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  • 特許-水素燃料電池アノード用電極触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】水素燃料電池アノード用電極触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/92 20060101AFI20240611BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20240611BHJP
   B01J 35/61 20240101ALI20240611BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240611BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240611BHJP
【FI】
H01M4/92
B01J23/46 301M
B01J35/61
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021170960
(22)【出願日】2021-10-19
(65)【公開番号】P2023061148
(43)【公開日】2023-05-01
【審査請求日】2023-02-08
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】高野 葵
(72)【発明者】
【氏名】堀内 洋輔
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04294608(US,A)
【文献】特開2002-222655(JP,A)
【文献】特開2010-262928(JP,A)
【文献】特開2013-164404(JP,A)
【文献】ALEGRE, Cinthia et al.,Oxygen-Functionalized Highly Mesoporous Carbon Xerogel Based Catalysts for Direct Methanol Fuel Cell Anodes,THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY C,米国,American Chemical Society,2013年06月27日,Volume 117, Issue 25,Pages 13045-13058,DOI:10.1021/jp400824n
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 - 92
B01J 35/61
B01J 23/46
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、水素燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下であり、
前記白金の格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下であり、かつ
前記白金の担持量が、前記白金の質量が前記水素燃料電池アノード用電極触媒の全質量に占める割合として、10質量%以上45質量%以下である、
水素燃料電池アノード用電極触媒。
【請求項2】
導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、水素燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下であり、
前記白金の格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下であり、かつ
前記白金のXRDから算出される平均粒子径が、2.0nm以上5.0nm以下である、
水素燃料電池アノード用電極触媒。
【請求項3】
導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、水素燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下であり、
前記白金の格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下であり、かつ
前記白金の担持量が、前記電極触媒の質量を基準として、10質量%以上45質量%以下である、
水素燃料電池アノード用電極触媒。
【請求項4】
導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、水素燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下であり、
前記白金の格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下であり、かつ
前記導電性担体が、カーボンブラックである、
水素燃料電池アノード用電極触媒。
【請求項5】
導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、水素燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下であり、
前記白金の格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下であり、かつ
前記導電性担体の窒素を吸着質としてBET法によって測定した比表面積が、30m/g以上700m/g以下である、
