(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】呼吸器状態を処置するためのTRPC6阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4545 20060101AFI20240611BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20240611BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20240611BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20240611BHJP
A61K 31/5386 20060101ALI20240611BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240611BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240611BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240611BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240611BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240611BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240611BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240611BHJP
C07D 213/73 20060101ALN20240611BHJP
C07D 487/08 20060101ALN20240611BHJP
C07D 401/14 20060101ALN20240611BHJP
C07D 451/02 20060101ALN20240611BHJP
C07D 498/08 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61K31/496
A61K31/4985
A61K31/501
A61K31/5386
A61K39/395 N
A61K45/06
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P9/00
A61P11/00
A61P31/04
C07D213/73 CSP
C07D487/08
C07D401/14
C07D451/02
C07D498/08
(21)【出願番号】P 2022561155
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021059683
(87)【国際公開番号】W WO2021209510
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-06
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ブーイスー ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】グプタ アブヤ
(72)【発明者】
【氏名】ニックリン パウル
(72)【発明者】
【氏名】ソレイマンロー ニマ
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/081637(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/161010(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
A61K 39/395
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態を処置するための医薬組成物であって、式(I)
【化1】
(I)
(式中、
Lは存在しないか、またはメチレンもしくはエチレンであり、
Yは、CHまたはNであり、
Aは、CHまたはNであり、
R
1は、
ハロ、C
3-6シクロアルキルおよびOC
3-6シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
1-6アルキル、
CF
3、ハロ、C
3-6シクロアルキル、OC
3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC
1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
ハロおよび1~3個のハロで置換されていてもよいC
1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
3-6シクロアルキル
からなる群から選択され、
R
2は、H、C
1-6アルキル、OCF
3、C
3-6シクロアルキル、OC
1-6アルキル、およびOC
3-6シクロアルキルからなる群から選択され、
R
3は、H、C
1-6アルキル、C
3-6シクロアルキル、およびOC
3-6シクロアルキルからなる群から選択され、ここでR
3基のC
1-6アルキル、C
3-6シクロアルキル、OC
3-6シクロアルキルのそれぞれは、ハロ、OH、OC
1-6アルキル、およびSC
1-6アルキル、N(C
1-6アルキル)
2からなる群からそれぞれ独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよく、ここでR
3基のC
1-6アルキルの1~3個の炭素原子は、NH、N(C
1-6アルキル)、O、およびSからなる群から選択される置き換えられた1つまたは2つの部分でもよく、
R
4およびR
5は、HおよびC
1-6アルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
R
3およびR
4は、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R
3およびR
5は一緒に、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R
6は、H、C
1-6アルキル、CN、CF
3、OCF
3、C
3-6シクロアルキル、OC
1-6アルキル、およびOC
3-6シクロアルキルからなる群から選択され、
R
7は、HおよびOC
1-6アルキルからなる群から選択される)
の
化合物またはその薬学的に許容される塩を含み、
前記血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態が、敗血症、重症敗血症、および敗血症性ショックからなる群から選択され、前記処置が患者に
前記式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、医薬組成物。
【請求項2】
R
1が、
ハロ、およびC
3-6シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
1-6アルキル、
CF
3、ハロ、OC
3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC
1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
1~3個のハロ基で置換されていてもよいC
3-6シクロアルキル
からなる群から選択され、
R
2がOC
1-6アルキルであり、
R
3が、HおよびOHまたはOC
1-6アルキルで置換されていてもよいC
1-6アルキルからなる群から選択され、
R
4がHであり、
R
5がHであり、
R
3およびR
4が、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R
3およびR
5が一緒に、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R
6が、H、C
1-6アルキル、OC
1-6アルキル、およびOC
3-6シクロアルキルからなる群から選択され、
R
7が、HおよびOC
1-6アルキルからなる群から選択される、
請求項1
に記載の医薬組成物。
【請求項3】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩が、
【表1】
およびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項1
または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記処置において、
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩が、
抗マラリア剤、ウイルス抑制ヌクレオシドアナログ、HIVプロテアーゼ阻害剤、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、CGRPアンタゴニスト、抗凝固剤、抗糖尿病剤、気管支拡張剤、およびステロイド
からなる群から選択される1種または複数種の追加の治療剤と組み合わせて投与される、請求項1~
3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記処置において、
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩が、
SARS-CoV-2の感染性をブロックする1種または複数種のモノクローナル抗体、
抗IL-6抗体、
免疫調節効果をもたらすキナーゼ阻害剤、および
抗線維化剤
からなる群から選択される1種または複数種の追加の治療剤と組み合わせて投与される、請求項1~
4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
請求項
1に記載の式(I)の
化合物またはその医薬的に許容される塩の、請求項1記載の医薬組成物の製造における使用。
【請求項7】
請求項
1に記載の式(I)の
化合物またはその医薬的に許容される塩を使用して、請求項1記載の医薬組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一過性受容器電位C6イオンチャネル(TRPC6)を阻害する化合物を使用する、血管透過性亢進に関連する障害およびそれから生じる状態の処置のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なイオンチャネルタンパク質が存在して、細胞膜を横切るイオン流束を媒介する。イオンチャネルタンパク質の適切な発現および機能は、細胞機能、細胞内情報伝達、および同種のものの維持に不可欠である。細胞恒常性を達成する重要な側面は、発達中の、かつ多数の刺激に応答した様々な細胞型における適切なイオン濃度の維持である。多数の多様なタイプのイオンチャネルは、形質膜を横切って細胞内および細胞外にイオンを移動させることにより、ならびに例えば、小胞体、筋小胞体、ミトコンドリアを含む細胞内小器官ならびにエンドソームおよびリソソームを含むエンドサイトーシス小器官の膜を横切って細胞内でイオンを移動させることにより細胞恒常性を維持するように働く。多数の疾患は、膜電位の制御不全または異常なカルシウムハンドリングの結果である。細胞内の膜電位およびイオン流束の調節におけるイオンチャネルの中心的な重要性を考えると、特定のイオンチャネルを促進または阻害することができる薬剤の同定は、研究ツールとして、および可能性のある治療剤として非常に興味深い。
【0003】
