IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セル.コペディア ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】生物学的実体を単離する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20240611BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240611BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240611BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20240611BHJP
   C12N 1/14 20060101ALN20240611BHJP
   C12N 1/16 20060101ALN20240611BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240611BHJP
   C12N 5/04 20060101ALN20240611BHJP
   C12N 5/07 20100101ALN20240611BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240611BHJP
   C07K 14/36 20060101ALN20240611BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20240611BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20240611BHJP
   C07K 11/00 20060101ALN20240611BHJP
   C12M 1/26 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C12N1/02
C12Q1/02
G01N33/53 D
C07K16/00 ZNA
C12N1/14 A
C12N1/16
C12N1/20 A
C12N5/04
C12N5/07
C12N15/31
C07K14/36
C07K7/06
C07K7/08
C07K11/00
C12M1/26
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2022544077
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 EP2021052331
(87)【国際公開番号】W WO2021152178
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】20154816.1
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522287145
【氏名又は名称】セル.コペディア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】シュタードラー ヘルベルト
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/166049(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/124474(WO,A2)
【文献】国際公開第01/090153(WO,A2)
【文献】国際公開第97/011183(WO,A1)
【文献】K. Werther et al.,The use of the CELLection KitTM in the isolation of carcinoma cells from mononuclear cell suspensions,Journal of Immunological Methods,2000年,Vol. 238,pp. 133-141,XP004195469, ISSN: 0022-1759, DOI: 10.1016/S0022-1759(00)00150-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/
C12N 5/
C12Q 1/
G01N 33/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から生物学的実体を単離する方法であって、
(I)(i)抗原(2)を含む前記生物学的実体(1)を含む試料、
(ii)第1のタグ付け剤(3)であって、前記生物学的実体(1)上の前記抗原(2)に、第1の抗原認識相互作用(9)により特異的に結合することができる少なくとも1つの結合ドメイン(4)とリガンド(5)とを含むもの、
(iii)担体(11)であって、前記第1のタグ付け剤(3)の前記リガンド(5)との間で第1の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を形成することができる第1のリガンド結合パートナー(7)と、第2のリガンド結合パートナー(7)とを含むもの、
(iv)第2のタグ付け剤(3)であって、前記担体(11)の前記第2のリガンド結合パートナー(7)との間で第2の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を形成することができるリガンド(5)と少なくとも1つの結合ドメイン(4)と含むもの、
(v)連結分子(10)であって、前記第2のタグ付け剤(3)の前記結合ドメイン(4)に、第2の抗原認識相互作用(9)により特異的に結合することができる抗原(2’)とリガンド(5)とを含むもの、及び
(vi)自由に移動可能な非磁性ビーズ(6)であって、前記連結分子(10)の前記リガンド(5)との間で第3の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を形成することができる第3のリガンド結合パートナー(7)を含むものを提供すること、
(II)前記試料、前記第1のタグ付け剤(3)、前記担体(11)、前記第2のタグ付け剤(3)、前記連結分子(10)、及び前記ビーズ(6)を容器内でインキュベートすることにより、前記ビーズ(6)が前記試料内に浮遊している間に、前記生物学的実体(1)と、前記生物学的実体(1)に前記第1の抗原認識相互作用(9)により特異的に結合した前記第1のタグ付け剤(3)と、前記第1のタグ付け剤(3)を前記第1の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介して固定化した前記担体(11)と、前記担体(11)に前記第2の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介して固定化された前記第2のタグ付け剤(3)と、前記第2のタグ付け剤(3)に前記第2の抗原認識相互作用(9)により特異的に結合した前記連結分子(10)と、前記連結分子(10)を前記第3の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介して固定化した前記ビーズ(6)とを含む複合体の形成を行うこと、並びに
(III)(III-1)上清を廃棄しながら、前記ビーズ(6)を前記容器内の適所に一時的に保持すること、及び洗浄緩衝液を添加することによって、前記複合体を精製すること、及び/又は
(III-2)前記複合体の前記第1のタグ付け剤(3)から生物学的実体(1)を放出し、前記ビーズ(6)を前記容器内の適所に一時的に保持しながら、前記生物学的実体(1)を単離すること、を含む方法。
【請求項2】
前記(III-2)の工程において、前記第1及び第2のタグ付け剤(3)並びに/若しくは前記ビーズ(6)を回収する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビーズ(6)がアガロースビーズである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記結合ドメイン(4)が、抗原結合フラグメント(Fab)中に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1~第3のリガンド結合パートナー(7)が、ストレプトアビジン又はストレプトアビジン変異体若しくは誘導体を含み、前記リガンド(5)が、ストレプトアビジン結合ペプチドを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1~第3のリガンド結合パートナー(7)が、Val44-Thr45-Ala46-Arg47(配列番号13)を含むストレプトアビジン変異タンパク質又はIle44-Gly45-Ala46-Arg47(配列番号14)を含むストレプトアビジン変異タンパク質であり、前記リガンド(5)が、以下の配列:
a)-Xaaが任意のアミノ酸であり、Yaa及びZaaが両方ともGlyであるか、又はYaaがGluであり、ZaaがLys又はArgである、Trp-Xaa-His-Pro-Gln-Phe-Yaa-Zaa-(配列番号1)、
b)-Trp-Arg-His-Pro-Gln-Phe-Gly-Gly-(配列番号2)、
c)-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(配列番号3)
)Xaaが任意のアミノ酸であり、nが0から12の整数である、アミノ酸配列-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(Xaa)n-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(配列番号8)、
)Trp-Arg-His-Pro-Gln-Phe-Gly-Gly(配列番号2)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号9)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)3-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号10)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)2-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号11)又はTrp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)2-Gly-Gly-Ser-Ala-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号12)からなる群から選択されるアミノ酸配列
のうちの1つを含むか、又はそれらからなるストレプトアビジン結合ペプチドである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ビーズ(6)が、30~100μmの直径を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ビーズ(6)が、40~60μmの直径を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が、同じ開口部を通して、前記(II)において前記容器に導入され、前記(III)において前記容器から排出され、及び/又は前記ビーズ(6)が、前記(III)においてフリット又はふるいによって適所に保持される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
任意の他の液体が、同じ開口部を通して、前記(II)において前記容器に導入され、前記(III)において前記容器から排出される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料とのインキュベートの前に、前記第1及び第2のタグ付け剤(3)が前記担体(11)に固定化され且つ前記連結分子(10)が前記ビーズ(6)に固定化される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記担体(11)が、500k~3,000kの重量平均分子量を有するデキストランポリマーである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記デキストランポリマーが1,500k~2,500kの重量平均分子量を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1及び第2のリガンド結合パートナー(7)が、前記デキストランポリマーに共有結合したストレプトアビジン又はストレプトアビジンの変異体であり、前記リガンド(5)を含む前記第1及び第2のタグ付け剤(3)に結合することができる、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(III-2)において、前記生物学的実体(1)が、競合リガンドを加えることによって放出される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記競合リガンドを加えることが、前記抗原(2)、(2’)並びに/若しくは前記第1及び第2のリガンド結合パートナー(7)からの前記第1及び第2のタグ付け剤(3)の放出ももたらす、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記試料が、体液である、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記体液が、血液又は臍帯血である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記生物学的実体が、細胞、核又は膜小胞である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記膜小胞が、細胞由来膜小胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記膜小胞が、エキソソームである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記容器が、チューブ、バイアル、シリンジ、アンプル、又はカラムである、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の方法で使用するためのキットであって、前記第1及び第2のタグ付け剤(3)、前記非磁性ビーズ(6)、前記担体(11)、前記連結分子(10)、前記洗浄緩衝液、並びに/若しくは、前記抗原(2)、(2’)及び/又は前記第1及び第2のリガンド結合パートナー(7)からの前記第1及び第2のタグ付け剤(3)の放出をもたらす競合剤を含む、キット。
【請求項24】
請求項1から22のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置の使用であって、前記装置が、前記容器用のホルダと、液体の供給及び受け取りのためのレセプタクルと、前記容器内に存在する液体内でビーズ(6)を上下に浮遊させることを可能にするように構成された、前記レセプタクルから前記容器に液体を供給及び受け取るためのデバイスと、前記容器の一方の開口部を通して液体を浸漬し、圧送し、排出し、前記ビーズ(6)が適所に保持されている間に前記液体を排出するための手段とを含む、使用。
【請求項25】
請求項1から22のいずれか一項に記載の方法における3,000,000の重量平均分子量を有するデキストランポリマーの前記担体(11)としての使用であって、前記第1及び第2のリガンド結合パートナー(7)が、前記デキストランポリマーに共有結合したストレプトアビジン又はストレプトアビジン変異体であり、
前記ストレプトアビジン及び前記ストレプトアビジン変異体が、リガンド(5)を含む前記第1及び第2のタグ付け剤(3)に結合することができ、
前記リガンド(5)がストレプトアビジン結合ペプチドである、使用。
【請求項26】
前記ストレプトアビジン結合ペプチドが、以下の配列:
a)-Xaaが任意のアミノ酸であり、Yaa及びZaaが両方ともGlyであるか、又はYaaがGluであり、ZaaがLys又はArgである、Trp-Xaa-His-Pro-Gln-Phe-Yaa-Zaa-(配列番号1)、
b)-Trp-Arg-His-Pro-Gln-Phe-Gly-Gly-(配列番号2)、
c)-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(配列番号3)
)Xaaが任意のアミノ酸であり、nが0から12の整数である、アミノ酸配列-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(Xaa)n-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(配列番号8)、
)Trp-Arg-His-Pro-Gln-Phe-Gly-Gly(配列番号2)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号9)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)3-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号10)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)2-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号11)又はTrp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)2-Gly-Gly-Ser-Ala-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号12)からなる群から選択されるアミノ酸配列
のうちの1つを含むか、又はそれらからなるストレプトアビジン結合ペプチドである、請求項25に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離又は単離の分野に関し、具体的には、アフィニティータグを生物学的実体(biological entity)の表面上の分子に結合させることによって試料から生物学的実体を単離するアフィニティーベースの方法に関する。本発明はまた、デキストランポリマー、本発明の方法で使用するためのキット、及び本発明の方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の表面上に特異的抗原を発現する、定義された純粋な細胞集団の単離は、診断、バイオテクノロジー及び生物医学用途などの臨床用途においてその重要性が高まっているので、ますます重要になってきている。一例は、組織又は器官からの特定の幹細胞の単離を必要とする組織工学の分野である。別の例は、患者由来T細胞が、CAR T細胞が癌細胞を破壊することを可能にする人工T細胞受容体を産生するように遺伝子操作される、新規な癌免疫療法アプローチとしてのキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法である。CAR T細胞の産生における重要な工程は、患者材料からの特定かつ純粋なT細胞集団を単離することである。現在の細胞分離技術は、Kumar et al.,(2007).Cell Separation:Fundamentals,Analytical and Preparative Methods,Springer-Verlag Berlin Heidelbergに概説されている。
【0003】
特定の細胞は、親和性に基づく方法によって細胞表面分子により単離することができる。一般的に使用される技術は、蛍光活性化細胞選別(FACS)などのフローサイトメトリー、磁気活性化細胞選別(MACS(登録商標))などの磁気ビーズ分離技術、又はトレースレスアフィニティー細胞選択(TACS(登録商標))などのアフィニティークロマトグラフィーである。TACS(登録商標)は、標的細胞の可逆的捕捉及び放出のためのCD特異的低親和性Fabフラグメントに基づくイムノアフィニティークロマトグラフィーを使用するポジティブ選択技術である。MACS(登録商標)によるポジティブ選択は、標的細胞を捕捉するために特異的高親和性モノクローナル抗体でコーティングされた磁気ビーズに基づく。TACS(登録商標)によって分離された標的細胞は「ラベルなし」であり、一方、MACS(登録商標)によって陽性に単離された細胞は、細胞特異的標識を有する。単球を単離するために、これら2つの分離方法の比較研究を行った(Weiss et al.,Cytometry Part A(2018),95)。
【0004】
Mohr et al.,Sci.Rep.8(2018),16731には、全血からリンパ球を単離するための古典的なイムノアフィニティークロマトグラフィー法が記載されている。この方法は、可逆的Strep-tag技術と組み合わせたカラム-マトリックスに結合した低親和性Fabフラグメントに依存する。試料から標的細胞を精製するためのStrep-tag技術に依存する更なるクロマトグラフィー技術は、例えば、国際出願公開第2013/124474号及び国際出願公開第2015/166049号に記載されている。特に、国際出願公開第2013/124474号は、Strep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズを使用して、Strepタグ付きFabフラグメントが結合している細胞を単離することができることを教示している。国際出願公開第2015/166049号は、国際出願公開第2013/124474号に開示されている方法の更なる展開を教示しており、Strep-Tactin(登録商標)は、ビーズに直接連結されていないが、ビーズへの結合を媒介するリガンド又はリガンド結合パートナーに融合又は結合されている。
【0005】
しかし、これらの現在の技術は、単離された細胞の収率、純度の生存率及び機能性、希少細胞の回収及び処理量に関する複数の制限を被る。したがって、標的細胞又は他の膜封入小胞などの生物学的実体を単離するための新規かつ改良された方法が依然として必要とされている。
【0006】
この問題は、特許請求の範囲で特徴付けられ、以下で更に説明される実施形態による本発明によって解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際出願公開第2013/124474号
【文献】国際出願公開第2015/166049号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kumar et al.,(2007).Cell Separation:Fundamentals,Analytical and Preparative Methods,Springer-Verlag Berlin Heidelberg
【文献】Weiss et al.,Cytometry Part A(2018),95
【文献】Mohr et al.,Sci.Rep.8(2018),16731
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまでに知られている細胞分離方法に従来使用されているビーズは、例えば30~180μmの間の様々な直径のビーズと、約80~120μmの直径を有する大部分のビーズ、例えばドイツゲッティンゲンのIBA GmbHによって提供されるアガロースビーズとの混合物を構成し、図1を参照されたい。本発明に従って行われた実験の過程において、驚くべきことに、血液から単離されるリンパ球は、70μm未満の直径を有する小型アガロースビーズに優先的に結合するが、70μmを超え140μmまでの直径を有するビーズはほとんど細胞に結合せず、140μmを超える直径を有するビーズは実質的に細胞に結合しないことが見出された。しかし、図2に示すように、ビーズ間の間隙空間の充填を介してビーズを結合した後に細胞がクロマトグラフィーマトリックスを通る流れを遮断するので、血液リンパ球は、小型アガロースビーズを使用するクロマトグラフィー法によって単離することができない。したがって、従来の細胞分離方法に使用されるビーズの大部分は、細胞結合に寄与しないか、又はわずかしか寄与せず、非効率的な細胞単離をもたらす。この問題を解決するために、本発明者らは、線形流動及び充填ゲル床を用いる古典的なクロマトグラフィーから離れ、連続的な運動を維持されたビーズを使用する細胞分離の新しい非クロマトグラフィー法を確立した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
