(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】発電用風車タワーの解体工法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20240611BHJP
F03D 13/40 20160101ALI20240611BHJP
E04H 12/00 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
E04G23/08 J
E04G23/08 D
F03D13/40
E04H12/00 Z
(21)【出願番号】P 2023099611
(22)【出願日】2023-06-16
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】593162361
【氏名又は名称】日本建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】今田 勝治
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-107163(JP,A)
【文献】特開2001-129716(JP,A)
【文献】実開平07-000624(JP,U)
【文献】実公昭45-034065(JP,Y1)
【文献】特開2023-002910(JP,A)
【文献】特開2020-012236(JP,A)
【文献】特開昭62-268473(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189852(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/08
E04H 12/00、12/28-12/30
F03D 13/00-13/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電用風車のタワーを構成する円筒状のブロックを吊り降ろす吊り降ろし工程と、
吊り降ろした前記ブロックを横倒しにして複数の受台に支持させる横倒し工程と、
前記ブロックを横倒しで前記複数の受台に支持させた状態で、前記ブロックを切断して前記タワーの高さ方向の寸法が前記ブロックの半分以下である半円筒の形状を有する断片を形成する切断工程と、
前記断片に前記半円筒の外周から押圧力を加えて、前記断片を前記タワーの高さ方向に平行な折り曲げ線で折り曲げる折り曲げ工程
と、
を含む、発電用風車タワーの解体工法。
【請求項2】
発電用風車のタワーを構成する円筒状のブロックを吊り降ろす吊り降ろし工程と、
吊り降ろした前記ブロックを横倒しにして複数の受台に支持させる横倒し工程と、
前記ブロックを横倒しで前記複数の受台に支持させた状態で、前記ブロックを切断して前記タワーの高さ方向の寸法が前記ブロックの半分以下である半円筒の形状を有する断片を形成する切断工程と、
を含み、
前記切断工程は、前記ブロックを周方向に切り進む開始位置と、前記開始位置から前記ブロックを1回転切り進んだ終了位置と、の間に切れ目を入れた後で、前記開始位置から前記ブロックを前記周方向に切り進むことを含む、
発電用風車タワーの解体工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用風車のプロペラ及びナセルを支持する支柱として用いられた発電用風車タワーを解体するための解体工法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な再生可能エネルギー採用の風潮により、日本国内でも2000年頃より多くの発電用風車が設置されてきた。発電用風車の多くは、疲労強度の関係から設計寿命が20年とされ、税制上は17年で償却されることから、今後、多くの発電用風車が解体撤去されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発電用風車は、常態として風の強い場所に設置され、騒音の問題もあることから多くは人家から離れた場所に、例えば山岳地を切り開いて設置される。このため、発電用風車の建設時には、現地工事の工期短縮のため、幅員の大きな工事用道路を設け、建設地の周囲に更地を造成したうえで、特殊な車両を用いて大きなブロックの部品を運び込み、大型のクレーン車を用いて組み立てを行う。
【0005】