1種のそのようなチャネルは一過性受容器電位C6(TRPC6)チャネルである。TRPC6は、TRPイオンチャネルのより大きいファミリーに属する(Desai et al., 2005 Eur J Physiol 451:11-18; Clapham et al., 2001 Nat Neurosci 2:387-396; Clapham, 2003 Nature 426: 517-524; Clapham et al., Pharmacol Rev 55:591-596, 2003参照)。TRPC6は、カルシウム透過性チャネル、具体的には非選択的カルシウム透過性カチオンチャネルである。カルシウムイオンに加えて、TRPC6チャネルは、他のカチオン、例えばナトリウムに対して透過性である。したがって、TRPC6チャネルは、カルシウムイオンおよびナトリウムイオンを含むカチオンの流束を調節することにより細胞内カルシウム濃度だけでなく、膜電位も調節する。TRPC6などの非選択的カチオンチャネルは、とりわけ、カルシウムイオン流束を調節するが、電位依存性カルシウムチャネルとは機構的に異なる。一般に、電位依存性カルシウムチャネルは、膜間の電位差の脱分極に応答し、開口して、細胞外媒質からのカルシウムの流入および細胞内カルシウムレベルまたは濃度の急増を可能にすることができる。対照的に、TRPC6などの非選択的カチオンチャネルは、一般にシグナル伝達依存性であり、持続性であり、かつより遅いイオン濃度の変化を生む。それらは、セカンドメッセンジャー、ジアシルグリセロールの産生に応答して、活性の増加を示す(Hofmann et al., 1999)。加えて、TRPC6は、圧力の変化に応答することができる。これらの機構的な違いは、電位依存性チャネルとカチオン透過性チャネルの間の構造的な違いを伴う。したがって、多くの多様なチャネルは、様々な細胞型において、かつ多数の刺激に応答してイオン流束および膜電位を制御するように働くが、異なるクラスのイオンチャネルの間の著しい構造的、機能的、および機構的な違いを認識することが重要である。
それをトランスフォーミング成長因子-ベータTGF-βシグナル伝達(細胞成長、分化およびアポトーシスに関与する)に関係付けるその発現および働きに基づいて、TRPC6も呼吸器系の疾患もしくは障害の処置または防止において重要であると考えられる。
【0004】
Yueらは、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)および肺高血圧症(PH)につながり得る肺動脈平滑筋細胞増殖の媒介における役割に関してTRPC6チャネルを研究した。過剰な肺動脈平滑筋細胞(PASMC)増殖によって引き起こされる肺血管中膜肥厚は、IPAHおよびPHを有する患者における肺血管抵抗の増加の主な原因である。著者らは、健常肺組織からのPASMC内でTRPC6が高発現され、TRPC3が最小に発現されることを見出した。しかし、IPAH患者からの肺組織において、TRPC3およびTRPC6のmRNAならびにタンパク質発現は、正常血圧患者のものと比較して著しく増加した。さらに、IPAH患者由来のPASMC細胞の増殖は、TRPC6 siRNAとのインキュベーション後に著しく低下した。これらの結果に基づいて、著者らは、TRPC6が適切なPASMC増殖の媒介において重要であり得、かつTRPC6の制御不全がIPAH患者においてPASMC増殖の増加および観察される肺血管中膜肥厚をもたらし得ると結論付けた(Yu et al., 2004 Proc Natl Acad Sci 101(38):13861-6)。IPAH患者において、発現を増加させるTRPC6のプロモーター内の一塩基多型の頻度が、正常対象と比較されたとき著しくより高いという観察によりさらに支持される(Yue, et al., 2009 Circulation 119: 2313-22)。
TRPC6制御不全をIPAHに関係付ける追加の証拠は、IPAHを処置するために臨床的に使用されてきたデュアルエンドセリン受容体遮断剤であるボセンタンの研究から得られる。この阻害剤はPASMCの増殖を低下させるが、これが起こる機序は不明である。興味深いことに、ボセンタンは、IPAH患者の肺組織においてPASMCの増殖を低下させるだけでなく、TRPC6の発現も低下させる(Kunichika et al., 2004 Am J Respir Crit Care Med 170(10):1101-7)。
【0005】
証拠は、追加の肺障害におけるTRPC6の役割を支持する。慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する患者からの肺胞マクロファージにおいて、TRPC6発現が、対照と比較されたとき増加することが見出された(Finney-Hayward et al., 2010 Am J Respir Cell Mol Biol 43:296-304)。ヒト嚢胞性線維症上皮細胞において、TRPC6媒介性カルシウム流入は異常に増加し、かつ粘液の過分泌に寄与し得る。siRNA-TRPC6は、この異常なカルシウム流入を減少させることができた(Antigny et al. 2011 Am J Resp Cell Mol Biol, 44:83-90)。マウス肺線維芽細胞において、PDGFの線維化促進活性はTRPC6の活性化に依存し、TRPC6阻害が肺線維症を減少させるであろうことを示唆する(Lei et al., 2014 Biomaterials 35:2868-77)。内皮バリア機能を保持することによりTRPC6欠損が急性肺傷害を減少させることができた虚血再灌流誘導性浮腫およびリポ多糖誘導性炎症のマウス肺モデルにおいて、肺内皮細胞機能におけるTRPC6の役割が実証された(Weissmann et al., 2011 Nat Comm, 3:649-58およびTauseef et al., 2012 J Exp Med 209:1953-68)。
TRPC6の阻害は、肺血管透過性亢進、肺性(肺)浮腫、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、肺虚血再灌流、特発性間質性肺炎、特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、重症急性呼吸器症候群(SARS)、ならびに中東呼吸器症候群(MERS)を含む他の呼吸器障害を防止するための魅力的な手段である。
【0006】
血管透過性の増加(血管透過性亢進)は、急性呼吸窮迫症候群、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック、がんおよび炎症を含む多くの疾患に寄与する。肺の血管透過性亢進の軽減は、肺胞腔内の液体の蓄積(肺浮腫)を減少させることになり、したがって肺と血管の間のガス交換を改善することになり、動脈血のより良い酸素化につながる。動脈血酸素化の改善は、すべての臓器(脳、心臓、肝臓、腎臓など)のより良い酸素化につながり、かつ多臓器不全とその後に続く死亡のリスクを低減する。
敗血症、重症敗血症、敗血症性ショックまたは虚血再灌流における血管透過性の増加は、肺、腎臓、肝臓および心臓を含むがこれらに限定されないいくつかの臓器においても報告されている。これらの臓器における液体の蓄積は、それらの適切な機能性を損ない(例えば不整脈、糸球体濾過の乱れ、または代謝の障害を引き起こす)、かつ臓器不全とその後に続く死亡につながる。
【0007】
肺性(肺)浮腫は、肺が液体で満たされた状態である。肺性浮腫の最も一般的な原因はうっ血性心不全である。肺性浮腫を引き起こし得る他のあまり一般的ではない状態には、急性高血圧、肺炎、腎不全、重症感染によって引き起こされる肺損傷、血液の重症敗血症、または感染によって引き起こされる毒血症が含まれる。
急性肺傷害(ALI)は、さらに最近ではEシガレット製品またはベイピング製品の使用における煙吸入を含む煙吸入によってしばしば引き起こされる肺障害である。ラットへのタバコ煙(CS)の慢性曝露は、結果として末梢肺動脈におけるTRPC6 mRNAおよびタンパク質発現の増加につながり、同様の効果がin vitroでPASMCを使用して観察された。培養ラットPASMCのニコチン処理は、TRPC6発現を上方制御し、かつ細胞内カルシウムレベルを増加させ、その両方がTRPC6 siRNAサイレンシングにより減少した(Wang et al., 2014 Am J Physiol Cell Physiol 306:C364-73)。これらの結果は、CS誘導性肺傷害におけるTRPC6の役割を示唆する。TRPC6経路の制御は、ALIの処置において有用であり得る。ARDSからのALIの分離は、より歴史的に興味深く、ALIは現在、より軽度またはより初期の形態のARDSと考えられている(JAMA. 2012;307(23):2526-2533)。
【0008】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺血管透過性の増加および/または肺浮腫によって特徴付けられる肺炎症である。ARDSは、低酸素血症の程度に基づいて低度、軽度、または重度としばしば特徴付けられる。ARDSは、いくつかの原因によってトリガーされ得、例えば細菌性またはウイルス性肺感染によって、敗血症、有害物質の吸入、重症肺炎、外傷、膵炎(膵臓の炎症)、大量輸血およびやけどによって誘導され得る。ARDSの最も一般的な原因は敗血症である。
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、SARS関連コロナウイルス(SARS-CoV)と呼ばれるコロナウイルスによって引き起こされるウイルス性呼吸器疾病である。SARSは高熱(100.4°Fよりも高い温度[>38.0℃])で始まる。他の症状には、咽喉痛、咳、頭痛、全体的な不快感、および身体の痛みが含まれることがある。一部の人々は、初めに軽度の呼吸器症状も有する。大部分の患者は肺炎を発症する。2004年から2019年12月のSARS-CoV-2パンデミックの発生まで、世界のどこにも、報告されたSARSの既知の症例は全くなかった。
中東呼吸器症候群(MERS)は、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)と呼ばれるウイルス(より具体的には、コロナウイルス)によって引き起こされる疾病である。疾患は、発熱、咳、および息切れを含む重症呼吸器疾病によって特徴付けられる。MERSを有すると報告された10人の患者のうち約3人または4人が死亡した。
ARDSは、コロナウイルスだけでなく、他の呼吸器ウイルス、例えば、これらに限定されないが、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、およびパラインフルエンザウイルスの結果起こる可能性がある。
【0009】
カルシウム過負荷は、虚血期間後に被る傷害組織の決定的な原因として認識されている。一時的な低酸素に曝された組織へのカルシウム流入を決定するポートは同定されていない。TRPC6は、心臓および肺へのカルシウム流入を引き起こす主要因のうちの1つであり、これは、虚血/再灌流(I/R)傷害の原因である。TRPC6活性の阻止またはTRPCの遺伝子アブレーションは、心臓組織および肺組織ならびに細胞をI/R傷害から著しく保護した(He et al., PNAS. 2017; 19: E4582-E4591, Weismann et al., Nature Communications. 2012; 3(649): DOI:10.1038)
【0010】
敗血症、重症敗血症、および敗血症性ショックは、感染に対する全身性炎症反応から生じる障害である(Mitchell M. Levy et al., Crit Care Med. 2003 Apr;31(4):1250-6参照。)。敗血症は、感染(例えば、ウイルス性、細菌性、腹部外傷、腸穿孔)および全身性炎症反応の両方を有する障害である。これは、腎臓肝臓、心臓および肺などのいくつかの臓器の血管透過性の増加につながる。重症敗血症(臓器不全を伴う敗血症)は、敗血症によって引き起こされる急性臓器不全を伴う敗血症を指す。敗血症性ショックは、他の原因によって説明されない持続性低血圧を指す。
【0011】
TRPC6阻害剤は、SARS、MERS、およびARDSへの進行の軽減、それらにおける重症度ならびに/または死亡率の低下に有用であり得る。全身性敗血症のマウスモデル(盲腸結紮穿刺、CLP)における生存率がTRPC6欠損マウスにおいて著しく改善された(ビヒクル群において80%対10%)ため、TRPC6阻害剤は、敗血症、重症敗血症および敗血症性ショックにおける重症度および/または死亡率の低下に有用であり得る(Tauseef et al., 2012 J Exp Med 209: 1953-1968)。
