(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】CD40とGPC3に結合するバイスペシフィック抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240611BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240611BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240611BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240611BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240611BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240611BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240611BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240611BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240611BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240611BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240611BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20240611BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240611BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P35/00
G01N33/531 A
G01N33/53 D
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2021519511
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019547
(87)【国際公開番号】W WO2020230901
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019092297
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】住友 嘉樹
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 正之
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/156268(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/185045(WO,A1)
【文献】カナダ国特許出願公開第03081854(CA,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分および第二の抗原結合ドメインを含み、該IgG部分の重鎖のC末端が該第二の抗原結合ドメインと直接またはリンカーを介して結合している、以下の(i
)のバイスペシフィック抗体
;
(i)第一の抗原結合ドメインがヒトCD40に結合する抗原結合ドメインであり、第二の抗原結合ドメインがヒトGlypican 3(GPC3)に結合する抗原結合ドメインであるバイスペシフィック抗
体
であって、
ヒトCD40に結合する抗原結合ドメインが、それぞれ配列番号16~18で表されるCDR1~3を含むVH、および、それぞれ配列番号11~13で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含み、
ヒトGPC3に結合する抗原結合ドメインが、それぞれ配列番号11~13で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVL、および、以下の(1a)~(1g)からなる群から選ばれるいずれか1つのVHを含む、バイスペシフィック抗体。
(1a)それぞれ配列番号42~44で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1b)それぞれ配列番号47~49で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1c)それぞれ配列番号52~54で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1d)それぞれ配列番号57~59で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1e)それぞれ配列番号62~64で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1f)それぞれ配列番号67~69で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1g)それぞれ配列番号72~74で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
【請求項2】
ヒトCD40とヒトGPC3にそれぞれ2価で結合する、請求項1に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項3】
IgG部分の重鎖のC末端が、第二の抗原結合ドメインと直接結合している、請求項1又は2に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項4】
第二の抗原結合ドメインがFabである、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項5】
CD40アゴニスト活性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項6】
ヒトCD40に結合する抗原結合ドメインが、配列番号15で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項7】
ヒトGPC3に結合する抗原結合ドメインが、配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むVL、および、以下の(2a)~(2g)からなる群から選ばれるいずれか1つのVHを含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
(2a)配列番号41で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2b)配列番号46で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2c)配列番号51で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2d)配列番号56で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2e)配列番号61で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2f)配列番号66で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2g)配列番号71で表されるアミノ酸配列を含むVH
【請求項8】
前記IgG部分の重鎖定常領域が配列番号77で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項9】
配列番号96、98、100、102、104、106および108から選ばれるいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む2本の重鎖、および、配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む4本の軽鎖からなる、請求項1~
8のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体のバイスペシフィック抗体断片。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体断片をコードするDNA。
【請求項12】
請求項
11に記載のDNAを含有する組換え体ベクター。
【請求項13】
請求項
12に記載の組換え体ベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
【請求項14】
請求項
13に記載の形質転換株を培地で培養し、培養物中に請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体断片を生産蓄積させ、該培養物から該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を採取することを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体断片の製造方法。
【請求項15】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患の治療剤および/または診断剤。
【請求項16】
ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項
15に記載の剤。
【請求項17】
ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断に使用するための、請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体断片。
【請求項18】
ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患ががんである、請求項
17に記載のバイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片。
【請求項19】
ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患の治療剤および/または診断剤の製造のための、請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体断片の使用。
【請求項20】
ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項
19に記載の使用。
【請求項21】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体断片を含む、GPC3およびCD40の少なくとも一方を検出または測定するための試薬。
【請求項22】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項1
0に記載のバイスペシフィック抗体断片に、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、タンパク質または抗体医薬を化学的または遺伝子工学的に結合させたバイスペシフィック抗体の誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD40に結合する抗原結合部位およびGlypican 3(GPC3)に結合する抗原結合部位を含むバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断剤、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
CD40は、ヒトB細胞表面に発現する抗原として同定されたタイプIの膜型糖蛋白質であり、Bリンパ球や樹状細胞、単球上皮細胞、線維芽細胞などの多様な細胞タイプや、腫瘍性のヒトB細胞などのある種の腫瘍細胞にも発現していることが知られている。CD40欠損マウスでは、胸腺依存の免疫グロブリンのクラススイッチや胚中心の形成が損なわれることが確認されており、細胞性と液性免疫反応でのCD40の重要な役割が実証されている。
【0003】
CD40のシグナルは免疫グロブリンのクラススイッチやCTLの誘導に関与することから、腫瘍免疫の活性化やがんワクチンのアジュバントとしての医薬品への応用も期待されている(非特許文献1)。
【0004】
Glypican 3(GPC3、SGB、DGSX、MXR7、SDYS、SGBS、 OCI-5、SGBS1、GTR2-2)は、580アミノ酸からなるGPIアンカー型の膜タンパク質である。GPC3は発生期には全身の組織で発現がみられるが、成体の正常組織では発現は限定されており(非特許文献2)、 肝細胞癌で高発現しているがん抗原として知られている。また、悪性黒色腫、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、神経芽腫、肝芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、精巣胚細胞腫瘍、脂肪肉腫においても発現していることが報告されており、がん分子標的医薬品の標的分子や診断マーカー、がんワクチン標的として期待されている(非特許文献3)。
【0005】
既存のCD40を標的とした抗体としては、Chi-Lob 7/4、HCD-122、APX005M、SEA-CD40およびCP870,893(21.4.1)等を挙げることができる(非特許文献4)。その中で、CP870,893は強力なCD40シグナル誘導能をもっており、固形腫瘍に対して全身性の免疫活性化を薬効メカニズムとする臨床試験が実施された。しかし、有効性を示すことができておらず、サイトカインシンドローム、血栓マーカーの上昇、肝臓パラメータの上昇など全身的な免疫活性化に由来する毒性の発現が報告されている(非特許文献5)。
【0006】
CD40を認識するバイスペシフィックタンパク質として、CD28とCD40を認識する多価抗体が知られている(特許文献1)。ヘテロ二量化した重鎖を有するIgG型抗ヒトGPC3/抗マウスCD40バイスペシフィック抗体が知られている(特許文献2)。また、nectin-4、PSMA、EGFR、HER2およびMSLNなどのがん抗原ならびにCD40に結合し、CD40を活性化させるバイスペシフィックタンパク質が知られている(特許文献3、4)。特許文献1、3、および4のバイスペシフィック抗体は、抗CD40アゴニスト抗体に由来するCD40結合部位を有する。
【0007】
さらに、CD40およびがん細胞表面抗原に特異性を有するDiabodyなどのバイスペシフィック分子により、がん細胞近傍でCD40発現細胞を活性化させる方法が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2009/131239号
【文献】国際公開第2015/156268号
【文献】国際公開第2017/205738号
【文献】国際公開第2018/140831号
【文献】国際公開第99/61057号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Diehl L et al., Nat Med. 1999 Jul; 5(7):774-9.
【文献】Nakatsura Tetsuya et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 306 (2003) 16-25
【文献】Mitchell Ho and Heungnam Kim, Eur J of Cancer. 2011 Nov; 47(3):333-338
【文献】Beatty GL et al., Expert Rev Anticancer Ther. 2017 Feb; 17(2):175-186.
【文献】Vonderheide RH et al., Oncoimmunology. 2013 Jan 1; 2(1):e23033.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、CD40とGPC3に特異的に結合するバイスペシフィック抗体を提供する。CD40に結合する抗原結合ドメインおよびGPC3に結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断剤、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段として、本発明はCD40に結合する抗原結合ドメインおよびGPC3に結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片などを提供する。
【0012】
すなわち本発明は、以下に関する。
1.第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分および第二の抗原結合ドメインを含み、該IgG部分の重鎖のC末端が該第二の抗原結合ドメインと直接またはリンカーを介して結合している、以下の(i)および(ii)からなる群から選ばれる1のバイスペシフィック抗体。
(i)第一の抗原結合ドメインがヒトCD40に結合する抗原結合ドメインであり、第二の抗原結合ドメインがヒトGlypican 3(GPC3)に結合する抗原結合ドメインであるバイスペシフィック抗体
(ii)第一の抗原結合ドメインがヒトGPC3に結合する抗原結合ドメインであり、第二の抗原結合ドメインがヒトCD40に結合する抗原結合ドメインであるバイスペシフィック抗体
2.ヒトCD40とヒトGPC3にそれぞれ2価で結合する、前記1に記載のバイスペシフィック抗体。
3.IgG部分の重鎖のC末端が、第二の抗原結合ドメインと直接結合している、前記1又は2に記載のバイスペシフィック抗体。
4.第二の抗原結合ドメインがFabである、前記1~3のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
5.CD40アゴニスト活性を有する、前記1~4のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
6.GPC3発現細胞の非存在下ではCD40アゴニスト活性を示さず、GPC3発現細胞の存在下でのみCD40アゴニスト活性を示す、前記1~5のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
7.ヒトCD40に結合する抗原結合ドメインが、非アゴニスト性抗CD40抗体由来の重鎖可変領域(VH)の相補性決定領域(CDR)1~3および軽鎖可変領域(VL)のCDR1~3を含む、前記1~6のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
8.ヒトCD40に結合する抗原結合ドメインが、それぞれ配列番号16~18で表されるCDR1~3を含むVH、および、それぞれ配列番号11~13で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含む、前記1~7のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
9.ヒトCD40に結合する抗原結合ドメインが、配列番号15で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、前記1~8のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
10.ヒトGPC3に結合する抗原結合ドメインが、それぞれ配列番号11~13で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVL、および、以下の(1a)~(1g)からなる群から選ばれるいずれか1つのVHを含む、前記1~9のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(1a)それぞれ配列番号42~44で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1b)それぞれ配列番号47~49で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1c)それぞれ配列番号52~54で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1d)それぞれ配列番号57~59で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1e)それぞれ配列番号62~64で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1f)それぞれ配列番号67~69で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1g)それぞれ配列番号72~74で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
11.ヒトGPC3に結合する抗原結合ドメインが、配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むVL、および、以下の(2a)~(2g)からなる群から選ばれるいずれか1つのVHを含む、前記1~10のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(2a)配列番号41で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2b)配列番号46で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2c)配列番号51で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2d)配列番号56で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2e)配列番号61で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2f)配列番号66で表されるアミノ酸配列を含むVH
(2g)配列番号71で表されるアミノ酸配列を含むVH
12.前記IgG部分の重鎖定常領域が配列番号77で表されるアミノ酸配列を含む、前記1~11のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
13.配列番号96、98、100、102、104、106および108から選ばれるいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含む2本の重鎖、および、配列番号10で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む4本の軽鎖からなる、前記1~12のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
14.前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体のバイスペシフィック抗体断片。
15.前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片をコードするDNA。
16.前記15に記載のDNAを含有する組換え体ベクター。
17.前記16に記載の組換え体ベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
18.前記17に記載の形質転換株を培地で培養し、培養物中に前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片を生産蓄積させ、該培養物から該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を採取することを特徴とする、前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片の製造方法。
19.前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患の治療剤および/または診断剤。
20.ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患ががんである前記19に記載の剤。
21.前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片を用いる、ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくともいずれか一方が関係する疾患の治療方法および/または診断方法。
22.ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患ががんである前記21に記載の方法。
23.ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断に使用するための、前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片。
24.ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患ががんである、前記23に記載のバイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片。
25.ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患の治療剤および/または診断剤の製造のための、前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片の使用。
26.ヒトCD40およびヒトGPC3の少なくとも一方が関係する疾患ががんである前記25に記載の使用。
27.前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片を含む、GPC3およびCD40の少なくとも一方を検出または測定するための試薬。
28.前記1~13のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または前記14に記載のバイスペシフィック抗体断片に、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、タンパク質または抗体医薬を化学的または遺伝子工学的に結合させたバイスぺシフィック抗体の誘導体。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびGPC3に結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む治療剤および診断剤、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いる治療方法および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明のバイスぺシフィック抗体の構造の一例を示す。
【
図2】
図2(A)、(B)および(C)は各種GPC3-CD40バイスペシフィック抗体のhGPC3-Hisに対する結合をELISA法により評価した結果を示す。縦軸は吸光度を示し、横軸はそれぞれ添加したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体を示す。抗体は10、1、0.1、0.01、0.001または0.0001μg/mLで添加した。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体を用いた。
【
図3】
図3(A)、(B)、(C)および(D)は、Expi293F細胞に対する各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体の結合活性をFCMで評価した結果を示す。縦軸は平均蛍光強度(MFI)を示し、横軸はそれぞれ添加したバイスペシフィック抗体を示す。抗体は10、1または0.1μg/mLで添加した。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体を用いた。
図3(E)、(F)、(G)および(H)はヒトGPC3を一過性に発現したExpi293F細胞に対する各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体の結合をFCMで評価した結果を示す。縦軸は平均蛍光強度(MFI)を示し、横軸はそれぞれ添加したバイスペシフィック抗体を示す。抗体は10、1または0.1μg/mLで添加した。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体を用いた。
【
図4】
図4(A)および(C)は、Ramos細胞に対する各抗体またはバイスペシフィック抗体の結合活性をFCMで評価した結果を示す。縦軸は平均蛍光強度(MFI)を示し、横軸はそれぞれ添加した抗体またはバイスペシフィック抗体を示す。抗体は10、1、0.1または0.01μg/mLで添加した。
図4(B)および(D)は、HepG2細胞に対する各抗体またはバイスペシフィック抗体の結合活性をFCMで評価した結果を示す。縦軸は平均蛍光強度(MFI)を示し、横軸はそれぞれ添加した抗体またはバイスペシフィック抗体を示す。抗体は10、1、0.1または0.01μg/mLで添加した。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体を用いた。
【
図5】
図5(A)、(B)、(C)、(D)および(E)はRamos細胞に対する、R1090S55Aおよび各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。縦軸は平均蛍光強度(MFI)によるCD95発現量を示し、横軸は添加したバイスペシフィック抗体を示す。抗体は10、1、0.1、0.01または0.001μg/mL添加した。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、ポジティブコントロール抗体として抗CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893を用いた。
【
図6】
図6(A)、(B)、(C)および(D)はHepG2細胞と共培養したRamos細胞に対する、各種CD40―GPC3バイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。
図6(A)、(B)および(C)は、それぞれのバイスペシフィック抗体を10、1、0.1、0.01または0.001μg/mL添加したときの、Ramos細胞に対する抗CD95抗体の結合活性を表す。縦軸は平均蛍光強度(MFI)によるCD95発現量を示す。横軸は添加したバイスペシフィック抗体を示す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、ポジティブコントロール抗体として抗CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893を用いた。
【
図7】
図7(A)、(B)はHepG2細胞と共培養したヒト樹状細胞に対する、各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。
図7(A)は樹状細胞のCD80発現を、
図7(B)は樹状細胞のCD86発現をFCMにより評価した結果を示す。縦軸は、抗DNP抗体添加時に対する相対的蛍光強度(RFI)を表す。それぞれのバイスペシフィック抗体は10、1、または0.1μg/mL添加した。比較対象にはポジティブコントロール抗体として抗CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893を用いた。
【
図8】
図8(A)はHuH-7細胞、MC-38/hGPC3細胞、HepG2細胞のGPC3発現量をFCMにより評価した結果を示す。縦軸は、抗GPC3抗体としてGpS1019を1μg/mL添加した場合の、抗DNP抗体を用いた場合に対する相対的蛍光強度(RFI)を表す。
図8(B)は肝細胞癌患者検体およびHuH-7細胞、MC-38/hGPC3細胞を同一条件で免疫組織染色した結果を示す。縦軸は、免疫組織染色を画像解析により定量化した、各染色強度による細胞の割合を表す。
【
図9】
図9(A)および(B)はそれぞれHuH-7細胞又はMC-38/hGPC3と共培養したRamos細胞に対する、各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性を示す。それぞれのバイスペシフィック抗体を10、1、0.1、0.01または0.001μg/mL添加したときの、Ramos細胞に対する抗CD95抗体の結合活性を表す。縦軸はCD95の平均蛍光強度(MFI)を示す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、ポジティブコントロール抗体として抗CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893を用いた。
【
図10】
図10(A)、(B)および(C)は、各種抗GPC3抗体の競合FCMの結果を示す。競合抗体として各抗GPC3抗体の非標識体の存在下で、検出抗体としてそれぞれの抗GPC3抗体の蛍光標識体を用いてFCMを実施した。競合抗体非存在下でのMFIに対して、競合抗体存在下でのMFIが0.5以下となった場合を競合ありとして+、0.5を超える場合を競合なしとして-と記載した。
【
図11】
図11(A)および
図11(B)は、抗GPC3抗体HN3およびCt―R1090-HN3の、HepG2細胞およびRamos細胞への結合性をFCMにより評価した結果を示す。
図11(A)はHepG2細胞への、
図11(B)はRamos細胞への結合性を示す。縦軸はMFIを表す。
【
図12】
図12(A)および
図12(B)は、抗GPC3抗体GC33およびYP7、並びにCD40-GPC3バイスペシフィック抗体Ct―R1090-GpS1019-FL、Cross―R1090-GC33、およびCross-R1090-YP7の、HepG2細胞およびRamos細胞への結合性をFCMにより評価した結果を示す。
図12(A)はHepG2細胞への、
図12(B)はRamos細胞への結合性を示す。縦軸はMFIを表す。
【
図13】
図13(A)ではHuH-7と共培養条件下での、
図13(B)ではHuH-7(GPC3陽性細胞)非存在下でのRamos細胞に対する、各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性を示す。それぞれのバイスペシフィック抗体を10、1、0.1、0.01または0.001μg/mL添加したときの、Ramos細胞に対する抗CD95抗体の結合活性を表す。縦軸はCD95の平均蛍光強度(MFI)を示す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、ポジティブコントロール抗体として抗CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893を用いた。
【
図14】
図14(A)はMC-38/hGPC3と共培養条件下での、
図14(B)はMC-38/hGPC3(GPC3陽性細胞)非存在下での、各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性を示す。それぞれのバイスペシフィック抗体を10、1、0.1、0.01または0.001μg/mL添加したときの、Ramos細胞に対する抗CD95抗体の結合活性を表す。縦軸はCD95の平均蛍光強度(MFI)を示す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、ポジティブコントロール抗体として抗CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893を用いた。
【
図15】
図15は、ヒトCD40トランスジェニックマウスを用いたMC-38/hGPC3担がんモデル腫瘍中での各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体投与後のCD40シグナル関連遺伝子の発現変化を示す。リアルタイムPCRにより各遺伝子の発現を測定し、ΔΔCt法を用いて計算したvehicle投与群に対する相対的な遺伝子発現量を縦軸にプロットした。
【
図16】
図16(A)、(B)および(C)は、MC-38/hGPC3担がんヒトCD40トランスジェニックマウスにおいて、各種抗体またはバイスペシフィック抗体を投与後の末梢血の血小板数、ASTおよびALTの値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびGPC3に結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片(以下、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片と記載する)に関する。
【0016】
本発明におけるCD40は、TNF receptor superfamily member 5(TNFRSF5)、Bp50、CDW40、MGC9013およびp50と同義として使用される。CD40としては例えば、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)においてGenBank Accession No.NP_001241または配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むヒトCD40、およびGenBank Accession No.XP_005569274または配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むサルCD40などが挙げられる。また、例えば、配列番号6、GenBank Accession No.NP_001241またはGenBank Accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドが挙げられる。
【0017】
配列番号6、GenBank Accession No.NP_001241 またはGenBank Accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列と通常70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、最も好ましくは95%、96%、97%、98%および99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドも本発明のCD40に包含される。
【0018】
配列番号6、GenBank Accession No.NP_001241またはGenBank Accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、部位特異的変異導入法[Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431(1985)、Proceeding of the National Academy of Sciences in USA, 82, 488 (1985)]などを用いて、例えば、配列番号6、GenBank Accession No.NP_001241またはGenBank Accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列をコードするDNAに、部位特異的変異を導入することにより得ることができる。欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個~数十個、例えば、1~20個、より好ましくは1個~数個、例えば、1~5個のアミノ酸である。
【0019】
CD40をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号5またはGenBank Accession No.NM_001250に示されるヒトCD40の塩基配列、および配列番号7またはGenBank Accession No.XM_011766922に示されるサルCD40の塩基配列などが挙げられる。また、例えば配列番号5またはGenBank Accession No.NM_001250に示される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、配列番号5またはGenBank Accession No.NM_001250に示される塩基配列と好ましくは60%以上の相同性を有する塩基配列、より好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、並びに配列番号5またはGenBank Accession No.NM_001250に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子なども、本発明のCD40をコードする遺伝子に包含される。
