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特許7502466点溶接性及び成形性に優れた超高張力冷延鋼板、超高張力メッキ鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】点溶接性及び成形性に優れた超高張力冷延鋼板、超高張力メッキ鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240611BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240611BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 F
C21D9/46 J
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022564837
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2021019487
(87)【国際公開番号】W WO2022139400
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0180087
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510307299
【氏名又は名称】ヒュンダイ スチール カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】クウォン、スン、ファン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジンソン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョジン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187027(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0047716(US,A1)
【文献】特表2009-518541(JP,A)
【文献】国際公開第2007/067014(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0711358(KR,B1)
【文献】国際公開第2017/169562(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0248280(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0052023(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%とを含み、残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物であり、
フェライトと、ナノインデンターを用いて測定した平均硬度が3.5~4.5GPaとなる低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含む、超高張力冷延鋼板であって、
前記フェライトの分率は、50~60%の範囲であり、
前記低硬度マルテンサイトの分率は、40~50%の範囲であり、
前記フェライトまたは前記低硬度マルテンサイトは、1~5μmの範囲の結晶粒径を有する、超高張力冷延鋼板
【請求項2】
前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、0GPa超過~1.0GPaの範囲である、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項3】
前記低硬度マルテンサイトの平均硬度に対する前記フェライトの平均硬度の比率は、7
0~100%未満の範囲である、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項4】
前記低硬度マルテンサイトは、第1低硬度マルテンサイトと第2低硬度マルテンサイトとで構成され、
前記第1低硬度マルテンサイトは、前記フェライトによって離隔し、前記第2低硬度マルテンサイトは、前記フェライトの結晶粒界に形成されて、前記第1低硬度マルテンサイトを連結して、網構造を形成する、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項5】
前記第2低硬度マルテンサイトは、長軸長に対する短軸長の比率が0.5~1.0範囲である、請求項に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項6】
前記フェライト、前記低硬度マルテンサイト、またはこれらのいずれもは、チタン析出物を含む、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項7】
前記超高張力冷延鋼板は、
0.20~0.25範囲の炭素当量を有する(ここで、Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S]である)、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項8】
前記超高張力冷延鋼板は、
降伏強度(YP):480MPa以上、引張強度(TS):820MPa以上、及び延伸率(El):5%以上、及び60°の角度での曲げ性(R/t):2.5以下を満足する、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項9】
前記超高張力冷延鋼板は、
降伏強度(YS):480~810MPa、引張強度(TS):820~1300MPa、延伸率(EL):5~20%、及び60°の角度での曲げ性(R/t):0.3~2.5を満足する、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項10】
前記超高張力冷延鋼板は、
垂直方向のVDA曲げ角度:90~130°、平行方向のVDA曲げ角度:70~105°、パンチホール拡張性:30~70%、ワイヤホール拡張性:70~160%、LDH:40~60、及びLDR:90~130を満足する、請求項1に記載の超高張力冷延鋼板。
【請求項11】
質量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%とを含み、残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物である熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を3~20℃/秒の範囲の昇温速度で加熱して790~840℃の範囲の温度で焼鈍熱処理する段階と、
前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する段階と、
前記多段冷却された冷延鋼板を250~350℃の範囲の温度で終了するように過時効熱処理する段階と、
を含む、超高張力冷延鋼板の製造方法であって、
前記超高張力冷延鋼板は、
フェライトと、ナノインデンターを用いて測定した平均硬度が3.5~4.5GPaとなる低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含み、
前記フェライトの分率は、50~60%の範囲であり、
前記低硬度マルテンサイトの分率は、40~50%の範囲であり、
前記フェライトまたは前記低硬度マルテンサイトは、1~5μmの範囲の結晶粒径を有する、超高張力冷延鋼板の製造方法
【請求項12】
前記熱延鋼板を製造する段階は、
前記合金組成を有する鋼材を準備する段階と、
前記鋼材を1,180~1,220℃の範囲で再加熱する段階と、
前記再加熱された鋼材を880~950℃の範囲の仕上げ圧延終了温度で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を5~150℃/秒の冷却速度で冷却して400~700℃の範囲で巻付ける段階と、
を含む、請求項11に記載の超高張力冷延鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記多段冷却する段階は、
前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を、1~10℃/秒の範囲の冷却速度で600~700℃の1次冷却終了温度で1次冷却する段階と、