新しい方法は、IBA GmbH(ドイツゲッティンゲン)から入手可能なStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ上に固定化されたFabフラグメントを使用することによって例示的に実証された。ビーズの連続的な動きは、手動で振盪するか、Cell.Copedia GmbHによるFABian(登録商標)デバイスなどの装置を使用して半自動化された形態で振盪することによって達成することができ、実施例3及び5を参照されたい。実施例3では、CD3+細胞は、反応チューブ内で抗CD3 Fabでコーティングされたアガロースビーズを介して末梢血単核細胞(PBMC)から単離されており、ビーズは実験用ローラ上で運動し続けており、98%純粋な
CD3+細胞が高収率で得られ、図4A及び図4Bを参照されたい。実施例5では、CD81+細胞を、直径40~60μmの抗CD81 Fabコーティングされた小型アガロースビーズ及び直径140μmを超える大型アガロースビーズを介して、半自動化様式でバフィーコートから単離し、ビーズは、ピペッティングプロセスを実施する装置によって運動し続けている。実施例5で行った方法は、小型ビーズを使用した場合、CD81+細胞の高い収率をもたらし、図6Aを参照されたい。
【0011】
したがって、第1の態様では、本発明は、一般に、生物学的実体(biological entity)を単離するためのアフィニティーベースの非クロマトグラフィー法に関し、特に、以下に関する。
[1]試料から生物学的実体を単離する方法であって、
(i)生物学的実体(1)を含む試料を提供することであって、生物学的実体が表面抗原(2)を含むこと、
(ii)生物学的実体上の表面抗原(2)に特異的に結合することができる少なくとも1つの結合ドメイン(4)を含むタグ付け剤(tagging agent)(3)を提供すること、
(iii)自由に移動可能なビーズ(6)を提供すること、
(iv)試料、タグ付け剤(3)及びビーズ(6)を容器内でインキュベートし、ビーズが試料内に浮遊している間に、生物学的実体(1)、タグ付け剤(3)及びビーズ(6)の間の複合体形成を可能にすることであって、タグ付け剤(3)を介した生物学的実体(1)のビーズ(6)への結合が、リガンド結合パートナー(7)及びリガンド(5)を含む非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって直接的又は間接的に媒介されること、
(v)上清を廃棄しながら、ビーズ(6)を容器内の適所に一時的に保持すること、及び洗浄緩衝液を添加することを含むことによって、生物学的実体(1)を精製すること、並びに/又は
(vi)ビーズ(6)及びタグ付け剤(3)から生物学的実体(1)をそれぞれ放出し、ビーズ(6)を容器内の所定の位置に一時的に保持しながら、上清から生物学的実体(1)を回収し、場合によりタグ付け剤(3)及び/又はビーズ(6)の回収を可能にすることによって生物学的実体(1)を単離することを含む、方法。
【0012】
[2][1]に記載の方法であって、
(a)結合ドメイン(4)が、抗原結合フラグメント(Fab)中に存在し、
(b)リガンド結合パートナー(7)が、ストレプトアビジン又はその機能的類似体若しくは誘導体を含み、リガンド(5)が、ストレプトアビジン結合ペプチドを含み、及び/又は
(c)ビーズ(6)が、非磁性ビーズ、好ましくはアガロースビーズである、方法。
【0013】
[3]リガンド結合パートナー(7)が、Strep-Tactin(登録商標)であり、リガンド(5)が、Strep(登録商標)-Tagである、[1]又は[2]に記載の方法。
【0014】
[4]ビーズ(6)が、約30~100μm、好ましくは約40~60μmの直径を有することを特徴とする、[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
【0015】
[5]試料及び場合により任意の他の液体が、同じ開口部を通して容器に導入され、容器から排出され、及び/又はビーズ(6)が、フリット又はふるいによって適所に保持される、[1]から[4]のいずれか一項に記載の方法。
【0016】
[6]タグ付け剤(3)が、リガンド(5)に連結された抗原結合フラグメント(Fab)(4)を含み、ビーズ(6)が、タグ付け剤をビーズ(6)に固定化する記リガンド
結合パートナー(7)を含む、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0017】
[7]タグ付け剤(3)が、リガンド(5)に連結された抗原結合フラグメント(Fab)(4)を含み、ビーズ(6)が、更なるリガンド(12a)を含み、記更なるリガンド(12a)及びリガンド結合パートナー(7)が、更なるタンパク質-リガンド相互作用を形成し、好ましくは更なるリガンド(12a)が、ビオチンである、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
[8]タグ付け剤(3)が、リガンド(5)に連結された抗原結合フラグメント(Fab)(4)を含み、ビーズ(6)が更なるリガンド(12)を含み、記リガンド結合パートナー(7)が、更なるリガンド結合パートナー(13)を含み、リガンド(12)及びリガンド結合パートナー(13)が更なるタンパク質-リガンド相互作用を形成する、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
[9]タグ付け剤が、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって担体(11)上に固定化され、好ましくは、非共有結合性タンパク質相互作用が、タグ付け剤(3)のリガンド(5)と担体(11)上のリガンド結合パートナー(7)との間で媒介される、[7]に記載の方法。
【0020】
[10]担体が、約500kDa~3,000kDa、好ましくは約1,500kDa~2,500kDaの平均分子量を有するデキストランポリマーであり、リガンド結合パートナー(7)の少なくとも2つの分子を含み、リガンド結合パートナー(7)が、好ましくは、共有結合したストレプトアビジン又はその類似体若しくは誘導体であり、リガンド(5)を含むタグ付け剤(3)及びビーズ(6)上の更なるリガンド(12a)に結合することができ、好ましくは、単離される(1)生物学的実体(1)がエキソソームである、[7]又は[9]に記載の方法。
【0021】
[11]タグ付け剤(3)が、タグ付け剤(3)によって認識される抗原(2’)及び非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のための構成要素を含む連結分子(10)を介してビーズ(6)に固定化され、好ましくは構成要素がリガンド(5)であり、ビーズ(6)がリガンド結合パートナー(7)を含む、[1]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0022】
[12]タグ付け剤(3)が、互いに連結された少なくとも2つの結合ドメイン(4)を含むタグ付け剤(3’)である、[11]に記載の方法。
【0023】
[13]方法が、表面抗原(2)、及び連結分子に含まれる組換え抗原(2’)を認識することができる少なくとも2つのタグ付け剤(3)を含み、タグ付け剤(3)が、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって担体(11)上に固定化され、好ましくは、非共有結合性タンパク質相互作用が、タグ付け剤(3)のリガンド(5)と担体(11)上のリガンド結合パートナー(7)との間で媒介される、[11]に記載の方法。
【0024】
[14]タグ付け剤(3)が担体(11)に固定化され、[1]において特徴付けられる工程(iv)の前に、連結分子(10)がビーズ(6)に固定化される、[13]に記載の方法。
【0025】
[15]担体が、約500kDa~3,000kDa、好ましくは約1,500kDa~2,500kDaの平均分子量を有するデキストランポリマーであり、リガンド結合パートナー(7)の少なくとも2つの分子を含み、リガンド結合パートナー(7)が、好ましくは、共有結合したストレプトアビジン又はその類似体若しくは誘導体であり、記リガ
ンド(5)を含むタグ付け剤(3)に結合することができる、[13]又は[14]に記載の方法。
【0026】
[16][1]において特徴付けられる工程(vi)において、生物学的実体(1)が、競合リガンドを加えることによって放出され、場合により、これはとりわけ、抗原(2,2’)及び/又はリガンド結合パートナー(7)からのタグ付け剤(3,3’)の放出、及び/又は更なるリガンド結合パートナー(13)からの更なるリガンド(12)の放出、及び/又はリガンド結合パートナー(7)からの更なるリガンド(12a)の放出をもたらす、[1]から[15]のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
[17]試料が、体液、好ましくは血液又は臍帯血であり、及び/又は生物学的実体が、細胞、核又は膜小胞、好ましくは細胞由来膜小胞、より好ましくはエキソソームである、[1]から[16]のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
[18]容器が、チューブ、バイアル、シリンジ、アンプル、又はカラムである、[1]から[17]のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
更なる態様では、本発明は、生物学的実体を単離するクロマトグラフィー方法に関する。これらの方法はクロマトグラフィー手法を適用するが、単離される生物学的実体の高収率及び純度を保存するために最適化されている。特に、実施例6に記載されるように、リガンド結合パートナーの重合/多量体化をもたらすStrep-Tactin(登録商標)などのリガンド結合パートナーのための担体として、デキストラン分子が使用されてきた。得られた大きな柔軟な構造により、タグ付け剤のみの使用と比較して、細胞表面の抗原と担体との間により多くの結合が形成され、担体と固定相に固定化された抗原との間により多くの結合が形成されるため、結合活性効果が達成される。それにより、この方法はCD4+細胞の非常に効率的な単離をもたらし、図8を参照されたい。或いは、担体の代わりに二価タグ付け剤を使用することができる。
【0030】
したがって、本発明はまた、以下に関する。
[19]試料から生物学的実体を単離する方法であって、
(i)生物学的実体(1)を含む試料を提供することであって、生物学的実体(1)が表面抗原(2)を含むこと、
(ii)抗原(2’)及び非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のための構成要素を含む連結分子(10)を提供することであって、好ましくは構成要素がリガンド(5)であること、
(iii)生物学的実体上の抗原(2)又は連結分子(10)に含まれる抗原(2’)に特異的に結合することができる少なくとも1つの結合ドメイン(4)をそれぞれ含む少なくとも2つのタグ付け剤(3)を提供することであって、好ましくは、タグ付け剤が、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のための構成要素を更に含み、好ましくは、構成要素がリガンド(5)であること、
(iv)非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のための少なくとも2つの構成要素を含む担体(11)を提供することであって、好ましくは構成要素がリガンド結合パートナー(7)であること、
(vi)タンパク質-リガンド相互作用を形成することができる構成要素を含む固定相を提供することであって、好ましくは、構成要素がリガンド結合パートナー(7)であること、
(vii)試料、連結分子(10)、タグ付け剤(3)、担体(11)及び固定相を容器内でインキュベートし、生物学的実体(1)、タグ付け剤(3)、連結分子(10)、担体(11)及びビーズ(6)の間の複合体形成を可能にすることであって、タグ付け剤(3)を介した生物学的実体(1)の担体(11)への結合及びタグ付け剤(3)を介し
た連結分子(10)の担体(11)への結合及び連結分子(10)の固定相への結合が、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって媒介され、生物学的実体(1)が固定相に固定されること、
(viii)クロマトグラフィー手順によって生物学的実体(1)を精製すること、並びに/又は
(ix)生物学的実体(1)を、それぞれ担体(11)及びタグ付け剤(3)から放出することによって、生物学的実体(1)を単離することを含む、方法。
【0031】
[20][19]に記載の方法であって、
(a)タグ付け剤(3)が、リガンド(5)に連結された抗原結合フラグメント(Fab)(4)を含み、及び/又は
(b)リガンド結合パートナー(7)が、ストレプトアビジン又はその機能的類似体若しくは誘導体を含み、リガンド(5)が、ストレプトアビジン結合ペプチドを含む、方法。
【0032】
[21]リガンド結合パートナー(7)が、Strep-Tactin(登録商標)であり、リガンド(5)が、Strep(登録商標)-Tagである、[19]又は[20]に記載の方法。
【0033】
[22]タグ付け剤(3)が担体(11)に固定化され、[19]において特徴付けられる工程(vii)の前に、連結分子(10)が固定相に固定化される、[19]から[21]のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
[23]担体が3,000,000Daの平均分子量を有するデキストランポリマーである、[19]から[22]のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
[24][15]において特徴付けられる工程(ix)において、生物学的実体(1)が、競合剤を加えることによって放出され、場合により、これはとりわけ、抗原(2,2’)及び/又はリガンド結合パートナー(7)からのタグ付け剤(3)の放出をもたらす、[19]から[23]のいずれか一項に記載の方法。
【0036】
[25]試料が、体液、好ましくは血液若しくは臍帯血であり、及び/又は生物学的実体が、細胞、核若しくは膜小胞、好ましくは細胞由来膜小胞、より好ましくはエキソソームである、[19]から[24]のいずれか一項に記載の方法。
【0037】
[26]容器が、チューブ、バイアル、シリンジ、アンプル、又はカラムである、[19]から[25]のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
[27]試料から生物学的実体を単離する方法であって、
(i)生物学的実体(1)を含む試料を提供することであって、生物学的実体(1)が表面抗原(2)を含むこと、
(ii)抗原(2’)及び非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のための構成要素を含む連結分子(10)を提供することであって、好ましくは構成要素がリガンド(5)であること、
(iii)互いに連結された2つの結合ドメイン(4)を含み、生物学的実体上の抗原(2)及び連結分子(10)に含まれる抗原(2’)に特異的に結合することができるタグ付け剤(3’)を提供することであって、好ましくは、結合ドメインが抗原結合フラグメント(Fab)であること、
(vi)タンパク質-リガンド相互作用を形成することができる構成要素を含む固定相を提供することであって、好ましくは、構成要素がリガンド結合パートナー(7)である
こと、
(vii)試料、連結分子(10)、タグ付け剤(3’)及び固定相を容器内でインキュベートし、生物学的実体(1)、タグ付け剤(3’)、連結分子(10)及び固定相の間の複合体形成を可能にすることであって、タグ付け剤(3’)及び連結分子(10)を介した生物学的実体(1)の固定相への結合が非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって媒介され、生物学的実体(1)がビーズ(6)に固定化されること、
(viii)クロマトグラフィー手順によって生物学的実体(1)を精製すること、並びに/又は
(ix)生物学的実体(1)を、それぞれ固定相及びタグ付け剤(3’)から放出することによって、生物学的実体(1)を単離することを含む、方法。
【0039】
[28]リガンド結合パートナー(7)が、ストレプトアビジン又はその機能的類似体若しくは誘導体を含み、リガンド(5)が、ストレプトアビジン結合ペプチドを含む、[27]に記載の方法。
【0040】
[29]リガンド結合パートナー(7)が、Strep-Tactin(登録商標)であり、リガンド(5)が、Strep(登録商標)-Tagである、[27]又は[28]に記載の方法。
【0041】
[30][27]において特徴付けられる工程(ix)において、生物学的実体(1)が、競合リガンドを加えることによって放出され、場合により、これはとりわけ、抗原(2,2’)及び/又はリガンド結合パートナー(7)からのタグ付け剤(3)の放出をもたらす、[27]から[29]のいずれか一項に記載の方法。
【0042】
[31]試料が、体液、好ましくは血液若しくは臍帯血であり、及び/又は生物学的実体が、細胞、核若しくは膜小胞、好ましくは細胞由来膜小胞、より好ましくはエキソソームである、[27]から[30]のいずれか一項に記載の方法。
【0043】
[32]容器が、チューブ、バイアル、シリンジ、アンプル、又はカラムである、[27]から[31]のいずれか一項に記載の方法。
【0044】
更なる態様では、本発明は、本発明の方法を実施するのに適したキットに関する。
[33][1]から[32]のいずれか一項に記載の方法で使用するためのキットであって、タグ付け剤(3、3’)、ビーズ(6)、担体(11)、連結分子(10)、更なるリガンド(12、12a)、リガンド結合パートナー(13)、洗浄緩衝液及び/又は競合剤を含む、キット。
【0045】
更なる態様では、本発明は、本発明の方法を実施するのに適した装置に関する。
[34][1]から18のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置であって、容器用のホルダと、液体の供給及び受け取りのためのレセプタクルと、容器内に存在する液体内でビーズ(6)を上下に浮遊させることを可能にするように構成された、レセプタクルから容器に液体を供給及び受け取るためのデバイスと、容器の一方の開口部を通して液体を浸漬し、圧送し、排出し、ビーズ(6)が適所に保持されている間に液体を排出するための手段とを含む、装置。
【0046】
[35][19]から[32]のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置であって、容器用のホルダと、液体の供給及び受け取りのためのレセプタクルと、レセプタクルから容器に液体を供給及び受け取るためのデバイスと、容器の一方の開口部を通して液体を浸漬し、圧送し、排出するための手段とを含む、装置。
【0047】
別の態様では、本発明は、以下に関する。
[36]3,000,000Daの平均分子量を有するデキストランポリマーであって、デキストランポリマーが、リガンド(5)を含むタグ付け剤(3)に結合することができる、共有結合ストレプトアビジン(7)又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも2つの分子を含み、リガンド(5)がストレプトアビジン結合ペプチド、好ましくはStrep-Tagである、デキストランポリマー。
【0048】
[37][9]から[26]のいずれか一項に記載の方法における[36]に記載のデキストランポリマーの担体(11)としての使用。
【0049】
上述のように、好ましい実施形態では、リガンド結合パートナー(7)はストレプトアビジン又はその機能的類似体若しくは誘導体を含み、好ましくはリガンド結合パートナー(7)はStrep-Tactin(登録商標)であり、リガンド(5)はストレプトアビジン結合ペプチドを含み、好ましくはリガンド(5)はStrep(登録商標)-Tagであり、更なるリガンド(12a)を包含する実施形態では、この更なるリガンド(12a)は好ましくはビオチン又はその類似体若しくは誘導体である。これは、例えばStrep-Tactin(登録商標)XTシステム又はStrep-Tactin(登録商標)XTSシステム(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)を含む全ての利用可能なStrep-Tactin(登録商標)システムを包含する。それらは、国際特許出願公開第02/077018号、国際出願公開第2014/076277号及び国際出願公開第2017/186669号に詳細に記載されており、これらは全て参照により本明細書に明示的に組み込まれる。これらのシステムは、以下に更に説明するように、ビオチン又はその類似体若しくは誘導体、及び対応する結合ペプチドにそれぞれ可逆的に結合するストレプトアビジンの変異タンパク質に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】市販のアガロース粒子(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)の粒度分布(直径)の図である。ビーズの直径は約30μm~約180μmの範囲であり、ビーズの大部分は80~120μmの直径を有する。
図2】様々な直径である40~60μm(左カラム)、80~120μm(中央カラム)、及び140μm超(右カラム)のアガロースビーズ画分を使用したカラムベースのクロマトグラフィーの写真である。結合細胞がカラムを通る流れを遮断するので、小型ビーズ(左カラム)はクロマトグラフィーカラムを流れることができない。標準サイズのビーズ(中央のカラム)は、速度を遅らせてクロマトグラフィーが可能であるが、大型サイズのビーズ(右のカラム)は、遅らせることなく試料を迅速に通過させることが可能である。
図3】生物学的実体(1)の表面上に存在する抗原(2)がタグ付け剤(3)の結合ドメイン(4)によって認識される、生物学的実体を単離する方法の概略図である。タグ付け剤は、リガンド(5)を更に含み、リガンド(5)は、ビーズ(6)の表面上のリガンド結合パートナー(7)との非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)に関与し、それによって生物学的実体(1)をビーズ(6)上に固定化して、試料からのその単離を可能にする。図示の原理は、実施例3~5に適用されている。
図4】約40~60μmの直径を有するアガロースビーズを使用した非クロマトグラフィー細胞単離後のヒトPBMCから濃縮されたCD3+細胞のFACS分析であって、示された画分のドットプロット(A)及び棒グラフ(B)に示すように、ビーズが試薬チューブ内で連続的に運動し続けているFACS分析を示す図である。
図5】示された画分のドットプロット(A)及び棒グラフ(B)に示すように、直径90μm(+/-50μm)のアガロースビーズを用いた「標準モード」半自動化FABian(登録商標)デバイスでのクロマトグラフィー法を使用した、バフィーコートから濃縮されたCD3+細胞のFACS分析を示す図である。FABian(登録商標)デバイスの「標準モード」プログラムは、(C)で提供され、ピペッティング/充填スキーム(D、下のパネル)がFABian(登録商標)デバイスの位置(上のパネル)に対応するように記載されている。試料の速度は、取り込みについては0.48ml/分、放出については0.39ml/分であった。
図6】示されている細胞単離画分(A)において、それぞれ約40~60μmの直径を有するアガロースビーズ(小型ビーズ)及び140μmを超える直径を有するアガロースビーズ(大型ビーズ)を用いた半自動化FABian(登録商標)デバイスにおける非クロマトグラフィー法を用いたバフィーコートから精製されたCD81+細胞のFACS分析を示す図である。FABian(登録商標)デバイスの詳細なプログラム「移動バッチモード」は、(B)で提供され、ピペッティング/充填スキーム(C、下のパネル)がFABian(登録商標)デバイスの位置(上のパネル)に対応するように記載されている。流速及び試料の速度は、「標準モード」と比較して有意に増加し、取り込みについては1.84ml/分に達し、放出については試料0.74ml/分に達した(最後の放出については1.59ml/分)。
