(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】非発酵ビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20240611BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20240611BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 E
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2022056581
(22)【出願日】2022-03-30
(62)【分割の表示】P 2017010597の分割
【原出願日】2017-01-24
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】森本 宗徳
(72)【発明者】
【氏名】片山 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】竹村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】安田 庸子
(72)【発明者】
【氏名】神代 美奈子
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/079634(WO,A1)
【文献】特開2006-262860(JP,A)
【文献】特開2010-051286(JP,A)
【文献】特開平06-078740(JP,A)
【文献】特開2016-049047(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156735(WO,A1)
【文献】特開2016-144409(JP,A)
【文献】特開2010-284153(JP,A)
【文献】特開2017-012014(JP,A)
【文献】特開2016-178927(JP,A)
【文献】特開2011-139687(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052483(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/145670(WO,A1)
【文献】小若 雅弘 他.,“第6章 ホップに由来する成分(I)”,JOURNAL OF THE SOCIETY OF BREWING,JAPAN,1976年,Vol. 71, No. 12,p.911-918,DOI: 10.6013/jbrewsocjapan1915.71.911
【文献】Yoshifumi NISINO et al.,“麦芽飲料のタイプの解析”,JOURNAL OF THE SOCIETY OF BREWING,JAPAN,1983年,Vol. 78, No. 8,p.637-640,DOI: 10.6013/jbrewsocjapan1915.78.637
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/52
C12G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラニン含有量が10~80ppm
(26.7~28.1ppmの範囲を除く)であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が2~6である、非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
アラニン含有量が20~80ppm
(26.7~28.1ppmの範囲を除く)である、請求項1に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
プロリン含有量/アラニン含有量比が3~6である、請求項1または2に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項4】
非発酵非アルコールビールテイスト飲料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項5】
非発酵非アルコールビールテイスト飲料のアルコール濃度が0.005%(v/v)未満である、請求項4に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項6】
非発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、アラニン含有量が10~80ppm
(26.7~28.1ppmの範囲を除く)であり、およびプロリン含有量/アラニン含有量比が2~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整する工程を含んでなる、方法。
【請求項7】
非発酵ビールテイスト飲料が非発酵非アルコールビールテイスト飲料である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
非発酵非アルコールビールテイスト飲料のアルコール濃度が0.005%(v/v)未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
非発酵ビールテイスト飲料におけるビールらしい飲み応えを増強する方法であって、アラニン含有量が10~80ppmであり、プロリン含有量/アラニン含有量比が2~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整することを含んでなる、方法。
【請求項10】
非発酵ビールテイスト飲料が非発酵非アルコールビールテイスト飲料である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
非発酵非アルコールビールテイスト飲料のアルコール濃度が0.005%(v/v)未満である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非発酵ビールテイスト飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりの中でアルコール摂取量を自己管理する消費者が増加している。また、飲酒運転に対する罰則の強化など道路交通法の改正により、自動車等の運転に従事する者のアルコール摂取に対する関心が高まっている。このような中でアルコールをほとんど含まないビールテイスト飲料への需要が一段と高まっている。
【0003】
