(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】主軸装置
(51)【国際特許分類】
B23B 31/00 20060101AFI20240611BHJP
B23B 31/117 20060101ALI20240611BHJP
B23Q 3/12 20060101ALI20240611BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B23B31/00 C
B23B31/117 601A
B23Q3/12 B
B23Q11/10 D
(21)【出願番号】P 2022563712
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2021041448
(87)【国際公開番号】W WO2022107672
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020190873
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】村松 稔文
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特許第3118512(JP,B2)
【文献】特開平10-296517(JP,A)
【文献】特開2009-154225(JP,A)
【文献】特開2002-321138(JP,A)
【文献】特開2001-150295(JP,A)
【文献】特開平09-011008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00
G05B19/4093
G05B19/4155
B23Q15/013
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って貫通する貫通孔が形成される主軸と、
前記主軸の一端に対して進退可能に前記貫通孔に設けられ、前記軸方向に沿って前記貫通孔と連通する流路が形成されるドローバーと、
前記ドローバーの進退に応じて前記主軸の径方向に可動し、前記主軸の一端から前記貫通孔に挿入されるプルスタッドをクランプまたはアンクランプする複数のボールと、
を有する主軸装置であって、
前記プルスタッドには、前記プルスタッドの外周面から突出する突出部と、前記突出部から前記プルスタッドの先端に向かって縮径する傾斜部とを有するフランジが形成され、
複数の前記ボールによってクランプされる前記プルスタッドの前記傾斜部の傾斜面と接触するように、前記ドローバーの前記流路を形成する壁面に固定されるシール部材を備え
、
前記シール部材は、前記主軸の他端に向けて開口する凹みを有し、
前記主軸の他端から前記プルスタッドの先端に供給される流体の一部が前記傾斜部に沿って前記凹みの前記開口に流入し、
前記凹みは、前記開口から流入した前記流体により前記傾斜部を締め付けるように変形する、主軸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の主軸装置であって、
前記壁面には、前記主軸の軸回りに沿って溝が形成され、
前記シール部材は、前記溝から一部が突出するように前記溝の内部に設けられる、主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工具または工具ホルダを主軸の一端に装着する主軸装置がある。特許第3118512号公報の主軸装置は、プルスタッドと、ドローバーと、複数のボールとを有する。プルスタッドは、工具または工具ホルダに取り付けられる。ドローバーは、主軸に形成される貫通孔に設けられ、主軸の軸方向に沿って進退可能である。複数のボールは、ドローバーの進退に応じて主軸の径方向に可動し、プルスタッドをクランプまたはアンクランプする。
【0003】
特許第3118512号公報の主軸装置では、主軸の貫通孔を通じて工具の先に切削油等の流体を供給するスルークーラント構造が採用されている。このため、主軸の貫通孔を流れる流体が、当該主軸の一端の内周面に形成されるテーパ面に流れ出ないように、Oリングが主軸装置に設けられている(
図5参照)。このOリングは、プルスタッドの外周面から突出するフランジの外径が一定の面と、ドローバーの第2のスリーブの内周面との間に設けられている。
【発明の概要】
【0004】
