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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240611BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【請求項の数】 42
(21)【出願番号】P 2021527351
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007618
(87)【国際公開番号】W WO2020261641
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019117764
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 明
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183679(JP,A)
【文献】特開平06-071776(JP,A)
【文献】特開2012-049407(JP,A)
【文献】特開2011-054689(JP,A)
【文献】特開2018-078224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導シートの製造方法であって、
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と、
前記基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを該基材シートに設けて、該基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、
前記切り込みを折り目として、互いに隣接する前記短冊部同士の境界で折曲して、前記基材シートを蛇腹状に折曲する折曲工程と、
蛇腹状に折曲された前記基材シートを折り畳むと共に、該基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシートの両面に表出させる保持工程と、
を含み、
前記基材シートが湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シートである熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記保持工程が、
折り畳まれた前記基材シートの複数の前記短冊部を互いに積層する積層工程と、
積層される前記短冊部同士を、対向面で接合してシート状に保持する接合工程と、
を含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記カッティング工程の前工程として、前記基材シートの表面に固定材を配置する固定材配置工程を設けており、
前記接合工程において、互いに隣接する前記短冊部同士の対向面を前記固定材を介して接合する熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記接合工程において、蛇腹状に折曲された前記基材シートの片側面において前記短冊部の対向面を接合することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
請求項2または3に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記接合工程において、蛇腹状に折曲された前記基材シートの両面において前記短冊部の対向面を接合することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
熱伝導シートの製造方法であって、
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と、
前記基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを該基材シートに設けて、該基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、
前記切り込みを折り目として、互いに隣接する前記短冊部同士の境界で折曲して、前記基材シートを蛇腹状に折曲する折曲工程と、
蛇腹状に折曲された前記基材シートを折り畳むと共に、該基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシートの両面に表出させる保持工程と、
を含み、
前記準備工程の後工程であって、前記保持工程の前工程として、前記基材シートを所定の形状に保持するための固定材を、該基材シートの表面に配置する固定材配置工程を設けており、
前記保持工程において、前記固定材を介して、折り畳まれた前記基材シートの複数の前記短冊部を互いに積層されない非積層姿勢に保持する熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載される熱伝導シートの製造方法であって、さらに、
前記準備工程の後工程であって、前記固定材配置工程の前工程として、前記基材シートの表面にコーティング剤を塗布してコーティング層を形成する被覆工程を設けており、
前記短冊部の前記切断面を除く表面をコーティング層で被覆することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記コーティング剤が、
ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ、フェノール、ポリビニルアルコール、アクリルから選択される樹脂のいずれかを含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記固定材配置工程を前記被覆工程とし、
前記固定材を前記コーティング剤として前記基材シートの表面に塗布して前記コーティング層を形成することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
請求項6ないし8のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記固定材配置工程において、
前記基材シートの谷折りされる折り目に沿って前記固定材を配置し、
前記保持工程において、
折り畳まれた前記基材シートを、谷折りされた谷部に配置された前記固定材を介して所定の形状に保持する熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記固定材が、
ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタンから選択される樹脂、または、
スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムから選択されるゴム、
のいずれかを含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項12】
請求項6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記固定材が熱硬化性樹脂で、
前記保持工程において、折り畳まれた前記基材シートを加熱処理して所定の形状に保持する熱伝導シートの製造方法。
【請求項13】
請求項6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記保持工程において、折り畳まれた前記基材シートを湾曲された形状に保持する熱伝導シートの製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし3、又は6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記切り込みが、前記基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みで、
前記カッティング工程において、前記切り込みを前記基材シートの表裏に交互に設けており、
前記折曲工程において、前記基材シートを、ハーフカットされた前記切り込みの非切断部を折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲し、
前記保持工程において、ハーフカットされた切断面を表出させることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし3、又は6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記切り込みが、カット部と非カット部を交互に直線状に設けたミシン目状の切り込みで、
前記折曲工程において、ミシン目状の前記切り込みを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して、前記基材シートを蛇腹状に折曲し、
前記保持工程において、前記カット部の切断面を表出させることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし3、又は6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記カッティング工程において、前記基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みとカット部と非カット部を交互に直線状に設けたミシン目状の切り込みとを交互に設けており、
前記折曲工程において、前記基材シートを、ハーフカットされた前記切り込みの非切断部とミシン目状の前記切り込みとを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して、前記基材シートを蛇腹状に折曲し、
前記保持工程において、ハーフカットされた切断面と前記カット部の切断面とを表出させることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし3、又は6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記カッティング工程において、前記基材シートを横幅の等しい前記短冊部に分割することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項18】
熱伝導シートの製造方法であって、
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と、
前記基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを該基材シートに設けて、該基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、
前記切り込みを折り目として、互いに隣接する前記短冊部同士の境界で折曲して、前記基材シートを蛇腹状に折曲する折曲工程と、
蛇腹状に折曲された前記基材シートを折り畳むと共に、該基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシートの両面に表出させる保持工程と、
を含み、
前記カッティング工程において、前記基材シートを、横幅の狭い幅狭短冊部と、前記幅狭短冊部よりも横幅の広い幅広短冊部とが交互に配列されるように分割することを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項19】
請求項1ないし3、又は6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記カッティング工程において、複数列の前記切り込みを、前記基材シートの表面に対して垂直方向に設けることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項20】
熱伝導シートの製造方法であって、
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と、
前記基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを該基材シートに設けて、該基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、
前記切り込みを折り目として、互いに隣接する前記短冊部同士の境界で折曲して、前記基材シートを蛇腹状に折曲する折曲工程と、
蛇腹状に折曲された前記基材シートを折り畳むと共に、該基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシートの両面に表出させる保持工程と、
を含み、
前記カッティング工程において、複数列の前記切り込みを、前記基材シートの表面に対して傾斜する方向に設けることを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項21】
請求項1ないし3、又は6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、さらに、
前記保持工程の後工程として、シートの表面を研磨して前記短冊部の切断面を平滑面とする研磨工程を含むことを特徴とする熱伝導シートの製造方法。
【請求項22】
請求項1ないし3、又は6ないし9のいずれか一項に記載される熱伝導シートの製造方法であって、
前記基材シートが、面方向における熱伝導率が、厚さ方向における熱伝導率の5倍以上である熱伝導シートの製造方法。
【請求項23】
主面を有するシート状の熱伝導シートであって、
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートが互いに平行な複数列の切り込みで複数列の短冊部に分割されると共に、複数列の前記短冊部が前記切り込みを折り目として折り畳まれた姿勢に保持されてシート状に形成されており、
互いに隣接する前記短冊部同士は、その境界において前記切り込みにより切断された切断面をシートの主面に表出しており、
前記基材シートが黒鉛含有量を50~95wt%とする黒鉛放熱シートである熱伝導シート。
【請求項24】
請求項23に記載される熱伝導シートであって、
複数列の前記短冊部が折り畳まれて積層されると共に、対向面で接合されてシート状に形成されてなる熱伝導シート。
【請求項25】
請求項24に記載される熱伝導シートであって、
互いに隣接する前記短冊部同士を固定材を介して接合してなる熱伝導シート。
【請求項26】
請求項24または25に記載される熱伝導シートであって、
互いに隣接する前記短冊部同士が、第1の主面側において接合されてなることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項27】
請求項24または25に記載される熱伝導シートであって、
互いに隣接する前記短冊部同士が、両方の主面側において接合されてなることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項28】
