(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
B66B 23/00 20060101AFI20240611BHJP
B66B 29/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B66B23/00 C
B66B29/08 Z
(21)【出願番号】P 2021202001
(22)【出願日】2021-12-13
【審査請求日】2021-12-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】物部 愛
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-17257(JP,A)
【文献】特開2004-161455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環駆動される無端搬送体により乗客を搬送する搬送部と、
搬送部に対する乗り口及び降り口とを備え、
乗り口の床を構成するフロアプレートは、それぞれが乗り口の左右方向よりも前後方向が長い第1形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備え、
降り口の床を構成するフロアプレートは、それぞれが降り口の前後方向よりも左右方向が長い第2形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備える
乗客コンベア。
【請求項2】
フロアプレートは、
本体プレートと、
それぞれが一方向に長い形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示プレートであって、本体プレート上に着脱自在であり、角度差90度の2つの向きのいずれかを選択して本体プレート上に取り付けられることにより、凸部の第1形状又は第2形状のいずれかを選択的に構成する表示プレートとを備える
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
循環駆動される無端搬送体により乗客を階上又は階下に搬送する搬送部と、
搬送部に対する乗り口及び降り口とを備え、
乗り口の床を構成するフロアプレートは、乗客コンベアが上りである場合、それぞれが乗り口の左右方向よりも前後方向が長い第1形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備え、乗客コンベアが下りである場合、それぞれが乗り口の左右方向よりも前後方向が長
くかつそれぞれが踏んだときの足裏の感覚が第1形状とは異なる第2形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備える
乗客コンベア。
【請求項4】
凸部の第1形状は、幅又は高さのいずれか又は両方が無端搬送体に向かって大きくなる形状であり、
凸部の第2形状は、幅又は高さのいずれか又は両方が無端搬送体に向かって小さくなる形状であり、
降り口の床を構成するフロアプレートは、右隣に別の乗客コンベアの乗り口が並ぶ場合、それぞれが降り口の前後方向よりも左右方向が長くかつそれぞれが幅又は高さのいずれか又は両方が右隣の乗り口に向かって小さくなる第3形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備え、左隣に別の乗客コンベアの乗り口が並ぶ場合、それぞれが降り口の前後方向よりも左右方向が長くかつそれぞれが幅又は高さのいずれか又は両方が左隣の乗り口に向かって小さくなる第4形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備える
請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
フロアプレートは、
本体プレートと、
それぞれが一方向に長くかつそれぞれが幅又は高さのいずれか又は両方が一端側から他端側に向かって小さくなる形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示プレートであって、本体プレート上に着脱自在であり、角度差90度の4つの向きのいずれかを選択して本体プレート上に取り付けられることにより、凸部の第1形状ないし第4形状のいずれかを選択的に構成する表示プレートとを備える
請求項4に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
表示プレートは、正方形状を有し、
本体プレートは、1枚又は複数枚の表示プレートを収容配置可能な段差凹部を備える
請求項2又は請求項5に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
表示プレートは、表示プレートの中心を中心とした点対称位置の4箇所にネジ挿通孔を備え、
本体プレートは、段差凹部の該当箇所にネジ孔を備え、
表示プレートは、ネジにより段差凹部に取り付けられる
