(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】スカラップ耐性軌道リンクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 55/21 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
B62D55/21
(21)【出願番号】P 2021510412
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 US2019047629
(87)【国際公開番号】W WO2020046692
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-20
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391020193
【氏名又は名称】キャタピラー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CATERPILLAR INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スタイナー、ケヴィン
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-017782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/18-55/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面係合(ground‐engaging)機械(10)用軌道(12)であって、
第1の軌道チェーン(16)および前記第1の軌道チェーン(16)と平行に延びられる第2の軌道チェーン(18)を含む軌道チェーンアセンブリ(14)を含み、前記第1の軌道チェーン(16)および前記第2の軌道チェーン(18)のそれぞれは、複数の軌道リンク(20)によって形成され;
前記第1の軌道チェーン(16)を形成する前記複数の軌道リンク(20)および前記第2の軌道チェーン(18)を形成する前記複数の軌道リンク(20)のそれぞれは、第1のリンクストラップ(36)を備えた第1のリンク本体端部(34)および第2のリンクストラップ(40)を備えた第2のリンク本体端部(38)を有する細長リンク本体(32)を含み;
各細長リンク本体(32)は、下部シュー取り付け表面(42)、上部レール表面(44)、前記第1のリンク本体端部(34)に隣接する第1の軌道ピンボア(48)を画定する第1の内面(46)、および前記第2のリンク本体端部(38)に隣接する第2の軌道ピンボア(54)を画定する第2の内面(52)を含み;
各細長リンク本体(32)は、第1の低硬度ゾーン(78)、第2の低硬度ゾーン(80)および高硬度ゾーン(82)を形成するために前記細長リンク本体(32)内で硬度が変わるリンク本体材料(76)で形成され;
前記第1の低硬度ゾーン(78)は、前記第1の内面(46)を含み、前記第1の軌道ピンボア(48)の周りに円周方向に延びられ、前記第2の低硬度ゾーン(80)は、前記第2の内面(52)を含み、前記第2の軌道ピンボア(54)の周りに円周方向に延びられ、前記高硬度ゾーン(82)は、前記上部レール表面(44)の少なくとも大部分を含み、前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)外側の前記細長リンク本体(32)の全体にわたって延びられ、
前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)のそれぞれは、前記高硬度ゾーン(82)とアーチ型界面(70)を形成し;
前記高硬度ゾーン(82)によって分離される前記アーチ型界面(70)は、前記第1の軌道ピンボア(48)の軸(50)と、前記第2の軌道ピンボア(54)の軸(56)と同一の長さ方向位置に配置されたピークを含み、
前記高硬度ゾーン(82)は、前記上部レール表面(44)から前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)の
前記ピークまで下方に延びられる深さ(72)を有し、前記深さ(72)は、
15以上24.5ミリメートル以下である、軌道(12)。
【請求項2】
