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  • 特許-敗血症管理 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】敗血症管理
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
G01N33/68
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022524919
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2020080146
(87)【国際公開番号】W WO2021083872
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】19205672.9
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ホルシュ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】シュパヌート,エバーハルト
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0120174(US,A1)
【文献】特表2017-506510(JP,A)
【文献】FAHMY T ALI; ET AL,PRESEPSIN IS AN EARLY MONITORING BIOMARKER FOR PREDICTING CLINICAL OUTCOME IN PATIENTS WITH SEPSIS,CLINICA CHIMICA ACTA,NL,ELSEVIER BV,2016年06月25日,VOL:460,PAGE(S):93 - 101,http://dx.doi.org/10.1016/j.cca.2016.06.030
【文献】FREDERIK FRUERGAARD LARSEN; ET AL,NOVEL BIOMARKERS FOR SEPSIS: A NARRATIVE REVIEW,EUROPEAN JOURNAL OF INTERNAL MEDICINE,2017年09月29日,VOL:45,PAGE(S):46 - 50,http://dx.doi.org/10.1016/j.ejim.2017.09.030
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援するための方法であって、
(a)0又は1の既知のqSOFA(quick Sequential Organ Failure-Assessment:迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する敗血症が疑われる患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(b)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCT)の量を決定する工程、
(c)工程(a)及び(b)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(d)敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援する工程
を含み、
前記試料が、血液、血清、又は血漿の試料である、方法。
【請求項2】
前記患者がヒト患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者が、敗血症が疑われる症状を示している患者である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
死亡リスク、複雑な臨床経過、重症敗血症及び/又は敗血症性ショックが評価される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
死亡リスクが院内死亡率である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記複雑な臨床経過が、静脈内輸液、昇圧薬、機械的換気又は腎代替療法の集中治療室(ICU)滞在中に必要とされる臓器支援措置の必要性として定義される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記必要性が静脈内輸液、昇圧薬、機械的換気又は腎代替療法の投与の必要性である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者由来の前記試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも多いこと、及び/又は前記患者由来の前記試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも多いことが、リスクのある患者に対する指標である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者由来の前記試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも少ないこと、及び前記患者由来の前記試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも少ないことが、リスクのない患者に対する指標である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
敗血症が疑われる患者のリスク評価は、リスクのある患者への適切な治療措置の推奨又は開始を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記治療措置が、前記患者にリスクがあると評価された場合、敗血症の管理のための推奨ガイドラインから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記治療措置が、前記患者にリスクがないと評価された場合、感染の処置、又は更なる調査、又は専門家が必要と考えるケアの他の態様であり得る、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
プレセプシンについての前記基準量が約500pg/mL~約1500pg/mL又は約750pg/mL~約1250pg/mLの範囲内であり、及び/又はPCTについての前記基準量が約1.5ng/mL~約2.5ng/mLの範囲内である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
プレセプシンについての前記基準量が約1000pg/mLであり、PCTについての前記基準量が約2ng/mLである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援するための方法であって、
(a)前記患者のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを取得する工程、
(b)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(c)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCT)の量を決定する工程、
(d)工程(b)及び(c)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(e)前記患者のリスク評価を支援する工程
を含み、
前記試料が、血液、血清、又は血漿の試料である、方法。
【請求項16】
前記患者のqSOFAスコアが、前記患者の呼吸数(>22/分)、前記患者の収縮期血圧(<100mmHg)、及び意識障害の有無(GCS<15)に基づく、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
敗血症が疑われる患者の評価のためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、
(a1)0又は1の既知のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する敗血症が疑われる患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量についての値、及び
(a2)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての値
を受信する工程、
(b)前記処理ユニットにより工程(a)で受信された前記値を処理する工程であって、前記処理は、
(b1)前記バイオマーカーであるプレセプシンの量についての1つ以上の閾値と、前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての1つ以上の閾値とをメモリから検索すること、
(b2)工程(a)で受信した値を工程(b1)で検索したそれぞれの閾値と比較すること
を含む、工程、並びに
(c)出力装置を介して前記患者の評価を提供する工程であって、前記評価が工程b)の結果に基づく工程
を含み、
前記試料が、血液、血清、又は血漿の試料である、方法。
【請求項18】
敗血症が疑われる患者の評価のためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、
(a1)前記患者のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアについての値、
(a2)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量についての値、及び
(a3)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての値
を受信する工程、
(b)前記処理ユニットにより工程(a)で受信された前記値を処理する工程であって、前記処理は、
(b1)前記qSOFAスコアについての閾値と、前記バイオマーカーであるプレセプシンの量についての1つ以上の閾値と、前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての1つ以上の閾値とをメモリから検索すること、及び
(b2)工程(a)で受信した値を工程(b1)で検索したそれぞれの閾値と比較すること
を含む、工程、並びに
(c)出力装置を介して前記患者の評価を提供する工程であって、前記評価が工程b)の結果に基づく工程
を含み、
前記試料が、血液、血清、又は血漿の試料である、方法。
【請求項19】
前記出力装置が、前記評価を提示するように構成されたディスプレイである、請求項17又は18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援するための方法に関する。例えば、転帰不良(合併症を伴う臨床経過及び/又は死亡率等)のリスクを評価することができる。本発明の方法は、(a)0、1、2又は3の既知のqSOFA(quick Sequential Organ Failure-Assessment:迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する敗血症が疑われる患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、(b)患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCT)の量を決定する工程、工程(b)及び(c)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに(d)臨床転帰に関して、敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援する工程、を含み得る。本発明の方法は、コンピュータ実装されてもよい。
【背景技術】
【0002】
例えば、病院の緊急治療室での敗血症が疑われる患者の最初の診察中に、軽度の敗血症、良好な予後及び低い院内死亡率を有する低リスク患者と、集中治療を必要とし、高い死亡率を有する、生命を脅かす可能性のある敗血症を有する高リスク患者とを迅速かつ確実に区別することは困難であり、予後予測上極めて重要である。早期診断及び適切な処置は敗血症患者の予後にとって重要である。敗血症を有する患者は非常に異なって現れ、臨床評価を困難にする。敗血症患者を対象としたオランダの研究では、患者の30~50%、場合によっては敗血症性ショックの患者さえも「緊急でない」と見なされたことが明らかにされた(Eur J Emerg Med 2014;21(5):330-335)。生命を脅かす臨床像の認識の欠如は、標的化された治療を著しく遅らせ、死亡率の増加に関連する。
【0003】
