方向(Z方向)に移動可能に設けられている。造形プレート22は、インナーベース24と一体に上下方向に移動する。インナーベース24は、造形プレート22よりも大きな外形寸法を有する。インナーベース24は、造形ボックス20の内側面に沿って上下方向に摺動する。インナーベース24の外周部にはシール部材36が取り付けられている。シール部材36は、インナーベース24の外周部と造形ボックス20の内側面との間で、摺動性および密閉性を保持する部材である。シール部材36は、耐熱性および弾力性を有する材料によって構成される。
【0023】
プレート移動装置26は、造形プレート22およびインナーベース24を上下方向に移動させる装置である。プレート移動装置26は、シャフト26aと、駆動機構部26bとを備えている。シャフト26aは、インナーベース24の下面に接続されている。駆動機構部26bは、図示しないモータと動力伝達機構とを備え、モータを駆動源として動力伝達機構を駆動することにより、造形プレート22およびインナーベース24をシャフト26aと一体に上下方向に移動させる。動力伝達機構は、たとえば、ラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構などによって構成される。
【0024】
輻射シールドカバー28は、Z方向において、造形プレート22とビーム照射装置14との間に配置されている。輻射シールドカバー28は、ステンレス鋼などの金属によって構成される。輻射シールドカバー28は、ビーム照射装置14によって金属粉末32に電子ビーム15を照射した際に発生する輻射熱をシールドする。
【0025】
また、輻射シールドカバー28は、金属粉末32に電子ビーム15を照射した際に発生する蒸発物質が真空チャンバー12の内壁に付着(蒸着)することを抑制する機能を果たす。金属粉末32に電子ビーム15を照射すると、溶融した金属の一部が霧状の蒸発物質となって造形面32bから立ち昇る。輻射シールドカバー28は、この蒸発物質が真空チャンバー12内に拡散しないよう、造形面32bの上方空間を覆うように配置されている。
【0026】
マスクカバー30は、開口部30aおよびマスク部30bを有する。マスクカバー30は、造形物38を形成するにあたって、金属粉末32の上面、すなわち造形面32bに被せて配置される。その際、開口部30aは、造形プレート22上に敷き詰められる金属粉末32を露出させ、マスク部30bは、開口部30aよりも外側に位置する金属粉末32を遮蔽する。開口部30aの形状は、造形プレート22の形状にあわせて設定される。たとえば、造形プレート22が平面視円形であれば、これにあわせて開口部30aの平面視形状は円形に設定され、造形プレート22が平面視角形であれば、これにあわせて開口部30aの平面視形状は角形に設定される。本実施形態では、一例として、開口部30aの平面視形状が四角形であるものとする。
【0027】
マスクカバー30は、輻射シールドカバー28の下方に配置されている。マスクカバー30の開口部30aおよびマスク部30bは、Z方向において、造形プレート22と輻射シールドカバー28との間に配置されている。マスクカバー30は囲い部30cを有する。囲い部30cは、開口部30aの上方空間を囲うように配置される。囲い部30cの一部(上部)は、Z方向において輻射シールドカバー28とオーバーラップしている。囲い部30cは、造形面32bから発生する輻射熱をシールドする機能と、造形面32bから発生する蒸発物質の拡散を抑制する機能とを果たす。つまり、囲い部30cは、輻射シールドカバー28と同様の機能を果たす。
【0028】
図2は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の制御系の構成例を示すブロック図である。
図2において、制御部50は、たとえば図示しないCPU(中央演算処理装置)50a、ROM(Read Only Memory)50bおよびRAM(Random Access Memory)50cを備え、CPU50aが、ROM50bに書き込まれたプログラムをRAM50cに読み出して所定の制御処理を実行することにより、三次元積層造形装置10の動作を統括的に制御する。制御部50には、上述したビーム照射装置14、粉末塗布装置16およびプレート移動装置26の他に、マスクカバー昇降装置52が接続されている。
【0029】
ビーム照射装置14は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて電子ビーム15を照射する。その際、制御部50は、電子銃141、集束レンズ142および偏向レンズ143を介して電子ビーム15を制御する。たとえば、制御部50は、電子銃141を介して電子ビーム15のビーム電流を制御する。また、制御部50は、集束レンズ142を介して電子ビーム15のフォーカス状態を制御する。また、制御部50は、偏向レンズ143を介して電子ビーム15の偏向角度および偏向速度を制御する。
【0030】
なお、水平面(XY平面)における電子ビーム15のスポット径は、電子ビーム15のフォーカス状態に応じて変化する。このため、電子ビーム15のフォーカス状態を制御することは、対象物に照射される電子ビーム15のスポット径を制御することを意味する。また、水平面における電子ビーム15の照射位置は、電子ビーム15の偏向角度に応じて変化する。このため、電子ビーム15の偏向角度を制御することは、電子ビーム15の照射位置を制御することを意味する。
【0031】
プレート移動装置26は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて造形プレート22を移動させる。粉末塗布装置16は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて造形プレート22上に金属粉末32を塗布する。粉末塗布装置16が有するホッパー16a、粉末投下器16bおよびスキージ16cの動作は、制御部50によって制御される。マスクカバー昇降装置52は、制御部50から与えられる制御指令に基づいてマスクカバー30を昇降させる。
【0032】
<三次元積層造形装置の動作>
図3は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の処理動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理動作は、制御部50の制御下で行われる。
【0033】
まず、造形を開始する前の状態では、造形プレート22の上面を除いて、造形プレート22の三方が金属粉末32によって覆われた状態になる。また、造形プレート22の上面は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面とほぼ同じ高さに配置される。一方、マスクカバー30は、造形プレート22の上面まで降ろされる。この場合、造形プレート22の周囲に存在する金属粉末32はマスクカバー30のマスク部30bによって覆われた状態になる。また、マスク部30bは、金属粉末32に接触した状態になる。以上述べた状態のもとで造形が開始される。
【0034】
(プレート加熱工程)