Covid-19のために入院した患者では、気道傷害のために活性酸素種(ROS)が増加する。ROSは、TRPC6を活性化し、細胞損傷のカスケードを引き起こし、細胞バリア機能の破壊、透過性亢進、血漿漏出、最終的には浮腫および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を結果として生じることが示されている。(Z. S. Miripour et al., Biosensors and Bioelectronics 165 (2020) 112435参照。)TRPC6阻害は、ROS誘導性透過性亢進に対して肺脈管構造を安定化することが示されており、かつ重症SARS-CoV2感染を有する患者における肺浮腫を防止し得る。
TRPC6を調節することにより緩和され得る呼吸器疾患または障害を処置するための高度に選択的なTRPC6アンタゴニストが必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、一過性受容器電位C6イオンチャネル(TRPC6)を阻害することにより血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態を処置するための方法を提供する。
血管透過性亢進に関連する障害は、
(群1):主として感染によって引き起こされない、血管透過性亢進に関連する呼吸器障害、および
(群2):ある種の細菌性、ウイルス性、または真菌性寄生虫感染によって引き起こされる血管透過性亢進に関連する障害
を包含する。
【0013】
群1の障害は、
肺性(肺)浮腫)、
特発性間質性肺炎、
特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、
非感染関連ARDS、
急性肺傷害(ALI)、ならびに
肺虚血再灌流
からなる群から選択される。
【0014】
群2の障害は、
感染に関連するARDS、
重症急性呼吸器症候群(SARS)、
中東呼吸器症候群(MERS)、
敗血症、
重症敗血症、および
敗血症性ショック
からなる群から選択される。
非感染関連ARDSは、有害物質(例えば有毒煙)の吸入、外傷、膵炎、胃液逆流、大量輸血またはやけどによって引き起こされるARDSなど、感染によってトリガーされない、または引き起こされないARDSと理解される。
感染関連ARDSは、敗血症または重症肺炎によって引き起こされるARDSなど、感染によってトリガーされるか、または引き起こされるARDSと理解される。
【0015】
1つの実施形態において、本発明は、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態を処置するための方法であって、それを必要とする患者に薬学的有効量の式(I)
【0016】
【化1】
(I)
(式中、
Lは存在しないか、またはメチレンもしくはエチレンであり、
Yは、CHまたはNであり、
Aは、CHまたはNであり、
R
1は、
ハロ、C
3-6シクロアルキルおよびOC
3-6シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
1-6アルキル、
CF
3、ハロ、C
3-6シクロアルキル、OC
3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC
1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
ハロおよび1~3個のハロで置換されていてもよいC
1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
3-6シクロアルキル
からなる群から選択され、
R
2は、H、C
1-6アルキル、OCF
3、C
3-6シクロアルキル、OC
1-6アルキル、およびOC
3-6シクロアルキルからなる群から選択され、
R
3は、H、C
1-6アルキル、C
3-6シクロアルキル、およびOC
3-6シクロアルキルからなる群から選択され、ここでR
3基のC
1-6アルキル、C
3-6シクロアルキル、OC
3-6シクロアルキルのそれぞれは、ハロ、OH、OC
1-6アルキル、およびSC
1-6アルキル、N(C
1-6アルキル)
2からなる群からそれぞれ独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよく、ここでR
3基のC
1-6アルキルの1~3個の炭素原子は、NH、N(C
1-6アルキル)、O、およびSからなる群から選択される置き換えられた1つまたは2つの部分でもよく、
R
4およびR
5は、HおよびC
1-6アルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
R
3およびR
4は、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R
3およびR
5は一緒に、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R
6は、H、C
1-6アルキル、CN、CF
3、OCF
3、C
3-6シクロアルキル、OC
1-6アルキル、およびOC
3-6シクロアルキルからなる群から選択され、
R
7は、HおよびOC
1-6アルキルからなる群から選択される)
のTRPC6阻害剤またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法に関する。
【0017】
第2の実施形態において、本発明は、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態が、
肺性(肺)浮腫、
特発性間質性肺炎、
特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、
非感染関連(ARDS)、
急性肺傷害(ALI)、ならびに
肺虚血再灌流
からなる群1から選択される、第1の実施形態の方法に関する。
【0018】
第3の実施形態において、本発明は、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態が、
感染に関連するARDS、
重症急性呼吸器症候群(SARS)、
中東呼吸器症候群(MERS)、
敗血症、
重症敗血症、および
敗血症性ショック
からなる群2から選択される、第1の実施形態の方法に関する。
【0019】
別の実施形態(実施形態4)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、
ハロ、およびC3-6シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC1-6アルキル、
CF3、ハロ、OC3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
1~3個のハロ基で置換されていてもよいC3-6シクロアルキル
からなる群から選択され、
R2はOC1-6アルキルであり、
R3は、HおよびOHまたはOC1-6アルキルで置換されていてもよいC1-6アルキルからなる群から選択され、
R4はHであり、
R5はHであり、
R3およびR4は、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R3およびR5は一緒に、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R6は、H、C1-6アルキル、OC1-6アルキル、およびOC3-6シクロアルキルからなる群から選択され、
R7は、HおよびOC1-6アルキルからなる群から選択される)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0020】
別の実施形態(実施形態5)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
AはCHであり、YはNであるか、または
AはCHであり、YはCHであるか、または
AはNであり、YはCHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0021】
別の実施形態(実施形態6)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、CF3、OCF3、ハロ、OC3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC1-6アルキルからなる群から選択される基で置換されていてもよいフェニルからなる群から選択され、
R2はOC1-6アルキルであり、
R3は、HおよびOHまたはOC1-6アルキルで置換されていてもよいC1-6アルキルからなる群から選択され、
R4はHであり、
R5はHであり、
R3およびR4は、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R3およびR5は一緒に、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R6は、H、C1-6アルキル、OC1-6アルキル、およびOC3-6シクロアルキルからなる群から選択され、
R7は、HおよびOC1-6アルキルからなる群から選択される)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0022】
別の実施形態(実施形態7)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、CF3、OCF3、F、およびメトキシからなる群から選択される基で置換されていてもよいフェニルからなる群から選択され、
R2は、メトキシおよびエトキシからなる群から選択され、
R3は、H、2-ヒドロキシメチル、メトキシメチル、および1-ヒドロキシエチルからなる群から選択され、
R4はHであり、
R5はHであるか、
または
R3はエチルであり、R3およびR4は、結合して、スピロ環式環を形成するか、
または
R3は、エチルまたはメトキシメチルであり、R3およびR5は、結合して、二環式環を形成し、
R6は、H、メチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、およびシクリルプロピルオキシからなる群から選択され、
R7は、Hおよびメトキシからなる群から選択される)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0023】
別の実施形態(実施形態8)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、Lと一緒に、フェニル、4-クロロフェニル、4-フルオロフェニル、4-メトキシフェニル、4-イソプロポキシフェニル、4-トリフルオロメチルフェニル、4-ジフルオロメトキシフェニル、4-シクロプロピルオキシフェニル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ベンジル、2-フルオロベンジル、およびフェニルエチルからなる群から選択される基を表し、
R2は、メトキシまたはエトキシである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0024】
別の実施形態(実施形態9)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
YはCHであり、AはNであり、
R1は、Lと一緒に、フェニル、4-クロロフェニル、4-フルオロフェニル、4-メトキシフェニル、4-イソプロポキシフェニル、4-トリフルオロメチルフェニル、4-ジフルオロメトキシフェニル、4-シクロプロピルオキシフェニル、ベンジル、2-フルオロベンジル、およびフェニルエチルからなる群から選択される基を表し、
R2は、メトキシまたはエトキシであり、