しかしながら、敗血症患者を適切に処置するためには、まず、敗血症患者を特定し、正しい診断を行わなければならない。敗血症は、SEPSIS-3(Sepsis-3 The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock.JAMA 2016;315:801-819)に従って、「感染に対する調節不全の宿主応答によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全」と定義され、順次臓器不全評価(SOFA)スコアで臨床的に評価することが推奨される。
【0004】
SOFAスコアの使用は、考慮されるパラメータの複雑さのために、緊急治療室には適切ではないと考えられる。この状況を改善するために、SEPSIS-3定義の著者らは、敗血症が疑われる患者における臓器機能不全の可能性を予測するために迅速SOFA(qSOFA)スコアを導入することを提案した。qSOFAスコアは、頻呼吸、低血圧及び意識障害についてそれぞれ1点を有する3点スコアである。2又は3点の「陽性」qSOFAスコアは、より悪い臨床転帰に対するリスクを示す。その単純さのため、qSOFAスコアを救急部及び非集中領域で使用して、転帰が不良である可能性が高い敗血症が疑われる成人患者を同定することができる。
【0005】
数多くの研究が、qSOFAが、予測される死亡率の特異性及び予測精度の両方に関して、以前に使用されたSIRS基準よりも優れていると判断している。2点を超えるqSOFAスコアの場合、合併症を伴う臨床経過又は死亡率の増加が予想される。しかしながら、2未満のqSOFAスコアを有する患者は、循環系、呼吸系又は中枢神経系の少なくとも1つの初期不全が存在するため、集中治療を必要としないにしても、すでに重症の場合がある。入院中、後に敗血症で死亡した患者を正確に特定するための入院時のqSOFAの感度は、わずか約50~70%である(Lancet Infect Dis 2017;17:661-670;JAMA 2017;317:301-308;Chest 2017;151(3):586-596)。
【0006】
臨床経験に加えて、疾患の経過及び患者の転帰を評価するための目標とする臨床検査が有用となり得る。一般的に使用される炎症マーカー(白血球数及びCRP等)は、感度又は特異性が低い。血中の上昇したPCT(プロカルシトニン)濃度は、全身性細菌感染の存在を示す。さらに、多くの研究において、プレセプシン(sCD14ST)は敗血症の重症度を評価するための有用なバイオマーカーであることが実証されている(Critical Care 2014;18:R6 and Critical Care 2013;17:R244)。
【0007】
スクリーニング検査としての新たなqSOFAスコアの批判は、本質的に以下の点を指す:1.)qSOFAスコアは、患者がすでに集中治療を必要としている場合にのみ患者を認識するため、治療の開始が遅れる場合があり、したがって予後を悪化させ得る。2.)特異性は高いが、感度を犠牲にする。qSOFAは、(より高い特異性を支持して)SIRS基準と比較して、以前に公開された全ての前向き研究において有意に低い感度を示し、負のqSOFAスコアは敗血症を除外することができない。3.)ポイントオブケアのベッドサイド検査としての乳酸塩以外のバイオマーカーはSEPSIS-3に統合されていないが、診断、予後、及び治療のための様々なバイオマーカーは、多くの研究に基づいて、日常的なケアにおいて長年にわたって国際的に使用されてきた。
【0008】
敗血症が疑われる患者の迅速かつ信頼性の高い評価を支援して転帰を適切に予測し、そのような患者に適切な治療決定を下すための手段及び方法に対する明らかな積年のニーズがある。
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明の根底にある技術的な課題は、上述のニーズに対応するための手段及び方法の提供と見なされなければならない。この手段及び方法は、同時に、上記で言及した先行技術の欠点を回避するものとなる。
【0010】
この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲及び本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0011】
有利には、敗血症が疑われる患者において、迅速SOFAスコアの組み合わせ、並びに血液中のプロカルシトニン及びプレセプシンの両方の決定は、潜在的に合併症を伴う臨床経過の検出及び死亡率のリスクの評価を改善することが、本発明の基礎となる研究で見出されている。qSOFAスコアの予測的有効性は、プロカルシトニン及びプレセプシンの両方の追加によって有意に改善される。特に、プロカルシトニンとプレセプシンとを組み合わせて決定することにより、qSOFA単独に基づいてリスクがあると考えられなかったであろうリスク患者(qSOFAスコアが0又は1の患者等)の特定が可能になる。更に、プロカルシトニンとプレセプシンとを組み合わせた決定により、qSOFAスコアのみに基づいて、転帰不良のリスクが過大評価されたであろう患者(qSOFAスコアが2又は3の患者等)の特定が可能になる。本発明の知見のおかげで、敗血症の疑いで救急部を受診する患者等、悪化を防ぐために段階的に増大する治療(escalated care)を必要とする敗血症が疑われる患者において迅速かつ信頼できる決定を行うことが可能になる。
【0012】
したがって、本発明は、敗血症が疑われる患者の転帰の予測等のリスク評価を支援するための方法であって、
(a)0、1、2又は3の既知のqSOFA(quick Sequential Organ Failure-Assessment:迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する敗血症が疑われる患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(b)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCT)の量を決定する工程、
(c)工程(b)及び(c)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(d)敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援する工程
を含む、方法に関する。
【0013】
好ましくは、工程(d)は、比較工程(c)の結果に基づく。したがって、工程(d)は、好ましくは、比較工程の結果に基づいて、敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援することを含む。
【0014】
本発明の方法は、好ましくはin vitro法である。さらに、該方法は、先に明示的に述べられたものに加えて、複数の工程を含んでもよい。例えば、更なる工程は、処置前の試料を採取すること、若しくは上記方法で得られた結果を評価することに関する場合がある。本発明の方法は、対象の監視、確認、及び下位分類にも使用することができる。この方法は、手動で実行されてもよく、自動化によって支援されてもよい。好ましくは、工程(a)、(b)、(c)及び/又は(d)は、全体的又は部分的に、自動化によって、例えば、工程(a)及び(b)における決定又は工程(c)におけるコンピュータを実装した比較のため、適切なロボット及び感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0015】
本発明の方法は、敗血症が疑われる患者の評価を可能にする。本明細書で使用される「評価する」という用語は、好ましくは、臨床経過(すなわち、救命救急介入の必要性)及び転帰に関する患者のリスクの評価を指す。したがって、予測される転帰、すなわち、患者が不良な転帰を有するリスクがある可能性が高いか、又は患者が不良な転帰を有する可能性がないかどうか。或いは、「評価する」という用語は、患者に適した治療措置(例えば、救命救急介入を必要とする)を決定することを指す。したがって、この用語は、敗血症が疑われる患者のガイダンスを包含する。これにより、患者に特異的に適用可能な治療措置を提案することができる。本発明の方法を実施することにより、患者が特定の治療措置を必要としているか否かを識別することができる。
【0016】
当業者によって理解されるように、そのような評価は、通常、対象の100%について正しいことを意図していない。「評価」という表現は、典型的には、対象の統計的に有意な部分に対して適切かつ正確な方法で評価を行うことができることを必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定等の様々な周知の統計評価ツールを使用して、当業者が更に苦労することなく決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden,Statis-tics for Research,John Wiley&Sons,New York 1983に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。
【0017】
本発明の方法で行われる実際の評価は、評価の確認等の更なる工程を含み得ることを理解されたい。したがって、「評価」という用語は、好ましくは、評価の支援として理解される。最終的な評価は、主治医によって、すなわち個人を処置する医師によって行われ得る。
【0018】
本発明の方法の好ましい実施形態では、敗血症が疑われる患者の評価は、患者のリスク層別化、すなわち、検査された患者のリスクの評価である。したがって、患者がリスクであるか否かが評価される、すなわち予測される。これにより、患者が悪化(多臓器不全を発症)して転帰不良となる可能性があるか、悪化して転帰不良となる可能性がないかが予測される。上記不良な結果は敗血症に関連するものとする。例えば、死亡率、特に院内死亡率、敗血症性ショック、重症敗血症及び/又は合併症を伴う臨床経過のリスクが予測される。
【0019】
好ましい実施形態では、合併症を伴う臨床経過のリスクが評価される。したがって、本発明の方法は、患者が合併症を伴う臨床経過のリスクがあるかどうかの予測を可能にする。合併症を伴う臨床経過のリスクは、好ましくは、潜在的により悪い転帰及び院内死亡率の増加に関連する。したがって、本発明はまた、検査した患者の死亡率、特に敗血症による死亡率のリスクの予測を可能にする。
【0020】
「合併症を伴う臨床経過」という用語は、当業者にはよく理解されている。本明細書で使用される場合、この用語は、静脈内輸液、昇圧薬、機械式人工呼吸、及び腎代替療法の投与等の集中治療室(ICU)滞在中に必要とされる臓器支援措置の必要性として定義される。合併症を伴う臨床経過を有する患者は、典型的には、合併症を伴う臨床経過を有しない患者と比較して、より長い入院を必要とする。いくつかの実施形態では、臨床的に複雑な経過を有する対象は、集中治療処置を必要とする。
【0021】
別の好ましい実施形態では、死亡率のリスクが評価される。したがって、本発明の方法は、患者が敗血症による死亡率のリスクがあるかどうかの予測を可能にする。好ましくは、上記死亡率は院内死亡率である。
【0022】
さらに、本発明の方法は、重症敗血症及び/又は敗血症性ショックのリスクの予測を可能にする。したがって、患者が重症敗血症及び/又は敗血症性ショックのリスクがあるかどうかを評価することができる。
【0023】
「リスクを評価する」又は「リスクを予測する」という用語は、本明細書では互換的に使用され、好ましくは、患者がリスクがあるかどうか、又はリスクがないかどうかを評価することを指す。したがって、患者が合併症を伴う臨床経過を有する患者が、特に本発明の方法が実施された後の特定の予測ウィンドウ内で、死亡する及び/又は敗血症性ショック及び/又は重症敗血症に罹患する確率。したがって、この用語は、本発明の方法によって分析される患者が、リスク(合併症を伴う臨床経過、死亡率(特に敗血症による死亡率)及び/又は敗血症性ショック及び/又は重症敗血症等)がある患者群、又はリスクがない患者群のいずれかに割り当てられることを意味するものとする。
【0024】
特に、特定の時間窓におけるリスク/確率が、例えば院内死亡率に関して予測される。予測されるリスクは短期リスクであり、すなわち予測ウィンドウは短いことを理解されたい。一実施形態では、最大30日間の期間内の不良な転帰のリスクが予測される。例えば、3日間~30日間又は1週間~30日間の期間内の不良な転帰のリスクが予測される。特に、予測ウィンドウは30日間の期間である。
【0025】
リスクのある患者は、平均リスクと比較して高いリスクを有し、すなわち、患者は、潜在的に生命を脅かす敗血症を有する高リスク患者である。特に、対象のリスクは、対象と同じqSOFAスコアを有する対象の平均リスクと比較して上昇している。リスクがある、すなわち高リスクである患者は、悪化する可能性があり、転帰が不良である可能性があり、悪化を防ぐための段階的に増大する治、すなわち救命救急介入を必要とする。
【0026】
リスクがない患者は、平均リスクと比較してリスクが低い、すなわち、患者は予後が良好で院内死亡率のリスクが低い低リスク患者であることが好ましい。特に、対象のリスクは、対象と同じqSOFAスコアを有する対象の平均リスクと比較して低下する。リスクがない患者、すなわち低リスクの患者は、良好な転帰を有する可能性が高い。
