(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】白血病の発生素因の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20240611BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20240611BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240611BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20240611BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6827 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z
C12N15/13 ZNA
(21)【出願番号】P 2022515764
(86)(22)【出願日】2019-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2019074120
(87)【国際公開番号】W WO2021047764
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】520002209
【氏名又は名称】アー・ファウ・アー ライフサイエンス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AVA Lifescience GmbH
【住所又は居所原語表記】Norsinger Strasse 30, 79189 Bad Krozingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハッサン ユマー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】STAMATOPOULOS et al.,Clinical Cancer Research,2018年,Vol. 24, No. 20,p.5048-5057,DOI: 10.1158/1078-0432.CCR-18-0133
【文献】IMGT/LIGM [online], Accession No. X71966,https://www.imgt.org/ligmdb/view?id=X71966, 2013.01.18 uploaded [retrieved on 2023.07.10],Definition: H.sapiens germline IGLV3S2 gene for immunoglobulin lambda variable region subgroup III
【文献】HADZIDIMITRIOU et al.,Blood,2009年,Vol. 113, No. 2,p.403-411,DOI: 10.1182/blood-2008-07-166868
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性リンパ性白血病(CLL)の遺伝的な発症リスクを決定する方法であって、ヒトのDNAサンプルにおいて、配列番号1によるポリペプチドをコードするDNA配列の存在の有無の判定を含み、前記DNA配列の存在は、CLLの素因を示す、方法。
【請求項2】
慢性リンパ性白血病(CLL)の遺伝的な発症リスクを決定する方法であって、ヒトのDNAサンプルにおいて
、以下のアミノ酸:Y49、D50、S51およびD52を有する
配列番号1によるポリペプチドをコードするDNA配列の存在の有無の判定を含み、前記DNA配列の存在は、CLLの素因を示す、方法。
【請求項3】
慢性リンパ性白血病(CLL)の遺伝的な発症リスクを決定する方法であって、ヒトのDNAサンプルにおいて
、以下のアミノ酸:K16、Y49、D50、S51およびD52を有する
配列番号1によるポリペプチドをコードするDNA配列の存在の有無の判定を含み、前記DNA配列の存在は、CLLの素因を示す、方法。
【請求項4】
前記DNA配列を、シーケンシングによって決定する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記DNA配列を、PCRによって決定する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記DNA配列を、レポータープローブによって決定する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
対立遺伝子IGVL3-21*01がホモ接合体であるかヘテロ接合体であるかを判定する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記DNA配列を、ハイブリダイゼーションによって決定する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
悪性B細胞性新生物は、一般的に造血系またはリンパ系の悪性疾患を指す。これには、例えば白血病などの病状も含まれ、広い意味で癌に分類される。白血病は、白血球の前駆細胞のうち、白血病細胞とも呼ばれる機能しない細胞の形成が強く亢進することが特徴である。これらの細胞は骨髄に広がり、そこで通常の造血を置換し、通常、末梢血にも大量に蓄積される。肝臓、脾臓、リンパ節などの臓器に浸潤し、その機能を低下させる。造血障害により正常な血液成分が減少し、酸素運搬機能を持つ赤血球の不足、止血機能を持つ血小板の不足、成熟した機能白血球の不足により、貧血が生じ得る。
【0002】
病気の経過によって、急性白血病と慢性白血病に区別される。急性白血病は、治療せずに放置すると数週間から数ヶ月で死に至る命にかかわる病気である。一方、慢性白血病は、通常数年かけて進行し、初期にはほとんど症状がないことが多い。
