(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ステップ円錐形の反応器を用いたジアルキルエーテル合成の強化方法
(51)【国際特許分類】
C07C 41/09 20060101AFI20240611BHJP
C07C 43/04 20060101ALI20240611BHJP
B01J 8/02 20060101ALI20240611BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C07C41/09
C07C43/04 D
C07C43/04 A
B01J8/02 E
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021571038
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 IN2020050476
(87)【国際公開番号】W WO2020240591
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】201911020867
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】306017184
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラジャ,ティルマライスワミー
(72)【発明者】
【氏名】パティル,ヴィプル サバッシュ
(72)【発明者】
【氏名】メクラ,シヴァ プラサド
(72)【発明者】
【氏名】テリ,スネバル ナラヤン
(72)【発明者】
【氏名】カヴァン,キラン チャンドラセカール
(72)【発明者】
【氏名】バトカー,アカッシュ ラヴィンドラ
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/068640(WO,A1)
【文献】特開2009-079036(JP,A)
【文献】特開平04-264047(JP,A)
【文献】特開2006-151869(JP,A)
【文献】特開2001-017853(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0316556(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0265992(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルキルエーテル調製のための強化方法であって、
反応器システムで1~10barの圧力下、温度が200~260℃で、流量が2.65~8.5ml・min
-1、重量空間速度(WHSV)が0.5~1.6h
-1で、液体アルコールを反応器の直径が徐々に増加する方向に注入することによって、アルコールを脱水し、ジアルキルエーテルを得るステップを含み、触媒に依存しない方法であって、
前記反応器システムは研磨反応性の蒸留装置と結合しており、
反応器のステップの角度が10~90°であり、各ステップの最終的な内径が階段状に3.3×xcm、5.3×xcm、7.3×xcmと徐々に大きくなるステップ円錐形の固定床式反応器であり、xは反応器内に充填される触媒量に依存するスケール因子である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、ジアルキルエーテルは、ジメチルエーテルまたはジエチルエーテルである方法。
【請求項3】
反応器システムであって、
反応器のステップの角度が10~90°であり、各ステップの最終的な内径が階段状に3.3×xcm、5.3×xcm、7.3×xcmと徐々に大きくなり、xは反応器内に充填される触媒量に依存するスケール因子であり、新鮮な流入供給物に対して触媒を接触させる表面を提供する、ステップ円錐形の固定床式反応器(1)と、
前記ステップ円錐形の固定床式反応器(1)に、複数の反応物を反応器の直径が徐々に増加する方向に注入するための複数の供給口と、
製品ガスをin situで冷却するための複数の冷却コイルと、
背圧を与えて触媒を担持し、反応物のチャネリングを回避する触媒担持メッシュ(8)と、