図7】生物学的実体(1)が「抗体ポリマー」を形成する連結分子(10)及び担体(11)を介してビーズ(6)に間接的に結合する、生物学的実体を単離する方法の概略図である。担体(11)としての高分子量デキストランは、多くの抗体又は活性形態のFabフラグメント(5)に結合するように化学修飾することができる。この抗体ポリマーは、細胞上に存在する抗原(2)に結合することができるが、アガロースビーズ(6)の表面に結合した連結分子(10)のような別の構造上に存在する組換え抗原(2’)に対する遊離結合部位を依然として有し、したがって生物学的実体の単離に非常に適している。図示の原理は、実施例6~8に適用されている。
図8】良好な収率で純粋なCD4+細胞をもたらす、FABian(登録商標)デバイスの「標準モード」を使用するクロマトグラフィー法におけるStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用してバフィーコートから精製されたCD4+細胞のFACS分析を示す図である。
図9】示された画分のドットプロット(A)及び棒グラフ(B)に示すように、直径90μm(+/-50μm)のアガロースビーズを用いたFABian(登録商標)デバイスの「移動バッチモード」を使用した、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを介したヒトPBMC(A、B)及びヒト全血(C、D)から濃縮されたCD4+細胞のFACS分析を示す図である。
図10】生物学的実体(1)が連結分子(10)を介してビーズ(6)に間接的に結合する、生物学的実体を単離する方法の概略図である。それにより、タグ付け剤(3’)は、少なくとも2つの結合ドメイン(4)を含み、その一方は、生物学的実体の表面上の抗原(2)を認識し、他方は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介してビーズ(6)上に固定化された連結分子(10)上の組換え抗原(2’)を認識する。
図11】(A)タグ付け剤(3)を介したビーズ(6)への生物学的実体(1)の結合が、ビーズ(6)上に存在する更なるリガンド(12)と、リガンド結合パートナー(7)に融合した更なるリガンド結合パートナー(13)との間の更なるタンパク質-リガンド相互作用によって間接的に媒介される、図3に示す方法の更なる展開を表す生物学的実体(1)を単離する方法の概略図である。(B)タグ付け剤(3)を介したビーズ(6)への生物学的実体(1)の結合が、ビーズ(6)上に存在する更なるリガンド(12a)と、リガンド結合パートナー(7)との間の更なるタンパク質-リガンド相互作用によって間接的に媒介される、図3に示す方法の更なる展開を表す生物学的実体(1)を単離する方法の概略図である。
図12】FABian(登録商標)デバイスの「移動バッチモード」を使用して、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを介して精製したエキソソームを含む細胞外小胞の分析を示す図である。ナノ粒子追跡分析(NTA)を使用して、粒子のサイズ分布、濃度及び吸収強度を決定した。ヒトバフィーコート(A)からの粒子を、テトラスパニンCD81に対するFabでイムノアフィニティー精製した。5回の技術的NTA反復のデータは、80~約500nmのサイズ分布を示し、大部分の粒子は100~200nmの範囲にある(B)。(B)中の粒子を、30~200nmの選択範囲を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって更に処理して、Fab、ビオチン及び200nm超の粒子を除去した。カラムの空隙容積中の粒子の得られたサイズ分布は60nm~300nm超の範囲であり、大部分のサイズ分布は80nm~150nmであり、エキソソームのおおよそのサイズを示す。アッセイ中に使用したPBS中の粒子から不純物の可能性を排除するために、緩衝液のNTAを陰性対照(C)として行った。単離された粒子は、エキソソームとしての精製された粒子の同一性を明らかにする免疫ブロットによって更に分析されている(D)。
図13】生物学的実体(1)が「抗体ポリマー」を形成する担体(11)を介してビーズ(6)に間接的に結合する、生物学的実体を単離する方法の概略図である。担体(11)としての高分子量デキストランは、多くの抗体又は活性形態のFabフラグメント(5)に結合するように化学修飾することができる。この抗体ポリマーは、生物学的実体上に存在する抗原(2)に結合することができるが、アガロースビーズ(6)の表面に結合した更なるリガンド(12a)に対する遊離結合部位を依然として有し、したがって生物学的実体の単離に非常に適している。図示の原理は、実施例9~10に適用されている。
図14】棒グラフとして示されているビオチンコーティングアガロースビーズを用いたFABian(登録商標)デバイスにおける、「移動バッチモード」と組み合わせたStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを介したヒトPBMCから濃縮されたCD3+細胞のFACS分析を示す図である。
図15】FABian(登録商標)デバイスの「移動バッチモード」及びビオチンコーティングアガロースビーズを使用して、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを介して精製したエキソソームを含む細胞外小胞の分析を示す図である。ナノ粒子追跡分析(NTA)を使用して、粒子のサイズ分布、濃度及び吸収強度を決定した。ヒト血清(A)からの粒子を、テトラスパニンCD81に対するFabでイムノアフィニティー精製した。3回の技術的NTA反復のデータは、50~約500nmのサイズ分布を示し、大部分の粒子は50~200nmの範囲にある(B)。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明に従って行われた実験の過程において、細胞分離のために、ビーズ及び特にそれらのパッケージングが細胞単離プロセスの結果にとって非常に重要であることが見出された。例えば、驚くべきことに、自由に移動可能なビーズが使用される非クロマトグラフィー法は、ビーズが固定相を構成する従来のクロマトグラフィー法よりも有益であることが判明した。これは、本発明の新規な非クロマトグラフィー法では、従来のクロマトグラフィー細胞分離法では固定相及びカラムのそれぞれの目詰まりをもたらす、より小型のビーズを使用することができるためであり、図2を参照されたい。したがって、第1の態様では、本発明は、一般に、試料から生物学的実体を単離するための非クロマトグラフィーアフィニティーベースの方法に関する。それにより、生物学的実体は、抗原を含有しない試料中に存在する構成要素からの標的実体の特異的単離を可能にする表面抗原を担持する。本発明の基礎となる方法の1つに含まれる一般的な原理及び構成要素を図3に示す。
【0052】
特に、第1の態様では、本発明は、生物学的実体(1)を含む試料、生物学的実体の表面上の表面抗原(2)に特異的に結合することができる少なくとも1つの結合ドメイン(4)を含むタグ付け剤(3)、自由に移動可能なビーズ(6)を提供することを含む、試料から生物学的実体を単離する方法に関する。これらの構成要素、すなわち試料、タグ付け剤(3)及びビーズ(6)を、ビーズが試料内で浮遊しながら、生物学的実体(1)、タグ付け剤(3)及びビーズ(6)の間の複合体形成を可能にする容器内でインキュベートする。それにより、タグ付け剤(3)を介した生物学的実体(1)のビーズ(6)への
結合は、リガンド結合パートナー(7)及びリガンド(5)を含む非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって直接的又は間接的に媒介される。次いで、上清を廃棄しながらビーズ(6)を容器内の所定の位置に一時的に保持し、洗浄緩衝液を添加することによって生物学的実体(1)を精製し、ビーズ(6)及びタグ付け剤(3)からそれぞれ放出することによって単離することができる。次いで、ビーズ(6)を容器内の所定の位置に一時的に保持しながら、生物学的実体(1)を上清から回収する。場合により、タグ付け剤(3)及び/又はビーズ(6)を溶液から回収することができる。
【0053】
本明細書で使用される「単離する」又は「単利」は、生物学的実体が、生物学的実体の単離前の試料の含有量(濃度)と比較して、本発明の方法の結果として得られる試料において濃縮されていることを意味する。これは、標的生物学的実体が、例えば、試料中の生物学的実体の全量の約0.1%の含有量から、本発明の方法を実施した後に回収された試料中の約10%以上、又は20%以上、30%以上、40%以上まで、試料中で濃縮され得ることを意味する。「単離された」はまた、試料、例えば、得られた溶出液又は画分が、本質的に一種の、例えば、細胞(細胞集団)としての生物学的実体のみを含有することを意味し、例えば、単離された生物学的実体は、単離手順後の試料中に存在する生物学的実体の75%超、又は80%超、又は85%超、又は90%超、又は95%超、又は97%超、又は99%超を表す。一般に、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、列挙された値の±10%の値を指す。
【0054】
本発明の単一の構成要素を詳細に説明する前に、本発明の方法全般を以下に概説し、例示的な例によって説明し、本発明の基礎となる原理を図3に概略的に示す。この方法は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介したタグ付け剤(3)とのビーズ(6)と、生物学的実体(1)の表面上に存在する表面抗原(2)を介してタグ付け剤(3)によって認識される生物学的実体(1)との間の複合体形成を含む。実施例3に例示的に示すように、CD3+細胞は、タグ付け剤(3)としてのStrepタグ付き抗ヒトCD3 Fabフラグメントによって認識及び結合されるCD3受容体を介して、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)から効率的に単離することができる。次に、タグ付け剤は、そのStrepタグを介して、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を介してStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズに結合する。標的細胞を単離するためのそのような複合体形成は、以前に、例えば国際出願公開第2013/124474号に記載されている。しかし、そこに記載されている方法は、上に概説したような欠点を与える固定相を含むクロマトグラフィー法に基づく。対照的に、本発明の方法では、ビーズがインキュベーション中に試料内に浮遊するアプローチが適用される。
【0055】
上に概説したように、本発明の方法に従って試料から生物学的実体を単離するために、単離される生物学的実体(1)を含む試料、タグ付け剤(3)及びビーズ(6)を、リガンド(5)及びリガンド結合パートナー(7)を含む上記の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を介して媒介される、生物学的実体(1)、タグ付け剤(3)及びビーズ(6)の間の複合体形成を可能にする容器内でインキュベートする。図3に概略的に示され、実施例3に例示的に示すように、非共有結合性タンパク質リガンド相互作用(8)がストレプトアビジン-ビオチン様相互作用によって媒介される場合、複合体は、タグ付け剤(3)、すなわち、Strep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ(ビーズ(6)上のリガンド結合パートナー(7))にそのStep-tag(登録商標)(リガンド(5)を介して)に結合するStrepタグ付き抗ヒトCD3 Fabフラグメントを介して形成され、Fabフラグメント(結合ドメイン(4))を介したタグ付け剤(3)は、抗原認識相互作用(9)を介してCD3+細胞(生物学的実体(1))上のCD3受容体(表面抗原(2))を認識する。したがって、インキュベーションのための容器への構成要素の添加の順序は決定されない。例えば、実施例3に示すように、リガンド結合パートナー(7)でプレコーティングされたビーズ(6)、例えば、単離さ
れる生物学的実体(1)を含む試料の添加の前に、タグ付け剤(3)がリガンド(5)を介して固定化されている市販のStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)を使用することができる。
【0056】
全ての構成要素が容器に添加されると、懸濁液、特にビーズは、インキュベーション中に連続的に運動し続ける。当業者であれば、溶液を動かし続ける方法は数多く存在することを認識している。例えば、容器を手動で穏やかに振盪することができ、又は容器内の溶液を動かし続けるためにデバイスを使用することができる。異なる運動パターンを実施する様々な異なるデバイス、例えば、軌道又は往復運動シェーカ、ローラ、揺動器、回転器、チューブレボルバ及びミキサが利用可能である。例えば、実施例3に示すように、低速の揺動シェーカは、ビーズを運動させ続けるのに適している。一般に、本発明によれば、連続的な運動により、ビーズの沈降が回避されるので本発明の方法のための構成要素及び生物学的実体を含有する試料がビーズと連続的に混合され、本明細書で定義される複合体を形成することができる。当然ながら、当業者は、複合体形成が阻害されるように溶液を激しく振盪しないことを認識している。むしろ、本発明によれば、インキュベーション工程中、ビーズは懸濁液中で連続的に浮遊する。
【0057】
本発明によれば、容器は、液体を保持することができる適切な容積を有する任意の適切な容器とすることができる。本発明の一実施形態では、容器は、チューブ、バイアル、シリンジ、アンプル、又はカラムである。好ましくは、容器は、本発明の方法において、試料のフロースルーを可能にしないように構成される。本発明の一実施形態では、試料及び任意の他の液体は、同じ開口部を通して容器に導入され、容器から排出される。例えば、実施例3に示すように、容器は、試料、及び試料から生物学的実体を単離する方法を実施するための構成要素が開口部を通して添加されるチューブであってもよい。チューブは蓋で閉じられ、チューブはチューブ内のビーズの浮遊を可能にするために穏やかに動かされる。インキュベーション後、ビーズを沈降させるためにチューブを動かさずに保持し、試料又は任意の他の液体を除去することができるように、すなわち上清を、例えばデカンテーション又はピペッティングによって廃棄することができるようにする。上清がピペッティングによって廃棄される場合、沈降していないビーズがチップに入ること及び/又は廃棄されることを防止するように改変されたピペットチップを使用することができる。実施例3に示すように、ナイロンふるい又は適切な孔径を有する任意の他のふるいをチップの上部に接着して、残った沈降していないビーズを遠ざけたままにすることによって達成することができる。必要に応じて、ピペットチップの先端部を取り除くか、又はワイドボアのチップを使用し、ふるいをチップの端に接着する。ピペットチップの先端のふるいは、沈降していないビーズがピペットチップに入るのを防ぎ、それによって、ビーズ及びそこに固定化された目的の生物学的実体の損失を回避する。これに関連して、本明細書で使用される場合、本発明の方法の構成要素がビーズ又は他の構成要素に固定化されていることを指す場合の「固定化」という用語は、ビーズ自体が固定化されていることを意味するのではなく、構成要素がビーズとの関係で固定化されている、すなわち、ビーズに付着、結合、連結などされていることのみに関するものである。同時に、本発明によるビーズは、試料内で連続的に浮遊することができるままである。ビーズを取り囲む液体を除去する場合にのみ、ビーズを一時的に沈降させるか、又は所定の位置に保持する。一実施形態では、ビーズはフリット又はふるいによって所定の位置に保持される。当業者は、ビーズを所定の位置に保持するフリット又はふるいの孔径が、他の全ての構成要素、ビーズ上に固定化されていない生物学的実体が通過するのを許しながら、ビーズが通過することを排除するように選択されるべきであることを容易に理解することができる。
【0058】
本明細書の他の箇所で詳細に説明され、実施例5、7、及び8に示すように、本発明によれば、FABian(登録商標)デバイスなどの装置を、ビーズを連続的に運動させ続ける本発明の方法に従って使用することができる。これらの例では、容器は、シリンジ本
体及びシリンジ本体アタッチメントを含み、試料は、シリンジ本体によって浸漬されることによって底部からシリンジ本体アタッチメント内に充填される。試料は、シリンジ本体からの圧力によって同じ開口部を介してシリンジ本体アタッチメントから放出される。したがって、シリンジ本体は、シリンジ本体からのピペッティングプロセスを介してシリンジ本体アタッチメントを充填及び空にすることを可能にする。シリンジ本体アタッチメントの底部に取り付けられた膜は、容器に予め充填されたビーズ及びそれと複合体を形成する構成要素が容器から出るのを防止する。後述するように、FABian(登録商標)デバイスは、ビーズの連続運動を保証する新規プログラムである「移動バッチモード」で動作する。詳細なプログラムを図6B及び図6Cに示す。同様に、蠕動ポンプを使用して、順方向及び逆方向に作動することができるため、FABian(登録商標)デバイスで実施されるようにビーズの「移動」を保つことができる。
【0059】
複合体形成を可能にする構成要素のインキュベーションの時間は特に限定されず、例えば実施例3に示すように、CD3+細胞などの生物学的実体の効率的な単離には5分間のインキュベーション時間で十分である。しかし、より長い及びより短いインキュベーション時間も同様に本発明に包含される。本発明の方法を実施するためのFABian(登録商標)デバイス又は蠕動ポンプの使用に関して、インキュベーション時間は、生物学的実体を単離する試料の量に大きく依存する。例えば、流量を約1~2ml/分/cm2に設定した場合、得られるインキュベーション時間は10~60分である。
【0060】
本発明のインキュベーション工程及び方法は、特に明記しない限り、一般に、生物学的実体の生物学的活性を保存するのに適した任意の流体中で行うことができる。典型的には、流体は液体である。いくつかの実施形態では、それぞれの液体は、水であるか、又は水を含み、例えば水溶液の形態である。更なる構成要素は、それぞれの水溶液に含まれてもよく、例えば、その中に溶解又は懸濁されてもよい。例示的な例として、水溶液は1つ又は複数の緩衝化合物を含むことができる。多数の緩衝化合物が当技術分野で使用されており、本明細書に記載の様々なプロセスを実施するために使用することができる。緩衝液の例としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)リン酸塩、炭酸塩、コハク酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、バルビツール酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、カコジル酸塩、ホウ酸塩、N-(2-アセトアミド)-2-アミノ-エタンスルホン酸塩((ACES)とも呼ばれる)、N-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPESとも呼ばれる)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジン-プロパンスルホン酸(HEPPSとも呼ばれる)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPESとも呼ばれる)、(2-[トリス(ヒドロキシメチル)-メチルアミノ]-1-エタンスルホン酸(TESとも呼ばれる)、2-シクロヘキシルアミノ-エタンスルホン酸(CHESとも呼ばれる)及びN-(2-アセトアミド)-イミノ二酢酸(ADAとも呼ばれる)の塩などの溶液が挙げられるが、これらに限定されない。これらの塩には任意の対イオンを使用することができ、アンモニウム、ナトリウム、及びカリウムが例示的な例として役立ち得る。緩衝液の更なる例としては、ほんの数例を挙げると、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、双性イオン緩衝剤、例えばベタイン、エチルアミン、トリエチルアミン、グリシン、グリシルグリシン、ヒスチジン、トリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリスとも呼ばれる)、ビス-(2-ヒドロキシエチル)-イミノ-トリス(ヒドロキシメチル)-メタン(ビス-トリスとも呼ばれる)及びN-[トリス(ヒドロキシメチル)-メチル]-グリシン(トリシンとも呼ばれる)が挙げられるが、これらに限定されない。緩衝液は、単離される生物学的実体を安定化する構成要素、例えば、(血清)アルブミンなどのタンパク質、成長因子、微量元素などを更に含むことができる。適切な緩衝液の選択は、当業者の知識の範囲内であり、経験的に行うことができる。
【0061】
更に、本発明による方法は、生物学的実体の生存性が少なくとも本質的に損なわれない
任意の温度で実施することができる。本明細書において、少なくとも本質的に有害でない、有害でない、又は少なくとも本質的に生存率を損なわない条件に言及する場合、完全な生存率で回収することができる生物学的実体の割合が、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%を含む、少なくとも70%である条件が言及される。いくつかの実施形態では、本発明による方法は、約20℃以下、例えば約14℃以下、約9℃以下又は約6℃以下の温度で行われる。単離される生物学的実体に応じて、適切な温度範囲は、例えば、水性媒体が生物学的実体を包含するために使用される場合、約2℃~約40℃、約3℃~約35℃、又は約4℃~約30℃を含む、約2℃~約45℃であってもよい。いくつかの実施形態では、本発明による方法は、一定の温度値で、又は選択された温度値±約5℃、±約4℃、±約3℃、±約2℃、±約1℃若しくは±約0.5℃で行われる。温度は、例えば、約5℃、約10℃、約15℃、約20℃又は約25℃の値を有するように選択されてもよい。いくつかの実施形態では、本発明による方法の間に、温度を変更する、すなわち、上昇、低下、又はそれらの組合せによって変化させる。温度は、例えば、上で定義した範囲内、例えば約2℃~約40℃の範囲内、又は約3℃~約35℃の範囲内で変更されてもよい。当業者は、生物学的実体の性質及び単離条件を考慮して、適切な温度を経験的に決定することができる。例えば、癌細胞などの温度非感受性細胞は、室温、又は37℃などの高温で単離することができる。
【0062】
複合体形成が起こるインキュベーション工程に続いて、ビーズ上に固定化された生物学的実体は、出発物質中、すなわち目的の生物学的実体を含む試料中に存在する他の構成要素及び非標的生物学的実体から精製される。この精製工程は、結合していない生物学的実体を含む上清を廃棄しながら、ビーズを容器内の所定の位置に一時的に保持すること、及び洗浄緩衝液を添加することによって達成される。洗浄緩衝液を容器に添加するか、又はその後に容器を軽く振盪すると、ビーズが容器内で再び浮遊する。洗浄工程は通常、生物学的実体の純度を高めるために数回繰り返される。精製工程の後又はその代わりに、ビーズ及びタグ付け剤からそれぞれ生物学的実体を放出し、ビーズを一時的に所定の位置に保持しながら懸濁液から回収し、上清を回収することによって生物学的実体を単離する。場合により、ビーズ及び/又はタグ付け剤を回収して再び使用することもできる。
【0063】
生物学的実体
「生物学的実体」という用語(図中の参照符号(1)でマークされている)は、細胞、及び細胞小器官、ウイルス、エキソソーム、リポソーム、シナプス小胞などの他の全ての小胞を包含すると理解されるべきであり、すなわち、標的は、膜(脂質二重層であってもよい)が外部環境(周囲)から内部を分離し、1つ又は複数の特異的表面抗原を含む任意の生物学的実体である。生物学的実体又は生物学的実体の集団は、例えば、様々な異なる細胞又は細胞集団を含むことができる試料から単離される。実質的に、少なくとも1つの共通の表面抗原、すなわちその表面上の抗原を有する任意の生物学的実体は、試料に含まれる他の構成要素から分離することができる。結合活性効果を達成するために、後述するように、表面抗原は、典型的には、生物学的実体の表面上に2つ以上のコピーで存在する。
