(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ポーラスカーボン材料の製造方法および本方法により得られるポーラスカーボン材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240611BHJP
【FI】
C01B32/05
(21)【出願番号】P 2021552236
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2020057620
(87)【国際公開番号】W WO2020200811
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-09
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518364218
【氏名又は名称】ヘレウス バッテリー テクノロジー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー ミチャウド-バーンロックナー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス クーン
(72)【発明者】
【氏名】エフゲニーア コマロヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン クリューナー
(72)【発明者】
【氏名】イェルク ベッカー
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-527397(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02921468(EP,A1)
【文献】特表2004-506753(JP,A)
【文献】特開2016-056053(JP,A)
【文献】特開2006-297368(JP,A)
【文献】Journal of Porous Materials,2013年,20,p.107-113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C04B 35/52
JSTPlus/JST7580/JSTchina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの炭素供給源および少なくとも1つの両親媒性種を準備するステップと、
b)前記炭素供給源と前記両親媒性種とを合一して前駆体材料を得るステップと、
c)前記前駆体材料を加熱して、最頻細孔径および細孔容積を有するポーラスカーボン材料を得るステップと
を含む、ポーラスカーボン材料の製造方法であって、前
記ステップc)は、低温処理を含み、前記低温処理において、前記前駆体材料を300℃~600℃の範囲内の第1の温度に加熱して、自己集合した炭素質のポーラス材料を取得し、ここで、前記第1の温度への加熱は、0.5℃/分~5℃/分の範囲内の第1の平均加熱速度を含
み、
前記低温処理が、前記第1の温度よりも低い保持温度で15~240分の温度滞留時間を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の平均加熱速度を、0.6~2.5℃/分の範囲内の値に設定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1の平均加熱速度を、前記ポーラスカーボン材料の事前に決定された最頻細孔径および事前に決定された細孔容積に応じて設定し、前記平均加熱速度の設定は、前記平均加熱速度に対する前記
最頻細孔径および/または前記細孔容積の依存性についての検量線を確立するステップを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ステップc)による加熱を、前
記ステップb)の1時間以内に開始する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ステップc)による加熱を、前
記ステップb)の20分以内に開始する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ステップc)による加熱を、前
記ステップb)の10分以内に開始する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
ステップc)による加熱を、前
記ステップb)の1分以内に開始する、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記保持温度は、450℃未満であり、前記
温度滞留時間は、15~60分の範囲内にある、請求項
1記載の方法。
【請求項9】
前
記ステップc)における前記前駆体材料の加熱が、酸化段階を含み、前記酸化段階において、酸化剤を含む雰囲気中で前記前駆体材料を処理することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記酸化段階中に前記前駆体材料を加熱する間の前記酸化剤を含む雰囲気が、酸素を分子形態で含む雰囲気であることを特徴とする、請求項
9記載の方法。
【請求項11】
前記酸化段階中に前記前駆体材料を加熱する間の前記酸化剤を含む雰囲気が、25体積%未満の酸素含有率を有する雰囲気であることを特徴とする、請求項
10記載の方法。
【請求項12】
前記酸化段階中の前記前駆体材料の加熱を、150℃~520℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項
9記載の方法。
【請求項13】
前記酸化段階中の前記前駆体材料の加熱を、200℃~470℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項
12記載の方法。
【請求項14】
前記酸化段階が、60~360分の範囲内の持続時間を有することを特徴とする、請求項
9記載の方法。
【請求項15】
前記酸化段階が、120~300分の範囲内の持続時間を有することを特徴とする、請求項
14記載の方法。
【請求項16】
前
記ステップc)が、高温処理を含み、前記高温処理中に、前記自己集合した炭素質のポーラス材料を、少なくとも700℃でかつ3000℃以下の第2の温度に供する、請求項1から