ビールの香味の特徴の一つとして飲み応えがあり、いくつかの飲み応えのあるビールテイスト飲料が報告されている。例えば、発酵させたアルコール含有ビールテイスト飲料においては、特許文献1のように、飲料中の麦芽比率を高めることによって飲み応えを付与する方法が開示されている。しかし、非発酵のビールテイスト飲料において、飲み応えを付与するために麦芽などの穀物に由来するエキスを多量に用いると、発酵工程を経ないために、通常ビールには残らない麦汁臭と呼ばれるような独特の不快な臭気が残ってしまうという問題が生ずる。
【0004】
また、非発酵のビールテイスト飲料にビールらしい風味を付与する方法として、デンプン分解物と甘味料を用いる方法が報告されている(例えば、特許文献2)。さらに、低アルコールビールテイスト飲料の麦芽臭を低減し、後味を改善する方法として、難消化デキストリンを用いる方法が報告されている(例えば、特許文献3)。このようにビールテイスト飲料にビールらしい風味、特に飲み応えを付与するために、数多くの取り組みがなされているものの、コク(ボディ感)が付与され後渋味が低減された、ビール本来のビールらしい飲み応えを実現する手段は未だ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/056746号
【文献】国際公開第2013/080354号
【文献】国際公開第2014/057954号
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、非発酵ビールテイスト飲料の製造において、アラニンの含有量およびアラニンとプロリンの含有比率を所定の範囲内に調整することにより、コク(ボディ感)を付与し、後渋味を低減し、ビールらしい飲み応えを付与することができることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明は、コクを付与し、後渋味を低減した、ビールらしい飲み応えを有する非発酵ビールテイスト飲料とその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6である、非発酵ビールテイスト飲料。
(2)アラニン含有量が10~80ppmである、(1)に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
(3)プロリン含有量/アラニン含有量比が1.5~6である、(1)または(2)に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
(4)非発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、アラニン含有量が10ppm以上であり、およびプロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整する工程を含んでなる、方法。
(5)非発酵ビールテイスト飲料におけるビールらしい飲み応えを増強する方法であって、アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整することを含んでなる、方法。
【0009】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、本来のビールのビールらしい飲み応えを奏する点で有利である。特に、本発明によれば、アルコールをほとんど含まない点と豊かなビール風味という需要者のニーズに同時に応えることができる点で有利であるといえる。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ飲料をいう。「ビール様の風味」とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを、その飲料が呈することを意味する。
【0011】
本発明において「非発酵ビールテイスト飲料」とは、発酵工程を経ずに製造されたビールテイスト飲料をいう。ここで「発酵工程」とは、酵母等の微生物が有機物を分解することによってアルコール等の代謝産物を生成する工程をいう。
【0012】
本明細書において、「ppm」という単位は「mg/L」と同義である。また、「プロリン含有量/アラニン含有量比」は、飲料中のプロリン含有量(ppm)をアラニン含有量(ppm)で除した数値である。
【0013】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、アラニンを所定の濃度範囲で含んでおり、さらには、アラニンとプロリンの重量比も所定の範囲内にある。これにより、コク(ボディ感)が増強され、後渋味が低減され、ビールらしい飲み応えを得ることが可能となる。
【0014】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、アラニン含有量およびプロリン含有量を調整することにより製造することができる。アラニン含有量およびプロリン含有量の調整は、例えば、非発酵ビールテイスト飲料の製造過程においてアラニンおよび/またはプロリンを添加することによって行ってもよく、また、非発酵ビールテイスト飲料にアラニンおよび/またはプロリンを与える原材料を増減することにより行ってもよい。
【0015】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料に含まれるアラニンおよびプロリンとしては、L体、D体、それらのラセミ体、それらの量比が可変の混合物のいずれであってもよいが、好ましくはL体とされる。
【0016】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料の製造においてアラニンまたはプロリンを添加する場合には、これらは食品製造に適しているものであればよい。その形態も、水性溶媒に容易に溶解するものであればよく、液状、粉末状、固形状などのいかなる形態のものであってもよい。
【0017】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料におけるアラニン含有量は10ppm以上とされ、好ましくは10~80ppm、より好ましくは20~80ppmとされる。本発明の非発酵ビールテイスト飲料におけるプロリン含有量/アラニン含有量比は1~6とされ、好ましくは1を超えて6以下、より好ましくは1.5~6、さらに好ましくは2~6とされる。本発明の非発酵ビールテイスト飲料におけるプロリン含有量は特に制限されないが、好ましくは15~320ppm、より好ましくは25~320ppmとされる。
【0018】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料中のアラニンおよびプロリンの含有量は、陽イオン交換樹脂でアミノ酸を分離した後、ニンヒドリン反応液を加えて135℃で反応させ、UV-VIS検出器で定量することができる。