前記1次冷却した冷延鋼板を5~50℃/秒の範囲の冷却速度で300~400℃の2次冷却終了温度で2次冷却する段階と、
を含む、請求項11に記載の超高張力冷延鋼板の製造方法。
【請求項14】
母材鋼板と、
前記母材鋼板の表面に形成された溶融亜鉛メッキ層または合金化溶融亜鉛メッキ層と、
を含み、
前記母材鋼板は、質量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%とを含み、残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物であり
フェライトと、ナノインデンターを用いて測定した平均硬度が3.5~4.5GPaとなる低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含み、
前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、0GPa超過~1.0GPaの範囲である、超高張力メッキ鋼板であって、
前記フェライトの分率は、50~60%の範囲であり、
前記低硬度マルテンサイトの分率は、40~50%の範囲であり、
前記フェライトまたは前記低硬度マルテンサイトは、1~5μmの範囲の結晶粒径を有する、超高張力メッキ鋼板
【請求項15】
質量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%とを含み、残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物である熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を3~20℃/秒の範囲の昇温速度で加熱して790~840℃の範囲の温度で焼鈍熱処理する段階と、
前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する段階と、
前記多段冷却された冷延鋼板を460~500℃の範囲の温度で溶融亜鉛メッキする段階と、
前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を0~40℃の範囲の温度で最終冷却する段階と、
を含む、超高張力メッキ鋼板の製造方法であって、
前記多段冷却された冷延鋼板は、
フェライトと、ナノインデンターを用いて測定した平均硬度が3.5~4.5GPaとなる低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含み、
前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、0GPa超過~1.0GPaの範囲であり、
前記フェライトの分率は、50~60%の範囲であり、
前記低硬度マルテンサイトの分率は、40~50%の範囲であり、
前記フェライトまたは前記低硬度マルテンサイトは、1~5μmの範囲の結晶粒径を有する、超高張力メッキ鋼板の製造方法
【請求項16】
前記溶融亜鉛メッキする段階を行った後に、
前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を490~600℃の範囲の温度で合金化熱処理する段階をさらに含む、請求項15に記載の超高張力メッキ鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術的思想は、冷延鋼板に係り、より詳細には、点溶接性及び成形性に優れた超高張力冷延鋼板、超高張力メッキ鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車衝突法規の強化及び燃費向上に対する市場要求に対応すべく、自動車車体構造の補強材に対する超高張力鋼材の適用比率が広がっている。形状が複雑な部品に対する超高張力鋼適用比率が増加するにつれて、各自動車メーカーは、成形性が向上した素材の開発を要求しており、これにより、従来の鋼材に比べて延伸率及びホール拡張性が向上した鋼板を開発している。
【0003】
このような鋼材は、常温で安定した残留オーステナイト(Retained Austenite、RA)相を確保することにより、延伸率を向上させることができ、前記残留オーステナイト相を安定させるために必要な炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)などの元素を多量で含有することができる。しかし、相対的に鋼材の炭素当量が増加して点溶接性が低下する。
【0004】
多様な超高張力鋼のうちから二相組織鋼(Dual Phase、DP)は、軟質のフェライト基地に硬質のマルテンサイトが分布する鋼であって、強度と軟性組合とに優れて、自動車用として最も多く使われる鋼である。しかし、一般的な二相組織鋼を曲げやストレッチフランジング工程で部品として成形する場合に、加工クラックが発生しやすいために、超高張力鋼適用比率をさらに拡大させるためには、このような成形性の問題を改善する必要がある。
【0005】
自動車部品は、主にドロー、曲げ及びストレッチフランジング工程で成形するが、ドロー工程で製造する場合、成形時に、鋼板全体として変形が伝播されるために、鋼板の延伸率が高いほど成形が有利であるが、曲げやストレッチフランジング工程で部品を製造する場合には、変形が鋼材に局部的に集中されるので、高い局部延伸率が必要である。一般的に、フェライトとマルテンサイトとからなる二相組織鋼は、相間硬度差が大きく、変形時に、フェライトとマルテンサイト粒界とで応力が集中してクラックを誘発するために、局部延伸率が低下する。
【0006】
このような点を補完するために、フェライトとマルテンサイトとの間にベイナイトの中間相を含ませて、相間硬度差を低減させた多相組織鋼(Complex Phase、CP)を開発して、曲げ、ホール拡張特性が要求される部品に適用した。しかし、フェライトに比べて、相対的に軽いベイナイト相の導入で延伸率が低下するという問題点があり、部品適用に制限的な短所を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】大韓民国特許出願番号第10-2016-0078570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の技術的思想が果たそうとする技術的課題は、点溶接性及び成形性に優れた超高張力冷延鋼板、超高張力メッキ鋼板及びその製造方法を提供するところにある。
【0009】
しかし、このような課題は、例示的なものであって、本発明の技術的思想が、これに限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、点溶接性及び成形性に優れた超高張力冷延鋼板、超高張力メッキ鋼板及びその製造方法を提供する。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記超高張力冷延鋼板は、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含み、フェライトと低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含みうる。
【0012】
本発明の一実施例によれば、前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、0GPa超過~1.0GPaの範囲である。
【0013】
本発明の一実施例によれば、前記フェライトの分率は、50~60%の範囲であり、前記低硬度マルテンサイトの分率は、40~50%の範囲である。
【0014】
本発明の一実施例によれば、前記フェライトまたは前記低硬度マルテンサイトは、1~5μmの範囲の結晶粒径を有しうる。
【0015】
本発明の一実施例によれば、前記低硬度マルテンサイトは、3.5~4.5GPaの範囲の平均硬度を有しうる。
【0016】
本発明の一実施例によれば、前記低硬度マルテンサイトの平均硬度に対する前記フェライトの平均硬度の比率は、70~100%未満の範囲である。
【0017】
本発明の一実施例によれば、前記低硬度マルテンサイトは、第1低硬度マルテンサイトと第2低硬度マルテンサイトとで構成され、前記第1低硬度マルテンサイトは、前記フェライトによって離隔し、前記第2低硬度マルテンサイトは、前記フェライトの結晶粒界に形成されて、前記第1低硬度マルテンサイトを連結して、網構造を形成しうる。
【0018】