水素燃料電池アノード用電極触媒。
【請求項6】
導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、水素燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下であり、
前記白金の格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下であり、かつ
前記電極触媒が、プロトン交換膜型燃料電池のアノード触媒である、
水素燃料電池アノード用電極触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃料電池アノード用電極触媒に関する。本発明の電極触媒は、水素を燃料として発電を行う水素燃料電池のアノードに用いるための、電極触媒である。
【背景技術】
【0002】
大気汚染防止、温室効果ガスの発生抑制、石油代替エネルギーの要請等に応えるため、燃料電池の研究開発が進められている。燃料電池は、クリーンであり、エネルギー密度が高く、充電が不要である、等の利点があり、次世代のエネルギー源として期待されている。
【0003】
燃料電池は、例えば、イオン交換膜を介してアノード及びカソードが対向配置された構造を有し、アノード側に燃料(例えば水素)を供給し、カソード側に酸化剤(例えば空気)を供給すると、両極でそれぞれ所定の電気化学反応が起こり、発電が行われる。
【0004】
燃料電池に用いられる電極触媒としては、Pt粒子、Pt合金粒子等の貴金属粒子が知られている。例えば、特許文献1には、炭素粉末担体上にPtと補助金属との合金から成る触媒貴金属粒子が担持された、高分子固体電解質型燃料電池の電極触媒が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、ダイレクトメタノール型燃料電池のアノード触媒として、Pt-Ruが好適であることが示されている。
【0006】
ところで、水素を燃料とする水素燃料電池は、例えば、固体イオン交換膜型燃料電池の場合、アノード(水素極)及びカソード(空気極)において、それぞれ、下記の電気化学反応(1)及び(2)が起こることにより、発電が行われる
水素極:2H→4H+4e (1)
空気極:O+4H+4e→2HO (2)
【0007】
しかしながら、副反応によって過酸化水素が発生することがある。発生した過酸化水素は、不純物(例えば鉄イオンFe2+)と接触すると、酸化力が極めて高いヒドロキシラジカル(・OH)を発生し、電解質膜、電極材料等を攻撃して劣化させ、燃料電池の耐久性が損なわれる。
【0008】
この点、特許文献3には、燃料電池の電解質膜又は酸化剤極(空気極)に、例えば、MnO、RuO、ZnO、WO、MnO-Al、RuO-Al、ZnO-Al、及びWO-Alから選ばれる酸化物触媒を添加することが提案されており、これにより、過酸化水素の発生が抑制されると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-142112号公報
【文献】特表2008-506513号公報
【文献】特開2000-106203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3の技術は、過酸化水素の発生メカニズムとして、カソード(空気極)において、上述の電気化学反応(2)で示される4電子反応に加えて、下記の電気化学反応(3)で示される2電子反応が起こることに着目した技術である。
空気極:O+2H+2e→H (3)
【0011】
しかしながら、カソードに供給された酸素の一部は、電解質膜(固体イオン交換膜)を透過してアノードに到達することがある。このアノードに到達した酸素は、アノード(特に、触媒活性種であるPt粒子)に吸着した水素原子(Had)と反応して、下記の電気化学反応(4)によっても過酸化水素が発生する。
水素極:2Had+O→H (4)
【0012】
また、空気極では、電気化学反応(2)で示される4電子反応の寄与が優先的に進行し、電気化学反応(3)で示される2電子反応の寄与率は低いと考えられる。これに対して、電解質膜(固体イオン交換膜)を透過して水素極に到達した酸素は、高い確率で電気化学反応(4)によって過酸化水素を発生させる。そのため、水素燃料電池における過酸化水素の発生には、水素極における電気化学反応(4)が大きく寄与していると考えられる。
【0013】
本発明は、上記の考察に基づいて成されたものであり、その目的は、水素を燃料として発電を行う水素燃料電池において、過酸化水素の発生を抑制して、燃料電池の長期耐久性の向上に寄与し得る、水素燃料電池用電極触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下のとおりのものである。
【0015】
《態様1》導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、水素燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下である、
水素燃料電池アノード用電極触媒。
《態様2》前記白金の格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下である、態様1に記載の電極触媒。
《態様3》前記白金の平均粒子径が、2.0nm以上5.0nm以下である、態様1又は2に記載の電極触媒。