しかし、特許第3118512号公報の主軸装置では、主軸の一端から貫通孔にプルスタッドを出し入れする場合、シール部材(Oリング)に対するプルスタッドの摺動による摩擦が大きくなる。したがって、シール部材の耐久性が低減することが懸念される。シール部材の耐久性が低減すると、スルークーラント用の流体が主軸のテーパ面に付着し、特許第3118512号公報で述べられているように、工具保持剛性が低減する。
【0005】
そこで、本発明の態様は、工具保持剛性が低減することを抑制し得る主軸装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の態様は、
軸方向に沿って貫通する貫通孔が形成される主軸と、
前記主軸の一端に対して進退可能に前記貫通孔に設けられ、前記軸方向に沿って前記貫通孔と連通する流路が形成されるドローバーと、
前記ドローバーの進退に応じて前記主軸の径方向に可動し、前記主軸の一端から前記貫通孔に挿入されるプルスタッドをクランプまたはアンクランプする複数のボールと、
を有する主軸装置であって、
前記プルスタッドには、前記プルスタッドの外周面から突出する突出部と、前記突出部から前記プルスタッドの先端に向かって縮径する傾斜部とを有するフランジが形成され、
複数の前記ボールによってクランプされる前記プルスタッドの前記傾斜部の傾斜面と接触するように、前記ドローバーの前記流路を形成する壁面に固定されるシール部材を備える。
【0007】
本発明の態様によれば、主軸の一端から貫通孔にプルスタッドを出し入れする場合のシール部材との摩擦が大幅に低減され、シール部材の耐久性が向上する。したがって、スルークーラント用の流体が主軸の内周面に付着することが抑制され、この結果、工具保持剛性が低減することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】装着対象物が装着された本実施形態の主軸装置を示す断面図である。
【
図2】装着対象物が装着されていない本実施形態の主軸装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について、好適な実施形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0010】
〔実施形態〕
図1は、装着対象物ATが装着された本実施形態の主軸装置10を示す断面図である。
図2は、装着対象物ATが装着されていない本実施形態の主軸装置10を示す断面図である。なお、装着対象物ATは、工具または工具ホルダであり、工具または工具ホルダには、プルスタッド12が取り付けられる。
【0011】
プルスタッド12は、主軸装置10に工具または工具ホルダを接合するための接合片である。プルスタッド12には、プルスタッド12の軸心に沿って貫通孔12Hが形成される。プルスタッド12の貫通孔12Hは、工具または工具ホルダに形成される流路CLと連通する。
【0012】
プルスタッド12は、嵌込部14と、延伸部16とを有する。嵌込部14は、工具または工具ホルダの流路CLに嵌め込まれる部分である。延伸部16は、流路CLの開口面に対して略直交する方向に延びている部分である。つまり、延伸部16は、プルスタッド12の軸心に沿って延びている。延伸部16において嵌込部14に近い端部とは逆の端部に、フランジ18が形成される。
【0013】
フランジ18は、プルスタッド12の軸回りに形成される。フランジ18は、突出部18Aと、傾斜部18Bとを有する。突出部18Aは、プルスタッド12の外周面から突出する。傾斜部18Bは、突出部18Aからプルスタッド12の先端に向かって縮径する。傾斜部18Bの傾斜面SFは、プルスタッド12の先端に向かって先細りとなっている。
【0014】
主軸装置10は、装着対象物(工具または工具ホルダ)ATに取り付けられるプルスタッド12を着脱可能に保持する。主軸装置10は、主軸20、ドローバー22およびクランプ機構24を有する。
【0015】
主軸20は、工具または工具ホルダが着脱される軸である。主軸20には、主軸20の軸方向に沿って貫通する貫通孔20Hが形成される。貫通孔20Hは、装着対象物ATの一部を挿入可能に形成される。貫通孔20Hの内周面にはテーパ面20Fが設けられる。テーパ面20Fは、貫通孔20Hに挿入される装着対象物ATの一部の外周面と密着する。テーパ面20Fは、主軸20の一端である第1端部から他端である第2端部に向かって先細りとなっている。第1端部は、プルスタッド12が出し入れされる側の主軸20の端部である。第2端部は、第1端部とは反対側の主軸20の端部である。