前記高硬度ゾーン(82)は、前記下部シュー取り付け表面(42)の少なくとも一部を含み;
各細長リンク本体(32)は、前記上部レール表面(44)および前記下部シュー取り付け表面(42)を含む外周面(58)を有し;
前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)は、ともに前記外周面(58)によって形成された境界内に前記高硬度ゾーン(82)のネガティブイメージを形成する、請求項1に記載の軌道(12)。
【請求項3】
各細長リンク本体(32)は、前記第1の軌道ピンボア(48)と前記第2の軌道ピンボア(54)との間に長さ方向にそれぞれ配置された第1のボルト締め窓(64)および第2のボルト締め窓(66)を形成する第3の内面(60)および第4の内面(62)、および前記第1のボルト締め窓(64)と前記第2のボルト締め窓(66)との間に延びられるストラット(68)をさらに含み;
前記第1の低硬度ゾーン(78)は、前記第3の内面(60)の一部を含み、前記第2の低硬度ゾーン(80)は、前記第4の内面(62)の一部を含み;
前
記高硬度ゾーン(82)は、前記ストラット(68)を含む、請求項1または2に記載の軌道(12)。
【請求項4】
前記上部レール表面(44)は平坦である、請求項1~3のいずれかに記載の軌道(12)。
【請求項5】
地面係合機械(10)の軌道(12)用軌道リンク(20)であって、
第1のリンク本体端部(34)および第2のリンク本体端部(38)を含み、下部シュー取り付け表面(42)、上部レール表面(44)、前記第1のリンク本体端部(34)に隣接する第1の軌道ピンボア(48)を画定する第1の内面(46)、および前記第2のリンク本体端部(38)に隣接する第2の軌道ピンボア(54)を画定する第2の内面(52)を有する細長リンク本体(32)を含み;
前記細長リンク本体(32)は、第1の低硬度ゾーン(78)、第2の低硬度ゾーン(80)および高硬度ゾーン(82)を形成するために前記細長リンク本体(32)内で硬度が変わるリンク本体材料(76)で形成され;
前記第1の低硬度ゾーン(78)は、前記第1の内面(46)を含み、前記第1の軌道ピンボア(48)の周りに円周方向に延びられ、前記第2の低硬度ゾーン(80)は、前記第2の内面(52)を含み、前記第2の軌道ピンボア(54)の周りに円周方向に延びられ;
前記高硬度ゾーン(82)は、前記上部レール表面(44)の少なくとも大部分を含み、前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)外側の前記細長リンク本体(32)の全体にわたって延びられ
、
前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)のそれぞれは、前記高硬度ゾーン(82)とアーチ型界面(70)を形成し;
前記高硬度ゾーン(82)によって分離される前記アーチ型界面(70)は、前記第1の軌道ピンボア(48)の軸(50)と、前記第2の軌道ピンボア(54)の軸(56)と同一の長さ方向位置に配置されたピークを含み、
前記高硬度ゾーン(82)は、前記上部レール表面(44)から前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)の前記ピークまで下方に延びられる深さ(72)を有し、前記深さ(72)は、15以上24.5ミリメートル以下である、軌道リンク(20)。
【請求項6】
各細長リンク本体(32)は、前記上部レール表面(44)および前記下部シュー取り付け表面(42)を含む外周面(58)を有し;
前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)は、ともに前記外周面(58)によって形成された境界内に前記高硬度ゾーン(82)のネガティブイメージを形成する、請求項5に記載の軌道リンク(20)。
【請求項7】
前記上部レール表面(44)は平坦であって
;
前記高硬度ゾーン(82)は、前記上部レール表面(44)から前記下部シュー取り付け表面(42)に延びられる、請求項5または6に記載の軌道リンク(20)。
【請求項8】
前記細長リンク本体(32)は、前記第1の軌道ピンボア(48)と前記第2の軌道ピンボア(54)との間に長さ方向にそれぞれ配置された第1のボルト締め窓(64)および第2のボルト締め窓(66)を形成する第3の内面(60)および第4の内面(62)、および前記第1のボルト締め窓(64)と前記第2のボルト締め窓(66)との間に延びられるストラット(68)をさらに含み;