【0027】
本明細書でいう「対象」とは、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及びサル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、齧歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。好ましくは、対象とは、ヒト対象である。「患者」及び「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0028】
本発明に従って検査される対象には、敗血症の疑いがある。「敗血症」という用語は当該技術分野で周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、感染に対する調節不全の宿主応答によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全を指す。さらに、敗血症の定義は、Singer et al.(Sepsis-3 The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock.JAMA 2016;315:801-819)に見出すことができる。特に、対象は、全身感染症に罹患している疑いがある。「感染」という用語は、当業者にはよく理解されている。本明細書で使用される場合、「感染」という用語は、好ましくは、疾患を引き起こす微生物による対象の身体組織の浸潤、その増殖、及び微生物に対する対象の組織の反応を指す。いくつかの実施形態では、感染は細菌感染である。したがって、対象は細菌性敗血症に罹患している疑いがある。
【0029】
敗血症が疑われる対象は、以下の1つ以上の症候:より速い心拍(頻脈)、より低い収縮期血圧(低血圧)、発熱又は低体温(しばしば悪寒を伴う)、疼痛、皮膚の発赤、速い呼吸(頻呼吸)、呼吸のしにくさ(呼吸困難)、内面の不安、めまい及び見当識障害を示す。好ましくは、対象は発熱を有する、すなわち対象は、体温設定点の上昇により正常範囲を超える体温を有する。例えば、対象は、38℃を超える体温を有し得る。或いは、対象は39℃を超える体温を有し得る。
【0030】
好ましくは、敗血症が疑われる対象は、救急部に来院する対象である。或いは、敗血症が疑われる対象は、集中治療室の外部の部門の対象である。したがって、対象は、検査時(又はより正確には、患者から試料が得られた時点)に集中治療の患者ではないことが想定される。
【0031】
好ましくは、本発明に従って検査される対象は、既知のqSOFAスコア(迅速な順次臓器不全評価スコア(quickSOFAとも呼ばれる))を有するものとする。qSOFAスコアは当該技術分野において周知である。敗血症は、敗血症で転帰不良のリスクが高い患者を特定する最初の方法としてSOFAスコアの簡略版として2016年2月にSepsis-3群によって導入された。スコアは、Singer et al.(JAMA.2016;315(8):801-810.doi:10.1001/jama.2016.0287)に記載されており、その開示内容に関してその全体が参照により本明細書に組み込まれる。qSOFAスコアは、以下の3つの基準を使用する:低血圧(SBP≦100mmHg)、高呼吸数(≧22呼吸/分)、又は意識障害(Glasgow Coma Scaleスコア<15点)に対して1点を割り当てる。したがって、患者のqSOFAスコアは、患者の呼吸数、患者の収縮期血圧、及び意識障害の有無に基づく。
【0032】
典型的には、収縮期血圧が100mmHg以下であれば、対象は低血圧である。典型的には、対象のGlasgow Coma Scaleスコアが15ポイント未満である場合、対象は意識障害を有する。典型的には、収縮期血圧が100mmHg以下であれば、対象は低血圧である。典型的には、対象の呼吸数が毎分22回以上である場合、対象は高い呼吸数を有する。
【0033】
いくつかの実施形態では、対象は0のqSOFAスコアを有する。
【0034】
いくつかの実施形態では、対象は1のqSOFAスコアを有する。
【0035】
いくつかの実施形態では、対象は2のqSOFAスコアを有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、対象は3のqSOFAスコアを有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、対象は0又は1のqSOFAスコアを有する。
【0038】
いくつかの実施形態では、対象は2又は3のqSOFAスコアを有する。
【0039】
いくつかの実施形態では、対象は0、1、2又は3のqSOFAスコアを有する。
【0040】
本発明の方法の好ましい実施形態では、対象のqSOFAスコアは既知である。したがって、対象のqSOFAスコアは、特に診察時又は診察直後に決定されている。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象のqSOFAスコアの決定を包含する。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、対象のqSOFAスコアの決定を包含しない。
【0041】
「試料」という用語は、体液の試料、分離された細胞の試料、又は組織若しくは器官からの試料を指す。体液の試料は、周知の技術によって入手することができ、血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水の試料、又はその他の体分泌物若しくはその派生物の試料を含む。好ましい体液試料は、尿、血液、血清又は血漿である。組織又は器官の試料は、例えば生検によって、いずれかの組織又は器官から入手してもよい。分離された細胞を、体液又は組織若しくは器官から、遠心分離又は細胞選別等の分離技術によって得てもよい。例えば、バイオマーカーを発現又は生成する細胞、組織、器官から、細胞、組織、器官の試料を採取してもよい。試料は、凍結、新鮮、固定(例えばホルマリン固定)、遠心分離、及び/又は包埋(例えばパラフィン包埋)等であり得る。細胞試料は、試料中のマーカーの量を評価する前に、当然のことながら、種々の周知の収集後調製及び保管技法(例えば、核酸及び/又はタンパク質抽出、固定、保管、冷凍、超濾過、濃縮、蒸発、遠心分離等)に供され得る。
【0042】
さらに、試料は乾燥血液スポット試料であることが想定される。乾燥した血液スポット試料は、血液の液滴を吸収性フィルタに塗布することによって得ることができる。血液を紙に完全に飽和させ、数時間風乾させる。血液は、検査される対象から、例えば指からランセットによって採取されていてもよい。
【0043】
好ましい一実施形態では、試料は、血液(すなわち、全血)、血清又は血漿試料である。血清とは、血液を凝血させた後に入手される全血の液体画分である。血清を得るためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿試料を得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理又はEDTA処理されたチューブ)に収集される。遠心分離により細胞を試料から除去し、上清(すなわち、血漿試料)を入手する。
【0044】
本発明の方法は、2つのバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCTと略記する)及びプレセプシンの量の決定に基づく。
【0045】
プレセプシンは、「可溶性CD14サブタイプ」又は「sCD14-ST」としても知られており、sCD14(可溶性CD14)に由来し、分子量がより大きい少なくとも2つの形態が存在し(49kDa及び55kDa)、sCD14-STはフラグメントである。sCD14のタンパク質分解は、プレセプシンの形成をもたらす。マーカーは当該技術分野で周知であり、例えば、本明細書に参考として組み込まれるErenler et al.(Presepsin(sCD14-ST)as a biomarker of sepsis in clinical practice and in emergency department:a mini review.2015 J Lab Med 39:367-372)の総説を参照されたい。好ましくは、sCD14に結合することなく、プレセプシンに特異的に結合する抗体が利用可能である(例えば、Okamura Y,Yokoi H.Development of a point-of-care assay system for measurement of presepsin(sCD14-ST).Clin Chim Acta.2011;412(23-24):2157-61を参照されたい)。
【0046】
プロカルシトニン(PCTと略記する)は、ホルモンカルシトニンのペプチド前駆体である。したがって、プロカルシトニンはカルシトニンの不活性プロペプチドである。これは116アミノ酸から構成され、甲状腺傍濾胞細胞(C細胞)、並びに肺及び腸の神経内分泌細胞によって産生される。PCTは、敗血症を全身性炎症の他の非感染性原因と区別するための有用な生化学的マーカーとして広く報告されている(Kondo,Y.,Umemura,Y.,Hayashida,K.et al.J intensive care(2019)7:22.https://doi.org/10.1186/s40560-019-0374-4)。マーカーのアミノ酸配列は当該技術分野で周知であり、例えば欧州特許第2320237号B1に開示されている。
【0047】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、PCT又はプレペプシン)の絶対量、上記バイオマーカーの相対量又は濃度、及びそれらと相関する又はそれらから導き出され得る任意の値又はパラメータを包含する。このような値又はパラメータは、直接的な測定により当該ペプチドから得られる、全ての具体的な物理的又は化学的特性に由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトル又はNMRスペクトルにおける強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値又はパラメータ全て、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチド又は強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量が包含される。上述の量又はパラメータと相関する値は、全ての標準的な数学的演算によっても得ることができるということを理解されたい。
【0048】
明細書でいうバイオマーカーの量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化を指し、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている適切な検出方法を使用して、試料中のバイオマーカーのレベルを決定することである。
【0049】
一実施形態では、バイオマーカーの量は、試料をバイオマーカーと特異的に結合する薬剤と接触させ、それにより薬剤と上記バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから上記バイオマーカーの量を決定することにより、決定される。
【0050】
本明細書でいうバイオマーカーは、当該技術分野で概して公知の方法を使用して検出することができる。検出方法は概して、試料中のバイオマーカーの量を定量する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のいずれがバイオマーカーの定性的及び/又は定量的検出に適しているかは、当業者に概して公知である。試料は、例えば、市販されている、ウエスタン法及びELISA、RIA、蛍光及び発光ベースのイムノアッセイのようなイムノアッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するための更に適切な方法は、ペプチド又はポリペプチドに特異的な物理的又は化学的特性、例えば、その正確な分子量又はNMRスペクトル等を決定することを含む。上記方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連関した光学装置、バイオチップ、質量分析計、NMR分析機、又はクロマトグラフィー装置等の分析装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化又はロボットイムノアッセイ(Elecsys(商標)アナライザー等で利用可能)、及びラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)アナライザーで使用可能)が含まれる。さらに、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析)は、生物学的マトリックス中のペプチド及びタンパク質の検出及び定量に使用することができる。