【0016】
ドローバー22は、主軸20の貫通孔20Hに設けられる。ドローバー22は、主軸20の貫通孔20Hを進退可能である。ドローバー22は、テーパ面20Fよりも主軸20の第2端部に近い。図示しない押圧機構によって押圧されていない場合、ドローバー22は、貫通孔20H内におけるクランプ位置に留まる。一方、ドローバー22は、前記押圧機構によって押圧された場合には、クランプ位置から、クランプ位置よりも主軸20の第1端部に近いアンクランプ位置に向かって貫通孔20Hを移動する。ドローバー22が押圧機構によって押圧された状態では、アンクランプ位置に留まる。他方、ドローバー22は、押圧機構による押圧が解除されると、アンクランプ位置からクランプ位置に向かって貫通孔20Hを移動し、クランプ位置で留まる。なお、前記押圧機構は、ドローバー22よりも主軸20の第2端部の近くに設けられる。
【0017】
ドローバー22には、主軸20の軸方向に沿って貫通孔20Hと連通する流路22CLが形成される。主軸20の第1端部に近いドローバー22の流路22CLは、プルスタッド12の先端部位を挿入可能に形成される。主軸20の第2端部から貫通孔20Hを介してドローバー22に供給されたスルークーラント用の流体は、ドローバー22の流路22CLを介して、主軸20の第1端部に向かって流れる。
【0018】
クランプ機構24は、プルスタッド12をクランプまたはアンクランプする機構である。クランプ機構24は、複数のボール26を用いてクランプまたはアンクランプを行う。複数のボール26は、主軸20の軸回り方向に間隔をあけて主軸20の貫通孔20H内に配置される。複数のボール26の各々は、ドローバー22の外周面と内周面との双方から一部が突出する状態でドローバー22に設けられる。ドローバー22の進退に応じて、複数のボール26に囲まれる開口部OPが開閉するように、複数のボール26の各々が保持される。
【0019】
ドローバー22が、アンクランプ位置に留まっている場合、主軸20の内周面に形成される凹部20CVによってボール可動域が形成される。この場合、複数のボール26の各々は、主軸20の径方向に移動し得る。したがって、主軸20の第1端部から貫通孔20Hを介して、複数のボール26に囲まれる開口部OPに、プルスタッド12の先端部位が抜き差し可能な状態である。なお、
図2では、ドローバー22の位置が、クランプ位置にある場合を図示している。したがって、ドローバー22が第1端部に向かって移動することで、ドローバー22の位置がアンクランプ位置となる。
【0020】
この状態では、プルスタッド12の先端部位の差し込みに応じて、複数のボール26の各々が主軸20の径方向の外側に向かって移動して、複数のボール26に囲まれる開口部OPが広がる。
【0021】
プルスタッド12の先端部位が複数のボール26に囲まれる開口部OPに差し込まれた状態で、ドローバー22がアンクランプ位置からクランプ位置に移動した場合、ドローバー22に保持される複数のボール26は、ドローバー22とともに主軸20の第2端部に向かって移動する。この場合、凹部20CVによるボール可動域がなくなる(
図1参照)。このため、複数のボール26は、プルスタッド12におけるフランジ18の突出部18Aと当接して、プルスタッド12のフランジ18を係止する(
図1参照)。その結果、プルスタッド12がクランプされる。
【0022】
一方、プルスタッド12の先端部位が複数のボール26に囲まれる開口部OPに差し込まれた状態で、ドローバー22がクランプ位置からアンクランプ位置に移動した場合、ドローバー22に保持される複数のボール26は、凹部20CVに移動する。この場合、凹部20CVによってボール可動域が形成される。このため、複数のボール26は、主軸20の径方向に移動し得る状態になる。その結果、プルスタッド12がアンクランプされる。
【0023】
本実施形態の主軸装置10では、シール部材28が備えられる。シール部材28は、環状に形成される。ドローバー22の流路22CLを形成する壁面に固定される。複数のボール26によってプルスタッド12がクランプされている場合、シール部材28は、プルスタッド12の傾斜部18Bの傾斜面SFと接触する。
【0024】