まず、ビーム照射装置14は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、造形プレート22を加熱する(ステップS1)。
ステップS1において、ビーム照射装置14は、マスクカバー30の開口部30aを通して造形プレート22に電子ビーム15を照射する。これにより、造形プレート22は、金属粉末32が仮焼結する程度の温度に加熱される。
【0035】
(プレート下降工程)
次に、プレート移動装置26は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、造形プレート22を所定量だけ下降させる(ステップS2)。
ステップS2において、プレート移動装置26は、造形テーブル18上に敷き詰められた金属粉末32の上面よりも造形プレート22の上面が僅かに下がった状態となるように、インナーベース24を所定量だけ下降させる。このとき、造形プレート22は、インナーベース24と共に所定量だけ下降する。ここで記載する所定量(以下、「ΔZ」とも記す)は、造形物38を積層によって造形するときの一層分の厚さに相当する。
【0036】
(マスクカバー上昇工程)
次に、マスクカバー昇降装置52は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、マスクカバー30を上昇させる(ステップS3)。
ステップS3において、マスクカバー昇降装置52は、次のステップS4でスキージ16cがマスクカバー30に接触しないよう、スキージ16cよりも高い位置までマスクカバー30を上昇させる。
【0037】
(粉末塗布工程)
次に、粉末塗布装置16は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、造形プレート22上に金属粉末32を塗布して粉末層32aを形成する(ステップS4)。
ステップS4において、粉末塗布装置16は、ホッパー16aから粉末投下器16bに供給された金属粉末32を、粉末投下器16bによって造形テーブル18上に投下した後、スキージ16cをX方向に移動させることにより、造形プレート22上に金属粉末32を敷き詰める。このとき、金属粉末32は、ΔZ相当の厚さで造形プレート22上に敷き詰められる。これにより、造形プレート22上に粉末層32aが形成される。また、余分な金属粉末32は、回収ボックス21に回収される。
【0038】
(マスクカバー下降工程)
次に、マスクカバー昇降装置52は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、マスクカバー30を下降させる(ステップS5)。
ステップS5において、マスクカバー昇降装置52は、金属粉末32の造形面32bに接触するようにマスクカバー30を降ろす。これにより、造形プレート22上の金属粉末32は、マスクカバー30の開口部30aを通して外部に露出した状態となる。また、造形プレート22の周囲に存在する金属粉末32は、マスクカバー30のマスク部30bによって覆われた状態になる。
【0039】
(予備加熱工程)
次に、ビーム照射装置14は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、造形プレート22上の粉末層32aを予備加熱する(ステップS6)。この予備加熱工程S6においては、金属粉末32を仮焼結させるために粉末層32aを予備加熱する。本焼結工程の前に行われる予備加熱は、パウダーヒートとも呼ばれる。
ステップS6において、ビーム照射装置14は、造形プレート22上の金属粉末32(粉末層32a)に電子ビーム15を照射する。また、ビーム照射装置14は、造形物38を形成するための領域(以下、「造形領域」ともいう。)よりも広範囲に電子ビーム15を照射する。これにより、造形領域に存在する金属粉末32と、造形領域の周囲に存在する金属粉末32とが、共に仮焼結される。
なお、
図1において、符号E1は、未焼結の金属粉末32が存在する未焼結領域を示し、符号E2は、仮焼結された金属粉末32が存在する仮焼結領域を示している。
【0040】
(本焼結工程)
次に、ビーム照射装置14は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、金属粉末32を溶融および凝固によって本焼結させる(ステップS7)。
ステップS7においては、上述のように仮焼結させた金属粉末32を電子ビーム15の照射によって溶融および凝固させることにより、仮焼結体としての金属粉末32を本焼結させる。ステップS7において、制御部50は、目的とする造形物38の三次元CAD(Computer-Aided Design)データを一定の厚み(ΔZに相当する厚み)にスライスした二次元データに基づいて造形領域を特定し、ビーム照射装置14は、制御部50が特定した造形領域を対象に電子ビーム15を照射することにより、造形プレート22上の金属粉末32を選択的に溶融する。電子ビーム15の照射によって溶融した金属粉末32は、電子ビーム15が通過した後に凝固する。これにより、1層目の造形物が形成される。
【0041】
(プレート下降工程)
次に、プレート移動装置26は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、造形プレート22を所定量(ΔZ)だけ下降させる(ステップS8)。
ステップS8において、プレート移動装置26は、造形プレート22およびインナーベース24をΔZだけ下降させる。
【0042】
(第1予備加熱工程)
続いて、ビーム照射装置14は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、造形プレート22上の粉末層32aを予備加熱する(ステップS9)。この第1予備加熱工程S9においては、次の層の金属粉末32を敷き詰めるための準備として、その前の層で本焼結工程を終えた粉末層32aを予備加熱する。本焼結工程の後に行われる予備加熱は、アフターヒートとも呼ばれる。
ステップS9において、ビーム照射装置14は、マスクカバー30の開口部30aを通して粉末層32aに電子ビーム15を照射する。これにより、開口部30aに露出している粉末層32aは、金属粉末32が仮焼結する程度の温度に加熱される。
【0043】
(マスク上昇工程)
次に、マスクカバー昇降装置52は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、マスクカバー30を上昇させる(ステップS10)。
ステップS10において、マスクカバー昇降装置52は、次のステップS11でスキージ16cがマスクカバー30に接触しないよう、スキージ16cよりも高い位置までマスクカバー30を上昇させる。
【0044】
(粉末塗布工程)
次に、粉末塗布装置16は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、造形プレート22上に金属粉末32を塗布して粉末層32aを形成する(ステップS11)。
ステップS11において、粉末塗布装置16は、上記ステップS4と同様に動作する。これにより、造形プレート22上では、1層目の金属粉末32によって形成された焼結体の上に、2層目の金属粉末32が敷き詰められる。
