(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】電気配線における火災に先行する放電の検出
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20240611BHJP
G01R 31/12 20200101ALI20240611BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G08B17/00 M
G01R31/12 A
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2021500489
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 US2019023215
(87)【国際公開番号】W WO2019183251
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-04
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520364288
【氏名又は名称】ウィスカー ラブズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WHISKER LABS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】マーシャル、ロバート エス.
(72)【発明者】
【氏名】スループ、クリストファー デイル
(72)【発明者】
【氏名】ヘックマン、スタン
(72)【発明者】
【氏名】ビクスラー、ドニー
(72)【発明者】
【氏名】ホップマン、エリック
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】特公平08-030729(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2007/0052425(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0067291(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0247767(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0005278(KR,A)
【文献】特開2002-300717(JP,A)
【文献】韓国登録特許第1824718(KR,B1)
【文献】特開2007-121189(JP,A)
【文献】特開2014-241062(JP,A)
【文献】特開2010-262388(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0036472(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/98251(US,A1)
【文献】米国特許第5537327(US,A)
【文献】特開2001-45652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/35988(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R19/00-19/32
31/08-31/20
G08B17/00
19/00-31/00
H02H3/08-3/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気配線における電気火災に先行する放電を検出するためのシステムであって、
回路に結合された1つまたは複数のセンサデバイスであって、各センサデバイスは、
前記回路上の電気的活性によって生成された全電圧サイクル波形を検出し、ここで、前記1つまたは複数のセンサデバイスは、前記全電圧サイクル波形が閾値に到達したことを検出すると、20MHzを超える周波数で前記全電圧サイクル波形をサンプリングし、
前記全電圧サイクル波形の複数のサンプルを使用して1つまたは複数の過渡信号を識別することであって、
a)第1の全電圧サイクル波形の前記複数のサンプルを複数のビンに分割すること、
b)前記複数のビンの各々におけるサンプル
の最大
振幅を決定すること、
c)他の全電圧サイクル波形の各々についてa)~
b)のステップを繰り返
すこと、
d)
前記全電圧サイクル波形の全てにわたる各ビンについての前記サンプルの最大振幅を決定すること、
e)各ビンについての前
記最大
振幅を使用して前記複数のビンにわたる微分波形データを算出すること、
f)前記微分波形データ
を使用して前記過渡信号を識別すること、を含んで前記1つまたは複数の過渡信号を識別し、
識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成するように構成されている、前記1つまたは複数のセンサデバイスと、
前記1つまたは複数のセンサデバイスに通信可能に結合されたサーバコンピューティングデバイスであって、前記サーバコンピューティングデバイスは、
各センサデバイスから前記1つまたは複数の過渡特性を受信し、
過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別し、
前記1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成するように構成されている、前記サーバコンピューティングデバイスと、を備えるシステム。
【請求項2】
前記1つまたは複数のセンサデバイスが、10MHzから100MHzの間の範囲の周波数で前記全電圧サイクル波形をサンプリングする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記1つまたは複数のセンサデバイスは、前記全電圧サイクル波形が閾値に到達したことを検出すると、80MHzで前記全電圧サイクル波形をサンプリングする、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記全電圧サイクル波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別することは、
閾値を超える前記全電圧サイクル波形の1つまたは複数のサンプルを識別すること、
識別された1つまたは複数のサンプルを格納することを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記1つまたは複数のセンサデバイスは、前記全電圧サイクル波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別し、前記センサデバイスのメモリモジュールに格納された過渡検出プロファイルを使用して、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数のセンサデバイスから受信した過渡特性に基づいて更新された過渡検出プロファイルを生成し、更新された過渡検出プロファイルを前記1つまたは複数のセンサデバイスの各々に送信する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記1つまたは複数のセンサデバイスは、更新された過渡検出プロファイルを適用して、1つまたは複数の信号波形内の後続の過渡信号を識別して、1つまたは複数の過渡特性を生成する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記サーバコンピューティングデバイスは、前記1つまたは複数のアラート信号をリモートコンピューティングデバイスに送信する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記サーバコンピューティングデバイスは、前記1つまたは複数のアラート信号を前記1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つに送信する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つは、前記1つまたは複数のアラート信号のうちの少なくとも1つを受信すると、視覚的インジケータを作動させる、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記視覚的インジケータは、前記1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つの発光ダイオード(LED)コンポーネントである、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の機械学習アルゴリズムを使用して、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別する、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
コンピュータが実行する、電気配線の電気火災に先行する放電を検出する方法であって、
回路に結合された1つまたは複数のセンサデバイスの各々によって、前記回路上の電気的活性によって生成された全電圧サイクル波形を検出するステップと、ここで、前記1つまたは複数のセンサデバイスは、前記全電圧サイクル波形が閾値に到達したことを検出すると、20MHzを超える周波数で前記全電圧サイクル波形をサンプリングし、
前記1つまたは複数のセンサデバイスの各々によって、前記全電圧サイクル波形の複数のサンプルを使用して1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別するステップであって、
a)第1の全電圧サイクル波形の前記複数のサンプルを複数のビンに分割すること、
b)前記複数のビンの各々におけるサンプル
の最大
振幅を決定すること、
c)他の全電圧サイクル波形の各々についてa)~
b)のステップを繰り返
すこと、
d)全電圧サイクル波形の全てにわたる各ビンについての前記サンプルの最大振幅を決定すること、
e)各ビンについての前
記最大
振幅を使用して前記複数のビンにわたる微分波形データを算出すること、
f)前記微分波形データ
を使用して前記過渡信号を識別すること、を含む前記1つまたは複数の過渡信号を識別するステップと、
前記1つまたは複数のセンサデバイスの各々によって、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成するステップと、
前記1つまたは複数のセンサデバイスに通信可能に結合されたサーバコンピューティングデバイスによって、各センサデバイスから1つまたは複数の過渡特性を受信するステップと、
前記サーバコンピューティングデバイスによって、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別するステップと、
前記サーバコンピューティングデバイスによって、前記1つまたは複数の放電の兆候が識別されたときに、1つまたは複数のアラート信号を生成するステップと、を含む方法。
【請求項14】
前記1つまたは複数のセンサデバイスは、10MHzから100NHzの間の周波数で前記全電圧サイクル波形をサンプリングする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記1つまたは複数のセンサデバイスは、前記全電圧サイクル波形が閾値に到達したことを検出すると、80MHzで前記全電圧サイクル波形をサンプリングする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記全電圧サイクル波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別するステップは、
閾値を超える前記全電圧サイクル波形の1つまたは複数のサンプルを識別すること、