本発明の一実施例によれば、前記第2低硬度マルテンサイトは、長軸長に対する短軸長の比率が0.5~1.0範囲である。
【0019】
本発明の一実施例によれば、前記フェライト、前記低硬度マルテンサイト、またはこれらのいずれもは、チタン析出物を含みうる。
本発明の一実施例によれば、前記超高張力冷延鋼板は、0.20~0.25範囲の炭素当量を有しうる(ここで、Ceq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S]である)。
【0020】
本発明の一実施例によれば、前記超高張力冷延鋼板は、固溶された有効チタンを0.01~0.04重量%に含みうる。
【0021】
本発明の一実施例によれば、前記超高張力冷延鋼板は、降伏強度(YP):480MPa以上、引張強度(TS):820MPa以上、及び延伸率(El):5%以上、及び60°の角度での曲げ性(R/t):2.5以下を満足することができる。
【0022】
本発明の一実施例によれば、前記超高張力冷延鋼板は、降伏強度(YS):480~810MPa、引張強度(TS):820~1300MPa、延伸率(EL):5~20%、及び60°の角度での曲げ性(R/t):0.3~2.5を満足することができる。
本発明の一実施例によれば、前記超高張力冷延鋼板は、垂直方向のVDA曲げ角度:90~130°、平行方向のVDA曲げ角度:70~105°、パンチホール拡張性:30~70%、ワイヤホール拡張性:70~160%、LDH:40~60、及びLDR:90~130を満足することができる。
【0023】
本発明の一実施例によれば、前記超高張力冷延鋼板の製造方法は、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含む熱延鋼板を製造する段階;前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;前記冷延鋼板を3~20℃/秒の範囲の昇温速度で加熱して790~840℃の範囲の温度で焼鈍熱処理する段階;前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する段階;及び前記多段冷却された冷延鋼板を250~350℃の範囲の温度で終了するように過時効熱処理する段階;を含みうる。
【0024】
本発明の一実施例によれば、前記熱延鋼板を製造する段階は、前記合金組成を有する鋼材を準備する段階;前記鋼材を1,180~1,220℃の範囲で再加熱する段階;前記再加熱された鋼材を880~950℃の範囲の仕上げ圧延終了温度で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を製造する段階;及び前記熱延鋼板を5~150℃/秒の冷却速度で冷却して400~700℃の範囲で巻付ける段階;を含みうる。
【0025】
本発明の一実施例によれば、前記多段冷却する段階は、前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を、1~10℃/秒の範囲の冷却速度で600~700℃の1次冷却終了温度で1次冷却する段階;及び前記1次冷却した冷延鋼板を5~50℃/秒の範囲の冷却速度で300~400℃の2次冷却終了温度で2次冷却する段階;を含みうる。
【0026】
本発明の一実施例によれば、超高張力メッキ鋼板は、母材鋼板;及び前記母材鋼板の表面に形成された溶融亜鉛メッキ層または合金化溶融亜鉛メッキ層;を含み、前記母材鋼板は、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含み、フェライトと低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含み、前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、0GPa超過~1.0GPaの範囲である。
【0027】
本発明の一実施例によれば、前記超高張力メッキ鋼板の製造方法は、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含む熱延鋼板を製造する段階;前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;前記冷延鋼板を3~20℃/秒の範囲の昇温速度で加熱して790~840℃の範囲の温度で焼鈍熱処理する段階;前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する段階;前記多段冷却された冷延鋼板を460~500℃の範囲の温度で溶融亜鉛メッキする段階;及び前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を0~40℃の範囲の温度で最終冷却する段階;を含みうる。
【0028】
本発明の一実施例によれば、前記溶融亜鉛メッキする段階を行った後に、前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を490~600℃の範囲の温度で合金化熱処理する段階をさらに含みうる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の技術的思想による場合、二相組織を活用して低降伏及び高軟性を確保してプレス成形性を向上させうる。また、二相組織内にフェライトとマルテンサイトとの組織の相間硬度差を減少させて、ホール拡張性を向上させて、ストレッチフランジング性を向上させうる。また、炭素含量が低くて、優れた点溶接性を提供することができる。また、50℃/秒以下の低い冷却速度でマルテンサイトのような硬質相を形成することにより、鋼板の平坦度に優れている。
【0030】
従来の二相組織鋼は、ベイナイトを形成してホール拡張性を増加させたが、延伸率が低下するという限界がある。一方、本発明の超高張力冷延鋼板は、ベイナイトを含まず、これに代えて、低硬度マルテンサイトを形成させてホール拡張性の増加と共に延伸率の増加を具現することができる。前記低硬度マルテンサイトが低い硬度を有するので、フェライトと共に一定のレベルに変形が可能になって延伸率を増加させることができる。
【0031】
本発明の超高張力冷延鋼板は、VDA曲げ特性に優れて、自動車衝突時に、衝突靭性の特性に優れ、曲げ、ホール拡張及び延伸率に優れて、ストレッチフランジ特性に優れているので、自動車部品成形時に優れた成形性を確保することができる。
【0032】
前述した本発明の効果は、例示的に記載されたものであって、このような効果によって、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施例による超高張力冷延鋼板の微細組織を示す模式図である。
図2】本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の製造方法を概略的に示す工程フローチャートである。
図3】本発明の実施例による超高張力メッキ鋼板の製造方法を概略的に示す工程フローチャートである。
図4】本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の冷間圧延後、熱処理過程を示す時間-温度グラフである。
図5】本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の微細組織を示す走査電子顕微鏡写真である。
図6】本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の微細組織でチタン析出物を示す走査電子顕微鏡写真である。
図7】本発明の実施例による図6の超高張力冷延鋼板の微細組織の成分を示すグラフである。
図8】本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の硬度を示すグラフである。
図9】本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の温度によるオーステナイトでの炭素含量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して、本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。本発明の実施例は、当業者に本発明の技術的思想をさらに完全に説明するために提供されるものであり、下記の実施例は、さまざまな他の形態に変形され、本発明の技術的思想の範囲が、下記の実施例に限定されるものではない。むしろ、これらの実施例は、本開示を、さらに充実かつ完全にし、当業者に本発明の技術的思想を完全に伝達するために提供されるものである。本明細書で同じ符号は、始終、同じ要素を意味する。さらに、図面での多様な要素と領域は、概略的に描かれたものである。したがって、本発明の技術的思想は、添付した図面に描かれた相対的な大きさや間隔によって制限されるものではない。