【0045】
(マスクカバー下降工程)
次に、マスクカバー昇降装置52は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、マスクカバー30を下降させる(ステップS12)。
ステップS12において、マスクカバー昇降装置52は、上記ステップS5と同様に動作する。
【0046】
(第2予備加熱工程)
次に、ビーム照射装置14は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、2層目の粉末層32aを形成している金属粉末32を予備加熱する(ステップS13)。
ステップS13において、ビーム照射装置14は、上記ステップS6と同様に動作する。これにより、2層目の粉末層32aを形成している金属粉末32が仮焼結される。
【0047】
(本焼結工程)
次に、ビーム照射装置14は、制御部50から与えられる制御指令に基づいて動作することにより、2層目の粉末層32aを形成している金属粉末32を溶融および凝固によって本焼結させる(ステップS14)。
ステップS14において、ビーム照射装置14は、上記ステップS7と同様に動作する。これにより、2層目の造形物が形成される。
【0048】
次に、制御部50は、目的とする造形物38の造形が完了したか否かを確認する(ステップS15)。そして、制御部50は、造形物38の造形が完了していないと判断すると、上記ステップS8に戻る。これにより、制御部50は、3層目以降の各層についても、上記ステップS8~S14の工程を繰り返す。そして、造形物38の造形が完了したと判断すると、その時点で一連の処理を終える。
以上述べた三次元積層造形プロセスにより、目的とする造形物38が得られる。
【0049】
上述した三次元積層造形プロセスにおけるステップS6およびステップS13では、金属粉末32を仮焼結させるために、電子ビーム15の照射によって粉末層32aを予熱する。その際、制御部50は、少なくとも予熱開始時に電子ビーム15のスポットが重ならないように電子ビーム15のビーム径および照射位置を設定する。また、制御部50は、予熱開始から予熱終了までの間に電子ビーム15のビーム径が徐々に大きくなるようにビーム照射装置14を制御する。
【0050】
以下、本発明の第1実施形態に係る粉末層の予熱方法について図面を用いて説明する。
制御部50は、1層分の粉末層32aを電子ビーム15の照射によって予熱する場合、電子ビーム15の照射条件が異なる複数の段階に分けて粉末層32aを予熱する。粉末層32aを幾つの段階に分けて予熱するかは任意に設定可能である。本実施形態では、一例として、4つの段階に分けて粉末層32aを予熱するものとする。
【0051】
図4は、本発明の第1実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。第1段階の開始時は、予熱開始時に相当する。
図4においては、マスクカバー30の開口部30aを通して外部に露出する金属粉末32の粉末層32aを対象に電子ビーム15を照射している。粉末層32aに電子ビーム15を照射すると、電子ビーム15の照射位置に電子ビーム15のスポット(以下、「ビームスポット」ともいう。)15aが形成される。したがって、ビームスポット15aの位置は、電子ビーム15の照射位置を示している。制御部50は、予め決められた予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を移動させる。予熱パターンは、
図4に示すドット状(飛び石状)のパターンである。
【0052】
具体的には、制御部50は、電子ビーム15の照射位置をY方向(第2の方向)で複数のラインLiに分け、ラインLiごとに電子ビーム15の照射位置をX方向(第1の方向)の一端部から他端部まで移動させる。また、制御部50は、各ラインLiで電子ビーム15の移動と停止を繰り返すことにより、電子ビーム15の照射位置をX方向に間欠的に移動させる。このとき、電子ビーム15が停止する位置が、電子ビーム15の照射位置、すなわちビームスポット15aが形成される位置となる。
図4に示す第1段階において、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように、電子ビーム15のビーム径および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、X方向およびY方向でビームスポット15aが互いに重ならないように、X方向におけるビームスポット15aの間隔PxおよびY方向におけるビームスポット15aの間隔Pyが、いずれも電子ビーム15のビーム径(
図4に示すφ1)以上に設定されている。これにより、Y方向で隣り合う2つのラインLiの間に、ラインLi同士の重なりを避けるために必要な間隔Pyが確保される。電子ビーム15のラインLiは、電子ビーム15の照射位置をX方向に移動することによって形成されるラインであり、1つのラインLiの幅は電子ビーム15のビーム径と同じ寸法になる。また、電子ビーム15のビーム径は、電子ビーム15のビームサイズに相当し、粉末層32aに照射される電子ビーム15のスポットの直径を意味する。
【0053】
制御部50は、
図4に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。これにより、移動動作の繰り返し回数の規定値が、例えばK回(Kは2以上の整数)に設定されている場合は、移動動作の繰り返し回数がK回に達した時点で第1段階が終了となる。したがって、第1段階では、各々の電子ビーム15の照射位置にビーム径φ1の大きさでK回ずつ電子ビーム15が照射される。なお、本実施形態においては、電子ビーム15の照射領域が四角形の領域となっているが、これに限らず、電子ビーム15の照射領域は円形の領域であってもよい。
【0054】
図5は、本発明の第1実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す図である。第2段階は、第1段階の次の段階である。
第2段階において、制御部50は、第1段階に比べて電子ビーム15のビーム径を上記φ1よりも大きいφ2に設定する。そして、制御部50は、ビーム径=φ2の設定のもとで、
図5に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。移動動作の繰り返し回数は、第1段階と同じ回数でもよいし、第1段階と異なる回数でもよい。
図5に示す第2段階において、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように、電子ビーム15のビーム径および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、X方向およびY方向でビームスポット15aが互いに重ならないように、X方向におけるビームスポット15aの間隔PxおよびY方向におけるビームスポット15aの間隔Pyが、いずれも電子ビーム15のビーム径φ2以上に設定されている。また、ビームスポット15aの間隔Px,Pyは、第1段階の場合と同一に設定されている。