R3、R4およびR5はそれぞれHであり、
R6は、H、メチル、メトキシまたはエトキシであり、
R7はHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0025】
別の実施形態(実施形態10)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
YはCHであり、AはCHであり、
R1は、Lと一緒に、フェニル、4-クロロフェニル、4-フルオロフェニル、4-メトキシフェニル、4-トリフルオロメチルフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ベンジル、2-フルオロベンジル、およびフェニルエチルからなる群から選択される基を表し、
R2は、メトキシまたはエトキシであり、
R3、R4およびR5はそれぞれHであり、
R6は、H、メチル、メトキシ、またはエトキシであり、
R7はHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0026】
別の実施形態(実施形態11)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
YはNであり、AはCHであり、
R1は、Lと一緒に、フェニル、および4-フルオロフェニルからなる群から選択される基を表し、
R2はメトキシであり、
R3は、H、2-ヒドロキシメチル、およびヒドロキシエチルからなる群から選択され、
R4はHであり、
R5はHであり、
R3およびR4は、結合して、スピロ環式環を形成してもよいか、
または
R3およびR5は、結合して、二環式環を形成してもよく、
R6は、Hおよびメトキシからなる群から選択され、
R7はHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0027】
別の実施形態(実施形態12)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、ハロおよびC3-6シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC1-6アルキルであり、
R2はOC1-6アルキルであり、
R3、R4およびR5はそれぞれHであり、
R6は、H、C1-6アルキル、およびOC1-6アルキルからなる群から選択され、
R7はHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0028】
別の実施形態(実施形態13)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、Lと一緒に、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、2,2-ジメチルプロピル、1-メチルシクロプロピルメチル、1-フルオロメチルシクロプロピルメチル、1-シクロプロピルエチル、2-シクロプロピルエチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2,2-ジフルオロシクロブチルメチル、3,3-ジフルオロシクロブチルメチル、3-(トリフルオロメチル)シクロブチルメチル、および3,3,3-トリフルオロ-2-メチルプロピルからなる群から選択される基を表し、
R2はメトキシであり、
R3、R4およびR5はそれぞれHであり、
R6は、H、メチル、およびメトキシからなる群から選択され、
R7はHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0029】
別の実施形態(実施形態14)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
YはCHであり、AはNであり、
R1は、Lと一緒に、プロピル、イソプロピル、イソブチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、2,2-ジメチルプロピル、1-シクロプロピルエチル、2-シクロプロピルエチル、およびシクロヘキシルからなる群から選択される基を表し、
R2はメトキシであり、
R3、R4およびR5はそれぞれHであり、
R6は、H、メチル、およびメトキシからなる群から選択され、
R7はHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0030】
別の実施形態(実施形態15)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
YはCHであり、AはCHであり、
R1は、Lと一緒に、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、2,2-ジメチルプロピル、1-メチルシクロプロピルメチル、1-フルオロメチルシクロプロピルメチル、1-シクロプロピルエチル、2-シクロプロピルエチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2,2-ジフルオロシクロブチルメチル、3,3-ジフルオロシクロブチルメチル、3-(トリフルオロメチル)シクロブチルメチル、および3,3,3-トリフルオロ-2-メチルプロピルからなる群から選択される基を表し、
R2はメトキシであり、
R3、R4およびR5はそれぞれHであり、
R6は、H、メチル、およびメトキシからなる群から選択され、
R7はHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0031】
別の実施形態(実施形態16)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R3およびR4は、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、3員カルボシクリル環を形成する)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
別の実施形態(実施形態17)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R3およびR5は一緒に、NおよびOからなる群から独立して選択される1~2個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成する)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
別の実施形態(実施形態18)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
YはCであり、
AはNであり、
R2はOCH3であり、
R3、R4、R5およびR7はそれぞれHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0032】
別の実施形態(実施形態19)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
Lは存在せず、
R1は、CF3、ハロ、C3-6シクロアルキル、OC3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニルであり、
R6は、H、またはOCH3である)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
別の実施形態(実施形態20)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、CF3、ハロ、OC3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニルからなる群から選択され、
R2は、OCH3またはOCH2CH3であり、
R3、R4、R5、R6およびR7はそれぞれHである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0033】
別の実施形態(実施形態21)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、
R1は、CF3、ハロ、OC3-6シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC1-6アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニルからなる群から選択され、
R2は、OCH3またはOCH2CH3であり、
R3、R4、R5およびR7はそれぞれHであり、
R6は、CH3またはOCH3であり、
YはCHであり、
AはNである)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0034】
別の実施形態(実施形態22)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)(式中、Lは存在しない)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を使用する方法に関する。
【0035】
別の実施形態(実施形態23)において、本発明は、実施形態1、2または3のいずれか1つに記載の式(I)の化合物を使用する方法であって、化合物が、表1の化合物1~95、またはその薬学的に許容される塩のいずれか1種からなる群から選択される、方法に関する。
別の実施形態(実施形態24)において、本発明は、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態を処置するための方法であって、それを必要とする患者に式(I)の化合物もしくは本明細書に定義されるような本発明の任意の化合物、またはその薬学的に許容される塩、および任意に薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1A-C】化合物17が肺血管漏出を著しく減少させることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
表1は、本明細書に記載される方法に従って使用することができる特定の化合物を示す。表1に示される化合物は、WO2019081637に記載された手順に従って調製されてよい。
【表1】
【0038】
別の実施形態において、本発明は、
肺性(肺)浮腫、
特発性間質性肺炎、
特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、
非感染関連(ARDS)、
急性肺傷害(ALI)、ならびに
肺虚血再灌流、
からなる群1から選択されるか、または
感染に関連するARDS、
重症急性呼吸器症候群(SARS)、
中東呼吸器症候群(MERS)、
敗血症、
重症敗血症、および
敗血症性ショック
からなる群2から選択される血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態を処置するためか、またはそれらの重症度を軽減するための、上記の表1に示された化合物1~95、およびその薬学的に許容される塩のいずれかを使用する方法に関する。
【0039】
別の実施形態において、本発明は、表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90、またはその薬学的に許容される塩のいずれか1種が患者に投与される、すぐ上の実施形態に関する。
【0040】
処置実施形態1から24の任意の方法ならびに本明細書に先に開示された化合物1~95のうちの1種または複数種に言及する処置実施形態の任意の方法は、欧州第二医薬用途フォーマット
「疾患Yの処置において使用するための化合物X」または
「疾患Yの療法において使用するための化合物Xを含む医薬組成物」
の対応する実施形態を有すると理解され、ここで化合物Xは、式Iの化合物または本明細書に先に開示された化合物1~95のうちの1種もしくは複数種を表し、疾患Yは、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態ならびに本明細書に先に開示された群1および2の特定の状態を表す。