【0064】
本発明の一実施形態では、生物学的実体は、原核細胞、例えば細菌細胞又は古細菌である。或いは、一実施形態では、生物学的実体は、ウイルス、細胞小器官、例えばミトコンドリア、葉緑体、ゴルジ装置若しくは核、又は細胞外小胞、例えばミクロソーム、エキソソーム若しくはリソソーム、又はシナプス小胞である。特に、実施例8に示すように、本発明の方法の1つを適用することによって、血液試料などの試料からエキソソームを効率的に単離することができる。したがって、本発明の一実施形態では、生物学的実体は、エキソソームなどの細胞外小胞である。更に、本発明の方法が同様に細胞核の単離に非常に
適していると予想することは賢明である。したがって、本発明の更なる実施形態では、生物学的実体は細胞核である。
【0065】
いくつかの実施形態では、生物学的実体は、植物細胞、真菌細胞、酵母細胞、原生動物又は動物細胞などの真核細胞である。いくつかの実施形態では、生物学的実体は、げっ歯類の細胞含む哺乳動物細胞、又は両生類細胞、例えば、カエル、ヒキガエル、サンショウウオ若しくはイモリを含む平滑両生亜綱の細胞である。哺乳動物細胞の例としては、血液細胞、精液細胞又は組織細胞、例えば肝細胞又は幹細胞、例えば適切な供給源に由来するCD34陽性末梢幹細胞又はNanog若しくはOct-4発現幹細胞、骨髄又は臍帯血由来の造血幹細胞が挙げられるが、これらに限定されない。血球は、例えば、白血球又は赤血球である。白血球は、例えば、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球、マクロファージ又は樹状細胞である。それぞれのリンパ球は、例えば、CMV特異的CD8+Tリンパ球、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞(メモリーT細胞の例示的な例は、CD62L+CD8+特異的セントラルメモリーT細胞である)又は制御性T細胞(Tregの例示的な例は、CD4+CD25+CD45RA+Treg細胞である)、Tヘルパー細胞、例えば、CD4+Tヘルパー細胞を含むT細胞、B細胞又はナチュラルキラー細胞である。
【0066】
哺乳動物の例としては、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ヘッジホッグ、ネコ、カモノハシ、アメリカナキウサギ、アルマジロ、イヌ、キツネザル、ヤギ、ブタ、オポッサム、ウマ、ゾウ、コウモリ、ウッドチャック、オランウータン、アカゲザル、ウーリーモンキー、マカク、チンパンジー、タマリン(ワタボウシタマリン(saguinus oedipus))、マーモセット及びヒトが挙げられるが、これらに限定されない。細胞は、例えば、器官又はその一部などの組織の細胞であってもよい。それぞれの器官の例としては、副腎組織、骨、血液、膀胱、脳、軟骨、結腸、眼、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、神経、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚、小腸、脾臓、胃、精巣、胸腺、腫瘍、血管若しくは子宮組織、又は結合組織が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、細胞は幹細胞である。
【0067】
生物学的実体が単離される試料は、任意の起源のものであってもよい。例えば、ヒト、動物、植物、細菌、真菌又は原生動物に由来してもよいが、これらに限定されない。したがって、以下の試料は、土壌試料、空気試料、環境試料、細胞培養試料、骨髄試料、降雨試料、降下試料、下水試料、地下水試料、剥離試料、古細菌試料、食物試料、血液試料(全血を含む)、血清試料、血漿試料、尿試料、便試料、精液試料、リンパ液試料、脳脊髄液試料、鼻咽頭洗浄液試料、痰試料、マウススワブ試料、喉スワブ試料、鼻スワブ試料、気管支肺胞洗浄液試料、気管支分泌試料、乳試料、羊水試料、生検試料、癌試料、腫瘍試料、組織試料、細胞試料、細胞培養試料、細胞溶解物試料、ウイルス培養試料、爪試料、毛髪試料、皮膚試料、法医学試料、感染試料、院内感染試料、空間試料又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるがこれらに限定されない試料から選択された。所望であれば、それぞれの試料は、任意の程度まで前処理されていてもよい。例示的な例として、組織試料は、本発明による方法で使用される前に消化、ホモジナイズ又は遠心分離されていてもよい。別の例示的な例では、血液などの体液の試料は、血液細胞の標準的な単離によって得ることができる。更に、試料は、例えば、細胞外小胞及び/又はエキソソームを本発明の方法に従って単離することができる人工多能性幹細胞(iPSC)であってもよい。本明細書に記載の単離方法が基礎研究で使用される場合、試料はインビトロ細胞培養実験の細胞であってもよい。試料は、典型的には、溶液又は分散液などの流体の形態で調製されている。
【0068】
表面抗原
「表面抗原」又は短い「抗原」(図中の参照符号(2)でマークされている)は、本発
明による単離プロセス中に表面上に共有結合又は非共有結合したままである限り、生物学的実体の表面上の任意の分子を指す。本発明による単離プロセスの目的のために、表面抗原は、以下に記載されるタグ付け剤などの結合分子によって認識及び結合される。いくつかの実施形態では、表面抗原はペプチド又はタンパク質である。いくつかの実施形態では、表面抗原は、脂質、多糖又は核酸である。タンパク質である表面抗原は、周辺膜タンパク質又は内在性膜タンパク質であってもよい。いくつかの実施形態では、膜をまたぐ1つ又は複数のドメインを有することができる。いくつかの例示的な例として、膜貫通ドメインを有する膜タンパク質は、Gタンパク質共役型受容体などの受容体、例えば、臭覚受容体、ロドプシン受容体、ロドプシンフェロモン受容体、ペプチドホルモン受容体、味覚受容体、GABA受容体、オピエート受容体、セロトニン受容体、Ca2+受容体、メラノプシン、神経伝達物質受容体、例えばアセチルコリン、ニコチン、アドレナリン作動性、ノルエピネフリン、カテコールアミン、L-DOPA-、ドーパミン及びセロトニン(生体アミン、エンドルフィン/エンケファリン)神経ペプチド受容体を含むリガンド開口型、電圧開口型又は機械開口型受容体、受容体キナーゼ、例えばセリン/トレオニンキナーゼ、チロシンキナーゼ、ポーリン/チャネル、例えばクロライドチャネル、カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、OMPタンパク質、ABC輸送体、(ATP結合カセット輸送体)、例えば、アミノ酸輸送体、Na-グルコース輸送体、Na+/ヨウ化物輸送体、イオン輸送体、例えば光捕捉複合体、シトクロムcオキシダーゼ、ATPase Na/K、H/K、Ca、細胞接着受容体、例えばメタロプロテアーゼ、インテグリン又はカドヘリンであってもよい。
【0069】
ヒト表面抗原の分類及び命名のための国際的に受け入れられているシステムは、第1のモノクローナル抗体の開発に応答して進化した「分化クラスター」又はCDナンバーシステムである(Clark et al.,Clinical&Translational Immunology(2016)5,e57)。したがって、更なる実施形態では、表面抗原はCD番号で指定される抗原である。これに関連して、本発明による表面抗原は、所望の細胞集団又は亜集団、例えば血液細胞、例えばリンパ球(例えばT細胞、Tヘルパー細胞、例えばCD4+ヘルパーT細胞、B細胞又はナチュラルキラー細胞)、単球又は幹細胞、例えばCD34陽性末梢幹細胞又はNanog若しくはOct-4発現幹細胞の集団又は亜集団を定義することが知られている。T細胞の例としては、CMV特異的CD8+Tリンパ球、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞及び制御性T細胞(Treg)などの細胞が挙げられる。Tregの例示的な例は、CD4+CD25+CD45RA Treg細胞であり、メモリーT細胞の例示的な例は、CD62L+CD8+特異的セントラルメモリーT細胞である。表面抗原はまた、腫瘍細胞のマーカーであってもよい。表面抗原の好ましい例は、CD4受容体、CD3、CD8、CD25、CD19、CD34、CD31、CD45、CD81、又は循環腫瘍細胞(CTC)のマーカー若しくは血液からのエキソソームである。したがって、本発明の方法は、上記で概説したように、特異的表面抗原の存在によって定義される生物学的実体、細胞集団又は亜集団の単離を可能にする。
【0070】
タグ付け剤の結合ドメイン
本発明の方法によれば、表面抗原(2)は、抗原認識相互作用(9)を介してタグ付け剤(3)に含まれる少なくとも1つの結合ドメイン(4)を介してタグ付け剤(3)によって認識及び結合される。表面抗原(2)に特異的に結合するタグ付け剤(3)の1つ又は複数の結合ドメインは、例えば、抗体又は免疫グロブリン、抗体又は免疫グロブリンの機能的フラグメント、免疫グロブリン/抗体様機能を有するタンパク質性結合分子であってもよい。(組換え)抗体フラグメントの例は、Fabフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント(scFv)、二価抗体フラグメント、例えば(Fab)2’フラグメント、ダイアボディ、トリアボディ(Iliades,P.,et al.,FEBS Lett(1997)409,437-441)、デカボディ(Stone,E
.,et al.,Journal of Immunological Methods(2007)318,88-94)及び他のドメイン抗体(Holt,L.J.,et
al.,Trends Biotechnol.(2003),21,11,484-490)である。タグ付け剤として二価全長(インタクト)抗体分子を使用することも可能であり、以下の図10に概略的に示され、本明細書に記載される実施形態を参照されたい。本発明のいくつかの実施形態では、1つ又は複数の結合ドメインは、「デュオカリン」としても知られる二量体リポカリン変異タンパク質などの二価タンパク質性人工結合分子であってもよい。いくつかの実施形態では、結合ドメインは一価である。一価タグ付け剤の例としては、一価抗体フラグメント、抗体様結合特性を有するタンパク質性結合分子又はMHC分子が挙げられるが、これらに限定されない。一価抗体断片の例としては、Fabフラグメント、Fvフラグメント、及び二価一本鎖Fvフラグメントを含む一本鎖Fvフラグメント(scFv)が挙げられるが、これらに限定されない。実施例3及び5~8では、異なるCD受容体に対するFabフラグメントが、本発明の方法に従って標的細胞及びエキソソーム上の対応する表面抗原を効率的に認識することができることが示されている。したがって、一実施形態では、タグ付け剤(3)の結合ドメイン(4)は、Fabなどの抗原結合フラグメントである。
【0071】
上記のように、抗体様機能を有するタンパク質性結合分子の一例は、リポカリンファミリーのポリペプチドに基づくム変異タンパク質である(例えば、国際出願公開第03/029462号、Beste et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1999)96,1898-1903を参照されたい)。ビリン結合タンパク質、ヒト好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン、ヒトアポリポタンパク質D又はヒト涙液リポカリンなどのリポカリンは、所与の標的に結合するように修飾することができる天然のリガンド結合部位を有する。表面抗原に特異的に結合するタグ付け剤として使用することができる抗体様結合特性を有するタンパク質性結合分子の更なる例としては、いわゆるグルボディ(例えば、国際出願公開第96/23879号を参照されたい)、アンキリン足場に基づくタンパク質(Mosavi,L.K.,et al.,Protein Science(2004)13,6,1435-1448)又は結晶性足場(例えば、国際出願公開第01/04144号)、Skerra,J.Mol.Recognit.(2000)13,167-187,AdNectins,tetranectins and avimersに記載されるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。ヒト受容体ドメインのファミリーのエキソンシャッフリングによって進化した多価アビマータンパク質を含むアビマーは、いくつかの表面受容体において複数のドメインのストリングとして生じるいわゆるAドメインを含む(Silverman,J.,et al.,Nature Biotechnology(2005)23,1556-1561)。ヒトフィブロネクチンのドメインに由来するアドネクチンは、標的への免疫グロブリン様結合のために操作することができる3つのループを含む(Gill,D.S.&Damle,N.K.,Current Opinion in Biotechnology(2006)17,653-658)。それぞれのヒトホモトリメータンパク質に由来するテトラネクチンは、同様に、所望の結合のために操作することができるC型レクチンドメイン中にループ領域を含有する(同上)。タンパク質リガンドとして作用することができるペプチドは、側鎖がα炭素原子ではなくアミド窒素に結合しているという点でペプチドとは異なるオリゴ(N-アルキル)グリシンである。ペプトイドは、典型的にはプロテアーゼ及び他の修飾酵素に対して耐性であり、ペプチドよりもはるかに高い細胞透過性を有することができる(例えば、Kwon,Y.-U.,and Kodadek,T.,J.Am.Chem.Soc.(2007)129,1508-1509を参照されたい)。
【0072】
適切なタンパク質性結合分子のなお更なる例は、EGF様ドメイン、Kringleドメイン、フィブロネクチンI型ドメイン、フィブロネクチンII型ドメイン、フィブロネ
クチンIII型ドメイン、PANドメイン、G1aドメイン、SRCRドメイン、クニッツ/ウシ膵臓トリプシン阻害剤ドメイン、テンダミスタット、Kazal型セリンプロテアーゼ阻害剤ドメイン、トレフォイル(P型)ドメイン、フォン・ヴィルブランド因子C型ドメイン、アナフィラトキシン様ドメイン、CUBドメイン、サイログロブリンI型リピート、LDL受容体クラスAドメイン、スシドメイン、リンクドメイン、トロンボスポンジンI型ドメイン、免疫グロブリンドメイン又は免疫グロブリン様ドメイン(例えば、ドメイン抗体又はラクダ重鎖抗体)、C型レクチンドメイン、MAMドメイン、フォン・ヴィルブランド因子A型ドメイン、ソマトメジンBドメイン、WAP型4ジスルフィドコアドメイン、F5/8型Cドメイン、ヘモペキシンドメイン、SH2ドメイン、SH3ドメイン、ラミニン型EGF様ドメイン、C2ドメイン、「カッパボディ」(Ill.et
al.,Protein Eng(1997)10,949-57を参照されたい)、いわゆる「ミニボディ」(Martin et al.,EMBO J(1994)13,5303-5309)、ダイアボディ(Holliger et al.,PNAS USA(1993)90,6444-6448を参照されたい)、いわゆる「Janusis」(Traunecker et al.,EMBO J(1991)10,3655-3659、又はTraunecker et al.,Int J Cancer(1992)Suppl 7,51-52を参照されたい)、ナノボディ、マイクロボディ、アフィリン、アフィボディ、ノクチン、ユビキチン、ジンクフィンガータンパク質、自己蛍光タンパク質又はロイシンリッチリピートタンパク質である。抗体様機能を有する核酸分子の例は、アプタマーである。アプタマーは、規定の三次元モチーフに折り畳まれ、所与の標的構造に対して高い親和性を示す。
【0073】
リガンド及びリガンド結合パートナーによって媒介される非共有結合性リガンド-タンパク質相互作用
試料からの生物学的実体の単離は、生物学的実体(1)、タグ付け剤(3)及びビーズ(6)の間に形成される可逆的複合体を介して可能になる。生物学的実体(1)上の表面抗原(2)に結合することができる結合ドメイン(4)に加えて、タグ付け剤(3)は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を介してビーズ(6)への結合を直接的又は間接的に媒介する第2のドメインを含む。非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を形成する構成要素の1つ、すなわちリガンド(参照符号5で示す)又はリガンド結合パートナー(参照符号7で示す)がタグ付け剤(3)に含まれることを意味する。図3では、タグ付け剤(3)がリガンド(5)を含み、ビーズ(6)がリガンド結合パートナー(7)を含むことが例示されている。しかし、本発明は、リガンド(5)がビーズ(6)上に存在し、タグ付け剤(3)がリガンド結合パートナー(7)を含む、逆の場合も包含する。更に、以下に詳細に記載されるように、タグ付け剤(3)は、例えば、それぞれが更なる可逆的なタンパク質-リガンド相互作用を形成する、連結分子(10)及び担体(11)を介して、又は更なるリガンド(12)及びリガンド結合パートナー(13)を介して、は更なるリガンド(12a)及びリガンド結合パートナー(7)を介して、ビーズ(6)に間接的に結合することも想定される。
【0074】
リガンド(5)とリガンド結合パートナー(7)との間に形成される非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(図中の参照符号8によって示される)は、本発明の方法が実施される条件下で破壊可能又は可逆的である限り、任意の所望の強度及び親和性であってもよい。リガンド結合パートナー(7)とリガンド(5)との間の結合の解離定数(KD)は、約10-2M~約10-13Mの範囲の値を有する。したがって、この可逆的結合は、例えば、約10-2M~約10-13M、又は約10-3M~約10-12M、又は約10-4M~約10-11M、又は約10-5M~約10-10MのKDを有することができる。一般に、この結合のKD並びに非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のKD、koff及びkon速度並びに本発明に従って形成される抗原認識結合は、任意の適切な手段によって、例えば蛍光滴定、平衡透析又は表面プラズモン共鳴によって決定することができる。米国特許第7
,776,562号、米国特許第8,298,782号又は国際出願公開第2002/054065号に記載されているように、リガンド(5)及びリガンド結合パートナー(7)が(多価)複合体に可逆的に結合するか又は多量体化して結合活性効果を引き起こすことができる限り、リガンド(5)とリガンド結合パートナー(7)との任意の組み合わせを選択することができるのは、リガンドの複数の結合部位を含むリガンド結合パートナーの場合である。
【0075】
本発明によれば、リガンド(5)は、アフィニティータグとして当業者に公知の部分である。したがって、リガンド結合パートナー(7)は、対応する結合パートナー、例えば、アフィニティータグに結合することが知られている抗体又は抗体フラグメントである。当業者に公知のアフィニティータグの例としては、オリゴヒスチジン、マルトース結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、キチン結合タンパク質(CBP)又はチオレドキシン、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、FLAGペプチド、HAタグ(配列:Tyr-Pro-Tyr-Asp-Val-Pro-Asp-Tyr-Ala、配列番号15)、VSV-Gタグ(配列:Tyr-Thr-Asp-Ile-Glu-Met-Asn-Arg-Leu-Gly-Lys、配列番号16)、単純ヘルペスウイルス糖タンパク質DのHSVタグ又はHSVエピトープ(配列:Gln-Pro-Glu-Leu-Ala-Pro-Glu-Asp-Pro-Glu-Asp、配列番号17)、T7エピトープ(Ala-Ser-Met-Thr-Gly-Gly-Gln-Gln-Met-Gly、配列番号18)、マルトース結合タンパク質(MBP)、配列Glu-Gln-Lys-Leu-Ile-Ser-Glu-Glu-Asp-Leu(配列番号19)の転写因子c-mycの「myc」エピトープ、V5タグ(配列:Gly-Lys-Pro-Ile-Pro-Asn-Pro-Leu-Leu-Gly-Leu-Asp-Ser-Thr、配列番号20)が挙げられるが、これらに限定されない。適切な結合対の更なる例としては、リガンド(5)としての抗体Fcドメイン、及びリガンド結合パートナー(7)としてのプロテインA、プロテインG又はプロテインLなどの免疫グロブリンドメインが挙げられる。プロテインA、プロテインG及びプロテインLは全て、抗体Fcドメインに可逆的に結合することができる。或いは、リガンド結合パートナー(7)は、リガンド(5)として抗体又はFabによって結合することができる免疫グロブリンの保存されたドメインであってもよい。結合は、緩衝液条件の変更によって、例えば、緩衝液の塩強度を増加させることによって、又はpHを例えば約7.0の中性pHから約3.0~約2.5のpHに低下させることによって破壊することができる。
【0076】
本発明の代替の実施形態では、リガンド(5)は、カルモジュリン結合ペプチドであり、リガンド結合パートナー(7)は、例えば、米国特許第5,985,658号に記載されるような多量体カルモジュリンである。或いは、リガンド(5)はFLAGペプチドを含み、リガンド結合パートナー(7)は、米国特許第4,851,341号に記載されるように、モノクローナル抗体4E11に結合するFLAGペプチドなどのFLAGペプチドに結合する抗体を含む。いくつかの実施形態では、FLAGペプチドに結合する抗体は、市販のモノクローナル抗体M1であってもよい。一実施形態では、リガンド(5)はオリゴヒスチジンタグであり、リガンド結合パートナー(7)は、遷移金属イオンに結合し、それによってオリゴヒスチジンタグにも結合することができるキレート基Kを含む。これらの全ての結合複合体の破壊は、金属イオンキレート化、例えばカルシウムキレート化によって、例えばEDTA又はEGTAを添加することによって達成することができる。カルモジュリン、4E11などの抗体、又はキレート化金属イオン又は遊離キレート剤は、従来の方法によって、例えばビオチン化、及びストレプトアビジン若しくはアビジン若しくはその多量体との複合体化によって、又は多糖、例えばデキストランにカルボキシル残基を導入することによって、本質的にNoguchi,A,et al.Bioconjugate Chemistry 3(1992),132-137に記載されているように、第1の工程でカルモジュリン又は抗体又はキレート化金属イオン又は遊離キレー
ト剤を第2の工程で従来のカルボジイミド化学を使用して多糖、例えばデキストラン主鎖中のカルボキシル基に第一級アミノ基を介して連結することによって多量体化することができる。そのような実施形態では、リガンド(5)とリガンド結合パートナー(7)との間の結合は、金属イオンキレート化によって破壊することができる。金属キレート化は、例えば、EGTA又はEDTAの添加によって達成することができる。
【0077】
代替的な実施形態では、リガンド(5)とリガンド結合パートナー(7)との間の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用は、NanoTag Biotechnologies(ドイツゲッティンゲン)によるALFAシステムに基づいてもよく、すなわち、リガンド(5)は、リガンド結合パートナー(7)としてのNbALFAPEなどのナノボディによって認識されるALFAタグであり、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用は、ALFAペプチドの添加によって破壊することができる。タグ及びナノボディの関連配列を含むALFAシステムの詳細な開示は、Gotzke et al.,Nature Communications 10(2019),1-12で見ることができる。
【0078】