請求項23に記載される熱伝導シートであって、さらに、
前記基材シートの表面に配置されて、該基材シートを所定の形状に保持するための固定材を備えており、
前記固定材を介して、折り畳まれた複数列の前記短冊部が互いに積層されない非積層姿勢に保持されてなる熱伝導シート。
【請求項29】
請求項28に記載される熱伝導シートであって、さらに、
前記基材シートの表面にコーティング層を備えており、前記コーティング層で前記短冊部の前記切断面を除く表面を被覆してなる熱伝導シート。
【請求項30】
請求項29に記載される熱伝導シートであって、
前記コーティング層が、
ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ、フェノール、ポリビニルアルコール、アクリルから選択される樹脂のいずれかを含むコーティング剤で形成されてなる熱伝導シート。
【請求項31】
請求項29に記載される熱伝導シートであって、
前記コーティング層が、前記基材シートの表面に塗布された前記固定材で形成されてなる熱伝導シート。
【請求項32】
請求項28ないし30のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
前記固定材が、前記基材シートの谷折りされた谷部に、折り目に沿って配置されてなる熱伝導シート。
【請求項33】
請求項32に記載される熱伝導シートであって、
前記固定材が、
ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタンから選択される樹脂、または、
スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムから選択されるゴム、
のいずれかを含む熱伝導シート。
【請求項34】
請求項28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
複数列の前記短冊部が湾曲するシート状に保持されてなる熱伝導シート。
【請求項35】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
前記切り込みが、前記基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みで、
互いに隣接する前記短冊部同士が、ハーフカットされた前記切り込みの非切断部で部分的に連結されると共に、ハーフカットされた前記切り込みの切断部を切断面として表出させてなる熱伝導シート。
【請求項36】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
前記切り込みが、カット部と非カット部を交互に直線状に設けたミシン目状の切り込みで、
互いに隣接する前記短冊部同士が、ミシン目状の前記切り込みの非カット部で部分的に連結されると共に、前記切り込みのカット部を切断面として表出させてなる熱伝導シート。
【請求項37】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
複数列の前記短冊部が等しい横幅に形成されてなることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項38】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
前記短冊部が、横幅の狭い幅狭短冊部と、前記幅狭短冊部よりも横幅の広い幅広短冊部とを備え、
前記幅狭短冊部と前記幅広短冊部とが交互に配置されてなることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項39】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
前記切り込みにより形成される切断面が、前記短冊部の表面に対して垂直方向に設けられた垂直面であることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項40】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
前記切り込みにより形成される切断面が、前記短冊部の表面に対して傾斜する方向に設けられた傾斜面であることを特徴とする熱伝導シート。
【請求項41】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
前記基材シートは、面方向における熱伝導率が、厚さ方向における熱伝導率の5倍以上である熱伝導シート。
【請求項42】
請求項23ないし25、28ないし31のいずれか一項に記載される熱伝導シートであって、
発熱体と冷却器との間に配置されて、発熱体の熱を冷却器に伝導する熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載電池や電子機器等の使用時に発生する熱への対策が急務となっている。このため、高い熱伝導性を有する熱伝導シートが使用されている。熱伝導シートを、発熱体と冷却器の間に介在させることで、発熱体からの放熱性が高められ、発熱体で生じた熱を効率的に冷却器側に放出して、熱による機器の不具合を防止できる。
【0003】
このように設置される熱伝導シートは、厚み方向に高い熱伝導性を持つことが求められる。また界面熱抵抗低減の観点から、柔軟性も求められる。例えば、車載電池のような振動を伴う機器に設置する場合において、熱伝導シートの柔軟性は、振動に伴う部材の劣化を防止するためにも必要となる。
【0004】
このような用途として、一般にはシリコーン樹脂のような柔らかいマトリックス中に熱伝導性フィラーを添加したギャップフィラーと呼ばれる部材が使用されている。
【0005】
しかしながら、ギャップフィラーでは配向性を制御できないため、シートの厚み方向、すなわち垂直方向の熱伝導率を上げるためには、フィラーを多量に配合する必要がある。この結果、高密度(例えば1.0g/cm3以上)になって重量が重くなる上、マトリックスの柔軟性が失われるという問題があった。
【0006】
これに対して、面内配向させた熱伝導性フィラーとシリコーン樹脂との複合シートを積層した後、切断したものが提案されている。しかしながら、この場合もシリコーン樹脂の密度が高いことや、熱伝導性を向上させるために添加される金属や無機フィラーの影響により、依然としてシート部材が重く、また全体が硬くなるという課題が残っていた。
【0007】
さらに、グラファイトシートや炭素繊維からなるシートを積層した部材も存在するが、これらは一般に部材の原料が高価であり、またグラファイトや繊維の配向性の問題から厚さ方向の熱伝導性が低くなる傾向があった。
【0008】
さらにまた、シリコーン樹脂のような柔らかい部材を使用した積層品のカット方法として、一般に超音波カッター等が知られている。しかしながら、大型のインゴットをカット可能な実機が存在しないことから、生産性に適していないという問題もあった。また、このような材質は粘りけが大きいシリコーン粘着剤を使用した場合、積層品を任意の厚みに切断する際に、刃にシリコーン粘着剤が付着する可能性があった。このため、加工機への悪影響が大きくなり、切断加工工程の困難性が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-003981号公報
【文献】特許5454300号公報
【文献】特許5843534号公報
【文献】特開2017-208458号公報
【文献】特開2017-025281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の一は、簡単かつ容易に多量生産しながら、厚さ方向への熱伝導性を高くできる熱伝導シートとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0011】
本発明の第1の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導シートの製造方法であって、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と、基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを基材シートに設けて、基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、切り込みを折り目として、互いに隣接する短冊部同士の境界で折曲して、基材シートを蛇腹状に折曲する折曲工程と、蛇腹状に折曲された基材シートを折り畳むと共に、基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシートの両面に表出させる保持工程とを含み、前記基材シートが湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シートである
【0012】
上記方法によれば、簡単かつ容易に多量生産しながら、厚さ方向への熱伝導性を高くできる特徴がある。それは、以上の製造方法が、基材シートに複数列の切り込みを設けて複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、切り込みを折り目として複数列の短冊部を蛇腹状に折曲する折曲工程と、基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシートの両面に表出させる保持工程とで熱伝導シートを製造しているからである。
【0013】
以上のようにして製造される熱伝導シートは、基材シートに設けた複数列の切り込みにより分割された複数の短冊部を折り畳んでシート状とするので、各短冊部の面方向を熱伝導シートの厚さ方向に配置しながら、熱伝導シートの両面に短冊部の切断面を表出させることにより、優れた熱伝導性を実現できる。とくに、この製造方法によると、基材シートに複数の切り込みを設けて分割された短冊部を切り込みで折曲して折り畳むことで全体をシート状に形成しながら、短冊部の切断面をシートの両面に表出させるので、簡単かつ容易に多量生産しながら、厚さ方向への熱伝導性を高くできる特長が実現できる。
【0014】
本発明の第2の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、保持工程は、折り畳まれた基材シートの複数の短冊部を互いに積層する積層工程と、積層される短冊部同士を、対向面で接合してシート状に保持する接合工程とを含んでいる。
【0015】
上記方法によれば、複数列に分割された短冊部を互いに積層すると共に、積層される短冊部同士を対向面で接合してシート状に形成するので、シート全体を安定した形状に保持しながら熱伝導シートの剛性を高めて、優れた耐荷重を実現できる。
【0016】
本発明の第3の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、カッティング工程の前工程として、基材シートの表面に固定材を配置する固定配置工程を設けて、接合工程において、互いに隣接する短冊部同士の対向面を固定材を介して接合している。
【0017】
本発明の第4の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、接合工程において、蛇腹状に折曲された基材シートの片側面において、短冊部の対向面を接合している。
【0018】
上記方法によれば、基材シートの片側面において短冊部を接合し、反対側の面では短冊部を非接合状態とすることにより、シート状に形成される熱伝導シートを湾曲させることができる。
【0019】
本発明の第5の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、接合工程において、蛇腹状に折曲された基材シートの両面において短冊部の対向面を接合している。
【0020】
上記方法によれば、熱伝導シートの厚さ方向に対する剛性を高めて、外力に対して変形しにくい強固なシート状とすることができる。
【0021】
本発明の第6の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導シートの製造方法 であって、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と、 前記基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを該基材 シートに設けて、該基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、前記切 り込みを折り目として、互いに隣接する前記短冊部同士の境界で折曲して、前記基材シー トを蛇腹状に折曲する折曲工程と、蛇腹状に折曲された前記基材シートを折り畳むと共に 、該基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシート の両面に表出させる保持工程とを含み、準備工程の後工程であって、保持工程の前工程として、基材シートを所定の形状に保持するための固定材を、基材シートの表面に配置する固定材配置工程を設けており、保持工程において、固定材を介して、折り畳まれた基材シートの複数の短冊部を互いに積層されない非積層姿勢に保持している。
【0022】
上記方法によれば、熱伝導シート全体の断面形状をジグザグ状の波形とすることができ、厚さ方向に対して各短冊部を傾斜された姿勢に保持することで、熱伝導シートの厚さ方向における剛性を低減して、熱伝導シート全体に柔軟性を持たせることができる。このように、熱伝導シートに柔軟性を持たせることで、主面側に表出する短冊部の切断面と発熱体や冷却器の表面との接触抵抗を小さくしながら効率よく熱結合できる。
【0023】
本発明の第7の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、さらに、準備工程の後工程であって、固定材配置工程の前工程として、基材シートの表面にコーティング剤を塗布してコーティング層を形成する被覆工程を設けており、短冊部の切断面を除く表面をコーティング層で被覆している。
【0024】
上記方法によれば、短冊部の表面をコーティング層で被覆するので、熱伝導性に優れた基材シートに含まれる熱伝導性物質が微細な粒子となって基材シートの表面から落下するのを防止して、使用環境が悪化するのを防止できる特長がある。また、各短冊部の表面をコーティング層で被覆することで短冊部を補強できるので、熱伝導シートの使用状態において、短冊部が熱伝導方向(熱伝導シートの厚さ方向)の中間部で折曲されたり、極度に湾曲されるのを有効に防止できる。このため、短冊部の折曲や湾曲によって熱伝導シートの厚さ方向への熱伝導が抑制されるのを防止して、長期間にわたって安定して優れた熱伝導性を維持できる。
【0025】
本発明の第8の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、コーティング剤が、ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ、フェノール、ポリビニルアルコール、アクリルから選択される樹脂のいずれかを含んでいる。