【0041】
欧州第二医薬用途フォーマットの例示的な最も広い実施形態は以下の通り解釈される:
さらなる実施形態において、本発明は、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための、本明細書に先に定義されたような式(I)のTRPC6阻害剤に関する。
その上さらなる実施形態において、本発明は、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための、本明細書に先に定義されたような式(I)のTRPC6阻害剤を含む医薬組成物に関する。
【0042】
一般的な定義
本明細書に具体的に定義されていない用語は、本開示および文脈に照らして当業者がそれらに与えるであろう意味が与えられるべきである。しかし、本明細書において使用されるとき、反対の指定がない限り、以下の用語は示された意味を有し、以下の慣例に従う。
以下で定義される基、ラジカル、または部分において、炭素原子の数は、基に先行してしばしば指定され、例えば、C1-6-アルキルは、1~6個の炭素原子を有するアルキル基またはラジカルを意味する。一般に、HO、H2N、(O)S、(O)2S、NC(シアノ)、HOOC、F3Cまたは同種のもののような基において、当業者は、基自体の自由原子価から分子とのラジカルの結合点が分かる。2つ以上のサブ基を含む組み合わせられた基について、最後に指定されたサブ基は、ラジカルの結合点であり、例えば、置換基「アリール-C1-3-アルキル」は、C1-3-アルキル基に結合されたアリール基を意味し、C1-3-アルキル基は、置換基が結合されている核または基に結合されている。
化合物が化学名の形態で、および式として示される場合に、何らかの矛盾がある場合、式が優先するものとする。
【0043】
本明細書において使用される「置換される」という用語は、指定された原子の通常の原子価を超えず、かつ置換が安定な化合物を生じるという条件で、指定された原子上の任意の1個または複数の水素が、示された基からの選択で置き換えられることを意味する。
具体的に示されていない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲全体にわたって、所与の化学式または化学名は、互変異性体と、すべての立体、光学および幾何異性体(例えばエナンチオマー、ジアステレオマー、E/Z異性体など)と、それらのラセミ体、ならびに異なる割合の別個のエナンチオマーの混合物、ジアステレオマーの混合物、またはそのような異性体およびエナンチオマーが存在する場合は前述の形態のいずれかの混合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩を含む塩、ならびにそれらの溶媒和物、例えば遊離化合物の溶媒和物またはその化合物の塩の溶媒和物を含む水和物などを包含するものとする。
【0044】
「薬学的に許容される」という語句は、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なくヒトおよび動物の組織と接触する使用に適しており、かつ合理的な利益/リスク比に見合っている化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すために本明細書において使用される。
本明細書において使用されるとき、「薬学的に許容される塩」は、その酸塩または塩基塩を調製することにより親化合物が改変された、開示された化合物の誘導体を指す。薬学的に許容される塩の例には、アミンなどの塩基性残基の鉱酸塩または有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩、および同種のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
例えば、そのような塩には、酢酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩、重酒石酸塩、臭化物/臭化水素酸塩、エデト酸塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物/塩酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、エタンジスルホン酸塩、エストル酸塩、エシレート、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、グリコリルアルスニレート(glycollylarsnilate)、ヘキシルレゾルシネート、ヒドラバミン、ヒドロキシマレイン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチルブロミド、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、フェニル酢酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、スルファミド、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリエチオジド、トリフルオロ酢酸塩、アンモニウム、ベンザチン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミンおよびプロカインが含まれる。さらなる薬学的に許容される塩は、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛および同種のもののような金属からのカチオンと共に(Pharmaceutical salts, Birge, S.M. et al., J. Pharm. Sci., (1977), 66, 1-19も参照)、またはアンモニア、L-アルギニン、カルシウム、2,2’-イミノビスエタノール、L-リシン、マグネシウム、N-メチル-D-グルカミン、カリウム、ナトリウムおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンからのカチオンと共に生成することができる。
ハロゲンという用語は一般に、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を表す。
【0046】
「C1-n-アルキル」(式中、nは、2、3、4、5または6、好ましくは4または6からなる群から選択される整数である)という用語は、単独で、または別のラジカルとの組合せで、1~n個のC原子を有する分岐鎖または直鎖の非環式飽和炭化水素ラジカルを表す。例えばC1-5-アルキルという用語は、ラジカルH3C-、H3C-CH2-、H3C-CH2-CH2-、H3C-CH(CH3)-、H3C-CH2-CH2-CH2-、H3C-CH2-CH(CH3)-、H3C-CH(CH3)-CH2-、H3C-C(CH3)2-、H3C-CH2-CH2-CH2-CH2-、H3C-CH2-CH2-CH(CH3)-、H3C-CH2-CH(CH3)-CH2-、H3C-CH(CH3)-CH2-CH2-、H3C-CH2-C(CH3)2-、H3C-C(CH3)2-CH2-、H3C-CH(CH3)-CH(CH3)-およびH3C-CH2-CH(CH2CH3)-を包含する。
【0047】
「C3-n-シクロアルキル」(式中、nは、4~nの整数である)という用語は、単独で、または別のラジカルとの組合せで、3~n個のC原子を有する非分岐鎖の環式飽和炭化水素ラジカルを表す。例えば、C3-7-シクロアルキルという用語は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルを含む。
「アルキル」基、「アルキレン」基または「シクロアルキル」基(飽和または不飽和)に加えられた「ハロ」という用語により、1個または複数の水素原子が、フッ素、塩素または臭素、好ましくはフッ素および塩素のなかから選択される、特に好ましいのはフッ素であるハロゲン原子で置き換えられているようなアルキル基またはシクロアルキル基である。例には、以下が含まれる:H2FC-、HF2C-、F3C-。同様に、アリール基(例えば、フェニル)に加えられた「ハロ」という用語は、1個または複数の水素原子が、フッ素、塩素または臭素、好ましくはフッ素および塩素のなかから選択される、特に好ましいのはフッ素であるハロゲン原子で置き換えられていることを意味する。
【0048】
単独で、または別のラジカルとの組合せで使用される「カルボシクリル」という用語は、3~9個の炭素原子ならびに任意にN、O、およびSからなる群から選択されるヘテロ原子からなる単環式、二環式または三環式環構造を意味する。「カルボシクリル」という用語は、完全飽和環系を指し、かつ縮合、架橋およびスピロ環式系を包含する。
上述の用語の多くは、式または基の定義において繰り返し使用されることがあり、それぞれの場合において、互いに独立して、上述の意味のうちの1つを有する。
【0049】
具体的に示されていない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲全体にわたって、所与の化学式または化学名は、互変異性体と、すべての立体、光学および幾何異性体(例えばエナンチオマー、ジアステレオマー、E/Z異性体など)と、それらのラセミ体、ならびに異なる割合の別個のエナンチオマーの混合物、ジアステレオマーの混合物、またはそのような異性体およびエナンチオマーが存在する場合は前述の形態のいずれかの混合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩を含む塩、ならびにそれらの溶媒和物、例えば遊離化合物の溶媒和物またはその化合物の塩の溶媒和物を含む水和物などを包含するものとする。
【0050】
表1の化合物のいくつかは、1種を超える互変異性形態で存在することができる。本発明は、すべてのそのような互変異性体を使用するための方法を含む。
加えて、本発明の範囲内は、本発明の処置の方法内のTRPC6阻害剤のプロドラッグの使用である。プロドラッグには、単純な化学変換時、修飾されて、本発明の化合物を生成する化合物が含まれる。単純な化学変換には、加水分解、酸化および還元が含まれる。具体的には、プロドラッグが患者に投与されるとき、プロドラッグは、本明細書に先に開示された化合物へと変換され、それによって所望の薬理効果を与えてもよい。
本出願において本明細書に先に開示されたすべての化合物について、命名法が構造と矛盾する場合、化合物は構造により定義されると理解されるものとする。
生物学的活性の評価
【0051】
(実施例1)
マウスモデルにおけるLPS誘導性血管漏出の減少
マウスがチャンバー内に置かれ、30分間リポ多糖(LPS、エンドトキシンとして既知であり、かつ大腸菌(Escherichia Coli)などのグラム陰性細菌の外膜に見出される)エアロゾル(0.8mg/ml)(またはビヒクルとしてのリン酸緩衝生理食塩水、PBS)に曝露される。TRPC6阻害剤は、LPS曝露の12時間前および2時間前に経口投与される。LPSエアロゾル曝露終了の4時間後にマウスを安楽死させる。化合物の血漿曝露のために血液が採取され、肺がPBS 0.8mlでフラッシングされる。気管支肺胞洗浄液が500回転/分で10分間遠心分離され、660nmでの吸光度によるローリー測定による総タンパク質の測定のために上清が採取される。
LPSエアロゾル誘導性肺浮腫は、気管支肺胞洗浄液タンパク質(BALFタンパク質)の著しい蓄積によって特徴付けられる。これらのタンパク質の起源は、血管透過性亢進に起因する血液からのアルブミン、および損傷した肺胞細胞の膜からのタンパク質である。LPS群において、BALFタンパク質(280~310μg/ml BALF、
図1aおよび
図1b)は、PBS群におけるBALFタンパク質(170~180μg/ml BALF、
図1aおよび
図1b)よりも著しく多い。TRPC6阻害剤は、3mg/kg p.o.で56%および10mg/kg p.o.で62%とBALFタンパク質濃度を著しく減少させた(
図1c)。
【0052】
(実施例2)
アカゲザルモデルにおけるSARS-CoV-2障害の処置