【0020】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、例えば配列番号5またはGenBank Accession No.NM_001250に示される塩基配列を有するDNAをプローブに用いた、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロット・ハイブリダイゼーション法、またはDNAマイクロアレイ法などにより得られるハイブリダイズ可能なDNAを意味する。具体的には、ハイブリダイズしたコロニー若しくはプラーク由来のDNA、または該配列を有するPCR産物若しくはオリゴDNAを固定化したフィルターまたはスライドグラスを用いて、0.7~1.0mol/Lの塩化ナトリウム存在下、65℃にてハイブリダイゼーション[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University (1995)]を行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターまたはスライドグラスを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。ハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば、配列番号5またはGenBank Accession No.NM_001250に示される塩基配列と好ましくは60%以上の相同性を有するDNA、より好ましくは80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
【0021】
真核生物のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列には、しばしば遺伝子の多型が認められる。本発明において用いられる遺伝子内に、このような多型によって塩基配列に小規模な変異を生じた遺伝子も、本発明のCD40をコードする遺伝子に包含される。
【0022】
本発明における相同性の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、塩基配列については、BLAST[J. Mol. Biol., 215, 403 (1990)]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値など、アミノ酸配列については、BLAST2[Nucleic Acids Research,25, 3389 (1997)、Genome Research, 7, 649 (1997)、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Education/BLASTinfo/information3.html]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値などが挙げられる。
【0023】
デフォルトのパラメータとしては、G(Cost to open gap)が塩基配列の場合は5、アミノ酸配列の場合は11、-E(Cost to extend gap)が塩基配列の場合は2、アミノ酸配列の場合は1、-q(Penalty for nucleotide mismatch)が-3、-r(reward for nucleotide match)が1、-e(expect value)が10、-W(wordsize)が塩基配列の場合は11残基、アミノ酸配列の場合は3残基、-y[Dropoff(X)for blast extensions in bits]がblastn の場合は20、blastn以外のプログラムでは7、-X(X dropoff value for gapped alignment in bits)が15および-Z(final X dropoff value for gapped alignment in bits)がblastnの場合は50、blastn以外のプログラムでは25である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/html/blastcgihelp.html)。
【0024】
CD40のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチドは、当業者に公知の方法によって作製することができ、例えば、配列番号6、GenBank Accession No.NP_001241またはGenBank Accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列をコードするDNAの一部を欠失させ、これを含む発現ベクターを導入した形質転換体を培養することにより作製することができる。また、上記の方法で作製されるポリペプチドまたはDNAに基づいて、上記と同様の方法により、例えば、配列番号6、GenBank Accession No.NP_001241またはGenBank Accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることができる。さらに、CD40のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド、またはCD40のアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)法、t-ブチルオキシカルボニル(tBoc)法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0025】
本発明におけるCD40の細胞外領域としては、例えば、GenBank Accession No.NP_001241に示されるヒトCD40のアミノ酸配列を公知の膜貫通領域予測プログラムSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html)、TMHMM ver.2(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)またはExPASy Proteomics Server(http://Ca.expasy.org/)などを用いて予測された領域などが挙げられる。具体的には、配列番号6またはGenBank Accession No.NP_001241の21番目~194番目に示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0026】
CD40の機能としては、CD40リガンドやアゴニストが結合したときにCD40シグナルを誘導し、種々の作用を引き起こすことが挙げられる。例えばがん細胞にCD40シグナルが誘導されると、該がん細胞の細胞死や増殖阻害などを引き起こす。Bリンパ球にCD40シグナルが誘導されると、例えば該Bリンパ球の活性化、CD95の発現促進、クラススイッチ組換えおよびsomatic hypermutationなどを惹起し、抗原高親和性抗体産生などを誘導する。樹状細胞にCD40シグナルが誘導されると、例えば該樹状細胞の補助刺激分子であるCD80、CD83および/またはCD86の発現上昇、HLA-ABCの発現上昇、成熟化やIL-12産生を引き起こす。マクロファージにCD40シグナルが誘導されると、例えばM2マクロファージの表面マーカーの減少とM1マクロファージの表面マーカーの発現の誘導やpro-inflammatoryサイトカイン産生を引き起こす。
【0027】
本発明におけるGPC3は、SGB、DGSX、MXR7、SDYS、Simpson-Golabi-Hehmel Syndrome,Type1(SGBS)、OCI-5、SGBS1、およびGTR2-2と同義として用いられる。
【0028】
GPC3としては、例えば、GenBank Accession No.NP_004475に示されるアミノ酸配列を含むヒトGPC3、GenBank Accession No.XP_005594665に示されるアミノ酸配列を含むサルGPC3;またはGenBank Accession No.NP_057906に示されるアミノ酸配列を含むマウスGPC3などが挙げられる。また、例えば、GenBank Accession No.NP_004475、GenBank Accession No.XP_005594665またはNP_057906に示されるアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつGPC3の機能を有するポリペプチドが挙げられる。
【0029】
GenBank Accession No.NP_004475、GenBank Accession No.XP_005594665またはGenBank Accession No.NP_057906に示されるアミノ酸配列と好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、最も好ましくは95%、96%、97%、98%および99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつGPC3の機能を有するポリペプチドも本発明のGPC3に包含される。
【0030】
GenBank Accession No.NP_004475、GenBank Accession No.XP_005594665またはGenBank Accession No.NP_057906に示されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、前述の部位特異的変異導入法などを用いて、例えば配列番号GenBank Accession No.NP_004475、GenBank Accession No.XP_005594665またはGenBank Accession No.NP_057906示されるアミノ酸配列をコードするDNAに、部位特異的変異を導入することにより得ることができる。欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個~数十個、例えば、1~20個、より好ましくは1個~数個、例えば、1~5個のアミノ酸である。
【0031】
本発明におけるGPC3をコードする遺伝子としては、例えば、GenBank Accession No.NM_004484に示される塩基配列を含むヒトGPC3の遺伝子;GenBank Accession No.XM_005594608に示される塩基配列を含むサルGPC3の遺伝子;またはGenBank Accession No.NM_016697に示される塩基配列を含むマウスGPC3の遺伝子が挙げられる。
【0032】
また、例えば、GenBank Accession No.NM_004484、GenBank Accession No.XM_005594608またはGenBank Accession No.NM_016697に示される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつGPC3の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、GenBank Accession No.NM_004484、Genbank accession No.XM_005594608またはGenBank Accession No.NM_016697に示される塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列、好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつGPC3の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、及び配列番号GenBank Accession No.NM_004484、GenBank Accession No.XM_005594608またはGenBank Accession No.NM_016697に示される塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつGPC3の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子なども、本発明のGPC3をコードする遺伝子に含まれる。
【0033】
本発明におけるGPC3の細胞外領域としては、例えば、GenBank Accession No.NP_004475に示されるヒトGPC3のアミノ酸配列を公知の膜貫通領域予測プログラムSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html)、TMHMM ver.2(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)またはExPASy Proteomics Server(http://Ca.expasy.org/)などを用いて予測された領域などが挙げられる。具体的には、配列番号31またはGenBank Accession No.NP_004475の25番目~563番目に示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0034】
GPC3の機能としては、例えばWntと複合体を形成することでWntとFrizzledの結合を促進し、Wnt経路を活性化することで肝細胞癌細胞株において細胞増殖や細胞移動を促進することなどが挙げられる。
【0035】
抗体とは、イムノグロブリンを構成する重鎖の可変領域および重鎖の定常領域、並びに軽鎖の可変領域および軽鎖の定常領域の全部または一部をコードする遺伝子(「抗体遺伝子」と称する)に由来するタンパク質である。本発明の抗体は、いずれのイムノグロブリンクラスおよびサブクラスを有する抗体または抗体断片をも包含する。
【0036】
重鎖(H鎖)とは、イムノグロブリン分子を構成する2種類のポリペプチドのうち、分子量が大きい方のポリペプチドを指す。重鎖は抗体のクラスとサブクラスを決定する。IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMは、それぞれα鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖およびμ鎖を重鎖として有し、重鎖の定常領域は異なるアミノ酸配列で特徴付けられる。軽鎖(L鎖)とは、イムノグロブリン分子を構成する2種類のポリペプチドのうち、分子量が小さい方のポリペプチドを指す。ヒトの抗体の場合、軽鎖にはκ鎖とλ鎖の2種類が存在する。
【0037】
可変領域(V領域)とは、通常は、イムノグロブリンのN末端側のアミノ酸配列内に存在する多様性に富んだ領域を指す。可変領域以外の部分は多様性の少ない構造をとることから、定常領域(C領域)と呼ばれる。重鎖と軽鎖の各可変領域は会合して抗原結合部位を形成し、抗原への抗体の結合特性を決定する。
【0038】
ヒトの抗体の重鎖では、可変領域はKabatらのEUインデックス(Kabat et al., Sequences of proteins of immunological interest, 1991 Fifth edition)における1番目から117番目までのアミノ酸配列に該当し、定常領域は118番目以降のアミノ酸配列に該当する。ヒトの抗体の軽鎖ではKabatらによる番号付け(Kabat numbering)における1番目から107番目までのアミノ酸配列が可変領域に該当し、108番目以降のアミノ酸配列が定常領域に該当する。以下、重鎖可変領域または軽鎖可変領域を、VHまたはVLと略記する。
【0039】
抗原結合部位は、抗体において抗原を認識し結合する部位であり、抗原決定基(エピトープ)と相補的な立体構造を形成する部位を指す。抗原結合部位は、抗原決定基との間に強い分子間相互作用を生じる。抗原結合部位は、少なくとも3つの相補性決定領域(CDR)を含むVHおよびVLにより構成される。ヒトの抗体の場合、VHおよびVLはそれぞれ3つのCDRを有する。これらのCDRを、それぞれN末端側から順番にCDR1、CDR2およびCDR3と称する。
【0040】
定常領域のうち、重鎖定常領域または軽鎖定常領域は、それぞれCHまたはCLと表記される。CHは、重鎖のサブクラスであるα鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖およびμ鎖によって分類される。CHは、N末端側より順に整列したCH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメインから構成され、CH2ドメインとCH3ドメインとを併せてFc領域という。一方、CLは、Cλ鎖およびCκ鎖とよばれる2つのサブクラスに分類される。
【0041】
本発明において、抗CD40抗体とは、CD40の細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合するモノクローナル抗体をいう。また、本発明において、抗GPC3抗体とは、GPC3の細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合するモノクローナル抗体をいう。また、本発明において抗体とは、ポリクローナル抗体およびオリゴクローナル抗体をも包含する。
【0042】
本発明において、抗体または該抗体断片がCD40またはGPC3に結合することは、例えば、公知の免疫学的検出法、好ましくは蛍光細胞染色法等を用いて、CD40またはGPC3を発現した細胞と抗体との結合性を確認する方法により確認することができる。また、公知の免疫学的検出法[Monoclonal Antibodies - Principles and Practice, Third Edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを組み合わせて用いることもできる。
【0043】
モノクローナル抗体は、単一性(monoclonality)を保持した抗体産生細胞が分泌する抗体であり、単一のエピトープ(抗原決定基ともいう)を認識する。モノクローナル抗体分子同士は同一のアミノ酸配列(1次構造)を有し、単一の構造をとる。ポリクローナル抗体とは、異なるクローンの抗体産生細胞が分泌する抗体分子の集団をいう。オリゴクローナル抗体とは、複数の異なるモノクローナル抗体を混合した抗体分子の集団をいう。
【0044】
エピトープは、抗体が認識し、結合する抗原の構造部位をいう。エピトープとしては、例えば、モノクローナル抗体が認識し、結合する単一のアミノ酸配列、アミノ酸配列からなる立体構造、糖鎖が結合したアミノ酸配列および糖鎖が結合したアミノ酸配列からなる立体構造などが挙げられる。
【0045】
本発明におけるモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより産生される抗体、および抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により産生される遺伝子組換え抗体を挙げることができる。
【0046】
ハイブリドーマは、例えば、抗原を調製し、該抗原を免疫した動物より抗原特異性を有する抗体産生細胞を取得し、さらに、該抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させることによって、調製することができる。該ハイブリドーマを培養するか、または該ハイブリドーマを動物に投与して該ハイブリドーマを腹水癌化させ、該培養液または腹水を分離、精製することにより、所望のモノクローナル抗体を取得することができる。抗原を免疫する動物としては、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができるが、マウス、ラット、ハムスターおよびラビットなどが好適に用いられる。また、このような被免疫動物から抗体産生能を有する細胞を取得し、該細胞にin vitroで免疫を施した後に、骨髄腫細胞と融合して、ハイブリドーマを作製することもできる。
【0047】
本発明における遺伝子組換え抗体としては、例えば、組換えマウス抗体、組換えラット抗体、組換えハムスター抗体、組換えラビット抗体、ヒト型キメラ抗体(キメラ抗体ともいう)、ヒト化抗体(CDR移植抗体ともいう)およびヒト抗体などの、遺伝子組換え技術により製造される抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体においては、対象とする動物種や目的に応じて、どの動物種由来の重鎖および軽鎖の可変領域並びに定常領域を適用するかを決定することができる。例えば、対象とする動物種がヒトの場合には、可変領域をヒトまたはマウスなどの非ヒト動物由来とし、定常領域およびリンカーをヒト由来とすることができる。
【0048】
キメラ抗体とは、ヒト以外の動物(非ヒト動物)の抗体のVHおよびVLと、ヒト抗体のCHおよびCLとからなる抗体を指す。非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスターおよびラビットなど、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産する非ヒト動物由来のハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してキメラ抗体発現用ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることによって、製造することができる。
【0049】
ヒト化抗体とは、非ヒト動物抗体のVHおよびVLのCDRをヒト抗体のVHおよびVLの対応するCDRに移植した抗体を指す。VHおよびVLのCDR以外の領域はフレームワーク領域(以下、FRと表記する)と称される。ヒト化抗体は、非ヒト動物抗体のVHのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVHのFRのアミノ酸配列からなるVHのアミノ酸配列をコードするcDNAと、非ヒト動物抗体のVLのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVLのFRのアミノ酸配列からなるVLのアミノ酸配列をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト化抗体発現用ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることによって、製造することができる。
【0050】
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体なども含まれる。
【0051】
ヒト体内に天然に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球にEBウイルスなどを感染させて不死化し、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を培養し、該培養上清より該抗体を精製することにより取得することができる。
【0052】
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することにより、Fab、scFvなど抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として、所望の抗原結合活性を有する抗体断片を表面に発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、さらに、遺伝子工学的手法により2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へ変換することができる。
【0053】
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組み込まれた動物を意味する。具体的には、例えば、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞をマウスの初期胚へ移植後、個体を発生させることにより、ヒト抗体産生トランスジェニックマウスを作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物由来のヒト抗体は、通常の非ヒト動物で行われているハイブリドーマ作製法を用いてハイブリドーマを取得し、培養することで、培養上清中に抗体を産生、蓄積させることにより調製できる。
【0054】
遺伝子組換え抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリンに属すればいかなるものでもよいが、human immunoglobulin G(hIgG)クラスのものが好ましい。さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3およびhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、遺伝子組換え抗体のCLとしては、ヒトイムノグロブリンに属すればいずれのものでもよく、κクラスまたはλクラスのものを用いることができる。
【0055】
本発明において、バイスぺシフィック抗体とは、特異性が異なる2種類の抗原結合ドメインを有するポリペプチドまたはタンパク質をいう。バイスぺシフィック抗体のそれぞれの抗原結合ドメインは、単一の抗原の異なるエピトープに結合してもよいし、異なる抗原に結合してもよい。
【0056】
本発明のバイスペシフィック抗体は、第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分および第二の抗原結合ドメインを含み、該IgG部分の重鎖のC末端が該第二の抗原結合ドメインと直接またはリンカーを介して結合している。
【0057】
本発明において抗原結合ドメインとは、抗原を特異的に認識し、結合する機能を有する部分構造である。本発明の抗原結合ドメインとしては、例えば、抗体もしくは該抗体断片、抗体のCDRを含む組換えタンパク質、CDRを含む抗体可変領域、リガンドまたは受容体など、抗原に対する結合能を有するタンパク質を利用して組換えたタンパク質またはポリペプチドが挙げられる。なかでも、本発明においては、抗原結合ドメインは抗体のFabであることが好ましい。
【0058】
本発明において、第一の抗原結合ドメインとは、バイスペシフィック抗体に含まれる1つ目の抗原結合ドメインを指し、第二の抗原結合ドメインとは、バイスペシフィック抗体に含まれる、第一の抗原結合ドメインとは異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインを指す。
【0059】
本発明において、CD40またはGPC3に結合する抗原結合ドメインは、CD40またはGPC3を特異的に認識し、結合するものであればいかなるものでもよい。例えば、抗体、リガンド、受容体、および天然に存在する相互作用分子など遺伝子組換え技術によって作製可能なポリペプチド、タンパク質分子およびその断片、並びに該タンパク質分子の低分子または天然物とのコンジュゲート体などいずれの形態であってもよい。
【0060】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、同一細胞上に発現しているCD40およびGPC3に結合してもよいし、異なる細胞上に発現しているCD40およびGPC3に結合してもよいが、異なる細胞上に発現しているCD40とGPC3に結合することが好ましい。
【0061】
CD40を発現する細胞としては、例えば、B細胞、樹状細胞(DC)、マクロファージおよび単球などの抗原提示細胞、並びにRamos細胞などのがん細胞などが挙げられる。
【0062】
GPC3を発現する細胞としては、例えば、肝細胞癌、悪性黒色腫、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、神経芽腫、肝芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、精巣胚細胞腫瘍、脂肪肉腫などに含まれるがん細胞が挙げられる。
【0063】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、例えば、CD40アゴニスト活性を有するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が挙げられる。本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、GPC3分子またはGPC3を発現する細胞(GPC3発現細胞)の非存在下ではCD40アゴニスト活性を示さず、GPC3分子またはGPC3を発現する細胞の存在下でのみCD40アゴニスト活性を示すバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が好ましい。このようなバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、GPC3を発現する細胞が存在する、がんなどの病変部でのみCD40を活性化するため、全身的なCD40の活性化に伴う副作用を生じない点で好ましい。
【0064】
本発明のバイスぺシフィック抗体において、CD40に対する抗原結合ドメインは、非アゴニスト性抗CD40抗体に由来し、CD40を特異的に認識し、結合するものであればいかなるものでもよい。非アゴニスト性抗CD40抗体とは、CD40を特異的に認識し結合するが、アゴニスト活性を有しない抗体をいう。例えば、CD40結合能は有するがアゴニスト活性/アンタゴニスト活性に影響を与えない抗CD40抗体のCDRを含むポリペプチド、非アゴニスト性抗CD40抗体のCDRを含むポリペプチド、非アゴニスト性抗CD40抗体の抗体断片、非アゴニスト性抗CD40抗体の可変領域を含むポリペプチドなどが挙げられる。CD40に対する抗原結合ドメインとして、非アゴニスト性抗CD40抗体の可変領域を含むポリペプチドが好ましく、非アゴニスト性抗CD40抗体のFabがさらに好ましい。抗CD40抗体のFabを、抗CD40 Fabと呼ぶこともある。
【0065】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が有するCD40アゴニスト活性は、細胞上のCD40にバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が結合することにより、該CD40を介したシグナルを惹起し、抗原提示細胞の活性化を誘導する活性、腫瘍細胞の細胞死を誘導する活性などをいう。
本発明において、抗体またはバイスペシフィック抗体がCD40を発現する細胞に結合したときに、ネガティブコントロールと比べてCD95、CD80、CD83、CD86、および/またはHLA-ABC等の発現量を増加させれば、当該抗体または当該バイスペシフィック抗体は、アゴニスト活性を有すると判定する。一方、抗体またはバイスペシフィック抗体がCD40を発現する細胞に結合したときに、ネガティブコントロールと比べてCD95、CD80、CD83、CD86、および/またはHLA-ABC等の発現量を増加させなければ、当該抗体または当該バイスペシフィック抗体は、アゴニスト活性を有しないと判定する。
【0066】
CD40アゴニスト活性は、例えばヒトバーキットリンパ腫細胞株Ramos細胞(JCRB 、No.JCRB9119)などのCD40を発現する細胞上のCD95発現量増加を評価することにより確認することができる。CD40を発現する細胞(CD40発現細胞)に結合したときに、CD95発現量を亢進させる抗体、バイスペシフィック抗体は、アゴニスト活性を有する。また、CD40アゴニスト活性は、例えば未成熟樹状細胞を用いて、補助刺激分子であるCD80、CD83およびはCD86ならびにHLA-ABCの発現量を評価することにより確認することができる。抗CD40抗体またはCD40バイスペシフィック抗体が結合することにより、CD40を発現する樹状細胞のCD80、CD83およびCD86ならびにHLA-ABCの発現量が上昇すると、該抗体または該バイスペシフィック抗体はアゴニスト活性を有するとわかる。
【0067】
すなわち、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片として、具体的には、GPC3を発現する細胞の存在下で、GPC3とCD40に結合したときに、CD40を発現する抗原提示細胞の活性化および/または腫瘍細胞の細胞死を誘導するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片などが挙げられる。
【0068】
本発明において、CD40アンタゴニスト活性は、CD40リガンドまたはCD40アゴニストによるCD40の活性化を阻害する活性などをいう。例えばCD40リガンドまたはCD40アゴニストのCD40への結合によるCD40シグナル誘導を阻害する活性などをいう。
【0069】
抗体のCD40アンタゴニスト活性は、例えばCD40リガンドによる、Ramos細胞などのCD40を発現する細胞へのCD95発現誘導が、抗体の添加により阻害されることにより確認することができる。
【0070】
一分子のバイスペシフィック抗体が有する、ある抗原に対する結合ドメインの数を、結合の価数と呼ぶ。例えば、本発明において、一分子のバイスペシフィック抗体が、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびGPC3に結合する抗原結合ドメインを二つずつ有する場合、かかるバイスペシフィック抗体は、CD40およびGPC3に、それぞれ二価で結合する。
【0071】
本発明において、一分子あたりのバイスペシフィック抗体が、CD40またはGPC3に何価で結合してもよいが、CD40およびGPC3に、少なくともそれぞれ二価で結合することが好ましい。
【0072】
本発明のバイスペシフィック抗体としては、第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分の重鎖のC末端に、第二の抗原結合ドメインが直接またはリンカーを介して結合した構造を有するバイスペシフィック抗体が挙げられるが、これに限定されない。第一、第二の抗原結合ドメインは適宜入れ替えることができ、所望の活性を有するバイスぺシフィック抗体を作製することができる。例えば、本発明のバイスペシフィック抗体において、CD40に結合する抗原結合ドメイン(CD40への抗原結合ドメインともいう)とGPC3に結合する抗原結合ドメイン(GPC3への抗原結合ドメインともいう)の位置は適宜選択することができる。本発明のバイスペシフィック抗体としては、第一の抗原結合ドメインがCD40への抗原結合ドメインであり、第二の抗原結合ドメインがGPC3への抗原結合ドメインであることが好ましい。
【0073】
本発明においてIgG部分とは、本発明のバイスペシフィック抗体に含まれるIgG、またはFc部分を改変したIgGであって、1本の軽鎖および1本の重鎖からなるヘテロダイマーが2つ会合してなるヘテロテトラマー構造を有し、かつ第一の抗原結合ドメインを含む。
【0074】
前記IgG部分の重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のどのサブクラスでもよい。また、それらのアミノ酸配列の一部を欠失、付加、置換、および/または挿入してもよい。また、IgGの重鎖のCH1、ヒンジ、CH2およびCH3からなるアミノ酸配列の、全部または一部の断片を適宜組み合わせて用いることができる。また、それらのアミノ酸配列を部分的に欠損、または順番を入れ替えて使用することもできる。また、IgG部分の定常領域に使用するIgGのサブクラスは特に限定されないが、IgG4、IgG4の重鎖定常領域の228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をAsnにそれぞれ置換したIgG4変異体(以下、IgG4PEと記載する)、またはIgG4の重鎖定常領域の228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をAsnに、および409番目のArg残基をLysにそれぞれ置換したIgG4変異体(以下、IgG4PE R409Kと記載する)であることが好ましい。
【0075】
例えば、重鎖の定常領域(N末端側から順にCH1-ヒンジ-CH2-CH3)が、配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むIgG4PE R409Kを含むIgG部分が好ましい。
【0076】
本発明のバイスペシフィック抗体に含まれるIgG部分に含まれる2つの可変領域は、同一の抗原を認識することが好ましい。また、同一の構造およびアミノ酸配列を有していることが好ましい。
【0077】
本発明において第一の抗原結合ドメインは、IgG部分の抗原結合ドメインを含み、CD40またはGPC3に特異的に結合する。
【0078】
本発明において第二の抗原結合ドメインとは、本発明のバイスペシフィック抗体を構成する一部分であり、上記IgG部分の重鎖のC末端に直接またはリンカーを介して結合している。第二の抗原結合ドメインは、CD40またはGPC3に対する抗原結合部位を含む。第二の抗原結合ドメインは、CD40またはGPC3に特異的に結合するポリペプチドであればよいが、抗体の可変領域を含んでいるものが好ましく、特にFabが好ましい。また、細胞表面抗原に対するリガンド分子やレセプター分子も同様に用いることができる。
【0079】
本発明のバイスぺシフィック抗体は、既存の作製技術([Nature Protocols, 9, 2450-2463 (2014)]、国際公開第1998/050431号、国際公開第2001/7734号、国際公開第2002/002773号および国際公開第2009/131239号)などにより作製することができる。
【0080】
本発明において、バイスペシフィック抗体に含まれる、抗CD40抗体のVH(抗CD40抗体由来のVHを意味する)と抗GPC3抗体のVH(抗GPC3抗体由来のVHを意味する)の位置は、適宜選択することができる。例えば、
図1に示される構造のバイスペシフィック抗体については、抗CD40抗体のVHは、抗GPC3抗体のVHよりもN末端側に位置していてもよいし、C末端側に位置していてもよいが、N末端側に位置していることが好ましい。
【0081】
本発明において、バイスぺシフィック抗体に含まれるVLは、同一のVLであっても、異なるVLであってもいずれでもよい。同一のVLを有するバイスペシフィック抗体であって、かつ二つの異なる抗原または同一抗原上の異なる二つのエピトープに結合することができるバイスぺシフィック抗体のVHは、各可変領域がそれぞれの特異的な抗原またはエピトープに結合できるように、最適化または改変されたVHであればよく、例えば、アミノ酸改変によるスクリーニング、またはファージディプレイなどの方法を用いて適切なVHを選択することができる。
【0082】
本発明のバイスペシフィック抗体に含まれるVLは抗CD40抗体または抗GPC3抗体のVLであればどのようなものでもよいが、それぞれ配列番号11、12および13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLおよび配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むVLが好ましい。
【0083】
本発明のバイスペシフィック抗体に含まれるVHは抗CD40抗体または抗GPC3抗体のVHであればどのようなものでもよいが、抗CD40抗体のVHとしては、それぞれ配列番号16、17および18で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVHおよび配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むVHが好ましい。本発明のバイスペシフィック抗体に含まれる抗GPC3抗体のVHとしては、それぞれ配列番号42~44で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、配列番号52~54で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むVH、または配列番号51で示されるアミノ酸配列を含むVHが好ましい。
【0084】
本発明において、リンカーとは、複数の抗原結合ドメインを結合させる化学構造を指し、好ましくはポリペプチドである。本発明のバイスぺシフィック抗体に用いられるリンカーとしては、例えば、イムノグロブリンドメインの全部または一部のアミノ酸配列を含むリンカー、GGGGSなどの公知のGSリンカーおよびその繰返し配列を含むリンカー、並びにその他公知のペプチドリンカーなどが挙げられる。
【0085】
本発明において、イムノグロブリンドメインとは、イムノグロブリンに類似したアミノ酸配列を持ち、少なくとも2個のシステイン残基が存在する約100個のアミノ酸残基からなるペプチドを最小単位とする。本発明において、イムノグロブリンドメインは、上記の最小単位のイムノグロブリンドメインを複数含むポリペプチドをも包含する。イムノグロブリンドメインとしては、例えば、イムノグロブリン重鎖のVH、CH1、CH2およびCH3、並びにイムノグロブリン軽鎖のVLおよびCLなどが挙げられる。
【0086】
イムノグロブリンの動物種は特に限定されないが、ヒトであることが好ましい。また、イムノグロブリン重鎖の定常領域のサブクラスは、IgD、IgM、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2およびIgEのいずれでもよく、好ましくは、IgG由来およびIgM由来が挙げられる。また、イムノグロブリン軽鎖の定常領域のサブクラスは、κおよびλのいずれでもよい。
【0087】
また、イムノグロブリンドメインはイムノグロブリン以外のタンパク質にも存在し、例えば主要組織適合抗原(MHC)、CD1、B7およびT細胞受容体(TCR)などのイムノグロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質が含むイムノグロブリンドメインが挙げられる。本発明のバイスぺシフィック抗体に用いるイムノグロブリンドメインとしては、いずれのイムノグロブリンドメインも適用することができる。
【0088】
ヒトの抗体の場合、CH1は、EUインデックスで示される118番目から215番目のアミノ酸配列を有する領域を指す。同様に、CH2はKabatらのEUインデックスで示される231番目から340番目のアミノ酸配列を有する領域を、CH3はKabatらのEUインデックスで示される341番目から446番目のアミノ酸配列を有する領域を各々指す。CH1とCH2の間には、ヒンジ(蝶番)領域(以下ヒンジと記載することもある)と呼ばれる柔軟性に富んだアミノ酸領域が存在する。ヒンジ領域は、KabatらのEUインデックスで示される216番目から230番目のアミノ酸配列を有する領域を指す。
【0089】
CLは、ヒトの抗体のκ鎖の場合には、Kabat numberingで示される108番目から214番目のアミノ酸配列を有する領域を、λ鎖の場合には、108番目から215番目のアミノ酸配列を有する領域を各々指す。