【0026】
上記方法によると、柔軟性に優れた樹脂からなるコーティング剤を使用することで、各短冊部の表面を補強しながら、熱伝導シートの柔軟性を実現できる。
【0027】
本発明の第9の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、固定材配置工程を被覆工程とし、固定材をコーティング剤として基材シートの表面に塗布してコーティング層を形成している。
【0028】
上記方法によると、基材シートの表面に配置する固定材をコーティング剤に兼用して基材シートの表面を被覆するので、製造工程を簡略化しながら、短冊部の表面にコーティング層を設けることができる。
【0029】
本発明の第10の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、固定材配置工程において、基材シートの谷折りされる折り目に沿って固定材を配置し、保持工程において、折り畳まれた基材シートを、谷折りされた谷部に配置された固定材を介して所定の形状に保持している。
【0030】
上記方法によれば、折り畳まれた基材シートの谷部にのみ固定材を配置するので、シートを強固に固定しながら全体に柔軟にでき、しかも固定材の量を節約することで安価に多量生産できる。
【0031】
本発明の第11の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、固定材が、ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタンから選択される樹脂、または、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムから選択されるゴム、のいずれかを含んでいる。
【0032】
上記方法によると、柔軟性に優れた樹脂やゴムからなる固定材を使用することで、さらに、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。
【0033】
本発明の第12の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、固定材を熱硬化性樹脂として、保持工程において、折り畳まれた基材シートを加熱処理して所定の形状に保持している。
【0034】
上記方法によれば、固定材を熱硬化性樹脂とすることで、折り畳まれた基材シートを所定の形状に安定して保持しながら、保持工程における固定材の制御を容易にできる。
【0035】
本発明の第13の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、保持工程において、折り畳まれた基材シートを湾曲された形状に保持することができる。
【0036】
上記方法によると熱伝導シートを湾曲させることで、外周面を湾曲面とする発熱体や冷却器に対して理想的に熱結合させて熱伝導性を向上できる。
【0037】
本発明の第14の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、切り込みが、基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みで、カッティング工程において、切り込みを基材シートの表裏に交互に設けており、折曲工程において、基材シートを、ハーフカットされた切り込みの非切断部を折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲し、保持工程において、ハーフカットされた切断面を表出させている。
【0038】
上記方法によれば、切り込みを、基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みとするので、互いに隣接する短冊部同士を、ハーフカットされた切り込みの非切断部を折り目として折曲しながら、ハーフカットされた切り込みを切断面として効率よく表出できる。
【0039】
本発明の第15の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、切り込みが、カット部と非カット部を交互に直線状に設けたミシン目状の切り込みで、折曲工程において、ミシン目状の切り込みを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して、基材シートを蛇腹状に折曲し、保持工程において、カット部の切断面を表出させている。
【0040】
上記方法によれば、切り込みを、カット部と非カット部を交互に設けたミシン目状の切り込みとするので、互いに隣接する短冊部同士を、ミシン目状の切り込みを折り目として折曲しながら、カット部を切断面として効率よく表出できる。また、ミシン目状の切り込みとすることで簡単かつ容易に設けることができる。
【0041】
本発明の第16の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、カッティング工程において、基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みとカット部と非カット部を交互に直線状に設けたミシン目状の切り込みとを交互に設けており、折曲工程において、基材シートを、ハーフカットされた切り込みの非切断部とミシン目状の切り込みとを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して、基材シートを蛇腹状に折曲し、保持工程において、ハーフカットされた切断面とカット部の切断面とを表出させている。
【0042】
本発明の第17の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、カッティング工程において、基材シートを横幅の等しい短冊部に分割している。
【0043】
上記方法によれば、複数列の短冊部の横幅を等しくすることで、シート状に形成される熱伝導シートの両面に形成される切断面を同一平面状に配置することができ、熱伝導シートの厚さを均等にして美しい外観とすることができる。また、この熱伝導シートは、シートの両面に表出する短冊部の切断面間の距離を短冊部横幅で特定することができる。すなわち、この製造方法によると、熱伝導シートの厚さ方向における熱伝導距離を短冊部の横幅で特定することができ、厚さ方向において所望の熱伝導特性を有する熱伝導シートを製造することができる。
【0044】
本発明の第18の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導シートの製造方 法であって、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と 、前記基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを該基 材シートに設けて、該基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、前記 切り込みを折り目として、互いに隣接する前記短冊部同士の境界で折曲して、前記基材シ ートを蛇腹状に折曲する折曲工程と、蛇腹状に折曲された前記基材シートを折り畳むと共 に、該基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシー トの両面に表出させる保持工程とを含み、カッティング工程において、基材シートを、横幅の狭い幅狭短冊部と、幅狭短冊部よりも横幅の広い幅広短冊部とが交互に配列されるように分割している。
【0045】
上記方法によれば、交互に配列された幅狭短冊部と幅広短冊部とを対向面で積層、接合することで、シート状に形成される熱伝導シートの両面に、幅狭短冊部と幅広短冊部の横幅の差による段差部を設けて、互いに隣接する段差部同士が同一平面状に配置された熱伝導シートとすることができ、あるいは、交互に配列された幅狭短冊部と幅広短冊部とを折り畳んだ非積層姿勢に保持することで、鋸波状に近似する断面形状のシート状に形成することができる。両面に幅狭短冊部と幅広短冊部による段差部が形成される熱伝導シートは、同一平面状に配置される段差部を両面とするシート状に形成されるので、熱伝導シートの厚さ方向に対して各短冊部が傾斜された姿勢で配置される。このため、熱伝導シートの厚さを短冊部の横幅に対して薄く形成することができる。とくに、この熱伝導シートは、幅狭短冊部と幅広短冊部の横幅比により、熱伝導シートの厚さ方向に積層される短冊部の積層数が特定されるので、この横幅比を調整することで、熱伝導シートの厚さを調整することができる。また、互いに積層される複数の短冊部が熱伝導シートの厚さ方向に対して傾斜された姿勢で積層されるので、熱伝導シートの厚さ方向における硬さを低減して柔らかくできる。さらに、交互に配列される幅狭短冊部と幅広短冊部とを鋸波状の断面形状とする熱伝導シートは、幅狭短冊部と幅広短冊部の横幅比により、熱伝導シートの厚さ方向における剛性を調整して、熱伝導シート全体の柔軟性を調整できる。
【0046】
本発明の第19の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、カッティング工程において、複数列の切り込みを、基材シートの表面に対して垂直方向に設けている。
【0047】
本発明の第20の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導シートの製造方 法であって、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートを準備する準備工程と 、前記基材シートの平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込みを該基 材シートに設けて、該基材シートを複数列の短冊部に分割するカッティング工程と、前記 切り込みを折り目として、互いに隣接する前記短冊部同士の境界で折曲して、前記基材シ ートを蛇腹状に折曲する折曲工程と、蛇腹状に折曲された前記基材シートを折り畳むと共 に、該基材シートを折り畳まれた姿勢に保持してシート状とし、各短冊部の切断面をシー トの両面に表出させる保持工程とを含み、カッティング工程において、複数列の切り込みを、基材シートの表面に対して傾斜する方向に設けている。
【0048】
本発明の第21の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、さらに、保持工程の後工程として、シートの表面を研磨して短冊部の切断面を平滑面とする研磨工程を含んでいる。
【0049】
本発明の第22の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、基材シートが、面方向における熱伝導率を、厚さ方向における熱伝導率の5倍以上としている。
【0050】
本発明のの側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、基材シートを、湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シートとしている。
【0051】
本発明の第23の側面に係る熱伝導シートによれば、主面を有するシート状の熱伝導シートであって、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シートが互いに平行な複数列の切り込みで複数列の短冊部に分割されると共に、複数列の短冊部が切り込みを折り目として折り畳まれた姿勢に保持されてシート状に形成されており、互いに隣接する短冊部同士は、その境界において切り込みにより切断された切断面をシートの主面に表出しており、前記基材シートが黒鉛含有量を50~95wt%とする黒鉛放熱シートである。
【0052】
上記構成によれば、簡単かつ容易に多量生産しながら、厚さ方向への熱伝導性を高くできる特徴がある。それは、以上の熱伝導シートが、基材シートを複数列の切り込みで複数列の短冊部に分割すると共に、複数列の短冊部を折り畳んだ姿勢に保持してシート状に形成しているからである。以上の熱伝導シートは、基材シートに設けた複数列の切り込みにより複数列に分割された短冊部を折り畳んでシート状とすることで、各短冊部の面方向を熱伝導シートの厚さ方向に配置しながら、熱伝導シートの主面には、切り込みにより形成された短冊部の切断面を表出させている。この熱伝導シートは、短冊部の面方向が熱伝導シートの厚さ方向となるように配置することと、短冊部の切断面をシートの両面に表出させることの相乗効果により、優れた熱伝導性を実現できる。
【0053】
本発明の第24の側面に係る熱伝導シートによれば、複数列の短冊部が折り畳まれて積層されると共に、対向面で接合されてシート状に形成されている。
【0054】
上記構成によれば、複数列に分割された短冊部が互いに積層されて、対向面で接合されてシート状に形成されるので、シート全体を安定した形状に保持しながら熱伝導シートの剛性を高めて、優れた耐荷重を実現できる。
【0055】
本発明の第25の側面に係る熱伝導シートによれば、互いに隣接する短冊部同士を固定材を介して接合している。
【0056】
本発明の第26の側面に係る熱伝導シートによれば、互いに隣接する短冊部同士を、第1の主面側において接合している。
【0057】
上記構成によれば、互いに隣接する短冊部同士を第1の主面側において接合し、第2の主面側では非接合状態とすることにより、シート状に形成される熱伝導シートを、第1の主面側を内側として湾曲することができる。このように湾曲可能な熱伝導シートは、表面を湾曲形状とする発熱体等の表面に沿って配置して効果的に放熱できる。
【0058】
本発明の第27の側面に係る熱伝導シートによれば、互いに隣接する短冊部同士を、両方の主面側において接合している。
【0059】
上記構成により、熱伝導シートの厚さ方向に対する剛性を高めて、外力に対して変形しにくい強固なシート状とすることができる。
【0060】
本発明の第28の側面に係る熱伝導シートによれば、さらに、基材シートの表面に配置されて、基材シートを所定の形状に保持するための固定材を備えており、固定材を介して、折り畳まれた複数列の短冊部が互いに積層されない非積層姿勢に保持されている。
【0061】
上記構成によれば、熱伝導シート全体の断面形状をジグザグ状の波形とすることができ、厚さ方向に対して各短冊部を傾斜された姿勢に保持することで、熱伝導シートの厚さ方向における剛性を低減して、熱伝導シート全体に柔軟性を持たせることができる。この熱伝導シートは、シート全体に柔軟性を持たせることで、主面側に表出する短冊部の切断面と発熱体や冷却器の表面との接触抵抗を小さくしながら効率よく熱結合できる。
【0062】
本発明の第29の側面に係る熱伝導シートによれば、さらに、基材シートの表面にコーティング層を備えており、このコーティング層で短冊部の切断面を除く表面を被覆している。
【0063】