《態様4》前記白金の担持量が、前記電極触媒の質量を基準として、10質量%以上45質量%以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の電極触媒。
《態様5》前記導電性担体が、カーボンブラックである、態様1~4のいずれか一項に記載の電極触媒。
《態様6》前記導電性担体の比表面積が、30m以上700m以下である、態様1~5のいずれか一項に記載の電極触媒。
《態様7》前記電極触媒が、プロトン交換膜型燃料電池のアノード触媒である、態様1~6のいずれか一項に記載の電極触媒。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、過酸化水素の発生を抑制する効果を発現しつつ、高い触媒活性が長期間維持される高度の耐久性を有する、水素燃料電池アノード用電極触媒が提供される。本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、特に、プロトン交換膜型燃料電池のアノード触媒として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例及び比較例で得られた電極触媒について、過酸化水素生成率(相対値)と耐久維持率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
《水素燃料電池アノード用電極触媒》
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、
導電性担体と、前記導電性担体に担持された貴金属と、を含む、燃料電池アノード用電極触媒であって、
前記貴金属が、ルテニウム及び白金を含み、
前記ルテニウムの前記白金に対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.20mol/mol以下である、
水素燃料電池アノード用電極触媒である。
【0019】
本発明者らは、水素燃料電池のアノードの電極触媒における触媒成分として、PtとRuとを併用し、RuのPtに対するモル比Ru/Ptを上記の範囲に設定することにより、Ruによる過酸化水素発生量の抑制効果(過酸化水素の分解機能)を発現させつつ、Ptの触媒活性を長期間維持できることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
モル比Ru/Ptを上記の範囲に設定することにより、上記の効果が発現する理由は明らかではない。しかしながら、本発明者らは、その理由を以下のように推察している。
【0021】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒では、比Ru/Ptの値が小さく、Ruの相対量が少ない。例えば、上述の特許文献2では、ダイレクトメタノール型燃料電池のアノード触媒に関してPt-Ru合金を用いるが、その効果が発現されるには、比Ru/Ptを1以上であることを要する。
【0022】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒では、Ruを含むことによって、Ruによる過酸化水素の生成抑制効果を得ることができる。他方で、本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒では、Ruの量が比較的少ないの、例えば、電池の起動及び停止等における電位の変動時に、Ruの移動によってできる空隙が小さくなる。したがって、空隙の発生後に起こる、原子の再配列の程度が小さくなることにより、触媒成分の溶解、貴金属粒子の凝集等の触媒劣化要因が抑制されるため、耐久性に優れるものと推察される。
【0023】
以下、本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒を構成する各要素について、順に詳説する。
【0024】
〈導電性担体〉
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、導電性担体を含む。
【0025】
この導電性担体は、例えば、カーボン担体であってよい。カーボン担体は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、アモルファス炭素、ナノカーボン材料等であってよい。黒鉛は、天然黒鉛でも人造黒鉛でもよい。天然黒鉛は、塊状黒鉛、土状黒鉛、鱗片状黒鉛等を包含する。人造黒鉛は、任意のカーボン材料を黒鉛化した、黒鉛化カーボン等を包含する。ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等を包含する。
【0026】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒における導電性担体は、典型的には、カーボンブラックである。
【0027】
本発明における導電性担体は、窒素を吸着質としてBET法によって測定した比表面積が、30m/g以上、50m/g以上、100m/g以上、150m/g以上、又は200m/g以上であってよく、700m/g以下、600m/g以下、500m/g以下、又は400m/g以下であってよい。
【0028】
本発明における導電性担体の比表面積は、典型的には、30m以上700m以下である。
【0029】
導電性担体の粒径は、電子顕微鏡観察によって測定された個数平均の一次粒径として、10nm以上、20nm以上、50nm以上、100nm以上、又は300nm以上であってよく、800nm以下、600nm以下、500nm以下、又は400nm以下であってよい。
【0030】