【0051】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、このようなアッセイ形式を使用する広範な免疫学的検定技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号、第4,424,279号、及び第4,018,653号を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位及び2部位又は「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイはまた、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。サンドイッチアッセイは、最も有用なイムノアッセイの1つである。
【0052】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。このような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、該金属錯体は、励起状態から基底状態へ緩和して、電気化学発光を放出する。総説については、Richter,M.M.,Chem.Rev.104(2004)3003-3036を参照されたい。
【0053】
一実施形態では、バイオマーカーの量を決定するのに使用される検出抗体(又はその抗原結合断片)は、ルテニウム化(ruthenylated)又はイリジウム化(iridinylated)されている。そのため、抗体(又はその抗原結合フラグメント)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態では、上記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。或いは、抗体(又はその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態では、該イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号において開示されているような錯体である。
【0054】
ペプチド又はポリペプチド(例えば、PCT又はプレペプシン)の量を決定することは、好ましくは、(a)ペプチド又はポリペプチドを上記ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させる工程、(b)(任意に)結合していない薬剤を除去する工程、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された薬剤の複合体の量を決定する工程、を含み得る。好ましい実施形態によれば、当該接触させる工程、任意に除去する工程及び決定する工程は、分析装置ユニットにより実施され得る。いくつか実施形態によれば、該工程は、該システムの単一の分析装置ユニットによって、又は互いに作動可能な通信状態にある複数の分析装置ユニットによって実施され得る。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示される上記システムは、上記接触させる工程、及び任意に除去する工程を実施するための第1の分析装置ユニット、並びに上記決定する工程を実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、上記第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットを含んでもよい。
【0055】
バイオマーカーを特異的に結合する作用物質(本明細書では「結合剤」ともいう)は、結合した作用物質の検出及び測定を可能にする標識に、共有結合又は非共有結合していてもよい。標識化は、直接又は間接の方法により行ってもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合又は非共有結合により)結合させることによって行われる。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合又は非共有結合により)結合させることによって行われる。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。上記第2の結合剤は、適切な標識と結合する、及び/又は第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)となり得る。好適な第2の、及びより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、及びストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)等の周知の結合系を含み得る。結合剤又は基質はまた、当該技術分野で公知の1つ以上のタグで「タグ付けされ」ていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。ペプチド又はポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端及び/又はC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性及び超常磁性標識を含む)、及び蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びそれらの誘導体が挙げられる。検出に適した基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnostics製の既成の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド及び5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスファート)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組合せにより、着色された反応産物、蛍光又は化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法によって(例えば感光フィルム又は適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応を決定することに関しては、上述の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、及びAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。更なる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、企図される。放射性標識は、公知かつ適切な、例えば感光膜又はホスホイメージャー(phosphor imager)等の任意の方法により検出され得る。
【0056】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下のとおり決定され得る:(a)本明細書の別の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチド又はポリペプチドを含む試料と接触させること、及び(b)支持体に結合したペプチド又はポリペプチドの量を決定すること。支持体を製造するための材料は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラス及び/又はシリコンのチップ及び表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェル及び壁、プラスチックチューブ等が挙げられる。
【0057】
更なる一態様では、結合剤と1つのマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定前に、試料が除去される。そのため、一態様では、結合剤は固形支持体上に固定されていてもよい。更なる態様では、洗浄溶液を適用することによって、固体支持体上で形成された複合体から試料が除去され得る。
【0058】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかのバリエーションを包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されているか、又は固体基質上に固定化することができ、そして検査される試料を、捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体の形成を可能にするのに十分な時間の、適切なインキュベート時間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識した第2の(検出)結合剤を添加し、結合剤-バイオマーカーで標識した結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を許容してインキュベートする。任意に、未反応材料を洗い流してもよい。バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により、決定される。その結果は、可視シグナルの単純な観察によって定性的であってもよいか、又は既知量のバイオマーカーを含有する対照試料との比較によって定量されてもよいかのいずれかである。
【0059】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤及びバイオマーカーが共インキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析される試料及び標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析される試料及び標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、又は固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0060】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、試料中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性及び/又は感度が、試料中に含まれる、特異的に結合することができる少なくとも1つのマーカーの比率の程度を規定することは理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、試料中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量へと変換されるものとする。
【0061】
いくつかの実施形態では、プレセプシンの量は、LSI Medience Corporation(日本国東京都千代田区内田1丁目13-4、製品番号PF1201-K)からのPathfastプレセプシンアッセイを用いて決定される。
【0062】
いくつかの実施形態では、PCTの量は、ドイツ国マンハイム68305のRoche Diagnostics GmbH製のElecsys(登録商標)BRAHMS PCTアッセイで決定される。
【0063】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「分析対象特異結合剤」、「検出剤」及び「バイオマーカーに特異的に結合する作用物質」という用語は、本明細書では相互互換可能に使用される。好ましくは、それは、対応するバイオマーカーと特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」又は「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)又は化学物質である。好ましい薬剤は、決定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体又はその抗原結合フラグメントである。本明細書の「抗体」という用語は、最も広い意味で使用されており、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の抗原結合活性を呈する限りの抗体フラグメント断片(すなわち、その抗原結合フラグメント)を含むが、これらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。
【0064】
「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は、結合対の分子が、別の分子に有意に結合しない条件下で、互いへの結合を呈する結合反応を指す。「特異的結合」又は「特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質又はペプチドを指す場合、結合剤が少なくとも10-7Mの親和性で対応するバイオマーカーに結合する結合反応を指す。「特異的な結合」又は「特異的に結合する」という用語は、その標的分子に対して、好ましくは少なくとも10-8M、又は更により好ましくは少なくとも10-9Mの親和性を指す。「特異的な」又は「特異的に」という用語は、試料中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0065】