ステップ円錐形の反応器に接続された相分離器(3)であって、相分離器(3)は、中間冷却器または熱交換器(2)を用いて相分離器(3)の底部で温度を120℃に保つことにより、未反応の反応物と副生成物をステップ円錐形の固定床式反応器の出口流から除去するように構成されており、ここで未反応の反応物はメタノールを含み、副生成物は水を含み、
未反応の反応物と副生成物を蒸留して未反応の反応物を蒸気として分離する反応蒸留塔(4)と、
新鮮なメタノールを還流させることにより未反応の反応物をさらに精製する還流口(12)と、および、
ジメチルエーテルと水をさらに生成する研磨触媒ゾーン(9)と、
を含む、反応器システム。
【請求項4】
請求項3に記載の反応器システムであって、前記ステップ円錐形の固定床式反応器の背圧を調整する背圧調整器(10)が設けられている、反応器システム。
【請求項5】
請求項3に記載の反応器システムであって、複数の反応のための複数の供給口を含む、反応器システム。
【請求項6】
請求項3に記載の反応器システムであって、前記ステップ円錐形の固定床式反応器は、in-situでの熱統合および冷却装置を備えている、反応器システム。
【請求項7】
請求項3に記載の反応器システムであって、前記ステップ円錐形の固定床式反応器は、5~100ミクロンサイズの触媒担持メッシュを備え、所望の背圧を得てチャネリングを回避する、反応器システム。
【請求項8】
請求項3に記載の反応器システムであって、ジアルキルエーテルの合成に使用される、反応器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨反応性(polishing reactive)の蒸留装置と結合したステップ円錐形の固定床式反応器(step conical fixed bed reactor)を含む新規な方法を用いたジアルキルエーテル合成の強化に関するものである。特に、本発明は、蒸留装置と結合した円錐形の研磨反応器(polishing reactor)と一体の円錐形の固定床式反応器を用いてメタノールを脱水し、ジメチルエーテルを合成する方法の強化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気汚染が深刻化している現在、クリーンな代替燃料の必要性が叫ばれている。近年、クロロフルオロカーボン(CFC)に代わる有効な化学品やエアゾール噴射剤の開発が進められている。これらの化学品やエアゾール噴射剤の合成に使用される主な原料はジアルキルエーテルであり、より具体的にはジメチルエーテル(DME)である。ジメチルエーテルは、ディーゼルや発電に代わる輸送用燃料のLPG代替品として注目されている。
【0003】
大規模な基礎化学製品や中間体の合成にとって、触媒による固定床式反応器が最も重要なタイプの反応器である。固定床式反応器は主に、これらの反応器内にいわゆる固定床として配置される触媒の表面で起こる不均一系の触媒ガス反応に使用される。不均一系の触媒反応器では、触媒の有効性の因子と、熱移動および物質移動の影響が重視される。固定床式反応器では、反応器の円筒管内に触媒とともに反応物が充填されており、これらが反応床を通って流れ、所望の生成物に転化される。触媒は、1つの大きな床、いくつかの水平な床、いくつかの平行な充填管、およびそれら自体のシェル内の複数の床を含む複数の構成をとることができる。システム内の温度制御を維持する必要性に応じて、様々な構成をとることができる。
【0004】
メタノールをジメチルエーテルに転化する方法は、平衡制約反応であり、高発熱反応であるため、触媒床から熱を取り除く必要がある。熱を取り除かないと、ホットスポットが形成され、生成物の熱分解や活性反応物の失活を引き起こす可能性がある。また、熱は反応の産物の1つであるため、反応の平衡が反応物側にシフトする可能性がある。メタノールを脱水してジメチルエーテルを得るには、熱力学的な制限があり、これが転化反応を制限している。当技術分野において、その反応のための反応器を設計することによる、メタノールからジメチルエーテルを合成する試みはほとんど行われていない。
【0005】