本発明の方法は、例示的には、細胞単離方法によって検証されており、リガンド(5)とリガンド結合パートナー(7)との間に形成される非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)は、ビオチン-アビジン様相互作用を構成する。例えば、実施例3及び4に示すように、血液試料からCD3+細胞を単離するために、リガンド(5)は、CD3
Fab-Strepに含まれるTwin-Strep-tag(登録商標)(タグ付け剤(3))であり、リガンド結合パートナー(7)は、ビーズ(6)上に存在するStrep-Tactin(登録商標)である。
【0079】
したがって、本発明の一実施形態では、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用は、ビオチン-アビジン様相互作用を介して媒介され、すなわち、リガンド(5)は、ビオチン又はそのビオチン類似体若しくは誘導体を含み、リガンド結合パートナー(7)は、ビオチン又はその類似体若しくは誘導体に可逆的に結合するストレプトアビジン変異タンパク質又はアビジン変異タンパク質を含む。したがって、本発明によれば、リガンド(5)は、ストレプトアビジン又はアビジンに可逆的に結合するビオチン誘導体であり、リガンド結合パートナー(7)は、それぞれのビオチン誘導体に可逆的に結合するストレプトアビジン、アビジン、ストレプトアビジン類似体又はアビジン類似体である。好ましくは、リガンド(5)は、ストレプトアビジン又はアビジン結合ペプチドであり、リガンド結合パートナー(7)は、それぞれのストレプトアビジン又はアビジン結合ペプチドに可逆的に結合するストレプトアビジン、アビジン、ストレプトアビジン類似体又はアビジン類似体である。
【0080】
好ましい実施形態では、リガンド(5)は、以下の配列である、
a)-Xaaが任意のアミノ酸であり、Yaa及びZaaが両方ともGlyであるか、又はYaaがGluであり、ZaaがLys又はArgである、Trp-Xaa-His-Pro-Gln-Phe-Yaa-Zaa-(配列番号1)、
b)-Trp-Arg-His-Pro-Gln-Phe-Gly-Gly-(配列番号2)、
c)-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(配列番号3)、
d)少なくとも2つのストレプトアビジン結合ペプチドの連続配置であって、各ペプチドがストレプトアビジンに結合し、2つのペプチド間の距離が少なくとも0~50アミノ酸以下であり、少なくとも2つのペプチドの各々がアミノ酸配列-His-Pro-Baa-を含み、Baaがグルタミン、アスパラギン及びメチオニンからなる群から選択される、連続配置、
e)少なくとも2つのペプチドのうちの1つが、配列-His-Pro-Gln-を含む、d)に記載の連続配置、
f)ペプチドのうちの1つが、アミノ酸配列-His-Pro-Gln-Phe-(配列番号4)を含む、d)に記載の連続配置、
g)少なくとも1つのペプチドが、少なくともアミノ配列-Oaa-Xaa-His-Pro-Gln-Phe-Yaa-Zaa-(配列番号5)を含み、OaaがTrp、Lys又はArgであり、Xaaが任意のアミノ酸であり、Yaa及びZaaが両方ともGlyであるか、又はYaaがGluであり、ZaaがLys又はArgである、d)に記載の連続配置、
h)少なくとも1つのペプチドが少なくともアミノ酸配列-Trp-Xaa-His-Pro-Gln-Phe-Yaa-Zaa-(配列番号6)を含み、Xaaが任意のアミノ酸であり、Yaa及びZaaが両方ともGlyであるか、又はYaaがGluであり、ZaaがLys又はArgである、d)に記載の連続配置、
i)少なくとも1つのペプチドが、少なくともアミノ酸配列-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(配列番号7)を含む、d)に記載の連続配置、
j)Xaaが任意のアミノ酸であり、nが0から12の整数である、アミノ酸配列-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(Xaa)n-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(配列番号8)、
k)Trp-Arg-His-Pro-Gln-Phe-Gly-Gly(配列番号2)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号9)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)3-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号10)、Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)2-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号11)又はTrp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys-(GlyGlyGlySer)2-Gly-Gly-Ser-Ala-Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys(配列番号12)からなる群から選択されるアミノ酸配列のうちの1つを含むか、又はそれらからなるストレプトアビジン結合ペプチドである。
【0081】
これらの実施形態では、リガンド結合パートナー(7)は、ストレプトアビジン変異タンパク質(類似体)Val44-Thr45-Ala46-Arg47(配列番号13)又はストレプトアビジン変異タンパク質(類似体)Ile44-Gly45-Ala46-Arg47(配列番号14)を含み、これらは両方とも、例えば、米国特許第6,103,493号に記載され、Strep-Tactin(登録商標)の商標で市販されている。そのような多量体ストレプトアビジン変異タンパク質は、多量体化Strep-Tactinと呼ばれることもある。一実施形態では、リガンド結合パートナー(7)はStrep-Tactin(登録商標)XTシステム又はStrep-Tactin(登録商標)XTSシステム(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)に基づく。リガンド(5)又はリガンド結合パートナー(7)として本発明によって包含される非共有結合性タンパク質リガンド相互作用のこれらの構成要素及び更なる構成要素は、国際出願公開第02/077018号、国際出願公開第2014/076277号及び国際出願公開第2017/186669号に詳細に記載されており、これらの全てが参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0082】
ビーズ
本発明の非クロマトグラフィー法で使用されるビーズ(図中の参照符号6によって示されている)は、自由に移動可能な粒子である限り、すなわち、液体を含む容器を移動させたとき、又は液体を運動させたときに液体内で浮遊することができる限り、任意の粒子状
材料であってもよい。容器及び液体が静止しているとき、ビーズは容器の底部に沈降することができる。
【0083】
本発明の一実施形態では、ビーズ(6)は非磁性ビーズである。非磁性又は非磁化可能ビーズには、典型的にはビーズ形態で製造された誘導体化シリカ又は架橋ゲルが含まれる。そのような架橋ゲルビーズは、天然ポリマー、すなわち天然に存在するポリマークラスに基づくことができる。例えば、本発明によるビーズの形態の天然ポリマーは、多糖に基づく。それぞれの多糖は、一般に架橋されている。多糖マトリックスの例は、アガロースゲル(例えば、様々なビーズ及び孔径で市販されているSuperflow(商標)アガロース又はSuperflow(登録商標)Sepharose(商標)などのSepharose(登録商標)材料)又は架橋デキストランのゲルである。更なる実例は、共にGE Healthcareから入手可能なSephadex(登録商標)又はSuperdex(登録商標)として(様々なビーズサイズ及び様々な孔サイズで)市販されている、デキストランが共有結合している粒子状架橋アガロースマトリックスである。そのようなビーズ材料の別の例示的な例は、GE Healthcareから様々なビーズ及び孔径でも入手可能なSephacryl(登録商標)である。そのような天然ポリマー、特にアガロースビーズは、本発明に従って実施された実験で使用されており、実施例3~5、7及び8を参照されたい。したがって、本発明の一実施形態では、ビーズは、天然ポリマー、好ましくは架橋多糖、より好ましくはアガロースを含む。そのような材料は、クロマトグラフィー法における固定相としても使用されることに留意されたい。しかし、そのような方法では、材料は通常、移動しない固定カラム材料として充填され、以下の本発明のクロマトグラフィー方法の説明も参照されたい。
【0084】
架橋ゲルビーズはまた、合成ポリマー、すなわち天然には存在しないポリマークラスに基づくことができる。通常、細胞分離のためのビーズが基づくそのような合成ポリマーは、極性モノマー単位を有し、したがってそれ自体極性であるポリマーである。そのような極性ポリマーは親水性である。疎油性とも呼ばれる親水性分子は、水分子と双極子-双極子相互作用を形成することができる部分を含む。親油性とも呼ばれる疎水性分子は、水と分離する傾向がある。適切な合成ポリマーの実例は、ポリアクリルアミド、スチレン-ジビニルベンゼンゲル、及びアクリラートとジオールとのコポリマー、又はアクリルアミドとジオールとのコポリマーである。例示的な例は、Fractogel(登録商標)として市販されているポリメタクリラートゲルである。更なる例は、Toyopearl(登録商標)として市販されているエチレングリコールとメタクリレートとのコポリマーである。いくつかの実施形態では、ビーズはまた、天然及び合成ポリマー構成要素、例えば、複合マトリックス、又は多糖とアガロースとの複合体若しくはコポリマー、例えばポリアクリルアミド/アガロース複合体、又は多糖とN,N’-メチレンビスアクリルアミドとのコポリマーを含むことができる。デキストランとN,N’-メチレンビスアクリルアミドとのコポリマーの例示的な例は、上述のSephacryl(登録商標)シリーズの材料である。誘導体化シリカは、合成又は天然ポリマーに結合したシリカ粒子を含むことができる。そのような実施形態の例としては、多糖グラフトシリカ、ポリビニルピロリドングラフトシリカ、ポリエチレンオキシドグラフトシリカ、ポリ(2-ヒドロキシエチルアスパルトアミド)シリカ及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)グラフトシリカが挙げられるが、これらに限定されない。しかし、本発明の一実施形態では、ビーズは合成ポリマーを含まない。
【0085】
図1に示すように、市販のアガロースビーズは、30~180μmの様々な直径のビーズの混合物である。本発明に従って実施された実験は、驚くべきことに、細胞が70μm未満の直径を有する小型ビーズに優先的に結合することを明らかにした。したがって、ビーズの混合物を使用すると、標的細胞に結合しない大型ビーズが懸濁液内に存在するため、細胞単離手順の効率が低下する。これは、小型ビーズ(直径40~60μm)及び大型
ビーズ(直径140μm超)を本発明の方法に適用することによって確認され、実施例5を参照されたい。図6Aに示すように、小型ビーズを使用すると、バフィーコートからのCD81+細胞の効率的な単離をもたらし、一方、大型ビーズを使用すると、標的細胞のわずかな収率しかもたらさない。したがって、追加又は代替の実施形態では、ビーズは、約30~100μm、好ましくは40~60μmの直径を有することを特徴とする。本明細書で使用される場合、「小型」ビーズは40~60μmの直径を有すると定義され、「大型」ビーズは140~180μmの直径を有すると定義される。
【0086】
ビーズ自体は、生物学的実体(1)に特異的に結合することができるように設計されていない。しかし、ビーズは、上記で記載される非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用の構成要素、すなわち、タグ付け剤(3)とビーズ(6)との間の直接的な相互作用の場合、リガンド結合パートナー(7)又はリガンド(5)を含むことができる。
【0087】
実施例3及び5に示すように、ビーズ(6)は、実験で使用されるStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)などのリガンド結合パートナー(7)を含むことができ、タグ付け剤(3)は、結合ドメイン(4)がFabであり、リガンド(5)がStrep-tagであるStrepタグ付きFabフラグメントである。したがって、本発明の一実施形態では、タグ付け剤(3)は、リガンド(5)に連結された結合ドメイン(4)として抗原結合フラグメント(Fab)を含み、ビーズ(6)は、タグ付け剤をビーズ上に固定化するリガンド結合パートナー(7)を含む。
【0088】
本発明の別の実施形態では、本方法は、リガンド結合パートナー(7)とビーズ(6)との間の更なるタンパク質-リガンド相互作用を含む。図11Aに概略的に示すように、ビーズは、リガンド結合パートナー(7)上に含まれる更なるリガンド結合パートナー(13)によって認識される更なるリガンド(12)を含む。したがって、リガンド結合パートナー(7)は、更なるリガンド(12)と更なるリガンド結合パートナー(13)との間のタンパク質-リガンド相互作用を介してビーズ(6)上に間接的に固定化される。本発明のこの実施形態で使用される構成要素は、国際出願公開第2015/166049号に記載されている。そこに記載されるように、例えば、リガンド結合パートナー(7)との融合タンパク質として産生される更なるリガンド結合パートナー(13)は、ヘキサ-ヒスチジンタグ又はグルタチオン-S-トランスフェラーゼであってもよい。ビーズ(6)と会合した更なるリガンド(12)は、それと複合体を形成した遷移金属を有し、ヘキサ-ヒスチジンタグなどのオリゴヒスチジンペプチドに結合することができるキレート基であってもよいか、又はグルタチオン-S-トランスフェラーゼが更なるリガンド結合パートナー(13)として使用される場合、リガンド(12)はグルタチオンであってもよい。
【0089】
代替の実施形態では、ビーズは、リガンド結合パートナー(7)によって認識される更なるリガンド(12a)を含み、図11Bを参照されたい。本発明のこの実施形態で使用される構成要素はまた、国際出願公開第2015/166049号に記載されている。そこに記載されているように、更なるリガンド(12a)は、ビオチン又はビオチンの誘導体であってもよい。ビオチンの適切な誘導体の例としては、デスチオビオチン、イミノビオチン、2-(4’-ヒドロキシアゾベンゼン)安息香酸(HABA)又はストレプトアビジン結合ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ビオチンは、リガンド結合パートナー(7)の遊離結合部位、好又はストレプトアビジンに結合し、それによって標的細胞をビーズ(6)上に固定化する。したがって、ビーズは、例えばドイツゲッティンゲンのIBA GmbHから入手可能なビオチン-アガロースで作製することができる。この方法は、連結分子(10)、すなわちStrepタグ付き組換え抗原がビーズ(6)上に必要とされないが、更なるリガンド(12a)をビーズに直接結合させるこ
とができるという利点を有する。したがって、ビオチンアガロースは、一般的な市販品を使用することができる。
【0090】
しかし、国際出願公開第2015/166049号に開示されている方法は、キレート基又はグルタチオン-S-トランスフェラーゼ及びビオチン又はその誘導体がそれぞれ固定相に結合している、標的細胞を単離するクロマトグラフィー法に関する。本明細書に記載の非クロマトグラフィー法に本明細書に記載の構成要素を移すこと、すなわち連続的に運動し続ける自由に移動可能なビーズを使用することによって、生物学的実体の単離に同じ利点、例えば結合活性効果及び生物学的実体上の表面抗原の接近可能性の改善を与えることを予想することは賢明である。
【0091】
競合剤
生物学的実体をビーズ上に間接的に固定化する構成要素の解離は、例えば、状態の変化によって誘発することができる。そのような条件の変化は、例えば、緩衝液のイオン強度の変化又は温度の変化であってもよい。いくつかの実施形態では、表面抗原(2)とタグ付け剤(3)、タグ付け剤(3)とビーズ(6)との間の可逆的非共有結合複合体の解離を誘導するために、競合試薬が使用される。競合試薬は、(更なる)リガンド又は(更なる)リガンド結合パートナーと会合し、(更なる)リガンド結合パートナーを占有し、又は(更なる)リガンド結合パートナーをブロックすることができる。リガンド又はリガンド結合パートナーに対して特に高い親和性を有する競合試薬を使用することによって、又は過剰の競合試薬を使用することによって、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を破壊することができる。生物学的実体(1)をビーズから溶出させる。溶出液、したがって生物学的実体(1)が回収される。
【0092】
本明細書で使用される「競合剤」という用語は、リガンド及びリガンド結合パートナー、並びに結合ドメイン及び表面抗原などの結合剤又は結合部位の対の間の複合体の形成を低減、干渉又は抑止することができる任意の試薬又は状態を指す。「競合」という用語は、そのような干渉の性質にかかわらず、結合に対する任意の干渉を指すことを意味する。そのような干渉はまた、いくつかの実施形態では、特定の結合部位に対する非競合的結合であってもよい。そのような競合機構の例は、可逆的結合がCa2+、Ni2+、Co2+、又はZn2+などの錯化金属イオンによって媒介される場合の、EDTA又はEGTAなどのキレート化試薬による金属キレート化である。この機構は、Ca2+の存在下で結合するカルモジュリン及びカルモジュリン結合ペプチドなどの結合対、又は固定化金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)で使用される結合対に適用される。いくつかの実施形態では、pH又は緩衝液の塩強度の変化によって競合が提供され、競合試薬は、pH又は塩強度の増加又は減少のいずれかである。pHの変化は、例えば、ストレプトアビジンのストレプトアビジン結合ペプチドへの結合を置換/破壊するため、又はプロテインA若しくはプロテインGと抗体Fcドメインとの結合を置換/破壊するために使用することができる。
【0093】
非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用が、リガンド(5)としてのアフィニティータグと、リガンド結合パートナー(7)としての対応する抗体又は抗体フラグメントとの間で形成される場合、形成される複合体/相互作用は、遊離リガンド、すなわち、遊離ペプチド(エピトープタグ)又は遊離タンパク質(MBP又はCBPなど)を加えることによって競合的に破壊することができる。
【0094】
本明細書に概説されるように、競合試薬は、一般に、構成要素と互い又は生物学的実体とのあらゆる相互作用を妨害することができる。好ましい実施形態では、競合剤は、リガンド結合パートナーへのリガンドの結合を破壊することができる。競合試薬はまた、リガンド結合パートナーに競合的に結合することができる。
【0095】
リガンド結合パートナー(7)とタグ付け剤(3)のリガンド(5)との間の結合は、競合剤の添加によって破壊することができるので、その後、タグ付け剤(3)が生物学的実体(1)から完全に解離する温和な条件下で生物学的実体(1)を溶出することができ、それにより、タグ付け剤(3)が生物学的実体(1)の機能的状態に影響を及ぼすことを回避する。したがって、本発明の方法は、共通の特異的受容体分子によって定義される細胞集団の機能状態を変化させることなく、例えば標的細胞集団(又は本明細書に記載の任意の他の生物学的実体)の単離/精製を可能にするという利点を有するだけではない。むしろ、この方法はまた、本明細書中に記載されるように、細胞精製のために磁気ビーズを使用する必要性を完全になくし、それによって細胞の更なる取り扱いを単純化し、生物学的実体の単離の自動化への道を開くという追加の利点を有する。
【0096】
一実施形態では、競合剤はビオチン又はビオチン誘導体である。ストレプトアビジン、ストレプトアビジン変異タンパク質、アビジン又はアビジン変異タンパク質を利用する本発明の実施形態では、ビオチン又はビオチン誘導体が特に好ましい。そのようなビオチン誘導体の例としては、デスチオビオチン、イミノビオチン、2-(4’-ヒドロキシアゾベンゼン)安息香酸(HABA)、又は本明細書で例示的に言及されるストレプトアビジン結合ペプチドを含むストレプトアビジン結合ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
連結分子
上記のように、タグ付け剤(3)を介した生物学的実体(1)のビーズ(6)への結合は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって間接的に媒介されてもよい。したがって、本発明の更なる実施形態又は代替の実施形態では、タグ付け剤(3)とビーズ(6)との間の結合は、連結分子(図中の参照符号10によって示される)を介して媒介される。このような間接的な結合を、図7及び10に概略的に示す。この例では、ビーズ(6)は、連結分子(10)に含まれるリガンド(5)によって認識されるリガンド結合パートナー(7)を含む。次いで、連結分子(10)は、タグ付け剤(3)によって認識される抗原(図中に参照符号2’で示す)を含む。
【0098】
したがって、連結分子(10)は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)のための構成要素、例えばリガンド(5)、及び抗原(2’)を含む。連結分子(10)上のリガンド(5)及びビーズ(6)上の結合パートナー(7)、又はその逆は、上記で詳細に記載されるように、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を形成する。連結分子(10)の抗原(2’)と生物学的実体(1)上に存在する抗原(2)との混同を避けるために、抗原(2’)は「組換え抗原」(2’)と命名される。連結分子の組換え抗原(2’)は、それが通常その可溶性部分であるように表面抗原(2)に類似する。好ましくは、組換え抗原(2’)は、表面抗原(2)の細胞外領域全体又は細胞外領域のフラグメント(ドメイン)を含む。細胞外領域のフラグメント(ドメイン)又は細胞外ドメイン全体は、通常、(標準的な組換え遺伝子発現技術によって)発現が容易であり、タグ付け剤(3)の結合ドメイン(4)によって認識され得るエピトープを含む。細胞外フラグメントは、タグ付け剤と同じ又は異なるエピトープを有してもよい。組換え抗原(2’)が抗原(2)とエピトープを共有する場合(組換え抗原が、その配列中に、タグ付け剤(3)が抗原(2)において認識するエピトープを含むことを意味する)、本発明の方法は、(1種類の)タグ付け剤(3)のみを使用して実施することができる。場合によっては、組換え抗原(2)が抗原(2)とエピトープを共有しない場合(組換え抗原(2’)が、その配列中に、タグ付け剤(3)が抗原(2)において認識するエピトープを含まないことを意味する)、タグ付け剤(3)が表面抗原(2)の1つの細胞外ドメインに結合し、組換え抗原(2’)が異なる細胞外ドメイン(の一部/由来)であるならば、タグ付け剤(3)に加えて、異なる細胞外ドメインを認識する第2のタグ付け剤が本発明の
方法において使用される。
【0099】
連結分子(10)の純粋に例示的な一例を図7及び実施例7に示す。ここで、膜アンカーを含むシグナルペプチドを含まないヒトCD4細胞外ドメインは、Twin-Strep-tag(登録商標)と呼ばれるストレプトアビジン結合ペプチドに融合されている、すなわち、この連結分子(10)は、タグ付け剤(3)によって認識される可溶性形態のCD4を含む。この実例では、タグ付け剤(3)は、Twin-Strep-tag(登録商標)(リガンド)と呼ばれるストレプトアビジン結合ペプチドを担持するように修飾されたCD4を標的とする抗体である。もちろん、連結分子(10)はヒトCD4に限定されない。当業者は、実質的に全ての抗原又は細胞マーカーが本発明の方法内で使用することができることを容易に認識するであろう。抗原の配列が既知である場合、本明細書に記載のリガンドを担持するように改変することができる。更に、受容体分子のフラグメントを使用することができる。このフラグメントは、好ましくは可溶性であり、生物学的実体の表面上に存在する受容体分子の細胞外ドメイン又は細胞外ドメインの一部を含む。