SARS-CoV-2障害を処置するためのTRPC阻害剤の使用をアカゲザルモデルにおいて研究することができる。適格なサル(雄および雌、生後3~5年、体重3.5~7.0kg)は、身体検査を受け、異常を示さない。血清学的間接免疫蛍光法(IFA)は、潜在的なサル免疫不全ウイルス(SIV)、サルレトロウイルスD型(SRV)およびサルTリンパ球ウイルスI型(STLV-I)による感染を排除する。適格なサルが、14日間のさらなる検査のために隔離室に送られる。隔離を通過後、サルは摂餌適応のために実験室に移され、実験が開始される。
処置群および対照群:処置群および陽性対照群のサルにSARS-CoV-2が接種される。TRPC6阻害剤(5%ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン中で可溶化された)が処置群のサルに1dpi(SARS-CoV-2接種の24時間後)から開始して6dpi(感染後日数)まで毎日1回静脈内投与(3mg/kg)される。両群のサルを7dpiに安楽死させる。サルのこれらの群は、PBSが接種され、かつTRPC6のビヒクル(5%ヒドロキシプロピル-ベータ.シクロデキストリン)で処置される陰性対照群と比較される
【0053】
結果:
体重が0dpiおよび7dpiに測定される。
血液サンプルが隔日1回、1ml/回採取される。末期血液サンプル(10ml)が採取され、IL1β、IL6、IL11、アドレノメデュリン、アンジオポエチン-2およびCGRP、PECAM-1およびSurfactant D(SPD)に関して分析(ELISA)される。
肺質量が7dpiに測定される。
【0054】
肺の組織病理学的および免疫組織化学的検査が7dpiに実施される。ヘマトキシリン/エオシン(H/E)、過ヨウ素酸シッフ(PAS)および免疫組織化学(IHC)染色が実施される。肺浮腫の重症度を病理学スコアによって評価することができる。
外因性ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TUNEL)アッセイが肺組織スライドに対して実施される。TUNEL陽性細胞を定量化することができる。
胸部X線が0dpiおよび7dpiに実施される。
上記の測定およびアッセイの結果を使用して、SARS-CoV-2感染から生じ得る肺の障害(肺性(肺)浮腫など)の処置に本発明のTRPPC阻害剤が有用であることを示すことができる。
【0055】
(実施例3)
マウスモデルにおけるH1N1誘導性血管漏出の減少
マウスに200PFU(プラーク形成単位)のウイルスインフルエンザA型(株:PR8/34/H1N1)が鼻腔内接種された。TRPC6が接種の2時間後および1日目から4日目まで毎日1回3mg/kg p.o.で投与された。エバンスブルーが6日目に安楽死の30分前に静脈内注射された。気管支肺胞洗浄液(BALF)が採取され、500回転/分で10分間遠心分離された。620nmの吸光度での分光光度法によるエバンスブルーの測定のために上清が採取された
接種後6日目に、H1N1は、血液からBALFへのエバンスブルー漏出の増加によって特徴付けられる肺血管漏出を誘導した。H1N1群において、BALFエバンスブルー(29μg/ml)は、ビヒクル群のBALFエバンスブルー(7μg/ml)よりも著しく高かった。TRPC6阻害剤は、3mg/kg p.o.で24%とBALFエバンスブルーを著しく減少させた
【0056】
治療的使用の方法
TRPC6の阻害は、血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態を処置または軽減するための魅力的な手段である。本明細書に開示される化合物は、例えば:肺血管透過性亢進、肺性(肺)浮腫、肺虚血再灌流、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、敗血症、重症敗血症、および敗血症性ショックを含むこれらの障害、疾患および状態の処置および/または軽減に特に効果的である。
【0057】
1つの実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することにより肺血管透過性亢進を軽減するための方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することにより肺性浮腫を処置または軽減するための方法を提供する。
【0058】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することにより低度、軽度、および重度のARDS(低酸素血症の程度に基づいて)を含むARDSを処置するための方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することによりARDSを処置するための方法を提供する。
【0059】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することによりSARSを処置するための方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することによりMERSを処置するための方法を提供する。
【0060】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することにより敗血症、重症敗血症、および/または敗血症性ショックを処置するための方法を提供する。
【0061】
1つの実施形態において、本発明は、ウイルス(インフルエンザH1N1、呼吸器合胞体ウイルス、ヘルペスウイルス科、パラインフルエンザ、アデノウイルスなど)または細菌(レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎球菌(Sterptococcus pneumonia)、クレブシエラ、マイコプラズマ肺炎など;黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))または真菌性(真菌性肺炎)寄生虫(寄生虫性肺炎)感染から生じる、本明細書に記載される呼吸器障害または状態を処置または軽減するための方法を提供する。ウイルス感染の非限定的な例には、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することによるSARS-CoV、SARS-CoV-2およびMERS-CoVなどのヒトコロナウイルス(CoV)感染が含まれる。
【0062】
別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者に薬学的有効量の本明細書に先に定義されたような式(I)の、もしくは化合物1~95からなる群から選択される化合物の、しかし好ましくは表1に示された化合物6、16、17、29、31、33、34、40、41、44、49、54、56、57、66、80、83、85、87、88、および90からなる群から選択される化合物のTRPC6阻害剤、またはその薬学的に許容される塩を投与することによる、ウイルス性または細菌性感染から生じる呼吸器障害または状態の処置であって、呼吸器障害または状態が、肺血管透過性亢進、肺性(肺)浮腫、肺虚血再灌流、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、および重症急性呼吸器症候群(SARS)からなる群から選択される、処置に関する。
【0063】
治療的使用について、本発明の化合物は、任意の従来の方法で任意の従来の医薬剤形の医薬組成物を介して投与されてよい。従来の剤形には典型的には、選択される特定の剤形に適した薬学的に許容される担体が含まれる。投与経路には、静脈内の、筋肉内の、皮下の、滑膜内の、注入による、舌下の、経皮的な、経口的な、局所的な、または吸入による投与経路が含まれるが、これらに限定されない。好ましい投与モードは、経口および静脈内である。
【0064】
本発明の化合物は、単独で、または他の活性成分を含む、阻害剤の安定性を向上させる、特定の実施形態のそれらを含む医薬組成物の投与を容易にする、溶解もしくは分散の向上を実現する、阻害活性を増加させる、補助療法を提供するなどの補助剤と組み合わせて投与されてよい。1つの実施形態において、例えば、本発明の複数の化合物を投与することができる。有利に、そのような組合せ療法は、より低投与量の従来の治療薬を利用し、したがって、それらの薬剤が単独療法として使用されるとき、可能性のある毒性および有害な副作用を招くのを回避する。本発明の化合物は、単一の医薬組成物へと従来の治療薬または他の補助剤と物理的に組み合わせられてよい。有利に、次いで、化合物は、単一剤形で一緒に投与されてよい。いくつかの実施形態において、化合物のそのような組合せを含む医薬組成物は、少なくとも約5%、しかしより好ましくは少なくとも約20%の本発明の化合物(w/w)またはその組合せを含む。本発明の化合物の最適な百分率(w/w)は変化し得、かつ当業者の範囲内である。あるいは、本発明の化合物および従来の治療薬または他の補助剤は、別個に(連続的に、または並行して)投与されてよい。別個の投薬は、投薬レジメンにおけるより高い柔軟性を可能にする。
【0065】
上述のように、本発明の化合物の剤形は、当業者に既知であり、かつ剤形に適した薬学的に許容される担体および補助剤を含んでよい。これらの担体および補助剤には、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、緩衝物質、水、塩または電解質およびセルロースベースの物質が含まれる。好ましい剤形には、錠剤、カプセル、カプレット、液体、溶液、懸濁剤、乳剤、ロゼンジ、シロップ、再構成可能な散剤、顆粒、坐剤および経皮パッチが含まれる。そのような剤形を調製するための方法は既知である(例えば、H.C. Ansel and N.G. Popovish, Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 5th ed., Lea and Febiger (1990)参照)。投与量レベルおよび本発明の化合物に関する要件は、特定の患者に適した利用可能な方法および技法から当業者によって選択されてよい。いくつかの実施形態において、投与量レベルは、70kgの患者に対して約1~1000mg/用量の範囲である。1日あたり1回の用量が十分であることがあるが、1日あたり最大5回の用量が投与されることもある。経口用量については、最大2000mg/日が必要になることがある。当業者が理解するであろうように、特定の要因に応じて、より低用量またはより高用量が必要になることがある。例えば、特定の投与量および処置レジメンは、患者の一般的な健康プロファイル、患者の障害の重症度および経過またはそれに対する素因、および処置を行う医師の判断などの要因に依存することになる。
【0066】
本発明の化合物は、単独で、または1種もしくは複数種の追加の治療剤の組合せで使用されてよい。追加の治療剤の非限定的な例は以下を含んでよい:
ヒドロキシクロロキンまたはクロロキンなどの抗マラリア剤、それぞれアジスロマイシンあり、またはなし;
レムデシビルなどのウイルス抑制ヌクレオシドアナログ;
ロピナビル-リトナビルなどのHIVプロテアーゼ阻害剤;
カンデサルタン、エプロサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、アジルサルタン、およびメドキソミルなどのアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト(アンジオテンシン受容体遮断剤(ARB));
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(例えば、ベナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、ホシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、およびペリンドプリル);
抗凝固剤(例えばダビガトラン、アクチライス(actylise)、ワルファリン、ヘパリン、およびアセチルサリチル酸’);