識別された1つまたは複数のサンプルを格納することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1つまたは複数のセンサデバイスは、前記全電圧サイクル波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別し、前記センサデバイスのメモリモジュールに格納された過渡検出プロファイルを使用して、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数のセンサデバイスから受信した過渡特性に基づいて更新された過渡検出プロファイルを生成し、更新された過渡検出プロファイルを前記1つまたは複数のセンサデバイスの各々に送信する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1つまたは複数のセンサデバイスは、更新された過渡検出プロファイルを適用して、1つまたは複数の信号波形内の後続の過渡信号を識別して、1つまたは複数の過渡特性を生成する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記サーバコンピューティングデバイスは、前記1つまたは複数のアラート信号をリモートコンピューティングデバイスに送信する、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記サーバコンピューティングデバイスは、前記1つまたは複数のアラート信号を前記1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つに送信する、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つは、前記1つまたは複数のアラート信号のうちの少なくとも1つを受信すると、視覚的インジケータを作動させる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記視覚的インジケータが、前記1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つの発光ダイオード(LED)コンポーネントである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の機械学習アルゴリズムを使用して、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別する、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の主題は、概して、電気配線におけるアーク故障を含む初期段階の放電の検出に関連している。
【背景技術】
【0002】
米国消防局国立消防データセンタ(https://www.usfa.fema.gov/downloads/pdf/statistics/v14i13.pdf)が発表した統計によると、住宅用電気配線におけるアーク放電は電気火災の70%以上を占めており、これは、生命および財産に対する最も危険な脅威の1つである。アーク故障(アークとも呼ばれる)は、2つ以上の導体間で発生する高出力の連続的な放電であり、一般的に、住宅の建物内で、電線または絶縁の完全性が損なわれた場合(例えば、物理的損傷、水害、腐食、経年劣化、または接触不良など)に発生する。落雷や電力サージなどの事象も、絶縁の破壊を引き起こし、配線の損傷につながる可能性がある。損傷した配線の結果として、小さな散発的な放電が発生し始め、配線を囲む絶縁材料が炭化する。放電が時間の経過とともに継続するにつれて、絶縁がますます侵食され、放電の強度が増加する。最終的に、強い放電は配線内に形成される連続的なアーク故障となり、その結果、大量の電流が流れ、大量のエネルギーが放出される(それに応じて高温になる)。配線が木枠、断熱材、および/または同様の可燃性材料に近接していることに起因して、アークによって生成される温度が十分に高い場合、それらは火災を発生させる可能性がある。アーク放電を発生させるのに十分な大きさになる前に、数日、数週間、または数か月間に発生する可能性のある小さな放電を検出し、警告することができれば、電気火災を防止する上で大きな利点になる(非特許文献1において説明されている)。
【0003】
上記の放電は、並列放電、直列放電、およびラインからアースへの放電を含む様々な方法で発生し得る。並列放電は、導体間の電圧差が大きいために、ガスまたは誘電体材料を介して(通常は、損傷した絶縁体または空気を介して)電流/電子が1つの導体から別の導体に流れるときに発生する。
図1Aは並列放電の図である。電気回路は2本の配線102a、102bを有し、各配線は絶縁材料によって囲まれている。配線間の絶縁が破壊されると、配線間で放電(放電104など)が発生し得る。並列放電の例には、炭化(即ち、絶縁材料の破壊)および湿式トラッキング(即ち、電流の形成を可能にする配線の表面上の水分)が含まれる。
【0004】
直列放電は、単一の導体が、導体を通る抵抗が増加し、かつ導体内および周囲の絶縁内(または導体が露出している場合は、外部の物体にも)に放電が発生するのに十分な高電圧差が生じる程度に損傷したときに発生する。
図1Bは、直列放電の図である。電気回路は、放電108を発生させる損傷した配線106を含む。直列放電の例には、地上熱分解(即ち、導体から近くの木材に流れる電流)、および寿命となったより線(即ち、発熱および発火性ガスの増加をもたらす配線の破損)が含まれる。特殊なタイプの直列放電は、(
図1Cにおいて示されるような)グローイング接続(glowing connection)と呼ばれる現象で発生する。このような場合、導体は接触しているが、共に堅固に接続されていない。界面の境界に酸化物層が形成され、接合部の導体の抵抗が増加する。電流が界面を介して流れる場合、温度が危険なレベル(例えば、白色領域110は、電気コンセントにおける高温を示す)まで上昇し、付近の材料を発火させて破壊的な火災を引き起こす可能性がある。放電が進行して火災が発生してからでは、対策を講じて損失を防止するには遅すぎる。電気配線におけるこのような放電の発生をできるだけ早期に検出して、対策を講じることが重要である。
【0005】
アーク故障回路遮断器(AFCI:arc-fault circuit interrupters)などの技術は、現在、アーク故障などの初期段階の放電を検出するために存在する。AFCI技術を搭載した電気コンセントでは、AFCIが回路内のアーク故障を検出し、そのような故障を検出すると回路を遮断して、電気火災の発生を防止する。しかしながら、AFCIは比較的高価であり、個々の回路上の放電を検出するには、建物内の各回路に設置する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】ヤーランス・アール・エイ(Yereance,R.A.)およびケルクホフ・ティー(Kerkhoff,T.)、「電気火災分析(Electrical Fire Analysis)」、第3版、206頁、チャールズ・シー・トーマス社(Charles C.Thomas)、イリノイ州、スプリングフィールド、2010年
【発明の概要】
【0007】
従って、住宅および他の建物に見られるような電気配線システムにおいて火災が発生するのに十分な大きさの放電となる前に、初期段階の放電を検出する方法およびシステムが必要とされる。本明細書に記載の方法およびシステムは、電気配線の放電が形成され始めたときに、放電を初期段階で検出するという利点を提供し、これにより、潜在的な火災の危険性の迅速な通知を可能にする。さらに、本明細書に記載される技術は、放電に関する電気配線システムの長期自動監視(数週間、数か月、数年など)を行って、建物の電気配線システムの活性および傾向に関する詳細情報を取得することを可能にし、これには、異なる放電の重大度レベルを区別する能力、絶縁の炭化および放電の発生を開始し得るサージ、サグ、電圧低下などの事象の監視、放電の検出と住宅内で稼働している電気機器およびデバイスの動作との相関(例えば、アーク放電は、空調ユニットなどのデバイス内で発生する可能性があり、長期モニタリングは、放電を空調ユニットの動作と相関させる機会を提供し、デバイスは、複数の住宅にわたる監視からの情報を集約することにより、送電網上の電気的問題を相関させることができる)が含まれる。また、いくつかの実施形態において、システムは、複雑で、高価で、または危険な他のデバイスまたは監視コンポーネントの設置の代わりに、既存のコンセントに差し込む単一の監視デバイスを利用する。
【0008】
本発明は、一態様では、電気配線における電気火災に先行する放電を検出するためのシステムを特徴とする。システムは、回路に結合された1つまたは複数のセンサデバイスを含み、各センサデバイスは、回路上の電気的活性(electrical activity)によって生成された1つまたは複数の信号波形を検出するように構成される。各センサデバイスは、1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別するように構成され、各センサデバイスは、1つまたは複数の過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成するように構成される。システムは、1つまたは複数のセンサデバイスに通信可能に結合されたサーバコンピューティングデバイスを含む。サーバコンピューティングデバイスは、各センサデバイスから過渡特性を受信するように構成されている。サーバコンピューティングデバイスは、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別するように構成されている。サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成するように構成されている。
【0009】
本発明は、別の態様では、コンピュータが実行する、電気配線における電気火災に先行する放電を検出する方法を特徴とする。回路に結合された1つまたは複数のセンサデバイスは、回路の電気的活性によって生成された1つまたは複数の信号波形を検出する。各センサデバイスは、1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別し、各センサデバイスは、1つまたは複数の過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成する。1つまたは複数のセンサデバイスに通信可能に結合されたサーバコンピューティングデバイスは、各センサデバイスから1つまたは複数の過渡特性を受信する。サーバコンピューティングデバイスは、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別する。サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成する。
【0010】
本発明は、別の態様では、電気配線における電気火災に先行する放電を検出するためのセンサデバイスであって、回路に結合されたセンサデバイスを特徴とする。センサデバイスは、回路上の電気的活性を感知して、電気的活性の1つまたは複数の信号波形を検出するモジュールを含む。センサデバイスは、1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別し、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成し、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別し、1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成するプロセッサを備える。
【0011】
本発明は、別の態様では、電気配線における電気火災に先行する放電を検出するためのシステムを特徴とする。システムは、回路に結合された1つまたは複数のセンサデバイスを含み、各センサデバイスは、回路上の電気的活性によって生成された1つまたは複数の信号波形を検出するように構成される。システムは、1つまたは複数のセンサデバイスに通信可能に結合されたサーバコンピューティングデバイスを含む。サーバコンピューティングデバイスは、各センサデバイスから1つまたは複数の信号波形を受信する。サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の信号波形を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別する。サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成する。
【0012】
本発明は、別の態様では、コンピュータが実行する、電気配線における電気火災に先行する放電を検出する方法を特徴とする。回路に結合された1つまたは複数のセンサデバイスは、回路上の電気的活性によって生成された1つまたは複数の信号波形を検出する。1つまたは複数のセンサデバイスに通信可能に結合されたサーバコンピューティングデバイスは、各センサデバイスから1つまたは複数の信号波形を受信する。サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の信号波形を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別する。サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成する。
【0013】