前記第1の低硬度ゾーン(78)は、前記第3の内面(60)の一部を含み、前記第2の低硬度ゾーン(80)は、前記第4の内面(62)の一部を含み;
前記リンク本体材料(76)は、前記高硬度ゾーン(82)内で50HRCより大きい硬度を有し、前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)のそれぞれで50HRC未満の硬度を有する、請求項5~7のいずれかに記載の軌道リンク(20)。
【請求項9】
軌道リンク(20)を製造する方法であって、
下部シュー取り付け表面(42)および上部レール表面(44)を有する細長リンク本体(32)を熱処理し、前記細長リンク本体(32)の全体にわたって延びられる材料(76)が硬化されるようにする段階;
前記細長リンク本体(32)を焼戻し、硬化されて前記細長リンク本体(32)内に第1および第2の軌道ピンボア(54)を形成する前記材料(76)の一部が軟化されるようにする段階;および
前記細長リンク本体(32)の前記熱処理および前記焼戻により、可変硬度のスカラップ遅延(scallop‐retarding)パターンを形成する段階を含み、前記細長リンク本体(32)は、第1の軌道ピンボア(48)の周りに円周方向に延びられる第1の低硬度ゾーン(78)、第2の軌道ピンボア(54)の周りに円周方向に延びられる第2の低硬度ゾーン(80)、および前記上部レール表面(44)を含む高硬度ゾーン(82)を有し、
前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)のそれぞれは、前記高硬度ゾーン(82)とアーチ型界面(70)を形成し;
前記高硬度ゾーン(82)によって分離される前記アーチ型界面(70)は、前記第1の軌道ピンボア(48)の軸(50)と、前記第2の軌道ピンボア(54)の軸(56)と同一の長さ方向位置に配置されたピークを含み、
前記高硬度ゾーン(82)は、前記上部レール表面(44)から前記第1の低硬度ゾーン(78)および前記第2の低硬度ゾーン(80)の
前記ピークまで下方に延びられる深さ(72)を有し、前記深さ(72)は、
15以上24.5ミリメートル以下である、方法。
【請求項10】
前記細長リンク本体(32)の前記熱処理段階は、前記細長リンク本体(32)の全体にわたって延びられる前記材料(76)を50HRCより大きい硬度に硬化させる段階を含み、前記細長リンク本体(32)の前記焼戻段階は、50HRC未満の硬度に硬化される前記材料を軟化させる段階を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記可変硬度のスカラップ遅延パターンの形成段階は、
前記第1および第2の軌道ピンボア(54)の間の長さ方向の位置において、前記上部レール表面(44)から前記下部シュー取り付け表面(42)まで前記高硬度ゾーン(82)のより大きい深さ(74)を形成する段階;および
前記第1および第2の軌道ピンボア(48、54)の長さ方向の位置において、前記上部レール表面(44)から前記第1および第2の低硬度ゾーン(78、80)まで延びられる前記高硬度ゾーン(82)のより小さい深さ(72)を形成する段階をさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、地面係合(ground‐engaging)機械の軌道システムに関し、より具体的には、スカラップ(scallop)形成を遅らせるために硬度ゾーンの異なる軌道リンクに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な機械、特に軌道型トラクタは、地面係合推進要素として軌道を利用する。このような軌道は、複数の回転可能な軌道接触要素を含むのが一般的であり、機械の対向する側面にある2つの軌道のそれぞれは、作動中に回転式構成要素の周りに移動される無限ループを形成する。このような軌道は、一般にボルトで固定された(bolted‐on)軌道シューを備えた、ともに結合されたリンクの2つチェーン、および軌道ピンによってともに保持されたリンクをそれぞれ含む。このような機械およびこれに関連する軌道に課せられる要求事項は、極めて高いねじり荷重、せん断荷重、衝撃などでかなり大きくなる可能性がある。機械軌道は、一般に著しい応力、変形および摩耗にもかかわらず、数百時間、またはより好ましくは数千時間の作動寿命を提供するためにかなり堅牢である。
