(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】個人型治療ツール
(51)【国際特許分類】
G16H 20/00 20180101AFI20240611BHJP
【FI】
G16H20/00
(21)【出願番号】P 2021519664
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 EP2019077201
(87)【国際公開番号】W WO2020074500
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501205108
【氏名又は名称】エフ ホフマン-ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイスマン、イェルク
(72)【発明者】
【氏名】アクメット、エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジーノ、フランチェスコ
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-326943(JP,A)
【文献】特表2010-532044(JP,A)
【文献】国際公開第2011/104616(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0350369(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病を患う個人の糖尿病薬物治療の指導を支援するためのコンピュータ実装された方法であって、
(a)前記個人からの少なくとも3つの空腹時グルコース測定値、ならびに/あるいは前記個人からの少なくとも3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値を含む前記個人のグルコースデータを、処理ユニットにおいて受信するステップ
であって、前記少なくとも3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値の各々が、同じ食事の前後に得られる、ステップと、
(b)メモリから、
(b1)空腹時グルコースしきい値、
(b2)食後グルコースしきい値、
(b3)低血糖しきい値、および
(b4)許容されるべき低血糖事象の最大数
のうちの1つまたは複数を確立するステップと、
(c)処理ユニットによって、
(c1)少なくとも3つの空腹時グルコース測定値と空腹時グルコースしきい値との間の偏差を表す第1の統計パラメータを決定するステップ、
(c2)少なくとも3つの食後グルコース測定値と食後グルコースしきい値との間の偏差を表す第2の統計パラメータを決定するステップ、
(c3)ステップ(c2)において決定された第2の統計パラメータに対するステップ(c1)において決定された第1の統計パラメータの比率である高血糖有病度指数(HPI)または該HPIから導出される値を決定するステップ、および
(c4)個人の空腹時グルコース測定値、食前グルコース測定値、および食後グルコース測定値を低血糖しきい値と比較することによって、低血糖事象の数を決定するステップ
のうちの1つまたは複数を含む個人のグルコース測定値の分析を実行するステップと、
(d)前記個人の糖尿病薬物治療の指導において支援するステップであって、プロセッサユニットによって実行され、かつステップ(c)において実行される分析の結果と、
(d1)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の空腹時グルコースへの効果、
(d2)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の食後グルコースへの効果、
(d3)少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数(HEI)であって、薬物に対する高血糖有効性指数(HEI)が、前記薬物の食後グルコースへの効果に対する前記薬物の空腹時グルコースへの効果の比率である、少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数(HEI)、および
(d4)少なくとも10個の糖尿病薬物が低血糖を引き起こすリスク
のうちの1つまたは複数に基づく、ステップと、を含み、
(d1)および(d2)における効果、(d3)における指数、ならびに(d4)におけるリスクが、メモリからの前記少なくとも10個の糖尿病薬物についてのデータベースから確立され、
ステップ(c1)および/または(c2)における第1および/または第2の統計パラメータが、メモリから確立され、許容されるべき偏差を表す第1および/または第2の統計パラメータについてのそれぞれの所定の最大値よりも大きいことが、前記個人において高血糖を矯正する必要性を示し、
ステップ(c4)において決定された低血糖事象の数が、メモリから確立された個人の許容されるべき低血糖事象の所定の最大数よりも多いことが、低血糖を回避する必要性を示し、
指導における支援が、前記個人において低血糖を回避する必要性があること、および/または高血糖を矯正する必要性があることを、ステップc)における分析が示している場合に、現在の糖尿病薬物治療の変更の推奨を含み、現在の糖尿病薬物が、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物のうちの1つであり、処理ユニットが、現在の糖尿病薬物の高血糖有効性指数(HEI)と、メモリのデータベースから確立される残りの薬物のHEI値との比較をさらに実行し、かつ推奨される置き換え用の代替の薬物が、現在投与されている薬物に最も類似するHEI値を有しているか、あるいは
指導における支援が、高血糖を矯正する必要性があることをステップ(c)における分析が示している場合に、治療にさらなる糖尿病薬物を追加する推奨を含み、前記少なくとも10個の糖尿病薬物のうち、ステップ(c3)において決定された個人のHPIの値または該HPIから導出された値との差が最も小さいHEI値を有する糖尿病薬物の追加が推奨される、方法。
【請求項2】
指導における支援が、指導における支援を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プロセッサユニットによって実行される支援が、現在の糖尿病薬物を置き換えるための2つ以上の代替の糖尿病薬物を、該代替の糖尿病薬物のHEIの現在の糖尿病薬物のHEIへの類似度に基づいてコンパイルし、ランク付けすることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
現在の糖尿病薬物が、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物のうちの1つであり、処理ユニットが、現在の糖尿病薬物の低血糖を引き起こすリスクと、メモリのデータベースから確立された残りの薬物の低血糖を引き起こすリスクとの比較をさらに実行し、かつ現在の薬物を置き換えるための推奨される代替の薬物が、現在の糖尿病薬物と比較して、低血糖のより低いリスクと関連付けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(i)ステップc1)で決定された第1の統計パラメータが、空腹時グルコースしきい値よりも大きいこと、および/または
(ii)ステップc2)で決定された第2の統計パラメータが、食後グルコースしきい値よりも大きいことが、
個人において高血糖を矯正する必要性を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
処理ユニットが、個人のHPI、または該HPIから導出される値と、データベースから確立された少なくとも10個の薬物に対する高血糖有効性指数との比較を実行する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)における分析が、前記個人において低血糖を回避する必要がないこと、および高血糖を矯正する必要がないことを示している場合に、指導における支援が、現在の糖尿病薬物治療を変更しない推奨を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
方法が、充分なグルコースデータがステップa)で受信されたかどうかの分析を処理ユニットによって実行するステップa1)をさらに含み、かつ受信されたデータが充分でなかった場合、糖尿病薬物治療の指導を支援するための方法が、糖尿病薬物治療の指導をもたらすことなく自動的に終了する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップd)で使用されるデータベースが、少なくとも10個の薬物の(d4)におけるリスク、ならびに(d1)における少なくとも10個の薬物の効果、(d2)における少なくとも10個の薬物の効果、および(d3)における少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数のうちの少なくとも1つに関する情報を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
データベースが、(d1)および(d2)における効果、(d3)における高血糖有効性指数、ならびに(d4)におけるリスクのうちの1つまたは複数に関する用量に特定の情報を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
方法が、少なくとも10個の糖尿病薬物のコストに関する情報をメモリから確立することをさらに含み、かつ糖尿病薬物治療の指導における支援が、少なくとも10個の糖尿病薬剤のコストにさらに基づく、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップd)で作成された指導に関する情報が、個人の電子カルテに自動的に転送される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(c3)が、高血糖有病度指数(HPI)を決定することであり、かつ前記少なくとも10個の糖尿病薬物のうち、ステップ(c3)において決定された個人のHPIの値との差が最も小さいHEI値を有する糖尿病薬物の追加が推奨される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
記憶媒体に格納され、かつ処理ユニット上での動作中に請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されたコンピュータプログラ
ム。
【請求項15】
糖尿病を患う個人の薬物糖尿病治療の指導を支援するための装置であって、処理ユニットと、コンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムとを備え、前記命令が、前記処理ユニットによって実行されたときに、請求項1~13のいずれか一項に記載のコンピュータ実装された方法を処理ユニットに実行させる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値の評価および治療の管理の分野に関する。より具体的には、本発明は、糖尿病を患う個人の糖尿病薬物治療の指導を支援するためのコンピュータ実装された方法に関する。この方法は、処理ユニットにおいて受信されるこの個人からのグルコースデータに基づいており、このグルコースデータは、この個人からの少なくとも3つの空腹時グルコース測定値、ならびに/あるいはこの個人からの少なくとも3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値を含む。さらに、糖尿病を患う個人の薬物糖尿病治療の指導を支援するための装置が、本発明によって意図され、前記装置は、処理ユニットと、コンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムとを備え、前記命令は、処理ユニットによって実行されたときに、本発明のコンピュータ実装された方法を処理ユニットに実行させる。
【背景技術】
【0002】
現代医学の目的は、個人型または個人に合わせた治療法を提供することである。これらは、患者の個人のニーズおよびリスクを考慮した治療法である。とくに重要なリスクは、糖尿病およびその併存疾患の存在である。
【0003】
糖尿病を患う人々の数は、1980年の1億800万人から2014年の4億2200万人へと増加している。2015年には、160万人が糖尿病が直接の原因で亡くなったと推定される。また、2012年には、220万人が高血糖に起因して亡くなったと考えられる。世界中の糖尿病の最も多い原因(型)(約90%)は、多因子病因を有する2型糖尿病によって占められる。これは、失明、腎不全、心臓発作、脳卒中、および下肢切断の主な原因である。
【0004】
糖尿病を患う個人は、体系的かつ組織的な医療へのアクセスを必要とする。糖尿病の転帰を、投薬、生活習慣の変更、および一貫したフォローアップを含む基本的な介入によって有意に改善することができる。糖尿病を患う多数の個人は、大部分は一般開業医によって処置される。個人の治療および糖尿病治療に関する決断の支援において一般開業医および糖尿病専門家を手助けする手段および方法が、必要とされていることは明らかである。
【0005】
Karlsburg Diabetes Management System KADIS(登録商標)が、年齢、性別、糖尿病の型、BMI、食物の摂取および運動、ならびに血糖データ、インスリンおよび他の抗糖尿病薬の投与などの患者からのベースラインデータを使用し、そこから理論グルコースプロファイルを計算している(Salzsieder et al.,Kadis-Programm,Diabetes aktuell 2012;10(4):183-187、またはSalzsieder et al.,J Diabetes Sci Technol 2007;1(4):511-521を参照)。これが、患者について測定されたCGMプロファイル(実験グルコースプロファイル)と比較される。次いで、経験豊富な糖尿病専門医が、利用可能なデータの弱点分析を行い、理論グルコースプロファイルと実験グルコースプロファイルとの間の差を説明できる原因を探す。次いで、個人の代謝データを変更および調整することによって、おおむね正常血糖範囲内にあるグルコース曲線が生成される。例えばインスリンまたは他の抗糖尿病薬の用量などにおける必要な変更が、レポートに要約される。したがって、Kadisシステムの使用は、治療指針の提供に関して人的要因にかなりの程度まで依存している。