上記構成によれば、短冊部の表面をコーティング層で被覆するので、熱伝導性に優れた基材シートに含まれる熱伝導性物質が微細な粒子となって基材シートの表面から落下するのを防止して、使用環境が悪化するのを防止できる。また、各短冊部の表面をコーティング層で被覆することで短冊部を補強できるので、熱伝導シートの使用状態において、短冊部が熱伝導方向(熱伝導シートの厚さ方向)の中間部で折曲されたり、極度に湾曲されるのを有効に防止できる。このため、短冊部の折曲や湾曲によって熱伝導シートの厚さ方向への熱伝導が抑制されるのを防止して、長期間にわたって安定して優れた熱伝導性を維持できる。
【0064】
本発明の第30の側面に係る熱伝導シートによれば、コーティング層を、ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタン、エポキシ、フェノール、ポリビニルアルコール、アクリルから選択される樹脂のいずれかを含むコーティング剤で形成している。
【0065】
上記構成によると、柔軟性に優れた樹脂からなるコーティング剤を使用することで、各短冊部の表面を補強しながら、熱伝導シートの柔軟性を実現できる。
【0066】
本発明の第31の側面に係る熱伝導シートによれば、コーティング層を、基材シートの表面に塗布された固定材で形成している。
【0067】
上記構成によると、基材シートの表面に配置する固定材をコーティング剤に兼用して基材シートの表面を被覆するので、製造工程を簡略化しながら、短冊部の表面にコーティング層を設けることができる。
【0068】
本発明の第32の側面に係る熱伝導シートによれば、固定材を、基材シートの谷折りされた谷部に、折り目に沿って配置している。
【0069】
上記構成によれば、折り畳まれた基材シートの谷部にのみ固定材を配置するので、シートを強固に固定しながら全体に柔軟にでき、しかも固定材の量を節約することで安価に多量生産できる。
【0070】
本発明の第33の側面に係る熱伝導シートによれば、固定材が、ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタンから選択される樹脂、または、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムから選択されるゴム、のいずれかを含んでいる。
【0071】
上記構成によると、柔軟性に優れた樹脂やゴムからなる固定材を使用することで、さらに、熱伝導シートの柔軟性を向上できる。
【0072】
本発明の第34の側面に係る熱伝導シートによれば、複数列の短冊部を湾曲するシート状に保持している。
【0073】
上記構成によると、熱伝導シートを湾曲させることで、外周面を湾曲面とする発熱体や冷却器に対して理想的に熱結合させて熱伝導性を向上できる。
【0074】
本発明の第35の側面に係る熱伝導シートによれば、切り込みを、基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みとし、互いに隣接する短冊部同士を、ハーフカットされた切り込みの非切断部で部分的に連結すると共に、ハーフカットされた切り込みの切断部を切断面として表出させている。
【0075】
上記構成によれば、切り込みを、基材シートの厚さ方向にハーフカットされた切り込みとするので、互いに隣接する短冊部同士を、ハーフカットされた切り込みの非切断部で部分的に連結された状態で折曲しながら、ハーフカットされた切り込みを切断面として効率よく表出できる。
【0076】
本発明の第36の側面に係る熱伝導シートによれば、切り込みを、カット部と非カット部を交互に直線状に設けたミシン目状の切り込みとして、互いに隣接する短冊部同士を、ミシン目状の切り込みの非カット部で部分的に連結すると共に、切り込みのカット部を切断面として表出させている。
【0077】
上記構成によれば、切り込みを、カット部と非カット部を交互に設けたミシン目状の切り込みとするので、互いに隣接する短冊部同士を、非カット部で部分的に連結された状態で折曲しながら、カット部を切断面として効率よく表出できる。また、ミシン目状の切り込みとすることで簡単かつ容易に設けることができる。
【0078】
本発明の第37の側面に係る熱伝導シートによれば、複数列の短冊部を等しい横幅に形成している。
【0079】
上記構成によれば、複数列の短冊部の横幅を等しくすることで、シート状に形成される熱伝導シートの両面に形成される切断面を同一平面状に配置することができ、熱伝導シートの厚さを均等にして美しい外観とすることができる。また、この熱伝導シートは、両面に表出する短冊部の切断面間の距離を短冊部の横幅で特定することができる。すなわち、この熱伝導シートは、厚さ方向における熱伝導距離を短冊部の横幅で特定することができ、厚さ方向における熱伝導特性を最適な状態に調整できる。
【0080】
本発明の第38の側面に係る熱伝導シートによれば、短冊部が、横幅の狭い幅狭短冊部と、幅狭短冊部よりも横幅の広い幅広短冊部とを備えており、幅狭短冊部と幅広短冊部とを交互に配置している。
【0081】
上記構成によれば、交互に配置された幅狭短冊部と幅広短冊部とを折り畳んで積層し、対向面で接合することで、シート状に形成される熱伝導シートの両面に、幅狭短冊部と幅広短冊部の横幅の差による段差部を設けて、互いに隣接する段差部同士が同一平面状に配置された熱伝導シートとすることができ、あるいは、交互に配列された幅狭短冊部と幅広短冊部とを折り畳んだ非積層姿勢に保持することで、鋸波状に近似する断面形状のシート状とすることができる。両面に幅狭短冊部と幅広短冊部による段差部が形成される熱伝導シートは、厚さ方向に対して各短冊部が傾斜された姿勢で配置されるので、熱伝導シートの厚さを短冊部の横幅に対して薄く形成することができる。とくに、この熱伝導シートは、幅狭短冊部と幅広短冊部の横幅比により、熱伝導シートの厚さ方向に積層される短冊部の積層数が特定されるので、この横幅比を調整することで、熱伝導シートの厚さを調整することができる。また、互いに積層される複数の短冊部が熱伝導シートの厚さ方向に対して傾斜された姿勢で積層されるので、熱伝導シートの厚さ方向における剛性を低減して、シート全体を柔らかくして曲げやすくできる。さらに、交互に配列される幅狭短冊部と幅広短冊部とを鋸波状の断面形状とする熱伝導シートは、幅狭短冊部と幅広短冊部の横幅比により、熱伝導シートの厚さ方向における剛性を調整して、熱伝導シート全体の柔軟性を調整できる。
【0082】
本発明の第39の側面に係る熱伝導シートによれば、切り込みにより形成される切断面を、短冊部の表面に対して垂直方向に設けられた垂直面としている。
【0083】
本発明の第40の側面に係る熱伝導シートによれば、切り込みにより形成される切断面を、短冊部の表面に対して傾斜する方向に設けられた傾斜面としている。
【0084】
本発明の第41の側面に係る熱伝導シートによれば、基材シートは、面方向における熱伝導率を、厚さ方向における熱伝導率の5倍以上としている。
【0085】
本発明の第の側面に係る熱伝導シートによれば、基材シートを湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シートとしている。
【0086】
本発明の第42の側面に係る熱伝導シートによれば、発熱体と冷却器との間に配置されて、発熱体の熱を冷却器に伝導する構造としている。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】本発明の実施形態1に係る熱伝導シートを示す斜視図である。
図2図2A図2Cは、本発明の実施形態1に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略斜視図である。
図3図3A図3Bは、黒鉛放熱シートを製造する工程を示す概略断面図である。
図4図4A図4Dは、他の一例に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図5図4に示す製造工程で製造された熱伝導シートの一例を示す概略断面図である。
図6】熱伝導シートを発熱体と冷却器の間に設置した様子を示す断面図である。
図7図7A図7Cは、本発明の実施形態2に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略斜視図である。
図8図8A図8Cは、本発明の実施形態3に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図9図9A図9Cは、本発明の実施形態4に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図10図10A図10Cは、本発明の実施形態5に係る熱伝導シートとその変形例を示す概略断面図である。
図11】本発明の実施形態6に係る熱伝導シートを示す斜視図である。
図12図12A図12Dは、本発明の実施形態6に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図13図12に示す製造工程で製造された熱伝導シートの一例を示す概略断面図である。
図14】本発明の実施形態7に係る熱伝導シートを示す斜視図である。
図15図15A図15Dは、本発明の実施形態7に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図16図16A図16Dは、本発明の実施形態7に係る熱伝導シートの他の製造工程を示す概略断面図である。
図17図17A図17Cは、本発明の実施形態8に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図18図18A図18Cは、本発明の実施形態8に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図19図19A図19Cは、本発明の実施形態8に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
図20図20A図20Cは、本発明の実施形態8に係る熱伝導シートの製造工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0088】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0089】
本発明に係る熱伝導シートは、様々な発熱体の放熱部材として利用することができる。発熱体には、例えば二次電池セルやトランジスタ、発光ダイオード(LED)等の半導体素子、ハロゲンランプ等の光源、モータ等が好適に挙げられる。ここでは、実施形態として熱伝導シートを電源装置に適用した例を説明する。ここでは、発熱体である二次電池セルに熱伝導シートを熱的に結合した放熱装置を構成している。
【0090】
[実施形態1]
本発明の実施形態1に係る熱伝導シートを図1の斜視図に、その製造工程を図2の概略工程図にそれぞれ示す。これらの図に示す熱伝導シート100は、主面10を有するシート状に形成されている。熱伝導シート100は、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を互いに平行な複数列の切り込み2で複数列の短冊部3に分割すると共に、複数列の短冊部3を、切り込み2を折り目として折り畳んだ姿勢に保持している。互いに隣接する短冊部3同士は、その境界において、切り込み2により切断された切断面3aをシートの主面10に表出している。
【0091】
本発明の熱伝導シートは、従来のように複数枚のシート材を積層してなる積層体を切断して製造するのではない。熱伝導シート100は、1枚の基材シート1を複数列の短冊部3に分割すると共に、分割された短冊部3を折り畳んで所定の形状に保持することでシート状に形成しつつ、切り込みにより切断された短冊部の切断面をシートの両面に表出させている。
【0092】
この熱伝導シート100は、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を複数列の短冊部3に分割し、各短冊部3の面方向が熱伝導シート100の厚さ方向となるように、あるいは、厚さ方向に近似する姿勢となるように折り畳んで保持することで、熱伝導シート100の厚さ方向における熱伝導率を高めている。さらに、熱伝導シート100は、折り畳まれた姿勢に保持される複数列の短冊部3の切断面3aをシートの主面10に表出させることにより、発熱体や冷却器との境界面における熱伝導性を高めている。
【0093】
この熱伝導シート100は、図2に示すように、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を準備する準備工程と、基材シート1の平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込み2を基材シート1に設けて、基材シート1を複数列の短冊部3に分割するカッティング工程と、これらの切り込み2を折り目として、互いに隣接する短冊部3同士の境界で折曲して、基材シート1を蛇腹状に折曲する折曲工程と、蛇腹状に折曲された基材シート1を折り畳むと共に、基材シート1を折り畳まれた姿勢に保持して、各短冊部3の切断面3aをシートの両面に表出させる保持工程により製造される。保持工程は、折り畳まれた基材シート1の複数の短冊部3を互いに積層する積層工程と、積層される短冊部3同士を、対向面で接合してシート状に保持する接合工程とを含んでいる。
【0094】
(基材シート1)
基材シート1は、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れたシート材である。基材シート1は、面方向における熱伝導率が、厚さ方向における熱伝導率の5倍以上、好ましくは10倍以上のものを使用する。このようなシート材として、例えば、湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シート1Aが使用できる。ただ、基材シート1には、黒鉛放熱シート以外のシート材、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミニウム、銅、黒鉛、カーボンナノチューブ等の熱伝導フィラーをシート化した、熱伝導に優れたシート材等も使用できる。
【0095】
黒鉛放熱シート1Aは、以下のようにして製造される。まず、図3Aに示すように、形状異方性を発揮する黒鉛フィラー11と、有機繊維12を湿式抄紙する。このとき、黒鉛放熱シート1Aの組成は、黒鉛含有量を50~95wt%、有機繊維含有量を5~50wt%とすることが好ましい。ここでは、有機繊維12を湿式抄紙することで、従来のマトリックス樹脂で黒鉛を保持する構成と比べ、より多くの黒鉛を含有させることができるので、熱伝導性の観点から有利となる。また有機繊維12は、パラアラミド繊維、パラアラミドパルプ、メタアラミド繊維、メタアラミドパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、PET繊維、難燃PET繊維、難燃レーヨン繊維のいずれか一以上を利用できる。
【0096】