【0035】
本発明の技術的思想は、自動車用部品などに適用可能に点溶接性及び成形性に優れた超高張力冷延鋼板及びその製造方法を提供するものであって、ストレッチフランジング性(stretch flanging)、延伸率及びVベンディング性(衝撃靭性)に優れた超高張力冷延鋼板を提供するものである。
【0036】
本発明の技術的思想によれば、超高張力冷延鋼板は、炭素含量を0.09重量%以下に設計して、初期オーステナイト内の炭素含量を低く制御することにより、最終熱処理後、マルテンサイト強度を減少させて、したがって、ストレッチフランジング性を向上させうる。また、シリコン(Si)とアルミニウム(Al)とを添加して炭化物の形成を抑制してフェライトを清浄化することにより、延伸率を増加させることができる。
【0037】
また、炭素含量の減少による強度補償及びストレッチフランジング性を向上するために、チタン(Ti)を添加して結晶粒を微細化することにより、フェライト粒界ソフトマルテンサイトのネットワーク組織を形成することにより、ストレッチフランジング性をさらに向上させることができ、マンガン(Mn)濃化層に形成されるマルテンサイトバンド組織をチタン(Ti)の添加で制御して、材質及び曲げ異方性を抑制することができる。
【0038】
したがって、本発明の技術的思想による超高張力冷延鋼板の場合には、通常のCGL(continuous galvanizing line)及びCAL(continuous annealing line)設備で50℃/秒未満の低い冷却速度でも、ネットワーク組織で構成されたフェライト及びソフトマルテンサイトで構成された二相組織を具現することにより、高い延伸率と優れたストレッチフランジング性とを提供することができる。
【0039】
従来技術において、相間硬度差の低減のために、中間硬度を有するベイナイト相を形成して、20~30%分率のフェライト、30~40%分率のベイナイト、及び40%以下の分率のマルテンサイトで構成された微細組織を含む鋼材を製造して、相間硬度差比を減少させてホール拡張性、すなわち、ストレッチフランジング性を極大化することができる。しかし、このようなベイナイトのような中間相を含む場合には、相対的に薄いフェライト相の減少によって延伸率を十分に確保することができない。
【0040】
また、他の従来技術において、フェライト及びテンパードマルテンサイトを含む二相組織鋼を製造して、マルテンサイトをテンパリング処理を通じて軟化させてストレッチフランジング性と延伸率とを改善することができる。しかし、この場合には、50℃/秒以上の冷却速度と冷却後、マルテンサイトをテンパリングするように再加熱設備の投資が必要な問題点を有し、急冷時に、鋼板の形状制御が容易ではなかった短所がある。
【0041】
本発明の技術的思想による超高張力冷延鋼板は、二相組織(dual phase structure)を活用して低降伏及び高軟性を確保してプレス成形性を向上させうる。また、二相組織内にフェライトとマルテンサイトとの組織の相間硬度差を減少させて、ホール拡張性を向上させて、ストレッチフランジング性を向上させうる。また、炭素含量が低くて優れた点溶接性を提供することができる。また、50℃/秒以下の低い冷却速度でマルテンサイトのような硬質相を形成することにより、鋼板の平坦度に優れている。
【0042】
以下、本発明の技術的思想による超高張力冷延鋼板について詳細に説明する。
【0043】
本発明の一実施例による超高張力冷延鋼板は、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含む。
【0044】
前記超高張力冷延鋼板の炭素当量(Ceq)は、式1と同じである。
[式1]
eq=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+2[P]+4[S]
前記式1において、[C]、[Si]、[Mn]、[P]、及び[S]は、前記鋼材に含まれる炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、及び硫黄(S)の含量であり、それぞれの単位は、重量%である。
【0045】
前記超高張力冷延鋼板は、例えば、0.25以下の炭素当量(Ceq)を有することができ、例えば、0.20~0.25範囲の炭素当量を有しうる。前記炭素当量が0.2未満である場合には、強度低下が発生する。前記炭素当量が0.25を超過する場合には、占用粘性が低下する。
【0046】
以下、本発明による超高張力冷延鋼板に含まれる各成分の役割及びその含量について説明すれば、次の通りである。この際、成分元素の含有量は、いずれも鋼板全体に対する重量%を意味する。
【0047】
炭素(C):0.05~0.09%
炭素は、鋼材内のオーステナイトに固溶されて最終冷却後、マルテンサイトの強度上昇を誘発して材質の強度増加に効果がある。前記炭素の含量が0.05%未満である場合には、強度の上昇効果が不十分である。前記炭素の含量が0.09%を超過する場合には、マルテンサイト強度を上昇させ、フェライトとマルテンサイトとの相間硬度差を増加させてホール拡張性を減少させ、炭素当量が増加して点溶接性が減少しうる。したがって、炭素の含量を鋼板全体重量の0.05~0.09%に添加することが望ましい。
【0048】
シリコン(Si):0.5~1.0%
シリコンは、フェライト安定化元素であって、フェライト内に固溶されてフェライト強度を増加させ、フェライト内の電位密度を増加させて加工硬化指数の向上に効果的である。前記シリコンの含量が0.5%未満である場合には、強度と延伸率とが減少しうる。前記シリコンの含量が1.0%を超過する場合には、表面にシリコン系酸化物を形成させて、表面及びメッキ特性が減少しうる。したがって、シリコンの含量を鋼板全体重量の0.5~1.0%に添加することが望ましい。
【0049】
マンガン(Mn):2.0~2.8%
マンガンは、焼入性元素であって、冷却中、オーステナイトを安定化することにより、パーライトとベイナイトのような第3相が形成されることを抑制することができ、低い冷却速度でも、フェライトとマルテンサイトとの二相分離を容易にする。前記マンガンの含量が2.0%未満である場合には、第3相が形成されて強度が低下しうる。前記マンガンの含量が2.8%を超過する場合には、非常に低い冷却速度でも、第3相の形成を抑制することにより、熱延材の強度を極大化し、冷間圧延時に、圧延負荷をもたらしうる。また、マンガンが濃化されたバンド組織を形成することにより、曲げ性を減少させる。したがって、マンガンの含量を鋼板全体重量の2.0~2.8%に添加することが望ましい。
【0050】
アルミニウム(Al):0.2~0.5%
アルミニウムは、フェライト清浄化元素であって、フェライト内の炭化物析出を抑制してフェライトの軟性を向上させうる。メッキ材の場合、酸化力が強くて鋼材内部にアルミニウムが先に酸化されることにより、表層部のシリコン系酸化物の形成を抑制してメッキ特性を向上させうる。前記アルミニウムの含量が0.2%未満である場合には、メッキ特性及び延伸率向上の効果が微小である。前記アルミニウムの含量が0.5%を超過する場合には、A1及びA3変態点を上昇させることにより、焼鈍域初期オーステナイトの分率確保のために、高温焼鈍を要求することができる。したがって、アルミニウムの含量を鋼板全体重量の0.2~0.5%に添加することが望ましい。
【0051】
クロム(Cr):0.8~1.2%
クロムは、鋼の焼入性(硬化能)を向上する成分であって、低い冷却速度でも、マルテンサイト組織形成を容易にして、強度を確保することができる。前記クロムの含量が0.8%未満である場合には、冷却中、パーライト及びベイナイトを形成して強度及び延伸率が減少しうる。前記クロムの含量が1.2%を超過する場合には、製造コストが相対的に高くなり、冷却中、焼入効果が大きくて強度上昇を招き、これにより、相対的に延伸率が減少しうる。したがって、クロムは、鋼板全体重量の0.8~1.2%に添加することが望ましい。
【0052】
モリブデン(Mo):0.05~0.10%