【0006】
Simonsonら(Diabetes Management(2011)1(2),175-189)およびNathanら(Diabetes Care,Volume 29,Number 8,August 2006,1963-72)が、2型糖尿病の管理のためのアルゴリズムを記載している。治療アドバイスを与えるためのアルゴリズムは、主にヘモグロビンA1Cデータに基づいている。体系的SMBG(血糖の自己監視)データの定量的分析や、患者データと薬物効果を要約するデータベースとの比較は、行われていない。
【0007】
国際公開第2010/072386号パンフレットが、体系化された試験方法の使用事例としての治療最適化(治療の種類、単剤療法、経口併用、など)を提案している。1回または複数回の食事後の時間における血糖(bG)値の集中的な測定を提案するGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)の体系化された試験手順が、さらに説明されている。これにより、観察された食後のbG値の低下によって治療の有効性を示すことが可能になる。このような観察値に基づいて、GLP-1 RA薬物の推奨用量および/または特定のGLP-1 RAが患者にとってそもそも正しい薬物であるのかどうかを、判断することができる。治療提案を行うためのアルゴリズムは、さらに具体的には記載されていない。
【0008】
したがって、糖尿病を患う個人の糖尿病薬物治療の指導を支援するための手段および方法について、明らかな長年のニーズが存在する。さらに、これらの手段および方法は、糖尿病薬物治療の指導における信頼できる支援を可能にすべきである。具体的には、専門化した糖尿病専門医だけでなく、一般開業医による治療の指導も可能にすべきである。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、上述のニーズに応じるための手段および方法の提供と考えられなければならない。同時に、これらの手段および方法は、上述の先行技術の欠点を回避すべきである。
【0010】
この技術的課題は、特許請求の範囲および以下の本明細書において特徴付けられる実施形態によって解決される。
【0011】
したがって、本発明は、糖尿病を患う個人の糖尿病薬物治療の指導を支援するためのコンピュータ実装された方法に関し、この方法は、
(a)好ましくは前記個人のサンプルからの少なくとも3つの空腹時グルコース測定値、ならびに/あるいは好ましくは前記個人のサンプルからの少なくとも3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値を含む前記個人のグルコースデータを、処理ユニットにおいて受信するステップと、
(b)メモリから、
(b1)空腹時グルコースしきい値、
(b2)食後グルコースしきい値、
(b3)低血糖しきい値、および
(b4)許容されるべき低血糖事象の最大数
のうちの1つまたは複数を確立するステップと、
(c)処理ユニットによって、
(c1)少なくとも3つの空腹時グルコース測定値と空腹時グルコースしきい値との間の偏差を表す第1の統計パラメータを決定するステップ、
(c2)少なくとも3つの食後グルコース測定値と食後グルコースしきい値との間の偏差を表す第2の統計パラメータを決定するステップ、
(c3)ステップ(c2)において決定された第2の統計パラメータに対するステップ(c1)において決定された第1の統計パラメータの比率である高血糖有病度指数(HPI)または該HPIから導出される値を決定するステップ、および
(c4)個人の空腹時グルコース測定値、食前グルコース測定値、および食後グルコース測定値を低血糖しきい値と比較することによって、低血糖事象の数を決定するステップ
のうちの1つまたは複数を含む個人のグルコース測定値の分析を実行するステップと、
(d)前記個人の糖尿病薬物治療の指導において支援するステップであって、プロセッサユニットによって実行され、かつステップ(c)において実行される分析の結果と、
(d1)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の空腹時グルコースへの効果、
(d2)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の食後グルコースへの効果、
(d3)薬物の食後グルコースへの効果に対する該薬物の空腹時グルコースへの効果の比率である少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数(HEI)、および
(d4)少なくとも10個の糖尿病薬物が低血糖を引き起こすリスク
のうちの1つまたは複数に基づく、ステップと、を含み、
(d1)および(d2)における効果、(d3)における指数、ならびに(d4)におけるリスクが、メモリからの前記少なくとも10個の糖尿病薬物についてのデータベースから確立される。
【0012】
一実施形態において、本発明は、上述のとおりの方法であって、
ステップ(c1)および/または(c2)における第1および/または第2の統計パラメータが、メモリから確立され、許容されるべき偏差を表す第1および/または第2の統計パラメータについてのそれぞれの所定の最大値よりも大きいことが、前記個人において高血糖を矯正する必要性を示し、
ステップ(c4)において決定された低血糖事象の数が、メモリから確立される個人の許容されるべき低血糖事象の所定の最大数よりも多いことが、低血糖を回避する必要性を示し、
指導における支援が、前記個人において低血糖を回避する必要性があること、および/または高血糖を矯正する必要性があることを、ステップc)における分析が示している場合に、現在の糖尿病薬物治療の変更の推奨を含み、現在の糖尿病薬物が、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物のうちの1つであり、処理ユニットが、現在の糖尿病薬物の高血糖有効性指数(HEI)と、メモリのデータベースから確立される残りの薬物のHEI値との比較をさらに実行し、かつ推奨される置き換え用の代替の薬物が、現在投与されている薬物に最も類似するHEI値を有しているか、あるいは
指導における支援が、高血糖を矯正する必要性があることをステップ(c)における分析が示している場合に、治療にさらなる糖尿病薬物を追加する推奨を含み、前記少なくとも10個の糖尿病薬物のうち、ステップ(c3)において決定された個人のHPIの値または該HPIから導出される値との差が最も小さいHEI値を有する糖尿病薬物の追加が推奨される、方法に関する。
【0013】
本発明の方法は、コンピュータ実装された方法である。典型的には、本発明のコンピュータ実装された方法のすべてのステップは、コンピュータまたはコンピュータネットワークの1つまたは複数の処理ユニットによって実行される。
【0014】
本発明のコンピュータ実装された方法は、糖尿病を患う個人の糖尿病薬物治療の指導を支援する。本明細書で使用されるとき、「糖尿病薬物治療の指導」または「糖尿病薬物治療を指導する」という用語は、好ましくは、糖尿病(2型糖尿病など)を患う個人の糖尿病薬物治療を変更するか否かを推奨または決定することを意味する。したがって、この用語は、個人に具体的に適用できる治療手段についての提案を行うこと、すなわち現在の治療を変更するか、あるいは継続するかについての提案を行うことを指す。一実施形態において「糖尿病薬物治療の指導」または「糖尿病薬物治療を指導する」という用語は、推奨される治療または患者の健康管理の手段を実際に適用することを包含しない。本発明のコンピュータ実装された方法を実行することにより、糖尿病薬物治療の変更を必要とする個人、または必要としない個人を、識別することができる。したがって、本発明は、糖尿病薬物治療の変更を必要とする個人または必要としない個人を識別する方法に関する。典型的には、前記治療の変更を必要とする個人は、この変更から恩恵を受けると考えられる。この変更から恩恵を受ける個人において、典型的には、低血糖のリスクが低くなり、かつ/または血糖管理の改善が得られると考えられる。
【0015】
当業者であれば理解できるとおり、本発明の方法によって行われる判断は、通常は、治療の指導の対象となる個人の100%について正しいとは限らない。この用語は、典型的には、判断が個人のうちの統計的に有意な一部(例えば、コホート研究におけるコホート)について正しいことを必要とする。一部が統計的に有意であるかどうかは、例えば信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーの検定などのさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者であればさらなる苦労を必要とせずに判断することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statistics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983において見られる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0016】
本発明のコンピュータ実装された方法は、糖尿病薬物治療の指導の支援を可能にする。この方法は、対象の個人にとって適切な処置を提案すべきである。処置の提案は、現在の薬物を別の薬物で置き換えること、現在投与されている薬物の用量を増やすこと、あるいは薬物を現在投与されている1つまたは複数の薬物に追加すること、などの代替の治療の提案を含むことができる。また、現在の薬物に追加することができ、あるいは現在の薬物を置き換えることができる代替の薬物のリストを提示することができる。処置に関する最終決定を、主治医、すなわち個人を処置する医師が行うことができる。したがって、本発明の方法は、対象の個人の治療の指導において主治医を支援する。
【0017】
上述の方法との関連において本明細書で使用されるとき、「対象」および「個人」という用語は、哺乳動物などの動物に関する。本発明の一実施形態において、個人は、人間である。薬物治療が指導される個人は、糖尿病に罹患していると考えられる。一実施形態において、「糖尿病」または「糖尿」という用語は、1型糖尿病を指す。別の実施形態において、「糖尿病」または「糖尿」という用語は、2型糖尿病を指す。「1型糖尿病」および「2型糖尿病」という用語は、技術的に周知である。2型糖尿病においては、インスリンの分泌が不充分である。多くの場合、インスリンレベルは、とりわけ疾患の初期において高いが、末梢インスリン抵抗性およびグルコースの肝臓での産生の増加ゆえに、インスリンレベルが血漿グルコースレベルを正常化するには不充分になる。その後、インスリン産生が低下し、高血糖がさらに悪化する。
【0018】
本明細書において使用されるとき、「糖尿病薬物治療」という用語は、典型的には、2型糖尿病などの糖尿病の薬物に基づく治療を指す。一実施形態において、薬物は、経口投与または皮下投与される糖尿病薬物である。典型的には、薬物は、以下の種類の糖尿病薬物、すなわちビグアニド、スルホニルウレア、α-グルコシダーゼ阻害剤、グリニド、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤、SGLT-2阻害剤、GLP-1 RA、およびチアゾリジンジオンのうちの1つまたは複数から選択される。一実施形態において、本明細書で使用される「糖尿病薬物」という用語は、長期の(基本的な)活性または即時の(食事の)活性を有するインスリンまたはインスリン類似体も包含する。
【0019】
上記の種類に属する典型的な薬物は、以下のとおりである。
・ ビグアニド:メトホルミン;
・ スルホニルウレア(SU):グリメピリド、グリクラジド;
・ グリニド:レパグリニド;
・ α-グルコシダーゼ阻害剤:アカルボース;
・ ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤:シタグリプチン、アログリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、リナグリプチン;
・ SGLT-2阻害剤:エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリプロジン;
・ GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA):リラグルチド、エキセナチドBID、エキセナチドLAR、デュラグルチド、リキシセナチド;
・ チアゾリジンジオン:ピオグリタゾン。
【0020】
「糖尿病薬物治療」という用語が、上述の薬物または薬物の種類に限定されないことを、理解されたい。「糖尿病薬物」という用語は、糖尿病の治療を目的とするあらゆる薬物または薬物の組み合わせを包含する。
【0021】
典型的には、対象の個人は、対象となる時点において上述の薬物のうちの1つまたは2つ(本明細書において「現在の薬物」または「現在の複数の薬物」と呼ばれる)をすでに使用している。あるいは、対象の個人は、薬物未投与であってよく、すなわち、これまでに糖尿病薬物治療を受けていない個人であってよい。
【0022】
本発明の方法のステップa)は、処理ユニットにおいて、個人のサンプルからのグルコースデータを受信することを含む。
【0023】
一実施形態において、このグルコースデータは、個人のサンプルからの少なくとも3つ、すなわち3つ以上の空腹時グルコース測定値と、個人のサンプルからの少なくとも3つ、すなわち3つ以上の一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値とを含む。本発明の研究において、3つの空腹時グルコース測定値ならびに3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値が、糖尿病薬物治療の指導において充分な補助を可能にすることが示されている。3つ未満の空腹時グルコース測定値および3つ未満の一致した値であると、充分な指導をもたらせない可能性がある。
【0024】
本発明の方法のさらなる実施形態において、前記グルコースデータは、個人のサンプルからの4~6つの空腹時グルコース測定値と、個人のサンプルからの4~6つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値とを含む。値の数がこの数であると、糖尿病治療の良好な指導が可能になる。
【0025】