15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記前駆体材料は、5℃/分の平均加熱速度で低温処理に供された際に、2℃/分の平均加熱速度の場合よりも2倍を上回る最頻細孔径を有する、請求項1から
15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記両親媒性種は、第1の両親媒性化合物を含み、前記第1の両親媒性化合物は、2つ以上の隣接するエチレンオキシドベースの繰返し単位を含む、請求項1から
15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記前駆体材料が、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロックコポリマーを含み、前記ブロックコポリマーは、15重量%~25重量%のエチレンオキシドを含む、請求項1から
15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記前駆体材料が、50~80重量%のエチレンオキシドを含む界面活性剤を含む、請求項1から
15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記炭素供給源が、ノボラック型フェノール系ホルムアルデヒド樹脂、加水分解性タンニン酸、リグニン、セルロース樹脂からなる群から選択される、請求項1から
15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記ノボラック型フェノール系ホルムアルデヒド樹脂が、ノボラック型レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂である、請求項
21記載の方法。
【請求項23】
前記前駆体材料が、溶媒を含まない、請求項1から
15までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、改良された両親媒性種を使用したポーラスカーボン材料の製造方法に関する。
【0002】
特に本発明は、
a)少なくとも1つの炭素供給源および少なくとも1つの両親媒性種を準備するステップと、
b)前記炭素供給源と前記両親媒性種とを合一して前駆体材料を得るステップと、
c)前記前駆体材料を加熱して、最頻細孔径および細孔容積を有するポーラスカーボン材料を得るステップと
を含む、ポーラスカーボン材料、特にマクロポーラスカーボン材料の製造方法に関する。
【0003】
本発明はさらに、ポーラスカーボン材料に関する。
【0004】
従来技術
ポーラスカーボン材料であって、特に同一の物質において導電性と材料透過性との双方が必要とされる用途で使用するためのものの需要が存在する。そのような用途は例えばイオン移動セルであり、該セルでは電極材料が固液境界で電荷担体と相互作用する。
【0005】
ポーラスカーボンの用途は、一般に細孔構造の特性に基づいている。カーボンを成形するためにネガティブとして作用するテンプレートを使用したポーラスカーボン材料の製造方法は、従来技術において、例えば米国特許出願公開第2012/0301387号明細書から知られている。該文献では、カーボン材料の細孔構造は、実質的にテンプレート材料の構造によって予め決定される。テンプレートは、例えば酸化ケイ素から製造することができ、その後除去されるが、これは材料の損失であるとともに、費用がかかり、健康および安全面で複雑なプロセスにつながる。
【0006】
別のアプローチでは、重合型プロセスにより、ミクロ、メソおよびマクロポーラスカーボン材料が得られる。このプロセスでは、カーボン前駆体と構造指向剤、通常は両親媒性分子とを溶媒中で混合する。溶媒を蒸発させることで自己集合が誘発され、これによりカーボン前駆体の多孔性が定められる。
【0007】
国際公開第2014/060508号には、この重合型プロセスの変形形態であって、長時間の蒸発ステップを回避するプロセスが提案されている。該文献には、マクロおよびメソポーラス構造化材料の前駆体としての重合性有機モノマーおよび両親媒性ポリ(アルキレンオキシド)ブロックコポリマーの溶液を形成すること、この溶液をポリマー発泡体に含浸させること、ならびに含浸されたポリマー発泡体を水熱処理に供することが記載されている。熱処理により、ポリマー発泡体におけるマクロおよびメソポーラス構造化材料の前駆体および両親媒性分子の自己集合が誘発された。カーボン前駆体は、ホルムアルデヒドとフェノールとの反応により得られたフェノール系樹脂である。ブロックコポリマーは、ポリ(プロピレンオキシド)部分を有するポリ(エチレンオキシド)である。熱水処理は、オートクレーブ内で、通常は1~4日間にわたって自己圧でかつ40~200℃の範囲内の温度で行われる。被覆されたポリマー発泡体をオートクレーブから取り出し、不活性雰囲気中で約500℃~約1000℃の温度で炭化プロセスに供して、フェノール系樹脂を熱架橋させる。炭化プロセスの加熱勾配は、ポリマー発泡体の収縮が回避されるように制御され、速度は毎分0.5℃~10℃であってよい。炭化されたカーボン発泡体を、接触黒鉛化に供する。
【0008】
得られた階層的なカーボン材料は、ポリマー発泡体および自己集合に起因して二峰性の細孔径分布を有しており、その際、主要画分はマクロポアであり、副次的画分はメソポアである。マクロポアは、電気化学的用途やその他の用途での輸送特性の向上に役立つ。
【0009】
欧州特許出願公開第2921468号明細書には、メソポーラス壁と相互接続されたマクロポアの構造を含む柔軟な黒鉛化カーボン発泡体の製造方法が記載されている。この方法は、炭素供給源および両親媒性種を準備し、炭素供給源と両親媒性種とを合一して前駆体材料を取得し、この前駆体材料を加熱してマクロポーラスカーボン材料を得ることを含む。炭化は、0.5℃/分~10℃/分の範囲内の加熱速度で500℃~1000℃の範囲内の温度に加熱することによって達成される。
【0010】