【0019】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、非アルコール飲料、およびアルコール(エタノール)含有材料を添加することにより製造されるアルコール飲料のいずれであってもよいが、好ましくは非アルコール飲料とされる。ここで、「非アルコール飲料」とは、アルコール濃度が1%(v/v)未満の飲料を意味し、好ましくはアルコール濃度が0.005%(v/v)未満の飲料とされる。本発明の特に好ましい実施態様によれば、本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、アルコール濃度が0.00%(v/v)であるアルコールゼロの飲料とされる。
【0020】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料には、本発明の効果を妨げない範囲でその他の原料を配合してもよい。すなわち、本発明の非発酵ビールテイスト飲料では、着色料(例えば、カラメル色素)、甘味料(例えば、高甘味度甘味料)、調味成分(例えば、アミノ酸)、香料(例えば、ビールの代表的な香気成分である酢酸エチル、酢酸イソアミル、イソアミルアルコールなどを含んだ市販のビールフレーバー)、異性化ホップエキスなどの苦味成分、酵母エキスなどを原料として使用することができる。
【0021】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料のpHは、好ましくは3.5以上4.5以下とされ、より好ましくはpH3.5以上pH4.2以下、さらに好ましくはpH3.7以上pH4.2以下、最も好ましくはpH3.8以上pH4.2以下とされる。本発明の非発酵ビールテイスト飲料のpH調整はpH調整剤を用いて行うことができる。
【0022】
本発明の非発酵ビールテイスト飲料は、当技術分野においてよく知られている一般的な方法において、いずれかの段階でアラニンおよびプロリンの含有量を調整することによって製造することができる。このような一般的な方法としては、例えば、麦汁の調製工程および濾過工程を含む方法が挙げられ、この方法は、例えば、(a)麦芽粉砕物と水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得る工程、(b)得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸する工程、(c)煮沸した麦汁を冷却する工程、および(d)冷却した麦汁を濾過する工程を順次行うことによって実行することができる。
【0023】
本発明の他の態様によれば、非発酵ビールテイスト飲料におけるビールらしい飲み応えを増強する方法が提供され、該方法は、アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6となるようにアラニン含有量およびプロリン含有量を調整することを含んでなる。
【実施例】
【0024】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1:非発酵ビールテイスト飲料におけるアラニンおよびプロリンの濃度調整による風味への影響(その1)
(1)サンプルの調製
麦芽1kgを適当な粒度に粉砕して仕込槽に入れ、これに3Lの温水を加え、65℃で30分保持後、徐々に昇温して76℃で30分間、糖化を行った。糖化終了後、82℃まで昇温後、濾紙を用いて濾過を行い、濾液を得た。この濾過液1Lにホップを約1g添加し、100℃で60分間煮沸した。煮沸後の液を濾紙を用いて濾過を行い、約5℃に冷却した。適宜、糖度が7.0°Pになるよう、湯を加えて麦汁を調整した。この麦汁に炭酸水および炭酸ガスを加え、2~4℃で24時間貯蔵し、その後濾過を行った。この濾過後の液に、所定の濃度となるようアラニンおよびプロリン、並びにビール風味香料を添加した。こうして、試験区1~7の各サンプルを得た。
【0026】
(2)官能評価
官能評価の評価項目として、ビールらしい飲み応えを設定した。ここでは、ビールらしい飲み応えを、コク(ボディ感)が付与され、後渋味の低減された風味であると定義し、この風味の強度を1(弱い)~9(強い)の9段階で評価した。官能評価は、訓練された5名のパネルによって実施し、各パネルの評価の平均値を算出した。この評価結果の平均値から導き出される総合評価は以下の通りである:
A:平均値が7.0以上:優れた飲み応えが認められる。
B:平均値が5.5以上7.0未満:良好な飲み応えが認められる。
C:平均値が3.5以上5.5未満:飲み応えは認められるが弱い。
D:平均値が3.5未満:飲み応えは認められない。
【0027】
(3)結果
上記の官能評価の結果を、各試験区におけるアラニンおよびプロリンの濃度並びにプロリン/アラニン濃度比とともに表1に示す。
【表1】
【0028】
官能評価の結果、アラニン濃度が20~80ppm、プロリン濃度が40ppm以上である試験区2~6では、良好な飲み応え(B)、あるいは優れた飲み応え(A)が認められた。一方で、プロリン濃度が40ppmの試験区2では、プロリン濃度が80ppmの試験区3に比べて飲み応えの評価が劣ることから、飲み応えが認められるためにはアラニンに対して一定量のプロリン濃度が必要であることが分かった。次に、アラニン濃度が120ppmの試験区7は、飲み応えは認められるが弱い(C)と評価された。また、試験区7のサンプルは、渋味、酸味およびエグ味が強く感じられた。
【0029】
実施例2:非発酵ビールテイスト飲料におけるアラニンおよびプロリンの濃度調整による風味への影響(その2)
(1)サンプルの調製
アラニンおよびプロリンの濃度を以下の表2の通りに変更した以外は、実施例1の方法に従って、試験区8~15のサンプルを調製した。
【0030】
(2)官能評価
サンプルの官能評価は、実施例1と同じ手法を用いて、訓練された6名のパネルによって実施した。
【0031】
(3)結果
上記の官能評価の結果を、各試験区におけるアラニンおよびプロリンの濃度並びにプロリン/アラニン濃度比とともに表2に示す。
【表2】
【0032】
官能評価の結果、アラニン濃度が20ppm、プロリン濃度が40~120ppmである試験区11~13では、良好な飲み応え(B)、あるいは優れた飲み応え(A)が認められた。一方で、アラニン濃度が5ppmである試験区8では、飲み応えは認められなかった(D)。プロリン濃度が20ppmの試験区10では、プロリン濃度が40ppmの試験区11に比べて飲み応えの評価がやや劣っていた。次に、プロリン濃度が140ppmの試験区14およびプロリン濃度が160ppmの試験区15では、プロリン濃度が120ppmの試験区13に比べて飲み応えの評価がやや劣っていた。また、試験区14および15のサンプルは、渋味、酸味およびエグ味が強く感じられた。
【0033】
実施例1および実施例2の官能評価の結果より、アラニン含有量が10ppm以上であり、プロリン含有量/アラニン含有量比が1~6の場合に、良好な飲み応え、あるいは優れた飲み応えが認められると考えられる。