導電性担体の粒径は、水素燃料電池アノード用電極触媒について撮影された電子顕微鏡像に基づいて、等価直径の個数平均として計算することができる。なお、「等価直径」とは、測定対象図形の外周長さと等しい外周長さを有する正円の直径をいう。
【0031】
〈貴金属粒子〉
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、上述の導電性担体に担持された貴金属を含む。
【0032】
この貴金属は、ルテニウム(Ru)及び白金(Pt)を含み、RuのPtに対するモル比Ru/Ptが、0.04mol/mol以上0.30mol/mol以下である。比Ru/Ptが0.04mol/mol以上であることにより、過酸化水素発生量の抑制効果が有効に発現する。また、比Ru/Ptが0.20mol/mol以下であることにより、水素燃料電池アノード用電極触媒の耐久性が維持される。
【0033】
比Ru/Ptは、0.05mol/mol以上、0.06mol/mol以上、0.08mol/mol以上、0.10mol/mol以上、0.12mol/mol以上、又は0.14mol/mol以上であってもよく、0.19mol/mol以下、0.18mol/mol以下、0.17mol/mol以下、0.16mol/mol以下、0.15mol/mol以下であってもよい。
【0034】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒における貴金属粒子では、Ptの格子定数が、3.900Å以上3.921Å以下であってよい。
【0035】
Ptの格子定数が3.900Å以上であれば、触媒の耐久性が良好に維持される。これは、Ptの格子定数が3.900Å以上であれば、PtとRuとの合金化率が低く、Ptの結晶が実質的に維持されていることによると考えられる。Ptの格子定数は、3.910Å以上、3.911Å以上、3.912Å以上、3.913Å以上、3.914Å以上、又は3.915Å以上であってもよい。
【0036】
一方、Ptの格子定数が3.921Å以下であれば、貴金属が十分な量のRuを含むことが担保され、過酸化水素発生量の抑制効果が有効に発現する。Ptの格子定数は、3.920Å以下、3.919Å以下、3.918Å以下、又は3.917Å以下であってもよい。
【0037】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒におけるPtの格子定数は、典型的には、3.912Å以上3.921Å以下であってよい。
【0038】
Ptの格子定数は、JIS K0131準拠のX線回折法(XRD法)で得られたXRDチャートにおける、2θ=68°付近のPt金属単体のピークを用いて、ブラッグの法則、及び面指数と面間隔との関係から求められる。
【0039】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒において、Ptは粒子の状態で存在していてよく、その平均粒径は、典型的には、例えば、2.0nm以上5.0nm以下であってよい。本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒における貴金属粒子の平均粒径は、水素燃料電池アノード用電極触媒の粉末XRD測定における回折ピークの線幅から、シェラー式によって算出されてよい。
【0040】
なお、本発明においては、Pt粒子はRuを含んでいてもよい。以下、本明細書では、「Pt粒子」の語を、Pt粒子と、Pt及びRuを含む粒子とを包含する概念として使用する。
【0041】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒におけるPtの担持量は、Ptの合計質量が、水素燃料電池アノード用電極触媒の全質量に占める割合として、10質量%以上、15質量%以上、又は20質量%以上であってよく、45質量%以下、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってよい。Ptの担持量が10量%以上であると、十分に高い触媒活性を得られる。また、Ptの担持量が45質量%以下であると、このPtを含む貴金属粒子の凝集を回避することができ、その結果、触媒活性の長期維持性に優れることになる。
【0042】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒におけるPtの担持量は、典型的には、10質量%以上45質量%以下であってよい。
【0043】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、導電性担体上に、Ru及びPtとともに、これら以外の金属が担持されていてもよい。Ru及びPt以外の金属は、例えば、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Zr、Hf、Ir、Pd、Os、及びRhから成る群から選択される1種又は2種以上の金属であってよい。
【0044】
Ru及びPt以外の金属は、Ru及びPtとは別の金属粒子を形成して、導電性担体上に担持されていてもよいし、Ru及びPtの少なくとも一方と合金を形成して、合金粒子として導電性担体上に担持されていてもよい。
【0045】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、Ru及びPtとともに、上記から選択されるこれら以外の金属を、Ru及びPt、並びにこれら以外の金属の合計質量に対するこれら以外の金属の質量割合が、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下となる範囲で含んでいてもよく、これら以外の金属を含んでいなくてもよい。