【0100】
連結分子(10)を含む本発明の方法の一実施形態では、タグ付け剤は二価であり、すなわち、互いに連結された少なくとも2つの結合ドメイン(4)を含む。そのようなタグ付け剤は、図では参照符号(3’)によって参照される。図10に概略的に示されるように、タグ付け剤(3’)の一方の結合ドメインは、生物学的実体(1)上の表面抗原(2)に結合し、他方の結合ドメイン(4)は、連結分子(10)の組換え抗原(2’)に結合する。したがって、この特定の実施形態のタグ付け剤(3’)は、生物学的実体(1)を連結分子(10)と連結し、ここで、連結分子はビーズ(6)上に固定化されている。これにより、生物学的実体(1)がビーズ(6)上に間接的に固定化される。連結分子(10)のリガンド(5)とビーズ(6)上のリガンド結合パートナー(7)との相互作用、又はその逆が、競合試薬によって、又は物理化学的環境を変えることによって破壊され得るので、生物学的実体の溶出は依然として可能である。好ましくは、タグ付け剤(3’)の少なくとも2つの結合ドメイン(4)は、スペーサによって連結されている。好ましい実施形態では、タグ付け剤(3’)は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用の構成要素、例えばリガンド(5)を含まない。
【0101】
連結分子(10)がビーズ(6)へのタグ付け剤(3)の間接的結合を媒介する本発明の方法の一実施形態では、本方法は、表面抗原(2)及び組換え抗原(2’)を認識することができる少なくとも2つのタグ付け剤(3)を含み、少なくとも2つのタグ付け剤(3)は、上に概説したものと同じであっても異なっていてもよい。その更なる実施形態では、少なくとも2つのタグ付け剤(3)は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を介して担体(11)に結合する。この実施形態は、図7に概略的に示されている。少なくとも2つのタグ付け剤(3)は、上記のようにリガンド(5)とリガンド結合パートナー(7)との間に形成される非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介して担体(11)に固定化される。例えば、リガンド結合パートナー(7)を担体(11)に結合させることができ、リガンド(5)をタグ付け剤(3)内に含めることができる。すなわち、担体(11)は、少なくとも2つのタグ付け剤(3)に結合することができるので、足場を提供する。
【0102】
本発明の方法のこのような実施形態は、実施例7で例示的に行われており、CD4+細胞はヒトPBMCから精製されており、すなわち抗原(2)はCD4である。この手順は、少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)、すなわち共有結合したStrep-Tactin(登録商標)を有する高分子量デキストランである担体(11)を含む。タグ付け剤(3)は、抗ヒトCD4 Strepタグ付きFabフラグメントであり、結合ドメイン(4)はCD4 Fabフラグメントであり、タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)はStrep-tagである。これらのタグ付け剤(3)の少
なくとも2つは、Strep-tag(5)とStrep-Tactin(登録商標)(7)との間の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介してStrep-Tactin(登録商標)/デキストラン担体(10-7)上に固定化される。少なくとも2つのタグ付け剤(3)の一方は、生物学的実体上のCD4抗原(2)に結合し、他方のタグ付け剤(3)は、抗原認識相互作用(9)を介して連結分子(10)に結合する。連結分子(10)は、CD4タンパク質の組換え発現細胞外ドメインである抗原(2’)と、Twin-Strep-tag(登録商標)である非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)とを含むCD4-Twin-Strep-tag(登録商標)融合タンパク質である。ビーズ(6)は、リガンド結合パートナー(7)、すなわち連結分子(10)のTwin-Strep-tag(登録商標)、すなわちリガンド(5)によって結合されるStrep-Tactin(登録商標)でコーティングされる。図9に示すように、担体(11)として追加のデキストランポリマーを使用すると、デキストランポリマーなしの単離手順と比較して、PBMC(A、B)及び全血(C、D)から単離された標的細胞の収率が増加する。
【0103】
担体
図7に示すように、可溶性担体(11)は、リガンド(5)に可逆的に結合することができ、又はその逆も可能である複数の、すなわち少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)を含む。例示及び簡便性のみのために、以下では、担体はリガンド結合パートナー(7)が結合しているものとして記載されるが、タグ付け剤(3)はリガンド(5)を含むが、逆の場合も本発明に包含される。したがって、タグ付け剤(3)は、それらのリガンド(5)を介して担体(11)上のリガンド結合パートナー(7)に結合する。担体(11)と複数のタグ付け剤(3)とが結合すると、それらはタグ付け剤(3)の結合ドメイン(4)に対して多価結合複合体を形成する。
【0104】
例えば、米国特許第7,776,562号、米国特許第8,298,782号、国際出願公開第2002/054065号又は国際出願公開第2013/124474号に記載されているように、この多価結合複合体は、したがって、(一価)タグ付け剤単独の結合と比較して結合活性効果を提供し、それによって、単一形態では生物学的実体に安定に結合せず、表面抗原から急速に解離する低親和性一価タグ付け剤の使用を可能にする。本発明では、結合活性効果はまた、本明細書に記載の連結分子(10)の組換え抗原(2’)とタグ付け剤(3)との相互作用に重要である可能性がある。この多価複合体に含まれるそのように多量体化したタグ付け剤(3)は、生物学的実体(1)又は連結分子(10)に結合することができる。更に、結合活性効果のために、本発明の方法は、CD34又はCD56などの表面抗原が少ない細胞を単離するために特に有用であることを予想するのは賢明である。
【0105】
或いは、図13に示すように、可溶性担体(11)は、リガンド(5)及び更なるリガンド(12a)に可逆的に結合することができ、又はその逆も可能である複数の、すなわち少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)を含む。したがって、タグ付け剤(3)は、そのリガンド(5)を担体(11)上のリガンド結合パートナー(7)に結合し、ビーズ上の更なるリガンド(12a)は、担体上のリガンド結合パートナー(7)に結合する。この方法は、連結分子(10)、すなわちStrepタグ付き組換え抗原がビーズ(6)上に必要とされないが、更なるリガンド(12a)をビーズに直接結合させることができるという利点を有する。したがって、ビオチンアガロースは、一般的な市販品を使用することができる。図13に関して説明したように、担体(11)、すなわちビオチンアガロース(6)に結合した後のStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーは、タグ付け剤(3)のリガンド(5)、すなわち生物学的実体(1)の抗原(2)に結合することができ、ビオチン溶液で溶出することができるFabフラグメントのStrep-Tagに結合するのに十分な遊離結合部位を依然として有する。
【0106】
この方法は、エキソソームの単離に特に有用であり、したがって好ましい実施形態では、生物学的実体(1)はエキソソームである。
【0107】
本発明の一実施形態では、担体(11)は、リガンド結合パートナー(7)のオリゴマー化又は重合をもたらす、担体に結合したリガンド結合パートナー(7)を含む。更なる実施形態では、担体(11)に結合されたリガンド結合パートナー(7)は、ストレプトアビジン若しくはアビジン又はストレプトアビジン若しくはアビジンの任意の類似体である。一実施形態では、担体(11)は、リガンド結合パートナー(7)を架橋し、それによってリガンド結合パートナー(7)のオリゴマー又はポリマーを形成する多糖である。一実施形態では、ストレプトアビジン若しくはアビジン又はストレプトアビジン若しくはアビジンの類似体のオリゴマー又はポリマーは、本質的にNoguchi,A,et al.,Bioconjugate Chemistry 3(1992),132-137に記載されているように、第1の工程で多糖、例えばデキストランにカルボキシル残基を導入することによって調製される。次いで、ストレプトアビジン、アビジン又はそれらの類似体を、第2の工程において従来のカルボジイミド化学を使用して、内部リジン残基及び/又は遊離N末端の第一級アミノ基を介してデキストラン骨格中のカルボキシル基に連結することができる。それにもかかわらず、ストレプトアビジン若しくはアビジン又はストレプトアビジン若しくはアビジンの任意の類似体の架橋オリゴマー又はポリマーはまた、グルタルジアルデヒドなどのリンカーとして働く二官能性分子を介した架橋によって、又は当技術分野で記載されている他の方法によって得ることができる。イミノチオラン/SMCC、NHS活性化カルボキシデキストラン又はデンドリマーの使用は、当技術分野で確立された架橋技術の更なる例である。
【0108】
タグ付け剤(3)に含まれるリガンド(5)としてストレプトアビジン結合ペプチドを使用する場合、担体(11)上の多量体化リガンド結合パートナー(7)は、任意のストレプトアビジン変異タンパク質、例えば、上記で概説したストレプトアビジン変異タンパク質/類似体のいずれか、例えば、野生型ストレプトアビジンの配列位置44~47にアミノ酸配列Val44-Thr45-Ala46-Arg47(配列番号13)を含むストレプトアビジン変異タンパク質、又は野生型ストレプトアビジンの配列位置44~47にストレプトアビジン変異タンパク質(類似体)Ile44-Gly45-Ala46-Arg47(配列番号14)を含むストレプトアビジン変異タンパク質であってもよい。このような変異タンパク質は、例えば米国特許第6,103,493号に記載されており、Strep-Tactin(登録商標)の商標名で、変異タンパク質「m1」及び変異タンパク質「m2」の形態で市販されている。そのような多量体ストレプトアビジン変異タンパク質は、多量体化Strep-Tactin(登録商標)と呼ばれることもある。少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)が結合した担体(11)の別の例は、複合分枝グルカンに結合した本明細書に記載のストレプトアビジン変異タンパク質であってもよい。例示的な実施形態では、「Strep-Tactin(登録商標)」の商標で入手可能なストレプトアビジン変異タンパク質を、カップリング試薬としてジビニルスルホンを使用してデキストラン(例えば500,000DaのMW)に結合させて、Strep-Tactin(登録商標)が結合した担体(11)を形成する。
【0109】
一実施形態では、カップリング反応は、デキストラン1モル当たり約60モルのストレプトアビジン又はストレプトアビジン変異タンパク質のモル比で行われる。ストレプトアビジンのオリゴマー若しくはポリマー、又はストレプトアビジン変異タンパク質の他の例示的な例としては、可溶性担体として作用し、国際出願公開第2015/158868号に記載されている2種類の可溶性オリゴマーStrep-Tactin(登録商標)変異タンパク質が挙げられる。このオリゴマー型Strep-tactin(登録商標)の第1の種類は、国際出願公開第2015/158868号の実施例5に記載されているオリ
ゴマー型ストレプトアビジン変異タンパク質の画分(n≧3)であってもよい。可溶性担体として使用される第2の種類のこのようなオリゴマーストレプトアビジン変異タンパク質は、可溶性オリゴマーストレプトアビジン変異タンパク質をビオチン化ウシ血清アルブミン(BSA)と反応させることによって、又は可溶性オリゴマーストレプトアビジン変異タンパク質を可溶性ポリエチレングリコール(PEG)分子で架橋することによって得られるオリゴマーであってもよい。これらのBSA又はPEGベースの従来のStreptactin多量体可溶性担体は、国際出願公開第2015/158868号では「大型Strep-Tactin(登録商標)骨格」とも呼ばれる。担体の更なる例示的な例は、国際出願公開第2012/044999号に記載されている。
【0110】
デキストランは、主にC-1→C-6のグリコシド結合を有する微生物起源の分岐ポリ-α-D-グルコシドとして定義される(IUPAC.Compendium of Chemical Terminology,2nd ed.(the Gold Book).Compiled by A.D.McNaught and A.Wilkinson.Blackwell Scientific Publications,Oxford(1997).Online version(2019-)created by S.J.Chalk)。したがって、それらは、α(1-6)で結合したグルコース残基及びα(1-3)で分岐したグルコース残基のみで構成されるホモ多糖である。デキストランには、その分子量(3~3000kDa)に応じて広範囲の種類がある(Tabernero,A.,et al.’’Microbial exopolisaccharides for biomedical applications.’’ Materials for Biomedical Engineering.Elsevier,2019.165-219)。水及び様々な他の溶媒(例えばDMSO、ホルムアミド)への一般的な溶解性、生体適合性、及び特定の物理的環境での分解能力のために、デキストランは医療及び生物医学分野で既に首尾よく適用されている(Heinze
et al.’’Functional polymers based on dextran.’’ Polysaccharides Ii.Springer,Berlin,Heidelberg,2006.199-291、DeBelder ’’Medical applications of dextran and its derivatives.’’ In:Dimitriu S(ed)Polysaccharides in medicinal applications.Marcel Dekker,New York,1996,p505)。Heinzeら(2006)によって記載されているように、デキストランの重量平均分子量(Mw)は、光散乱、超遠心分離、中性子線小角散乱及び粘度測定によって決定することができる。膜浸透測定及び末端基分析により、数平均分子量(Mn)に関する情報が得られる。天然デキストランは、一般に、9×106~5×108g/molの範囲の高い平均分子量を有し、高い多分散性を有する。デキストランの多分散性は、分岐密度の増加の結果として分子量と共に増加する。しかし、定義された分子量画分は、多くの現在の用途にとって重要である。その後の分子量測定による分画沈殿の他に、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、分子量分布(MWD)の分析に有用なツールである。
【0111】
上記のように、本発明の方法のリガンド結合パートナー(7)などの非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を形成することができる構成要素とコンジュゲートしたデキストランポリマーは、リガンド結合パートナー(7)のオリゴマー化/重合のための担体分子として作用する生物学的実体を単離する方法において有用である。実施例7及び図9に示すように、単離方法において担体を使用することにより、目的細胞の収率が向上する。
【0112】
したがって、更なる態様では、本発明は、共有結合したリガンド結合パートナー(7)、好ましくはストレプトアビジン又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも2つの分子を含むデキストランポリマーであって、タグ付け剤(3)に結合することができ、好まし
くはストレプトアビジン結合ペプチドを含むデキストランポリマーに関する。或いは、本発明は、共有結合リガンド結合パートナー(7)、好ましくはタグ付け剤(3)に結合することができるストレプトアビジン又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも2つの分子を含むデキストランポリマーであって、好ましくはストレプトアビジン結合ペプチドを含み、更に、好ましくはビオチンである更なるリガンド(12a)に結合することができるデキストランポリマーに関する。本発明によれば、デキストランポリマーは、約500kDa~3,000kDa、好ましくは約1,000kDa~2,700kDa、より好ましくは約1,500kDa~2,500kDaの分子量を有する。
【0113】
デキストランポリマーに共有結合する構成要素、すなわちリガンド結合パートナー(7)並びにリガンド結合パートナー(7)に結合するタグ付け剤(3)、及びリガンド結合パートナー(7)に結合する更なるリガンド(12a)は、それぞれ本明細書の他の箇所に記載されている。ストレプトアビジン誘導体が結合したデキストランポリマーの例は、上記の本明細書に記載されており、本発明の範囲内である。更に、デキストラン誘導体及びコンジュゲートの合成を含むデキストランの化学修飾は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる上記のHeinzeら(2006)に概説されている。リガンド結合パートナーと結合したデキストランポリマーを調製する方法は、当技術分野で公知である(Hermanson,G.T.Bioconjugate techniques.Elsevier、Rockford,Il:2008.The chemistry of
reactive groups;p.188、Porath,J.(1974)General methods and coupling procedures.Meth.Enzymol.34,13-30)。国際出願公開第1993/001498号に記載されているように、デキストランは、本発明の方法に含まれるリガンド結合パートナーなどの分子種、特に本明細書で定義されるアビジン又はストレプトアビジン類似体が共有結合できるジビニルスルホン(DVS)によって修飾することができ、例えば、国際出願公開第1993/001498号の実施例31を参照されたい。
【0114】
本発明のデキストランポリマーの更なる実施形態では、デキストランポリマーは、本明細書に記載される本発明の生物学的実体を単離する方法のいずれかで担体(11)として使用される。本発明によるデキストランポリマーは、ヒト血液試料からCD4+細胞、CD3+細胞及びエキソソームをそれぞれ単離するために、以下及び実施例6に記載の本発明のクロマトグラフィー法、並びに実施例7、9及び10の非クロマトグラフィー法に使用されている。
【0115】
本発明によれば、デキストランポリマーは、2つ、3つ、4つ以上の異なるリガンド結合パートナー(7)を含むことができ、2つ以上のCD受容体によって定義されるT細胞の集団などの、2つ以上の表面抗原を介した生物学的実体の集団の精製を可能にし、上記のセクション「表面抗原」を参照されたい。したがって、少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)が共有結合し、それによってリガンド結合パートナー多量体、例えばデキストラン/Strep-Tactin(登録商標)多量体を形成するデキストランポリマーは、Strepタグ付き完全抗体、Fabフラグメント又はナノボディなどの様々なタグ付け剤に結合して固定化する二価、三価又は多価結合分子としての汎用ツールを表す。これらを化学量論的混合物中で使用して、異なる抗原に対する異なる結合ドメインを有するデキストランベースの高分子を提供することができる。
【0116】
しかし、デキストランベースのStrep-Tactin(登録商標)多量体の代わりに、Strep-Tactin(登録商標)自体を共有結合させて多量体を形成することができ、その上に、例えばStrep-tag(登録商標)及び結合ドメインを含む異なるタグ付け剤を、上記の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を介して固定することができる。Strep-Tactin(登録商標)分子を連結する方法は、Herma
nson,G.T.(2008)Bioconjucate techniques(2nded.),Elsevierに記載されている。
【0117】
クロマトグラフィー法
更なる態様では、本発明は、上記で定義された構成要素を含む生物学的実体を単離するためのクロマトグラフィー方法に関する。この方法の根底にある原理は、図7に概略的に示されており、すなわち、この原理及びそこに示されている構成要素は、自由に移動可能なビーズを使用する上記の非クロマトグラフィー法によって生物学的実体を単離するのに適しているだけでなく、クロマトグラフィー法によっても適しており、例えば、ビーズは固定相として充填されるか、又は以下に定義される同等の固定相が使用される。したがって、上記の生物学的実体(1)、抗原(2、2’)、タグ付け剤(3)、結合ドメイン(4)、リガンド結合パートナー(7)、リガンド(5)、連結分子(10)、担体(11)、試料、生物学的実体(1)の放出、及び容器に関する詳細は、本方法にも適用される。
【0118】
したがって、本発明のこの態様では、生物学的実体を単離する方法が提供され、方法は、
(i)生物学的実体(1)を含む試料であって、生物学的実体(1)が表面抗原(2)を含む、試料、
(ii)抗原(2’)及び非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のための構成要素を含む連結分子(10)であって、好ましくは構成要素がリガンド(5)である、連結分子、
(iii)生物学的実体上の抗原(2)又は連結分子(10)に含まれる抗原(2’)に特異的に結合することができる少なくとも1つの結合ドメイン(4)をそれぞれ含む少なくとも2つのタグ付け剤(3)、
(iv)非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用のための少なくとも2つの構成要素を含む担体(11)であって、好ましくは構成要素がリガンド結合パートナー(7)である、担体、
(vi)タンパク質-リガンド相互作用を形成することができる構成要素を含む固定相であって、好ましくは構成要素がリガンド結合パートナー(7)である、固定相、を提供することを含む。
【0119】
次いで、試料、連結分子(10)、タグ付け剤(3)、担体(11)及び固定相を容器内でインキュベートし、図7に示すような複合体を生物学的実体(1)、タグ付け剤(3)、連結分子(10)、担体(11)及び固定相の間に形成し、タグ付け剤(3)を介した生物学的実体(1)の担体(11)への結合並びに連結分子(10)の担体(11)及び固定相への結合は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)によって媒介される。複合体形成は、生物学的実体(1)の固定相への固定化をもたらす。生物学的実体(1)をクロマトグラフィー手順によって精製し、生物学的実体(1)を担体(11)及びタグ付け剤(3)からそれぞれ放出することによって単離する。
【0120】
実施例6に記載されるように、クロマトグラフィー法において結合活性効果を誘導する担体として使用されるデキストラン分子は、驚くべきことに、CD4+細胞の非常に効率的な単離をもたらし、図8を参照されたい。
【0121】
或いは、上記のクロマトグラフィー法に関して、本発明は、図10に概略的に示される構成要素及び原理に基づくクロマトグラフィー法に関し、すなわち、この原理及びそこに示されている構成要素は、自由に移動可能なビーズを使用する上記の非クロマトグラフィー法によって生物学的実体を単離するのに適しているだけでなく、クロマトグラフィー法によっても適しており、例えば、ビーズは固定相として充填されるか、又は以下に定義さ
れる同等の固定相が使用される。したがって、本発明のこの態様では、生物学的実体を単離する方法が提供され、方法は、
(i)生物学的実体(1)を含む試料であって、生物学的実体(1)が表面抗原(2)を含む、試料、