ジャーナル「Chinese Journal of ChemicalEngineering, 17(4), 630-634, (2009)」に掲載された、M.Fazlollahnejadl、M. Taghizadehlらによる「Experimental Study and Modeling of an Adiabatic Fixed-bed Reactorfor Methanol Dehydration to Dimethyl Ether」と題された記事には、メタノールをジメチルエーテルに接触脱水するための、一次元の不均一なプラグフロー断熱固定床式反応器について報告されている。反応器には、脱水触媒として1.5mmのAl2O3ペレットが充填されており、大気圧下、543~603Kの温度で稼働される。
【0006】
2013年8月15日に公開された米国特許出願US2013/0211147A1には、より低圧で合成ガスをジメチルエーテルに効率的に転化することができる不均一系の触媒が開示されている。
【0007】
ジャーナル「Pol.J.Chem. Tech., Vol. 15, No. 2, 2013」に掲載されたWeiyong Yingらによる「Process simulation of dimethyl ethersynthesis via methanol vapour phase dehydration」と題された記事には、断熱固定床式反応器でメタノールを接触脱水し、2塔式で生成物を分離する製造方法が報告されている。ジメチルエーテル(DME)合成の技術的方法は、メタノール脱水反応の反応力学モデル、液相の改良型NRTLモデル、および、気相のPRモデルの複合パラメータに基づいて、PRO/IIプラットフォーム上に構築される。
【0008】
当技術分野では、適切な固定床式反応器を設計することによって、選択性、放熱、クラッキング、コークス形成、触媒の失活、反応平衡、および流体の空塔速度が大きいことに関連する問題を解決することが求められている。従来の固定床式反応器では、放熱を適切に制御することが難しく、これが選択性の低下や触媒の失活につながる場合があった。
【0009】
メタノールの脱水によるジメチルエーテルの合成方法に関して、改良型の固定床式反応器と、後処理・研磨の装置とを組み合わせた新規な方法を設計する必要がある。この方法によれば、触媒活性の向上、高転化率、高選択性、および触媒寿命の向上、並びにin-situでの熱および生成物の除去が可能であり、これによって生成物の後処理にかかるコストを削減することができる。
【0010】
発明の目的
本発明の主な目的は、研磨反応性の蒸留装置と結合したステップ円錐形の固定床式反応器を用いた、ジアルキルエーテル調製のための強化方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、ジアルキルエーテル調製のための強化方法を得るために、円錐形の固定床式反応器に対して、凝縮器、相分離器、蒸留塔、研磨反応器などの他の部品を備えた拡径した反応器を提供することである。
【0012】
本発明を説明するために使用される頭字語
BPR:背圧調整器
FBR:固定床式反応器
WHSV:重量空間速度
DME:ジメチルエーテル
GC:ガスクロマトグラフィー
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
DEE:ジエチルエーテル
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明は、ジアルキルエーテル調製のための強化方法を提供するものであって、当該方法は、研磨反応性の蒸留装置と結合したステップ円錐形の固定床式反応器において、反応器システムで1~10barの圧力下、温度が200~260℃、流量が2.65~8.5ml・min-1、WHSVが0.5~1.6h-1で液体アルコールを注入することによって、アルコールを脱水し、ジアルキルエーテルを得るステップを含み、触媒に依存しない方法である。
【0014】
本発明の一実施形態では、ジアルキルエーテルは、ジメチルエーテルまたはジエチルエーテルである。
【0015】
一実施形態では、本発明は、以下のものを含むステップ円錐形の固定床式反応器を提供する。
i. 熱交換器(
図1,符号2)
ii. 相分離器-1(
図1,符号3)
iii. 反応蒸留塔(
図1,符号4)
iv. 液体コレクタ(
図1,符号5)
v. 相分離器-2(
図1,符号6)
vi. デミスターパッド(
図1,符号7)
vii. 触媒担持用の有孔スクリーン(
図1,符号8)
viii.研磨触媒(Polishing Catalyst)(
図1,符号9)
ix. 背圧調整器(BPR)(
図1,符号10)