「比較する」という用語は、本明細書で使用される場合、対象からの試料におけるバイオマーカーの量を、本明細書の別の箇所で明示されるバイオマーカーの基準量と比較することを指す。本明細書で使用する場合の比較することは、通常、対応するパラメータ又は値の比較を指し、例えば、絶対量は基準の絶対量と比較されるのに対し、濃度は基準の濃度と比較され、又は試料中のバイオマーカーから得られた強度シグナルは基準試料から得られた同じ種類の強度シグナルと比較されることを理解されたい。比較は、手作業又はコンピュータを利用して実施してもよい。したがって、比較は、コンピューティングデバイスによって実施することができる。対象からの試料中のバイオマーカーの決定量又は検出量、及び基準量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また当該比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施され得る。上記評価を実施するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で、所望の評価を提供する。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較の結果を更に評価してもよく、すなわち、適切な出力形式で所望の評価を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較の結果を更に評価してもよく、すなわち、適切な出力形式で所望の評価を自動的に提供する。
【0066】
本発明によれば、バイオマーカーPCT及びバイオマーカープレセプシンの量を基準と比較するものとする。典型的には、バイオマーカーPCTの量をPCTの基準と比較し、バイオマーカープレセプシンの量をプレセプシンの基準と比較する。
【0067】
基準は、好ましくは基準量である。本明細書で使用される「基準量」という用語は、(i)リスクがある対象の群又は(ii)リスクがない対象の群(例えば、合併症を伴う臨床経過)のいずれかへの対象の割り当てを可能にする量を指す。適切な基準量は、検査試料と一緒に、すなわち同時に又は続いて分析される基準試料から決定されてもよい。
【0068】
基準量は、原則として、統計学の標準的な方法を適用することによって、所定のバイオマーカーの平均又は平均値に基づいて、先に指定したような対象のコホートについて算出することができる。特に、事象の診断を目的とする方法等の検査が正確であるか否かは、受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig 1993,Clin.Chem.39:561-577を参照されたい)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感度対特異性のペアのプロットである。予後診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち対象を特定の予後に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度、又は真陽性率であり、真陽性の検査結果の数及び偽陰性の検査結果の数の積に対する、真陽性の検査結果の数の比率として定義される。これは、疾患又は症状の存在下での陽性とも呼ばれている。y軸は、影響を受ける下位群からのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、又は1-特異性であり、これは、真陰性の数及び偽陽性結果の数の積に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。x軸は、特異性の指標であり、影響を受けない下位群からのみ計算される。真陽性率及び偽陽性率は、2つの異なる下位群からの検査結果を使用することによって完全に別個に計算されるので、ROCプロットはコホートにおける事象の有病率に非依存性である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に相当する感度/1-特異性の対を表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重なりがない)検査は、左上隅を通過するROCプロットを有しており、真陽性率は1.0、又は100%(完全な感度)であり、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つの群についての結果の分布が同一である)検査についての理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間に収まる。ROCプロットが45°対角線を完全に下回って収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることによって、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、検査の全体的な精度が高くなる。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導くことができ、これにより、感度及び特異性の適切な平衡状態をそれぞれ備えた所与の事象についての診断が可能になる。したがって、本発明の前述の方法に使用される基準、すなわち、敗血症が疑われる対象のコホート間でリスクのある対象とリスクのない対象とを区別することを可能にする閾値は、好ましくは上記のように当該コホートのROCを確立し、そこから閾値量を導出することによって生成することができる。診断方法についての所望の感度及び特異性に応じて、ROCプロットは、適切な閾値を導くことができる。リスクがある対象(すなわち、除外)を除外するためには最適な感度が望ましいが、リスクがあると評価される対象(すなわち、包含)については最適な特異度が想定されることが理解されよう。
【0069】
特定の実施形態では、本明細書で使用される場合、「基準量」という用語は、所定の値を指す。上記所定の値は、(合併症を伴う臨床経過等の)リスクがある対象とリスクがない対象との区別を可能にするものとする。
【0070】
例えば、プレセプシンの基準量は、約500pg/mL~約1500pg/mLの範囲内である。好ましくは、プレセプシンの基準量は、約750pg/mL~約1250pg/mLの範囲内、より好ましくは約850pg/mL~約1150pg/mLの範囲内、更により好ましくは約950pg/mL~約1050pg/mLの範囲内である。最も好ましくは、基準量は約1000pg/mLである。
【0071】
好ましくは、PCTの基準量は、約1.5ng/mL~約2.5ng/mLの範囲内、より好ましくは約1.75ng/mL~約2.25ng/mLの範囲内、更により好ましくは約1.9ng/mL~約2.1ng/mLの範囲内である。最も好ましくは、PCTの基準量は約2ng/mLである。
【0072】
以下に、好ましい診断アルゴリズムを要約する。
【0073】
好ましくは、対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも多いこと、及び/又は対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも多いことが、リスクのある(特に、合併症を伴う臨床経過)対象に対する指標である。したがって、対応する基準と比較して、i)プレセプシンの量が増加している場合、ii)PCTの量が増加している場合、又はiii)プレセプシンとPCTの両方の量が増加している場合、対象はリスクがある。
【0074】
追加的に又は代替的に、対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも少ないこと、及び対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも少ないことが、リスク(特に、合併症を伴う臨床経過)のない対象に対する指標である。したがって、プレセプシン及びPCTの両方の量が対応する基準と比較して減少している場合、対象はリスクがない。
【0075】
リスクの包含は、qSOFAスコアが0又は1の対象等の「陰性」のqSOFAスコアを有する対象に特に有利である。好ましい実施形態では、したがって、対象は0又は1の(既知の)qSOFAを有し、対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも多いこと、及び/又は当該対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも多いことが、リスクのある対象に対する指標である。
【0076】
リスクの除外、qSOFAスコアが2又は3の対象等の「陽性」のqSOFAスコアを有する対象に特に有利である。好ましい実施形態では、したがって、対象は2又は3の(既知の)qSOFAを有し、対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも少ないこと、及び対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも少ないことが、リスクのない(特に、合併症を伴う臨床経過)対象に対する指標である。
【0077】
本発明の方法の好ましい実施形態では、上記方法は、適切な治療措置を推奨又は開始することを更に含む。好ましくは、当該適切な治療措置は、International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock(Intensive Care Med,2017)等の敗血症の管理のための医療ガイドライン又は推奨から選択される。特に、治療措置は、敗血症の処置、又は更なる診断調査、又は専門家が必要と考えるケアの他の態様であり得る。
【0078】
一実施形態では、患者にリスクがあると評価された場合に推奨又は開始される治療措置は、以下から選択される。
● セファロスポリン、ベータ-ラクタム/ベータ-ラクタマーゼ阻害剤(例えば、ピペラシリン)、及びカルバペネム等の少なくとも1つ以上の(すなわち、併用療法)抗菌剤を用いる、好ましくは可能性の高い病原体と考えられる生物及び抗生物質感受性に応じた、経験的広域治療の投与
● 輸液による蘇生
● ノルエピネフリンの投与等の1つ以上の血管収縮薬の投与
● ヒドロコルチゾンの投与等の1つ以上のコルチコステロイドの投与
● 透析等の腎代替療法、及び/又は
● 機械式人工呼吸。
【0079】
上記の本明細書で与えられる定義及び説明は、本発明の以下の方法に準用されることが好ましい。
上記のように、本発明の上記方法は、患者のqSOFAスコアの取得又は決定を含み得る。したがって、本発明は、敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援するための方法であって、
(a)前記患者のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを取得する工程、
(b)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(c)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCT)の量を決定する工程、
(d)工程(b)及び(c)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(e)前記患者のリスク評価を支援する工程
を含む、方法に関する。
【0080】
好ましくは、工程(e)は、工程(a)で得られた又は決定されたqSOFAスコア及び比較工程(c)の結果に基づく。したがって、工程(e)は、好ましくは、qSOFAスコアと比較工程の結果の両方に基づいて敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援すること、を含む。
【0081】
患者のqSOFAスコアの決定は、好ましくは、患者の呼吸数、患者の収縮期血圧、及び患者の意識障害の有無の評価の評価、並びに前述の評価に基づくqSOFAスコアの計算を包含する。
【0082】
患者のqSOFAスコアを得ることは、好ましくは、患者のqSOFAスコアの値を受信することを意味する。したがって、患者のqSOFAスコアを得ることは、いかなる能動的な診断工程も包含しない。
【0083】
本発明の方法はまた、コンピュータ実装発明として実施されてもよい。
【0084】
したがって、本発明は、敗血症が疑われる患者の評価のためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、