Panbo Liuらによる“Ordered mesoporous carbon prepared from triblock copolymer/novolac composites”(J. Porous Materials (2013) 20:107-113)には、カーボン前駆体として「ノボラック」を使用し、両親媒性種として2種のトリブロックコポリマー(Pluronic F127およびP123)を使用した自己組織化によるメソポーラスカーボンの製造方法が記載されている。Pluronic F127をエタノールに1:30の比で溶解させ、溶媒を室温で蒸発させる。500℃および700℃で3時間加熱することにより管状炉内で窒素雰囲気下にか焼を行う。加熱速度は、600℃未満の温度では1℃/分であり、600℃を超える温度では5℃/分である。
【0011】
国際公開第2002/12380号には、ポーラスカーボン材料、ならびにカーボン前駆体および両親媒性種を使用した自己集合によるその製造方法が記載されている。ポーラスカーボン材料の細孔径分布の依存性が調査されている。平均細孔径は、2~50nm(またはそれを上回る)の範囲である。
【0012】
Soonki Kangらによる“Synthesis of an ordered macroporous carbon with 62 nm spherical pores that exhibit unique gas adsorption properties”(Chem Communications (Camb). 21. August 2002;(16):1670-1671)には、62nm付近の狭い粒径分布の秩序化マクロポーラスカーボンについて説明されている。ここでは、コロイド結晶テンプレート法によってこれが製造されている。
【0013】
技術的目標
既知のプロセスは、長時間の水熱処理を必要とし、またテンプレート材料としてポリマー発泡体が使用される。
【0014】
ポーラスカーボン材料を、特に固体テンプレートを使用せずに短い重合ステップを伴う重合型プロセスにより製造するための改善された方法を提供する必要性が残っている。また、特定の用途に最良に適合された特性を有するポーラスカーボン材料の必要性が存在している。
【0015】
本発明の目的は、既知の方法の欠点を回避し、かつ階層的多孔性を有するカーボン材料の細孔径、細孔径分布および細孔容積の調整を可能にする方法を提供することである。
【0016】
発明の概要
上記の目的のうちの少なくとも1つを達成するための寄与は、独立請求項によってなされる。従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を提供するが、これらも上記の目的のうちの少なくとも1つを達成する役割を果たす。
【0017】
本発明の方法において、加熱ステップc)は、低温処理を含み、該低温処理において、前駆体材料を、300℃~600℃、好ましくは300℃~500℃、さらにより好ましくは450~500℃の範囲内の第1の温度に加熱し、第1の温度への加熱は、0.5℃/分~5℃/分の範囲内の第1の平均加熱速度を含む。
【0018】
低温処理中に両親媒性種が分解して系を離れ、炭素供給源(例えばフェノール系樹脂)の架橋が生じる。両親媒性種は、加熱ステップc)の間に炭素供給源からの3次元構造体の形成を指示する役割を果たし、その後、熱分解する。両親媒性種はソフト(または犠牲)テンプレートと見なされ、その方法にはハードテンプレート材料は不要である。これにより、プロセスがより廉価になり、規模の変更がより容易になる。
【0019】
前駆体材料は、自己集合プロセスに供されるが、該プロセスは、好ましくは低温処理中に誘発されて完結される。炭素供給源/両親媒性種の混合物の架橋および熱分解により、自己集合した炭素質のポーラス材料が生じる。300℃~600℃の温度範囲での低温処理中の最終加熱温度(本明細書では「第1の温度」という)は、両親媒性材料の分解が十分に完全である温度として特定の配合について決定される。ほとんどの場合、第1の温度は300℃~500℃であり、さらにより好ましくは450~500℃である。この第1の温度に達するとすぐに、自己集合した炭素質のポーラス材料が得られ、低温処理が終了するため、平均加熱速度は、細孔径および細孔径分布にとってもはや重要ではない。したがって、平均加熱速度は、自己集合した炭素質のポーラス材料の任意のさらなる加熱の間に変化することも変化しないこともある。
【0020】
低温処理により、自己集合した固体の炭素質のポーラス材料が得られる。特定の両親媒性材料の分解は、その材料の試料の熱重量分析により決定することができる。熱重量分析のパラメータは、以下のとおりである。
【0021】
試料の初期重量:約10~20mg
一定の加熱速度:25℃から出発して5℃/分
アルゴン流量:20ml/分。
【0022】
ここで、試料の残りの重量Δm(%)が初期重量の40%以下であれば、十分に完全な分解であると定められる。残りの重量は、[{(温度Tにおける試料重量-温度Tでの浮力からの見かけの重量)/初期試料重量}×100]を[%]で表したものにより定められる。
【0023】
低温加熱プロセス中に「十分に完全な」分解が達成される温度に達したら、「第1の温度」に達して加熱処理を終了することができるが、原則として、完全な分解が達成される温度に達するまでは加熱処理を継続することが好ましい。
【0024】
平均加熱速度は、開始温度と第1の温度との間の温度間隔の比として決定され、ここで、開始温度とは、ステップb)により成分を合一した後でかつ加熱プロセスが開始する前の前駆体材料の温度である。適切な開始温度は、25℃である。
【0025】
総じて、最終的なカーボン材料の最頻細孔径、細孔径分布および細孔容積は、合一ステップb)で形成された特定の前駆体材料(以下、「特定の配合」ともいう)の個々の成分および組成に依存する。驚くべきことに、低温処理中の加熱速度も、細孔径、細孔径分布および細孔容積に顕著な影響を与えることが判明した。一般に、加熱速度が増加するにつれて、細孔容積ならびに細孔径および細孔径分布の双方が増加する。したがって、最終的な最頻細孔径および最終的な平均細孔容積および最終的な細孔径分布を、特定の前駆体によって許容される特定の範囲内で変化させることができる。したがって、本発明の態様によれば、最終的なカーボン材料の最頻細孔径、細孔径分布および細孔容積の調節および仕様への適合を行うために、低温処理ステップにおける平均加熱速度は、0.5℃/分~5℃/分の範囲内の値に設定される。
【0026】