さらなる実施形態において、前記グルコースデータは、個人のサンプルからの7つ以上の空腹時グルコース測定値と、個人のサンプルからの7つ以上の一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値とを含む。値の数がこの数であると、糖尿病治療のきわめて良好な指導が可能になる。
【0026】
グルコースデータは、特定の期間内に対象の個人から得られたサンプルにおける測定に基づくべきである。一実施形態において、これらのサンプルは、少なくとも3日の期間内に個人から得られたサンプルである。別の実施形態において、サンプルは、約30日または約45日の期間内に得られたサンプルである。
【0027】
空腹時グルコース測定値は、典型的には、空腹時血液サンプル中のグルコース濃度の値、すなわち空腹時血糖(FBG)濃度の値である。一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値は、好ましくは、少なくとも3つの一致した食前および食後血液サンプル中のグルコース濃度の値である。したがって、本発明の方法のステップa)において受信されるデータは、典型的には、前記個人からの少なくとも3つの空腹時血液サンプルならびに少なくとも3つの一致した食前および食後血液サンプルにおいて測定されたグルコース濃度値を含む。血液サンプルは、例えば、毛細血管全血サンプルまたは静脈血サンプルであってよい。
【0028】
しかしながら、本発明は、血液サンプルに限定されない。原則として、サンプルは、皮下脂肪組織中の間質液、血漿、または血清などの別の体液サンプルであってもよい。
【0029】
上述のように、グルコースデータは、空腹時グルコース測定値、すなわち空腹時血液サンプルなどの空腹時サンプルにおいて測定された値を含む。空腹時サンプルは、典型的には、試験対象となるサンプルの取得に先立って水を除く食物および飲料を控えた個人から取得されたサンプルである。例えば、個人は、空腹時グルコース測定値のためのサンプルの取得に先立ち、少なくとも8時間にわたって、水を除く食物および飲料を控えた。また、サンプルは、一晩の絶食後に個人から得られたサンプルであってよい。
【0030】
グルコースデータは、少なくとも3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値をさらに含む。この文脈における「一致」という用語は、当技術分野において周知である。一致した値は、同じ食事から得られた値であり、すなわち、食前値が、食事の前に取得されたサンプルにおいて測定された値であり、食後値は、この食事の後、典型的には2時間後のサンプルにおいて測定された値である。食事は、任意の食事であってよい。
【0031】
典型的には、本発明の方法は、グルコース値の測定を包含しない。したがって、「グルコースデータを受信する」という表現は、サンプル中のグルコースの量の決定を包含せず、とくにはサンプルの取り出しを包含しない。しかしながら、1つまたは複数のサンプルにおけるバイオマーカーグルコースの量の測定が、本発明の方法を実施するための前提条件であることを理解されたい。グルコースデータは、一実施形態において、記憶媒体から受信されても、個人によって提供されてもよい。
【0032】
値は、周知の方法によって、周知の装置で測定されているものと考えられる。本発明の方法の一実施形態において、値は、グルコース、とくには血糖の測定を可能にする装置(血糖測定器など)を使用することによって測定されている。一実施形態において、装置は、例えば(ステップa)に必要な)グルコースデータを記録するために対象の個人によって使用される血糖測定器などの血糖自己管理(SMBG)装置である。グルコースデータは、典型的には、データを装置から処理ユニットへとアップロードまたは送信することにより、処理ユニットによって受信される。あるいは、グルコースデータは、データをユーザインターフェースを介して入力することにより、処理ユニットによって受信されてよい。
【0033】
本発明の一実施形態において、本発明の方法は、ステップa)で受信したグルコースデータが指導の支援に充分であるか否かを評価するステップa1)をさらに含む。このステップは、処理ユニットによって実行されると考えられる。グルコース測定値の数が不充分である場合、処理ユニットは、測定値の数が不充分であるという警告メッセージをディスプレイ上に提示する。あるいは、測定値の数が不充分である場合に、プロセッサがインジケータを介して可聴警報をもたらすことができる。上述のように、本発明の根底にある研究において、3つの空腹時グルコース測定値ならびに3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値が、糖尿病薬物治療の指導において充分な補助を可能にすることが示されている。3つ未満の空腹時グルコース測定値および3つ未満の一致した値であると、典型的には、指導にとって不充分である。
【0034】
本発明の方法のステップb)において、以下のパラメータのうちの1つまたは複数が、メモリから確立される。
(b1)空腹時グルコースしきい値
(b2)食後グルコースしきい値
(b3)個人の低血糖しきい値
(b4)個人の許容されるべき低血糖事象の最大数
【0035】
したがって、処理ユニットは、メモリから上述のパラメータのうちの1つまたは複数を取り出す。一実施形態においては、4つのパラメータすべてが確立され、すなわちメモリから取り出される。
【0036】
b1)に記載の空腹時グルコースしきい値は、典型的には、空腹時グルコース値、すなわち健康な糖尿病に罹患していない個人の空腹時サンプルにおけるグルコースの値に関する正常範囲の上限である。この値は、典型的には、試験されるすべての個人についてのデフォルト値である。一実施形態において、この値は、約100mg/dlのグルコース濃度である。
【0037】
b2)に記載の食後グルコースしきい値は、典型的には、食後グルコース値、すなわち健康な糖尿病に罹患していない個人からの食後サンプルにおけるグルコースの値に関する正常範囲の上限である。この値は、典型的には、試験されるすべての個人についてのデフォルト値である。一実施形態において、この値は、約140mg/dlのグルコース濃度である。
【0038】
b3)に記載の個人の低血糖しきい値は、この個人における低血糖事象の診断を可能にする(グルコースの)基準濃度の値である。上述の方法のステップa)において受信した個人からのグルコース測定値が、個人の低血糖しきい値よりも低い場合、この個人は、臨床的に意味のある低血糖事象を抱えている。ステップa)において受信した値のうちの2つが前記しきい値を下回る場合、個人は、2つの臨床的に意味のある低血糖事象を抱えている。しきい値は、個人的要因または個人の病歴に依存し得る。しかしながら、この値は、試験されるすべての個人についてのデフォルトしきい値であってもよい。一実施形態において、しきい値は、70mg/dl未満のグルコース濃度である。別の実施形態において、しきい値は、約70mg/dlのグルコース濃度である。
【0039】
b4)に記載の個人の許容されるべき低血糖事象の最大数は、約30日または約45日の期間などの所定の期間内に試験の対象において生じ得る事象の最大数である。この数は、個人的要因または個人の病歴に依存し得る。例えば、より若い個人は、より高齢の個人よりも良好に低血糖エピソードを許容する。しかしながら、この数は、試験されるすべての個人についてのデフォルト数であってもよい。一実施形態において、最大数は0(ゼロ)であり、すなわち低血糖事象は許容されない。別の実施形態において、最大数は1である。
【0040】
ステップb)で確立されたすべての値、しきい値、または数は、個人について個別に設定されても、(デフォルトとして)試験されるすべての対象について設定されてもよい。本発明の方法によれば、それらを個人の医療記録からも導出することが可能である。
【0041】
本発明の方法の一実施形態において、ステップb)は、メモリから、
・ 個人の現在の薬物糖尿病治療、好ましくは使用中の薬物およびこの薬物の用量;
・ 個人の氏名、年齢、性別、および/または民族;
・ 個人の体重(Kg)および/または肥満;
・ 個人の身長(cm);
・ 個人のクレアチニンレベルおよび/または推定糸球体ろ過率;
・ 個人の心血管疾患の病歴;
・ 個人の腎疾患の病歴;
・ 記録された個人の最終HbA1c値;
・ 個人の目標HbA1c
のうちの1つまたは複数についての情報を確立することをさらに含むことができる。
【0042】
このさらなる情報も、とくには肥満に悩まされ(すなわち、BMI>30であり)、心血管疾患および/または糖尿病性腎疾患を抱え、75歳を超えており、さらには/あるいは腎機能不全を抱えている(すなわち、eGFR<60である)個人に関する具体的な薬物の選択に影響を及ぼす可能性があることを、理解できるであろう。
【0043】
さらに、前記少なくとも10個の薬物のコストに関する情報を、メモリから確立することができる。
【0044】
本発明の方法のステップ(c)において、ステップa)で受信した個人のグルコース測定値の分析が行われる。この分析は、以下のステップ、すなわち
(c1)少なくとも3つの空腹時グルコース測定値と空腹時グルコースしきい値との間の偏差を表す第1の統計パラメータを決定するステップ、
(c2)少なくとも3つの食後グルコース測定値と食後グルコースしきい値との間の偏差を表す第2の統計パラメータを決定するステップ、
(c3)ステップ(c2)において決定された第2の統計パラメータに対するステップ(c1)において決定された第1の統計パラメータの比率である高血糖有病度指数(HPI)を決定し、あるいは一実施形態においては該HPIから導出される値を決定するステップ、および
(c4)個人の空腹時グルコース測定値および食後グルコース測定値を個人の低血糖しきい値と比較することによって、低血糖事象の数を決定するステップ
のうちの1つまたは複数を含むことができ、典型的にはこれらのステップをすべて含むことができる。
【0045】
ステップ(c1)は、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値と空腹時グルコースしきい値との間の偏差を表す第1の統計パラメータを決定することを含む。一実施形態において、この統計パラメータは、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値である。一実施形態において、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値と空腹時グルコース値しきい値との間の差が、処理ユニットによって計算される。したがって、このステップは、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値の決定、すなわち計算も含むことができる。別の実施形態において、統計パラメータは、少なくとも3つのグルコース測定値の各々と空腹時グルコースしきい値との間の偏差の中央値であってよい。したがって、このステップは、最初に偏差を計算し、その後にこれら偏差の中央値を決定することを含むことができる。
【0046】
本明細書で言及される中央値の代わりに、一般に、平均あるいはそこから導出される任意のパラメータまたは値を使用することができる。
【0047】
ステップ(c2)は、少なくとも3つの食後グルコース測定値と食後グルコースしきい値との間の偏差を表す第2の統計パラメータを決定することを含む。一実施形態において、この第2の統計パラメータは、少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値である。一実施形態において、少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値と食後グルコース値の上側しきい値との間の差が、処理ユニットによって計算される。したがって、このステップは、少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値の決定、すなわち計算も含むことができる。別の実施形態において、統計パラメータは、少なくとも3つの食後グルコース測定値の各々と食後グルコースしきい値との間の偏差の中央値であってよい。したがって、このステップは、最初に偏差を計算し、その後にこれら偏差の中央値を決定することを含むことができる。
【0048】
ステップ(c3)は、ステップ(c2)において決定された第2の統計パラメータに対するステップ(c1)において決定された第1の統計パラメータの比率である高血糖有病度指数(HPI)を決定することを含む。本明細書で使用されるとき、比率は、一般に、第1および第2の統計パラメータの間の数学的関係であって、これらのパラメータの互いの割合を表す任意の数学的関係を指し、例えば、比率は、商、率、割合、あるいはこれらから導出される任意のパラメータまたは値であってよい。一実施形態において、HPIから導出される値は、HPIにスケーリング係数を乗算することによって得られる値である。スケーリング係数は、一実施形態においては1未満であり、一実施形態においては0.5から0.9までであり、さらなる実施形態においては0.6から0.8までであり、さらなる実施形態においては約0.7であり、さらなる実施形態においては0.7である。当業者であれば理解できるとおり、HPIをスケーリングする効果は、一実施形態においては、例えばステップ(c1)において決定された第1の統計パラメータをスケーリングし、あるいはステップ(c2)において決定された第2の統計パラメータをスケーリング係数の逆数でスケーリングするなどにより、当業者に知られた他の標準的な数学的操作によっても達成可能である。さらに、一実施形態においては、HPIをスケーリングする代わりに、例えばHPIと比較に先立ってデータベース内のHEI値をスケーリングするなど、同等の手段をとることができる。
【0049】
ステップ(c4)は、個人の空腹時、食前、および食後グルコース測定値を個人の低血糖しきい値と比較することによって、低血糖事象の数を決定することを含む。したがって、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の各々、ならびに少なくとも3つの食前および食後グルコース測定値の各々が、個人の低血糖しきい値と比較される。このしきい値を下回る値の数が決定され、すなわち処理ユニットによって計算される。このしきい値を下回る各々の値が、低血糖事象を表す。
【0050】
ステップd)は、前記個人の糖尿病薬物治療の指導における支援を含み、この支援は、プロセッサユニットによって実行され、ステップc)において実行された分析の結果と、
(d1)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の空腹時グルコースへの効果、