【0090】
本発明のバイスペシフィック抗体は、IgG部分の2本の重鎖のC末端に第二の抗原結合ドメインを1つずつ有していてもよいし、一方の重鎖のC末端にのみ1つ有していてもよいが、2本の重鎖のC末端に1つずつ有していることが好ましい。両方の重鎖のC末端に1つずつ第二の抗原結合ドメインを有している場合、それらは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0091】
本発明の第二の抗原結合ドメインがFabである場合、IgG部分の重鎖C末端に結合しているのはFabのVH-CH1でもVL-CLでもよいが、VH-CH1が好ましい。また、第二の抗原結合ドメインがFabであり、本発明のバイスペシフィック抗体に第二の抗原結合ドメインが2つ含まれる場合、IgG部分の重鎖C末端に結合しているのは、片方がFabのVH-CH1でもう一方がVL-CLであっても、両方がFabのVH-CH1であっても、または両方がFabのVL-CLであってもよいが、両方がFabのVH-CH1であることが好ましい。
【0092】
第二の抗原結合ドメインがFabを含む場合、該Fabに含まれる軽鎖とIgG部分の軽鎖は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。また、軽鎖はλ鎖とκ鎖のいずれでもよいが、κ鎖であることが好ましい。
【0093】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を構成するアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸残基が欠失、付加、置換または挿入され、かつ上述のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片と同様な活性を有するバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片も、本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片に包含される。
【0094】
欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の数は1個以上でありその数は特に限定されないが、Molecular Cloning, The Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons(1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487(1982)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409(1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431(1985)、Proc. Natl. Acad. Sci USA, 82, 488(1985)などに記載の部位特異的変異導入法等の周知の技術により、欠失、置換、挿入若しくは付加できる程度の数である。例えば、通常1~数十個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個である。
【0095】
上記の本発明のバイスペシフィック抗体のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたとは、次のことを示す。同一配列中の任意、かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入または付加があることを意味する。また、欠失、置換、挿入または付加が同時に生じる場合もあり、置換、挿入または付加されるアミノ酸残基は天然型と非天然型いずれの場合もある。
【0096】
天然型アミノ酸残基としては、例えば、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリンおよびL-システインなどが挙げられる。
【0097】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の好ましい例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
【0098】
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、O-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0099】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、翻訳後修飾されたいかなるアミノ酸残基を含む抗体をも包含する。
【0100】
本発明のバイスぺシフィック抗体として具体的には、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる、いずれか一つのバイスペシフィック抗体などが挙げられる。
(1)第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分の重鎖C末端に、Fabである第二の抗原結合ドメインが直接結合しているバイスペシフィック抗体であって、第一の抗原結合ドメインと第二の抗原結合ドメインのうち、第一の抗原結合ドメインがCD40に結合する抗原結合ドメインであり、第二の抗原結合ドメインがGPC3に結合する抗原結合ドメインであるバイスペシフィック抗体、
(2)CD40に結合する抗原結合ドメインが抗CD40抗体由来のVHのCDR1~3およびVLのCDR1~3を含み、並びにGPC3に結合する抗原結合ドメインが抗GPC3抗体由来のVHのCDR1~3およびVLのCDR1~3を含むバイスペシフィック抗体、並びに
(3)CD40に結合する抗原結合ドメインが抗CD40抗体由来のVHおよびVLを含み、並びにGPC3に結合する抗原結合ドメインが抗GPC3抗体由来のVHおよびVLを含むバイスペシフィック抗体。
【0101】
上記(2)に記載のバイスペシフィック抗体は、抗CD40抗体由来のVLのCDR1~3が、抗GPC3抗体由来のVLのCDR1~3とそれぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0102】
また、上記(3)に記載のバイスペシフィック抗体は、抗CD40抗体由来のVLが、抗GPC3抗体由来のVLと互いに同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0103】
上記(2)および(3)に記載のバイスペシフィック抗体に含まれる抗CD40抗体は、CD40アゴニスト活性を有していても有していなくてもよいが、CD40アゴニスト活性を有していない抗CD40抗体(非アゴニスト性抗CD40抗体)であることが好ましい。本発明のバイスペシフィック抗体としては、例えば、CD40に結合する抗原結合ドメインが、非アゴニスト性抗CD40抗体由来のVHのCDR1~3およびVLのCDR1~3を含むバイスペシフィック抗体、非アゴニスト性抗CD40抗体由来のVHおよびVLを含むバイスぺシフィック抗体などが挙げられる。
【0104】
また、上記(2)および(3)における抗CD40抗体は、CD40アンタゴニスト活性を有していても有していなくてもよいが、CD40アンタゴニスト活性を有していない抗CD40抗体(非アンタゴニスト性抗CD40抗体)であることが好ましい。
【0105】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるCD40に結合する抗原結合ドメインの一例として、それぞれ配列番号16~18で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVHならびにそれぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLを含む抗原結合ドメインが挙げられる。
【0106】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるCD40に結合する抗原結合ドメインは、それぞれ配列番号16~18で示されるVHのCDR1~3のアミノ酸配列およびそれぞれ配列番号11~13で示されるVLのCDR1~3のアミノ酸配列と、それぞれ少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である、VHおよびVLのCDR1~3のアミノ酸配列を含む抗原結合ドメインをも包含する。
【0107】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるCD40に結合する抗原結合ドメインは、下記(i)または(ii)に記載される抗原結合ドメインをも包含する。
(i)それぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLならびにそれぞれ配列番号16~18で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVHを含む抗CD40抗体と、競合してCD40に結合する抗原結合ドメイン。
(ii)それぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLならびにそれぞれ配列番号16~18で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVHを含む抗CD40抗体と、同じエピトープに結合する抗原結合ドメイン。
【0108】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるCD40に結合する抗原結合ドメインの他の一例として、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む抗原結合ドメインが挙げられる。
【0109】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるGPC3に結合する抗原結合ドメインの一例として、それぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLならびに以下の(1a)~(1g)から選ばれるいずれか1つのVHを含む抗原結合ドメインが挙げられる。
(1a)それぞれ配列番号42~44で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1b)それぞれ配列番号47~49で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1c)それぞれ配列番号52~54で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1d)それぞれ配列番号57~59で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1e)それぞれ配列番号62~64で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1f)それぞれ配列番号67~69で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(1g)それぞれ配列番号72~74で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
【0110】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるGPC3に結合する抗原結合ドメインは、上記(1a)~(1g)のいずれか1つに示されるVHのCDR1~3のアミノ酸配列およびそれぞれ配列番号11~13で示されるVLのCDR1~3のアミノ酸配列と、それぞれ少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である、VHおよびVLのCDR1~3のアミノ酸配列を含む抗原結合ドメインをも包含する。
【0111】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるGPC3に結合する抗原結合ドメインは、下記(i)または(ii)に記載される抗原結合ドメインをも包含する。
(i)それぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLならびに上記(1a)~(1g)のいずれか1つに示されるVHを含む抗GPC3抗体と、競合してGPC3に結合する抗原結合ドメイン。
(ii)それぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLならびに上記(1a)~(1g)のいずれか1つに示されるVHを含む抗GPC3抗体と同じエピトープに結合する抗原結合ドメイン。
本発明のバイスペシフィック抗体におけるGPC3に結合する抗原結合ドメインとしては、ヒトGPC3全長のアミノ酸配列(配列番号129)のうち、192番目から358番目のアミノ酸配列に含まれるエピトープに結合する抗原結合ドメインが挙げられる。
【0112】
本発明のバイスペシフィック抗体におけるGPC3に結合する抗原結合ドメインの他の例として、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび配列番号41、46、51、56、61、66または71で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む抗原結合ドメインが挙げられる。
【0113】
本発明の一態様として、第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分と第二の抗原結合ドメインを含み、該第二の抗原結合ドメインがFabであり、該IgG部分の重鎖C末端に該FabのVH-CH1が直接またはリンカーを介して結合しているバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0114】
また、本発明の一態様として、第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分と第二の抗原結合ドメインを含み、該第二の抗原結合ドメインがFabであり、該IgG部分の重鎖C末端に該FabのVL-CLが直接またはリンカーを介して結合しているバイスペシフィック抗体も挙げられる。
【0115】
本発明の一態様として、CD40に対する第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分と、GPC3に対する第二の抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0116】
本発明の一態様として、GPC3に対する第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分と、CD40に対する第二の抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体も挙げられる。
【0117】
本発明のバイスペシフィック抗体のより具体的な例としては、以下の(A)または(B)が挙げられる。
(A)以下の(i)および(ii)を含み、(i)に記載のIgG部分の重鎖C末端に、(ii)に記載のFabが直接またはリンカーを介して結合するバイスペシフィック抗体。
(i)それぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLならびにそれぞれ配列番号16~18で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVHを含み、CD40に結合する抗原結合ドメインを含むIgG部分
(ii)それぞれ配列番号11~13で示されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVLならびに以下の(2a)~(2g)から選ばれるいずれか1つのVHを含み、GPC3に結合する抗原結合ドメインを含むFab
(2a)それぞれ配列番号42~44で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(2b)それぞれ配列番号47~49で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(2c)それぞれ配列番号52~54で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(2d)それぞれ配列番号57~59で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(2e)それぞれ配列番号62~64で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(2f)それぞれ配列番号67~69で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
(2g)それぞれ配列番号72~74で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH
【0118】
(B)以下の(i)および(ii)を含み、(i)に記載のIgG部分の重鎖C末端に、(ii)に記載のFabが直接またはリンカーを介して結合するバイスペシフィック抗体。
(i)配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むVLならびに配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むVHを含み、CD40に結合する抗原結合ドメインを含むIgG部分
(ii)配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むVLならびに配列番号41、46、51、56、61、66または71で示されるアミノ酸配列を含むVHを含み、GPC3に結合する抗原結合ドメインを含むFab
【0119】
上記(A)または(B)のバイスペシフィック抗体として、IgG部分の重鎖C末端に直接またはリンカーを介して結合するのは、FabのVL-CLであってもVH-CH1であってもよいが、VH-CH1が好ましい。また、上記(A)または(B)のバイスペシフィック抗体として、IgG部分の重鎖C末端にFabが直接結合してもリンカーを介して結合してもよいが、直接結合するのが好ましい。
【0120】
本発明の一態様として、第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分と、第二の抗原結合ドメインを含み、前記IgG部分の重鎖C末端に前記第二の抗原結合ドメインが直接またはリンカーを介して結合しているバイスペシフィック抗体であり、前記IgG部分の重鎖定常領域が、ヒトIgG4またはその改変体であるバイスペシフィック抗体が挙げられる。本発明のさらに好ましい一様態としては、前記重鎖定常領域がIgG4PEまたはIgG4PE R409Kであるバイスペシフィック抗体が挙げられる。前記IgG4PE R409Kの重鎖定常領域のアミノ酸配列の具体的な例としては、配列番号77で示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0121】
本発明のバイスペシフィック抗体として具体的には、例えば、Ct-R1090-GpS1019-FL、Ct―R1090-GpA6005-FL、Ct―R1090-GpA6014-FL、Ct―R1090-GpA6062-FL、Ct―R1090-GpS3003、Ct―R1090-GPngs18およびCt―R1090-GPngs62などが挙げられる。また、本発明のバイスペシフィック抗体として具体的には、例えばCt-GpS1019-R1090、Ct-GpA6005-R1090、Ct-GpA6014-R1090、Ct-GpA6062-R1090、Ct-GpS3003-R1090、Ct-GPngs18-R1090およびCt-GPngs62-R1090なども同様に挙げられる。
【0122】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片には、エフェクター活性を有する抗体または該バイスペシフィック抗体断片も包含される。
【0123】
エフェクター活性とは、抗体のFc領域を介して引き起こされる抗体依存性の細胞傷害活性を指し、例えば、抗体依存性細胞傷害活性(Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity activity;ADCC活性)、補体依存性細胞傷害活性(Complement-Dependent Cytotoxicity activity; CDC活性)、マクロファージや樹状細胞などの食細胞による抗体依存性貪食活性(Antibody-dependent cellular phagocytosis activity;ADCP活性)およびオプソニン効果などが挙げられる。
【0124】
本発明においてADCC活性およびCDC活性は、公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]を用いて測定することができる。
【0125】
ADCC活性とは、標的細胞上の抗原に結合した抗体が、抗体のFc領域を介して免疫細胞のFc受容体と結合することで免疫細胞(ナチュラルキラー細胞など)を活性化し、標的細胞を傷害する活性をいう。
【0126】
Fc受容体(FcR)は、抗体のFc領域に結合する受容体であり、抗体の結合によりさまざまなエフェクター活性を誘発する。各FcRは抗体のサブクラスに対応し、IgG、IgE、IgA、IgMはそれぞれFcγR、FcεR、FcαR、FcμRに特異的に結合する。さらにFcγRには、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)のサブタイプが存在し、それぞれのサブタイプにはFcγRIA、FcγRIB、FcγRIC、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIAおよびFcγRIIIBのアイソフォームが存在する。これらの異なるFcγRは異なる細胞上に存在する[Annu. Rev. Immunol. 9:457-492(1991)]。ヒトにおいては、FcγRIIIBは好中球に特異的に発現しており、FcγRIIIAは単球、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージおよび一部のT細胞に発現する。FcγRIIIAへの抗体の結合を介して、NK細胞依存的なADCC活性が誘発される。
【0127】
CDC活性とは、標的細胞上の抗原に結合した抗体が血液中の補体関連タンパク質群からなる一連のカスケード(補体活性化経路)を活性化し、標的細胞を傷害する活性をいう。また、補体の活性化により生じるタンパク質断片により、免疫細胞の遊走および活性化が誘導される。CDC活性のカスケードは、まずC1qがFc領域に結合し、次に2つのセリンプロテアーゼであるC1rおよびC1sと結合することで、C1複合体を形成し開始される。
【0128】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の抗原発現細胞に対するCDC活性、またはADCC活性は、公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]により評価することができる。
【0129】
本発明のバイスぺシフィック抗体のエフェクター活性を制御する方法としては、抗体のFc領域(CH2およびCH3ドメインからなる定常領域)の297番目のアスパラギン(Asn)に結合するN-結合複合型糖鎖の還元末端に存在するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にα-1,6結合するフコース(コアフコースともいう)の量を制御する方法(国際公開第2005/035586号、国際公開第2002/31140号および国際公開第00/61739号)や、抗体のFc領域のアミノ酸残基の改変により制御する方法(国際公開第00/42072号)などが知られている。
【0130】
バイスぺシフィック抗体に付加するコアフコースの量を制御することで、抗体のADCC活性を増加または低下させることができる。例えば、抗体のFcに結合しているN-結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を低下させる方法として、α1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損した宿主細胞を用いてバイスぺシフィック抗体を発現することで、高いADCC活性を有するバイスぺシフィック抗体を取得することができる。一方、バイスぺシフィック抗体のFcに結合しているN-結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を増加させる方法として、α1,6-フコース転移酵素遺伝子を導入した宿主細胞を用いて抗体を発現させることで、低いADCC活性を有するバイスぺシフィック抗体を取得することができる。
【0131】
また、バイスぺシフィック抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することでADCC活性やCDC活性を増加または低下させることができる。例えば、米国特許出願公開第2007/0148165号明細書に記載のFc領域のアミノ酸配列を用いることで、バイスぺシフィック抗体のCDC活性を増加させることができる。また、米国特許第6,737,056号明細書、米国特許第7,297,775号明細書または米国特許第7,317,091号明細書などに記載のアミノ酸改変を行うことで、ADCC活性またはCDC活性を、増加させることも低下させることもできる。
【0132】
さらに、上述の方法を組み合わせることにより、エフェクター活性が制御されたバイスぺシフィック抗体を取得してもよい。
【0133】
本発明のバイスぺシフィック抗体の安定性は、精製過程や一定条件下で保存されたサンプルにおいて形成される凝集体(オリゴマー)量を測定することによって評価することができる。すなわち、同一条件下で凝集体量が低減する場合を、抗体の安定性が向上したものと評価する。凝集体量は、ゲルろ過クロマトグラフィーを含む適当なクロマトグラフィーを用いて凝集した抗体と凝集していない抗体とを分離することによって測定することができる。
【0134】
本発明のバイスぺシフィック抗体の生産性は、抗体産生細胞から培養液中に産生される抗体量を測定することによって評価することができる。より具体的には、培養液から産生細胞を除いた培養上清に含まれる抗体の量をHPLC法やELISA法などの適当な方法で測定することによって評価することができる。
【0135】
本発明において、抗体断片とは、抗原結合部位を含み、該抗原に対する結合活性を有するタンパク質である。本発明において抗体断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Diabody、dsFv、VHHまたはCDRを含むペプチドなどが挙げられる。
【0136】
Fabは、IgG抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体とがジスルフィド結合(S-S結合)で結合した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。VHおよびCH1を含むFabのH鎖をVH-CH1と記載し、VLおよびCLを含むFabのL鎖をVL-CLと記載する。
【0137】
F(ab’)2は、IgGをタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のS-S結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0138】
Fab’は、上記F(ab’)2のヒンジ領域のS-S結合を切断した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0139】
scFvは、1本のVHと1本のVLとを12残基以上の適当なペプチドリンカー(P)を用いて連結した、VH-P-VLまたはVL-P-VHポリペプチドであり、抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0140】
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片であり、同じ抗原に対する二価の抗原結合活性、または異なる抗原に対し各々特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0141】
dsFvは、VHおよびVL中の各1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、該システイン残基間のS-S結合を介して結合させたものをいう。
【0142】
VHHは、ナノボディとも言い、VHH抗体における重鎖可変領域を指し、他のポリペプチドの存在なしで抗原に結合することができる。
【0143】
VHH抗体は、アルパカ等のラクダ科の動物およびサメ等の軟骨魚に存在する抗体であり、軽鎖とCH1がなく、重鎖のみからなる。
【0144】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、CDR同士を直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることで作製することができる。CDRを含むペプチドは、本発明のバイスペシフィック抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0145】
本発明のバイスペシフィック抗体断片は、本質的にバイスペシフィック抗体の構造の一部からなり、バイスペシフィック抗体の抗原結合部位特異性が異なる2種類の抗原結合ドメインを含み、該2種類の抗原のいずれに対しても結合活性を有するタンパク質である。
【0146】
抗体のエフェクター活性の増強または欠損、抗体の安定化、および血中半減期の制御を目的としたアミノ酸残基改変を含むFc領域も、本発明のバイスペシフィック抗体に用いることができる。
【0147】
本発明のバイスぺシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片としては、本発明のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、タンパク質または抗体医薬などを化学的または遺伝子工学的に結合させたバイスペシフィック抗体の誘導体を包含する。
【0148】
本発明におけるバイスペシフィック抗体の誘導体は、本発明のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片のH鎖またはL鎖のN末端側或いはC末端側、該バイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片中の適当な置換基或いは側鎖、さらには該バイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片中の糖鎖などに、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、免疫賦活剤、タンパク質または抗体医薬などを化学的手法[抗体工学入門、地人書館(1994)]により結合させることで製造することができる。
【0149】
また、本発明におけるバイスペシフィック抗体の誘導体は、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNAと、所望のタンパク質または抗体医薬をコードするDNAとを連結させて、発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し発現させる、遺伝子工学的手法により製造することができる。
【0150】
放射性同位元素としては、例えば、111In、131I、125I、90Y、64Cu、99Tc、77Luまたは211Atなどが挙げられる。放射性同位元素は、クロラミンT法などによって抗体に直接結合させることができる。また、放射性同位元素をキレートする物質を抗体に結合させてもよい。キレート剤としては、例えば、1-イソチオシアネートベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)などが挙げられる。
【0151】
低分子の薬剤としては、例えば、アルキル化剤、ニトロソウレア剤、代謝拮抗剤、抗生物質、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法剤、ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、P糖蛋白阻害剤、白金錯体誘導体、M期阻害剤若しくはキナーゼ阻害剤などの抗癌剤[臨床腫瘍学、癌と化学療法社(1996)]、ハイドロコーチゾン若しくはプレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン若しくはインドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート若しくはペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド若しくはアザチオプリンなどの免疫抑制剤またはマレイン酸クロルフェニラミン若しくはクレマシチンのような抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤[炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社(1982)]などが挙げられる。
【0152】
抗癌剤としては、例えば、アミフォスチン(エチオール)、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、ストレプトゾシン、シクロフォスファミド、イホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、ゲムシタビン(ゲムザール)、ダウノルビシン、プロカルバジン、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、5-フルオロウラシル、フルオロウラシル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、ダウノマイシン、ペプロマイシン、エストラムスチン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテア)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、10-ヒドロキシ-7-エチル-カンプトテシン(SN38)、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、メスナ、イリノテカン(CPT-11)、ノギテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、ヒドロキシカルバミド、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパラガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、タモキシフェン、ゴセレリン、リュープロレニン、フルタミド、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル、ハイドロコーチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ビンデシン、ニムスチン、セムスチン、カペシタビン、トムデックス、アザシチジン、UFT、オキザロプラチン、ゲフィチニブ(イレッサ)、イマチニブ(STI571)、エルロチニブ、FMS-like tyrosine kinase 3(Flt3)阻害剤、vascular endothelial growth facotr receptor(VEGFR)阻害剤、fibroblast growth factor receptor(FGFR)阻害剤、タルセバなどのepidermal growth factor receptor(EGFR)阻害剤、ラディシコール、17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、ラパマイシン、アムサクリン、オール-トランスレチノイン酸、サリドマイド、レナリドマイド、アナストロゾール、ファドロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ブシラミン、ミゾリビン、シクロスポリン、ヒドロコルチゾン、ベキサロテン(ターグレチン)、デキサメタゾン、プロゲスチン類、エストロゲン類、アナストロゾール(アリミデックス)、ロイプリン、アスピリン、インドメタシン、セレコキシブ、アザチオプリン、ペニシラミン、金チオマレート、マレイン酸クロルフェニラミン、クロロフェニラミン、クレマシチン、トレチノイン、ベキサロテン、砒素、ボルテゾミブ、アロプリノール、カリケアマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タルグレチン、オゾガミン、クラリスロマシン、ロイコボリン、ケトコナゾール、アミノグルテチミド、スラミン、メトトレキセート若しくはメイタンシノイドまたはその誘導体などが挙げられる。
【0153】
低分子の薬剤と本発明のバイスペシフィック抗体とを結合させる方法としては、例えば、グルタールアルデヒドを介して薬剤と該抗体のアミノ基間を結合させる方法、または水溶性カルボジイミドを介して薬剤のアミノ基と該抗体のカルボキシル基とを結合させる方法などが挙げられる。
【0154】
高分子の薬剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、またはヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどが挙げられる。これらの高分子化合物を本発明のバイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的若しくは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、または(3)免疫原性の消失若しくは抗体産生の抑制、などの効果が期待される[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。
【0155】
例えば、PEGと本発明のバイスペシフィック抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などが挙げられる[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。PEG化修飾試薬としては、リジンのε-アミノ基への修飾剤(日本国特開昭61-178926号公報)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基への修飾剤(日本国特開昭56-23587号公報)、またはアルギニンのグアニジノ基への修飾剤(日本国特開平2-117920号公報)などが挙げられる。
【0156】
免疫賦活剤としては、イムノアジュバントとして知られている天然物でもよく、具体例としては、免疫を亢進する薬剤が、β(1→3)グルカン(例えば、レンチナンまたはシゾフィラン)、またはαガラクトシルセラミド(KRN7000)などが挙げられる。
【0157】
タンパク質としては、例えば、NK細胞、マクロファージまたは好中球などの免疫担当細胞を活性化するサイトカイン若しくは増殖因子または毒素タンパク質などが挙げられる。
【0158】
サイトカインまたは増殖因子としては、例えば、インターフェロン(以下、IFNと記す)-α、IFN-β、IFN-γ、インターロイキン(以下、ILと記す)-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などが挙げられる。
【0159】
毒素タンパク質としては、例えば、リシン、ジフテリアトキシンまたはONTAKなどが挙げられ、毒性を調節するためにタンパク質に変異を導入したタンパク毒素も含まれる。
【0160】
タンパク質または抗体医薬との融合抗体は、本発明のバイスぺシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片をコードするcDNAにタンパク質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物または真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0161】
上記抗体の誘導体を検出方法、定量方法、検出用試薬、定量用試薬または診断薬として使用する場合に、本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片に結合する薬剤としては、通常の免疫学的検出または測定方法で用いられる標識体が挙げられる。標識体としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ若しくはルシフェラーゼなどの酵素、アクリジニウムエステル若しくはロフィンなどの発光物質、またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)、Alexa(登録商標) Fluor 488、R-phycoerythrin(R-PE)などの蛍光物質などが挙げられる。
【0162】
本発明には、CDC活性またはADCC活性などの細胞傷害活性を有するバイスぺシフィック抗体およびそのバイスペシフィック抗体断片が包含される。本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の抗原発現細胞に対するCDC活性またはADCC活性は公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373 (1993)]により評価することができる。