【0046】
《水素燃料電池アノード用電極触媒の製造方法》
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、上記の構成を有している限り、どのような方法によって製造されてもよい。本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、例えば、以下の方法によって製造されてよい。
【0047】
導電性担体にPtを担持して、Pt担持導電性担体を得ること(Pt担持工程)、
Pt担持導電性担体に、Ruを担持して、Pt-Ru担持導電性担体を得ること(Ru担持工程)、及び
Pt-Ru担持導電性担体を、不活性雰囲気中、150℃以上800℃以下の温度で焼成して、焼成後触媒を得ること(焼成工程)
を含む方法。
【0048】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒の製造方法は、上記の焼成工程の途に、
得られた焼成後触媒を、酸と接触させて酸処理を行うこと(酸処理工程)を更に含んでいてよい。
【0049】
以下、本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒の製造方法の各工程について、順に説明する。
【0050】
〈Pt担持工程〉
Pt担持工程では、導電性担体にPtを担持して、Pt担持導電性担体を得る。
【0051】
導電性担体へのPtの担持は、例えば、適当な溶媒中で、Pt前駆体と導電性担体とを共存させた状態で、還元剤と接触させることにより、Pt前駆体中のPtイオンを金属Ptに還元して、好ましくは粒子状のPtとして導電性担体上に析出させる方法によって行われてよい。
【0052】
ここで使用される導電性担体は、目的の水素燃料電池アノード用電極触媒における導電性担体に応じて、適宜選択して使用してよい。例えば、カーボン担体であってよく、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、アモルファス炭素、ナノカーボン材料等から選択したカーボン材料を、導電性担体として使用してよい。
【0053】
Pt前駆体は、溶媒可溶のPt化合物から適宜選択して使用してよい。Pt前駆体としては、例えば、PtCl、PtCl、PtBr、PtS、Pt(CN)、PtCl(NH(ジニトロジアンミン白金)等から適宜選択して使用してよい。
【0054】
溶媒は、使用するPt前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。例えば、Pt前駆体が、PtClであるときには塩酸を使用してよく、PtBrであるときには臭化水素酸水溶液を使用してよく、PtCl(NHであるときには硝酸水溶液を使用してよく、PtCl、PtS、又はPt(CN)であるときには水を使用してよい。
【0055】
Pt前駆体中のPtイオンを金属Ptに還元する際に用いる還元剤は、例えば、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等であってよい。還元は、10℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。還元温度は、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、10℃以上50℃以下とすることが好ましく、還元剤は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、又はヒドラジンを用いる場合には、60℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0056】
このようにして、導電性担体上にPtが担持された、Pt担持導電性担体が得られる。得られたPt担持導電性担体は、反応液中から回収し、必要に応じて洗浄及び乾燥した後に、次工程に供されてよい。
【0057】
(Ru担持工程)
Ru担持工程では、Pt担持工程で得られたPt担持導電性担体に、Ruを担持して、Pt-Ru担持導電性担体を得る。
【0058】
Ru担持工程は、例えば、適当な溶媒中で、Ru前駆体とPt担持導電性担体とを共存させた状態で、還元剤と接触させることにより、Ru前駆体中のRuイオンを金属Ruに還元して、Pt担持導電性担体上に析出させる方法によって行われてよい。
【0059】
Ru前駆体は、溶媒可溶のRu化合物から適宜選択して使用してよい。Ru前駆体としては、例えば、硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液、ニトロシル硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液、ルテニウム(VI)酸ナトリウム溶液、塩化ルテニウム(III)塩酸溶液等から適宜選択して使用してよい。
【0060】
溶媒は、使用するRu前駆体を溶解可能なものから選択して使用してよい。溶媒は、例えば、水であってよい。
【0061】
Ru前駆体の還元は、適当な還元剤を使用して行ってよい。還元剤は、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、水素ガス、ギ酸等であってよい。中和剤は、例えば、メタホウ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等であってよい。
【0062】