モリブデンは、鋼の焼入性(硬化能)を向上する成分であって、低い冷却速度でも、マルテンサイト組織形成を容易にして、強度を確保することができる。前記モリブデンの含量が0.05%未満である場合には、冷却中、パーライト及びベイナイトを形成して強度及び延伸率が減少しうる。前記モリブデンの含量が0.10%を超過する場合には、製造コストが相対的に高くなり、冷却中、焼入効果が大きくて強度上昇を招き、これにより、相対的に延伸率が減少しうる。したがって、モリブデンは、鋼板全体重量の0.05~0.10%に添加することが望ましい。
【0053】
チタン(Ti):0.03~0.06%
チタンは、鋼中の窒素と結合してTiNを形成し、BN形成を抑制することにより、固溶ボロンの焼入効果を極大化する効果がある。有効な固溶チタンは、炭化チタン(TiC)または窒化チタン(TiN)などの微細析出物を形成することにより、結晶粒を微細化することができる。このような結晶粒微細化の効果は、フェライトとマルテンサイトとの複合組織でマルテンサイトのフェライト粒界に網構造の形成を助長し、このような網構造は、プレス変形時に、局部的な応力を分散することにより、フェライトとマルテンサイトとの相間界面の破壊を抑制することにより、ホール拡張性、曲げ性などの特性を向上させうる。したがって、本発明では、前記炭化チタンまたは前記窒化チタン以外に固溶された有効チタンを0.01~0.04重量%に含みうる。前記チタンの含量が0.03%未満である場合には、BNの形成及びTiC形成が難しくなって、強度、ホール拡張性、及び曲げ性などの特性向上の効果は、ごくわずかである。前記チタンの含量が0.06%を超過する場合には、過度な析出硬化で降伏強度と引張強度とが急増することにより、延伸率が急減しうる。したがって、チタンは、鋼板全体重量の0.03~0.06%に添加することが望ましい。
【0054】
ボロン(B):0.001~0.003%
ボロンは、鋼の焼入性元素であって、冷却中、結晶粒界に偏析してフェライトの形成を抑制することができる。前記ボロンの含量が0.001%未満である場合には、焼入性が低下して強度が減少しうる。前記ボロンの含量が0.003%を超過する場合には、強度が過度に増加し、メッキ材の場合には、メッキ剥離などが発生する。したがって、ボロンは、鋼板全体重量の0.001~0.003%に添加することが望ましい。
【0055】
アンチモン(Sb):0.02~0.05%
アンチモンは、鋼中の粒界偏析してシリコンの表面拡散を抑制して、表面シリコン酸化物の形成及び形態を制御することができる。これにより、熱延赤い型など表面特性及びメッキ材の表面特性を向上させうる。前記アンチモンの含量が0.02%未満である場合には、表面制御効果が不十分である。前記アンチモンの含量が0.05%を超過する場合には、粒界偏析してスラブの脆性を発生させることができる。したがって、アンチモンは、鋼板全体重量の0.02~0.05%に添加することが望ましい。
【0056】
リン(P):0.001~0.015%
リンは、鋼中の固溶強化効果が大きな元素であって、素材強度を向上させうる。リンは、鋼の製造過程で含まれる不純物として含有されうる。前記リンの含量が0.001%未満である場合には、強度増加効果が少なく、脱リンのための工程コストが増加する。前記リンの含量が0.015%を超過する場合には、粒界に偏析して鋼の靭性及び素材溶接性を低下させてしまう。したがって、リンの含量を鋼板全体重量の0.001~0.015%に添加することが望ましい。
【0057】
硫黄(S):0%超過~0.003%
硫黄は、鋼中の不純物元素であって、Mnと結合してMnS介在物を形成して曲げなど部品成形性を減少させる。したがって、硫黄の含量を鋼板全体重量の0%超過~0.003%に制限することが望ましい。
【0058】
窒素(N):0.004~0.006%
窒素は、鋼の製造時に、不可避に含有される元素であって、耐時効性を劣化させる元素なので、最大限低減させることが望ましい。したがって、窒素の含量を鋼板全体重量の0.004~0.006%に制限することが望ましい。
【0059】
前記超高張力冷延鋼板の残りの成分は、鉄(Fe)である。但し、通常の製鋼過程では、原料または周囲環境から意図していない不純物が不可避に混入されるので、それを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程での技術者であれば、誰でも知っているものであるために、そのあらゆる内容を、本明細書では、特に言及しない。
【0060】
前述した合金組成の具体的な成分及びこれらの含量範囲を制御し、後述する製造方法を通じて製造された超高張力冷延鋼板は、降伏強度(YP):480MPa以上、引張強度(TS):820MPa以上、及び延伸率(El):5%以上、及び60°の角度での曲げ性(R/t):2.5以下を満足することができる。前記超高張力冷延鋼板は、例えば、降伏強度(YS):480~810MPa、引張強度(TS):820~1300MPa、延伸率(EL):5~20%、及び60°の角度での曲げ性(R/t):0.3~2.5を満足することができる。
【0061】
前記超高張力冷延鋼板は、垂直方向のVDA曲げ角度:90~130°、平行方向のVDA曲げ角度:70~105°、パンチホール拡張性:30~70%、ワイヤホール拡張性:70~160%、LDH:40~60、及びLDR:90~130を満足することができる。
【0062】
図1は、本発明の一実施例による超高張力冷延鋼板の微細組織を示す模式図である。
【0063】
図1を参照すれば、比較例として二相組織鋼は、フェライトとマルテンサイトとの二相組織で構成された微細組織を有しうる。
【0064】
一方、本発明の技術的思想による実施例の前記超高張力冷延鋼板は、フェライトと低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含みうる。前記フェライトの分率は、例えば、50~60%の範囲であり、前記低硬度マルテンサイトの分率は、例えば、40~50%の範囲である。前記分率は、前記冷延鋼板の微細組織写真をイメージ分析器を通じて導出した面積比率を意味する。
【0065】
前記フェライトまたは前記低硬度マルテンサイトは、例えば、1~5μmの範囲の結晶粒径を有しうる。
【0066】
前記低硬度マルテンサイトは、硬度が相対的に低いマルテンサイトを意味する。前記低硬度マルテンサイトは、例えば、3.5~4.5GPaの範囲の平均硬度を有しうる。前記フェライトは、例えば、3.0~4.3GPaの範囲の平均硬度を有しうる。参考までに、一般的な高硬度マルテンサイトは、例えば、6.0~7.0GPaの範囲の平均硬度を有しうる。
【0067】
このような硬度は、ナノインデンターを用いて測定することができる。前記フェライトの場合には、低硬度1500地点での測定値を平均して取得することができ、前記低硬度マルテンサイトまたはマルテンサイトの場合には、高硬度2500地点での測定値を平均して取得することができる。
前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、例えば、0GPa超過~1.0GPaの範囲である。前記低硬度マルテンサイトの平均硬度に対する前記フェライトの平均硬度の比率である平均硬度差比は、例えば、70~100%未満の範囲である。
【0068】
前記低硬度マルテンサイトは、第1低硬度マルテンサイトと第2低硬度マルテンサイトとで構成され、前記第1低硬度マルテンサイトは、前記フェライトによって離隔し、前記第2低硬度マルテンサイトは、前記フェライトの結晶粒界に形成されて、前記第1低硬度マルテンサイトを連結して、網構造を形成しうる。
【0069】
前記第2低硬度マルテンサイトは、長軸長に対する短軸長の比率であるサイズ比率(size ratio)が0.5~1.0範囲である。
【0070】
前記フェライト、前記低硬度マルテンサイト、またはこれらのいずれもは、例えば、TiCまたはTiNのようなチタン析出物を含みうる。
【0071】
以下、添付図面を参照して、本発明による超高張力冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0072】
超高張力冷延鋼板の製造方法
図2は、本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の製造方法を概略的に示す工程フローチャートである。
【0073】