【0003】
近年、機械軌道の摩耗現象を理解して解決するのにかなりの工学的注目を集めている。機械軌道で経験する様々な摩耗現象および摩耗率は、一般に機械の使用方法、作業者の技術および経験、また特定の地盤条件および作動環境の基板材料の結果である。たとえば、砂質材料で作動する機械は、主に土壌および/または粘土、石炭、または埋め立て廃棄物環境で使用される機械よりも相対的に速く特定の構成要素を摩耗させる傾向がある。したがって、機械軌道の現場サービス寿命は、上記の要因によって異なる可能性がある。機械軌道の構成要素は、サービスおよび交換コストが比較的高価であり、機械休止時間の短所は言うまでもないため、この分野での工学的努力は、しばしば構成要素間の摩耗を低減し、かつ管理するのに集中された。たとえば、軌道ラインの中央領域が相対的に磨耗される「スカラッピング(scalloping)」現象によって軌道リンクが磨耗される可能性があるということがよく知られている。Massieonなどの米国特許第3,955,855号は、比較的高い耐摩耗性材料で形成された接触面を備えた軌道リンクを有する軌道型機械に関する。材料は明らかに軌道リンクの基本材料に冶金学的に結合された複合合金である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一様態において、地面係合機械用軌道は、第1の軌道チェーン、および第1の軌道チェーンと平行に延びられる第2の軌道チェーンアセンブリを含み、第1の軌道チェーンおよび第2の軌道チェーンのそれぞれは、複数の軌道リンクによって形成される。第1の軌道チェーンを形成する複数の軌道リンクおよび第2の軌道チェーンを形成する複数の軌道リンクのそれぞれは、第1のリンクストラップを備えた第1のリンク本体端部および第2のリンクストラップを備えた第2のリンク本体端部を有する細長リンク(elongate link)本体端部を含む。各細長リンク本体は、下部シュー取り付け表面、上部レール表面、第1のリンク本体端部に隣接する第1の軌道ピンボアを画定する第1の内面、および第2のリンク本体端部に隣接する第2の軌道ピンボアを画定する第2の内面を含む。各細長リンク本体は、第1の低硬度ゾーン、第2の低硬度ゾーンおよび高硬度ゾーンを形成するために細長リンク本体内で硬度が変わるリンク本体材料で形成される。第1の低硬度ゾーンは、第1の内面を含み、第1の軌道ピンボアの周りに円周方向に延びられ、第2の低硬度ゾーンは、第2の内面を含み、第2の軌道ピンボアの周りに円周方向に延びられる。高硬度ゾーンは、上部レール表面の少なくとも大部分を含み、第1の低硬度ゾーンおよび第2の低硬度ゾーン外側の細長リンク本体の全体にわたって延びられる。
【0005】
別の様態において、地面係合機械の軌道用軌道リンクは、第1のリンク本体端部および第2のリンク本体端部、下部シュー取り付け表面、上部レール表面、第1のリンク本体端部に隣接する第1の軌道ピンボアを画定する第1の内面、および第2のリンク本体端部に隣接する第2の軌道ピンボアを画定する第2の内面を有する細長リンク本体を含む。細長リンク本体は、第1の低硬度ゾーン、第2の低硬度ゾーンおよび高硬度ゾーンを形成するために細長リンク本体内で硬度が変わるリンク本体材料で形成される。第1の低硬度ゾーンは、第1の内面を含み、第1の軌道ピンボアの周りに円周方向に延びられる。第2の低硬度ゾーンは、第2の内面を含み、第2の軌道ピンボアの周りに円周方向に延びられる。高硬度ゾーンは、上部レール表面の少なくとも大部分を含み、第1の低硬度ゾーンおよび第2の低硬度ゾーン外側の細長リンク本体の全体にわたって延びられる。
【0006】
さらに他の様態において、軌道リンクを製造する方法は、下部シュー取り付け表面および上部レール表面を有する細長リンク本体を熱処理し、細長リンク本体の全体にわたって延びられる材料が硬化されるようにする段階を含む。上記方法は、細長リンク本体を焼戻し、硬化されて細長リンク本体内に第1および第2の軌道ピンボアを形成する材料の一部が軟化されるようにする段階をさらに含む。上記方法は、細長リンク本体の熱処理および焼戻により、可変硬度のスカラップ遅延(scallop‐retarding)パターンを形成する段階をさらに含み、ここで、細長リンク本体は、第1の軌道ピンボアの周りに円周方向に延びられる第1の低硬度ゾーン、第2の軌道ピンボアの周りに円周方向に延びられる第2の低硬度ゾーン、および上部レール表面を含む高硬度ゾーンを有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態による軌道を有し、詳細な拡大図を含む機械の側面概略図である。