【0163】
また、本発明は、CD40およびGPC3を特異的に認識し結合するバイスぺシフィック抗体若しくはそのバイスペシフィック抗体断片を含む組成物、または該バイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、CD40および/またはGPC3が関係する疾患、好ましくはCD40およびGPC3の発現細胞が関与する疾患の治療薬に関する。
【0164】
CD40および/またはGPC3が関係する疾患としては、例えば、CD40および/またはGPC3が関係している疾患であればいかなるものでもよく、例えば、悪性腫瘍およびがんなどが挙げられる。
【0165】
本発明において、悪性腫瘍およびがんとしては、例えば、大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、グリオーマ、悪性黒色腫(メラノーマ)、甲状腺がん、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆管がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部がん、皮膚がん、尿路がん、膀胱がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、中皮腫、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫およびウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【0166】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する治療薬は、有効成分としての該抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが好ましい。
【0167】
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内または静脈内などの非経口投与が挙げられる。中でも、静脈内投与が好ましい。
【0168】
投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏またはテープ剤などが挙げられる。
【0169】
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢および体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg~10mg/kgである。
【0170】
さらに、本発明は、本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含有する、CD40および/またはGPC3の検出若しくは測定試薬、またはCD40および/またはGPC3が関係する疾患、好ましくはCD40およびGPC3の発現細胞が関与する疾患の診断薬に関する。また、本発明は、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた、CD40および/またはGPC3の検出若しくは測定方法、CD40および/またはGPC3が関係する疾患、好ましくはCD40およびGPC3の発現細胞が関与する疾患の治療方法、またはCD40および/またはGPC3が関係する疾患、好ましくはCD40およびGPC3の発現細胞が関与する疾患の診断方法に関する。
【0171】
本発明においてCD40および/またはGPC3の量を検出または測定する方法としては、任意の公知の方法が挙げられる。例えば、免疫学的検出または測定方法などが挙げられる。
【0172】
免疫学的検出または測定方法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。免疫学的検出または測定方法としては、例えば、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIAまたはELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、発光免疫測定法(luminescent immunoassay)、ウェスタンブロット法または物理化学的手法などが挙げられる。
【0173】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いてCD40および/またはGPC3が発現した細胞を検出または測定することにより、CD40および/またはGPC3が関係する疾患、好ましくはCD40およびGPC3の発現細胞が関与する疾患を診断することができる。
【0174】
CD40またはGPC3が発現している細胞の検出には、公知の免疫学的検出法を用いることができるが、例えば、免疫沈降法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法または蛍光抗体染色法などが挙げられる。また、例えば、FMAT8100HTSシステム(アプライドバイオシステム社製)などの蛍光抗体染色法なども挙げられる。
【0175】
本発明においてCD40および/またはGPC3を検出または測定する対象となる生体試料としては、例えば、組織細胞、血液、血漿、血清、膵液、尿、糞便、組織液または培養液など、CD40またはGPC3が発現した細胞を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。
【0176】
本発明のバイスぺシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する診断薬は、目的とする診断法に応じて、抗原抗体反応を行なうための試薬、該反応の検出用試薬を含んでもよい。抗原抗体反応を行なうための試薬としては、例えば、緩衝剤、塩などが挙げられる。
【0177】
検出用試薬としては、例えば、前記バイスぺシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体に結合する標識された二次抗体、または標識に対応した基質などの通常の免疫学的検出または測定法に用いられる試薬が挙げられる。
【0178】
以下、本発明のバイスぺシフィック抗体の作製方法、該バイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価方法、並びに該バイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の治療方法および診断方法について具体的に記載する。
【0179】
1.モノクローナル抗体の作製方法
本発明におけるモノクローナル抗体の製造方法は、下記の作業工程を包含する。すなわち、(1)免疫原として使用する抗原の精製および細胞表面に抗原が過剰発現した細胞の作製の少なくとも一方、(2)抗原を動物に免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓などを摘出する時期を決定し、抗体産生細胞を調製する工程、(3)骨髄腫細胞(ミエローマ)の調製、(4)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、(5)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、(6)ハイブリドーマ群からの単クローン(monoclonal)細胞の分離(クローニング)、(7)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、またはハイブリドーマを移植した動物の飼育、(8)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性およびその抗原結合特異性の検討、または標識試薬としての特性の検定、などである。
【0180】
以下、本発明におけるCD40およびGPC3に結合するバイスペシフィック抗体を作製するために使用する、CD40に結合するモノクローナル抗体およびGPC3に結合するモノクローナル抗体の作製方法を上記の工程に沿って詳述する。該抗体の作製方法はこれに制限されず、例えば脾臓細胞以外の抗体産生細胞およびミエローマを使用することもできる。
【0181】
(1)抗原の精製
CD40またはGPC3を発現させた細胞は、CD40またはGPC3の全長またはその部分長をコードするcDNAを含む発現ベクターを、大腸菌、酵母、昆虫細胞または動物細胞などに導入することにより、得ることができる。また、CD40またはGPC3を多量に発現している各種ヒト腫瘍培養細胞またはヒト組織などからCD40またはGPC3を精製し、抗原として使用することができる。また、該腫瘍培養細胞または該組織などをそのまま抗原として用いることもできる。さらに、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によりCD40またはGPC3の部分配列を有する合成ペプチドを調製し、抗原に用いることもできる。
【0182】
本発明で用いられるCD40またはGPC3は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)やCurrent Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons(1987-1997)などに記載された方法などを用い、例えば以下の方法により、該CD40または該GPC3をコードするDNAを宿主細胞中で発現させることで製造することができる。
【0183】
CD40またはGPC3をコードする部分を含む完全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。上記完全長cDNAの代わりに、完全長cDNAをもとにして調製された、ポリペプチドをコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を用いてもよい。次に、得られた該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、CD40またはGPC3を生産する形質転換体を得ることができる。
【0184】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞における自律複製または染色体中への組込みが可能で、かつCD40またはGPC3をコードするDNAを転写できる位置に適当なプロモーターを含有しているものであれば、いずれも用いることができる。
【0185】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌などのエシェリヒア属などに属する微生物、酵母、昆虫細胞または動物細胞など、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
【0186】
大腸菌などの原核生物を宿主細胞として用いる場合、組換えベクターは、原核生物中で自律複製が可能であるとともに、プロモーター、リボソーム結合配列、CD40またはGPC3をコードする部分を含むDNA、並びに転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。また、該組換えベクターには、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。さらに、該組換えベクターは、プロモーターを制御する遺伝子を含んでもよい。
【0187】
該組換えベクターとしては、リボソーム結合配列であるシャイン・ダルガルノ配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば、6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
【0188】
また、該CD40またはGPC3をコードするDNAの塩基配列としては、宿主内での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することができ、これにより目的とするCD40またはGPC3の生産率を向上させることができる。
【0189】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(以上、ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、pKK233-2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pKYP10(日本国特開昭58-110600号公報)、pKYP200[Agricultural Biological Chemistry, 48, 669(1984)]、pLSA1[Agric. Biol. Chem., 53, 277(1989)]、pGEL1[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306(1985)]、pBluescript II SK(-)(ストラタジーン社製)、pTrs30[大腸菌JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrs32[大腸菌JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pGHA2[大腸菌IGHA2(FERM BP-400)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pGKA2[大腸菌IGKA2(FERM BP-6798)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pTerm2(米国特許第4,686,191号明細書、米国特許第4,939,094号明細書、米国特許第5,160,735号明細書)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400[J. Bacteriol., 172, 2392 (1990)]、pGEX(ファルマシア社製)、pETシステム(ノバジェン社製)またはpME18SFL3(東洋紡社製)などが挙げられる。
【0190】
プロモーターとしては、使用する宿主細胞中で機能するものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターまたはT7プロモーターなどの、大腸菌またはファージなどに由来するプロモーターが挙げられる。また、例えば、Ptrpを2つ直列させたタンデムプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、またはlet Iプロモーターなどの人為的に設計改変されたプロモーターなども挙げられる。
【0191】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌XL1-Blue、大腸菌XL2-Blue、大腸菌DH1、大腸菌MC1000、大腸菌KY3276、大腸菌W1485、大腸菌JM109、大腸菌HB101、大腸菌No.49、大腸菌W3110、大腸菌NY49、または大腸菌DH5αなどが挙げられる。
【0192】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、使用する宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110(1972)、Gene, 17, 107(1982)、Molecular & General Genetics, 168, 111(1979)]が挙げられる。
【0193】
動物細胞を宿主として用いる場合、発現ベクターとしては、動物細胞中で機能するものであればいずれも用いることができ、例えば、pcDNAI(インビトロジェン社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107[日本国特開平3-22979号公報;Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、pAS3-3(日本国特開平2-227075号公報)、pCDM8[Nature, 329, 840 (1987)]、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103[J. Biochemistry, 101, 1307 (1987)]、pAGE210、pME18SFL3またはpKANTEX93(国際公開第97/10354号)などが挙げられる。
【0194】
プロモーターとしては、動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のimmediate early(IE)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーターまたはモロニーマウス白血病ウイルスのプロモーター若しくはエンハンサーが挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0195】
宿主細胞としては、例えば、ヒトバーキットリンパ腫細胞Namalwa、アフリカミドリザル腎臓由来細胞COS、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞CHO、またはヒト白血病細胞HBT5637(日本国特開昭63-000299号公報)などが挙げられる。
【0196】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法(日本国特開平2-227075号公報)、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987)]などが挙げられる。
【0197】
以上のようにして得られるCD40またはGPC3をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを保有する微生物、または動物細胞などに由来する形質転換体を培地中で培養し、培養物中に該CD40またはGPC3を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、CD40またはGPC3を製造することができる。該形質転換体を培地中で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0198】
真核生物由来の細胞で発現させた場合には、糖または糖鎖が付加されたCD40またはGPC3を得ることができる。
【0199】
誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する際には、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドなどを、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはインドールアクリル酸などを、各々培地に添加してもよい。
【0200】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えば、一般に使用されているRPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association, 199, 519(1967)]、EagleのMEM培地[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変MEM培地[Virology, 8, 396(1959)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)]、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)培地、またはこれら培地に牛胎児血清(FBS)などを添加した培地などが挙げられる。培養は、通常pH6~8、30~40℃、5%CO2存在下などの条件下で1~7日間行う。また、培養中に、必要に応じて、カナマイシン、ペニシリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。
【0201】
CD40またはGPC3をコードする遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、分泌生産または融合タンパク質発現などの方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]を用いることができる。CD40またはGPC3の生産方法としては、例えば、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、または宿主細胞外膜上に生産させる方法が挙げられ、使用する宿主細胞や、生産させるCD40またはGPC3の構造を変えることにより、適切な方法を選択することができる。
【0202】
例えば、細胞外領域のアミノ酸配列をコードするDNAに、抗体のFc領域をコードするDNA、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)をコードするDNA、またはFLAGタグをコードするDNAまたはHistidineタグをコードするDNAなどを連結したDNAを作製して、発現し精製することで抗原融合タンパク質を作製することができる。具体的には、例えば、CD40またはGPC3の細胞外領域をヒトIgGのFc領域に結合させたFc融合タンパク質、CD40またはGPC3の細胞外領域とグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質が挙げられる。
【0203】
CD40またはGPC3が宿主細胞内または宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法[J. Biol. Chem., 264, 17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989)、Genes Develop., 4, 1288(1990)]、日本国特開平05-336963号公報、または国際公開第94/23021号などに記載の方法を用いることにより、CD40またはGPC3を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。また、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などを用いた遺伝子増幅系(日本国特開平2-227075号公報)を利用してCD40またはGPC3の生産量を上昇させることもできる。
【0204】
生産したCD40またはGPC3は、例えば、以下のようにして単離、精製することができる。
【0205】
CD40またはGPC3が細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後に細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、またはダイノミルなどを用いて細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離して得られる上清から、通常のタンパク質の単離精製法、すなわち溶媒抽出法、硫安などによる塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)などのレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)などのレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロースなどのレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、または等電点電気泳動などの電気泳動法などの手法を、単独でまたは組み合わせて用いることで、精製タンパク質を得ることができる。
【0206】
CD40またはGPC3が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、上記と同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として該CD40またはGPC3の不溶体を回収する。回収した該CD40またはGPC3の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析することにより、該CD40またはGPC3を正常な立体構造に戻した後、上記と同様の単離精製法によりポリペプチドの精製タンパク質を得ることができる。
【0207】
CD40またはGPC3またはその糖修飾体などの誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清において該CD40またはGPC3、またはその糖修飾体などの誘導体を回収することができる。該培養上清を上記と同様に遠心分離などの手法を用いて処理することにより、可溶性画分を取得し、該可溶性画分から上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製タンパク質を得ることができる。
【0208】
また、本発明において用いられるCD40またはGPC3は、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によっても製造することができる。具体的には、例えば、アドバンストケムテック社製、パーキン・エルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジインストルメント社製、シンセセル-ベガ社製、パーセプチブ社製、または島津製作所社製などのペプチド合成機を利用して化学合成することができる。
【0209】
(2)抗体産生細胞の調製工程
3~20週令のマウス、ラットまたはハムスターなどの動物に、(1)で得られる抗原を免疫して、その動物の脾臓、リンパ節または末梢血中の抗体産生細胞を採取する。また、動物としては、例えば、富塚らの文献[Tomizuka. et al., Proc Natl Acad Sci USA., 97、722,(2000)]に記載されているヒト由来抗体を産生するトランスジェニックマウス、免疫原性を高めるためにCD40またはGPC3のコンディショナルノックアウトマウスなどが被免疫動物として挙げられる。
【0210】
免疫は、フロイントの完全アジュバント、または水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどの適当なアジュバントとともに抗原を投与することにより行う。マウス免疫の際の免疫原投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射または足蹠注射などいずれでもよいが、腹腔内注射、足蹠注射または静脈内注射が好ましい。抗原が部分ペプチドである場合には、BSA(ウシ血清アルブミン)、またはKLH(Keyhole Limpet hemocyanin)などのキャリアタンパク質とのコンジュゲートを作製し、これを免疫原として用いる。
【0211】
抗原の投与は、1回目の投与の後、1~2週間おきに5~10回行う。各投与後3~7日目に眼底静脈叢より採血し、その血清の抗体価を酵素免疫測定法[Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]などを用いて測定する。免疫に用いた抗原に対し上記の血清が十分な抗体価を示した動物を、融合用抗体の産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効果を高めることができる。
【0212】
抗原の最終投与後3~7日目に、免疫した動物より脾臓などの抗体産生細胞を含む組織を摘出し、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞は、形質細胞およびその前駆細胞であるリンパ球であり、これは個体のいずれの部位から得てもよく、一般には脾臓、リンパ節、骨髄、扁桃、末梢血、またはこれらを適宜組み合わせたもの等から得ることができるが、脾臓細胞が最も一般的に用いられる。脾臓細胞を用いる場合には、脾臓を細断してほぐした後、遠心分離し、さらに赤血球を除去することにより、融合用抗体産生細胞を取得する。
【0213】
(3)ミエローマの調製工程
ミエローマとしては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物に由来する自己抗体産生能のない細胞を用いることが出来るが、一般的にはマウスから得られた株化細胞、例えば、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)ミエローマ細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Current Topics in Microbiology and Immunology, 18, 1(1978)]、P3-NS1/1-Ag41(NS-1)[European J. Immunology, 6, 511 (1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[Nature, 276, 269(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J. Immunology, 123, 1548 (1979)]、またはP3-X63-Ag8(X63)[Nature, 256, 495(1975)]などが用いられる。該細胞株は、適当な培地、例えば8-アザグアニン培地[グルタミン、2-メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、FCSおよび8-アザグアニンを加えたRPMI-1640培地]、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;以下「IMDM」という)、またはダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)などの培地で継代培養する。細胞融合の3~4日前に上記の細胞株を正常培地(例えば、10% FCSを含むDMEM培地)で継代培養し、融合を行う当日に2×107個以上の細胞数を確保する。
【0214】
(4)細胞融合
(2)で得られる融合用抗体産生細胞と(3)で得られるミエローマ細胞を、Minimum Essential Medium(MEM)培地またはPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、食塩7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)でよく洗浄し、融合用抗体産生細胞:ミエローマ細胞=5:1~10:1になるように混合し、遠心分離した後、上清を除く。沈澱した細胞集塊をよくほぐした後、ポリエチレングリコール-1000(PEG-1000)、MEM培地およびジメチルスルホキシドの混合液を、37℃にて攪拌しながら加える。さらに1~2分間毎にMEM培地1~2mLを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50mLになるようにする。遠心分離後、上清を除き、沈澱した細胞集塊を緩やかにほぐした後、HAT培地[ヒポキサンチン、チミジンおよびアミノプテリンを加えた正常培地]中に緩やかに細胞を懸濁する。この懸濁液を5%CO2インキュベーター中、37℃にて7~14日間培養する。
【0215】
また、以下の方法でも細胞融合を行うことができる。脾臓細胞とミエローマ細胞とを無血清培地(例えばDMEM)、またはリン酸緩衝生理食塩液(以下「リン酸緩衝液」という)でよく洗浄し、脾臓細胞とミエローマ細胞の細胞数の比が5:1~10:1程度になるように混合し、遠心分離する。上清を除去し、沈澱した細胞集塊をよくほぐした後、撹拌しながら1mLの50%(w/v)ポリエチレングリコール(分子量1000~4000)を含む無血清培地を滴下する。その後、10mLの無血清培地をゆっくりと加えた後、遠心分離する。再び上清を捨て、沈澱した細胞を適量のヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)液およびヒトインターロイキン-2(IL-2)を含む正常培地(以下、HAT培地という)中に懸濁して培養用プレート(以下、プレートという)の各ウェルに分注し、5%炭酸ガス存在下、37℃にて2週間程度培養する。途中適宜HAT培地を補う。
【0216】
(5)ハイブリドーマ群の選択
融合に用いたミエローマ細胞が8-アザグアニン耐性株である場合、すなわちヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)欠損株である場合は、融合しなかったミエローマ細胞およびミエローマ細胞同士の融合細胞は、HAT培地中では生存することができない。一方、抗体産生細胞同士の融合細胞および抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマは、HAT培地中で生存することができるが、抗体産生細胞同士の融合細胞はやがて寿命に達する。したがって、HAT培地中での培養を続けることによって、抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマのみが生き残り、結果的にハイブリドーマを取得することができる。
【0217】
コロニー状に生育してきたハイブリドーマについて、HAT培地からアミノプテリンを除いた培地(以下、HT培地という)への培地交換を行う。その後、培養上清の一部を採取し、後述する抗体価測定法を用いて、抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。抗体価の測定方法としては、例えば、放射性同位元素免疫定量法(RIA法)、固相酵素免疫定量法(ELISA法)、蛍光抗体法および受身血球凝集反応法など種々の公知技術が挙げられるが、検出感度、迅速性、正確性および操作の自動化の可能性などの観点から、RIA法またはELISA法が好ましい。
【0218】
抗体価を測定することにより、所望の抗体を産生することが判明したハイブリドーマを、別のプレートに移しクローニングを行う。このクローニング法としては、例えば、プレートの1ウェルに1個の細胞が含まれるように希釈して培養する限界希釈法、軟寒天培地中で培養しコロニーを回収する軟寒天法、マイクロマニュピレーターによって1個の細胞を単離する方法、セルソーターによって1個の細胞を単離する方法などが挙げられる。
【0219】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によるクローニングを2~4回繰り返し、安定して抗体価の認められたものを、ヒトCD40またはGPC3に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ株として選択する。
【0220】
(6)モノクローナル抗体の調製
プリスタン処理[2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(Pristane)0.5mLを腹腔内投与し、2週間飼育する]した8~10週令のマウスまたはヌードマウスに、(5)で得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に注射する。10~21日でハイブリドーマは腹水癌化する。このマウスから腹水を採取し、遠心分離して固形分を除去後、40~50%硫酸アンモニウムで塩析し、カプリル酸沈殿法、DEAE-セファロースカラム、プロテインAカラムまたはゲル濾過カラムによる精製を行い、IgGまたはIgM画分を集め、精製モノクローナル抗体とする。また、同系統のマウス(例えば、BALB/c)若しくはNu/Nuマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等の腹腔内で該ハイブリドーマを増殖させることにより、CD40またはGPC3に結合するモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。
【0221】
(5)で得られたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、10%FBS添加を添加したRPMI1640培地などで培養した後、遠心分離により上清を除き、GIT培地、または5%ダイゴGF21を添加したHybridoma-SFM培地等に懸濁し、フラスコ培養、スピナー培養またはバック培養などにより3~7日間培養する。得られた細胞懸濁液を遠心分離し、得られた上清よりプロテインAカラムまたはプロテインGカラムによる精製を行ない、IgG画分を集め、精製モノクローナル抗体を得ることもできる。精製の簡便な方法としては、市販のモノクローナル抗体精製キット(例えば、MAbTrap GIIキット;アマシャムファルマシアバイオテク社製)等を利用することもできる。
【0222】
抗体のサブクラスの決定は、サブクラスタイピングキットを用いて酵素免疫測定法により行う。蛋白量の定量は、ローリー法および280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/mL]より算出する方法により行うことができる。
【0223】
(7)CD40またはGPC3に対するモノクローナル抗体の結合アッセイ
CD40またはGPC3に対するモノクローナル抗体の結合活性は、オクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、RIA法、フローサイトメトリー法(FCM)または表面プラズモン共鳴法(SPR)などのバインディングアッセイ系により測定することができる。
【0224】
オクテルロニー法は簡便ではあるが、抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。一方、ELISA法またはRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより、抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定すると共に、抗体の結合活性を測定することが可能である。
【0225】
手順の具体例としては、精製または部分精製した組換えCD40またはGPC3をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)によりブロッキングを行う。ELISAプレートをphosphate buffer saline(PBS)および0.05% Tween20を含むPBS(Tween-PBS)などで洗浄後、段階希釈した第1抗体(例えばマウス血清、培養上清など)を反応させ、プレートに固定化された抗原へ抗体を結合させる。次に、第2抗体としてビオチン、酵素(horse radish peroxidase;HRP、alkaline phosphatase;ALPなど)、化学発光物質または放射線化合物などで標識した抗イムノグロブリン抗体を分注して、プレートに結合した第1抗体に第2抗体を反応させる。Tween-PBSでよく洗浄した後、第2抗体の標識物質に応じた反応を行い、標的抗原に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を選択する。
【0226】
FCMでは、抗体の抗原発現細胞に対する結合活性を測定することができる[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]。抗体が細胞膜上に発現している膜タンパク質抗原に結合することは、当該抗体が天然に存在する抗原の立体構造を認識し、結合することを意味する。
【0227】
SPR法としては、Biacoreによるkinetics解析が挙げられる。例えば、Biacore T100を用い、抗原と被験物との間の結合におけるkineticsを測定し、その結果を機器付属の解析ソフトウエアで解析をする。手順の具体例としては、抗マウスIgG抗体をセンサーチップCM5にアミンカップリング法により固定した後、ハイブリドーマ培養上清または精製モノクローナル抗体などの被験物質を流して適当量を結合させ、さらに濃度既知の複数濃度の抗原を流して、結合および解離を測定する。次に、得られたデータについて、機器付属のソフトウエアを用いて1:1バインディングモデルによるkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。または、CD40またはGPC3をセンサーチップ上に、例えばアミンカップリング法により固定した後、濃度既知の複数濃度の精製モノクローナル抗体を流して、結合および解離を測定する。得られたデータについて、機器付属のソフトウエアを用いてバイバレントバインディングモデルによるkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。
【0228】
また、本発明において、CD40またはGPC3に対する抗体と競合してCD40またはGPC3に結合する抗体は、上述のバインディングアッセイ系に被験抗体を共存させて反応させることにより、選択することができる。すなわち、被験抗体を加えた時に抗原との結合が阻害される抗体をスクリーニングすることにより、CD40またはGPC3への結合について、前記で取得した抗体と競合する抗体を得ることができる。
【0229】
(8)CD40またはGPC3に対するモノクローナル抗体のエピトープの同定
本発明において、抗体が認識し結合するエピトープの同定は以下のようにして行うことができる。
【0230】
例えば、抗原の部分欠損体、種間で異なるアミノ酸残基を改変した変異体、または特定のドメインを改変した変異体を作製し、該欠損体または変異体に対する抗体の反応性が低下すれば、欠損部位またはアミノ酸改変部位が該抗体のエピトープであることが明らかになる。このような抗原の部分欠損体および変異体は、適当な宿主細胞、例えば大腸菌、酵母、植物細胞または哺乳動物細胞などを用いて、分泌タンパク質として取得してもよいし、宿主細胞の細胞膜上に発現させて抗原発現細胞として調製してもよい。膜型抗原の場合は、抗原の立体構造を保持したまま発現させるために、宿主細胞の膜上に発現させることが好ましい。また、抗原の1次構造または立体構造を模倣した合成ペプチドを作製し、抗体の反応性を確認することもできる。合成ペプチドは、公知のペプチド合成技術を用いて、その分子の様々な部分ペプチドを作製する方法等が挙げられる。