【0055】
図6は、本発明の第1実施形態における第3段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す図である。第3段階は、第2段階の次の段階である。
第3段階において、制御部50は、第2段階に比べて電子ビーム15のビーム径を上記φ2よりも大きいφ3に設定する。そして、制御部50は、ビーム径=φ3の設定のもとで、
図6に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。移動動作の繰り返し回数は、第1段階と同じ回数でもよいし、第1段階と異なる回数でもよい。
図6に示す第3段階において、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように、電子ビーム15のビーム径および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、X方向およびY方向でビームスポット15aが互いに重ならないように、X方向におけるビームスポット15aの間隔PxおよびY方向におけるビームスポット15aの間隔Pyが、いずれも電子ビーム15のビーム径φ3以上に設定されている。また、ビームスポット15aの間隔Px,Pyは、第1段階の場合と同一に設定されている。
【0056】
図7は、本発明の第1実施形態における第4段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す図である。第4段階は、第3段階の次の段階である。第4段階の終了時は、予熱終了時に相当する。
第4段階において、制御部50は、第3段階に比べて電子ビーム15のビーム径を上記φ3よりも大きいφ4に設定する。そして、制御部50は、ビーム径=φ4の設定のもとで、
図7に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。移動動作の繰り返し回数は、第1段階と同じ回数でもよいし、第1段階と異なる回数でもよい。
図7に示す第4段階において、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重なり合うように、電子ビーム15のビーム径および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、X方向およびY方向でビームスポット15aが互いに重なり合うように、X方向におけるビームスポット15aの間隔PxおよびY方向におけるビームスポット15aの間隔Pyが、いずれも電子ビーム15のビーム径φ4未満に設定されている。これにより、Y方向で隣り合う2つのラインLiが部分的に重なり合う状態になる。また、ビームスポット15aの間隔Px,Pyは、第1段階の場合と同一に設定されている。つまり、ビームスポット15aの間隔Px,Pyは、予熱開始から予熱終了まで一定である。
【0057】
なお、ビーム径を徐々に大きくすると、開口部30aからはみ出すビームスポット15aの面積が広くなるが、開口部30aの外側はマスク部30b(
図1参照)によって覆われているため、ビームスポット15aが開口部30aからはみ出してもスモークが発生するおそれはない。
【0058】
以上説明したように、本発明の第1実施形態において、制御部50は、予熱開始時を含む第1段階と、その後の第2段階および第3段階で、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように電子ビーム15のビーム径および照射位置を設定している。これにより、スモークの発生を抑制しながら粉末層32aの温度を上げることができる。また、制御部50は、第1段階で予熱を開始してから第4段階で予熱を終了するまでの間に、電子ビーム15のビーム径が徐々に大きくなるようにビーム照射装置14を制御している。これにより、粉末層32aの仮焼結が、第1段階から第3段階までの予熱によってある程度進んだ状態で、第4段階の予熱を行うことができる。このため、第4段階で電子ビーム15のラインLi同士が重なり合うように電子ビーム15を照射しても、スモークの発生が抑えられる。また、最終の第4段階で電子ビーム15のビーム径をφ4と大きく設定することにより、粉末層32aを均一な温度に加熱することができる。その結果、スモーク発生のリスクを低減するとともに、粉末層32aの温度分布を均一にすることができる。
【0059】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。
本発明の第2実施形態においては、上述した第1実施形態と比較して、制御部50の制御下で行われる粉末層32aの予熱方法が異なる。具体的には、上述した第1段階、第2段階、第3段階および第4段階の各段階において、制御部50は、電子ビーム15のビーム電流が徐々に大きくなるようにビーム照射装置14を制御する。
【0060】
図8は、本発明の第2実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
図8に示す第1段階において、電子ビーム15のビーム径φ1および照射位置の設定や、ビームスポット15aの間隔Px,Pyの設定は、上記第1実施形態の場合(
図4参照)と同じである。
この第1段階において、制御部50は、
図8に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。また、制御部50は、第1段階の上記移動動作を例えば合計100回繰り返す場合に、1回目から25回目までの移動動作では電子ビーム15のビーム電流を5mAに設定し、26回目から50回目までの移動動作ではビーム電流を10mAに設定し、51回目から75回目までの移動動作ではビーム電流を20mAに設定し、75回目から100回目までの移動動作ではビーム電流を30mAに設定する。つまり、制御部50は、第1段階の開始時から終了時までビーム電流を徐々に大きくする。
【0061】
図9は、本発明の第2実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
図9に示す第2段階において、電子ビーム15のビーム径φ2および照射位置の設定や、ビームスポット15aの間隔Px,Pyの設定は、上記第1実施形態の場合(
図5参照)と同じである。
この第2段階において、造形テーブル18は、
図9に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。また、制御部50は、第2段階の上記移動動作を例えば合計100回繰り返す場合に、1回目から25回目までの移動動作では電子ビーム15のビーム電流を20mAに設定し、26回目から50回目までの移動動作ではビーム電流を30mAに設定し、51回目から75回目までの移動動作ではビーム電流を40mAに設定し、75回目から100回目までの移動動作ではビーム電流を50mAに設定する。つまり、制御部50は、第2段階の開始時から終了時までビーム電流を徐々に大きくする。
【0062】
図10は、本発明の第2実施形態における第3段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