【
図2】一実施形態による、多数の切断面(section plane)での軌道の切開された概略図である。
【
図3】一実施形態による軌道リンクの概略図である。
【
図4】一実施形態による軌道リンクを製造する段階を示す概略図である。
【
図5】一実施形態による、初期摩耗状態での軌道リンクの側断面概略図である。
【
図6】一実施形態による、後の摩耗状態での軌道リンクの側断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照すると、一実施形態による軌道12を含む地面係合機械10が示されている。軌道12は、機械10のフレーム24の第1の側面に配置された1つの軌道であり、実質的に同一の第2の軌道がフレーム24の対向端部に配置されるということが理解されよう。軌道12は、複数の回転可能な軌道接触要素の周りに延びられる。示される実施形態において、機械10は、駆動スプロケット26、後方アイドラ28および前方アイドラ30を含む。軌道ローラフレーム22は、後方アイドラ28および前方アイドラ30を支持する。当業者は、機械10で軌道12のいわゆる「高駆動(high drive)」構成が認識されよう。楕円形軌道構成などの他の軌道構成が本開示の範囲内に属するということが理解されよう。軌道ローラおよびキャリアローラを含む複数の追加の回転可能な軌道接触要素(番号が指定されない)は、軌道12が一部である全体システムの一部である可能性がある。地面係合機械10(以下、「機械10」)は、軌道型トラクタの脈絡で示されているが、軌道ローダ、半軌道機械またはオフハイウェイ装備の別の部品などの様々な他の機械のうちの任意のものであり得る。
図1はまた、前方アイドラ30と軌道リンク20との間の接触パターンを示す詳細な拡大図を含み、これにより、軌道12が前方アイドラ30の周りに前進することによって軌道リンク20とアイドラ30の部分の摺動接触が生ずる。このような摺動接触は、軌道サービス寿命を制限する可能性のある、一般に当技術分野でスカラッピングとして知られている特定の形態の摩耗を生じさせるものと観察される。後方アイドラ28と軌道12との係合および解除に基づき、類似の摩耗が生ずる可能性がある。以下の説明からさらに明らかになるように、軌道12は、特定の摩耗現象を解決するように固有に構成されるため、他の知られている設計と比較してサービス寿命が延びられる。
【0009】
ここでまた
図2を参照すると、軌道12は、第1の軌道チェーン16、および第1の軌道チェーン16と平行に延びられる第2の軌道チェーン18を有する軌道チェーンアセンブリ14を含む。第1の軌道チェーン16および第2の軌道チェーン18のそれぞれは、複数の軌道リンク20によって形成される。第1の軌道チェーン16を形成する複数の軌道リンク20および第2の軌道チェーン18を形成する複数の軌道リンク20のそれぞれは、細長リンク本体32を含む。また
図3を参照すると、各細長リンク本体32は、第1のリンクストラップ36を備えた第1のリンク本体端部34および第2のリンクストラップ40を備えた第2のリンク本体端部38を有する。以下で単数と称される各細長リンク本体32は、下部シュー取り付け表面42、上部レール表面44、第1の軌道ピンボア48を画定する第1の内面46および第2の軌道ピンボア54を画定する第2の内面52を含む。第1の軌道ピンボア48は、中心軸50を有し、第1のリンク本体端部34に隣接する。第2の軌道ピンボア54は、中心軸56を有し、第2のリンク本体端部38に隣接する。軌道チェーン16および18の一般的な構成が、回転ブッシング59を支持し、軌道チェーン16および18をともに結合する軌道ピン57を示す
図2にまた示されている。他の軌道設計においては、回転ブッシングは使用されない。
【0010】