図2を参照すれば、本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の製造方法は、前記組成の鋼材を用いて熱延鋼板を製造する段階(ステップS110);前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階(ステップS120);前記冷延鋼板を焼鈍熱処理する段階(ステップS130);前記冷延鋼板を多段冷却する段階(ステップS140);及び前記冷延鋼板を過時効熱処理する段階(ステップS150);を含む。
【0074】
具体的に、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含む熱延鋼板を製造する段階(ステップS110);前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階(ステップS120);前記冷延鋼板を3~20℃/秒の範囲の昇温速度で加熱して790~840℃の範囲の温度で焼鈍熱処理する段階(ステップS130);前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する段階(ステップS140);及び前記多段冷却された冷延鋼板を250~350℃の範囲の温度で過時効熱処理する段階(ステップS150);を含みうる。
【0075】
本発明による超高張力冷延鋼板の製造方法で対象となる鋼材である半製品は、例示的にスラブ(slab)である。半製品状態のスラブは、製鋼工程を通じて所定の組成の溶鋼を得た後に連続鋳造工程を通じて確保することができる。
【0076】
熱延鋼板の製造段階(ステップS110)
熱延鋼板の製造段階(ステップS110)では、前述した組成の鋼材を熱間圧延して熱延鋼板を製造する。
【0077】
前記合金組成を有する鋼材を準備し、前記鋼材を、例えば、1,180~1,220℃の範囲の再加熱温度(Slab Reheating Temperature、SRT)で再加熱する。このような再加熱を通じて、鋳造組織を破壊してオーステナイジング処理を実施し、この際に偏析された成分と析出物とを再固溶させて、均質化し、熱間圧延が可能な状態に作る。前記再加熱温度が1,180℃未満である場合には、偏析の再固溶が不十分であり、熱間圧延負荷が増加する。前記再加熱温度が1,220℃を超過する場合には、オーステナイト結晶粒のサイズが増加し、温度上昇による工程コストが上昇する。
前記再加熱後、通常の方法で熱間圧延を行い、例えば、880~950℃の範囲の仕上げ圧延終了温度(finish delivery temperature、FDT)で熱間仕上げ圧延を行って熱延鋼板を製造することができる。前記仕上げ圧延終了温度が880℃未満である場合には、フェライトまたはパーライトが生成されうる。前記仕上げ圧延終了温度が950℃を超過する場合には、スケール生成が増加し、結晶粒径が粗大化されて、組織の微細均一化が困難である。
【0078】
引き続き、前記熱延鋼板を、例えば、400~700℃の範囲の巻取温度まで冷却する。前記冷却は、空冷または水冷いずれも可能であり、例えば、5~150℃/秒の冷却速度で冷却することができる。冷却速度が速いほど平均結晶粒度の減少に有利である。前記冷却は、巻取温度まで冷却することが望ましい。
【0079】
引き続き、前記熱延鋼板を、例えば、400~700℃の範囲の巻取温度(coiling temperature、CT)で巻付ける。前記巻取温度の範囲は、冷間圧延性、表面性状の観点から選択することができる。前記巻取温度が400℃未満である場合には、マルテンサイトなどの硬質相が過度に生成されて熱延鋼板の材質が過度に増加して、冷間圧延時に、圧延負荷が顕著に増加する。前記巻取温度が700℃を超過する場合には、最終製品の微細組織の不均一性をもたらしうる。
【0080】
前記熱延鋼板の微細組織は、フェライト、ベイナイト、及びマルテンサイトが混合された混合組織を有しうる。
【0081】
冷延鋼板の製造段階(ステップS120)
冷延鋼板の製造段階(ステップS120)では、前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する。
【0082】
前記熱延鋼板を表面スケール層を除去するために、酸で洗浄する酸洗処理を行う。引き続き、前記熱延鋼板を、例えば、40~80%の平均圧下率で冷間圧延を実施して冷延鋼板を形成する。前記平均圧下率が高いほど、組織微細化の効果による成形性が上昇する効果がある。前記平均圧下率40%未満である場合には、均一な微細組織を得にくい。前記平均圧下率が80%を超過する場合には、ロール力が増加して工程負荷が増加する。
【0083】
前記冷間圧延によって最終生産される鋼板の厚さを有しうる。冷延鋼板の組織は、熱延鋼板の組織が延伸した形状の組織を有しうる。
【0084】
焼鈍熱処理段階(ステップS130)
焼鈍熱処理段階(ステップS130)では、前記冷延鋼板を通常の徐冷却区間がある連続焼鈍炉で焼鈍熱処理する。前記焼鈍熱処理は、オーステナイト組織を40%以上の分率として確保するために行われる。また、前記オーステナイト内の炭素濃化量は、0.1重量%未満に制御する。
【0085】
前記焼鈍熱処理は、例えば、3~20℃/秒の範囲の昇温速度で加熱する。前記昇温速度が3℃/秒未満である場合には、目標とする焼鈍熱処理温度まで到達するのに長時間がかかって、生産効率性が低下し、結晶粒のサイズが大きくなる。
【0086】
前記焼鈍熱処理は、例えば、Ac1温度以上~Ac3温度以下の範囲の温度で、例えば、790~840℃の範囲の温度で行われる。前記温度範囲は、フェライトとオーステナイトとの二相領域である。前記焼鈍熱処理温度が790℃未満である場合には、初期オーステナイト分率が確保されず、強度が確保されない。前記焼鈍熱処理温度が840℃を超過する場合には、初期オーステナイト分率が高くなって、冷却中、パーライトとベイナイトなどの第3相の変態制御が困難である。
【0087】
多段冷却段階(ステップS140)
多段冷却段階(ステップS140)では、前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する。前記多段冷却する段階は、下記の2つの段階で行われる。
【0088】
まず、前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を、例えば、1~10℃/秒の範囲の冷却速度で、例えば、600~700℃の1次冷却終了温度で1次冷却する。前記1次冷却終了温度が600℃未満である場合には、所望しないベイナイト変態が発生する。前記1次冷却終了温度が700℃を超過する場合には、フェライト変態が過度に発生して強度確保が容易ではない。
【0089】
引き続き、前記1次冷却した冷延鋼板を、例えば、5~50℃/秒の範囲の冷却速度で、例えば、Ms点以下に、例えば、300~400℃の2次冷却終了温度で2次冷却する。前記冷延鋼板のマルテンサイト変態開始温度(Ms)は、約400℃なので、前記2次冷却は、前記Ms温度に比べて低い温度が前記2次冷却終了温度になる。したがって、前記2次冷却を行う間にマルテンサイトが生成されうる。
【0090】
過時効熱処理段階(ステップS150)
過時効熱処理段階(ステップS150)では、前記多段冷却された冷延鋼板を250~350℃の範囲の温度で終了するように過時効熱処理する。前記過時効熱処理段階は、1~30分間行われる。前記2次冷却で形成されたマルテンサイトは、前記過時効熱処理によってテンパリング効果が付加され、これにより、前記マルテンサイトは、低硬度マルテンサイトに変化される。また、残留オーステナイトが低硬度マルテンサイトに変態される。したがって、フェライトと低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差が最小化され、ホール拡張性と曲げ特性とが向上する。
【0091】
前記過時効熱処理を終了した後に、前記冷延鋼板を常温で、例えば、0~40℃の範囲の温度で冷却する。前記冷却は、空冷または水冷で行われる。
【0092】
超高張力メッキ鋼板
以下、本発明による超高張力メッキ鋼板及びその製造方法について説明する。
前記超高張力冷延鋼板を用いて溶融亜鉛メッキ鋼板及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板のような超高張力メッキ鋼板を形成しうる。
【0093】
前記超高張力メッキ鋼板は、母材鋼板;及び前記母材鋼板の表面に形成された溶融亜鉛メッキ層または合金化溶融亜鉛メッキ層;を含みうる。前記母材鋼板は、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含み、フェライトと低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含み、前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、0GPa超過~1.0GPaの範囲である。