(a1)0、1、2又は3の既知のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する敗血症が疑われる患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量についての値、及び
(a2)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての値
を受信する工程、
(b)前記処理ユニットにより工程(a)で受信された前記値を処理する工程であって、前記処理は、
(b1)前記バイオマーカーであるプレセプシンの量についての1つ以上の閾値と、前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての1つ以上の閾値とをメモリから検索すること、
(b2)工程(a)で受信した値を工程(b1)で検索したそれぞれの閾値と比較すること
を含む、工程、並びに
(c)出力装置を介して前記患者の評価を提供する工程であって、前記評価が工程b)の結果に基づく工程
を含む、方法に関する。
【0085】
代替的には、本発明は、敗血症が疑われる患者の評価のためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、
(a1)前記患者のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアについての値、
(a2)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量についての値、及び
(a3)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての値
を受信する工程、
(b)前記処理ユニットにより工程(a)で受信された前記値を処理する工程であって、前記処理は、
(b1)前記qSOFAスコアについての閾値と、前記バイオマーカーであるプレセプシンの量についての1つ以上の閾値と、前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての1つ以上の閾値とをメモリから検索すること、及び
(b2)工程(a)で受信した値を工程(b1)で検索したそれぞれの閾値と比較すること
を含む、工程、並びに
(c)出力装置を介して前記患者の評価を提供する工程であって、前記評価が工程b)の結果に基づく工程
を含む、方法に関する。
【0086】
本発明の方法の一実施形態では、(本発明の方法の最後の工程による)評価に関する情報は、評価を提示するように構成されたディスプレイを介して提供される。したがって、敗血症が疑われる対象が合併症を伴う臨床経過を発症するリスクがあるかどうか、又は本明細書の他の箇所に記載されているようにリスクがないかどうかの情報が提供され得る。さらに、適切な治療法の推奨を表示することができる。本明細書の他の箇所に記載されているように、様々な代替治療措置が推奨され得る。この場合、処置の選択肢(複数可)をディスプレイに表示することができる。
【0087】
本発明の前述のコンピュータ実装方法の実施形態では、該方法は、工程c)で行われた判定に関する情報を対象の電子医療記録に転送する更なる工程を含み得る。
【0088】
或いは、本発明の方法の最後の工程で行われた評価を、プリンタによって印刷することができる。印刷出力は、患者にリスクがあるか、リスクがないか、及び/又は適切な治療措置の推奨に関する情報を含むものとする。
【0089】
本発明の方法の一実施形態では、合併症を伴う臨床経過のリスクがある、又はリスクがないと特定された対象が、リスクに基づいて処置される。したがって、対象が危険性があるか危険性がないかに応じて、適切な治療措置が開始される。
【0090】
したがって、本発明は更に、敗血症が疑われる患者を処置する方法であって、敗血症が疑われる患者を評価するために本発明の方法のいずれかを実施し、それによってリスクがあるか、又はリスクがない個体を識別すること、及び適切な治療方法を開始することを含む方法に関する。
【0091】
本発明は更に、コンピュータ又はコンピュータネットワーク上でプログラムが実行される際に、敗血症が疑われる対象を評価する本発明による方法の工程を実施するためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムに関する。典型的には、コンピュータプログラムは、具体的には、本明細書に開示される方法の工程を実施するためのコンピュータ実行可能命令を含むことができる。具体的には、コンピュータプログラムは、コンピュータ可読データキャリアに記憶されることができる。
【0092】
本発明は更に、本発明による方法を実施するために、コンピュータプログラムの関連で検討した上述の1つ以上の工程等、プログラムがコンピュータ又はコンピュータネットワーク上で実行される際に、機械可読キャリアに記憶されたプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品に関する。本明細書中で用いられる場合、コンピュータプログラム製品は、取引可能な製品としてのプログラムを指す。製品は、一般に、紙のフォーマット等の任意のフォーマットで、又はコンピュータ可読データキャリア上に存在する。具体的には、コンピュータプログラム製品は、データネットワーク上で配信されてもよい。
【0093】
本発明は更に、少なくとも1つの処理ユニットを備えるコンピュータ又はコンピュータネットワークに関し、処理ユニットは、本発明によるコンピュータ実装方法の全ての工程を実施するように適合される。
【0094】
さらに、本発明はまた、以下を企図する:
- 当該プロセシングユニットが、この説明で記載され実施形態の1つによる方法を実行するように適合された少なくとも1つの処理ユニットを備えるコンピュータ又はコンピュータネットワーク。
- データ構造がコンピュータ上で実行されている間に、本明細書に記載された実施形態の1つによる方法を実行するように適合されたコンピュータロード可能データ構造。
- プログラムがコンピュータ上で実行されている間に、この明細書に記載された実施形態の1つによる方法を実行するように適合されたコンピュータスクリプト、
- コンピュータプログラムがコンピュータ上又はコンピュータネットワーク上で実行されている間に、この明細書に記載された実施形態の1つによる方法を実行するためのプログラム手段を備えるコンピュータプログラム。
- プログラム手段がコンピュータが読み取り可能な記憶媒体上に記憶された、先行する実施形態にかかるプログラム手段を備えるコンピュータプログラム。
- データ構造が記憶媒体に記憶され、データ構造がコンピュータ又はコンピュータネットワークのメイン記憶部及び/又はワーキング記憶部にロードされた後、本明細書に記載された実施形態の1つによる方法を実行するように適合された、記憶媒体、
- コンピュータ又はコンピュータネットワーク上でプログラムコード手段が実行された場合に、この明細書に記載された実施形態の1つによる方法を実行するために、プログラムコード手段が記憶されることができる、又は記憶媒体上に記憶されることができる、プログラムコード手段を有するコンピュータプログラム製品、
- 典型的には暗号化された、本明細書中上記で特定されるような個体から得られるグルコースデータ測定値を含むデータストリームシグナル、並びに
- 本発明の方法によって得られたガイダンスの評価を支援する情報を含む、典型的には暗号化されたデータストリームシグナル。
【0095】
本発明は更に、敗血症が疑われる対象を評価するための装置に関し、当該装置は、処理ユニットと、コンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムとを含み、当該命令は、処理ユニットによって実行されると、処理ユニットに、本発明によるコンピュータ実装方法を実施させる、すなわち上記方法の工程を実施させる。一実施形態では、本発明の方法の工程a)~d)は、処理ユニットによって実行される。装置は、ユーザインターフェース及びディスプレイを更に備えることができ、処理ユニットは、ユーザインターフェース及びディスプレイに連結される。典型的には、装置は、患者の評価及び/又は適切な治療措置の推奨を出力として提供する。一実施形態では、出力はディスプレイに提供される。
【0096】
本発明は更に、敗血症が疑われる患者のリスクを評価するための、i)バイオマーカーとしてのPCT及びプレセプシンの使用、又はii)PCTに特異的に結合する少なくとも1つの検出剤及びプレセプシンに特異的に結合する少なくとも1つの検出剤の使用であって、当該患者が0、1、2又は3の既知のqSOFAスコアを有する使用に関する。好ましくは、当該使用はin vivo使用である。
【0097】
好ましい検出剤は、本明細書の他の箇所に開示されている(抗体又はその抗原結合フラグメント等)。
【0098】
実施形態の一覧
以下に、好ましい実施形態を要約する。本明細書での上記の定義及び説明は、好ましくは、以下の実施形態について準用する。
【0099】
1.敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援するための方法であって、
(a)0、1、2又は3の既知のqSOFA(quick Sequential Organ Failure-Assessment:迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する敗血症が疑われる患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(b)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCT)の量を決定する工程、
(c)工程(b)及び(c)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(d)敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援する工程
を含む、方法。
【0100】
2.前記患者がヒト患者である、実施形態1に記載の方法。
【0101】
3.前記試料が、血液、血清、又は血漿の試料である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0102】
4.患者が、敗血症が疑われる患者である、実施形態1~3に記載の方法。
【0103】
5.院内死亡率、合併症を伴う臨床経過、重症敗血症及び/又は敗血症性ショック等の死亡率のリスクが評価される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0104】
6.前記合併症を伴う臨床経過が、静脈内輸液、昇圧薬、機械式人工呼吸又は腎代替療法の投与等の集中治療室(ICU)滞在中に必要とされる臓器支援措置の必要性として定義される、実施形態5に記載の方法。
【0105】
7.前記対象が、0又は1の既知のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0106】
8.前記対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも多いこと、及び/又は前記対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも多いことが、リスクのある対象に対する指標である、実施形態7に記載の方法。
【0107】
9.前記対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも少ないこと、及び前記対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも少ないことが、リスクのない対象に対する指標である、実施形態7に記載の方法。
【0108】
10.前記対象が、2又は3の既知のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0109】
11.前記対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも多いこと、及び/又は前記対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも多いことが、リスクのある対象に対する指標である、実施形態10に記載の方法。
【0110】
12.前記対象由来の試料中のプレセプシンの量がプレセプシンについての基準量よりも少ないこと、及び前記対象由来の試料中のPCTの量がPCTについての基準量よりも少ないことが、リスクのない対象に対する指標である、実施形態10に記載の方法。
【0111】
13.適切な治療措置を推奨又は開始することを更に含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0112】
14.前記治療措置が、前記対象にリスクがあると評価された場合、敗血症の管理のための推奨ガイドラインから選択される、実施形態13に記載の方法。
【0113】
15.前記治療措置が、前記対象にリスクがないと評価された場合、感染の処置、又は更なる調査、又は専門家が必要と考えるケアの他の態様であり得る、実施形態13に記載の方法。
【0114】