図1に示される軌道駆動構成において、駆動スプロケット26の回転は、スプロケット26が各軌道ピン57に関連する回転ブッシングの周りに連続的にまたは軌道ピンと直接係合し、軌道12がいくつかの回転可能な軌道接触要素の周りに順方向または逆方向に移動させる。軌道チェーン16および18のうちの1つの各軌道リンク20が「左利型」である一方、軌道チェーン16および18のうちのもう1つの各軌道リンク20が「右利型」である実施形態が示されるものと考慮されるため、それぞれの軌道チェーン16および18の軌道リンク20は、互いの鏡像である可能性がある。軌道リンク20は、蛇状またはジグザグ状の構成を有することができる。すべての軌道リンク20が軌道チェーン16および18の両方で同一であり、および/または軌道リンク20が直線である場合など、左利型または右利型でないか、あるいは本脈絡内でさらに他の構成が使用され得る実施形態がまた考慮される。上記のように、軌道リンク20は、特定の摩耗現象を解決するように固有に構成される。このため、細長リンク本体32は、スカラップ遅延パターンにしたがって細長リンク本体32内で硬度が変わるリンク本体材料76で形成される。可変硬度は、第1の低硬度ゾーン78、第2の低硬度ゾーン80および高硬度ゾーン82を形成する。第1の低硬度ゾーン78は、第1の内面46を含み、第1の軌道ピンボア48の周りに円周方向に延びられる。第2の低硬度ゾーン80は、第2の内面52を含み、第2の軌道ピンボア54の周りに円周方向に延びられる。高硬度ゾーン82は、上部レール表面44の少なくとも大部分を含み、第1の低硬度ゾーン78および第2の低硬度ゾーン80外側の細長リンク本体32全体にわたって延びられる。全体にわたって延びられるとは、低硬度ゾーン78および80内にある当該部分を除く細長リンク本体32の少なくとも80~90%などの実質的にすべてが高硬度ゾーン82の一部となるように、対象の高硬度ゾーン82が低硬度ゾーン78および80を除く細長リンク本体32に蔓延することを意味する。細長リンク本体32は、それぞれ第1のボルト締め窓64および第2のボルト締め窓66を形成する第3の内面60および第4の内面62をさらに含む。ボルト締め窓64およびボルト締め窓66は、第1の軌道ピンボア48と第2の軌道ピンボア54との間に長さ方向に配置される。ストラット68は、第1のボルト締め窓64と第2のボルト締め窓66との間に延びられる。第1の低硬度ゾーン78は、第3の内面60の一部を含むことができ、第2の低硬度ゾーン80は、第4の内面62の一部を含むことができる。高硬度ゾーン82は、ストラット68を含むことができる。
【0011】
上述のように、軌道リンク20、特にレール表面を係合および解除する軌道システムでの回転式軌道接触構成要素の係合および解除は、当技術分野でスカラッピングで知られている摩耗現象を生じさせる可能性がある。摺動接触領域に硬化された材料を提供すること、選択された位置に余分の摩耗材料を提供すること、およびさらに他の戦略などの特定の技術は、スカラップが生ずる傾向を減らし、軌道サービス寿命を延ばし得るということが観察される。
図3から、上部レール表面44全体が高硬度ゾーン82に含まれるということが分かる。上部レール表面44の少なくとも大部分は、ほとんどの実施形態において高硬度ゾーン82内にある。したがって、軌道リンク20が初めてサービスが開始されるとき、すべての上部レール表面44は、比較的硬くて耐摩耗性の材料を含むことができる。しかしながら、軌道リンク20のサービス寿命の間に、初期に上部レール表面44を形成する比較的硬い材料さえも摩耗され始めるであろう。
図3から、第1の低硬度ゾーン78および第2の低硬度ゾーン80は、上部レール表面44の全体範囲に沿って高硬度ゾーン82の下にあることが分かる。高硬度ゾーン82の比較的硬い材料が摩耗されるにつれ、結局低硬度ゾーン78および80のより柔らかい材料が露出されよう。摩耗材料が細長リンク本体32の中間に向かって集中される従来のパターンにしたがって上部レール表面44の摩耗が初期に進行されるにつれ、初期の比較的軽いスカラップ現象が観察され得る。高硬度ゾーン82の比較的高硬度の材料が摩耗され、低硬度ゾーン78および80のより柔らかい材料を露出させると、耐摩耗性の少ない柔らかい材料は比較的より速い速度で犠牲になり始め、上部レール表面44の中間部分でより多く生ずる傾向のあるスカラッピングを補償する方法でリンクストラップ36および40に隣接するか、その上で摩耗を促進させるであろう。
【0012】
ここでまた
図5を参照すると、比較的浅いスカラップ75が一般に上部レール表面44の長さ方向の中間地点にまたはその周りに形成されるように、スカラッピングの特性の若干の摩耗が生じた軌道リンク20が示されている。アイドラが軌道リンク20と接触して内外に摺動する傾向は、ほぼ