【0094】
前述した合金組成の具体的な成分及びこれらの含量範囲を制御し、後述する製造方法を通じて製造された超高張力メッキ鋼板は、降伏強度(YP):480MPa以上、引張強度(TS):820MPa以上、及び延伸率(El):5%以上、及び60°の角度での曲げ性(R/t):2.5以下を満足することができる。前記超高張力冷延鋼板は、例えば、降伏強度(YS):480~810MPa、引張強度(TS):820~1300MPa、延伸率(EL):5~20%、及び60°の角度での曲げ性(R/t):0.3~2.5を満足することができる。
【0095】
前記超高張力メッキ鋼板は、垂直方向のVDA曲げ角度:90~130°、平行方向のVDA曲げ角度:70~105°、パンチホール拡張性:30~70%、ワイヤホール拡張性:70~160%、LDH:40~60、及びLDR:90~130を満足することができる。
【0096】
前記超高張力メッキ鋼板の母材は、フェライトと低硬度マルテンサイトとで構成された微細組織を含みうる。前記フェライトの分率は、例えば、50~60%の範囲であり、前記低硬度マルテンサイトの分率は、例えば、40~50%の範囲である。
【0097】
前記フェライトまたは前記低硬度マルテンサイトは、例えば、1~5μmの範囲の結晶粒径を有しうる。
【0098】
前記低硬度マルテンサイトは、例えば、3.5~4.5GPaの範囲の平均硬度を有しうる。前記フェライトは、例えば、3.0~4.3GPaの範囲の平均硬度を有しうる。参考までに、一般的な高硬度マルテンサイトは、例えば、6.0~7.0GPaの範囲の平均硬度を有しうる。
【0099】
前記フェライトと前記低硬度マルテンサイトとの平均相間硬度差は、例えば、0GPa超過~1.0GPaの範囲である。前記低硬度マルテンサイトの平均硬度に対する前記フェライトの平均硬度の比率である平均硬度差比は、例えば、70~100%未満の範囲である。
【0100】
前記低硬度マルテンサイトは、第1低硬度マルテンサイトと第2低硬度マルテンサイトとで構成され、前記第1低硬度マルテンサイトは、前記フェライトによって離隔し、前記第2低硬度マルテンサイトは、前記フェライトの結晶粒界に形成されて、前記第1低硬度マルテンサイトを連結して、網構造を形成しうる。
【0101】
前記第2低硬度マルテンサイトは、長軸長に対する短軸長の比率であるサイズ比率が0.5~1.0範囲である。
【0102】
前記フェライト、前記低硬度マルテンサイト、またはこれらのいずれもは、例えば、TiCまたはTiNのようなチタン析出物を含みうる。
【0103】
以下、添付図面を参照して、本発明による超高張力メッキ鋼板の製造方法について説明する。
【0104】
超高張力メッキ鋼板の製造方法
図3は、本発明の実施例による超高張力メッキ鋼板の製造方法を概略的に示す工程フローチャートである。
図3を参照すれば、本発明の実施例による超高張力メッキ鋼板の製造方法は、前記組成の鋼材を用いて熱延鋼板を製造する段階(ステップS210);前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階(ステップS220);前記冷延鋼板を焼鈍熱処理する段階(ステップS230);前記冷延鋼板を多段冷却する段階(ステップS240);前記冷延鋼板を溶融亜鉛メッキする段階(ステップS250);及び前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を最終冷却する段階(ステップS270);を含む。
【0105】
また、前記超高張力メッキ鋼板の製造方法は、前記溶融亜鉛メッキする段階(ステップS250)を行った後に、前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を合金化熱処理する段階(ステップS260)をさらに含みうる。
【0106】
具体的に、前記超高張力メッキ鋼板の製造方法は、重量%であって、炭素(C):0.05~0.09%、シリコン(Si):0.5~1.0%、マンガン(Mn):2.0~2.8%、アルミニウム(Al):0.2~0.5%、クロム(Cr):0.8~1.2%、モリブデン(Mo):0.05~0.10%、チタン(Ti):0.03~0.06%、ボロン(B):0.001~0.003%、アンチモン(Sb):0.02~0.05%、リン(P):0.001~0.015%、硫黄(S):0%超過~0.003%、窒素(N):0.004~0.006%、及び残部は、鉄(Fe)とその他の不可避な不純物とを含む熱延鋼板を製造する段階(ステップS210);前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階(ステップS220);前記冷延鋼板を3~20℃/秒の範囲の昇温速度で加熱して790~840℃の範囲の温度で焼鈍熱処理する段階(ステップS230);及び前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する段階(ステップS240);前記多段冷却された冷延鋼板を460~500℃の範囲の温度で溶融亜鉛メッキする段階(ステップS250);及び前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を0~40℃の範囲の温度で最終冷却する段階(ステップS270);を含みうる。
【0107】
また、前記超高張力メッキ鋼板の製造方法は、前記溶融亜鉛メッキする段階(ステップS250)を行った後に、前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を490~600℃の範囲の温度で合金化熱処理する段階(ステップS260)をさらに含みうる。
【0108】
熱延鋼板の製造段階(ステップS210)は、前述した熱延鋼板の製造段階(ステップS110)と同一である。冷延鋼板の製造段階(ステップS220)は、前述した冷延鋼板の製造段階(ステップS120)と同一である。焼鈍熱処理する段階(ステップS230)は、前述した焼鈍熱処理する段階(ステップS130)と同一である。
【0109】
多段冷却段階(ステップS240)
多段冷却段階(ステップS240)では、前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を多段冷却する。
まず、前記焼鈍熱処理した冷延鋼板を、例えば、1~10℃/秒の範囲の冷却速度で、例えば、600~700℃の1次冷却終了温度で1次冷却する。前記1次冷却は、前述した多段冷却段階(ステップS140)の1次冷却と同一である。
【0110】
前記1次冷却した冷延鋼板を、例えば、5~50℃/秒の範囲の冷却速度で、例えば、460~500℃の2次冷却終了温度で2次冷却する。前記メッキ鋼板の場合には、前述した前記冷延鋼板に比べて前記2次冷却終了温度が高い相違点がある。
【0111】
前記2次冷却終了温度が460℃未満である場合には、鋼板温度が低くなって亜鉛メッキ時に亜鉛メッキ浴内にドロスが発生する。前記2次冷却終了温度が500℃を超過する場合には、亜鉛メッキ浴の温度が増加して事故が発生する。
【0112】
溶融亜鉛メッキ段階(ステップS250)
溶融亜鉛メッキ段階(ステップS250)では、前記多段冷却された冷延鋼板を、例えば、460~500℃の範囲の温度で溶融亜鉛メッキ浴に浸漬して、冷延鋼板の表面に溶融亜鉛メッキ層を形成させることにより、溶融亜鉛メッキ鋼板を形成しうる。前記溶融亜鉛メッキ段階は、例えば、30~100秒の範囲の時間保持して行われる。溶融亜鉛メッキ段階(ステップS250)では、前記冷延鋼板が過時効される。前記過時効は、前記冷延鋼板を前記溶融亜鉛メッキ浴に浸漬する前に行われ、これにより、前記冷延鋼板は、パーティショニングが行われる。溶融亜鉛メッキ段階(ステップS250)では、前記溶融亜鉛メッキ鋼板は、フェライトとオーステナイトとが分離された微細構造を有しうる。
【0113】
合金化熱処理段階(ステップS260)
前記溶融亜鉛メッキ鋼板を、例えば、490~600℃の範囲の温度で、例えば、10~60秒の範囲の時間合金化熱処理を行って合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を形成しうる。前記合金化熱処理段階は(ステップS260)、以前の溶融亜鉛メッキ段階(ステップS250)を行った後に冷却せず、連続して行うことができる。前記条件で合金化熱処理時に、溶融亜鉛メッキ層が安定して成長されながら、メッキ層の密着性に優れている。前記合金化熱処理温度が490℃未満である場合には、合金化が十分に進行せず、溶融亜鉛メッキ層の健全性が低下する。前記合金化熱処理温度が600℃を超過する場合には、二相域温度区間に移りながら材質の変化が発生する。