本発明は、別の態様では、電気配線における電気火災に先行する放電を検出するためのセンサデバイスを特徴とする。センサデバイスは、回路上の電気的活性によって生成された1つまたは複数の信号波形を検出するモジュールを備える。センサデバイスは、各センサデバイスから1つまたは複数の信号波形を受信し、1つまたは複数の信号波形を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別し、1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成するプロセッサを備える。
【0014】
上記の態様のいずれも、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含むことができる。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の信号波形が、全電圧サイクル波形を含む。いくつかの実施形態において、1つまたは複数のセンサデバイスは、10MHzから100MHzの間の範囲の周波数で全電圧サイクル波形をサンプリングする。
【0015】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別することは、a)全電圧サイクル波形のサンプルを複数のビンに分割すること、b)複数のビンの各々に対する平均値および最大値を決定すること、c)平均値と最大値との差を決定すること、d)全電圧サイクル波形の他の複数のサンプルの各々についてa)~c)のステップを繰り返して、全てのサンプルにわたる各ビンに関する累積最大値を決定すること、e)複数のビンにわたる各累積最大値の微分(derivative)を決定することを含む。いくつかの実施形態において、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成することは、全電圧サイクル波形の電圧サイクルにわたる平均過渡振幅を決定すること、および電圧サイクル内の複数の位相セクションに関する平均過渡振幅を決定することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別することは、電圧サイクルのゼロ交差付近の平均ピーク過渡に対する、最大電圧付近の1つまたは複数の位相セクションにおける平均ピーク過渡の比率を決定すること、および比率が所定の閾値を超えている場合に、最大電圧付近の1つまたは複数の位相セクションにおける平均ピーク過渡を放電の兆候として識別することを含む。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の放電の兆候が識別されたときに、1つまたは複数のアラート信号を生成することは、所定の時間内に発生した識別された放電の兆候の数を決定すること、および識別された放電の兆候の数に基づいて1つまたは複数のアラート信号を生成することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別することは、a)全電圧サイクルにわたる全電圧信号波形のサンプルの微分を決定すること、b)全電圧サイクル波形のサンプルを複数のビンに分割すること、c)複数のビンの各々に対する最大値を決定すること、d)全電圧サイクル波形の他の複数のサンプルの各々についてa)~c)のステップを繰り返して、全てのサンプルにわたる各ビンに関する累積最大値を決定すること、e)複数のビンにわたる各累積最大値の微分を決定することを含む。いくつかの実施形態において、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成することは、全電圧サイクル波形の電圧サイクルにわたる平均過渡振幅を決定すること、および電圧サイクル内の複数の位相セクションに関する平均過渡振幅を決定することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別することは、電圧サイクルのゼロ交差付近の平均ピーク過渡に対する、最大電圧付近の1つまたは複数の位相セクションにおける平均ピーク過渡の比率を決定すること、および比率が所定の閾値を超えている場合に、最大電圧付近の1つまたは複数の位相セクションにおける平均ピーク過渡を放電の兆候として識別することを含む。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の放電の兆候が識別されたときに、1つまたは複数のアラート信号を生成することは、所定の時間内に発生した識別された放電の兆候の数を決定すること、および識別された放電の兆候の数に基づいて1つまたは複数のアラート信号を生成することを含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数のセンサデバイスは、1つまたは複数の信号波形が閾値に到達したことを検出すると、80MHzで全電圧サイクル波形をサンプリングする。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別することは、閾値を超える全電圧サイクル波形の1つまたは複数のサンプルを識別すること、および識別された1つまたは複数のサンプルを格納することを含む。いくつかの実施形態において、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成することは、識別された各サンプルに対して、識別されたサンプルのピークの数を決定すること、識別されたサンプルのピークの立ち上がり時間を決定すること、識別されたサンプルのパルス幅を決定すること、および識別されたサンプルの積分を決定することを含む。いくつかの実施形態において、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別することは、識別されたサンプルのピークの数が所定の閾値を超え、かつ識別されたサンプルにおけるピークの立ち上がり時間が所定の閾値を超えたときに、識別されたサンプルを放電の兆候として分類することを含む。いくつかの実施形態において、1つまたは複数の放電の兆候が識別されたときに、1つまたは複数のアラート信号を生成することは、所定の時間内に発生した識別された放電の兆候の数を決定すること、および識別された放電の兆候の数に基づいて1つまたは複数のアラート信号を生成することを含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数のセンサデバイスは、1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別し、センサデバイスのメモリモジュールに格納された過渡検出プロファイルを使用して、識別された過渡信号に基づいて1つまたは複数の過渡特性を生成する。いくつかの実施形態において、サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数のセンサデバイスから受信した過渡特性に基づいて更新された過渡検出プロファイルを生成し、更新された過渡検出プロファイルを1つまたは複数のセンサデバイスの各々に送信する。いくつかの実施形態において、1つまたは複数のセンサデバイスは、更新された過渡検出プロファイルを適用して、1つまたは複数の信号波形内の後続の過渡信号を識別して、1つまたは複数の過渡特性を生成する。
【0021】
いくつかの実施形態において、サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数のアラート信号をリモートコンピューティングデバイスに送信する。いくつかの実施形態において、サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数のアラート信号を1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つに送信する。いくつかの実施形態において、1つまたは複数のセンサデバイスの少なくとも1つは、1つまたは複数のアラート信号の少なくとも1つを受信すると、視覚的インジケータを作動させる。いくつかの実施形態において、視覚的インジケータは、1つまたは複数のセンサデバイスのうちの少なくとも1つの発光ダイオード(LED)コンポーネントである。いくつかの実施形態において、サーバコンピューティングデバイスは、1つまたは複数の機械学習アルゴリズムを使用して、1つまたは複数の信号波形を分析して、1つまたは複数の放電の兆候を識別する。
【0022】
本発明の他の態様および利点は、添付の図面と併せて、例示のためのみに本発明の原理を説明する以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
上記の技術の利点は、さらなる利点とともに、添付の図面と併せて以下の説明を参照することによって、よりよく理解することができる。図面は、必ずしも縮尺どおりではなく、技術の原理を説明することに重点が置かれている。
【
図2】電気配線の電気火災に先行する放電を検出するためのシステムのブロック図である。
【
図4A】屋内の住宅用電力線ネットワークに関する例示的な通信チャネルの現場で収集された測定値を示す図である。
【
図4B】3つの異なる回路と、実験室環境で測定された比較用の20mの長さのケーブルとの伝達特性を示す図である。
【
図5】電気配線の電気火災に先行する放電を検出するコンピュータが実行する方法のフロー図である。
【
図6A】電気配線における電気火災に先行する放電を検出するコンピュータが実行する方法の詳細なフロー図である。
【
図6B】電気配線における電気火災に先行する放電を検出するコンピュータが実行する方法の詳細なフロー図である。
【
図6C】電気配線における電気火災に先行する放電を検出するコンピュータが実行する方法の詳細なフロー図である。
【
図7A】放電活性を示す過渡を描写する、センサデバイスによって生成された例示的な波形データの図である。
【
図7B】放電活性を示す過渡を描写する、センサデバイスによって生成された例示的な波形データの図である。
【
図7C】放電活性を示す過渡を描写する、センサデバイスによって生成された例示的な波形データの図である。
【
図8A】過渡特性を識別するためにセンサデバイスによって生成された例示的な波形データの図である。
【
図8B】過渡特性を識別するためにセンサデバイスによって生成された例示的な波形データの図である。
【
図8C】過渡特性を識別するためにセンサデバイスによって生成された例示的な波形データの図である。
【
図9】時間の経過に伴う過渡振幅比率を示す図である。
【
図10】時間の経過とともに発生する放電活性の可能性を示す図である。
【
図11】アラート信号通知を表示すためのリモートコンピューティングデバイスの例示的なユーザインタフェースの図である。
【
図12】テスト装置によって生成された安全信号の例示的な波形データの図である。
【
図13】
図2のシステムと組み合わせて使用することができるプロキシデバイスのブロック図である。
【
図14A】テスト住宅に設置されたセンサデバイスによって収集された火災の前兆となるアーク信号を示す図である。
【
図14B】テスト住宅に設置されたセンサデバイスによって収集された火災の前兆となるアーク信号を示す図である。
【
図14C】テスト住宅に設置されたセンサデバイスによって収集された火災の前兆となるアーク信号を示す図である。
【
図14D】テスト住宅に設置されたセンサデバイスによって収集された火災の前兆となるアーク信号を示す図である。
【
図14E】テスト住宅に設置されたセンサデバイスによって収集された火災の前兆となるアーク信号を示す図である。
【
図16】放電による個々のパルスの詳細を示す図である。
【
図17】システムテストの結果を示すいくつかのグラフを含む図である。
【
図18】プロキシデバイスによって再作成されたパルスの振幅と比較した実験データからのパルスの振幅を示すヒストグラムの図である。
【
図19】火災の前兆信号が時間の経過とともにどのように現れるかを示すプロットの図である。
【
図20】HF電気的活性を生成している電気ネットワーク上で実行されているデバイスに関するプロットの図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図2は、電気配線における電気火災に先行する放電を検出するためのシステム200のブロック図である。システム200は、配電システム220(例えば、住宅または商業ビル内の電気システム)内の回路を含む電線202を含み、配電システム220は、サービス入口ケーブル222から受け取った電力を分岐回路(電線202など)に伝達し、分岐回路は、電力を建物内の電気機器およびコンセント(例えば、コンセント208)に供給する。放電は、送電線効果を介して配電システム全体に伝わる、非常に急速な電流インパルスを生成する。放電によって生成された高周波信号は、電力線通信で使用される高周波信号と同様に住宅内全体に伝わる。
【0025】