図5に示されるように、摩耗が対向するリンク端部らの間で軌道リンク20の中間部分に向かって付勢され得ることが想起されよう。
【0013】
また
図6を参照すると、低硬度ゾーン78、80の比較的より柔らかい材料が露出され、これらの領域での摩耗が加速化されるように、細長リンク本体32がさらに摩耗された軌道リンク20が示されている。その結果、上部レール表面44は、リンクの端部に向かってより大きい摩耗率が、これらの領域で摩耗に追いつくことを可能にしたため、ほぼサービスが開始される前に見られるように多少平坦な状態に戻る。
図5および
図6の例示は単に例示のみであり、観察され得る実際の摩耗パターンを必ずしも反映するものではないことを理解されたい。いずれの場合でも、摩耗が所望の状態を超えて続くと、結局関連する機械がサービスのために遊休状態になり、潜在的に他のアンダキャリッジシステムの構成要素とともに軌道12が交換されよう。軌道リンク20のスカラッピングは、許容可能な作動および性能が達成できる地点を超え、材料が結局磨耗される可能性があるだけでなく、作業者の便宜性の減少によってサービス寿命を制限する要因であるということが観察される。いくつかの場合に、スカラッピングは、作業者がもはや関連する機械を便宜に操作できない程度に十分に深刻になる可能性がある。本開示の教示を既存の軌道システムに適用すると、軌道のサービス寿命を20%超えて改善することができ、他の方法で作業者の快適性改善によって予想できることより潜在的に30%超えて改善することができるものと予想される。
産業上利用可能性
【0014】
一般に図面を参照するが、ここで特に
図4を参照すると、本開示による軌道リンク20を製造する方法論の段階が示されている。軌道リンク20を製造することは、細長リンク本体32全体にわたって延びられる材料が硬化されるように、細長リンク本体32を熱処理することを含むことができる。細長リンク本体32が製造される材料は、参照番号76として示される鉄または鋼を含むことができる。
図4において、初期加熱段階200は、細長リンク本体32を実質的に均一に加熱するのに十分な時間の間、炉(furnace)など100内に細長リンク本体32を配置することを含むことができる。本脈絡で適用するのに適した硬度および他の材料特性を達成するための熱処理温度および処理条件は日常的である。加熱段階200から、処理は、細長リンク本体32が液体急冷される急冷段階202に進行することができる。加熱段階200および急冷段階202にわたって細長リンク本体32を熱処理することは、50HRC(ロックウェルC硬度スケール)より大きい硬度に細長リンク本体32全体にわたって延びられる硬化材料76を含むことができる。リンク本体材料76は、約55HRC以上の急冷段階202後の硬度を有することができる。急冷段階202から、処理は、第1の軌道ピンボア48および第2の軌道ピンボア52内に誘導加熱要素などの過熱要素106を配置するために焼戻装置104が使用される焼戻段階204に進行することができる。焼戻段階204において、細長リンク本体32の焼戻は、加熱段階200および急冷段階202から硬化され、第1および第2の軌道ピンボア48、52を形成するリンク本体材料76の一部が軟化されるように行われる。焼戻装置104および本脈絡で適用するのに適した仕様は日常的である。細長リンク本体32を焼戻し、軌道ピンボア48および52を形成するリンク本体材料76を軟化させた後、軌道リンク20の処理は最終機械加工に進行することができる。細長リンク本体32の焼戻は、対象のリンク本体材料76を50HRC未満の硬度に軟化させることを含むことができる。軟化は、対象のリンク本体材料76を約45HRC以下の硬度に軟化させることをさらに含むことができる。
図4に示される処理段階は、細長リンク本体32の熱処理および焼戻により、可変硬度のスカラップ遅延パターンを形成することを可能にする。したがって、焼戻段階204が完了されるとき、リンク本体材料76は、高硬度ゾーン82内で50HRCより大きい硬度を有することができ、潜在的に約55HRC以上の硬度を有することができる。リンク本体材料76は、第1の低硬度ゾーン78および第2の低硬度ゾーン80のそれぞれで50HRC未満の硬度を有することができ、潜在的にそれぞれの低硬度ゾーン78および80内で約45HRC以下の硬度を有することができる。
【0015】