次に、図3Bに示すように湿式抄紙されたシート材を、熱プレスする。さらに、熱プレスされたシート材を、所定の大きさにカットして、複数の黒鉛放熱シート1Aを得る。このように、湿式抄紙されたシート材を熱プレスすることで、黒鉛フィラー11同士の接触面積を大きくして熱伝導パスが構成され易くなり、結果としてプレス方向と交差する方向への熱伝導性が向上される。また黒鉛放熱シート1Aの厚さは、プレスにより調整される。なお、基材シート1は、図2Aに示すように、幅(W)を5cm~250cmとし、全長(L)を30cm以上とし、厚さ(t)を、0.05mm~0.5mmとする。基材シート1は、ロール状に巻き取られた原紙を使用する場合、最大で5000m程度のものまで使用できる。
【0097】
この黒鉛放熱シート1Aは、図3Bに示す横方向(面方向)への熱伝導性は高いものの、厚さ方向への熱伝導性に劣っている。そこで、上述した図2のように、黒鉛放熱シート1Aからなる基材シート1を複数列の短冊部3に分割すると共に、分割された複数の短冊部3を折り畳んで積層し、対向面で接合することで各短冊部3の面方向が熱伝導シート100の厚さ方向となるようにして、すなわち、黒鉛放熱シート1Aの抄紙方向が熱伝導シート100の厚さ方向となるようにすることで熱伝導性を高めている。さらに、熱伝導シート100は、各短冊部3の切断面3aがシートの主面10に表出するように構成している。
【0098】
(切り込み2)
以上の基材シート1は、平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込み2が設けられて、複数列の短冊部3に分割される。図2Aに示す切り込み2は、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aとしている。ハーフカット状の切り込み2Aは、基材シート1の表裏に交互に設けられて、基材シート1を複数列の短冊部3に分割する。この切り込み2Aは、基材シート1の幅方向(短冊部3の長手方向)において、基材シート1の両端面に跨がって設けられており、基材シート1の厚さ方向において、基材シート1の厚さ全体の30~95%、好ましくは40~90%、さらに好ましくは50~80%を切断する深さまで切断する形状としている。このようにハーフカットされる切り込み2Aは、例えばトムソン刃やローラーカッターにより、基材シート1の表面に対する切断深さを調整しながら設けることができる。
【0099】
さらに、複数列の短冊部3に分割された基材シート1は、互いに隣接する短冊部3同士の境界において、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aを折り目として折曲される。基材シート1は、図2Bに示すように、非切断部2aを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲される。非切断部2aで折曲される基材シート1は、互いに隣接する短冊部3同士が分離されることなく、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aを介して部分的に連結された状態で折曲されると共に、ハーフカットされた切り込み2Aの切断部が切断面3aとして表出する。
【0100】
図2に示す切り込み2Aは、基材シート1の表面に対して垂直方向に設けられており、言い換えると、基材シート1の厚さ方向に切断するように設けられており、複数列に分割される短冊部3の切断面3aが垂直面となるようにしている。切断面3aが垂直面となる短冊部3は、図2Cに示すように、複数枚が折り畳まれて積層された状態では、短冊部3の横幅方向が熱伝導シート100の厚さ方向となるように積層されて、垂直面が熱伝導シート100の主面10に表出する。この熱伝導シート100は、両面に表出する切断面3aが同一平面状に配置されて、略平滑な主面10を形成している。
【0101】
(短冊部3)
複数列の短冊部3は、基材シート1の長さ方向において、所定の横幅(d)となるように複数の切り込み2により分割される。基材シート1は、例えば、100~1000個の短冊部に分割することができる。図2に示す基材シート1は、等間隔に形成された複数列の切り込み2により、複数列の短冊部3を等しい横幅(d)としている。さらに、図2に示す短冊部3は、切断面3aを垂直面としている。このように、短冊部3の切断面3aを垂直面として、全ての短冊部3の横幅(d)を等しくする構造は、図2に示すように、複数の短冊部3を折り畳んで接合してシート状に形成する状態で、短冊部3の横幅(d)が、熱伝導シート100の厚さ(D)となる。したがって、この構造の熱伝導シート100は、所望の厚さ(D)となるように、短冊部3の横幅(d)が決定される。複数に分割される短冊部3は、例えば、横幅(d)を0.5mm~10mmとすることができる。
【0102】
以上の熱伝導シートは、図2に示す以下の工程で製造される。
(1)準備工程
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を準備する。この工程では、例えば、黒鉛フィラーと有機繊維を湿式抄紙してなる黒鉛放熱シートを使用する。
(2)カッティング工程
図2Aで示すように、基材シート1の平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込み2を基材シート1に設けて、基材シート1を複数列の短冊部3に分割する。図2Aに示す基材シート1は、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aを、基材シート1の表裏に交互に設けている。複数列の切り込み2Aは、等間隔であって、基材シート1の表面に対して垂直な姿勢で設けられる。
(3)折曲工程
図2Bで示すように、複数の短冊部3に分割された基材シート1を、切り込み2Aを折り目として、互いに隣接する短冊部3同士の境界で折曲する。基材シート1は、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲される。
(4)保持工程
図2Cで示すように、蛇腹状に折曲された基材シート1を折り畳んで複数の短冊部3を互いに積層する(積層工程)。
積層される短冊部3同士を、対向面で接合してシート状に保持する(接合工程)。
互いに隣接する短冊部3同士は、境界部分において、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aを介して部分的に連結されると共に、ハーフカットされた切断部が切断面3aとしてシートの主面10に表出する。
【0103】
以上のようにして製造される熱伝導シート100は、短冊部3の切断面3aを垂直面としており、複数列の短冊部3を折り畳んで積層し、対向面で接合する状態では、互いに積層される短冊部3の切断面3a同士が同一平面状に配置されて、略平滑な主面10が形成される。さらに、互いに積層されて接合される短冊部3の横幅(d)が熱伝導シート100の厚さ(D)となる。
【0104】
(固定材)
なお、保持工程においては、互いに隣接する短冊部3同士を対向面で接合するが、この際、短冊部3同士は固定材(図示せず)を介して接合することができる。固定材は、短冊部3同士を対向面で接合可能な材料であって、接着剤や粘着剤が使用できる。固定材は、保持工程の前工程として予め基材シート1の表面に塗布しておくことが好ましい。例えば、カッティング工程の前工程として、固定材配置工程を設けて、基材シート1の表面に固定材を配置することができる。ただ、固定材は、基材シートに切り込みを設けた後、基材シートに配置することもできる。なお、本明細書において、短冊部同士を接合するとは、接着や粘着、熱溶融結合を含む広い意味で使用する。
【0105】
固定材には、例えば、粘着剤が使用できる。粘着剤は、加熱することでタック性が発現する粘着剤を使用することが好ましい。好適には、シリコーン系樹脂の粘着剤を使用する。粘着層形成工程において、基材シート1の表面に粘着剤を塗布する。粘着剤の塗布は、バーコーターを用いて塗工することができる。ただ、キスコーター等を用いたり、含浸させることもできる。粘着剤の塗工量は5~200g/m2(固形分)とすることができる。塗布した粘着剤は、風乾により20~30分で乾燥させ、あるいは、乾燥炉をロールトゥロールで通過させてもよい。なお、本明細書においては、粘着剤は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、あるいは両面テープ等の粘着テープも含むものとする。
【0106】
さらに、粘着剤は、基材シートの片面に塗布することも、両面に塗布することもできる。粘着剤を基材シート1に片面塗布する構造は、図4Aに示す固定材配置工程で基材シート1の片面(図においては下面)にのみ粘着剤5aを塗布すると共に、図4Bに示すカッティング工程で基材シート1に切り込み2を設けて、図4Cに示す折曲工程で蛇腹状に折曲し、図4Dに示す保持工程において、基材シート1の片側面において、短冊部3の対向面が接合される。この熱伝導シート100’は、図5に示すように、基材シート1の片側面(第1の主面10A側)において短冊部3を接合し、反対側の面(第2の主面10B側)では短冊部3を非接合状態とするので、シート状に形成される熱伝導シート100’を湾曲させることができる。すなわち、この熱伝導シート100’は、短冊部3が接合された第1の主面10Aを内側とし、短冊部3が接合されない第2の主面10Bを外側とする形状に湾曲させることができる。これにより、熱伝導シート100’は、外周面を湾曲面とする発熱体の表面に沿う湾曲形状、あるいは筒状に形成して、種々の状態で使用することができる。
【0107】
さらに、以上のように、基材シート1の片面にのみ粘着剤5aを塗布する構造は、粘着剤が塗布されない反対側の面(図においては上面)にコーティング層を設けることもできる。このコーティング層は、詳細には後述するが、基材シートの表面を薄膜状に被覆する層であって、例えば、樹脂等のコーティング剤を薄く塗布することによって形成することができる。このように、基材シートの表面にコーティング層を設ける構造は、短冊部の表面から基材シートの成分である熱伝導フィラーが微細な粒子として落下するのを防止できる特長がある。
【0108】
また、粘着剤を基材シートの両面に塗布する構造は、接合工程において、蛇腹状に折曲された基材シートの両面において短冊部の対向面を接合するので、シート状に形成される熱伝導シートの剛性を高めて、優れた耐荷重を実現でき、外力で変形しにくい強固なシート状とすることができる。
【0109】
(研磨工程)
さらに、接合工程でシート状に形成された熱伝導シートは、接合工程の後工程として、シートの表面を研磨して短冊部の切断面を平滑面とする研磨工程を含むことができる。研磨工程では、互いに隣接する短冊部3の境界において、隣接する短冊部3同士を部分的に連結する非切断部2aを研磨して除去することにより、切断面3aをより確実に表出することができる。さらに、互いに隣接する短冊部3の切断面3aの境界部分を研磨して滑らかな平滑面とすることで、熱伝導シート100の主面10における熱伝導性を向上できる。
【0110】
以上の熱伝導シート100を、発熱体HGと冷却器HSの間に設置した放熱装置を、図6の断面図に示す。図に示す装置では、発熱体HGと冷却器HSとの間に熱伝導シート100を挟着している。熱伝導シート100の一方の主面10は発熱体HGの表面に熱結合されると共に、他方の主面10は冷却器HSの表面に熱結合されている。この図に示すように、抄紙方向を熱伝導シート100の厚さ方向(図において矢印で示す)に変化させたことで、厚さ方向に高い熱伝導性を発揮させることが可能となり、熱伝導シートとして有利な特性を発揮できる。
【0111】
[実施形態2]
本発明の実施形態2に係る熱伝導シートの製造工程を図7の概略工程図に示す。この図に示す熱伝導シート200は、前述の実施形態1に係る熱伝導シート100と同様に、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を互いに平行な複数列の切り込み2で分割してなる複数列の短冊部3を折り畳んで積層し、対向面で接合してシート状に形成するが、基材シート1に設ける切り込み2の構造が実施例1と異なっている。この熱伝導シート200は、カッティング工程において、基材シート1に設ける複数列の切り込み2を、図7Aに示すように、カット部2cと非カット部2dを交互に直線状に設けたミシン目状の切り込み2Bとしている。この切り込み2Bは、基材シート1の幅方向(短冊部3の長手方向)において、基材シート1の両端面に跨がって設けられており、複数列の切り込み2Bにより、基材シート1を複数列の短冊部3に分割している。
【0112】
ミシン目状の切り込み2Bは、基材シート1を貫通する状態で切断するカット部2cと、基材シート1を切断しない非カット部2dとが交互に直線状に配置されている。この切り込み2Bは、カット部2cの長さ(S )と非カット部2dの長さ(S )の比であるS :S を1:1~10:1としており、非カット部に対するカット部の比率を大きくすることで、複数の短冊部を折り畳んで積層する状態で、隣接する短冊部の境界部分に表出する切断面の面積が広くなるようにしている。
【0113】
図7Aに示す切り込み2Bは、基材シート1の幅方向の両端縁部には非カット部を配置しており、基材シートの両端において、隣接する短冊部同士が分離するのを防止している。ただ、ミシン目状の切り込みは、基材シートの両端縁部にカット部を設けることもできる。このようなミシン目状の切り込み2Bは、例えば、トムソン刃やローラーカッターを使用して、基材シート1のカット領域を調整しながら切断することでカット部を正しい位置に設けることができる。
【0114】
さらに、複数列の短冊部3に分割された基材シート1は、折曲工程において、互いに隣接する短冊部3同士の境界において、ミシン目状の切り込み2Bを折り目として折曲される。基材シート1は、図7Bに示すように、切り込み2Bを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲される。ミシン目状の切り込み2Bで折曲される基材シート1は、非カット部2dにおいては互いに隣接する短冊部3同士が分離されることなく、非カット部2dを介して部分的に連結された状態で折曲され、カット部2cにおいては短冊部3の切断面3aが表出する。
【0115】
図7に示す切り込み2Bも、基材シート1の表面に対して垂直方向に、言い換えると、基材シート1を厚さ方向に切断するように設けられており、複数列に分割される短冊部3の切断面3aが垂直面となるようにしている。切断面3aが垂直面となる短冊部3は、図7Cに示すように、複数枚が折り畳まれて積層され、対向面が接合された状態では、短冊部3の横幅方向が熱伝導シート200の厚さ方向となるように構成されて、垂直面が熱伝導シート200の主面10に表出する。この熱伝導シート200は、両面に表出する切断面3aが同一平面状に配置されて、略平滑な主面10を形成している。
【0116】