ポーラスカーボン材料は、多くの技術的用途に使用することができる。好ましい用途は以下のとおりである:電気化学セル;燃料電池、特に水素燃料電池、その場合特にプロトン交換膜において;コンデンサ;電極;および触媒。この文脈で好ましい電気化学セルは、鉛蓄電池およびリチウムイオン電池である。この文脈で好ましい燃料電池は、水素電池である。この文脈で好ましいコンデンサは、電気二重層コンデンサである。個々の用途は、ポーラスカーボン材料の様々な特性、特に様々な細孔容積および細孔径を必要とし得る。本発明による細孔径および細孔容積の調整可能性によって、特定の用途に合わせた炭素添加剤が可能となる。例えば、特定の用途に向けて、細孔容積と最頻細孔径との双方について最適条件を定めることができ、したがって、特定の用途で使用すべきポーラスカーボン材料について平均細孔容積および細孔径に関して確立すべき値を規定して事前に決定することができる。
【0027】
前駆体材料の適切な配合が偶然にも既知である場合には、事前に決定された最頻細孔径と、細孔径分布と、事前に決定された細孔容積とを得ることができる。一方で、本発明により、要件を部分的にのみ満たす配合の使用が可能となる。なぜならこれを、事前に決定された値が満たされるように低温処理中に処理することができるためである。したがって、本方法の好ましい実施形態によれば、第1の平均加熱速度は、ポーラスカーボン材料の事前に決定された最頻細孔径と、細孔径分布と、細孔容積とに応じて設定される。
【0028】
特定の配合について、細孔径および細孔容積の加熱速度依存性が不明である場合には、平均加熱速度の設定は、平均加熱速度に対する細孔径および/または細孔容積の依存性についての検量線を確立するステップを含み得る。
【0029】
検量線を確立するには、2つ以上の異なる加熱速度、例えば0.5℃/分~5℃/分の範囲の限界値となる加熱速度について、最頻細孔径、細孔径分布および/または細孔容積を決定するだけで十分である場合があり、その結果、中間加熱速度についての最頻細孔径、細孔径分布および/または細孔容積を外挿または算出することができる。
【0030】
ポーラスカーボン材料の最も好ましい最頻細孔径は、50~280nmの範囲にある。10nm~10,000nmの範囲内の直径を有する細孔について、好ましい全細孔容積は0.4~1.75cm3/gの範囲にあり、最も好ましい細孔径分布は可能な限り狭い。試料数が少なくとも3の場合、最頻細孔径の標準偏差が50nm未満、好ましくは30nm未満、最も好ましくは25nm未満である場合には、細孔径分布が狭いことが想定される。
【0031】
炭素供給源および両親媒性種に加えて、ステップb)で得られた前駆体材料は、架橋剤、溶媒および/または分散剤を含み得る。両親媒性種が分散剤であってもよいし、分散剤が、複数の両親媒性種のうちの1つであってもよい。通常、この合一ステップは、前駆体材料を形成する成分の混合を必要とする。混合ステップは、好ましくは加熱ステップの前に行われる。
【0032】
一実施形態において、ステップc)による加熱は、合一ステップb)の1時間以内、好ましくは20分以内、より好ましくは10分以内、より好ましくは1分以内に開始される。
【0033】
好ましい一実施形態において、低温処理は、上記で定義された「第1の温度」よりも低い保持温度で15~60分の温度滞留時間を含み、この保持温度は、好ましくは450℃未満であり、最も好ましくは350℃未満である。
【0034】
滞留時間は、前駆体材料が、特に高い加熱速度で成分の蒸発または分解のような変換を受ける温度に設定することができる。保持温度が200℃未満で滞留時間が15分未満であれば、滞留時間は細孔径および細孔容積にさほど影響を与えないことが判明した。
【0035】
その間に、炭素供給源(例えばフェノール系樹脂)および両親媒性種の架橋および熱分解が生じる。炭素供給源は熱処理中に分解して、典型的には30~50重量%の範囲内の収率で炭素を形成する。両親媒性種はほぼ完全に分解して細孔形成剤として機能し、これにより混合物の総炭素収率が(例えば15~33重量%に)減少する。架橋および熱分解ステップは、典型的には不活性雰囲気中で、大気圧でまたはわずかに大気圧を下回って行われる。これは、高温の酸化性雰囲気が炭素のバーンオフにつながる可能性があると想定されるためである。架橋および熱分解ステップを、低圧下または真空下で、例えば500ミリバール未満、好ましくは300ミリバール未満の絶対圧下で行うことも可能である。
【0036】
驚くべきことに、加熱ステップc)が酸化段階を含み、該段階において、酸化剤を含む雰囲気中で前駆体材料を処理すると、前駆体材料中の炭素の収率(%で表される)を約10%(絶対値)まで増加できることが判明した。酸化剤は酸素を含むことができ、好ましくは、酸化剤は、酸素、二酸化炭素および水からなる群の成分のうち少なくとも1つを含む。この収率向上についての考え得る(しかし拘束力のない)説明は、酸化剤由来の酸素がポリマーネットワークに組み込まれるということである。しかしこの組込みは、生成物がCOまたはCO2として去ることによりさらなる炭化の間に酸素が除去され、これにより総炭素収率が減少するというように行われるのではなく、組み込まれた酸素が架橋中にポリマーネットワークを安定化させ、この安定化によりさらなる炭素損失が減少するというように行われる。
【0037】
したがって、好ましい一実施形態において、ステップc)における前駆体材料の加熱は、酸化段階を含み、該段階において、酸化剤を含む雰囲気中で前駆体材料を加熱する。
【0038】
酸化段階中に前駆体材料を加熱する間の酸化剤を含む雰囲気が、酸素を分子形態でO2として含む雰囲気であってよく、好ましくは25体積%未満の酸素含有率を有する雰囲気であってよく、特に好ましくは空気であってよい場合、有利であることが判明した。
【0039】
雰囲気の「酸化効果」によって、前駆体材料の酸化、特に炭素供給源の酸化が生じる。酸化反応の強度(速度)は、温度に依存する。上記の下限温度では、強度は十分に高く、長い加熱時間を回避できる。上限温度では、酸化剤を含む雰囲気が変更され、さらに加熱は不活性ガス下で行われる。これと同時に、上限温度は、低温処理の「第1の温度」に一致し得る(しかしこれは必須ではない)。
【0040】
酸化段階中の前駆体材料の加熱は、好ましくは150℃~520℃、より好ましくは200℃~470℃の温度範囲で行われる。
【0041】
酸化の程度は、酸化性雰囲気中の酸化剤、例えば分子形態の酸素の含有量、および酸化段階の持続時間にも依存する。
【0042】
酸化段階が、60~360分の範囲内、好ましくは120~300分の範囲内の持続時間を有する場合に有益であることが判明した。