還元剤を用いる還元は、10℃以上100℃以下の温度にて、0.5時間以上8時間以下の時間で行われてよい。還元温度は、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、10℃以上50℃以下とすることが好ましく、還元剤は、エタノール、酢酸、アセトアルデヒド、又はヒドラジンを用いる場合には、60℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0063】
このようにして、Pt担持導電性担体上にRuが担持された、Pt-Ru担持導電性
担体が得られる。
【0064】
(焼成工程)
【0065】
〈焼成工程〉
焼成工程では、Ru担持工程で得られたPt-Ru担持導電性担体を、不活性雰囲気中、150℃以上800℃以下の温度で焼成して、焼成後触媒を得る。
【0066】
焼成工程における焼成温度は、得られる水素燃料電池アノード用電極触媒における貴金属粒子の、Ptの格子定数と関係する。すなわち、この焼成温度を150℃以上800℃以下とすることにより、PtとRuとの過度の合金化を回避することができ、Ptの格子定数が3.900Å以上となり、過酸化水素の抑制が効果的に行われる。
【0067】
焼成工程における焼成温度は、150℃以上、200℃以上、300℃以上、又は400℃以上であってよく、800℃以下、750℃以下、600℃以下、550℃以下であってよい。特に、焼成温度を600℃以下とすると、Ptの格子定数が3.912Å以上となり、過酸化水素の抑制が更に効果的に行われる。一方、焼成温度を150℃以上とすることにより、水素燃料電池用電極触媒から原料由来の残留成分を除去でき、高い電極触媒活性が得られる。
【0068】
焼成工程における焼成時間は、Ru前駆体からRu金属への変換を確実とする観点から、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、又は45分以上であってよい。一方で、PtとRuとの過度の合金化を回避して、高い電極触媒活性を担保する観点から、焼成時間は、150分以下、120分以下、90分以下、80分以下、又は60分以下であってよい。
【0069】
焼成工程の際の周囲の雰囲気は、不活性雰囲気であってよく、アルゴン雰囲気が好ましい。
【0070】
〈酸処理工程〉
焼成工程で得られた焼成後触媒は、これを本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒としてそのまま使用してもよいし、更に任意的に行われる酸処理工程に供してもよい。
【0071】
酸処理工程では、焼成工程で得られた焼成後触媒を、酸と接触させて酸処理を行う。この酸処理によって、カーボン担体に親水性が付与され、又はカーボン担体の親水性が向上するので、触媒活性の向上が期待できる。
【0072】
酸処理工程は、酸を含む溶液中に、焼成後触媒を浸漬させることにより、行われてよい。ここで使用される酸を含む溶液は、例えば、硝酸水溶液、塩酸、フッ酸、硫酸等であってよい。
【0073】
酸処理工程において、酸を含む溶液の温度は、例えば、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上であってよく、例えば、100℃以下、95℃以下、90℃以下、85℃以下、又は80℃以下であってよい。酸処理工程の時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、又は4時間以上であってよく、例えば、24時間以下、16時間以下、12時間以下、8時間以下、又は6時間以下であってよい。
【0074】
酸処理工程後の焼成後触媒は、酸を含む溶液中から回収し、必要に応じて洗浄及び乾燥したうえで、本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒として使用してよい。
【0075】
《水素燃料電池アノード用電極触媒の用途》
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、水素燃料電池のアノードが有する触媒層に含まれる電極触媒として好適である。本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒を含むアノードは、過酸化水素の発生量が抑制されており、したがって、当該アノードを含む水素燃料電池は、高い活性を長期間維持することができる。
【0076】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒は、特に、プロトン交換膜型燃料電池のアノード触媒であってよい。
【0077】
水素燃料電池のアノードは、適当な基材層と、該基材層上の触媒層とを有していてよく、触媒層は、本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒を含む。
【0078】
基材層は、水素燃料電池アノード用電極触媒及び溶媒、並びに電極形成時に好ましく行われる加熱処理、加圧処理等に耐え得る、化学的及び機械的な安定性を有するものから適宜選択して使用してよい。具体的には、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン等のシートを使用してよい。
【0079】
触媒層は、本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒を含むが、これ以外に、アイオノマーを含んでいてよく、例えばバインダー等の任意成分を、更に含んでいてよい。アイオノマーは、例えば、ナフィオン(テトラフルオロエチレン系(共)重合体のスルホン化物)であってよい。