x. レベル制御表示器(LCR)(
図1,符号11)
xi. 還流口(Reflux Inlet)(
図1,符号12)
【0016】
本発明の更に他の実施形態では、円錐形の固定床式反応器はさらに以下のものを含む。
i. 反応物用の入口(
図2,符号1)
ii. 冷却水の出口(
図2,符号2)
iii. 冷却水の入口(
図2,符号3)
【0017】
本発明の更に他の実施形態では、ステップ円錐形の固定床式反応器であって、複数の反応のための複数の供給入口を含む。
【0018】
本発明の更に他の実施形態では、反応器は、in-situでの熱統合および冷却装置を備えている。
【0019】
本発明の更に他の実施形態では、反応器は、5~100ミクロンサイズの触媒担持メッシュを備え、所望の背圧を得てチャネリングを回避する。
【0020】
本発明の更に他の実施形態では、反応器は、ステップごとに3.3×x cmから、5.3×x cm、7.3×x cmと、それぞれ徐々大きくなる内径を備える。ここで、xは反応器内に充填される触媒量に依存するスケール因子であり、反応器のステップ円錐形の装置は、10~90°の急峻な角度である。
【0021】
本発明の更に他の実施形態では、反応器は、30~50%高い反応スループットをもたらす。
【0022】
本発明の更に他の実施形態では、反応器は、ジアルキルエーテルの合成に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は反応器の設計図であって、(1)は反応器、(2)は熱交換器、(3)は相分離器-1、(4)は反応蒸留塔、(5)は液体コレクタ、(6)は相分離器-2、(7)はデミスターパッド、(8)は触媒担持用の有孔スクリーン、(9)は研磨触媒、(10)は背圧調整器(BPR)、(11)はレベル制御表示器(LCR)、(12)は還流口である。
【
図2】
図2は、階段状の円錐形の反応器の設計を示し、(1)はメタノールの入口であり、(2)では冷却水が出てきており、(3)では冷却水が入っている。
【
図3】
図3は、従来型の反応器と蒸留結合型の反応器の転化結果の比較を示す。
【
図4】
図4は、異なる反応条件における円錐形反応器の性能の比較プロットを描いたものである。
【
図5】
図5は,円錐形反応器と従来型の反応器の性能の比較プロットを示す。
【
図6】
図6は、実際に校正用ガス混合物をGCに注入したものを示す。
【
図7】
図7は、オレフィンを確認するために、実際に反応器から出たガス混合物をGCに注入したものを示す。
【
図8】
図8は、DMEの形成と選択性を確認するために、実際に反応器のガス出口混合物をGCに注入したものを示す。
【
図9】
図9は、ステップ円錐形反応器を異なる視点からみた図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、研磨反応性の蒸留装置と結合したステップ円錐形の固定床式反応器を用いることによる、ジアルキルエーテル調製の強化方法を提供するものである。より具体的には、メタノールを脱水することによるジメチルエーテル合成の方法の強化であって、従来型の反応器における方法と比較して、その方法のスループットが少なくとも30~50%改善され、触媒に依存しない。
【0025】
本発明では、研磨反応性の蒸留装置と結合した円錐形の固定床式反応器が、脱水剤の存在下で、温度依存性の高い、メタノールの脱水によるジメチルエーテルの発熱性の合成用に設定されている。円錐形の固定床分離器を使用することによるin-situでの生成物分離、熱および圧力の統合によって、平衡制約に伴う問題を解決し、反応平衡を生成物側に押しやることができる。従来型の反応器による方法は、選択性、熱放散、クラッキング、コークス形成、触媒の失活、および流体の空塔速度が大きいこと等の問題を伴うが、これらは新規の円錐形の固定床式反応器のセットアップによって解決する。
【0026】
本発明は、
図1に示すように、円錐形の固定床式反応器に対して、凝縮器、相分離器、蒸留塔、研磨反応器などの他の部品とともに、拡径した反応器を提供する。
【0027】
ジアルキルエーテル調製のための強化方法は、研磨反応性の蒸留装置と結合したステップ円錐形の固定床式反応器において、反応器システムで1~10barの圧力下、温度が250~260℃、流量が2.65~8.5ml min-1、WHSVが0.5~1.6h-1で液体アルコールを注入することによって、アルコールを脱水することを含む。