【0231】
例えば、ヒトおよびマウスのCD40またはGPC3の細胞外領域について、各領域を構成するドメインを適宜組み合わせたキメラタンパク質を作製し、該タンパク質に対する抗体の反応性を確認することで、抗体のエピトープを同定することができる。その後、さらに細かく、その対応部分のオリゴペプチド、または該ペプチドの変異体等を、当業者に周知のオリゴペプチド合成技術を用いて種々合成し、該ペプチドに対する抗体の反応性を確認することでエピトープを特定することができる。多種類のオリゴペプチドを得るための簡便な方法として、市販のキット[例えば、SPOTsキット(ジェノシス・バイオテクノロジーズ社製)、マルチピン合成法を用いた一連のマルチピン・ペプチド合成キット(カイロン社製)等]を利用することもできる。
【0232】
CD40またはGPC3に結合する抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体は、上述のバインティングアッセイ系で得た抗体のエピトープを同定し、該エピトープの部分的な合成ペプチド、該エピトープの立体構造を模した合成ペプチド、または該エピトープの組換え体等を作製し、免疫することで取得することができる。
【0233】
例えば、エピトープが膜タンパク質であれば、全細胞外領域または一部の細胞外ドメインを、適当なタグ、例えば、FLAGタグ、Histidineタグ、GSTタンパク質または抗体Fc領域などに連結した組換え融合タンパク質を作製し、該組換えタンパク質を免疫することで、より効率的に該エピトープ特異的な抗体を作製することができる。
【0234】
2.遺伝子組換え抗体の作製
遺伝子組換え抗体の作製例として、P. J. Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILEY、P. Shepherd and C. Dean. Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESSおよびJ. W. Goding., Monoclonal Antibodies:principles and practice., 1993 ACADEMIC PRESSなどに概説されているが、以下にキメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体の作製方法を示す。また、遺伝子組換えマウス、ラット、ハムスターおよびラビット抗体についても、同様の方法で作製することができる。
【0235】
(1)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体のV領域をコードするcDNAの取得
モノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAの取得は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0236】
まず、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマよりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、合成したcDNAをファージまたはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、抗体のC領域部分またはV領域部分をコードするDNAをプローブとして用いて、VHまたはVLをコードするcDNAを有する組換えファージまたは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。単離した組換えファージまたは組換えプラスミド内のVHまたはVLの全塩基配列を決定し、当該塩基配列よりVHまたはVLの全アミノ酸配列を推定する。
【0237】
ハイブリドーマの作製に用いる非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスターまたはウサギなどを用いるが、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなる動物も用いることができる。
【0238】
ハイブリドーマからの全RNAの調製には、チオシアン酸グアニジン-トリフルオロ酢酸セシウム法[Methods in Enzymol., 154, 3 (1987)]、またはRNA easy kit(キアゲン社製)などのキットなどを用いる。
【0239】
全RNAからのmRNAの調製には、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]、またはOligo-dT30<Super>mRNA Purification Kit(タカラバイオ社製)などのキットなどを用いる。また、Fast Track mRNA Isolation Kit(インビトロジェン社製)またはQuickPrep mRNA Purification Kit(ファルマシア社製)などのキットを用いて、mRNAを調製することもできる。
【0240】
cDNAの合成およびcDNAライブラリーの作製には、公知の方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons(1987-1997)]またはSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(インビトロジェン社製)若しくはZAP-cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)などのキットなどを用いる。
【0241】
cDNAライブラリーの作製の際に、ハイブリドーマから抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターとしては、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。
【0242】
例えば、ZAP Express[Strategies, 5, 58(1992)]、pBluescript IISK(+)[Nucleic Acids Research, 17, 9494(1989)]、λZAPII(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[DNA Cloning: A Practical Approach, I, 49(1985)]、Lambda BlueMid(クローンテック社製)、λExCell、pT7T3-18U(ファルマシア社製)、pcD2[Mol. Cell. Biol., 3, 280(1983)]またはpUC18[Gene, 33, 103(1985)]などを用いる。
【0243】
ファージまたはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌には、該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1-Blue MRF’[Strategies, 5, 81(1992)]、C600[Genetics, 39, 440(1954)]、Y1088、Y1090[Science, 222, 778(1983)]、NM522[J. Mol. Biol., 166, 1(1983)]、K802[J. Mol. Biol., 16, 118(1966)]、またはJM105[Gene, 38, 275(1985)]などを用いる。
【0244】
cDNAライブラリーからの非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAクローンの選択には、アイソトープ若しくは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法、またはプラーク・ハイブリダイゼーション法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]などを用いる。
【0245】
また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAまたはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction法[以下、PCR法と表記する、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition , Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons(1987-1997)]を行うことにより、VHまたはVLをコードするcDNAを調製することもできる。
【0246】
選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断した後、pBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法などにより該cDNAの塩基配列を決定する。例えば、ジデオキシ法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463(1977)]などの反応を行った後、A.L.F.DNAシークエンサー(ファルマシア社製)などの塩基配列自動分析装置などを用いて解析する。
【0247】
決定した全塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列をそれぞれ推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することにより、取得したcDNAが、分泌シグナル配列を含めて抗体のVHおよびVL各々の完全なアミノ酸配列をコードしているか否かを確認する。
【0248】
分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVL各々の完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することにより、分泌シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定することができ、さらにそれらが属するサブグループを同定することができる。
【0249】
また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列は、既知の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することによって推定することができる。
【0250】
また、得られたVHおよびVLの完全なアミノ酸配列について、例えば、SWISS-PROTまたはPIR-Proteinなどの任意のデータベースを用いてBLAST法[J. Mol. Biol., 215, 403(1990)]などによる相同性検索を行うことで、当該VHおよびVLの完全なアミノ酸配列が新規なものであるか否かを確認することができる。
【0251】
(2)遺伝子組換え抗体発現用ベクターの構築
遺伝子組換え抗体発現用ベクターは、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLの少なくとも一方をコードするDNAをクローニングすることにより構築することができる。
【0252】
ヒト抗体のC領域としては、任意のヒト抗体のCHおよびCLを用いることができ、例えば、ヒト抗体のγ1サブクラスのCHおよびκクラスのCLなどを用いることができる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAとしてはcDNAを用いるが、エキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることもできる。
【0253】
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組み込んで発現できるものであれば、いかなるものでも用いることができ、例えば、pAGE107[Cytotechnol., 3, 133 (1990)]、pAGE103[J. Biochem., 101, 1307(1987)]、pHSG274[Gene, 27, 223 (1984)]、pKCR[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 1527 (1981)]、pSG1bd2-4[Cytotechnol., 4, 173 (1990)]、またはpSE1UK1Sed1-3[Cytotechnol., 13, 79 (1993)]、INPEP4(Biogen-IDEC社製)、N5KG1val(米国特許第6,001,358号明細書)、N5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)、トランスポゾンベクター(国際公開第2010/143698号)などを用いることができる。
【0254】
動物細胞用発現ベクターのプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーター[J. Biochem., 101, 1307 (1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスLTR[Biochem. Biophys. Res. Commun., 149, 960 (1987)]、CMVプロモーター(米国特許第5,168,062号明細書)または免疫グロブリンH鎖のプロモーター[Cell, 41, 479 (1985)]とエンハンサー[Cell, 33, 717(1983)]などを用いることができる。
【0255】
遺伝子組換え抗体の発現には、ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、細胞内における抗体H鎖およびL鎖の発現量の均衡性などの観点から、抗体H鎖およびL鎖の両遺伝子を搭載したベクター(タンデム型ベクター)[J. Immunol. Methods, 167, 271 (1994)]を用いるが、抗体H鎖とL鎖の各遺伝子を別々に搭載した複数のベクター(セパレート型ベクター)を組み合わせて用いることもできる。
【0256】
タンデム型の遺伝子組換え抗体発現用ベクターとしては、pKANTEX93(国際公開第97/10354号)、pEE18[Hybridoma, 17, 559(1998)]、N5KG1val(米国特許第6,001,358号明細書)、N5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)、Tol2トランスポゾンベクター(国際公開第2010/143698号)などを用いる。
【0257】
(3)キメラ抗体発現用ベクターの構築
(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする遺伝子の各々の上流に、(1)で得られる非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを各々クローニングすることで、キメラ抗体発現用ベクターを構築することができる。
【0258】
まず、非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAの3’末端側と、ヒト抗体のCHまたはCLの5’末端側とを連結するために、連結部分の塩基配列が適切なアミノ酸をコードし、かつ適当な制限酵素認識配列になるように設計したVHおよびVLのcDNAを作製する。次に、作製したVHおよびVLのcDNAを、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする遺伝子の各々の上流に、それらが適切な形で発現する様にそれぞれクローニングし、キメラ抗体発現用ベクターを構築する。
【0259】
また、非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを、適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAを用いてPCR法によりそれぞれ増幅し、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターにクローニングすることで、キメラ抗体発現用ベクターを構築することもできる。
【0260】
(4)ヒト化抗体のV領域をコードするcDNAの作製
ヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAは、以下のようにして作製することができる。まず、(1)で得られる非ヒト抗体のVHまたはVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVHまたはVLのフレームワーク領域(以下、FRと表記する)のアミノ酸配列をそれぞれ選択する。
【0261】
選択するFRのアミノ酸配列には、ヒト抗体由来のものであればいずれのものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のFRのアミノ酸配列、またはヒト抗体のFRの各サブグループの共通アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]などを用いる。抗体の結合活性の低下を抑えるために、元の非ヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(60%以上)を有するヒトFRのアミノ酸配列を選択する。
【0262】
次に、選択したヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列に、元の非ヒト抗体のCDRのアミノ酸配列をそれぞれ移植し、ヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をそれぞれ設計する。設計したアミノ酸配列を、抗体遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]を考慮してDNA配列に変換することで、ヒト化抗体のVHまたはVLのcDNA配列をそれぞれ設計する。
【0263】
設計したcDNA配列に基づき、100~150塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR反応を行う。この場合、PCR反応における反応効率および合成可能なDNA長の観点から、好ましくはH鎖およびL鎖に対し各々4~6本の合成DNAを設計する。また、可変領域全長の合成DNAを合成して用いることもできる。
【0264】
さらに、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、容易にヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをクローニングすることができる。PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにそれぞれクローニングし、(1)に記載の方法と同様の方法により塩基配列を決定し、所望のヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
【0265】
(5)ヒト化抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト化抗体は、非ヒト抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元の非ヒト抗体に比べて低下する[BIO/TECHNOLOGY, 9, 266(1991)]。そのため、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列のうち、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基、CDRのアミノ酸残基と相互作用するアミノ酸残基、および抗体の立体構造を維持し間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらのアミノ酸残基を元の非ヒト抗体のアミノ酸残基に置換することにより、低下したヒト化抗体の抗原結合活性を上昇させることができる。
【0266】
抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を同定するために、X線結晶解析[J. Mol. Biol., 112, 535(1977)]またはコンピューターモデリング[Protein Engineering, 7, 1501(1994)]などを用いることにより、抗体の立体構造の構築および解析を行うことができる。また、それぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討することを繰り返し、試行錯誤することで、必要な抗原結合活性を有する改変ヒト化抗体を取得できる。
【0267】
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸残基は、改変用合成DNAを用いて(4)に記載のPCR反応を行うことにより、改変することができる。PCR反応後の増幅産物について、(1)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的とする改変が施されたことを確認する。
【0268】
(6)ヒト化抗体発現用ベクターの構築
(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、構築したヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをそれぞれクローニングし、ヒト化抗体発現用ベクターを構築することができる。
【0269】
例えば、(4)および(5)で得られるヒト化抗体のVHまたはVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする各遺伝子の上流に、それらが適切な形で発現するようにそれぞれクローニングする。
【0270】
(7)ヒト抗体発現用ベクターの構築
ヒト抗体を産生する動物を被免疫動物として用いて、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した場合には、(1)において、ヒト抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列およびcDNA配列を得ることができる。そこで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、(1)で得たヒト抗体のVHまたはVLをコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることで、ヒト抗体発現用ベクターを構築することができる。
【0271】
(8)遺伝子組換え抗体の一過性発現
(3)、(6)および(7)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター、またはそれらを改変した発現ベクターを用いて遺伝子組換え抗体を一過性に発現させ、得られた多種類の遺伝子組換え抗体の抗原結合活性を効率的に評価することができる。
【0272】
発現ベクターを導入する宿主細胞には、遺伝子組換え抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、例えばCOS-7細胞[American Type Culture Collection(ATCC)番号:CRL1651]を用いる。COS-7細胞への発現ベクターの導入には、DEAE-デキストラン法[Methods in Nucleic Acids Res., CRC press(1991)]、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987)]などを用いる。
【0273】
発現ベクターの導入後、培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性を、酵素免疫抗体法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third Edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを用いて測定する。
【0274】
(9)遺伝子組換え抗体の安定的発現株の取得と遺伝子組換え抗体の調製
(3)、(6)および(7)で得られた遺伝子組換え抗体発現用ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより遺伝子組換え抗体を安定的に発現する形質転換株を得ることができる。
【0275】
宿主細胞への発現ベクターの導入としては、例えば、エレクトロポレーション法[日本国特開平2-257891号公報、Cytotechnology, 3, 133(1990)]、カルシウムイオン方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などが挙げられる。また、後述の動物に遺伝子を導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、ES細胞にエレクトロポレーション法やリポフェクション法を用いて遺伝子を導入する方法、および核移植法などが挙げられる。
【0276】
遺伝子組換え抗体発現用ベクターを導入する宿主細胞としては、遺伝子組換え抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、マウスSP2/0-Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、チャイニーズハムスターCHO-K1細胞(ATCC CCL-61)、DUKXB11(ATCC CCL-9096)、Pro-5細胞(ATCC CCL-1781)、CHO-S細胞(Life Technologies、Cat No.11619)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)が欠損したCHO細胞(CHO/DG44細胞)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216(1980)]、レクチン耐性を獲得したLec13細胞[Somatic Cell and Molecular genetics, 12, 55(1986)]、α1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC番号:CRL1662)などを用いる。
【0277】
また、細胞内糖ヌクレオチドGDP-フコースの合成に関与する酵素などのタンパク質、N-グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素などのタンパク質、または細胞内糖ヌクレオチドGDP-フコースのゴルジ体への輸送に関与するタンパク質などの活性が低下または欠失した宿主細胞、例えばα1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)などを用いることもできる。
【0278】
発現ベクターの導入後、遺伝子組換え抗体を安定的に発現する形質転換株を、G418硫酸塩(以下、G418と表記する)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択する(日本国特開平2-257891号公報)。
【0279】
動物細胞培養用培地には、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX-CELL301培地(ジェイアールエイチ社製)、EX-CELL302培地(ジェイアールエイチ社製)、EX-CELL325培地(ジェイアールエイチ社製)、IMDM培地(インビトロジェン社製)若しくはHybridoma-SFM培地(インビトロジェン社製)、またはこれらの培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いる。得られた形質転換株を培地中で培養することで、培養上清中に遺伝子組換え抗体を発現、蓄積させる。培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性はELISA法などにより測定することができる。また、DHFR増幅系(日本国特開平2-257891号公報)などを利用して、形質転換株の産生する遺伝子組換え抗体の発現量を上昇させることができる。
【0280】
遺伝子組換え抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]。また、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過など、タンパク質の精製で用いられる方法を組み合わせて精製することもできる。
【0281】
精製した遺伝子組換え抗体のH鎖、L鎖または抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法[Nature, 227, 680(1970)]、またはウェスタンブロッティング法[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]など用いて測定することができる。
【0282】
3.バイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の作製
本発明のバイスぺシフィック抗体は、第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分と第二の抗原結合ドメインをそれぞれ設計し、さらにそれらを連結させたバイスペシフィック抗体を設計することによって作製することができる。
【0283】
3-1.第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分の設計
IgG部分は、上記1.に記載の方法を用いてモノクローナル抗体を取得し、各抗体のCDRおよび可変領域のcDNA配列を上記2.に記載の方法を用いて決定し、抗体のCDRまたは可変領域を第一の抗原結合ドメインとして含むIgG部分を設計することにより得ることができる。
【0284】
3-2.第二の抗原結合ドメインの設計
第二の抗原結合ドメインに、抗体のCDRまたは可変領域が含まれる場合、上記1.および2.に記載の方法で、抗体のCDRまたは可変領域のDNA配列を決定し、それらを含む第二の抗原結合ドメインを設計することによって作製することができる。このような第二の抗原結合ドメインとしては、scFvなどのようにVHとVLを直接もしくは適当なリンカーを介して結合させた1本鎖のもの、FabおよびdsFvなどのように2本鎖で発現させ、発現後にS-S結合するよう設計したもの、またはVHHなども用いることができる。第二の抗原結合ドメインの抗原結合活性は、上記方法で評価し、抗原結合活性を保持しているものを選択することができる。
【0285】
4.バイスペシフィック抗体の作製
4-1.第二の抗原結合ドメインがFabであるバイスペシフィック抗体の作製
(1)第二の抗原結合ドメインがFabであり、IgG部分の重鎖C末端に該FabのVH-CH1が直接またはリンカーを介して結合した構造を有するバイスペシフィック抗体であって、第一の結合ドメインと第二の結合ドメインの軽鎖が共通であるバイスペシフィック抗体は、具体的に以下のように作製することができる。
IgG部分の重鎖と該FabのVH-CH1を連結したポリペプチドをコードするDNAを合成し、2.(2)に記載のCHを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、CHを切り出したうえで組み込む。また、VLをコードするDNAを合成し、2.(2)に記載のCLを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに組み込む。それぞれのベクターを2.(8)に記載の方法に従って発現させることで、当該バイスペシフィック抗体を作製することができる。
【0286】
(2)第二の抗原結合ドメインがFabであり、IgG部分の重鎖C末端に該FabのVL-CLが直接またはリンカーを介して結合した構造を有するバイスペシフィック抗体は、具体的に以下のように作製することができる。
FabのVL-CLとIgG部分の重鎖を連結したポリペプチドをコードするDNAおよびFabのVH-CH1をコードするDNAを合成し、2.(2)に記載のCHを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、CHを切り出したうえで組み込む。また、IgG部分のVLをコードするDNAを合成し、2.(2)に記載のCLを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに組み込む。それぞれのベクターを2.(8)に記載の方法に従って当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、当該バイスペシフィック抗体を作製することができる。
【0287】
4-2.第二の抗原結合ドメインがFab以外であるバイスペシフィック抗体
(1)第二の抗原結合ドメインがVHHであるバイスペシフィック抗体は、具体的には以下のように作製することができる。
VHHとIgG部分のVH-CH1を連結したポリペプチドをコードするDNAを合成し、2.(2)に記載のCHを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、CHを切り出したうえで組み込む。また、IgG部分のVLをコードするDNAを合成し、2.(2)に記載のCLを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに組み込む。それぞれのベクターを2.(8)に記載の方法に従って当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、当該バイスペシフィック抗体を作製することができる。
【0288】
(2)第二の抗原結合ドメインがscFv、dsFvまたはCDRを含む上記(1)(2)以外のポリペプチドであるバイスペシフィック抗体は、具体的には以下のように作製することができる。
第二の抗原結合ドメインが1本鎖の場合は、第二の抗原結合ドメインをコードするDNAとIgG部分の重鎖をコードするDNAとを連結したDNAを合成する。第二の抗原結合ドメインが2つの一本鎖ポリペプチドからなる会合体の場合は、第二の抗原結合ドメインを構成する一方の一本鎖ポリペプチドを、IgG部分の重鎖をコードするDNAと連結して合成するとともに、第二の抗原結合ドメインを構成するもう一方の本鎖ポリペプチドをコードするDNAも合成する。これらのDNAを2.(2)に記載のCHを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、CHを切り出したうえで組み込む。また、IgG部分のVLをコードするDNAも合成し、2.(2)に記載のCLを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに組み込む。それぞれのベクターを2.(8)に記載の方法に従って当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、当該バイスペシフィック抗体を作製することができる。
【0289】
(3)第二の抗原結合ドメインが上記以外であるバイスペシフィック抗体の作製
第二の抗原結合ドメインが上記以外のポリペプチドである場合、本発明のバイスペシフィック抗体は具体的には以下のように作製することができる。
第二の抗原結合ドメインが1本鎖の場合は、第二の抗原結合ドメインをコードするDNAとIgG部分の重鎖をコードするDNAとを連結したDNAを合成する。第二の抗原結合ドメインが2本以上の一本鎖ポリペプチドからなる会合体の場合は、第二の抗原結合ドメインを構成するうちの1本の一本鎖ポリペプチドを、IgG部分の重鎖をコードするDNAと連結して合成するとともに、第二の抗原結合ドメインを構成する他の会合するポリペプチドをコードするDNAも合成する。これらのDNAを2.(2)に記載のCHを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、CHを切り出したうえで組み込む。また、IgG部分のVLをコードするDNAも合成し、2.(2)に記載のCLを含む遺伝子組換え抗体発現用ベクターに組み込む。それぞれのベクターを2.(8)に記載の方法に従って当該バイスペシフィック抗体を発現させることで、当該バイスペシフィック抗体を作製することができる。
【0290】
また、上述のバイスペシフィック抗体において、リンカーを介して第二の抗原結合ドメインを結合させたバイスペシフィック抗体を作製する場合は、IgG部分のC末端にリンカーを連結したDNAを合成して、ポリペプチドを発現させることで、パイスぺシフィック抗体を作製することができる。
【0291】
抗原結合部位は、上記1.に記載のハイブリドーマを用いた方法の他、Phage Display法、Yeast display法などの技術により単離し、取得することが出来る[Emmanuelle Laffy et al., Human Antibodies 14, 33-55, (2005)]。
【0292】
また、複数のVHと単一のVLから成るバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を作製する場合には、バイスぺシフィック抗体に含まれる各抗原結合部位が各々の特異的抗原に反応するように、ファージディスプレイ法等を用いたスクリーニングを行い、単一のVLに最も適した各々のVHを選択する。
【0293】
具体的には、まず、上記1.に記載の方法を用いて、第1の抗原で動物を免疫してその脾臓からハイブリドーマを作製し、第1の抗原結合部位をコードするDNA配列をクローニングする。次に、第2の抗原で動物を免疫して、その脾臓からcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーからPCRによりVHのアミノ酸配列をコードするDNAを取得する。
【0294】
続いて、第2の抗原の免疫で得られたVHと第1の抗原結合部位のVLとを連結したscFvを発現するファージライブラリーを作製し、該ファージライブラリーを用いたパニングにより、第2の抗原に特異的に結合するscFvを提示したファージを選択する。選択したファージから、第2の抗原結合部位のVHのアミノ酸配列をコードするDNA配列をクローニングする。
【0295】
さらに、第二の抗原結合ドメインがFabの場合は、第1の抗原結合部位のVHと第2の抗原結合部位のVHとを上述のリンカーを介して連結したポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計し、該DNA配列と単一のVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列とを、例えば上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現用ベクターに挿入することにより、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の発現ベクターを構築することができる。
【0296】
4.本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価
精製したバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価は、以下のように行うことができる。
【0297】
CD40および/またはGPC3を発現した細胞株に対する本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の結合活性は、前述の1.(7)記載のバインディングアッセイ系を用いて測定することができる。
【0298】
CD40および/またはGPC3を発現した細胞に対するCDC活性、またはADCC活性は公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]により測定することができる。
【0299】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の細胞死誘導活性は次の方法で測定することができる。例えば、細胞を96穴プレートに播種し、抗体を添加して一定期間培養した後に、WST-8試薬(Dojindo社製)を反応させ、プレートリーダーにより450nmの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を測定する。
【0300】
5.本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の治療方法
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、CD40および/またはGPC3が関係する疾患、好ましくはCD40およびGPC3の発現細胞が関与する疾患の治療に用いることができる。CD40および/またはGPC3が関係する疾患としては、例えば、悪性腫瘍およびがんなどが挙げられる。
【0301】
悪性腫瘍およびがんとしては、例えば、大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、グリオーマ、悪性黒色腫(メラノーマ)、甲状腺がん、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆管がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部扁平上皮がん、皮膚がん、尿路がん、膀胱がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫およびウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【0302】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する治療薬は、有効成分としての該抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の方法により製造した医薬製剤として提供される。