図10に示す第3段階において、電子ビーム15のビーム径φ3および照射位置の設定や、ビームスポット15aの間隔Px,Pyの設定は、上記第1実施形態の場合(
図6参照)と同じである。
この第3段階において、造形テーブル18は、
図10に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。また、制御部50は、第3段階の上記移動動作を例えば合計100回繰り返す場合に、1回目から25回目までの移動動作では電子ビーム15のビーム電流を40mAに設定し、26回目から50回目までの移動動作ではビーム電流を55mAに設定し、51回目から75回目までの移動動作ではビーム電流を70mAに設定し、75回目から100回目までの移動動作ではビーム電流を80mAに設定する。つまり、制御部50は、第3段階の開始時から終了時までビーム電流を徐々に大きくする。
【0063】
図11は、本発明の第2実施形態における第4段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
図11に示す第4段階において、電子ビーム15のビーム径φ4および照射位置の設定や、ビームスポット15aの間隔Px,Pyの設定は、上記第1実施形態の場合(
図7参照)と同じである。
この第4段階において、造形テーブル18は、
図11に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。また、制御部50は、第4段階の上記移動動作を例えば合計100回繰り返す場合に、1回目から25回目までの移動動作では電子ビーム15のビーム電流を50mAに設定し、26回目から50回目までの移動動作ではビーム電流を60mAに設定し、51回目から75回目までの移動動作ではビーム電流を70mAに設定し、75回目から100回目までの移動動作ではビーム電流を80mAに設定する。つまり、制御部50は、第4段階の開始時から終了時までビーム電流を徐々に大きくする。
【0064】
なお、第1段階から第4段階までの各段階において、上記移動動作の繰り返し回数は任意に変更可能である。また、次の段階に進む条件は、上記移動動作の繰り返し回数に限らず、たとえば第1段階を所定の時間だけ実施したら第2段階に進むといった具合に、時間によって決めてもよい。また、各段階に適用するビーム電流の値はあくまで一例であり、この例に限定されるものではない。
【0065】
本発明の第2実施形態においては、上述した第1実施形態と同様の効果に加えて、次のような効果が得られる。
制御部50は、第1段階で予熱を開始してから第4段階で予熱を終了するまでの間に、電子ビーム15のビーム径だけでなく、各段階で電子ビーム15のビーム電流が徐々に大きくなるようにビーム照射装置14を制御している。これにより、予熱開始から予熱終了まで電子ビーム15のビーム電流が一定になるように制御する場合に比べて、各段階でスモークが発生するリスクを低減することができる。
【0066】
なお、上記第2実施形態においては、第1段階から第4段階までの各段階で電子ビーム15のビーム電流を徐々に大きくなるように制御したが、本発明はこれに限らず、例えば各段階ではビーム電流を一定とし、予熱の段階が切り替わるタイミングでビーム電流が大きくなるように制御してもよい。また、上記第2実施形態においては、第1段階から第4段階までのすべての段階で電子ビーム15のビーム電流が徐々に大きくなるように制御したが、本発明はこれに限らず、少なくともいずれか1つの段階で電子ビーム15のビーム電流が徐々に大きくなるように制御してもよい。すなわち、電子ビーム15のビーム電流が大きくなるように制御する方法は、種々の変形が可能である。
【0067】
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明の第3実施形態においては、上述した第1実施形態および第2実施形態と比較して、電子ビーム15のビーム径を変えずに、電子ビーム15のビーム電流を徐々に大きくする点が異なる。また、上述した第1実施形態および第2実施形態においては、粉末層32aの予熱を4つの段階に分けて行うようにしたが、本発明の第3実施形態においては、粉末層32aの予熱を2つの段階に分けて行う点が異なる。
【0068】
図12は、本発明の第3実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
図12に示す第1段階において、電子ビーム15のビーム径φ3および照射位置の設定や、ビームスポット15aの間隔Px,Pyの設定は、上記第1実施形態の第3段階(
図6参照)や上記第2実施形態の第3段階(
図10参照)と同じである。
この第1段階において、制御部50は、電子ビーム15のビーム径φ3を一定に維持したままで、
図12に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。また、制御部50は、上記移動動作を例えば合計100回繰り返す場合に、1回目から20回目までの移動動作では電子ビーム15のビーム電流を10mAに設定し、21回目から40回目までの移動動作ではビーム電流を30mAに設定し、41回目から60回目までの移動動作ではビーム電流を50mAに設定し、61回目から80回目までの移動動作ではビーム電流を70mAに設定し、81回目から100回目までの移動動作ではビーム電流を80mAに設定する。つまり、制御部50は、第1段階の開始時から終了時までビーム電流を徐々に大きくする。
【0069】
図13は、本発明の第3実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
図13に示す第2段階において、制御部50は、上記
図12に示す第1段階と比較して、電子ビーム15のビーム径φ3を変えずに、ビームスポット15aの間隔を狭く設定することにより、電子ビーム15のラインLi同士が重なり合うようにしている。具体的には、制御部50は、X方向およびY方向の両方でビームスポット15aが互いに重なり合うように、ビームスポット15aの間隔Px1,Py1をビーム径φ3未満に設定している。
この第2段階において、制御部50は、電子ビーム15のビーム径φ3を一定に維持したままで、
図13に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。また、制御部50は、上記第1段階と同様の制御形態で、第2段階の開始時から終了時までビーム電流を徐々に大きくする。
【0070】
なお、第2段階においては、第1段階と比較してビームスポット15aの間隔Px1,Py1を狭く設定しているため、電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるまでに、より多くの回数にわたって電子ビーム15の移動と停止を繰り返す。このため、Y方向で隣り合う2つのラインLiの間隔が狭くなるとともに、ラインLiの本数が多くなる。また、電子ビーム15の照射位置を示すビームスポット15aの配置は、第1段階よりも密になる。
【0071】