【0080】
本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒を含むアノードは、当該アノード、固体高分子電解質膜、及びカソードがこの順に積層させた構造を有する、水素燃料電池用電極接合体に好適に適用できる。ここで使用される固体高分子電解質膜は、例えば、公知のプロトン交換膜等であってよい。カソードとしては、水素燃料電池に用いられるカソードとして公知のものを使用してよい。
【0081】
上記の水素燃料電池アノード用電極接合体は、当該燃料電池電極接合体と、この燃料電池電極接合体のアノード側に配置された水素チャネルと、カソード側に配置された空気チャネル又は酸素チャネルとを有する、水素燃料電池に好適に適用できる。この水素燃料電池は、アノードとして、本発明の水素燃料電池アノード用電極触媒を含む電極を用いる他は、公知の方法によって製造されてよい。
【実施例
【0082】
《実施例1》
(1)電極触媒の調製
比表面積300m/gのカーボン担体(カーボンブラック)1.6gを、純水80mL中に分散させて分散液を得た。ここに、Pt前駆体として、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(Pt金属換算0.4g相当)を滴下し、分散液中でカーボン担体とPt前駆体とを十分に馴染ませた。次いで、この分散液に、還元剤としてのエタノール30gを加え、90℃にて2時間保持し、Pt前駆体を還元して、カーボン担体上にPtを担持させた。得られた分散液から固形分をろ取して、純水により洗浄した後、80℃にて15時間、空気中で乾燥して、Pt担持カーボンを得た。
【0083】
得られたPt担持カーボン触媒全量を、純水80mL中に分散させて分散液を得た。ここに、Ru前駆体として硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液を、金属換算のモル比がRu/Pt=0.05となるように加え、十分に撹拌した。
【0084】
上記とは別の容器に、上記分散液中のRuに対して、5モル倍量の水素化ホウ素ナトリウム(SBH)を純水に溶解させて、SBH水溶液を調製した。ここで使用した純水の量は、SBHに対して50質量倍相当量であり、得られたSBH水溶液の濃度は、1.96質量%であった(1÷(1+50)=0.0196)。
【0085】
上述のPt担持カーボン及びRu前駆体を含む分散液を十分に撹拌しながら、上記のSBH水溶液をゆっくりと滴下し、30℃にて2時間保持し、Ru前駆体を還元して、Pt担持カーボン上にRuを担持させた。得られた分散液から固形分をろ取して、純水により洗浄した後、80℃にて15時間、空気中で乾燥して、Pt-Ru担持カーボンを得た。
【0086】
得られたPt-Ru担持カーボンを、500℃にて1時間、アルゴン雰囲気下で熱処理を行った。
【0087】
熱処理後のPt-Ru担持カーボンを、濃度0.5Nの硝酸水溶液中に浸漬し、80℃にて6時間の酸処理を行った。その後、固形分をろ取して、純水により洗浄した後、80℃にて15時間、空気中で乾燥することにより、カーボン担体上に、Pt及びRuから成る貴金属粒子が担持された実施例1の電極触媒を得た。
【0088】
なお、得られた実施例1の電極触媒におけるPtの担持量は、20質量%である。
【0089】
(2)電極触媒の評価
(2-1)貴金属粒子の平均粒径の測定
得られた電極触媒について、JIS K0131準拠のX線回折法(XRD法)で得られたXRDチャートにおける、2θ=68°付近のPt金属単体のピークのピーク強度から算出したPt粒子の平均粒子径は3.0nmであった。
【0090】
(2-2)Ptの格子定数の測定
上記「(2-1)貴金属粒子の平均粒径の測定」で得られたXRDチャートにおける、2θ=68°付近のPt金属単体のピークを用いて、ブラッグの法則、及び面指数と面間隔との関係式により求めたPtの格子定数は、3.921Åであった。
【0091】
(2-3)過酸化水素生成率(XH2O2
得られた実施例1の電極触媒に、超純水及びイソプロパノールを加え、更に、電極触媒と同じ質量のナフィオン(NAFION、登録商標、デュポン社製)を加え、得られた分散液を超音波分散して、塗布用の電極触媒スラリーを得た。
【0092】
回転リングディスク電極装置(北斗電工(株)製)の作用極のディスク電極部に、マイクロピペットを用いて上記の電極触媒スラリーを滴下し、風乾して、電極触媒が均一に分散された電極を得た。
【0093】
作用極として上記の電極を用い、参照極として標準水素電極(RHE)を用い、電解液として濃度0.1モル/Lの過塩素酸水溶液を用いて、電極触媒の評価を行った。具体的な操作手順は、以下のとおりとした。
【0094】
電解液は、酸素バブリングを行って、酸素を飽和濃度まで溶解させたうえで、評価に用いた。
【0095】
回転リングディスク電極装置を稼働して、電解液温度30℃の環境下で、作用極を1,600rpmで回転させて電解液を撹拌して、リング電極に1.2V(vs.RHE)の定電位を印加しながらディスク電極の電位を掃引して、過酸化水素生成率(XH2O2)及び有効白金反応面積(ECSA)を求めた。結果を表1に示す。
【0096】
過酸化水素生成率(XH2O2)測定のための掃引は、0V(vs.RHE)から貴な方向に1.0Vまで、次いで、1.0Vから卑な方向に0Vまで、連続して行った。掃引の走査速度は、両方向とも、10mV/sとした。過酸化水素生成率の計算には、燃料電機のアノード電極の環境が再現されている状況として、卑な方向に掃引したときの0.07V(vs.RHE)印加時の電流値を採用した。また、電解液の溶液抵抗の測定値を用いて、iR補償を行った。