請求項6に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環駆動される無端搬送体により乗客を搬送する乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道といった乗客コンベアは、搬送部と、乗降口とを備える。搬送部は、無端搬送体を備え、無端搬送体が通路に沿って移動することにより、乗客を搬送する。乗降口は、フロアプレートを備え、通路の始端部と終端部とに設けられる(乗り口及び降り口)。乗客は、乗り口のフロアプレートから通路内に進入し、無端搬送体の乗客受け入れ部まで移動すると、無端搬送体により搬送され、しかる後、無端搬送体の乗客送り出し部に到達すると、降り口のフロアプレートまで移動し、そのまま移動して乗客コンベアを後にする。
【0003】
視覚障害者が乗客コンベアを利用する場合、安全面の配慮は当然のこと、視覚障害者がストレスなく利用できるよう配慮する必要がある。床面に点字ブロックを形成する、音声ガイダンスを発する等して、視覚障害者を乗降口に誘導することは、既に広く実施されている対策である。しかし、2機又は3機以上の乗客コンベアが並設され、複数の乗降口が並ぶ場合、視覚障害者が誤って降り口に進むことがあり得る。また、乗り口に到達したとしても、この乗客コンベアが上りか下りかはわからない。ハンドレールに触れるか、無端搬送体の乗客受け入れ部に足を踏み入れると、乗り口か降り口かはわかる。しかし、降り口であった場合、ハンドレールや無端搬送体は自身に向かって移動しており、視覚障害者には危険である。また、上りか下りかは、乗客コンベアに乗ってみないとわからない。行先方向が誤りであった場合、別の乗客コンベアに乗って戻ってくるという不必要な移動が生じ、視覚障害者には大きな負担が掛かる。
【0004】
これらの問題を解決するために、各種の表示機能を備えるフロアプレートが提案されている。特許文献1に記載されたフロアプレートは、乗り口と降り口とで段差の傾斜方向を異ならせることにより、乗り口か降り口かを判別可能にするというものである。特許文献2に記載されたフロアプレートは、前方を向く二等辺三角形の領域に複数の凸部を設け、斜辺に足裏を沿わせることにより、進むべき方向を誘導するというものである。特許文献3に記載されたフロアプレートは、上りと下りとで点字パターンを異ならせることにより、上りか下りかを判別可能にするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-161455号公報
【文献】特開平7-144867号公報
【文献】特開平10-017257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたフロアプレートにおいては、視覚障害者が段差に躓くおそれがある。特許文献2に記載されたフロアプレートにおいては、視覚障害者が斜辺の位置を特定することは必ずしも容易ではないため、誘導効果が期待できない場合があるという問題がある。特許文献3に記載されたフロアプレートにおいては、視覚障害者が点字パターン全体の位置を特定することは必ずしも容易ではないため、点字の意味を把握することが困難な場合があるという問題がある。
【0007】
そこで、第1の発明は、乗り口か降り口かを容易に判別することができる乗客コンベアを提供することを課題とする。また、第2の発明は、上りか下りかを容易に判別することができる乗客コンベアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る乗客コンベアは、
循環駆動される無端搬送体により乗客を搬送する搬送部と、
搬送部に対する乗り口及び降り口とを備え、
乗り口の床を構成するフロアプレートは、それぞれが乗り口の左右方向よりも前後方向が長い第1形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備え、
降り口の床を構成するフロアプレートは、それぞれが降り口の前後方向よりも左右方向が長い第2形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備える
乗客コンベアである。
【0009】
ここで、第1の発明に係る乗客コンベアの一態様として、
フロアプレートは、
本体プレートと、
それぞれが一方向に長い形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示プレートであって、本体プレート上に着脱自在であり、角度差90度の2つの向きのいずれかを選択して本体プレート上に取り付けられることにより、凸部の第1形状又は第2形状のいずれかを選択的に構成する表示プレートとを備える
との構成を採用することができる。
【0010】
第2の発明に係る乗客コンベアは、
循環駆動される無端搬送体により乗客を階上又は階下に搬送する搬送部と、
搬送部に対する乗り口及び降り口とを備え、