アルファ-グルコシダーゼ阻害剤(例えば、ミグリトールおよびアカルボース)、アミリンアナログ(例えば、プラムリンチド)、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害剤(例えば、アログリプチン、シタグリプチン、サキサグリプチン、およびリナグリプチン)、インクレチンミメティック(例えば、リラグルチド、エキセナチド、リラグルチド、エキセナチド、デュラグルチド、アルビグルチド、およびリキシセナチド)、インスリン、メグリチニド(例えば、レパグリニドおよびナテグリニド)、ビグアニド(例えば、メトホルミン);SGLT-2阻害剤(例えば、カナグリフロジン、エンパグリフロジン、およびダパグリフロジン)、スルホニル尿素(例えば、クロルプロパミド、グリメピリド、グリブリド、グリピジド、グリブリド、トラザミド、およびトルブタミド)、およびチアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾンおよびピオグリタゾン);CGRPアンタゴニスト(オルセゲパント、バルセゲパント(valcegepant)など)などの抗糖尿病剤;
短時間作用型および長時間作用ベータアゴニスト(例えば、アルブテロール、レバルブテロール、サルメテロール、ホルモテロール、アルホルモテロール、ビランテロール、インダカテロールおよびオロダテロール)ならびに短時間および長時間作用型抗コリン作用薬(イプラトロピウム、チオトロピウム、ウメクリジニウム、グリコピロレートおよびアクリジニウム)を含む気管支拡張剤;
フルチカゾンおよびブデソニドなどのステロイド;ならびに
デキサメタゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、およびヒドロコルチゾンなどのコルチコステロイド。
【0067】
1つの実施形態において、1種または複数種の追加の治療剤には、REGN10933およびREGN10987ならびに組合せまたはREGN10933およびREGN10987(REGN-COV2)を含む、SARS-CoV-2の感染性をブロックする1種または複数種のモノクローナル抗体が含まれる。
【0068】
別の実施形態において、本発明の化合物は、トシリズマブ、サリルマブ、シルツキシマブ、レビリマブ、オロキズマブ(CDP6038)、エルシリモマブ、クラザキズマブ(BMS-945429、ALD518)、シルクマブ(CNTO 136)、レビリマブ(BCD-089)、CPSI-2364(p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路の明らかなマクロファージ特異的阻害剤)、ALX-0061、ARGX-109、FE301およびFM101などの抗IL-6抗体と組み合わせて使用されてよい。
【0069】
さらに別の実施形態において、本発明の化合物は、以下の阻害剤を含む、血液悪性腫瘍の処置のための承認された、または開発後期のTKIなど、免疫調節効果をもたらす様々なキナーゼ阻害剤と組み合わせて使用されてよい(A. P. Kater et al., Blood Adv. 2021 Feb 9; 5(3): 913-925)
イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、またはチラブルチニブなどのブルトンチロシンキナーゼ(BTK)、
フォスタマチニブ、エントスプレチニブ、またはセルデュラチニブなどの脾臓チロシンキナーゼ(SYK)、
イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブ、またはラドチニブなどのBCR-Abl、
イデラリシブ、コパンリシブ、デュベリシブ、ウンブラリシブ、またはテムシロリムスなどのホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)/哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)、
ルキソリチニブ、フェドラチニブ、モメロチニブ、またはパクリチニブなどのJAK/STAT、および
ミドスタウリン、スニチニブ、ソラフェニブ、ギルテリチニブ、クレノラニブ、またはキザルチニブなどのFMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)。
【0070】
さらなる実施形態において、機械的換気を必要とする患者は肺線維症を発症する傾向があるので、本発明の化合物は、ニンテダニブまたはピルフェニドンなどの抗線維化剤と組み合わせて使用されてよい。
医薬組合せの組合せ処置として使用されるとき、本発明の化合物および1種または複数種の追加の薬剤を同じ剤形または異なる剤形で投与することができる。本発明の化合物および1種または複数種の追加の薬剤をレジメンの一部として同時または別個に投与することができる。
【0071】
(実施例3)
ヒトにおけるSARS-CoV-2障害の処置
SARS-CoV-2障害を処置するためのTPRPC阻害剤の使用を成人患者において研究して、例えば、COVID-19のために入院した患者における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のリスクまたは重症度の軽減においてプラセボと比較した、本発明によるTRPC6阻害剤の有効性および安全性を示すことができる。この処置は、これらの患者において利益を有することが示された他の療法のバックグラウンドで行われ得る。本発明の1種の特定のTRPC6阻害剤(BI 764198)は、健常成人における第1相研究において良好な忍容性を示すことが示された(NCT03854552)。BI 764198は、SARS-CoV-2に感染した患者の肺における血管透過性亢進および浮腫を軽減し、呼吸器合併症のリスクおよび疾患による死亡率を潜在的に軽減すると予想される。他の臓器系における合併症を見ることにより、他の血管床に対する可能性のある効果が評価され得る。
【0072】
適格な患者:COVID-19のために入院し、かつWHO Clinical Progression Scaleに基づくグレード5(入院;マスクまたは鼻プロングによる酸素)またはグレード6(入院;非侵襲的換気または高流量による酸素)の、SARS-CoV-2感染が陽性(PCRにより確認された)である成人(50歳以上)。(WHO Working Group on the Clinical Characterization and Management of COVID-19 infection. A minimal common outcome measure set for COVID-19 clinical research. Lancet Infectious Diseases, Published Online June 12, 2020, doi: 10.1016/S1473-3099(20)30483-7; 2020参照。)
【0073】
処置群および対照群:適格な患者が処置群または対照群にランダムに割り当てられる。処置群において、TRPC6阻害剤(BI 764198)がカプセルで、または必要であれば、水にカプセルを溶解後、経鼻胃挿管を介して患者に毎日1回経口投与される。対照群において、プラセボは、TRPC6阻害剤と適合するカプセルとして、または必要な場合のみ、水にカプセルを溶解後、経鼻胃挿管を介して患者に毎日1回投与される。両群の患者は処置期間(28日の最長処置)の間入院する。
【0074】
処置レジメン:研究薬物およびプラセボは、少なくとも6時間絶食(食物なし、水は許される)後投与される。患者は研究薬物またはプラセボ投与から1.5時間は絶食したままであるべきである。栄養状態は推奨であり、厳密な要件ではない。
結果:主要な試験目的は、BI 764198とプラセボの間の処置効果を推定することである。例えば、患者は、臨床的改善、酸素飽和度、および集中治療室に収容された患者の百分率に関して監視されることになる。主要な比較は、任意の処置変更に関係なく、ランダム化比較として行われることになる。
【0075】
一次エンドポイント:29日目に生存しており、かつ機械的換気なしの患者。
二次エンドポイント:WHO Clinical Progression Scaleに基づく改善。標的候補での処置に対する「レスポンダー」と見なされるために、患者は応答を示す必要がある。エンドポイントは以下である:World Health Organization Clinical Progression Scaleに基づいて少なくとも2ポイントの臨床的改善(ランダム化から)と定義される応答までの時間、29日目までの病院からの退院、または退院が適切と見なされる(Clinical Progression Scaleに基づく0、1、2、または3のスコア)、いずれか早い方。例えば、患者がランダム化においてグレード5(入院;マスクまたは鼻プロングによる酸素)であるがグレード3(症候性;補助が必要とされる)に改善する場合は応答と見なされるであろう。29日目までに病院から退院するか、または退院が適切と見なされる患者(Clinical Progression Scaleに基づく0、1、または2のスコア)も応答と見なされるであろう。
WHO Clinical Progression Scale:
0.非感染性;ウイルスRNAが検出されない
1.無症候性;ウイルスRNAが検出される
2.症候性;非依存性
3.症候性;補助が必要とされる
4.入院;酸素療法なし
5.入院;マスクまたは鼻プロングによる酸素
6.入院;非侵襲的換気または高流量による酸素
7.挿管および機械的換気、pO2/FiO2≧150またはSpO2/FiO2≧200
8.機械的換気pO2/FiO2<150(SpO2/FiO2<200)または昇圧剤
9.機械的換気pO2/FiO2<150および昇圧剤、透析、または体外式膜型人工肺(ECMO)
10.死亡
ECMO=体外式膜型人工肺。FiO2=吸入酸素濃度。NIV=非侵襲的換気。pO2=酸素分圧。SpO2=酸素飽和度。*隔離のみのために入院した場合、外来患者と同様に状態を記録
【0076】
他のエンドポイント:
・29日目に生存しており、かつ酸素なしで退院した患者
・29日目までの換気装置なしの日数 15、29、60、および90日目の死亡率
・任意の複合構成要素の発生を伴う患者:29日目の院内死亡率または集中治療室(ICU)収容または機械的換気
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態を処置するための方法であって、それを必要とする患者に薬学的有効量の式(I)
【化1】
(I)
(式中、
Lは存在しないか、またはメチレンもしくはエチレンであり、
Yは、CHまたはNであり、
Aは、CHまたはNであり、
R
1
は、
ハロ、C
3-6
シクロアルキルおよびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
1-6
アルキル、
CF
3
、ハロ、C
3-6
シクロアルキル、OC
3-6
シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC
1-6
アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
ハロおよび1~3個のハロで置換されていてもよいC
1-6
アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
3-6
シクロアルキル
からなる群から選択され、
R
2
は、H、C
1-6
アルキル、OCF
3
、C
3-6
シクロアルキル、OC
1-6
アルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、
R
3
は、H、C
1-6
アルキル、C
3-6
シクロアルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、ここでR
3
基のC
1-6
アルキル、C
3-6
シクロアルキル、OC
3-6
シクロアルキルのそれぞれは、ハロ、OH、OC
1-6
アルキル、およびSC
1-6
アルキル、N(C
1-6
アルキル)
2