概して、建物内の回路、コンセント、デバイス、および電気機器に電力を供給する配線は、火災の前兆信号が発生源からセンサに伝わる媒体である。前兆はインパルス放電であり、建物内の配電線に沿って伝わる電磁信号を発生させる。配線(住宅の固定配線およびデバイスおよび電気機器へのモバイルコードの両方)における全ての場所は、屋内の全てのコンセントへの伝達関数を有し、前兆信号はこの伝達関数によって変調されてセンサに到達する。本明細書で説明する方法およびシステムは、電力線搬送通信技術において開発された方法と同様の方法を活用して、住宅の電気ネットワーク全体に伝わる非常に広い周波数コンテンツを測定および識別する。
【0026】
図3は、1つまたは複数の住居にサービスを提供する例示的な電気ネットワークの図である。
図3に示すように、高電圧電力線300からの電気は、変圧器302を通過して、1つまたは複数の住居(例えば、住居A304、住居B306)に、+120V AC線(L1)308、中性線310、および-120V AC線(L2)312を介して供給される。線L1およびL2は、住宅内のサービスパネル318内の回路遮断器316を介して複数の分岐回路314に結合されている。L1上の任意の回路からL2上の任意の回路への通信が可能であることを理解されたい。
【0027】
20世紀への変わり目から、電力線を使用した通信が検討され、使用されてきた。過去20年間で、様々な企業が、建物内の配電システムを介して100Mbpsから1Gbpsのローカルエリアネットワーク通信を提供する製品をリリースしている。この作業により、IEEE1901において電力線通信が標準化され、消費者向けの「イーサネット・オーバー電力線」アダプタが広く利用できるようになり、建物内の電力線を介したブロードバンド通信は成熟した技術である。
【0028】
電力線(即ち、チャネル)を介した通信に関連する2つの主要な問題として建物の様々な回路上の送信機と受信機の伝送特性および減衰特性と、チャネルノイズ環境とがある。分岐(例えば、回路上の各コンセントなど)並びに周波数および時間依存インピーダンスを有する負荷(例えば、異なるデバイスの消費電力、異なる構造、および異なるオン対オフ特性に起因する)による不連続性が多く存在するため、電力線チャネルは簡単ではない。時間変動の原因となるデバイスは、スイッチング電源およびその他の非線形機器要素による狭帯域および広帯域の両方のノイズ注入にも関与している。現在利用可能な電力線通信に関連する例示的な技術は、シー・カノ(C.Cano)、エイ・ピットロ(A.Pittolo)、ディー・マローン(D.Malone)、エル・ランペ(L.Lampe)、エイ・エム・トネロ(A.M.Tonello)、エイ・ジー・ダバック(A.G.Dabak)、「電力線通信の最新技術:応用から媒体まで(State of the art in power line communications:From the applications to the medium)」、IEEEジャーナル・オン・セレクテッド・エリアズ・イン・コミュニケーションズ(IEEE J.Sel.Areas Commun.)、第34巻、1935-1952頁、2016年7月(https://arxiv.org/pdf/1602.09019.pdfで入手可能)であり、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0029】
電力線チャネルの伝送特性は、重要なフィールド測定およびモデリングアクティビティの対象となっており、2010年のIEEE1901規格の批准に至った(2010年9月の「ブロードバンドオーバー電力線ネットワーク用のIEEE規格(IEEE Standard for Broadband Over Power Line Networks)、媒体アクセス制御および物理層の仕様(Medium Access Control and Physical Layer Specifications)、IEEE規格1901-2010」に記載されている)。
図4Aは、屋内の住宅用電力線ネットワークに関する例示的な通信チャネルの現場で収集された測定値を示している。
図4Aの上段の図表は、同じ回路上の送信機および受信機の複数のペアを表し、
図4Aの下段の図表は、ユニットが異なる回路上にある複数の送信機および受信機のペアを示している(エム・トリック(M.Tlich)、エイ・ゼッダム(A.Zeddam)、エフ・ムーラン(F.Moulin)、エフ・ゴーティエ(F・Gauthier)、「最大100MHzの屋内電力線通信チャネルの特性評価-第1部:1パラメータ決定論的モデル(Indoor power-line communications channel characterization up to 100MHz-Part I:One-parameter deterministic model)」、IEEEトランザクションズ・オン・パワー・デリバリー(IEEETrans.Power Del.)、第23巻、第3号、1392-1401頁、2008年7月において説明されている)。スペインでの測定結果も同様の特性を示しており、主電源構成および配線スタイルの変更が全体的に同様の特性をもたらすことが確認されている(上記のシー・カノ(C.Cano)他を参照)。より興味深く困難なケースは、
図4Bの図表であり、これは、3つの異なる回路に関する伝達特性と、実験室の環境で測定された長さ20mのケーブルとの比較を示している(イー・リウ(E.Liu)、ワイ・ギャオ(Y.Gao)、オー・ビラル(O.Bilal)、およびティー・コロホネン(T.Korhonen)、「屋内電力線チャネルのブロードバンド特性評価(Broadband characterization of indoor powerline channel)」、電力線通信の国際シンポジウムのプロシーディング(Proc.Int.Symp.Power Line Commun)、スペイン、サラゴサ、2004年3月31日~4月2日に記載されている)。
【0030】
図4Aおよび
図4Bの図表は、特定のチャネルに関して可変周波数依存性を示すが、平均して比較的平坦な減衰を示す。これらのデータを収集するために使用された場所は、アパートから大規模な住宅まで規模および築年数にばらつきがあった。チャネルの特性は、多くの点で固定無線通信チャネルと類似している。無線チャネルは、環境内の物体からの信号の反射(即ち、マルチパス誘導フェージング)により、フェージング(即ち、周波数、位置、および時間依存減衰)を経験する。配線の不連続性、不整合インピーダンス、および分岐によって信号が反射するため、配線でも同じ効果が生じる。時間領域では、これらの反射は、受信機に到達する元の信号の振幅および時間シフトされたコピーとして現れる。周波数領域では、これらのコピーの周波数成分は、積極的または否定的に干渉して、図表で観察されるように、伝達特性におけるピークおよびノッチを引き起こす。
【0031】
電力線通信システムは、ブロードバンド、無線ローカルエリアネットワーク(例えば、IEEE802.11n)、主に直交周波数分割多重化方式(OFDM)で採用されているのと同じ信号符号化およびノイズ耐性技術を使用する。OFDMは、信号分散およびフェージングの影響を低減しながら、スペクトルの広帯域にわたって情報を拡散するための手法であるため、良好な解決策である。
【0032】
電力線環境は通信にとって簡単なものではないが、イーサネット(登録商標)・オーバー電力線製品の市場での成功は、ブロードバンド信号が複雑な電気ネットワークを伝わることが可能であることを示している。狭帯域通信は、個々の時間変化するチャネル条件に依存する極端な周波数選択性のため、非常に簡単なものではない。回路間の信号減衰は顕著であるが、典型的には50dB未満であるため、電気配線のほぼ全ての場所から発生する信号を、屋内配線の他の場所(即ち、コンセント)において受信機で検出することが可能である。
【0033】
図2に戻ると、システム200は、120VACプラグ206を介して分岐回路の電線202のコンセント208に結合されたセンサデバイス204をさらに含む。センサデバイスは、いくつかの実施形態において、不要な60Hz信号および電気システム上で動作する機器によって生成される電気ノイズをフィルタリングしながら、放電信号を増幅できるようにセンサデバイスを電気インフラストラクチャに結合する電子部品(例えば、処理モジュール204a、ADC204b、CPU204c)を備える。処理モジュール204aは、分岐回路の電線202上で発生する電気的活性を感知し、感知された電気を波形データとして捕捉するコンデンサ、抵抗器、および増幅器などの部品を含む。いくつかの実施形態において、処理モジュール204aは、センサデバイスの周波数応答を、放電が高い信号対雑音比を有する範囲に制限することができるフィルタを含む。フィルタリングは、ハードウェアコンポーネントを使用して実施するか、または処理モジュール204aにインストールされたファームウェアで実施することができる。分岐回路の電線202上で発生する電気的活性は、配電システム220との間で送受信される信号を含むことに留意されたい。このようにして、単一のセンサは、他の分岐回路を含む完全な配電システム220全体にわたって放電信号を観察することができる。
図2は、単一のセンサデバイス204を示しているが、システム200は、配電システムにおける電気的活性を感知するように配置された2つ以上のセンサデバイスを含むことができることを理解されたい。サーバコンピューティングデバイスにデータを送信する複数のセンサは、感度を高め、連携して、放電が発生している場所に関する情報を提供することができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、場所は、各センサデバイスへの過渡信号の到達の時間差が、配線上の放電の場所に対する相対的な距離を提供する到達時間技術(time-of-arrival techniques)を使用して決定することができ、概して、センサデバイス204は、パルスの形状を観察するように構成される。センサデバイスが観察するパルス形状は、発生源パルス形状に、電気システム配線における全ての分岐、終端、またはインピーダンス変化からのその形状の反射を加えたものである。反射間の時間は、群速度で除算された距離の差の積である。反射の大きさおよび極性は、負荷または接合部の複素インピーダンスによって決定される。様々な反射のタイミングは、回路内の発生源の場所を示す。これらの反射の形状変化は、反射を生成した負荷および接合部のインピーダンスを示している。例えば、2つのセンサデバイスが同じ回路の異なる場所に設置されている場合、2つのデバイスにおける到達時間の差によって、ノイズ上で反射が見られないパルスであっても、回路内の場所を特定することができる。
【0035】
一実施形態では、センサデバイス204は、毎秒最大2700万の波形サンプルを捕捉し、サンプルを512のビンに割り当てることができる。センサデバイス204は、各ビンの最大振幅を決定し、ビニングされた値を使用して波形データを生成する。センサデバイス204は、センサハードウェアの帯域幅および処理要件を低減するために、波形信号の微分値を取得する機能も実行する。例えば、センサデバイス204は、隣接する波形サンプルを破棄して第1の微分を取得し、次にプロセスを繰り返して第2の微分を取得することができる。一実施形態では、センサデバイス204は、いくつかの隣接するサンプルを追加し、いくつかの隣接するサンプルを減算してウェーブレットを取得し、次に、以前に捕捉されたウェーブレットに対して分析して、信号に何らかの変化が生じたかどうかを判断する。
【0036】
センサデバイス204は、通信ネットワーク212を介してサーバコンピューティングデバイス214に通信可能に結合されている。一実施形態では、センサデバイス204は、センサデバイス204が無線接続を介してサーバコンピューティングデバイス214と通信することを可能にする通信コンポーネント(例えば、アンテナ、ネットワークインタフェース回路)を備えている。
【0037】
本明細書で説明されるような電気配線における放電を検出するプロセスを実行するために、通信ネットワーク212は、システム200の他のコンポーネントが互いに通信することを可能にする。ネットワーク212は、WiFi(登録商標)またはLANなどのローカルネットワークであるか、またはインターネットおよび/またはセルラーネットワークなどの広域ネットワークであり得る。いくつかの実施形態において、ネットワーク212は、システム200のコンポーネントが互いに通信することを可能にするいくつかの個別のネットワークおよび/またはサブネットワーク(例えば、セルラーからインターネット)から構成される。
【0038】