16.プレセプシンについての前記基準量が約500pg/mL~約1500pg/mL又は約750pg/mL~約1250pg/mLの範囲内であり、例えばプレセプシンについての前記基準量が約1000pg/mLであり、及び/又はPCTについての前記基準量が約1.5ng/mL~約2.5ng/mLの範囲内であり、例えばPCTについての前記基準量が約2ng/mLである、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
17.敗血症が疑われる患者のリスク評価を支援するための方法であって、
(a)前記患者のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを取得する工程、
(b)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(c)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニン(PCT)の量を決定する工程、
(d)工程(b)及び(c)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(e)前記患者のリスク評価を支援する工程
を含む、方法。
【0116】
18.前記患者のqSOFAスコアが、前記患者の呼吸数(>22/分)、前記患者の収縮期血圧(<100mmHg)、及び意識障害の有無(GCS<15)に基づく、実施形態17に記載の方法。
【0117】
19.敗血症が疑われる患者の評価のためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、
(a1)0、1、2又は3の既知のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアを有する敗血症が疑われる患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量についての値、及び
(a2)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての値
を受信する工程、
(b)前記処理ユニットにより工程(a)で受信された前記値を処理する工程であって、前記処理は、
(b1)前記バイオマーカーであるプレセプシンの量についての1つ以上の閾値と、前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての1つ以上の閾値とをメモリから検索すること、
(b2)工程(a)で受信した値を工程(b1)で検索したそれぞれの閾値と比較すること
を含む、工程、並びに
(c)出力装置を介して前記患者の評価を提供する工程であって、前記評価が工程b)の結果に基づく工程
を含む、方法。
【0118】
20.敗血症が疑われる患者の評価のためのコンピュータ実装方法であって、
(a)処理ユニットにおいて、
(a1)前記患者のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアについての値、
(a2)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量についての値、及び
(a3)前記患者由来の試料中のバイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての値
を受信する工程、
(b)前記処理ユニットにより工程(a)で受信された前記値を処理する工程であって、前記処理は、
(b1)前記qSOFAスコアについての閾値と、前記バイオマーカーであるプレセプシンの量についての1つ以上の閾値と、前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量についての1つ以上の閾値とをメモリから検索すること、及び
(b2)工程(a)で受信した値を工程(b1)で検索したそれぞれの閾値と比較すること
を含む、工程、並びに
(c)出力装置を介して前記患者の評価を提供する工程であって、前記評価が工程b)の結果に基づく工程
を含む、方法。
【0119】
21.前記出力装置が、前記評価を提示するように構成されたディスプレイである、実施形態19又は20に記載の方法。
【0120】
22.前記バイオマーカーであるプレセプシン及び/又はプロカルシトニンの量についての値が、血液、血清又は血漿試料中の前記バイオマーカーの量についての値である、実施形態19~22のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
23.敗血症が疑われる患者が、以下の症候:頻脈、低血圧、発熱若しくは低体温、疼痛、皮膚の発赤、頻呼吸、呼吸困難、内面の不安、めまい及び見当識障害のうちの1つ以上を示し、及び/又は患者のqSOFAスコアが、患者の呼吸数(>22/分)、患者の収縮期血圧(<100mmHg)、及び意識障害の存在若しくは不存在(GCS<15)に基づく、実施形態1~22のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
24.敗血症が疑われる対象を評価するための装置であって、前記装置が、処理ユニットと、コンピュータ実行可能命令を含むコンピュータプログラムとを含み、前記命令は、処理ユニットによって実行されると、処理ユニットに、実施形態19~23のいずれか1つに記載のコンピュータ実装方法を実施させる、装置。
【0123】
25.前記処理が、ユーザインターフェース及びディスプレイに連結されている、実施形態24に記載の装置。
【0124】
26.敗血症が疑われる患者の評価のための方法であって、
(a)前記患者のqSOFA(迅速な順次臓器不全評価)スコアについての値を得る工程、
(b)患者由来の試料中の前記バイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(c)前記患者由来の試料中の前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量を決定する工程、
(d)工程a)で得られた値を基準値と比較し、工程(b)及び(c)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(e)工程d)の結果に基づいて患者を評価する工程
を含む、方法。
【0125】
27.qSOFAスコアの精度を改善するための方法であって、
(a)0、1、2又は3の既知のqSOFAスコアを有する患者由来の試料中のバイオマーカーであるプレセプシンの量を決定する工程、
(b)前記患者由来の試料中の前記バイオマーカーであるプロカルシトニンの量を決定する工程、
(c)工程(a)及び(b)で決定された量を基準量と比較する工程、並びに
(d)工程(c)の結果に基づいてqSOFAスコアの精度を改善する工程
を含む、方法。
【0126】
28.敗血症が疑われる患者のリスクを評価するための、バイオマーカーとしてのPCT及びプレセプシン、又はii)PCTに特異的に結合する少なくとも1つの検出剤及びプレセプシンに特異的に結合する少なくとも1つの検出剤の使用であって、前記患者が、0、1、2又は3の既知のqSOFAスコアを有する使用。
【0127】
本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体の開示内容及び本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書で組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
図は以下のとおりである:
図1】qSOFAスコアに加えてプレセプシン(PSEP)及びプロカルシトニン(PCT)の複合評価は、救急部に入院した初期敗血症患者の合併症を伴う臨床経過(重症敗血症、敗血症性ショック及び死亡率)の予測を改善する。
【実施例
【0129】
本発明は、以下の実施例によって単に例示されるものである。該実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を制限する様式で解釈されないものとする。
【0130】
実施例1:敗血症が疑われる患者におけるプレセプシン(PSEP)、プロカルシトニン(PCT)及び迅速なSOFAスコアの評価
プレセプシン(可溶性sCD14サブタイプ、sCD14-ST)は、sCD14に由来する循環分子フラグメントであり、感染因子に対するリポ多糖(LPS)応答のメディエーターとして働く。プレセプシンは敗血症マーカーとして有益であることが示されている。
【0131】
PCTは、カルシトニン(CT)スーパーファミリーのペプチドのメンバーである。微生物感染と健康な個体との間のPCTのばらつきのために、PCTは全身性細菌感染の同定を改善するためのマーカーとなっている。プロカルシトニンの測定は、細菌によって引き起こされる重症敗血症のマーカーとして使用することができ、敗血症の程度と相関する。
【0132】
順次臓器不全評価(SOFA)スコア、並びに呼吸数、収縮期血圧(RRsyst)及び意識障害(GCSスコア)を記録し、迅速SOFA(qSOFA)スコアを遡及的に計算することを可能にした。
【0133】
救急部(ED)に入院した敗血症が疑われる99人の患者において、プレセプシン(PSEP)、プロカルシトニン(PCT)及びSOFAスコアを入院時に決定した。追加の測定パラメータは、CRP、クレアチニン及び乳酸であった。順次臓器不全評価(SOFA)スコア、並びに呼吸数、収縮期血圧(RRsyst)及び意識障害(GCSスコア)を記録し、迅速SOFA(qSOFA)スコアを遡及的に計算する。主要評価項目は、30日以内の死亡であった。複合評価項目である「主要有害事象」(MAE)は、主要評価項目又は副次評価項目(EP)-集中治療(ITS)、機械式人工呼吸又は透析の必要性の少なくとも1つからなった。EDTA血漿試料を最初の診察時に収集した。
【0134】
実施例2:結果
PSEP及びPCTの中央値は、合併症のない敗血症を有する群(N=66)ではそれぞれ688(IQR:391~1143)pg/mL及び1.39(IQR:0.385~4.29)ng/mLであり、敗血症性ショック又は合併症を伴う臨床経過を有する患者ではそれぞれ1266(IQR:746~2267)pg/mL、p=0.0003及び2.73(IQR:0.90~16.5)ng/mL、p=0.0242であった。30日間の死亡率は全体で18.1%(n=18)であったが、敗血症性ショックを有する群では36.6%(n=15)であった。ROC分析による生存者(n=81)と非生存者(n=18)を区別することにより、PSEP、PCT及びqSOFAのAUC値がそれぞれ0.772、0.519及び0.802であることが明らかになった。ロジスティック回帰によるPSEP、PCT及びqSOFAの組み合わせは、0.850のAUC値を明らかにした。
【0135】
● 24人の患者をqSOFA=0に割り当て、44人の患者をqSOFA=1に割り当て、23人の患者をqSOFA=2に割り当て、8人の患者をqSOFA=3に割り当てた。
● qSOFA=0の患者の62.5%において、アルゴリズムPSEP<1000pg/mL及びPCT<2ng/mL(表1)を更に使用することによって、合併症を伴う臨床経過(CCC)が除外される確実性を改善することができた。
● qSOFA=1の患者において、このアルゴリズムは、合併症を伴う臨床経過の低リスクと高リスクとを、それぞれ34.0%及び65.9%において区別することができた(表2)。
● qSOFA=2の患者において、このアルゴリズムは、73.9%の大部分が合併症を伴う臨床経過を包含し、26%が除外されることを示すことができた(表3)。
● qSOFA=3の患者において、このアルゴリズムは、87.5%が合併症を伴う臨床経過を包含し、12.5%が除外されることを示すことができた(表4)。
【表1】
【表2】
【表3】
【0136】
● 感度:疾患が存在する場合に検査結果が陽性となる確率(真の陽性率)。
● 特異性:疾患が存在しない場合に検査結果が陰性になる確率(真の陰性率)。
● 陽性適中率(PPV):検査が陽性である場合に疾患が存在する確率。
● 陰性適中率(NPV):検査が陰性である場合に疾患が存在しない確率。
【0137】
実施例2:個々の症例研究
qSOFA=0の患者
試験ID402
71歳の男性(身長182cm、体重83Kg、BMI25)が発熱及び原因不明で救急部に入院した。測定温度は39.7℃であった。
【0138】
呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ24/分、101mmHg及び15であり、qSOFAスコア0を示した。
【0139】
PSEP及びPCTは693pg/mL及び1.1ng/mLであり、アルゴリズムによる合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)の除外を示した。
【0140】
患者は一般病棟に入院し、12日後に合併症を伴わずに自宅退院することができた。
【0141】
試験ID387