【0303】
投与経路としては、例えば、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内若しくは静脈内などの非経口投与が挙げられる。投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏またはテープ剤などが挙げられる。各種製剤は、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、香味剤、および安定化剤などを用いて常法により製造することができる。
【0304】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット、結晶セルロース、滅菌水、エタノール、グリセロール、生理食塩水および緩衝液などが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウムおよび合成ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0305】
結合剤としては、例えば、メチルセルロースまたはその塩、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースおよびポリビニルピロリドンなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコールおよび硬化植物油などが挙げられる。
【0306】
安定化剤としては、例えば、アルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニンなどのアミノ酸、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、デキストラン40、メチルセルロース、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0307】
その他の添加剤としては、例えば、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硝酸ソーダおよびリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0308】
経口投与に適当な製剤としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などが挙げられる。
【0309】
乳剤またはシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール若しくは果糖などの糖類、ポリエチレングリコール若しくはプロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油若しくは大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、またはストロベリーフレーバー若しくはペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造される。
【0310】
カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖若しくはマンニトールなどの賦形剤、デンプン若しくはアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム若しくはタルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース若しくはゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、またはグリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造される。
【0311】
非経口投与に適当な製剤としては、例えば、注射剤、座剤または噴霧剤などが挙げられる。注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、またはその両者の混合物からなる担体などを用いて製造される。
【0312】
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて製造される。噴霧剤は、受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体などを用いて製造される。担体としては、例えば、乳糖またはグリセリンなどが挙げられる。また、エアロゾルまたはドライパウダーとして製造することもできる。さらに、上記非経口剤においても、経口投与に適当な製剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0313】
本発明のバイスぺシフィック抗体の有効量と適切な希釈剤および薬理学的に使用し得るキャリアとの組合せとして投与される有効量は、1回につき体重1kgあたり0.0001mg~100mgであり、2日から8週間間隔で投与される。
【0314】
6.本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の診断方法
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いて、CD40および/またはGPC3が発現した細胞を検出または測定することにより、CD40および/またはGPC3が関係する疾患、好ましくはCD40およびGPC3の発現細胞が関与する疾患を診断することができる。
【0315】
CD40および/またはGPC3が関係する疾患である悪性腫瘍またはがんの診断は、例えば、以下のようにCD40および/またはGPC3を検出または測定して行うことができる。
【0316】
まず、複数の健常者の生体から採取した生体試料について、本発明のバイスぺシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を用い、下記の免疫学的手法を用いて、CD40および/またはGPC3の検出または測定を行い、健常者の生体試料中のCD40および/またはGPC3の存在量を調べる。
【0317】
次に、被験者の生体試料中についても同様にCD40および/またはGPC3の存在量を調べ、その存在量を健常者の存在量と比較する。被験者のCD40および/またはGPC3の存在量が健常者と比較して増加している場合には、該被験者はがんであると診断される。その他のCD40および/またはGPC3が関係する疾患の診断についても、同様の方法で診断できる。
【0318】
免疫学的手法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。例えば、放射性物質標識免疫抗体法、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、ウェスタンブロット法または物理化学的手法などが挙げられる。
【0319】
放射性物質標識免疫抗体法としては、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を反応させ、さらに放射線標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する方法が挙げられる。
【0320】
酵素免疫測定法としては、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を反応させ、さらに標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、発色色素を吸光光度計で測定する方法が挙げられる。例えば、サンドイッチELISA法などが挙げられる。
【0321】
酵素免疫測定法で用いる標識体としては、公知の酵素標識[酵素免疫測定法、医学書院(1987)]を用いることができる。例えば、アルカリフォスファターゼ標識、ペルオキシダーゼ標識、ルシフェラーゼ標識、またはビオチン標識などを用いる。
【0322】
サンドイッチELISA法は、固相に抗体を結合させた後、検出または測定対象である抗原をトラップさせ、トラップされた抗原に第2の抗体を反応させる方法である。該ELISA法では、検出または測定したい抗原に結合する抗体または抗体断片であって、抗原結合部位の異なる2種類の抗体を準備し、そのうち、第1の抗体または抗体断片をあらかじめプレート(例えば、96穴プレート)に吸着させ、次に第2の抗体または抗体断片をFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素、またはビオチンなどで標識しておく。上記の抗体が吸着したプレートに、生体内から分離された細胞若しくはその破砕液、組織若しくはその破砕液、細胞培養上清、血清、胸水、腹水、または眼液などを反応させた後、標識した抗体または抗体断片を反応させ、標識物質に応じた検出反応を行う。濃度既知の抗原を段階的に希釈して作製した検量線より、被験サンプル中の抗原濃度を算出する。
【0323】
サンドイッチELISA法に用いる抗体としては、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれを用いてもよく、Fab、Fab’、またはF(ab)2などの抗体断片を用いてもよい。サンドイッチELISA法で用いる2種類の抗体の組み合わせとしては、異なるエピトープに結合するモノクローナル抗体または該抗体断片の組み合わせでもよいし、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体またはその抗体断片との組み合わせでもよい。
【0324】
蛍光免疫測定法としては、例えば、文献[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition,Academic Press(1996)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などに記載された方法で測定する。蛍光免疫測定法で用いる標識体としては、公知の蛍光標識[蛍光抗体法、ソフトサイエンス社(1983)]を用いることができる。例えば、FITCまたはRITCなどを用いる。
【0325】
発光免疫測定法としては、例えば、文献[生物発光と化学発光 臨床検査42、廣川書店(1998)]などに記載された方法で測定する。発光免疫測定法で用いる標識体としては、公知の発光体標識が挙げられ、例えば、アクリジニウムエステルまたはロフィンなどを用いる。
【0326】
ウェスタンブロット法としては、抗原または抗原を発現した細胞などをSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)-PAGE[Antibodies - A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]で分画した後、該ゲルをポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜またはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜に抗原に結合する抗体または抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素標識、またはビオチン標識などを施した抗IgG抗体またはその抗体断片を反応させた後、該標識を可視化することによって測定する。一例を以下に示す。
【0327】
まず、所望のアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現している細胞や組織を溶解し、還元条件下でレーンあたりのタンパク量として0.1~30μgをSDS-PAGE法により泳動する。次に、泳動されたタンパク質をPVDF膜にトランスファーし1~10%BSAを含むPBS(以下、BSA-PBSと表記する)に室温で30分間反応させブロッキング操作を行う。ここで本発明のバイスペシフィック抗体を反応させ、0.05~0.1%のTween-20を含むPBS(Tween-PBS)で洗浄し、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗マウスIgGを室温で2時間反応させる。Tween-PBSで洗浄し、ECL Western Blotting Detection Reagents(アマシャム社製)などを用いて該抗体が結合したバンドを検出することにより、抗原を検出する。ウェスタンブロッティングでの検出に用いられる抗体としては、天然型の立体構造を保持していないポリペプチドに結合できる抗体が用いられる。
【0328】
物理化学的手法としては、例えば、抗原であるCD40および/またはGPC3と本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片とを結合させることにより、凝集体を形成させて、該凝集体を検出する。この他に物理化学的手法として、毛細管法、一次元免疫拡散法、免疫比濁法またはラテックス免疫比濁法[臨床検査法提要、金原出版(1998)]などを用いることもできる。
【0329】
ラテックス免疫比濁法では、抗体または抗原を感作させた粒径0.1~1μm程度のポリスチレンラテックスなどの担体を用い、対応する抗原または抗体により抗原抗体反応を起こさせると、反応液中の散乱光は増加し、透過光は減少する。この変化を吸光度または積分球濁度として検出することにより、被験サンプル中の抗原濃度などを測定する。
【0330】
一方、CD40および/またはGPC3が発現している細胞の検出または測定には、公知の免疫学的検出法を用いることができるが、好ましくは免疫沈降法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法または蛍光抗体染色法などを用いる。
【0331】
免疫沈降法としては、CD40および/またはGPC3を発現した細胞などを本発明のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片と反応させた後、プロテインGセファロースなどのイムノグロブリンに特異的な結合能を有する担体を加えて、抗原抗体複合体を沈降させる。
【0332】
または、以下のような方法によっても行なうことができる。まず、ELISA用96穴プレートに本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片を固相化した後、BSA-PBSによりブロッキングする。次に、BSA-PBSを捨てPBSでよく洗浄した後、CD40および/またはGPC3を発現している細胞や組織の溶解液を反応させる。よく洗浄した後のプレートより、免疫沈降物をSDS-PAGE用サンプルバッファーで抽出し、上記のウェスタンブロッティングにより検出する。
【0333】
免疫細胞染色法または免疫組織染色法とは、抗原を発現した細胞または組織などを、場合によっては抗体の透過性を良くするために界面活性剤やメタノールなどで処理した後、本発明のバイスぺシフィック抗体と反応させ、さらにFITCなどの蛍光標識、ペルオキシダーゼなどの酵素標識またはビオチン標識などを施した抗イムノグロブリン抗体またはその結合断片と反応させた後、該標識を可視化し、顕微鏡にて顕鏡する方法である。また、蛍光標識の抗体と細胞を反応させ、フロ―サイトメーターにて解析する蛍光抗体染色法[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition,Academic Press (1996)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]により検出を行うことができる。特に、本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片は、蛍光抗体染色法により、細胞膜上に発現しているCD40および/またはGPC3を検出することができる。
【0334】
また、蛍光抗体染色法のうち、FMAT8100HTSシステム(アプライドバイオシステム社製)などを用いた場合には、形成された抗体-抗原複合体と、抗体-抗原複合体の形成に関与していない遊離の抗体または抗原とを分離することなく、抗原量または抗体量を測定することができる。
【実施例】
【0335】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0336】
[実施例1]可溶性ヒトおよびサルCD40抗原の取得
1.ヒトCD40およびサルCD40の可溶性抗原の調製
C末端にFLAG-Fcが付加されたヒトおよびサルCD40の細胞外ドメインタンパク質をそれぞれ以下に記載する方法で作製した。ヒトCD40細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号1に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号2に、サルCD40細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号3に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0337】
(1)ヒトおよびサルCD40-FLAG-Fcベクターの作製
ヒトCD40遺伝子の塩基配列(Genbank Accession Number:NM_001250、配列番号5;該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号6に示す)を基に配列番号1で示される塩基配列からなるヒトCD40の細胞外ドメインの遺伝子断片を作製した。
【0338】
FLAG-tagおよびヒトIgGのFc領域を含むINPEP4ベクター(Biogen-IDEC社製)を制限酵素KpnIおよびXbaIで消化し、配列番号1で示される塩基配列の1~60番目の塩基配列からなるヒトCD40シグナル配列コード領域を加えた該細胞外ドメインの遺伝子断片を適切な部位に挿入して、ヒトCD40-FLAG-Fc発現ベクターを作製した。
【0339】
同様の方法で、サル末梢血単核球(PBMC)からクローニングしたサルCD40遺伝子の塩基配列(配列番号7;該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号8に示す)を基に、配列番号3で示される塩基配列からなるサルCD40の細胞外ドメインの遺伝子断片を含むサルCD40-FLAG-Fc発現ベクターを作製した。
【0340】
(2)ヒトおよびサルCD40-FLAG-Fcタンパク質の作製
FreeStyle(商標) 293 Expression System(Thermo Fisher社製)を用いて、1.(1)で作製したヒトCD40-FLAG-Fc発現ベクターをHEK293細胞に導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。ベクター導入5日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE社製)で濾過した。
【0341】
この培養上清をProtein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いてアフィニティー精製を行った。プロテインAに吸着させた抗体を、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水[D-PBS(-) without Ca and Mg,liquid;以下D-PBS(-)と記載する。ナカライテスク社製]にて洗浄し、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.4)により溶出して、1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。
【0342】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、D-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、ヒトCD40-FLAG-Fcタンパク質を作製した。同様の方法で、1.(1)で作製したサルCD40-FLAG-Fc発現ベクターを用い、サルCD40-FLAG-Fcタンパク質を作製した。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0343】
(3)ヒトおよびサルCD40-GSTベクターの作製
GST領域を含むN5ベクター(Biogen-IDEC社製)を制限酵素BglIIおよびKpnIで消化して、1.(1)記載の配列番号1で示される塩基配列からなるヒトCD40の細胞外ドメインの遺伝子断片を適切な部位に挿入し、ヒトCD40-GST発現ベクターを作製した。同様の方法で、配列番号3で示される塩基配列からなる細胞外ドメインの遺伝子断片を含むサルCD40-GST発現ベクターを作製した。
【0344】
(4)ヒトおよびサルCD40-GSTタンパク質の作製
1.(3)で作製したヒトCD40-GSTベクターを、1.(2)と同様の方法でHEK293細胞に導入し、該細胞を培養後、培養上清をメンブランフィルターでろ過した。この培養上清をGlutathione Sepharose 4B(GEヘルスケア社製)に反応させ、D-PBS(-)で洗浄して、溶出緩衝液として10mM Glutathione in 50mM Tris-HCI(pH8.0)を用いてアフィニティー精製した。
【0345】
溶出された融合タンパク溶液に対し1.(2)と同様の方法で限外ろ過およびメンブランフィルターによるろ過滅菌を行い、ヒトCD40-GSTタンパク質を得た。また、サルCD40-GSTベクターを用い、同様の方法でサルCD40-GSTタンパク質を得た。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0346】
[実施例2]抗CD40抗体の取得
1.CD40免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーの作製
ヒト抗体産生マウス[Ishida & Lonberg, IBC’s 11th Antibody Engineering, Abstract 2000; Ishida, I. et al., Cloning & Stem Cells 4, 85-96 (2002)および石田 功(2002)実験医学20,6,846-851]に、免疫原として、実施例1で作製したヒトCD40-FLAG-Fcを計4回腹腔内投与した。初回免疫時のみ、アジュバントとしてAlumゲル(2mg/匹)および百日咳菌ワクチン(1×109個/匹)を添加した。
【0347】
初回免疫から2週間後に2回目免疫、その1週間後に3回目免疫、3回目免疫から10日後に最終免疫を行い、最終免疫から4日後に解剖して脾臓を外科的に摘出した。摘出した脾臓をセルストレイナー(ファルコン社製)上に乗せてシリコン棒で軽く潰しながら細胞をチューブへ移し、遠心分離して細胞を沈殿させた後、赤血球除去試薬(シグマアルドリッチ社製)と氷中で3分間反応させ、更に遠心分離を行った。
【0348】
得られた脾臓細胞からRNeasy Mini kit(QIAGEN社製)を用いてRNAを抽出し、SMARTer RACE cDNA増幅キット(Clontech社製)にてcDNAを増幅し、さらにPCRにてVH遺伝子断片を増幅させた。該VH遺伝子断片およびヒトの抗体germ-line配列であり、L6のアミノ酸配列(VL)をコードする配列番号9で示される塩基配列を含むVL遺伝子とともにファージミドpCANTAB 5E(Amersham Pharmacia社製)に挿入し、大腸菌TG1(Lucigen社製)を形質転換してプラスミドを得た。
【0349】
なお、L6配列は配列番号10で示されるアミノ酸配列からなる、ヒト抗体の軽鎖可変領域(VL)をコードしており、該VLのCDR1、2および3(それぞれLCDR1、2および3とも表す)のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号11、12および13で示される。
【0350】
得られたプラスミドをVCSM13 Interference Resistant Helper Phage(Agilent Technologies社製)に感染させることで、L6配列からなるVL遺伝子を有し、VH遺伝子がライブラリー化されたCD40免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを得た。
【0351】
2.抗CD40モノクローナル抗体の取得
このCD40免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを用いて、下記のファージディスプレイ法により、L6のアミノ酸配列を含むVLを有する抗CD40モノクローナル抗体を取得した。実施例1で取得したヒトCD40-GSTを固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてヒトCD40-GSTが結合していない部位をブロックしたMAXISORP STARTUBE(NUNC社製)と、ヒト抗体M13ファージライブラリーを室温下で1~2時間反応させ、D-PBS(-)および0.1% Tween20含有PBS(以下PBS-Tと記載する。和光純薬工業社製)でそれぞれ3回洗浄後に0.1MのGly-HCl(pH2.2)でファージを溶出した。
【0352】
溶出したファージは、TG1コンピテントセルに感染させ、ファージを増幅し、再度MAXISORP STARTUBEに固相化したヒトCD40-GSTと反応させて、D-PBS(-)およびPBS-Tでそれぞれ5回洗浄後に0.1MのGly-HCl(pH2.2)によるファージの溶出を行った。
【0353】
この操作を2回または3回繰り返し、ヒトCD40に特異的に結合するscFvを提示したファージを濃縮した。濃縮されたファージをTG1に感染させ、SOBAGプレート(2.0% トリプトン、0.5% Yeast extract、0.05% NaCl、2.0% グルコース、10mM MgCl2、100μg/mL アンピシリン、1.5% アガー)に播種してコロニーを形成させた。
【0354】
コロニーを植菌して培養後、VCSM13 Interference Resistant Helper Phageを感染させて、再度培養することで単クローンのファージを得た。得られた単クローンのファージを用いて、ELISAにてヒトおよびサルCD40-GSTのいずれにも結合するクローンを選択した。
【0355】
ELISAには、実施例1のヒトまたはサルCD40-GSTを各ウェルに固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてヒトまたはサルCD40-GSTが結合していない部位をブロックしたMAXISORP(NUNC社製)を用いた。各ウェルに各々のファージクローンを加え、室温下で30分間反応させた後、各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。
【0356】
次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された抗M13抗体(GEヘルスケア社製)を10%ブロックエース(大日本製薬株式会社製)含有PBS-Tで5000倍に希釈し、各ウェルに50μLずつ加え、室温下30分間インキュベートした。マイクロプレートを、PBS-Tで4回洗浄後、TMB発色基質液(DAKO社製)を各ウェルに50μLずつ加え、室温下で10分間インキュベートした。各ウェルに2N HCl溶液(50μL/well)を加えて発色反応を止め、波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をプレートリーダー(Emax;Molecular Devices社)で測定した。
【0357】
ヒトおよびサルCD40のいずれにも結合したクローンについて、配列解析を行い、L6配列からなるVLを有する抗CD40抗体R1090S55Aを取得した。表1に、取得したCD40抗体のVHをコードする全塩基配列および当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列、ならびにVHのCDR1~3(以下ではHCDR1~3と記載することもある)のアミノ酸配列を示す。
【0358】
【0359】
取得した抗CD40抗体R1090S55Aの遺伝子が組み込まれた可溶性IgGの発現ベクターをそれぞれ作製した。まずR1090S55AのVLをコードするL6遺伝子をN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)のBglII-BsiWIサイトにサブクローニングした。
【0360】
その後R1090S55AのVH遺伝子をN5KG4PE R409KベクターのSalI-NheIサイトへサブクローニングして、ヒトIgG4PE R409Kの定常領域をもつ抗CD40モノクローナル抗体R1090S55Aの発現ベクターであるN5KG4PE R409K_R1090S55Aを得た。
【0361】
また、国際公開第2003/040170号に記載された抗CD40モノクローナル抗体21.4.1(以下、CP-870,893とも記載する)を抗CD40抗体の陽性コントロール抗体として作製するため、発現ベクターを作製した。21.4.1のVHの塩基配列を配列番号19に、該配列から推定されたVHのアミノ酸配列を配列番号20に、それぞれ示す。また、21.4.1のVLの塩基配列を配列番号21、該配列から推定されたVLのアミノ酸配列を配列番号22にそれぞれ示す。
【0362】
21.4.1のVHおよびVLをコードする遺伝子を合成し、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)のSalI-NheIおよびBglII-BsiWIサイトにそれぞれサブクローニングして、ヒトIgG2の定常領域をもつ抗CD40モノクローナル抗体21.4.1の発現ベクターN5KG2_21.4.1を得た。
【0363】
[実施例3]可溶性ヒトおよびマウスGPC3抗原の調製
ヒトあるいはマウスのGPC3タンパク質のC末端にヒト、マウスまたはウサギIgGのFc領域あるいはGSTが付加された可溶型GPC3タンパク質を以下に記載する方法で作製した。
【0364】
(1)ヒトおよびマウスGPC3-マウスFcベクターの作製
ヒトGPC3遺伝子の塩基配列(Genbank Accession Number:NM_004484)からヒトGPC3全長のアミノ酸配列を取得し、哺乳類細胞での発現に最適なコドンに変換を行い、ヒトGPC3全長をコードする塩基配列を得た。GPC3全長をコードする塩基配列を鋳型としてpolymerase chain reaction(PCR)により可溶型ヒトGPC3のDNA断片を得た。また、マウスIgGをコードするベクターを鋳型としてPCRを行い、マウスFc(以下、mFcとも記載する)のDNA断片を得た。pCIベクター(Promega社製)に、Infusion-HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて、シグナル配列を含む可溶型ヒトGPC3のC末端にmFcが連結された塩基配列(配列番号23)を挿入し、ヒトGPC3-mFcの発現ベクターを得た。ヒトGPC3-mFcの塩基配列から推定されるアミノ酸配列のうち、シグナル配列を含まないアミノ酸配列を、配列番号24に示す。
【0365】
同様の方法で、マウスGPC3遺伝子の塩基配列(Genbank Accession Number:NM_016697)を用いて、シグナル配列を含むマウスGPC3-mFcの塩基配列(配列番号25)が挿入されたマウスGPC3-mFcベクターを作製した。マウスGPC3-mFcの塩基配列から推定されるアミノ酸配列のうち、シグナル配列を含まないアミノ酸配列を、配列番号26に示す。
【0366】
(2)ヒトおよびマウスGPC3-マウスFcタンパク質の作製
Expi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)を用いて、(1)で作製したヒトGPC3-mFc発現ベクターをExpi293F細胞に導入して培養し、一過性にタンパク質を発現させた。ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE社製)で濾過した。
【0367】
この培養上清をProtein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いてアフィニティー精製を行った。プロテインAに吸着させた抗体をD-PBS(-)にて洗浄し、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.4)により溶出して、1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。
【0368】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、溶出液をD-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、ヒトGPC3-mFcタンパク質を作製した。
【0369】
同様の方法で、1.(1)で作製したマウスGPC3-mFc発現ベクターを用い、マウスGPC3-mFcタンパク質を作製した。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0370】
(3)ヒトおよびマウスGPC3-ウサギFcベクターの作製
(1)と同様の方法で、可溶型ヒトGPC3のDNA断片を得た。また、ウサギIgGをコードするベクターを鋳型としてPCRを行い、ウサギFc(以下、rFcとも記載する)のDNA断片を得た。pCIベクター(Promega社製)に、Infusion-HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて、シグナル配列を含む可溶型ヒトGPC3のC末端にrFcが連結された塩基配列(配列番号27)を挿入し、ヒトGPC3-rFcの発現ベクターを得た。ヒトGPC3-rFcの塩基配列から推定されるアミノ酸配列のうち、シグナル配列を含まないアミノ酸配列を、配列番号28に示す。
【0371】
同様の方法でシグナル配列を含むマウスGPC3-rFcの塩基配列(配列番号29)が挿入されたマウスGPC3-rFcベクターを作製した。マウスGPC3-rFcの塩基配列から推定されるアミノ酸配列のうち、シグナル配列を含まないアミノ酸配列を、配列番号30に示す。
【0372】
(4)ヒトおよびマウスGPC3-ウサギFcタンパク質の作製
Expi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)を用いて、(3)で作製したヒトGPC3-rFc発現ベクターをExpi293F細胞に導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE社製)で濾過した。
【0373】
この培養上清をProtein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いてアフィニティー精製を行った。プロテインAに吸着させた抗体をD-PBS(-)にて洗浄し、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.4)により溶出して、1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。
【0374】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、溶出液をD-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、ヒトGPC3-rFcタンパク質を作製した。
【0375】
同様の方法で、(3)で作製したマウスGPC3-rFc発現ベクターを用い、マウスGPC3-rFcタンパク質を作製した。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0376】
(5)ヒトGPC3-GSTベクターの作製
ヒトGPC3遺伝子の塩基配列(Genbank Accession Number:NM_001164618)からGPIアンカー付加配列およびシグナル配列を除去し、配列番号31に示す可溶型ヒトGPC3アミノ酸配列を得た。配列番号31に記載の可溶型ヒトGPC3アミノ酸配列のC末端にGSTアミノ酸配列を付加し、配列番号33に記載のヒトGPC3-GSTアミノ酸配列を作成した。ヒトGPC3-GSTのアミノ酸配列を基に哺乳類細胞での発現に最適なコドンに変換を行い、配列番号32に記載のヒトGPC3-GSTの塩基配列を得た。ヒトGPC3-GSTの塩基配列全長を合成し、シグナル配列を含むpCIベクター(Promega社製)の適切な部位に挿入し、ヒトGPC3-GST発現ベクターを作製した。
【0377】
(6)ヒトGPC3-GSTタンパク質の作製
Expi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)を用いて、(5)で作製したヒトGPC3-GST発現ベクターをExpi293F細胞に導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE社製)で濾過した。
【0378】
この培養上清をGlutathione樹脂(Glutathione Sepharose 4B、GEヘルスケア社製)を用いてアフィニティー精製を行った。Glutathioneに吸着させた抗体を、D-PBS(-)にて洗浄し、50mM Tris-HCl、10mM reduced glutathione(pH.8.0)により溶出した。
【0379】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、溶出液をD-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、ヒトGPC3-GSTタンパク質を作製した。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0380】
(7)ヒトおよびマウスGPC3のヘパラン硫酸付加部位変異体の作製
配列番号31に記載された可溶型ヒトGPC3アミノ酸配列をもとに、ヘパラン硫酸の付加サイトとして知られている495番目のセリンおよび509番目のセリンをアラニンに置換することで、ヘパラン硫酸が付加しない可溶型ヒトGPC3(ヒトGPC3-AA)のアミノ酸配列を得た。ヒトGPC3-AAのアミノ酸配列を基に、哺乳類細胞での発現に最適なコドンに変換を行い、ヒトGPC3-AAの塩基配列を得た。
【0381】
ヒトGPC3-AAの塩基配列全長を合成し、シグナル配列およびFlagタグおよびヒトFc(以下、hFcと記載)を含むpCIベクター(Promega社製)の適切な制限酵素サイトに挿入することで、ヒトGPC3-AA-Flag-hFc(シグナル配列を含む塩基配列を配列番号34に記載)の発現ベクターを作製した。塩基配列から推定されるヒトGPC3-AA-Flag-hFcのアミノ酸配列のうち、シグナル配列を含まないアミノ酸配列を、配列番号35に示す。
【0382】
同様に、マウスGPC3遺伝子の塩基配列(Genbank Accession Number:NM_0016697)からGPIアンカー付加配列およびシグナル配列を除去し、配列番号36に示す可溶型マウスGPC3アミノ酸配列を得た。配列番号36に記載された可溶型マウスGPC3アミノ酸配列をもとに、ヘパラン硫酸の付加サイトとして知られている494番目のセリンおよび508番目のセリンをアラニンに置換することで、ヘパラン硫酸が付加しない可溶型マウスGPC3(マウスGPC3-AA)のアミノ酸配列を得た。
【0383】
マウスGPC3-AAのアミノ酸配列を基に、哺乳類細胞での発現に最適なコドンに変換を行い、マウスGPC3-AAの塩基配列を得た。マウスGPC3-AAの塩基配列全長を合成し、シグナル配列およびFlagタグおよびhFcを含むpCIベクター(Promega社製)の適切な制限酵素サイトに挿入することで、マウスGPC3-AA-Flag-hFc(シグナル配列を含む塩基配列を配列番号37に記載)を有する発現ベクターを作製した。マウスGPC3-AA-Flag-hFcの塩基配列から推定されるアミノ酸配列のうち、シグナル配列を含まないアミノ酸配列を配列番号38に示した。
【0384】
(8)ビオチン化ヒトGPC3-hFcおよびビオチン化マウスGPC3-hFcの作製
ヒトGPC3-FcおよびマウスGPC3-Fc(Acro Biosystems社製)をEZ-Link Sulfo-HNS-LC-Biotin, No-Weight Format(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてビオチン化を行い、ビオチン化ヒトGPC3-Fcおよびビオチン化マウスGPC3-Fcを得た。
【0385】
(9)ヒトGPC3全長の発現ベクター作製
(1)で得たヒトGPC3全長をコードする塩基配列を合成し、得られた塩基配列断片(配列番号39)をpEF6ベクター(Thermo Fisher Scientific社製)の適切な制限酵素サイトに連結することで、ヒトGPC3発現ベクターpEF6-MycHisC-hGPC3(1-580)を得た。
【0386】
[実施例4]抗GPC3抗体の取得
ヒトナイーブ抗体M13ファージライブラリーの作製
ヒトPBMC由来のcDNAから、PCRにてVH遺伝子断片を増幅させた。該VH遺伝子断片およびヒトの抗体germ-line配列であり、配列番号9で示される塩基配列からなるL6の塩基配列を含むVL遺伝子断片をファージミドpCANTAB 5E(Amersham Pharmacia社製)のタグ配列をFLAG-Hisタグおよびトリプシン認識配列に変更したベクターに挿入し、大腸菌TG1(Lucigen社製)を形質転換してプラスミドを得た。
【0387】
なお、L6は、配列番号10で示されるアミノ酸配列を含むヒト抗体の軽鎖可変領域(VL)であり、該VLのCDR1、2および3(それぞれLCDR1、2および3とも表す)のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号11、12、および13で示される。