(d2)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の食後グルコースへの効果、
(d3)薬物の食後グルコースへの効果に対するこの薬物の空腹時グルコースへの効果の比率である少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数(HEI)、および
(d4)少なくとも10個の糖尿病薬物が低血糖を引き起こすリスク
のうちの1つまたは複数とに基づき、
(d1)および(d2)における効果、ならびに(d3)におけるリスクは、メモリからの少なくとも10個の糖尿病薬物についてのデータベースから確立される。
【0051】
使用される「効果」という用語は、少なくとも10個の異なる薬物のいずれか1つによって(例えば、治療の開始後24~26週間の時間枠内で)引き起こされる上述のグルコース値の統計的に有意な変化を指す。
【0052】
「データベース」という用語は、当業者にとって周知である。本明細書において使用されるとき、この用語は、組織化されたデータの集合を指す。本発明に従って使用されるデータベースは、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物に関する情報を含むと考えられる。一実施形態において、データベースは、(d1)、(d2)、および(d3)で指定される情報、すなわち空腹時グルコース値への少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の効果、食後グルコース値への少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の効果、および少なくとも10個の糖尿病薬物の低血糖を引き起こすリスクを含む。他の箇所でさらに詳細に説明されるように、データベースは、(d4)についての情報、すなわち少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数をさらに含むことができる。
【0053】
好ましい糖尿病薬物は、本明細書の他の箇所に開示されている。
【0054】
本発明の方法の一実施形態において、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物は、少なくとも5つの異なる薬物の分類に属する。一実施形態において、5つの異なる薬物の分類は、以下の8つの薬物の分類、すなわちビグアニド、スルホニルウレア、α-グルコシダーゼ阻害剤、グリニド、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤、SGLT-2阻害剤、GLP-1 RA、およびチアゾリジンジオンから選択される。
【0055】
本発明の方法の別の実施形態において、データベースは、少なくとも15個の異なる糖尿病薬物について、(d1)および(d2)における効果、(d4)におけるリスク、ならびに随意による(d3)における高血糖有効性指数に関する情報を含む。前記薬物は、前の段落に列挙した8つの薬物の種類に属することができる。
【0056】
本発明の方法の別の実施形態において、データベースは、上記列挙の8つの薬物の種類に属する少なくとも19個の異なる糖尿病薬物について、(d1)および(d2)における効果、(d4)におけるリスク、ならびに随意による(d3)における高血糖有効性指数に関する情報を含む。
【0057】
本発明の方法の一実施形態において、データベースは、第III相無作為化対照試験の分析に基づいて確立されており、すなわち少なくとも10個の異なる薬物についての第III相無作為化対照試験の結果を分析することによって確立されている。そのような結果を、例えば、試験の結果を開示する科学刊行物または規定文書によって評価することができる。個々の薬物についてのそのような試験を記載する適切な科学刊行物を、例えばPubMedによって特定することができる。一実施形態において、試験は、2型糖尿病患者などの糖尿病患者の大集団を評価し、空腹状態、食前状態、および食後状態において行われた判定による7点または8点の自己監視血糖データを報告している。一実施形態において、試験は、重い併存疾患のない2型糖尿病患者のみを含む。
【0058】
データベースを確立させるために、(d1)および(d2)の効果ならびに(d4)のリスクについて公開された情報を考慮することができる。(d3)の指数は、分析された試験について公開された情報に基づいて決定することができる。
【0059】
分析された試験は、単剤療法についての情報を含むことができ、すなわち単一の糖尿病薬物の投与のみを取り扱うことができる。しかしながら、それらが、少なくとも10個の薬物のうちの2つまたは3つの薬物による併用療法についての情報を含むことも考えられる。したがって、ステップd)で使用されるデータベースは、少なくとも10個の薬物の単剤療法、ならびに少なくとも10個の薬物のうちの2つまたは3つの薬物による併用療法について、(d1)および(d2)における効果、(d4)におけるリスク、ならびに随意による(d3)における高血糖有効性指数に関する情報を含むことが想定される。
【0060】
分析された試験は、(d1)および(d2)における効果ならびに(d4)におけるリスクについて、用量ごとの情報を含むことができる。したがって、ステップd)で使用されるデータベースは、(d1)および(d2)における効果ならびに(d4)におけるリスクについて、用量ごとの情報を含むことが想定される。
【0061】
上述のように、本発明のコンピュータ実装された方法は、糖尿病を患う個人の現在の糖尿病薬物治療を変更すべきかどうか(すなわち、前記対象の現在の治療を継続することができるかどうか)を評価することを可能にする。
【0062】
治療を変更すべきかどうかの評価は、好ましくは、本発明の方法のステップc)で行われる分析の結果に基づく。
【0063】
典型的には、ステップc)における分析が、前記個人において低血糖を回避する必要があることを示す場合、および/またはステップc)における分析が、単に前記個人において高血糖を矯正する機会を含む必要性が存在することを示す場合、(現在の)糖尿病薬物治療の変更が推奨される。
【0064】
また、ステップc)における分析が、前記個人において低血糖を回避する必要がなく、かつ前記個人において高血糖を矯正する必要がないことを示す場合、(現在の)糖尿病薬物治療を変更する必要はない。したがって、現在の治療を継続することが推奨される。
【0065】
低血糖を回避する必要性
低血糖を回避する必要があるかどうかに関する評価は、典型的には、本発明の方法のステップc4)に記載の判定に基づく。本発明によれば、ステップ(c4)で判定された低血糖事象の数が、個人の許容されるべき低血糖事象の最大数よりも大きい場合、低血糖を回避する必要がある。上述のように、個人の許容されるべき低血糖事象の最大数に関する情報は、メモリから確立されると考えられる(b4を参照)。
【0066】
個人について低血糖を回避する必要があると識別された場合、本方法によって推奨される変更は、医師にとって、
a)現在の薬物、すなわち糖尿病治療のために現在投与されている薬物の用量を減らすこと、または
b)現在の薬物を代替の薬物で置き換えること
を示す。
【0067】
現在の薬物を置き換える代替の薬物に関しては、典型的には、現在の薬物と比較して低血糖のリスクがより低い。したがって、この代替の薬物の投与は、現在の薬物の投与よりも低血糖のリスクが低い。
【0068】
代替の薬物が現在の薬物よりも低血糖のリスクが低いかどうかは、データベース内の情報に基づいて、処理ユニットによって評価することが可能である。上述のように、本発明の方法において使用されるデータベースは、少なくとも10個の糖尿病薬の各々について、低血糖を引き起こすリスクに関する情報を含む。一実施形態において、データベースは、少なくとも10個の薬物のランキングを含み、このランキングは、少なくとも10個の糖尿病薬物の低血糖を引き起こすリスクに基づく。ランキングは、典型的には、より低いリスクからより高いリスクへのランキングである。
【0069】
リスクを、低いスコアが低いリスクに関連し、中程度のスコアが中程度のリスクに関連し、高いスコアが高いリスクに関連するスコアとして表すことも可能である。スコアに基づいて、低血糖リスク指数を確立できる。
【0070】
ランキング、スコア、または低血糖リスク指数を、ディスプレイに表示することができる。ランキングに基づいて、より低いリスクに関連する代替の薬物が推奨される。一実施形態において、代替の薬物は、(本明細書の他の箇所で説明されるように)現在の薬物と同じまたは基本的に同じ高血糖有効性指数を有する。
【0071】
処理ユニットによって実行されるステップc)における判定が、低血糖を回避する必要がないことを示す場合、すなわち低血糖事象の数が個人の許容されるべき低血糖事象の最大数以下である場合、現在の薬物の用量を減らしたり、現在の薬物を現在の薬物と比べて低血糖のリスクが低い代替の薬物と置き換えたりする必要はない。しかしながら、処理ユニットは、個人において高血糖を矯正する必要があるかどうかを評価する。
【0072】
一実施形態において、代替の薬物、すなわち現在の薬物を置き換えるように推奨される薬物は、現在投与されている薬物と同じまたは基本的に同じ高血糖有効性指数(HEI)を有する。したがって、推奨は、本明細書の他の箇所でさらに詳細に説明されるように、HEIも考慮に入れることができる。
【0073】
高血糖を矯正する必要性
高血糖を矯正する必要があるかどうかに関する評価は、典型的には、本発明の方法のステップc1)およびc2)において実行される判定に基づく。ステップc1)およびc2で行われた判定の結果、単に高血糖を矯正する機会を含む必要があることが示された場合、糖尿病薬物治療の変更が推奨される。糖尿病治療のどの変更が推奨されるかは、さらなる因子に依存する可能性があり、さらなるステップ(例えば、本明細書において後述されるステップc3)およびc5))を必要とする可能性がある。
【0074】
一実施形態においては、
・ ステップc1)における分析により、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値が前記空腹時グルコース基準値よりも大きい場合、および/または
・ ステップc2)における分析により、少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値が食後グルコース基準値よりも大きい場合に、
単に高血糖を矯正する機会を含む必要がある。
【0075】
別の実施形態においては、
・ ステップc1)における分析により、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値と空腹時グルコースしきい値との間の偏差、すなわち差が、(c1における偏差についての)しきい値よりも大きい場合、および/または
・ ステップc2)における分析により、少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値と食後グルコースしきい値との間の偏差、すなわち差が、(c2における偏差についての)しきい値よりも大きい場合に、
高血糖を矯正する必要がある。
【0076】
ステップc1)における偏差を示す第1の統計パラメータは、典型的には、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値から空腹時グルコースしきい値を引き算することによって(すなわち、「少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値」-「空腹時グルコースしきい値」という計算を実行することによって)計算される。上述のように、空腹時グルコースしきい値は、メモリから確立されると考えられる。
【0077】
したがって、ステップc1)で計算される偏差は、超過空腹時グルコース値である。前記値がしきい値より大きい場合、単に高血糖を矯正する機会を含む必要がある。
【0078】
ステップc2)における偏差を示す第2の統計パラメータは、典型的には、少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値から食後グルコースしきい値を引き算することによって(すなわち、「少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値」-「食後グルコースしきい値」という計算を実行することによって)計算される。上述のように、食後しきい値グルコース値は、メモリから確立されると考えられる。
【0079】
したがって、ステップc2)で計算される偏差は、超過食後グルコース値である。前記値がしきい値より大きい場合、単に高血糖を矯正する機会を含む必要がある。
【0080】
ステップc1)およびc2)において適用されるしきい値は、予め定められたしきい値であってよい。しきい値の値は、典型的には、やはりデータベースから確立される。
【0081】
一実施形態において、ステップc1)において適用されるしきい値は、空腹時グルコース中央値と空腹時グルコースしきい値との間の差について少なくとも25mg/dlである。このしきい値(空腹時グルコース値について25mg/dl)は、臨床の実務から、いくつかの治療の変更を開始するために臨床的に有意であるように決定される。
【0082】
例えば、空腹時グルコースしきい値(b1)は、100mg/dlである。少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値は、130mg/dlである。ステップc1)の偏差に関し、あらかじめ定められたしきい値は、25mg/dlである。したがって、ステップc1)において決定される差は、30mg/dl(130-100mg/dl)である。この差は、ステップc1)における偏差のしきい値よりも大きいため、単に空腹時高血糖を矯正する機会を含む必要がある。
【0083】
一実施形態において、ステップc2)における偏差のしきい値は、食後グルコース測定値の中央値と食後グルコースしきい値との間の差について、少なくとも20mg/dlである。食後グルコース値についてのこのしきい値(20mg/dl)は、臨床の実務から決定され、いくつかの治療の変更の評価を開始するために臨床的に有意である。この理由で、いずれの場合も、食後グルコース値の中央値マイナス140が20mg/dlよりも小さい場合、この値は、以降の計算に関して20mg/dlに設定される。
【0084】