【0028】
本発明の一実施形態では、ジアルキルエーテルは、ジメチルエーテルまたはジエチルエーテルである。
【0029】
ジメチルエーテルの調製方法は、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)、テトラエチレングリコール(T4EG)といったグリコール類などの脱水剤、および、触媒活性のための硫酸、濃リン酸の存在下でメタノールを脱水することを含む。この方法は、選択性、放熱、クラッキング、コークス形成、触媒の失活などの問題を伴う。新たに設計された円錐形の固定床式分離器を用いることによるin-situでの生成物分離、熱、および圧力の統合は、平衡制約に伴う問題を解決し、反応平衡を生成物側に押しやることができる。またその方法によって、クラックの発生を防ぎ、触媒の寿命を延ばすことができる。
【0030】
固定床式反応器に触媒を充填すると、その後、触媒の初期層で反応が起こる。反応中に水が生成し、これが触媒の下の層に影響を与え、水がメタノールと競合して触媒の活性サイトに吸着するため、それら(触媒の下の層)が使用されないようにしている。水によって、流入してくる新鮮な大量のメタノールが触媒表面に吸着して反応するのを阻害している。このように、流入してくる反応物であるメタノールが希釈されることによって、当該方法による生成量を減少させている。
【0031】
したがって、特に好ましい実施形態では、
図1に示すように、反応物/生成物の特性に応じて、10~90°のステップ角度で反応器の直径を段階的に増加させた円錐形の固定床式反応器を用いることにより、ジアルキルエーテル、特に、ジメチルエーテルおよびジエチルエーテルの調製方法が強化される。
【0032】
一実施形態では、本発明は、以下のものを含むステップ円錐形の固定床式反応器を提供する。
xii. 熱交換器(
図1,符号2)
xiii. 相分離器-1(
図1,符号3)
xiv. 反応蒸留塔(
図1,符号4)
xv. 液体コレクタ(
図1,符号5)
xvi. 相分離器-2(
図1,符号6)
xvii. デミスターパッド(
図1,符号7)
xviii.触媒担持用の有孔スクリーン(
図1,符号8)
xix. 研磨触媒(
図1,符号9)
xx. 背圧調整器(BPR)(
図1,符号10)
xxi. レベル制御表示器(LCR)(
図1,符号11)
xxii. 還流口(
図1,符号12)
【0033】
本発明の更に他の実施形態では、円錐形の固定床式反応器はさらに以下のものを含む。
iv. 反応物用の入口(
図2,符号1)
v. 冷却水の出口(
図2,符号2)
vi. 冷却水の入口(
図2,符号3)
【0034】
本発明の更に他の実施形態では、ステップ円錐形の固定床式反応器は、複数の反応のための複数の供給入口を含む。
【0035】
本発明の更に他の実施形態では、反応器は、in-situでの熱統合および冷却装置を備えている。
【0036】
本発明の他の実施形態では、方法を強化するためにジアルキルエーテル調製のための反応器セットアップが提供される。この反応器は円錐形の固定床式反応器を含み、その内径はステップごとに1.3×xcmから、3.3×x cm、5.3×x cm、7.3×x cmと、それぞれ徐々に大きくなる。ここで、xは反応器に充填される触媒量に依存するスケール因子である。ステップ円錐形の反応器は、反応器内の空塔速度を維持するのに役立つ反応器のステップの直径に変化をつけるのを容易にし、10~90°の急峻な角度は、反応のタイプや反応物の性質に依存し、生成物は静圧回復、触媒床全体の適切な熱分布、エントレインメント質量流速率、および反応のスループットの最大化をもたらす。ここで例示するステップ円錐形の反応器は、反応器の直径が1.3cm(触媒床入口)から7.3cm(触媒床出口)まであり、新鮮な流入供給物に対して最大の触媒表面を提供し、触媒床におけるホットスポットを回避するのに役立つ。反応器に複数の供給口を設けることで、反応器に複数の反応物を使用する際の柔軟性を高めることができる。複数の供給口と冷却コイルにより、製品ガスをin situで冷却することを容易にし、これが触媒表面におけるホットスポットやクラックの発生を防ぐのに役立ち、触媒の寿命を延ばすことができる。5~100ミクロンサイズのメッシュを設け、必要な背圧を与えて触媒を担持し、それによって反応物のチャネリングを回避する。一実施形態では、ステップ円錐形の固定床式反応器は、ホットスポットの形成を回避するためにコールドショットを与えるかまたは装置を急冷するための設備を有する。