(ii)抗原(2’)及び非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用を形成することができる構成要素を含む連結分子(10)であって、好ましくは構成要素がリガンド(5)である、連結分子、
(iii)生物学的実体上の抗原(2)及び連結分子(10)に含まれる抗原(2’)に特異的に結合することができる2つの結合ドメイン(4)を含むタグ付け剤(3’)、
(vi)タンパク質-リガンド相互作用を形成することができる構成要素を含む固定相であって、好ましくは構成要素がリガンド結合パートナー(7)である、固定相、を提供することを含む。
【0122】
試料、連結分子(10)、タグ付け剤(3’)及びビーズ(6)を容器内でインキュベートし、図10に示すような複合体を生物学的実体(1)、タグ付け剤(3’)、連結分子(10)及びビーズ(6)の間に形成し、タグ付け剤(3’)及び連結分子(10)を介した生物学的実体(1)の固定相への結合は、非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用によって媒介され、生物学的実体(1)は固定相に固定化される。生物学的実体(1)をクロマトグラフィー手順によって精製し、及び/又は生物学的実体(1)を固定相及びタグ付け剤(3’)からそれぞれ放出することによって単離する。
【0123】
上記の生物学的実体(1)、抗原(2、2’)、タグ付け剤(3)、結合ドメイン(4)、リガンド結合パートナー(7)、リガンド(5)、連結分子(10)、試料、生物学的実体(1)の放出、及び容器に関する詳細は、本方法にも適用される。図では、対応する方法を概略的に表している。図7及び図10において、非クロマトグラフィー法のビーズ(6)は、クロマトグラフィー法の固定相に相当する。
【0124】
両方のクロマトグラフィー法において、クロマトグラフィーは、単離される生物学的実体を含有する流体試料が、例えば重力流によって、又はクロマトグラフィーマトリックス、例えば固定相として充填されたビーズを含有するカラムの一端にポンプによってアプライされ、流体試料がカラムの他端でカラムを出るフロースルーモードで行うことができる。更に、クロマトグラフィーは、単離される細胞を含有する流体試料を、例えばピペットチップ内に充填されたクロマトグラフィーマトリックスを含有するカラムの一端にピペットによってアプライし、カラムの他端で流体試料がクロマトグラフィーマトリックス/ピペットチップに出入りする「アップダウン」モードで行うことができる。
【0125】
材料が細胞のクロマトグラフィー単離に適している限り、本発明の文脈において固定相として任意の材料を使用することができる。適切なクロマトグラフィー材料は、細胞単離及び/又は細胞分離のための所望の条件下で充填クロマトグラフィーカラムで使用される場合、少なくとも本質的に無害である、すなわち細胞生存率(又は生物学的実体の生存率若しくは安定性)に有害ではない。本発明で使用されるクロマトグラフィーマトリックスは、所定の場所、典型的には所定の位置に留まるが、分離される試料及びその中に含まれる構成要素の場所は変更されている。したがって、本発明のクロマトグラフィー方法の文脈における「固定相」は、移動相が流れ、相間の液相(溶解又は分散のいずれか)に含有される構成要素の分配が起こるクロマトグラフィーシステムの一部である。
【0126】
典型的には、それぞれの固定相又はクロマトグラフィーマトリックスは固体又は半固体相の形態を有するが、単離/分離される生物学的実体を含有する試料は流体相である。クロマトグラフィー分離を達成するために使用される移動相は、同様に流体相である。クロマトグラフィーマトリックスは、(任意の適切なサイズ及び形状の)任意の微粒子材料、
又は紙基材若しくは膜を含むモノリシックなクロマトグラフィー材料であってもよい。したがって、クロマトグラフィーはカラムクロマトグラフィー及び平面クロマトグラフィーの両方であってもよい。標準的なクロマトグラフィーカラムに加えて、双方向フローを可能にするカラム、例えば、米国カリフォルニア州サンノゼのPhyNexus,Inc.から入手可能なPhyTip(登録商標)カラム又はピペットチップを、本明細書中に記載されるようなカラムベース/フロースルーモードベースの細胞のクロマトグラフィー分離のために使用することができる。したがって、双方向フローを可能にするピペットチップ又はカラムはまた、本明細書で使用される「クロマトグラフィーカラム」という用語に包含される。粒子状マトリックス材料が使用される場合、粒子状マトリックス材料は、約5μm~約200μm、又は約5μm~約400μm、又は約5μm~約600μmの平均粒径を有する粒子の混合物であってもよい。以下で詳細に説明するように、クロマトグラフィーマトリックスは、例えば、ポリマー樹脂、金属酸化物、又は半金属酸化物であってもよいか、又はそれらを含有することができる。平面クロマトグラフィーが使用される場合、マトリックス材料は、平面クロマトグラフィーに適した任意の材料、例えば従来のセルロースベース若しくは有機ポリマーベースの膜(例えば、紙膜、ニトロセルロース膜又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜)又はシリカコーティングガラス板であってもよい。一実施形態では、クロマトグラフィーマトリックス/固定相は、非磁性材料又は非磁化可能材料である。
【0127】
当技術分野で使用され、本発明に適している非磁性又は非磁化可能クロマトグラフィー固定相としては、誘導体化シリカ又は架橋ゲルが挙げられる。架橋ゲル(典型的にはビーズ形態で製造される)は、天然ポリマー、すなわち天然に存在するポリマークラスに基づいてもよい。例えば、クロマトグラフィー固定相が基づく天然ポリマーは多糖である。それぞれの多糖は、一般に架橋されている。多糖マトリックスの例は、アガロースゲル(例えば、様々なビーズ及び孔径で市販されているSuperflow(商標)アガロース又はSuperflow(登録商標)Sepharose(商標)などのSepharose(登録商標)材料)又は架橋デキストランのゲルである。更なる実例は、共にGE Healthcareから入手可能なSephadex(登録商標)又はSuperdex(登録商標)として(様々なビーズサイズ及び様々な孔サイズで)市販されている、デキストランが共有結合している粒子状架橋アガロースマトリックスである。そのようなクロマトグラフィー材料の別の例示的な例は、GE Healthcareから様々なビーズ及び孔径でも入手可能なSephacryl(登録商標)である。
【0128】
架橋ゲルはまた、合成ポリマー、すなわち天然には存在しないポリマークラスに基づくことができる。通常、細胞分離のためのクロマトグラフィー固定相が基づくそのような合成ポリマーは、極性モノマー単位を有し、したがってそれ自体極性であるポリマーである。そのような極性ポリマーは親水性である。疎油性とも呼ばれる親水性分子は、水分子と双極子-双極子相互作用を形成することができる部分を含む。親油性とも呼ばれる疎水性分子は、水と分離する傾向がある。
【0129】
適切な合成ポリマーの実例は、ポリアクリルアミド、スチレン-ジビニルベンゼンゲル、及びアクリラートとジオールとのコポリマー、又はアクリルアミドとジオールとのコポリマーである。例示的な例は、Fractogel(登録商標)として市販されているポリメタクリラートゲルである。更なる例は、Toyopearl(登録商標)として市販されているエチレングリコールとメタクリレートとのコポリマーである。いくつかの実施形態では、クロマトグラフィーマトリックスはまた、天然及び合成ポリマー構成要素、例えば、複合マトリックス、又は多糖とアガロースとの複合体若しくはコポリマー、例えばポリアクリルアミド/アガロース複合体、又は多糖とN,N’-メチレンビスアクリルアミドとのコポリマーを含むことができる。デキストランとN,N’-メチレンビスアクリルアミドとのコポリマーの例示的な例は、上述のSephacryl(登録商標)シリー
ズの材料である。誘導体化シリカは、合成又は天然ポリマーに結合したシリカ粒子を含むことができる。そのような実施形態の例としては、多糖グラフトシリカ、ポリビニルピロリドングラフトシリカ、ポリエチレンオキシドグラフトシリカ、ポリ(2-ヒドロキシエチルアスパルトアミド)シリカ及びポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)グラフトシリカが挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
本発明で使用されるクロマトグラフィーマトリックスは、いくつかの実施形態では、ゲル濾過(サイズ排除としても知られる)マトリックスである。ゲル濾過は、分離される細胞との相互作用を少なくとも本質的に受けないように設計されているという特性によって特徴付けることができる。したがって、ゲル濾過マトリックスは、細胞又は本明細書で定義される他の生物学的実体の分離を、それらのサイズに主に基づいて行うことができる。それぞれのクロマトグラフィーマトリックスは、典型的には、上述の粒子状多孔質材料である。クロマトグラフィーマトリックスは、特定の排除限界を有することができ、これは典型的には、それを超えると分子が細孔に入るのを完全に排除される分子量に関して定義される。サイズ排除限界を定義するそれぞれの分子量は、単離される生物学的実体の重量に対応する重量を下回るように選択することができる。そのような実施形態では、生物学的実体は、サイズ排除クロマトグラフィーマトリックスの細孔に入ることが防止される。同様に、アフィニティークロマトグラフィーマトリックスである固定相は、選択された生物学的実体のサイズよりも小さいサイズの細孔を有してもよい。例示的な実施形態では、アフィニティークロマトグラフィーマトリックス及び/又はゲル濾過マトリックスは、0~約500nmの平均孔径を有する。
【0131】
タグ付け剤(3)、連結分子(10)、担体(11)又は競合試薬などの方法に存在する他の構成要素は、細孔の排除限界未満のサイズを有してもよく、これはサイズ排除クロマトグラフィーマトリックスの細孔に入ることができる。部分的又は完全に細孔容積に入ることができるそのような構成要素のうち、細孔容積へのアクセスが少ないより大きな分子が通常最初に溶出するが、最小の分子は最後に溶出する。いくつかの実施形態では、サイズ排除クロマトグラフィーマトリックスの排除限界は、生物学的実体の最大幅を下回るように選択される。したがって、細孔容積へアクセスできる構成要素は、通常、生物学的実体よりもサイズ排除クロマトグラフィーマトリックス中/上に長く残る。したがって、生物学的実体は、試料の他の物質/構成要素とは別個にクロマトグラフィーカラムの溶出液に収集することができる。したがって、タグ付け剤(3)、担体(11)又は連結分子(10)などの構成要素、又は該当する場合、競合試薬は、生物学的実体よりも遅い時点でゲル濾過マトリックスから溶出する。
【0132】
本発明のクロマトグラフィー方法は、「標準モード」で操作されるFABian(登録商標)デバイスなどの装置を使用して実施することができ、これは「移動バッチモード」と比較して低い試料取り込み及び放出速度のために試料内のビーズの連続的な浮遊を可能にせず、実施例4及び6、並びに図5及び8を参照されたい。
【0133】
キット
本発明はまた、例えば、上記で詳述した方法を実施するために設計されたキットに関する。キットは、本明細書で定義されるように、少なくとも1つのタグ付け剤(3、3’)、ビーズ(6)、担体(11)、連結分子(10)、更なるリガンド(12/12a)、更なるリガンド結合パートナー(13)、洗浄緩衝液及び/又は競合剤を含むことができる。例えば、キット内に含まれるビーズ(6)は、リガンド結合パートナー(7)をその上に固定化することができる。キットは、例えば、タグ付け剤(3、3’)、例えば溶液で満たされた容器を含むことができる。本発明のクロマトグラフィー方法の場合、キットはまた、本明細書に記載されるような固定相を含むことができ、固定相は、カートリッジなどのカラムに(予め)充填されていてもよい。そのような固定相及び/又は容器に関連
して、いくつかの実施形態では、本発明による方法を実施するためのキットの使用方法に関する説明書の形態で通知が提供される。
【0134】
装置
更なる態様では、本発明は、本発明の上記の方法のいずれかを実施するための装置に関し、装置は、本発明の生物学的実体を単離する方法を実施するように設計された構成を含む。特に、装置は、容器のためのホルダ、液体の供給及び受け取りのためのレセプタクル、容器内に存在する液体内でビーズ(6)を上下に浮遊させることを可能にするように構成された、レセプタクルから容器に液体を供給及び受け取るためのデバイス、並びに容器の一方の開口部を通して液体を浸漬し、圧送し、排出し、ビーズ(6)が適所に保持されている間に液体を排出するための手段を含む。
【0135】
本発明の例示的な装置は、Cell.Copedia GmbHによって提供されるFABian(登録商標)デバイス、又は「移動バッチ法」の場合の蠕動ポンプである。FABian(登録商標)デバイスは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際出願公開第2016/092025号に詳細に記載されている。特に、装置は、とりわけ、シリンジ本体アタッチメントが可逆的に取り付けられたシリンジ本体を含むシリンジハウジングを含み、シリンジ本体は、シリンジ本体アタッチメントへの液体の取り込み及びシリンジ本体アタッチメントからの液体の放出のためのピペッティングプロセスを実行する。それにより、非クロマトグラフィー法のためのビーズ及びクロマトグラフィー法のための固定相は、それぞれ、最初にシリンジ本体アタッチメントに添加され、シリンジ本体アタッチメントは、ビーズがシリンジ本体アタッチメントから離れるのを防ぐ膜を底縁部に含む。特に、クロマトグラフィー法のためのシリンジ本体アタッチメントは、固定相がカラム内で浮遊するのを防止する固定相の上に別の膜を含む。したがって、通常、固定相はシリンジ本体アタッチメント内に予め充填される。本発明のクロマトグラフィー方法の場合、FABian(登録商標)デバイスは、https://www.iba-lifesciences.com/download-area-cell.htmlで入手可能な標準プログラムの1つで操作することができる。標準モードでは、ビーズは試料内で連続的に浮遊せず、したがって、移動相としての試料が固定相としてのビーズを通過する従来のクロマトグラフィー法を表す。実施例6では、FABian(登録商標)デバイスは、デキストラン抗体ポリマーを使用してヒト血液からCD4+細胞を精製するために、(図5Cに示すように)「標準モード」で使用されている。
【0136】
本明細書に開示される非クロマトグラフィー法については、「移動バッチモード」と呼ばれる新規なプログラムが開発されており、このプログラムでは、本質的に、試料の取り込み及び放出の速度が標準モードにおける取り込みについての0.48ml/分及び放出についての0.39ml/分から、移動バッチモードにおける取り込みについての1.84ml/分及び放出についての0.74ml/分(高速放出については1.59ml/分)に増加されており、標準モードについての図5Cと移動バッチモードについての図6Bとを比較されたい。更に、「移動バッチモード」について、国際出願公開第2016/092025号に開示されている装置は、ビーズが自由に移動できるようにするために、シリンジ本体アタッチメントの底部には1つの膜のみが存在し、ビーズの上にある他の膜は存在しないという点で修正されている。FABian(登録商標)デバイスの移動バッチモードは、CD81+及びCD4+などの標的細胞並びにエキソソームが高純度で効率的に単離されている、実施例5~8において本発明による生物学的実体を単離する方法に適していることが例示的に示されており、図6図9及び図12を参照されたい。有利には、FABian(登録商標)デバイスを使用すると、細胞などのより大きな生物学的実体に必要な完全なプログラムの時間と比較して、半分の時間以内にエキソソームを迅速に単離することができる。
【0137】
上記の開示は、本発明を一般的に説明している。本明細書の本文を通していくつかの文献が引用されており、その全ての内容(背景技術の項の開示及び製造業者の仕様書、説明書などを含む、本出願を通して引用された文献、発行された特許、公開及び特許出願を含む)は、参照により本明細書に明示的に組み込まれるが、引用された文献が実際に本発明に関する先行技術であることを認めるものではない。
【0138】
より完全な理解は、例示のみを目的として本明細書に提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない以下の具体例を参照することによって得ることができる。
【実施例
【0139】
実施例1:アガロースビーズの調製
IBA GmbHからのアガロースビーズなどの細胞単離のために市販されているビーズは、約30μm~約180μm、最大80~120μmの様々な直径を有するビーズの混合物でである(図1)。アガロースビーズの特定の画分を得るために、市販のアガロースビーズを適切なナイロンメッシュでふるい分けした。例えば、40~60μm(「小型ビーズ」)と140~180μm(「大型ビーズ」)との間のビーズ画分を、本発明に従って行われる以下の実験に使用した。
【0140】
実施例2:様々なアガロースビーズ画分を使用する従来の細胞クロマトグラフィー
従来から適用されている細胞単離手順の結果に対する粒径の影響を評価するために、イムノアフィニティークロマトグラフィー(IAC)を、様々なサイズのアガロースビーズ画分に適用した。アガロースビーズ(細胞グレード、ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)を、実施例1に記載の標準サイズ(約80~120μm)及び小型画分又は大型画分で使用した。底部にフリットを有するプラスチックカラム(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)を、Strep-Tactin(登録商標)及びCD81に対するFabでコーティングした0.5mlのアガロースを充填した。緩衝液CI(PBS、1mM EDTA、0.5%BSA)で1:1に希釈し、40μmナイロンふるいで濾過した5mlのヒト血液を同時にカラムにアプライした。図2から分かるように、結合細胞がカラムを通る流れを遮断するので、小型ビーズ(左カラム)はクロマトグラフィーカラムを流れることができない。標準サイズのビーズ(中央のカラム)は、速度を遅らせてクロマトグラフィーが可能であるが、大型サイズのビーズ(右のカラム)は、遅らせることなく血液を迅速に通過させることが可能である。標準サイズのビーズを使用すると、CD81+細胞を単離することができたが、大型ビーズを使用すると、1mMビオチンを含有する緩衝液CIでカラムを溶出した後、ビーズからCD81+細胞を本質的に単離することができなかった。
【0141】
実施例3:ヒトPBMCからのCD3+細胞の濃縮
CD3+細胞を、抗体コーティングアガロースビーズを含む試薬チューブ中でヒトPBMCから非クロマトグラフィーにより単離した。特に、ビーズ直径が約40~60μmのStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)、すなわち前述の「小型ビーズ」0.5mlを、30mlチューブ(ドイツNurnbrechtのSarstedt AG&Co.KG)中で22.5μgの抗ヒトCD3 Strepタグ付きFabフラグメント(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)と混合し、揺動テーブルシェーカ(Unitwist RT、ドイツプラネグのUniEquip Laborgeratebau-und Vertriebs GmbH)上で可能な限り低い速度(100回/分)で5分間インキュベートした。ビーズを重力により沈降させた後、上清をピペッティングにより除去し、廃棄した。1mlのPBMC(1.57×107細胞)をCD3-Fab/アガロースビーズに添加し、シェーカ上で可能な限り低い速度で5分間インキュベートした。ビーズを2分間沈降させた後、上清を枯渇画分として回収した。ビーズを5mlの洗浄緩衝液(CI緩衝液
:PBS、0.5%BSA、1mM EDTA)で3回洗浄し、上清を洗浄画分として回収した。細胞溶出を、CI緩衝液(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)中の5mlの1mMビオチンを2回使用して行った。ビーズをビオチンインキュベーション中に振盪下で5分間インキュベートし、上清を陽性画分として回収した。それにより、「ピペットマン」及び10若しくは5mlピペット又は1mlピペットチップを使用して上清を除去し、チップの上部に30μmの孔径を有するナイロンふるいを接着して、残った未沈降ビーズを遠ざけた。CD3-PeCy7及びCD45-eFluor450抗体(いずれも米国カリフォルニア州サンディエゴのeBioscience,Inc.製)で染色した後、CyAnTM ADPフローサイトメータ(米国カリフォルニア州ブレアのBeckman Coulter)を使用してFACS分析を行った。
【0142】
CD3+細胞の濃縮を、出発画分、枯渇/洗浄画分及び陽性画分のドットプロット(A)及び棒グラフ(B)で図4に示す。濃縮は、最大98%の純度及び最大59%の収率で行った。示されるように、この手順は、上清中の細胞を高純度及び高収率でもたらす。
【0143】
図3に示す概略図に対応するこの実験では、生物学的実体(1)はCD3+細胞であり、すなわち抗原(2)はCD3である。タグ付け剤(3)は、抗ヒトCD3 Strepタグ付きFabフラグメントであり、結合ドメイン(4)はCD3 Fabフラグメントであり、タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)はStrep-tagである。ビーズ(6)は、Strep-Tactin(登録商標)であるリガンド結合パートナー(7)でコーティングされている。
【0144】
実施例4:「標準モード」における半自動化デバイスFABian(登録商標)でのバフィーコートからのCD3+細胞の濃縮
クロマトグラフィー法として実施された図3に概略的に可視化された手順が生物学的実体の精製に最適ではないことを示すために、実施例3に記載されるCD3+細胞を単離するための本質的に同じ構成要素を使用し、FABian(登録商標)デバイス(ドイツライプツィヒのCell.Copedia GmbH)にアプライした。特に、CD3+細胞を、「標準モード」のFABian(登録商標)デバイスを使用して、すなわち、ビーズ直径90μm(+/-50μm)のStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)0.5mlを用いて、図5C図5Dに提供されている使用説明書(プログラムA)に従ってクロマトグラフィー法でバフィーコートから単離した。それにより、「標準モード」FABian(登録商標)機器を以下の、位置1については4.2mlの洗浄緩衝液(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)中の22.5μgの抗ヒトCD3 Strepタグ付きFabフラグメント(IBA GmbH)、位置2については4.25mlのバフィーコート(洗浄緩衝液で1:1の比で希釈)、位置3、4及び10については空のチューブ、位置5、6、7及び8についてはそれぞれ9ml、6ml、9ml及び2mlの洗浄緩衝液、位置9及び11については6mlの1mMビオチン溶液のように調製した。FABian(登録商標)プログラムAを使用した。CD3-APC及びCD45-PerCP/Cy5.5抗体(いずれも米国カリフォルニア州サンディエゴのBioLegend製)を用いて、CytoFLEXフローサイトメータ(米国カリフォルニア州ブレアのBeckman Coulter)を使用してFACS分析を行った。CD3+細胞の濃縮を、図5に、示された画分のドットプロット(A)及び棒グラフ(B)として示す。実験は、最大51%の純度及び最大63%の収率で行った。
【0145】
図5に示すデータは、「標準モード」におけるFABian(登録商標)デバイスの使用が、血液試料からの生物学的実体の単離に最適な条件を提供しないことを示している。以下の実施例に示すように、より小型ビーズの使用を含むFABian(登録商標)デバイスの「標準モード」から「移動バッチモード」に切り替えることによって、純度及び収
率を改善することができる。