さらに、この熱伝導シート200も、接合工程の後工程として研磨工程を設けて、シートの表面を研磨することができる。この研磨工程においては、互いに隣接する短冊部3の境界において、隣接する短冊部3同士を部分的に連結する非カット部2dを研磨して除去することにより、切断面3aをより確実に表出することができる。さらに、互いに隣接する短冊部3の切断面3aの境界部分を研磨して滑らかな平滑面とすることで、熱伝導シート200の主面10における熱伝導性を向上できる。
【0117】
[実施形態3]
本発明の実施形態3に係る熱伝導シートの製造工程を図8の概略工程図に示す。この図に示す熱伝導シート300は、カッティング工程において、基材シート1に設ける切り込み2を、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aと、カット部2cと非カット部2dを交互に直線状に設けたミシン目状の切り込み2Bとしており、これらの切り込み2A、2Bを互いに平行な姿勢で交互に設けている。ハーフカットされた切り込み2Aは、前述の実施形態1と同様にして設けることができ、ミシン目状の切り込みは、前述の実施形態2と同様にして設けることができる。これらの切り込み2A、2Bは、基材シート1に対して片側(図8においては上側)からカットして設けることができる。
【0118】
さらに、複数列の短冊部3に分割された基材シート1は、折曲工程において、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aとミシン目状の切り込み2Bとを折り目として、山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲される。ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aで折曲される基材シート1は、互いに隣接する短冊部3同士が分離されることなく、非切断部2aを介して部分的に連結された状態で折曲されると共に、ハーフカットされた切り込み2Aの切断部が切断面3aとして表出する。ミシン目状の切り込み2Bで折曲される基材シート1は、非カット部2dにおいては互いに隣接する短冊部3同士が分離されることなく、非カット部2dを介して部分的に連結された状態で折曲され、カット部2cにおいては短冊部3の切断面3aが表出する。
【0119】
図8に示す切り込み2A、2Bも、基材シート1の表面に対して垂直方向に設けられており、複数列に分割される短冊部3の切断面3aが垂直面となるようにしている。切断面3aが垂直面となる短冊部3は、図8Cに示すように、複数枚が折り畳まれて積層された状態では、短冊部3の横幅方向が熱伝導シート100の厚さ方向となるように積層されて、垂直面が熱伝導シート300の主面10に表出する。この熱伝導シート100は、図において上面側である第1の主面10Aにはハーフカットされた切り込み2Aによる切断面3aが表出し、下面側である第2の主面10Bにはミシン目状の切り込み2Bのカット部2cによる切断面3aが表出している。
【0120】
[実施形態4]
本発明の実施形態4に係る熱伝導シートの製造工程を図9の概略工程図に示す。この図に示す熱伝導シート400は、カッティング工程において、基材シート1に設ける切り込み2を、基材シート1の表面に対して傾斜する方向に設けている。傾斜する切り込みによって分割される短冊部は、切り込みで形成される切断面3aが、短冊部3の表面に対して傾斜する方向に設けられた傾斜面としている。このため、傾斜姿勢で互いに平行に設けられる複数列の切り込み2Cにより、複数に分割される各短冊部3は、横断面形状が平行四辺形状に分割される。図に示す切り込み2Cは、傾斜方向にハーフカットされた切り込みとしているが、カット部が傾斜されたミシン目状の切り込みとすることもできる。
【0121】
このように、傾斜する切り込み2Cで分割された短冊部3は、折曲工程において、切り込み2Cを折り目として、とくに、ハーフカットされた切り込み2Cの非切断部2aを折り目として、図9Bに示すように蛇腹状に折曲される。基材シート1の表面に対して傾斜して設けられる切り込み2Cは、図9Aに示すように、互いに隣接する短冊部3の境界において、一方の短冊部3の切断面3aが基材シート1の表面となす傾斜角をαとし、他方の短冊部3の切断面3aが基材シート1の表面となす傾斜角をβとすると、α+β=180度となるので、図9Cで示すように、複数の短冊部3を折り畳んで積層し、対向面を接合してシート状とする状態では、シートの主面10に表出する複数の切断面3aが同一平面状に配置されて平面状となる。
【0122】
このようにして製造される熱伝導シート400は、互いに積層される短冊部3の面方向を熱伝導シート1の厚さ方向に対して傾斜姿勢で配置することができる。このため、熱伝導シート400の厚さ方向に対して各短冊部3が傾斜された姿勢で配置され、熱伝導シート400の厚さ(D)を短冊部3の横幅(d)に対して薄く形成することができる。とくに、この熱伝導シート400は、切断面3aの傾斜角αにより熱伝導シート400の厚さ(D)が特定される。ここで、熱伝導シート400の厚さ(D)は、短冊部3の横幅(d)と短冊部3の切断面3aの傾斜角(α)を用いて、以下の式で表される。
D=d・sinα
【0123】
すなわち、この熱伝導シート400は、その厚さ(D)を、短冊部3の横幅(d)よりも小さくできる。例えば、傾斜角αを60度とすると、熱伝導シート400の厚さ(D)は、短冊部3の横幅(d)の約0.87倍となり、傾斜角αを45度とすると、熱伝導シート400の厚さ(D)は、短冊部3の横幅(d)の約0.71倍となり、薄くすることができる。
【0124】
さらに、この熱伝導シート400は、厚さ(D)を薄くするだけでなく、互いに積層される各短冊部3が熱伝導シート400の厚さ方向に対して傾斜する姿勢で配置されるので、熱伝導シート400の厚さ方向における剛性を低減して、言い換えると熱伝導シート全体を柔らかくして、厚さ方向に撓りを持たせることも可能となる。
【0125】
[実施形態5]
本発明の実施形態5に係る熱伝導シートの製造工程を図10の概略工程図に示す。この図に示す熱伝導シート500は、カッティング工程において、基材シート1を、横幅の狭い幅狭短冊部3Aと、幅狭短冊部3Aよりも横幅の広い幅広短冊部3Bとが交互に配列されるように分割している。図に示す切り込み2Aは、基材シートに対して垂直な方向にハーフカットされた切り込み2Aとしているが、カット部が傾斜されたミシン目状の切り込みとすることもできる。
【0126】
以上の熱伝導シート500は、交互に配列された幅狭短冊部3Aと幅広短冊部3Bとを折り畳んで積層し、対向面で接合することで、シート状に形成される熱伝導シート500の両面に、幅狭短冊部3Aと幅広短冊部3Bの横幅(d)の差による段差部4を設けており、互いに隣接する段差部4同士を同一平面状に配置された熱伝導シート500としている。このようにして製造される熱伝導シート500は、同一平面状に配置される段差部4を両面に配置するシート状に形成されるので、熱伝導シート500の厚さ方向に対して各短冊部3が傾斜された姿勢で配置される。このため、熱伝導シート500の厚さ(D)を短冊部3の横幅(d)に対して相当に薄く形成することができる。とくに、この熱伝導シート500は、幅狭短冊部3Aと幅広短冊部3Bの横幅比により、熱伝導シート500の厚さ方向に積層される短冊部3の積層数が特定されるので、この横幅比を調整することで、熱伝導シート500の厚さを調整することができる。
【0127】
ここで、図に示す熱伝導シート500は、幅狭短冊部3Aの横幅(d1)と幅広短冊部3Bの横幅(d2)の比であるd1:d2を、好ましくは1:2~4:5とする。d1/d2は、1より小さく、好ましくは、0.7よりも小さくする。図に示す熱伝導シート500は、d1/d2を約0.6としている。この熱伝導シート500は、厚さ方向に積層される短冊部3の積層数が3枚または5枚となり、両面には、幅狭短冊部3Aと幅広短冊部3Bの横幅の差による段差部4が形成される。d1/d2を小さくすると、熱伝導シート500の厚さ方向に積層される短冊部3の積層数が少なくなるので、熱伝導シート500はその厚さ(D)を薄くできると共に、熱伝導シート500の厚さ方向における剛性を低減して、言い換えると熱伝導シート全体を柔らかくして、厚さ方向に撓りを持たせることも可能となる。
【0128】
以上の実施形態では、保持工程において、蛇腹状に折曲された基材シート1を折り畳んで複数の短冊部3を互いに積層し、積層される短冊部3同士を、対向面で接合してシート状に保持しているが、本発明の熱伝導シートは、保持工程において、折り畳まれた基材シートの複数の短冊部を、固定材を介して、互いに積層されない非積層姿勢に保持することもできる。この熱伝導シートを本発明の他の実施形態に係る熱伝導シートとして、図11図17に示す。
【0129】
[実施形態6]
本発明の実施形態6に係る熱伝導シート600を図11の斜視図に示すと共に、その製造工程を図12の概略工程図に示す。図11に示す熱伝導シート600は、図12に示すように、厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を互いに平行な複数列の切り込み2で複数列の短冊部3に分割すると共に、複数列の短冊部3を、切り込み2を折り目として折り畳んだ姿勢に保持して、主面10を有するシート状に形成している。熱伝導シート600は、基材シート1を所定の形状に保持するための固定材5を基材シート1の表面に備えており、この固定材5を介して、折り畳まれた複数列の短冊部3を互いに積層されない非積層姿勢、言い換えると、断面視ジグザグ状の波形に保持している。
【0130】
固定材5は、基材シート1の表面に配置されて、折り畳まれた基材シート1を所定の形状に保持可能な材料であって、たとえば、熱硬化性樹脂5bが使用できる。熱硬化性樹脂5bは、基材シート1の表面に塗布されると共に、基材シート1を折り畳んで所定の形状とした状態で加熱することで硬化されて、基材シート1を所定の形状に保持する。このような熱硬化性樹脂5bとして、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン等が使用できる。ただ、固定材には、熱硬化性樹脂に代わって、塗布後、時間経過により硬化される樹脂や接着剤等も使用できる。固定材5は、保持工程の前工程として、好ましくはカッティング工程の前工程として設けた固定材配置工程において、基材シート1の表面に配置される。
【0131】
(コーティング層7)
図12に示す熱伝導シート600は、樹脂や接着剤からなる固定材5を、基材シート1の表面全体に所定の厚さとなる層状に塗布して、この固定材5が硬化する状態で、断面視ジグザグ状の波形に折り畳まれた基材シート1を所定の形状に保持するようにしている。このように、基材シート1の表面に塗布される固定材5は、短冊部3の表面を被覆するコーティング層7として機能させることができる。コーティング層7は、基材シート1の表面を薄膜状に被覆する層であって、基材シート1の表面に塗布される固定材5により、短冊部3の表面を被覆して、この表面から基材シート1の成分である熱伝導フィラー等が、微細な粒子として落下するのを防止できる。このコーティング層7は、例えば、基材シート1の表面に塗布される固定材5をコーティング剤として設けることができる。固定材5からなるコーティング層7を設けた基材シート1は、切り込み2により複数列の短冊部3に分割された状態で、切断面3aを除く表面がコーティング層7で被覆されて、短冊部3の表面を保護して、微細な粒子等の落下を防止する。
【0132】
コーティング層7は、固定材5とは別部材として設けることもできるが、このように、基材シート1の略全面に対して固定材5を塗布する構造においては、この固定材5をコーティング剤として短冊部3の表面を被覆するコーティング層7を設けることができる。この構造は、短冊部3の表面に塗布される固定材5をコーティング剤に兼用することで、製造工程を簡略化しながら、コーティング層7を安価に設けることができる。
【0133】
この熱伝導シート600は、以下の工程で製造される。
(1)準備工程
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を準備する。この工程では、例えば、黒鉛フィラーと有機繊維を湿式抄紙してなる黒鉛放熱シートを使用する。
(2)固定材配置工程
図12Aで示すように、基材シート1の表面に固定材5を配置する。固定材5は、熱硬化性樹脂5bとして、好ましくは基材シート1の両面に塗布される。
(3)カッティング工程
図12Bで示すように、基材シート1の平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込み2を基材シート1に設けて、基材シート1を複数列の短冊部3に分割する。図12Bに示す基材シート1は、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aを、基材シート1の表裏に交互に設けている。複数列の切り込み2Aは、等間隔であって、基材シート1の表面に対して垂直な姿勢で設けられる。図12Bに示す切り込み2Aはハーフカットされた切り込み2Aとしているが、切り込みはミシン目状とすることもできる。
(4)折曲工程
図12Cで示すように、複数の短冊部3に分割された基材シート1を、切り込み2Aを折り目として、互いに隣接する短冊部3同士の境界で折曲する。基材シート1は、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲される。
(5)保持工程
図12Dで示すように、蛇腹状に折曲された基材シート1を折り畳んで、所定の形状に保持する。折り畳まれた基材シート1は、複数列の短冊部3が互いに積層されない非積層姿勢、言い換えると、断面視においてジグザグ状の波形となるように保持される。折り畳まれた基材シート1は、所定の姿勢とした状態で、固定材5を硬化させることで短冊部3の表面が硬化されて所定の形状に保持される。固定材5を熱硬化性樹脂5bとする場合は、所定の温度まで加熱することにより、固定材5を硬化させる。
互いに隣接する短冊部3同士は、境界部分において、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aを介して部分的に連結されると共に、ハーフカットされた切断部が切断面3aとしてシートの主面10に表出する。
【0134】
以上のようにして製造される熱伝導シート600は、全体の横断面形状をジグザグ状の波形とすることで、熱伝導シート600の厚さ方向に対して各短冊部3が傾斜された姿勢に保持される。このため、熱伝導シート600の厚さ方向における剛性を低減して、熱伝導シート全体に柔軟性を持たせることができる。このように、柔軟性を持たせることができる熱伝導シート600は、表面を柔らかくすることで、主面10側に表出する短冊部3の切断面3aと発熱体や冷却器の表面との接触抵抗を小さくしながら効率よく熱結合できる。たとえば、熱伝導シート600の表面に柔軟性を持たせることで、発熱体や冷却器の表面が湾曲面や凹凸面であっても、切断面3aを弾性的に接触させて隙間なく当接させることが可能となる。この熱伝導シート600は、短冊部3の切断面3aを主面10に表出させることで、厚さ方向における熱伝導率を高くすることに加えて、切断面3aと発熱体や冷却器の表面との接触抵抗を低減することにより、さらに優れた熱伝導性を実現できる