例えば、食後グルコースしきい値(b2)が、140mg/dlである。少なくとも3つの食後グルコース測定値の中央値が、165mg/dlである。ステップc2)の偏差について、あらかじめ定められたしきい値は、20mg/dlである。したがって、ステップc2)において決定される差は、25mg/dl(165-140mg/ml)である。この差は、ステップc2)における偏差のしきい値よりも大きいため、単に高血糖を矯正する機会を含む必要がある。
【0085】
個人が、本発明の方法によって高血糖を矯正する必要があると特定された場合、本方法によって推奨される薬物糖尿病治療の変更は、好ましくは、
(a)現在の糖尿病薬物の用量を増やすこと、
(b)個人の治療にさらなる糖尿病薬物を追加すること、および
(c)1つまたは複数の現在投与されている薬物を、1つまたは複数の代替の薬物で置き換えること
のうちの1つまたは複数である。
【0086】
さらに、推奨される変更は、
(d)個人の治療への食事時インスリンまたは基礎インスリンあるいは基礎インスリンとGLP-1 RAとの固定された比の組み合わせの追加
であってよい。
【0087】
(a)、(b)、または(c)、あるいは(a)、(b)、(c)、または(d)が推奨されるかどうかの最終決定を、主治医が行うことができる。したがって、すべての選択肢を表示することができる。用量を変更する場合、医師は、すでに表示されている数字を変更することによって用量を直接変更することができる。薬物の置き換えまたは薬物の追加の場合、推奨される薬剤のリストを表示することができる。リストに基づいて、薬物に関する決定を行うことができる。一実施形態において、使用中の薬物、禁止される薬物の組み合わせ、および/または患者のeGFRに従って禁忌である薬物は、推奨される薬物のリストから除外される。
【0088】
ステップd)においてどの特定の薬物が推奨されるかは、典型的には、処理ユニットによって実行されるさらなる決定に基づく。したがって、治療の指導のために、さらなる因子が考慮される。
【0089】
上述のように、ステップc3)は、高血糖有病度指数(HPI)の決定を含み、あるいは一実施形態においてはHPIから導出される値の決定を含み、HPIは、ステップ(c2)で決定された偏差(とくには、超過食後グルコース値)に対するステップ(c1)で決定された偏差(とくには、超過空腹時グルコース値)の比率である。HPIは、糖尿病を患う個々の対象における高血糖の有病度の指標である。
【0090】
このように、比率が算出される。以下に一例を示す。
・ 空腹時グルコース中央値:160mg/dl
・ 食後グルコース中央値:210mg/dl
【0091】
高血糖有病度指数=(中央FBG-100)/(中央PPBG-140)=60/70=0.857であり、一実施形態においては、平均PPBGを中央PPBGの代わりに使用してもよく、かつ/または平均FBGを中央FBGの代わりに使用してもよい。また、一実施形態においては、HPIに例えば0.7などのスケーリング係数を乗算してもよい。
【0092】
したがって、計算された比率、すなわちHPIは、0.857である。
【0093】
本明細書において後述されるように、ステップc3)で行われる決定は、高血糖の矯正を必要とすると特定されたすべての個人に必要というわけではない。しかしながら、このステップが考慮される場合、このステップで計算される比率は、本発明の方法のステップd)における指導に使用される。とくには、治療の変更の推奨は、HPI(あるいは、一実施形態においては、HPIから導出される値)およびデータベース内の少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数に基づき、さらに
(d1)空腹時グルコース値に対する少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の効果、
(d2)食後グルコース値に対する少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の効果、および
(d4)少なくとも10個の糖尿病薬物が低血糖を引き起こすリスク
に基づく。
【0094】
データベースは、
(d3)少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数
をさらに含むことができる。
【0095】
好ましくは、(d1)および(d2)における効果、(d4)におけるリスク、ならびに(d3)における高血糖有効性指数は、メモリからの前記少なくとも10個の糖尿病薬物のデータベースから確立される。
【0096】
(ステップc1)および/またはc2)で行われた判定の結果が、高血糖を矯正する必要があることを示している場合に)糖尿病薬物治療のどの変更が推奨されるべきかを評価するために、典型的には、以下の追加のステップが行われる。
・ 同じ食事における少なくとも3つの一致した食前および食後測定値についての食後測定値と食前血液測定値との間の差の平均値である平均食事グルコース振幅値を決定し、平均食事グルコース振幅値とグルコース振幅しきい値との間の偏差を決定するステップ(c5)。
【0097】
適用されるグルコース振幅しきい値は、典型的には、メモリから確立される。したがって、本発明の方法のステップb)は、メモリからグルコース振幅しきい値を確立するステップ(b5)をさらに含むことができる。
【0098】
b5)におけるグルコース振幅しきい値は、超過グルコース振幅の診断を可能にする基準値である。「グルコース振幅」という用語は、例えば個人の血糖値などの同じ食事における食後および食前のグルコース値の差を指す。食事の摂取後の超過グルコース振幅は、治療の修正を必要とする。グルコース振幅しきい値は、典型的には、最大許容グルコース振幅である。ステップc5)で決定された平均食事グルコース振幅値が、しきい値b5)よりも大きい場合、超過グルコース振幅が存在する。ステップc5)で決定された平均食事グルコース振幅値が、しきい値b5)よりも小さい場合、超過グルコース振幅は存在しない。しきい値は、個人の因子または個人の病歴に依存し得る。しかしながら、この値は、試験されるすべての個人についてのデフォルトしきい値であってもよい。一実施形態において、個人のグルコース振幅しきい値は、グルコース50mg/dlという値である。別の実施形態において、しきい値は、グルコース約60mg/dlという値である。
【0099】
例えば、グルコース振幅しきい値b5)は、60mg/dlである。一実施形態において、グルコース振幅しきい値b5)は、50mg/dlである。ステップc5)で決定される平均食事グルコース振幅値は、70mg/dlである。したがって、処理ユニットは、平均食事グルコース振幅値がしきい値よりも大きいため、超過グルコース振幅が存在すると評価する。
【0100】
一実施形態において、薬物の高血糖有効性指数(HEI)は、この薬物の食後グルコースへの効果に対するこの薬物の空腹時グルコースへの効果(すなわち、(d1)における効果および(d2)における効果)の比率である。一実施形態において、同じ薬物の種類に属する薬物は、同じHEIを有する。
【0101】
一実施形態において、ステップd)で推奨される治療の変更は、ステップc3)で決定された個人の高血糖有病度指数(HPI)(あるいは、一実施形態においては、HPIから導出される値)と、薬物または薬物の種類の高血糖有効性指数(HEI)との比較に基づく。上述のように、薬物または薬物の種類のHEIの情報は、ステップd)で使用されるデータベースに存在する。
【0102】
薬物の追加の場合、添加されるべき薬物の推奨は、典型的には、個人の高血糖有病度指数(HPI)(あるいは、一実施形態においては、HPIから導出される値)と、データベース内の薬物の高血糖有効性指数との間の差に基づく。好ましくは、添加されるべき推奨薬物のHEIは、ステップc3)で決定された個人のHPIに対応する。したがって、HEIと個人のHPI(あるいは、一実施形態においては、HPIから導出される値)との差が最も小さい薬物が推奨される。さらに、追加されるべき代替の薬剤のリストを提示してもよい。一実施形態において、リストはディスプレイに表示される。リストにおいて、薬物は、典型的には、薬物のHEIと個人のHPI(あるいは、一実施形態においては、HPIから導出される値)との差に基づいてランク付けされる。一実施形態において、薬物は、差が最小の薬物から差が最大の薬物へとランク付けされる。追加すべき薬物の最終決定を、主治医が行うことができる。薬物の低血糖リスク指数も表示することができる。
【0103】
薬物の置き換えの場合、現在の薬物を置き換えるべき薬物の推奨は、典型的には、現在の薬物のHEIとデータベース内の薬物または薬物の種類のHEIとの比較に基づく。したがって、本発明の方法は、現在の薬物のHEIをデータベース内の薬物または薬物の種類のHEIと比較するステップを含むことができる。一実施形態においては、現在の薬物のHEIとの差が最も小さいHEIを有する置き換えの薬物が推奨される。さらに、現在の薬物を置き換える代替の薬物のリストを提示することができる。一実施形態において、リストはディスプレイに表示される。リストにおいて、薬物は、典型的には、リスト内の薬物のHEIと現在の薬物のHEIとの差に基づいてランク付けされる。一実施形態において、リスト内の薬物は、差が最も小さい薬物から差が最も大きい薬物へとランク付けされる。現在の薬物を置き換えるべき薬物の最終決定を、主治医が行うことができる。薬物の低血糖リスク指数も表示することができる。
【0104】
以下で、高血糖の矯正が必要であると(ステップ(c1)および/または(c2)に基づいて)特定された個人についての治療の推奨の例を提供する。典型的には、推奨は、ステップ(c3)および/またはステップ(c4)で実行される計算に基づく。
【0105】
例A)ステップc5)に従って、超過グルコース振幅(例えば、50mg/dlよりも大きい)が存在する場合、およびステップc1)に従って、ステップc2)で計算された偏差にかかわらず、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値と空腹時グルコースしきい値との間に中程度の偏差が存在する場合に、リキシセナチド、エキセナチド、およびジペプチジルペプチダーゼ-4阻害剤から選択される糖尿病薬物が推奨される。この場合、本発明の方法のステップc3)で説明した決定も必要とされない。
【0106】
一実施形態において、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値と空腹時グルコースしきい値との間の中程度の偏差は、好ましくは、約35mg/dl未満または約45mg/dl未満の偏差であり、すなわち超過空腹時グルコース値が約35mg/dl未満または45mg/dl未満である。別の実施形態において、中程度の偏差は、約40mg/dl未満の偏差である。
【0107】
例B)ステップc5)に従って、超過グルコース振幅(例えば、60mg/dlよりも大きい)が存在し、かつステップc1)に従って、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値と空腹時グルコースしきい値との間に大きな偏差が存在する場合、推奨はステップc3)に記載の決定に基づく。したがって、高血糖有病度指数が決定される。推奨は、この箇所(B)に記載される。
【0108】
一実施形態において、少なくとも3つの空腹時グルコース測定値の中央値と空腹時グルコースしきい値との間の大きな偏差は、好ましくは、約35mg/dlよりも大きく、あるいは約45mg/dlよりも大きい偏差であり、すなわち超過空腹時グルコース値が約35mg/dlよりも大きく、あるいは45mg/dlよりも大きい。別の実施形態において、大きい偏差は、約40mg/dlよりも大きい偏差である。
【0109】
追加されるべき薬物の推奨は、典型的には、上述のように、個人のHPI(あるいは、一実施形態においては、HPIから導出される値)と、薬物および薬物種類のHEIとの比較に基づく。
【0110】
あるいは、現在の薬物を置き換えることも可能である。この場合、個人のHPIを決定する必要はない。現在の薬物を置き換えるべき薬物の推奨は、典型的には、現在の薬物のHEIと、上述のとおりの薬物および薬物の種類のHEIとの比較に基づく。
【0111】
一実施形態において、(本発明の方法のステップd)による)指導における支援は、指導における支援を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。ここで、例えば治療を継続すべきか、あるいは変更すべきかなど、推奨される処置を示すことができる。本明細書の他の箇所に記載されているように、さまざまな代替の処置および/または代替の薬物を推奨することができる。この場合、代替の処置の選択肢を、ディスプレイに表示することができる。代替の薬物が推奨される場合、薬物のHEIまたは低血糖リスク指数など、治療に関する主治医の決定を支援することができる薬物に関するさらなる情報を、示すことができる。また、薬物のランキングを提供することができる。
【0112】
本発明の方法の一実施形態において、本方法は、本発明の方法のステップd)において作成された指導に関する情報を個人の電子カルテに転送するさらなるステップを含むことができる。
【0113】
さらに、本方法は、個人の糖尿病薬物治療の変更が推奨される場合に、処方箋を電子的に発行するステップを含むことができる。処方箋を、プリンタによって印刷することができる。
【0114】
本発明の方法の一実施形態においては、変更された糖尿病薬物治療を必要とすると特定された個人が、推奨される治療に基づいて処置される。したがって、推奨される治療が開始される。
【0115】
したがって、本発明はさらに、糖尿病を患う個人を処置する方法であって、本発明のコンピュータ実装された方法のステップa)~d)を実行することにより、糖尿病薬物治療の変更が必要である個人を特定し、変更された糖尿病薬物治療を開始することを含む方法に関する。この方法は、前記個人への選択された薬物の投与をさらに含むことができる。
【0116】
さらに、本発明は、コンピュータプログラムに関し、このコンピュータプログラムは、このプログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されたときに薬物糖尿病治療の指導を支援する本発明によるコンピュータ実装された方法のステップを実行するためのコンピュータ実行可能命令を含む。典型的には、コンピュータプログラムは、具体的には、本明細書に開示される方法のステップを実行するためのコンピュータ実行可能命令を含むことができる。とくには、このコンピュータプログラムを、コンピュータ可読データ担体に格納することができる。
【0117】