【0146】
実施例5:小型ビーズ及び大型ビーズを用いた半自動化FABian(登録商標)デバイスを使用したバフィーコートからのCD81+細胞の精製。
上述のように、実施例4では、FABian(登録商標)デバイスを使用したT細胞精製の条件は適応を必要とし、その結果、FABian(登録商標)デバイスの「移動バッチモード」が確立された。移動バッチプロセスは、以下で詳細に説明するように、緩衝液及び血液を新たに最適化された選択速度で上下に吸引することによって、FABian(登録商標)デバイスで達成され、これにより、ビーズを連続的な動きに保つ。40~60μm及び140~200μmの直径を有するアガロースビーズが使用されている。両方の画分を、標準的なIBA GmbH Strep-Tactin(登録商標)コーティングビーズをふるい分けすることによって得て、実施例1を参照されたい。FABian(登録商標)機器は、「移動バッチモード」と呼ばれる様々な時間間隔及びフロースルー速度を有するプログラムが使用されたことを除いて、その標準的な構成で使用された(図6B~Cを参照されたい)。
【0147】
Strep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ(0.5ml)を最初に22.5μgのCD81 Strepタグ付きFabフラグメント(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)と5分間インキュベートし、次いで緩衝液CI(PBS中5%BSA pH7.4、1mM EDTA)で洗浄して未結合Fabを除去した。次いで、ビーズを、緩衝液で1:1に希釈した4.5mlバフィーコートと共に、連続的な吸い上げ及び吸い下げ間隔下で15分間インキュベートした。これに続いて、5mlの緩衝液を使用して3回洗浄サイクルを行い、それぞれ未結合細胞を除去した。次いで、結合した細胞を、1mmビオチンを含有する緩衝液CI中で5分間インキュベートした。CD81に対応するマーカーを用いて、上記の実施例4に記載されるようにFACS分析を行った。
【0148】
図6は、FABian(登録商標)デバイスの「移動バッチモード」の状況で小型ビーズを使用すると、高収率及び高純度で血液から効率的なT細胞精製が得られることを示しているが、直径が140μmを超える大型ビーズは、ほとんど無視できる収率を示し、市販のアガロースビーズに存在するような大型ビーズは細胞に結合しないため、すなわち収率はわずかであり、収率は不完全なふるい分けによって画分に残った小型ビーズに由来し得るため、使用を回避すべきであることが確認される。
【0149】
図3に示す概略図に対応するこの実験では、生物学的実体(1)はCD81+細胞であり、すなわち抗原(2)はCD81である。タグ付け剤(3)は、抗ヒトCD81 Strepタグ付きFabフラグメントであり、結合ドメイン(4)はCD81 Fabフラグメントであり、タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)はStrep-tagである。ビーズ(6)は、Strep-Tactin(登録商標)であるタンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド結合パートナー(7)でコーティングされている。
【0150】
実施例6:デキストラン抗体ポリマーを使用したヒト血液からのCD4+細胞の精製
標準的な方法(Hermanson,G.T.(2008)Bioconjucate
techniques(2nded.),Elsevier)を使用して、デキストラン(MW500.000Da)をジビニルスルホンを用いてStrep-Tactin(登録商標)(IBA GmbH)に結合させることによって、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを得て、これをIBA GmbHのヒトのCD4 Fab Streptamer Isolation Kit MB(カタログ番号:6-8000-206)に含まれるCD4結合Fabフラグメントと共に5分間インキュベー
トした。未結合Fabフラグメントをゲルクロマトグラフィーによって除去した。驚くべきことに、FabフラグメントでコーティングされたStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーは、生物学的実体の結合に利用可能なビーズ表面に存在する抗原結合に関与しない十分な遊離抗体を有する。カラムクロマトグラフィーは、FABian(登録商標)デバイスを使用して、Twin Strep-Tag(登録商標)として公知のストレプトアビジン結合ペプチドに融合したCD4タンパク質の細胞外ドメイン45μgとプレインキュベートした予備充填1mlアガロースカラム(IBA GmbH)を用いて行った。この融合タンパク質を大腸菌(E.coli)で組換え生産し、標準的な方法を用いて精製した。次いで、Fabフラグメントの代わりに100μg(Strep-Tactin(登録商標)含有量に関連)のStrep-Tactin(登録商標)/Fabフラグメントでコーティングされたデキストランポリマーをカラムにロードしたことを除いて、IBA FABian(登録商標)マニュアルに記載されているように、FABian(登録商標)プログラムを開始した。次の工程では、マニュアルに記載されているように、CI緩衝液で1:1に希釈したバフィーコートの形態のヒト血液6mlをカラムクロマトグラフィーにかけ、未結合細胞をFACS緩衝液で洗い流した。次いで、マニュアルに記載されているように、1mMビオチンを含有するCI緩衝液で溶出した後、CD4+細胞を得た。PE/CD4抗体染色及び抗CD235染色を用いたCytoflex FACS装置(米国のBeckton&Dickinson)を使用してFACS分析を行った。
【0151】
図8に見られるように、ビオチン溶出は極めて純粋なCD4+細胞を高収率で放出した。CD235+赤血球はほとんど存在しない。
【0152】
図7に示す概略図に対応するこの実験では、生物学的実体(1)はCD4+細胞であり、すなわち抗原(2)はCD4である。この手順は、少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)、すなわち共有結合したStrep-Tactin(登録商標)を有する高分子量デキストランである担体(11)を含む。タグ付け剤(3)は、抗ヒトCD4 Strepタグ付きFabフラグメントであり、結合ドメイン(4)はCD4 Fabフラグメントであり、タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)はStrep-tagである。これらのタグ付け剤(3)の少なくとも2つは、Strep-tag(5)とStrep-Tactin(登録商標)(7)との間の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介してStrep-Tactin(登録商標)/デキストラン担体(10-7)上に固定化される。少なくとも2つのタグ付け剤(3)の一方は、生物学的実体上のCD4抗原(2)に結合し、他方のタグ付け剤(3)は、抗原認識相互作用(9)を介して連結分子(10)に結合する。連結分子(10)は、CD4タンパク質の組換え発現細胞外ドメインである抗原(2’)と、Twin-Strep-tag(登録商標)である非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)とからなるCD4-Twin-Strep-tag(登録商標)融合タンパク質である。ビーズ(6)は、リガンド結合パートナー(7)、すなわち連結分子(10)のTwin-Strep-tag(登録商標)、すなわちリガンド(5)によって結合されるStrep-Tactin(登録商標)でコーティングされる。
【0153】
実施例7:移動バッチモードと組み合わせたStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用した、ヒトPBMC及びヒト全血からのCD4+細胞の濃縮。
実施例5及び6に記載される方法の更なる展開として、「移動バッチモード」におけるStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーの使用を分析したが、CD4+細胞を単離するための本質的に同じ構成要素を実施例6に記載されるように使用した。特に、ヒトPBMCからCD4+細胞を精製するために、平均直径90μm(+/-50μm)の全血標準アガロースビーズを使用した。したがって、200μgのStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマー及び200μgの抗ヒトCD4
Strepタグ付きFabフラグメント(IBA GmbH)を、底部に90μmのフリットを有する15mlカラム(中国のBiocomma)中の1mlのStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズ(ヒトCD4抗原、すなわちStrepタグ付きCD4抗原とプレインキュベーション)に添加した。デキストランポリマーを含まない参照単離を、FabをロードしたStrep-Tactin(登録商標)ビーズを用いた標準的な方法に従って行い(重力カラムによるIBA GmbH細胞単離を参照)、45μgの抗ヒトCD4 Strepタグ付きFabフラグメントを1mlのStrep-Tactin(登録商標)コーティングアガロースビーズに添加した。その後、5mlのPBMC(2.48×107細胞)及び10mlの全血をそれぞれカラムに添加し、カラムに上部キャップ及び底部キャップを置くことによって最低速度(毎秒1回転、タンブリングローラーミキサー、RM5、A.Hartenstein)で回転させながら10分間インキュベートした。上部キャップ及びカラムの出口のキャップを除去した後、未結合細胞を重力によって排出した。ビーズを10mlの洗浄緩衝液(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)で2回洗浄した。ビーズを回転(低速タンブリング)下で5分間インキュベートし、上清を廃棄した。10mlの1mMビオチン溶液(IBA GmbH)を用いて溶出を行った。CD4-FITC及びCD45-APC抗体(いずれもBioLegend製)を用いて、CytoFLEXフローサイトメータ(Beckman
Coulter)を使用してFACS分析を行った。PBMCからのCD4+標的細胞の濃縮を、開始画分、洗浄/枯渇画分及び陽性画分のドットプロット(A)及び棒グラフ(B)として図9に示し、全血からのCD4+細胞の濃縮を図9C及びDに示す。CD45ゲーティングを使用して陽性画分のFACS分析から赤血球を除外した。Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用する方法の収率は、デキストランポリマーを使用しない方法の陽性画分と比較して1.5倍高かった。
【0154】
実施例8:エキソソームの濃縮
Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを移動バッチモードと組み合わせて使用して、血液試料などの体液からエキソソームを単離した。特に、10mlのヒトバフィーコートを緩衝液CIで希釈し、3500gで10分間遠心分離して細胞及び細胞残屑を除去した。上清を、それぞれCD81抗原及びCD9抗原でコーティングしたアガロースビーズ、並びにそれぞれStrep(登録商標)タグ付きCD81 Fab及びCD9 Fabを負荷したStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用することによって、「hCD14ショートプログラム」の下でIBA GmbHのウェブページ「Cell Selection&Expansion」に記載されているように移動バッチモードでFABian(登録商標)デバイスを使用してイムノアフィニティー精製に使用した。
【0155】
ナノ粒子追跡分析(NTA)を使用して、粒子のサイズ分布、濃度及び吸収強度を決定した(図12A~C)。図12Aのヒトバフィーコートからの粒子を、テトラスパニンCD81に対するFabでイムノアフィニティー精製した。5回の技術的NTA反復のデータは、80~約500nmのサイズ分布を示し、大部分の粒子は100~200nmの範囲にある。CD81選択粒子の全体濃度は3×108/mlである。強度プロット(図12Aの小インサート)は、エキソソーム、膜シェディング、微小胞及び他のEVなどの全てのCD81+粒子を含む全ての粒子の個々の記録事象を示す。図12Bの粒子を、30~200nmの選択範囲を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによって更に処理して、Fab、ビオチン及び200nm超の粒子を除去した。カラムの空隙容積中の粒子の得られたサイズ分布は60nm~300nm超の範囲であり、大部分のサイズ分布は80nm~150nmであり、エキソソームのおおよそのサイズを示す。エキソソームの濃度は1.3×108粒子/ml超であり、全ての単離されたCD81陽性小胞の約40%に相当した。アッセイ中に使用したPBS中の粒子から不純物の可能性を排除するために、緩衝液のNTAを陰性対照として行った(図12C)。不純物を除去するために、緩衝液を0
.22μmの酢酸セルロースフィルタに定期的に通過させる。単離された粒子は、エキソソームとしての精製された粒子の同一性を明らかにする免疫ブロットによって更に分析されている(図12D)。粒子をSDS PAGEに供し、PVDF又はニトロセルロース膜に転写した。前精製試料(インプット)を陽性対照として使用した。ブロットを、顕著なエキソソームマーカーであるテトラスパニンCD63に対する抗体とハイブリダイズさせた。Fab選択CD9又はCD81陽性粒子を用いた4つの個々の精製手順は、CD63陽性ブロットをもたらし、エキソソーム及びCD9/CD81陽性細胞外小胞の収集の成功をそれぞれ強く示した。
【0156】
実施例9:ビオチンコーティングアガロースビーズを使用したFABian(登録商標)デバイスにおける移動バッチモードと組み合わせたStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用したヒトPBMCからのCD3+細胞の濃縮
Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用するための更なる展開として、実施例6及び7に記載したものと比較して異なるビーズを使用した。特に、その表面に結合したビオチン残基を有するアガロースビーズが使用されている(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH、カタログ番号6-0446-000)。更に、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用し、デキストランは2.05 Mio Daの平均MWを有した(デンマークのPharmacosmos A7S)。この実験中、CD3 Strepタグ付きFabフラグメント(IBA GmbH)の使用によってCD3+細胞を単離し、実施例8に記載されているように本質的に同じ細胞単離のための構成要素を使用し、実施例7に記載されているように移動バッチモードを適用した。したがって、ヒトPBMCからCD3+細胞を精製するために、90μmの平均直径(+/-50μm)を有する上述のアガロースビオチンビーズ及びStrep(登録商標)タグ付きCD3 Fabを負荷したStrep(登録商標)/デキストランポリマーを使用した。特に、FABian(登録商標)デバイスで使用する前に、1mlのビオチンコーティングビーズを、穏やかに振盪しながら200μgのStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーと共に5分間インキュベートし、次いで、実施例8に記載されているように、FABian(登録商標)デバイスでの処理のために底部に90μmのフリットを有する15mlカラム(中国のBiocomma)に充填した。約200μgの抗ヒトCD3 Strep(登録商標)タグ付きFabフラグメント(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)を、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーに結合するための機器内で使用して、アガロースビーズ上のビオチン残基に結合していないStrep-Tactin(登録商標)上の遊離結合部位を占有した。
【0157】
その後、5mlのPBMC(2.48×107細胞)をカラムに添加し、カラムに上部キャップ及び底部キャップを置くことによって最低速度(毎秒1回転、タンブリングローラーミキサー、RM5、A.Hartenstein)で回転させながら10分間インキュベートした。上部キャップ及びカラムの出口のキャップを除去した後、未結合細胞を重力によって排出した。ビーズを10mlの洗浄緩衝液(ドイツゲッティンゲンのIBA GmbH)で2回洗浄した。ビーズを回転(低速タンブリング)下で5分間インキュベートし、上清を廃棄した。10mlの1mMビオチン溶液(IBA GmbH)を用いて溶出を行った。
【0158】
CD3-APC及びCD45-PerCP/Cy5.5抗体(いずれも米国カリフォルニア州サンディエゴのBioLegend製)を用いて、CytoFLEXフローサイトメータ(米国カリフォルニア州ブレアのBeckman Coulter)を使用してFACS分析を行った。CD3+細胞の濃縮を棒グラフとして図14に示し、実験を最大79%の純度で行った。
【0159】
この方法は、Strepタグ付き組換え抗原をビーズ上に必要としないが、一般的な市販の製品であるビオチンアガロースを使用できるという利点を有する。図13に関して説明したように、ビオチンアガロースに結合した後のStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーは、CD3+細胞に結合することができ、ビオチン溶液で溶出することができるCD3 Fabフラグメントに結合するのに十分な遊離結合部位を依然として有する。
【0160】
図13に示す概略図に対応するこの実験では、生物学的実体(1)はCD3+細胞であり、すなわち抗原(2)はCD3である。この手順は、少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)、すなわち共有結合したStrep-Tactin(登録商標)を有する高分子量デキストランである担体(11)を含む。タグ付け剤(3)は、抗ヒトCD3 Strepタグ付きFabフラグメントであり、結合ドメイン(4)はCD3 Fabフラグメントであり、タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)はStrep-tagである。タグ付け剤(3)は、Strep-tag(5)とStrep-Tactin(登録商標)(7)との間の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介してStrep-Tactin(登録商標)/デキストラン担体(11)に固定化される。タグ付け剤(3)は、生物学的実体上のCD3抗原(2)に結合する。ビーズ(6)は、更なるリガンド(12a)、すなわちStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーのStrep-Tactin(登録商標)、すなわちリガンド結合パートナー(7)によって結合されるビオチンによってコーティングされる。
【0161】
実施例10:ビオチンコーティングアガロースビーズを使用したFABian(登録商標)デバイスにおける移動バッチモードと組み合わせたStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用したヒト血清からのエキソソー血清からのエキソソームの濃縮
エキソソームを、デキストランが2.05Mio Daの平均MWを有していたStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマー(デンマークのPharmacosmos A7S)を使用して、ヒト血清(血液バンクからの血液から得た若年男性ドナーからプールしたもの)から単離し、移動バッチモード及びビオチンコーティングアガロースビーズと組み合わせた。特に、0.22μmのポリエチレンスルホン(PES)フィルタ(ドイツゲッティンゲンのSartorius AG)で前濾過した4.25mlの血清をPBSで1:1に希釈し、12000×gで30分間遠心分離して細胞残屑を除去した。上清を、1mlのビオチンコーティングアガロースビーズ及びStrep(登録商標)タグ付きCD81 FabをロードしたStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用することによって、実施例8に記載の移動バッチモードでFABian(登録商標)デバイスを使用するイムノアフィニティー精製に使用した。特に、FABian(登録商標)デバイスで使用する前に、穏やかに振盪しながらビーズを100μgのStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーと共に5分間インキュベートし、次いでFABian(登録商標)デバイスで処理するためにカラムに充填した。CD81に対する約50μgのStrep(登録商標)タグ付きFab抗体を、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーに結合のための機器内で使用して、アガロースビーズ上のビオチン残基に結合していないStrep-Tactin(登録商標)上の遊離結合部位を占有した。
【0162】
ナノ粒子追跡分析(NTA)を使用して、実施例8に記載したように実施した粒子のサイズ分布、濃度及び吸収強度を決定した。3つの個別測定の結果を図15に示す。結合エキソソームをビーズから放出した後の溶出液中の得られた粒子濃度は1.7×109個/mlであり、NTA分析により、50~約500nmのサイズ分布が明らかになり、大部分の粒子は50~200nmの範囲にあった。
【0163】
実際にエキソソームが精製されたことの検証は、実施例8に関して説明したサイズ排除クロマトグラフィー及び免疫ブロットを用いて行うことができる。全体として、結果は、Strep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーを使用したビオチンアガロース上のCD81+エキソソームの単離が良好な収率で機能することを示した。
【0164】
図13に示す概略図に対応するこの実験では、生物学的実体(1)はエキソソームであり、すなわち抗原(2)はこの場合CD81である。この手順は、少なくとも2つのリガンド結合パートナー(7)、すなわち共有結合したStrep-Tactin(登録商標)を有する高分子量デキストランである担体(11)を含む。タグ付け剤(3)は、抗ヒトCD81 Strepタグ付きFabフラグメントであり、結合ドメイン(4)はCD81 Fabフラグメントであり、タンパク質-リガンド相互作用の一部であるリガンド(5)はStrep-tagである。タグ付け剤(3)は、Strep-tag(5)とStrep-Tactin(登録商標)(7)との間の非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用(8)を介してStrep-Tactin(登録商標)/デキストラン担体(11)に固定化される。タグ付け剤(3)は、生物学的実体、すなわちエキソソーム上のCD81抗原(2)に結合する。ビーズ(6)は、更なるリガンド(12a)、すなわちStrep-Tactin(登録商標)/デキストランポリマーのStrep-Tactin(登録商標)、すなわちリガンド結合パートナー(7)によって結合されるビオチンによってコーティングされる。
【符号の説明】
【0165】
1 生物学的実体
2 表面抗原
2’ 組換え抗原
3 タグ付け剤
3’ 二価タグ付け剤
4 結合ドメイン
5 リガンド
6 (粒子)ビーズ
7 リガンド結合パートナー
8 非共有結合性タンパク質-リガンド相互作用
9 抗原認識相互作用
10 連結分子
11 担体
1212a (更なる)リガンド
13 (更なる)リガンド結合パートナー
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15
【配列表】
0007502451000001.xml