【0135】
また、この熱伝導シート600は、複数に分割された短冊部3の表面を、固定材5で形成されるコーティング層7で被覆しているので、短冊部3の表面から基材シート1の成分である熱伝導フィラー等が微細な粒子として落下するのを防止できる。例えば、基材シート1を黒鉛放熱シートとする熱伝導シートにおいて、含有される黒鉛フィラー等の微粒子が短冊部3の表面から落下することは、使用環境が悪化するため好ましくない。特に、黒色の黒鉛粒子が落下して散乱すると、外観的にも好ましくない。また、金属製の熱伝導フィーラーを含有する基材シートにおいても、金属フィラーである微粒子が散乱することは、電気機器等への悪影響を考慮すると好ましくない。したがって、短冊部3の表面をコーティング層7で被覆することにより、熱伝導フィラー等の微粒子の落下を防止して、熱伝導シートの安全性と信頼性を向上できる。
【0136】
さらに、短冊部3の表面をコーティング層7で被覆する構造は、短冊部3の表面がコーティング層7により補強されるため、使用状態において短冊部3が熱伝導方向(熱伝導シートの厚さ方向)の中間部で折曲されたり、極度に湾曲されるのを有効に防止できる特長がある。全体の横断面形状をジグザグ状の波形とする熱伝導シートは、前述のように、各短冊部が傾斜姿勢で配置されることで、熱伝導シート全体に柔軟性を持たせることができるが、一方で、熱伝導シートの使用状態において、荷重や振動が加わることで、各短冊部にかかる負荷が大きくなる。この場合、短冊部が熱伝導方向(熱伝導シートの厚さ方向)の中間部で折れ曲がったり湾曲する中折れ状態となると、この部分において、熱伝導シートの厚さ方向への熱伝導が抑制されて、熱伝導シート全体としての熱伝導率が低下することが懸念される。したがって、各短冊部3の表面をコーティング層で補強することにより、短冊部3の中折れを有効に防止して熱伝導シートの熱伝導率の低下を抑制できる。
【0137】
以上のように、複数列の短冊部3を互いに積層することなく断面視がジグザグ状となる波形に形成される熱伝導シート600は、基材シート1を折り畳む際に短冊部3同士がなす角度θを調整することで、柔軟性を調整することができる。熱伝導シート600は、短冊部3同士がなす角度θを小さくすると、厚さ方向における剛性が高くなって、柔軟性が小さくなると共に、シート全体の密度も大きくなる。これに対して、短冊部3同士がなす角度θを大きくすると、厚さ方向における剛性が小さくなって、柔軟性が大きくなり、シート全体の密度も小さくなる。したがって、熱伝導シート600は、これらのことを考慮して、短冊部3同士がなす角度θを決定する。短冊部3同士がなす角度θは、例えば、120度以下であって、好ましくは90度以下、さらに好ましくは60度以下とする。
【0138】
また、以上のようにして製造される熱伝導シート600は、保持工程において、基材シート1を折り畳む状態で、種々の形状に形成させた後、固定材5を硬化させて所定の形状に保持できる。したがって、図13に示すように、断面視ジグザグ状の波形に形成される熱伝導シート600を湾曲させることが可能となる。これにより、熱伝導シート600は、外周面を湾曲面とする発熱体HG、例えば円柱状のモーター等の表面に沿う湾曲形状、あるいは筒状に形成して、発熱体との接触抵抗を低減しながら理想的に熱結合でき、熱伝導性を向上できる。
【0139】
[実施形態7]
本発明の実施形態7に係る熱伝導シート700を図14の斜視図に示すと共に、その製造工程を図15の概略工程図に示す。図14に示す熱伝導シート700は、図11及び図12に示す熱伝導シート600と同様に、基材シート1の表面に固定材5を設けて、この固定材5を介して、折り畳まれた複数列の短冊部3を互いに積層されない非積層姿勢のジグザグ状の波形に保持するが、固定材5を配置する箇所が異なっている。この伝導シート700は、固定材5を基材シート1の表面全体に配置するのではなく、谷折りされる谷部6にのみ部分的に配置している。
【0140】
図14に示す熱伝導シート700は、基材シート1の谷折りされた谷部6であって、第1の面1X(図において上面)に形成される谷部6にのみ固定材5を配置している。図の熱伝導シート700は、基材シート1の第1の面1Xにおいて、谷折りされる折り目2xに沿って固定材5を配置することにより、第1の面1Xに形成される谷部6に固定材5を充填している。このように、基材シート1の一方の面に形成される谷部6にのみ固定材5を配置する構造は、固定材5を配置する領域を限定することで、使用する固定材5を節約して製造コストを低減できる特徴がある。ここで、固定材5は、谷折りされる折り目2xに沿って連続する線状に配置することにより、効果的に隣接する短冊部3同士を固定できる。ただ、固定材は、必ずしも連続する線状に配置する必要はなく、谷折りされる折り目2xに沿って部分的に配置することもできる。例えば、固定材は、谷折りされる折り目2xに沿って非連続な線状(例えば破線状)に配置してもよい。
【0141】
基材シート1の谷部6に配置される固定材5には、好ましくは、柔軟性に優れた樹脂やゴムが使用できる。固定材5に使用する樹脂には、例えば、ポリロタキサン、シリコーン、ポリウレタン等が採用できる。また、固定材5に使用するゴムには、例えば、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が採用できる。さらに、固定材5は、樹脂に発泡剤を添加して、発泡樹脂とすることもできる。これらの固定材5は、隣接する短冊部3同士を強固に固定しながら柔軟性をだすことができる。ただ、固定材には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用することもできる。
【0142】
固定材5は、保持工程の前工程であって、好ましくはカッティング工程の後工程として設けた固定材配置工程において基材シート1の表面に配置される。固定材配置工程は、カッティング工程の後工程とすることで、基材シート1に設けた切り込み2Aを目印として基材シート1の表面に配置することができる。ただ、固定材配置工程は、折曲工程の後工程として、基材シート1を蛇腹状に折曲した後、谷折りされた谷部6に充填することもできる。
【0143】
この熱伝導シート700は、以下の工程で製造される。
(1)準備工程
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を準備する。この工程では、例えば、黒鉛フィラーと有機繊維を湿式抄紙してなる黒鉛放熱シートを使用する。
(2)カッティング工程
図15Aで示すように、基材シート1の平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込み2を基材シート1に設けて、基材シート1を複数列の短冊部3に分割する。図15Aに示す基材シート1は、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aを、基材シート1の表裏に交互に設けている。複数列の切り込み2Aは、等間隔であって、基材シート1の表面に対して垂直な姿勢で設けられる。図15Aに示す切り込み2Aはハーフカットされた切り込み2Aとしているが、切り込みはミシン目状とすることもできる。
(3)固定材配置工程
図15Bで示すように、基材シート1の表面に固定材5を配置する。固定材5は、柔軟性に優れた樹脂またはゴムであって、液状またはゲル状、あるいは半固体状の状態で塗布する。固定材5は、基材シート1の第1の面1X(図において上面)において、谷折りされる折り目2xに沿って線状に配置される。図に示す基材シート1は、第1の面1Xと第2の面1Y(図において下面)に、ハーフカット状の切り込み2Aを交互に設けている。この基材シート1は、次工程である折曲工程において、蛇腹状に折曲されるが、第1の面1Xにおいて谷折りされる折り目2xであって、第2の面1Yに設けた切り込み2Aの非切断部2aに沿って固定材5を配置する。固定材5は、基材シート1が折り畳まれた状態で形成される谷部6に対して最適な深さ(h)まで充填される量が配置される。
(4)折曲工程
図15Cで示すように、複数の短冊部3に分割された基材シート1を、切り込み2Aを折り目として、互いに隣接する短冊部3同士の境界で折曲する。基材シート1は、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aを折り目として山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲される。
(5)保持工程
図15Dで示すように、蛇腹状に折曲された基材シート1を折り畳んで、所定の形状に保持する。折り畳まれた基材シート1は、複数列の短冊部3が互いに積層されない非積層姿勢、言い換えると、断面視においてジグザグ状の波形となるように保持される。この状態で、基材シート1の第1の面1Xにおいて、谷折りされる折り目2xに沿って配置された固定材5は、図に示すように、谷折りされて形成される谷部6の底部に充填される状態となる。折り畳まれた基材シート1は、所定の姿勢とした状態で固定材5を硬化させることで、谷部6を形成する両側の短冊部3の表面に固定材5が固定されて所定の形状に保持される。互いに隣接する短冊部3同士は、境界部分において、ハーフカットされた切り込み2Aの非切断部2aと谷部6に充填された固定材5を介して部分的に連結されると共に、ハーフカットされた切断部が切断面3aとしてシートの主面10に表出する。
【0144】
さらに、図16は、固定材配置工程を、折曲工程の後工程として、基材シート1を蛇腹状に折曲した後、谷折りされた谷部6に充填する状態を示している。
図16に示す製造工程では、以下のようにして熱伝導シート700を製造する。
(1)カッティング工程
図16Aで示すで、基材シート1に複数列の切り込み2に設ける。
(2)折曲工程
図16Bで示すように、複数の短冊部3に分割された基材シート1を、切り込み2Aを折り目として、蛇腹状に折曲する。
(3)固定材配置工程
図16Cで示すように、折曲された基材シート1の第1の面1Xにおいて、谷折りされた谷部6に、折り目に沿って線状に固定材5を配置する。
(4)保持工程
図16Dで示すように、蛇腹状に折曲された基材シート1を折り畳んで、所定の形状に保持する。
【0145】
以上のようにして製造される熱伝導シート700は、全体の横断面形状をジグザグ状の波形とすることで、熱伝導シート700の厚さ方向に対して各短冊部3が傾斜された姿勢に保持される。このため、熱伝導シート700の厚さ方向における剛性を低減して、熱伝導シート全体に柔軟性を持たせることができる。さらに、この熱伝導シート700は、折り畳まれた基材シート1の谷部にのみ固定材5を配置するので、シート全体に固定材5を塗布することなく、全体として基材シート1の素材を表出させた熱伝導シート700としながら柔軟性を発揮できる。とくに、固定材5として柔軟性に優れた樹脂やゴムを使用することでさらに、柔軟性に優れた熱伝導シート700が実現できる。
【0146】
さらに、図に示す熱伝導シート700は、切り込み2Aをハーフカット状としており、切断面3aの裏側面に相当する非切断部2aに沿って固定材5を配置するので、基材シート1を折り畳んだ状態では、切断面3aを確実に主面に表出できる。それは、表出される切断面3aの裏側となる面に固定材5を配置するので、固定材5が切断面3aの表出を阻害しないからである、このため、この熱伝導シート700は、主面10に対して切断面3aを確実に表出させて、安定した熱伝導性を発揮できる。
【0147】
[実施形態8]
さらに、熱伝導シートは、図17及び図18に示すように、基材シート1の両面において、谷部6に固定材5を配置することもできる。この熱伝導シート800は、以下の工程で製造される。
(1)準備工程
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を準備する。
(2)カッティング工程
図17Aで示すように、基材シート1の平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込み2を基材シート1に設けて、基材シート1を複数列の短冊部3に分割する。図17Aに示す基材シート1は、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aを、基材シート1の表裏に交互に設けている。
(3)固定材配置工程
図17Bで示すように、基材シート1の表面に固定材5を配置する。固定材5は、基材シート1の第1の面1X(図において上面)において、谷折りされる折り目2xに沿って線状に配置する。
(4)折曲工程
図17Cで示すように、複数の短冊部3に分割された基材シート1を、切り込み2Aを折り目として、山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲する。この状態で、基材シート1の第1の面1Xにおいて、谷折りされる折り目2xに沿って配置された固定材5は、図に示すように、谷折りされて形成される谷部6の底部に充填される状態となる。
(5)反転工程
図18Aで示すように、蛇腹状に折曲された基材シート1を上下反転する。
(6)固定材配置工程
図18Bで示すように、反転された基材シート1の第2の面1Y(図において上面)において、谷折りされた谷部6の底部に、折り目に沿って線状に固定材5を配置する。
(7)保持工程
図18Cで示すように、両面の谷部6に固定材5が配置された基材シート1を折り畳んで、所定の形状に保持する。折り畳まれた基材シート1は、複数列の短冊部3が互いに積層されない非積層姿勢であって、断面視においてジグザグ状の波形となるように保持される。谷部6に充填された固定材5を硬化させて、折り畳まれた基材シート1を所定の形状に保持する。
【0148】
以上のようにして製造される熱伝導シート800は、両面に形成される谷部6に固定材5を配置するので、ジグザグ状に折り畳まれる複数の短冊部3を全ての境界部分において固定部5で固定できる特徴がある。このため、折り畳まれた複数の短冊部3をより強固に固定しながら、シート全体としては優れた柔軟性を実現できる。また、この熱伝導シート800は、両面の谷部6に固定部5を配置して固定するので、各々の谷部6に配置される固定材5の充填量を少なくしながら全体の強度を高くできる特徴もある。
【0149】
[実施形態9]
図14図18に示す熱伝導シート700、800は、固定材5を基材シート1の表面全体に配置するのではなく、谷折りされる谷部6にのみ部分的に配置している。これらの熱伝導シート700、800は、各短冊部3の表面であって固定材5が配置されない領域においては、基材シート1の表面が表出する。このように、短冊部3の切断面3aを除く表面において基材シート1が表出することに起因する弊害を防止するために、図19図20に示す熱伝導シート900は、各短冊部3の表面にコーティング層7を設けている。具体的には、準備工程の後工程であって、固定材配置工程の前工程として、基材シート1の表面にコーティング剤を塗布してコーティング層7を形成する被覆工程を設けており、このコーティング層7により、短冊部3の切断面3aを除く表面を被覆している。