これにより、フランジ18の外径が一定の外周面にOリングを設ける特許第3118512号公報の場合に比べ、プルスタッド12を出し入れする場合のシール部材28との摩擦が大幅に低減される。したがって、シール部材28の耐久性が向上する。このため、スルークーラント用の流体が、ドローバー22とプルスタッド12との間を経由して主軸20のテーパ面20Fを含む貫通孔20Hの内周面に付着することが抑制される。その結果、特許第3118512号公報で述べられる工具保持剛性が低減することを抑制することができる。これに加えて、フランジ18の外径が一定の外周面にOリングを設ける特許第3118512号公報の場合に比べ、プルスタッド12の形状等を変更することなく、主軸20の径方向の大きさを小さくすることができる。
【0025】
本実施形態の場合、ドローバー22の流路22CLを形成する壁面には、主軸20の軸回りに沿って溝30が形成される。シール部材28は、溝30から一部が突出するように溝30の内部に設けられ、シール部材28の外周面が溝底に固定される。これにより、プルスタッド12に押圧されて、シール部材28の固定位置がずれる、あるいは、ドローバー22から外れることを低減できる。
【0026】
〔変形例〕
図3は、シール部材28Xの変形例を示す断面図である。
図3では、
図1のプルスタッド12のクランプ部分が拡大して示され、実施形態において説明した構成と同等の構成には同一の符号が付されている。なお、本変形例では、実施形態と重複する説明は割愛する。
【0027】
本変形例では、実施形態のシール部材28に代えて、シール部材28Xが採用される。シール部材28Xは、実施形態と同様に、ドローバー22の流路22CLを形成する壁面に固定される。また、複数のボール26によってプルスタッド12がクランプされている場合、シール部材28Xは、実施形態と同様に、プルスタッド12の傾斜部18Bの傾斜面SFと接触する。
【0028】
シール部材28Xは、実施形態のシール部材28とは異なり、凹みDTを有する。凹みDTは、主軸20の第2端部に向かって開口する。主軸20の第2端部から貫通孔20Hを介してスルークーラント用の流体が供給された場合、流体の一部は、ドローバー22の流路22CLを介して、シール部材28Xの凹みDTに流入する。シール部材28Xは、可撓性を有し、凹みDTに流入する流体によりプルスタッド12の傾斜部18Bを締め付けるように変形する。これにより、プルスタッド12を出し入れする場合のシール部材28Xとの摩擦を低減しつつも、シール性を高めることができる。
【0029】
〔発明〕
上記の実施形態および変形例から把握し得る発明について、以下に記載する。
【0030】
本発明は、軸方向に沿って貫通する貫通孔(20H)が形成される主軸(20)と、主軸の一端に対して進退可能に貫通孔に設けられ、軸方向に沿って貫通孔と連通する流路(22CL)が形成されるドローバー(22)と、ドローバーの進退に応じて主軸の径方向に可動し、主軸の一端から貫通孔に挿入されるプルスタッド(12)をクランプまたはアンクランプする複数のボール(26)と、を有する主軸装置(10)であって、プルスタッドには、プルスタッドの外周面から突出する突出部(18A)と、突出部からプルスタッドの先端に向かって縮径する傾斜部(18B)とを有するフランジ(18)が形成され、複数のボールによってクランプされるプルスタッドの傾斜部の傾斜面と接触するように、ドローバーの流路を形成する壁面に固定されるシール部材(28、28X)を備える。
【0031】
これにより、主軸の一端から貫通孔に対してプルスタッドを出し入れする場合のシール部材との摩擦を大幅に低減することができ、シール部材の耐久性を向上することができる。したがって、スルークーラント用の流体が主軸の内周面に付着することが抑制され、この結果、工具保持剛性が低減することを抑制することができる。
【0032】
ドローバーの流路を形成する壁面には、主軸の軸回りに沿って溝(30)が形成され、シール部材は、溝から一部が突出するように溝の内部に設けられてもよい。これにより、プルスタッドに押圧されて、シール部材の固定位置がずれる、あるいは、ドローバーから外れることを大幅に低減でき、シール部材の耐久性が向上する。
【0033】
シール部材(28X)は、主軸の他端側に開口する凹み(DT)を有し、凹みに流入する流体により傾斜部を締め付けるように変形してもよい。これにより、シール部材に対するプルスタッドの摺動による摩擦を低減しつつもシール性を高めることができる。