乗り口の床を構成するフロアプレートは、乗客コンベアが上りである場合、それぞれが乗り口の左右方向よりも前後方向が長い第1形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備え、乗客コンベアが下りである場合、それぞれが乗り口の左右方向よりも前後方向が長くかつそれぞれが踏んだときの足裏の感覚が第1形状とは異なる第2形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備える
乗客コンベアである。
【0011】
ここで、第2の発明に係る乗客コンベアの一態様として、
凸部の第1形状は、幅又は高さのいずれか又は両方が無端搬送体に向かって大きくなる形状であり、
凸部の第2形状は、幅又は高さのいずれか又は両方が無端搬送体に向かって小さくなる形状であり、
降り口の床を構成するフロアプレートは、右隣に別の乗客コンベアの乗り口が並ぶ場合、それぞれが降り口の前後方向よりも左右方向が長くかつそれぞれが幅又は高さのいずれか又は両方が右隣の乗り口に向かって小さくなる第3形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備え、左隣に別の乗客コンベアの乗り口が並ぶ場合、それぞれが降り口の前後方向よりも左右方向が長くかつそれぞれが幅又は高さのいずれか又は両方が左隣の乗り口に向かって小さくなる第4形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示部を備える
との構成を採用することができる。
【0012】
また、この場合、
フロアプレートは、
本体プレートと、
それぞれが一方向に長くかつそれぞれが幅又は高さのいずれか又は両方が一端側から他端側に向かって小さくなる形状を有する複数の凸部が互いに間隔を有して配置される表示プレートであって、本体プレート上に着脱自在であり、角度差90度の4つの向きのいずれかを選択して本体プレート上に取り付けられることにより、凸部の第1形状ないし第4形状のいずれかを選択的に構成する表示プレートとを備える
との構成を採用することができる。
【0013】
また、第1及び第2の発明に係る乗客コンベアの他態様として、
表示プレートは、正方形状を有し、
本体プレートは、1枚又は複数枚の表示プレートを収容配置可能な段差凹部を備える
との構成を採用することができる。
また、この場合、
表示プレートは、表示プレートの中心を中心とした点対称位置の4箇所にネジ挿通孔を備え、
本体プレートは、段差凹部の該当箇所にネジ孔を備え、
表示プレートは、ネジにより段差凹部に取り付けられる
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、表示部の凸部が第1形状である場合、視覚障害者の足裏の感覚は抵抗感が小さいものとなる。これにより、視覚障害者は、進んでよいということを経験的に認識し、ここは乗り口であることを把握する。他方、表示部の凸部が第2形状である場合、視覚障害者の足裏の感覚は抵抗感が大きいものとなる。これにより、視覚障害者は、進んではいけないということを経験的に認識し、ここは降り口であることを把握する。このため、第1の発明によれば、乗り口か降り口かを容易に判別することができる。
【0015】
第2の発明によれば、表示部の凸部が第1形状、第2形状のいずれの場合も、視覚障害者の足裏の感覚は抵抗感が小さいものとなる。また、表示部の凸部が第1形状である場合と第2形状である場合とで、視覚障害者の足裏の感覚は異なるものとなる。ここで、第1形状は乗客コンベアの上りに対応した表示形態であり、第2形状は乗客コンベアの下りに対応した表示形態であると視覚障害者が事前に把握しているとする。あるいは、第1形状が視覚障害者にたとえば上向きの感覚を与える形状であり、第2形状が視覚障害者にたとえば下向きの感覚を与える形状であるとする。そうすると、表示部の凸部が第1形状である場合、視覚障害者は、ここは上りの乗客コンベアの乗り口であると把握する。他方、表示部の凸部が第2形状である場合、視覚障害者は、ここは下りの乗客コンベアの乗り口であると把握する。このため、第2の発明によれば、上りか下りかを容易に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るエスカレータの斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、エスカレータの乗降口の平面図である。
図2(b)は、
図2(a)のA-A線断面図である。
【
図3】
図3(a)は、乗降口のフロアプレートに適用される第1表示プレートの平面図である。
図3(b)は、第1辺側から見た第1表示プレートの側面図である。
図3(c)は、第2辺側から見た第1表示プレートの側面図である。
【
図4】
図4(a)は、第2表示プレートの平面図である。
図4(b)は、第1辺側から見た第2表示プレートの側面図である。
図4(c)は、第2辺側から見た第2表示プレートの側面図である。
【
図5】