さらに、本発明は、プログラムがコンピュータまたはコンピュータネットワーク上で実行されるときに、コンピュータプログラムの文脈において述べた上述のステップのうちの1つまたは複数など、本発明による方法を実行するために、プログラムコード手段を機械可読担体に格納したコンピュータプログラム製品に関する。本明細書において使用されるとき、コンピュータプログラム製品は、取り引き可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙形式や、コンピュータ可読データ担体上など、任意の形式で存在してよい。とくには、コンピュータプログラム製品は、データネットワークを介して配布されてもよい。
【0118】
さらに、本発明は、少なくとも1つの処理ユニットを備えており、この処理ユニットが、本発明による方法のすべてのステップ、とくにはステップa)、b)、c)、およびd)を実行するように構成されているコンピュータまたはコンピュータネットワークに関する。
【0119】
さらに、本発明は、
- 少なくとも1つの処理ユニットを備えており、この処理ユニットが、本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されているコンピュータまたはコンピュータネットワーク、
- コンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されたコンピュータロード可能データ構造、
- コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されたコンピュータスクリプト、
- コンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行されているときに本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するためのプログラム手段を備えているコンピュータプログラム、
- 先の実施形態によるプログラム手段をコンピュータにとって読み取り可能な記憶媒体上に格納して備えているコンピュータプログラム、
- データ構造を格納しており、このデータ構造は、コンピュータまたはコンピュータネットワークの主記憶部および/または作業用記憶部にロードされた後に本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成されている記憶媒体、
- プログラムコード手段を有しており、これらのプログラムコード手段が、これらのプログラムコード手段がコンピュータ上またはコンピュータネットワーク上で実行された場合に本明細書に記載の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように、記憶媒体上に格納されてよく、あるいは記憶媒体上に格納されているコンピュータプログラム製品、
- 典型的には暗号化されており、本明細書において上述したように個人から得られたグルコースデータ測定値を含んでいるデータストリーム信号、および
- 典型的には暗号化されており、本発明の方法によって得られた前記個人のための糖尿病薬物治療の指導の支援を提供する情報を含んでいるデータストリーム信号
も想定する。
【0120】
さらに、本発明は、糖尿病を患う個人の薬物糖尿病治療の指導を支援するための装置に関し、この装置は、処理ユニットと、コンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムとを備え、前記命令は、処理ユニットによって実行されたときに、本発明によるコンピュータ実装された方法、すなわち前記方法の各ステップを、処理ユニットに実行させる。一実施形態において、本発明の方法のステップa)~d)が、処理ユニットによって実行される。装置は、ユーザインターフェースおよびディスプレイをさらに備えることができ、処理ユニットは、ユーザインターフェースおよびディスプレイに結合する。典型的には、装置は、薬物糖尿病治療に関する指導を出力としてもたらす。一実施形態において、指導はディスプレイ上に提示される。
【0121】
以下で、特定の実施形態が指定される。
実施形態1:糖尿病を患う個人の糖尿病薬物治療の指導を支援するためのコンピュータ実装された方法であって、
(a)好ましくは前記個人のサンプルからの少なくとも3つの空腹時グルコース測定値、ならびに/あるいは好ましくは前記個人のサンプルからの少なくとも3つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値を含む前記個人のグルコースデータを、処理ユニットにおいて受信するステップと、
(b)メモリから、
(b1)空腹時グルコースしきい値、
(b2)食後グルコースしきい値、
(b3)低血糖しきい値、および
(b4)許容されるべき低血糖事象の最大数
のうちの1つまたは複数を確立するステップと、
(c)処理ユニットによって、
(c1)少なくとも3つの空腹時グルコース測定値と空腹時グルコースしきい値との間の偏差を表す第1の統計パラメータを決定するステップ、
(c2)少なくとも3つの食後グルコース測定値と食後グルコースしきい値との間の偏差を表す第2の統計パラメータを決定するステップ、
(c3)ステップ(c2)において決定された第2の統計パラメータに対するステップ(c1)において決定された第1の統計パラメータの比率である高血糖有病度指数(HPI)を決定し、あるいは一実施形態においては該HPIから導出される値を決定するステップ、および
(c4)個人の空腹時グルコース測定値、食前グルコース測定値、および食後グルコース測定値を低血糖しきい値と比較することによって、低血糖事象の数を決定するステップ
のうちの1つまたは複数を含む個人のグルコース測定値の分析を実行するステップと、
(d)前記個人の糖尿病薬物治療の指導において支援するステップであって、プロセッサユニットによって実行され、かつステップ(c)において実行される分析の結果と、
(d1)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の空腹時グルコースへの効果、
(d2)少なくとも10個の異なる糖尿病薬物の食後グルコースへの効果、
(d3)薬物の食後グルコースへの効果に対するこの薬物の空腹時グルコースへの効果の比率である少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数(HEI)、および
(d4)少なくとも10個の糖尿病薬物が低血糖を引き起こすリスク
のうちの1つまたは複数に基づく、ステップと、を含み、
(d1)および(d2)における効果、(d3)における指数、ならびに/あるいは(d4)におけるリスクは、メモリからの前記少なくとも10個の糖尿病薬物についてのデータベースから確立される、方法。
【0122】
実施形態2:ステップ(b)において、目標空腹時グルコースしきい値、食後グルコースしきい値、低血糖しきい値、および個人が許容すべき低血糖事象の最大数は、メモリから確立され、ステップ(c)における分析は、ステップ(c1)、(c2)、および(c3)を含む、実施形態1に記載の方法。
【0123】
実施形態3:指導における支援は、指導における支援を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される、実施形態1または2に記載の方法。
【0124】
実施形態4:指導における支援は、現在の糖尿病薬物治療を変更するか、あるいは現在の治療を継続するかの推奨を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
実施形態5:ステップc)における分析が、前記個人において低血糖を回避する必要がなく、かつ前記個人において高血糖を矯正する必要がないことを示す場合、現在の糖尿病薬物治療の継続が推奨される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
実施形態6:i)ステップc)における分析が、前記個人において低血糖を回避する必要があることを示す場合、またはii)ステップc)における分析が、前記個人において高血糖を矯正する必要があることを示す場合、現在の糖尿病薬物治療の変更が推奨される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0127】
実施形態7:請求項1のステップ(c4)において決定された低血糖事象の数が、メモリから確立された個人が許容すべき低血糖事象の所定の最大数よりも多いことが、低血糖を回避する必要があることを示す、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0128】
実施形態8:低血糖を回避する必要があると特定された個人について推奨される治療の変更は、
(a)現在の糖尿病薬物の用量を減らすこと、または
(b)現在の糖尿病薬物を代替の糖尿病薬物で置き換えること
を含む、実施形態4~請求項7のいずれか1つに記載の方法。
【0129】
実施形態9:現在の糖尿病薬物は、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物のうちの1つであり、処理ユニットは、現在の糖尿病薬物についての低血糖を引き起こすリスクと、メモリのデータベースから確立される残りの薬物についての低血糖を引き起こすリスクとの比較をさらに実行し、現在の薬物を置き換えるための推奨される代替の薬物は、現在の糖尿病薬物と比較してより低い低血糖のリスクに関連し、随意により、プロセッサユニットによって行われる支援は、現在の糖尿病薬物を置き換えるための2つ以上の代替の糖尿病薬物を低血糖を引き起こすリスクに基づいてコンパイルし、ランク付けすることを含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0130】
実施形態10:現在の糖尿病薬物は、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物のうちの1つであり、処理ユニットは、現在の糖尿病薬物の高血糖有効性指数(HEI)と、メモリのデータベースから確立される残りの薬物のHEIとの比較をさらに実行し、置き換え用の推奨される代替の薬物は、現在投与されている薬物に最も類似した高血糖有効性指数(HEI)を有し、随意により、プロセッサユニットによって行われる支援は、現在の糖尿病薬物を置き換えるための2つ以上の代替の糖尿病薬物を、それらのHEIの現在の糖尿病薬物のHEIへと類似度に基づいてコンパイルし、ランク付けすることを含む、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0131】
実施形態11:ステップ(c1)および/または(c2)における第1および/または第2の統計パラメータが、メモリから確立され、許容されるべき偏差を表す第1および/または第2の統計パラメータについてのそれぞれの所定の最大値よりも大きいことが、前記個人において高血糖を矯正する必要があることを示し、とくには
(i)ステップc1)で決定された第1の統計パラメータが、空腹時グルコースしきい値よりも大きいこと、および/または
(ii)ステップc2)で決定された第2の統計パラメータが、食後グルコースしきい値よりも大きいことが、
個人において高血糖を矯正する必要があることを示す、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0132】
実施形態12:高血糖を矯正する必要があると特定された個人に関する治療の推奨される変更は、
(i)現在の糖尿病薬物の用量を増やすこと、
(ii)現在の糖尿病薬物にさらなる糖尿病薬物を追加すること、
(iii)現在の糖尿病薬物を1つまたは複数の代替の糖尿病薬物で置き換えること、および
(iv)現在の糖尿病薬物に食事時インスリンまたは基礎インスリンあるいは基礎インスリンとGLP-1 RAとの固定された比の組み合わせを追加すること
のうちの1つまたは複数を含む、実施形態11に記載の方法。
【0133】
実施形態13:本発明の方法のステップ(b)は、メモリからグルコース振幅しきい値を確立するステップ(b5)をさらに含み、ステップ(c)は、(c5)同じ食事における少なくとも3つの一致した食前および食後測定値についての食後測定値と食前血液測定値との間の差の平均値であるグルコース振幅値を決定し、平均食事グルコース振幅値とグルコース振幅しきい値との間の偏差を決定することをさらに含む、実施形態11および12に記載の方法。
【0134】
実施形態14:ステップ(c)においてプロセッサユニットによって行われる分析が、個人の高血糖有病度指数(HPI)、あるいは一実施形態においては該HPIから導出される値を決定することをさらに含み、HPIは、ステップ(c2)において決定された第2の統計パラメータに対するステップ(c1)で決定された第1の統計パラメータの比率であり、指導は、この分析ステップ(d3)の結果に基づく、実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0135】
実施形態15:処理ユニットは、個人のHPI、または一実施形態においては個人のHPIから導出される値と、データベースから確立された少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数との比較を行い、随意により、現在の糖尿病薬物のHEIとの比較は除外される、実施形態14に記載の方法。
【0136】
実施形態16:前記少なくとも10個の糖尿病薬物のうち、個人のHPIの値、または一実施形態においては個人のHPIから導出される値との差が最も小さいHEI値を有する糖尿病薬物の追加が推奨される、実施形態15に記載の方法。
【0137】
実施形態17:ステップ(a)で受信されるグルコースデータは、前記個人からの少なくとも6つの空腹時グルコース測定値、ならびに/あるいは前記個人からの少なくとも6つの一致した食前グルコース測定値および食後グルコース測定値を含む、実施形態1~16のうちの1つに記載の方法。
【0138】
実施形態18:当該方法は、ステップa)で充分なグルコースデータが受信されたかどうかの分析を処理ユニットによって実行するステップa1)をさらに含み、糖尿病薬物治療の指導を支援するための当該方法は、受信されたデータが充分でなかった場合、糖尿病薬物治療の指導をもたらすことなく自動的に終了する、実施形態1~17のいずれか1つに記載の方法。
【0139】
実施形態19:測定値の数が充分でない場合に警告が行われる、実施形態18に記載の方法。
【0140】
実施形態20:メモリから、
・ 個人の現在の薬物糖尿病治療、好ましくは使用中の薬物および前記薬物の投与量;
・ 個人の氏名、年齢、性別、および/または民族;