このように本発明の第3実施形態において、第1段階および第2段階では、電子ビーム15のビーム径を変えずに、電子ビーム15のビーム電流を徐々に大きくしているため、スモークの発生を抑制しながら粉末層32aの温度を上げることができる。また、第2段階では、電子ビーム15のラインLi同士が重なり合うように、ビームスポット15aの間隔Py1を狭く設定しているため、粉末層32aを均一な温度に加熱することができる。さらに、第2段階では、X方向およびY方向の両方でビームスポット15aが互いに重なり合うように、ビームスポット15aの間隔Px1,Py1を狭く設定しているため、粉末層32aをより均一な温度に加熱することができる。
【0072】
なお、上記第3実施形態においては、第1段階に適用したビームスポット15aの間隔Px,Pyに比べて、第2段階に適用したビームスポット15aの間隔Px1,Py1を狭く設定することにより、第2段階では、第1段階と同じビーム径φ3のままで電子ビーム15のラインLi同士ならびにビームスポット15aを重ね合わせている。このようなやり方は、上記第1実施形態や第2実施形態にも適用可能である。例えば、上記第2実施形態においては、第4段階で電子ビーム15のラインLi同士ならびにビームスポット15aを重ね合わせるために、電子ビーム15のビーム径φ4を大きく設定しているが、これ以外にも、第4段階において上記
図13に示すように電子ビーム15のビーム径φ3を第3段階と同一に設定し、かつ、ビームスポット15aの間隔Px1,Py1を第3段階よりも狭く設定することにより、電子ビーム15のラインLi同士ならびにビームスポット15aを重ね合わせることができる。この点は、上記第1実施形態についても同様である。
【0073】
<第4実施形態>
続いて、本発明の第4実施形態について説明する。
本発明の第4実施形態において、制御部50は、積層方向で異なる位置に積層される第1の粉末層32aと第2の粉末層32aのうち、第1の粉末層32aを予熱するときに適用する電子ビーム15の照射位置と、第2の粉末層32aを予熱するときに適用する電子ビーム15の照射位置とを、上記積層方向と直交する方向にずらして設定する。積層方向とは、三次元の造形物38を造形するために粉末層32aを積み重ねる方向、すなわちZ方向である。また、積層方向と直交する方向とは、造形プレート22の上面と平行な方向、すなわち水平方向である。
【0074】
本発明の第4実施形態においては、第1の粉末層32aがM層目(Mは自然数)の粉末層32aであり、第2の粉末層32aがM+1層目の粉末層32aである場合を例に挙げて説明する。ただし、第1の粉末層32aと第2の粉末層32aは、積層方向で隣り合っている必要はなく、第1の粉末層32aと第2の粉末層32aとの間に、1つまたは複数の粉末層32aが介在してもよい。すなわち、電子ビーム15の照射位置は、1層ごとにずらしてもよいし、複数層ごとにずらしてもよい。
【0075】
また、電子ビーム15の照射位置を複数層ごとにずらす場合は、第1の粉末層32aと第2の粉末層32aとの間に介在する粉末層32aの層数を、仮焼結体の塊を分散させるのに適した層数に設定するとよい。仮焼結体の塊は、電子ビーム15の照射によって粉末層32aを予熱するときに、電子ビーム15の照射位置に硬い仮焼結体が形成され、この仮焼結体が積層方向に長く積み重なることによって形成される塊である。仮焼結体の塊が形成されると、目的とする造形物38からブラスト処理によって仮焼結体を取り除く際の処理時間が長くなってしまう。
【0076】
そこで、制御部50は、M層目の粉末層32aを予熱する場合は、
図14に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Ps1から終点Pe1まで移動させるとともに、この移動動作を繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。その後、制御部50は、M+1層目の粉末層32aを予熱する場合は、
図15に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Ps2から終点Pe2まで移動させるとともに、この移動動作を繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。
【0077】
図14に示す予熱パターンと
図15に示す予熱パターンを比較すると分かるように、M層目の粉末層32aを予熱するときのビーム照射位置に対し、M+1層目の粉末層32aを予熱するときのビーム照射位置は、X方向に所定の距離Lだけずれている。このようにビーム照射位置をずらすことにより、M層目の粉末層32aのビーム照射位置に形成される仮焼結体と、M+1層目の粉末層32aのビーム照射位置に形成される仮焼結体とは、水平方向に位置がずれた状態になるため、それらの仮焼結体を積層方向で分断することができる。これにより、仮焼結体が積層方向に長く積み重なって塊となることを抑制することができる。したがって、目的とする造形物38からブラスト処理によって仮焼結体を取り除く作業を短時間で終えることができる。
【0078】
なお、ビーム照射位置をずらす方向は、X方向に限定されるものではない。
また、本発明の第4実施形態は、上述した第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態にも適用可能である。ただし、本発明の第4実施形態を第3実施形態に適用する場合は、ビームスポット15aの間隔を変える方向が例えばX方向であれば、第1の粉末層32aと第2の粉末層32aでビーム照射位置をずらすことができる方向はY方向のみとなる。この点は、第1実施形態の第4段階または第2実施形態の第4段階で、上記
図13に示すようにビームスポット15aの間隔を変える場合も同様である。
【0079】
<第5実施形態>
続いて、本発明の第5実施形態について説明する。
本発明の第5実施形態において、制御部50は、粉末層32aを電子ビーム15の照射によって予熱する場合に、マスクカバー30の開口部30aよりも広範囲に電子ビーム15を照射するように、ビーム照射装置14を制御する。
【0080】
図16は、本発明の第5実施形態に係る電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
まず、本発明の第5実施形態との比較のために、上記第1実施形態の第1段階の予熱パターン(
図4参照)について説明する。
第1実施形態においては、マスクカバー30の開口部30aの中心から見て外側のビームスポット15aの中心が、開口部30aの縁に位置している。
これに対して、本発明の第5実施形態においては、
図16に示すように、マスクカバー30の開口部30aの中心から見て外側のビームスポット15aの中心が、開口部30aの縁よりも外側、すなわちマスク部30b(
図1参照)の領域に位置している。
【0081】
このように電子ビーム15の照射エリアを拡大した場合は、