しかしながら、発電用風車の解体時には、建設後20年が経過して周囲に樹木が成長していることがあり、道路についても保守用の一般車両が通れる道しか確保されていないことがある。建設時と同程度の工事用道路及び更地を用意するには費用が発生する。このため、解体された部品の再使用が予定されていない場合などは、単純に建設時と逆の手順で解体することは現実的でない。解体時には工期短縮よりも総費用の削減が要求されるため、解体時には大型のクレーン車をできるだけ使用しないようにし、また幅員の大きな工事用道路を必要とする特殊な車両は使用せずに一般のトラック又はトレーラーで運搬できるようにすることが望ましい。
【0006】
そこで、発電用風車の構成部品のうち、再使用の可能性が低く、重量、体積ともに最大であるタワー部分の解体工法について検討し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点に係る発電用風車タワーの解体工法は、
発電用風車のタワーを構成する円筒状のブロックを吊り降ろす吊り降ろし工程と、
吊り降ろした前記ブロックを横倒しにして複数の受台に支持させる横倒し工程と、
前記ブロックを横倒しで前記複数の受台に支持させた状態で、前記ブロックを切断して前記タワーの高さ方向の寸法が前記ブロックの半分以下である半円筒の形状を有する断片を形成する切断工程と、
を含む。
本発明の解体工法は、
前記断片に前記半円筒の外周から押圧力を加えて、前記断片を前記タワーの高さ方向に平行な折り曲げ線で折り曲げる折り曲げ工程
をさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態における吊り降ろし工程S1aを示す。
【
図2】
図2は、第1の実施形態における横倒し工程S1bを示す。
【
図3】
図3は、第1の実施形態における横倒し工程S1cを示す。
【
図5】
図5は、第1の実施形態における切断工程S1eを示す。
【
図6】
図6は、切断工程S1e、S1g及びS1hで使用される自走式切断機60を概念的に示す。
【
図7】
図7は、1本の周方向切断線12の開始位置Start及び終了位置Endを拡大して示す。
【
図8】
図8は、第1の実施形態における切断工程S1fを示す。
【
図9】
図9は、第1の実施形態における切断工程S1gを示す。
【
図10】
図10は、第1の実施形態における切断工程S1hを示す。
【
図11】
図11は、第1の実施形態における折り曲げ工程S1iを示す。
【
図12】
図12は、第1の実施形態における折り曲げ工程S1jを示す。
【
図16】
図16は、切断工程S1gの後、横倒しのブロック10のうちの下方に位置する断片11cを持ち上げる様子を示す。
【
図17】
図17は、断片11cを2つの断片11dに分割してそれぞれ折り曲げるために盤木の上に載せた状態を示す。
【
図20】
図20は、第2の実施形態における切断工程S2gを示す。
【
図21】
図21は、第2の実施形態における切断工程S2hを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0010】
<1.第1の実施形態>
<1-1.解体工法の全体説明>
第1の実施形態における発電用風車の解体は、以下の手順で行われる。
(1)解体される発電用風車の周囲の作業用地を確保し、クレーンその他の資機材を準備する。
(2)プロペラ(ローター)を外して吊り降ろす。
(3)ナセル(発電機)を外して吊り降ろす。
(4)タワーをブロック単位に解体して吊り降ろす(吊り降ろし工程S1a)。
(5)ブロックを横倒しにする(横倒し工程S1b~S1d)。
(6)ブロックを断片に切断する(切断工程S1e~S1h)。
(7)断片を折り曲げる(折り曲げ工程S1i、S1j)。
(8)断片をトラック又はトレーラーで搬出する(S1k~S1n)。
【0011】
タワーを構成するブロックとしては、長さ(タワーの高さ方向Hの寸法)が20m、直径が4m、重量が40t、鋼板の厚さが25mmのものを想定した。ブロックの長さを20mとした根拠は、発電用風車の建設時には公道輸送の上限(20m)に近い大きな部品を運び込んで組み立てることが多いと考えられるためである。
【0012】
手順(8)において例えば10tトラックでの搬出を想定する場合、最大重量は8t程度、寸法的には幅2.3m×長さ7m×高さ3m以下となるようにトラックへの積み込みを行う。最大重量を8t程度とした理由は、10tトラックとはいっても燃料タンクを追加したり荷台の補強がなされたりすることもあり、10tトラックに10tの荷物を積めるとは限らないためである。
【0013】
上記のように大きなブロックをトラック又はトレーラーで搬出可能な大きさにするために、手順(4)~(6)が行われ、さらに好ましくは手順(7)が行われる。
【0014】
<1-2.手順(4):吊り降ろし工程S1a>