【0388】
得られたプラスミドをVCSM13 Interference Resistant Helper Phage(Agilent Technologies社製)に感染させることで、L6のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むVL遺伝子を有し、VH遺伝子がライブラリー化されたヒトナイーブ抗体M13ファージライブラリーを得た。
【0389】
GPC3免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーの作製
ヒト抗体産生マウス[Ishida & Lonberg, IBC’s 11th Antibody Engineering, Abstract 2000; Ishida, I. et al., Cloning & Stem Cells 4, 85-96 (2002)および石田 功(2002)実験医学20,6,846-851]に、免疫原として、実施例3で作製したヒトGPC3-GST、ヒトGPC3-mFc、マウスGPC3-mFc、ヒトGPC3-rFc、マウスGPC3-rFc、ヒトGPC3-Fc(Acro Biosystems社製)、またはマウスGPC3-Fc(Acro Biosystems社製)を20μg/匹または50μg/匹で計4回投与した。初回免疫時のみ、アジュバントとしてAlumゲル(0.25mg/匹あるいは2mg/匹)および不活性化百日咳菌懸濁液(ナカライテスク社製)(1×109個/匹)を添加した。
【0390】
初回免疫から2週間後に2回目免疫、その1週間後に3回目免疫、3回目免疫から2週間後に最終免疫を行い、最終免疫から4日後に解剖してリンパ節あるいは脾臓を外科的に摘出した。摘出したリンパ節あるいは脾臓をホモジナイズした後、セルストレイナー(ファルコン社製)を通して細胞をチューブへ移し、遠心分離して細胞を沈殿させた。得られた脾臓細胞は、赤血球除去試薬(シグマアルドリッチ社製)と混和し、37℃の湯浴で1分間反応させた後、DMEM培地(シグマアルドリッチ社製)で希釈を行った後、更に遠心分離を行った。
【0391】
得られたリンパ節細胞あるいは脾臓細胞からRNeasy Mini Plus kit(QIAGEN社製)を用いてRNAを抽出し、SMARTer RACE cDNA増幅キット(Clontech社製)にてcDNAを増幅し、さらにPCRにてVH遺伝子断片を増幅させた。該VH遺伝子断片およびヒトの抗体germ-line配列であり、配列番号9で示される塩基配列からなるL6配列を含むVL遺伝子断片をファージミドpCANTAB 5E(Amersham Pharmacia社製)のタグ配列をFLAG-Hisタグおよびトリプシン認識配列に変更したベクターに挿入し、大腸菌TG1(Lucigen社製)を形質転換してプラスミドを得た。
【0392】
得られたプラスミドをVCSM13 Interference Resistant Helper Phage(Agilent Technologies社製)に感染させることで、L6配列からなるVL遺伝子を有し、VH遺伝子がライブラリー化されたGPC3免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを得た。
【0393】
3.抗GPC3モノクローナル抗体の取得
ヒトナイーブ抗体M13ファージライブラリー、GPC3免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを用いて、下記のファージディスプレイ法により、L6のアミノ酸配列を含むVLを有する抗GPC3モノクローナル抗体を取得した。次に、MAXISORP STARTUBE(NUNC社製)に、ストレプトアビジン(Thermo Fisher社製)を固相化し、SuperBlock Blocking Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてブロッキングした後、実施例3で作製したビオチン化ヒトGPC3-Fc、またはビオチン化マウスGPC3-Fcを結合させた。
【0394】
MAXISORP STARTUBE(NUNC社製)に、実施例3で作製したヒトGPC3-AA-FLAG-hFc、またはマウスGPC3-AA-FLAG-hFcを固相化し、SuperBlock Blocking Bufferを用いてブロッキングした。これらのMAXISORP STARTUBEと、ヒトナイーブ抗体M13ファージライブラリー、またはGPC3免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを室温下で1~2時間反応させ、D-PBS(-)および0.1% Tween20含有PBS(以下PBS-Tと記載する。和光純薬工業社製)で洗浄後に0.25%トリプシン(ナカライテスク社製)でファージを溶出した。溶出したファージは、TG1コンピテントセルに感染させ、ファージを増幅した。
【0395】
その後、再度MAXISORP STARTUBEに固相化したビオチン化ヒトGPC3-Fc、ビオチン化マウスGPC3-Fc、ヒトGPC3-AA-FLAG-hFc、またはマウスGPC3-AA-FLAG-hFcと反応させて、洗浄および溶出を実施した。この操作を繰り返し、ヒトGPC3およびマウスGPC3に特異的に結合する抗体分子を提示したファージを濃縮した。
【0396】
濃縮されたファージをTG1に感染させ、SOBAGプレート(2.0% トリプトン、0.5% Yeast extract、0.05% NaCl、2.0% グルコース、10mM MgCl2、100μg/mL アンピシリン、1.5% アガー)に播種してコロニーを形成させた。
【0397】
コロニーを植菌して数時間培養後、1mM IPTG(ナカライテスク社製)を添加し、再度培養することで単クローンの大腸菌培養上清を得た。得られた単クローンの大腸菌培養上清を用いて、ELISAにてヒトGPC3およびマウスGPC3に結合するクローンを選択した。
【0398】
ELISAには、ストレプトアビジン(Thermo Fisher社製)を固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてブロッキングした後、実施例3で作製したビオチン化ヒトGPC3-Fc、あるいはビオチン化マウスGPC3-Fcを結合させたMAXISORP(NUNC社製)を用いた。各ウェルに各々の培養上清および抗FLAG抗体(シグマアルドリッチ社製)を加え、室温下で60分間反応させた後、各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。
【0399】
次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された抗マウス抗体(アブカム社製)を10%ブロックエース(大日本製薬株式会社製)含有PBS-Tで1000倍に希釈し、各ウェルに50μLずつ加え、室温下30分間インキュベートした。マイクロプレートを、PBS-Tで3回洗浄後、TMB発色基質液(DAKO社製)を各ウェルに50μLずつ加え、室温下で10分間インキュベートした。各ウェルに2N HCl溶液(50μL/well)を加えて発色反応を止め、波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をプレートリーダー(EnSpire:パーキン・エルマー社製)で測定した。
【0400】
ヒトGPC3およびマウスGPC3に結合したクローンについて、配列解析を行い、L6のアミノ酸配列を含むVLを有する抗GPC3抗体を取得した。
【0401】
また、上記の濃縮されたファージをTG1に感染させることにより取得した大腸菌から調製したDNAを用いて、Ion PGM(商標)システム(Thermo Fisher Scientific社製)で配列解析を行い、濃縮されている抗体配列を選択した。選択した抗体をコードする塩基配列およびL6の塩基配列について人工合成し、J Virol Methods. (2009) 158(1-2): 171-179に記載の方法に準ずる手順で抗体発現カセットを作製した。本カセットを用いて、Expi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)によりExpi293F細胞に遺伝子導入を行い、取得した抗体一過性発現細胞培養上清を用いて、以下の手順に従いEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)によりヒトGPC3およびマウスGPC3に対する結合性を評価した。
【0402】
ヒトGPC3-His(AcroBiosystems社製)を2μg/mLの濃度でD-PBS(-)に希釈し、100μL/wellでNi-NTA HisSorb Plates(QIAGEN社製)に分注し、1時間室温で静置した。200μL/wellのD-PBS(-)で3回ウェルを洗浄後、1%(w/v)BSA-PBS(-) pH7.0(ナカライテスク社製;以下、BSA-PBSと記載)に0.0001、0.001、0.01、0.1、1、10μg/mLとなるよう希釈したGPC3抗体をそれぞれ100μL/wellでウェルに添加した。
【0403】
1時間室温で静置した後、200μL/wellのPBS-Tで3回洗浄し、2次抗体としてPeroxidase AffiniPure Goat Anti-Human IgG,Fcγ Fragment specific(Jackson ImmunoReseach社製)を1%(w/v)BSA-PBS(-) pH7.0(ナカライテスク社製;以下、BSA-PBSと記載)に1000倍希釈した溶液を100μL/well添加して1時間静置した。200μL/wellのPBS-Tで3回ウェルを洗浄後、200μL/wellのD-PBS(-)で2回洗浄し、substrate reagent pack(R&D systems社製)のA液とB液を等量混合したものを50μL/well添加して5分間静置した。Stop solution(R&D systems社製)を50μL/well添加して反応を停止させ、EPOCH2 microplate reader(Biotek社製)を用いて450nmおよび570nmの吸光度を測定し、450nmの吸光度から570nmの吸光度を引いた値を計算した。
【0404】
表2に、取得したそれぞれのGPC3抗体のVHをコードする全塩基配列および当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列、ならびにVHのCDR1~3(以下ではHCDR1~3と記載することもある)のアミノ酸配列を示す。
【0405】
【0406】
4.抗GPC3抗体の発現ベクターの作製
表2に示す抗GPC3抗体の遺伝子が組み込まれたIgGの発現ベクターをそれぞれ作製した。実施例2で取得した抗CD40抗体R1090S55Aと、表2に記載の抗GPC3抗体クローンとの共通のVL(L6)のアミノ酸配列(配列番号10)をコードする塩基配列(配列番号9)を、人工合成してシグナル配列を含むpCIベクター(Promega社製)の適切な制限酵素サイトに連結することで、L6のVLを有する軽鎖発現ベクターを得た。L6をVLとして含む軽鎖をコードする塩基配列を配列番号75に、当該配列から推定される軽鎖のアミノ酸配列を配列番号76に記載した。
【0407】
次に、表2に記載した抗GPC3抗体のVHの塩基配列をPCRで増幅し、配列番号77に記載のヒトIgG4PE R409Kの重鎖定常領域(以下、CHとも記載する)からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含むpCIベクター(Promega社製)に適切な制限酵素サイトを用いて挿入することで、抗GPC3抗体の重鎖発現ベクターを得た。表3に、取得したそれぞれの抗GPC3抗体のVHを含むモノクローナル抗体の塩基配列および当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列の配列番号を記す。
【0408】
【0409】
5.抗GPC3抗体の調製
4.で作製した抗GPC3抗体の発現ベクターを、以下の方法で発現させ、精製した。
抗GPC3抗体の重鎖発現ベクターおよび軽鎖発現ベクターをExpi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)によりExpi293F細胞に共遺伝子導入し、16時間後にTransfection Enhancerを添加して、一過性発現系で抗体を発現させた。
【0410】
ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE社製)で濾過した後、Protein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いて抗体をアフィニティー精製した。洗浄液としてD-PBS(-)を用いた。Protein Aに吸着させた抗体を、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.0)により溶出し、200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。
【0411】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、D-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、バイスペシフィック抗体を作製した。抗体溶液の波長280nmの吸光度を測定し、各抗体のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて、精製抗体の濃度を算出した。
【0412】
抗CD40モノクローナル抗体R1090S55AおよびCP-870,893についても同様の方法で調製した。
【0413】
[実施例5]CD40およびGPC3に結合するバイスぺシフィック抗体の発現ベクターの構築
図1に記載する構造を有する、ヒトおよびサルCD40の少なくとも一方ならびにヒト、サルおよびマウスGPC3の少なくともいずれか1つに結合するバイスペシフィック抗体を以下の方法で作製した。バイスペシフィック抗体の形状には国際公開第2009/131239号に記載の形状を採用した。
【0414】
当該バイスペシフィック抗体は、第一の抗原結合ドメインを含むIgG部分の重鎖C末端のそれぞれに、第二の抗原結合ドメインが直接結合した構造を有しており、該第二の抗原結合ドメインはFabである。
図1のVH1およびVH2は抗CD40抗体のVHまたは抗GPC3抗体のVHのいずれかであり、片方が抗CD40抗体のVH、もう一方が抗GPC3抗体のVHである。
【0415】
また、
図1のVH1が抗CD40抗体のVHであり、VH2が抗GPC3抗体のVHであるバイスペシフィック抗体を、CD40-GPC3バイスペシフィック抗体とも言う。同様に、
図1のVH1が抗GPC3抗体のVHであり、VH2が抗CD40抗体のVHであるバイスペシフィック抗体を、GPC3-CD40バイスペシフィック抗体とも言う。
【0416】
本バイスペシフィック抗体はIgG部分の重鎖定常領域として、IgG4PE R409KのCHからなるポリペプチド(塩基配列を配列番号92、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号77で示す)を有する。また、該FabのCH1としてIgG4のCH1(塩基配列を配列番号93、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号94で示す)を有する。また、以下の工程で作製されるバイスペシフィック抗体は、L6のアミノ酸配列を含むVLを含む軽鎖を有する。
【0417】
当該バイスペシフィック抗体の名称、当該抗体作製に使用した抗CD40抗体のクローン(VH1)および抗GPC3抗体のクローン(VH2)を表4に示す。
【0418】
【0419】
1.バイスペシフィック抗体の発現ベクターの作製
表4に記載されたバイスペシフィック抗体の、IgG部分の重鎖とFabのVH-VLを結合させたアミノ酸配列(バイスペシフィック抗体の重鎖ともいう)の発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0420】
配列番号15に記載の抗CD40抗体R1090S55AのVHのアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号14)、配列番号77に記載のIgG4PE R409KのCHからなるポリペプチドのアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号92)、および配列番号94に記載のIgG4のCH1をコードする塩基配列(配列番号93)を含むpCIベクター(Promega社製)の適切な制限酵素サイトに、PCRで増幅した表2に記載の抗GPC3抗体のVHをコードする塩基配列断片を挿入し、重鎖発現ベクターを得た。表5に、取得したそれぞれの抗GPC3抗体のVHを含むCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の重鎖をコードする塩基配列および当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を示す。
【0421】
【0422】
2.バイスペシフィック抗体の調製
1で作製したバイスペシフィック抗体の発現ベクターを、以下の方法でそれぞれ発現させ、精製した。
【0423】
CD40-GPC3バイスペシフィック抗体の重鎖発現ベクターおよび実施例4の4で作製したL6のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む軽鎖発現ベクターをExpi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)によりExpi293F細胞に共遺伝子導入し、16時間後にTransfection Enhancerを添加して、一過性発現系で抗体を発現させた。
【0424】
ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE製)で濾過した後、Protein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いて抗体をアフィニティー精製した。洗浄液としてD-PBS(-)を用いた。Protein Aに吸着させた抗体を、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.0)により溶出し、200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。
【0425】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、D-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、CD40-GPC3バイスペシフィック抗体を作製した。抗体溶液の波長280nmの吸光度を測定し、各抗体のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて、精製抗体の濃度を算出した。
【0426】
[実施例6]CD40-GPC3バイスペシフィック抗体のELISAによるヒトGPC3への結合性評価
実施例5で取得したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体のヒトGPC3に対する結合性を、以下の手順に従いEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)により評価した。
【0427】
ヒトGPC3-His(AcroBiosystems社製)を2μg/mLの濃度でD-PBS(-)に希釈し、100μL/wellでNi-NTA HisSorb Plates(QIAGEN社製)に分注し、1時間室温で静置した。200μL/wellのD-PBS(-)で3回ウェルを洗浄後、1%(w/v)BSA-PBS(-) pH7.0(ナカライテスク社製;以下、BSA-PBSと記載)に0.0001、0.001、0.01、0.1、1、10μg/mLとなるよう希釈したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体をそれぞれ100μL/wellでウェルに添加した。
【0428】
1時間室温で静置した後、200μL/wellのPBS-Tで3回洗浄し、2次抗体としてPeroxidase AffiniPure Goat Anti-Human IgG, Fcγ Fragment specific(Jackson ImmunoReseach社製)を1%(w/v)BSA-PBS(-) pH7.0(ナカライテスク社製;以下、BSA-PBSと記載)に1000倍希釈した溶液を100μL/well添加して1時間静置した。
【0429】
200μL/wellのPBS-Tで3回ウェルを洗浄後、200μL/wellのD-PBS(-)で2回洗浄し、substrate reagent pack(R&D systems社製)のA液とB液を等量混合したものを50μL/well添加して5分間静置した。Stop solution(R&D systems社製)を50μL/well添加して反応を停止させ、EPOCH2 microplate reader(Biotek社製)を用いて450nmおよび570nmの吸光度を測定し、450nmの吸光度から570nmの吸光度を引いた値を計算した。なお、陰性コントロールには[Clin Cancer Res 2005, 11(8), 3126-3135]記載の抗2,4-dinitrophenol(DNP)抗体をコードする塩基配列を含むベクターを用い、実施例4の5.に記載の方法に準じて作製したIgG4抗体(定常領域はIgG4PE R409K。以下、抗DNP抗体と記す)を使用した。
【0430】
図2(A)、(B)および(C)に、CD40-GPC3バイスペシフィック抗体のヒトGPC3に対する結合性を測定した結果を示した。
図2(A)、(B)および(C)に示す通り、いずれのCD40-GPC3バイスペシフィック抗体も、固相化したヒトGPC3-Hisに対して結合することが確認された。
【0431】
[実施例7]細胞上のGPC3に対するCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の結合性の評価
実施例5で得られたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の細胞膜上GPC3に対する結合性を評価するため、以下のようにExpi293F細胞のヒトGPC3一過性発現細胞を用いてFCMによる評価を行った。
【0432】
Expi293(商標)Expression System (Thermo Fisher社製)を用いて、実施例3で作製したヒトGPC3発現ベクターをExpi293F細胞に導入して培養し、一過性発現系で細胞膜上にヒトGPC3を発現させた。ヒトGPC3を発現しないネガティブコントロール細胞として、遺伝子導入時にヒトGPC3発現ベクターを添加しなかったExpi293F細胞を用いた。
【0433】
ベクター導入48時間後のExpi293F細胞を1×106cells/mLで50μL/wellでU底96wellプレート(ファルコン社製)に播種した。遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)の後、上清を除去し、ペレットを200μL/wellの3%Fetal Bovine Serumを含むD-PBS(-)(以下、SBと記載)で1回洗浄した。遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)の後、上清を除去し、ペレットへ希釈したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体をそれぞれ終濃度0.1、1または10μg/mLとなるように100μL/wellで添加し、氷温下で30分間静置した。陰性コントロールとして抗DNP抗体を使用した。
【0434】
遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)して上清を除去し、SBで2回洗浄した後、100倍希釈したAPC-conjugated AffiniPure F(ab’)2 Goat Anti-Human IgG, Fcγ(Jackson ImmunoReseach社製)を含むSBを100μL/well添加し、氷温下で30分間静置した。
【0435】
さらに遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)して上清を除去し、SBで2回洗浄した後、100μL/wellのSBに懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II(ベクトンディッキンソン社製)でExpi293F細胞上のAPCの蛍光強度を測定した。
【0436】
図3(A)、(B)、(C)および(D)に、ヒトGPC3を発現しないExpi293F細胞に対するCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の評価結果を示す。いずれのバイスペシフィック抗体もヒトGPC3を発現しないExpi293F細胞に対する結合性は示さなかった。
【0437】
図3(E)、(F)、(G)および(H)にヒトGPC3を発現するExpi293F細胞に対するCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の評価結果を示す。いずれのCD40-GPC3バイスペシフィック抗体も、ヒトGPC3を発現するExpi293F細胞に対して結合性を示した。
【0438】
これらの結果から、実施例5で取得したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体は、細胞膜上のヒトGPC3に対して選択的に結合することが示された。
【0439】
[実施例8]FCMによる細胞株のCD40およびGPC3発現評価
Ramos細胞(JCRB9119)、HepG2細胞(ATCC HB-8065)のCD40およびGPC3の発現を、以下の手順に従いFCMにより評価した。評価には実施例2で得た抗CD40抗体R1090S55A、実施例4で調製した抗GPC3抗体、および実施例5で調製したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体を用いた。
【0440】
Ramos細胞を、1×106cells/mLの濃度でSBに懸濁し、100μL/wellで96穴丸底プレート(ファルコン社製)に分注した。遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットへ実施例2で得た抗CD40抗体R1090S55A、実施例4で得た抗GPC3抗体、及び実施例5で得たCD40-GPC3バイスペシフィック抗体をそれぞれ0.01、0.1、1、10μg/mLの濃度で含むSBを100μL/well加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0441】
さらに遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)して上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで3回洗浄した後に、100倍希釈したAPC-conjugated AffiniPure F(ab’)2 Goat Anti-Human IgG, Fcγ(Jackson ImmunoReseach社製)を100μL/wellで加え、氷温下30分間インキュベートした。SBで2回洗浄した後、100μL/wellのSBに懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II(ベクトンディッキンソン社製)で各細胞の蛍光強度を測定した。
【0442】
同様に、HepG2細胞の評価を実施した。
【0443】
図4(A)および(C)にRamos細胞に対する、
図4(B)および(D)にHepG2細胞に対する各種抗体またはバイスペシフィック抗体の結合性の評価結果を示す。
【0444】
図4(A)および(C)に示すように、Ramos細胞に対して実施例4で作製した抗GPC3抗体は結合活性を示さず、抗CD40抗体であるCP-870,893およびR1090S55Aは結合活性を示した。また、実施例5で作製したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体もRamos細胞に対して結合活性を示した。これらの結果から、Ramos細胞は細胞表面にCD40を発現しており、GPC3を発現していないことが示唆された。また、本発明のバイスペシフィック抗体はCD40に結合することが示された。
【0445】
図4(B)および(D)に示すように、抗GPC3抗体はHepG2細胞に対して抗CD40抗体より顕著に強い結合活性を示した。CD40-GPC3バイスペシフィック抗体も、HepG2細胞に対して抗GPC3抗体と同様の強い結合活性を示した。よって本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体はGPC3への結合能を有していることが示された。
以上の結果から、本発明のバイスペシフィック抗体は、GPC3およびCD40の両方に対する結合活性を有していることが示された。
【0446】
[実施例9]FCMを用いたCD95発現量解析によるCD40-GPC3バイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性の評価
Ramos細胞上のCD95の発現量増加を指標として、実施例5で得られたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導能を以下のようにFCMで評価した。
【0447】
1.GPC3発現細胞の非存在下でのCD40アゴニスト活性評価
1.25×106cells/mLのRamos細胞を40μL/wellでU底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で希釈した被験抗体を終濃度0.001、0.01、0.1、1または10μg/mLとなるように60μL/well添加し、37℃、5.0%炭酸ガス下で16時間培養した。
【0448】
遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)の後、上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで1回洗浄した。遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)の後、上清を除去し、ペレットへ100倍希釈したPE mouse anti-human CD95(ベクトンディッキンソン社製)抗体を加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0449】
さらに遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)して上清を除去し、SBを含むD-PBS(-)で2回洗浄した後、100μL/wellのSBを含むD-PBS(-)に懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II(ベクトンディッキンソン社製)でRamos細胞上のCD95の蛍光強度を測定した。陰性コントロールには抗DNP抗体を使用した。
【0450】
図5(A)に抗DNP抗体、CP-870,893およびR1090S55Aの評価結果を示す。CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893はRamos細胞上のCD95の発現を強く誘導した。一方で、R1090S55AはRamos細胞上のCD95を誘導する活性がほとんど見られず、CD40アゴニスト活性はないことがわかった。
図5(B)、(C)、(D)および(E)に抗DNP抗体、CP-870,893および各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体の評価結果を示す。
【0451】
本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体(Ct-R1090-GpS1019-FL、Ct-R1090-GpA6014-FL、Ct-R1090-GpA6005-FL、Ct-R1090-GpA6062-FLおよびCt-R1090-GpS3003、Ct-R1090-GPngs18、およびCt-R1090-GPngs62)はいずれもCD95発現を誘導する活性がほとんど見られなかった。
【0452】
これらの評価結果より、本発明のバイスペシフィック抗体は、CD40陽性細胞のみが存在する条件下では、CD40陽性細胞に対してCD40シグナルを誘導しないことが示された。
【0453】
2.GPC3発現細胞との共培養条件下でのCD40アゴニスト活性評価
1.25×106cells/mLのRamos細胞を40μL/wellでU底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で希釈した0.005、0.05、0.5、5または50μg/mL(終濃度0.001、0.01、0.1、1または10μg/mL)の被験抗体を20μL/mL添加し、さらにHepG2細胞1.25×106cells/mLを40μL/wellで加え、37℃、5.0%炭酸ガス下で16時間培養した。
【0454】
遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)の後、上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBを含むD-PBS(-)で1回洗浄した。遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)の後、上清を除去し、ペレットへ100倍希釈したPE mouse anti-human CD95(ベクトンディッキンソン社製)抗体を加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0455】
さらに遠心分離(1500rpm、4℃、3分間)して上清を除去し、SBで2回洗浄した後、100μL/wellのSBに懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II(ベクトンディッキンソン社製)でRamos細胞上のCD95の蛍光強度を測定した。陰性コントロールには抗DNP抗体を使用した。
【0456】
図6(A)、(B)、(C)および(D)に、抗DNP抗体、CP-870,893および各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体の評価結果を示す。
【0457】
図6に示すように、GPC3陽性のHepG2と共培養した場合、抗DNP抗体はRamos細胞のCD95発現を誘導しないが、実施例5で作製したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体(Ct-R1090-GpS1019-FL、Ct-R1090-GpA6014-FL、Ct-R1090-GpA6005-FL、Ct-R1090-GpA6062-FL、Ct-R1090-GpS3003、Ct-R1090-GPngs18、およびCt-R1090-GPngs62)はいずれも、CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893と同程度に、濃度依存的にRamos細胞のCD95の発現を誘導することが示された。
【0458】
図5(B)、(C)、(D)および(E)に示すように、本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体がRamos細胞上のCD40に単独で結合したときにはCD40シグナルを誘導しなかった。一方で、
図6(A)、(B)、(C)および(D)に示すように、GPC3陽性細胞が共存する時にのみ、Ramos細胞にCD40シグナルを誘導した。
【0459】
これらのCD40-GPC3バイスペシフィック抗体のCD40に対する抗原結合ドメインに用いた抗CD40抗体(親抗体とも言う)であるR1090S55Aは、
図5(A)に示すように、Ramos細胞にCD40シグナルを誘導しないこと(非アゴニスト活性)が確認されている。よって、本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体は、元々親抗体が有していないCD40シグナル誘導活性(アゴニスト活性)を、バイスペシフィック抗体化することで示すようになったことが分かった。
【0460】
これにより、本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体を投与することで、GPC3陽性細胞が存在しない部位ではCD40シグナルを誘導せず、腫瘍などのGPC3陽性細胞が存在する病変部位特異的に、免疫細胞や腫瘍細胞などのCD40陽性細胞にシグナルを誘導することが示唆された。
【0461】
[実施例10]GPC3-CD40バイスペシフィック抗体の作製およびアゴニスト活性の評価
実施例5に記載した方法に準じて、表6に示す重鎖およびL6にコードされるVLを含む軽鎖を有するバイスペシフィック抗体を作製した。当該バイスペシフィック抗体の名称、当該抗体作製に使用した抗GPC3抗体クローン(VH1)および抗CD40抗体クローン(VH2)を表6に示す。
【0462】
【0463】
1.GPC3-CD40バイスペシフィック抗体の発現ベクターの作製
表6に記載されたバイスペシフィック抗体の重鎖発現ベクターを実施例5の1.に記載した方法に準じて作製した。表7に取得したそれぞれの抗GPC3抗体のVHを含むバイスペシフィック抗体の重鎖をコードする塩基配列および当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を示す。
【0464】
【0465】
2.バイスペシフィック抗体の調製
実施例5の2.に記載した方法に準じて、実施例10の1.で作製した重鎖発現ベクターを用いてGPC3-CD40バイスペシフィック抗体を調製した。
【0466】
3.バイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性の評価
実施例9と同様にして、作製したGPC3-CD40バイスペシフィック抗体のシグナル誘導活性を評価した。その結果、これらのバイスペシフィック抗体はアゴニスト活性を示さなかった。
【0467】
CD40結合ドメインに別のクローンR1066を、GPC3結合ドメインにGpS1019を用いて同様にCD40-GPC3バイスペシフィック抗体およびGPC3-CD40バイスペシフィック抗体を作製し、アゴニスト活性を評価したところ、どちらのバイスペシフィック抗体もアゴニスト活性を示した。
【0468】
以上の結果から、本発明のバイスペシフィック抗体において、第一の抗原結合ドメインと第二の抗原結合ドメインを入れ替えてアゴニスト活性が発揮されるかは、抗体のクローンによって異なることがわかった。
【0469】
[実施例11]ヒト誘導樹状細胞に対するCD40アゴニスト活性評価
樹状細胞上の活性化マーカーを指標として、実施例5で得られたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体のGPC3陽性細胞共存下における樹状細胞へのCD40シグナル誘導活性をFCMにより評価した。陰性コントロールには抗DNP抗体を、陽性コントロールにはCP-870,893を使用した。
【0470】
具体的には、CD14陽性の単球を未成熟樹状細胞へと分化誘導した。未成熟樹状細胞においてCD40シグナルが活性化すると補助刺激分子であるCD80およびCD86の発現が上昇することから、調製したヒト誘導樹状細胞に抗CD40抗体または各種CD40バイスペシフィック抗体を添加し、補助刺激分子の発現量をFCMで解析することにより、各種抗体またはバイスペシフィック抗体のCD40アゴニスト活性を評価した。
【0471】
1.細胞の調製
Untouched Frozen NPB-CD14+ Monocytes (AllCells社製)を解凍後、100ng/mLのrecombinant human GM-CSF(R&D社製)および100ng/mLのrecombinant human IL4(R&D社製)を含むX-VIVO15 Serum-Free Hematopoietic Cell Medium(LONZA社製)で1×106cells/mLの細胞密度になるように懸濁し、6well Flat Bottom Ultra-Low Attachment Surface (CORNING社製)に3mL/wellで添加した。
【0472】
培養から2日および4日後に新鮮培地に交換した。培養開始から7日後に細胞を回収し、1500rpm、室温で5分間、遠心分離した。沈殿細胞を100ng/mlのIL-4および100ng/mLのGM-CSFを含むX-VIVO15 Serum-Free Hematopoietic Cell Mediumに2×105cells/mLになるよう調製し、24well Flat Bottom Ultra-Low Attachment Surface(CORNING社製)に250μL/wellずつ添加した。さらに、HepG2細胞を4×105/mLになるように調製し、125μL/wellずつ添加した。終濃度1、10μg/mLとなるように調製した評価抗体を125μL/wellで添加して混和し、37℃、5%CO2存在下で2日間培養した。
【0473】
2.FCMによる樹状細胞上の活性化マーカーの発現測定
2日間培養した細胞を遠心分離(2000rpm、4℃、5分間)した。上清を除去し、1%(w/v)BSA-PBS(-), pH7.0 without KCl (ナカライ社製)(FACS Bufferとも記載する)を150μLずつ加えた。BD Fc Block Reagent for Human (BD Pharmingen社製)を添加して懸濁し、5分間氷上で静置した。