・ 個人の体重(Kg)および/または肥満;
・ 個人の身長(cm);
・ 個人のクレアチニンレベルおよび/または推定糸球体ろ過率;
・ 個人の心血管疾患および/または糖尿病性腎疾患の病歴;
・ 記録された個人の最終HbA1c値;
・ 個人の目標HbA1c
のうちの1つまたは複数についての情報を確立するステップ
をさらに含む、実施形態1~19のうちのいずれか1つに記載の方法。
【0141】
実施形態21:ステップd)で使用されるデータベースは、少なくとも8つの異なる薬物の種類に属する少なくとも15個の異なる糖尿病薬物について、(d4)におけるリスクに関する情報を含み、随意により(d3)における高血糖有効性指数を含む、実施形態1~20のいずれか1つに記載の方法。
【0142】
実施形態22:8つの異なる薬物の分類は、ビグアニド、スルホニルウレア、α-グルコシダーゼ阻害剤、グリニド、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤、SGLT-2阻害剤、GLP-1 RA、およびチアゾリジンジオンである、実施形態21に記載の方法。
【0143】
実施形態23:ステップd)で使用されるデータベースは、少なくとも10個の異なる薬物に関する第III相無作為化対照試験の分析に基づいて確立されている、実施形態1~22のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
実施形態24:ステップd)で使用されるデータベースは、少なくとも10個の薬物の(d4)におけるリスク、ならびに(d1)における少なくとも10個の薬物の効果、(d2)における少なくとも10個の薬物の効果、および(d3)における少なくとも10個の薬物の高血糖有効性指数のうちの少なくとも1つに関する情報を含む、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
実施形態25:データベースは、(d1)および(d2)における効果、(d3)における高血糖有効性指数、ならびに(d4)におけるリスクのうちの1つまたは複数に関する用量ごとの情報を含む、実施形態1~24のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
実施形態26:個人が現在、少なくとも10個の薬物のうちの少なくとも1つで治療されている、実施形態1~25のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
実施形態27:当該方法は、少なくとも10個の糖尿病薬物のコストに関する情報をメモリから確立することをさらに含み、糖尿病薬物治療の指導における支援は、少なくとも10個の糖尿病薬物のコストにさらに基づく、実施形態1~26のいずれか1つに記載の方法。
【0148】
実施形態28:方法は、推奨される治療が選択された場合に個人の目標HbA1cに達する確率を処理ユニットによって予測することをさらに含む、実施形態1~27のいずれか1つに記載の方法。
【0149】
実施形態29:予測された確率が、ディスプレイに表示される、実施形態28に記載の方法。
【0150】
実施形態30:データベースが、治療対象の体重に対する少なくとも10個の糖尿病薬の効果に関する情報を含み、指導は、該情報および個人の現在の体重状態にさらに基づく、実施形態1~29のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
実施形態31:体重状態は、メモリから確立された個人の体重および身長に基づいて決定される、実施形態30に記載の方法。
【0152】
実施形態32:ステップd)で作成された指導に関する情報が、個人の電子カルテに自動的に転送される、実施形態1~31のいずれか1つに記載の方法。
【0153】
実施形態33:個人の糖尿病薬物治療の変更が推奨される場合、自動的に処方箋が電子的に発行される、実施形態1~32のいずれか1つに記載の方法。
【0154】
実施形態34:処方箋は、印刷される実施形態33に記載の方法。
【0155】
実施形態35:ステップ(c1)および/または(c2)における第1および/または第2の統計パラメータが、メモリから確立され、許容されるべき偏差を表す第1および/または第2の統計パラメータについてのそれぞれの所定の最大値よりも大きいことが、前記個人において高血糖を矯正する必要があることを示し、
ステップ(c4)において決定された低血糖事象の数が、メモリから確立される個人の許容されるべき低血糖事象の所定の最大数よりも多いことが、低血糖を回避する必要があることを示し、
指導における支援は、ステップ(c)における分析が、前記個人において低血糖の回避および/または高血糖の矯正が必要であることを示している場合に、現在の糖尿病薬物治療を変更する推奨を含み、現在の糖尿病薬物は、少なくとも10個の異なる糖尿病薬物のうちの1つであり、処理ユニットは、現在の糖尿病薬物の高血糖有効性指数(HEI)と、メモリのデータベースから確立される残りの薬物のHEI値との比較をさらに実行し、推奨される置き換え用の代替の薬物は、現在投与されている薬物に最も類似するHEI値を有しており、あるいは
指導における支援は、ステップ(c)における分析が、高血糖の矯正が必要であることを示している場合に、治療にさらなる糖尿病薬物を追加する推奨を含み、前記少なくとも10個の糖尿病薬物のうち、ステップ(c3)において決定される個人のHPIの値または該HPIから導出される値との差が最も小さいHEI値を有する糖尿病薬物の追加が推奨される、実施形態1~34のいずれかに記載の方法。
【0156】
実施形態36:記憶媒体に格納され、処理ユニット上での動作時に実施形態1~35のいずれか1つに記載の方法を実行するように構成されたコンピュータプログラム製品。
【0157】
実施形態37:糖尿病を患う個人の薬物糖尿病治療の指導を支援するための装置であって、処理ユニットと、コンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムとを備え、前記命令は、処理ユニットによって実行されたときに、実施形態1~35のいずれか1つに記載のコンピュータ実装された方法を処理ユニットに実行させる装置。
【0158】
実施形態38:当該装置は、当該装置の処理ユニットに結合したユーザインターフェースおよびディスプレイをさらに備える、実施形態37に記載の装置。
【0159】
実施形態39:当該装置は、薬物糖尿病治療に関する指導を出力としてもたらす、実施形態37または38に記載の装置。
【0160】
本明細書の全体において言及されたすべての参考文献は、その全体が、具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【
図1】PPTのコンピュータによって実現された一バージョンを示している。図示されているウィンドウは、個々の事例の選択を可能にするメインメニューを表している。
【
図2】個人データならびにクレアチニンHbA1cなどの健康パラメータの入力を可能にするウィンドウを示している。
【
図3】食前および食後のタイムスロットならびに現在の薬物治療の入力を可能にするウィンドウを示している。
【
図4】1日の食事の入力を可能にするウィンドウを示している。
【
図5】1週間のSMBGの頻度およびパターンの表示を可能にするウィンドウを示している。
【
図6】食事グルコースしきい値、低血糖しきい値、および許容される低血糖事象の入力を可能にするウィンドウを示している。
【
図8】食前および食後のタイムスロットの入力を可能にするウィンドウを示している。このウィンドウは、測定値の数および正しい測定値の割合も表示する。
【
図9】SMBGデータ評価を表示するウィンドウを示している。平均FBG、上側しきい値FBG、平均PPBG、上側しきい値PPGB、低血糖事象の数、ならびに許容される低血糖事象の最大数が示され、比率が計算されている。
【
図10】
図9と同様のウィンドウを示している。しかしながら、このウィンドウは、診断の支援、すなわちPPTによって提供される結果(評価結果)をさらに表示している。
【
図11】治療手段の提案を示すウィンドウを示している。
【
図12】臨床医によって考慮され得る特定の薬物およびその用量を提案するウィンドウを示している。
【発明を実施するための形態】
【0162】
実施例
以下の実施例は、本発明の例示にすぎず、決して本発明の範囲を限定する意味で解釈されるものではない。
実施例1:個人型治療ツール
1.個人型治療ツール(PTT)の機能および前提条件
PPTは、以下の機能に基づく。
A.空腹時グルコース(FBG)および食後グルコース(PPG)レベルに対する個々の糖尿病薬物の有効性に関する知識を利用し、これらの薬物に関連する低血糖のリスクを考慮する。
B.体系的自己監視血糖(SMBG)プロファイルから導出される結果に基づいて、2型糖尿病を有する個々の患者における(高血糖および低血糖の両方に関連する)グルコースレベルの異常を特定する能力を有し、これは、充分には制御されていない(すなわち、HbA1c目標に到達していない)患者においてきわめて有用であるが、これらの患者に限定されない。
C.それは、経口薬および/または基礎インスリン療法における2型糖尿病の個々の患者に見られる個々のグルコース異常に対して最も効果的かつ安全な糖尿病薬物を提案することができるアルゴリズムを実現している。
【0163】
以下の19個の分子に関する糖尿病薬物データベースを使用する。
・ ビグアニド:メトホルミン;スルホニルウレア
・ (SU):グリメピリド、グリクラジド;
・ グリニド:レパグリニド;
・ α-グルコシダーゼ阻害剤:アカルボース;
・ ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害剤:シタグリプチン、アログリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、リナグリプチン;
・ SGLT-2阻害剤:エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリプロジン;
・ GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA):リラグルチド、エキセナチドBID、エキセナチドLAR、デュラグルチド、リキシセナチド;
・ チアゾリジンジオン:ピオグリタゾン。
【0164】
さらに、アルゴリズムは、基礎インスリンおよび食事時インスリンの使用を考慮する。高血糖を治療するための新たな薬物が利用可能になると、それらはデータベースに取り入れられると考えられる。
【0165】
PTTは、
(i.)測定されたFBGの中央値と最適なFBGとの間(一実施形態においては、測定されたFBGの平均値と最適なFBGとの間)の差を評価し、
(ii.)測定されたPPGの中央値と最適なPPGとの間(一実施形態においては、測定されたPPGの平均値と最適なPPGとの間)の差を評価し、
(iii.)グルコース振幅(すなわち、同じ食事における食後2時間のグルコースレベルと食前のグルコースレベルの差)を計算する
ことによって、体系化SMBGデータ(すなわち、空腹または食前期ならびに食後2時間の時点に関するSMBGデータ)を分析し、低血糖エピソードの頻度を明らかにし、高血糖のパターンを明らかにすることができるソフトウェアを利用する。
【0166】
2.PPTの動作によって実行される作業
(1)第1のステップにおいて、入力および設定データが、以下のように確立される。
・ 個人データ-氏名、年齢、性別、民族
・ 体重(Kg)
・ 身長(cm)
・ クレアチニン(mg/dlおよびmmol/l)
・ 心血管疾患(あり/なし)
・ 現在の糖尿病治療(薬物、用量)
・ 記録された最後のHbA1c値(%およびmmol/mol)
・ 個々の患者の目標HbA1c(%およびmmol/mol))-個別に設定される
・ SMBGの頻度およびパターン-提示される表を編集可能
・ 過去30日間(一実施形態においては、45日間)にわたって収集された体系的SMBGデータ-他のソフトウェアからのアップロード;薬物の提案の強度は、この期間において記録された値の数に依存する
・ 食事グルコース振幅しきい値-個別に設定される最大許容グルコース振幅(食事前/食事後);デフォルト値は60mg/dl(一実施形態においては、50mg/dl)である
・ 低血糖しきい値-個別に設定される;デフォルト値は70mg/dl
・ 4週間で許容される低血糖の数-個別に設定される;デフォルト値は0
【0167】
(2)次いで、ソフトウェアは、最後の30日(一実施形態においては、45日)の期間のSMBGデータを分析し、グルコースレベル(値および範囲として表される)の異常に注目する。とくには、以下の計算が行われる。
・ 平均FBG値(一実施形態においては、中央FBG値)としきい値FBG(100mg/dL)との間の差を計算し、超過空腹時グルコースに関する情報を得る。
・ 中央PPG値としきい値PPG(140mg/dL)との間の差を計算し、超過食後グルコースに関する情報を得る。
・ 許容される低血糖事象の数に対する低血糖事象の超過数を評価する。
・ すべてのSMBGデータに基づいて平均グルコース値を計算する。
すべての場合において、中央FBG値-100<25mg/dl(一実施形態においては、平均FBG値-100<25mg/dl)の場合、値は後の計算に関して25mg/dlに設定され、中央PPG値-140<20mg/dl(一実施形態においては、平均PPG値-140<20mg/dl)の場合、値は後の計算に関して20mg/dlに設定される。
【0168】
(3)ソフトウェアは、最後の30日(一実施形態においては、45日)の期間のSMBGデータを分析し、グルコースレベルの異常を強調する(警告として表現される)。
・ 低血糖の検出-測定された低血糖事象の数>許容される低血糖事象の数である場合→低血糖を回避する必要あり
・ 高血糖の検出-中央FBG値としきい値FBG(100mg/dl)との間の差>25mg/dl(一実施形態においては、平均FBG値としきい値FBG(100mg/dl)との間の差>25mg/dl)であり、かつ/または中央PPG値としきい値PPG(140mg/dl)との間の差>20mg/dl(一実施形態においては、平均PPG値としきい値PPG(140mg/dl)との間の差>20mg/dl)である場合→高血糖の矯正の可能性
・ 一実施形態においては、超過FBGが<30mg/dLである場合、値はその後の計算に関して30mg/dLに設定され、PPBGの超過が<20mg/dLである場合、値はその後の計算に関して20mg/dLに設定される。
【0169】