図1は、第1の実施形態における吊り降ろし工程S1aを示す。発電用風車のタワーは、複数のブロック10がそれらの図示しない内部フランジでボルト接合されることで組み立てられている。上のブロック10から順にそれらのボルトを外せば、ブロック10をクレーンC500で吊り降ろすことができる。クレーンC500としては、ブロック10の重量と設置されている高さとを考慮して、例えば500tクラスのクレーンが用いられる。500tクラスのクレーンC500は、手順(4)より前の手順(2)及び(3)においても使用可能である。
【0015】
ブロック10は鋼板で構成され、ほぼ円筒の形状を有している。ブロック10の円筒の中心軸に平行な方向であって、タワーとして組み立てられたときに上側となる方向を、タワーの高さ方向Hとする。ブロック10を傾けるとタワーの高さ方向Hも傾く(
図2、
図3参照)。
【0016】
ブロック10を地上付近の高さまで降ろした状態で、ブロック10の下端に回転軸31及び32を固定する。回転軸31及び32はそれぞれ円柱形の形状を有する棒材であり、図示しない固定部材と、ブロック10の内部フランジのボルト孔と、を介してブロック10に固定される。回転軸31及び32は互いにほぼ平行であり、ブロック10の下端からの距離はほぼ等しい。
【0017】
ブロック10を地上に降ろす前に、地上には二段式架台40が設置される。二段式架台40は、地面からの高さが互いに異なる軸支持部41及び42を含む。軸支持部41及び42は、それぞれ回転軸31及び32を載せて支持できるように構成されている。軸支持部41及び42の間隔は、回転軸31及び32の間隔とほぼ等しい。
【0018】
ブロック10をクレーンC500で吊り降ろしたとき、タワーの高さ方向Hはほぼ真上を向いている。この状態では、
図1に破線で示されるように、高い方の軸支持部41が回転軸31を支持することができるが、低い方の軸支持部42は回転軸32から離れている。ブロック10の重心Gは、回転軸31の真上には位置しておらず、回転軸31を重力方向と反対方向に延長した鉛直面31pから離れている。従って、クレーンC500の巻き下げに伴って、ブロック10にかかる重力と軸支持部41が回転軸31に与える反力とでブロック10には回転力が与えられる。
【0019】
<1-3.手順(5):横倒し工程S1b~S1d>
図2は、第1の実施形態における横倒し工程S1bを示す。クレーンC500の巻き下げに伴って、回転軸31を軸としてブロック10が傾く。低い方の軸支持部42に回転軸32が達したとき、ブロック10の重心Gが、回転軸32を重力方向と反対方向に延長した鉛直面32pと上述の鉛直面31pとの間に位置していればブロック10はそれ以上に傾くことは無い。しかし、本実施形態では重心Gが鉛直面32pを通り越しているため、クレーンC500の巻き下げに伴って、ブロック10にかかる重力と軸支持部42が回転軸32に与える反力とでブロック10には回転力が与えられる。その結果、
図2に破線で示されるように、回転軸31は軸支持部41から離れ、ブロック10は回転軸32を軸としてさらに傾く。
【0020】
図3は、第1の実施形態における横倒し工程S1cを示す。ブロック10をほぼ水平に横倒しにしたとき、タワーの高さ方向Hにおける下端側は回転軸32を介して軸支持部42で支持されている。タワーの高さ方向Hにおける上端側を何らかの受台で支持すれば、
図3に破線で示されるようにクレーンC500を取り外すことができる。第1の実施形態においては、二段式架台40を用いたことで、横倒し工程のために2台の大型クレーンで相吊りするような、大掛かりな設備や大きな作業用地が不要となる。
【0021】
図4A~
図4Cは、第1の実施形態における横倒し工程S1dを示す。
図4Bは
図4Aに示される矢印IVB方向に見た図であり、
図4Cは
図4Aに示される矢印IVC方向に見た図である。第1の実施形態においては、次の切断工程S1e~S1gのために、複数の受台20にブロック10を支持させる。複数の受台20は、吊り降ろし工程S1aが行われる作業場所とは別の作業場所に設置されていてもよい。二段式架台40を用いて横倒しにされたブロック10(
図3参照)を複数の受台20へ移動するには、図示しない200tクラスのクレーンが用いられてもよい。その場合は、200tクラスのクレーンの使用中に、クレーンC500を他のブロック10の吊り降ろし工程S1a及び横倒し工程S1b及びS1cに用いることができるので、作業効率が向上する。
【0022】
図4B及び
図4Cに示されるように、ブロック10の円筒の中心軸周りの方向を周方向Rとする。
図5を参照しながら後述するようにブロック10を例えば4箇所の周方向切断線12で輪切りに切断して5分割する場合には、
図4Aに示されるように、複数の受台20は5個の受台20を含む。
【0023】