【0114】
最終冷却段階(ステップS270)
最終冷却段階(ステップS270)では、前記溶融亜鉛メッキされた冷延鋼板を、すなわち、前記溶融亜鉛メッキ鋼板または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を常温で、例えば、0~40℃の範囲の温度で冷却する。前記冷却は、空冷または水冷で行われる。冷却速度は、前記オーステナイトが前記低硬度マルテンサイトに変態される範囲を有することができ、例えば、1~20℃/秒の範囲の冷却速度を有しうる。
【0115】
最終冷却された前記溶融亜鉛メッキ鋼板または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板で、オーステナイトが低硬度マルテンサイトに変態される。前記溶融亜鉛メッキ鋼板または合金化溶融亜鉛メッキ鋼板は、前記冷延鋼板とは異なって、過時効によるテンパリング効果がないので、網構造の低硬度マルテンサイトが形成され、これにより、ホール拡張性及び曲げ特性が向上する。
【0116】
参考までに、前記溶融亜鉛メッキ鋼板では、前記低硬度マルテンサイトが最終冷却段階で形成されるので、前記溶融亜鉛メッキ段階及び前記合金化熱処理段階でベイナイト及びパーライトが形成されないように合金組成または工程条件の設計が要求される。本発明では、マンガン、クロム、モリブデン、チタン及びボロンの含量を制御してベイナイト及びパーライトの形成を防止する。
【0117】
図4は、本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の冷間圧延後、熱処理過程を示す時間-温度グラフである。
【0118】
図4を参照すれば、前述したように、Ac1温度以上~Ac3温度以下の温度で、例えば、790~840℃の範囲の温度で焼鈍熱処理した後には、フェライトとオーステナイトとが分離された微細構造を有しうる。前記オーステナイトは、網構造を有しうる。
【0119】
冷延鋼板の場合には、マルテンサイト変態開始温度(Ms)以下に冷却し、250~350℃の範囲の温度で過時効熱処理を行って、フェライトと低硬度マルテンサイトとの微細構造を有し、前記低硬度マルテンサイトは、網構造を有しうる。
【0120】
溶融亜鉛メッキ鋼板及び合金化溶融亜鉛メッキ鋼板は、焼鈍熱処理した後、冷却してマルテンサイト変態開始温度(Ms)以上で、例えば、460~500℃の範囲の温度で溶融亜鉛メッキを行い、最終冷却を通じてフェライトと低硬度マルテンサイトとの微細構造を有するようにする。合金化溶融亜鉛メッキ鋼板は、例えば、490~600℃で合金化処理をさらに行うことができる。
【0121】
実験例
以下、本発明の理解を助けるために望ましい実験例を提示する。但し、下記の実験例は、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明が、下記の実験例によって限定されるものではない。
【0122】
下記表1及び表2の組成(単位:重量%)を有する鋼を準備し、所定の熱延及び冷燃工程及び熱処理工程を経て実施例と比較例とによる冷延鋼板を準備した。残部は、鉄(Fe)である。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
表1及び表2を参照すれば、鋼種A及び鋼種Bは、本発明の実施例であり、鋼種C、鋼種D、及び鋼種Eは、炭素含量が本発明の範囲の上限に比べて高い比較例である。
表3は、比較例と実施例との熱処理工程条件を示す。
【0126】
【表3】
【0127】
表3において、「冷延鋼板」は、亜鉛メッキを行っていないCR材を意味し、「亜鉛メッキ」は、溶融亜鉛メッキ鋼板を意味する。溶融亜鉛メッキ鋼板の場合には、2次冷却終了温度が480℃であり、冷延鋼板の場合には、300℃に行った。
【0128】
表4は、比較例と実施例との微細組織の特性を示す表である。
【0129】
【表4】
【0130】
表4を参照すれば、比較例3及び比較例4は、マルテンサイトのサイズ比率が0.5未満に表われた。また、比較例2、比較例3、及び比較例4は、マルテンサイトの比率が40%未満に表われた。
【0131】
表5は、比較例と実施例との微細組織の微小硬度及び相間硬度差を示す表である。
【0132】
【表5】
【0133】
表5を参照すれば、実施例は、相間硬度差及び相間硬度比率が本発明が提示した範囲を満足する。
【0134】
比較例は、マルテンサイトの微小硬度が高く表われ、これにより、フェライトとマルテンサイトとの間の相間硬度差が1GPaを超過し、また、相間硬度比が70%未満に表われた。
【0135】
表6は、比較例と実施例との機械的物性であって、降伏強度、引張強度、延伸率、曲げ角、及びメッキ剥離現象を示す表である。
【0136】
【表6】
【0137】
表6を参照すれば、実施例は、降伏強度、引張強度、延伸率、及び曲げ角に対して本発明が提示した範囲を満足する。また、実施例の溶融亜鉛メッキ鋼板では、メッキ剥離が発生しなかった。
【0138】
比較例のうちから、比較例2は、引張強度が本発明が提示した範囲の下限に比べて低く、比較例1及び比較例2は、メッキ剥離が発生した。
【0139】
表7は、比較例と実施例との機械的物性であって、VAD曲げ角度、ホール拡張性、LDH、及びLDRを示す表である。
【0140】
【表7】
【0141】
表7を参照すれば、実施例は、VAD曲げ角度、ホール拡張性、LDH、及びLDRに対して本発明が提示した範囲を満足する。
【0142】
比較例は、VAD曲げ角度及びホール拡張性が本発明が提示した下限に比べて低い値を示す。
【0143】
図5は、本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の微細組織を示す走査電子顕微鏡写真である。
【0144】
図5を参照すれば、比較例1は、フェライトとマルテンサイトとの微細組織を有し、前記マルテンサイトが分離されている。一方、実施例1は、フェライトと低硬度マルテンサイトとの微細組織を有し、前記低硬度マルテンサイトは、互いに連結されて網を形成することが分かる。
【0145】
図6は、本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の微細組織でチタン析出物を示す走査電子顕微鏡写真である。
【0146】
図7は、本発明の実施例による図6の超高張力冷延鋼板の微細組織の成分を示すグラフである。
【0147】
図6及び図7を参照すれば、低硬度マルテンサイト基地に小さな点で表われた析出物が示されており、元素分析の結果、ほとんどがチタン析出物と分析され、例えば、TiCまたはTiNと分析される。また、一部は、マンガン析出物と分析される。参考までに、図7のグラフは、透過電子顕微鏡EDAXを用いて取得した。
【0148】
図8は、本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の硬度を示すグラフである。
【0149】
図8を参照すれば、比較例1の場合には、フェライトの平均硬度が4.21GPaであり、マルテンサイトの平均硬度は、6.69GPaであり、相間硬度差は、2.48GPaに表われた。一方、実施例1の場合には、フェライトの平均硬度が3.15GPaであり、マルテンサイトの平均硬度は、4.00GPaであり、相間硬度差は、0.85GPaに表われた。
【0150】
図9は、本発明の実施例による超高張力冷延鋼板の温度によるオーステナイトでの炭素含量を示すグラフである。
【0151】
図9を参照すれば、実施例1は、比較例1に比べてオーステナイトでの炭素含量が低く表われ、温度が増加するにつれて、炭素含量が相対的にさらに低い傾向を示した。特に、810℃以上に温度が増加すれば、比較例は、炭素含量がほとんど同じ値を示す一方、実施例は、810℃以上に温度が増加する時、炭素含量が減少し続けた。
【0152】
前述した本発明の技術的思想が、前述した実施例及び添付図面に限定されず、本発明の技術的思想を外れない範囲内でさまざまな置換、変形及び変更が可能であるということは、当業者にとって明白である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9