【0003】
白血病の最も重要な形態は、以下のものである:
・急性骨髄性白血病(AML)
・慢性骨髄性白血病(CML)
・急性リンパ性白血病(ALL)
・慢性リンパ性白血病(CLL)
【0004】
CLL疾患の家族性クラスタリングは知られているが、非常にまれなため、リスクファクターの遺伝的相関はない(Cerhan JR, Slager SL:Familial predisposition and risk factors for lymphoma; Blood 125:2265-2273, 2015; DOI:10.1182/blood-2015-04-537498)。
【0005】
このように、先行技術では、本疾患の遺伝的要素が知られているにもかかわらず、CLLの発症リスクに関する遺伝マーカーは存在しない。
【0006】
本発明の課題は、CLLの遺伝的な発症リスクを決定する方法を提供することである。
【0007】
この課題に対する解決策は、CLLにつながる体細胞突然変異は、IGVL3-21遺伝子のうちある1つの対立遺伝子においてのみBCRの自律的活性化をもたらし、したがってこの疾患を引き起こすが、他の2つの既知の対立遺伝子ではそうではないという知見にある。したがって、この対立遺伝子が検出されれば、CLL発症のリスク上昇を判定することが可能となる。
【0008】
しかし、最近の研究では、B細胞受容体(BCR)の軽鎖の特定の配列が、いわゆる自律活性型のCLLに特に多いことが判明している((IGVL3-21) Stamatopoulos, Basile, et al., “The light chain IGLV3-21 defines a new poor prognostic subgroup in Chronic Lymphocytic Leukemia:results of a multicenter study” Clinical Cancer Research (2018):clincanres-0133)。この場合、この軽鎖に変異が存在し(R110)、これがBCRの永久活性化につながる(Minici, Claudia, et al., “Distinct homotypic B-cell receptor interactions shape the outcome of chronic lymphocytic leukaemia”, Nature Communications 8 (2017):15746)。この変異は、健康な被検者でも、B細胞以外の患者でも、ゲノム解析で期待される頻度で見つかっていない。実際には、その変異が見つかることはほとんどない。しかし、CLL患者では、CLL細胞に約10~15%の予期せぬ頻度で発生し、他の体細胞や非悪性B細胞には発生しない。この変異(R110)はBCRの二量体化を可能にし、これにより受容体の自律的な活性化が生じる(すなわち、架橋によってこれらの受容体を二量体化するリガンドはもはや必要ではない)。IGVL3-21には、01、02、03と名付けられた3つの対立遺伝子が存在することが知られている。意外なことに、CLL患者では対立遺伝子01が過剰に発現している。
【0009】
対立遺伝子のDNA配列は当業者に知られており、例えば、IMGT(www.imgt.org)において、以下のアクセッション番号で確認することが可能である。
【0010】
IGVL3-21*01:X71966
IGVL3-21*02:D97007
IGVL3-21*03:M94115
【0011】
この対立遺伝子01は、以下のアミノ酸配列をコードしている:
配列番号01:
SYVLTQPPSVSVAPGKTARITCGGNNIGSKSVHWYQQKPGQAPVLVIYYDSDRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISRVEAGDEADYYCQVWDSSSDH
【0012】
ここで、変異型BCRのみが自律的に活性化すること、また受容体の自己活性化には変異R110が必要であることが判明した。しかし、この変異は、対立遺伝子01においてのみ自律的な活性化をもたらす。この変異によって、ある軽鎖上の残基K16およびR110が、第2のBCRの隣接する軽鎖上の残基D50およびD52と相互作用する。その際、D50およびD52は、Y49D50S51D52として存在する必要がある。R110変異を遺伝子操作によって野生型変異体G110に変換すると、自律的な活性化は起こらなくなる(Minici et al. 2017)。したがって、対立遺伝子VGLV3-21*01はCLL発症のリスクファクターである。(体細胞)突然変異頻度の増加は、BCRの発生および成熟の際に起こる遺伝子再配列によって説明される。したがって、リスクアレルを持つ人はCLLを発症するリスクが高くなる。つまり、VL3-21の対立遺伝子01を持つ人は、特にBCRのこの変異エピトープに対する抗体が利用できるので、定期的に予防的検査を行うことで病気のリスクを大幅に減らすことができるのである。このような予防的検査は、例えば、BCRのR110変異に結合する抗体により行うことができる。このような抗体およびその使用は、EP18162666.4に記載されている。このような検査は、フローサイトメトリーにより少量の血液から安価に行うことができる。また、リアルタイムPCR法を用いて、血液から、または血液からの細胞分画から得られたDNAやmRNA中の変異を検出することも可能である。
【0013】