ブロック10は、タワーの高さ方向Hにおける上端側よりも下端側の方が若干大きな径を有する。そこで、5個の受台20は、互いに異なる大きさの調整部材21を含み、タワーの高さ方向Hにおける上端側の受台20に含まれる調整部材21は、タワーの高さ方向Hにおける下端側の受台20に含まれる調整部材よりも大きい。これにより、ブロック10を5個の受台20で支持したときにブロック10の円筒の中心軸をほぼ水平にすることができる。5個の受台20は、調整部材21以外の点では共通の構成とし、調整部材21を取り替え可能にすることで、資材を共通化できる。なお複数の受台20の調整部材21のうち、サイズが小さいものについては図面中の符号を省略している。
【0024】
<1-4.手順(6):切断工程S1e~S1h>
図5及び
図8~
図10は、第1の実施形態における切断工程S1e~S1hを示す。切断工程S1e~S1gでは、ブロック10を横倒しで複数の受台20に支持させた状態で、周方向切断線12でブロック10を輪切りに切断して5分割し、さらに軸方向切断線13a(
図9参照)で2つに縦割りにする。これにより、半円筒の形状を有する10個の断片11a(
図10参照)を得る。但し、本発明はブロック10を輪切りで5分割する場合に限定されず、ブロック10の長さがもともと短い場合は2分割や3分割でもよい。
【0025】
図5(切断工程S1e)においては、周方向切断線12での輪切り、及び軸方向切断線13での切断が行われる。軸方向切断線13での切断においては、輪切りにされたブロック10のピースを完全に縦割りにしようとすると、自重で切り口が塞がって切断できなくなってしまうので、完全に縦割りにするのではなく、タワーの高さ方向Hの上端と下端とに未切断の部分を残すようにする。
【0026】
図6は、切断工程S1e、S1g及びS1hで使用される自走式切断機60を概念的に示す。自走式切断機60は、ブロック10の表面との間に吸引力を発生させる図示しない磁石と、ブロック10の表面での走行を可能にする複数の車輪61と、車輪61を駆動する図示しないモーターと、可燃性ガスによる炎及び高圧酸素ガスを噴射するガス火口62と、を含む。可燃性ガスは、アセチレン、プロパン、水素等、いずれの燃料でも構わない。作業者の手元の図示しないコントローラーからの信号によって、モーターの動作が遠隔操作される。
【0027】
図7は、1本の周方向切断線12の開始位置Start及び終了位置Endを拡大して示す。ブロック10はタワーの高さ方向Hの位置によって径が若干異なるテーパー状であるので、ブロック10を周方向Rに切り進む開始位置Startと、開始位置Startからブロック10を1回転切り進んだ終了位置Endとを一致させることは難しい。そこで、開始位置Startからの切断を開始する前に、あらかじめ周方向切断線12と交差する方向の切れ目14を入れておく。切れ目14は、人手の届く高さに、図示しない手動操作のガス切断機を用いて入れてもよい。切れ目14を入れておくことにより、開始位置Startと終了位置Endとが少々ずれても、周方向Rに1回転以上切り進めば確実にブロック10の輪切りができる。輪切りで得られた5個のピースの各々を以下では輪切りピースという。
【0028】
図8(切断工程S1f)においては、ブロック10のうちの半円筒の断片11aとなる部分にクレーンC50を接続した様子を示す。クレーンC50としては、例えば50tクラスのクレーンが用いられる。クレーンC50はクレーンC500と比べて安価で、設置スペースが小さく、作業人員も少なくて済む。クレーンC50は、断片11aの重量にほぼ相当する引っ張り力で輪切りピースを上方に引っ張るが、輪切りピースは断片11aの2倍の重量を有するので、輪切りピースが持ち上がることはない。断片11aを上方に引っ張るためにワイヤーを玉掛けしてもよいが、より簡便にはリフティングマグネットで断片11aを吸着してもよい。
【0029】
図9(切断工程S1g)においては、クレーンC50で輪切りピースを上方に引っ張りながら、軸方向切断線13aの両端で輪切りピースを切断することにより、断片11aを持ち上げる。断片11aは、切断工程S1h及びその次の折り曲げ工程S1i、S1jが行われる作業場までクレーンC50で移動される。
【0030】
本実施形態では20mのブロック10を輪切りで5分割したので、断片11aの長さは4mとなり、10tトラックで運ぶにはまだ大きすぎる。しかし、ブロック10を輪切りで例えば10分割すれば、断片11aの長さは2mとなり、さらに軸方向切断線13aで切断して半円筒とすれば10tトラックで運ぶこともできるようになる。この場合、切断工程S1h及び折り曲げ工程S1i、S1jは省略することも可能である。
【0031】