からなる群からそれぞれ独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよく、ここでR
3
基のC
1-6
アルキルの1~3個の炭素原子は、NH、N(C
1-6
アルキル)、O、およびSからなる群から選択される置き換えられた1つまたは2つの部分でもよく、
R
4
およびR
5
は、HおよびC
1-6
アルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
R
3
およびR
4
は、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R
3
およびR
5
は一緒に、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R
6
は、H、C
1-6
アルキル、CN、CF
3
、OCF
3
、C
3-6
シクロアルキル、OC
1-6
アルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、
R
7
は、HおよびOC
1-6
アルキルからなる群から選択される)
のTRPC6阻害剤またはその薬学的に許容される塩を投与することを含む、方法。
〔2〕血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態が、
肺性(肺)浮腫、
特発性間質性肺炎、
特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、
非感染関連(ARDS)、
急性肺傷害(ALI)、ならびに
肺虚血再灌流、
好ましくは
肺性(肺)浮腫、
特発性間質性肺炎、
特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、
非感染関連(ARDS)、ならびに
急性肺傷害(ALI)
からなる群1から選択される、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態が、
感染に関連するARDS、
重症急性呼吸器症候群(SARS)、
中東呼吸器症候群(MERS)、
敗血症、
重症敗血症、および
敗血症性ショック
からなる群2から選択される、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕R
1
が、
ハロ、およびC
3-6
シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
1-6
アルキル、
CF
3
、ハロ、OC
3-6
シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC
1-6
アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
1~3個のハロ基で置換されていてもよいC
3-6
シクロアルキル
からなる群から選択され、
R
2
がOC
1-6
アルキルであり、
R
3
が、HおよびOHまたはOC
1-6
アルキルで置換されていてもよいC
1-6
アルキルからなる群から選択され、
R
4
がHであり、
R
5
がHであり、
R
3
およびR
4
が、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R
3
およびR
5
が一緒に、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R
6
が、H、C
1-6
アルキル、OC
1-6
アルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、
R
7
が、HおよびOC
1-6
アルキルからなる群から選択される、
前記〔1〕、〔2〕または〔3〕に記載の方法、またはその薬学的に許容される塩。
〔5〕TRPC6阻害剤が、
【表1】
およびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、前記〔1〕、〔2〕または〔3〕に記載の方法。
〔6〕TRPC6阻害剤が、
抗マラリア剤、ウイルス抑制ヌクレオシドアナログ、HIVプロテアーゼ阻害剤、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、CGRPアンタゴニスト、抗凝固剤、抗糖尿病剤、気管支拡張剤、およびステロイド
からなる群から選択される1種または複数種の追加の治療剤と組み合わせて投与される、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕TRPC6阻害剤が、
SARS-CoV-2の感染性をブロックする1種または複数種のモノクローナル抗体、
抗IL-6抗体、
免疫調節効果をもたらすキナーゼ阻害剤、および
抗線維化剤
からなる群から選択される1種または複数種の追加の治療剤と組み合わせて投与される、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための、式(I)のTRPC6阻害剤またはその薬学的に許容される塩。
【化2】
(I)
(式中、
Lは存在しないか、またはメチレンもしくはエチレンであり、
Yは、CHまたはNであり、
Aは、CHまたはNであり、
R
1
は、
ハロ、C
3-6
シクロアルキルおよびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
1-6
アルキル、
CF
3
、ハロ、C
3-6
シクロアルキル、OC
3-6
シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC
1-6
アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
ハロおよび1~3個のハロで置換されていてもよいC
1-6
アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
3-6
シクロアルキル
からなる群から選択され、
R
2
は、H、C
1-6
アルキル、OCF
3
、C
3-6
シクロアルキル、OC
1-6
アルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、
R
3
は、H、C
1-6
アルキル、C
3-6
シクロアルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、ここでR
3
基のC
1-6
アルキル、C
3-6
シクロアルキル、OC
3-6
シクロアルキルのそれぞれは、ハロ、OH、OC
1-6
アルキル、およびSC
1-6
アルキル、N(C
1-6
アルキル)
2
からなる群からそれぞれ独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよく、ここでR
3
基のC
1-6
アルキルの1~3個の炭素原子は、NH、N(C
1-6
アルキル)、O、およびSからなる群から選択される置き換えられた1つまたは2つの部分でもよく、
R
4
およびR
5
は、HおよびC
1-6
アルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
R
3
およびR
4
は、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R
3
およびR
5
は一緒に、N、O、およびSからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R
6
は、H、C
1-6
アルキル、CN、CF
3
、OCF
3
、C
3-6
シクロアルキル、OC
1-6
アルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、
R
7
は、HおよびOC
1-6
アルキルからなる群から選択される)
〔9〕障害および/または状態が、
肺性(肺)浮腫、
特発性間質性肺炎、
特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、
非感染関連(ARDS)、
急性肺傷害(ALI)、ならびに
肺虚血再灌流、
好ましくは
肺性(肺)浮腫、
特発性間質性肺炎、
特発性肺線維症(IPF)および急性増悪IPF、
非感染関連(ARDS)、ならびに
急性肺傷害(ALI)
からなる群1から選択される、前記〔8〕に記載の血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための式(I)のTRPC6阻害剤。
〔10〕障害および/または状態が、
感染に関連するARDS、
重症急性呼吸器症候群(SARS)、
中東呼吸器症候群(MERS)、
敗血症、
重症敗血症、および
敗血症性ショック
からなる群2から選択される、前記〔8〕に記載の血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための式(I)のTRPC6阻害剤。
〔11〕R
1
が、
ハロ、およびC
3-6
シクロアルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいC
1-6
アルキル、
CF
3
、ハロ、OC
3-6
シクロアルキル、および1~3個のハロで置換されていてもよいOC
1-6
アルキルからなる群から独立して選択される1~3個の基で置換されていてもよいフェニル、ならびに
1~3個のハロ基で置換されていてもよいC
3-6
シクロアルキル
からなる群から選択され、
R
2
がOC
1-6
アルキルであり、
R
3
が、HおよびOHまたはOC
1-6
アルキルで置換されていてもよいC
1-6
アルキルからなる群から選択され、
R
4
がHであり、
R
5
がHであり、
R
3
およびR
4
が、それらが結合されている原子と一緒に、結合して、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員カルボシクリル環を形成することができるか、または
R
3
およびR
5
が一緒に、NおよびOからなる群から選択される1~3個のヘテロ原子を含んでもよい3~9員二環式環を形成することができ、
R
6
が、H、C
1-6
アルキル、OC
1-6
アルキル、およびOC
3-6
シクロアルキルからなる群から選択され、
R
7
が、HおよびOC
1-6
アルキルからなる群から選択される、
前記〔8〕、〔9〕または〔10〕に記載の血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための式(I)のTRPC6阻害剤またはその薬学的に許容される塩。
〔12〕
【表2】
およびその薬学的に許容される塩からなる群から選択される、前記〔8〕、〔9〕または〔10〕に記載の血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための式(I)のTRPC6阻害剤。
〔13〕抗マラリア剤、ウイルス抑制ヌクレオシドアナログ、HIVプロテアーゼ阻害剤、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、CGRPアンタゴニスト、抗凝固剤、抗糖尿病剤、気管支拡張剤、ステロイド、およびコルチコステロイド
からなる群から選択される1種または複数種の追加の治療剤と組み合わせて投与される、前記〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕または12に記載の血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための式(I)のTRPC6阻害剤。
〔14〕SARS-CoV-2の感染性をブロックする1種または複数種のモノクローナル抗体、
抗IL-6抗体、
免疫調節効果をもたらすキナーゼ阻害剤、および
抗線維化剤
からなる群から選択される1種または複数種の追加の治療剤と組み合わせて投与される、前記〔8〕、〔9〕、〔10〕、〔11〕または12に記載の血管透過性亢進に関連する障害および/またはそれから生じる状態の処置において使用するための式(I)のTRPC6阻害剤。