【0043】
好ましい一実施形態において、加熱ステップc)は、高温処理を含み、該処理中に、固体ポーラス前駆体材料は、少なくとも700℃でかつ3000℃以下の第2の温度に供される。
【0044】
高温処理中に、炭化が依然として必要とあれば完了され、炭化材料の黒鉛化が生じ得る。黒鉛化は、1200~3000℃の温度範囲、より好ましくは1500~2800℃の範囲、最も好ましくは1700~2500℃の範囲で生じる。
【0045】
低温処理および高温処理を、何ら冷却を行わず、また従来技術から知られているような1~4日間の水熱処理のような長い滞留時間なしに、単一の加熱ステップで行ってもよい。一方で、炭化の開始後は、初期加熱速度と細孔径との依存性が失われるため、加熱ステップを中断して2つ以上の温度勾配に分割することができ、一方は初期勾配であり、次いで冷却し、場合により機械的に処理し、次いで最後の加熱勾配で任意の最終処理温度にすることができる。これにより、考え得る製造プロセスを検討する際のフレキシビリティが高まる。
【0046】
前駆体材料が加熱速度に非常に敏感である場合に、すなわち細孔径および細孔容積が加熱速度に強い依存性を示す場合には、本発明による細孔径および細孔容積の調整可能性は特に適切である。
【0047】
特にこの加熱速度に対する高い敏感性に関して、前駆体材料は好ましくは、5℃/分の平均加熱速度で低温処理に供された際に、2℃/分の平均加熱速度の場合よりも2倍を上回る最頻細孔径を有する。
【0048】
両親媒性種は好ましくは、前駆体材料中にミセルおよび3次元構造の形態で存在しており、親水性および親油性の双方の挙動を有する。好ましい両親媒性種は、第1の両親媒性化合物を含み、この第1の両親媒性化合物は、2つ以上の隣接するエチレンオキシドベースの繰返し単位を含み、好ましくは5つ以上、より好ましくは7つ以上、より好ましくは20個以上、または30個以上、または50個以上でかつ1000個以下の隣接するエチレンオキシドベースの繰返し単位を含む。
【0049】
好ましくは、第1の両親媒性化合物は、エチレンオキシドベースの繰返し単位を、第1の両親媒性化合物の総重量に対して10重量%超、好ましくは20重量%超、より好ましくは30重量%超、最も好ましくは40重量%超で特に90重量%以下含む。第1の両親媒性化合物は、さらなる繰返し単位であって、好ましくはプロピレンオキシド、ブチレンオキシド、エチレン、プロピレンおよびブチレンからなる群から選択される1つをベースとするもの、好ましくはプロピレンオキシドをベースとするものを含んでよい。エチレンオキシドベースの繰返し単位は、式-(CH2CH2O)-を有する。プロピレンオキシドベースの繰返し単位は、式-(CHCH3CH2O)-を有する。
【0050】
炭素供給源は、環、特に1つ以上のヒドロキシル基が結合した芳香環を含む炭素化合物であり得る。
【0051】
好ましい一実施形態において、炭素供給源は、ノボラック型フェノール系ホルムアルデヒド樹脂、特にノボラック型レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂、あるいはノボラック型フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、加水分解性タンニン酸、リグニン、セルロース樹脂からなる群から選択される。炭素供給源は、単一の材料であるか、または2つ以上の炭素供給源材料の混合物を含む。
【0052】
炭素供給源の重量による量と、両親媒性種の重量による量との比は、例えば10:1~1:10の範囲内、好ましくは8:1~1:5の範囲内、また好ましくは5:1~1:3の範囲内、より好ましくは5:2~1:2の範囲内にある。
【0053】
この要件を満たす前駆体材料は、15重量%~25重量%のエチレンオキシド、特に20重量%のエチレンオキシドを含むプロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロックコポリマー、あるいは50~80重量%のエチレンオキシドを含む界面活性剤を含むことができ、かつ/または前駆体材料は、水性レゾルシノール-ホルムアルデヒドノボラック樹脂、固体レゾルシノール-ホルムアルデヒドノボラック樹脂、もしくは固体フェノール系ホルムアルデヒドノボラック樹脂を含む。
【0054】
無溶媒の前駆体材料が好ましい。有機溶媒は可燃性または毒性があることが多く、水性溶媒は非常に手間をかけなければ除去することができない。
【0055】
本発明のポーラスカーボン材料は、上記で定義された方法により得られる。本発明のポーラスカーボン材料は、50~280nmの範囲内の最頻細孔径によって定義される細孔を含み、少なくとも3の試料数について、最頻細孔径の標準偏差が50nm未満、好ましくは30nm未満、最も好ましくは25nm未満であることを特徴とする。
【0056】
試験方法および定義
以下の試験方法が本発明で使用される。試験方法が記載されていない場合には、本出願の最も早い出願日の前に直近で公開された、測定すべき特徴に関するISO試験方法が適用される。明確な測定条件が記載されていない場合には、298.15K(25℃、77°F)の温度および100kPa(14.504psi、0.986atm)の絶対圧力としての標準周囲温度および圧力(SATP)が適用される。
【0057】
水銀ポロシメトリー(細孔径および細孔容積)
異なる細孔径についての特定の細孔容積と、累積細孔容積と、多孔度とを、水銀ポロシメトリーによって測定した。水銀ポロシメトリー分析は、ISO 15901-1(2005)に従って行った。この試験では、反対の表面張力に対する外圧の作用下で、水銀がポーラス材料の細孔に押し込まれる。必要な力は細孔径に反比例するため、累積総細孔容積だけでなく、試験体の細孔径分布も決定できる。
【0058】
Thermo Fisher Scientific PASCAL 140(4バール以下の低圧)およびPASCAL 440(4000バール以下の高圧)およびSOLID Version 1.6.3 (26.11.2015)ソフトウェア(いずれもThermo Fisher Scientific, Inc.製)を、最頻細孔径が140.2nm、細孔容積が924.4mm3/gのポーラスガラス球(BAM製ERMFD122参照材料)を使用して校正した。測定中、圧力を連続的に増加または減少させ、PASCALモードで、侵入の場合は8、排出の場合は9に設定された速度で動作する機器によって自動的に制御した。評価にはウォッシュバーン法を採用し、Hgの密度を実際の温度に合わせて補正した。表面張力の値は0.48N/mであり、接触角は140°であった。試料サイズは約25~80mgであった。測定を開始する前に、試料を真空中で1時間かけて150℃に加熱した。