図10(切断工程S1h)においては、断片11aを盤木の上に載せ、周方向切断線15で切断することで断片11aを半円筒の2つの断片11bに分割するとともに、軸方向切断線16で切断する。軸方向切断線16は折り曲げ工程S1i、S1jにおける折り曲げ線を構成する。半円筒の断片11aを盤木に載せた状態であるので、自走式切断機60と高さ1.8m程度の足場があれば、作業者が視認しながら切断工程S1hを行うことができる。軸方向切断線16は、断片11bを完全に分割するのではなく、断片11bのうちのタワーの高さ方向Hの上端と下端を残して切断する。軸方向切断線16の長さは、切断後に例えば人が乗っても断片11bが潰れない程度とし、例えば上端と下端にそれぞれ200mm程度の未切断領域が残るようにする。
【0032】
<1-5.手順(7):折り曲げ工程S1i、S1j>
図11及び
図12は、第1の実施形態における折り曲げ工程S1i、S1jを示す。折り曲げ工程S1i、S1jは、円柱状の錘70を断片11bの軸方向切断線16と平行となるように載せることにより、断片11bに半円筒の外周から押圧力Fを加えて、軸方向切断線16に沿って断片11bを折り曲げる工程である。錘70は例えばコンクリートを含み、その重量は例えば1500kgであり、クレーンS50によって断片11bに載せられる。
【0033】
断片11bは、折り曲げる前は例えば幅2m×長さ4m×高さ2mであるが、
図12に示されるように折り曲げることにより幅2m×長さ5.6m×高さ0.6m程度となる。あらかじめ軸方向切断線16を形成した後で軸方向切断線16に沿って折り曲げるので、折り曲げられた断片11bの形状はほぼ一定となり、
図14を参照しながら後述するようにコンパクトに積み重ねることもできる。
【0034】
<1-6.手順(8):断片11bを搬出する工程S1k~S1n>
図13~
図15は、断片11bを搬出する工程S1k~S1nを示す。
図13に示されるように、折り曲げられた断片11bをクレーンC50で吊り上げ、
図14に示されるように仮置き場に複数の断片11bを重ねる。
図15に示されるように複数の断片11bは10tトラックの荷台に積むことができる。断片11bの重量は約2tであり、例えば4枚の断片11b、すなわち合計8tを1台の10tトラックで運搬できる。
【0035】
<1-7.断片11cを反転する場合:S3g、S3h>
図16は、切断工程S1gの後、横倒しのブロック10のうちの下方に位置する断片11cを持ち上げる様子を示す。断片11cは半円筒の外周面を下に向けた状態で受台20に支持されている。断片11cを持ち上げる前に、ブロック10の内部に梯子等の設置物があればそれを分解して撤去する。
【0036】
断片11cの外周面の一部に吊りピース17を溶接して固定し、クレーンC50で引き上げることにより、断片11cを反転させることができる。
【0037】
図17は、断片11cを2つの断片11dに分割してそれぞれ折り曲げるために盤木の上に載せた状態を示す。その後の折り曲げ工程及び断片11dを搬出する工程は、
図11~
図15を参照しながら説明したのと同様である。
【0038】
<1-8.第1の実施形態の効果>
(I)第1の実施形態によれば、発電用風車タワーの解体工法は、発電用風車のタワーを構成する円筒状のブロック10を吊り降ろす吊り降ろし工程S1aと、吊り降ろしたブロック10を横倒しにして複数の受台20に支持させる横倒し工程S1b~S1dと、ブロック10を横倒しで複数の受台20に支持させた状態で、ブロック10を切断してタワーの高さ方向Hの寸法がブロック10の半分以下である半円筒の形状を有する断片11a、11b、11c、11dを形成する切断工程S1e~S1h、S3hと、を含む。
【0039】
これによれば、円筒状のブロック10を吊り降ろし、横倒しにして複数の受台20に支持させた状態で断片11a、11b、11c、11dに切断するので、巨大なタワーの解体作業を安全に行うことができる。また、タワーの高さ方向Hの寸法をブロック10の半分以下とし、さらに半円筒の断片11a、11b、11c、11dにブロック10を切断することで、断片11a、11b、11c、11dの積み重ねが可能となり、解体現場からの搬出を低費用で実現できる。
【0040】
(II)第1の実施形態によれば、発電用風車タワーの解体工法は、断片11b、11dに半円筒の外周から押圧力Fを加えて、断片11b、11dをタワーの高さ方向Hに平行な折り曲げ線16で折り曲げる折り曲げ工程S1i、S1jをさらに含む。
【0041】
これによれば、半円筒の断片11b、11dが1/4円筒を2つ組み合わせた形状(