サーバコンピューティングデバイス214は、1つまたは複数の専用プロセッサおよび1つまたは複数の物理メモリモジュールを含むハードウェアと、サーバコンピューティングデバイス214のプロセッサによって実行されて、システム200の他のコンポーネントからデータを受信し、システム200の他のコンポーネントにデータを送信し、本明細書に記載されるような電気配線における放電を検出するための機能を実行する特殊なソフトウェアモジュール(過渡分析モジュール214aなど)との組み合わせである。いくつかの実施形態において、モジュール214aは、サーバコンピューティングデバイス214内の専用プロセッサ上にプログラムされた特殊なセットのコンピュータソフトウェア命令であり、特殊なコンピュータソフトウェア命令を実行するための特別に指定されたメモリ場所および/またはレジスタを含むことができる。モジュール214aによって実行される特定の処理のさらなる説明は、以下に提供される。いくつかの実施形態において、センサデバイス204は、サーバコンピューティングデバイス106に関して本明細書に記載される処理がセンサデバイス204によって実行され得るという点で、スタンドアロンデバイスとして動作するように構成され得る(即ち、本明細書に記載されたデータ収集、分析、およびアラートプロセスを実行するプロセッサおよびメモリは、センサデバイスに組み込むことができる)。
【0039】
データベース216は、本明細書で説明されるように、電気配線における放電を検出するプロセスと併せて使用されるデータ記憶のための一時的メモリおよび/または永続的メモリを備える。概して、データベース216は、サーバコンピューティングデバイス214によって使用されるデータの特定のセグメントを受信、生成、および格納するように構成される。いくつかの実施形態において、データベース216の全部または一部は、サーバコンピューティングデバイス214内に統合することができるか、または別個のコンピューティングデバイスまたは複数のデバイス上に配置することができる。例えば、データベース216は、米国カリフォルニア州、レッドウッドシティーのオラクル社(Oracle Corp.)から入手可能なMySQL(商標)などのデータベースを含むことができる。別の例では、データベース216は、DynamoBB(商標)を使用するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)(商標)などのクラウドベースの記憶媒体を含むことができる。他の実施形態では、データベースは、例えば、サーバコンピューティングデバイス214および/またはセンサモジュール204上のメモリ内に配置することができる。
【0040】
図5は、
図2のシステム200を使用して、電気配線における初期段階のアーク故障を検出するコンピュータが実行する方法500のフロー図である。分岐回路(例えば、配線202を含む分岐1回路)に結合された1つまたは複数のセンサデバイス(例えば、センサデバイス204)は、分岐回路上の電気的活性によって生成された1つまたは複数の信号波形を検出する(502)。例えば、放電は電流のインパルス変化であるため、放電によって発生した信号は、任意の接合部の周囲で反射して電線202を伝搬する。これらの信号には、一般に、配線の長さに応じた戻りの遅延がある。信号はまた、位相シフトを示し、これにより、システム200は、本明細書に記載されているように、電線202上の放電(非常に小さな放電であっても)に関連する活性を表す波形における過渡信号を識別することが可能となる。
【0041】
センサデバイス204は、検出された1つまたは複数の信号波形内の1つまたは複数の過渡信号を識別する(504)。センサデバイス204は、識別された過渡信号に基づいて過渡特性を生成し、過渡特性をサーバコンピューティングデバイス214に送信する(506)。過渡分析モジュール214aは、各センサデバイス204から複数組の過渡特性を受信し(508)、過渡特性を分析して、1つまたは複数の放電の兆候(electrical discharge indications)を識別する(510)。アラート生成モジュール214bは、1つまたは複数の放電の兆候が識別されると、1つまたは複数のアラート信号を生成する(512)。
【0042】
いくつかの実施形態において、センサデバイス204は、1つまたは複数の信号波形を検出し(ステップ502)、1つまたは複数の信号波形を、過渡信号を識別すること(ステップ504)、過渡特性を生成すること(ステップ506)、過渡特性を分析すること(ステップ510)、およびアラート信号を生成すること(ステップ512)を含むさらなる処理のために過渡分析モジュール214aに送信することができることを理解されたい。さらに、いくつかの実施形態において、センサデバイス204は、
図5の全てのステップを内部で実行することができることを理解されたい。いくつかの実施形態において、センサデバイス204は、ネットワーク帯域幅を節約し、処理能力および性能を改善するために、信号波形を過渡分析モジュール214aに送信する前に、1つまたは複数の信号波形を圧縮する。
【0043】
いくつかの実施形態において、アラート生成モジュール214bは、1つまたは複数のアラート信号をリモートコンピューティングデバイス(例えば、携帯電話、タブレット、スマートウォッチなど)に送信する。リモートコンピューティングデバイスは、例えば、1つまたは複数のアラート信号の受信に基づいて、リモートコンピューティングデバイスに関連付けられた画面上にメッセージまたはインジケータ(警告アイコンなど)を表示することができる。例えば、アラート信号は、システム200によって検出された危険な状態または危険を示すテキストのコーパスを含むパケットベースのメッセージを含むことができる。いくつかの実施形態において、アラート生成モジュール214bは、1つまたは複数のアラート信号を1つまたは複数のセンサデバイス204に送信する。センサデバイス204は、1つまたは複数のアラート信号を受信すると、1つまたは複数のコンポーネント(例えば、センサデバイスに埋め込まれたコンポーネント)をアクティブにすることができる。例えば、アラート生成モジュール214bからアラート信号を受信すると、センサデバイス(単数または複数)204は、システム200によって危険な状態または危険が検出されたことを示すためにセンサデバイス204の外部で点灯および/または点滅するLED要素をアクティブにすることができる。
図5のステップに関する追加の詳細は、
図6Aから
図6Cに関して以下に提供される。
【0044】
図6Aから
図6Cは、
図2のシステム200を使用して、
図5に関して上記のフレームワークに従って、電気配線における電気火災に先行する放電を検出するコンピュータが実施する方法の詳細なフロー図を含む。
図6Aから
図6Cは、放電を検出するためにシステム200によって使用され得る3つの異なる方法(方法A(
図6A)、方法B(
図6B)、および方法C(
図6C))を含む。これらの方法は例示的なものであり、本明細書に記載のシステムで使用するために他の方法が企図され得ることを理解されたい。また、方法A、B、およびCは、独立して、または互いに組み合わせて使用され得ることを理解されたい。一実施形態では、センサデバイス204は、方法A、B、またはCの1つに従って波形データを処理する複数の論理的プロセッサおよび/または物理的プロセッサ(例えば、CPU204c)を含み得る。
【0045】
例えば、方法AおよびBにおいて、センサデバイス204の高速アナログ-デジタル変換器(ADC)204bは、全電圧サイクル波形(full voltage cycle waveform)(1/60秒)を27MHzでサンプリングして捕捉することによって波形(502)を検出する。一方、方法Cでは、ADC204bは、全電圧サイクル波形(1/60秒)を捕捉し、(帯域幅及びメモリリソースを節約するために)波形が閾値に到達したか、または閾値を超過したことを検出すると、80MHzでサンプリングする。
【0046】
センサデバイス204のCPU204cは、いくつかの異なる方法で波形データにおける過渡を識別することができる(504)。例えば、方法Aでは、CPU204cは、2700万のサンプルを512のビンに分割することによって、サンプリングされた波形データに対してビニングプロセスを実行する。CPU204cは、各ビンの最大値と最小値との間の差を算出し、各ビンの最大値と平均値との間の差を算出する。次に、CPU204cは、15サイクルのビニングされた最大-平均データを累積し、15サイクルの最大値を決定する。次に、CPU204cは、ビンの各累積最大値にわたる微分を算出する。
【0047】
方法Bでは、CPU204cは、全電圧サイクルにわたる波形の微分を算出する。CPU204cは、得られた2,700万個のサンプルを512個のビンに分割し、各ビンの最大値を算出する。次に、CPU204cは、15サイクルのビニングされた最大データを累積し、15サイクルの最大値を決定する。次に、CPU204cは、各累積最大値の複数のビンにわたる微分を算出する。
【0048】
方法Cでは、CPU204cは、トリガの前のサンプルを含む、浮動閾値を超える波形サンプル(これらは、サイクル内の単一の過渡である)の記憶をトリガする。
図6Aから
図6Cに続いて、センサデバイス204のCPU204cは、様々な方法で過渡特性を生成することができる(506)。例えば、方法AおよびBでは、CPU204cは、全電圧サイクルにわたって平均過渡振幅を算出し、電圧サイクル内の16個の位相セクションに関する平均過渡振幅を算出する。方法Cでは、CPU204cは、過渡のピークの数をカウントし、ピークの立ち上がり時間を算出し、過渡の最大振幅を算出し、過渡のパルス幅を算出し、かつ過渡の積分を算出する。
【0049】
センサデバイス204が、上記のビニングプロセスに基づいて電圧波形データに変化が生じたと判断すると、センサデバイス204は、ネットワーク212を介して過渡特性データをサーバコンピューティングデバイス214に送信する。過渡分析モジュール214aは、センサデバイス204から過渡特性データを受信し(504)、波形データを分析して、信号波形における1つまたは複数の放電の兆候を識別する(506)。一例では、信号分析モジュール214aは、受信データを使用して信号波形を再構築し、過渡の分布(過渡が同位相で発生する場所を含む)を、過渡の予想分布と比較する。例えば、信号分析モジュール214aは、過渡が同位相で発生する場所、および過渡がどの程度再現可能であるかを判断することができる。例えば、過渡が波形において規則的なパターンを示すか(これは、回路上のデバイスまたは電気機器の動作を示し得る)、または過渡が不規則なパターンを示すか(これは、放電および/またはアーク故障活性を示し得る)を判断することができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、センサデバイス204のCPU204cは、決定された過渡特性をサーバコンピューティングデバイス214の過渡分析モジュール214aに送信し、モジュール214aは、過渡特性を受信する。いくつかの実施形態において、センサデバイス204は、サーバコンピューティングデバイス214への接続を必要としないスタンドアロンモジュールとして構成することができ、これらの実施形態では、センサデバイス204は、過渡特性を分析するステップ(510)およびアラート信号を生成するステップ(512)も実行することができ、さらにいくつかの実施形態において、(前述したように)アラート信号をリモートコンピューティングデバイスに送信するステップを実行することができることを理解されたい。いくつかの実施形態において、アラート信号は、センサデバイス204内で局所的に生成することができ、かつセンサデバイス204の他の部品、例えば、センサデバイス204に埋め込まれたスピーカまたは他のオーディオ部品、またはセンサデバイス204に埋め込まれた光部品または他の視覚的部品(例えば、LED)をトリガして、潜在的に危険な電気的活性が発生していることを近くの人にアラートするために使用され得る。
【0051】
過渡分析モジュール214aは、センサデバイス204から受信した過渡特性を様々な方法で分析することができる(510)。例えば、方法AおよびBにおいて、モジュール214aは、電圧ゼロ交差付近の平均ピーク過渡に対する最大電圧付近の位相セクションにおける平均ピーク過渡の比率を決定する。比率が閾値より大きい場合、モジュール214aは、これらの過渡を潜在的な放電として識別する。方法Cでは、モジュール214aは、過渡のピークの数が所定の閾値を超えているかどうか、および立ち上がり時間が所定の閾値よりも大きいかどうかを評価する。評価が是であれば、モジュール214aは過渡を潜在的な放電として識別する。
【0052】
図7A~
図7Cおよび
図8A~
図8Cは、過渡信号を示す、センサデバイス204のCPU204cによって捕捉された波形データの図である。
図7Aは、1秒間に1600万サンプルで捕捉された、2ミリ秒間のサンプリングされた電圧データの波形の例示的な図である。
図7Aに示すように、波形データのほとんどは、電気機器および空気中の電磁信号などの特徴によって生成される一般的な電気的バックグラウンドノイズである。しかしながら、波形データは、いくつかの大きなスパイク(例えば、702、704)も示しており、これらは、電気回路の放電活性を示し得る過渡である。