76歳の女性が肺炎(身長158cm、体重53Kg、BMI21.3)で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ26/分、123mmHg及び15であり、qSOFAスコア0を示した。
【0142】
PSEP及びPCTは287pg/mL及び0.1ng/mLであり、アルゴリズムに従って、合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)の除外を示した。
【0143】
患者は、救急部から自宅に退院することができた。
【0144】
qSOFA=1の患者
試験ID383
73歳の男性(身長168cm、体重88Kg、BMI=31)が肺炎で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ28/分、125mmHg及び15であり、qSOFAスコアを1示した。
【0145】
PESP及びPCTは3744pg/mL及び0.56ng/mLであり、アルゴリズム「qSOFA=1、PSEP>1000pg/mL又はPCT<2ng/mL」による合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)及び死亡率のリスクの予測について中程度のリスクを示した。PSEP濃度が1000pg/mL超であったが、測定されたPCT値0.56ng/mLは2ng/mLの閾値を下回った。
【0146】
qSOFA=1及び3744pg/mLの非常に高いPSEP値に従って、患者を合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)に割り当て、ICUに入院させた。機械式人工呼吸及び透析の代わりに、患者はICU滞在中25日後に死亡した。
【0147】
試験ID360
84歳の患者(身長162cm、体重60Kg、BMI=22.9)は、尿路感染症で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ22/分、112mmHg及び15であり、qSOFAスコア1を示した。
【0148】
PSEP及びPCT値は1517pg/mL及び0.54ng/mLであり、合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)の中程度のリスクを示した。
【0149】
患者は抗生物質治療のため一般病棟に入院し、7日後に自宅退院することができた。
【0150】
試験ID313
42歳の男性が肺炎(身長178cm、体重101Kg、BMI31.9)で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ22/分、130mmHg及び15であり、qSOFAスコア1を示した。
【0151】
PSEP及びPCTは799pg/mL及び0.26ng/mLであり、アルゴリズムに従って、低リスクの合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)を示した。
【0152】
患者は一般病棟に入院し、患者が合併症を伴わずに自宅退院するまで14日間抗生物質治療を受けた。
【0153】
試験ID458
87歳の男性(身長160cm、体重70Kg、BMI27.3)が尿路敗血症で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ20/分、147mmHg及び11であり、qSOFAスコア1を示した。
【0154】
PSEP及びPCTは342pg/mL及び6.4ng/mLであり、PCT濃度の上昇により、高リスクの合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)を示した。また、臨床的には、患者を、102mg/Lの高いCRP濃度によって強調される重症敗血症に割り当てた。
【0155】
患者は集中治療室に2日間入院し、早期目標指向型治療を受けた。9日間の一般病棟での更なる処置の後、患者は合併症を伴わずに自宅で退院することができた。
【0156】
試験ID461
68歳の女性が肺炎(身長174cm、体重103Kg、BMI34.2で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ20/分、110mmHg及び14であり、qSOFAスコア1を示した。
【0157】
PSEP及びPCTは236pg/mL及び8.1ng/mLであり、PCT濃度の上昇により、高リスクの合併症を伴う臨床経過を示した。また、臨床的には、患者を、102mg/Lの高いCRP濃度によって強調される重症敗血症に割り当てた。
【0158】
患者は集中治療室に3日間入院し、早期目標指向型治療を受けた。7日間の一般病棟での更なる処置の後、患者は合併症を伴わずに自宅で退院することができた。
【0159】
qSOFA=2の患者
試験ID403
87歳の男性(身長175cm、体重65Kg、BMI21.2)が尿路敗血症で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ24/分、74mmHg及び15であり、qSOFAスコア2を示した。
【0160】
アルゴリズム「qSOFA=2、PSEP>1000pg/mL又はPCT>2ng/mL」は、合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)及び高い死亡率のリスクの予測を示す。患者は、診察時に測定されたPSEP及びPCT濃度それぞれ1979pg/mL及び16ng/mLに従って、早期目標指向型治療のためにICUに入院した。
【0161】
ICUから一般病棟への退院後、抗生物質治療を継続したが、患者は5日後に死亡した。
【0162】
試験ID390
急性胆嚢炎による腹痛を有する64歳女性(身長163cm、体重106Kg、BMI40)が救急部に入院した。診察時のqSOFAスコアは2(呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、28/分、108mmHg及び3)であった。
【0163】
PSEP及びPCT値は1858pg/mL及び292ng/mLであり、合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)を伴う根底にある敗血症を示した。
【0164】
患者は、早期目標指向型治療のためにICUに入院し、機械式人工呼吸を必要とした。ICUで5日間及び一般病棟で10日間の後、患者は自宅退院することができた。
【0165】
試験ID357
79歳女性(身長160cm、体重70Kg、BMI27)が尿路敗血症で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ25分、140mmHg及び13であり、qSOFAスコア2を示した。
【0166】
PESP及びPCTは1810ng/L及び2.15μg/Lであり、アルゴリズムによる合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)の予測に対する高いリスク及び死亡率のリスクを示した「qSOFA=1、PSEP>1000pg/mL、PCT>2ng/mL」。
【0167】
患者は、自宅退院まで一般病棟で18日間、早期目標指向型治療及び抗生物質療法を受けた。
【0168】
患者qSOFA=3
試験ID374
87歳の男性(身長170cm、体重65Kg、BMI22.5)は尿路感染症を患っており、救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ24/分、80mmHg及び3であり、qSOFAスコア3を示した。
【0169】
アルゴリズム「qSOFA=3、PSEP>1000pg/mL又はPCT>2ng/mL」は、合併症を伴う臨床経過及び高い死亡率のリスクの予測を示した。8238pg/mLのPSEP濃度は非常に高かったが、PCT値は2ng/mL(0.91μg/L)未満であった。PCTは2ng/mL未満であったが、高リスクのより悪い転帰及び50%超の死亡率のリスクを予想することができた。
【0170】
8238pg/mLの高いPSEP濃度はまた、測定されたクレアチニン濃度1022μmol/Lによって示された急性腎疾患(AKD)により影響された可能性がある。AKDは一般に敗血症で発生し、死亡率のリスクに大きく寄与する。
【0171】
患者は、早期目標指向型治療のため集中治療室に入院し、5日後に死亡した。
【0172】
試験ID373
肺炎を有する82歳の男性が救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ24/分、100mmHg及び7であり、qSOFAスコア3を示した。
【0173】
アルゴリズム「qSOFA=3、PSEP>1000pg/mL又はPCT>2ng/mL」は、合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)及び高い死亡率のリスクの予測を示す。PSEP濃度は>1000pg/mL(1407ng/L)であったが、測定された0.37ng/mLのPCT値はアルゴリズムの2ng/mLの閾値未満及び0.5ng/mL未満であった。
【0174】
qSOFA=3及びPSEP>1000pg/mLに従って、患者を合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)に割り当て、ICUに入院させた。ICU滞在中の機械式人工呼吸及び透析による集中治療にもかかわらず、患者は7日後に死亡した。
【0175】
試験ID381
78歳女性が尿路感染症で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、30/分、91mmHg及び12であり、qSOFAスコア3を示した。
【0176】
504pg/mLのPSEP濃度は1000pg/mLの閾値を下回ったが、PCT値は2pg/mlであった。アルゴリズムqSOFA=3によれば、PSEP<1000pg/mLであるが、PCT≧2ng/mLの重症敗血症又は敗血症性ショック等の合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)を排除することができなかった。患者は抗生物質処置のため一般病棟に入院し、合併症を伴わずに9日後に退院した。
【0177】
試験ID389
75歳の男性(身長165cm、体重100Kg、BMI36.7)が尿路敗血症で救急部に入院した。呼吸数、RRsyst及びGSCスコアは、それぞれ24/分、100mmHg及び11であり、qSOFAスコア3を示した。
【0178】
3496pg/mLのPSEP濃度は1000pg/mLの閾値を超え、PCT値は25.6ng/mLであった。アルゴリズムqSOFA=3によれば、PSEP>1000pg/mL及びPCT≧2ng/mLの重症敗血症又は敗血症性ショック等の合併症を伴う臨床経過(complicated clinical cause)を排除することができなかった。
【0179】
患者は、急性腎疾患のために透析を必要としたため、4日間ICUに入室した。一般病棟への退院後、患者は入院中9日後に死亡した。
【0180】
結論
qSOFA=0又はqSOFA=1及び2ng/mL未満のPCT濃度及び1000pg/mL未満のプレセプシン濃度を有する患者では、合併症のリスクのない臨床経過がその患者について想定され得る。2つのバイオマーカーのうちの1つがそれぞれの限界値を超える場合、合併症のリスクのない臨床経過を安全に排除することができない。緊急治療室で敗血症が疑われる99人の患者の試験では、qSOFA=0の24人の患者及びqSOFA=1の44人の患者について、合併症を伴う臨床経過を除外することができたのはそれぞれ症例の62.5%及び65.9%であったが、これらの患者は「陰性」のqSOFA(<2)を示した。
【0181】
qSOFA=2であり、PCT濃度が2ng/mL未満であり、プレセプシン濃度が1000pg/mL未満である患者では、「陽性」qSOFAスコアにもかかわらず、良好な予後経過が予想され得る。上記の試験では、qSOFA=2の患者の26%が合併症のない臨床経過を有していた。一方、2ng/mL超のPCT濃度及び/又は1000pg/mL超のプレセプシン濃度を有する患者は、合併症を伴う臨床経過のリスクが高い。このような患者は、必要に応じて集中治療室で医療スタッフによって監視されなければならない。qSOFA=2の23名の患者における同じ緊急試験において、合併症を伴う臨床経過が症例の73%において確実に予測された。
【0182】
qSOFA=3であり、PCT濃度及びプレセプシン濃度がそれぞれ2ng/mL超及び1000pg/mL超である患者では、重症細菌性敗血症又は敗血症性ショックが高い死亡率を伴って保証される。
【0183】
したがって、本発明の知見は、qSOFAとプレセプシン及びプロカルシトニンとの組み合わせが、敗血症の合併症を伴う臨床経過及び院内死亡率を予測する際に、qSOFAスコア単独よりも正確であることを示している。したがって、提案されたアルゴリズムによるqSOFA、プレセプシン及びプロカルシトニンの複合評価は、救急部に入院した敗血症が疑われる患者のリスク層別化を有意に改善する。
図1