図12参照)に変形されるので、断片11b、11dを重ねたときも嵩張りにくく、また断片11b、11dの重心が低くなるので、トラック又はトレーラーでの運搬を容易にすることができる。また折り曲げ線(軸方向切断線)16で断片11b、11dを完全に切断して切り離す場合は、切断完了時に崩れ落ちることがないように、あらかじめ半円筒の断片11b、11dの内側を支えておかなければならないが、切り離さず折り曲げることで、崩れ落ち防止策を特別に講じなくても安全に作業ができる。折り曲げ線(軸方向切断線)16で断片11b、11dを完全に切断して切り離す場合は、断片の大きさは半分になるが数が2倍になるので、クレーンC50で搬出する工程S1kの作業量が2倍になる可能性があるが、切り離さず折り曲げることで、作業量の増加が抑制される。
【0042】
(III)第1の実施形態によれば、切断工程S1e~S1hは、ブロック10を周方向Rに切り進む開始位置Startと、開始位置Startからブロック10を1回転切り進んだ終了位置Endと、の間に切れ目14を入れた後で、開始位置Startからブロック10を周方向Rに切り進むことを含む。
【0043】
これによれば、ブロック10を1回転切り進んだときに開始位置Startと終了位置Endとがずれてしまっても、ブロック10を確実に輪切りにすることができる。
【0044】
<2.第2の実施形態>
<2-1.第1の実施形態との相違点>
図18A~
図18Cは、第2の実施形態における横倒し工程S2dを示す。
図18Bは
図18Aに示される矢印XVIIIB方向に見た図であり、
図18Cは
図18Aに示される矢印XVIIIC方向に見た図である。第1の実施形態における複数の受台20の代わりに、第2の実施形態においては、複数の受台80でブロック10を支持する。複数の受台80は5個の受台80を含む。
【0045】
図18Aに示されるように、複数の受台80の各々には2個のターニングロール82が配置される。
図18B及び
図18Cに示されるように、ターニングロール82の各々は、互いに平行な回転軸を有する2つのローラーの間にブロック10を載せてローラーを回転させることにより、ブロック10をタワーの高さ方向Hに平行な回転軸Ax周りに(周方向Rに)回転させる治具である。
【0046】
10個のターニングロール82のうちの幾つかはローラーの駆動機構83を備えている。駆動機構83を備えたターニングロール82が1個又は2個だけの場合は、ブロック10の歪み又は曲がりにより、駆動機構83を備えたターニングロール82がブロック10に接触しない場合があり得る。そこで、10個のターニングロール82のうちの両端及び中央付近に位置する3個のターニングロール82が駆動機構83を備える。
【0047】
10個のターニングロール82のうちの両端に位置するターニングロール82は、それぞれの受台80に固定される。両端以外の8個のターニングロール82が受台80に対して移動できるように、8個のターニングロール82とそれぞれの受台80との間には図示しない滑り板が配置される。またこれらの8個のターニングロール82の各々に含まれる2つのローラーの間隔が手動で調整されることで、10個のターニングロール82にかかる荷重の平均化が可能となっている。
【0048】
5個の受台80は、互いに異なる大きさの調整部材81を含み、タワーの高さ方向Hにおける上端側の受台80に含まれる調整部材81は、タワーの高さ方向Hにおける下端側の受台80に含まれる調整部材よりも大きい。5個の受台80は、調整部材81以外の点では共通の構成とし、調整部材81を取り替え可能にすることで、資材を共通化できる。
【0049】
図18Cに、切断工程S2e(
図19参照)で使用される切断トーチ90が示されている。切断トーチ90は、三脚91によってガス火口92が固定されてなる。ターニングロール82によってブロック10を回転軸Ax周りに回転させながらブロック10に向けて炎及び高圧酸素ガスを噴射させることで、ブロック10を周方向切断線15及び12で切断することができる。
【0050】
図19~
図21は、第2の実施形態における切断工程S2e、S2g、S2hを示す。
図19Aは
図19Bに示される矢印XIXA方向に見た図である。
図19(切断工程S2e)においては、ブロック10を横倒しで複数の受台80に支持させた状態で、複数の断片11b(
図21参照)を得るための複数の切れ目を形成する。複数の切れ目は、軸方向切断線13(
図19B参照)及び16(
図19A参照)と、周方向切断線15と、においてそれぞれ切断することで形成される。
【0051】
軸方向切断線13、16、及び周方向切断線15での切断においては、完全に切断するのではなく、それぞれの切断線の両端に未切断の部分を残すようにする。軸方向切断線13、16、及び周方向切断線15での切断の後、周方向切断線12での輪切りが行われる。