【0053】
図7Bは、追加の詳細を示すために拡大された、
図7Aからの波形の一部を示す例示的な図である。
図7Bにおいて確認されるように、個々の過渡の形状(例えば、712、714)が現れている。さらに詳しく見ると、
図7Cは、
図7Bの波形の一部(即ち、2μs)を拡大してさらなる詳細を示す例示的な図である。
図7Cに示されるように、過渡514は、リングダウン構造(ring-down structure)を示し、これは、信号の減衰に要する時間を示す。さらに、過渡714は、電圧の非常に急速な変化および急速な立ち上がり時間を有する。方法Cに関して上記で説明したように、センサデバイス204のCPU204cは、このタイプのサンプリングされた波形データを使用して、過渡分析モジュール214aに送信するための過渡特性を生成することができる(506)。
【0054】
図8A~
図8Cは、センサデバイス204のCPU204cがサンプリングされた波形信号を512のビンに分割する方法(即ち、方法AおよびBに関して上で説明したような)を示す例示的な図である。例示的な全電圧サイクル波形が
図8Aに示されており、ビン番号がx軸に割り当てられ、振幅がy軸上に示されている。
図8Bは、別の例示的な電圧サイクル波形であり、センサデバイスのCPU204cが方法AおよびBに関して上記したように過渡を識別する方法を示す注釈が付されている。
図8Bに示すように、CPU204cは、最大電流、平均電流、および15サイクルに亘る最大値、並びに15サイクルにわたる最大微分、電流の最大微分、および全電圧サイクルにわたる微分を決定することができる。
図8Cは、例示的な電圧サイクル波形であり、過渡分析モジュール214aによって識別された潜在的な放電を示す注釈が付されている。方法AおよびBに関して上記で説明したように、過渡分析モジュール214aは、電圧ゼロ交差(例えば、セクション804)付近の平均ピーク過渡に対する最大電圧付近の位相セクション(例えば、セクション802)における平均ピーク過渡の比率を決定することができる。過渡分析モジュール214aは、比率の表現を生成することができる(
図9を参照)。
図9に示すように、15時17分40秒から15時18分00秒までの期間(902で示される)は、電気配線で放電が発生していた期間である。
【0055】
いくつかの実施形態において、過渡分析モジュール214aは、
図9からの比率データを、比率に基づいて発生する放電の可能性を示すメトリックに変換することができる。
図10は、
図9の比率データに基づいて、特定の期間中に発生する放電の可能性を示す例示的な図である。
図10に示すように、放電の可能性は、15時17分40秒に0から2に移動し、15時18分00秒まで0と2の間で変動する。この例では、2の値は、放電が発生している可能性が高いことを示している。
【0056】
過渡特性データ内の放電インジケータを識別した上で、サーバコンピューティングデバイス214のアラート生成モジュール214bは、検出された放電インジケータに関連するアラート信号を生成する(512)。いくつかの実施形態において、アラート生成モジュール214bは、センサデバイス204が分岐回路に接続されている建物または場所を監視している(または、それ以外に関連している)1つまたは複数のリモートデバイスを自動的に識別して、アラート信号をこれらリモートデバイスに自動的に送信する。リモートデバイスは、携帯電話、タブレット、デスクトップPC、スマート電気機器、IoTデバイス、スマートウォッチ、およびその他のコンピュータベースのデバイスを含むことができる。リモートデバイスは、ホーン、サイレン、ライト、およびその他の視聴覚インジケータデバイスを含むこともできる。
【0057】
いくつかの実施形態において、データベース216は、リモートデバイスの識別に関連する情報(例えば、IPアドレス、電話番号、電子メールアドレス)を含み、アラート生成モジュール214bは、識別情報を使用して、各リモートデバイス用のアラート信号を準備する。いくつかの実施形態において、アラート生成モジュール214bは、パケットベースの配信(例えば、テキストメッセージング、XML、電子メール)、回路ベースの配信(例えば、ページング、音声メッセージング)などの任意の標準的な通信プロトコルまたは技術を使用する。例えば、アラート信号は、ヘッダと特定のデータ要素を含む本体とを有するパケットベースの通信(例えば、メッセージ)の形式をとることができる。アラート信号は、システム200によって検出されたアーク故障の種類、放電活性のおおよその場所(例えば、上記した到達時間技術を使用して)、センサデバイス204の識別情報、および建物内のセンサデバイス204の場所、およびその他の関連情報(例えば、同じ分岐回路に接続された電気機器またはその他の電子デバイスの識別情報など)に関する情報を含むことができる。
【0058】
図11は、アラート信号の受信に基づいてユーザにメッセージを表示すためのリモートコンピューティングデバイス(例えば、携帯電話)のユーザインタフェースの例示的な図である。
図11に示されるように、リモートコンピューティングデバイスにインストールされたアプリは、(例えば、インターネットを介して)サーバコンピューティングデバイス214に結合され、アラート生成モジュール214bからプッシュされたアラート信号を自動的にリッスンするように構成され得る。アラート信号がリモートコンピューティングデバイスに到達すると、アプリは、電気火災の危険性をユーザに通知する警告インジケータ1102(例えば、赤色の点滅する図形またはアイコン)を自動的に表示することができる。ユーザインタフェースは、検出された以前の放電活性(例えば、ユーザの屋内におけるその他の事象)のログを含むこともできる。
【0059】
このように、本明細書に記載のシステムおよび方法は、現在利用可能なアーク故障検出技術に比べて、本システムが回路内の放電活性を示し得る、分岐回路内で発生する小さな過渡を従来のアーク故障検出器よりもはるかに早く、かつより高い精度で検出することができるという点で、大きな利点を提供する。本明細書に記載のシステムおよび方法はまた、ネットワークベースの処理アーキテクチャを活用して、特定の分岐回路に関する信号データを経時的に捕捉し、これは、分岐回路に関する電気的活性プロファイルの変化の即時検出を可能にし、電力システム内で発生し得る異常の種類に関する有用な情報を、電力会社および電気機器製造業者などの上流の事業体に提供することができる。
【0060】
また、複数の異なるセンサデバイスを、電力事業者が運営する共通の電力網に亘って様々な建物に設置することができることを理解されたい(例えば、多くの異なる住宅は、上記したように放電を監視するために建物の電気システムに取り付けられたセンサデバイスを有し得る)。これらの分散型センサデバイスの各々は、センサデバイスとの間でデータを送受信する1つまたは複数の集中型サーバコンピューティングデバイスと通信することができる。この構成では、サーバコンピューティングデバイスは、センサデバイスから放電検出データを収集し、分析のためにデータを集約することができる。一例では、サーバコンピューティングデバイスは、エンドユーザからのフィードバックとともに、異なる住宅および建物に設置された複数のセンサデバイスからの放電データおよび/または過渡データを使用して、過渡検出および特性評価アルゴリズムを改善するための機械学習技術およびアルゴリズムを実装することができる。
【0061】
いくつかの実施形態において、1つまたは複数の放電の兆候を識別するための過渡特性の分析は、機械学習技術の適用によって強化される。ブーストされたツリーなどの手法(参照により本明細書に組み込まれるhttps://xgboost.readthedocs.io/en/latest/tutorials/model.html、およびフリードマン・ジェローム・エイチ(Friedman、Jerome H.)、「勾配関数の近似(Gradient Function Approximation)」、ジ・アナルズ・オブ・スタティスティクス(The Annals of Statistics)、第29巻、第5号(2001年10月)、1189-1232頁に記載されている)は、住宅または建物からの既知の放電信号を有する真値データ(truth data)セットまたは実験室で生成された真値データセットに基づく様々な特性の自動選択を可能にする。機械学習により、人間が手動で導出するよりも、より詳細な計算モデルおよび過渡特性と放電の兆候との関係の発展が可能となる。いくつかの実施形態において、これらの過渡特性からの自己相関遅延(autocorrelation lags)および尖度(kurtosis)などの時系列特徴は、タンブリングウィンドウ上でさらに算出され、これらの特徴を機械学習モデルに提供して、さらなる状況を提供し、精度を向上させることができる。放電の兆候または誤検知(false positives)の両方の真値データセットが拡大するにつれて、機械学習モデルを改善することができ、さらに開発されたファームウェアを改善の継続的なサイクルでセンサに展開することができる。
【0062】
さらに、サーバコンピューティングデバイスは、過渡および過渡特性を識別するための更新されたソフトウェア方法を実行のためにセンサデバイスに配布して(即ち、ファームウェアまたは同様のアップグレードの形式で)、これにより、センサネットワークを住宅を保護するための最新のアルゴリズムと自動的に同期させることができる。また、複数の住宅に配置された複数のセンサデバイスは、一般的に検出される電圧波形および過渡に関するデータを相互に関連付けて、送電網の問題の潜在的な場所を特定し、アクションを実行するために送電網事業者または電力事業者と通信することができる。
【0063】
本明細書に記載のシステムおよび方法の別の態様は、別個の電子デバイス(いくつかの実施形態において、センサデバイス204に埋め込まれる)を介して電気配線に導入される危険な放電のように見える信号を生成するデバイスの組み込みを含むことができる。これらの信号(安全信号とも呼ばれる)を使用して、センサデバイス204の動作をテストすることができ、その結果、センサデバイス204に関する誤動作または他の問題を識別することができる。
図12は、安全信号の検出から生成された例示的な波形の図である。
図12に示すように、これらの過渡は、危険な放電が配線上で発生した場合に発生するタイプの過渡に類似している。これらの過渡は、センサデバイス204によって検出されるべく十分小さいが、AFCIを始動させるのに十分大きくないことに留意されたい。
【0064】
本明細書に記載のシステムおよび方法の別の重要な側面は、屋内の任意の場所で発生する火災の前兆を検出する際のセンサデバイスの有効性をテストするための装置の開発である。これを達成するための1つの可能な方法は、多くの住宅に火災の前兆パルスを生成する損傷したコードを持ち込み、屋内の他のコンセントからパルス信号がどの程度良好に検出されるかを測定することである。このアプローチの欠点は、信号を安全に生成することができる訓練を受けた技術者を派遣するのにかなりの時間がかかり、調査では、誰かが屋内でシステムを監視している間、信号が短期間でしか測定されないことである。損傷した(かつ危険な)電気コードを長期間の間、屋内において歓迎する理解のある個人はいないであろう。
【0065】
別のよりスケーラブルなアプローチは、実際の火災の前兆によって実験室内で生成および記録された火災信号を再生することができるプロキシデバイスの使用である。このプロキシデバイスは、全国の様々なタイプの住宅に数百のユニットを経済的に展開することを可能にし、長期間にわたって信号検出パフォーマンスを追跡する機能を有する。
図13は、
図2のシステム200と組み合わせて使用することができるプロキシデバイス1300のブロック図である。
【0066】
図13に示されるように、プロキシデバイス1300は、フラッシュメモリモジュール1302、CPU1304、デジタル-アナログ信号変換器(DAC)1306、および電力増幅器1308を備える。デバイス1300は、DACおよび電力増幅器(電力コンデンサを介して電気システムに結合されている)を利用して、火災の前兆信号をシミュレートする。DAC1306は、120MHzの信号を短時間生成することができる。CPUは、位相の適切な位置で発生するパルスを生成するように主電源からのゼロ交差で位相ロックされる。パルス情報は、CPUによってフラッシュメモリから読み出され、記録されたパルスはD/Aコンバータおよびパワーアンプを介して再生される。
【0067】
プロキシデバイス1300は、複数の住宅に配備されると、以下の質問に答えるのに役立つ。
1)火災の前兆となるアーク信号は、住宅の電気システム内でどの程度良好に伝わっているか?
2)本明細書に記載の方法およびシステムは、電気火災信号をどの程度良好に識別し、これらの信号を屋内の他の電気機器によって作成された信号とどの程度良好に区別するか?