(4)ソフトウェアは、科学文献(7点または8点のSMBGに関する情報を含む第III相研究;定期的に更新される)の精査に基づく糖尿病薬物の特性を利用する。
・ FBGへの効果(単剤療法として、他のグルコース低下薬への追加として)
・ PPGへの効果(単剤療法として、他のグルコース低下薬への追加として)
・ PPGへの効果に対するFBGへの効果の中央値の比率(高血糖有効性指数)-同じ種類の薬物は同じHEIを有し、一実施形態においては同じ低血糖リスク指数を有する。
・ 低血糖リスク(低血糖リスク指数)
【0170】
(5)ソフトウェアは、糖尿病薬物治療について提案を行う:
a)低血糖を回避する必要がある場合→ソフトウェアは、現在使用されている薬物が低血糖を促進する可能性があるかどうかを検証し、
a1)低血糖リスク指数がより小さい別の代替の薬物で薬物を置き換えること
a2)現在の薬物の用量を減らすこと
を提案する。
提案される薬物のリストは、使用中の薬物を除いて薬物を低血糖リスク指数が小さいものから大きいものまで示す(複数の可能な選択肢が示される)低血糖リスク指数ランキングに基づき、ランキングは、使用中の薬物に最も類似する高血糖有効性指数を有する薬物を最初に考慮するために、高血糖効能指数にも基づく。一実施形態において、ソフトウェアは、使用中の薬物、禁止される薬物の組み合わせ、および患者のeGFRに従って禁忌である薬物を、リストから除外する。
b)高血糖の矯正の可能性が存在する場合→ソフトウェアは、現在使用されている薬物の用量が最大であるかどうかを検証し、
b1)必要に応じて、現在使用されている薬物の用量を増やすこと
b2)検出された高血糖パターンに特異的な効果を有する1つまたは複数の薬物を追加すること
b3)1つまたは複数の薬物の置き換えを検討すること
b4)必要に応じて、食事時または基礎インスリンあるいは基礎インスリンとGLP-1RAとの固定された比の組み合わせの追加を検討すること
を提案する。
提案される薬物のリストは、高血糖有病度指数(超過空腹時グルコースレベルを超過食後グルコースレベルで割り算することによって計算される高血糖の有病度)と薬物の高血糖有効性指数との間の比較に基づく:
・ 薬物の追加の場合、提案される薬物のリストは、最小から最大までの高血糖有病度指数(HPI)と高血糖有効性指数との間の差に基づく;低血糖リスク指数も強調される(複数の可能な選択肢のランキングが示される)
・ 薬物の置き換えの場合、提案される薬物のリストは、使用中の薬物に最も類似する高血糖有効性指数を有する薬物を最初に考慮するために、高血糖有効性指数に基づく(複数の可能な選択肢のランキングが示される);低血糖リスク指数も強調される(複数の可能な選択肢のランキングが示される)。
・ 食後高血糖(すなわち、FBG超過<30mg/dLかつPPG超過≧20mg/dL)の存在下で測定された食後グルコース振幅が基準値よりも大きい場合、一実施形態においては、食後グルコース振幅に対する有効性が最も高い薬物(すなわち、短時間作用型GLP1-RAおよびDPP-4i)が、リストの上部に示される。
・ 基礎および/または食事時インスリン製剤は、一実施形態において、インスリンのHEIが提供されていないため、デフォルト設定として薬物のリストの最後に示される。
・ ソフトウェアは、一実施形態において、使用中の薬物、禁止される薬物の組み合わせ、および患者のeGFRに従って禁忌である薬物を、リストから除外する。
・ 一実施形態において、アテローム性硬化心血管疾患および/または心不全および/または糖尿病性腎疾患および/またはBMIが関係する場合(入力設定)、ソフトウェアは、必要に応じて、心血管、腎臓、および/または体重に関する利点が証明されている薬物の種類を強調する。
【0171】
ソフトウェアは、必要に応じて、基礎、食事時、または二相性インスリンを、他の薬物のリストの最後に挙げる。
c)一実施形態において、低血糖を回避する必要性および高血糖の矯正の可能性が存在する場合→ソフトウェアは、何を優先するかを医師に問い合わせる:
- 低血糖を回避する必要性→ソフトウェアは、a)のように機能する
- 高血糖の矯正の可能性→ソフトウェアは、b)のように機能する
- 低血糖を回避する必要性および高血糖の矯正の可能性が同時→ソフトウェアは、以下のように機能する:
・ 薬物の置き換えの場合、提案される薬物のリストは、低い方から高い方までHRIに基づく(複数の可能な選択肢が示される)。
・ ランキングは、HEIも考慮し、使用中の薬物に最も類似するHEIを有する薬物を最初にリストに挙げる。
・ 薬物の追加の場合、提案される薬物のリストは、最小から最大へとランキングされるHPIとHEIとの間の差に基づく;HRIも強調される(複数の可能な選択肢のランキングが示される)。
・ 食後高血糖(すなわち、FBG超過<30mg/dLかつPPG超過≧20mg/dL)の存在下で測定された食後グルコース振幅が基準値よりも大きい場合、食後グルコース振幅に対する有効性が最も高い薬物(すなわち、短時間作用型GLP1-RAおよびDPP-4i)が、リストの上部に示される。
・ 基礎および/または食事時インスリン製剤は、インスリンのHEIが提供されていないため、デフォルト設定として薬物のリストの最後に示される。
・ ソフトウェアは、使用中の薬物、禁止される薬物の組み合わせ、および患者のeGFRに従って禁忌である薬物を、リストから除外する。
・ アテローム性硬化心血管疾患および/または心不全および/または糖尿病性腎疾患および/またはBMIが関係する場合(入力設定)、ソフトウェアは、必要に応じて、心血管、腎臓、および/または体重に関する利点が証明されている薬物の種類を強調する。
【0172】
(6)ソフトウェアは、個々の患者のための最も適切な薬物の選択を支援するために、入力データを利用して以下の状況(警報として表される)を強調する。
a)SMBGデータの収集
・ 不充分-測定されたグルコース値が充分に体系化されていない場合や、必要な最小数よりも数が少ない場合(FBG値が3つ未満、過去の30日間(一実施形態においては、45日間)において収集された同じ食事である限りにおいて任意の食事からの食前および食後グルコース値の組が3組未満)
・ 充分-測定されたグルコース値の数が必要な最小数と同じように多い場合(3つのFBG値、過去の30日間(一実施形態においては、45日間)において収集された同じ食事である限りにおいて任意の食事からの3組の食前および食後グルコース値)
・ 良質-測定されたグルコース値が、4~6つのFBG値、過去の30日間(一実施形態においては、45日間)において収集された同じ食事である限りにおいて任意の食事からの4~6組の食前および食後グルコース値を含む場合
・ きわめて良質-測定されたグルコース値が、7つ以上のFBG値、過去の30日間(一実施形態においては、45日間)において収集された同じ食事である限りにおいて任意の食事からの7組以上の食前および食後グルコース値を含む場合
b)HbA1c
・ 記録された最終HbA1c値
・ 目標HbA1c
c)平均SMBG値
・ 測定された最終HbA1cに基づく推定平均グルコース値
・ すべてのSMBGデータに基づいて計算された平均グルコース値
d)食事グルコース振幅
・ 計算された平均グルコース振幅
・ 目標グルコース振幅(すなわち、60mg/dl未満(一実施形態においては、50mg/dl未満))
e)eGFR-MDRDおよびCKD-EPI式に従って自動的に計算される
f)CVD、一実施形態においては、アテローム性硬化心血管疾患-有無
g)自動的に計算され、以下のように表されるBMI
・ 体重不足-18.5未満
・ 正常-18.5~24.9
・ 体重超過-25~29.9
・ 肥満-30超
h)年齢-75歳超かどうか
i)一実施形態においては、さらに以下の入力データを利用することができる。心不全-有無;糖尿病性腎疾患-有無。
【0173】
実施例2:臨床例におけるPPTツールアルゴリズムのシミュレーション
◇低血糖を回避する必要性
1.許容すべきしきい値を下回る低血糖が存在しない→アルゴリズムは、高血糖またはグルコース振幅の矯正が必要であるかどうかを検証する(下記を参照)
2.許容すべきしきい値を上回る低血糖が存在→第1の動作は、低血糖の補正であり、したがってアルゴリズムは、
2a.現在使用されている薬物の用量を減らすこと
2b.使用中の1つまたは複数の薬物を変更すること-提案される薬物のリストは、もっとも低いものから最も高いものへと低血糖リスク指数に基づく(複数の可能な選択肢が示される)
を提案する。
【0174】
◇高血糖の補正の可能性
A.中央FBG値-100mg/dl<40mg/dl(一実施形態においては、平均FBG値-100mg/dl<40mg/dl)、および任意の中央PPG-140mg/dl値(一実施形態においては、任意の平均PPG-140mg/dl値)の存在下でグルコース振幅>60mg/dl→アルゴリズムは、まず第一に、
∨ リキシセナチド
∨ エキセナチド
∨ DPP-4i
を提案する。
【0175】
B.中央FBG値-100mg/dl≧40mg/dl(一実施形態においては、平均FBG値-100mg/dl<40mg/dl)、および任意の中央PPG-140mg/dl値(一実施形態においては、任意の平均PPG-140mg/dl値)の存在下でグルコース振幅>60mg/dl→アルゴリズムは、高血糖有病度指数(HPI)を計算し、薬物を、それらの高血糖有効性指数(HEI)に従って現在の治療に追加することを提案する:
【0176】
事例番号1:
FBG:160mg/dl
PPG:210mg/dl
食前グルコース:145mg/dl、PPG:210mg/dl→グルコース振幅:65mg/dl
高血糖有病度指数=(中央FBG値-100)/(中央PPG値-140)=60/70=0.857
【0177】
アルゴリズムは、高血糖有病度指数(HPI)と高血糖有効性指数との間の差に基づくランキングで薬物を提案し、低血糖リスク指数も強調される。
∨ GLP-1 RA長時間型 エキセナチドLAR(2mg)HEI 0.76 HRI 1-低
∨ GLP-1 RA長時間型 リラグルチド(1.2mg)HRI 1-低
∨ GLP-1 RA長時間型 リラグルチド(1.8mg)HRI 1-低
∨ GLP-1 RA長時間型 デュラグルチド(0.75mg)HRI 1-低
∨ GLP-1 RA長時間型 デュラグルチド(1.5mg)HRI 1-低
∨ スルホニルウレア グリメピリド(1~8mg)HEI 0.69 HRI 2-中程度
∨ スルホニルウレア グリクラジド(80~320mg)HRI 2-中程度
∨ スルホニルウレア グリクラジドMR(60~90mg)HRI 2-中程度
∨ ビグアニド メトホルミン(≧1000mg)HEI 0.59 HRI 1-低
∨ SGLT-2i エンパグリフロジン(10mg)HEI 0.56 HRI 1-低
∨ SGLT-2i エンパグリフロジン(25mg)HRI 1-低
∨ SGLT-2i カナグリフロジン(100mg)HRI 1-低
∨ SGLT-2i カナグリフロジン(300mg)HRI 1-低
∨ SGLT-2i ダパグリフロジン(10mg)HRI 1-低
∨ α-グリコシダーゼ阻害剤 アカルボース(300mg)HEI 0.54 HRI 1-低
∨ …
【0178】
事例番号2(主な高血糖はPPG):
FBG:140mg/dl
PPG:210mg/dl
食前グルコース:135mg/dl、PPG:210mg/dl→グルコース振幅:75mg/dl
高血糖有病度指数=(中央FBG値-100)/(中央PPG値-140)=40/70=0.571
【0179】
アルゴリズムは、高血糖有病度指数(HPI)と高血糖有効性指数(HEI)との間の比較に基づくランキングで薬物を提案し、低血糖リスク指数(HRI)も強調される。
∨ SGLT-2i エンパグリフロジン(10mg)HEI 0.56 HRI 1-低
∨ SGLT-2i エンパグリフロジン(25mg)HRI 1-低
∨ SGLT-2i カナグリフロジン(100mg)HRI 1-低
∨ SGLT-2i カナグリフロジン(300mg)HRI 1-低
∨ SGLT-2i ダパグリフロジン(10mg)HRI 1-低
∨ ビグアニド メトホルミン(≧1000mg)HEI 0.59 HRI 1-低
∨ グリニド レパグリニド(1.5~12mg)HEI 0.62 HRI 2-中程度
∨ …
【0180】
C.中央FBG値-100≧25mg/dlおよび中央PPG値-140≧20mg/dlの存在下でグルコース振幅<60mg/dl→アルゴリズムは、高血糖有病度指数を計算し、Bの場合のように、薬物をそれらの高血糖有効性指数(HEI)に従って現在の治療に追加することを提案する。
【0181】
事例番号3(主な高血糖はFBG)
FBG:180mg/dl
PPG:210mg/dl
HPI=(中央FBG値-100)/(中央PPG値-140)=80/70=1.14
食前グルコース:170mg/dl、PPG:210mg/dl→グルコース振幅:30mg/dl
アルゴリズムは、高血糖有病度指数(HPI)と高血糖有効性指数(HEI)との間の比較に基づくランキングで薬物を提案し、低血糖リスク指数(HRI)も強調される。
∨ グリタゾン ピオグリタゾン(30mg)HEI 1.14 HRI 1-低
∨ グリタゾン ピオグリタゾン(45mg)HRI 1-低
∨ スルホニルウレア グリメピリド(1~8mg)HEI 0.69 HRI 2-中程度
∨ スルホニルウレア グリクラジド(80~320mg)HRI 2-中程度
∨ スルホニルウレア グリクラジドMR(60~90mg)HRI 2-中程度
∨ α-グリコシダーゼ阻害剤 アカルボース(300mg)HEI 0.54 HRI 1-低
∨ …
【0182】
D.中央PPG値-140>50mg/dl(一実施形態においては、平均PPG値-140>50mg/dl)の存在下でのグルコース振幅>50mg/dl→アルゴリズムは、Bと同様に機能するが、検討されるべき他の薬物への食事時インスリンの提案も追加する。ソフトウェアは、他の薬物のリストの最後に、食事時または二相性インスリンを挙げる。
【0183】
E.中央FBG値-100≧50mg/dl(一実施形態においては、平均FBG値-100≧50mg/dl)→アルゴリズムは、Bと同様に機能するが、検討されるべき他の薬物への基礎インスリンの提案も追加する。ソフトウェアは、他の薬物のリストの最後に、基礎または二相性インスリンを挙げる。
【0184】
F.中央FBG値-100<25mg/dl(一実施形態においては、平均FBG値-100<25mg/dl)、および中央PPG値-140<20mg/dl(一実施形態においては、平均PPG値-140<20mg/dl)の存在下でのグルコース振幅>60mg/dl=この状況は、現実には起こらないはずである!