【0059】
水銀ポロシメトリーは、比較的大きな細孔(メソポアないしマクロポア)の測定に適している。メソポアとは、細孔径が2~50nmの範囲内にある細孔を意味し、マクロポアとは、細孔径が50nmを超える細孔を意味し、ミクロポアとは、細孔径が2nm未満の細孔を意味する。
【0060】
「最頻細孔径」とは、水銀侵入曲線の細孔径を指す。ここでこれは、グラフ上でlog微分細孔容積の最大値を示す細孔径を意味し、log微分細孔容積(dV/d(logD)、ここで、Vは水銀浸透体積、Dは細孔径を表す)は、水銀ポロシメータで測定された細孔径に対してプロットされ、体積ベースである。dV/d(logD)曲線は、細孔径の確率密度関数である。「最頻細孔径」とは、最も存在度の高い細孔径に相当する。具体的には、最も頻度の高い細孔径は、上記の方法によって測定することができる。
【0061】
ガス吸着(全比表面積(BET
total
)および外部表面積(BET
ext
))
粒子の比表面積を決定するためのBET測定は、DIN ISO 9277:2010に従って行われる。測定には、SMART法(Sorption Method with Adaptive dosing Rate、適応的分注速度による収着法)に従って動作するNOVA 3000(Quantachrome製)を使用する。基準物質として、Quantachromeより入手可能なQuantachrome Alumina SARMカタログ番号2001(BET多点法で13.92m2/g)およびSARMカタログ番号2004(BET多点法で214.15m2/g)を使用する。デッドボリュームを減らすために、参照キュベットおよび試料キュベットにフィラーロッドを追加する。これらのキュベットをBET装置に取り付ける。窒素ガス(N2 4.0)の飽和蒸気圧を調べる。フィラーロッドを備えたキュベットが完全に満たされて、生じるデッドボリュームが最小となる量の試料を、ガラスキュベットに秤り入れる。試料を乾燥させるために、試料を真空下で200℃で1時間保持する。冷却後、試料の重量を記録する。試料が入ったガラスキュベットを測定装置に取り付ける。試料を脱気するために、選択したポンプ速度で排気し、最終圧力10ミリバールまで材料がポンプに吸い込まれないようにする。
【0062】
脱気後の試料の重量を、算出に使用する。データ分析には、NovaWin 11.04ソフトウェアを使用する。5つの測定点を使用した多点分析を行い、得られる全比表面積(BETtotal)をm2/gで示す。各試料セルのデッドボリュームを、ヘリウムガス(He 4.6、湿度30ppmv)を使用して測定前に1回調べる。ガラスキュベットを、液体窒素浴を使用して77Kに冷却させる。吸着のために、77Kで0.162nm2の分子断面積を有するN2 4.0を算出に使用する。
【0063】
経験的なtプロット手法を、ISO 15901-3:2007に従って使用して、0.1を超える相対圧力でのミクロポアによる寄与と残りの多孔性(すなわち、メソポーラス、マクロポーラスおよび外部表面積の寄与)による寄与とを区別し、ミクロポア表面積(BETmicro)およびミクロポアの容積を算出する。tプロットの線形部分を決定するために、カットオフp/p0以下、典型的には0.1p/p0以下の低圧等温線のデータ点を選択する。正のC定数を得ることによって、データ点の選択を検証する。ミクロポアの容積を、縦座標の切片から求める。ミクロポア比表面積(BETmicro)は、tプロットの傾きから算出できる。
【0064】
外部比表面積BETextは、全比表面積からミクロポアの比表面積を差し引くことによって定められる。BEText=BETtotal-BETmicro。
【0065】
熱重量分析(TGA)
熱重量分析は、Netzsch Proteusソフトウェアを使用してNetzsch TG 209F1 Libra熱分析装置で行った。TG209標準試料ホルダおよび試料温度測定用の標準タイプK熱電対を使用した。典型的な初期試料重量は、約15~30mgであった。測定前に試験準備ステップを行わなかった。
【0066】
測定チャンバ内の温度が、20cm3/分の流量でアルゴン雰囲気(純度5.0)中で5℃/分の加熱速度で25℃から1000℃に上昇したときに、Al2O3るつぼ内の試料の重量を記録する。
【0067】
実験中の浮力の変化を補正するために、類似の体積の不活性Al2O3粉末で満たされたAl2O3るつぼの見かけの重量を同等の条件下で別々に記録し、測定シグナルから差し引く。
【0068】
収集したデータを、[{(温度Tにおける試料重量-温度Tでの浮力からの見かけの重量)/初期試料重量}×100]を[%]で表したものにより定められる、測定した残りの重量パーセントとして(第1のy軸上に)、また熱電対により得られた試料温度Tを(第2のy軸上に)、時間の関数としてプロットする。あるいはプロットは、温度を直接x軸として有することもできる。
【0069】
ここで、本発明につき、図面を参照してさらに説明する。図面および図面の説明は例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】特定の両親媒性材料の熱重量分析のグラフを示す。
【
図2】第1の配合および0.67℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図3】第1の配合および1℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図4】第1の配合および2℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図5】第1の配合および5℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図6】第2の配合および0.67℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図7】第2の配合および1℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図8】第2の配合および2℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図9】第2の配合および5℃/分の加熱速度を使用して製造された本発明により製造された材料の表面のSEM画像を示す。