特定の初期戦略は、本開示にしたがって使用され得るものよりも多くの数の処理段階が使用される。たとえば、リンク本体を熱処理して硬化させた後、リンク本体の全体を軟化させ、その後に上部レール表面44を選択的にレール硬化させることが以前から知られている。最終機械加工に適したピースを生産するために1つの熱処理手順および1つの焼戻手順のみが利用され得ることを考えると、本開示は、このような以前の戦略と比較して効率的な利得が提供できるということが理解されよう。
【0016】
本開示によって部分的に可能になった特定の他の特徴はまた、
図4の焼戻段階204で細長リンク本体32の図示から明らかである。特に、一貫した断面で示されるように、高硬度ゾーン82は、下部シュー取り付け表面42の少なくとも一部を含むということが分かる。細長リンク本体32は、境界を形成する外周面58を有するということがまた分かる。外周面58は、上部レール表面44および下部シュー取り付け表面42を含む。第1の低硬度ゾーン78および第2の低硬度ゾーン80は、ともに外周面58によって形成された境界内に高硬度ゾーン82のネガティブイメージ(negative image)を形成する。高硬度ゾーン82のより大きい深さ74が、第1および第2の軌道ピンボア48および52の間の長さ方向の位置において、上部レール表面44から下部シュー取り付け表面42まで形成されるということがさらに分かる。高硬度ゾーン82のより小さい深さ72が、第1および第2の軌道ピンボア48および52の長さ方向位置において、上部レール表面44から第1および第2の低硬度ゾーン78および80まで形成され、延びられる。深さ72は、約20ミリメートル以下であってもよい。本明細書で使用されるように、用語「約」は一貫した有効桁数への通常の四捨五入(rounding)の脈絡で理解できる。したがって、「約20」は、15~24.5などを意味する。アーチ型界面70が、高硬度ゾーン82とともに第1の低硬度ゾーン78および第2の低硬度ゾーン80のそれぞれによって形成されるということがさらに分かるであろう。示される実施形態において、不連続であり、高硬度ゾーン82によって分離されたアーチ型界面70は、軌道ピンボア48および54の軸50および56と実質的に同一の長さ方向位置に配置されたピーク(番号が指定されていない)を含むものと理解できる。このようなピークはまた、第1および第2の低硬度ゾーン78および80のピークとして理解され得る。深さ72は、上部レール表面44からピークまでまだサービスされていない新しいリンクで測定してもよい。
【0017】
アーチ型界面70は、円形または部分的に円形である可能性があり、一般に一定の半径方向の距離をおいて軸50および56の周りに円周方向に延びられる。他の場合に、細長リンク本体32の焼戻は、可変の半径方向の距離をおいて焼戻される材料に熱を誘導するのを含むことができる。言い換えると、低硬度ゾーン78および82の一般に円形または半円形の境界(アーチ型界面70)ではなく、他の場合に非円形の境界が知られている技術により、誘導加熱(または他の加熱処理)を操作することによって形成することができる。また、深さ72は、摩耗が進行されることを望む方法に応じ、より大きく、または小さく形成され得るということが理解できる。軌道リンク20は、特定の環境、作動条件、機械適用および基板材料に合わせて調整される方法で比較的柔らかいリンク本体材料76をオーバレイする比較的硬いリンク本体材料76の形状および/または深さで設計することができる。
【0018】
本説明は、単に例示のためのものであり、いかなる方法でも本開示の幅を狭めるものとして解釈されるべきではない。したがって、当業者は、本開示の完全、かつ公正な範囲および思想から逸脱することなく、現在開示されている実施形態に対して様々な修正が行われ得ることが理解されよう。他の様態、特徴および利点は、添付の図面および特許請求の範囲の検討のときに明らかになるであろう。本願にて使用されるように、冠詞「a」または「an」は、1つ以上のアイテムを含むように意図され、「1つ以上の(one or more)」に互換的に使用することができる。1つの項目のみが意図されている場合、用語「1つ」または類似の言語が使用される。また、本願にて使用されるように、用語「有している(has)」、「有する(have)」、「備える(having)」などは制限のない用語として意図される。さらに、他に明記なき限り、文句「ベースの(based on)」は「少なくとも部分的にベースとなる」を意味するように意図される。