【0052】
周方向切断線15、12での切断は、ターニングロール82によってブロック10を回転させながら、切断トーチ90を用いて行うことができる。複数の切断トーチ90を用意すれば、ブロック10を1回転させるごとに複数箇所の切断が可能である。ブロック10を何回転もさせるとブロック10の位置が軸方向にずれてくるので、例えば周方向切断線12での切断は、ブロック10を1回転させるだけで4箇所同時に行うことが望ましい。
【0053】
軸方向切断線13、16での切断は、軸方向切断線13、16の位置が視認できる高さとなるようにターニングロール82によってブロック10を回転させた後、自走式切断機60(
図6参照)を用いて行ってもよい。あるいは、軸方向切断線13、16の位置が人手の届く高さとなるようにターニングロール82によってブロック10を回転させた後、図示しない手動操作のガス切断機を用いて行ってもよい。
【0054】
周方向切断線12での切断の際には、
図7を参照しながら説明したように、あらかじめ周方向切断線12と交差する方向の切れ目14を入れておいてもよい。
【0055】
ブロック10のうちの半円筒の断片11aとなる部分にクレーンC50を接続する作業は、
図8(切断工程S1f)を参照しながら説明したのと同様である。
【0056】
図20(切断工程S2g)においては、クレーンC50で輪切りピースを上方に引っ張りながら、軸方向切断線13aの両端で輪切りピースを切断することにより、断片11aを持ち上げる。
【0057】
図21(切断工程S2h)においては、断片11aを盤木の上に載せ、周方向切断線15を延長して切断することで断片11aを半円筒の2つの断片11bに分割する。周方向切断線15の未切断領域は、人手が届く高さにあるので、切断工程S2hは足場がなくても可能である。軸方向切断線16での切断は
図19Aですでに行われているので、
図21では行われない。
【0058】
その後の以下の工程は第1の実施形態と同様である。
・折り曲げ工程S1i、S1j(
図11、
図12)
・断片11bを搬出する工程S1k~S1n(
図13~
図15)
・断片11cの反転(
図16、
図17)、折り曲げ工程及び断片11dを搬出する工程
【0059】
<2-2.第2の実施形態の効果>
(IV)第2の実施形態によれば、切断工程S2e、S2g、S2hは、ブロック10をタワーの高さ方向Hに平行な回転軸Ax周りに回転させながらブロック10を周方向Rに切り進むことを含む。
【0060】
これによれば、ブロック10を切断するために大きな足場を構築しなくてもブロック10の切断が可能となる。また切断トーチ90の位置が固定された状態でも切断可能であるため、火気作業の安全確認の負担が軽減される。
【符号の説明】
【0061】
10...ブロック、11a、11b、11c、11d...断片、12...周方向切断線、13、13a...軸方向切断線、14...切れ目、15...周方向切断線、16...軸方向切断線、17...吊りピース、20...受台、21...調整部材、31、32...回転軸、31p、32p...鉛直面、40...二段式架台、41、42...軸支持部、60...自走式切断機、61...車輪、62...ガス火口、70...錘、80...受台、81...調整部材、82...ターニングロール、83...駆動機構、90...切断トーチ、91...三脚、92...ガス火口、Ax...回転軸、C50、C500...クレーン、Start...開始位置、End...終了位置、F...押圧力、G...重心、H...タワーの高さ方向、R...周方向、S1a...吊り降ろし工程、S1b、S1c、S1d...横倒し工程、S1e、S1f、S1g、S1h...切断工程、S1i、S1j...折り曲げ工程、S1k、S1m、S1n...搬出する工程、S2d...横倒し工程、S2e、S2g、S2h...切断工程、S3g...反転する工程、S3h...切断工程
【要約】 (修正有)
【課題】大型のクレーン車をできるだけ使用しないようにし、幅員の大きな工事用道路を必要とする特殊な車両は使用せずに一般のトラック又はトレーラーで運搬できる発電用風車タワーの解体工法に関する
【解決手段】発電用風車タワーの解体工法は、発電用風車のタワーを構成する円筒状のブロック10を吊り降ろす吊り降ろし工程と、吊り降ろしたブロック10を横倒しにして複数の受台20に支持させる横倒し工程と、ブロック10を横倒しで複数の受台20に支持させた状態で、ブロック10を切断してタワーの高さ方向の寸法がブロック10の半分以下である半円筒の形状を有する断片11a等を形成する切断工程を含む。
【選択図】
図9