【
図10】4つの異なる配合の加熱速度に対する細孔容積の依存性のグラフを示す。
【
図11】4つの異なる配合の加熱速度に対する最頻細孔径の依存性のグラフを示す。
【
図12】4つの異なる配合の加熱速度に対する全BET表面積の依存性のグラフを示す。
【
図13】4つの異なる配合の加熱速度に対する外部BET表面積の依存性のグラフを示す。
【
図14】4つの異なる配合の加熱速度に依存した最頻細孔径の標準偏差に関するプロットを示す。
【
図15】アルゴン中および合成空気中の双方における1000℃以下に加熱された特定の前駆体材料の熱重量分析(TGA)の結果を示す。
【0071】
実施例
好ましい一実施形態において、水性レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂(ノボラック樹脂)またはレゾルシノール-ホルムアルデヒド/フェノール系ホルムアルデヒド樹脂(ノボラック型)の固形ペレットと、両親媒性分子(ブロックコポリマーまたは界面活性剤または(非イオン性)乳化剤または両親媒性分子の組合せのいずれか)とを合一することにより、ポーラスカーボン材料を製造する。各成分を混合して、均質な前駆体材料を得る。
【0072】
この熱処理を、不活性雰囲気(窒素またはアルゴン)中で1ステップで行う。室温から400℃への加熱速度は、0.67℃/分~5℃/分の範囲である。その後、加熱を再び開始し、600~3000℃、好ましくは900℃を超える所望の最終温度に達する。このようにして得られたポーラスカーボン材料を冷却し、オーブンから取り出し、機械的に破砕/ミル処理して所望の粒径にする。
【0073】
特定の前駆体材料の成分の配合は、得られるポーラスカーボン材料の初期パラメータを決定づける。最頻細孔径および細孔容積の追加の調整は、重要な自己集合ステップ中の加熱勾配によって達成できる。
【0074】
カーボン材料の加熱速度依存性を明らかにするために、4つの異なる前駆体材料(配合)について、一連の(合計9つの)加熱勾配を行った。実験データを表1にまとめた。
【0075】
【0076】
低温領域(ここでは400℃以下)では、加熱勾配9により0.67℃/分の平均加熱速度が提供され、加熱勾配8により2℃/分の平均加熱速度が提供され、加熱勾配R6により5℃/分の平均加熱速度が提供され、残りの加熱勾配は、1℃/分の平均加熱速度を有する。
【0077】
様々な滞留時間を試験して、可能性として考えられるプロセスが、特に前駆体材料の変換が予測され得る温度範囲において最終生成物にとって重要であったか否かを試験した。
【0078】
滞留時間は、400℃以下の初期加熱勾配ほどには細孔径および細孔容積に影響を与えなかったことが判明した。加えて、最頻細孔径および細孔容積の加熱速度への依存性は、約500℃以下の低温熱処理中および前駆体材料の炭化の開始よりも前にのみ生じることが実証された。
【0079】
表2に、試験した配合番号1~番号4を示す。
【0080】
【0081】
4列目に示されている「重量比」は、各物質の総重量の比を示す。例えば、779 W 50 Askofen樹脂は、ノボラック型の水性レゾルシノール-ホルムアルデヒド樹脂であり、50重量%の固体樹脂および50重量%の液相を含む。したがって、この物質の5重量部は、2.5重量部の樹脂に相当する。
【0082】
配合ごとに、オーブンの温度の均一性および配合の再現性を確認するために、各実施において4つのるつぼを充填した。
【0083】
図1のグラフは、両親媒性材料の1000℃以下のアルゴン中での熱重量分析の結果を示す。試料の元の試料質量と比較した残りの質量Δm(%)が、加熱温度T(℃)の関数として縦座標にプロットされている。加熱温度は加熱速度の線形関数であり、加熱速度は1000℃の終了温度に達するまで5℃/分で一定のままである。
【0084】
図1の曲線Aは、試料の重量の変化を温度の関数として示し、曲線Bは、アルゴンフラッシングの重量流量(20ml/分で一定)を示す。この重量損失は、両親媒性種の熱分解の継続により説明できる。したがって、約200℃の温度までは、両親媒性材料の質量損失は小さい。500℃を超える温度では、質量損失はほぼ完全であり、これは両親媒性のソフトテンプレート材料がほぼ完全に分解したことを示す。両親媒性材料は、1000℃以下の処理の際にその初期重量の約98.85%を失う。
【0085】
約380℃の温度で、両親媒性種はその初期重量の60%を失った。この特定の事例において、380℃という温度は、低温処理プロセスの「第1の温度」を表す。両親媒性種の大部分が分解されるため、残りの材料の多孔度は、「第1の温度」に達するまでの低温処理中に定められる。より高い温度では、多孔度は劇的には変化しないため、さらなる温度処理はそのようなゆっくりとした加熱勾配を必要としない。
【0086】
図2~5の走査電子画像は、配合番号1の前駆体材料から製造されたカーボン材料の多孔性が、低温処理中の加熱速度によって変化することを印象的に示す。0.67℃/分の加熱速度(
図2)では、5℃/分の加熱速度(
図5)の場合よりも多孔度が大幅に低い。スケールバーの長さは、各SEM写真において10μmである。
【0087】
図6~9の走査電子画像は、配合番号2についての同一の依存性を示す。この配合自体はより小さな細孔を生成するため、細孔径の依存性の影響は、配合番号1の場合と同様にさほど目立たない。ここでも、スケールバーの長さは、各写真において10μmである。
【0088】
図10のグラフには、25℃~400℃の温度間隔での低温処理中の初期加熱速度r
H(℃/分)に対して、4つの配合それぞれの平均細孔容積V
p(cm
3/g)がプロットされている。加熱速度が増加するにつれて、細孔容積がわずかに増加している。
【0089】
図11のグラフには、25℃~400℃の温度間隔での低温処理中の初期加熱速度r
H(℃/分)に対して、4つの配合それぞれの最頻細孔径D