火災前兆パルス信号が住宅の電気システム内をどの程度良好に伝わるかを判定するために、プロキシデバイス1300およびセンサデバイス204が、住宅のコンセントに差し込まれたときに、検出のためのシンチレーションパルスを生成するテスト装置とともに、テスト住宅内に配備された。テスト装置は、活線、中性線、接地線を備えた標準の壁コンセントに接続された電源コードを含んでいた。電源コードは、シンチレーションまたは放電によって生成される電流が通過しなければならない抵抗を含むように接続された。電源コードの端部は、プラグに接続されており、プラグを介して様々なテスト装置に接続することができる。テスト装置は、損傷した延長コードが通過したプラスチック製のNEMAエンクロージャを含んでいた。損傷した電気コードは、放電を引き起こす様々な物質にさらされる可能性がある。例えば、物質は、グラファイト粉末、水、または水溶液、石鹸水、および塩水であり得る。差動アナログ-デジタルコンバータは、既知の抵抗の両端の電圧を測定して、抵抗を流れる電流を算出する。損傷したコードを様々な物質にさらすことによって発生すると予想されるピーク電流に応じて、適切な利得が得られるように様々なサイズの抵抗が選択された。テスト住宅は、約4,000平方フィート(約1219平方メートル)の大きな一戸建て住宅である。住宅には、フラットスクリーンテレビ、オーディオ機器、コンピュータを含む典型的なタイプの電子機器がある。電子機器は、通常、サージサプレッサ電源ストリップによって保護されている。
【0068】
図14A~
図14Eは、テスト住宅から収集された火災の前兆となるアーク信号を示す図である。
図14Aのグラフは、2つのセンサからの60秒のピークアナログ-デジタルコンバータ出力の測定を示している。「同じティン(SameTing)」というラベルが付されたセンサデバイスは、同じ120Vレッグ/位相にあり、かつテスト装置と同じ分岐回路にある。「他のティン(OtherTing)」というラベルが付されたセンサデバイスは、別の分岐回路の電源ネットワークの反対側の120Vレッグ/位相にある。より大きな振幅信号は、テスト装置が火災前兆パルスを生成している時間を示す。例えば、
図14Aでは、同じティンラインと他のティンラインが、領域1402で強調表示されている領域において約2400の生のデジタルユニットまでジャンプし、これは、両方のセンサデバイスが火災前兆パルスを検出したことを示す。
図14Bのグラフは、
図14Aの強調表示された期間1402を1秒の時間に拡大して示している。
【0069】
図14Cのグラフについては、
図14Bのデータが、さらに20ミリ秒の時間に拡大され、これは、
図14Bにおける領域1404によって示されている。
図14Cには、テスト装置のホットライン上の10オームの抵抗を流れる電流1406の測定値が示されている。これは、絶縁体上で絶縁破壊が発生したときに流れる電流であり、放電として観察され、熱および光の形で証明される。
【0070】
図14Dおよび
図14Eは、10オームの抵抗を流れる電流のさらに拡大された期間と、センサデバイスによって観察される結果としての波形を示している。
図14Dのグラフは、500マイクロ秒に拡大された
図14Cの強調表示された期間1408を示し、
図14Eのグラフは、80マイクロ秒に拡大された
図14Dの強調表示された期間1410を示す。
【0071】
図15は、
図14Cのより詳細なバージョンを示しており、電気絶縁破壊が発生し、センサデバイスが10オームの抵抗を流れる電流を測定した2回を強調表示している。この例では、電気絶縁破壊により、数マイクロ秒の期間にわたって緩やかに変化する電流から、ナノ秒から数十ナノ秒のオーダーで非常に速く開始および停止する電流が生成されることが理解される。
図15に見られるように、緩やかに変化する電流は、同じ回路上のセンサデバイス(「同じティン」)では可視信号1502を生成するが、異なるレッグのセンサデバイス(「他のティン」)では生成されない。一方、急速に変化する電流は、両方のセンサデバイスからの信号において可視である。
【0072】
図16は、電流が流れ始めて、最終的に消滅するまで、電流の流れが何度か中断されるときの電流変化率に関するいくつかの情報を有する、放電からの個々のパルスのうちの1つをより詳細に示す。電流が急速に変化するたびに、両方のセンサデバイスは、信号の急激な上昇と、その後の特徴的なリングダウンを観察することに留意されたい。これは、信号が電気ネットワークをどの程度良好に伝わるかに最大の影響を与える放電の特性が、電流の非常に急速な立ち上がり時間と立ち下がり時間であることを示している。放電が始まると、特徴的なリングダウン信号1602が現れるが、電流が同じレベルで継続するので、逆相のセンサデバイスは、強い応答を示さないことに留意されたい。これは、プロキシデバイスの開発にとって重要な発見であり、これは、プロキシデバイスが火災の前兆である高速パルス電流の立ち上がり時間および立ち下がり時間をシミュレートすることができる限り、信号の最も関連性の高い部分を再生成することができ、より長く続く電流を再生成する必要はないことを意味する。
【0073】
任意の波形発生器として機能するプロキシデバイス1300は、実験室の波形を不完全に再現することを理解されたい。波形発生器は、特定のデジタルクロックエッジでのみ電圧ステップを生成することができ、かつ特定の離散振幅のステップのみを生成することができる。システムは、データに対して不可逆圧縮を実行し、最大のピークのみを保持し、それらの形状を保持する。プロキシデバイス1300のインピーダンスは、絶縁体の損傷した部分のインピーダンスと同じではないので、プロキシデバイスからの反射は、損傷したケーブルからの反射とは異なる。結果として、プロキシデバイスが、損傷した絶縁体における実際のシンチレーションによって生成される信号と同様の信号をセンサデバイス204において生成するのに十分であることを確認することが重要である。
【0074】
これをテストするために、実験室で配線の絶縁体を損傷させて、損傷した絶縁体におけるシンチレーションによって生成された電流を測定し、実験室の別の回路のセンサデバイスでそれらのシンチレーションによって生成された電圧を同時に測定した。次に、プロキシデバイス1300は、測定されたシンチレーションを再生するようにプログラムされ、損傷した絶縁体がプロキシデバイスに置き換えられ、プロキシデバイスで生成された電流と、異なる回路上のセンサデバイスにおいて生成された電圧とが同時に測定された。
【0075】
図17に、上記したテストの結果を示す。グラフ1702aは、損傷した絶縁体から実験室で最初に測定された電流を示している。グラフ1704aは、グラフ1702aに示される電流パルスによって生成された、別の回路で測定されたセンサデバイスの電圧を示している。グラフ1706aは、プロキシデバイスによって生成された電流を示し、グラフ1708aは、別の回路上のセンサデバイスによって測定された電圧を示している。グラフ1702b、1704b、1706b、および1708bは、グラフ1702a、1704a、1706a、および1708aの同じ測定値をより高い時間分解能でそれぞれ示している。プロキシデバイスによって生成されるセンサ電圧は、最初に測定されたものと同じではないが、使用するのに十分に類似している。
【0076】
住宅中を伝わるかどうかを決定する火災前兆パルス信号の第2の特性は、パルスの振幅である。より大きな振幅パルスは、センサデバイス204においてより大きな応答を生成する。電流の振幅とセンサデバイスの応答のサイズとの関係は、グラフ1702bおよび1704bで確認することができる。グラフ1702bのより大きな電流振幅は、1704bのより大きなセンサ応答として観察される。同様に、プロキシデバイスによって生成される振幅電流が大きいほど、センサデバイスでの応答が大きくなる(グラフ1706bおよび1708bを参照)。25mAのオーダーの電流は、検出されるのに十分な信号対雑音比でセンサデバイス204において応答を生成するのに十分である。
【0077】
火災の前兆は、単一の電源サイクルで数千のパルスを生成し、その大部分は、電気インフラストラクチャを伝わって反対側のレッグのセンサデバイスによって確認できるほど振幅が大きくない。プロキシデバイス1300は、サイクル当たりに限られた数のパルスを生成することができる。プロキシデバイスは、住宅全体で検出されると予想される最大かつ最速のパルスの生成に焦点を合わせるようにプログラムされている。いくつかの実施形態において、プロキシデバイス1300は、サーバコンピューティングデバイス(例えば、サーバコンピューティングデバイス214)と通信して、サーバが動作している時間および動作しているモードをサーバに通知することができる。この場合、センサデバイスが信号を検出することを確認するために、プロキシデバイスが動作中であることを示す時間をセンサデバイスの出力に関連付けることは簡単である。この例では、プロキシデバイス1300は、0ミリアンペアから300ミリアンペアの範囲の振幅を有する高速パルスを生成するようにプログラムされた。
図18は、「真値」(濃い灰色、1802)とラベル付けされた、実験室で取得された5秒間のデータセットで発見されたパルスの振幅のヒストグラムを示す。さらに、プロキシデバイスによって再作成されたパルスの振幅のヒストグラムが薄い灰色(1804)で示されている。概して、プロキシのパルスの数は、真値データソースのパルス数もよりも少ない。上記のように、これは、全てのパルスを再生するのに十分なデータを保持するにはプロキシデバイスのメモリの制限があるため、最大のパルスを再生することに焦点が置かれているからである。
【0078】
プロキシのテストデータセットにおけるパルス電流振幅は、アーク故障回路遮断器をトリガするピークアンペアと比較して小さいことに留意されたい。AFCIは、並列アークの場合は約50アンペア、直列アークの場合は5アンペアで始動する(ジェイ・ウェハ(J.Wafer)、「アーク故障回路遮断の進化(The Evolution of Arc Fault Circuit Interruption)」、第51回電気接点に関するIEEE HOLM会議(IEEE HOLM conference on Electrical Contacts)、2005年に記載されている)。これらの小さな振幅でパルス電流を検出することにより、本明細書に記載のセンサデバイスは、アークが危険になり、火災の危険が差し迫っているレベルよりもかなり前に住宅所有者にアラートすることができる。シンチレーションが検出されてからアークが危険になるほど大きくなるまでの時間枠は、数時間から数年のオーダーになる可能性がある(ツイベル・ジェイ・ディー(Twibell、JD)、「電気と火災(Electricity and Fire)」、火災調査における61-104頁、エヌ・エヌ・デイド(N. N. Daeid)編、シーアールシー・プレス社(CRC Press)、フロリダ州、ボカラトン、2004年に記載されている)。
【0079】
火災の前兆が電力ネットワーク全体に伝わる信号を生成し、単一のセンサデバイスで検出することができることを実証したので、検出効率に関する第2の問題は、センサデバイスが、火災の前兆信号と、電力線上で感知可能である人工信号またはその他の干渉信号とをどの程度良好に区別することができるかに関する。火災の前兆信号は、以下のように、識別のために利用される並列アークの特定の特性を示す(直列アークは、例えば、ゼロ交差での低信号と、ゼロ交差の領域のすぐ外側で大きな振幅インパルスなどの、識別のために利用できる他の特性を有し、グローイング接続は、識別のために利用できる異なる特性があることに留意されたい)。
【0080】
1)火災前兆パルス信号は、平均的に電圧ピーク付近ではより大きく、電圧ゼロ交差付近では最も弱くゼロに近づく。