図5(a)は、並設される2機のエスカレータの2つの乗降口における表示プレートを用いた表示例1の説明図である。
図5(b)は、表示例2の説明図である。
【
図6】
図6(a)は、表示例3の説明図である。
図6(b)は、表示例4の説明図である。
【
図7】
図7(a)は、表示例5の説明図である。
図7(b)は、表示例6の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る一実施形態として、乗客コンベアの一つであるエスカレータについて、
図1ないし
図7を参酌して説明する。
【0018】
図1に示すように、エスカレータ1は、トラス(図示しない)と、搬送部2と、ハンドレール部3と、乗降口4とを備える。トラスは、エスカレータ1の自重及び積載荷重を支える構造体である。搬送部2は、トラスに支持され、踏面が通路に沿って移動することにより、乗客をその位置に立たせたまま歩かせることなく搬送する。ハンドレール部3も、トラスに支持され、通路の左右に通路に沿って設けられる。乗降口4は、トラスの両端部の上部に設けられる。本実施形態においては、エスカレータ1は、乗客を手前から奥(階下から階上)に搬送する設定となっている。このため、エスカレータ1は、手前から奥に、乗り口4A、搬送部2、降り口4Bを備える。設定を逆に切り替えると、乗り口4Aは降り口に、降り口4Bは乗り口に切り替わり、乗客を奥から手前(階上から階下)に搬送する設定となる。
【0019】
トラスは、上弦材、下弦材、縦材、斜材及び横桁を適宜組み合わせた骨組構造である。トラスは、2つの水平端部と、傾斜部とを備える。一方の水平端部は、建築物における階上の支持架台に掛けられ、他方の水平端部は、階下の支持架台に掛けられる。これにより、トラス、ひいてエスカレータ1は、建築物に設置される。
【0020】
搬送部2は、無端搬送体20を備える。無端搬送体20は、複数の踏段(ステップ)21,…が無端状に連結されたもので、循環駆動される。ハンドレール部3は、ハンドレール30と、欄干パネル31とを備える。ハンドレール30は、移動手摺とも呼ばれ、可撓性を有する無端状で、無端搬送体20と連動して循環駆動される。欄干パネル31は、下辺部がトラスに支持され、ハンドレール30を循環移動可能に支持する。
【0021】
乗降口4は、トラスの水平端部の上部に設けられる。乗降口4は、フロアプレート40を備える。フロアプレート40は、乗降口4の床を構成し、通路の端部(始端部及び終端部)を構成する。フロアプレート40の前端は、乗降口4と搬送部2との境界を画する。
【0022】
フロアプレート40は、第1プレート41と、第2プレート45とを備える。第1プレート41は、フロアプレート40の大半を占める大きさを有する。第2プレート45は、コムプレートとも呼ばれ、後端が第1プレート41の前端に突き合わせられるように配置される。第1プレート41及び第2プレート45は、たとえば、鉄、ステンレス又はアルミニウムを素材とする金属製のプレートである。
【0023】
第1プレート41は、トラスの水平端部に載置され、容易に取り外すことができ、トラスの水平端部内を開閉可能に設けられる。第1プレート41が取り外された状態では、トラスの水平端部内に配置される無端搬送体20の折返し端部にアクセス可能となる。
【0024】
第1プレート41は、前後方向において適宜の枚数に分割される。言い換えれば、第1プレート41は、左右方向に長い帯板状であり、複数枚の第1プレート41,…が前後方向に並んで配置されることにより、1つの広範なプレートが構成される。本実施形態においては、2枚の第1プレート41,41が用いられる。
【0025】
第2プレート45は、左右方向に長い帯板状である。第2プレート45は、トラスの水平端部に取り付けられ、簡単には取り外すことができないように固定される。第2プレート45の上面は、後端から前端にかけての途中から緩やかな下り傾斜面となる。第2プレート45の前端部には、櫛歯状のコム46が取り付けられる。コム46は、左右方向において複数に分割され、それぞれが矩形状(長方形状)を有する。複数のコム46,…は、左右方向に並んで配置されることにより、第2プレート45の前端部に沿った左右方向に長い帯状となる。
【0026】
図2に示すように、第1プレート41は、本体プレート42と、複数枚(本実施形態においては、2枚)の表示プレート43,…とを備える。本体プレート42は、第1プレート41の主体をなし、左右方向に長い帯板状であり、両端部がトラスの水平端部に載置される。表示プレート43は、本体プレート42の両端部を除く領域上に着脱自在に取り付けられる。
【0027】
本体プレート42は、段差凹部42aを備える。段差凹部42aは、本体プレート42の前端と後端とに亘って形成され、左右方向の幅が(本体プレート42の前後方向の幅×表示プレート43の枚数)と等しい横長の長方形状を有する。表示プレート43は、一辺の長さが本体プレート42の前後方向の幅と等しい正方形状を有する。すなわち、段差凹部42aは、複数枚(本実施形態においては、2枚)の表示プレート43,…を横並びで収容配置可能である。