【0037】
本発明の他の実施形態では、当該方法は、脱水/発熱反応の収率を向上させるのに役立つ反応器の新規なセットアップを提供する。ステップ円錐形の反応器はさらに相分離器に接続されており、中間冷却器を用いて相分離器の底部で温度を適切に保つことにより、ジメチルエーテルが三元反応器(ternary reactor)の出口流から除去される。主に相分離器の底部に残る液体には、未反応の反応物(メタノール)と副生成物(水)が含まれており、これは反応蒸留塔のリボイラーでさらに蒸留され、メタノールは気相中に分離され、新鮮なメタノールを還流させることにより、精留部でさらに精製される。メタノール蒸気は凝縮せずに研磨触媒ゾーンにさらに移動し、そこでさらに反応してジメチルエーテルと水が生成されるので、メタノールの凝縮、リサイクル、および再蒸発にかかるエネルギーが節約される。新規な反応器のセットアップを用いることによって、本発明の化学的方法は、生成物のin-situでの分離、より高い収率、方法の高スループット、並びに、エネルギーおよびコストを節約した熱統合など、いくつかの独自の特徴を提供する。
【0038】
本発明のさらに他の実施形態では、反応器は、ジアルキルエーテルの合成に用いられる。
【0039】
新規な円錐形の固定床式反応器のセットアップにより、新鮮なメタノールが触媒と最大限に接触し、触媒の最大表面積に吸着してジメチルエーテルの生成を増加させるため、ジメチルエーテル調製の処理量が30~50%増加する。ジメチルエーテルは蒸気密度が非常に低い気体であるため、触媒床を通って流入する流体の表面速度を速め、これが反応物の保持時間を最小限に抑える。そのため、速度を下げるために反応器の直径を大きくする。また、ステップ円錐形の固定床式反応器のセットアップによる新規なステップは、in-situで冷却コイルの助力によって適切な熱流束を供給するため、発熱反応中に形成されるホットスポットを減らすことができる。反応器はさらに、10barで作動する相分離器に接続され、蒸留反応器、そして凝縮器の順に続く。ジメチルエーテル蒸気、水、およびメタノールの混合物をin-situで分離し、未転化のメタノールを反応蒸留塔で再度触媒床に通して、スループットを向上させる。
【0040】
後の段階でジメチルエーテルを分離することにより、選択性、純度が向上し、エネルギー消費量が減少する。同時に、メタノールも同様に凝縮されないため、エネルギーを節約して高い転化率を実現する。この方法は、ジメチルエーテルを選択的に合成するために反応器内で260~265℃で行われる。これは、報告されている既知の方法と比較して非常に低い温度である。また、オレフィン合成のために、反応温度を大気圧下で400~450℃に上げることができる。
【0041】
図1は、反応器の設計図を描いたものであり、異なる部品の下に番号を付している。
図2は、階段状の円錐形モデルを有する円錐形反応器を描いたもので、番号が付されている。従来型の反応器と、蒸留結合型の反応器の転化結果の比較を
図3に示す。性能プロットによると、従来型のFBR(固定床式反応器)において、10bar、反応温度265℃、WHSV(重量空間速度)で、転化率は約80%であったのに対し、蒸留結合型の研磨装置では、同じ反応条件で転換率は88%に達した。
【0042】
種々の反応条件における円錐形反応器の性能の比較プロットを
図4に示す。比較プロットによると、円錐形反応器の転化率は1barの圧力下、WHSVが1.5、温度が267℃で約88%であるのに対し、従来型の固定床式反応器を用いたときはWHSVが1.3で同じ転化率が達成されることを示している。この結果は、反応器の改良によって反応器のスループットが15%向上されることを示している。この反応器をさらに蒸留結合型の研磨反応器と結合すると、10barの圧力で同じ転化率が達成できるが、従来型の反応器では約80%である。これらの結果は、反応器の改良により、10barでの反応器のスループットが約30%増加することを示している。
【0043】
図5は、円錐形反応器と従来型の反応器の性能の比較プロットを示したものである。転化プロットは、新しく設計された反応器が、種々のWHSVにおいて、従来型の反応器と比較して転化率を向上させていることを示している。これは、従来型の反応器よりも円錐形反応器のほうが優れた性能を有することを根拠付けている。