【0097】
過酸化水素生成率(XH2O2)としては、J.Electrochem.Soc.,134,495(2001)に記載された方法に準拠して、下記数式にしたがって計算した値を採用した。
過酸化水素生成率XH2O2=(2I/N)÷(I+I/N)
{ここで、Iはリング電流値であり、Iはディスク電流値であり、Nは捕捉率である。}
【0098】
捕捉率Nは、以下の方法によって求められる。
【0099】
アルゴン雰囲気下、フェリシアン化カリウムK[Fe(CN)]水溶液中で回転電極測定を行い、[Fe(CN)3-から[Fe(CN)4-への還元における|I/I|の値を求め、これを捕捉率Nとした。なお、「|I/I|」は、数I/Iの絶対値を表す。
【0100】
上記で得られた過酸化水素生成率(XH2O2)の値を、表1に示す。なお、表1における過酸化水素生成率(XH2O2)は、電極触媒がRuを含まない比較例1の値を1.00とする相対値として示す。
【0101】
(2-4)耐久性の評価
電極触媒の耐久性の評価では、耐久試験前後の有効白金反応面積(ECSA)の比を求め、得られた値を「耐久維持率」として、耐久性の指標とした。
【0102】
上記で得られた実施例1の電極触媒に、超純水及びイソプロパノールを加え、更に、電極触媒と同じ質量のナフィオン(NAFION、登録商標、デュポン社製)を加え、得られた分散液を超音波分散して、塗布用の電極触媒スラリーを得た。テフロン(登録商標)シート上に、得られた電極触媒スラリーを塗布し、風乾し、触媒層を形成することにより、水素極を作製した。ここでは、水素極の触媒層1cmの当たりのPt量を0.1mgとした。
【0103】
また、実施例1の電極触媒の代わりに、50質量%Pt担持カーボン触媒を用いた他は、水素極と同様にして、空気極を作製した。
【0104】
上記の水素極及び空気極を、それぞれの触媒層が高分子電解質膜を介して相対するように積層して、ホットプレスによって貼り合せて、膜電極接合体を作製した。更に、この膜電極接合体の両面に、それぞれ、拡散層を形成することにより、耐久性評価用の単セルを作製した。
【0105】
耐久試験は、起動停止時のアノード側の水素欠乏に起因する劣化を想定して、以下の条件で行った。
【0106】
得られた単セルについて、セル温度40℃、及び相対湿度100%RHの環境下で、
水素極側への窒素供給流量(2.0L/min)及び
空気極側への水素供給(流量0.3L/min)
を開始した。
【0107】
次に、ポテンショスタット(北斗電工(株)製、「HZ5000」)を用いて、走査電圧0~1.2V、掃引速度50mV/sにてCV測定を行った。このときの、0.05~0.4V付近の水素吸着波のピーク面積から、有効白金反応面積(ECSA)を求め、得られた値を初期ECSAとした。
【0108】
続いて、電圧0.1~1.2Vの間を周波数0.5Hzの三角波にて、1,500サイクルの電位変動を行った後、初期ESCAと同様の方法によりESCAを求め、得られた値を耐久試験後ESCAとした。
【0109】
そして、初期ECSAに対する耐久試験後ESCAの割合を、「耐久維持率(%)」として評価した。結果を表1に示す。
【0110】
《実施例2~5及び比較例1~6》
「(1)電極触媒の調製」において、金属換算のモル比Ru/Ptがそれぞれ表1の値となるように、Ru前駆体として使用する硝酸ルテニウム(III)硝酸溶液の量を変更し、Pt-Ru担持カーボンの焼成条件を表1に記載の温度に変更した他は、実施例1と同様にして、電極触媒を調製し、評価した。
【0111】
評価結果を表1に示す。また、過酸化水素生成率(相対値)と耐久維持率との関係を表すグラフを、図1に示す。図1には、各触媒のPt:Ruモル比を付記した。なお、図1では、グラフの右下方向に行くほど、電極触媒として好ましい。
【0112】
【表1】
【0113】
表1及び図1に見られるとおり、貴金属粒子がRuを含まない比較例1を基準として、貴金属粒子のRu/Pt比が0.04に満たない比較例2の電極触媒は、耐久維持率は高い値を示すものの、H生成率の低減の程度は、低いものに留まっている。また、貴金属粒子のRu/Pt比が0.20を超える比較例3~6の電極触媒は、H生成率は低減されているものの、耐久維持率は低い値を示している。
【0114】
これらに対して、貴金属粒子のRu/Pt比が0.04以上0.20以下の実施例1~5の電極触媒は、比較例1を基準として、H生成率が大きく低減されており、かつ、耐久維持率も高い値を示している。
【0115】
《電極触媒の初期活性》
実施例1及び比較例1でそれぞれ得られた電極触媒の初期ECSA値を、過酸化水素生成率(相対値)及び耐久維持率とともに、表2に示す。
【表2】
【0116】
表2から明らかなように、実施例1の電極触媒は、比較例1の電極触媒とほぼ同じ初期ECSAを示すとともに、耐久維持率があまり低下せずに、過酸化水素生成率が顕著に減少している。
【0117】
更に、実施例2~5の電極触媒についても、貴金属粒子の平均粒径が実施例1の電極触媒と同等であり、実施例1の電極触媒と同等の初期ECSAを示すものである。実際、本発明者らは、貴金属粒子のRu/Pt比が0.04以上0.20以下の電極触媒では、実施例1と同等の初期ECSAを示すことを確認した。
【0118】
以上のことから、本発明の電極触媒が、本発明の所期の目的を達するものであることが検証された。
図1