【0028】
表示プレート43は、皿ネジ44により段差凹部42aに取り付けられ、皿ネジ44による締結を解除することにより、取り外すことができる。なお、皿ネジとは、頭部の上面が平らで、座面部分が円錐状になっている形状のネジである。表示プレート43には、皿ネジ44の座面部分に対応して円錐状のネジ挿通孔が形成される。ネジ挿通孔は、表示プレート43の中心を中心とした点対称位置(本実施形態においては、表示プレート43の四隅位置)に形成される。段差凹部42aの該当箇所には、ネジ孔が形成される。これにより、表示プレート43は、角度差90度の4つの向きのいずれかを選択して本体プレート42(の段差凹部42a)上に取り付けることができる。
【0029】
表示プレート43は、本体プレート42と同様、たとえば、鉄、ステンレス又はアルミニウムを素材とする金属製のプレートである。あるいは、表示プレート43は、硬質樹脂製又はゴム製のプレートであってもよい。
【0030】
表示プレート43は、
図3に示される第1表示プレート43Aと、
図4に示される第2表示プレート43Bの2種類がある。いずれも、上述のとおり、正方形状を有し、第1辺43a、第2辺43b、第3辺43c及び第4辺43dを有する。
【0031】
図3に示すように、第1表示プレート43Aは、上面に複数の凸部430,…を備える。複数の凸部430,…は、互いに間隔を有して配置され、第1表示プレート43Aと一体的に形成される。凸部430は、正面視にて一方向(本実施形態においては、第1辺43a及び第3辺43cに沿う方向)に長くかつ幅又は高さのいずれか又は両方(本実施形態においては、両方)が一端側から他端側に向かって小さくなる形状(本実施形態においては、平面視にて二等辺三角形状)を有する。
【0032】
凸部430は、上面430aと、左右の側面430b,430bと、後端面430cとを有する。上面430aの水平面に対する傾斜角度αは、1度以上7度以下である。側面430bの上記一方向に対する傾斜角度βは、2度以上11度以下である。凸部430の高さhは、5mm以上である。
【0033】
図4に示すように、第2表示プレート43Bも、上面に複数の凸部430,…を備える。複数の凸部430,…は、互いに間隔を有して配置され、第2表示プレート43Bと一体的に形成される。凸部430は、正面視にて一方向(本実施形態においては、第1辺43a及び第3辺43cに沿う方向)に長くかつ幅及び高さが一定の形状(本実施形態においては、平面視にて長方形状)を有する。
【0034】
凸部430は、上面430aと、左右の側面430b,430bと、前後の端面430d,430dとを有する。上面430aの水平面に対する傾斜角度は、実質0度である。側面430bの上記一方向に対する傾斜角度も、実質0度である。凸部430の高さhは、第1表示プレート43Aの凸部430の高さhと同様、5mm以上である。
【0035】
なお、離れたところから視認性向上を目的として、第1表示プレート43A及び第2表示プレート43Bにおいて、凸部430の表面に着色が施される、あるいは、凸部430ではない平面領域に着色が施されるようにしてもよい。
【0036】
本実施形態に係るエスカレータ1は、以上の構成からなる。次に、2機のエスカレータ1,1が並設され、2つの乗降口4,4が横に並ぶ形態における表示プレート43を用いた表示例について説明する。
【0037】
図5(a)に示す表示例1では、左のエスカレータ1A、右のエスカレータ1Bともに下りであり、左のエスカレータ1Aの乗り口4Aと右のエスカレータ1Bの降り口4Bとが横に並ぶ。i)左のエスカレータ1Aの乗り口4Aには、複数枚(本実施形態においては、2枚の第1プレート41,41のそれぞれに2枚、合計4枚)の第1表示プレート43A,…が、凸部430が縦配置となる向きかつ凸部430の幅及び高さが無端搬送体20に向かって小さくなる向き、すなわち、凸部430の尖端が無端搬送体20を向く向きで(請求項1の第1形状、請求項3の第2形状に相当)、用いられる。ii)右のエスカレータ1Bの降り口4Bには、複数枚の第2表示プレート43B,…が、凸部430が横配置となる向きで(請求項1の第2形状に相当)、用いられる。
【0038】
図5(b)に示す表示例2では、左のエスカレータ1A、右のエスカレータ1Bともに上りであり、左のエスカレータ1Aの降り口4Bと右のエスカレータ1Bの乗り口4Aとが横に並ぶ。i)左のエスカレータ1Aの降り口4Bには、複数枚の第2表示プレート43B,…が、凸部430が横配置となる向きで(請求項1の第2形状に相当)、用いられる。ii)右のエスカレータ1Bの乗り口4Aには、複数枚の第2表示プレート43B,…が、凸部430が縦配置となる向きで(請求項1の第1形状、請求項3の第1形状に相当)、用いられる。
【0039】