【0044】
図6は、校正用ガス混合物を実際にGCへ注入したものである。校正用ガス混合物を実際に注入して、GCとchromeleon7ソフトウェアで分析した結果、同じ既知の組成を示した。
【0045】
図7は、オレフィンを確認するために、実際に反応器から出たガス混合物をGCに注入したものである。実際に反応器出口のガスを注入すると、この触媒を使用して、大気圧下、400~450℃でのオレフィン(C2,C3)の生成に適合する。この触媒のオレフィンに対する選択性は、触媒の組成と反応条件を調整することでさらに改善することができる。
【0046】
図8は、反応器出口のガスを実際に注入することが、DMEの生成に適合し、他の副生成物は観察されなかったことを示している。このことは、この触媒を使って、大気圧下、260~265℃で、DMEに対して100%の選択性を有することを示している。
【0047】
一般的情報
システムの圧力は、背圧調整器を付与することで調整される。反応器の炉は表面加熱ゾーンを有し、表面加熱ゾーンの温度はPID(比例、積分、および微分)制御装置を備えた電気ジャケットによって、±0.5℃の精度で所定の温度に設定される。アルゴンはキャリアガスとして使用され、必要な圧力を供給して所望のメタノール分圧を生成する。アルゴンガスの流量は、マスフローコントローラーによって制御される。その結果、液体メタノールは炉の予熱ゾーンで蒸発し、ガス状態でアルゴンと混合され、ドージングポンプによってシステム内に注入される。反応器の出力流は、二重管式の熱交換器を通過した後、二相分離器に入る。
【0048】
反応器からの出た出力ガスについて、TCD検出器、0.53mm×30m HP-プロット Qキャピラリーカラム、およびキャリアガスとしてのアルゴンを用いたオンラインガスクロマトグラフィーによって、60分から180分ごとに分析した。同様に、凝縮したメタノール-水の液体試料もHPLCを用いて分析した。触媒の性能をより良く理解するために、ガス試料をオンラインガスクロマトグラフィーに注入し、得られたデータプロットを下記の組成の校正用ガス混合物をすでに注入したchromeleon7ソフトウェアを用いて分析した。
【0049】
【0050】
実施例
以下の実施例は説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものと解してはならない。
【0051】
実施例1:円錐形反応器でのジメチルエーテルの合成
合成した触媒試料150gを固定床式の円錐形反応器に装填し、触媒100gを研磨反応器ユニットに装填した。まず、窒素と酸素の存在下で、流量50cm3・min-1、傾斜率3℃/分の温度350~650℃で、12時間、触媒を活性化した。その後、触媒床を260℃まで冷却し、窒素と空気の流れを停止させた。温度が安定した後、液体メタノールを流量8.5ml・min-1で反応器に注入し、キャリアガスの流れを停止させた。このうち、1ml/minのメタノールを反応蒸留塔に還流として注入した。反応器内のメタノールの分圧は1atm、WHSVは0.5h-1であった。選択的なDME合成のため、10barの圧力下で反応温度を260℃に設定した。転化率は88%、DMEの選択性は99.3%であった。
【0052】
実施例2:円錐形反応器でのジメチルエーテルの合成
合成した触媒試料150gを固定床式の円錐形反応器に装填し、触媒100gを研磨反応器ユニットに装填した。まず、窒素と酸素の存在下で、流量50cm3・min-1、傾斜率3℃/分の温度350~650℃で、12時間、触媒を活性化した。その後、触媒床を260℃まで冷却し、窒素と空気の流れを停止させた。温度が安定した後、液体メタノールを流量8.5ml・min-1で反応器に注入し、キャリアガスの流れを停止させた。このうち、1ml/minのメタノールを反応蒸留塔に還流として注入した。反応器内のメタノール分圧は1atm、WHSVは1.6h-1であった。選択的なDME合成のため、10barの圧力下で反応温度を260℃に設定した。転化率は85%、DMEの選択性は99.8%であった。
【0053】
オレフィン類の合成のためには、大気圧下で反応温度を450℃まで上げることができる。
【0054】