2)パルス信号は、複数のサイクルにわたって時間的にランダムに分布し、位相全体にランダムに分布する。
【0081】
図19は、火災の前兆信号が時間の経過とともにどのように見えるかのプロットを示す。プロットの時間は上から下に向かって増加している。プロットの各行は、単一の電力サイクルを表しており、上昇半サイクルが左側に示され、下降半サイクルが右側に示されている。スケール1902は、電力サイクル位相の様々な場所で検出されたHF信号の振幅を示す。並列アークの場合、HF振幅は電力サイクル上のピークにおいて増加し、ゼロ電圧交差においてゼロになる。
【0082】
比較のために、
図20は、HF電気的活性を生成している電気ネットワーク上で動作しているデバイスに関する
図19のプロットを示す。電気ネットワーク上で動作しているデバイスの典型的な特徴は、HFの電気的活性がより長期間にわたって位相内の繰り返し可能な場所にあることである。これは、下降半サイクルにおける垂直線で示される。本明細書に記載のセンサアルゴリズムは、予測可能な繰り返し信号を生成する人工デバイスと、時間および振幅がより変動する火災の前兆信号との間の違いを利用する。
【0083】
上記の技術は、デジタルおよび/またはアナログ電子回路、またはコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせで実施することができる。この実施は、データ処理装置、例えば、プログラム可能なプロセッサ、および/または複数のコンピュータによって実行されるか、またはそれらの動作を制御するために、コンピュータプログラム製品、即ち、機械可読ストレージデバイスに有形に具体化されるコンピュータプログラムとすることができる。コンピュータプログラムは、ソースコード、コンパイルされたコード、解釈されたコード、および/または機械語を含む、任意の形式のコンピュータ言語またはプログラミング言語で記述することができ、コンピュータプログラムは、スタンドアロンプログラムとして、またはコンピューティング環境での使用に適したサブルーチン、要素、またはその他のユニットとして含む、任意の形式で配備することができる。コンピュータプログラムは、1台のコンピュータまたは1つまたは複数の場所の複数のコンピュータで実行するように展開することができる。
【0084】
方法ステップは、入力データを操作すること、かつ/または出力データを生成することによって、技術の機能を実行するためのコンピュータプログラムを実行する1つまたは複数の特別目的のプロセッサによって実行され得る。方法ステップは、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、FPAA(フィールドプログラマブルアナログアレイ)、CPLD(コンプレックスプログラマブルロジックデバイス)、PSoC(プログラマブルシステムオンチップ)、ASIP(アプリケーション固有命令セットプロセッサ)、またはASIC(特定用途向け集積回路)などの専用論理回路によって実行することもでき、装置をこれらの回路によって実施することもできる。サブルーチンは、格納されたコンピュータプログラムおよび/またはプロセッサの一部、および/または1つまたは複数の機能を実装する特別な回路を参照することができる。
【0085】
コンピュータプログラムの実行に適したプロセッサは、例として、汎用マイクロプロセッサおよび専用マイクロプロセッサの両方、および任意の種類のデジタルまたはアナログコンピュータの任意の1つまたは複数のプロセッサを含む。一般に、プロセッサは、読み取り専用メモリまたはランダムアクセスメモリ、あるいはその両方から命令およびデータを受信する。コンピュータの本質的な要素は、命令を実行するためのプロセッサと、命令および/またはデータを格納するための1つまたは複数のメモリデバイスである。キャッシュなどのメモリデバイスは、データを一時的に格納するために使用することができる。メモリデバイスは、長期的なデータ格納にも使用することができる。一般に、コンピュータは、データを格納するための1つまたは複数の大容量ストレージデバイス、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、または光ディスクからデータを受信するか、または、これらにデータを転送するか、またこれらとデータを送受信するように動作可能に結合される。コンピュータはまた、ネットワークから命令および/またはデータを受信するために、および/またはネットワークに命令および/またはデータを転送するために、通信ネットワークに動作可能に結合することもできる。コンピュータプログラムの命令およびデータを具体化するのに適したコンピュータ可読記憶媒体は、例としては、半導体メモリデバイス(例えば、DRAM、SRAM、EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリデバイス)、磁気ディスク(例えば、内蔵ハードディスクまたはリムーバブルディスク)、光磁気ディスク、および光ディスク(例えば、CD、DVD、HD-DVD、Blu-ray(登録商標)ディスク)を含む任意の形態の揮発性メモリおよび不揮発性メモリを含む。プロセッサおよびメモリは、専用論理回路によって補完され、るつ/または組み込まれてもよい。
【0086】
ユーザとの対話を提供するために、上記の技術は、ユーザに情報を表示すためのディスプレイデバイス(例えば、CRT(陰極線管)、プラズマ、またはLDC(液晶ディスプレイ)モニタ)、およびキーボード、およびポインティングデバイス(例えば、マウス、トラックボール、タッチパッド、モーションセンサなど)を用いて通信して、ユーザがコンピュータに入力を提供できる(例えば、ユーザインタフェース要素と対話できる)ようにして、コンピュータ上で実施することができる。他の種類のデバイスを使用して、ユーザとの対話を提供することもでき、例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態の感覚的フィードバック(例えば、視覚的フィードバック、聴覚的フィードバック、または触覚的フィードバック)であり得、ユーザからの入力は、音響入力、音声入力、および/または触覚入力を含む任意の形式で受信することができる。
【0087】
上記の技術は、バックエンドコンポーネントを含む分散コンピューティングシステムにおいて実施することができる。バックエンドコンポーネントは、例えば、データサーバ、ミドルウェアコンポーネント、および/またはアプリケーションサーバとすることができる。上記の技術は、フロントエンドコンポーネントを含む分散コンピューティングシステムにおいて実施することができる。フロントエンドコンポーネントは、例えば、グラフィカルユーザインタフェースを有するクライアントコンピュータ、ユーザが例示的な実施形態と対話することができるウェブブラウザ、および/または送信デバイスのための他のグラフィカルユーザインタフェースとすることができる。上記の手法は、そのようなバックエンド、ミドルウェア、またはフロントエンドコンポーネントの任意の組み合わせを含む分散コンピューティングシステムにおいて実施することができる。
【0088】
コンピューティングシステムのコンポーネントは、デジタルまたはアナログデータ通信の任意の形態または媒体(例えば、通信ネットワーク)を含むことができる伝送媒体によって相互接続することができる。伝送媒体は、任意の構成において、1つまたは複数のパケットベースのネットワークおよび/または1つまたは複数の回路ベースのネットワークを含むことができる。パケットベースのネットワークは、例えば、インターネット、キャリアインターネットプロトコル(IP)ネットワーク(例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN))、ワイドエリアネットワーク(WAN)、キャンパスエリアネットワーク(CAN)、メトロポリタンエリアネットワーク(MAN)、ホームエリアネットワーク(HAN))、プライベートIPネットワーク、IPプライベートブランチエクスチェンジ(IPBX)、無線ネットワーク(例えば、無線アクセスネットワーク(RAN))、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)、WiMAX(登録商標)、一般パケット無線サービス(GPRS)ネットワーク、HiperLAN)、および/または他のパケットベースのネットワークを含む。回線ベースのネットワークは、例えば、公衆交換電話網(PSTN)、レガシ-構内交換機(PBX)、無線ネットワーク(例えば、RAN、符号分割多元接続(CDMA)ネットワーク、時分割多元接続(TDMA)ネットワーク、モバイル通信用グローバルシステム(GSM(登録商標))ネットワーク))、および/または他の回線ベースのネットワークを含む。
【0089】
伝送媒体を介した情報転送は、1つまたは複数の通信プロトコルに基づくことができる。通信プロトコルは、例えば、イーサネットプロトコル、インターネットプロトコル(IP)、ボイスオーバーIP(VOIP)、ピアツーピア(P2P)プロトコル、ハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP)、セッション開始プロトコル(SIP)、H.323、メディアゲートウェイ制御プロトコル(MGCP)、シグナリングシステム#7(SS7)、移動体通信のためのグローバルシステム(GSM)プロトコル、プッシュトゥトーク(PTT)プロトコル、PTTオーバーセルラー(POC)プロトコル、および/または他の通信プロトコルを含むことができる。
【0090】
コンピューティングシステムのデバイスは、例えば、コンピュータ、ブラウザデバイスを備えたコンピュータ、電話、IP電話、モバイルデバイス(例えば、携帯電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)デバイス、ラップトップコンピュータ、電子メールデバイス)、および/または他の通信デバイスを含むことができる。ブラウザデバイスは、例えば、ワールドワイドウェブブラウザ(例えば、マイクロソフト社(Microsoft Corporation)から入手可能なマイクロソフト(Microsoft(登録商標))インターネットエクスプローラ(Internet Explorer(登録商標))、モジラ社(Mozilla Corporation)から入手可能なモジラ(Mozilla(登録商標))ファイアフォックス(Firefox))を備えたコンピュータ(例えば、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ)を含む。モバイルコンピューティングデバイスは、例えば、ブラックベリー(Blackberry(登録商標))を含む。IP電話は、例えば、シスコシステム社(Cisco Systems、Inc)から入手可能なシスコユニファイドアイピーフォン(Cisco(登録商標)Unified IP Phone 7985G、および/またはシスコシステム社から入手可能なシスコユニファイドワイヤレスフォン(Cisco(登録商標)Unified Wireless Phone 7920を含む。
【0091】
備える、含む、および/または各々の複数形の用語は、非限定であり(open ended)、記載されている構成を含み、かつ記載されていない追加の構成を含むことができる。および/または、非限定であり、1つまたは複数の記載された構成を含み、かつ記載された構成の組み合わせを含む。
【0092】
当業者は、本発明が、その要旨または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化され得ることを理解するであろう。従って、前述の実施形態は、本明細書に記載の発明を限定するのではなく、全ての点で例示的であると見なされるべきである。