図6(a)に示す表示例3では、左のエスカレータ1Aは下り、右のエスカレータ1Bは上りであり、左のエスカレータ1Aの乗り口4Aと右のエスカレータ1Bの乗り口4Aとが横に並ぶ。i)左のエスカレータ1Aの乗り口4Aには、複数枚の第1表示プレート43A,…が、凸部430が縦配置となる向きかつ凸部430の幅及び高さが無端搬送体20に向かって小さくなる向き、すなわち、凸部430の尖端が無端搬送体20を向く向きで(請求項1の第1形状、請求項3の第2形状に相当)、用いられる。ii)右のエスカレータ1Bの乗り口4Aには、複数枚の第2表示プレート43B,…が、凸部430が縦配置となる向きで(請求項1の第1形状、請求項3の第1形状に相当)、用いられる。
【0040】
図6(b)に示す表示例4では、左のエスカレータ1Aは上り、右のエスカレータ1Bは下りであり、左のエスカレータ1Aの降り口4Bと右のエスカレータ1Bの降り口4Bとが横に並ぶ。i)左のエスカレータ1Aの降り口4Bには、複数枚の第2表示プレート43B,…が、凸部430が横配置となる向きで(請求項1の第2形状に相当)、用いられる。ii)右のエスカレータ1Bの降り口4Bには、複数枚の第2表示プレート43B,…が、凸部430が横配置となる向きで(請求項1の第2形状に相当)、用いられる。
【0041】
図7(a)に示す表示例5では、左のエスカレータ1A、右のエスカレータ1Bともに下りであり、左のエスカレータ1Aの乗り口4Aと右のエスカレータ1Bの降り口4Bとが横に並ぶ。i)左のエスカレータ1Aの乗り口4Aには、複数枚の第1表示プレート43A,…が、凸部430が縦配置となる向きかつ凸部430の幅及び高さが無端搬送体20に向かって小さくなる向き、すなわち、凸部430の尖端が無端搬送体20を向く向きで(請求項1の第1形状、請求項3の第2形状に相当)、用いられる。ii)右のエスカレータ1Bの降り口4Bには、複数枚の第1表示プレート43A,…が、凸部430が横配置となる向きかつ凸部430の幅及び高さが左隣の乗り口4Aに向かって小さくなる向き、すなわち、凸部430の尖端が左隣の乗り口4Aを向く向きで(請求項1の第2形状、請求項4の第4形状に相当)、用いられる。
【0042】
図7(b)に示す表示例6では、左のエスカレータ1A、右のエスカレータ1Bともに上りであり、左のエスカレータ1Aの降り口4Bと右のエスカレータ1Bの乗り口4Aとが横に並ぶ。i)左のエスカレータ1Aの降り口4Bには、複数枚の第1表示プレート43A,…が、凸部430が横配置となる向きかつ凸部430の幅及び高さが右隣の乗り口4Aに向かって小さくなる向き、すなわち、凸部430の尖端が右隣の乗り口4Aを向く向きで(請求項1の第2形状、請求項4の第3形状に相当)、用いられる。ii)右のエスカレータ1Bの乗り口4Aには、複数枚の第1表示プレート43A,…が、凸部430が縦配置となる向きかつ凸部430の幅及び高さが無端搬送体20に向かって大きくなる向き、すなわち、凸部430の尖端が無端搬送体20と反対側を向く向きで(請求項1の第1形状、請求項3の第1形状に相当)、用いられる。
【0043】
以上のとおり、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、表示プレート43の凸部430が第1表示プレート43Aに係る形状(平面視にて二等辺三角形状)かつ縦配置又は第2表示プレート43Bに係る形状(平面視にて長方形状)かつ縦配置のいずれである場合も、視覚障害者の足裏の感覚は抵抗感が小さいものとなる。これにより、視覚障害者は、進んでよいということを経験的に認識し、ここは乗り口4Aであることを把握する。他方、表示プレート43の凸部430が第1表示プレート43Aに係る形状かつ横配置又は第2表示プレート43Bに係る形状かつ横配置のいずれである場合も、視覚障害者の足裏の感覚は抵抗感が大きいものとなる。これにより、視覚障害者は、進んではいけないということを経験的に認識し、ここは降り口4Bであることを把握する。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、乗り口4Aか降り口4Bかを容易に判別することができる。
【0044】
また、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、表示プレート43の凸部430が第1表示プレート43Aに係る形状かつ縦配置又は第2表示プレート43Bに係る形状かつ縦配置のいずれである場合も、視覚障害者の足裏の感覚は抵抗感が小さいものとなる。また、表示プレート43の凸部430が第1表示プレート43Aに係る形状かつ縦配置である場合と第2表示プレート43Bに係る形状かつ縦配置である場合とで、あるいは、表示プレート43の凸部430が第1表示プレート43Aに係る形状かつ順縦配置である場合と第1表示プレート43Aに係る形状かつ逆縦配置である場合とで、視覚障害者の足裏の感覚は異なるものとなる。ここで、第2表示プレート43Bに係る形状かつ縦配置は、エスカレータ1の上りに対応した表示形態であり、第1表示プレート43Aに係る形状かつ順縦配置は、エスカレータ1の下りに対応した表示形態である、と視覚障害者が事前に把握しているとする。