VL3-21のゲノム上の存在の検出は、シーケンシング(例えば、全ゲノムシーケンシング、PCRなどの方法)によりDNAから直接行うことができる。VL2-21-01がホモ接合かヘテロ接合かの解析は、この場合には必要ないが、対照として(他のVL3-21対立遺伝子を検出することにより)行うことができる。ゲノム解析サービスを提供している企業が存在する(例えば、23andme)。このような企業が提供するサービスも、本明細書で説明する本発明の範囲に包含されるであろう。対立遺伝子をPCRで検出する場合、リスク対立遺伝子を検出するリアルタイムPCR解析用のプローブを1つ使用し、かつまたは他の対立遺伝子を検出するプローブを複数使用することが可能である。1つのプローブで対立遺伝子*02および*03を検出することができる。したがって、対立遺伝子*01が陽性検出で、対立遺伝子*02および*03が陰性検出であれば、ホモ接合性のリスク対立遺伝子が検出されたことになる。対立遺伝子*01および他の1つの対立遺伝子が陽性検出であれば、ヘテロ接合体が検出されたことになる。リアルタイムPCRなどDNAプローブを用いる方法に適したプローブおよびその使用は当業者に知られている(Beacons、Scorpions、FRETプローブ、Light-Cyclerプローブなど、https://de.wikipedia.org/wiki/Real_Time_Quantitative_PCR)。対立遺伝子検出のための他の分子生物学的手法は、当業者にはよく知られており、例えば、対立遺伝子特異的PCR、インサイチュ・ハイブリダイゼーション、NASBAなどがある。
【0014】
リスク対立遺伝子VL3-21*01が被検者で見つかった場合、一次的予防措置を取ることが考えられる。このような措置は、病気の発生を回避するためのものである。例えば、不要な放射線(電離放射線)を浴びないことや、バランスのとれた食事などが挙げられる。
【0015】
スクリーニングおよび予防的検査からなる二次的予防措置としては、例えば、リンパ球数を調べる定期的な血液検査や、変異した細胞を見つけるための抗体ベースの分析などが考えられる。
【0016】
以下、実施例を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】サブセット-2特異的抗体を用いた解析の一例を示す図。
【0018】
実施例1:
IGLV3-21*01検出のためのリアルタイムPCR
IGLV3-21の対立遺伝子を検出するには、対立遺伝子の遺伝的差異を検出するリアルタイムPCRアッセイで十分である。これには、IGLV3-21遺伝子の129-157領域を含むプローブが適している:
IGLV3-21*01プローブ:TGTGCTGGTCATCTATTATGATAGCGACC(配列番号02)
IGLV3-21*02/03プローブ:TGTGCTGGTCGTCTATGATGATAGCGACC(配列番号03)
IGLV3-21 FW47:AGACGGCCAGGATTACCT(配列番号04)
IGLV3-21 RW198:AGAGTTGGAGCCAGAGAATC(配列番号05)
【0019】
ここで、プローブは、5’末端をレポーター色素で、3’末端をクエンチャーで修飾されている。IGLV3-21*01プローブはFAM色素で、IGLV3-21*02/03プローブはTAMRA色素で標識されている。クエンチャーは、色素に合わせて選択される(FAMはBHQ-1、TAMRAはBHQ-2)。これらの修飾DNAプローブは、色素/クエンチャーとともにウルムのbiomers.netから購入できる。
【0020】
検出には、(例えば、血液、唾液、その他の組織などから)抽出したゲノムDNAを、プライマーおよびプローブを用いて分析する。
【0021】
正確な手順は当業者に知られているが、完全性を期すため、一実施形態を挙げる。
【0022】
a)標準プロトコル:
二重蒸留水(25μl添加)
20%グリセロール:8%
10xTaqManバッファーA:1x
25mM MgCl2溶液:5.0mM
dATP:200μM
dCTP:200μM
dGTP:200μM
dUTP:400μM
プライマー1:200nM
プライマー2:200nM
プローブ対立遺伝子1:100nM
プローブ対立遺伝子2/3:100nM
AmpliTaq Gold(5U/ml):1.25U
AmpErase UNG:0.25U
DNA:約10,000の開始コピー
PCRプログラム
UNG消化:50℃で2分
AmpliTaq Gold活性化:95℃で10分
40サイクル:95℃で15秒、60℃で1分
【0023】
評価を個々のカラーチャネルのCT値に基づいて行い、その際、32未満(<32)のCT値は、対立遺伝子に対する陽性シグナルと解釈する。使用するゲノムDNAのコピー数が少ない場合、CT値の限界が低くなる可能性がある。
【0024】
実施例2:
自律活性型IGLV3-21*01 R110のFACSテスト
患者から少量の末梢血液を採取した。分析のため、100μlの血液を反応管に移し、2mlのPBS-BSAバッファー液を満たした。その後、Eppendorf遠心機5804により1500rpmで5分間遠心分離を行った。上澄み液を廃棄し、沈殿物をよく混ぜた。その後、抗体を添加した。以下の表面パラメータ:1)CD19-FITC、2)CD5-PE、3)CLLサブセット-2特異抗体(APC)に対して染色した後、バッチを室温、暗所で15分間インキュベートした。その後、溶解を開始し、赤血球を溶解させた。前述のように、細胞をPBS-BSAバッファー液で2回洗浄し、細胞を500μlの0.1%PBS-BSAバッファー液中に取り出して再懸濁させた。細胞を、フローサイトメーターで測定するまで2~8℃の暗所で保存した。
【0025】
FACSでの解析は、BDCaliburで行った。個々のレーザーパラメータおよび検出パラメータの設定は、装置メーカーの指示に従って行い、当業者に十分に周知である。次いで、解析の生データを、解析ソフトウェアFlowJoで評価した。まず、リンパ球集団を選択し、FSC/SSCブロットで標識した。この選択では、次にCD19陽性B細胞に焦点を当て、サブセット-2特異的抗体の結合について分析した。
図1は、このようなサブセット-2特異的抗体を用いた解析の一例である。第一段階では、CD19陽性B細胞をさらなる解析のために選択した(左図)。これらをその後、特異的抗体の結合について分析した(右図)。
【配列表】