システムの圧力は、背圧調整器を付与することで調整した。反応器の炉は表面加熱ゾーンを有し、表面加熱ゾーンの温度はPID制御装置を備えた電気ジャケットによって、±0.5℃の精度で所定の温度に設定した。アルゴンをキャリアガスとして使用し、必要な圧力を供給して所望のメタノール分圧を生成した。アルゴンガスの流量はマスフローコントローラーによって制御した。その結果、液体メタノールが炉の予熱ゾーンで蒸発し、ガス状態でアルゴンと混合され、ドージングポンプによってシステム内に注入された。反応器の出力流は、二重管式の熱交換器を通過した後、二相分離器に入った。
【0055】
実施例3:円錐形反応器でのジエチルエーテルの合成
合成した触媒試料150gを固定床式の円錐形反応器に装填し、触媒100gを研磨反応器ユニットに装填した。まず、窒素と酸素の存在下で、流量50~500cm3・min-1、傾斜率3℃/分の温度350~650℃で、12時間、触媒を活性化した。その後、触媒床を275℃まで冷却し、窒素と空気の流れを停止させた。温度が安定した後、液体エタノールを流量8.5ml・min-1で反応器に注入し、キャリアガスの流れを停止させた。このうち、1ml/minのエタノールを反応蒸留塔に還流として注入した。反応器内のエタノール分圧は1atm、WHSVは0.5h-1であった。選択的なDEE合成のため、1barの圧力下で、反応温度を275℃に設定した。転化率は84%、DEEの選択性は93%であった。
【0056】
実施例4:円錐形反応器でのジエチルエーテルの合成
合成した触媒試料150gを固定床式の円錐形反応器に装填し、触媒100gを研磨反応器ユニットに装填した。まず、窒素と酸素の存在下で、流量50~500cm3・min-1、傾斜率3℃/分の温度350~650℃で、12時間、触媒を活性化した。その後、触媒床を275℃まで冷却した後、窒素と空気の流れを停止させた。温度が安定した後、液体エタノールを流量8.5ml・min-1で反応器に注入し、キャリアガスの流れを停止させた。このうち1ml/minのエタノールを反応蒸留塔に還流として注入した。反応器内のエタノール分圧は1atm、WHSVは1.6h-1であった。選択的なDEE合成のため、1barの圧力下で、反応温度を275℃に設定した。転化率は75%、DEEの選択性は96.0%であった。
【0057】
実施例5:
二相式分離器:分離器内での液体と気体の分離
固定床式反応器からの流出物(Outlet)は、さらに相分離器に送られ、圧力10bar、温度120℃の下でメタノールと水が凝縮された。ジメチルエーテル/ジエチルエーテルは非凝縮性ガスであるため、背圧調整器(BPR)を通って排出された。凝縮されたメタノール/エタノールと水の混合物は、分離器の底部に液面を形成した。分離器の底部の温度は120℃に保たれ、ジメチルエーテル/ジエチルエーテルを気相に保持した。
【0058】
蒸留結合型の研磨反応器ユニット
凝縮されたメタノール/エタノールと水の混合物は、相分離器と蒸留結合型の研磨反応器を接続するU字ループ内で液面を形成し、そこでは底部の温度は150~170℃に維持され、その結果、メタノール/エタノールがそこで気化した。気相のメタノール/エタノールは触媒ゾーンでさらに反応し、温度260℃、圧力10barで、ジメチルエーテル/ジエチルエーテルが生成される。メタノール/エタノールと水の凝縮された混合物の一部、または新鮮なメタノール/エタノールの一部を還流として使用して、研磨触媒床に到達するメタノール/エタノール蒸気の純度を確保することができる。
【0059】
本発明の利点
・新規な反応器のセットアップは、その設計がホットスポットを排除するのに役立つため、触媒の活性と耐久性を向上させる。
・分離ユニットの設計と配置とが、形成された生成物の除去に役立つように、反応器のセットアップの設計が変更されているため、この反応器による方法では、より高い転化率(90~92%)を実現する。
・反応器と方法の設計を変更することで、副生成物なしに、100%の選択性でジメチルエーテルが得られる。
・より広い触媒表面積で新鮮な反応物質と相互作用するため、従来型の反応器による方法と比較して、反応のスループットが30%増加し、ステップ円錐形の設計によって、触媒床を通過する反応物質および生成物について最適な空塔速度を提供する。
・In-situでの連続的な生成物の分離により、生成物品の後処理にかかるコストを削減することができる。