【0150】
被覆工程において、コーティング層7は、基材シート1の表面に樹脂等からなるコーティング剤を塗布して形成される。このようなコーティング剤として、例えば、ポリロタキサン、又はシリコーン、ポリウレタン、エポキシ、フェノール等の熱硬化性樹脂、又はポリビニルアルコール、アクリル等の熱可塑性樹脂から選択される樹脂のいずれかを含むものが使用できる。このように、柔軟性に優れた樹脂からなるコーティング剤を使用することで、各短冊部3の表面を補強しながら、熱伝導シート900の柔軟性を実現できる。コーティング層7は、被覆工程において、基材シート1の表面にコーティング剤を塗布して形成される。コーティング剤は、バーコーターやキスコーター等を用いて塗工することができる。コーティング剤の塗工量は5~200g/m2(固形分)とし、膜厚を5~100μmとすることができる。塗布したコーティング剤は、風乾により乾燥させ、あるいは、乾燥炉をロールトゥロールで通過させてもよい。
【0151】
以上の被覆工程は、好ましくは、カッティング工程の前工程として行うことができる。この場合、図19Aに示すように、基材シート1の両面の全面にコーティング剤を塗布してコーティング層7を設けることができる。さらに、図19Bで示すように、コーティング層7が形成された基材シート1にカッティング工程で複数列の切り込み2を設けて、基材シート1を複数の短冊部3に分割する。この基材シート1は、図19Dに示すように、折曲工程で蛇腹状に折曲する状態で、各短冊部3において、切断面3aを除く表面全体にコーティング層7を設けることができる。この方法によると、切断面3aがコーティング剤で被覆されるのを防止して、切断面3aの露出状態が不良になるのを有効に防止できる特長がある。ただ、被覆工程は、カッティング工程の後工程として、基材シート1に切り込み2を設けた後、コーティング層を設けることもでき、あるいは、カッティング工程で複数に分割された短冊部3を折曲工程で折曲した後、短冊部3の切断面3aを除く表面にコーティング剤を塗布してコーティング層7を設けることもできる。
【0152】
以上のコーティング層7は、短冊部3の切断面3aを除く表面全体に設けることが好ましい。ただ、コーティング層7は、短冊部3の切断面3aを除く表面に対して、部分的に設けることもできる。短冊部3の両端面を除く表面積全体に対するコーティング層7の比率は、基材シート1の厚さ(t)と短冊部3の横幅(d)により特定されるが、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上とすることができる。
【0153】
各短冊部3の表面にコーティング層7を設けた熱伝導シート900は、例えば、図19及び図20に示す工程で製造される。
(1)準備工程
厚さ方向よりも面方向に熱伝導性が優れた基材シート1を準備する。
(2)コーティング工程
図19Aに示すように、基材シート1の両面にコーティング層7を設ける。コーティング層7は、基材シート1の両面の全体に樹脂を所定の厚さに塗布することにより形成される。
(3)カッティング工程
図19Bで示すように、基材シート1の平面視において、互いに平行な方向に延びる複数列の切り込み2を基材シート1に設けて、基材シート1を複数列の短冊部3に分割する。図19Bに示す基材シート1は、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aを、基材シート1の表裏に交互に設けている。
(4)固定材配置工程
図19Cで示すように、基材シート1の表面に固定材5を配置する。固定材5は、基材シート1の第1の面1X(図において上面)において、谷折りされる折り目2xに沿って線状に配置する。
(5)折曲工程
図19Dで示すように、複数の短冊部3に分割された基材シート1を、切り込み2Aを折り目として、山折りと谷折りとを交互に繰り返して蛇腹状に折曲する。この状態で、基材シート1の第1の面1Xにおいて、谷折りされる折り目2xに沿って配置された固定材5は、図に示すように、谷折りされて形成される谷部6の底部に充填される状態となる。(6)反転工程
図20Aで示すように、蛇腹状に折曲された基材シート1を上下反転する。
(7)固定材配置工程
図20Bで示すように、反転された基材シート1の第2の面1Y(図において上面)において、谷折りされた谷部6の底部に、折り目に沿って線状に固定材5を配置する。
(8)保持工程
図20Cで示すように、両面の谷部6に固定材5が配置された基材シート1を折り畳んで、所定の形状に保持する。折り畳まれた基材シート1は、複数列の短冊部3が互いに積層されない非積層姿勢であって、断面視においてジグザグ状の波形となるように保持される。谷部6に充填された固定材5を硬化させて、折り畳まれた基材シート1を所定の形状に保持する。
【0154】
以上の工程で製造される熱伝導シート900は、基材シート1の両面において、谷部6に固定材5を配置しているが、熱伝導シートは、基材シートの片側面の谷部にのみ、固定材を配置してもよい。
【0155】
以上のようにして、断面視ジグザグ状の波形に形成される熱伝導シート700、800、900も、前述の熱伝導シート600と同様に、基材シート1を折り畳む際に短冊部3同士がなす角度θを調整することで、柔軟性を調整することができる。また、図13に示す前述の熱伝導シート600と同様に、断面視ジグザグ状の波形に形成される熱伝導シート700、800、900を湾曲させることもできる。
【0156】
さらに、以上の熱伝導シート700、800、900は、谷部6に充填される固定材5の充填量や深さによってもシート全体の柔軟性を調整できる。熱伝導シート700、800、900は、固定材5の充填量を多くし、深さを深くすると、隣接する短冊部3同士を広い領域にわたって連結することになるので、隣接する短冊部3同士が拡開しにくくなり、全体として剛性が高くなり柔軟性が小さくなる。これに対して、固定材5の量を少なくし、深さを浅くすると、隣接する短冊部3同士を狭い領域で連結することになるので、隣接する短冊部3同士が拡開し易くなって全体として剛性がくなって柔軟性が大きくなる。図16に示す熱伝導シート700は、全体の深さ(H)に対して約1/3の深さまで固定部5を充填し、図18及び図20に示す熱伝導シート800、900は、全体の深さ(H)に対して約1/4の深さまで固定部5を充填している。固定材5を充填する深さ(h)は、例えば、谷部6の深さ(H)全体に対して、1/20~2/3、好ましくは、1/10~1/2の深さまで充填することができる。熱伝導シートは、要求される柔軟性と製造コストを考慮して、谷部6に充填する固定材5の充填量や深さを決定する。
【0157】
以上の熱伝導シート600、700、800、900は、短冊部3の横幅(d)を全て等しくしているが、熱伝導シートは、前述の実施形態5と同様に、横幅の狭い幅狭短冊部と、幅狭短冊部よりも横幅の広い幅広短冊部とが交互に配列されるように基材シートを分割することもできる。この熱伝導シートは、図示しないが、交互に配列された幅狭短冊部と幅広短冊部とを蛇腹状に折曲して折り畳むことで、横断面視を鋸波状の波形に近似する形状とし、固定材を介してシート全体をこの姿勢に保持することができる。このように、鋸波状の断面形状とする熱伝導シートは、幅狭短冊部と幅広短冊部の横幅比を調整することで、熱伝導シートの厚さ方向における剛性や熱伝導シート全体の柔軟性を調整できる。
【0158】
以上の実施形態1~9にかかる熱伝導シートは、両側の主面10に切断面3aを表出させており、これらの切断面3aを熱伝導面として発熱体や冷却器に熱結合させるようにしている。さらに、これらの熱伝導シートは、両側の主面10を除く全ての面にコーティング層を設けて被覆することもできる。例えば、図1図2図7図8に示す熱伝導シートにおいては、左右の両側面と前後の両端面にコーティング剤を塗布してコーティング層を設けることができる。また、図11図14に示す熱伝導シートにおいては、短冊部の切断面を除く表面に加えて、前後の両端面にコーティング剤を塗布してコーティング層を設けることもできる。これらの熱伝導シートは、さらに短冊部の両端面から微細な粒子の落下を防止できる。
【0159】
[実施例]
ここで、実施例1~3に係る熱伝導シートを試作し、その特性を測定した。
ここでは、実施例1~3においては、基材シートに使用した黒鉛放熱シートは、厚さが0.23mmであり、面方向における熱伝導率が120W/m・Kであった。
実施例1~3においては、以上の基材シートに所定の間隔で切り込みを設けて複数列の短冊部に分割すると共に、複数列の短冊部を切り込みを折り目として折曲して積層し、対向面を固定材で接合した。固定材として、モメンティブ社製のシリコーン粘着剤を使用した。
【0160】
[実施例1]
実施例1の熱伝導シートは、以下のようにして作製した。
図4Aに示すように、基材シート1の片側面に固定材5としてシリコーン粘着剤5aを塗布した。シリコーン粘着剤5aの塗工量は80g/mとし、バーコーターを用いて塗工した。
次に、図4Bに示すように、基材シート1の両面に複数列の切り込み2を等間隔で交互に設けて複数列の短冊部3に分割した。切り込み2は、基材シート1の厚さ方向にハーフカットされた切り込み2Aとし、切断部2aの切り込み深さは、基材シート1の厚さの約50%とした。複数列に分割された短冊部3の横幅(d)は2mmとした。
複数の短冊部3に分割された基材シート1を、図4Cに示すように、切り込み2を折り目として蛇腹状に折曲した。
図4Dに示すように、蛇腹状に折曲された基材シート1を折り畳んで複数の短冊部3を互いに積層し、積層される短冊部3同士の対向面を固定材5で接合してシート状とした。ここでは、約400列に分割された短冊部3を積層すると共に、基材シート1の片側面において対向面を固定材5で接合してシート状とした。シート状に形成された熱伝導シートの厚さ(D)は2mmであった。
【0161】
[実施例2]
基材シート1の両面にシリコーン粘着剤5aを塗布すると共に、複数列に分割された短冊部3の横幅(d)を3mmとする以外、実施例1と同様にして実施例2の熱伝導シートを作製した。シリコーン粘着剤5aの塗工量は、両面で80g/mとした。シート状に形成された熱伝導シートの厚さ(D)は3mmであった。
【0162】
[実施例3]
基材シート1に設ける切り込み2を、図7に示すミシン目状の切り込み2Bとする以外、実施例2と同様にして実施例3の熱伝導シートを作製した。ミシン目状の切り込み2Bは、カット部2cの長さを7mmとし、非カット部2dの長さを3mmとした。シート状に形成された熱伝導シートの厚さ(D)は3mmであった。
【0163】
[比較例1]
比較例1として、シリコーン樹脂中に熱伝導性フィラーとしてアルミナ粒子を分散させたものを型に入れ、タバイエスペック社製恒温器(PH-101)を用いて、90℃で1時間加熱してシート状に成型したものを用いた。このシートは全体の厚さが4.0mmであった。
【0164】
[比較例2]
比較例2として、実施例1~3で使用した黒鉛放熱シートと同じものを厚さ方向に複数枚積層したものを使用した。この比較例2では、10枚の黒鉛放熱シートを積層して全体の厚さを2.3mmとした。
【0165】
[比較例3]
比較例3の熱伝導シートは、以下のようにして作製した。
実施例1~3で使用した黒鉛放熱シートと同じものを基材シート1とし、両面に固定材5としてシリコーン粘着剤を塗布した。シリコーン粘着剤の塗工量は両面で80g/mとした。
次に、基材シートに、切り込みを設けることなく、等間隔で折り目を設けて複数列の短冊部に分割した。複数列に分割された短冊部の横幅(d)は3mmとした。
複数の短冊部に分割された基材シートを、複数列の折り目において、交互に山折りと谷折りして蛇腹状に折曲した。
蛇腹状に折曲された基材シートを折り畳んで複数の短冊部を互いに積層し、積層される短冊部同士の対向面を固定材で接合してシート状とした。ここでは、約400列に分割された短冊部を積層すると共に、対向面を固定材で接合してシート状とした。シート状に形成された熱伝導シートの厚さ(D)は3.8mmであった。
【0166】
以上のようにして作製された各試料について熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定方法は、図6において発熱体HGに台湾モスペック社製トランジスタ(2SD424)を、冷却器HSにWakefield-Vette社製ヒートシンク(413K)を用いて、これらの間にサンプルを挟み、トルク4cN・m(面圧0.2N/m2)で締め付けた後、定格電力10Wで駆動したときの、ヒーターとヒートシンクの温度を、神港テクノス社製温度計(JCS-33A)で測定した。熱伝導率は、以下の数1、数2に得られた測定温度と諸条件を代入して算出した。
なお、以下の式において、
T1:トランジスタの温度(℃)
T2:ヒートシンクの温度(℃)
としている。
【0167】
【数1】
【0168】
【数2】
【0169】
以上の測定結果を以下に示す
実施例1……熱伝導率: 8W/m・K
実施例2……熱伝導率:15W/m・K
実施例3……熱伝導率:10W/m・K
比較例1……熱伝導率: 4W/m・K
比較例2……熱伝導率: 1W/m・K
比較例3……熱伝導率: 2W/m・K
【0170】
以上のように、厚さ方向の熱伝導率を、実施例1~3では8W/m・K以上を達成することができた。一方、比較例1、2では厚さ方向における熱伝導率は低かった。
また、実施例1~3を比較例3と比較することで、複数列の短冊部を単に積層するだけでなく、基材シートに切り込みを設けて、短冊部の切断面を主面に表出させることにより、高い熱伝導率を発揮できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明に係る熱伝導シート及びその製造方法は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両用の電源装置を放熱する放熱装置、コンピューターに内蔵されるCPU等の電子部品やLED、液晶、PDP、EL、携帯電話等の発光素子等の電子部品からの発熱を放熱する熱伝導シートとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0172】
100、100’、200、300、400、
500、600、700、800、900…熱伝導シート
1…基材シート
1A…黒鉛放熱シート
1X…第1の面
1Y…第2の面
2、2A、2B、2C…切り込み
2a…非切断部
2c…カット部
2d…非カット部
2x…折り目
3…短冊部
3A…幅狭短冊部
3B…幅広短冊部
3a…切断面
4…段差部
5…固定材
5a…粘着剤
5b…熱硬化性樹脂
6…谷部
7…コーティング層
10…主面
10A…第1の主面
10B…第2の主面
11…黒鉛フィラー
12…有機繊維
HS…冷却器
HG…発熱体
図1
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