あるいは、第1表示プレート43Aに係る形状かつ逆縦配置は、エスカレータ1の上りに対応した表示形態であり、第1表示プレート43Aに係る形状かつ順縦配置は、エスカレータ1の下りに対応した表示形態である、と視覚障害者が事前に把握しているとする。あるいは、第1表示プレート43Aに係る形状かつ逆縦配置は、視覚障害者に上向きの感覚を与える形状であり、第1表示プレート43Aに係る形状かつ順縦配置は、視覚障害者に下向きの感覚を与える形状である。そうすると、表示プレート43の凸部430が第2表示プレート43Bに係る形状かつ縦配置である場合や第1表示プレート43Aに係る形状かつ逆縦配置である場合、視覚障害者は、ここは上りのエスカレータ1の乗り口4Aであると把握する。他方、表示プレート43の凸部430が第1表示プレート43Aに係る形状かつ順縦配置である場合、視覚障害者は、ここは下りのエスカレータ1の乗り口4Aであると把握する。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、上りか下りかを容易に判別することができる。
【0045】
また、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、第1表示プレート43Aに係る形状かつ横配置は、視覚障害者に進んではいけないという感覚とともに左向き又は右向きの感覚を与える形状である。そして、その尖端は隣のエスカレータ1の乗り口4Aを向いている。このため、本実施形態に係るエスカレータ1によれば、視覚障害者が誤って降り口4Bに進入したとしても、視覚障害者を乗り口4Aに誘導するという効果がある。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0047】
上記実施形態においては、表示例として、2機のエスカレータ1,1が並設され、2つの乗降口4,4が横に並ぶ形態について説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、1機の場合にも適用することができるのは言うまでもない。
【0048】
また、上記実施形態においては、第1プレート41は2枚である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。第1プレート41は、3枚、4枚といった複数枚であってもよく、あるいは、分割されていない広範な1枚であってもよい。
【0049】
また、上記実施形態においては、表示部は、第1プレート41に設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。表示部は、第2プレート45にも設けられるようにしてもよい。ただし、視覚障害者が早期に判別できるようにするためには、表示部は、できるだけ無端搬送体から離れた箇所に設けられるのが好ましい。
【0050】
また、上記実施形態においては、表示プレート43は、2枚の第1プレート41,41のそれぞれに2枚、合計4枚用いられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。表示プレートの枚数、大きさは、乗降口の大きさや設置状況に応じて適宜決定される事項である。もちろん、表示プレートは、分割されていない広範な1枚でもあり得る。
【0051】
また、上記実施形態においては、表示プレート43は、第1プレート41の本体プレート42に収まる大きさである。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。表示プレートは、複数枚の第1プレートに跨る大きさであってもよい。
【0052】
また、上記実施形態においては、表示部は、第1プレート41の本体プレート42とは別体の表示プレート43である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。表示部は、第1プレートに一体的に形成されるものであってもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、乗客コンベアは、エスカレータである。しかし、本発明は、動く歩道にも適用できることは言うまでもない。なお、動く歩道は、水平搬送が一般的であるが、エスカレータと同様、傾斜搬送のものもある。
【符号の説明】
【0054】
1…エスカレータ、1A…左のエスカレータ、1B…右のエスカレータ、2…搬送部、20…無端搬送体、21…踏段、3…ハンドレール部、30…ハンドレール、31…欄干パネル、4…乗降口、4A…乗り口、4B…降り口、40…フロアプレート、41…第1プレート、42…本体プレート、42a…段差凹部、43…表示プレート、43A…第1表示プレート、43B…第2表示プレート、43a…第1辺、43b…第2辺、43c…第3辺、43d…第4辺、43e…ネジ挿通孔、430…凸部、430a…上面、430b…側面、430c…後端面、430d…端面、44…皿ネジ、45…第2プレート、46…コム、α…凸部430の上面430aの傾斜角度、β…凸部430の側面430bの傾斜角度、h…凸部430の高さ