図16に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置(ビームスポット15a)を始点Ps3から終点Pe3まで移動させるための所要時間が長くなる。このため、電子ビーム15の照射位置を始点Ps3から終点Pe3まで移動させ、この移動動作を複数回にわたって繰り返す場合に、電子ビーム15の照射位置が始点Ps3から移動し始めて再び始点Ps3に戻るまでの時間、すなわち繰り返しの周期が長くなる。したがって、実質的な予熱の開始点である始点psから、実質的な予熱の終了点である終点Peまでビーム照射位置を移動させる場合に、各々のビーム照射位置で粉末粒子に蓄積された電荷を散逸させるための時間を長く確保することができる。その結果、電荷の蓄積に起因するスモーク発生のリスクを低減することができる。
【0082】
なお、上記第5実施形態においては、第1実施形態の第1段階の予熱パターンを比較例に挙げて説明したが、第1実施形態の第2段階以降でも上記第5実施形態と同様に電子ビーム15の照射エリアを拡大してもよい。また、上記第5実施形態は、第2実施形態~第4実施形態にも適用可能である。
【0083】
<第6実施形態>
続いて、本発明の第6実施形態について説明する。
本発明の第6実施形態においては、上述した実施形態と比較して、電子ビーム15をX方向に移動させる方式が異なる。具体的には、上述した実施形態では、制御部50は、各ラインLiで電子ビーム15の移動と停止を繰り返すことにより、電子ビーム15の照射位置をX方向に間欠的に移動させる方式を採用している。これに対して、本第6実施形態では、各ラインLiで電子ビーム15を停止させずに一定速度で移動させる、つまり電子ビーム15の照射位置をX方向に連続的に移動させる方式を採用している。以下、詳しく説明する。
【0084】
図17は、本発明の第6実施形態における第1段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
図17に示す第1段階において、制御部50は、電子ビーム15の照射位置をY方向で複数のラインLiに分け、ラインLiごとに電子ビーム15の照射位置をX方向の一端部から他端部まで移動させる。また、制御部50は、各ラインLiで電子ビーム15のビームスポット15aをX方向に連続的に移動させる。さらに、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように、電子ビーム15のビーム幅および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、Y方向で隣り合う2つのラインLiが重なり合わないよう、Y方向における電子ビーム15の間隔Pyが、電子ビーム15のビーム幅(
図17に示すw1)以上に設定されている。電子ビーム15のビーム幅は、電子ビーム15のビームサイズに相当し、粉末層32aに照射される電子ビーム15のスポット(
図17に示すビームスポット15a)の直径によって決まる。また、第1段階において、制御部50は、
図17に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を支点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。
【0085】
図18は、本発明の第6実施形態における第2段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
第2段階において、制御部50は、第1段階に比べて電子ビーム15のビーム幅を上記w1よりも大きいw2に設定する。そして、制御部50は、ビーム幅=w2の設定のもとで、
図18に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。
図18に示す第2段階において、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように、電子ビーム15のビーム幅および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、Y方向で隣り合う2つのラインLiが重なり合わないよう、Y方向における電子ビーム15の間隔Pyが、電子ビーム15のビーム幅(
図18に示すw2)以上に設定されている。また、ビームスポット15aの間隔Pyは、第1段階の場合と同一に設定されている。
【0086】
図19は、本発明の第6実施形態における第3段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
第3段階において、制御部50は、第2段階に比べて電子ビーム15のビーム幅を上記w2よりも大きいw3に設定する。そして、制御部50は、ビーム幅=w3の設定のもとで、
図19に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。
図19に示す第3段階において、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように、電子ビーム15のビーム幅および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、Y方向で隣り合う2つのラインLiが重なり合わないよう、Y方向における電子ビーム15の間隔Pyが、電子ビーム15のビーム幅(
図19に示すw3)以上に設定されている。また、ビームスポット15aの間隔Pyは、第1段階の場合と同一に設定されている。
【0087】
図20は、本発明の第6実施形態における第4段階の電子ビームの照射位置を模式的に示す平面図である。
第4段階において、制御部50は、第3段階に比べて電子ビーム15のビーム幅を上記w3よりも大きいw4に設定する。そして、制御部50は、ビーム幅=w4の設定のもとで、
図20に示す予熱パターンに従って電子ビーム15の照射位置を始点Psから終点Peまで移動させるとともに、この移動動作を予め決められた回数だけ繰り返すようにビーム照射装置14を制御する。
図20に示す第4段階において、制御部50は、電子ビーム15のラインLi同士が重なり合うように、電子ビーム15のビーム幅および照射位置を設定している。より具体的に記述すると、Y方向における電子ビーム15の間隔Pyが、電子ビーム15のビーム幅(
図20に示すw4)未満に設定されている。これにより、Y方向で隣り合う2つのラインLiが部分的に重なり合う状態になる。また、ビームスポット15aの間隔Pyは、第1段階の場合と同一に設定されている。つまり、ビームスポット15aの間隔Pyは、予熱開始から予熱終了まで一定である。
【0088】
このように本発明の第6実施形態において、制御部50は、予熱開始時を含む第1段階と、その後の第2段階および第3段階で、電子ビーム15のラインLi同士が重ならないように電子ビーム15のビーム幅および照射位置を設定している。これにより、スモークの発生を抑制しながら粉末層32aの温度を上げることができる。また、制御部50は、第1段階で予熱を開始してから第4段階で予熱を終了するまでの間に、電子ビーム15のビーム幅が徐々に大きくなるようにビーム照射装置14を制御している。これにより、粉末層32aの仮焼結が、第1段階から第3段階までの予熱によってある程度進んだ状態で、第4段階の予熱を行うことができる。このため、第4段階で電子ビーム15のラインLi同士が重なり合うように電子ビーム15を照射しても、スモークの発生が抑えられる。また、最終の第4段階で電子ビーム15のビーム幅をw4と大きく設定することにより、粉末層32aを均一な温度に加熱することができる。その結果、スモーク発生のリスクを低減するとともに、粉末層32aの温度分布を均一にすることができる。