p(nm)がプロットされている。この最頻細孔径は、加熱速度が1℃/分を超えると劇的な増加を示す。配合1および3は、細孔径と加熱速度との間の最も明確な依存性を示している。5℃/分の加熱速度によって、2℃/分の加熱速度の2倍超の細孔径が生じ、2℃/分の加熱速度によって、1℃/分の加熱速度の2倍超の細孔径が生じる。
【0090】
図10および11にプロットされた値は、各配合の4回の複製の平均値である。
【0091】
図12および13のグラフは、試験した4つのすべての配合について、初期加熱速度r
H(℃/分)に対する、全BET表面積(BET
total(m
2/g))および外部BET表面積(BET
ext(m
2/g))の双方の依存性を示す。プロットされた値は、各配合の4回の複製の平均である。全BET
totalは、加熱速度が変更されても一貫した変化を示さないが、外部BET
totalは、ほとんどの配合について、加熱速度が1℃/分を超えると減少を示す。
【0092】
外部比表面積BETextは、全比表面積からミクロポアの比表面積を差し引くことによって定められる。BEText=BETtotal-BETmicro。
【0093】
図14は、各配合の4つのるつぼについて得られた最頻細孔径(nm)の試料標準偏差を、勾配番号(表1参照)の関数として示す。
【0094】
試料の標準偏差の式は、
【化1】
であり、ここで、{x
1、x
2、…、x
N}は、各試料の最頻細孔径の測定値である。
【化2】
は、最頻細孔径の平均値(サンプリングされた値の合計を測定数Nで除した値であり、ここで、N=4である)である。
【0095】
初期加熱速度が増加するにつれて標準偏差が大きくなる(配合6の勾配5℃/分、および配合8の勾配2℃/分)。配合5の勾配には保持がなく、室温から直接900℃まで1℃/分で移動する。標準偏差が最も低い勾配は、配合3の勾配であり、この場合、325℃で30分間保持される。特許請求の範囲に記載された低温処理プロセスに起因する低い標準偏差値は、細孔径分布が狭いことを表している。
【0096】
前駆体材料混合物は、典型的にはノボラック樹脂および両親媒性界面活性剤を含む。ノボラック樹脂の一例は、Alnovol(登録商標)PN320(Allnex)および界面活性剤Genapol(登録商標)PF20(Clariant)またはSynperonic(登録商標)PE/L64(Croda)である。樹脂と界面活性剤との比は、総じて5:(1.5~9)である。
【0097】
図15に、Alnovol PN320とGenapol(登録商標)PF20 Synperonic PE/L64との5:5の比での混合物を用いて行った熱重量分析(TGA)の結果を示す。この混合物は、アルゴン(曲線151)雰囲気中および合成空気(曲線152)雰囲気中の双方で1000℃以下で別々に加熱したものである。
図1と同様に、試料の元の試料質量と比較した残りの質量Δm(%)が、加熱温度T(℃)の関数として縦座標にプロットされている。加熱温度は加熱速度の関数であり、加熱速度は、600℃の温度に達するまでは3℃/分であり、1000℃の終了温度に達するまでは5℃/分である。約400℃までは、異なる雰囲気で加熱された試料のTGA曲線151、152は、かなり類似したプロファイルを有する。400℃では、アルゴンで熱分解された試料(151)はより大きな質量損失を示し、その後、その傾きが減少する。空気で熱分解された試料(152)は、約400~450℃の温度範囲でプラトーを有し、ここで、炭素の質量損失は、アルゴンで熱分解された試料(151)の質量損失よりも約10重量%低い。しかし、450℃を超える温度で酸化が生じると、質量損失は大幅に増加する。450℃での炭素収率の相違は、距離バー153で示される。
【0098】
同様の熱重量分析の結果が、Alnovol(登録商標)PN445およびGenapol(登録商標)PF20(5:5)の混合物から製造された前駆体材料から明らかになった。450℃の温度では、アルゴン雰囲気中で架橋させた試料の質量損失は、合成空気中で架橋させた試料と比較して、約15重量%大きかった。
【0099】
これらの熱重量分析の結果に基づき、熱分解中の炭素収率の増加(炭素質量損失の減少)を、本発明の方法によってポーラスカーボン材料の合成へと移行させ得ることを証明するための実験を設計した。Alnovol(登録商標)PN320およびGenapol(登録商標)PF20の5:5の比の混合物を架橋させ、以下の加熱勾配プロファイルで600℃以下で熱分解させた:20~350℃:平均で0.5℃/分→350~450℃:1℃/分→450~600℃:2℃/分。450℃の温度で両親媒性物質の分解は十分に完全であり、雰囲気を、酸化剤を含むものから不活性ガスのみを含むものに変更する。この温度(450℃)は、酸化剤を含む雰囲気中で前駆体を加熱する酸化段階の最高温度であると同時に、低温処理の「第1の温度」でもある。
【0100】
第1の試行では、混合物を窒素雰囲気中で熱分解させた。第2の試行では、混合物を開放したレトルト中で加熱して、熱分解中に酸化剤(空気)を含む空気が450℃まで確実に達するようにした。その温度に達したらすぐにレトルトを閉鎖し、窒素流のスイッチを入れて、より高温(450~600℃)での空気によるさらなる酸化から炭素質材料を保護した。表3は、窒素中および(450℃までの)空気中での熱分解後のポーラスカーボン材料の収率の比較を示す。
【0101】
【0102】
窒素中で処理した試料が、600℃で30.3重量%の収率を有するのに対して、空気で架橋させた試料は、32.7重量%という、より高い収率を有する。この収率の統計誤差は、典型的には0.5重量%である。実際には、空気で架橋させた炭化試料の収率は、窒素で架橋させた試料と比較して3.4重量%大きい。この改善は、600℃で認められた2.4重量%の収率の向上よりもさらに大きい。このことは、酸素がポリマーネットワークを安定化させ、この改善を保存し得ることを暗示している。この第1の実験では、空気を、470℃の温度で窒素に置き換えた。他の実験によって、プロセスの最適化により、例えば400℃以下の温度で不活性雰囲気に切り替えることにより、さらにより高い炭素収率が得られる可能性があることが判明し得た。架橋および熱分解によって、マクロポーラスカーボン材料が得られる。
【0103】
前駆体材料混合物の架橋および熱分解によって、0.4cm3/gを超える累積細孔容積および50~280nmの範囲内の最頻細孔径を有するマクロポーラスカーボンが得られる。