【0474】
その後細胞懸濁液を96 well U底plate(FALCON社製)に50μLずつ加えた。FACS Buffer に懸濁した標識抗体Brilliant Violet 421 anti-human CD80 antibody(Biolegend社製)、PE Mouse Anti-Human CD86(BD Pharmingen社製)、またはPE-Cy7 anti-human CD45(Biolegend社製)を、それぞれ50μL/wellで添加して4℃で30分間インキュベートした。
【0475】
遠心分離(1200rpm、4℃、2分間)後に、上清を除去した。沈殿した細胞を200μLのFACS Bufferで2回洗浄した。その後、100μLのFACS Bufferで細胞を再懸濁し、FACS Canto II(BD Biosciences社製)にて蛍光強度を測定した。解析にはデータ解析ソフトFlowJo9.6.4を用い、CD45陽性細胞を樹状細胞として、CD45陽性細胞におけるCD80およびCD86について、結合した抗体の平均蛍光強度(MFI)により発現量を評価した。
【0476】
図7(A)および(B)に、抗DNP抗体、CP-870,893および各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体を添加した際の樹状細胞上のCD80およびCD86の発現量をFCMで解析した結果を示す。
【0477】
図7(A)および(B)に示すように、GPC3陽性のHepG2と共培養した場合、実施例5で作製したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体(Ct-R1090-GpS1019-FLおよびCt-R1090-GpA6014-FL)はCD40アゴニスト抗体であるCP-870,893と同様に、抗DNP抗体と比較して樹状細胞のCD80およびCD86の発現上昇を誘導することが示された。
【0478】
以上から、本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体は、GPC3陽性細胞の存在下で樹状細胞に対してCD40アゴニスト活性を有することが示された。
【0479】
[実施例12]ヒトGPC3陽性細胞株と肝細胞癌臨床検体のGPC3発現量の比較
1.MC-38/hGPC3の作製
以下の方法によりGPC3を発現していないマウス細胞株MC-38(Kerafast社)にヒトGPC3を発現させたMC-38/hGPC3を作製した。
【0480】
配列番号39に示すヒトGPC3遺伝子を人工遺伝子合成し、pEF6/myc-HisCベクターのマルチクローニングサイトにKpnI/BamHIを用いてクローニングを行うことで、ヒトGPC3発現ベクターpEF6-hGPC3を取得した。
【0481】
取得した発現ベクターpEF6-hGPC3を、Nucleofector(Lonza社製)を用いてMC-38細胞に導入して培養し、翌日より5μg/ml Blasticidin S(InvivoGen社製)でセレクションを行った。セルソーターによりシングルセルクローニングを行い、ヒトGPC3を発現するMC-38細胞(MC-38/hGPC3)を得た。
【0482】
2.FCMによる各種GPC3陽性細胞株のGPC3発現量の解析
実施例9でGPC3陽性細胞としてアゴニスト活性評価に用いたHepG2細胞(ATCC HB-8065)、HuH-7細胞(JCRB0403)および実施例11で作製したMC-38/hGPC3のGPC3発現量をFCMにより比較した。
【0483】
HepG2細胞、HuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞を用いて、実施例7と同様の方法でFCMによりGPC3発現量を測定した。実施例4で得た抗GPC3抗体GpS1019および抗DNP抗体を用い、それぞれ1μg/mLの濃度で染色を行った。GpS1019で染色した時のMFIを抗DNP抗体で染色した時のMFIで割った値をrelative fluorescence intensity(RFI)として算出した。
【0484】
図8(A)に、HuH-7細胞、HepG2細胞およびMC-38/hGPC3細胞の評価結果を示す。
【0485】
図8(A)に示すように、HuH-7細胞、HepG2細胞およびMC-38/hGPC3細胞はいずれもGPC3を発現していたが、HepG2細胞はHuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞と比較して顕著にRFIが高く、GPC3の発現量が多いことが示された。
【0486】
3.ヒトGPC3陽性細胞株と肝細胞癌臨床検体のGPC3発現量の比較
ヒト臨床肝細胞がんにおけるGPC3の発現量と、HuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞のGPC3発現量を比較するため、ヒト肝臓がん組織アレイ、HuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞のGPC3発現を免疫組織染色(IHC)により解析した。
【0487】
以下に示す方法で、既存の抗GPC3抗体GC33のmIgG1型(GC33-mIgG1)を作製した。GC33の可変領域アミノ酸配列として、国際公開第2006/006693号に記載の配列を用いた。GC33のVHのアミノ酸配列を配列番号124に、GC33のVLのアミノ酸配列を配列番号125にそれぞれ示す。重鎖定常領域のアミノ酸配列はマウスIgG1を、軽鎖はマウスκ鎖配列を用い、実施例4に記載の方法に準じて、GC33-mIgG1を作製した。
【0488】
ホルマリン固定及びパラフィン包埋したヒト肝臓がん組織アレイ(肝細胞がん、61例)、HuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞に対する免疫組織染色(IHC)を、GC33-mIgG1および陰性対照抗体を用いて実施した。
【0489】
脱パラフィン処理した標本を、Target retrieval solution pH9(アジレント社製)による抗原賦活化を110℃のDecloaking Chamberで10分間行った後、室温で30分冷却し、水道水で5分間洗浄した。続いて、Peroxidase Blocking Reagent(アジレント社製)による内因性ペルオキシダーゼの失活を10分間行った。
【0490】
さらに、Protein Block(アジレント社製)にてブロッキングを行った。次に、原液を10倍に希釈した抗GPC3抗体及び陰性対照抗体を室温で1時間反応させた後、PBSで洗浄を行った。Envision System-HRP Labelled polymer Anti-mouse(アジレント社製)を添加し、室温で30分間反応させた。DAB(アジレント社製)を添加し、発色のために1分間反応させた。ヘマトキシリン(アジレント社製)を5分間反応させ、流水で洗浄し、核染色を行った。
【0491】
染色されたサンプルをエタノール及びキシレンを用いて脱水・透徹処理し、最後にDPX(メルク)で封入した。
【0492】
図8(B)にヒト肝臓がん組織アレイ、HuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞のIHC結果を示す。各細胞の細胞膜上の染色強度を定量し、染色強度が低い順に0、1+、2+、3+に分類し、検体ごとにそれぞれの染色強度の細胞の頻度をプロットした。
【0493】
図8(B)に示す通り、ヒト肝細胞がん組織においてGPC3の発現が確認された。また、HuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞における各染色強度の細胞の割合は、ヒト肝細胞がん組織のうちGPC3の染色強度が比較的高い症例における各染色強度の割合と同等程度であった。以上から、HuH-7およびMC-38/hGPC3におけるGPC3発現量はヒト肝細胞がん組織でのGPC3発現量を反映したものであることが示された。
【0494】
[実施例13]GPC3陽性細胞としてHuH-7細胞またはMC-38/hGPC3細胞を用いたCD40アゴニスト活性評価
実施例12でGPC3発現量が臨床肝細胞癌検体と同程度であることが判明したHuH-7細胞およびMC-38/hGPC3細胞をGPC3陽性細胞として用いて、実施例5で得られたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導能をRamos細胞上のCD95の発現量増加を指標として実施例9と同様の方法でFCMによる評価を実施した。
【0495】
図9(A)および(B)に、抗DNP抗体、CP-870,893および各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体の評価結果を示す。
【0496】
図9(A)に示すように、HuH-7細胞と共培養した場合、実施例5で作製したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体(Ct-R1090-GpS1019-FL、Ct-R1090-GpA6014-FL、Ct-R1090-GpA6005-FL、Ct-R1090-GpA6062-FL、Ct-R1090-GpS3003、Ct-R1090-GPngs18、およびCt-R1090-GPngs62)はいずれも、CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893と同程度に、濃度依存的にRamos細胞のCD95の発現を誘導することが示された。
図9(B)に示すように、MC-38/hGPC3細胞をRamos細胞と共培養した場合でも同様の結果が得られた。
【0497】
以上の結果から本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体は、臨床の肝細胞がんと同程度のGPC3発現量で、CD40アゴニスト抗体であるCP-870,893と同程度のアゴニスト活性を示すことが示された。
【0498】
[実施例14]抗GPC3抗体の結合活性測定
実施例4で得られた抗GPC3抗体ならびに既存の抗GPC3抗体GC33、YP7およびHN3のヒトGPC3に対する結合活性を評価した。具体的には、ヒトCD40-Hisを用いて、表面プラズモン共鳴法(SPR法)による結合性試験を実施した。測定機器として、BiacoreT100(GEヘルスケア社製)を使用した。
【0499】
1.既存の抗GPC3抗体であるGC33、YP7およびHN3の作製
既存の抗GPC3抗体GC33、YP7およびHN3の可変領域アミノ酸配列は、それぞれ国際公開第2006/006693号、国際公開第2013/181543号、および国際公開第2012/145469号に記載のアミノ酸配列を用いた。YP7のVHのアミノ酸配列を配列番号126に、YP7のVLのアミノ酸配列を配列番号127に、HN3のVHのアミノ酸配列を配列番号128にそれぞれ示した。
【0500】
重鎖定常領域のアミノ酸配列は、配列番号77に示されるIgG4PE R409Kを、軽鎖はκ鎖の配列を用い、実施例4に記載した方法で各種抗GPC3抗体を得た。
【0501】
2.SPR法による結合活性の測定
Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケア社製)を用いて、添付文書に従いCM5センサーチップ(GEヘルスケア社製)に固定化した。フローセルに、2μg/mLに調製した被験抗体を10μL/minの流速で10秒間添加した。
【0502】
次いで、アナライトとして125nMまたは25nMより5段階に5倍希釈したヒトCD40-Hisタンパク質溶液(HBS-EP+で希釈)をそれぞれ30μL/min分の流速で添加し、各抗体とアナライトとの結合反応を2分間、解離反応を10分間測定した。測定はシングルサイクルカイネティクス法で行った。
【0503】
得られたセンサーグラムを、Bia Evaluation Software(GEヘルスケア社製)を用いて解析し、各抗体の速度論定数を算出した。各抗GPC3抗体のヒトGPC3に対する解離定数[kd/ka=KD]を表8に示す。
【0504】
【0505】
表8に示す通り、実施例14で作製した抗GPC3抗体GC33、YP7およびHN3はヒトGPC3への結合活性を有しており、ヒトGPC3に対するKD値は、GC33およびYP7は1nM前後、HN3は10nM程度であった。
【0506】
同様の方法でGC33、HN3および実施例4で得られた抗GPC3抗体についても解析した結果を表9に示す。
【0507】
【0508】
表9に示す通り、GpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GpS3003、GPngs18およびGPngs62のヒトGPC3に対するKD値は6.35~0.39×10-9Mであり、既存の抗GPC3抗体と同等以上の強い結合活性を有することが示された。
【0509】
[実施例15]抗GPC3抗体のエピトープ解析
各種抗GPC3抗体の競合の有無をFCMにより解析し、エピトープを分類した。また、GPC3の部分断片発現細胞を作製し、各種抗GPC3抗体の結合活性を測定することにより、エピトープを解析した。
【0510】
1.競合の有無による分類
(1)標識抗体の作製
実施例4で得られた抗GPC3抗体GpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18、GPngs62および実施例14で得られた抗GPC3抗体GC33、HN3およびYP7を、Alexa Fluor 647 Antibody Labeling Kit(Thermo Fisher Scientific製)を用いて標識した。
【0511】
(2)FCMによる競合アッセイ
HepG2細胞を、1×106cells/mLの濃度でSBに懸濁し、100μL/wellで96穴丸底プレート(ファルコン社製)に分注した。遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットへ実施例4で得た抗GPC3抗体GpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18、GPngs62、実施例14で得た抗GPC3抗体GC33、HN3、またはYP7の非標識体(以降、競合抗体とも記載する)をそれぞれ100μg/mLの濃度で含むSBを25μL/well加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0512】
続いて、検出抗体として実施例15の1.(1)で作製した各種標識抗体を、それぞれ20μg/mLで25μL/well加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0513】
さらに遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)して上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで3回洗浄した後に100μL/wellのSBに懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II(ベクトンディッキンソン社製)で各細胞の蛍光強度を測定した。競合抗体を添加した場合のMFIを、添加していない場合のMFIで割った値をそれぞれの競合抗体および検出抗体の組み合わせについて計算し、値が0.5以下となった場合を競合と定義した。
【0514】
図10(A)、(B)および(C)に、競合抗体および検出抗体の組み合わせについて競合の有無を示した。
図10(A)はHN3、GC33、またはYP7の非標識抗体を競合抗体として添加し、それぞれについて抗DNP抗体、GC33またはYP7の標識抗体を検出抗体として用いた場合の競合の有無を示す。
【0515】
また、
図10(B)は、GpS1019、HN3、GC33の非標識体を競合抗体として、GpS1019、HN3、GC33の標識抗体を検出抗体として用いた場合の競合の有無を示す。
【0516】
また、
図10(C)はGpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18、GPngs62の非標識抗体を競合抗体として添加し、それぞれについてGpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18、GPngs62の標識抗体を検出抗体として用いた場合の競合の有無を示す。
【0517】
図10(A)に示す通り、HN3、GC33、およびYP7は自身以外の抗体との競合は確認されなかった。このことから、HN3、GC33、およびYP7はそれぞれ異なるエピトープに結合することが分かった。
【0518】
図10(B)に示す通り、GpS1019、HN3、GC33は自身以外の抗体との競合は確認されなかった。このことから、GpS1019、HN3、およびGC33はそれぞれ異なるエピトープに結合していることがわかった。
【0519】
図10(C)に示す通り、GpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18およびGPngs62は、すべての組み合わせにおいて競合抗体の添加時に結合が低下し、互いに競合した。このことから、GpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18およびGPngs62は、互いに近傍のエピトープを認識するか、又は一部若しくは全部が重複するエピトープを認識していることがわかった。
【0520】
以上の結果から、GpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18、GPngs62は既存の抗GPC3抗体であるGC33またはHN3とは異なるエピトープに結合することが分かった。
【0521】
2.GPC3の部分断片発現細胞を用いた結合部位の同定
以下に示す方法によりExpiCHO-S細胞(ThermoFishher Scientfic社製)にヒトGPC3の部分断片を発現させ、抗GPC3抗体の結合性を検証することで、実施例4で取得された抗GPC3抗体のエピトープ解析を行った。
【0522】
配列番号39に示されるヒトGPC3全長の塩基配列をコドン変換してヒトGPC3全長アミノ酸配列を取得し、ヒトGPC3全長アミノ酸配列のうち25番目から358番目のアミノ酸配列で示されるポリペプチド配列を作製した。
【0523】
ヒトGPC3全長アミノ酸配列のうち25番目から358番目のアミノ酸配列で示されるポリペプチド配列のN末端側にHis配列を、C末端側にGPI付加配列としてヒトGPC3全長アミノ酸配列のうち563番目から580番目のアミノ酸配列で示されるポリペプチドをそれぞれ連結した配列(hGPC3(25-358)と表記する)を作製した。アミノ酸配列をコドン変換して塩基配列とし、人工遺伝子合成により断片を合成したうえでpCIベクターの適切な部位に挿入し、hGPC3(25-358)の発現ベクターを取得した。同様にして、hGPC3(192-580)、hGPC3(359-580)およびhGPC3(25-580)の発現ベクターを取得した。
【0524】
取得されたヒトGPC3部分断片の発現ベクターをそれぞれExpifectamine CHO-S transfection kit (Thermo Fisher Scientific社)を用いてExpiCHO-S細胞へトランスフェクションしてヒトGPC3の部分断片を一過性発現させた。
【0525】
得られたヒトGPC3の部分断片を一過性に発現するExpiCHO-S細胞(以下、GPC3部分断片発現細胞とも記載する)を、実施例7に示した方法と同様にFCMに供して各細胞の蛍光強度を測定した。その結果を表10に示す。抗GPC3抗体GpS1019が結合したGPC3部分断片発現細胞が、ネガティブコントロールである抗DNP抗体と比較して10倍以上である場合、反応性有りと定義した。表10では抗GPC3抗体GpS1019が反応性を有していた部分断片について+と、反応性を有していなかった部分断片については-と記載した。
【0526】
【0527】
表10に示すように、抗GPC3抗体GpS1019はhGPC3(25-580)、hGPC3(25-358)、およびhGPC3(192-580)を発現する細胞には結合し、hGPC3(359-580)を発現する細胞には結合しなかった。よって、抗GPC3抗体GpS1019のエピトープは、ヒトGPC3の192番目から358番目のアミノ酸の間に含まれると推測される。
【0528】
抗GPC3抗体YP7はGPC3分子のC末端領域である511番目から560番目のペプチドを免疫して取得された抗体であることから(国際公開第2013/181543号)、GPC3分子のC末端近辺を認識すると考えられる。従って、取得された抗GPC3抗体GpS1019、GpA6005、GpA6014、GpA6062、GPngs18、またはGPngs62が認識するエピトープは、YP7のエピトープとも異なると考えられる。
【0529】
[実施例16]既存の抗GPC3抗体を用いたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の作製
抗GPC3抗体GC33およびYP7の可変領域をGPC3結合ドメインとして用いたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の発現ベクターを、以下の方法で作製した。
【0530】
配列番号15に記載の抗CD40抗体R1090S55AのVHのアミノ酸配列、配列番号77に記載のIgG4PE R409KのCHからなるポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号128に記載のグリシンおよびセリンからなるリンカー配列、および、配列番号76に記載の軽鎖アミノ酸配列においてL6のVLを配列番号124に記載のGC33のVLまたは配列番号126に記載のYP7のVLに置換したアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列を設計した。
【0531】
こうして得られたアミノ酸配列を、コドン変換を行ったうえで遺伝子合成によりpCIベクター(Promega社製)の適切な制限酵素サイトに挿入することで抗CD40抗体VHおよび抗GPC3抗体VL発現ベクターを得た。次に、配列番号123に記載のGC33のVHのアミノ酸配列あるいは配列番号125に記載のYP7のVHのアミノ酸配列に、配列番号94に記載のIgG4のCH1のアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列を作成し、同様にして抗GPC3抗体VH発現ベクターを得た。
【0532】
抗CD40抗体VHおよび抗GPC3抗体VL発現ベクター、抗GPC3抗体VH発現ベクターならびに実施例4-4で作製した抗CD40抗体VL発現ベクターの3種類の発現ベクターを実施例4に記載の方法でExpi293F細胞に導入し、得られた培養上清から抗体を精製し、size eclusion chromatographyで単量体分画を分取することで、各種CD40-GPC3バイスペシフィック抗体(Ct-R1090-HN3、Cross-R1090-GC33、およびCross-R1090-YP7)を作製した。
【0533】
HN3の可変領域をGPC3結合ドメインとして用いたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0534】
配列番号15に記載の抗CD40抗体R1090S55AのVHのアミノ酸配列、配列番号77に記載のIgG4PE R409KのCHからなるポリペプチドのアミノ酸配列および配列番号127に記載のHN3のVHのアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列を作成し、コドン変換を行ったうえで遺伝子合成によりpCIベクター(Promega社製)の適切な制限酵素サイトに挿入することでCt-R1090-HN3の重鎖発現ベクターを得た。
【0535】
Ct-R1090-HN3の重鎖発現ベクターおよび実施例4-4で作製した抗CD40抗体VL発現ベクターを実施例4に記載の方法でExpi293F細胞に導入し、得られた培養上清から抗体を精製し、size eclusion chromatographyで単量体分画を分取することで、Ct-R1090-HN3を作製した。
【0536】
[実施例17]実施例16で作製したバイスペシフィック抗体のGPC3およびCD40への反応性評価
実施例16で作製した各種バイスペシフィック抗体のHepG2細胞およびRamos細胞に対する反応性を、実施例7と同様にしてFCMにより評価した。結果を
図11(A)および(B)並びに
図12(A)および(B)に示す。
【0537】
図11(A)は各種バイスペシフィック抗体のHepG2細胞に対する反応性を、
図11(B)は各種バイスペシフィック抗体のRamos細胞に対する反応性を表す。同様に
図12(A)は各種バイスペシフィック抗体のHepG2細胞に対する反応性を、
図12(B)は各種バイスペシフィック抗体のRamos細胞に対する反応性を表す。横軸は抗体またはバイスペシフィック抗体を、縦軸はMFIを表す。
【0538】
この結果から、どのバイスペシフィック抗体も同じようにCD40に結合することがわかった。また、どのバイスペシフィック抗体も、もとの抗GPC3抗体より反応性は低下しているものの、GPC3結合性を保持していることがわかった。
【0539】
[実施例18]GPC3陽性細胞としてHuH-7細胞またはMC-38/hGPC3細胞を用いたCD40アゴニスト活性評価
実施例16で作製した各種バイスペシフィック抗体のCD40アゴニスト活性を、実施例9と同様の方法で評価した。Ct-R1090-HN3、Ct-R1090-GpS1019-FLおよびCt-R1090-GpA6014-FLのCD40アゴニスト活性を比較した結果を
図13に示す。
図13(A)はGPC3陽性細胞としてHuH-7細胞を用いた結果を、
図13(B)はHuH-7細胞非存在下での結果を示す。
【0540】
Cross-R1090-GC33、Cross-R1090-YP7、Ct-R1090-GpS1019-FLおよびCt-R1090-GpA6014-FLのCD40アゴニスト活性を比較した結果を
図14(A)および(B)に示す。
図14(A)はGPC3陽性細胞としてMC-38/hGPC3細胞を用いた結果を、
図14(B)はMC-38/hGPC3細胞非存在下での結果を示す。
【0541】
この結果から、本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体は、既存の抗GPC3抗体HN3、GC33またはYP7を用いたCD40-GPC3バイスペシフィック抗体よりも低濃度から高いアゴニスト活性を示すことが示された。
【0542】
本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体はいずれも、既存の抗GPC3抗体を用いたバイスペシフィック抗体と比較して強いCD40アゴニスト活性を示した。本発明のバイスペシフィック抗体に用いた抗GPC3抗体のエピトープはヒトGPC3の192番目から358番目のアミノ酸配列に含まれ、これは既存の抗GPC3抗体のエピトープとは異なる新規なエピトープである。よって、ヒトGPC3のアミノ酸配列の192番目から358番目に含まれるエピトープに結合する抗GPC3抗体由来のGPC3結合ドメインを含むCD40-GPC3バイスペシフィック抗体は、強いアゴニスト活性を発揮することが推測される。
【0543】
[実施例19]担がんマウスモデルでのアゴニスト活性評価
CD40-GPC3バイスペシフィック抗体Ct-R1090S55A-GpS1019-FL、Ct-R1090S55A-GpA6014-FLおよび抗CD40抗体CP-870,893はいずれもマウスCD40に結合しないため、マウスモデルを用いた検討では、C57BL/6J JclマウスにヒトCD40を含むBACベクターを導入しヒトCD40を発現させた、ヒトCD40 BAC Tgマウス(以下、hCD40Tgマウスと称する)を用いた。
【0544】
hCD40TgマウスはBAC clone(CTD-2532I19)(Invitrogen社)を精製後に受精卵に導入して作製した。作製したhCD40TgマウスはC57BL/6J Jclマウスと交配し、ヒトCD40遺伝子を有する事をPCR法で確認した後に試験に供した。
【0545】
実施例12で作製したMC-38/hGPC3を5×105細胞、hCD40Tgマウスの皮下にDay-10からDay-7の間に移植した。Day0に、各群3-4匹に分け、各CD40-GPC3バイスペシフィック抗体または陰性コントロールとして抗体希釈バッファー(0.05mg/mL PS80, 10mM L-グルタミン酸ナトリウム、262mM D-ソルビトール、pH5.5)を尾静脈から投与した。抗体投与量は、Ct-R1090S55A-GpS1019-FLについては2mg/kg、Ct-R1090S55A-GpA6014-FLについては10mg/kgとした。投与3日後に腫瘍を回収し、ジルコニアビーズ(Qiagen社)を用いて腫瘍を破砕し、RNeasy Plus Mini Kit(Qiagen社)を用いてRNAを抽出した。
【0546】
得られたRNAをSuperscript VILO(Thermo Fisher Scientific社)を用いて逆転写しcDNAを得た。得られたcDNAを鋳型として、マウスGAPDH、マウスIL-12b、マウスCD80、マウスCD86およびマウスCD40をそれぞれMm99999915_g1、Mm01288989_m1、Mm00711660_m1、Mm00444543_m1およびMm00441891_m1で示されるTaqman Assay (Thermo Fisher Scientific社)によりリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRは7900HT(Thermo Fisher Scientific社)を用いて実施し、ΔΔCt法によりGAPDHおよび抗体希釈バッファー(vehicle)投与群に対する各遺伝子の相対コピー数を定量した。
【0547】
図15に各遺伝子のリアルタイムPCRによる相対的発現量を示す。試験1回あたりN=3~4で実施し、2~3回の試験データを統合した結果を図示する。
【0548】
図15に示すように、vehicle投与群に比べてCD40-GPC3バイスペシフィック抗体Ct-R1090-GpS1019-FLおよびCt-R1090-GpA6014-FLの投与群では、IL-12b、CD80、CD86およびCD40の発現が上昇していた。
【0549】
IL-12b、CD80、CD86およびCD40は、抗原提示細胞にCD40シグナルが入ることで発現量が上昇する遺伝子であることが知られている。このことから、CD40-GPC3バイスペシフィック抗体Ct-R1090-GpS1019-FLおよびCt-R1090-GpA6014-FLは、マウス腫瘍中で抗原提示細胞のCD40シグナルを活性化させたと考えられる。よって、本発明のバイスペシフィック抗体はin vitroにおいてのみならず、生体内の腫瘍局所においてもCD40アゴニスト活性を発揮できると考えられる。
【0550】
[実施例20]担がんマウスモデルでの毒性試験
実施例19と同様に作製したhCD40Tgマウスを用いたMC-38/hGPC3担がんモデルにおいて、実施例5で作製したCD40-GPC3バイスペシフィック抗体の正常組織に及ぼす影響を検証した。
【0551】
CD40-GPC3バイスペシフィック抗体Ct-R1090S55A-GpS1019-FL、抗CD40抗体CP-870,893および陰性コントロールとして抗体希釈バッファーをhCD40Tgマウス各群4匹にそれぞれ尾静脈から投与し、投与24時間後の血小板数、血漿中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度を測定した。Ct-R1090-GpS1019-FLは2mg/kgまたは10mg/kg投与した。CP-870,893は、毒性により10mg/kg投与は困難であるため、0.3mg/kg、1mg/kgまたは3mg/kg投与した。結果を
図16(A)~(C)に示す。
【0552】
図16(A)~(C)に示すように、抗CD40抗体CP-870,893を投与した群では、投与後にASTおよびALTの上昇ならびに血小板の減少が認められた。一方で、CD40-GPC3バイスペシフィック抗体Ct R1090S55A-GpS1019-FLを投与した群は、投与量にかかわらず、AST、ALTおよび血小板数は陰性コントロールである抗体希釈バッファー(vehicle)を投与した群と同程度であった。
【0553】
以上より、本発明のCD40-GPC3バイスペシフィック抗体は、GPC3陽性細胞存在下でのみCD40アゴニスト活性を発揮することにより、先行抗CD40アゴニスト抗体に比べて全身性の毒性が顕著に低減していることが示された。このことから、本発明のバイスペシフィック抗体は副作用を抑えつつGPC3陽性の腫瘍局所でのみCD40アゴニスト活性を発揮し、腫瘍局所において免疫を高めることが期待できる。
【0554】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2019年5月15日付けで出願された日本特許出願(特願2019-092297号)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【配列表フリーテキスト】
【0555】
配列番号1:ヒトCD40細胞外ドメインの塩基配列
配列番号2:ヒトCD40細胞外ドメインのアミノ酸配列
配列番号3:サルCD40細胞外ドメインの塩基配列
配列番号4:サルCD40細胞外ドメインのアミノ酸配列
配列番号5:ヒトCD40の全長塩基配列
配列番号6:ヒトCD40の全長アミノ酸配列
配列番号7:サルCD40の全長塩基配列
配列番号8:サルCD40の全長アミノ酸配列
配列番号9:L6 VLの塩基配列
配列番号10:L6 VLのアミノ酸配列
配列番号11:L6 LCDR1のアミノ酸配列
配列番号12:L6 LCDR2のアミノ酸配列
配列番号13:L6 LCDR3のアミノ酸配列
配列番号14:R1090S55A VHの塩基配列
配列番号15:R1090S55A VHのアミノ酸配列
配列番号16:R1090S55A HCDR1のアミノ酸配列
配列番号17:R1090S55A HCDR2のアミノ酸配列
配列番号18:R1090S55A HCDR3のアミノ酸配列
配列番号19:21.4.1 VHの塩基配列
配列番号20:21.4.1 VHのアミノ酸配列
配列番号21:21.4.1 VLの塩基配列
配列番号22:21.4.1 VL アミノ酸配列
配列番号23:ヒトGPC3-mFcの塩基配列
配列番号24:ヒトGPC3-mFcのアミノ酸配列
配列番号25:マウスGPC3-mFcの塩基配列
配列番号26:マウスGPC3-mFcのアミノ酸配列
配列番号27:ヒトGPC3-rFcの塩基配列
配列番号28:ヒトGPC3-rFcのアミノ酸配列
配列番号29:マウスGPC3-rFcの塩基配列
配列番号30:マウスGPC3-rFcのアミノ酸配列
配列番号31:可溶型ヒトGPC3のアミノ酸配列
配列番号32:ヒトGPC3-GSTの塩基配列
配列番号33:ヒトGPC3-GSTのアミノ酸配列
配列番号34:ヒトGPC3-AA-hFcの塩基配列
配列番号35:ヒトGPC3-AA-hFcのアミノ酸配列
配列番号36:可溶型マウスGPC3のアミノ酸配列
配列番号37:マウスGPC3-AA-hFcの塩基配列
配列番号38:マウスGPC3-AA-hFcのアミノ酸配列
配列番号39:ヒトGPC3全長の塩基配列
配列番号40:GpS1019VHの塩基配列
配列番号41:GpS1019VHのアミノ酸配列
配列番号42:GpS1019 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号43:GpS1019 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号44:GpS1019 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号45:GpA6005 VHの塩基配列
配列番号46:GpA6005 VHのアミノ酸配列
配列番号47:GpA6005 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号48:GpA6005 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号49:GpA6005 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号50:GpA6014 VHの塩基配列
配列番号51:GpA6014 VHのアミノ酸配列
配列番号52:GpA6014 HCDR1アミノ酸配列
配列番号53:GpA6014 HCDR2アミノ酸配列
配列番号54:GpA6014 HCDR3アミノ酸配列
配列番号55:GpA6062 VHの塩基配列
配列番号56:GpA6062 VHのアミノ酸配列
配列番号57:GpA6062 HCDR1アミノ酸配列
配列番号58:GpA6062 HCDR2アミノ酸配列
配列番号59:GpA6062 HCDR3アミノ酸配列
配列番号60:GpS3003 VHの塩基配列
配列番号61:GpS3003 VHのアミノ酸配列
配列番号62:GpS3003 HCDR1アミノ酸配列
配列番号63:GpS3003 HCDR2アミノ酸配列
配列番号64:GpS3003 HCDR3アミノ酸配列
配列番号65:GPngs18 VHの塩基配列
配列番号66:GPngs18 VHのアミノ酸配列
配列番号67:GPngs18 HCDR1アミノ酸配列
配列番号68:GPngs18 HCDR2アミノ酸配列
配列番号69:GPngs18 HCDR3アミノ酸配列
配列番号70:GPngs62 VHの塩基配列
配列番号71:GPngs62 VHのアミノ酸配列
配列番号72:GPngs62 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号73:GPngs62 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号74:GPngs62 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号75:L6をVLとして含む軽鎖の塩基配列
配列番号76:L6をVLとして含む軽鎖のアミノ酸配列
配列番号77:IgG4PE R409K 重鎖定常領域のアミノ酸配列
配列番号78:GpS1019 重鎖の塩基配列
配列番号79:GpS1019 重鎖のアミノ酸配列
配列番号80:GpA6005 重鎖の塩基配列
配列番号81:GpA6005 重鎖のアミノ酸配列
配列番号82:GpA6014 重鎖の塩基配列
配列番号83:GpA6014 重鎖のアミノ酸配列
配列番号84:GpA6062 重鎖の塩基配列
配列番号85:GpA6062 重鎖のアミノ酸配列
配列番号86:GpS3003 重鎖の塩基配列
配列番号87:GpS3003 重鎖のアミノ酸配列
配列番号88:GPngs18 重鎖の塩基配列
配列番号89:GPngs18 重鎖のアミノ酸配列
配列番号90:GPngs62 重鎖の塩基配列
配列番号91:GPngs62 重鎖のアミノ酸配列
配列番号92:IgG4PE R409K 重鎖定常領域の塩基配列
配列番号93:IgG4のCH1の塩基配列
配列番号94:IgG4のCH1のアミノ酸配列
配列番号95:Ct-R1090-GpS1019-FL 重鎖の塩基配列
配列番号96:Ct-R1090-GpS1019-FL 重鎖のアミノ酸配列
配列番号97:Ct-R1090-GpA6005-FL 重鎖の塩基配列
配列番号98:Ct-R1090-GpA6005-FL 重鎖のアミノ酸配列
配列番号99:Ct-R1090-GpA6014-FL 重鎖の塩基配列
配列番号100:Ct-R1090-GpA6014-FL 重鎖のアミノ酸配列
配列番号101:Ct-R1090-GpA6062-FL 重鎖の塩基配列
配列番号102:Ct-R1090-GpA6062-FL 重鎖のアミノ酸配列
配列番号103:Ct-R1090-GpS3003 重鎖の塩基配列
配列番号104:Ct-R1090-GpS3003 重鎖のアミノ酸配列
配列番号105:Ct-R1090-GPngs18 重鎖の塩基配列
配列番号106:Ct-R1090-GPngs18 重鎖のアミノ酸配列
配列番号107:Ct-R1090-GPngs62 重鎖の塩基配列
配列番号108:Ct-R1090-GPngs62 重鎖のアミノ酸配列
配列番号109:Ct-GpS1019-R1090 重鎖の塩基配列
配列番号110:Ct-GpS1019-R1090 重鎖のアミノ酸配列
配列番号111:Ct-GpA6005-R1090 重鎖の塩基配列
配列番号112:Ct-GpA6005-R1090 重鎖のアミノ酸配列
配列番号113:Ct-GpA6014-R1090 重鎖の塩基配列
配列番号114:Ct-GpA6014-R1090 重鎖のアミノ酸配列
配列番号115:Ct-GpA6062-R1090 重鎖の塩基配列
配列番号116:Ct-GpA6062-R1090 重鎖のアミノ酸配列
配列番号117:Ct-GpS3003-R1090 重鎖の塩基配列
配列番号118:Ct-GpS3003-R1090 重鎖のアミノ酸配列
配列番号119:Ct-GPngs18-R1090 重鎖の塩基配列
配列番号120:Ct-GPngs18-R1090 重鎖のアミノ酸配列
配列番号121:Ct-GPngs62-R1090 重鎖の塩基配列
配列番号122:Ct-GPngs62-R1090 重鎖のアミノ酸配列
配列番号123:GC33 VHのアミノ酸配列
配列番号124:GG33 VLのアミノ酸配列
配列番号125:YP7 VHのアミノ酸配列
配列番号126:YP7 VLのアミノ酸配列
配列番号127:HN3 VHのアミノ酸配列
配列番号128:GSリンカーのアミノ酸配列
配列番号129:ヒトGPC3全長のアミノ酸配列
【配列表】