【0089】
なお、第6実施形態においては、上述した第2実施形態および第3実施形態と同様に電子ビーム15のビーム電流を変化させてもよい。
また、第6実施形態においては、上述した第4実施形態と同様に、第1の粉末層32aを予熱するときに適用する電子ビーム15の照射位置と、第2の粉末層32aを予熱するときに適用する電子ビーム15の照射位置とを、上記積層方向と直交する方向にずらして設定してもよい。ただし、第6実施形態においては、電子ビーム15の照射位置をX方向に連続的に移動させるため、ビーム照射位置をずらす方向はY方向に限定される。
【0090】
また、上述した第1~第5実施形態においては、予熱開始時を含む第1段階とその後の第2段階および第3段階で、ビームスポット15aが互いに重ならないように、X方向におけるビームスポット15aの間隔PxおよびY方向におけるビームスポット15aの間隔Pyを、いずれも電子ビーム15のビーム径以上に設定しているが、本発明はこれに限らない。たとえば、X方向におけるビームスポット15aの間隔Pxをビーム径未満に設定し、Y方向におけるビームスポット15aの間隔Pyをビーム径以上に設定した場合でも、電子ビーム15のラインLI同士が重ならないようにすることができる。そして、その場合でも、上述した各実施形態と同様に、スモーク発生のリスクを低減するとともに、粉末層32aの温度分布を均一にすることができる。
【0091】
また、上述した各実施形態においては、いずれも最終段階(第4段階)で電子ビーム15のラインLi同士を重ね合わせているが、最終段階よりも前の段階で電子ビーム15のラインLi同士を重ね合わせ、最終段階では、その前の段階よりも重ね合わせ面積が大きくなるようにしてもよい。つまり、制御部50は、第2段階以降のいずれかの段階でラインLi同士を重ね合わせ、その後の段階では、ラインLi同士の重ね合わせ面積が徐々に大きくなるようにビーム照射装置14を制御してもよい。
【0092】
また、上述した各実施形態においては、予熱開始から予熱終了までの間に、制御部50が、ビーム電流およびビームサイズを変更する場合について説明したが、これらの制御パラメータの他に、スキャンスピードおよびスキャンエリアの少なくとも一方を各段階で変更してもよい。
【0093】
スキャンスピードは、電子ビーム15の照射位置をX方向に間欠的に移動させる場合は、電子ビーム15の各々の照射位置でビームスポット15aを滞在(停止)させる時間によって決まる。具体的には、ビームスポット15aの滞在時間が長いほどスキャンスピードは遅くなり、ビームスポット15aの滞在時間が短いほどスキャンスピードは速くなる。また、電子ビーム15の照射位置をX方向に連続的に移動させる場合は、電子ビーム15の移動速度がスキャンスピードとなる。スキャンスピードを変更する場合は、スキャンスピードを速くするほど電子ビーム15の照射位置が元の位置に戻るまでの時間(スキャン周期)が短くなり、スキャンスピードを遅くするほど電子ビーム15の照射位置が元の位置に戻るまでの時間が長くなる。これに対して、スモークは、スキャンスピードが速すぎても遅すぎても発生しやすくなる。このため、スモークの発生を抑制するには、スキャンスピードを適切に設定する必要がある。また、三次元積層造形においては、スモークが発生しやすい層とスモークが発生しにくい層とが混在することがある。このため、スモークが発生しにくい層では、スモークが発生しやすい層よりもスキャンスピードを速くすることにより、粉末層32aの予熱に要する時間を短縮することができる。また、同一の層であっても、第1段階では、それより後の段階に比べてスモークが発生しやすくなる。このため、同一の層を対象に電子ビーム15の移動動作を所定回数K(Kは2以上の整数)だけ繰り返す場合は、1回目の移動動作に比べて2回目以降の移動動作でスキャンスピードを速くすることにより、粉末層32aの予熱に要する時間を短縮することができる。
【0094】
スキャンエリアは、電子ビーム15を移動させるエリアによって決まる。たとえば、
図4に示すように始点Psから終点Peまで電子ビーム15の照射位置を移動させる場合、スキャンエリアは、
図4の破線で囲まれたエリアとなる。スキャンエリアを変更する場合は、スキャンエリアを大きくするほど電子ビーム15の照射位置が元の位置に戻るまでの時間が長くなり、スキャンエリアを小さくするほど電子ビーム15の照射位置が元の位置に戻るまでの時間が短くなる。このため、スモークが発生しやすい層ではスキャンエリアを大きくすることにより、スモークの発生を抑制することができる。また、スモークが発生しにくい層ではスキャンエリアを小さくすることにより、粉末層32aの予熱に要する時間を短縮することができる。また、同一の層であっても、第1段階では、それより後の段階に比べてスモークが発生しやすくなる。このため、同一の層を対象に電子ビーム15の移動動作を所定回数K(Kは2以上の整数)だけ繰り返す場合は、1回目の移動動作ではスキャンエリアを大きくすることでスモークの発生を抑え、2回目以降の移動動作では1回目の移動動作に比べてスキャンエリアを小さくすることにより、粉末層32aの予熱に要する時間を短縮することができる。
【0095】
また、上述した各実施形態において、粉末層32aの予熱は、粉末層32aの温度が所定温度に達した時点で終了してもよい。
【0096】
また、上述した各実施形態において、粉末層32aの予熱は、上述した三次元積層造形プロセスにおけるステップS6およびステップS13に限らず、ステップS9でも行われる。このため、上述した各実施形態に係る予熱方法は、ステップS9にも適用可能である。また、粉末層32aの予熱は、上述した三次元積層造形プロセスにおける本焼結工程(ステップS7,S14)の中で行われることもある。本焼結工程では、同一の粉末層32aに複数の造形領域が存在する場合に、第1の造形領域内の金属粉末32を電子ビーム15の照射によって本焼結(溶融および凝固)させてから、第2の造形領域内の金属粉末32を電子ビーム15の照射によって本焼結させる。その際、本焼結工程前の予備加熱工程(パウダーヒート工程)で予め粉末層32aを加熱しても、第1の造形領域内の金属粉末32に電子ビーム15を照射している間に、第2の造形領域内の金属粉末32の温度が下がる。このため、第2の造形領域内の金属粉末32の温度を回復させるために、粉末層32aを予熱することがある。この予熱は、パーツ間ヒートとも呼ばれる。上述した各実施形態に係る予熱方法は、本焼結工程(ステップS7,S14)で粉末層32aを予熱する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
10…三次元積層造形装置
14…ビーム照射装置
16…粉末塗布装置
15…電子ビーム
15a…ビームスポット(スポット)
22…造形プレート
32…金属粉末
30…マスクカバー
30a…開口部
30b…マスク部
32a…粉末層
50…制御部
Li…ライン